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特開2024-112777樹脂組成物ならびにその用途および成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112777
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】樹脂組成物ならびにその用途および成形方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/00 20060101AFI20240814BHJP
   C08L 23/04 20060101ALI20240814BHJP
   C08L 23/10 20060101ALI20240814BHJP
   C08L 1/12 20060101ALI20240814BHJP
   C08K 5/103 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C08L23/00
C08L23/04
C08L23/10
C08L1/12
C08K5/103
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024008059
(22)【出願日】2024-01-23
(31)【優先権主張番号】P 2023017682
(32)【優先日】2023-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】廣田 真之
(72)【発明者】
【氏名】前田 麻美
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AB02X
4J002BB00W
4J002BB02W
4J002BB03W
4J002BB11W
4J002BB12W
4J002EH046
4J002FD010
4J002FD020
4J002FD026
4J002FD030
4J002FD130
4J002GA00
4J002GC00
4J002GG02
4J002GL00
4J002GN00
4J002GP00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】バイオマスプラスチックを用いてポリオレフィン系樹脂の使用量を削減しても、機械的特性および成形性に優れた樹脂組成物を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂および糖エステルを含む樹脂組成物を調製する。前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂(A)およびセルロースジアセテート(B)を含む。前記糖エステルは、単糖、オリゴ糖および糖アルコールからなる群より選択された少なくとも一種とC2-6アルカン酸とのエステル化物である糖アルカン酸エステル(C)を含む。前記ポリオレフィン系樹脂(A)は、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂からなる群より選択された少なくとも一種を含んでいてもよい。前記セルロースジアセテート(B)の割合は、前記ポリオレフィン系樹脂(A)100質量部に対して1~100質量部であってもよい。前記糖アルカン酸エステル(C)の割合は、前記ポリオレフィン系樹脂(A)および前記セルロースジアセテート(B)の合計100質量部に対して1~50質量部であってもよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂および糖エステルを含み、
前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂(A)およびセルロースジアセテート(B)を含み、かつ
前記糖エステルが、単糖、オリゴ糖および糖アルコールからなる群より選択された少なくとも一種とC2-6アルカン酸とのエステル化物である糖アルカン酸エステル(C)を含む樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂(A)が、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂からなる群より選択された少なくとも一種を含む請求項1記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記セルロースジアセテート(B)の割合が、前記ポリオレフィン系樹脂(A)100質量部に対して1~100質量部である請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ポリオレフィン系樹脂(A)および前記セルロースジアセテート(B)の合計割合が、前記熱可塑性樹脂中50質量%以上である請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記糖アルカン酸エステル(C)が、単糖または二糖のC2-4アルカン酸エステルである請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記糖アルカン酸エステル(C)の割合が、前記ポリオレフィン系樹脂(A)および前記セルロースジアセテート(B)の合計100質量部に対して1~50質量部である請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項7】
溶融成形に供するための溶融成形用樹脂組成物である請求項1または2記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1または2記載の樹脂組成物で形成された成形体。
【請求項9】
自動車部品、電気・電子部品、建築資材、土木資材、農業資材、包装資材、生活資材および光学部材から選択される部品または資材である請求項8記載の成形体。
【請求項10】
請求項1または2記載の樹脂組成物を溶融成形して成形体を製造する方法。
【請求項11】
ポリオレフィン系樹脂(A)にセルロースジアセテート(B)および糖アルカン酸エステル(C)を配合し、前記ポリオレフィン系樹脂(A)の強度を向上する方法であって、前記糖アルカン酸エステル(C)が、単糖、オリゴ糖および糖アルコールからなる群より選択された少なくとも一種とC2-6アルカン酸とのエステル化物である方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリオレフィン系樹脂およびセルロースジアセテートを含む樹脂組成物ならびにその用途および成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境問題が逼迫しており、地球環境を壊さずに経済を持続可能な形で発展させるために、世界的に共通な開発目標として、SDGs(Sustainable Development Goals)が広く認知されている。そのため、各種の分野で使用される材料において、容易に取得でき、かつリサイクルできる天然資源由来であるバイオマス資源の材料の使用が望まれている。一方、成形性などに優れ、材料として汎用されているプラスチックの大部分は、石油や天然ガスなどの枯渇する有限の天然資源(化石燃料)由来であるため、プラスチックの中でバイオマスプラスチックの比重を大きくすることが望まれている。
