(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112805
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】免疫療法に対するタンパク質又はタンパク質のフラグメントの有用性を予測するための方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/68 20060101AFI20240814BHJP
A61P 37/04 20060101ALI20240814BHJP
A61K 39/00 20060101ALI20240814BHJP
C12Q 1/68 20180101ALI20240814BHJP
【FI】
G01N33/68 ZNA
A61P37/04
A61K39/00 H
C12Q1/68
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024069742
(22)【出願日】2024-04-23
(62)【分割の表示】P 2018559794の分割
【原出願日】2017-05-10
(31)【優先権主張番号】PCT/EP2016/060897
(32)【優先日】2016-05-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】519258736
【氏名又は名称】バイオエヌテック エスエー
(71)【出願人】
【識別番号】515123258
【氏名又は名称】トロン- トランスラショナル オンコロジー アン デア ウニヴェリジテーツメディツィン デア ヨハネス グーテンベルク-ウニヴェルシテート マインツ ゲマインニューツィゲ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】TRON- Translationale Onkologie an der Universitaetsmedizin der Johannes Gutenberg-Universitaet Mainz gemeinnuetzige GmbH
【住所又は居所原語表記】Freiligrathstr. 12 55131 Mainz Germany
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】フォルメヘル, マティアス
(72)【発明者】
【氏名】サヒン, ウグル
(72)【発明者】
【氏名】シュレールス, バルバラ
(72)【発明者】
【氏名】レーヴェル, マルティン
(72)【発明者】
【氏名】ボーゲル, ゼバスティアン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、ワクチン接種などの免疫療法のために有用なT細胞エピトープなどのペプチド又はポリペプチドを予測する方法に関する。
【解決手段】特に、本発明は、腫瘍関連抗原又はエピトープなどのペプチド又はポリペプチド、特に腫瘍関連ネオ抗原又はネオエピトープが、免疫原性であるかどうか、及び特に、ワクチン接種などの免疫療法に対して有用であるかどうかを予測する方法に関する。本発明の方法は特に、患者の腫瘍に特異的なワクチンの提供のために、したがって、個別化されたがんワクチンとの関連で使用することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫療法に対する、疾患細胞により発現されるタンパク質又はそのフラグメントの有用性を予測するための方法であって、タンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの分布又は局在を確かめることを含む方法。
【請求項2】
タンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントが、in vivoにおいてサイトゾル中及び/又はエキソソーム内に、局在する、又は豊富である、のどちらであるかを確かめることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サイトゾル中及び/又はエキソソーム内のタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの局在化又は富化が、タンパク質又はそのフラグメントが免疫療法に対して有用であることを示す、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
疾患細胞により発現されるタンパク質又はそのフラグメントの免疫療法に対する有用性を予測するための方法であって、タンパク質又はそのフラグメントが、抗原提示細胞、好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞により交差提示されているかどうかを確かめることを含む方法。
【請求項5】
抗原提示細胞によるタンパク質又はそのフラグメントの交差提示が、タンパク質又はそのフラグメントが免疫療法に対して有用であることを示す、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
タンパク質又はそのフラグメントが、抗原提示細胞により交差提示されているかどうかを確かめることが、タンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントがin vivoにおいてサイトゾル中及び/又はエキソソーム内に局在する、又は豊富である、のどちらであるかを確かめることを含む、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
サイトゾル中及び/又はエキソソーム内のタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの局在化又は富化が、タンパク質又はそのフラグメントが抗原提示細胞により交差提示されていることを示す、請求項4から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
タンパク質又はそのフラグメントが抗原提示細胞により交差提示されているかどうかを確かめることが、タンパク質又はそのフラグメントに対する既存の抗体応答を確かめることを含む、請求項4から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
タンパク質又はそのフラグメントに対する既存の抗体応答が、タンパク質又はそのフラグメントが抗原提示細胞により交差提示されていることを示す、請求項4から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
タンパク質又はそのフラグメントが抗原提示細胞により交差提示されているかどうかを確かめることが、タンパク質又はそのフラグメントがFアクチンに結合するかどうかを確かめることを含む、請求項4から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
タンパク質又はそのフラグメントのFアクチンへの結合が、タンパク質又はそのフラグメントが抗原提示細胞により交差提示されていることを示す、請求項4から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
タンパク質又はそのフラグメントが抗原提示細胞により交差提示されているかどうかを確かめることが、タンパク質又はそのフラグメントがRNAに結合するかどうかを確かめることを含む、請求項4から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
タンパク質又はそのフラグメントのRNAへの結合が、タンパク質又はそのフラグメントが抗原提示細胞により交差提示されていることを示す、請求項4から12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
タンパク質のフラグメントが、MHCペプチド複合体としてエキソソーム内に、好ましくはエキソソームの表面に存在する、請求項2、3、6から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
サイトゾル中のタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの局在化又は富化が、好ましくは疾患細胞のMHC I経路におけるタンパク質のプロセシング及び提示を示す、請求項2、3、6から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
MHC I経路におけるタンパク質のプロセシング及び提示が、CD8+T細胞によるMHC Iとタンパク質のフラグメントにより形成される複合体の認識を生じさせる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
エキソソーム内のタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの局在化又は富化が、抗原提示細胞、好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞におけるタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの蓄積を示す、請求項2、3、6から13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
抗原提示細胞におけるタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの蓄積が、好ましくは抗原提示細胞のMHC I及び/又はMHC II経路におけるタンパク質のプロセシング及び提示を示す、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
MHC I経路におけるタンパク質のプロセシング及び提示が、CD8+細胞によるMHC Iとタンパク質のフラグメントにより形成される複合体の認識を生じさせる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
疾患細胞により発現されるタンパク質又はそのフラグメントの免疫療法に対する有用性を予測するための方法であって、以下:
(a)タンパク質若しくはそのフラグメントに対する既存の抗体応答を確かめること、
(b)タンパク質若しくはそのフラグメントがFアクチンに結合するかどうかを確かめること、及び/又は
(c)タンパク質若しくはそのフラグメントがRNAに結合するかどうかを確かめること
の一又は複数を確かめることを含む方法。
【請求項21】
タンパク質又はそのフラグメントに対する既存の抗体応答が、タンパク質又はそのフラグメントが免疫療法に対して有用であることを示す、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
タンパク質又はそのフラグメントのFアクチンへの結合が、タンパク質又はそのフラグメントが免疫療法に対して有用であることを示す、請求項20又は21に記載の方法。
【請求項23】
タンパク質又はそのフラグメントのRNAへの結合が、タンパク質又はそのフラグメントが免疫療法に対して有用であることを示す、請求項20から22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
タンパク質又はそのフラグメントが疾患特異的なアミノ酸改変を含む、請求項1から23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
アミノ酸改変が疾患特異的な体細胞の変異の結果である、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
疾患ががんであり、免疫療法が抗がん免疫療法である、請求項1から25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
タンパク質フラグメントがMHC結合ペプチド又は潜在的MHC結合ペプチドである、請求項1から26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
疾患特異的なアミノ酸改変を、免疫療法におけるそれらの有用性について選択及び/又は格付けするための方法であって:
(i) 疾患細胞により発現され、各々が少なくとも1つの疾患特異的なアミノ酸改変を含むタンパク質を同定する工程、及び
(ii) (i)で同定されたタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの分布又は局在化を確かめる工程、及び
(iii) (i)で同定された少なくとも1のさらなるタンパク質に対して、工程(ii)を繰り返す工程
を含む方法。
【請求項29】
工程(ii)が、in vivoにおいてサイトゾル中及び/又はエキソソーム内で、タンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントが局在する、又は豊富である、のどちらであるかを確かめることを含む、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
サイトゾル中及び/又はエキソソーム内のタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの局在化又は富化が、疾患特異的なアミノ酸改変が免疫療法に対して有用であることを示す、請求項28又は29に記載の方法。
【請求項31】
疾患特異的なアミノ酸改変を、免疫療法におけるそれらの有用性について選択及び/又は格付けする方法であって:
(i) 疾患細胞により発現され、各々が少なくとも1つの疾患特異的なアミノ酸改変を含むタンパク質を同定する工程、及び
(ii) (i)で同定されたタンパク質又はタンパク質のフラグメントが、抗原提示細胞、好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞により交差提示されているかどうかを確かめる工程、及び
(iii) (i)で同定された少なくとも1のさらなるタンパク質に対して、工程(ii)を繰り返す工程
を含む方法。
【請求項32】
抗原提示細胞によるタンパク質又はそのフラグメントの交差提示が、疾患特異的なアミノ酸改変が免疫療法に対して有用であることを示す、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
疾患特異的なアミノ酸改変を、免疫療法におけるそれらの有用性について選択及び/又は格付けする方法であって:
(i) 疾患細胞により発現され、各々が少なくとも1つの疾患特異的なアミノ酸改変を含むタンパク質を同定する工程、並びに
(ii) (i)で同定されたタンパク質又はタンパク質のフラグメントについて、以下:
(a)タンパク質若しくはそのフラグメントに対する既存の抗体応答を確かめること
(b)タンパク質若しくはそのフラグメントがFアクチンに結合するかどうかを確かめること、及び/又は
(c)タンパク質若しくはそのフラグメントがRNAに結合するかどうかを確かめること
の一又は複数を確かめること、並びに
(iii) (i)で同定された少なくとも1のさらなるタンパク質に対して、工程(ii)を繰り返す工程
を含む方法。
【請求項34】
タンパク質又はそのフラグメントに対する既存の抗体応答が、疾患特異的なアミノ酸改変が免疫療法に対して有用であることを示す、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
タンパク質又はそのフラグメントのFアクチンへの結合が、疾患特異的なアミノ酸改変が免疫療法に対して有用であることを示す、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
タンパク質又はそのフラグメントのRNAへの結合が、疾患特異的なアミノ酸改変が免疫療法に対して有用であることを示す、請求項33から35のいずれか一項に記載の方法。
【請求項37】
疾患特異的なアミノ酸改変が、MHC結合ペプチド又は潜在的MHC結合ペプチドであるタンパク質のフラグメントに含まれる、請求項28から36のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
ワクチンの製造に使用される、請求項1から37のいずれか一項に記載の方法。
【請求項39】
ワクチンが、免疫療法に対して有用であると予測される一若しくは複数のタンパク質又はそのフラグメント、又は一若しくは複数の疾患特異的なアミノ酸改変から誘導される、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
ワクチンを提供する方法であって:
請求項1から39のいずれか一項に記載の方法による免疫療法に対して有用であると予測される一若しくは複数のタンパク質若又はそのフラグメント、又は一若しくは複数の疾患特異的なアミノ酸改変を同定する工程
を含む方法。
【請求項41】
免疫療法に対して有用であると予測される一若しくは複数のタンパク質又はそのフラグメント、又は一若しくは複数の疾患特異的なアミノ酸改変を含むペプチド又はポリペプチド、あるいはペプチド又はポリペプチドをコードする核酸を含むワクチンを提供する工程
をさらに含む、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
請求項38から41のいずれか一項に記載の方法により製造されるワクチン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワクチン接種などの免疫療法のために有用なT細胞エピトープなどのペプチド又はポリペプチドを予測する方法に関する。特に、本発明は、腫瘍関連抗原又はエピトープなどのペプチド又はポリペプチド、特に腫瘍関連ネオ抗原又はネオエピトープが、免疫原性であるかどうか、及び特に、ワクチン接種などの免疫療法のために有用であるかどうかを予測する方法に関する。本発明の方法は特に、患者の腫瘍に特異的なワクチンの提供のために、したがって、個別化されたがんワクチンとの関連で使用することができる。
【背景技術】
【0002】
免疫系の進化は、脊椎動物において、2種類の防御:自然免疫及び適応免疫に基づく、高度に効果的なネットワークをもたらした。病原体と関連する共通の分子のパターンを認識する不変の受容体に依存する進化論的な古代からの自然免疫系と対照的に、適応免疫は、B細胞(Bリンパ球)及びT細胞(Tリンパ球)上の高度に特異的な抗原受容体及びクローン選択に基づく。B細胞が、抗体の分泌により液性免疫応答を呼び出すのに対して、T細胞は、細胞性免疫応答を媒介して認識された細胞を破壊に至らせる。
【0003】
T細胞は、ヒト及び動物において、細胞媒介免疫で中心的役割を演ずる。特定の抗原の認識及び結合は、T細胞の表面に発現されたT細胞受容体により媒介される。T細胞のT細胞受容体(TCR)は、主要組織適合性複合体(MHC)分子に結合して標的細胞の表面に提示された免疫原性ペプチド(エピトープ)と相互作用することができる。TCRの特異的結合がT細胞内でシグナルカスケードの引き金を引き、成熟したエフェクターT細胞への増殖及び分化に導く。抗原の膨大な多様性を標的とすることができるために、T細胞受容体は大きい多様性を有する必要がある。
【0004】
抗原特異的な免疫療法は、感染性又は悪性の疾患を制御するために、患者における特異的免疫応答を強化又は誘発することを目的とする。同定される病原体及び腫瘍関連抗原が増えてきたことで、免疫療法のための適当な標的が広く集積されている。これらの抗原から誘導された免疫原性ペプチド(エピトープ)を提示する細胞は、能動的又は受動的のいずれかの免疫化戦略により特異的に標的とされ得る。能動的免疫化は、患者で疾患細胞を特異的に認識して殺害することができる、抗原特異的なT細胞を誘発して増やす傾向がある。対照的に受動免疫化は、in vitroで増やされ、任意選択的に遺伝子操作されるT細胞の養子移入(養子T細胞療法;ACT)に依存する。
【0005】
腫瘍ワクチンは、能動免疫化により内因性腫瘍に特異的な免疫応答を誘発することを目的とする。異なる抗原形態が、疾患細胞、タンパク質、ペプチド又は患者への移入に続くDCのパルシングにより、in vivo又はin vitroinのいずれかで直接適用することができるRNA、DNA又はウイルスのベクターなどの免疫化ベクター全体を含む腫瘍ワクチン接種のために使用され得る。
【0006】
ACTに基づく免疫療法は、前もって感作されたT細胞を用いる受動免疫化の形態と広く定義することができ、これらのT細胞は、低い前駆体の頻度から臨床的に適切な細胞数にex vivoで増やした後、非免疫受容者又は自家宿主に移入される。ACTの限界を克服する取り組みは、短時間ex vivo培養後に患者に再注入する、規定された特異性の腫瘍反応性TCRを発現するように再プログラムされた自家T細胞の養子移入である。
