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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112762
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】電動機システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/18 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
H02P25/18
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023176700
(22)【出願日】2023-10-12
(31)【優先権主張番号】P 2023017920
(32)【優先日】2023-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179453
【弁理士】
【氏名又は名称】會田 悠介
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】久保田 芳永
【テーマコード(参考)】
5H505
【Fターム(参考)】
5H505AA16
5H505BB02
5H505CC04
5H505DD08
5H505EE35
5H505EE41
5H505EE55
5H505HB01
5H505JJ09
5H505LL01
5H505LL22
(57)【要約】      (修正有)
【課題】直列巻線と並列巻線の切替えにより、低速域から高速域までの広範囲にわたって高いトルク性能及び出力性能を効率良く得るとともに、切替時のトルクショックを低減し、バックラッシュを抑制できる電動機システムを提供する
【解決手段】本発明による電動機システムは、電源Bに互いに並列に接続され、上下のアームを有する第1~第4アームと、第2アームと第3アームの間に配置され、巻線αの第1及び第2巻線部α1、α2を通る双方向の電流の流れをオン状態又はオフ状態に切り替える双方向スイッチSWαを備える。双方向スイッチSWα及び第1~第4アームの上下のアームのオン/オフ状態によって接続モードを直列又は並列巻線モードに設定し、接続モードの切替の際、第1及び第2アーム、の下アームと第3及び第4アームの下アームをそれぞれ短絡させる巻線切替モードを挿入する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻線を有する電動機、電源の電力を前記電動機に供給する電力供給回路、及び当該電力供給回路を制御する制御装置を備える電動機システムであって、
前記巻線は、第1巻線部及び第2巻線部を有し、
前記電力供給回路は、
前記電源に互いに並列に接続された第1~第4アームと、
前記第2アームと第3アームの間に配置され、前記巻線の前記第1及び第2巻線部を通る双方向の電流の流れをオン状態又はオフ状態に切り替えるための双方向スイッチと、を有し、
前記第1~第4アームは、スイッチング素子を有し且つ互いに直列に接続された上アーム及び下アームをそれぞれ有し、
前記第1巻線部の一端及び他端は前記第1及び第2アームの前記上アームと前記下アームの間にそれぞれ接続され、前記第2巻線部の一端及び他端は前記第3及び前記第4アームの前記上アームと前記下アームの間にそれぞれ接続されており、
前記制御装置は、前記双方向スイッチのオン/オフ状態と前記第1~第4アームの前記上下のアームのオン/オフ状態によって前記巻線の接続モードを直列巻線モード又は並列巻線モードに設定するとともに、前記巻線の接続モードを切り替えるときに、前記双方向スイッチがオフの状態で、前記第1及び第2アームの前記下アーム、並びに前記第3及び第4アームの前記下アームを、それぞれ短絡させる巻線切替モードを挿入するように、前記電力供給回路を制御することを特徴とする電動機システム。
【請求項2】
前記電動機の運転領域は、前記巻線に供給すべき電流を指令する電流指令値が、前記直列巻線モードと前記並列巻線モードの間で等しい値に設定される所定の第1運転領域と、前記電流指令値が前記直列巻線モードと前記並列巻線モードの間で異なる値に設定される所定の第2運転領域に区分され、前記制御装置は、前記電動機が前記第1運転領域にあることを条件として、前記巻線の接続モードを切り替えることを特徴とする、請求項1に記載の電動機システム。