【0003】
プラスチックの中でも、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂は、代表的なプラスチックであり、汎用性、成形性、機械的特性などに優れるため、各種分野で大量に使用されている。しかし、ポリオレフィン系樹脂も、化石燃料由来のプラスチックであるため、使用量の削減が望まれている。
【0004】
特表2011-516718号公報(特許文献1)には、ポリオレフィンポリマーに対して、再生可能な熱可塑性材料として、再生可能な農産物から得られる脂肪族ポリエステルであるポリ乳酸(PLA)を配合したポリマー組成物を成形して得られた物品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2011-516718号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1のポリマー組成物で使用されているポリ乳酸は、バイオマスプラスチックの中では、強度や弾性率などの機械的特性が高いことで知られているものの、ポリオレフィンに対してポリ乳酸を配合した特許文献1のポリマー組成物では機械的特性は十分ではなかった。また、一般的に、ポリオレフィン系樹脂に対して異種のプラスチックであるバイオマスプラスチックを配合すると、相溶させるのが困難であり、機械的特性を向上させるのが困難であることに加えて、成形性も低下し易い。
【0007】
従って、本開示の目的は、バイオマスプラスチックを用いてポリオレフィン系樹脂の使用量を削減しても、機械的特性および成形性に優れた樹脂組成物ならびにその用途および成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、ポリオレフィン系樹脂(A)およびセルロースジアセテート(B)を含む熱可塑性樹脂と、特定の糖エステルとを組み合わせることにより、バイオマスプラスチックを用いてポリオレフィン系樹脂の使用量を削減しても、機械的特性および成形性に優れた樹脂組成物を提供できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本開示の態様[1]としての樹脂組成物は、熱可塑性樹脂および糖エステルを含み、前記熱可塑性樹脂が、ポリオレフィン系樹脂(A)およびセルロースジアセテート(B)を含み、かつ前記糖エステルが、単糖、オリゴ糖および糖アルコールからなる群より選択された少なくとも一種とC2-6アルカン酸とのエステル化物である糖アルカン酸エステル(C)を含む。
【0010】
本開示の態様[2]は、前記態様[1]において、前記ポリオレフィン系樹脂(A)が、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂からなる群より選択された少なくとも一種を含む態様である。
【0011】
本開示の態様[3]は、前記態様[1]または[2]において、前記セルロースジアセテート(B)の割合が、前記ポリオレフィン系樹脂(A)100質量部に対して1~100質量部である態様である。
【0012】
本開示の態様[4]は、前記態様[1]~[3]のいずれかの態様において、前記ポリオレフィン系樹脂(A)および前記セルロースジアセテート(B)の合計割合が、前記熱可塑性樹脂中50質量%以上である態様である。
【0013】
本開示の態様[5]は、前記態様[1]~[4]のいずれかの態様において、前記糖アルカン酸エステル(C)が、単糖または二糖のC2-4アルカン酸エステルである態様である。
【0014】
本開示の態様[6]は、前記態様[1]~[5]のいずれかの態様において、前記糖アルカン酸エステル(C)の割合が、前記ポリオレフィン系樹脂(A)および前記セルロースジアセテート(B)の合計100質量部に対して1~50質量部である態様である。
【0015】
本開示の態様[7]は、前記態様[1]~[6]のいずれかの態様の樹脂組成物が、溶融成形に供するための溶融成形用樹脂組成物である態様である。
【0016】
本開示には、態様[8]として、前記態様[1]~[7]のいずれかの態様の樹脂組成物で形成された成形体も含まれる。
【0017】
本開示の態様[9]は、前記態様[8]の成形体が、自動車部品、電気・電子部品、建築資材、土木資材、農業資材、包装資材、生活資材および光学部材から選択される部品または資材である態様である。
【0018】
本開示には、態様[10]として、前記態様[1]~[7]のいずれかの態様の樹脂組成物を溶融成形して成形体を製造する方法も含まれる。
【0019】
本開示には、態様[11]として、ポリオレフィン系樹脂(A)にセルロースジアセテート(B)および糖アルカン酸エステル(C)を配合し、前記ポリオレフィン系樹脂(A)の強度を向上する方法であって、前記糖アルカン酸エステル(C)が、単糖、オリゴ糖および糖アルコールからなる群より選択された少なくとも一種とC2-6アルカン酸とのエステル化物である方法も含まれる。
【0020】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、置換基の炭素原子の数をC、C、C10などで示すことがある。例えば、「Cアルキル基」は炭素数が1のアルキル基を意味し、「C6-10アリール基」は炭素数が6~10のアリール基を意味する。
【0021】
さらに、本明細書および特許請求の範囲において、「X~Y」を用いて数値範囲を示す場合、端の数値XおよびYを含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0022】
本開示では、ポリオレフィン系樹脂(A)およびセルロースジアセテート(B)を含む熱可塑性樹脂と、単糖、オリゴ糖および糖アルコールからなる群より選択された少なくとも一種とC2-6アルカン酸とのエステル化物である糖アルカン酸エステル(C)を含む糖エステルとを組み合わせているため、バイオマスプラスチックを用いてポリオレフィン系樹脂の使用量を削減しても、樹脂組成物の機械的特性および成形性を向上できる。特に、セルロースジアセテートは成形性が低く、成形法としては溶液流延法が汎用されている樹脂であるにも拘わらず、本開示では、セルロースジアセテート(B)を配合しても溶融成形性を向上できる。また、特定の糖アルカン酸エステル(C)を所定の割合で配合することにより、射出成形に必要な溶融成形性を維持しながら、透明性、曲げ強度、曲げ弾性率および衝撃強度を向上できる。さらに、糖エステルとして、特定の糖アルカン酸エステル(C)を用いると、セルロースジアセテート(B)との組み合わせにおいて、高い生分解性を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[熱可塑性樹脂]
