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特開2024-112787第1のレーダーユニットが第2のレーダーユニットからの干渉を受けることを識別するための方法、デバイス、およびシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112787
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】第1のレーダーユニットが第2のレーダーユニットからの干渉を受けることを識別するための方法、デバイス、およびシステム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/34 20060101AFI20240814BHJP
【FI】
G01S13/34
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024016774
(22)【出願日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】23155625
(32)【優先日】2023-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】502208205
【氏名又は名称】アクシス アーベー
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ナディグ, サントシュ
(72)【発明者】
【氏名】ヒューニッシュ, セバスチャン
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AB18
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC11
5J070AD06
5J070AF01
5J070AF03
5J070AH14
5J070AH35
5J070AK35
(57)【要約】      (修正有)
【課題】第1のFMCWレーダーユニットが第2のFMCWレーダーユニットからの並列インコヒーレント干渉を受けることを識別する。
【解決手段】レンジドップラーマップを取得することと、レンジドップラーマップの、負のハーフと、正のハーフとについてのレンジ分解信号を計算することと、レンジドップラーマップについてのレンジ依存性ノイズプロファイルを、各レンジ間隔について、負のハーフについてのレンジ分解信号と正のハーフについてのレンジ分解信号とのうちの小さいほうとして計算する。負のハーフについてのレンジ分解信号と正のハーフについてのレンジ分解信号との間の偏差の指標が所定の偏差しきい値よりも小さく、レンジドップラーマップのレンジ依存性ノイズプロファイルとグローバルノイズフロアとの間の差の指標が所定のノイズしきい値を超える場合に、レンジドップラーマップ中の並列インコヒーレント干渉を識別する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
周波数変調持続波(FMCW)タイプの第1のレーダーユニットがFMCWタイプの第2のレーダーユニットからの並列インコヒーレント干渉を受けることを識別するための方法であって、
信号をトランジットし、受信するために前記レーダーユニットがアクティブ化されていた時間フレームに対応するレンジドップラーマップを取得することであって、前記レンジドップラーマップが複数のレンジ間隔と複数のドップラーシフトとについての信号値を含む、レンジドップラーマップを取得することと、
前記レンジドップラーマップの負のハーフについてのレンジ分解信号と正のハーフについてのレンジ分解信号とを計算することであって、前記レンジドップラーマップの前記負のハーフおよび前記正のハーフがそれぞれ負のドップラーシフトおよび正のドップラーシフトに対応する、レンジ分解信号を計算することと、
前記レンジドップラーマップについてのレンジ依存性ノイズプロファイルを、各レンジ間隔について、前記負のハーフについての前記レンジ分解信号と前記正のハーフについての前記レンジ分解信号とのうちの小さいほうとして計算することと、
前記負のハーフについての前記レンジ分解信号と前記正のハーフについての前記レンジ分解信号との間の偏差の指標が所定の偏差しきい値よりも小さい場合、および
前記レンジドップラーマップの前記レンジ依存性ノイズプロファイルとグローバルノイズフロアとの間の差の指標が所定のノイズしきい値を超える場合に、
前記レンジドップラーマップ中の並列インコヒーレント干渉を識別することと
を含む、方法。
【請求項2】
前記レンジドップラーマップ中で干渉が識別されない場合、前記信号値を所定の検出しきい値と比較することによって前記レンジドップラーマップ中のターゲットを検出することと、
前記レンジドップラーマップ中で干渉が識別された場合、前記所定の検出しきい値を調整し、前記信号値を調整された前記所定の検出しきい値と比較することによって前記レンジドップラーマップ中のターゲットを検出することと
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所定の検出しきい値を調整するステップは、
前記レンジドップラーマップについての前記レンジ依存性ノイズプロファイルを前記所定の検出しきい値と比較することと、
前記所定の検出しきい値が前記レンジ依存性ノイズプロファイルによって超えられるレンジ間隔について前記所定の検出しきい値を増加させることによって、調整された検出しきい値を生成することと
を含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記レンジ依存性ノイズプロファイルが前記所定の検出しきい値と比較される前に、前記レンジ依存性ノイズプロファイルがローパスフィルタにかけられる、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記所定の検出しきい値が前記レンジ依存性ノイズプロファイルまたはそのローパスフィルタ処理されたバージョンを超えるように、前記所定の検出しきい値が調整される、請求項3または4に記載の方法。
【請求項6】