【請求項3】
前記巻線の接続モードの切替の可否を判定するためのしきい値が、前記第1運転領域においてヒステリシス特性を有するように設定されていることを特徴とする、請求項2に記載の電動機システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動機の巻線の接続状態を直列巻線と並列巻線に切り替えるように構成された電動機システムに関し、特にその切替を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の気候変動への対策として、低炭素社会又は脱炭素社会の実現に向けた取り組みが活発化している。車両においても、CO2排出量の削減が強く要求され、動力源の電動化が急速に進行している。このように動力源として用いられる電動機は、低速域から高速域までの広範囲にわたって高効率で駆動されることが望ましい。このような要望に応える従来の電動機システムとして、例えば特許文献1に開示されたものが知られている。
【0003】
この電動機システムは、三相の巻線を有するモータを備えており、電源の直流電力をインバータで三相交流電力に変換し、巻線切替器を介してモータの各相の巻線に出力することによって、モータが駆動される。巻線は、各相ごとの一対の巻線で構成されており、巻線切替器は、各一対の巻線にそれぞれ設けられた切替スイッチで構成されている。そして、切替スイッチをオン側に接続することによって、その相の一対の巻線が直列接続され、切替スイッチをオフ側に接続することによって、その相の一対の巻線が並列接続される。例えば、低速運転時には、直列接続とし、巻線の巻き数を増やす一方、高速運転時には、並列接続とし、巻線の巻き数を減らすことによって、広い運転範囲におけるモータの効率化が図られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-205707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した従来の電動機システムにおいて、例えば直列巻線から並列巻線に切り替える場合、図10に示すように、切替スイッチの急激な開閉によるサージ電圧の発生を回避するために、巻線に供給する電流を所定期間、一時的に0(ゼロ)にする制御(電流0制御)を行うことが考えられる。しかし、その場合には、トルクが0をまたいで変化するため、大きなトルクショックやバックラッシュによる歯打ち音・振動などが発生するおそれがある。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、直列巻線と並列巻線との切替により、低速域から高速域までの広範囲にわたって高いトルク性能及び出力性能を効率良く得るとともに、切替時のトルクショックを低減し、バックラッシュを抑制することができる電動機システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、巻線αを有する電動機M、電源Bの電力を電動機Mに供給する電力供給回路2、及び電力供給回路2を制御する制御装置3を備える電動機システムであって、巻線αは、第1巻線部α1及び第2巻線部α2を有し、電力供給回路2は、電源Mに互いに並列に接続された第1~第4アームA1~A4と、第2アームA2と第3アームA3の間に配置され、巻線αの第1及び第2巻線部α1、α2を通る双方向の電流の流れをオン状態又はオフ状態に切り替えるための双方向スイッチ(実施形態における(以下、本項において同じ)第1双方向スイッチSWα)と、を有し、第1~第4アームA1~A4は、スイッチング素子を有し且つ互いに直列に接続された上アームAH1~AH4及び下アームAL1~AL4をそれぞれ有し、第1巻線部α1の一端及び他端は第1及び第2アームA1、A2の上アームAH1、AH2と下アームAL1、AL2の間にそれぞれ接続され、第2巻線部α2の一端及び他端は第3及び第4アームA3、A4の上アームAH3、AH4と下アームAL3、AL4の間にそれぞれ接続されており、制御装置3は、双方向スイッチのオン/オフ状態と第1~第4アームの上下のアームのオン/オフ状態によって巻線αの接続モードを直列巻線モード又は並列巻線モードに設定するとともに、巻線αの接続モードを切り替える際、双方向スイッチがオフの状態で、第1及び第2アームA1、A2の下アームAL1、AL2、並びに第3及び第4アームA3、A4の下アームAL3、AL4を、それぞれ短絡させる巻線切替モードを挿入するように、電力供給回路2を制御すること(図4図5)を特徴とする。