本開示の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂を含み、溶融成形に供される樹脂組成物であってもよい。前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂(A)およびセルロースジアセテート(またはセルロースジアセテート樹脂)(B)を含む。
【0024】
(ポリオレフィン系樹脂(A))
ポリオレフィン系樹脂(A)は、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテンなどのα-鎖状C2-12オレフィンに由来するオレフィン単位を含んでいればよく、前記オレフィン単位以外に他の共重合性単位を含んでいてもよい。前記α-鎖状C2-12オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、4-メチル-ペンテン-1などのα-C2-6オレフィンが好ましく、エチレンおよび/またはプロピレンが特に好ましい。
【0025】
他の共重合性単位を形成するための重合成分(共重合性モノマー)としては、例えば、スチレンなどの芳香族ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどの脂肪族ビニルエステル;(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、アンゲリカ酸など不飽和モノカルボン酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチルなどの(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシC1-10アルキルエステル、グリシジル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸アミド;(メタ)アクリロニトリル;(無水)マレイン酸、フマル酸、(無水)シトラコン酸、(無水)イタコン酸、メサコン酸などの不飽和ジカルボン酸またはその無水物;マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチルなどのマレイン酸ジC1-10アルキルエステル;ブタジエン、イソプレンなどのジエン系モノマーなどが挙げられる。これらの共重合性モノマーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。オレフィン単位と他の共重合性単位とのモル比は、前者/後者=50/50~100/0、好ましくは70/30~100/0、さらに好ましくは90/10~100/0である。
【0026】
ポリオレフィン系樹脂(A)としては、ポリエチレン系樹脂(A1)、ポリプロピレン系樹脂(A2)、酸変性ポリオレフィン系樹脂(A3)が好ましい。
【0027】
ポリエチレン系樹脂(A1)は、エチレン単位を主単位(例えば50モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含む単位)として含むポリオレフィン系樹脂であればよい。
【0028】
ポリエチレン系樹脂(A1)としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレンなどのエチレンの単独重合体;エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-1共重合体、エチレン-(4-メチルペンテン-1)共重合体、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA樹脂)、エチレン-メチルメタクリレート共重合体などのエチレンを主成分とする共重合体などが挙げられる。これらのポリエチレン系樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリエチレン系樹脂のうち、曲げ強さや曲げ弾性率などの機械的特性に優れる点から、中または高密度ポリエチレンが好ましく、HDPEが特に好ましい。
【0029】
ポリエチレン系樹脂(A1)の密度は、JIS K 6922-1に準拠して、0.910~0.980kg/m程度の範囲から選択でき、機械的特性に優れる点から、例えば0.930~0.970kg/m、好ましくは0.940~0.965kg/m、さらに好ましくは0.950~0.962kg/m、より好ましくは0.955~0.960kg/mである。
【0030】
ポリエチレン系樹脂(A1)のメルトマスフローレート(MFR)は、JIS K 6922-2に準拠して、例えば3~80g/10分、好ましくは5~50g/10分、さらに好ましくは10~30g/10分、より好ましくは15~25g/10分である。MFRが小さすぎると、溶融成形性が低下する虞があり、MFRが大きすぎると、機械的特性が低下する虞がある。
【0031】
ポリエチレン系樹脂(A1)の融点(DSC法)は、ISO 11357-3に準拠して、例えば80~150℃、好ましくは100~145℃、さらに好ましくは120~140℃、より好ましくは130~135℃である。融点が低すぎると、耐熱性が低下する虞があり、融点が高すぎると、溶融成形性が低下する虞がある。
【0032】
ポリプロピレン系樹脂(A2)は、プロピレン単位を主単位(例えば50モル%以上、好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上含む単位)として含むポリオレフィン系樹脂であればよい。
【0033】
ポリプロピレン系樹脂(A2)としては、例えば、アイソタクチックポリプロピレン(N-Z触媒系またはメタロセン触媒系ポリプロピレン)、シンジオタクチックポリプロピレン、アタクチックポリプロピレンなどのプロピレンの単独重合体;プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-C4-6アルケン共重合体(例えば、プロピレン-ブテン共重合体など)などのプロピレンを主成分とする共重合体などが挙げられる。これらのポリプロピレン系樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのポリプロピレン系樹脂のうち、プロピレンの単独重合体を含むポリプロピレン系樹脂が好ましい。さらに、トレードオフの関係にある曲げ強度および曲げ弾性率と、衝撃強度とを両立できる点から、エチレン単位を含むポリプロピレン系樹脂が特に好ましい。
【0034】
ポリプロピレン系樹脂(A2)は、トレードオフの関係にある曲げ強度および曲げ弾性率と、衝撃強度とを両立できる点から、ブロックポリプロピレンが特に好ましい。ブロックポリプロピレンは、プロピレンの単独重合体とプロピレン-エチレン共重合体との混合物であってもよく、特に、プロピレンの単独重合体で形成された連続相とプロピレンエチレン共重合体を含む分散相とからなる海島構造を有する混合物であってもよい。さらに、前記分散相は、連続相との界面に分布するプロピレン-エチレン共重合体で形成された表層と、エチレンの単独重合体で形成された内層とからなる分散相であってもよい。
【0035】
ブロックポリプロピレン中のエチレン含量は、例えば0.01~50質量%、好ましくは0.1~30質量%、さらに好ましくは1~10質量%である。