前記グローバルノイズフロアが複数の連続したレンジドップラーマップ中のノイズフロアの移動平均値として推定される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記レンジドップラーマップの各ハーフについての前記レンジ分解信号が、各レンジ間隔について、そのレンジ間隔についてのレンジドップラー信号値およびそのハーフ中のドップラーシフトについての前記レンジドップラー信号値の代表値として計算される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記負のハーフについての前記レンジ分解信号と前記正のハーフについての前記レンジ分解信号との間の前記偏差の前記指標が、前記負のハーフについての前記レンジ分解信号と前記正のハーフについての前記レンジ分解信号との間の代表偏差である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記レンジ依存性ノイズプロファイルと前記グローバルノイズフロアとの間の前記差の前記指標が前記レンジ依存性ノイズプロファイルの代表値と前記グローバルノイズフロアの代表値との間の差である、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記第1のレーダーユニットと前記第2のレーダーユニットとが同等のチャープを有するが、前記第2のレーダーユニットが、前記第1のレーダーユニットとは異なるチャープ間アイドル時間を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
インコヒーレント干渉の発生の可能性を高めるように前記第1のレーダーユニットについてのチャープ間アイドル時間を調整するステップを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
請求項1に記載の方法を実行するように構成された回路を含む、レーダーユニット。
【請求項13】
第1のレーダーユニットと第2のレーダーユニットとを含むレーダーシステムであって、少なくとも前記第1のレーダーユニットが請求項1に記載の方法に従って動作し、前記第1のレーダーユニットと前記第2のレーダーユニットとが同等のチャープを有するが、前記第2のレーダーユニットが、前記第1のレーダーユニットとは異なるチャープ間アイドル時間を有することにより、他のタイプのレーダー間干渉よりも前にインコヒーレント干渉の生成を促進する、レーダーシステム。
【請求項14】
前記第1のレーダーが、近くのレーダーからの干渉を検出するため、および、他のタイプのレーダー間干渉よりも前にインコヒーレント干渉の生成を促進するように前記第1のレーダーのチャープ間アイドル時間を調整するための手段を含む、請求項13に記載のレーダーシステム。
【請求項15】
処理機能を有するデバイスによって実行されたときに請求項1に記載の方法を実行するように適応されたコンピュータコード命令が記憶された、非一時的コンピュータ可読媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、周波数変調持続波(frequency-modulated continuous-wave)(FMCW)レーダーの分野に関する。特に、本発明は、第1のFMCWレーダーユニットが第2のFMCWレーダーユニットからの干渉を受けることを識別するための方法、デバイス、およびシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
監視モニタリングのためにおよび車両においてレーダーを使用することは、これにより物体の距離、速度、および角度を測定することが可能になるので、ますます普及している。たとえば、レーダーユニットは、シーン中の物体についての情報を与えるために監視カメラの補完として使用され得る。レーダーの使用がより一般的になるにつれて、異なるレーダーが互いに干渉し始める危険が高まっている。そのようなインシデントは、交通をモニタリングするために使用されるレーダーが、通過している車両中に取り付けられたレーダーからの干渉を受けるときに起こり得る。干渉の結果として、レーダーの機能は悪化するか、または最悪の場合、完全に故障し得る。2つの別個の問題があり、第1には、干渉が対処されない場合に誤検出が増加することであり、第2には、干渉によって真の検出が不明瞭にされ得ることである。
【0003】
たとえば、車両の自動推進レーダーが静止レーダーと、または別の車両の自動推進レーダーと干渉する不慮の干渉は、少なくとも干渉のタイミングに関しては、予測することが困難であり得る。そのような干渉の影響を検出し、最小限に抑えることに関するいくつかの特許出願がある。
【0004】
干渉が起こり得る別の状況は、倉庫、保護されたエリアの周囲など、広いエリアが、いくつかの同等のレーダーデバイスを含むレーダー設備によって保護されているときである。未知のレーダー源(車両など)が設備と干渉する危険はほとんどないが、設備の単なるサイズにより、使用される多数のレーダーが、干渉を引き起こす危険を呈することになる。そのような静止している設備では、干渉を回避するための対策が取られ得、これは前の状況と比較すると利点である。しかしながら、欠点は、そのような対策が取られた後に依然として存在する干渉が、たとえば、自動推進レーダーの場合ほど急にはなくならないことである。
【0005】
静止している設備の場合、完全に干渉の危険をなくすために、時分割多重を使用すること、すなわち、各レーダーに送信および受信のための個々のタイムスロットを与えることが一般的な手法である。別の手法は、レーダーが異なる周波数チャネルを使用している周波数分割多重である。さらなる手法は、時間領域および周波数領域にそれ以上空きがなくなると、互いに干渉し得るレーダーユニットまたはレーダーユニットのグループを物理的に分離することである。
【0006】
別の手法は、あるレーダーからの送信が別のレーダーの受信アンテナに到達することが物理的に不可能になるような形で、レーダーユニットを構成し、方向付けることである。しかしながら、エリアのフルカバレージが望まれる監視用途では、レーダーユニットの集中により、これらの対策では相互干渉をなくすのに不十分になり得る。
【0007】
本発明は、上記の対策が十分でない事例のためのさらなる手法を、単独でまたは組み合わせて提供することを目的とする。したがって、本発明は、単独でまたは前述の対策と組み合わせて使用され得るさらなるオプションを提供し、それによって大きいレーダー設備のための強力なツールを可能にする。
【発明の概要】
【0008】
上記に鑑みて、したがって、本発明の目的は、上記の問題を緩和し、第1のFMCWレーダーユニットが第2のFMCWレーダーユニットからの干渉を受けることを識別する方法を提供することであり、それにより、その悪影響を低減するための行為を行うことができるようになる。
【0009】
この目的は、添付の独立クレームによって定義される本発明によって達成される。例示的な実施形態は従属クレームによって定義される。
【0010】
第1の態様によれば、FMCWタイプの第1のレーダーユニットがFMCWタイプの第2のレーダーユニットからの並列インコヒーレント干渉を受けることを識別するための方法が提供される。本方法は、
