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特開2024-112788フレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムおよび画像表示装置
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  • 特開-フレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムおよび画像表示装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112788
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】フレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムおよび画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240814BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20240814BHJP
   H10K 50/00 20230101ALI20240814BHJP
   H10K 50/844 20230101ALI20240814BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240814BHJP
   G09F 9/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
G02B5/30
H10K50/00
H10K50/844
H10K59/10
G09F9/00 302
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024016873
(22)【出願日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2023017404
(32)【優先日】2023-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 研
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】合田 亘
【テーマコード(参考)】
2H149
3K107
4F071
5G435
【Fターム(参考)】
2H149AA18
2H149AB24
2H149CA02
2H149EA22
2H149EA29
2H149FA12Z
2H149FA63
2H149FA66
2H149FA67
2H149FD28
2H149FD30
2H149FD31
3K107AA01
3K107BB01
3K107CC41
3K107EE45
3K107FF01
3K107FF03
3K107FF05
3K107FF14
3K107FF15
4F071AA45
4F071AA46
4F071AA88
4F071AF13Y
4F071AF17Y
4F071AG17
4F071AG28
4F071AH12
4F071AH16
4F071BA01
4F071BB06
4F071BB08
4F071BC01
5G435AA14
5G435BB05
5G435GG43
5G435HH02
5G435KK07
(57)【要約】
【課題】静的耐屈曲性および動的耐屈曲性が良好なフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムおよびそのフィルムを搭載した画像表示装置を提供する。
【解決手段】温度変調式示差走査熱量測定の可逆曲線において30℃から130℃の間で観測されるガラス転移温度における比熱差ΔCp(単位:J/(g℃))から、前記測定の不可逆曲線で30℃から130℃の間で観測される吸熱量ΔHg(単位:J/g)を減算したΔCp-ΔHg(緩和非晶度A)が0.0以下であるフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムおよびそのフィルムが搭載された画像表示装置。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度変調式示差走査熱量測定の可逆曲線において30℃から130℃の間で観測されるガラス転移温度における比熱差ΔCp(単位:J/(g℃))から、前記測定の不可逆曲線で30℃から130℃の間で観測される吸熱量ΔHg(単位:J/g)を減算したΔCp-ΔHg(緩和非晶度A)が0.0以下であるフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
なお、温度変調式示差走査熱量測定の可逆曲線において30℃から130℃の間で観測されるガラス転移温度における比熱差ΔCp(単位:J/(g℃))は、温度変調式示差走査熱量測定の可逆曲線より得られる、JIS K7121(1987年)に準拠した示差走査熱量測定チャートのガラス転移の階段状の変化部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状の変化部分の曲線とが交わる点からガラス転移温度を求めたあと、前記ガラス転移温度における上記各ベースラインを延長した2つの直線の距離から求められる。前記測定の不可逆曲線で30℃から130℃の間で観測される吸熱量ΔHg(単位:J/g)は当該不可逆曲線において観測される吸熱ピークのピーク面積から吸熱量ΔHg(単位:J/g)から求められる。
【請求項2】
温度変調式示差走査熱量測定の可逆曲線において30℃から130℃の間で観測されるガラス転移温度における比熱差ΔCp(単位:J/(g℃))、前記測定の不可逆曲線で30℃から130℃の間で観測される吸熱量ΔHg(単位:J/g)について、前記吸熱量ΔHg(単位:J/g)を前記比熱差ΔCp(単位:J/(g℃))で除算したΔHg/ΔCpが1.0以上であるフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
なお、温度変調式示差走査熱量測定の可逆曲線において30℃から130℃の間で観測されるガラス転移温度における比熱差ΔCp(単位:J/(g℃))は、温度変調式示差走査熱量測定の可逆曲線より得られる、JIS K7121(1987年)に準拠した示差走査熱量測定チャートのガラス転移の階段状の変化部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状の変化部分の曲線とが交わる点からガラス転移温度を求めたあと、前記ガラス転移温度における上記各ベースラインを延長した2つの直線の距離から求められる。前記測定の不可逆曲線で30℃から130℃の間で観測される吸熱量ΔHg(単位:J/g)は当該不可逆曲線において観測される吸熱ピークのピーク面積から吸熱量ΔHg(単位:J/g)から求められる。
【請求項3】
前記吸熱量ΔHgが0.1J/gより大きい請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
【請求項4】
温度変調式示差走査熱量測定の不可逆曲線において30℃から130℃で観測される吸熱ピークの吸熱開始温度Thgが70℃以上である請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
【請求項5】
ループスティフネステスターにより測定される少なくとも1方向の曲げ剛性が1mN以上100mN以下である請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
【請求項6】
少なくとも1方向の5%伸長到達時の応力をF0m、5%伸長状態を30分保持した後の応力をF30mとした際、F30mをF0mで除したF30m/F0m(応力緩和度)が0.4以上1.0以下である請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
【請求項7】
少なくとも1方向の40℃から110℃で観測される最大収縮応力が50kPa以下である請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
【請求項8】
ナフタレンジカルボン酸に由来する成分、フルオレン基を有するジオールに由来する成分、イソソルビドに由来する成分のいずれか1つ以上を主鎖骨格中に含有するポリマー、および/またはイミド基を主鎖骨格中に含有するポリマーを含有する請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
【請求項9】
固有粘度が0.60dL/g以上である請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
【請求項10】
アンチモン原子の含有量が50ppm以上130ppm以下である請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
【請求項11】
カルボキシ末端基量が40eq/t以下である請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
【請求項12】
ポリエステルフィルム面内の主配向軸とポリエステルフィルム長手方向との角度が1°以上89°以下である請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
【請求項13】
画像表示装置を保護する用途に用いられる、請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
【請求項14】
有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置の発光素子を保護するサポートフィルムとして用いられる、請求項12に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
【請求項15】
請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムを搭載した画像表示装置。
【請求項16】
請求項1または2に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムを搭載した画像表示装置であって、前記画像表示装置は有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置であり、前記画像表示装置は少なくとも1つの屈曲部を有しており、前記屈曲部と直行する方向である屈曲方向と、前記ポリエステルフィルム面内の主配向軸との成す角度が1°以上である画像表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムおよび画像表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機発光ダイオード(Organic Light Emitting Diode)と呼ばれる(OLEDと省略されることもある)自発光体を用いた画像表示装置(以下、「有機エレクトロルミネッセンス表示装置」という。)の実用化が進んでいる。この有機エレクトロルミネッセンス表示装置は、従来の液晶表示装置と比較して、自発光体を用いているため、視認性、応答速度の点で優れているだけでなく、バックライトのような補助照明装置を要しないため、表示装置としての薄膜化、フレキシブル化が可能となっている。このため、折り畳みや巻き取ること、繰り返し折り曲げが可能なフレキシブル画像表示装置の開発が加速しており、表示装置表面の傷付きを防止する表面保護フィルムや、有機エレクトロルミネッセンス表示装置の内部に搭載されるOLEDの保護を目的としたサポートフィルム(バックプレートフィルムと呼ばれることもある)についても耐屈曲性が求められている。
【0003】
折りたたみ用フィルムとしては屈曲方向や折りたたみ部および厚み方向の屈折率を制御したフィルムが検討されている(特許文献1)。