【0036】
ブロックポリプロピレンの市販品としては、プライムポリマー(株)製「プライムポリプロ J704UG」、「プライムポリプロ J705UG」、「プライムポリプロ J715M」、「プライムポリプロ J-452HP」、「プライムポリプロ J486-HP」、「プライムポリプロ J-762HP」、「プライムポリプロ J-750HP」などを利用できる。
【0037】
ポリプロピレン系樹脂(A2)のメルトマスフローレート(MFR)は、JIS K 7210(試験温度:230℃、試験荷重:2.16kg)に準拠して、例えば1~100g/10分、好ましくは3~50g/10分、さらに好ましくは4~30g/10分、より好ましくは5~20g/10分、最も好ましくは8~15g/10分である。MFRが小さすぎると、溶融成形性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、機械的特性が低下する虞がある。
【0038】
ポリプロピレン系樹脂(A2)の引張破壊呼びひずみは、JIS K 7161に準拠して、例えば10%以上であってもよく、例えば10~300%、好ましくは20~200%、さらに好ましくは30~100%、より好ましくは40~90%、最も好ましくは50~80%である。引張破壊呼びひずみが小さすぎると、曲げ強さや曲げ弾性率が低下する虞があり、逆に大きすぎると、耐衝撃性が低下する虞がある。
【0039】
ポリプロピレン系樹脂(A2)のシャルピー衝撃強さ(23℃)は、JIS K 7111に準拠して、例えば1kJ/m以上であってもよく、例えば1~100kJ/m、好ましくは3~50kJ/m、さらに好ましくは5~30kJ/m、より好ましくは7~20kJ/m、最も好ましくは8~15kJ/mである。シャルピー衝撃強さが小さすぎると、曲げ強さや曲げ弾性率が低下する虞があり、逆に大きすぎると、耐衝撃性が低下する虞がある。
【0040】
ポリプロピレン系樹脂(A2)の荷重たわみ温度(熱変形温度)は、JIS K 7191(曲げ応力:B法0.45MPa)に準拠して、例えば60~150℃、好ましくは70~130℃、さらに好ましくは80~120℃、より好ましくは90~110℃、最も好ましくは95~105℃である。荷重たわみ温度が低すぎると、耐熱性が低下する虞があり、荷重たわみ温度が高すぎると、溶融成形性が低下する虞がある。
【0041】
酸変性ポリオレフィン系樹脂(A3)は、カルボン酸で変性されたポリオレフィン系樹脂であればよく、詳しくは、カルボキシル基および/または酸無水物基を有するポリオレフィン系樹脂であればよい。酸による変性方法としては、未変性ポリオレフィン系樹脂の骨格にカルボキシル基および/または酸無水物基が導入されればよく、特に限定されないが、機械的特性などの点から、カルボキシル基および/または酸無水物基を有する単量体を共重合により導入する方法が好ましい。共重合の形態としては、ランダム共重合、ブロック共重合などであってもよいが、グラフト共重合が好ましい。
【0042】
未変性ポリオレフィン系樹脂としては、前記ポリオレフィン系樹脂(A)として例示されたα-鎖状C2-12オレフィンの単独または共重合体などが挙げられる。前記未変性ポリオレフィン系樹脂のうち、ポリエチレン、ポリプロピレンが好ましく、ポリプロピレンが特に好ましい。
【0043】
カルボキシル基および/または酸無水物基を有する単量体としては、前記ポリオレフィン系樹脂(A)の共重合性モノマーとして例示した不飽和モノカルボン酸、不飽和ジカルボン酸または酸無水物などが挙げられる。これらの単量体は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの単量体のうち、(メタ)アクリル酸などの不飽和モノカルボン酸、(無水)マレイン酸などの不飽和ジカルボン酸またはその酸無水物が好ましく、無水マレイン酸が特に好ましい。
【0044】
酸変性ポリオレフィン系樹脂(A3)としては、酸変性ポリプロピレン系樹脂が好ましく、無水マレイン酸変性ポリプロピレンが特に好ましい。
【0045】
酸変性ポリオレフィン系樹脂(A3)において、前記単量体の割合は、未変性ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して0.01~30質量部程度の範囲から選択でき、例えば0.1~20質量部、好ましくは0.2~10質量部、さらに好ましくは0.3~8質量部、より好ましくは0.5~5質量部である。
【0046】
酸変性ポリオレフィン系樹脂(A3)の酸価(mgKOH/g)は、JIS K 2510に準拠して、例えば10~100、好ましくは20~80、さらに好ましくは30~50、より好ましくは35~45である。酸価が小さすぎると、曲げ強さの向上効果が低下する虞があり、大きすぎると、衝撃強度が低下する虞がある。
【0047】
酸変性ポリオレフィン系樹脂(A3)の粘度(180℃の溶融粘度)は、JIS K 6862に準拠して、例えば0.5~50Pa・s、好ましくは1~30Pa・s、さらに好ましくは1.5~10Pa・s、より好ましくは2~5Pa・s、最も好ましくは3~4Pa・sである。粘度が小さすぎると、機械的特性が低下する虞があり、大きすぎると、溶融成形性が低下する虞がある。
【0048】
ポリオレフィン系樹脂(A)は、ポリエチレン系樹脂(A1)および/またはポリプロピレン系樹脂(A2)を少なくとも含むのが好ましく、高度な曲げ強さを要求される場合は、ポリプロピレン系樹脂(A2)を含むのが好ましく、高度な衝撃強度を要求される場合は、ポリエチレン系樹脂(A1)を含むのが好ましい。さらに、高度な曲げ強さを要求される場合は、ポリエチレン系樹脂(A1)および/またはポリプロピレン系樹脂(A2)と、酸変性ポリオレフィン系樹脂(A3)との組み合わせが好ましい。特に、曲げ強さと衝撃強度とのバランスに優れる点から、ポリプロピレン系樹脂(A2)が最も好ましい。
【0049】
ポリオレフィン系樹脂(A)として、ポリエチレン系樹脂(A1)および/またはポリプロピレン系樹脂(A2)と、酸変性ポリオレフィン系樹脂(A3)とを組み合わせる場合、酸変性ポリオレフィン系樹脂(A3)の割合は、ポリエチレン系樹脂(A1)およびポリプロピレン系樹脂(A2)の合計100質量部に対して、例えば0.1~100質量部、好ましくは0.3~50質量部、さらに好ましくは0.5~10質量部、より好ましくは0.8~5質量部、最も好ましくは1~3質量部である。酸変性ポリオレフィン系樹脂(A3)の割合が少なすぎると、曲げ強さの向上効果が低下する虞があり、多すぎると、衝撃強度が低下する虞がある。
【0050】
ポリオレフィン系樹脂(A)の割合は、熱可塑性樹脂中50質量%以上であってもよく、好ましくは55~95質量%、さらに好ましくは60~90質量%、より好ましくは65~85質量%、最も好ましくは70~80質量%である。ポリオレフィン系樹脂(A)の割合が少なすぎると、成形性や機械的特性が低下する虞がある。
【0051】
(セルロースジアセテート(B))