【0008】
この構成によれば、双方向スイッチをオン状態とするとともに、第1アームの上アーム及び第4アームの下アームをオン状態に制御すること、又は第1アームの下アーム及び第4アームの上アームをオン状態に制御することによって、互いに直列状態の第1巻線部及び第2巻線部に電流が流れ、直列巻線モードが実現される。この直列巻線モードでは、巻き数がより多い直列巻線に電流が流れることによって、より小さい電流でトルクを効率良く発生させることができ、低回転域において高いトルク性能を得ることができる。
【0009】
一方、双方向スイッチをオフ状態とするとともに、第1アームの上アーム、第2アームの下アーム、第3アームの上アーム、及び第4アームの下アームをオン状態に制御することによって、互いに並列状態の第1巻線部及び第2巻線部にそれぞれ電流が流れ、並列巻線モードが実現される。この並列巻線モードでは、一対の並列巻線にそれぞれ電流が流れることによって、全体として大きい電流でより大きい出力を発生させることができ、高回転域において高い出力性能を得ることができる。
【0010】
また、本発明によれば、巻線の接続モードを切り替える際、双方向スイッチがオフの状態で、第1及び第2アームの下アーム並びに第3及び第4アームの下アームをそれぞれ短絡させる巻線切替モードが挿入される。これにより、第1及び第2下アームが短絡し、第1巻線部を含む閉回路が形成されるとともに、第3及び第4下アームが短絡し、第2巻線部を含む閉回路が形成される。その結果、巻線切替モードの間、それまでに供給されていた電流が、各閉回路を同じ方向に流れることにより、逆起電力は発生せず、電動機のトルクが0をまたがないように制御される。その結果、接続モードの切替時のトルクショックを低減し、バックラッシュを抑制することができる。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の電動機システムにおいて、電動機Mの運転領域は、巻線αに供給すべき電流を指令する電流指令値iαβ_refが、直列巻線モードと並列巻線モードの間で等しい値に設定される所定の第1運転領域(直交領域)と、電流指令値iαβ_refが直列巻線モードと並列巻線モードの間で異なる値に設定される所定の第2運転領域(弱め界磁領域)に区分され、制御装置3は、電動機Mが第1運転領域にあることを条件として、巻線αの接続モードを切り替えること(図8)を特徴とする。
【0012】
この構成によれば、巻線の接続モードを切り替えた前後において、電流指令値は変化することなく同じ値に保たれ、それに応じて巻線の実際の電流値もほぼ同じ値に保たれることによって、トルクショックを確実に回避することができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の電動機システムにおいて、巻線αの接続モードの切替の可否を判定するためのしきい値(第1しきい値Nth1、第2しきい値Nth2)が、第1運転領域においてヒステリシス特性を有するように設定されていること(図4図8)を特徴とする。
【0014】
この構成によれば、接続モードの切替時のトルクショックを確実に回避するという効果を維持しながら、接続モードの切替頻度を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態による電動機システムの概略的な構成を示すブロック図である。電力供給回路の回路図である。
図2】電動機の構成を示す図である。
図3】電力供給回路の構成を示す回路図である。
図4】制御装置で実行される巻線切替制御処理を示すフローチャートである。
図5】(a)直列巻線モード、(b)巻線切替モード、及び(c)並列巻線モードにおける電力供給回路の動作を示す図である。
図6図4の巻線切替制御処理によって得られる動作例を示すタイミングチャートである。
図7】制御装置で実行される電流制御を示す制御ブロック図である。
図8】直列巻線モードと並列巻線モードの間の電流指令値差分を、直交領域と弱め界磁領域との領域区分や、接続モードの切替判定に用いられるしきい値とともに示すマップである。