信号をトランジットし(transit)、受信するためにレーダーユニットがアクティブ化されていた時間フレームに対応するレンジドップラーマップ(range-Doppler map)を取得することであって、レンジドップラーマップが複数のレンジ間隔と複数のドップラーシフトとについての信号値を含む、レンジドップラーマップを取得することと、
レンジドップラーマップの負のハーフについてのレンジ分解信号と正のハーフについてのレンジ分解信号とを計算することであって、レンジドップラーマップの負のハーフおよび正のハーフがそれぞれ負のドップラーシフトおよび正のドップラーシフトに対応する、レンジ分解信号を計算することと、
レンジドップラーマップについてのレンジ依存性ノイズプロファイルを、各レンジ間隔について、負のハーフについてのレンジ分解信号と正のハーフについてのレンジ分解信号とのうちの小さいほうとして計算することと、
負のハーフについてのレンジ分解信号と正のハーフについてのレンジ分解信号との間の偏差の指標が所定の偏差しきい値よりも小さい場合、および
レンジドップラーマップのレンジ依存性ノイズプロファイルとグローバルノイズフロアとの間の差の指標が所定のノイズしきい値を超える場合に、
レンジドップラーマップ中の並列インコヒーレント干渉を識別することと
を含む。
【0011】
この方法を使用することによって、並列およびインコヒーレントタイプの干渉の存在を識別することが可能である。並列干渉は、2つのFMCWレーダーユニットが、チャープ(chirp)としばしば呼ばれる信号を送信するときに現れ得、チャープは、重複する周波数レンジと同じ傾きとを有する、すなわち、信号の周波数が同じレートにおいて増加または減少する。重複する周波数レンジと同じ傾きとを有するチャープは並列であると言われることもある。本明細書で使用する並列干渉という表現は、したがって、重複する周波数レンジと、ビクティムレーダー(victim radar)のものと同じ傾きとを有するチャープ信号を送信するアグレッサレーダー(aggressor radar)によって生じる干渉を指す。
【0012】
並列干渉は、さらに、コヒーレントタイプまたはインコヒーレントタイプであり得る。FMCWレーダーは、一般に、バーストでチャープ信号を送信する。コヒーレント干渉は、アグレッサレーダーによって送信されるチャープ信号のバーストが、ビクティムレーダーによって送信されるチャープ信号のバーストと本質的に同等である場合に現れ得る。したがって、個々のチャープの周波数レンジおよび傾きが同じであるべきだけでなく、チャープ間の時間間隔(アイドル時間)も同じであるべきである。これが当てはまらない場合、干渉は代わりにインコヒーレントタイプである。
【0013】
したがって、並列干渉は、2つのレーダーによって送信される個々のチャープが同等であることを指すが、コヒーレント干渉は、チャープのバーストが同等であることを指す。並列インコヒーレント干渉が生じるときの例は、したがって、第1のレーダーユニットと第2のレーダーユニットとが同等のチャープ(同じ傾き、開始周波数、および持続時間)を有するが、第2のレーダーユニットが、第1のレーダーユニットとは異なるチャープ間アイドル時間を有するときである。チャープ間アイドル時間は、1つのチャープの終了と次のチャープの開始との間の時間である。
【0014】
発明者らは、並列およびインコヒーレントタイプの干渉がレンジドップラーマップにわたってドップラー方向に延びる線の形態で現れることに気づいた。したがって、いくつかのレンジにおいて、負のドップラーシフト値の場合に、正のドップラーシフト値の場合とほぼ同じ量で存在する、レンジドップラーマップ中の上昇した信号レベルがある。これは、いくつかのレンジにおいて上昇した信号レベルを生じる移動するターゲットと対照的であるが、上昇した信号レベルは、一般に、負のドップラーシフト値の場合または正のドップラーシフト値の場合のいずれかにのみ存在する。本発明は、レンジドップラーマップ中に並列インコヒーレント干渉があるかどうかを識別するために、このことを利用する。手短に言えば、これは2つの基準を検査することによって達成される。1つの基準は、グローバルノイズフロアとの比較を行うことによってレンジドップラーマップ中の上昇した信号レベルを検査する。もう1つの基準は、上昇した信号レベルが負のドップラーシフト値の場合に、正のドップラーシフト値の場合とほぼ同じ量で存在するかどうかを検査する。これらの基準の両方が満たされる場合、レンジドップラーマップ中に並列インコヒーレント干渉があると推論される。
【0015】
これらの基準を検査するために、本方法は、まず、レンジドップラーマップの負のハーフおよび正のハーフの各々についてレンジ分解信号を計算する。レンジドップラーマップのハーフのレンジ分解信号とは、レンジドップラーマップのそのハーフのレンジ間隔ごとの1つの代表的な信号値を含む信号を意味する。レンジドップラーマップの各ハーフについてのレンジ分解信号は、各レンジ間隔について、そのレンジ間隔についての、およびそのハーフにおけるドップラーシフトについてのレンジドップラー信号値の代表値として計算され得る。代表値は平均値または中央値であり得る。
【0016】
本方法は、さらに、各レンジ間隔について、負のハーフについてのレンジ分解信号と正のハーフについてのレンジ分解信号とのうちの小さいほうを含む、レンジ依存性ノイズプロファイルを計算する。レンジ依存性ノイズプロファイルは、本明細書では、ローカルノイズプロファイルまたはローカルレンジ依存性ノイズプロファイルとも呼ぶ。ターゲットは一般にハーフの一方のみに存在するので、2つのハーフのうちの小さいほうの値を見ることによって、ターゲットに起因する上昇した信号レベルが大幅に除去される。しかしながら、背景ノイズ、および他のレーダーユニットからの干渉に起因するノイズは残り、それにより、レンジ依存性ノイズプロファイルが、レンジに応じた現在のレンジドップラーマップ中のそのようなノイズの指標になる。
【0017】
上昇した信号レベルを検査する第1の基準は、レンジドップラーマップのレンジ依存性ノイズプロファイルとグローバルノイズフロアとの間の差の指標をノイズしきい値と比較することによって実行される。レンジ依存性ノイズプロファイルとグローバルノイズフロアとの間の差の指標は、レンジ依存性ノイズプロファイルとグローバルノイズフロアとの、平均値または中央値など、代表値間の差であり得る。
【0018】
上昇した信号レベルが両方のハーフについてほぼ同じ量で存在するかどうかを検査する第2の基準は、左ハーフについてのレンジ分解信号と右ハーフについてのレンジ分解信号との間の偏差の指標を比較することによって実行される。負のハーフについてのレンジ分解信号と正のハーフについてのレンジ分解信号との間の偏差の指標は、負のハーフのレンジ分解信号と正のハーフについてのレンジ分解信号との間の、平均偏差または中央偏差など、代表偏差であり得る。
【0019】