セルロースジアセテート(B)は、汎用のセルロースジアセテートを利用できる。セルロースジアセテート(B)の酢化度は52~59%である。酢化度は、好ましくは53~58%、さらに好ましくは54~56%、より好ましくは54.5~55.5%である。セルロースジアセテート(B)の平均置換度(アセチル基総置換度)は2.2~2.7である。平均置換度は、好ましくは2.3~2.6、さらに好ましくは2.3~2.5である。アセチル基の置換度が小さすぎると、分子間の水素結合が強くなるため、樹脂組成物の成形性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、融点が上昇するため成形温度が高くなり、成形の際に熱分解が起こる虞がある。
【0052】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、セルロースジアセテート(B)の酢化度および平均置換度は、ASTM-D-817-91(セルロースアセテート等の試験法)に準拠して測定できる。
【0053】
セルロースジアセテート(B)の6%粘度(25℃)は、例えば30~200mPa・s、好ましくは40~150mPa・s、さらに好ましくは50~100mPa・s、より好ましくは60~80mPa・sである。6%粘度が小さすぎると、成形体の機械的特性が低下する虞があり、逆に大きすぎると、樹脂組成物の成形性が低下する虞がある。
【0054】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、セルロースジアセテート(B)の6%粘度は、慣用の方法、例えば、セルロースジアセテートを95%アセトン水溶液に濃度6%(質量/体積%)で溶解させ、オストワルド粘度計を用いて流下時間を測定する方法で求めることができる。
【0055】
セルロースジアセテート(B)の割合は、ポリオレフィン系樹脂(A)100質量部に対して1~100質量部程度の範囲から選択でき、例えば5~80質量部、好ましくは10~70質量部、さらに好ましくは20~50質量部、より好ましくは25~40質量部、最も好ましくは30~35質量部である。セルロースジアセテート(B)の割合が少なすぎると、機械的特性が低下する虞があり、多すぎると、成形性および機械的特性が低下する虞がある。
【0056】
熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂(A)およびセルロースジアセテート(B)を主成分として含むのが好ましい。ポリオレフィン系樹脂(A)およびセルロースジアセテート(B)の割合は、熱可塑性樹脂中50質量%以上であってもよいが、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは99質量%以上である。熱可塑性樹脂は、実質的にポリオレフィン系樹脂(A)およびセルロースジアセテート(B)のみからなってもよく、ポリオレフィン系樹脂(A)およびセルロースジアセテート(B)のみからなるのが特に好ましい。
【0057】
(他の熱可塑性樹脂)
熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン系樹脂(A)およびセルロースジアセテート(B)に加えて、ポリオレフィン系樹脂(A)およびセルロースジアセテート(B)以外の熱可塑性樹脂(他の熱可塑性樹脂)をさらに含んでいてもよい。
【0058】
他の熱可塑性樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、フッ素樹脂、セルロースジアセテート(B)以外のセルロース誘導体などが挙げられる。これら他の熱可塑性樹脂は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0059】
これら他の熱可塑性樹脂のうち、セルロースジアセテート(B)との相溶性に優れる点から、セルロース誘導体が好ましい。
【0060】
セルロース誘導体としては、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルメチルセルロース、プロピルセルロース、イソプロピルセルロース、ブチルセルロースなどのアルキルセルロース;ベンジルセルロースなどのアラルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロースなどのカルボキシアルキルセルロース;セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどのセルロースC3-4アシレート;セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレートなどのセルロースアセテートC3-4アシレート;ニトロセルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロースなどのセルロース無機酸エステルなどが挙げられる。これらのうち、セルロースジアセテートとの相溶性に優れる点から、セルロースC2-4アシレートやセルロースアセテートC3-4アシレートなどのセルロースアシレートが好ましい。
【0061】
他の熱可塑性樹脂の割合は、ポリオレフィン系樹脂(A)およびセルロースジアセテート(B)の合計100質量部に対して、100質量部以下(例えば0.1~100質量部)であってもよく、好ましくは50質量部以下(例えば1~50質量部)、さらに好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、最も好ましくは1質量部以下である。他の熱可塑性樹脂の割合が多すぎると、後述する糖アルカン酸エステル(C)を配合する効果が低下することなどによって成形性や機械的特性が低下する虞がある。
【0062】
熱可塑性樹脂は、セルロースジアセテート(B)以外のセルロースアセテートを実質的に含まないのが好ましく、セルロースジアセテート(B)以外のセルロースアセテートを含まないのが特に好ましい。
【0063】
熱可塑性樹脂は、(メタ)アクリル系樹脂を実質的に含まないのが好ましく、(メタ)アクリル系樹脂を含まないのが特に好ましい。
【0064】
[糖エステル]
本開示の樹脂組成物は、ポリオレフィン系樹脂(A)およびセルロースジアセテート(B)を含む熱可塑性樹脂に加えて、糖エステルを含む。なお、本明細書および特許請求の範囲において、糖エステルは、エステル化糖、糖エステル化合物とも称される化合物であり、単糖、オリゴ糖および糖アルコールからなる群より選択された少なくとも一種(低分子糖)と、カルボン酸とのエステル化物を意味する。
【0065】
前記糖エステルは、単糖、オリゴ糖および糖アルコールからなる群より選択された少なくとも一種と、C2-6アルカン酸(脂肪族モノカルボン酸)とのエステル化物である糖アルカン酸エステル(C)を含むため、熱可塑性樹脂がセルロースジアセテート(B)を含んでいても、樹脂組成物の溶融成形性を向上できる。従来の可塑剤では、セルロースジアセテート(B)の溶融流動性を高度に向上させるのは困難であった。これに対して、本開示では、糖アルカン酸エステル(C)を用いることにより、例えば、射出成形に必要な溶融流動性も実現できる。さらに、糖アルカン酸エステル(C)は溶融流動性を向上できるだけでなく、ポリオレフィン系樹脂(A)とセルロースジアセテート(B)との相溶性を向上させるためか、従来の可塑剤の配合では流動性に対してトレードオフの関係にあった機械的特性、特に、曲げ強度、曲げ弾性率、衝撃強度(特に、強度)も向上できる。