【0004】
また、特定の曲げ特性に着目したフィルムが検討されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-9349号公報
【特許文献2】国際公開第2021/182191号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、ポリエステルフィルムの中でも耐屈曲性が考慮されて設計されているが、繰り返し開閉されるときの動的耐屈曲性が考慮されているだけであり、使用時以外は殆ど折りたたまれて放置されることが考慮されていない。すなわち静的耐屈曲性に対する設計が考慮されておらず、静的耐屈曲性に劣るという課題がある。また、耐屈曲性には繰り返し折り曲げ試験による動的耐屈曲性と、折り曲げた状態で一定時間静置して、その後にどの程度折り目が付いているか、といった静的耐屈曲性があるが、特許文献2については、静的耐屈曲性を発現するために特定の曲げ特性に着目しているものの、動的耐屈曲性までは考慮されておらず、静的耐屈曲性と動的耐屈曲性を両立できていないものであった。
【0007】
そこで本発明の課題は、上記した動的耐屈曲性と静的耐屈曲性を両立するフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムおよびそのフィルムが搭載された画像表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムおよびそのフィルムが搭載された画像表示装置は、かかる課題を解決するために、次のような手段を採用するものである。
(1)温度変調式示差走査熱量測定の可逆曲線において30℃から130℃の間で観測されるガラス転移温度における比熱差ΔCp(単位:J/(g℃))から、前記測定の不可逆曲線で30℃から130℃の間で観測される吸熱量ΔHg(単位:J/g)を減算したΔCp-ΔHg(緩和非晶度A)が0.0以下であるフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
なお、温度変調式示差走査熱量測定の可逆曲線において30℃から130℃の間で観測されるガラス転移温度における比熱差ΔCp(単位:J/(g℃))は、温度変調式示差走査熱量測定の可逆曲線より得られる、JIS K7121(1987年)に準拠した示差走査熱量測定チャートのガラス転移の階段状の変化部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状の変化部分の曲線とが交わる点からガラス転移温度を求めたあと、前記ガラス転移温度における上記各ベースラインを延長した2つの直線の距離から求められる。前記測定の不可逆曲線で30℃から130℃の間で観測される吸熱量ΔHg(単位:J/g)は当該不可逆曲線において観測される吸熱ピークのピーク面積から吸熱量ΔHg(単位:J/g)から求められる。
(2)温度変調式示差走査熱量測定の可逆曲線において30℃から130℃の間で観測されるガラス転移温度における比熱差ΔCp(単位:J/(g℃))、前記測定の不可逆曲線で30℃から130℃の間で観測される吸熱量ΔHg(単位:J/g)について、前記吸熱量ΔHg(単位:J/g)を前記比熱差ΔCp(単位:J/(g℃))で除算したΔHg/ΔCpが1.0より大きいフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
なお、温度変調式示差走査熱量測定の可逆曲線において30℃から130℃の間で観測されるガラス転移温度における比熱差ΔCp(単位:J/(g℃))は、温度変調式示差走査熱量測定の可逆曲線より得られる、JIS K7121(1987年)に準拠した示差走査熱量測定チャートのガラス転移の階段状の変化部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状の変化部分の曲線とが交わる点からガラス転移温度を求めたあと、前記ガラス転移温度における上記各ベースラインを延長した2つの直線の距離から求められる。前記測定の不可逆曲線で30℃から130℃の間で観測される吸熱量ΔHg(単位:J/g)は当該不可逆曲線において観測される吸熱ピークのピーク面積から吸熱量ΔHg(単位:J/g)から求められる。
(3)前記吸熱量ΔHgが0.1J/g以上である(1)または(2)に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
(4)温度変調式示差走査熱量測定の不可逆曲線において30℃から130℃の間で観測される吸熱ピークの吸熱開始温度Thgが70℃以上である(1)~(3)のいすれかに記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
(5)ループスティフネステスターにより測定される少なくとも1方向の曲げ剛性が1mN以上100mN以下である(1)~(4)のいずれかに記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
(6)少なくとも1方向の5%伸長到達時の応力をF0m、5%伸長状態を30分保持した後の応力をF30mとした際、F30mをF0mで除したF30m/F0m(応力緩和度)が0.4以上1.0以下である(1)~(5)のいずれかに記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
(7)少なくとも1方向の40℃から110℃で観測される最大収縮応力が50kPa以下である(1)~(6)のいずれかに記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
(8)ナフタレンジカルボン酸に由来する成分、フルオレン基を有するジオールに由来する成分、イソソルビドに由来する成分のいずれか1つ以上を主鎖骨格中に含有するポリマー、および/またはイミド基を主鎖骨格中に含有するポリマーを含有する(1)~(7)のいずれかに記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
(9)固有粘度が0.60dL/g以上である(1)~(8)のいずれかに記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
(10)アンチモン原子の含有量が50ppm以上130ppm以下である(1)~(9)のいずれかに記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
(11)カルボキシ末端基量が40eq/t以下である(1)~(10)のいずれかに記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
(12)ポリエステルフィルム面内の主配向軸とポリエステルフィルム長手方向との角度が1°以上89°以下である(1)~(11)のいずれかに記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
(13)画像表示装置を保護する用途に用いられる、(1)~(12)のいずれかに記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
(14)有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置の発光素子を保護するサポートフィルムとして用いられる、(13)に記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルム。
(15)(1)~(12)のいずれかに記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムを搭載した画像表示装置。
(16)(1)~(12)のいずれかに記載のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムを搭載した画像表示装置であり、前記画像表示装置は有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置であり、前記画像表示装置は少なくとも1つの屈曲部を有しており、前記屈曲部と直行する方向である屈曲方向と、前記ポリエステルフィルム面内の主配向軸との成す角度が1°以上である画像表示装置。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムとして、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性が良好なポリエステルフィルムを提供できる。また、該フィルムを搭載した画像表示装置は静的耐屈曲性および動的耐屈曲性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】ポリエステルフィルムの温度変調示差走査熱量特性の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明に係るフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムについて、実施の形態とともに詳細に説明する。
【0012】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムの一態様は、温度変調式示差走査熱量測定(TMDSC)の可逆曲線において30℃から130℃の間で観測されるガラス転移温度における比熱差ΔCp(単位:J/(g℃))不可逆曲線で30℃から130℃の間で観測される吸熱量ΔHg(単位:J/g)を減算したΔCp-ΔHg(緩和非晶度A)が0.0以下であることが必要である。この範囲に制御することによって静的耐屈曲性と動的耐屈曲性が良好で、フレキシブルデバイスに好適なポリエステルフィルムを得ることができる。
【0013】
ポリエステルフィルムは、高分子鎖から構成されるため、剛性の比較的高い結晶成分と剛直非晶成分、および可動非晶成分からなる。可動非晶成分は、その不均一性から、比較的高分子鎖が凝集して剛性をもつ凝集非晶成分と、高分子鎖が分散した緩和非晶成分が存在する。ポリエステルフィルムの緩和非晶成分の量は、上記の関係から、可動非晶成分の量から、凝集非晶成分の量を減算することで求めることができる。可動非晶成分の量および凝集非晶成分の量については、TMDSCにて分析することができる。TMDSCにて得られる可逆曲線において30℃から130℃の間で観測されるガラス転移温度における比熱差ΔCpは、可動非晶成分の量に比例する。また、不可逆曲線において30℃から130℃の間で観測される吸熱量ΔHgは、凝集非晶成分が緩和して緩和非晶成分に転移するのに必要な熱量であることから、凝集非晶成分の量に依存する。なお、ΔCpおよびΔHgの値は3回測定の平均値として求められ、TMDSCでの分析方法は実施例に記載のものとする。緩和非晶成分の量を相対的に示す緩和非晶度AはΔCpからΔHgを減算した、ΔCp-ΔHgで表すことができる。
【0014】
発明者らは鋭意研究の結果、緩和非晶度Aが0.0以下であるポリエステルフィルムが静的耐屈曲性および動的耐屈曲性が良好であることを見出し、本発明に至った。本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムにおいて、緩和非晶度Aを上記範囲とすることで静的耐屈曲性および動的耐屈曲性が良好になるメカニズムは以下のように考えられる。すなわち、ポリエステルフィルムが屈曲されるとき、その屈曲部においては、高分子鎖に対して伸長や圧縮の力が加わっており、比較的剛性の低い緩和非晶成分が塑性変形すると考えられる。ポリエステルフィルムは、屈曲に対して塑性変形することで、折りたたんだ状態で一定時間静置した際に塑性変形して、ポリエステルフィルムにシワや浮き上がり、亀裂などが発生する。また、繰り返し屈曲に対しては塑性変形によってポリエステルフィルムの破断の基点が発生し破断へとつながることになる。以上より、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性を良好にするためには、緩和非晶成分が少ないことが重要であると考えられる。緩和非晶成分が少ないことは、緩和非晶成分の量を相対的に示す前記緩和非晶度Aが小さいことと同義であり、前記緩和非晶度Aが0.0以下であることで、稼働非晶成分量に対して凝集非晶成分量が相対的に多く、緩和非晶成分が相対的に少なく、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性が良好になることを見出した。