本明細書で使用する際、時間フレームは、バースト、信号/チャープがレーダーによって送信される時間期間に対応する。
【0020】
本明細書でレンジドップラー図とも呼ぶレンジドップラーマップは、それぞれレンジ間隔およびドップラーシフトに対応する信号値のアレイである。時に、レンジ間隔とドップラーシフトとの組合せはレンジドップラービンと呼ばれる。レンジ間隔は、1つのレンジ値、またはレンジ値のグループを含み得る。ドップラーシフトは速度に対応する。負のドップラーシフトとは負の速度を意味し、正のドップラーシフトとは正の速度を意味する。負の速度および正の速度は、一般に、レーダーユニットに向かうほうおよびレーダーユニットから離れるほうなど、第1のレーダーユニットの互いに反対の半径方向速度である。
【0021】
シーン中にターゲットがなく、干渉しているレーダーユニットがないときでも、第1のレーダーユニットによって取得されるレンジドップラーマップ中の信号値は、レーダーユニット中の熱ノイズなど、背景ノイズに起因して0になることはない。単一の代表値の形態のこのノイズの指標を、本明細書ではグローバルノイズフロアまたは単にグローバルノイズと呼ぶ。グローバルノイズフロアは、したがって、ターゲットまたは干渉がない1つまたは複数のレンジドップラーマップの(平均値または中央値など)代表信号値である。グローバルノイズフロアは、複数の連続したレンジドップラーマップ中のノイズフロアの移動平均値(すなわち、時間平均)として推定され得る。そして、レンジドップラーマップのノイズフロアは、そのレンジドップラーマップのレンジ依存性ノイズプロファイルを平均化すること(すなわち、レンジ関連の平均)によって推定され得る。時間平均を形成することによって、個々のレンジドップラーマップ中のグローバルノイズフロア推定値に影響を及ぼす干渉の影響が低減される。
【0022】
本方法は、
レンジドップラーマップ中で干渉が識別されない場合、信号値を所定の検出しきい値と比較することによってレンジドップラーマップ中のターゲットを検出することと、
レンジドップラーマップ中で干渉が識別された場合、所定の検出しきい値を調整し、信号値を調整された所定の検出しきい値と比較することによってレンジドップラーマップ中のターゲットを検出することと
をさらに含み得る。干渉が識別されたときに検出しきい値を調整することによって、フォールスポジティブ検出の危険を低減し、それによりレーダーユニットは干渉に対してよりロバストになり得る。ターゲットと物体という単語は本明細書で互換的に使用される。所定の検出しきい値は、一定の値であり得るか、またはレンジに依存し得る。たとえば、所定の検出しきい値はレンジとともに低下し得る。
【0023】
所定の検出しきい値を調整するステップは、レンジドップラーマップについてのレンジ依存性ノイズプロファイルを所定の検出しきい値と比較することと、所定の検出しきい値がレンジ依存性ノイズプロファイルによって超えられるレンジ間隔について所定の検出しきい値を増加させることによって、調整された検出しきい値を生成することとをさらに含み得る。このようにして、検出しきい値は、干渉によって生じるノイズがさもなければ誤検出を引き起こすであろうレンジ間隔について、選択的に増加させられる。代替実施形態では、検出しきい値がレンジ依存性ノイズプロファイルによって超えられるレンジ間隔は代わりに検出を免除される。
【0024】
いくつかの実施形態では、レンジ依存性ノイズプロファイルは、それが所定の検出しきい値と比較される前にローパスフィルタにかけられる。これにより、検出器がノイズに対してよりロバストになることが分かっている。
【0025】
いくつかの実施形態では、レンジ依存性ノイズプロファイルと所定の検出しきい値との比較は、さらに、検出しきい値をどのくらい増加させるべきであるかを決定するために使用される。より詳細には、所定の検出しきい値は、それがレンジ依存性ノイズプロファイルまたはそのローパスフィルタ処理されたバージョンを超えるように調整され得る。
【0026】
本方法は、インコヒーレント干渉の発生の可能性を高めるように第1のレーダーユニットについてのチャープ間アイドル時間を調整することをさらに含み得る。チャープ間アイドル時間を第2のレーダーユニットのチャープ間アイドル時間とは異なるように設定することによって、インコヒーレント干渉が起こる可能性は高まるが、より酷いコヒーレント干渉の可能性は低減される。
【0027】
他の態様によれば、本発明は、レーダーユニットと、レーダーシステムと、非一時的コンピュータ可読媒体とに関する。それらの態様の特徴および利点は第1の態様の場合と同じであり得る。
【0028】
本発明の上記のならびに追加の目的、特徴および利点は、同様の要素に対して同じ参照番号を使用する添付の図面を参照しながら、以下の例示的で非限定的な本発明の実施形態の詳細な説明によってより良く理解される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】シーン中に配置された4つのレーダーユニットを含むレーダー設備を概略的に示す図である。
図2】2つのレーダーユニットによって送信され、受信される信号を概略的に示す図である。
図3】レーダーユニットを概略的に示す図である。
図4】レーダー測定から得られるレンジドップラー図を概略的に示す図である。
図5】本発明の実施形態において使用される詳細をも示す、図4のレンジドップラー図である。
図6】実施形態による、FMCWタイプの第1のレーダーユニットがFMCWタイプの第2のレーダーユニットからの並列インコヒーレント干渉を受けることを識別するための方法のフローチャートである。
図7】本発明の実施形態における干渉検出に関するグラフを概略的に示す図である。
図8】レンジに応じた評価されたノイズレベルのグラフと、同じグラフのローパスフィルタ処理されたバージョンとを概略的に示す図である。
図9】プリセットされた検出しきい値と、図7のローパスフィルタ処理されたバージョンとを概略的に示す図である。
図10図9のプリセットされた検出しきい値が、図8に示されたローパスフィルタ処理されたバージョンに基づいてどのように調整されたかを概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
次に、本発明の実施形態が示されている添付の図面を参照しながら、以下で本発明についてより十分に説明する。動作中の本明細書で開示するシステムおよびデバイスについて説明する。
【0031】
始めに、問題の原因および性質について説明する。
【0032】