【0066】
単糖としては、例えば、アラビノース、キシロース、リボース、デオキシリボースなどのペントース;ブドウ糖(グルコース)、果糖(フルクトース)、ガラクトース、マンノース、ソルボース、フコース、ラムノース、ガラクチュロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、グルコサミンなどのヘキソースなどが挙げられる。
【0067】
オリゴ糖は、二糖と、三糖以上のオリゴ糖とに大別できる。二糖としては、例えば、スクロース(ショ糖)、パラチノースなどのヘテロ二糖;セロビオース、乳糖(ラクトース)、異性化乳糖(ラクチュロース)、麦芽糖(マルトース)、イソマルトース、ゲンチオビオース、コージビオース、ラミナリビオース、メリビオース、ソホロース、トレハロースなどのホモ二糖などが挙げられる。三糖以上のオリゴ糖としては、例えば、メレチトース、ラフィノース、スタキオーズ、シクロデキストリンなどが挙げられる。
【0068】
糖アルコールとしては、例えば、キシリトール、エリスリトール、ソルビトール、マンニトール、還元麦芽糖水飴(マルチトール)、還元澱粉糖化物、還元パラチノース、還元乳糖(ラクチトール)、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
【0069】
これらの低分子糖は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの低分子糖のうち、単糖または二糖が好ましく、二糖がさらに好ましく、ヘテロ二糖がより好ましく、スクロースが最も好ましい。
【0070】
2-6アルカン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、吉草酸、カプロン酸などの脂肪族モノカルボン酸などが挙げられる。これらのC2-6アルカン酸は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのC2-6アルカン酸のうち、C2-4アルカン酸が好ましく、C2-3アルカン酸がさらに好ましく、酢酸が最も好ましい。
【0071】
糖アルカン酸エステル(C)は、低分子糖の水酸基のうち、一部の水酸基がエステル化した部分エステル化物であってもよいが、エステル化度は高い方が好ましく、全ての水酸基がエステル化した完全エステル化物が特に好ましい。
【0072】
糖アルカン酸エステル(C)としては、単糖または二糖のC2-6アルカン酸エステル、特に、二糖のC2-6アルカン酸エステルが好ましい。
【0073】
単糖のC2-6アルカン酸エステルとしては、例えば、グルコースアセテート、グルコースプロピオネート、グルコースブチレート、グルコースイソブチレート、グルコースアセテートプロピオネート、グルコースアセテートイソブチレートなどが挙げられる。
【0074】
二糖のC2-6アルカン酸エステルとしては、例えば、スクロースアセテート、スクロースプロピオネート、スクロースブチレート、スクロースイソブチレート、スクロースアセテートプロピオネート、スクロースアセテートイソブチレートなどが挙げられる。
【0075】
なかでも、糖アルカン酸エステル(C)としては、二糖のC2-4アルカン酸エステル、例えば、スクロースアセテート、スクロースプロピオネート、スクロースアセテートイソブチレートなどのヘテロ二糖とC2-4アルカン酸とのエステル化物が好ましく、スクローステトラアセテート、スクロースヘキサアセテート、スクロースオクタアセテートなどのスクローステトラないしオクタC2-4アルカン酸エステルがさらに好ましい。なかでも、スクロースとC2-3アルカン酸との完全エステル化物(オクタC2-3アルカン酸エステル)がより好ましく、スクロースオクタアセテートが最も好ましい。スクロースオクタアセテートなどの糖アルカン酸エステル(C)は、生分解性を有しているため、セルロースジアセテート(B)との組み合わせにおいて、地球環境的に優れた材料を実現できる。
【0076】
糖エステルは、糖アルカン酸エステル(C)に加えて、他の糖エステルをさらに含んでいてもよい。
【0077】
他の糖エステルとしては、例えば、単糖、オリゴ糖および糖アルコールからなる群より選択された少なくとも一種と、C2-6アルカン酸以外の脂肪族カルボン酸、脂環族カルボン酸および芳香族カルボン酸からなる群より選択された少なくとも一種とのエステル化物などが挙げられる。単糖、オリゴ糖および糖アルコールとしては、前記糖アルカン酸エステル(C)を構成する低分子糖として例示された低分子糖などが挙げられる。脂肪族カルボン酸としては、例えば、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸などのC12-24アルカン酸などが挙げられる。脂環族カルボン酸としては、例えば、シクロヘキサンカルボン酸、テトラヒドロ安息香酸、ナフテン酸などが挙げられる。芳香族カルボン酸としては、安息香酸、メチル安息香酸などが挙げられる。
【0078】
これら他の糖エステルは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ショ糖脂肪酸エステル(スクロースと、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸などのC12-24アルカン酸とのエステル)、スクロースベンゾエートなどのスクロースの芳香族カルボン酸エステルなどが汎用される。
【0079】
他の糖エステルの割合は、糖アルカン酸エステル(C)100質量部に対して、100質量部以下(例えば0.1~100質量部)であってもよく、好ましくは50質量部以下(例えば1~50質量部)、さらに好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、最も好ましくは1質量部以下である。他の糖エステルの割合が多すぎると、糖アルカン酸エステル(C)を配合する効果が低下することなどによって成形性や機械的特性が低下する虞がある。
【0080】
糖エステルは、糖アルカン酸エステル(C)を主成分として含むのが好ましい。糖アルカン酸エステル(C)の割合は、糖エステル中50質量%以上であってもよいが、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは99質量%以上である。糖エステルは、実質的に糖アルカン酸エステル(C)のみからなってもよく、糖アルカン酸エステル(C)のみからなるのが特に好ましい。
【0081】
糖エステルは、特に、スクロースオクタアセテートを主成分として含むのが好ましい。スクロースオクタアセテートの割合は、糖エステル中50質量%以上であってもよいが、好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは99質量%以上である。糖エステルは、実質的にスクロースオクタアセテートのみからなってもよく、スクロースオクタアセテートのみからなるのが特に好ましい。