図9】(a)実施形態によって得られる、巻線の接続モードの切替前後における動作例を、(b)比較例とともに示す図である。
図10】従来技術による電力供給回路の制御例を示す図である。
図11図2と異なる電動機の構成、及び電動機の巻線と電力供給回路との接続関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1及び図2に示すように、本発明を適用した電動機システム1は、電動機M(以下「モータM」という)と、電源Bの電力をモータMに供給し、これを駆動する電力供給回路2と、電力供給回路2を制御する制御装置3を備える。
【0017】
図2に示すように、モータMは、ロータ10と、ステータ11と、ステータ11に巻かれたα相の巻線αとβ相の巻線βを備える2相の同期モータで構成されている。α相の巻線αとβ相の巻線β(以下、それぞれ単に「巻線α」「巻線β」という)は、電気角が互いに90°ずれた状態で配置されている。巻線αは、第1巻線部α1及び第2巻線部α2を有し、巻線βは、第3巻線部β1及び第4巻線部β2を有する。第1~第4巻線部α1、α2、β1、β2のそれぞれの巻き数は、互いに等しい。
【0018】
図3に示すように、電力供給回路2は、直流の電源Bから入力された電力を交流電力に変換し、モータMに出力するインバータ回路で構成されている。電力供給回路2は、電源Bに接続されるとともに、モータMの巻線α(第1及び第2巻線部α1、α2)に接続されたα相用の第1回路3と、電源Bに第1回路3と並列に接続されるとともに、モータMの巻線β(第3及び第4巻線部β1、β2)に接続されたβ相用の第2回路4を備える。
【0019】
第1回路3は、電源Bに対して互いに並列に接続された第1~第4アームA1~A4と、第2アームA2と第3アームA3の間に配置された第1双方向スイッチSWαを有する。
【0020】
第1~第4アームA1~A4は、互いに同じ構成を有する。具体的には、第1アームA1は、上アームAH1及び下アームAL1で構成されている。両アームAH1、AL1は、例えば互いに並列のスイッチング素子と還流ダイオードでそれぞれ構成され、中点P1を介して互いに直列に接続されている。同様に、第2アームA2は、上下のアームAH1、AL1と同じ構成を有し、中点P2を介して互いに直列接続された上アームAH2及び下アームAL2で構成され、第3アームA3は、中点P3を介して互いに直列接続された上アームAH3及び下アームAL3で構成され、第4アームA4は、中点P4を介して互いに直列接続された上アームAH4及び下アームAL4で構成されている。
【0021】
そして、図3に示すように、モータMの第1巻線部α1の一端は第1アームA1の中点P1に、第1巻線部α1の他端は第2アームA2の中点P2に、第2巻線部α2の一端は、第3アームA3の中点P3に、第2巻線部α2の他端は第4アームA4の中点P4に、それぞれ接続されている。
【0022】
以上の構成から明らかなように、第1アームA1の上下のアームAH1、AL1と第2アームA2の上下のアームAH2、AL2は、第1Hブリッジ回路HC1を構成しており、それらのスイッチング素子のオン/オフ状態を適宜、切り替えることによって、第1巻線部α1を流れる電流の向きが切り替えられる。同様に、第3アームA3の上下のアームAH3、AL3と第4アームA4の上下のアームAH4、AL4は、第2Hブリッジ回路HC2を構成しており、それらのスイッチング素子のオン/オフ状態を適宜、切り替えることによって、第2巻線部α2を流れる電流の向きが切り替えられる。
【0023】
第1双方向スイッチSWαは、図示しないが、例えば、互いに並列のスイッチング素子とダイオードでそれぞれ構成された2組の回路を、互いに逆向きに直列接続したものであり、2組のスイッチング素子の切替制御によって、第1双方向スイッチSWαを通る双方向の電流の流れを、オン状態とオフ状態に切り替えることが可能である。第1双方向スイッチSWαは、上述した第1Hブリッジ回路HC1と第2Hブリッジ回路HC2の間、より具体的には、第2アームA2の中点P2と第3アームA3の中点P3の間に配置されている。
【0024】
第2回路4は、上述した第1回路3と同様に構成されているので、以下、簡潔に説明する。第2回路4は、電源Bに対して互いに並列に接続された第5~第8アームA5~A8と、第6アームA6と第7アームA7の間に配置された第2双方向スイッチSWβを有する。