【0015】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムは、緩和非晶度Aが0.0以下であることが好ましい。また、緩和非晶度Aは、-0.1以下であることがより好ましく、-0.2以下であることがさらに好ましく、特に-0.3以下であることが好ましい。緩和非晶度Aが小さいほど静的耐屈曲性および動的耐屈曲性が良好であるため、下限は特に制限されず、量産性や経済性の観点から緩和非晶度Aは-2.0以上が好ましく、より好ましくは-1.0以上である。また、上記同様の観点からΔHg/ΔCpは1.0を超え、10.0未満であることが好ましく、下限としては1.5より大きいことがより好ましく、2.0より大きいことがさらに好ましく、特に好ましくは2.5より大きいことが好ましい。また、ΔHg/ΔCpは5.0未満であることがより好ましい。
【0016】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムにおいて、緩和非晶度AやΔHg/ΔCpを上記範囲に制御するには、少なくとも下記工程(1)~(3)を順番に実施することによって得ることが重要であり、これ以外の方法で採取した場合、緩和非晶度AやΔHg/ΔCpを上記範囲に制御することができないことがある。
工程(1)縦延伸方向に2.9倍以上3.3倍以下延伸する工程
工程(2)横延伸方向に3.7倍以上4.5倍以下に延伸する工程
工程(3)220℃以上245℃以下で熱処理弛緩する工程
さらに、それぞれの工程について詳細を下記する。
【0017】
工程(1):縦延伸方向に2.9倍以上3.3倍以下延伸する工程に関して、本発明のより顕著な効果を得るためには、3段階で延伸することが重要であり、更に、1段目、2段目、3段目の延伸倍率は以下の条件を満たすことが重要である。
1段目:≦1.3倍
2段目:≦1.5倍
3段目:2.0倍以上2.3倍以下
工程(2):横延伸方向に3.7倍以上4.5倍以下に延伸する工程に関して本発明の効果を得るためには、3段階で延伸することが重要であり、更に、1段目、2段目、3段目の延伸倍率は以下の条件を満たすことが重要である。
1段目:2.0倍以上2.5倍以下
2段目:≦1.5倍
3段目:≦1.5倍
工程(3):220℃以上245℃以下で熱処理弛緩する工程に関して、本発明のより顕著な効果を得るためには、3段階で熱処理弛緩することが重要であり、更に、1段目、2段目、3段目の熱処理温度および縦方向と横方向の弛緩率は以下の条件を満たすことが重要である。
1段目:150℃以上245℃以下
2段目:220℃以上245℃以下
3段目:100℃以上180℃以下
縦方向弛緩率:1%以上8%以下
横方向弛緩率:1%以上8%以下
また、本発明の効果を得る上で長手方向と幅方向の延伸比(長手/幅延伸比)は0.70以上0.81以下であることが重要であり、長手方向と幅方向延伸倍率の積である面積延伸倍率は10倍以上14倍以下であることが重要である。
【0018】
上記制御工程において、ΔCpは特に熱処理工程の温度によって制御でき、1段目~3段目の熱処理温度がいずれも高いほどΔCpは大きくなる傾向にある。また、ΔHgは特に熱処理工程の3段目の温度と、縦方向と横方向の弛緩率によって制御でき、上記工程(3)の範囲内とすることで制御できる。
【0019】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムにおいて、凝集非晶成分の量に依存するΔHgは0.1J/g以上であることが好ましい。好ましい範囲の下限としては0.1J/g以上であり、より好ましくは0.2J/g以上、さらに好ましくは0.3J/g以上、特に好ましくは0.4J/g以上である。凝集非晶成分の量は多いほど、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性が良好になるため、上限としては特に制限されないが、経済性や量産性の観点から2.0J/g以下が好ましく、より好ましくは1.0J/g以下である。ΔHgを上記範囲に制御する方法は前記工程(1)~(3)に記載の通りであり、特に、熱処理工程の3段目の温度と、縦方向と横方向の弛緩率によって制御できる。またさらに、熱処理工程の3段目の処理時間を3秒以上60秒以下とすることも好ましい。
【0020】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムにおいて、温度変調式示差走査熱量測定の不可逆曲線において30℃から130℃の間で観測される吸熱ピークの吸熱開始温度Thgは70℃以上であることが好ましい。当該Thgは凝集非晶成分の緩和の開始温度に相当する。Thgは好ましくは70℃以上であり、より好ましくは73℃以上、さらに好ましくは75℃以上、特に好ましくは80℃以上である。Thgが高いほど、高温での静的耐屈曲性が良好になるため、フレキシブルデバイスが高温に晒されたときに折り畳みおよび展開の動作においてシワや浮き上がり現象が発生を抑制できる。上限としては特に制限されないが、経済性や量産性の観点からThgは130℃以下が好ましく、より好ましくは120℃以下である。吸熱開始温度Thgを上記範囲に制御する方法は、ポリエステルフィルムに用いる樹脂のガラス転移温度が80℃以上が好ましく、より好ましくは85℃以上、さらに好ましくは90℃とすることによって制御できる。また、吸熱開始温度Thgを上記範囲に制御する方法として、ポリエステルフィルムに用いる樹脂を複数用いる場合には、少なくともガラス転移温度が90℃以上の樹脂を含むことが好ましく、より好ましくはガラス転移温度が100℃以上の樹脂を含むこと、さらに好ましくはガラス転移温度が110℃以上の樹脂を含むことが好ましい。ポリエステルフィルムに用いる樹脂を複数用いる場合には、ガラス転移温度が90℃以上の結晶性樹脂を用いることが好ましい。ポリエステルフィルムが2層以上に積層される場合は少なくとも1層以上にガラス転移温度が85℃以上の樹脂を用いることが好ましく、例えば3層積層の場合は少なくとも片側の表層にガラス転移温度が85℃以上の樹脂を用いることが好ましく、いずれの層にもガラス転移温度が85℃以上の樹脂を用いることが好ましい。
【0021】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムは、少なくとも1方向の曲げ剛性が1mN以上100mN以下であることが好ましい。好ましい範囲の下限としては1mN以上であり、より好ましくは10mN以上であり、さらに好ましくは20mN以上である。上限としては100mN以下であることが好ましく、より好ましくは70mN以下であり、さらに好ましくは65mN以下である。曲げ剛性が上記範囲であることで、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性が良好であり、シワの発生や浮き上がり現象が発生せず、フレキシブルデバイスの折り畳みおよび展開動作において制限されない特徴を有するため好ましい。本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムを有機エレクロルミネッセンス画像表示装置用表面の保護フィルムとして適用する場合は、特に好ましくは10mN以上50mN以下である。有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置内部に搭載したサポートフィルムとして適用する場合は、特に好ましくは35mN以上65mN以下である。なお、曲げ剛性はループスティフネス試験方法により求められ、その詳細な測定条件は実施例に記載の条件とする。少なくとも1方向の曲げ剛性を上記範囲とする方法は特に限定されないが、フィルム厚みや屈折率を調整する方法が挙げられる。具体的には、取扱性や経済性を両立する観点から、フィルム厚みは10μm以上80μm以下であれば好ましく、15μm以上60μm以下であればより好ましい。また、屈折率にも比例するため、少なくとも長手方向および幅方向いずれか一方の屈折率(波長589nmで測定)が1.625以上1.670未満であることが好ましい。少なくとも長手方向および幅方向のいずれか一方の屈折率を1.625以上1.67未満であることで動的耐屈曲性が良好になる。屈折率を上記範囲に制御する方法は前記工程(1)~(3)に記載の通りであり、特に、縦延伸倍率および横延伸倍率によって制御できる。また、上記同様の観点から、少なくとも長手方向および幅方向のいずれか一方向の曲げ剛性が上記数値範囲を満たすことが好ましい。
【0022】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムは長手方向と幅方向の屈折率差である複屈折Δn(波長589nmで測定)が0.02以上0.05以下であることが好ましい。複屈折Δnとは長手方向と幅方向の屈折率差であるので所謂、フィルムの異方性である。Δnを本範囲とすることによって、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性が良好になる。尚、複屈折Δnを0.02以上0.05以下に制御する方法は前記工程(1)~(3)に記載の通りに製造すればよく、特に長手方向と幅方向の延伸比(長手/幅延伸比)によって制御できる。
【0023】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムにおいて、少なくとも1方向の5%伸長到達時の応力をF0m、5%伸長状態を30分保持した後の応力をF30mとした際、F30mをF0mで除したF30m/F0m(応力緩和度)が0.4以上1.0以下であることが好ましい。F30m/F0mはポリエステルフィルムを当該フィルムのF-5値(伸度5%応力。F0mに相当。)で30分保持した際の応力緩和度を示す指標であり、この値が大きいほど塑性変形し難いことを示し、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性が良好にできる。従って、0.4以上であることが静的耐屈曲性および動的耐屈曲性の観点から好ましく、1.0が理想である。F30m/F0mは静的耐屈曲性の観点からより好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.6以上、特に好ましくは0.7以上である。なお、F30m、F0mは実施例に記載の方法で測定するものとする。上記F30m/F0mの制御方法は前記工程(1)~(3)に記載の通りに製造すれば良く、特に、熱処理工程の3段目の温度と、縦方向と横方向の弛緩率、処理時間によって制御できる。また、上記同様の観点から、少なくとも長手方向および幅方向のいずれか一方向の応力緩和度が上記数値範囲を満たすことが好ましい。
【0024】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムにおいて、少なくとも1方向の40℃から110℃で観測される最大収縮応力が50kPa以下であることが好ましい。上記収縮応力は、延伸された緩和非晶成分の量に依存し、収縮応力が小さいほど屈曲されたときの伸長や収縮によって塑性変形しにくく、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性が良好にできる。上記収縮応力は静的耐屈曲性の観点からより好ましくは40kPa以下であり、さらに好ましくは30kPaであり、特に好ましくは20kPa以下である。下限としては特に制限されず、0kPa以上である。なお、最大収縮応力は実施例に記載の方法で測定するものとする。上記収縮応力の制御方法は前記工程(1)~(3)に記載の通りに製造すれば良く、特に、熱処理工程の縦方向と横方向の弛緩率によって制御できる。特に面積延伸倍率が14倍以下が好ましく、より好ましくは13倍以下である。また、上記同様の観点から、少なくとも長手方向および幅方向のいずれか一方向の40℃から110℃で観測される最大収縮応力が上記数値範囲を満たすことが好ましい。