図1は、建築物104の異なる側面に配置された4つの固定レーダーユニット102A~Dを備えるレーダー設備100を示す。レーダー設備100のレーダーユニットは、建築物104の周りのすべてのエリアを監視する目的を有し、監視を行う際に、レーダーユニットの個々のカバレージエリアは必然的に若干の重複を有する。また、少なくともいくつかのレーダーユニットは、互いの間に、たとえば、ユニット102Bとユニット102Cとの間に見通し線(line of sight)があり、干渉を可能にする距離に配置される。このコンテキストでは、干渉が誘導され得る距離は、使用されるレーダーユニットのタイプおよび電力により変動することに言及しておくべきである。一般にエリア保護または周囲保護のために使用されるタイプである、より短い検出レンジ、たとえば、50~100メートルをもつレーダーの場合、この距離は300メートルのオーダーであり得る。レーダーシステムは、たとえば、潜在的な侵入者を見つける際に、オペレータ、または監視カメラなどのさらなる監視デバイスを支援する早期警戒システムとしても使用され得る。上記を所与として、図1のすべてのレーダーユニット102A~Dは、いくつかのレーダーユニットは直接送信で、他のレーダーユニットは反射または屈折によって、互いに干渉し得る。
【0033】
レーダーユニット102は、よく知られているように、1つまたは複数の送信アンテナと、1つまたは複数の受信アンテナと、信号処理回路と、他のエレクトロニクスおよびプロセッサとを備える。
【0034】
送信アンテナは、信号のシーケンスを送信するように構成される。信号のシーケンスは、本明細書でフレームと呼ぶ、コヒーレント処理間隔中にバーストで送信され得る。たとえば、送信アンテナは、第1のフレーム中に信号のシーケンスを送出し得る。次いで、送信アンテナは、第2のフレーム中に信号のさらなるシーケンスを送出する前に、しばらくの間無信号であり得る。図2は、第1のフレーム中に送信される信号のシーケンス106と、第2のフレーム中に送信される別の信号のシーケンス112とを示す。
【0035】
背景技術セクションで述べたように、干渉の原因は、あるレーダーユニット102Bが、別のレーダーユニット102Cが受信するのと同時に送信することであり、送信された信号は、受信され反射された信号よりも数桁大きいので、干渉は大きくなる。1つの第1の対策は、そのような干渉しているユニットがそれら自体のタイムスロット中に送信および受信するような形で、それらの干渉しているユニットのタイミングを合わせることを試みることであり、それにより干渉はなくなるが、より大きいレーダー設備の場合には、その対策だけでは十分でない。
【0036】
当該の干渉のタイプをより良く理解するために、上述の図2を参照する。図2は、チャープ周波数変調を使用する、(同じタイプの)2つのレーダーユニット102Bおよび102Cのシグナリングを示す。また、FMCWレーダーの基本を参照し、背景技術はよく知られているので、以下の説明は簡潔にする。第1のセクション106、第1のレーダーバーストでは、第1のレーダーユニット102Bのみがアクティブである。各実線の対角線108は、レーダーユニットによって送信される周波数、すなわち、周波数が時間とともに直線的に高くなるシヌソイドを示し、これはチャープと呼ばれることもある。破線の対角線110は、各チャープから生じる受信されたエコー信号を示す。第1のチャープがファイナライズされると、その後、第2のチャープが送信される前にチャープ間アイドル時間があり、以下同様に続き、最終的に第1のレーダーバースト106がファイナライズされる。各チャープについて、送信された信号と受信された信号との間の混合として、ビート信号(またはビート周波数、または中間周波数信号)が計算され得る。このビート信号から、レーダーの視界中の静止している物体および移動している物体に関する情報が推論され得、これは、もちろんレーダーユニットの目的である。
【0037】
高速フーリエ変換(FFT)を使用して、フレームのチャープに対応するビート信号からレンジドップラーマップが生成され得る。レンジドップラーマップは、本質的に、y軸上にレンジ(レーダーユニットからの距離)をもち、x軸上にドップラーシフトをもつグラフであり、ドップラーシフトはレーダーユニットに関する半径方向速度を示す。通常、正のドップラーシフトは右側に提示され、負のドップラーシフトは左側に提示され、0のドップラーシフトはレンジドップラーマップの中心にある。移動している物体はレンジドップラーマップ中のホットスポットのように見え、それらの位置により、レーダーユニットからの物体の距離と、レーダーユニットに関する物体の相対半径方向速度とが明らかになる。
【0038】
図3は、レーダーユニット102と、上記に関連する機能とを概略的に示す。使用中、レーダーユニットは、一般に、壁に取り付けられるなど、固定されている。レーダーユニット102はビデオカメラの補完として使用され得る。たとえば、レーダーシステム102はビデオカメラ中に含まれ得るが、スタンドアロンユニットとしても使用され得る。レーダーユニット102は、1つまたは複数の送信アンテナ158と、1つまたは複数の受信アンテナ160aおよび160bと、1つまたは複数のミキサ162aおよび162bとを備える。レーダーユニット102はシンセサイザ164も備え得、データはレーダーユニットの外側で処理され得るが、レーダーユニット102は、たとえば、本発明の方法を実行することができるレーダー処理手段166をも備え得る。
【0039】
送信アンテナ158は、信号のシーケンスをバーストで送信するように構成される。信号のシーケンスはフレーム中に送信され得る。たとえば、送信アンテナ158は第1のフレーム中に信号のシーケンスを送出し得る。次いで、送信アンテナ158は、図2に関して前に説明したように、第2のフレーム中に信号のさらなるシーケンスを送出する前に、しばらくの間無信号であり得る。
【0040】
信号の第1のシーケンスはシンセサイザ164によって生成され得、シンセサイザ164は、CPU168など、制御ユニットによって制御され得る。
【0041】
送信された信号の第1のシーケンス中の信号はシーン中の物体から反射される。反射された信号は、次いで、各受信アンテナ160a、160bによって異なる角度で受信される。各受信アンテナ160a、160bは、したがって、送信アンテナによって送信された信号の第1のシーケンスに応答して信号のシーケンスを受信する。反射された信号に加えて、受信アンテナ160a、160bは、他のレーダーユニットの送信機など、レーダーユニット102の一部でない送信機から送信される信号を受信し、それにより本発明を必要とする問題が生じ得る。それらの干渉する信号は、受信アンテナ160a、160bにおいて反射された信号と重ね合わせられる。信号の各受信されたシーケンスは、したがって、反射された信号から生じる成分と、干渉する送信機から生じる別の成分とを有し得る。ここでは、2つの受信アンテナ160a、160bが示されている。実際には、しかしながら、レーダーユニット102は任意の数の受信アンテナを有し得る。
【0042】