【0007】
複数の病原体及び腫瘍に関連する抗原の発見が、抗原特異的な免疫療法の発想のための根拠を提供した。腫瘍に関連する抗原(TAA)は、正常細胞では発現がないか又は限定されるが、腫瘍細胞ではそれらの遺伝的不安定性のために発現される普通でないタンパク質である。これらのTAAは、免疫系による悪性細胞の特異的認識に結びつけることができる。
【0008】
がんは、その分画が原因となる役割を有し得る、ゲノム変異及び後成的な変化の蓄積から生じ得る。腫瘍に関連する抗原に加えて、ヒトのがんは、平均100-120の非同義変異を有し、その多くがワクチンによる標的であり得る。腫瘍における変異の95%超は、独特で患者に特異的である。腫瘍に特異的なT細胞エピトープを生じさせ得る体細胞の変異を変化させるタンパク質の数は、30から400の範囲にある。
【0009】
変異は、がんの免疫療法のための理想的標的と考えられる。任意の健常な組織における発現を完全に欠くネオエピトープとして、それらは安全であると期待されて中枢寛容機構を迂回することができた。本発明者らは、最近、個体変異のスペクトルを標的とする個別化された免疫療法の手法を提案した(Castle、 J. C.ら、Cancer Res 72、 p1081 (2012))。
【0010】
免疫療法の手法にとって魅力的な標的構造の増大する数にも拘わらず、免疫療法のために適当なエピトープの定義は、依然として難題である。したがって、エピトープ、特にネオエピトープが、効率的な免疫を誘発するか、したがって、免疫療法で有用であるかどうかということを予測するモデルに対する必要がある。
【0011】
本明細書で、本発明者らは、免疫原性抗原及びエピトープが、ある細胞内の区画で強く現れることを示す。
【0012】
腫瘍抗原、特に変異した腫瘍抗原に対する免疫応答は、腫瘍細胞自体によってなされるのではなくて、抗原提示細胞、特に、腫瘍細胞から放出された腫瘍抗原を受けとる樹状細胞によることが公知である。効果的な免疫応答を達成するためには、放出されて、抗原提示細胞によって取り上げられた腫瘍抗原は、CD4の免疫応答の誘発のためにMHCクラスIIにより(外因性提示)、又はCD8の免疫応答の誘発のためにMHCクラスIにより(交差提示)のいずれかで処理されて提示されなければならないことも公知である。後者の免疫応答のためには、同じ抗原提示細胞に送達された同じか又は異なる腫瘍抗原に対するCD4の免疫応答の存在が必要とされる(Bennettら、J. Exp. Med. 186、p65-70 (1997))。
【0013】
特定の理論に縛られることを望むものではないが、腫瘍細胞などの疾患細胞における抗原の細胞局在化により、抗原が、抗原提示細胞により取り上げられて提示されるかどうかが決定されると考えられる。腫瘍細胞などの疾患細胞から放出されるエキソソームは、mRNA、タンパク質並びにMHCペプチド複合体を含有し、したがってこれらの成分を抗原提示細胞に移すことができる。エキソソームは、陥入により産生され、したがって、エンドサイトーシスの膜分子の他に、主として細胞質の成分を含有する。したがって、タンパク質などの細胞質の成分がエキソソーム中に富化されて、抗原提示細胞に移されることが可能になると考えられる。エキソソームは、mRNAを豊富に移すこともできて、それはRNAを取り入れた細胞で翻訳され得る。したがって、特定の理論に拘束されることは望まず、エキソソームに含まれるペプチド又はポリペプチド、特に細胞質のペプチド又はタンパク質、又はペプチド又はポリペプチド、エキソソームに含まれるそれをコードするRNAは、本発明により、特に免疫療法のために有用であり、その理由は、エキソソームが抗原提示細胞により取り上げられ、上記ペプチド及びタンパク質(任意選択的に、コードするRNAの翻訳による)が抗原提示細胞により提示されるからであると考えられる。したがって、エキソソームは、ペプチド、タンパク質又はRNAにとって、抗原提示細胞への輸送手段であり、及びペプチド、タンパク質又はRNAをプロテアーゼ及びリボヌクレアーゼによる分解に対して保護する。あるいは、ペプチド及びタンパク質が、抗体などの他の分子との複合体として受容体依存性機構により、抗原提示細胞によって取り上げられることも可能である。
【発明の概要】
【0014】
一態様において、本発明は、疾患細胞により発現されたタンパク質又はそのフラグメントの免疫療法のための有用性を予測する方法であって、タンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの分布又は局在化を確かめることを含む方法に関する。
【0015】
一実施態様において、該方法は、in vivoにおいてサイトゾル中及び/又はエキソソーム内で、タンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントが局在する、又は豊富である、のどちらであるかを確かめることを含む。
【0016】
一実施態様において、サイトゾル中及び/又はエキソソーム内におけるタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの局在化又は富化は、タンパク質又はそのフラグメントが免疫療法のために有用であることを示す。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、疾患細胞により発現されたタンパク質又はそのフラグメントの免疫療法のための有用性を予測する方法であって、タンパク質又はそのフラグメントが、抗原提示細胞、好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞により交差提示されているかどうかを確かめることを含む方法に関する。
【0018】
一実施態様において、抗原提示細胞によるタンパク質又はそのフラグメントの交差提示は、タンパク質又はそのフラグメントが免疫療法のために有用であることを示す。
【0019】
一実施態様において、タンパク質又はそのフラグメントが、抗原提示細胞により交差提示されているかどうかを確かめることは、in vivoにおいてサイトゾル中及び/又はエキソソーム内で、タンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントが局在する、又は豊富である、のどちらであるかを確かめることを含む。
【0020】
一実施態様において、サイトゾル中及び/又はエキソソーム内におけるタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの局在化又は富化は、タンパク質又はそのフラグメントが抗原提示細胞により交差提示されていることを示す。
【0021】
一実施態様において、タンパク質又はそのフラグメントが抗原提示細胞により交差提示されているかどうかを確かめることは、タンパク質又はそのフラグメントに対する既存の抗体応答を確かめることを含む。
【0022】
一実施態様において、タンパク質又はそのフラグメントに対する既存の抗体応答は、タンパク質又はそのフラグメントが抗原提示細胞により交差提示されていることを示す。
【0023】
一実施態様において、タンパク質又はそのフラグメントが抗原提示細胞により交差提示されているかどうかを確かめることは、タンパク質又はそのフラグメントがFアクチンに結合しているかどうかを確かめることを含む。
【0024】
一実施態様において、タンパク質又はそのフラグメントのFアクチンへの結合は、タンパク質又はそのフラグメントが抗原提示細胞により交差提示されていることを示す。
【0025】
一実施態様において、タンパク質又はそのフラグメントが抗原提示細胞により交差提示されているかどうかを確かめることは、タンパク質又はそのフラグメントがRNAに結合しているかどうかを確かめることを含む。
【0026】
一実施態様において、タンパク質又はそのフラグメントのRNAへの結合は、タンパク質又はそのフラグメントが抗原提示細胞により交差提示されていることを示す。
【0027】
本発明の全ての態様のうちの一実施態様において、タンパク質のフラグメントは、MHCペプチド複合体としてエキソソーム内に、好ましくはエキソソームの表面に存在する。
【0028】
本発明の全ての態様のうちの一実施態様において、サイトゾル中におけるタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの局在化又は富化は、好ましくは疾患細胞のMHC Iの経路におけるタンパク質のプロセシング及び提示を示す。一実施態様において、MHC Iの経路におけるタンパク質のプロセシング及び提示は、MHC Iとタンパク質のフラグメントにより形成された複合体のCD8+T細胞による認識を生じさせる。
【0029】
本発明の全ての態様のうちの一実施態様において、エキソソーム内におけるタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの局在化又は富化は、抗原提示細胞、好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞におけるタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの蓄積を示す。一実施態様において、抗原提示細胞におけるタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの蓄積は、好ましくは抗原提示細胞のMHC I及び/又はMHC II経路におけるタンパク質のプロセシング及び提示を示す。一実施態様において、MHC I経路におけるタンパク質のプロセシング及び提示は、MHC Iとタンパク質のフラグメントにより形成された複合体のCD8+T細胞による認識を生じさせる。
【0030】
さらなる態様において、本発明は、疾患細胞により発現されたタンパク質又はそのフラグメントの免疫療法のための有用性を予測する方法であって、以下:
(a) タンパク質又はそのフラグメントに対する既存の抗体応答を確かめること、
(b) タンパク質又はそのフラグメントが、Fアクチンに結合しているかどうかを確かめること、及び/又は
(c) タンパク質又はそのフラグメントが、RNAに結合しているかどうかを確かめること
の一又は複数を確かめることを含む方法に関する。
【0031】
一実施態様において、タンパク質又はそのフラグメントに対する既存の抗体応答は、タンパク質又はそのフラグメントが免疫療法のために有用であることを示す。
【0032】
一実施態様において、タンパク質又はそのフラグメントのFアクチンへの結合は、タンパク質又はそのフラグメントが免疫療法のために有用であることを示す。
【0033】
一実施態様において、タンパク質又はそのフラグメントのRNAへの結合は、タンパク質又はそのフラグメントが免疫療法のために有用であることを示す。
【0034】
本発明の全ての態様のうちの一実施態様において、タンパク質又はそのフラグメントは、疾患特異的なアミノ酸改変を含む。一実施態様において、アミノ酸改変は、疾患特異的な体細胞の変異に基づく。
【0035】
本発明の全ての態様のうちの一実施態様において、疾患はがんであり、免疫療法は抗がん免疫療法である。
【0036】
本発明の全ての態様のうちの一実施態様において、タンパク質のフラグメントは、MHC結合ペプチド又は潜在的MHC結合ペプチドである。
【0037】
さらなる態様において、本発明は、疾患特異的なアミノ酸改変を、免疫療法におけるそれらの有用性について選択及び/又は格付けする方法であって、
(i) 疾患細胞により発現され、各々が少なくとも1つの疾患特異的なアミノ酸改変を含むタンパク質を同定する工程、及び
(ii) (i)で同定されたタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの分布又は局在化を確かめる工程、及び
(iii) (i)で同定された少なくとも1のさらなるタンパク質に対して、工程(ii)を繰り返す工程
を含む方法に関する。
【0038】
一実施態様において、工程(ii)は、in vivoにおいてサイトゾル中及び/又はエキソソーム内で、タンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントが局在する、又は豊富である、のどちらであるかを確かめることを含む。
【0039】
一実施態様において、サイトゾル中及び/又はエキソソーム内におけるタンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの局在化又は富化は、疾患特異的なアミノ酸改変が免疫療法のために有用であることを示す。
【0040】
さらなる態様において、本発明は、疾患特異的なアミノ酸改変を、免疫療法におけるそれらの有用性について選択及び/又は格付けする方法であって、
(i) 疾患細胞により発現され、各々が少なくとも1つの疾患特異的なアミノ酸改変を含むタンパク質を同定する工程、及び
(ii) (i)で同定されたタンパク質又はタンパク質のフラグメントが、抗原提示細胞、好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞により交差提示されているかどうかを確かめる工程、及び
(iii) (i)で同定された少なくとも1のさらなるタンパク質に対して、工程(ii)を繰り返す工程
を含む方法に関する。
【0041】
一実施態様において、抗原提示細胞によるタンパク質又はそのフラグメントの交差提示は、疾患特異的なアミノ酸改変が免疫療法のために有用であることを示す。
【0042】
さらなる態様において、本発明は、疾患特異的なアミノ酸改変を、免疫療法におけるそれらの有用性について選択及び/又は格付けする方法であって:
(i) 疾患細胞により発現され、各々が少なくとも1つの疾患特異的なアミノ酸改変を含むタンパク質を同定する工程、並びに
(ii) (i)で同定されたタンパク質又はタンパク質のフラグメントについて、以下:
(a) タンパク質又はそのフラグメントに対する既存の抗体応答を確かめること、
(b) タンパク質又はそのフラグメントが、Fアクチンに結合しているかどうかを確かめること、及び/又は
(c) タンパク質又はそのフラグメントが、RNAに結合しているかどうかを確かめること
の一又は複数を確かめること、並びに
(iii) (i)で同定された少なくとも1のさらなるタンパク質に対して、工程(ii)を繰り返す工程
を含む方法に関する。
【0043】
一実施態様において、タンパク質又はそのフラグメントに対する既存の抗体応答は、疾患特異的なアミノ酸改変が免疫療法のために有用であることを示す。
【0044】
一実施態様において、タンパク質又はそのフラグメントのFアクチンへの結合は、疾患特異的なアミノ酸改変が免疫療法のために有用であることを示す。
【0045】
一実施態様において、タンパク質又はそのフラグメントのRNAへの結合は、疾患特異的なアミノ酸改変が免疫療法のために有用であることを示す。
【0046】
本発明の全ての態様のうちの一実施態様において、疾患特異的なアミノ酸改変は、MHC結合ペプチド又は潜在的MHC結合ペプチドであるタンパク質のフラグメントにより含まれる。
【0047】
本発明の全ての態様のうちの一実施態様において、方法は、ワクチンの製造に使用される。一実施態様において、ワクチンは、免疫療法のために有用であると予測された一若しくは複数のタンパク質若しくはそのフラグメント又は一若しくは複数の疾患特異的なアミノ酸改変から誘導される。
【0048】
さらなる態様において、本発明は、ワクチンを提供する方法であって:本明細書に記載された態様の任意の方法により免疫療法のために有用であると予測された一若しくは複数のタンパク質若しくはそのフラグメント又は一若しくは複数の疾患特異的なアミノ酸改変を同定する工程を含む方法に関する。一実施態様において、方法は、免疫療法のために有用であると予測された一若しくは複数のタンパク質若しくはそのフラグメント又は一若しくは複数の疾患特異的なアミノ酸改変を含むペプチド又はポリペプチド、あるいはペプチド又はポリペプチドをコードする核酸を含むワクチンを提供する工程をさらに含む。
【0049】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載された態様の任意の方法により製造されるワクチンに関する。
【0050】
本発明の全ての態様のうちの一実施態様において、疾患細胞により発現されたタンパク質又はそのフラグメントの、免疫療法のための有用性の提示は、タンパク質又はそのフラグメントが、投与されたときに(任意選択的にそれをコードする核酸の形態で)免疫原性であろうということを示す。
【0051】
本発明の全ての態様のうちの一実施態様において、本明細書に記載されたタンパク質のフラグメントは、MHC結合ペプチド又は潜在的MHC結合ペプチドである(例えばMHC結合の予測は、該タンパク質のフラグメントがMHCに結合するであろうということを示す)。一実施態様において、MHC結合ペプチドは、改変されたタンパク質のフラグメントである改変されたペプチドである。
【0052】
一実施態様において、タンパク質又はペプチドにおけるアミノ酸改変は、一又は複数のタンパク質のコード領域における非同義の変異を同定することにより同定される。
【0053】
一実施態様において、アミノ酸改変は、一又は複数の細胞、例えば、一又は複数のがん細胞及び任意選択的に一又は複数の非がん性細胞などのゲノム又はトランスクリプトームを部分的に又は完全に配列決定することにより、及び一又は複数のタンパク質コード領域における変異を同定することにより同定される。一実施態様において、前記変異は体細胞の変異である。一実施態様において、前記変異はがん変異である。
【0054】
一実施態様において、特に、がん患者などの患者のために個別化されたワクチンを提供するために、改変(一又は複数)が、前記患者に存在して、本発明の方法は、前記患者のために実施される。さらなる態様において、本発明は、本発明による方法を使用して得ることができるワクチンを提供する。そのようなワクチンの好ましい実施態様は、本明細書に記載される。
【0055】
本発明により提供されるワクチンは、薬学的に許容される担体を含むことができ、一又は複数のアジュバント、安定剤その他を任意選択的に含むこともできる。ワクチンは、治療的又は予防的ワクチンの形態であってもよい。
【0056】
別の態様は、本発明により患者に提供されるワクチンを投与することを含む、患者で免疫応答を誘発する方法に関する。
【0057】
別の態様は、
(a)本発明による方法を使用して、ワクチンなどの本明細書に記載された免疫治療剤を提供する工程;及び
(b)前記免疫治療剤を患者に投与する工程
を含む患者を治療する方法に関する。
【0058】
別の態様は、本明細書に記載されたワクチンなどの免疫治療剤を患者に投与することを含む、患者を治療する方法に関する。
【0059】
一実施態様において、患者はがん患者であり、ワクチンは、例えば、その投与ががん特異的ネオエピトープを提供するワクチンなどの抗がんワクチンである。
【0060】
さらなる態様において、本発明は、本明細書に記載された治療方法で使用するための、特にがんを治療又は防止するために使用される本明細書に記載されたワクチンを提供する。
【0061】
本明細書に記載されたがんの治療は、外科的切除及び/又は放射線照射及び/又は伝統的化学療法と組み合わせることができる。
【0062】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図1】公開されているエピトープのタンパク質は、ランダムペプチド(プロテオーム)と比較されれば、エキソソーム及びサイトゾル中で有意に富化されている。
【
図2】公開されているエピトープの遺伝子は、ランダムペプチドと比較して、SEREXデータベースで有意により高頻度で見出される。
【発明を実施するための形態】
【0064】
本発明を下で詳細に説明するが、本発明は、本明細書に記載された特定の方法、プロトコル及び試薬に限定されず、これらは変化してもよいことが理解されるべきである。本明細書で、使用される用語法は、特定の実施態様のみを記載する目的のためであり、本発明の範囲を限定することは意図されず、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されることも理解されるべきである。他のように規定されない限り、本明細書で使用される全ての技術的及び科学的用語は、当業者により共通的に理解されている同じ意味を有する。
【0065】