【0025】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムにおいて、ポリエステルフィルムの固有粘度を高くすると、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性が良好になるため、好ましくは0.60dL/g以上1.5dL/g以下である。下限として好ましくは0.60dL/g以上であり、より好ましくは0.62dL/g以上、さらに好ましくは0.65dL/g以上であり、上限として好ましくは1.5dL/g以下であり、より好ましくは1.15dL/g以下、さらに好ましくは0.90dL/g以下である。なお、固有粘度を上記範囲内とすることで、ポリエステルフィルムを製膜する押出過程において濾圧が高くなり過ぎて量産性が低下する可能性を抑制できるため好ましい。なお、ポリエステルフィルムの固有粘度は実施例に記載の方法で求めるものとする。ポリエステルフィルムの固有粘度は、使用する樹脂の固有粘度で調整可能である。
【0026】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムにおいて、アンチモン原子の含有量は50ppm以上、130ppm以下であることが、透明性および静的耐屈曲性および動的耐屈曲性が良好になる観点で好ましい。下限として好ましくは50ppm以上であり、より好ましくは55ppm以上、さらに好ましくは60ppm以上であり、上限として好ましくは120ppm以下であり、より好ましくは110ppm以下、さらに好ましくは100ppm以下である。アンチモン原子含有量が上記範囲であることで、経済性や量産性を維持しながらアンチモン原子による光散乱、吸収による透明性を低下する可能性を抑制できる。なお、アンチモン原子含有量は実施例に記載の方法で求めるものとする。ポリエステルフィルムのアンチモン原子含有量は、使用する樹脂のアンチモン原子含有量で制御できる。
【0027】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムにおいて、カルボキシ末端基量が40eq/t以下であることが好ましい。上限としては40eq/t以下、35eq/t以下、30eq/t以下である。下限は特に制限されないが、量産性の観点から10eq/t以上が好ましく、15eq/t以上がより好ましい。カルボキシ末端基量が上記範囲であることで、経済性や量産性を維持しながら、破断の起点となりうる高分子鎖末端による欠陥の発生が抑制でき、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性が向上できるため、好ましい。なお、カルボキシ末端基量は実施例に記載の方法で測定するものとする。ポリエステルフィルムのカルボキシ末端基量は、使用する樹脂のカルボキシ末端基量で制御できる。
【0028】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムは、画像表示装置用に使用される観点から全光線透過率が90%以上であることが好ましく、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは93%以上である。上記全光線透過率の制御方法は、公知の方法を適用でき、例えば、ポリエステルフィルムより屈折率が低い易接着樹脂を薄膜層として設けることで達成することができる。例えば、薄膜層の屈折率は1.58以下が好ましく、より好ましくは屈折率1.53以下である。また、易接着樹脂の層厚みは、光干渉による透過率向上の観点から、50~140nmの範囲が好ましい。ポリエステルフィルムに含まれるアンチモン原子含有量を前記範囲に制御する方法がある。
【0029】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムにおいて、ポリエステルフィルム面内の主配向軸とポリエステルフィルム長手方向との角度が1°以上89°以下であることが好ましい。ポリエステルフィルムの主配向軸と当該フィルムの長手方向が上記範囲であることで、フレキシブルデバイスにポリエステルフィルムを組み込む際に、組み込む方向をいずれの方向でも静的耐屈曲性および動的耐屈曲性を高い性能に維持できるため、量産性や経済性を良好にできる点で好ましい。上記主配向軸と長手方向の角度の制御方法は、ポリエステルフィルムの幅方向における位置によって変わり、例えば逐次二軸延伸方法で得たポリエステルフィルムの場合は、中心位置において主配向軸と長手方向の角度が0°または90°となるが、中心位置から外側の位置では連続的に主配向軸の角度が変化するため、上記範囲は、中心位置以外のポリエステルフィルムを用いることで制御できる。なお、長手方向または幅方向のいずれか一軸に延伸して得られる一軸延伸フィルムは、ポリエステルフィルム幅方向全体にわたって、主配向軸と長手方向が0°または90°となるため、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性の両立が難しい場合がある。なお、ポリエステルフィルムの主配向軸はマイクロ波方式による分子配向測定装置、例えば王子計測機器株式会社製マイクロ波方式分子配向計MOA-7015等や、光学方式による光学軸測定装置、例えば王子計測機器株式会社製楕円偏光測定装置KOBRA-WPR等で測定することができる。
【0030】
本発明におけるポリエステルを与える、グリコールあるいはその誘導体としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコールなどの脂肪族ジヒドロキシ化合物、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環族ジヒドロキシ化合物、ビスフェノールA、ビスフェノールS、9,9’-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンなどの芳香族ジヒドロキシ化合物、並びに、それらの誘導体が挙げられる。
【0031】
本発明では機械特性に優れる観点からポリエステルを構成するグリコール成分がエチレングリコールを主体とすることが好ましい。ここで、主体とは当該成分がモル基準で70%以上の割合を占めることを指す。より好ましくは、モル基準で80%以上であり、90%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましい。なお、エチレングリコールを主体として重合した場合、ジエチレングリコールが副反応物として生成され、共重合されることがある。
【0032】
また、本発明に用いるポリエステルを与えるジカルボン酸あるいはその誘導体としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホンジカルボン酸、9,9’-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレンなどの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、パラオキシ安息香酸などのオキシカルボン酸、並びに、それらの誘導体を挙げることができる。ジカルボン酸の誘導体としてはたとえばテレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸2-ヒドロキシエチルメチルエステル、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、ダイマー酸ジメチルなどのエステル化物を挙げることができる。
【0033】
本発明では安価で生産性に優れる観点からポリエステルを構成する酸成分がテレフタル酸または2,6-ナフタレンジカルボン酸を主体とすることが好ましい。ここで、主体とは当該成分がモル基準で70%以上の割合を占めることを指す。より好ましくは、モル基準で80%以上であり、90%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましい。
【0034】
本発明におけるポリエステルの組成としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂からなることが最も好ましい。ポリエチレンテレフタレート樹脂とは、グリコール成分がエチレングリコールをモル基準で70%以上占め、かつ酸成分がテレフタル酸成分をモル基準で70%以上占めるポリエステル樹脂である。また、単一樹脂ではなく、他のポリエステル樹脂を混合しても構わない。例えば、ポリブチレンテレフタレートを混合するとヤング率を低下させることができ、ポリエチレンナフタレートを添加するとヤング率は上昇する傾向となる。適宜、必要な特性に応じて混合することができる。ただ、生産性の観点から、本発明におけるポリエステルの組成としては、単一のポリエチレンテレフタレート樹脂からなることが好ましい。
【0035】
本発明におけるポリエステルフィルムは、高温での静的耐屈曲性の観点から、ナフタレンジカルボン酸に由来する成分、フルオレン基を有するジオールに由来する成分、イソソルビドに由来する成分のいずれか1つ以上を主鎖骨格中に含有するポリマー、および/またはイミド基を主鎖骨格中に含有するポリマーを含有することが好ましい。動的耐屈曲性を維持しつつ、上述した凝集非晶成分のガラス転移温度を高くすることができ、凝集非晶成分の緩和開始温度に相当するThgを高くすることが可能となったり、高い透明性や動的耐屈曲性を維持しつつ、上述した凝集した非晶成分のガラス転移温度を高めることができる。同様の観点から前記ポリエステルフィルムはナフタレンジカルボン酸に由来する成分、フルオレン基を有するジオールに由来する成分、イソソルビドに由来する成分のいずれか1つ以上を主鎖骨格中に含有するポリマー、および/またはイミド基を主鎖骨格中に含有するポリマーを合計で5質量%以上含有することが好ましい。
【0036】
本発明におけるポリエステルの組成としては、高温での静的耐屈曲性の観点から、全ジカルボン酸成分および全ジオール成分の和をモル基準で200%としたとき、2,6-ナフタレンジカルボン酸、9,9’-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン、イソソルビドの合計量が10%以上を占めることが好ましく、15%以上を占めることがより好ましい。特に、全ジカルボン酸成分をモル基準で100%としたとき、2,6-ナフタレンジカルボン酸を10%以上含むことが好ましく、その含有量はより好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上、特に好ましくは40%以上である。そのようなポリエステル組成とすることで、動的耐屈曲性を維持しつつ、上述した凝集非晶成分のガラス転移温度を高くすることができ、凝集非晶成分の緩和開始温度に相当するThgを高くすることが可能となる。また、ポリエステルには、ポリエステル以外の樹脂が含まれていても良いが、そのような樹脂としては、ポリエーテルイミドを挙げることができ、ポリエステルフィルム100質量%に対してポリエーテルイミドが5質量%以上30質量%以下含まれることが好ましく、その含有量はより好ましくは7質量%以上20質量%以下である。ポリエーテルイミドを上記範囲で含むことで、高い透明性や動的耐屈曲性を維持しつつ、上述した凝集した非晶成分のガラス転移温度を高めることができる。
【0037】
また、本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムはフレキシブルデバイス用二軸配向ポリエステルフィルムであることが好ましい。二軸配向ポリエステルフィルムは無延伸状態のポリエステルシートまたはフィルムを長手方向及び幅方向の二方向に延伸されて作られるものであり、フィルム面内の長手方向の屈折率と幅方向の屈折率の平均値に対して、フィルム厚み方向の屈折率が小さいものをいう。二軸配向ポリエステルフィルムは、熱安定性、特に寸法安定性や機械的強度が十分であり、平面性も良好である。