【0025】
第5~第8アームA5~A8は、互いに同じ構成を有しており、例えば、互いに並列のスイッチング素子と還流ダイオードで構成された上アームAH5~AH8と、上アームAH5~AH8と同様の構成を有し、上アームAH5~AH8に中点P5~P8をそれぞれ介して直列接続された下アームAL5~AL8と、によって構成されている。
【0026】
図2に示すように、モータMの第3巻線部β1の一端は第5アームA5の中点P5に、第3巻線部β1の他端は第6アームA6の中点P6に、第4巻線部β2の一端は第7アームA7の中点P7に、第4巻線部β2の他端は第8アームA8の中点P8に、それぞれ接続されている。
【0027】
また、第5アームA5の上下のアームAH5、AL5と第6アームA6の上下のアームAH6、AL6は、第3Hブリッジ回路HC3を構成しており、それらのスイッチング素子のオン/オフ状態を適宜、切り替えることによって、第3巻線部β1を流れる電流の向きが切り替えられる。同様に、第7アームA7の上下のアームAH7、AL7と第8アームA8の上下のアームAH8、AL8は、第4Hブリッジ回路HC4を構成しており、それらのスイッチング素子のオン/オフ状態を適宜、切り替えることによって、第4巻線部β2を流れる電流の向きが切り替えられる。
【0028】
第2双方向スイッチSWβは、例えば、第1双方向スイッチSWαと同様、互いに並列のスイッチング素子とダイオードでそれぞれ構成された2組の回路を、互いに逆向きに直列接続したものである。2組のスイッチング素子の切替制御によって、第2双方向スイッチSWβを通る双方向の電流の流れを、オン状態とオフ状態に切り替えることが可能である。第2双方向スイッチSWβは、第3Hブリッジ回路HC3と第4Hブリッジ回路HC4の間、より具体的には、第6アームA6の中点P6と第7アームA7の中点P7の間に配置されている。
【0029】
制御装置3は、CPU、RAM、ROM、及び入出力インターフェース(いずれも図示せず)などを有するマイクロコンピュータ(ECU)で構成されている。制御装置3には、各種のセンサ(図示せず)などから、モータMのトルク(モータトルク)Tqや、回転数(モータ回転数)Nm、角速度ω、巻線α、βの各巻線部を流れる巻線電流値Iα1、Iα2,Iβ1、Iβ2などを表す信号が入力される。制御装置3は、これらの信号に応じ、ROMに記憶された制御プログラムに従って、モータMの巻線α、βの接続モードを決定し、接続モードに従って巻線の切替を制御するとともに、電力供給回路2に対してPWM制御を実行することにより、モータMを制御する。
【0030】
図4は、制御装置3によって実行される巻線切替制御処理を示す。本処理は、PWMの周期(例えば100μs)ごとに実行される。本処理では、まずステップ1(「S1」と図示。以下同じ)において、直列巻線モードフラグF_Sが「1」であるか否かを判別する。後述するように、直列巻線モードフラグF_Sは、モータ回転数Nmがしきい値よりも低く、巻線α、βの接続モードが直列巻線モードのときに、「1」にセットされるものである。
【0031】
ステップ1の判別結果がYESのときには、ステップ2において、モータ回転数Nmが、後述するように設定される第1しきい値Nth1よりも大きいか否かを判別する。この判別結果がNOのときには、ステップ3において、巻線α、βの接続モードを直列巻線モードに設定し、本処理を終了する。
【0032】
図5(a)にα相の例を示すように、直列巻線モードでは、第1双方向スイッチSWαをオン状態とするとともに、第1上アームAH1と第4下アームAL4をオンし、他の上下のアームをオフする。これにより、互いに直列状態の第1巻線部α1及び第2巻線部α2に電力が供給される。このように、直列巻線モードでは、巻き数がより多い直列巻線に電流が流れることによって、より小さい電流でトルクを効率良く発生させることができ、低回転域において高いトルク性能を得ることができる。
【0033】
図4に戻り、前記ステップ2の判別結果がYESのとき、すなわち、直列巻線モード中にモータ回転数Nmが第1しきい値Nth1を上回ったときには、並列巻線モードに切り替えるべきとして、ステップ4において、直列巻線モードフラグF_Sを「0」にセットするとともに、ステップ5において、切替時のみの一時的な巻線α、βの接続モードとして、巻線切替モードを選択し、本処理を終了する。