以下で、本発明の要素を説明することにする。これらの要素は、特定の実施態様で掲載されるが、しかしながら、それらは、任意の様式で及び任意の数で組み合わされて、追加の実施態様を創り出すこともできることが理解されるべきである。いろいろと記載された例及び好ましい実施態様は、本発明を限定すると解釈されるべきでなく、実施態様を明確に記載するためだけのものである。この記載は、明確に記載された実施態様を、任意の数の開示された及び/又は好ましい要素と組み合わせる実施態様を支持し、包含すると理解されるべきである。さらに、本出願に記載された全ての要素の任意の入れ替え及び組合せは、前後関係で他のように指示されない限り、本出願の記載により開示されたと考えられるべきである。
【0066】
好ましくは、本明細書で、使用される用語は、「A multilingual glossary of biotechnological terms: (IUPAC Recommendations)」、 H.G.W. Leuenberger, B. Nagel及びH. Koelbl編(1995) Helvetica Chimica Acta, CH-4010 Basel,Switzerlandに記載されたように定義される。
【0067】
本発明の実行は、特に断りのない限り、当分野における文献で説明されている、生化学、細胞生物学、免疫学、及び組換えDNA技法の従来の方法(例えば、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、2ndEdition、J. Sambrookら編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor 1989を参照されたい)を使用するであろう。
【0068】
本明細書及び以下の特許請求の範囲の全体を通して、文脈上別段の指示がない限り、単語「含む(comprise)」、及び変形、例えば「含む(comprises)」及び「含む(comprising)」などは、述べられたメンバー、整数又は工程又はメンバー、整数若しくは工程の群の包含を意味するが、任意の他のメンバー、整数又は工程又はメンバー、整数若しくは工程の群の排除は意味せず、但し、幾つかの実施態様においては、そのような他のメンバー、整数又は工程又はメンバー、整数若しくは工程の群が排除されることもある、即ち、対象の事物は、述べられたメンバー、整数又は工程又はメンバー、整数若しくは工程の群の包含にあると理解されるであろう。本発明を記載する文脈において(特に、特許請求の範囲の文脈において)使用される用語「ある1つの(a)」及び「ある1つの(an)」及び「その(the)」及び同様な表示は、本明細書では、特に断りのない限り、又は文脈により明確に矛楯しない限り、単数及び複数の両方を包含すると解釈されるべきである。本明細書で値の範囲を挙げることは、範囲内に入る各別々の値を個々に言及することを短縮した方法として役立つことを単に意図されるだけである。特に断りのない限り、本明細書では、各個々の値は、あたかもそれが本明細書に個々に挙げられたかのように、明細書中に組み込まれる。
【0069】
本明細書に記載された全ての方法は、本明細書において特に断りのない限り又は他で前後関係から明確に矛楯しない限り、任意の適当な順序で実施することができる。本明細書で提供される任意の及び全ての例又は典型的言語(例えば、「など」)の使用は、本発明を単により良く例示することが意図され、他の箇所で請求する本発明の範囲に限定を課すことはない。明細書中の言語は、本発明の実施に必須の任意の請求されていない要素を指示すると解釈されるべきではない。
【0070】
幾つかの文献を、本明細書の本文全体を通して引用した。本明細書で引用した文献の各々は(全ての特許、特許出願、科学的出版物、メーカーの明細書、使用説明書、その他を含む)、前出か後掲かにかかわらず、参照によりそれら全体が本明細書に組み込まれる。本明細書中の如何なる事物も、本発明が、先行発明のために、そのような開示に先立つ権利を与えられないことの容認と解釈されるべきではない。
【0071】
本発明は、疾患細胞中に存在するタンパク質又はタンパク質のフラグメントを、標的とする疾患細胞の標識として利用することによる、疾患、特にがん疾患の免疫療法を構想する。特に、MHCの関係で、疾患細胞の表面に提示されたタンパク質のフラグメントを標的とすることにより、疾患細胞を標的とすることができる。本発明による免疫療法は、能動及び/又は受動免疫療法の手法により実行される。
【0072】
特に、本発明は、免疫療法のために適当なタンパク質又はそのフラグメントを限定することを目的とする。適当なタンパク質が同定されれば、そのタンパク質又はそのフラグメント(任意選択的に、より大きいポリペプチドの一部として)又は該タンパク質又はフラグメント(任意選択的に、より大きいポリペプチドの一部として)をコードする核酸が、タンパク質又はそのフラグメントに対する免疫応答を強化又は誘発する目的で、特にタンパク質又はそのフラグメントを(特に、MHCの関係で提示された場合)、適当な受容体(T細胞受容体又は人工T細胞受容体など)を通して認識するT細胞などの適当なエフェクター細胞を、誘発及び/又は活性化することにより、ワクチンとして使用され得る。あるいは又はそれに加えて、タンパク質又はそのフラグメント(特に、MHCの関係で存在する場合)を、適当な受容体(T細胞受容体又は人工T細胞受容体など)を通して認識するT細胞などのエフェクター細胞を、投与することもできる。特定の理論に拘束されることは望まず、本発明による免疫療法で有用であると予測されるタンパク質又はそのフラグメントは、抗原提示細胞により取り上げられて、抗原提示細胞により、特に交差提示により提示されている高い尤度を有し、したがって最終的にタンパク質又はそのフラグメントを発現している疾患細胞に対して効率的な免疫応答を生ずると考えられる。
【0073】
本発明により、免疫療法のために有用又は適当と規定されたタンパク質は、本明細書では「抗原」とも称される。本発明により、免疫療法のために有用又は適当と規定されたタンパク質のフラグメントは、本明細書では「エピトープ」とも称される。
【0074】
本発明による免疫療法の手法は:
i)タンパク質又はペプチド(天然の又は改変された)、ii)タンパク質又はペプチドをコードする核酸、iii)タンパク質又はペプチドをコードする組換え細胞、iv)タンパク質又はペプチドをコードする組換えウイルス、及びv)タンパク質若しくはペプチド(天然の又は改変された)でパルス化されたか又はタンパク質若しくはペプチドをコードする核酸でトランスフェクトされた抗原提示細胞を用いる免疫化を含む。
【0075】
本発明による免疫療法の手法は:
vi)タンパク質又はペプチドを認識するT細胞受容体、及びvii)特にMHCの関係で提示された場合に、タンパク質又はペプチドを認識する受容体をコードするエフェクター細胞(T細胞など)の移入も含む。
【0076】
本発明による好ましいタンパク質及びフラグメントは、疾患特異的な様式で発現され、例えば、それらは、疾患に関連する抗原又はエピトープであり(例えば、タンパク質又はタンパク質を発現する細胞の存在は、疾患に特有である)、及び/又は一又は複数の疾患特異的なアミノ酸改変を含み、例えば、それらは、疾患に関連するネオ抗原又はネオエピトープである。好ましくは、疾患特異的なアミノ酸改変は、一又は複数の疾患特異的な体細胞の変異に基づく。特に好ましい一実施態様において、疾患特異的なアミノ酸改変は、がんに特異的なアミノ酸改変であり、及び疾患特異的な体細胞の変異は、がんに特異的な体細胞の変異である。したがって、本発明によれば、ワクチンは、好ましくは、患者の疾患特異的なアミノ酸改変/疾患特異的な体細胞の変異を特徴として、好ましくは、投与されたときに、一又は複数の変異に基づくネオエピトープを提供する。したがって、ワクチンは、一又は複数の変異に基づくネオエピトープを含むペプチド若しくはポリペプチド、又は前記ペプチド若しくはポリペプチドをコードする核酸を含むことができる。一実施態様において、疾患特異的なアミノ酸改変は、疾患特異的な体細胞の変異を同定することにより、例えば、ゲノムのDNA及び/又は病変組織又は一若しくは複数の疾患細胞のRNAの配列を決定することにより同定される。
【0077】
本発明により、疾患特異的なアミノ酸改変を同定する及び/又は疾患特異的な体細胞の変異を同定する工程は、疾患細胞により発現されたタンパク質又はそのフラグメントの免疫療法のための有用性を予測する本発明の方法の前に実施されても又は後で実施されてもよい。本発明の好ましい一実施態様において、疾患特異的なアミノ酸改変及び/又は疾患特異的な体細胞の変異は、患者の病的検体で最初に決定され、それに続いて、一若しくは複数の疾患特異的なアミノ酸改変を含むタンパク質又は一若しくは複数の疾患特異的なアミノ酸改変を含むそれらのフラグメントの本発明の方法による免疫療法のための有用性の予測がなされる。同定されれば、疾患特異的なアミノ酸改変(それぞれ一若しくは複数の疾患特異的なアミノ酸改変を含むタンパク質又は一若しくは複数の疾患特異的なアミノ酸改変を含むそれらのフラグメント)を、本発明の方法による免疫療法におけるそれらの有用性について、選択及び/又は格付けすることもできる。
【0078】
用語「エキソソーム」は、血液、尿、及び細胞培養の培養培地を含む生物体液中に存在する細胞に由来する小胞に関する。エキソソームは、マルチ小胞体がプラズマ膜と融合したときに、それらは細胞から放出されるか又はプラズマ膜から直接放出されるかのいずれかである。種々の分子を含有するエキソソームは、それらの元の細胞のタンパク質及びRNAを含む構成要素を含有する。エキソソームのタンパク質組成は、元の細胞及び組織により変化するが、大部分のエキソソームは、進化論的に保存されたタンパク質分子の共通のセットを含有する。エキソソームは、分子をある1つの細胞から膜の小胞交換を通して別の細胞に移すことができて、それにより樹状細胞及びB細胞などの免疫系に影響を及ぼして、病原体及び腫瘍に適応免疫応答を媒介することに機能的役割を演ずることもできる。
【0079】
本明細書において使用する用語「サイトゾル」は、膜内の結合していない細胞のサブ構造の細胞原形質の部分を指す。
【0080】
本発明により、用語「ペプチド」は、共有結合でペプチド結合により連結した、2以上、好ましくは3以上、好ましくは4以上、好ましくは6以上、好ましくは8以上、好ましくは10以上、好ましくは13以上、好ましくは16以上、好ましくは21以上及び好ましくは8、10、20、30、40又は50まで、特に100のアミノ酸を含む物質を指す。用語「ポリペプチド」又は「タンパク質」は、大きいペプチド、好ましくは100を超えるアミノ酸残基を有するペプチドを指すが、一般的に、用語「ペプチド」、「ポリペプチド」及び「タンパク質」は同義語であり、本明細書では互換的に使用される。
【0081】
本発明により、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質に関する用語「改変」は、野性型ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質の配列などの親の配列と比較した、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質における配列の変化に関する。該用語は、アミノ酸挿入変形体、アミノ酸付加変形体、アミノ酸欠失変形体及びアミノ酸置換変形体、好ましくはアミノ酸置換変形体を含む。本発明による全てのこれらの配列変化は、可能性として新しいエピトープを創出することができる。
【0082】
アミノ酸挿入変形体は、特定のアミノ酸配列中における単一の又は2以上のアミノ酸の挿入を含む。
【0083】
アミノ酸付加変形体は、一又は複数のアミノ酸、例えば1、2、3、4又は5、又はそれを超えるアミノ酸のアミノ及び/又はカルボキシ末端融合を含む。
【0084】
アミノ酸欠失変形体は、配列から一又は複数のアミノ酸の除去により、例えば、1、2、3、4又は5、又はそれを超えるアミノ酸の除去により特徴づけられる。
【0085】
アミノ酸置換変形体は、配列中の除去される少なくとも1つの残基及びその場所に挿入される別の残基により特徴づけられる。
【0086】
本発明により、改変又は改変されたペプチドは、改変を含むタンパク質から誘導することができる。
【0087】
本発明による用語「誘導された」は、特定の存在物、特に特定のペプチド配列が、それが誘導される対象物に存在することを意味する。アミノ酸配列の場合には、特に特定の配列領域が「誘導された」は、特に、関係するアミノ酸配列が、そこに存在するアミノ酸配列から誘導されたことを意味する。
【0088】
本発明により、本明細書に記載されたタンパク質は、好ましくは、一又は複数の疾患特異的なアミノ酸改変を含む。一実施態様において、これらの一又は複数の疾患特異的なアミノ酸改変は、タンパク質のエピトープ又は潜在的エピトープ内に位置する。したがって、本明細書に記載された好ましいタンパク質は、好ましくは、一又は複数のネオエピトープを含むネオ抗原である。同様に、本明細書に記載された好ましいタンパク質のフラグメントは、一又は複数の疾患特異的なアミノ酸改変を含むタンパク質のフラグメントであり、好ましくは、一又は複数の疾患特異的なアミノ酸改変は、タンパク質のフラグメント内に位置する。したがって、本明細書に記載された好ましいタンパク質のフラグメントは、ネオエピトープである。
【0089】
本発明により、用語「ネオ抗原」は、親のペプチド又はタンパク質と比較して一又は複数のアミノ酸改変を含むペプチド又はタンパク質に関する。例えば、ネオ抗原は、腫瘍に関連するネオ抗原であってもよく、ここで、用語「腫瘍に関連するネオ抗原」は、腫瘍に特異的な変異に基づくアミノ酸改変を含むペプチド又はタンパク質を含む。
【0090】
本発明により、用語「疾患特異的な変異」は、疾患細胞の核酸中に存在するが、対応する正常な、即ち病んでいない細胞の核酸中には存在しない体細胞の変異に関する。
【0091】
本発明により、用語「腫瘍に特異的な変異」又は「がんに特異的な変異」は、腫瘍又はがんの細胞の核酸中に存在するが、対応する正常な、即ち腫瘍でない又はがんでない細胞の核酸には存在しない体細胞の変異に関する。用語「腫瘍に特異的な変異」及び「腫瘍変異」及び用語「がんに特異的な変異」及び「がん変異」は、本明細書では互換的に使用される。
【0092】
用語「免疫応答」は、免疫原性生物体などの免疫系、例えば、細菌又はウイルス、細胞又は物質などの反応に関する。用語「免疫応答」は、自然免疫応答及び適応免疫応答を含む。好ましくは、免疫応答は、免疫細胞の活性化、サイトカインの生合成及び/又は抗体産生の誘発に関する。
【0093】
本明細書に記載された組成物により誘発される免疫応答は、抗原提示細胞、例えば、樹状細胞及び/又はマクロファージなどの活性化工程、前記抗原提示細胞による抗原又はそれらのフラグメントの提示工程、及びこの提示に基づく細胞傷害性T細胞の活性化工程を含むことが好ましい。
【0094】
「免疫応答を誘発する」は、誘発の前に免疫応答はないことを意味し得るが、この用語は、誘発の前にもあるレベルの免疫応答があって、誘発後に前記免疫応答が増強されたことも意味することができる。したがって、「免疫応答を誘発する」は、「免疫応答を増強する」も含む。対象で免疫応答を誘発した後、前記対象が、がん疾患などの疾患を発症することから保護されるか又は免疫応答を誘発することにより疾患状態が軽減されることが好ましい。例えば、腫瘍に発現されている抗原に対する免疫応答は、がん疾患を有する患者又はがん疾患を発症するリスクにある対象で誘発されてもよい。この場合に免疫応答を誘発することは、対象の疾患状態が軽快すること、対象が転移を発生させないこと、又はがん疾患を発症するリスクにある対象ががん疾患を発症しないことを意味することができる。
【0095】
用語「細胞性免疫応答」及び「細胞応答」又は同様な用語は、「ヘルパー」又は「キラー」のいずれかで作用するT細胞又はTリンパ球を含む、クラスI又はクラスII MHCを有する抗原の提示により特徴づけられる細胞に向けられる免疫応答を指す。ヘルパーT細胞(CD4+T細胞とも称される)は、免疫応答を調節することにより中心的役割を演じ、キラー細胞(細胞傷害性T細胞、細胞溶解性T細胞、CD8+T細胞又はCTLとも称される)は、がん細胞などの疾患細胞を殺害して、より多くの疾患細胞の産生を防止する。好ましい実施態様において、本発明は、一又は複数の疾患に関連する抗原を発現し、好ましくはそのような疾患に関連するクラスI MHCを有する抗原を提示している疾患細胞に対する抗疾患CTL応答、特に、一又は複数の腫瘍に発現された抗原を発現し、好ましくは、そのような腫瘍に発現されたクラスI MHCを有する抗原を提示している腫瘍細胞に対する抗腫瘍CTL応答の刺激を含む。
【0096】
本発明により、用語「抗原」又は「免疫原」は、免疫応答の標的であり、及び/又は免疫応答を引き出す任意の物質、好ましくはペプチド又はタンパク質を網羅する。特に、「抗原」は、抗体又はTリンパ球(T細胞)と特異的に反応する任意の物質に関する。本発明により、用語「抗原」は、少なくとも1つのエピトープ、例えば、T細胞エピトープなどを含む任意の分子を含む。好ましくは、本発明の関係で、抗原は、任意選択的に、プロセシング後に免疫反応を誘発する、好ましくは、抗原又は抗原を発現する細胞に対して特異的な分子である。本発明により、免疫反応のための候補である任意の適当な抗原を使用することもでき、免疫反応は、好ましくは、細胞性免疫反応である。本発明の実施態様の関係において、抗原は、MHC分子の関係で、好ましくは、細胞により、好ましくは抗原提示細胞により提示され、それが抗原に対する免疫反応を生じさせる。抗原は、好ましくは、天然に生じる抗原に対応するか又はそれから誘導された生成物である。そのような天然に生じる抗原は、アレルゲン、ウイルス、細菌、真菌、寄生虫及び他の感染性薬剤及び病原体を含むか又はそれらに由来することもでき、抗原は、腫瘍抗原であることもある。本発明により、抗原は、天然に生じる生成物、例えば、ウイルスのタンパク質に対応するか、又はそれらの一部であることもある。好ましい実施態様において、抗原は、表面ポリペプチド、即ち、細胞の表面に生来表示されているポリペプチド、病原体、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫、アレルゲン、又は腫瘍である。抗原は、細胞、病原体、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫、アレルゲン、又は腫瘍に対する免疫応答を引き出すことができる。
【0097】
用語「疾患に関連する抗原」は、疾患と関連する任意の抗原を指して最も広い意味で使用される。疾患に関連する抗原は、宿主の免疫系を刺激して、疾患に対する細胞の抗原特異的な免疫応答及び/又は液性抗体応答を行わせるエピトープを含有する分子である。それ故、疾患に関連する抗原は、治療目的のために使用することができる。疾患に関連する抗原は、好ましくは、微生物叢による感染、典型的には微生物抗原と関連するか、又はがん、典型的には腫瘍と関連する。
【0098】
用語「病原体」は、生物体、好ましくは脊椎動物生物体に疾患を引き起こさせることができる病原性の生物学的材料を指す。病原体は、微生物、例えば、細菌、単細胞の真核生物の生物体(プロトゾア)、真菌、並びにウイルスを含む。
【0099】
用語「エピトープ」、「抗原ペプチド」、「抗原エピトープ」、「免疫原性ペプチド」及び「MHC結合ペプチド」は、本明細書では互換的に使用され、抗原などの分子中の抗原性決定基、即ち、免疫系により認識される、例えば、特にMHC分子の関係で提示された場合には、T細胞により認識される免疫学的に活性な化合物中の一部又はフラグメントを指す。タンパク質のエピトープは、好ましくは、前記タンパク質の連続した又は不連続の部分を含み、好ましくは5と100の間、好ましくは5と50の間、より好ましくは8と30の間、最も好ましくは10と25の間のアミノ酸の長さ、例えば、エピトープは、好ましくは、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、又は25アミノ酸の長さであることもできる。本発明により、エピトープは、細胞の表面にあるMHC分子などのMHC分子に結合することもでき、したがって、「MHC結合ペプチド」又は「抗原ペプチド」であり得る。
【0100】