【0038】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムは、少なくとも片面に硬化性樹脂を含有する層を有することが好ましい。例えば特開2018-124367号公報の段落〔0013〕~〔0017〕に記載されたようにすれば良い。尚、硬化性樹脂層を設ける場合の製造方法については例えば特開2018-124367号公報の段落〔0025〕~〔0026〕に記載されたようにすれば良い。
【0039】
次に本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムおよびフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムの具体的な製造方法の例について記載する。ここではフィルムを構成する樹脂としてポリエチレンテレフタレートを用いて例示するが、本発明はかかる例に限定して解釈されるものではない。
【0040】
まず、フィルムに用いられる樹脂として、ポリエチレンテレフタレート樹脂を乾燥、予備結晶化させた後、単軸押出機に供給し、溶融押出する。この際、樹脂温度は265~295℃に制御することが好ましい。次いで、フィルターやギヤポンプを通じて、異物の除去、押出量の均整化を各々行い、Tダイより冷却ドラム上にシート状に吐出する。その際、高電圧を掛けた電極を使用して静電気で冷却ドラムと樹脂を密着させる静電印加法、キャスティングドラムと押出したポリマーシート間に水膜を設けるキャスト法、キャスティングドラム温度をポリエステル樹脂のガラス転移点温度~(ガラス転移点温度-20℃)にして押出したポリマーを粘着させる方法、もしくは、これらの方法を複数組み合わせた方法により、シート状ポリマーをキャスティングドラムに密着させ、冷却固化し、未延伸フィルムを得る。これらのキャスト法の中でも、ポリエステルを使用する場合は、生産性や平面性の観点から、静電印加する方法が好ましく使用される。
【0041】
キャスト工程で得られた未延伸フィルムを長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する、あるいは、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸する逐次二軸延伸方法により、または、フィルムの長手方向、幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方法などにより延伸を行うことで得ることができる。
【0042】
本発明では少なくとも下記工程(1)~(3)の工程を順番に実施することによって得ることが重要である。
工程(1)縦延伸方向に2.9倍以上3.3倍以下延伸する工程
工程(2)横延伸方向に3.7倍以上4.5倍以下に延伸する工程
工程(3)220℃以上245℃以下で熱処理弛緩する工程
さらに、それぞれの工程について詳細を下記する。
【0043】
工程(1):縦延伸方向に2.9倍以上3.3倍以下延伸する工程に関して、本発明のより顕著な効果を得るためには、3段階で延伸することが重要であり、更に、1段目、2段目、3段目の延伸倍率は以下の条件を満たすことが重要である。
1段目:≦1.3倍
2段目:≦1.5倍
3段目:2.0倍以上2.3倍以下
工程(2):横延伸方向に3.7倍以上4.5倍以下に延伸する工程に関して本発明の効果を得るためには、3段階で延伸することが重要であり、更に、1段目、2段目、3段目の延伸倍率は以下の条件を満たすことが重要である。
1段目:2.0倍以上2.5倍以下
2段目:≦1.5倍
3段目:≦1.5倍
工程(3):220℃以上245℃以下で熱処理弛緩する工程に関して、本発明のより顕著な効果を得るためには、3段階で熱処理弛緩することが重要であり、更に、1段目、2段目、3段目の熱処理温度および縦方向と横方向の弛緩率は以下の条件を満たすことが重要である。
1段目:150℃以上245℃以下
2段目:220℃以上245℃以下
3段目:100℃以上180℃以下
縦方向弛緩率:1%以上8%以下
横方向弛緩率:1%以上8%以下
また、本発明の効果を得る上で長手方向と幅方向の延伸比(長手/幅延伸比)は、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性の観点から0.70以上0.81以下であることが重要であり、好ましくは0.70以上0.76以下である。長手方向と幅方向延伸倍率の積である面積延伸倍率は、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性の観点から10倍以上14倍以下であることが重要であり、好ましくは12倍以上14倍以下である。
【0044】
また、縦延伸工程における延伸温度は、延伸ムラが生じない程度とすることが好ましく、例えば、長手方向に延伸した後に、幅方向に延伸する逐次二軸延伸方法を採用する場合は、長手方向の予熱温度は樹脂のガラス転移温度-20℃以上ガラス転移温度以下、延伸温度は樹脂のガラス転移温度以上ガラス転移温度+20℃以下とすることが好ましく、幅方向の予熱温度は樹脂のガラス転移温度以上+20℃以下、延伸温度は樹脂のガラス転移温度+10℃以上ガラス転移温度+60℃以下とすることが好ましい。また、延伸は各方向に対して複数回行ってもよい。
【0045】
また、本発明の効果を得る上で、幅方向に延伸後の熱処理工程では、熱処理はオーブン中、加熱したロール上など従来公知の任意の方法により行うことができる。熱処理は複数のゾーンに分けて段階的に昇温・降温する方法が重要であり、温度や弛緩率は上述の通りである。また、熱処理工程で幅方向に1.01倍~1.20倍程度に微延伸する方法も用いることができる。また、熱処理時間は特性を悪化させない範囲において任意とすることができ、好ましくは1~60秒間、より好ましくは5~30秒間行うのがよい。また、3段目の熱処理時間を3~60秒間行うことがよい。
【0046】
また、本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムは、硬化性樹脂を含有する層との密着性の観点から、少なくとも片面に10nm以上500nm以下であり、表面自由エネルギーが38mN/m以上である易接着樹脂層を積層することが好ましいが、該易接着樹脂層の形成方法としては、易接着樹脂をポリエステルフィルム表面に被覆(複合溶融押出法、ホットメルトコート法、水以外の溶媒、水溶性および/または水分散性樹脂からのインライン、オフラインコート法など)する方法や、同様組成あるいはそのブレンド品の表面積層法などが挙げられる。なかでも、配向結晶化が完了する前のポリエステルフィルムの一方の面に被膜塗剤を塗布し、少なくとも一方向に延伸し、熱処理して、配向結晶化を完了させるインラインコーティング法が均一な被膜形成や工業上好ましい。また、コーティングにより易接着樹脂層を設ける場合、易接着樹脂層を付与する樹脂としては、特に限定されるものではないが、たとえば、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、オレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、ビニル系樹脂、塩素系樹脂、スチレン系樹脂、各種グラフト系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコーン系樹脂などを使用することができ、これらの樹脂の混合物を使用することもできる。密着性の観点からポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、またはウレタン系樹脂を用いるのが好ましい。ポリエステル樹脂を水系塗液として用いる場合には、水溶性あるいは水分散性のポリエステル樹脂が用いられるが、このような水溶性化あるいは水分散化のためには、スルホン酸塩基を含む化合物や、カルボン酸塩基を含む化合物を共重合させることが好ましい。またアクリル樹脂を水性塗液として用いる場合には、水に溶解あるいは分散された状態にする必要があり、乳化剤として界面活性剤(例えば、ポリエーテル系化合物などが挙げられるが、限定されるものではない。)を使用する場合がある。
【0047】
また、本発明に用いられる易接着樹脂層には、さらに接着性を向上させるために、樹脂に各種の架橋剤を併用することができる。架橋剤樹脂としては、メラミン系、エポキシ系、オキサゾリン系樹脂が一般に用いられる。本発明の樹脂層に含有される粒子としては、無機系粒子や有機系粒子を挙げることができるが、易滑性や耐ブロッキング性が向上するので、無機粒子がより好ましい。この無機粒子としては、シリカ、アルミナ、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、チタンなどを用いることができる。
【0048】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムは、本発明の特性を損なわない範囲で、アニール処理やエージング処理などの追加の熱処理を施してもよい。アニール処理やエージング処理を施すことで、ポリエステルフィルムの熱収縮特性を制御でき、画像表示装置部材として組み込む際の熱加工工程での他部材との熱収縮特性の違いによる不具合が抑制されることがある。
【0049】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムは、画像表示装置に搭載することができる。本発明で言う画像表示装置とは、表示装置を全般に指すものであり、画像表示装置の種類としては、有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置、無機エレクトロルミネッセンス画像表示装置、マイクロLED画像表示装置、ミニLED画像表示装置、FED画像表示装置など挙げられる。本発明の効果を鑑みれば有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置用保護フィルムとして特に好適に使用することができる。有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置用保護フィルムとして適用することで、表示装置のフレキシブル性を損なうことなく、表示装置表面或いは有機エレクトロルミネッセンス画像表示装置内部に搭載したサポートフィルムとして静的耐屈曲性および動的耐屈曲性に優れる。その他のディスプレイ用途としては、タッチパネル基材や飛散防止用フィルムなどにも用いることができる。
【0050】
また、光学フィルムのみならず、本発明の特性を利用した各種保護フィルム、包装用途といった工業材料用の保護フィルムとして用いることも好ましい態様として挙げられる。
【0051】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムを用いた画像表示装置は、屈曲径1~10mmの折り曲げ可能なフォルダブル画像表示装置であることが好ましい。屈曲径のより好ましい範囲は上限として8mm以下であり、さらに好ましくは6mm以下、さらにより好ましくは5mm以下である。屈曲径が10mm以下であれば、折りたたんだ状態での薄型化が可能となる。屈曲径は小さいほど良いと言えるが、屈曲径が小さいほど折り跡がつきやすくなる。屈曲径は0.1mm以上が好ましいが、1mm以上であってもよい。屈曲径が1mmであっても、携帯時には実用的に十分な薄型化を達成することができる。また、フォルダブル画像表示装置は3つ折り、4つ折りであってもよく、さらに、ローラブルといわれる巻き取り型であってもよく、これらいずれも本発明でいうフォルダブル画像表示装置の範囲に入るものとする。