受信アンテナ160a、160bによって受信された信号のシーケンスの各々は、次いで、対応するミキサ162a、162bによって信号の第1のシーケンスと混合される。原則として、各ミキサ162a、162bは、入力信号の積を計算することによって各ミキサの入力信号を混合する。ミキサ162a、162bによって生成された出力信号はビート信号または中間周波数信号のシーケンスと呼ばれる。したがって、ビート信号のシーケンスは各受信アンテナ160a、160bについて生成される。ミキサ162a、162bは、ミキサの入力信号の周波数帯域を変化させる働きをする。送信機158によって送出される信号はGhzレンジにあり得るのに対し、ビート信号は一般にMHzレンジにある。
【0043】
レーダー処理デバイス166は、シーン中の物体の距離、速度、および角度を計算するための周波数分析など、任意の知られているタイプのレーダー処理を実行し得る。この処理は、レンジおよびドップラーFFT(高速フーリエ変換、FFT)、および角度デジタルビームフォーミングを含む。特に、レーダー処理デバイス166は、本明細書で説明するいずれかの方法を実行するように構成された回路を含み得る。ハードウェア実装形態では、回路は、1つまたは複数の特定用途向け集積回路、あるいは1つまたは複数のフィールドプログラマブルゲートアレイなど、1つまたは複数の集積回路の形態であり得る。ソフトウェア実装形態では、回路は、代わりに、マイクロプロセッサなど、プロセッサの形態であり得、プロセッサは、不揮発性メモリなど、(非一時的)コンピュータ可読媒体に記憶されたコンピュータコード命令に関連して、レーダー処理デバイス166に本明細書で開示するいずれかの方法を実行させる。不揮発性メモリの例としては、読取り専用メモリ、フラッシュメモリ、強誘電体RAM、磁気コンピュータ記憶デバイス、光ディスクなどがある。これを図4に簡潔に示すが、まず図2に関するいくらかの情報をさらに示す。
【0044】
第1の掃引106の後に短いフレーム間アイドル時間114(Δtif1)が続き、このフレーム間アイドル時間中に、別のレーダーが、相互干渉を生じることなしに送信および受信し得る。この短いアイドル時間の後に、図4に第3のセクションによって示されているように、第1のレーダーによって第2のレーダー掃引112が開始される。第2のセクションでは、第2のレーダーユニットも導入される。この第2のレーダーユニットは第1のユニットと同じタイプのものであり、各チャープのパラメータも同じである(開始周波数、周波数変化率、および持続時間など、周波数掃引のパラメータ)。第2のレーダーユニットの第1のレーダー掃引118のレーダーチャープ116が、どのように第1のレーダーユニットのレーダーチャープに関して時間シフトΔtだけ時間的にシフトされるか、またさらに、第2のレーダーユニットのチャープ間アイドル時間117(Δtic2)が第1のレーダーユニットのチャープ間アイドル時間、すなわち、111(Δtic1)と異なることが分かる。本実施形態では、チャープ間アイドル時間は、第1のレーダーユニットよりも第2のレーダーユニットのほうが大きい。しかしながら、依然として若干の重複があることも明らかであり、これは、第2のレーダーが受信するときに第1のレーダーが送信すること、および第1のレーダーが受信するときに第2のレーダーが送信することを意味する。時間シフトΔtのサイズ、およびそれが時間とともにどのように変動するかは、干渉のタイプに影響を及ぼす。時間シフトΔtが各後続のチャープについて同じである場合、干渉はコヒーレントであり、それによりレンジドップラーマップ中に明確なピークが生じる。時間シフトΔtが時間とともに変動し、したがって後続のチャープと異なる場合、干渉はインコヒーレントであり、それにより、代わりに、以下に示すように、レンジドップラーマップのドップラー方向に延びる線が生じる。これは、特に、レーダーが同等の傾き、開始周波数および持続時間をもつチャープを有する、すなわち、チャープが並列であるが、チャープ間アイドル時間が異なる、図2の状況に当てはまる。本発明の目的の場合、シフトおよび変動は、干渉が並列インコヒーレント干渉、手短に「インコヒーレント干渉」として分類されるようなものである。
【0045】
本発明は、インコヒーレント干渉が存在するいかなる事例においても有益であり、また、関係するレーダーユニットが同じレーダー設備の一部であるときに特に有益である。これについての明らかな理由は、干渉が不可避である事例において、干渉がインコヒーレント干渉になることを保証するためになど、レーダー掃引内などの隣接するチャープ間の時間である、アイドル時間を調整する自由を、設置者が有することである。本発明は、したがって、すでに述べたいくつかの他の手法に加えて、レーダーユニットの物理的ロケーション/方位など、エリアについての最適なレーダー読みを可能にするための、およびレーダーユニットを個々のタイムスロット中で動作するように構成するための、すなわち、1つのレーダーユニットが別のレーダーユニットのフレーム間アイドル時間中に動作し、およびその逆に動作する、さらなる選択肢を設置者に与える。
【0046】
図4は、第2のセクション(すなわち、インコヒーレント干渉が導入されるとき)から始まる、図2の状況についてのレンジドップラー図を示す。物体を示す3つの信号120、122、124がグラフ中に見える。物体のエコーの強度は、物体の反射率(材料、サイズなど)ならびにレーダーユニットに対する物体の近接度により変動する。また、レーダーユニットからの物体の距離(レンジ軸)は明確に定義され得るが、物体のドップラーシフトは少し広くなり得る。これは信号対ノイズ比の結果であり得るが、それは、物体に関する有用な情報でもあり得る。この特定の例では、3つの物体120、122、124は、監視されているシーン中を歩いている3人の個人である。各信号について、個人の胴が信号の最も強い部分になり、各振れている腕(および脚)が(その瞬間に腕がどの向きに振れているかに応じて)胴の速度よりもわずかに高いかまたはわずかに低いかのいずれかである速度を有し、その結果、ドップラーシフト次元におけるプロファイルが広くなる。
【0047】
インコヒーレント干渉は、126および128に示されている、増加したノイズレベルである、高められた強度の垂直線を生じる。
【0048】
この高められた強度は実際の物体からの信号に近いことがあり、また、それがシーン中の真の物体の識別と干渉し、それにより偽ターゲット検出が起こることを理解することは容易である。
【0049】