用語「主要組織適合性複合体」及び略記号「MHC」は、MHCクラスI及びMHCクラスIIの分子を含み、全ての脊椎動物にある遺伝子の複合体に関する。MHCタンパク質又は分子は、免疫反応において、リンパ球と抗原提示細胞又は疾患細胞との間のシグナル伝達のために重要であり、MHCタンパク質又は分子がペプチドに結合して、それらをT細胞受容体による認識のために提示する。MHCによりコードされたタンパク質は、細胞の表面に発現され、自己抗原(細胞自体からのペプチドフラグメント)及び非自己抗原(例えば、侵入した微生物のフラグメント)の両方をT細胞に表示する。好ましいそのような免疫原性部分は、MHCクラスI又はクラスII分子に結合する。本明細書において使用する免疫原性部分は、そのような結合が当技術分野において公知の任意のアッセイを使用して検出可能であれば、MHCクラスI又はクラスII分子「に結合する」と言われる。用語「MHC結合ペプチド」は、MHCクラスI及び/又はMHCクラスIIの分子に結合したペプチドに関する。クラスI MHC/ペプチド複合体の場合に、結合しているペプチドは、典型的には8-10個のアミノ酸の長さであるが、それより長いペプチドも短いペプチドも効果的であり得る。クラスII MHC/ペプチド複合体の場合には、結合しているペプチドは、典型的には10-25アミノ酸の長さであり、特に13-18アミノ酸の長さであるが、それより長いペプチドも短いペプチドも効果的であり得る。本発明の全ての態様のなかの1つの好ましい実施態様において、MHC分子はHLA分子である。
【0101】
ペプチドが、例えば、ワクチン配列又はポリペプチドの追加の配列を含む、より大きい存在物の一部であり、プロセシング後、特に開裂後に提示されることになるならば、プロセシングにより産生されるペプチドは、MHC分子、特にクラスI MHC分子に結合するために適当な長さを有し、好ましくは7-30アミノ酸の長さ、例えば、7-20アミノ酸の長さ、より好ましくは7-12アミノ酸の長さ、より好ましくは8-11アミノ酸の長さ、特に9又は10アミノ酸の長さである。好ましくは、プロセシング後に提示されることになるペプチドの配列は、ワクチン接種に使用される抗原又はポリペプチドのアミノ酸配列から誘導される、即ち、その配列は、抗原又はポリペプチドのフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一である。
【0102】
したがって、一実施態様におけるMHC結合ペプチドは、抗原のフラグメントに実質的に対応し、好ましくは完全に同一の配列を含む。
【0103】
本明細書において使用する用語「ネオエピトープ」は、正常の病んでいない(例えばがんでない)又は生殖細胞系列の細胞などの参照には存在しないが、疾患細胞(例えばがん細胞)に見出されるエピトープを指す。これは、特に、正常の病んでいない又は生殖細胞系列の細胞では、対応するエピトープが見出されるが、しかしながら、疾患細胞における一又は複数の変異に基づいて、エピトープの配列がネオエピトープを生ずるように変化している状況を含む。
【0104】
本明細書において使用する用語「T細胞エピトープ」は、T細胞受容体により認識される配置で、MHC分子に結合しているペプチドを指す。典型的には、T細胞エピトープは、抗原提示細胞の表面に提示される。
【0105】
本発明によるT細胞エピトープは、好ましくは、免疫応答、好ましくは抗原の発現により、好ましくは、疾患細胞、特にがん細胞などの抗原の提示により特徴づけられる抗原又は細胞に対する細胞応答を刺激することができる抗原の一部又はフラグメントに関する。好ましくは、T細胞エピトープは、クラスI MHCを有する抗原の提示により特徴づけられる細胞に対する細胞応答を刺激することができ、好ましくは、抗原応答性細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を刺激することができる。
【0106】
一実施態様において、本発明によるワクチンは、標的生物体のワクチン接種のために適当なエピトープを含む。当業者は、免疫生物学及びワクチン接種の原理の1つは、疾患に対する免疫防御反応が、治療されるべき疾患に免疫学的に関係するワクチンを用いて生物体を免疫化することにより生ずるという事実に基づくことを知っているであろう。本発明により、抗原は、自己抗原及び非自己抗原を含む群から選択される。非自己抗原は、好ましくは、細菌の抗原、ウイルス抗原、真菌の抗原、アレルゲン又は寄生虫の抗原である。抗原は、標的の生物体に免疫応答を引き出すことができるエピトープを含むことが好ましい。例えば、エピトープは、細菌、ウイルス、真菌、寄生虫、アレルゲン、又は腫瘍に対する免疫応答を引き出すことができる。
【0107】
幾つかの実施態様において、非自己抗原は細菌の抗原である。幾つかの実施態様において、抗原は、鳥類、魚類、及び家畜化された動物を含む哺乳動物を含む動物に感染する細菌に対する免疫応答を引き出す。好ましくは、それに対する免疫応答が引き出される細菌は病原性細菌である。
【0108】
幾つかの実施態様において、非自己抗原はウイルス抗原である。ウイルス抗原は、例えば、ウイルスの表面タンパク質、例えばカプシドポリペプチド又はスパイクポリペプチドからのペプチドであることもある。幾つかの実施態様において、抗原は、鳥類、魚類、及び家畜化された動物を含む哺乳動物を含む動物に感染するウイルスに対する免疫応答を引き出す。好ましくは、それに対する免疫応答が引き出されるウイルスは病原性ウイルスである。
【0109】
幾つかの実施態様において、非自己抗原は、真菌からのポリペプチド又はタンパク質である。幾つかの実施態様において、抗原は、鳥類、魚類、及び家畜化された動物を含む哺乳動物を含む動物に感染する真菌に対する免疫応答を引き出す。好ましくは、それに対する免疫応答が引き出された真菌は病原性真菌である。
【0110】
幾つかの実施態様において、非自己抗原は、単細胞の真核生物の寄生虫からのポリペプチド又はタンパク質である。幾つかの実施態様において、抗原は、単細胞の真核生物寄生虫、好ましくは、病原性の単細胞の真核生物の寄生虫に対する免疫応答を引き出す。病原性の単細胞の真核生物の寄生虫は、例えば、プラスモジウム属(genus Plasmodium)、例えば熱帯熱マラリア原虫(P.falciparum)、三日熱マラリア原虫(P.vivax)、四日熱マラリア原虫(P.malariae)又は卵形マラリア原虫(P.ovale)、レイシュマニア属(genus Leishmania)から、又はトリパノソーマ属(genus Trypanosoma)から、例えばクルーズトリパノソーマ(T.cruzi)又はブルーストリパノソーマ(T.brucei)であることもある。
【0111】
幾つかの実施態様において、非自己抗原は、アレルゲン性ポリペプチド又はアレルゲン性タンパク質である。アレルゲン性タンパク質又はアレルゲン性ポリペプチドは、減感作としても公知のアレルゲン免疫療法のために適当である。
【0112】
幾つかの実施態様において、抗原は、自己抗原、特に腫瘍抗原である。腫瘍抗原及びそれらの決定は、当業者に公知である。
【0113】
本発明の関係において、用語「腫瘍抗原」又は「腫瘍に関連する抗原」は、通常の条件下で、限定された数の組織及び/又は器官で、又は特定の発達段階で、特異的に発現されるタンパク質に関し、例えば、腫瘍抗原は、胃の組織で、好ましくは胃粘膜で、生殖器官で、例えば、精巣で、栄養芽細胞組織で、例えば、胎盤で、又は胚芽系統細胞で、通常の条件下で特異的に発現され得、一又は複数の腫瘍又はがん組織で、発現されるか又は異常に発現される。この関係で、「限定された数」は、好ましくは、3以下、より好ましくは、2以下を意味する。腫瘍抗原は、本発明の関係で、例えば、分化抗原、好ましくは細胞のタイプに特異的な分化抗原、即ち、通常の条件下で、ある一定の細胞タイプにおいて、ある一定の分化段階で特異的に発現されるタンパク質、がん/精巣抗原、即ち、通常の条件下において精巣で特異的に、時には、胎盤で発現されるタンパク質、及び胚芽系統に特異的な抗原を含む。本発明の関係において、腫瘍抗原は、好ましくは、がん細胞の細胞表面に関し、好ましくは正常組織では発現されず又は稀にしか発現されない。好ましくは、腫瘍抗原又は腫瘍抗原の異常な発現により、がん細胞が同定される。本発明の関係において、対象、例えば、がん疾患を患う患者でがん細胞により発現される腫瘍抗原は、好ましくは、前記対象における自己タンパク質である。好ましい実施態様において、腫瘍抗原は、本発明の関係で、通常の条件下で、必須でない組織又は器官、即ち、免疫系により損傷された場合に対象が死に至らない組織又は器官、又は免疫系が接近できない又は殆ど接近できない身体の器官又は構造で、特異的に発現される。好ましくは、腫瘍抗原のアミノ酸配列は、正常組織で発現される腫瘍抗原とがん組織で発現される腫瘍抗原の間で同一である。
【0114】
本発明に有用であり得る腫瘍抗原の例は、p53、ART-4、BAGE、ベータ-カテニン/m、Bcr-abLCAMEL、CAP-1、CASP-8、CDC27/m、CDK4/m、CEA、クローディン・ファミリーの細胞表面タンパク質、例えば、クローディン-6、クローディン-18.2及びクローディン-12など、c-MYC、CT、Cyp-B、DAM、ELF2M、ETV6-AML1、G250、GAGE、GnT-V、Gap100、HAGE、HER-2/neu、HPV-E7、HPV-E6、HAST-2、hTERT(又はhTRT)、LAGE、LDLR/FUT、MAGE-A、好ましくはMAGE-A1、MAGE-A2、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A5、MAGE-A6、MAGE-A7、MAGE-A8、MAGE-A9、MAGE-A10、MAGE-A11、又はMAGE-A12、MAGE-B、MAGE-C、MART-1/Melan-A、MC1R、ミオシン/m、MUC1、MUM-1、-2、-3、NA88-A、NF1、NY-ESO-1、NY-BR-1、p190マイナーBCR-abL、Pm1/RARa、PRAME、プロテイナーゼ3、PSA、PSM、RAGE、RU1又はRU2、SAGE、SART-1又はSART-3、SCGB3A2、SCP1、SCP2、SCP3、SSX、SURVIVIN、TEL/AML1、TPI/m、TRP-1、TRP-2、TRP-2/INT2、TPTE及びWTである。特に好ましい腫瘍抗原は、クローディン-18.2(CLDN18.2)及びクローディン-6(CLDN6)を含む。
【0115】
用語「免疫原性」は、好ましくは、治療的処置、例えばがんに対する治療などと関連する免疫応答を誘発する相対有効性に関する。本明細書において使用する用語「免疫原性」は、免疫原性を有する性質に関する。例えば、用語「免疫原性改変」は、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質の関係で使用された場合、前記ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質の、前記改変により及び/又はそれに対して引き起こされる免疫応答を誘発する有効性に関する。好ましくは、非改変ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質は、免疫応答を誘発せず、異なる免疫応答を誘発するか又は異なるレベル、好ましくはより低いレベルの免疫応答を誘発する。
【0116】
本発明により、用語「免疫原性」又は「免疫原性の」は、好ましくは、生物学的に関係する免疫応答、特にワクチン接種のために有用な免疫応答を誘発する相対有効性に関する。したがって、好ましい一実施態様において、アミノ酸改変又は改変ペプチドは、それが対象における標的とする改変に対して、治療的又は予防的目的のために有益であり得る免疫応答を誘発するならば、免疫原性である。
【0117】
本明細書において使用する用語「免疫療法のためのタンパク質又はそのフラグメントの有用性を予測する」は、タンパク質又は一若しくは複数のそれらのフラグメント、例えばエピトープ、特にT細胞エピトープなどが、免疫応答を誘発するか又は免疫応答を標的とするために有用であるかどうかを予測することに関する。疾患に関連する抗原などのタンパク質が、免疫療法のために有用であると予測されれば、例えば、前記タンパク質のエピトープは、本明細書に記載されたワクチン接種のために使用することができ、又は前記タンパク質のエピトープを標的とするエフェクター細胞を投与することもできる。免疫療法のための有用性が本発明により予測され得るタンパク質は、患者の疾患細胞中で発現されることが好ましい。
【0118】
本発明により、T細胞エピトープは、より大きい存在物、例えば、ワクチン配列及び/又は1を超えるT細胞エピトープを含むポリペプチドの一部として、ワクチン中に存在することもできる。提示されたペプチド又はT細胞エピトープは、適当なプロセシングの後に産生される。また、T細胞エピトープは、TCR認識又はMHCへの結合のために必須ではない一又は複数の残基で改変されていてもよい。そのような改変されたT細胞エピトープは、免疫学的に同等と考えられてもよい。好ましくは、T細胞エピトープが、MHCにより提示されてT細胞により認識されたときに、受容体は、適当な共刺激するシグナルの存在で、ペプチド/MHC複合体を特異的に認識するT細胞受容体を担持するT細胞のクローン増殖を誘発することができる。好ましくは、T細胞エピトープは、抗原のフラグメントのアミノ酸配列に実質的に対応するアミノ酸配列を含む。好ましくは、前記抗原のフラグメントは、MHCクラスI及び/又はクラスIIに提示されたペプチドである。
【0119】
「抗原のプロセシング」又は「プロセシング」は、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を分解して処理された生成物にすることを指し、該生成物は前記ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質のフラグメント(例えば、ポリペプチドのペプチドへの分解)であり、及び一又は複数のこれらのフラグメントと細胞、好ましくは抗原提示細胞による特異的T細胞への提示のためのMHC分子との会合(例えば、結合による)である。
【0120】
クラスIIに限定された抗原は、抗原提示細胞にエンドサイトーシスの経路を通して入り、エンドソーム区画で処理された外因性タンパク質から大きく誘導される。対照的に、クラスIに限定されたエフェクターCTLにより認識された抗原は、内因的に合成されたタンパク質から通常誘導される。したがって、外因性タンパク質は、それらが標的細胞の細胞原形質中に直接導入されない限り、クラスIに限定されたエフェクターCTLのために抗原決定基を提供することができない。
【0121】
用語「交差提示」は、細胞外抗原を取り上げて処理し、MHCクラスI分子でCD8T細胞(細胞傷害性T細胞)に提示する抗原提示細胞の能力に関する。クロスプライミングは、ナイーヴな細胞傷害性CD8+T細胞のこのプロセスによる刺激を記述する。交差提示することができる抗原提示細胞は、主として樹状細胞であるが、マクロファージ、Bリンパ球及び類洞内皮細胞もそのようにすることができることが示されている。
【0122】
クロスプライミングは、ウイルスのタンパク質及び腫瘍抗原に対して起こることが示されている。このことは、クロスプライミングが免疫系に、プロフェッショナルAPCに感染しない組織向性ウイルスを検出して応答できる機構を提供することができるという提案を導いた。そのような機構の不在において、ウイルスは、プロフェッショナルAPCを避けることにより、免疫サーベイランスを逃れることができた。この機構は、免疫系に、新しく生じた腫瘍細胞により発現されたネオ抗原を探査する手段も提供する。外因性の外来抗原のように、外因性の自己抗原はクラスIの提示経路に入ることができる。
【0123】
「抗原提示細胞」(APC)は、タンパク質抗原のペプチドフラグメントを、それらの細胞表面で、MHC分子と会合して提示する細胞である。一部のAPCは、抗原特異的T細胞を活性化することができる。
【0124】
プロフェッショナル抗原提示細胞は、抗原を、食作用により又は受容体に媒介されるエンドサイトーシスによりのいずれかで、非常に効率的に内在化して、次にクラスII MHC分子に結合した抗原のフラグメントを、それらの膜上に表示する。T細胞は、抗原提示細胞の膜上にある抗原クラスII MHC分子複合体を認識してそれと相互作用する。次に、追加の共刺激シグナルが抗原提示細胞により産生されて、T細胞の活性化を導く。共刺激する分子の発現は、プロフェッショナル抗原提示細胞の決定的な特徴である。
【0125】
プロフェッショナル抗原提示細胞の主要なタイプは、最も広い範囲の抗原提示を有し、おそらく、最も重要な抗原提示細胞である樹状細胞、マクロファージ、B細胞、及びある一定の活性化された上皮細胞である。樹状細胞(DC)は、末梢組織に捕捉された抗原を、MHCクラスII及びIの両方の抗原提示経路を通してT細胞に提示する、白血球集団である。樹状細胞は、強い免疫応答の誘発因子であり、これらの細胞の活性化が、抗腫瘍免疫の誘発にとって臨界工程であることは周知である。樹状細胞は、便宜上「未成熟」及び「成熟」細胞に類別され、それは2つの十分特徴づけられた表現型間を識別する簡単な方法として使用され得る。しかしながら、この命名法は、分化の全ての可能な中間段階を排除すると解釈されるべきではない。未成熟の樹状細胞は、Fcγ受容体及びマンノース受容体の高い発現と相関する、抗原取り込み及びプロセシングのための高い能力を有する抗原提示細胞として特徴づけられている。成熟表現型は、典型的には、これらのマーカーのより低い発現により特徴づけられているが、細胞表面分子、例えば、クラスI及びクラスII MHC、接着分子(例えばCD54及びCD11)及び共刺激分子(例えば、CD40、CD80、CD86及び4-1BB)などの高い発現は、T細胞活性化の原因になる。樹状細胞の成熟は、樹状細胞活性化の状態に当たり、そこでそのような抗原提示樹状細胞はT細胞プライミングを導き、それに対して未成熟樹状細胞による提示は寛容を生じさせる。樹状細胞の成熟は、生来の受容体により検出される微生物の特徴を有するバイオ分子(細菌のDNA、ウイルスのRNA、エンドドキシン、その他)、炎症誘発性サイトカイン(TNF、IL-1、IFN)、樹状細胞表面におけるCD40LによるCD40のライゲーション、及びストレスの多い細胞死を遂げる細胞から放出された物質により主として引き起こされる。樹状細胞は、骨髄細胞をin vitroで、サイトカイン、例えば顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)及び腫瘍壊死因子アルファなどと共に培養することにより誘導され得る。
【0126】
非プロフェッショナル抗原提示細胞は、ナイーヴT細胞との相互作用に必要なMHCクラスIIタンパク質を恒常的には発現しない。これらは、IFNγなどのある一定のサイトカインにより非プロフェッショナル抗原提示細胞の刺激があったときだけ発現される。
【0127】
「抗原の提示により特徴づけられる細胞」又は「抗原を提示している細胞」又は同様な表現により、疾患細胞、例えばがん細胞、又は抗原若しくは前記抗原から、MHC分子、特にMHCクラスI分子の関係で、例えば抗原のプロセシングにより誘導されたフラグメントを提示している抗原提示細胞などの細胞が意味される。同様に、用語「抗原の提示により特徴づけられる疾患」は、特にクラスI MHCを有する抗原の提示により特徴づけられる細胞が関与する疾患のことである。細胞による抗原の提示は、細胞に、抗原をコードするRNAなどの核酸をトランスフェクトすることにより実行することもできる。
【0128】
「提示された抗原のフラグメント」又は同様な表現により、フラグメントが、例えば、抗原提示細胞に直接加えられたときに、MHCクラスI又はクラスII、好ましくはMHCクラスIにより提示され得ることが意味される。一実施態様において、フラグメントは、抗原を発現する細胞により天然に提示されているフラグメントである。
【0129】
「標的細胞」は、細胞性免疫応答などの免疫応答のための標的である細胞を意味するべきである。標的細胞は、抗原、即ち抗原から誘導されたペプチドフラグメントを提示している細胞を含み、がん細胞などの任意の望ましくない細胞を含む。好ましい実施態様において、標的細胞は、本明細書に記載された抗原を発現して、好ましくは、前記抗原をクラスI MHCと共に提示している細胞である。
【0130】
用語「部分」は、分画を指す。アミノ酸配列又はタンパク質などの特定の構造に関して、それらの「部分」という用語は、前記構造の連続した又は不連続の分画を表すことができる。好ましくは、アミノ酸配列の部分は前記アミノ酸配列のアミノ酸の、少なくとも1%、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、より好ましくは少なくとも60%、より好ましくは少なくとも70%、さらにより好ましくは少なくとも80%、及び最も好ましくは少なくとも90%を含む。好ましくは、部分が不連続の分画であれば、前記不連続の分画は、2、3、4、5、6、7、8、又はそれを超える構造の一部から構成され、各一部は、構造の連続した要素である。例えば、アミノ酸配列の不連続の分画は、2、3、4、5、6、7、8、又はそれを超える、好ましくは、前記アミノ酸配列の4以下の一部から構成されることもでき、各一部は、好ましくは、アミノ酸配列の少なくとも5個の連続したアミノ酸、少なくとも10個の連続したアミノ酸、好ましくは少なくとも20個の連続したアミノ酸、好ましくは少なくとも30個の連続したアミノ酸を含む。