【0082】
糖エステルは、糖アルカン酸エステル(C)を主成分として含むのが好ましいため、他の糖エステルを実質的に含まないのが好ましく、他の糖エステルを含まないのが特に好ましい。
【0083】
糖エステル[特に、スクロースオクタアセテートなどの糖アルカン酸エステル(C)]の割合は、ポリオレフィン系樹脂(A)およびセルロースジアセテート(B)の合計100質量部に対して、例えば1~50質量部、好ましくは2~30質量部、さらに好ましくは3~20質量部、より好ましくは5~15質量部、最も好ましくは7~10質量部である。糖エステルの割合が少なすぎると、成形性および機械的特性が低下する虞があり、逆に多すぎると、機械的特性が低下する虞がある。
【0084】
糖エステル[特に、スクロースオクタアセテートなどの糖アルカン酸エステル(C)]の割合は、セルロースジアセテート(B)100質量部に対して5~70質量部程度の範囲から選択でき、例えば10~65質量部、好ましくは15~60質量部、さらに好ましくは20~50質量部、より好ましくは25~45質量部、最も好ましくは30~35質量部である。糖エステルの割合が少なすぎると、溶融流動性および溶融成形性が低下する虞があり、逆に多すぎると、機械的特性(特に、衝撃強度)が低下する虞がある。
【0085】
[可塑剤]
本開示の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂および糖エステルに加えて、可塑剤をさらに含んでいてもよい。可塑剤は、セルロースアセテートの可塑剤として汎用されている慣用の可塑剤であってもよい。
【0086】
慣用の可塑剤としては、例えば、クエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリエチル、アセチルクエン酸トリブチル、酒石酸ジブチルなどのヒドロキシ酸エステル;トリアセチン、トリプロピオニンなどのトリアシルグリセロール;2,2-ビス(4-ポリオキシエチレン-オキシフェニル)プロパンなどのポリエーテル;フタル酸ジメチル(DMP)、フタル酸ジエチル(DEP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジ-2-メトキシエチル、フタル酸ジアリル、o-ベンゾイル安息香酸エチル、エチルフタリル・エチルグリコレート(EPEG)、メチルフタリル・エチルグリコレート(MPEG)などの芳香族カルボン酸エステル;p-トルエンスルホン酸o-クレジルなどの芳香族スルホン酸エステル;N-エチルトルエンスルホンアミドなどの芳香族スルホンアミド;リン酸トリエチル(TEP)、リン酸トリフェニル(TPP)などのリン酸エステル;ポリエステルオリゴマー、ポリアミドオリゴマーなどの樹脂オリゴマーなどが挙げられる。
【0087】
これら慣用の可塑剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、アセチルクエン酸トリブチルなどのヒドロキシ酸エステル、2,2-ビス(4-ポリオキシエチレン-オキシフェニル)プロパンなどのポリエーテルなどが汎用される。
【0088】
可塑剤の割合は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、50質量部以下(例えば0.1~50質量部)であってもよく、好ましくは30質量部以下(例えば1~30質量部)、さらに好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下、最も好ましくは1質量部以下である。可塑剤の割合が多すぎると、透明性および機械的特性が低下する虞がある。
【0089】
本開示の樹脂組成物は、セルロースジアセテート(B)を含んでいるにも拘わらず、前記糖エステルの配合によって溶融流動性を向上できるため、可塑剤を実質的に含まないのが好ましく、可塑剤を含まないのが最も好ましい。特に、本開示の樹脂組成物は、可塑剤の中でも、ポリエステルオリゴマーを実質的に含まないのが好ましく、ポリエステルオリゴマーを含まないのが特に好ましい。
【0090】
[他の成分]
本開示の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂および糖エステルに加えて、他の成分として、慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、安定化剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤、熱安定化剤など)、酸捕捉剤、導電剤、帯電防止剤、難燃剤(リン系難燃剤、ハロゲン系難燃剤、無機系難燃剤など)、難燃助剤、耐衝撃改良剤、流動性改良剤、レベリング剤、消泡剤、補強材(ガラス繊維、炭素繊維、セルロース繊維などの繊維状補強材、タルク、炭酸カルシウムなどの充填剤など)、着色剤、滑剤、離型剤、色相改良剤、分散剤、抗菌剤、防腐剤、低応力化剤、核剤などが挙げられる。これらの添加剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0091】
他の成分の合計割合は、熱可塑性樹脂100質量部に対して、例えば100質量部以下(例えば0.1~100質量部)であってもよく、好ましくは50質量部以下(例えば1~50質量部)、さらに好ましくは30質量部以下、より好ましくは10質量部以下、最も好ましくは5質量部以下である。
【0092】
[樹脂組成物の特性]
本開示の樹脂組成物は、機械的特性にも優れている。本開示の樹脂組成物の曲げ強さは、例えば10MPa以上であってもよく、例えば10~100MPa、好ましくは30~80MPa、さらに好ましくは40~70MPaである。
【0093】
本開示の樹脂組成物の曲げ弾性率は、1000MPa以上であってもよく、例えば1000~4000MPa、好ましくは1500~3000MPa、さらに好ましくは2000~2500MPaである。
【0094】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、樹脂組成物の曲げ強さおよび曲げ弾性率は、ISO 178に準じて測定できる。
【0095】
本開示の樹脂組成物のアイゾット(IZOD)衝撃強度(ノッチ付き)は1kJ/m以上であってもよく、例えば1~10kJ/m、好ましくは1.5~5kJ/m、さらに好ましくは2~3.5kJ/mである。
【0096】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、樹脂組成物のアイゾット衝撃強度は、ISO 180に準じて測定できる。
【0097】
本開示の樹脂組成物は、熱可塑性樹脂と糖エステルと必要に応じて他の成分とを、乾式混合、溶融混練などの慣用の方法で混合することにより調製でき、樹脂組成物は、ペレットなどの形態であってもよい。溶融混練する場合、混練温度は、例えば150~280℃、好ましくは200~250℃、さらに好ましくは210~230℃である。溶融混練の方法としては、慣用の方法を利用でき、例えば、二軸押出混練機を利用してもよい。