図5から始めて、本発明についてその一実施形態に従って説明する。図5は、始めに何らかの基本データを設定し、ひいては図4のレンジドップラーマップに基づく。第1に、静止物体からの反射は0の速度、したがって0のドップラーシフトを示す。そのような物体は、通常、監視の観点からは直接の関心の対象ではなく、また、0のドップラーシフト線130に沿って増加したノイズが生じるので、この線をカバーするエリア132は、好ましくは、さらなる処理から除外される。第2に、計算目的のために、マップを左側134(負のドップラーシフトに対応する負のハーフ)と右側136(正のドップラーシフトに対応する正のハーフ)とに分割する。0のドップラー線を含めるとしたら、片側のみにバイアス加算を与えないように、後続する計算の両側に0のドップラー線を含めるべきである。左側134および右側136の各々について、その側におけるレンジドップラーマップ中の値の代表値を各レンジ値(またはレンジ間隔を形成するレンジ値のグループ)について計算する。このようにして、レンジドップラーマップの各側またはハーフについてレンジ分解信号が形成される。代表値は平均値または中央値として計算され得る。これらの値は、それぞれレンジドップラーマップの左列138および右列140によって表される。平均値または中央値以外の統計的指標を使用することも可能である。
【0050】
左列138はローカルノイズ左(Local Noise Left)(LNL)と呼ばれ、右列140はローカルノイズ右(Local Noise Right)(LNR)と呼ばれることがあり、ここで「ローカル」とは、それがレンジ値ごとのノイズ推定値であることを指す。
【0051】
また、レンジドップラーマップ中の全般的ノイズフロアに対応するグローバルノイズ(G)を定義する。ローカルノイズに関して、グローバルノイズを計算するいくつかの異なる方法がある。1つの方法は、LNLおよびLNRからのデータを使用し、これらからの平均値または中央値を使用することであり得る。別の方法は、いくつかのフレームにわたってLNLおよびLNRを総計し、グローバルノイズのロバストでしかも動的に反応する指標を保証するために、対応する指標を移動平均として計算することであり得る。ローカルノイズからのすべての値を総計する代わりに、各レンジについての2つのローカルノイズ値のうちの低いほうを使用することも可能である。このようにして、検出された物体に関連する増加した信号レベルからのいかなるバイアス効果も、どんなに小さくても、本質的になくなる。グローバルノイズは受信機内の内部熱ノイズと見なすことができるが、このノイズに対するさらなる誘因もあり得る。
【0052】
もう1つ留意すべきことは、ノイズレベルがレーダーユニットからの距離とともに変動することである。このため、レンジノイズプロファイル、すなわち、他の干渉がない場合の、レーダーユニットからの距離に応じた評価されるノイズの期待値は、距離の増加とともに減少する。
【0053】
この時点で、本発明のすべてのビルディングブロックについて説明したので、一実施形態による方法200をより容易に理解することができる。方法の基礎を示している図6から始めて、図5図9を参照しながら、そのような方法について説明する。
【0054】
第1のステップ202において、図4のレンジドップラーマップ202を生成する、監視されるシーンについてのレンジドップラーデータを取得する。このとき、さらなる計算に含められるべきでない静止物体から発するエコー(それらのエコーは監視の観点から重要でないので)を除去するために、0のドップラーシフト線の周りに除外エリアが定義され得る。このステップおよびさらなる計算ステップは、たとえば、レーダー処理ユニット166(図3参照)または中央処理ユニット168によって実行され得る。これらの計算をレーダー外で実行することは明らかに可能であるが、効率の観点から、データをローカルで処理することが有益である。前述のように、このステップは、本コンテキストでは妥当であり、その利点を有するが、それは依然として随意と見なされる。ステップ204において、(両側について0のドップラー線を含むこともあり、含まないこともある)レンジドップラーマップの左側および右側についてレンジ分解信号を計算する。レンジ分解信号は、平均値、中央値、合計など、任意の適切な指標であり得る、各レンジについての信号の指標である。
【0055】
ステップ206において、レンジ依存性ノイズプロファイルを計算する。この計算は、各レンジまたはレンジ間隔について、左側レンジ分解信号と右側レンジ分解信号とのうちの小さいほうを取ることによって実行される。どんな物体検出でも信号レベルは増加するであろうから、バックグラウンド信号の指標として小さいほうの値を選択することは自明である。次のステップ、ステップ208は、干渉検出器の実施形態の動作原理を示す図7に示されている、フレーム内のインコヒーレント干渉のインスタンスを検出することである。図7は、ΔGと呼ばれるパラメータの関数としてのΔLと呼ばれるパラメータを開示しており、ここで、
、および
である。ΔLは、左側レンジ分解信号と右側レンジ分解信号との間の偏差の指標である。これは、本実施形態の場合と同様に、各レンジrについて、または各レンジまたはレンジ間隔について別個に、偏差を平均することによって計算され得る。ノイズに起因して、後者の2つは、信頼できる値を与えるには影響を受けすぎることがある。いずれにせよ、両側は(インコヒーレント干渉がない場合)低くて似ているか、または(インコヒーレント干渉がある場合)高くて似ているかのいずれかであるので、物体が存在しなければ、差は小さくなる。ΔGと呼ばれるパラメータは、レンジ依存性ノイズプロファイルmin(NLL、NLR)とグローバルノイズフロアGとの間の差の指標である。ΔGは、ΔLと同じレンジまたはレンジ間隔について、左側値と右側値とのうちの最も低いほう(すなわち、前述のレンジ依存性ノイズプロファイル)を取り、それをグローバルノイズレベルと比較する。この比較はまた、異なる分解能(すべてのレンジについて、あるいは各レンジrまたはレンジ間隔についての差の平均)で実行され得る。本実施形態の場合、ΔLの場合がそうであったように、すべてのレンジの平均が使用される。図7は、これらの2つの値がどのように組み合わせられるかを示している。インコヒーレント干渉によりΔLが小さくなるので、たとえばΔLが大きすぎる場合、それは、インコヒーレント干渉がないことの強い指示であると言うことができ、したがって、ΔLがΔLについてのしきい値thΔL144よりも低くなければならないという条件を設定することができる。そして、ΔGは、小さいΔLが実際にインコヒーレント干渉に基づくことを保証する。左側ローカルノイズレベルと右側ローカルノイズレベルとのうちの低いほうと、グローバルノイズレベルとの間の差が小さい場合、そのレンジまたはレンジ間隔についてのインコヒーレント干渉からの影響はない。したがって、ΔGがΔGについてのしきい値thΔG142よりも大きくなければならないという追加の条件を加えることができる。これらの2つの条件が満たされる場合、すなわち、図7のグラフの右下の象限146になった場合、インコヒーレント干渉がそのフレーム(またはレンジもしくはレンジ間隔)に影響を及ぼしていると推論することができる。