【0131】
用語「一部」及び「フラグメント」は、本明細書では互換的に使用され、連続した要素を指す。例えば、アミノ酸配列又はタンパク質などの構造の一部は、前記構造の連続した要素を指す。構造の部分、一部又はフラグメントは、好ましくは、前記構造の一又は複数の機能的性質を含む。例えば、エピトープ、ペプチド又はタンパク質の部分、一部又はフラグメントは、それがそこから誘導されたエピトープ、ペプチド又はタンパク質と好ましくは免疫学的に同等である。本発明の関係において、アミノ酸配列などの構造の「一部」は、全構造又はアミノ酸配列の、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、少なくとも92%、少なくとも94%、少なくとも96%、少なくとも98%、少なくとも99%を、好ましくは含み、好ましくはそれらからなる。
【0132】
本発明の関係において、用語「エフェクター細胞」、「免疫エフェクター細胞」又は「免疫反応性細胞」は、免疫反応中にエフェクター機能を発揮する細胞に関する。「免疫反応性細胞」は、好ましくは、抗原又は、それらのペプチドフラグメント(例えばT細胞エピトープ)の提示により特徴づけられる抗原又は細胞に結合して、免疫応答を媒介することができる。例えば、そのような細胞は、サイトカイン及び/又はケモカインを分泌し、抗体を分泌して、がん性細胞を認識して、任意選択的にそのような細胞を排除する。例えば、免疫反応性細胞は、T細胞(細胞傷害性T細胞、ヘルパーT細胞、腫瘍浸潤T細胞)、B細胞、ナチュラルキラー細胞、好中球、マクロファージ、及び樹状細胞を含む。好ましくは、本発明の関係において、免疫反応性細胞は、T細胞、好ましくはCD4+及び/又はCD8+T細胞である。
【0133】
好ましくは、「免疫反応性細胞」は、抗原又は、それらのペプチドフラグメントを、特に、MHC分子の関係で、抗原提示細胞又はがん細胞などの疾患細胞の表面などで提示されれば、特異性のある程度で認識する。好ましくは、前記認識は、抗原又はそれらのペプチドフラグメントを認識する細胞が応答性又は反応性であることを可能にする。細胞が抗原又はそれらのペプチドフラグメントを認識する受容体を担持するヘルパーT細胞(CD4+T細胞)であれば、MHCクラスII分子の関係において、そのような応答性又は反応性は、サイトカインの放出及び/又はCD8+リンパ球(CTL)及び/又はB細胞の活性化を包含することもできる。細胞がCTLであれば、そのような応答性又は反応性は、MHCクラスI分子の関係で提示された細胞、即ち、クラスI MHCを有する抗原の提示により特徴づけられる細胞の、例えば、アポトーシス又はパーフォリンに媒介される細胞溶解による排除を含むこともできる。本発明により、CTL応答性は、持続するカルシウム流束、細胞分裂、IFN-γ及びTNF-αなどのサイトカインの産生、CD44及びCD69などの活性化マーカーの上方制御、及び抗原を発現している標的細胞の特異的細胞溶解性殺害を含むこともできる。CTL応答性は、CTL応答性を正確に示す人工レポーターを使用して決定することもできる。抗原又は抗原フラグメントを認識して、応答性又は反応性であるそのようなCTLは、本明細書では「抗原応答性CTL」とも称される。細胞がB細胞であれば、そのような応答性は、免疫グロブリンの放出を含むこともある。
【0134】
用語「T細胞」及び「Tリンパ球」は、本明細書では互換的に使用され、Tヘルパー細胞(CD4+T細胞)及び細胞溶解性T細胞を含む細胞傷害性T細胞(CTL、CD8+T細胞)を含む。
【0135】
T細胞は、リンパ球として公知の白血球の群に属して、細胞媒介免疫で中心的役割を演ずる。それらは、B細胞及びナチュラルキラー細胞などの他のリンパ球のタイプと、それらの細胞表面にあるT細胞受容体(TCR)と呼ばれる特別な受容体の存在によって識別され得る。胸腺がT細胞の成熟を担当する主な器官である。T細胞の数種類の異なるサブセットが発見されており、各々性質の異なる機能を有する。
【0136】
Tヘルパー細胞は、他の機能の中でも、B細胞のプラズマ細胞への成熟及び細胞傷害性T細胞及びマクロファージの活性化を含む免疫学的プロセスで他の白血球を補助する。これらの細胞は、CD4+T細胞としても公知であり、その理由は、それらが、それらの表面にCD4タンパク質を発現しているからである。ヘルパーT細胞は、それらが、抗原提示細胞(APC)の表面に発現されるMHCクラスII分子により、ペプチド抗原を提示されたときに活性化される。活性化されると、それらは急速に分裂し、活性な免疫応答を調節又は補助するサイトカインと呼ばれる小さいタンパク質を分泌する。
【0137】
細胞傷害性T細胞は、ウイルスに感染した細胞及び腫瘍細胞を破壊し、移植拒絶にも関与する。これらの細胞は、それらがそれらの表面にCD8糖タンパク質を発現しているので、CD8+T細胞としても公知である。これらの細胞は、身体の殆ど全ての細胞の表面に存在するMHCクラスIと関連する抗原に結合することにより、それらの標的を認識する。
【0138】
T細胞の大部分は、数種類のタンパク質の複合体として存在するT細胞受容体(TCR)を有する。実際のT細胞受容体は、独立のT細胞受容体アルファ及びベータ(TCRα及びTCRβ)遺伝子から産生され、α-及びβ-TCR鎖と呼ばれる2本の別のペプチド鎖から構成されている。γδT細胞(ガンマデルタT細胞)は、それらの表面に性質の異なるT細胞受容体(TCR)を有するT細胞の小さいサブセットを表す。しかしながら、γδT細胞においては、TCRは、1本のγ-鎖及び1本のδ-鎖でできている。T細胞のこの群は、αβT細胞よりもはるかにありふれていない(全T細胞の2%)。
【0139】
本発明による用語「抗原受容体」は、T細胞受容体などの天然に生ずる受容体並びに操作された受容体を含み、それらは、モノクローナル抗体の特異性などの何らかの特異性をT細胞などのエフェクター細胞に与える。このようにして、多数の抗原特異的T細胞を、養子細胞移入のために発生することができる。したがって、本発明による抗原受容体が、例えばT細胞自体のT細胞受容体の代わりに又はそれに加えて、T細胞上に存在することができる。そのようなT細胞は、標的細胞を認識するために、プロセシング及び抗原の提示を必要とするとは限らないが、好ましくは、標的細胞に存在する何らかの特異性の抗原を認識することができる。好ましくは、前記抗原受容体が細胞の表面に発現されている。本発明の目的のために、操作された抗原受容体を含むT細胞が、本明細書において使用される用語「T細胞」に含まれる。特に、本発明による用語「抗原受容体」は、がん細胞などの標的細胞にある標的構造(例えば抗原)を認識し、即ちそれに結合し(例えば、抗原結合部位又は抗原結合ドメインの、標的細胞の表面に発現された抗原への結合により)、細胞表面に前記抗原受容体を発現しているT細胞などのエフェクター細胞に特異性を与えることができる単一の分子又は分子の複合体を含む人工受容体を含む。好ましくは、抗原受容体による標的構造の認識は、前記抗原受容体を発現しているエフェクター細胞の活性化を生じさせる。本発明による「抗原受容体」は、「キメラ抗原受容体(CAR)」、「キメラT細胞受容体」又は「人工T細胞受容体」であってもよい。
【0140】
本発明により、抗原は、任意の抗原を、抗原認識ドメイン(本明細書では単に「ドメイン」とも称する)を通して抗原受容体により認識することができ、同じか又は異なるペプチド鎖にあってもよい抗体とT細胞受容体の抗原結合部分などを通して、抗原結合部位を形成することができる。一実施態様において、抗原結合部位を形成する2つのドメインは、免疫グロブリンから誘導される。別の実施態様において、抗原結合部位を形成する2つのドメインは、T細胞受容体から誘導される。モノクローナル抗体及びT細胞受容体の可変ドメイン、特にTCRアルファ及びベータ単一鎖から誘導された単一鎖の可変フラグメント(scFv)などの抗体可変ドメインは特に好ましい。事実、高い親和性で所与の標的に結合する殆どどのようなものでも、ドメインを認識する抗原として使用することができる。
【0141】
T細胞の活性化における第1のシグナルは、別の細胞上のMHCにより提示されている短いペプチドへのT細胞受容体の結合により提供される。このことは、そのペプチドに特異的なTCRを有するT細胞だけが活性化されることを確実にする。パートナー細胞は、通常は、抗原提示細胞、例えば、プロフェッショナル抗原提示細胞、通常、ナイーヴな応答の場合には樹状細胞であるが、B細胞及びマクロファージは重要なAPCであり得る。
【0142】
本発明によると、分子は、それが前記所定の標的に有意の親和性を有していれば、標的に結合することができ、標準アッセイにおいて前記所定の標的に結合する。「親和性」又は「結合親和性」は、しばしば平衡解離定数(KD)により測定される。分子は、それが、前記標的に有意の親和性を有さなければ、標的に(実質的に)結合することができず、標準アッセイで前記標的に有意に結合しない。
【0143】
細胞傷害性Tリンパ球は、抗原又はそれらのペプチドフラグメントをin vivoにおいて抗原提示細胞中に組み込むことにより、in vivoにおいて発生され得る。抗原又はそれらのペプチドフラグメントは、タンパク質として、DNA(例えばベクター内の)として、又はRNAとして表すこともできる。抗原は、処理されて、MHC分子のペプチドパートナーを生ずることもできるが、それらのフラグメントは、さらなるプロセシングを必要とせずに提示され得る。特に、これらがMHC分子に結合することができれば、後者が事実である。一般的に、皮内注射による患者への投与は可能である。しかしながら、注射は、リンパ節内に実施することもできる(Maloyら(2001)、Proc Natl Acad Sci USA 98: p3299-303)。生じた細胞は、関心のある複合体を提示し、自家細胞傷害性Tリンパ球により認識され、次に増殖する。
【0144】
CD4+又はCD8+T細胞の特異的活性化は、種々の方法で検出することができる。特異的T細胞活性化を検出する方法は、T細胞の増殖、サイトカイン(例えばリンホカイン)の産生、又は細胞溶解活性の発生を検出することを含む。CD4+T細胞について、特異的T細胞活性化を検出する好ましい方法は、T細胞の増殖の検出である。CD8+T細胞については、特異的T細胞活性化を検出する好ましい方法は、細胞溶解活性の発生の検出である。
【0145】
用語「免疫学的に同等」は、免疫学的に同等なアミノ酸配列などの免疫学的に同等な分子が、同じか又は本質的に同じ免疫学的性質を示し、及び/又は、例えば、液性及び/又は細胞性免疫応答の誘発、誘発された免疫反応の強度及び/又は持続時間、又は誘発された免疫反応の特異性などの免疫学的効果のタイプに関して、同じか又は本質的に同じ免疫学的効果を発揮することを意味する。本発明の関係において、用語「免疫学的に同等」は、好ましくは、免疫化のために使用されるペプチドの免疫学的効果又は性質に関して使用される。例えば、アミノ酸配列は、前記アミノ酸配列が、対象の免疫系に曝露されたときに、参照アミノ酸配列との反応の特異性を有する免疫反応を誘発するならば、参照アミノ酸配列と免疫学的に同等である。
【0146】
本発明の関係において、用語「免疫エフェクター機能」は、例えば、腫瘍細胞の殺害、又は腫瘍成長の阻害及び/又は、腫瘍の伝搬及び転移の阻害を含む腫瘍の発達の阻害をもたらす免疫系の成分により媒介される任意の機能を含む。好ましくは、免疫エフェクター機能は、本発明の関係において、T細胞に媒介されるエフェクター機能である。そのような機能は、ヘルパーT細胞(CD4+T細胞)の場合には、MHCクラスII分子の関係で、T細胞受容体による抗原又は抗原フラグメントの認識、サイトカインの放出及び/又はCD8+リンパ球(CTL)及び/又はB細胞の活性化、並びにCTLの場合には、MHCクラスI分子の関係で、T細胞受容体による抗原又は抗原フラグメントの認識、MHCクラスI分子の関係で、提示された細胞、即ち、クラスI MHCを有する抗原の提示により特徴づけられた細胞の、アポトーシス又はパーフォリンに媒介された細胞溶解による排除、例えば、IFN-γ及びTNF-αなどのサイトカインの産生、及び抗原を発現している標的細胞の特異的細胞溶解性の殺害を含む。
【0147】
一般的に、本発明により、疾患細胞により発現されたタンパク質は、免疫療法におけるそれらの有用性に関して査定される。免疫療法について予測された有用性を有するタンパク質は、タンパク質又は一若しくは複数のそれらのペプチドフラグメント、特に一若しくは複数の(潜在的)MHCを結合するタンパク質のペプチドを含むワクチンを提供するために使用することができる。
【0148】
本発明により、用語「分布」は、局在化状態を指す。用語「分布又は局在化を確かめること」は、特に、局在化状態の決定又は予測、例えば、ペプチド、タンパク質又は核酸の細胞内の局在化又は富化の決定又は予測、例えば、in vivoにおいてサイトゾル中及び/又はエキソソーム内で、ペプチド、タンパク質又は核酸が局在する、又は豊富である、のどちらであるかの決定又は予測を含む。
【0149】
「予測する」、「予測すること」又は「予測」などの用語は、尤度の決定に関する。
【0150】
本発明により、疾患細胞により発現されたタンパク質又はそのフラグメントの免疫療法のための有用性を予測することは、以下の一又は複数を含むことができる:(i)タンパク質若しくはそれらをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントの分布若しくは局在化を確かめること、例えば、in vivoにおいてサイトゾル中及び/又はエキソソーム内で、タンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントが局在する、又は豊富である、のどちらであるかを確かめること、(ii)タンパク質又はそのフラグメントが、抗原提示細胞、好ましくはプロフェッショナル抗原提示細胞により交差提示されているかどうかを確かめること、(iii)タンパク質又はそのフラグメントに対する既存の抗体応答を確かめること、(iv)タンパク質又はそのフラグメントが、Fアクチンに結合しているかどうかを確かめること、(v)タンパク質又はそのフラグメントが、RNAに結合しているかどうかを確かめること。
【0151】
一実施態様において、in vivoにおいてエキソソーム内で、タンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントが局在する、又は豊富である、のどちらであるかを確かめることは、細胞外流体の試料を得て、例えば分別遠心分離によりエキソソームを分離し、例えばゲル電気泳動によりタンパク質又は核酸を分離し、前記タンパク質又はそのフラグメントを、例えば質量分析法、ELISA、フローサイトメトリー、抗体アレイ又はウェスターンブロット法により同定すること又は前記タンパク質をコードする核酸を同定すること、例えばマイクロアレイ、RNAの配列決定又はRT-PCRにより同定することにより実施される。別の実施態様において、in vivoにおいてエキソソーム内で、タンパク質又はそれをコードする核酸、又はタンパク質のフラグメントが局在する、又は豊富である、のどちらであるかを確かめることは、上のこの節に記載された実験からのデータを集めたデータベース、例えばExoCarta(Keerthikumar、S.ら J. Mol. Biol. 428、 p688(2016))から情報を抽出することにより実施される。
【0152】
一実施態様において、既存の抗体応答を確かめることは、SEREXを使用して実施することができる。SEREXは、組換え発現クローニングによる抗原の血清学的同定を意味して、腫瘍から誘導されたcDNAが形質導入されたファージライブラリーの認識について、患者血清からの抗体のスクリーニングにより腫瘍抗原を同定する方法である。この技法は、様々な種類の患者の潜在的抗原を発現させるファージディスプレイライブラリーを使用する。抗原が2次元の表面に移され、それらを特定のクローンにマッピングすることが可能になる。その表面が自家患者血清とインキュベートされる。免疫反応性クローンの位置が突き止められ、培養され、配列決定される(Sahin、U.ら、PNAS 92、p11810 (1995))。
【0153】
本発明は、MHC結合を求めてタンパク質配列を適当なフラグメントに分解すること、及び一又は複数のMHC分子に対するフラグメントの結合についてスコアを確かめることを含むこともできる。得られた結果は、格付けられ、ペプチドのリスト及びそれらの結合の尤度を示すそれらの予測されたスコアからなることもできる。一般的に、本発明によるタンパク質は、それらが一又は複数の(潜在的)MHCを結合しているペプチドを含有していれば、特に免疫療法のために有用である。
【0154】
本発明の方法は、がん患者などの患者のために、例えば、がん患者などの患者の腫瘍検体について実施することもできる。
【0155】
本発明により、本明細書に記載されたタンパク質又はタンパク質フラグメントは、好ましくは、少なくとも1つのアミノ酸改変を含有する。免疫療法のための有用性が本発明により決定されるべき、又は本発明によるそれらの予測された免疫原性により選択及び/又は格付けされるべきアミノ酸改変は、細胞の核酸における変異から生じ得る。そのような変異は、公知の配列決定技法により同定され得る。
【0156】
一実施態様において、変異は、がん患者の腫瘍検体におけるがんに特異的な体細胞の変異であり、それは、腫瘍検体のゲノム、エキソーム及び/又はトランスクリプトームと、腫瘍形成性でない検体のゲノム、エキソーム及び/又はトランスクリプトームとの配列の差を同定することにより決定され得る。
【0157】
本発明により、腫瘍検体は、腫瘍又はがん細胞を含有する又は含有すると予想される患者に由来する身体の試料などの任意の試料に関する。身体の試料は、任意の組織試料、例えば、血液、原発性腫瘍又は腫瘍転移から得た組織試料又は腫瘍あるいはがん細胞を含有する任意の他の試料であってもよい。好ましくは、身体の試料は、血液であり、がんに特異的な体細胞の変異又は配列の差は、血液に含有される一又は複数の循環する腫瘍細胞(CTC)で決定される。別の実施態様において、腫瘍検体は、一又は複数の分離された腫瘍若しくはがん細胞、例えば、循環する腫瘍細胞(CTC)又は一又は複数の分離された腫瘍又はがん細胞、例えば循環する腫瘍細胞(CTC)などを含有する試料に関する。
【0158】
非腫瘍形成性検体は、患者又は好ましくは患者と同じ種のものである別の個体から、好ましくは腫瘍又はがん細胞を含有しないか又は含有すると予想されない健常な個体から誘導された身体の試料などの任意の試料に関する。身体の試料は、血液などの任意の組織試料又は非腫瘍形成性組織からの試料であってもよい。
【0159】
本発明は、患者のがん変異のサインの決定を含み得る。用語「がん変異のサイン」は、患者の一又は複数のがん細胞に存在する全てのがん変異を指すこともでき、又はそれは患者の一又は複数のがん細胞に存在するがん変異の部分だけを指すこともある。したがって、本発明は、患者の一又は複数のがん細胞に存在する全てのがんに特異的な変異の同定を包含することもでき、又はそれは、患者の一又は複数のがん細胞に存在するがんに特異的な変異の部分だけの同定を含むこともある。一般的に、本発明の方法は、十分な数の改変を提供する多くの変異、又は本発明の方法に含まれるべき改変されたタンパク質の同定を提供する。
【0160】
好ましくは、本発明により同定された変異は、非同義変異であり、好ましくは腫瘍又はがん細胞で発現されたタンパク質の変異において非同義である。
【0161】
一実施態様において、がんに特異的な体細胞の変異又は配列の差は、腫瘍検体のゲノムで、好ましくは全ゲノムで決定される。したがって、本発明は、一又は複数のがん細胞のゲノム、好ましくは全ゲノムのがん変異のサインを同定することを含むことができる。一実施態様において、がん患者の腫瘍検体におけるがんに特異的な体細胞の変異を同定する工程は、ゲノムの広いがん変異プロファイルを同定することを含む。
【0162】
一実施態様において、がんに特異的な体細胞の変異又は配列の差は、腫瘍検体のエキソーム、好ましくはエキソーム全体で決定される。したがって、本発明は、一又は複数のがん細胞のエキソーム、好ましくはエキソーム全体のがん変異のサインを同定することを含むことができる。一実施態様において、がん患者の腫瘍検体におけるがんに特異的な体細胞の変異を同定する工程は、エキソームの広いがん変異プロファイルを同定することを含む。
【0163】