【0052】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムを用いたフォルダブル画像表示装置は、屈曲方向と、ポリエステルフィルム面内の主配向軸との成す角度が1°以上89°以下であることが好ましい。ポリエステルフィルムの主配向軸と画像表示装置の屈曲方向が上記範囲であることで、フォルダブル画像表示装置の静的耐屈曲性および動的耐屈曲性を高い性能に維持でき、さらには量産性や経済性を良好にできる点で好ましい。屈曲方向と、ポリエステルフィルム面内の主配向軸との成す角度は、下限としてより好ましくは20°以上、さらに好ましくは30°以上、さらにより好ましくは40°以上、特に好ましくは50°以上であり、上限としてより好ましくは80°以下、さらに好ましくは75°以下、さらにより好ましくは70°以下である。
【0053】
画像表示装置は、外部から表示装置の内部に入射する光による視認性の低下及びコントラスト比の低下等を防止するためにカバー部材の下部に偏光子が配置される。本発明の画像表示装置における偏光子は、光学フィルム(λ/4位相差フィルム)とともに用いる円偏光板として、有機電界発光表示装置等に適用することにより、可視光の全波長において、有機電界発光素子の金属電極などの鏡面反射を遮蔽する効果を発現し、観察時の映り込みを防止することができるとともに、黒色表現を向上させることができる。円偏光板は、透過することで直線偏光へ変換する偏光子と、直線偏光が透過することで円偏光へ変換する位相差板で構成される。
【0054】
偏光子は当該技術分野において使用される任意の偏光子またはコーティングされた偏光フィルムを適宜選択して使用することができる。代表的な偏光子としては、ポリビニルアルコールフィルム等にヨウ素等の二色性材料を染着させたものを挙げることができるが、これに限定されるものではなく、公知及び今後開発され得る偏光子を適宜選択して用いることができる。
【0055】
位相差板は当該技術分野において使用される任意の位相差板を適宜選択して使用することができる。位相差板としてはプラスチックフィルムを特定方向に延伸処理されたものを用いることができ、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレートなどを挙げることができる。なお、位相差板は、一層の複屈折フィルムで形成することも可能であるが、位相差の波長依存性を小さくし、全可視光波長領域にわたって機能するように複数の複屈折フィルムを積層して形成してもよい。
【0056】
また、偏光子と位相差板の貼り合わせは、光学的異方性の無いアクリル系透明粘着剤や接着剤を用いて行うことができる。
【0057】
また、本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムに、粘着層を設けることができる。粘着層は、層間の密着性又は他の部材(例えば、偏光板)との密着性を向上させる。粘着層の位置は、制限されない。粘着層の成分としては、例えば粘着剤及び接着剤があげられる。粘着剤としては、例えば、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、およびシリコーン系粘着剤が挙げられる。アクリル系粘着剤は、(メタ)アクリル系単量体の重合体を含む粘着剤であり、粘着層が粘着剤を含む場合、粘着層は、粘着付与剤を含んでいてもよい。接着強度と成型後の剥離性の観点から、粘着剤は、アクリル系粘着剤であることが好ましい。接着剤としては、例えば、ウレタン樹脂系接着剤、ポリエステル系接着剤、アクリル樹脂系接着剤、エチレン酢酸ビニル樹脂系接着剤、ポリビニルアルコール系接着剤、ポリアミド系接着剤およびシリコーン系接着剤が挙げられる。粘着層の厚さは、制限されない。粘着力及びハンドリング性の観点から、粘着層の厚さは、5μm以上100μm以下であることが好ましい。
【0058】
粘着層の形成方法は、制限されない。例えば、粘着層を含む保護フィルムを用いて形成される。例えば、粘着層を形成する成分を含む粘着層形成用組成物を用いて形成されてもよい。ポリエステルフィルムの上に粘着層形成用組成物を塗布し、必要に応じて粘着層形成用組成物を乾燥させることで、粘着層を形成できる。さらに必要に応じて、粘着層を塗布後、室温以上100℃以下で1日以上養生して、粘着層を形成できる。なお、粘着層中に各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、顔料、染料、有機または無機粒子、帯電防止剤、核剤などを添加してもよい。
【0059】
なお、外光反射防止効果を向上するため、円偏光板の表面に反射防止フィルムを設けることができる。例えば、円偏光板の表面に多層膜を直接形成することの他、反射防止フィルムを貼着することも可能である。また、モスアイ構造のような微細構造のものを設けてもよいし、さらに適切なアンチグレア処理を施してもよい。
【0060】
画像表示装置表示発光素子として、有機エレクトロルミネッセンス素子を例とした構成は、特に限定されないが、発光素子基板、薄膜トランジスタ、有機電界発光素子及び封止層を含み、有機エレクトロルミネッセンス素子は、陽極、発光層及び陰極を含む。例えば、下記(i)~(vi)の層構造を有していてもよい。また、下記の発光層は、青色発光層、緑色発光層及び赤色発光層からなるものでもよい。なお、前記発光素子基板は、後述するフィルムと同一であってもよい。
【0061】
以下に、有機電界発光素子の構成の代表例を示す。
(i)陽極/正孔注入輸送層/発光層/電子注入輸送層/陰極
(ii)陽極/正孔注入輸送層/発光層/正孔阻止層/電子注入輸送層/陰極
(iii)陽極/正孔注入輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子注入輸送層/陰極
(iv)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(v)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極
(vi)陽極/正孔注入層/正孔輸送層/電子阻止層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/陰極
発光素子基板は、画像表示用発光素子の多様なエレメントを支持するための基材であり、絶縁物質で形成することができる。例えば、発光素子基板は、ガラス基板またはプラスチック基板であってよい。例えば、プラスチック基板は、ポリエステル、ポリイミド、ポリエーテルスルホン及びポリカーボネートの中から選択され得るが、これに限定されない。
【0062】
本発明での画像表示装置は、画像表示用発光素子の下部にサポートフィルムとして、フィルムを支持部材として配置してもよく、本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムをサポートフィルムとして用いることが好ましい。柔軟性を有するガラス基板またはプラスチック基板は、薄く、剛性が弱くて、多様なエレメントが配置されると垂れが発生し得る。サポートフィルムに用いられるフィルムは、画像表示用発光素子が垂れないように支持し、湿気、熱、衝撃等から画像表示用発光素子を保護する。画像表示用発光素子とサポートフィルムを合着するために、画像表示用発光素子とサポートフィルムとの間に接着層を配置できる。接着層は、光透明接着剤または減圧接着剤であってよいが、これに限定されない。
【実施例0063】
以下、実施例に沿って本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。なお、諸特性は以下の方法により測定した。
【0064】
(1)アンチモン原子、リン原子含有量
ポリエステルの試料ペレットを溶融プレス機で円柱状に成型し、理学電機(株)製蛍光X線分析装置(型番:3270)を用いて、蛍光X線強度を求め、あらかじめ作成しておいた検量線よりアンチモン原子含有量、リン原子含有量を質量基準で求めた。
【0065】
(2)固有粘度
オルトクロロフェノール10mLに、測定試料を100℃で溶解させ(溶液濃度C(測定試料質量/溶液体積)=0.08g/mL)、粘度計((株)離合社製VMR-052UPC・F10)を用いてその溶液の25℃での粘度を測定した。また、同様に溶媒の粘度を測定した。得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、下記式(α)により、[η]を算出し、得られた値をもって固有粘度とした。
ηsp/C=[η]+K[η]・C (α)
(ここで、ηsp=(溶液粘度/溶媒粘度)-1、Kはハギンス定数(0.343とする)である。)
なお、測定試料を溶解させた溶液に無機粒子などの不溶物がある場合は、以下の(i)~(iv)の方法を用いて測定を行った。
(i)オルトクロロフェノール10mLに測定試料を溶解させ、溶液濃度が0.08g/mLよりも濃い溶液を作成する。ここで、オルトクロロフェノールに供した測定試料の質量を測定試料質量とする。
(ii)次に、不溶物を含む溶液を濾過し、不溶物の質量測定と、濾過後の濾液の体積測定を行う。
(iii)濾過後の濾液にオルトクロロフェノールを追加して、(測定試料質量(g)-不溶物の質量(g))/(濾過後の濾液の体積(mL)+追加したオルトクロロフェノールの体積(mL))が、0.08g/mLとなるように調整する。
(例えば、測定試料質量1.00g/溶液体積10mLの濃厚溶液を作成したときに、該溶液を濾過したときの不溶物の質量が0.02g、濾過後の濾液の体積が9.9mLであった場合は、オルトクロロフェノールを5.1mL追加する調整を実施する。((1.00g-0.20g)/(9.9mL+0.1mL)=0.08g/mL))
(iv)粘度計を用いて(iii)で得られた溶液の25℃での粘度を測定し、得られた溶液粘度、溶媒粘度を用いて、上記式(α)により、[η]を算出し、得られた値をもって固有粘度とする。
【0066】
(3)カルボキシ末端基量
オルトクレゾール1000mLに純水60mLを加え、オルトクレゾール調整液を調合した。オルトクレゾール調整液10mLに、試料0.5gを100℃で溶解させ、25℃に冷却後、さらにジクロロメタン3mLを加えた溶液を測定試料とし、滴定装置COM-550(平沼産業(株)製)で0.02NのKOH/メタノール溶液によって滴定し、COOH末端基量(等量/トン)を測定した。なお、試料を溶解させた溶液に無機粒子などの不溶物がある場合は、溶液を濾過して不溶物の質量測定を行い、不溶物の質量を試料質量から差し引いた値を測定試料質量とする補正を実施した。
【0067】
(4)フィルム厚み
フィルムの全体厚みを測定する際は、ダイヤルゲージ(株式会社ミツトヨ社製○○型番)を用いて、フィルムから5cm正方形に切り出した試料から無作為に抽出した5ヶ所の厚みを測定し、平均値を求めた。
【0068】
(5)易接着樹脂層の厚み
透過型電子顕微鏡(日立製作所社製H-7100型)を用いて断面を観察することにより、フィルム上の易接着樹脂層の厚みを測定した。易接着樹脂層の厚みは、透過型電子顕微鏡により10万倍の倍率で撮影した画像から読み取った。合計で10点の易接着樹脂層の厚みを測定し、平均値を用いた。尚、観察倍率は厚みが測定可能であれば10万倍以外でもよい。
【0069】
(6)全光線透過率
スガ試験機株式会社製直読ヘイズコンピューターを用い、JIS K7361-1(1997年)に基づいて測定した。なお、測定はそれぞれ3回ずつ行い、その平均値を採用した。
【0070】
(7)主配向軸
フィルムの任意の点において100mm×100mmの寸法でサンプルを切り出し、KSシステムズ製(現王子計測機器社)のマイクロ波分子配向計MOA-7015(周波数4GHz)を用いた。
【0071】
(8)長手方向、幅方向
本発明において、フィルム製造時の流れ方向を長手方向、長手方向と直交方向を幅方向とする。長手方向、幅方向が不明である場合は、任意方向を0°基準として、そこから15°刻みで0~360°の屈折率を測定し、最も屈折率が低い方向を長手方向、その直交方向を幅方向とした。尚、屈折率はナトリウムD線(波長589nm)を光源として、アッベ屈折計を用いて測定する。
【0072】
(9)フィルム屈折率および面配向係数