【0056】
上記の計算においてレンジ分解差を使用するならば、特定のレンジまたはレンジ間隔におけるインコヒーレント干渉の発生により、評価されているフレームはインコヒーレント干渉の影響を受けているとしてラベル付けされる。
【0057】
「レンジまたはレンジ間隔」の反復使用は、レーダーユニットの最大レンジ分解能またはレーダーユニットの最大処理分解能において、すなわち、可能な最小の増分(これが「レンジ」である)で、あるいはレンジ間隔が組み合わせられるより低い分解能(これが「レンジ間隔」である)で、処理が実行され得ることに基づく。後者の場合、もちろん、計算負荷は低くなる。これらの用語は異なるサイズの「レンジビン」と呼ばれることもある。実用的な実施形態の目的で、現在の信号レベルと検出器品質とを所与として、本方法のこの部分はフレームレベルで実行される、すなわち、レンジ間隔はフレームのすべてのレンジまたは少なくとも大部分のレンジを含む。
【0058】
このステップの後に、前に説明したように、インコヒーレント干渉があるか否かが推論されており、インコヒーレント干渉がある場合は、調整を行わなければならない。
【0059】
干渉が検出されない場合、本方法はステップ210に進み、所定の検出しきい値を使用してレンジドップラーマップから物体を検出する。より詳細には、レンジドップラーマップのセル中の値が所定の検出しきい値を超える場合、エコーは検出された物体として分類される。所定の検出しきい値は、レンジとともに低下するように設定され得るが、これは必須条件ではない。さらに、所定のしきい値は、グローバルノイズレベルを上回る所定のレベルなど、グローバルノイズレベルに関して設定され得、所定のレベルはレンジとともに低下することもあり、低下しないこともある。
【0060】
しかしながら、干渉が検出された場合、本方法は、調整された標準物体検出の分岐218に入り、インコヒーレント干渉をなくすために所定の検出しきい値を調整する。しきい値は、たとえば、図8図10を参照しながら説明する方法(下記)を用いて、ステップ212において調整される。以下のステップ214では、調整された所定のしきい値が物体検出のために使用される。
【0061】
本実施形態による本発明の方法を使用することによって、1)インコヒーレント干渉に起因する増加した信号レベルによる偽物体検出はなくなり、2)インコヒーレント干渉の影響を受けるレンジに存在する真の物体は依然として検出され得る。
【0062】
どれもレンジの関数としてのノイズのグラフと、検出しきい値に対するその影響とを表す図7図9を参照しながら、調整を実施する1つのやり方を提示する。図8のグラフは、今度はレンジ(実線、148)の関数、すなわち、レンジノイズプロファイルとして、前述のパラメータmin(LNL、LNR)を示している。ピーク150は、それがインコヒーレント干渉の影響を受けていることがあり、あらゆるピークについて同じ参照番号が使用さている、レンジセクションを示している。斜線付き曲線152は実線の曲線148のローパスフィルタ処理されたバージョンであり、1回の測定における不十分な信号対ノイズ比をなくすために、鋭いピークは少し平滑化されている。
【0063】
図9図8と同様であり、そのグラフでは、図8の上述のローパスフィルタ処理された曲線が元の所定の検出しきい値154と比較されている。この例では、検出しきい値154はレンジ依存性であり、検出しきい値は、前述のようにレンジに応じて低減される。他の例では、検出しきい値154は一定であり得る。レンジ依存性検出しきい値が減少するかどうか、およびどのように減少するかは、検出器のタイプおよび分解能、信号対ノイズ比などに依存し得る。したがって、それを必須条件として解釈するべきではなく、図9中の例は概略図にすぎない。ローパスフィルタ処理された曲線はいくつかのレンジセクション中で所定のレンジ依存性検出しきい値154を超えることは明らかであり、これは、誤検出を回避するためにレンジ依存性検出しきい値154を調整する必要があることを意味する。図10は、そのような調整を実行する簡単なやり方を示す。基本的に、しきい値154は、それが局所的に増加したノイズレベルを含むことを保証するように、ステップ関数156を用いて調整され、その結果、調整されたレンジ依存性検出しきい値154’が得られる。
【0064】
したがって、本発明は、その様々な実施形態において、インコヒーレント干渉の影響を受けるレンジを局所化するために、評価中にこれらの局所化されたレンジを無視するために、またはこれらの局所化されたレンジにおける物体検出を可能にするようにこれらのエリアについてのしきい値を調整するために使用され得る。本実施形態では、インコヒーレント干渉の局所化はフレームレベルで実行されるが、調整はそのフレーム内でレンジレベルで行われる。
【0065】
上記では、インコヒーレント干渉を処理する方法について説明した。本方法は、インコヒーレント干渉を、コヒーレント干渉など、いくつかの他のタイプの干渉よりも有害でないものにするほど、極めて有効である。別の発明的概念は、したがって、本発明の方法が適切に働き得るように、干渉をインコヒーレント干渉になるようにバイアスすることである。たとえば、図1に例示されているタイプの静止レーダー設備を所与として、これはあらかじめ行われ得る。それは、しかしながら、干渉が検出される状況でも実行され得る。
【0066】
そのような方法では、自動的にまたはオペレータとして観測されるようにのいずれかで、干渉を検出するレーダーユニットは、レーダーユニットのチャープ間アイドル時間をより長い時間またはより短い時間のほうにシフトし得、その後、干渉の影響が再び評価され得る。
【0067】
いくつかのレーダーユニットがオペレータの制御下にあるレーダーシステムでは、チャープ間アイドル時間中のシフトは上記の経験的手法よりも精巧であり得る、すなわち、レーダーシステムの概観において、理論上互いに干渉し得るレーダーユニットのチャープ間アイドル時間を各そのようなレーダーユニットについて異なる値に設定することができる。
【0068】
当業者は、上記で説明した実施形態を様々に改変し、上記の実施形態に示されている本発明の利点を依然として使用することができることを認識されよう。たとえば、レーダーユニットがいくつかの送信アンテナおよび受信アンテナを有するときは、説明した方法が各送信アンテナと受信アンテナとの組合せについて実行され得る。したがって、本発明は、図示の実施形態に限定されるべきではなく、添付の特許請求の範囲によってのみ定義されるべきである。さらに、当業者が理解するように、図示の実施形態は組み合わせられ得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
【外国語明細書】