一実施態様において、がんに特異的な体細胞の変異又は配列の差は、トランスクリプトーム、好ましくは腫瘍検体のトランスクリプトーム全体で決定される。したがって、本発明は、一又は複数のがん細胞のトランスクリプトーム、好ましくはトランスクリプトーム全体のがん変異のサインを同定することを含むこともできる。一実施態様において、がん患者の腫瘍検体におけるがんに特異的な体細胞の変異を同定する工程は、トランスクリプトームの広いがん変異プロファイルを同定することを含む。
【0164】
一実施態様において、がんに特異的な体細胞の変異を同定する又は配列差を同定する工程は、一又は複数の、好ましくは2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20個又はさらに多くのがん細胞の単一の細胞の配列決定を含む。したがって、本発明は、前記一又は複数のがん細胞のがん変異のサインを同定することを含むこともできる。一実施態様において、がん細胞は循環する腫瘍細胞である。循環する腫瘍細胞などのがん細胞は、単一細胞の配列決定前に分離され得る。
【0165】
一実施態様において、がんに特異的な体細胞の変異を同定する工程又は配列差を同定する工程は、次世代配列決定(NGS)の使用を含む。
【0166】
一実施態様において、がんに特異的な体細胞の変異を同定する又は配列差を同定する工程は、腫瘍検体のゲノムDNA及び/又はRNAの配列決定を含む。
【0167】
がんに特異的な体細胞の変異又は配列差を明らかにするために、腫瘍検体から得られた配列情報は、好ましくは、患者又は異なる個体のいずれかから得ることができる生殖細胞系列細胞などの正常ながんでない細胞のDNA又はRNAなどの核酸を配列決定することから得られた配列情報などの参照と比較される。一実施態様において、正常ゲノムの生殖細胞系列のDNAは、末梢血液の単核細胞(PBMC)から得られる。
【0168】
用語「ゲノム」は、生物体又は細胞の染色体中の遺伝的情報の合計量に関する。
【0169】
用語「エキソーム」は、発現された遺伝子の部分をコードしているエクソンにより形成された生物体のゲノムの一部を指す。エキソームは、タンパク質及び他の機能的遺伝子生成物の合成で使用される遺伝的青写真を提供する。それは、ゲノムの最も機能的に関係する一部であり、それ故、それは、生物体の表現型に最も貢献するようである。ヒトゲノムのエキソームは、合計ゲノムの1.5%を占めると推定される(Ng、PCら、 PLoS Gen.、4(8): p1-15、2008)。
【0170】
用語「トランスクリプトーム」は、1個の細胞又は細胞の集団で産生されたmRNA、rRNA、tRNA、及び他の非コードRNAを含む全てのRNA分子の集合に関する。本発明の関係において、トランスクリプトームは、ある一定の時点における所与の個体の1個の細胞、細胞の集団、好ましくはがん細胞の集団、又は全ての細胞で産生された全てのRNA分子の集合を意味する。
【0171】
「核酸」は、本発明により、好ましくはデオキシリボ核酸(DNA)又はリボ核酸(RNA)、より好ましくはRNA、最も好ましくはin vitroで転写されたRNA(IVTRNA)又は合成RNAである。核酸は、本発明により、ゲノムDNA、cDNA、mRNA、組換えで産生された及び化学的に合成された分子を含む。本発明により、核酸は、一本鎖の又は二本鎖及び直鎖状又は共有結合で環状に閉じた分子として存在することができる。核酸は本発明により分離され得る。用語「分離された核酸」とは、本発明により、核酸が、(i)in vitroで、例えばポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により増幅された、(ii)組換えでクローニングにより産生された、(iii)例えば、開裂されてゲル電気泳動により分離されることにより精製された、又は(iv)、例えば、化学合成により合成されたことを意味する。核酸は、特に、DNAテンプレートからin vitro転写により調製することができるRNAの形態で、細胞への導入、即ちトランスフェクションのために使用することができる。その上、RNAは、配列の安定化、キャッピング、及びポリアデニル化により、適用前に改変され得る。
【0172】
用語「遺伝子材料」は、分離された核酸、DNA又はRNAのいずれか、二重螺旋の切片、染色体の切片、又は生物体の又は細胞の全ゲノム、特にそのエキソーム又はトランスクリプトームを指す。
【0173】
用語「変異」は、参照と比較された、核酸配列(ヌクレオチドの置換、付加又は欠失)における変化又は差を指す。「体細胞の変異」は、胚芽細胞(精子及び卵子)を除く身体の任意の細胞で起こり得、それ故、子供には伝わらない。これらの変質は、原因がん又は他の疾患を引き起こし得る(但し、必ずではない)。好ましくは、変異は非同義変異である。用語「非同義変異」とは、翻訳生成物でアミノ酸置換などのアミノ酸の変化を生ずる変異、好ましくはヌクレオチド置換を指す。
【0174】
本発明により、用語「変異」は、点変異、インデル、融合、クロモスリプシス及びRNA編集を含む。
【0175】
本発明により、用語「インデル」は、ヌクレオチドにおける共存下の挿入及び欠失及び正味の取得又は損失を生ずる変異と定義される特別な変異のクラスを記載する。ゲノムのコード領域において、インデルの長さが3の倍数でない限り、それらは、フレームシフト変異を生ずる。インデルは、点変異と対照をなすことができ;インデルは、配列からヌクレオチドを挿入及び欠失するが、点変異は、ヌクレオチドの1つを置き換える置換の形態である。
【0176】
融合は、元々は別だった2つの遺伝子から形成されたハイブリッド遺伝子を発生させることができる。それは、転座、間質性欠失、又は染色体の反転の結果として起こり得る。しばしば、融合遺伝子はがん遺伝子である。発がん性の融合遺伝子は、2つの融合体パートナーからの新しい又は異なる機能を有する遺伝子生成物を生ずることもある。あるいは、がん原遺伝子は、融合されて強いプロモーターになり、それにより発がん性の機能は、上流の融合体パートナーの強いプロモーターにより惹起される上方制御により機能するようにされている。発がん性融合体の転写は、トランススプライシング又は読み過ごし事象によっても引き起こされ得る。
【0177】
本発明により、用語「クロモスリプシス」は、ゲノムの特定の領域が破壊されて、次に単一の壊滅事象を通して繋ぎ合わされて一緒になる遺伝子の現象を指す。
【0178】
本発明により、用語「RNA編集(RNA edit)」又は「RNA編集(RNA editing)」は、RNA分子中の情報の内容が、塩基の構造における化学変化により変化する分子プロセスを指す。RNA編集は、ヌクレオシド改変、例えば、シチジン(C)からウリジン(U)、及びアデノシン(A)からイノシン(I)、脱アミノ、並びに非テンプレートヌクレオチド付加及び挿入などを含む。mRNAにおけるRNA編集は、コードされたタンパク質のアミノ酸配列を効果的に変化させて、その結果、アミノ酸配列はゲノムDNA配列により予測されたものと異なる。
【0179】
用語「がん変異のサイン」とは、がんでない参照細胞と比較されたときに、がん細胞に存在する1組の変異を指す。
【0180】
本発明により、「参照」は、腫瘍検体からの結果を相互に関連させて比較するために使用することができる。典型的には、「参照」は、一又は複数の正常検体、患者又は一又は複数の異なる個体のいずれか、好ましくは健常な個体、特に同じ種の個体から得られた、特にがん疾患によって影響されていない検体の基準で得ることができる。「参照」は、十分に大きい数の正常検体を試験することにより、経験的に決定することができる。
【0181】
本発明により変異を決定するために、任意の適当な配列決定方法を使用することができるが、次世代配列決定(NGS)技術が好ましい。第3世代の配列決定方法が、将来NGS技術を置き換えて、該方法の配列決定工程をスピードアップするかもしれない。明確にする目的で:用語「次世代配列決定」又は「NGS」は、本発明の関係において、サンガーの化学として公知の「従来の」配列決定方法と対照的に、全ゲノムを小さい断片に分解することにより、核酸テンプレートを、全ゲノムに沿って無作為に平行に読む、全ての新規な高処理能力配列決定技術を意味する。そのようなNGS技術(大規模平行配列決定技術としても公知である)は、ゲノム全体、エキソーム、トランスクリプトーム(ゲノムの全ての転写された配列)又はメチローム(ゲノムの全てのメチル化された配列)の核酸配列情報を、非常に短い期間、例えば1-2週間以内、好ましくは1-7日以内又は最も好ましくは24時間未満に送達することができ、原理的に、簡単な細胞配列決定手法を可能にする。市販の又は文献で言及された複数のNGSプラットホームが、本発明の関係において使用できて、例えばこれらは、Zhangら 2011: The impact of next-generation sequencing on genomics. J. Genet Genomics 38 (3), p95-109;又はVoelkerdingら 2009: Next generation sequencing: From basic research to diagnostics. Clinical chemistry 55, p641-658に詳細に記載されている。そのようなNGS技術/プラットホームの非限定的な例は、以下である。
1)例えばRonaghiら、1998: A sequencing method based on real-time pyrophosphate”. Science 281 (5375), p363-365で最初に記載された、Rocheの関連会社454 Life Sciences (Branford、コネチカット州)のGS-FLX454ゲノムシーケンサー(商標)で実行された、ピロ配列決定として公知の合成技術による配列決定。この技術では、エマルションPCRが使用されて、その技術では、エマルションPCR増幅のために、一本鎖DNAが結合したビーズが、激しいボルテックス処理により、油に囲まれたPCR反応物を含有する水性ミセルにカプセル化される。ピロ配列決定のプロセス中で、ヌクレオチド組み込み中に、ホスフェート分子から光が発射されて、ポリメラーゼがDNA鎖を合成すると記録される。
【0182】
2)Solexa(現在は、Illumina Inc.の一部、San Diego、カリフォルニア州)により開発されて、それは、可逆的染料ターミネーターに基づき、例えば、Illumina/SolexaのGenome Analyzer(商標)及びIllumina HiSeq2000 Genome Analyzer(商標)で実行される合成による配列決定手法。この技術において、全ての4種のヌクレオチドが、オリゴプライマーを使用したクラスターフラグメントに、流動細胞チャンネルでDNAポリメラーゼと一緒に同時に加えられる。配列決定のために、全ての4種の蛍光標識されたヌクレオチドを用いて、ブリッジ増幅でクラスター鎖を延長する。
【0183】
3)例えば、Applied Biosystems(現在は、Life Technologies Corporation、Carlsbad、カリフォルニア州)のSOLid(商標)プラットホームで実行されるライゲーション手法による配列決定。この技術において、固定された長さの全ての可能なオリゴヌクレオチドのプールは、配列決定された位置に従って標識される。オリゴヌクレオチドは、アニールされて連結される;配列を合わせるためのDNAリガーゼによる優先的ライゲーションは、その位置におけるヌクレオチドの情報を与えるシグナルを生ずる。配列決定前に、DNAは、エマルションPCRにより増幅される。同じDNA分子のコピーのみを各々含有する生じたビーズは、ガラススライドに堆積される。第2の例として、Dover Systems(Salem、ニューハンプシャー州)のPolonator(商標)G.007プラットホームは、平行する配列決定のために、無作為に整列されたビーズに基づく、エマルションPCRを使用することによるライゲーション手法による配列決定も使用してDNAフラグメントを増殖する。
【0184】
4)例えば、Pacific Biosciences(Menlo Park、カリフォルニア州)のPacBio RSシステム又はHelicos Biosciences(Cambridge、マサチューセッツ州)のHeliScope(商標)プラットホームなどで実行される単一分子配列決定技術。この技術の独特の特徴は、単一のDNA又はRNA分子を増幅せずに配列決定できることであり、Single-Molecule Real Time(SMRT) DNA配列決定と定義される。例えば、HeliScopeでは、高感度の蛍光検出系を使用して、各ヌクレオチドを、それが合成されるときに直接検出する。蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)に基づく同様な手法は、Visigen Biotechnology(Houston、テキサス州)により開発されている。他の蛍光に基づく単一分子技法は、U.S.Genomics(GeneEngine(商標))及びGenovoxx(AnyGene(商標))による。
【0185】
5)例えば、チップに配列されて、複製中の単一の鎖上におけるポリメラーゼ分子の動きをモニターする種々のナノ構造が使用される、単一分子配列決定のためのナノ技術。ナノ技術に基づく手法の非限定的な例は、Oxford Nanopore Technologies(Oxford、英国)のGridON(商標)プラットホーム、Nabsys(Providence、ロードアイランド州)により開発されたハイブリダイゼーション・アシステッド・ナノポア配列決定(HANS(商標))プラットホーム、及びコンビナトリアルプローブ・アンカーライゲーション(cPAL(商標))と呼ばれるDNAナノボール(DNB)技術を用いる専売のリガーゼに基づくDNA配列決定プラットホームである。
【0186】
6)例えばLightSpeed Genomics(Sunnyvale、カリフォルニア州)及びHalcyon Molecular(RedwoodCity、カリフォルニア州)により開発された単一分子配列決定のための電子顕微鏡に基づく技術。
7)DNAの重合中に放出される水素イオンの検出に基づくイオン半導体配列決定。例えば、Ion Torrent Systems(San Francisco、カリフォルニア州)では、大量の平行する方法で、この生化学プロセスを実施するための微小機械化されたウェルの高密度アレイが使用される。各ウェルは、異なるDNAテンプレートを保持する。ウェルの下側にイオン感受性層があり、その下に専売のイオンセンサーがある。
【0187】
好ましくは、DNA及びRNA製剤は、NGSのための出発原料として役立つ。そのような核酸は、生物学的材料などの試料、例えば、新鮮、瞬間凍結された又はホルマリン固定されたパラフィン包埋腫瘍組織(FFPE)又は新鮮な分離された細胞又は患者の末梢血中に存在するCTCから容易に得ることができる。正常な非変異ゲノムDNA又はRNAは、正常な体細胞組織から抽出することができるが、しかしながら生殖細胞系列細胞が本発明の関係では好ましい。生殖細胞系列のDNA又はRNAは、血液学的悪性腫瘍を有さない患者の末梢血の単核細胞(PBMC)から抽出することもできる。FFPE組織又は新鮮に分離された単一細胞群から抽出された核酸は、高度に断片化されているが、それらは、NGS適用に適当である。
【0188】
エキソームの配列決定のための数通りの標的されるNGS方法が、文献に記載されており(概観するためには、例えば、Teer及びMullikin 2010: Human Mol Genet 19(2)、R145-51を参照されたい)、それらの全てが、本発明と併せて使用され得る。これらの方法の多くは(例えばゲノム捕捉、ゲノム分配、ゲノム富化などと記載される)ハイブリダイゼーション技法を使用し、アレイに基づく(例えばHodgesら、2007: Nat. Genet. 39、p1522-1527)及び液体系の(例えばChoiら、2009: Proc. Natl. Acad. Sci USA 106、p19096-19101)ハイブリダイゼーション手法を含む。DNA試料調製及びそれに続くエキソーム捕捉のための市販のキットも入手可能であり:例えば、Illumina Inc.(San Diego、カリフォルニア州)は、TruSeq(商標)DNA Sample Preparation Kit及びExome Enrichment Kits TruSeq(商標)Exome Enrichment Kitを提供する。
【0189】
がんに特異的な体細胞の変異又は配列差の検出で偽陽性発見の数を減少させるために、例えば、腫瘍試料の配列を胚芽系統試料の配列などの参照試料の配列と比較したときに、これらの試料のタイプの一方又は両方の複製物における配列を決定することが好ましい。したがって、胚芽系統試料の配列などの参照試料の配列は、2回、3回又はそれを超えて決定されることが好ましい。あるいは又はそれに加えて、腫瘍試料の配列も、2回、3回又はそれを超えて決定される。前記参照試料及び/又は前記腫瘍試料のゲノムDNAにおける配列を少なくとも1回決定することにより、及びRNAにおける配列を少なくとも1回決定することにより、胚芽系統試料の配列などの参照試料の配列及び/又は腫瘍試料の配列を、1回を超えて決定することも可能であり得る。例えば、胚芽系統試料などの参照試料の複製物間における変動を決定することにより、偽陽性(FDR)の体細胞の変異の予想される率を、統計量として推定することができる。試料の技術的繰り返しは、同一の結果を生ずるべきであり、この「同じ対同じ比較」で検出された任意の変異は偽陽性である。特に、参照試料に対して腫瘍試料での体細胞変異の検出について偽の発見率を決定するために、参照試料の技術的繰り返しを参照として使用して、偽陽性の数を推定することができる。さらに、種々の品質に関係する計量(例えば適用範囲又はSNP品質)は、機械的学習手法を使用して単一の品質スコアに組み合わせることもできる。所与の体細胞の変動について、異例の品質スコアを有する全ての他の変動を計数することができて、それはデータセットにおける全ての変動の格付けを可能にする。
【0190】
本発明の関係において、用語「RNA」は、少なくとも1個のリボヌクレオチド残基を含み、好ましくは、完全に又は実質的にリボヌクレオチド残基から構成される分子に関する。「リボヌクレオチド」は、β-D-リボフラノシル基の2’位にヒドロキシル基を有するヌクレオチドに関する。用語「RNA」は、二本鎖RNA、一本鎖RNA、分離されたRNA、例えば部分的に又は完全に精製されたRNA、本質的に純粋なRNA、合成RNA、及び組換えで発生したRNA、例えば、一又は複数のヌクレオチドの付加、欠失、置換及び/又は変質により、天然に生じるRNAと異なる改変されたRNAを含む。そのような変質は、例えば、RNAの末端(一又は複数)への非ヌクレオチド材料の付加、又は内部における、例えばRNAの一又は複数のヌクレオチドへの付加を含むことができる。RNA分子中のヌクレオチドは、非標準ヌクレオチド、例えば天然に生じないヌクレオチド又は化学的に合成されたヌクレオチド又はデオキシヌクレオチドも含むことができる。これらの変質したRNAは、アナログ又は天然に生ずるRNAのアナログと称することができる。
【0191】
本発明により、用語「RNA」は、「mRNA」を含み、好ましくはそれに関する。用語「mRNA」は、「メッセンジャーRNA」を意味し、及びDNAテンプレートを使用することにより生ずる「転写物」に関し、ペプチド又はポリペプチドをコードする。典型的には、mRNAは、5’-UTR、タンパク質をコードする領域、3’-UTR及び任意選択的にポリ(A)尾部を含む。mRNAは、細胞及びin vitroで限られた半減期しか有さない。本発明の関係において、mRNAは、DNAテンプレートからin vitroにおける転写により発生し得る。in vitroにおける転写方法は、当業者に公知である。例えば、市販で入手できる種々のin vitro転写キットがある。
【0192】
本発明により、RNAの安定性及び翻訳効率を、要求されるように改変することもできる。例えば、RNAは、RNAの安定化効果及び/又は増大する翻訳効率を有する一又は複数の改変により、安定化され得て、その翻訳は増大することができる。そのような改変は、例えば、参照により本明細書に組み込まれるPCT/EP2006/009448に記載されている。本発明により使用されるRNAの発現を増大させるために、RNAは、コード領域、即ち、発現されるペプチド又はタンパク質をコードする配列内で、好ましくは、発現されるペプチド又はタンパク質の配列を変化させずに、GC-含有率を増大させて、mRNA安定性を増大させ、コドンの最適化を実施し、したがって、細胞における翻訳を増強するように、改変することができる。
【0193】
本発明で使用されるRNAの関係において、用語「改変」は、前記RNAにおける、天然には存在しないRNAの任意の改変を含む。