ナトリウムD線(波長589nm)を光源とし、マウント液としてヨウ化メチレンを用い、25℃にてアッベ屈折計4T(アタゴ(株)製)を用いてフィルム長手方向、幅方向および厚み方向の屈折率(各々、nMD、nTD、nZD)をJIS K7142(2014年)A法に準拠して測定した。テストピースの屈折率は、1.74のものを用いた。求めた屈折率から下記の式(1)により、面配向係数(fn)を算出した。
fn=(nMD+nTD)/2-nZD ・・・(1)
(10)フィルムを構成する樹脂の組成
フィルムをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、H-NMRおよび13C-NMRを用いて各モノマー残基や副生ジエチレングリコールについて含有量を定量する。
【0073】
(11)原料樹脂のガラス転移温度
(株)リガク社製Thermo plus ECO2シリーズ DSC vestaを、データ解析には同社製Thermo plus ECO2システムを用いて、JIS K7121(1987年)に準拠して測定、および解析を行った。具体的にはサンプル5mgを、25℃から20℃/分で300℃まで昇温した際のDSC曲線より得られた示差走査熱量測定チャートのガラス転移の階段状の変化部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状の変化部分の曲線とが交わる点から求めた。
【0074】
(12)フィルムの30℃から130℃の間で観測されるガラス転移温度における比熱差ΔCp
TA Instruments社製温度変調式示差走査熱量計を用い、試料5mgを窒素雰囲気下、0℃から200℃まで2℃/minの昇温速度、温度変調振幅±1℃、温度変調周期60秒で測定した。測定によって得られた30℃から130℃の範囲の可逆曲線においてガラス転移温度での比熱差ΔCp(単位:J/(g℃))を算出した。具体的には、可逆曲線より得られたJIS K7121(1987年)に準拠した示差走査熱量測定チャートのガラス転移の階段状の変化部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線とガラス転移の階段状の変化部分の曲線とが交わる点からガラス転移温度を求め、前記ガラス転移温度における上記各ベースラインを延長した2つの直線の距離から求めた。なお、ΔCpの値は3回測定の平均値とした。
【0075】
(13)フィルムの不可逆曲線で30℃から130℃の間で観測される吸熱量ΔHg、吸熱開始温度Thg
TA Instruments社製温度変調式示差走査熱量計を用い、試料5mgを窒素雰囲気下、0℃から200℃まで2℃/minの昇温速度、温度変調振幅±1℃、温度変調周期60秒で測定した。測定によって得られた30℃から130℃の範囲の不可逆曲線において観測される吸熱ピークのピーク面積から吸熱量ΔHg(単位:J/g)を算出した。吸熱開始温度Thgは、吸熱ピークの低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、吸熱ピークの低温側の曲線にこう配が最大になる点で引いた接線の交点の温度とした。なお、ΔHgおよびThgの値は3回測定の平均値とした。
【0076】
(14)伸度5%応力(F-5値)
長さ150mm、幅10mmの短冊状のサンプルをJIS Z1702(1994年)に規定された方法に従って、インストロンタイプの引張試験機を用いて測定した。測定は下記の条件で行い、試料数10にて、伸度5%における応力を測定して、平均値として求めた。
測定装置:オリエンテック(株)製フィルム強伸度自動測定装置“テンシロン”(登録商標)AMF/RTA-100
試料サイズ:幅10mm×試長間50mm
引張り速度:300mm/分
測定環境:温度23℃、湿度65%RH。
【0077】
(15)F0m、F30m
F0mは(14)に記載の方法で得られた伸度5%に到達した時点の応力(単位:MPa)とした。また、F30mは伸度5%到達後にその状態を30分間保持した後の応力をF30m(単位:MPa)とした。
【0078】
(16)曲げ剛性
東洋精機製作所株式会社製ループスティフネステスターを用いて、サンプルを測定方向に長さ100mm、幅5mmに切り出し、ループ周を50mm、押しつぶし速度3.5mm/秒、押しつぶし距離は5mmとして測定し、押しつぶし始めてから変位量10mmとなった時点の荷重を曲げ剛性(単位:mN)とした。次いで長手方向、幅方向共に5回ずつ測定を行い、各測定方向につき、その平均値を曲げ剛性とした。
【0079】
(17)静的屈曲試験浮き上がり高さ
U字伸縮試験器(ユアサシステム機器製DLDMLH-FS)を用いて、屈曲方向を長さ方向として、長さ40mm×幅25mmに切り出したフィルムサンプルを、チルトクランプが水平状態にて、ストローク方向がサンプル長さ方向になるようにチルトクランプ端部に貼り付け、面間距離1.5mmにてフィルムの中央が屈曲する状態で、最も屈曲した状態で24時間静置する。24時間経過後、速やかに屈曲状態を開放して装置から取り出し、屈曲した内側が下にして荷重をかけずに平らな床に設置する。屈曲状態を開放してから1分後に、中央の屈曲部の地面から浮き上がった高さを読み取った。本測定を5回繰り返し、それぞれの平均値を算出し静的屈曲試験浮き上がり高さ(単位:mm)とした。なお、切り出したフィルムサンプルの長さ方向が平行な向きを、その方向の測定結果とした。
【0080】
長手方向、幅方向の静的屈曲試験浮き上がり高さを測定した。浮き上がり高さが小さいものが優れている。長手方向と幅方向の静的屈曲試験浮き上がり高さのいずれか一方が5.0mmとなるものはフレキシブルデバイスとして使用した際に、シワ等が入り静的耐屈曲性に劣る。
【0081】
(18)MIT屈曲破断回数
フィルムサンプルを110mm(試験方向)×幅15mmの矩形に切り出して、MIT耐折度試験機(マイズ社製試験機No.702)を用い、JIS P8115(2001年)に準じて、当該フィルムサンプルを対象に、荷重1,000g、屈曲角度左右135°(R:+135°、L:-135°)、屈曲速度175回/分、チャック先端R:0.38mmで屈曲試験を行い、フィルムサンプルが破断されたときの屈曲回数を屈曲破断到達回数として読み取った。本測定を長手方向、幅方向共に3回繰り返し、その平均値の1000未満の回数を切り捨てた値を採用した。
【0082】
長手方向、幅方向のMIT屈曲破断回数を測定した。MIT屈曲破断回数が大きいものが優れている。長手方向と幅方向のMIT屈曲破断回数のいずれか一方が30,000回未満であるものはフレキシブルデバイスとして使用した際に、亀裂やスジ等が入り動的耐屈曲性に劣る。
【0083】
(19)最大収縮応力
フィルムサンプルを50mm(試験方向)×幅4mmの矩形に切り出して、セイコーインスルメンツ(株)製 熱分析システムEXSTAR-6000およびTMA/SS6000を用い、25℃から200℃の温度範囲、昇温速度10℃/min、ホールド5分、測長20mm、引張定長条件でTMA(熱機械分析)特性を測定した。なお、測長時の荷重は19.6mNに設定した。最大収縮応力は、40℃から110℃の範囲における収縮応力の最大値(単位:kPa)とした。
【0084】
(20)高温静的屈曲試験浮き上がり高さ
U字伸縮環境試験器(ユアサシステム機器製CL09-type-FSC90)を用いて、屈曲方向を長さ方向として、長さ40mm×幅25mmに切り出した光学積層体サンプルを、フィルムサンプルが屈曲内側となるように、水平な、ストローク方向がサンプル長さ方向になるようにチルトクランプ端部に貼り付け、面間距離3.0mmにて光学積層体の中央が屈曲する状態で、最も屈曲した状態に固定して速やかに65℃30%RHに制御された恒温恒湿器に入れ2時間静置する。2時間経過後、速やかに恒温恒湿器から取り出しチルトクランプの屈曲状態を開放して、光学積層体サンプルを取り外し、屈曲した内側を下にして荷重をかけずに平らな床に設置する。屈曲状態を開放してから1分後に、中央の屈曲部の地面から浮き上がった高さを読み取った。本測定を5回繰り返し、それぞれの平均値を算出し高温静的屈曲試験浮き上がり高さ(単位:mm)とした。なお、切り出した光学積層体サンプルの長さ方向が平行な向きを、その方向の測定結果とした。
【0085】
長手方向、幅方向の高温静的屈曲試験浮き上がり高さを測定した。高温静的屈曲試験浮き上がり高さが小さいものが最も優れている。長手方向と幅方向の高温静的屈曲試験浮き上がり高さのいずれか一方が7.0mm以上であるものはフレキシブルデバイスとして使用した際に、シワ等が入り高温の静的耐屈曲性に劣る。
【0086】
なお、光学積層体として、各実施例のフィルムサンプル/粘着剤層(25μm)/ガラス板(25μm)をこの順に含む。
【0087】
粘着剤層は、酢酸エチル80質量部、アクリル酸n-ブチル70質量部、アクリル酸メチル20質量部、アクリル酸1.0質量部の混合溶液を仕込み、アセトン200重量部、ラジカル重合開始剤(2,2’-アゾビスイソブチロニトリル)0.2質量部をアセトン10質量部に溶かした溶液を全量添加し、窒素下55℃で12時間反応させ、最後に酢酸エチルを添加して、アクリル樹脂の濃度が20質量%となるように調節した。得られたアクリル樹脂は、重量平均分子量Mwが15万、Mw/Mnが5.0であった。得られたアクリル樹脂に、架橋剤(東ソー株式会社製「コロネートL」)0.3質量部、シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製「X-12-981」)0.5質量部を混合し、全体固形分濃度が10質量%になるように酢酸エチルを添加して、粘着剤組成物を得た。
【0088】
得られた粘着剤組成物の塗布溶液をフィルムサンプルに、アプリケーターを利用して乾燥後の厚みが25μmになるように塗布した。塗布層を100℃で1分間乾燥して、粘着剤層を備えるフィルムを得た。その後、粘着剤層の露出面上に、離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製、商品名「”セラピール”(登録商標)MDA」、厚さ:38μm)で保護した。その後、温度65℃、相対湿度50%RHの条件で7日間養生させ、フィルムサンプル/粘着剤層/保護フィルムの積層体を得た。
【0089】
積層体から保護フィルムを剥離した粘着剤付きフィルムサンプルとガラス板(25μm、商品名:CG3、Corning社製)の各貼合面にコロナ処理を施し、貼合して、光学積層体を得た。
【0090】
(ポリエステルの製造)
製膜に供したポリエステル樹脂は以下のように準備した。
【0091】
(ポリエステルA)
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート105質量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86質量部とエチレングリコール37質量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。こうして得られた255℃のエステル化反応物105質量部(PET100質量部相当)を重合装置に移送し、酢酸マグネシウム4水和物0.048質量部のエチレングリコール溶液、三酸化二アンチモン0.013質量部のエチレングリコールスラリーを添加した。次いで、リン酸(85%水溶液)0.081質量部のエチレングリコール溶液を添加した。
【0092】
その後、重合装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させた。固有粘度0.65dL/g相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水中にストランド状に吐出、チップ状にカッティングした。
【0093】
得られたポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が98モル%、ジエチレングリコール成分が2モル%であるポリエチレンテレフタレート樹脂であり、固有粘度は0.65dL/g、カルボキシ末端基量は35eq/t、アンチモン原子の含有量は110ppm、リン原子の含有量は15ppmであった。
【0094】
(ポリエステルB)