【0034】
図5(b)にα相の例を示すように、この巻線切替モードでは、第1双方向スイッチSWαをオフ状態とするとともに、第1~第4上アームAH1~AH4をすべてオフし、第1~第4下アームAL1~AL4をすべてオンする。これにより、第1及び第2下アームAL1、AL2が短絡し、第1巻線部α1を含む第1閉回路C1が形成されるとともに、第3及び第4下アームAL3、AL4が短絡し、第2巻線部α2を含む第2閉回路C2が形成される。その結果、巻線切替モードの間、それまでに供給されていた電流が、それぞれ第1及び第2閉回路C1、C2を同じ方向に流れることにより、逆起電力は発生せず、モータトルクTqが0をまたがないように制御される(図6参照)。その結果、接続モードの切替時のトルクショックを低減し、バックラッシュを抑制することができる。
【0035】
図4に戻り、前記ステップ3及び4が実行された後には、前記ステップ1の判別結果がNOになり、その場合には、ステップ6において、モータ回転数Nmが、後述するように設定される第2しきい値Nth2よりも小さいか否かを判別する。第2しきい値Nth2は、第1しきい値Nth1よりも小さく、第1しきい値Nth1とともにヒステリシス領域を構成するものである。ステップ6の判別結果がNOのときには、ステップ7において、巻線α、βの接続モードを並列巻線モードに設定し、本処理を終了する。
【0036】
図5(c)にα相の例を示すように、この並列巻線モードでは、第1双方向スイッチSWαをオフ状態とするとともに、第1上アームAH1、第2下アームAL2、第3上アームAH3及び第4下アームAL4をオンし、他の上下のアームをオフする。これにより、互いに並列状態の第1巻線部α1及び第2巻線部α2にそれぞれ電力が供給される。このように、並列巻線モードでは、一対の並列巻線にそれぞれ電流が流れることによって、全体として大きい電流でより大きい出力を発生させることができ、高回転域において高い出力性能を得ることができる。
【0037】
図4に戻り、前記ステップ6の判別結果がYESのとき、すなわち、並列巻線モード中にモータ回転数Nmが第2しきい値Nth2を下回ったときには、直列巻線モードに切り替えるべきとして、ステップ8において、直列巻線モードフラグF_Sを「1」にセットするとともに、ステップ9において、切替時のみの巻線α、βの一時的な接続モードとして、巻線切替モードを選択し、本処理を終了する。この巻線切替モードにおける制御内容は、前述したステップ5の巻線切替モードと同じである。
【0038】
図6は、上述した図4の巻線切替制御において、巻線α、βの接続モードを直列巻線モードから並列巻線モードに切り替えた場合のシミュレーション結果を示す。主なシミュレーションの条件は、モータ回転数Nm=3150rpm、モータトルクTq=57Nm、スイッチング周波数=10kHz(PWM周期=100μs)である。
【0039】
同図に示すように、シミュレーション結果によれば、直列巻線モードにおいては、実際のd軸電流値id_act及びq軸電流値iq_actは、それらの電流指令値(目標値)id_ref、iq_refの付近で推移し、モータトルクTdは比較的安定した正値で推移する。この状態から、並列巻線モードに切り替えるべきと判定されるのに応じて、PWM1周期分の短い間(=100μs)、巻線切替モードによる前述した制御が実行される。これに伴い、巻線切替モードでは、実d軸電流値id_actは電流指令値id_refに対して増加側に変化し、実q軸電流値iq_actは電流指令値iq_refに対して減少側に若干、変化する。また、モータトルクTdは若干、減少するだけであり、0に達しないことが確認された。その後、並列巻線モードに移行すると、実d軸電流値id_act、実q軸電流値iq_act及びモータトルクTqが、短時間(移行後約1ms)で直列巻線モードのレベルに復帰することが確認された。
【0040】
次に、図7の制御ブロック図を参照しながら、制御装置3によって実行される、直列巻線モード及び並列巻線モードにおけるモータMの制御について説明する。同図の左側から説明すると、制御装置3は、入力されたモータトルクTqとモータ回転数Nmに応じて、ROMに記憶された電流マップ31を検索する。
【0041】