【0194】
本発明の一実施態様において、本発明により使用されるRNAは、キャッピングのない5’-トリリン酸エステルを有さない。そのようなキャッピングのない5’-トリリン酸エステルの除去は、RNAをホスファターゼで処理することにより得ることができる。
【0195】
本発明によるRNAは、その安定性を増大させ及び/又は細胞傷害性を減少させるために、改変されたリボヌクレオチドを有することもできる。例えば、一実施態様において、本発明により使用されるRNAでは、5-メチルシチジンが、シチジンの代わりに部分的に又は完全に、好ましくは完全に置換されている。あるいは又はそれに加えて、一実施態様において、本発明により使用されるRNAでは、擬ウリジンが、ウリジンの代わりに、部分的に又は完全に、好ましくは完全に置換されている。
【0196】
一実施態様において、用語「改変」は、RNAに5’-キャップ又は5’-キャップアナログを提供することに関する。用語「5’-キャップ」は、mRNA分子の5’-末端に見出されるキャップ構造を指し、一般的に、普通でない5’から5’トリリン酸エステル連結を通してmRNAに接続しているグアノシンヌクレオチドからなる。一実施態様において、このグアノシンは、7-位でメチル化されている。用語「従来の5’-キャップ」は、天然に生じるRNA5’-キャップ、好ましくは7-メチルグアノシンキャップ(m7G)を指す。本発明の関係において、用語「5’-キャップ」は、RNAキャップ構造に類似する5’-キャップアナログを含み、好ましくはin vivo及び/又は細胞中でそれらに結合していれば、RNAを安定化する及び/又はRNAの翻訳を増強する能力を有するように改変されている。
【0197】
RNAに5’-キャップ又は5’-キャップアナログを提供することは、前記5’-キャップ又は5’-キャップアナログの存在下における、DNAテンプレートのin vitro転写により達成することができて、そこで、前記5’-キャップは共転写で生じたRNA鎖中に組み込まれるか、又は例えば、in vitro転写により、RNAが発生されて、5’-キャップが、転写後に、RNAにキャッピング酵素、例えば、ワクシニアウイルスのキャッピング酵素を使用して結合され得る。
【0198】
RNAは、さらなる改変を含むこともある。例えば、本発明で使用されるRNAのさらなる改変は、天然に生じるポリ(A)尾部の延長又は切り落とし又は5’-又は3’-非翻訳領域(UTR)の変質、例えば、前記RNAのコード領域に関係しないUTRの導入など、例えば、存在する3’-UTRの、グロビン遺伝子、例えば、アルファ2-グロビン、アルファ1-グロビン、ベータ-グロビン、好ましくはベータ-グロビン、より好ましくはヒトベータ-グロビンなどから誘導された3’-UTRの一又は複数の、好ましくは2コピーとの交換又はその挿入であってもよい。
【0199】
遮蔽されていないポリA配列を有するRNAは、遮蔽されたポリA配列を有するRNAよりも効率的に翻訳される。用語「ポリ(A)尾部」又は「ポリA配列」は、典型的にはRNA分子の3’-末端に位置するアデニル(A)残基の配列に関し、及び「遮蔽されていないポリA配列」は、RNA分子の3’末端にポリA配列のAを有し、3’末端の位置で、即ちポリA配列の下流でA以外のヌクレオチドが続かないポリA配列を意味する。さらに、約120塩基対の長いポリA配列は、最適の転写物の安定性及びRNAの翻訳効率を生ずる。
【0200】
それ故、本発明により使用されるRNAの安定性及び/又は発現を増大させるために、RNAは、好ましくは、10から500、より好ましくは30から300、さらにより好ましくは65から200及び特に100から150個のアデノシン残基の長さを有するポリA配列と併せて存在するように改変され得る。特に好ましい実施態様において、ポリA配列は、約120個のアデノシン残基の長さを有する。本発明により使用されるRNAの安定性及び/又は発現をさらに増大させるために、ポリA配列は、遮蔽されていなくてもよい。
【0201】
それに加えて、3’-非翻訳領域(UTR)のRNA分子の3’-非翻訳領域への組み込みは、翻訳効率における増強を生じ得る。相乗効果は、2つ以上のそのような3’-非翻訳領域を組み込むことにより達成され得る。3’非翻訳領域は、それらが導入されるRNAと自家であっても異種であってもよい。特定の一実施態様において、3’非翻訳領域は、ヒトβ-グロビン遺伝子から誘導される。
【0202】
上で記載された改変の組合せ、即ちポリA配列、非遮蔽ポリA配列の組み込み及び一又は複数の3’非翻訳領域の組み込みは、RNAの安定性及び翻訳効率における増強に相乗的影響を有する。
【0203】
RNAの「安定性」という用語は、RNAの「半減期」に関する。「半減期」は、分子の活性、量、又は数の半分を排除するために必要とされる期間に関する。本発明の関係において、RNAの半減期は、前記RNAの安定性を示す。RNAの半減期は、RNAの「発現の持続時間」に影響し得る。長い半減期を有するRNAは、長い期間発現されているであろうと期待することができる。
【0204】
言うまでもなく、本発明により、RNAの安定性及び/又は翻訳効率を低下させることが所望であれば、上で記載された要素の機能に干渉するようにRNAを改変して、RNAの安定性及び/又は翻訳効率を増強することは可能である。
【0205】
用語「発現」は、本発明により、その最も一般的な意味で使用され、例えば、転写及び/又は翻訳によるRNA及び/又はペプチド、ポリペプチド又はタンパク質の産生を含む。RNAに関して、用語「発現」又は「翻訳」は、特に、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質の産生に関する。この用語は、核酸の部分的発現も含む。さらに、発現は一過性又は安定であることができる。
【0206】
本発明により、発現という用語は、「異形の発現」又は「異常な発現」も含む。本発明による「異形の発現」又は「異常な発現」は、参照、例えば、あるタンパク質、例えば腫瘍抗原の異形の又は異常な発現と関連する疾患を有さない対象における状態と比較して、発現が変化して、好ましくは増大していることを意味する。発現における増大は、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%又は少なくとも100%、又はそれを超える増大を指す。一実施態様において、発現は、病変組織にだけ見出され、一方、健常な組織における発現は抑制される。
【0207】
用語「特異的に発現された」は、タンパク質が、本質的に特定の組織又は器官でだけ発現されることを意味する。例えば、腫瘍抗原が、胃粘膜で特異的に発現されたとは、前記タンパク質が、胃粘膜で主として発現されて、他の組織では発現されていないか又は他の組織又は器官のタイプでは有意の程度に発現されていないことを意味する。したがって、胃粘膜の細胞だけに発現されて、精巣などの任意の他の組織では有意により少ない程度でしか発現されないタンパク質は、胃粘膜の細胞に特異的に発現される。幾つかの実施態様において、腫瘍抗原は、通常の条件下で、1種を超える組織のタイプ又は器官、例えば2又は3種の組織タイプ又は器官で、但し好ましくは3種以下の異なる組織又は器官タイプで特異的に発現されることもある。この場合には、腫瘍抗原は、その時これらの器官で特異的に発現される。例えば、腫瘍抗原が、通常の条件下で、好ましくは、およそ同じ程度で、肺及び胃で発現されれば、前記腫瘍抗原は、肺及び胃で特異的に発現される。
【0208】
本発明の関係において、用語「転写」は、DNA配列における遺伝コードがRNAに転写されるプロセスに関する。その後、RNAは、タンパク質に翻訳され得る。本発明により、用語「転写」は、「in vitro転写」を含み、用語「in vitro転写」は、RNA、特にmRNAが、細胞のない系で、好ましくは、適当な細胞抽出物を使用してin vitroで合成されるプロセスに関する。好ましくは、クローニングベクターが、転写物の発生のために適用される。これらのクローニングベクターは、一般的に転写ベクターといわれ、本発明による用語「ベクター」に包含される。本発明により、本発明で使用されるRNAは、好ましくは、in vitroで転写されたRNA(IVT-RNA)であり、適当なDNAテンプレートのin vitro転写により得ることができる。転写を制御するプロモーターは、任意のRNAポリメラーゼのための任意のプロモーターであることができる。RNAポリメラーゼの特定の例は、T7、T3、及びSP6 RNAポリメラーゼである。好ましくは、in vitro転写は、本発明により、T7又はSP6プロモーターにより制御される。in vitro転写のためのDNAテンプレートは、核酸、特にcDNAのクローニングにより得ることもできて、in vitro転写のための適当なベクターに導入される。cDNAは、RNAの逆転写により得ることもできる。
【0209】
本発明による用語「翻訳」は、メッセンジャーRNAの鎖が、アミノ酸の配列のアセンブリーを指示して、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質を作製する、細胞のリボソームにおけるプロセスに関する。
【0210】
本発明により核酸と機能的に連結され得る、発現を制御する配列又は調節する配列は、核酸に関して相同性又は異種であることができる。コード配列と調節配列とは、それらが共有結合で結合して一緒になれば、「機能的に」連結されて一緒になり、その結果、コード配列の転写又は翻訳は、調節配列の制御下又は影響下にある。コード配列が、コード配列と調節配列の機能的連結で、機能的タンパク質に翻訳されるべきものであれば、調節配列の誘導は、コード配列における読み取りフレームの偏移又は所望のタンパク質又はペプチドに翻訳されるべきコード配列の不能を惹起せずに、コード配列の転写をもたらす。
【0211】
用語「発現制御配列」又は「調節配列」は、本発明により、プロモーター、リボソーム結合配列及び他の制御要素を含み、それらは、核酸の転写又は誘導されたRNAの翻訳を制御する。本発明のある実施態様において、調節配列は制御され得る。調節配列の精密な構造は、種に依存して、又は細胞のタイプに依存して変化し得るが、一般的に5’-非転写及び5’-及び3’-非翻訳配列を含み、それらは、TATAボックス、キャッピング配列、CAAT配列などの転写又は翻訳の開始に関与する。特に、5’-非転写調節配列は、機能的に結合した遺伝子の転写制御のためのプロモーター配列を含むプロモーター領域を含む。調節配列は、エンハンサー配列又は上流活性化因子配列も含むことができる。
【0212】
好ましくは、本発明により、細胞中で発現されるべきRNAは、前記細胞中に導入される。本発明による方法の一実施態様において、細胞中に導入されるべきRNAは、適当なDNAテンプレートのin vitro転写により得られる。
【0213】
本発明により、「発現され得るRNA」及び「RNAがコードする」などの用語は、本明細書では互換的に使用され、特定のペプチド又はポリペプチドに関して、RNAは、適当な環境、好ましくは細胞内に存在すれば、発現されて、前記ペプチド又はポリペプチドを産生することができることを意味する。好ましくは、RNAは、本発明により、細胞の翻訳機構と相互作用して、発現可能なペプチド又はポリペプチドを提供することができる。
【0214】
「移入する」、「導入する」又は「トランスフェクトする」などの用語は、本明細書では互換的に使用されて、核酸、特に外因性又は異種核酸、特にRNAの細胞中への導入に関する。本発明により、細胞は、器官、組織及び/又は生物体の一部を形成することができる。本発明により、核酸の投与は、裸の核酸として又は投与試薬との組合せでのいずれかで達成される。好ましくは、核酸の投与は、裸の核酸の形態においてである。好ましくは、RNAは、RNアーゼ阻害剤などの安定化物質との組合せで投与される。本発明は、長期間持続する発現を可能にする、核酸の細胞中への反復導入も構想する。
【0215】
細胞は、RNAが関連し得る任意の担体を用いて、例えば、RNAと複合体を形成することにより、又はRNAが封じられたか又はカプセル化された小胞を形成することにより、トランスフェクトされることが可能であり、裸のRNAと比較してRNAの安定性の増大を生ずる。本発明による有用な担体は、例えば、脂質含有担体、例えば、カチオン性脂質、リポソーム、特にカチオン性リポソーム、及びミセル、及びナノ粒子などを含む。カチオン性脂質は、負に荷電した核酸と複合体を形成することができる。任意のカチオン性脂質が本発明により使用され得る。
【0216】
好ましくは、ペプチド又はポリペプチドをコードするRNAの細胞、特にin vivoに存在する細胞への導入は、細胞中における前記ペプチド又はポリペプチドの発現を生ずる。特定の実施態様において、特定の細胞を核酸が標的とすることが好ましい。そのような実施態様において、核酸の細胞への投与のために適用される担体(例えば、レトロウイルス又はリポソーム)は、標的とする分子を示す。例えば、標的細胞上の表面膜タンパク質又は標的細胞上の受容体に対するリガンドに特異的な抗体などの分子は、核酸担体中に組み込まれるか又はそれらに結合することができる。核酸がリポソームにより投与される場合には、エンドサイトーシスと関連する表面膜タンパク質に結合するタンパク質が、標的とすること及び/又は取り込みを可能にするために、リポソーム製剤中に組み込まれ得る。そのようなタンパク質は、特定の細胞のタイプに特異的なそれらのフラグメントのカプシドタンパク質、内在化されたタンパク質に対する抗体、細胞内の位置を標的とするタンパク質、その他を包含する。
【0217】
用語「細胞」又は「宿主細胞」は、好ましくは、完全な細胞、即ち、放出されない完全な膜、酵素、オルガネラ、又は遺伝子材料などのその正常細胞内成分を有する細胞である。完全な細胞は、好ましくは、実現性がある細胞、即ちその正常な代謝性機能を実施し得る生細胞である。好ましくは、前記用語は、本発明により、外因性核酸を形質導入又はトランスフェクトされ得る任意の細胞に関する。用語「細胞」は、本発明により原核細胞(例えば、大腸菌(E.coli))又は真核生物細胞(例えば、樹状細胞、B細胞、CHO細胞、COS細胞、K562細胞、HEK293細胞、HELA細胞、酵母細胞、及び昆虫細胞)を含む。外因性核酸は、細胞内で、(i)そのまま、自由に分散されて、(ii)組換えベクターに組み込まれて、又は(iii)宿主細胞ゲノム又はミトコンドリアのDNAに組み込まれて、見出され得る。例えば、ヒト、マウス、ハムスター、ブタ、ヤギ、及び霊長類からの細胞などの哺乳動物の細胞が、特に好ましい。細胞は、多数の組織タイプから誘導されて、初代細胞及び細胞系統を含むこともできる。特定の例には、角化細胞、末梢血白血球、骨髄幹細胞、及び胚幹細胞が含まれる。さらなる実施態様で、細胞は、抗原提示細胞、特に樹状細胞、単球、又はマクロファージである。
【0218】
核酸分子を含む細胞は、好ましくは、該核酸によりコードされたペプチド又はポリペプチドを発現する。
【0219】
用語「クローン増殖」は、特定の存在物が増加するプロセスを指す。本発明の関係において、該用語は、好ましくは、リンパ球が抗原により刺激されて、増殖し、前記抗原を認識する特異的リンパ球が増幅される免疫学的応答の関係で、使用される。好ましくは、クローン増殖はリンパ球の分化を導く。
【0220】
「低下させる」又は「阻害する」などの用語は、好ましくは、レベルで、5%以上、10%以上、20%以上、より好ましくは50%以上、及び最も好ましくは75%以上の全体的減少を生じさせる能力に関する。用語「阻害する」又は同様な語句は、完全な又は本質的に完全な阻害、即ちゼロ又は本質的にゼロへの低下を含む。
【0221】
「増大する」、「増強する」、「助長する」又は「長引かせる」などの用語は、好ましくは、少なくとも約10%、好ましくは少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、好ましくは少なくとも50%、好ましくは少なくとも80%、好ましくは少なくとも100%、好ましくは少なくとも200%及び特に少なくとも300%の増大、増強、助長又は長期化に関する。これらの用語は、ゼロ又は測定不可能又は検出不可能なレベルからゼロを超えるレベル又は測定可能又は検出可能なレベルへの増大、増強、助長又は長期化にも関することができる。
【0222】
本発明は、本発明の方法による免疫療法で有用であると予測された、好ましくは改変されたタンパク質又はタンパク質のフラグメント又はアミノ酸改変に基づいてデザインされたがんワクチンなどのワクチンを提供する。
【0223】
本発明により、用語「ワクチン」は、投与されると、病原体又は疾患細胞、例えばがん細胞などを認識して攻撃する免疫応答、特に細胞性免疫応答を誘発する医薬製剤(薬学的組成物)又は生成物に関する。ワクチンは、疾患の防止又は治療のために使用することができる。用語「個別化されたがんワクチン」又は「一人一人に合わせたがんワクチン」は、特定のがん患者に関係して、がんワクチンが、個々のがん患者の必要性又は特別の状況に適合されていることを意味する。
【0224】
一実施態様において、本発明により提供されるワクチンは、一若しくは複数のアミノ酸改変を含むペプチド若しくはポリペプチド又は本発明の方法による免疫療法で有用であると予測された一又は複数の改変されたペプチド、又は前記ペプチド若しくはポリペプチドをコードする核酸、好ましくはRNAを含むことができる。
【0225】
本発明により提供されるがんワクチンは、患者に投与されたときに、患者の疾患細胞、例えば患者の腫瘍などに特異的なT細胞を、刺激する、プライミングする及び/又は増やすために適当なエピトープを、好ましくは、一又は複数のT細胞に提供する。該T細胞は、好ましくは、T細胞エピトープを誘導する抗原を発現している細胞に対して、向けられる。本明細書に記載されたワクチンは、好ましくは、クラスI MHCを有するネオ抗原に関連する一又は複数の腫瘍の提示により特徴づけられるがん疾患に対する細胞応答、好ましくは細胞傷害性T細胞の活性を誘発するか又は助長することができる。がんに特異的な変異を標的とするワクチンは、患者の腫瘍に対して特異的であろう。
【0226】
本発明により提供されるワクチンは、患者に投与されたときに、好ましくは、本発明の方法により免疫原性であると予測されたアミノ酸改変又は改変ペプチドを組み込んだ一又は複数のT細胞エピトープ、例えば、2以上、5以上、10以上、15以上、20以上、25以上、30以上、及び好ましくは60まで、55まで、50まで、45まで、40まで、35まで又は30までのT細胞エピトープを提供するワクチンに関する。そのようなT細胞エピトープは、本明細書では「ネオエピトープ」とも称される。患者の細胞、特に抗原提示細胞によるこれらのエピトープの提示は、好ましくは、MHCと結合したときにエピトープを標的とするT細胞を生じさせて、したがって、患者の腫瘍、好ましくは原発性腫瘍並びに腫瘍転移は、T細胞エピトープを誘導する抗原を発現して、腫瘍細胞の表面に同じエピトープを提示する。
【0227】
本発明の方法は、同定されたアミノ酸改変又は改変ペプチドのがんワクチン接種のための有用性を決定するさらなる工程を含むことができる。したがって、さらなる工程は、以下の一又は複数:(i)改変が、公知であるか又は予測されたMHCが提示されたエピトープに局在するかどうかを査定すること、(ii)改変が、MHCが提示されたエピトープに局在するかどうかをin vitro及び/又はin silicoで試験すること、例えば、改変が、処理されたペプチド配列の一部であるか及び/又はMHCが提示されたエピトープとして提示されているかどうかを試験すること、及び(iii)構想された、改変されたエピトープが、特にそれらの天然配列の関係で存在する場合、例えば、アミノ酸配列が隣接する場合、天然に生じるタンパク質の前記エピトープに隣接する場合も、及び抗原提示細胞で発現される場合も、所望の特異性を有する患者のT細胞などのT細胞を刺激することができるかどうかを、in vitroで試験することを包含することができる。そのような隣接する配列が、各々、3個以上、5個以上、10個以上、15個以上、20個以上及び好ましくは50個まで、45個まで、40個まで、35個まで又は30個までアミノ酸を含むことができて、N末端で及び/又はC末端でエピトープ配列と隣接することができる。
【0228】
本発明により決定された改変ペプチドは、がんワクチン接種のためのエピトープとしてそれらの有用性について格付けすることができる。したがって、一態様において、本発明は、同定された改変ペプチドが分析されて、提供されるべきそれぞれのワクチンにおけるそれらの有用性について選択される手作業の又はコンピューターに基づく分析プロセスを含む。好ましい実施態様において、前記分析プロセスは、コンピューターのアルゴリズムに基づくプロセスである。好ましくは、前記分析プロセスは、エピトープを免疫原性であるそれらの能力の予測に従って決定及び/又は格付けすることを含む。