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート105質量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸81質量部、イソフタル酸5質量部とエチレングリコール38質量部(テレフタル酸に対し1.18倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。こうして得られた255℃のエステル化反応物105質量部(PET100質量部相当)を重合装置に移送し、酢酸マグネシウム4水和物0.048質量部のエチレングリコール溶液、三酸化二アンチモン0.008質量部のエチレングリコールスラリーを添加した。次いで、リン酸(85%水溶液)0.014質量部のエチレングリコール溶液を添加した。
【0095】
その後、重合装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させた。固有粘度0.55dL/g相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水中にストランド状に吐出、チップ状にカッティングした。
【0096】
得られたチップ状のポリエステルを、固相重合装置内に移送し、220℃、真空度133Pa、6時間の固相重合を行った。
【0097】
得られたポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が97モル%、イソフタル酸成分が3モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が98モル%、ジエチレングリコール成分が2モル%であるポリエチレンテレフタレート樹脂であり、固有粘度は0.75dL/g、カルボキシ末端基量は10eq/t、アンチモン原子の含有量は65ppm、リン原子の含有量は25ppmであった。
【0098】
(ポリエステルC)
255℃にて溶解したビスヒドロキシエチルテレフタレート105質量部が仕込まれたエステル化反応器に、テレフタル酸86質量部とエチレングリコール37質量部(テレフタル酸に対し1.15倍モル)からなるスラリーを徐々に添加し、エステル化反応を進行させた。反応系内の温度は245~255℃になるようにコントロールし、反応率が95%に到達した段階でエステル化反応を終了とした。こうして得られた255℃のエステル化反応物105質量部(PET100質量部相当)を重合装置に移送し、酢酸マグネシウム4水和物0.060質量部のエチレングリコール溶液、三酸化二アンチモン0.019質量部のエチレングリコールスラリーを添加した。次いで、リン酸トリメチル0.013質量部のエチレングリコール溶液を添加した。
【0099】
その後、重合装置内温度を徐々に290℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させた。固有粘度0.62dL/g相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水中にストランド状に吐出、チップ状にカッティングした。
【0100】
得られたポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が98モル%、ジエチレングリコール成分が2モル%であるポリエチレンテレフタレート樹脂であり、固有粘度は0.62dL/g、カルボキシ末端基量は35eq/t、アンチモン原子の含有量は160ppm、リン原子の含有量は20ppmであった。
【0101】
(ポリエステルD)
ナフタレンジカルボン酸ジメチル100質量部、エチレングリコール48質量部を反応容器に仕込み180℃で溶解した後、攪拌しながら酢酸マグネシウム4水和物0.048質量部のエチレングリコール溶液、三酸化二アンチモン0.013質量部のエチレングリコールスラリーを添加し、エステル交換反応を開始した。3.5時間かけてメタノールを留出させながら240℃まで昇温し、エステル交換反応を終了した。リン酸(85%水溶液)0.081質量部のエチレングリコール溶液を添加し、余剰のエチレングリコールを留去させた。
【0102】
その後、重合装置内温度を徐々に300℃まで昇温しながら、重合装置内圧力を常圧から133Pa以下まで徐々に減圧してエチレングリコールを留出させた。固有粘度0.65dL/g相当の溶融粘度に到達した時点で、反応を終了とし、反応系内を窒素ガスにて常圧にし、重合装置下部より冷水中にストランド状に吐出、チップ状にカッティングした。
【0103】
得られたポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が98モル%、ジエチレングリコール成分が2モル%であるポリエチレンナフタレート樹脂であり、固有粘度は0.65dL/g、カルボキシ末端基量は32eq/t、アンチモン原子の含有量は110ppm、リン原子の含有量は15ppmであった。
【0104】
(ポリエステルE)
温度320℃に加熱されたニーディングパドル混練部を3箇所設けた同方向回転タイプのベント式2軸混練押出機(日本製鋼所製、スクリュー直径30mm、スクリュー長さ/スクリュー直径=45.5)に、上記方法で得られたポリエステルBとSABICイノベーティブプラスチック社製のポリエーテルイミド(PEI)“Ultem”(登録商標)1010-1000のペレットを供給して、剪断速度100sec-1、滞留時間1分にて溶融押出し、冷水中にストランド状に吐出、チップ状にカッティングした。
【0105】
得られたポリエステル樹脂は、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が97モル%、イソフタル酸成分が3モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が98モル%、ジエチレングリコール成分が2モル%であるポリエチレンテレフタレート樹脂50質量部とPEI樹脂が50質量部であり、固有粘度は0.70dL/g、カルボキシ末端基量は20eq/t、アンチモン原子の含有量は32ppm、リン原子の含有量は12ppmであった。
【0106】
(易接着樹脂Pの調合)
フィルムの表面に積層する易接着樹脂層は以下のように準備した。
【0107】
樹脂溶液(a):酸成分であるテレフタル酸(88モル%)、5-ナトリウムスルホイソフタル酸(12モル%)、ジオール成分であるエチレングリコール(100モル%)の酸成分とジオール成分からなるポリエステル樹脂の水溶性塗液を70質量部と、酸成分であるテレフタル酸(50モル%)、イソフタル酸(49モル%)、5-ナトリウムスルホイソフタル酸(1モル%)とジオール成分であるエチレングリコール(55モル%)、ネオペンチルグリコール(44モル%)、ポリエチレングリコール(分子量:4000)(1モル%)の酸性分とジオール成分からなるポリエステル樹脂の水分散体30質量部を混合した溶液。
架橋剤(b):メチロール基型メラミン架橋剤
架橋剤(c):オキサゾリン基含有架橋剤
粒子(d):粒子径150nmのコロダイルシリカ粒子の水分散体
粒子(e):粒子径300nmのコロダイルシリカ粒子の水分散体
フッ素系界面活性剤(f):DIC(株)製メガファックF-444
これらを固形分質量比で(a)/(b)/(c)/(d)/(e)/(f)=47質量部
/19質量部/20質量部/4.9質量部/0.7質量部/0.1質量部で混合した。
屈折率は1.57。
【0108】
(実施例1~9、比較例1~3)
表に記載のとおり、樹脂種を表のポリエステルを用いて、160℃で3時間真空乾燥して押出機に投入した後、表に記載の押出機温度で溶融させて、Tダイより表に記載の温度に制御した冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させ未延伸シートを得た。その後、20℃に温度制御した冷却ロールで急冷し、続いて、表に記載の延伸温度、延伸倍率にて長手方向に延伸し、その後一旦冷却した。次いて、この一軸延伸フィルムの両面にコロナ放電処理を施し、フィルムの濡れ張力を55mN/mとし、そのフィルムの両面に易接着樹脂Pを塗布し、その後、表に記載の延伸温度、延伸倍率にて幅方向に延伸し、テンター内にて表に記載の熱処理温度にて熱処理および長手方向および/または幅方向に弛緩し、熱処理は1段目を5秒間、2段目を5秒間、3段目を10秒間で通過させ、表に記載の厚みのフィルムを得た。得られたフィルムの物性は表に示したとおりである。なお、易接着樹脂層厚みは110nmであった。
【0109】
実施例1~9については、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性ともに優れており、特に実施例7および8については、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性ともに最も優れた結果であった。また、高温の静的耐屈曲性にも優れた結果であった。
【0110】
一方、比較例1~3については緩和非晶度Aが本発明の範囲外であり、静的耐屈曲性が劣るため、フレキシブルデバイス用途には適さない結果であった。
【0111】
(比較例4、5)
表に記載のとおり、樹脂種を表のポリエステルを用いて、160℃で3時間真空乾燥して押出機に投入した後、表に記載の押出機温度で溶融させて、Tダイより表に記載の温度に制御した冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させ未延伸シートを得た。その後、20℃に温度制御した冷却ロールで急冷し、続いて、表に記載の延伸温度、延伸倍率にて長手方向に延伸し、その後一旦冷却した。次いて、この一軸延伸フィルムの両面にコロナ放電処理を施し、フィルムの濡れ張力を55mN/mとし、そのフィルムの両面に易接着樹脂Pを塗布し、その後、表に記載の延伸温度、延伸倍率にて幅方向に延伸し、テンター内にて表に記載の熱処理温度にて熱処理および長手方向および/または幅方向に弛緩した。次いで、得られたフィルムロールにオフラインで180℃30秒間アニーリング処理を施し、熱処理は1段目を5秒間、2段目を5秒間、3段目を10秒間で通過させ、表に記載の厚みのフィルムを得た。得られたフィルムの物性は表~5に示したとおりである。なお、易接着樹脂層厚みは110nmであった。
【0112】
比較例4については緩和非晶度Aが本発明の範囲外のため、静的耐屈曲性に劣っており、フレキシブルデバイス用途には適さない結果であった。比較例5については、長手方向の伸度5%応力での30分間保持したときに、測定途中で破断したため、F30mおよびF30m/F0mは測定出来ない結果であり、また静的耐屈曲性および動的耐屈曲性いずれも劣る結果であり、フレキシブルデバイス用途には適さない結果であった。
【0113】
(実施例10~14)
表に記載のとおり、樹脂種を表のポリエステルを用いて、実施例1と同様にフィルムを得て、評価した。物性は表に示したとおりである。なお、易接着樹脂層厚みは110nmであった。
【0114】
実施例10については、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性ともに優れており、特に静的耐屈曲性にて最も優れた結果であった。また、高温の静的耐屈曲性にも優れた結果であった。
【0115】
実施例11~14については、静的耐屈曲性、高温の静的耐屈曲性および動的耐屈曲性いずれも優れており、特に実施例11については、静的耐屈曲性、高温の静的耐屈曲性、動的耐屈曲性ともに最も優れた結果であった。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
【表3】
【0119】
【表4】
【0120】
【表5】
【0121】
【表6】
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明のフレキシブルデバイス用ポリエステルフィルムおよび該フィルムを用いた画像表示装置は、静的耐屈曲性および動的耐屈曲性が良好であり、例えば有機エレクトロルミネッセンスを発光素子とする画像表示装置の表面保護フィルムや背面側支持用フィルムとして特に好適に使用可能である。
図1