【0098】
[成形体]
本開示の成形体は、前記樹脂組成物を慣用の成形法で成形することにより製造できる。慣用の成形法としては、圧縮成形法、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、トランスファー成形法、ブロー成形法、加圧成形法、キャスティング成形法などが挙げられる。本開示の樹脂組成物は、溶融流動性に優れるため、これらの成形方法のうち、高度な溶融流動性が要求される成形方法、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法が好ましく、射出成形法が特に好ましい。
【0099】
射出成形法において、シリンダー温度は、例えば150~280℃、好ましくは200~250℃、さらに好ましくは210~230℃である。シリンダー温度が低すぎると、成形性が低下する虞があり、逆に高すぎると、成形体の機械的特性や透明性が低下する虞がある。
【0100】
射出圧力は、例えば10~100MPa、好ましくは20~80MPa、さらに好ましくは40~60MPaである。
【0101】
金型温度は、例えば10~100℃、好ましくは15~50℃、さらに好ましくは20~45℃、最も好ましくは25~40℃である。金型温度が低すぎると、生産性が低下する虞があり、逆に高すぎると、成形体の機械的特性が低下する虞がある。
【0102】
本開示の成形体の形状は、特に限定されず、用途に応じて選択でき、線状または糸状などの一次元的構造体;フィルム状、シート状、板状などの二次元的構造体;ブロック状、棒状、管状またはチューブ状、中空状などの三次元的構造体などが挙げられる。特に、本開示の樹脂組成物は、射出成形によって高い生産性で成形体を製造できるため、三次元的構造体であっても、高い生産性で製造できる。
【実施例0103】
以下に、実施例に基づいて本開示をより詳細に説明するが、本開示はこれらの実施例によって限定されるものではない。また、各種評価方法および使用した原料の略号および詳細を下記に示す。
【0104】
[曲げ強さおよび曲げ弾性率]
ISO 178に準じて測定した。
【0105】
[アイゾット(IZOD)衝撃強度(ノッチ付き)]
ISO 180に準じて測定した。
【0106】
[原料]
(セルロースジアセテート)
セルロースジアセテート(DAC):(株)ダイセル製「酢酸セルロース L-30」
(ポリオレフィン系樹脂)
高密度ポリエチレン(HDPE):日本ポリエチレン(株)製「ノバテックHD HJ490」
直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE):日本ポリエチレン(株)製「ノバテックLL UJ370」
ポリプロピレン(PP):プライムポリマー(株)製「プライムポリプロ J105G」
ブロックポリプロピレン(BPP):プライムポリマー(株)製「プライムポリプロ J705UG」
無水マレイン酸変性ポリプロピレン(PP-MAH):理研ビタミン(株)製「リケエイドMG-400P」
(ポリエステル系樹脂)
ポリ乳酸(PLA):ユニチカ(株)製「テラマック TE-2000」
ポリブチレンアジペートテレフタレート(PBAT):浙江▲華▼峰▲環▼保材料有限公司製
ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA):PTT MCC Biochem Company Limited製「BioPBS FD92PM」
(糖エステル)
スクロースオクタアセテート:東京化成工業(株)製。
【0107】
(実施例1~8、比較例1~13および参考例1~6)
表1~3に示す質量割合の各成分を二軸押出機(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「Process11」)を用いて、温度220℃、スクリュー回転数200rpm、吐出量約500g/hで混練し、ペレット状の樹脂組成物を調製した。なお、混練物のストランド化とカットが安定的に実施できたものをペレット化「可」、熱劣化し実施できなかったものをペレット化「不可」とした。得られた樹脂組成物を、ピストン式射出成形機(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製「HAAKE MiniJet Pro」)を用いて、シリンダー温度:220℃、金型温度:30℃の条件で射出成形し、短冊状試験片を得た。得られた試験片を用いて、曲げ強さ、曲げ弾性率、アイゾット衝撃強度を評価した。配合割合および評価結果を表1~3に示す。
【0108】
【表1】
【0109】
【表2】
【0110】
表1および2の結果から明らかなように、ポリオレフィン、セルロースジアセテート、スクロースオクタアセテートを含む実施例1~8では、ポリオレフィン単独またはポリオレフィンおよび比較化合物を含む比較例1~13に比べて曲げ強さや曲げ弾性率に優れていた。特に、セルロースジアセテートおよびスクロースオクタアセテートを含む実施例1~8と、バイオマスプラスチックとして強さおよび弾性率が高いことで知られているポリ乳酸を比較樹脂として含む比較例2~3、6および8~9、12~13とを比較すると、ポリ乳酸を含む比較例に比べて、セルロースジアセテートおよびスクロースオクタアセテートを含む実施例の方が曲げ強さ、曲げ弾性率、アイゾット衝撃強度のバランスに優れていた。さらに、実施例5または6と比較例7または11とを比較すると、ポリプロピレンでは、セルロースジアセテートおよびスクロースオクタアセテートを配合することにより、トレードオフの関係にある曲げ強さや曲げ弾性率と、アイゾット衝撃強度とを同時に向上できた。
【0111】
【表3】
【0112】
表3の結果から明らかなように、ポリエステル、セルロースジアセテート、スクロースオクタアセテートを含む参考例2および5では、ポリエステル単独の参考例4に比べると、曲げ強さや曲げ弾性率が高まるものの、バイオマスプラスチックとして強度および弾性率が高いことで知られているポリ乳酸を含む参考例3および6に比べると、曲げ強さ、曲げ弾性率、アイゾット衝撃強度がすべて劣っており、補強効果が十分ではなかった。さらに、表1の結果と比較すると、熱可塑性樹脂とセルロースジアセテートとの組み合わせに対するスクロースオクタアセテートによる補強効果が、ポリオレフィンに比べてポリエステルでは十分ではなかった。エステル結合を有する極性樹脂同士の組み合わせよりも、疎水性樹脂のポリオレフィンと極性樹脂のセルロースジアセテートとの組み合わせに対して、エステル結合を有するスクロースオクタアセテートが効果的に作用したことは意外な結果であった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本開示の樹脂組成物は、生分解性および機械的特性に優れるため、種々の分野の樹脂成形品[例えば、自動車部品、電気・電子部品、建築資材(壁材など)、土木資材、農業資材、包装資材(容器、緩衝材など)、生活資材(日用品など)、光学部材など]に利用でき、特に、機械強度に優れるため、自動車部品、電気・電子部品の成形体として好適である。