電流マップ31は、直列巻線モード用のマップと並列巻線モード用のマップ(いずれも図示せず)で構成されている。各マップは、モータトルクTqとモータ回転数Nmで規定される領域を、モータMの弱め界磁制御を行うべき高回転側の弱め界磁領域と、弱め界磁制御ではなく通常制御を行うべき低回転側の直交領域に区分するとともに(図8参照)、モータトルクTqとモータ回転数Nmとの多数の組み合わせに対し、該当する接続モード(直列巻線モード又は並列巻線モード)において該当するモータ制御(通常制御又は弱め界磁制御)を行ったときに巻線α及び巻線βに供給すべき電流の平均値をあらかじめ求め、直列巻線モード用及び並列巻線モード用の巻線電流指令値iαβ_refs、iαβ_refpとしてマップ化したものである。
【0042】
なお、直列巻線モードでは、並列巻線モードと比較して、逆起電圧が大きいため、直交領域はより狭くなる。また、直交領域にある場合、モータトルクTqが一定の条件で、直列巻線モード及び並列巻線モードの巻線電流指令値iαβ_refs、iαβ_refpは、モータ回転数Nmにかかわらず一定であり、互いに同じ値に設定されている。
【0043】
以上のように設定された電流マップ31に基づき、モータトルクTq及びモータ回転数Nmに応じて巻線電流指令値iαβ_refを算出するとともに、巻線電流指令値iαβ_refに基づき、d軸電流指定値id_ref及びq軸電流指定値iq_refを算出する。電流制御器32は、これらのd軸及びq軸電流指定値id_ref、iq_refと、後述するように算出される実際のd軸電流値id及びq軸電流値iqに基づき、PI制御によるフィードバック制御によって、d軸電圧Vd及びq軸電圧Vqを算出する。
【0044】
次に、d軸電圧Vd及びq軸電圧Vqを回転座標変換することによって、巻線電圧Vα及び巻線電圧Vβを算出する。PWM制御器33は、巻線電圧Vα及び巻線電圧Vβに応じてPWM制御を行うとともに、電力供給回路2に駆動信号を出力し、それによりモータMの動作が制御される。
【0045】
前述したPI制御に用いられるd軸電流値id及びq軸電流値iqは、以下のようにして算出される。まず、検出されたモータMの角速度ωを積分することによって、回転角θを算出する。また、検出された第1及び第2巻線部α1、α2の電流値Iα1、Iα2と、第3及び第4巻線部β1、β2の電流値Iβ1、Iβ2をそれぞれ平均することによって、電流平均値Iα_ave、Iβ_aveを算出する。そして、算出した回転角θ及び電流平均値Iα_ave、Iβ_aveを用い、回転座標変換を行うことによって、d軸電流値id及びq軸電流値iqが算出される。
【0046】
次に、図8を参照しながら、図4の巻線切替制御に用いられる、モータ回転数Nmの第1及び第2しきい値Nth1、Nth2の設定方法について説明する。前述したように、図7の電流マップ31は、モータトルクTqとモータ回転数Nmで構成される領域に、直列巻線モード用の巻線電流指令値iαβ_refsを設定したマップと、並列巻線モード用の巻線電流指令値iαβ_refpを設定したマップで構成されている。図8のマップは、これら2つのマップと同じTq-Nm領域に、2つの電流指令値の差分Δiαβ_ref(=iαβ_refs-iαβ_refp)を表したものである。また、図8には、直列巻線モードにおける直交領域と弱め界磁領域との区分が示されるとともに、並列巻線モードにおける両領域の境界が一点鎖線で、第1及び第2しきい値Nth1、Nth2が実線及び点線で、それぞれ示されている。
【0047】
前述したように、直列巻線モードでは、並列巻線モードよりも直交領域がより狭い。また、直交領域にある場合、モータトルクTqが同じ条件では、直列巻線モード及び並列巻線モードの巻線電流指令値iαβ_refs、iαβ_refpは、モータ回転数Nmにかかわらず一定であり、互いに同じ値に設定されている。このため、直交領域では、電流指令値差分Δiαβ_refは0になる。また、図8に示すように、第1しきい値Nth1は、直列巻線モードにおける直交領域のうちの弱め界磁領域との境界に近い高回転側に設定され、第2しきい値Nth2は、直交領域のうちの第1しきい値Nth1に対して所定値だけ小さい低回転側に設定されている。
【0048】
前述したように、このように設定された第1又は第2しきい値Nth1、Nth2をモータ回転数Nmが横切ったときに、接続モードが直列巻線モードと並列巻線モードの間で切り替えられる。したがって、図9(a)に示すように、接続モードの切替の前後において、電流指令値iαβ_refは変化することなく同じ値に保たれ、それに応じて巻線αの実際の電流値iαβ_actもほぼ同じ値に保たれることによって、トルクショックを確実に回避することができる。これに対し、同図(b)は、接続モードの切替の前後において電流指令値iαβ_refが変化する従来の例である。この場合には、巻線の実際の電流値iαβ_actが電流指令値iαβ_refに応じて大きく変化し、トルクショックが発生するおそれがある。
【0049】
また、第1及び第2しきい値Nth1、Nth2によってヒステリシス領域が構成されるので、直列巻線モードと並列巻線モードの間の接続モードの切替頻度を抑制することができる。
【0050】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、図2及び図3の電動機システム1に代えて、図11に示す電動機システム51を用いてもよい。両電動機システム1、51は、モータMの回路構成が互いに異なる。具体的には、図2に示すように、電動機システム1のモータMでは、第1及び第2巻線部α1、α2は、ステータ11の互いに対向する一対のティースにそれぞれ巻き付けられ、第3及び第4巻線部β1、β2は、他の一対のティースにそれぞれ巻き付けられている。これに対し、図11に示すように、電動機システム51のモータMでは、第1及び第2巻線部α1、α2は、ステータ11の一対のティースの一方にのみ巻き付けられ、第3及び第4巻線部β1、β2は、他の一対のティースの一方にのみ巻き付けられている。一方、電動機システム51における電力供給回路2の構成や、モータMの巻線と電力供給回路2との接続関係などは、電動機システム1と同じである。
【0051】
以上の構成の電動機システム51は、電動機システム1と電気的に等価であり、したがって、電動機システム1による前述した動作及び効果を同様に得ることができる。例えば、前述したように、第1及び第2双方向スイッチSWα、SWβのオン/オフ状態を切り替えるとともに、第1~第4Hブリッジ回路HC1~HC4の第1~第8上アームAH1~AH8及び第1~第8AL1~AL8のオン/オフ状態を制御することによって、巻線α、βの接続モードが直列巻線モード又は並列巻線モードに切り替えられる。
【0052】
また、この接続モード相互間の切替の際、第1及び第2双方向スイッチSWα、SWβをオフ状態とするとともに、第1~第4Hブリッジ回路HC1~HC4の第1~第8上アームAH1~AH8をすべてオフし、第1~第8下アームAL1~AL8をオンすることによって、巻線α、βの接続モードが、第1及び第2アームA1、A2の下アームAL1、AL2、第3及び第4アームA3、A4の下アームAL3、AL4、第5及び第6アームA5、A6の下アームAL5、AL6、並びに第7及び第8アームA7、A8の下アームAL7、AL8をそれぞれ短絡させる巻線切替モードに、一時的に切り替えられる。それにより、接続モードの切替時のトルクショックを低減し、バックラッシュを抑制するなどの効果を、同様に得ることができる。
【0053】
さらに、実施形態は巻線が2相の例であるが、本発明は、単相又は3相以上の巻線を備える電動機システムに適用してもよい。また、巻線方式は、実施形態では1極対分の集中巻であるが、これに代えて分布巻としてもよく、極対数も問われない。さらに、実施形態において示した具体的な構成、例えば第1及び第2双方向スイッチSWα、SWβの構成などはあくまで例示であり、適当な他の構成を採用することができる。その他、細部の構成を、本発明の趣旨の範囲内で変更することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 電動機システム
2 電力供給回路
3 制御装置
51 電動機システム
M 電動機(モータ)
B 電源
α α相の巻線(巻線)
α1 巻線αの第1巻線部
α2 巻線αの第2巻線部
β β相の巻線(巻線)
SWα 第1双方向スイッチ(双方向スイッチ)
A1~A4 第1~第4アーム
AH1~AH4 第1~第4アームの上アーム
AL1~AL4 第1~第4アームの下アーム
Nth1 第1しきい値(しきい値)
Nth2 第2しきい値(しきい値)
iαβ_ref 巻線電流指令値
図1
図2
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図11