【0229】
本発明により同定された及び本発明のワクチンにより提供されるネオエピトープは、好ましくは、ポリエピトープのポリペプチドなどの前記ネオエピトープを含むポリペプチド、又は前記ポリペプチドをコードする核酸、特にRNAの形態で存在する。さらに、ネオエピトープは、ポリペプチド中にワクチン配列の形態で存在することもできて、即ち、それらの天然配列の関係で存在する、例えば天然に生じるタンパク質中の前記エピトープに隣接するアミノ酸配列も隣接して存在することができる。そのような隣接する配列は、各々、5個以上、10個以上、15個以上、20個以上及び好ましくは50個まで、45個まで、40個まで、35個まで又は30個までのアミノ酸を含むことができて、エピトープ配列のN末端に及び/又はC末端に隣接することもできる。したがって、ワクチン配列は、20個以上、25個以上、30個以上、35個以上、40個以上、及び好ましくは50個まで、45個まで、40個まで、35個まで又は30個までアミノ酸を含むことができる。一実施態様において、ネオエピトープ及び/又はワクチン配列は、ポリペプチド中においてヘッドトゥテイルで並ぶ。
【0230】
一実施態様において、ネオエピトープ及び/又はワクチン配列は、リンカー、特に中性リンカーにより隔てられる。本発明による用語「リンカー」は、エピトープ又はワクチン配列などの2つのペプチドドメイン間に付加されて前記ペプチドドメインに接続するペプチドに関する。リンカー配列に関して特別の制限はない。しかしながら、リンカー配列は、2つのペプチドドメイン間の立体障害を減少させて、良好に翻訳され、エピトープのプロセシングを支持し又は可能にすることが好ましい。さらに、リンカーは、免疫原性配列要素を有するべきでなく又は有しても極めて僅かであるべきである。リンカーは、好ましくは、望ましくない免疫反応を生じさせ得る、隣接するネオエピトープ間の接合の継ぎ目から生ずるもののような非内因性ネオエピトープを創り出すべきではない。それ故、ポリエピトープのワクチンは、好ましくは、望ましくないMHC結合の接合エピトープの数を減少させることができるリンカー配列を含有するべきである。Hoytら(EMBO J. 25 (8)、 p1720-9、2006)及びZhangら(J. Biol. Chem.、279 (10)、p8635-41、2004)は、グリシンに富む配列がプロテアソームのプロセシングを害し、したがってグリシンに富むリンカー配列の使用は、プロテアソームにより処理され得るリンカーが含有されるペプチドの数を最少化するように作用することを示した。さらに、グリシンは、MHC結合溝位置における強い結合を阻害することが観察された(Abastadoら、J. Immunol. 151 (7)、p3569-75、1993)。Schlessingerら(Proteins、61(1)、p115-26、2005)は、アミノ酸、グリシン及びセリンがアミノ酸配列に含まれて、より可撓性のタンパク質を生じ、それは、より効率的に翻訳されて、プロテアソームにより処理されて、コードされたネオエピトープへのよりよい接近を可能にすることを見出した。リンカーは、各々、3個以上、6個以上、9個以上、10個以上、15個以上、20個以上及び好ましくは50個まで、45個まで、40個まで、35個まで又は30個までアミノ酸を含むことができる。好ましくは、リンカーは、グリシン及び/又はセリンアミノ酸に富化される。好ましくは、リンカーのアミノ酸の少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、又は少なくとも95%は、グリシン及び/又はセリンである。好ましい一実施態様において、リンカーは、実質的にアミノ酸、グリシン及びセリンから構成される。一実施態様において、リンカーは、アミノ酸配列(GGS)a(GSS)b(GGG)c(SSG)d(GSG)eを含み、ここで、a、b、c、d及びeは、0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20から独立に選択される数であり、a+b+c+d+eは、0とは異なり、好ましくは2以上、3以上、4以上又は5個以上である。一実施態様において、リンカーは、配列GGSGGGGSGなどの例で記載されるリンカー配列を含む、本明細書に記載された配列を含む。
【0231】
特に好ましい一実施態様において、ポリエピトープポリペプチドなどの一又は複数のネオエピトープを組み込んでいるポリペプチドは、本発明により、核酸、好ましくはRNA、例えばin vitroで転写された又は合成されたRNAなどの形態で患者に投与されて、それは、患者の抗原提示細胞などの細胞中で発現されて、ポリペプチドを産生することができる。本発明は、本発明の目的のために、用語「ポリエピトープのポリペプチド」により、好ましくは、核酸、好ましくは、in vitroで転写された又は合成されたRNAなどの形態で含まれて、患者の抗原提示細胞などの細胞で発現されて一又は複数のポリペプチドを産生することができる、一又は複数のマルチエピトープポリペプチドの投与も構想する。1種を超えるマルチエピトープポリペプチドの投与の場合、異なるマルチエピトープポリペプチドにより提供されるネオエピトープは、異なっているか又は部分的に重なっていることもある。患者の抗原提示細胞などの細胞に一旦存在すれば、該ポリペプチドは、本発明により、処理されてネオエピトープを産生して、本発明により同定される。本発明により提供されるワクチンの投与は、MHCが提示されたエピトープを誘導する抗原を発現している細胞に対するCD8+ヘルパーT細胞の応答を引き出すことができるMHCクラスIが提示されているエピトープを、好ましくは提供する。本発明により提供されるワクチンの投与は、MHCが提示されたエピトープを誘導する抗原を発現している細胞に対するCD4+T細胞の応答も引き出すことができるMHCクラスIIが提示されたエピトープも提示することができる。さらに、本発明により提供されるワクチンの投与は、一又は複数のネオエピトープ(公知のネオエピトープ及び本発明により同定されたネオエピトープを含む)並びにがんに特異的な体細胞の変異を含有しないが、がん細胞により発現されて、好ましくはがん細胞に対する免疫応答、好ましくはがんに特異的な免疫応答を誘発する一又は複数のエピトープを提供することができる。
【0232】
本発明により提供されるワクチンは、組換えワクチンであってもよい。
【0233】
本発明の関係において、用語「組換え」は、「遺伝子工学により作製された」を意味する。好ましくは、本発明の関係の組換えポリペプチドなどの「組換え存在物」は、天然では生じず、好ましくは、天然では組み合わされないアミノ酸又は核酸配列などの存在物の組合せの結果である。例えば、本発明の関係の組換えポリペプチドは、異なるタンパク質又は、例えば、ペプチド結合若しくは適当なリンカーにより融合して一緒になった同じタンパク質の異なる部分から誘導されたネオエピトープ又はワクチン配列などの数通りのアミノ酸配列を含有することもできる。
【0234】
本明細書において使用する用語「天然に生ずる」は、対象物が天然に見出され得るという事実を指す。例えば、生物体(ウイルスを含む)に存在して、天然の供給源から分離することができて、実験室でヒトにより意図的に改変されていないペプチド又は核酸が、天然に生じるものである。
【0235】
本明細書に記載された薬剤及び組成物は、疾患、例えば、抗原を発現しており、それらのフラグメントを提示している疾患細胞の存在により特徴づけられる疾患を有する対象を治療するために使用することができる。特に好ましい疾患はがん疾患である。本明細書に記載された薬剤及び組成物は、本明細書に記載された疾患を予防するための免疫化又はワクチン接種のために使用することもできる。
【0236】
用語「疾患」は、個体の身体に影響する異常な状態を指す。疾患は、しばしば、特定の症状及び徴候と関連する病態と解釈される。疾患は、感染性疾患などの外部供給源に由来する因子により引き起こされることもあり、又は自己免疫疾患などの内的機能不全により引き起こされることもある。ヒトにおいて、「疾患」は、疼痛、機能不全、苦痛、社会的問題、又は悩む個人に対する死、又は個人と接触する人々にとっての同様な問題を引き起こす任意の状態をより広く指して、しばしば使用される。このより広い意味で、疾患は、時には、負傷、不能、障害、症候群、感染、単発症状、常軌を逸した挙動、及び構造及び機能の典型的でない変動を含むが、一方、他の関係で、及び他の目的で、これらは、区別され得るカテゴリーと考えることもできる。多くの疾患の罹患及びそれらを有する生活は、ヒトの人生についての考え方及びヒトの人格を変える可能性もあるため、疾患は通常、身体的にだけでなく感情的にも個人に悪影響を及ぼす。
【0237】
用語「正常」は、健常な状態又は健常な対象又は組織における状態、即ち、非病理学的状態を指し、「健常な」は、好ましくは、がんでないことを意味する。
【0238】
用語「抗原と関連する疾患」又は「抗原が関与する疾患」は、抗原と関係する任意の疾患、例えば、抗原又は抗原を発現している細胞の存在により特徴づけられる疾患を指す。抗原が関与する疾患は、感染性疾患、自己免疫疾患、又はがん疾患又は単にがんであることができる。上記のように、抗原は、疾患に関連する抗原、例えば、腫瘍に関連する抗原、ウイルスの抗原、又は細菌の抗原などであり得る。
【0239】
「抗原を発現している細胞を含む疾患」は、本発明により、病変組織又は器官の細胞における抗原の発現が検出されることを意味する。病変組織又は器官の細胞における発現は、健常な組織又は器官における状態と比較して増加し得る。増大は、少なくとも10%、特に少なくとも20%、少なくとも50%、少なくとも100%、少なくとも200%、少なくとも500%、少なくとも1000%、少なくとも10000%の又はさらにそれを超える増大を指す。一実施態様において、発現は、病変組織においてのみ見出され、一方、健常な組織における発現は、抑制される。本発明により、抗原を発現している細胞を含むか又はそれと関連する疾患は、がん疾患を含む。
【0240】
用語「感染性疾患」は、個体から個体へ又は生物体から生物体へ伝染し得る任意の疾患を指し、微生物因子により引き起こされる(例えば普通の風邪)。感染性疾患は、当技術分野において公知であり、例えば、ウイルス性疾患、細菌性疾患、又は寄生虫による疾患を含み、それらの疾患は、それぞれ、ウイルス、細菌、及び寄生虫により引き起こされる。これに関して、感染性疾患は、例えば、肝炎、性的に移された疾患(例えばクラミジア又は淋病)、結核、HIV/後天性免疫不全症候群(AIDS)、ジフテリア、B型肝炎、C型肝炎、コレラ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、トリインフルエンザ、及びインフルエンザであることができる。
【0241】
用語「自己免疫疾患」は、身体が、それ自体の組織の何らかの構成要素に対して免疫原性(即ち免疫系)応答を生ずる任意の疾患を指す。言い換えれば、免疫系が、身体内の一部の組織又は系を自己として認識する能力を失って、それがあたかも外来物であるかのようにそれを標的として攻撃する。自己免疫疾患は、主に1つの器官が影響されて(例えば溶血液性貧血及び抗免疫甲状腺炎)、自己免疫疾患プロセスが多くの組織にわたって拡散する疾患と分類することができる(例えば全身性エリテマトーデス)。例えば、多発性硬化症は、脳及び脊髄の神経繊維を取り囲む鞘を攻撃するT細胞により引き起こされると考えられている。これは、筋肉運動の協調の喪失、衰弱、及びかすんだ視野を生じさせる。自己免疫疾患は、当技術分野において公知であり、例えば、橋本甲状腺炎、Grave疾患、狼瘡、多発性硬化症、リューマチ性関節炎、溶血液性貧血、抗免疫甲状腺炎、全身性エリテマトーデス、セリアック病、クローン病、結腸炎、糖尿病、強皮症、乾癬等を含む。
【0242】
用語「がん疾患」又は「がん」は、典型的には調節されない細胞の成長により特徴づけられる個体における生理学的状態を指すか又は記載する。がんの例は、がん腫、リンパ腫、芽細胞腫、肉腫、及び白血病を含むが、これらに限定されない。さらに特に、そのようながんの例は、骨がん、血液がん、肺がん、肝臓がん、膵がん、皮膚がん、頭頸部のがん、皮膚又は眼内のメラノーマ、子宮がん、卵巣がん、直腸がん、肛門領域のがん、胃がん、大腸がん、乳がん、前立腺がん、子宮がん、性及び生殖器官のがん、ホジキン病、食道がん、小腸のがん、内分泌系のがん、甲状腺のがん、副甲状腺のがん、副腎腺のがん、軟組織の肉腫、膀胱のがん、腎臓のがん、腎細胞がん腫、腎盂のがん腫、中枢神経系(CNS)の新生物、神経外胚葉性がん、脊椎軸腫瘍、神経膠腫、髄膜腫、及び下垂体腺腫を含む。用語「がん」は、本発明により、がん転移も含む。
【0243】
本発明により、用語「腫瘍」又は「腫瘍疾患」は、好ましくは腫大又は病変を形成する細胞の異常な成長(新生物の細胞、腫瘍形成性細胞又は腫瘍細胞と呼ばれる)を指す。「腫瘍細胞」により、急速な、制御されない細胞増殖により成長して、新しい成長の中止を伝える刺激の後も成長を続ける異常な細胞が意味される。腫瘍は、構造の組織化及び正常組織との機能調整の部分的に又は完全な欠損を示し、通常良性、予備的悪性の又は悪性のいずれかであり得る独特な塊状の組織を形成する。
【0244】
本発明において、用語「がん」及び「がん疾患」は、用語「腫瘍」及び「腫瘍疾患」と互換的に使用される。
【0245】
「転移」により、がん細胞のその最初の部位から身体の別の一部への広がりが意味される。転移の形成は非常に複雑なプロセスであり、原発性腫瘍から悪性細胞の離脱、細胞外基質への侵襲、内皮基底膜への浸透から身体空洞及び脈管への侵入、次に、血液により輸送された後、標的器官への浸潤に依存する。最終的に、標的部位における新しい腫瘍、即ち二次腫瘍又は転移腫瘍の成長は、血管新生に依存する。腫瘍転移は、しばしば原発性腫瘍の除去後でさえ起こり、その理由は、腫瘍細胞又は成分が残留して、潜在的転移を発生させることがあるからである。一実施態様において、本発明による用語「転移」は、原発性腫瘍及びその領域のリンパ節系から遠く離れた転移に関する「遠隔転移」に関する。
【0246】
二次又は転移腫瘍の細胞は、元の腫瘍の細胞と似ている。これは、例えば、卵巣がんが肝臓に転移する場合、二次腫瘍は、異常な肝臓細胞でなく異常な卵巣細胞で作られることを意味する。肝臓中における腫瘍は、この場合、肝臓がんでなく転移卵巣がんと呼ばれる。
【0247】
用語「循環性腫瘍細胞」又は「CTC」は、原発性腫瘍又は腫瘍転移から離脱して、血流中で循環する細胞に関する。CTCは、異なる組織における追加の腫瘍(転移)のそれに続く成長のための種を構成することができる。循環する腫瘍細胞は、転移疾患を有する患者における全血液の1mL当たり1-10CTCのオーダーの頻度で見出される。研究方法が、CTCを分離するために開発された。CTCを分離するための技術分野で、数通りの研究方法、例えば、上皮の細胞は正常血液細胞中には存在しない細胞接着タンパク質EpCAMを通常発現しているという事実を使用する技法が記載されている。免疫磁性ビーズに基づく捕捉は、磁性粒子とコンジュゲートしたEpCAMに対する抗体で、血液検体を処理し、続いて付加した細胞を磁場で分離することを含む。次に、希少なCTCを汚染する白血球と識別するために、分離された細胞を、別の上皮のマーカー、サイトケラチン、並びに共通の白血球マーカーCD45に対する抗体で染色する。この堅牢な半自動化手法により、約1CTC/mLの平均収率及び0.1%の純度でCTCが同定される(Allardら、2004: Clin Cancer Res 10、p6897-6904)。CTCを分離するための第2の方法では、マイクロフルイディクスに基づくCTC捕捉デバイスが使用され、それは、EpCAMに対する抗体でコーティングすることにより機能的にされた80,000のマイクロポストを埋め込んだチェンバーを通して全血を流すことを含む。次にCTCをサイトケラチン又は組織特異的マーカー、例えば、前立腺がんにおけるPSA又は乳がんにおけるHER2などのいずれかに対する二次抗体で染色して、3次元の座標に沿って複数の平面でマイクロポストの自動化された走査により可視化する。CTCチップは、患者におけるサイトケラチン陽性の循環する腫瘍細胞を、50細胞/mlの中央値収率及び1-80%の範囲の純度で、同定することができる(Nagrathら、2007: Nature 450、p1235-1239)。CTCを分離するための別の可能性は、Veridex、LLC(Raritan、ニュージャージー州)からのCellSearch(商標)Circulating Tumor Cell(CTC)Testの使用であり、それは、血液のチューブ中でCTCを捕捉し、同定して計数する。CellSearch(商標)システムは、全血液中のCTCの計数のためのU.S.Food and Drug Administration(FDA)に承認された方法であり、それは、免疫磁性標識と自動化されたディジタル顕微鏡の組合せに基づく。文献に記載されたCTCを分離する他の方法もあり、それらの全ては、本発明に関して使用することができる。
【0248】
ぶり返し又は再発は、人が、過去に冒された状態により、再び冒されたときに起こる。例えば、患者が腫瘍疾患を罹患して前記疾患の治療に成功したことがあり、再び前記疾患を発症しているならば、前記新しく発生した疾患は、ぶり返し又は再発と考えてよい。しかしながら、本発明により、腫瘍疾患のぶり返し又は再発は、最初の腫瘍疾患の部位で起こることもあるがそうとは限らない。したがって、例えば、患者が卵巣腫瘍を罹患したことがあり、治療に成功していたならば、ぶり返し又は再発は、卵巣腫瘍の発生であることもあり、卵巣と異なる部位における腫瘍の発生であることもある。腫瘍のぶり返し又は再発は、腫瘍が最初の腫瘍の部位と異なる部位で、並びに最初の腫瘍の部位で発生する状況も含む。好ましくは、患者が治療を受けたことがある最初の腫瘍は原発性腫瘍であり、最初の腫瘍の部位と異なる部位における腫瘍は二次又は転移腫瘍である。
【0249】
用語「免疫療法」は、免疫応答を誘発する、増強する、又は抑制することによる、疾患又は状態の治療に関する。免疫応答を引き出すか又は増幅するようにデザインされた免疫療法は、活性化免疫療法として分類され、一方、免疫応答を低下又は抑制する免疫療法は、抑制免疫療法として分類される。用語「免疫療法」は、抗原免疫化又は抗原ワクチン接種、又は腫瘍免疫化又は腫瘍ワクチン接種を含む。用語「免疫療法」は、不適切な免疫応答が、自己免疫疾患、例えば、リューマチ性関節炎、アレルギー疾患、糖尿病又は多発性硬化症などの関係で、より適当なものに調整されるように、免疫応答の操作にも関する。
【0250】
用語「免疫化」又は「ワクチン接種」は、例えば、治療的又は予防的理由のために、免疫応答を誘発する目的で、抗原を個体に投与するプロセスを記載する。
【0251】
用語「治療的処置」又は単に「治療」は、健康状態を改善する及び/又は個体の寿命を延長する(増大させる)任意の治療に関する。前記治療は、個体における疾患を排除し、個体における疾患の発達を抑止し又は遅延させ、個体における疾患の発達を阻害し又は遅延させ、個体における症状の頻度又は重症度を減少させ、及び/又は疾患を現在有するか若しくは以前有したことがある個体における再発を減少させることもできる。
【0252】
用語「予防的処置」又は「防止的処置」は、個体で起こる疾患を防止することを意図する任意の処置に関する。用語「予防的処置」又は「防止的処置」は、本明細書では互換的に使用される。
【0253】
用語「保護する」、「防止する」、「予防的」、「防止的」、又は「保護的」は、個体における疾患、例えば腫瘍の発生及び/又は伝播の防止及び/又は治療に関する。例えば、本明細書に記載された組成物を投与することによる免疫療法の予防的投与は、受ける個体を腫瘍の発達から保護することができる。例えば、本明細書に記載された組成物を投与することによる免疫療法の治療的投与は、疾患の発達を停止させることができ、例えば、腫瘍の進行/成長の阻害をもたらす。これは、腫瘍の進行/成長の減速、特に腫瘍の進行の中断を含み、それは、好ましくは、腫瘍の排除を導く。免疫療法の治療的投与は、個体を、例えば、存在する腫瘍の伝搬又は転移から保護することができる。
【0254】
用語「個体」又は「対象」は、脊椎動物、特に哺乳動物に関する。例えば、本発明の関係において、哺乳動物は、ヒト、非ヒト霊長類、家畜化された哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、ヒツジ、ウシ、ヤギ、ブタ、ウマその他、実験動物、例えば、マウス、ラット、ウサギ、テンジクネズミ、その他、並びに捕獲された状態の動物、例えば、動物園の動物である。用語「対象」は、非哺乳動物の脊椎動物、例えば、鳥類(特に家畜化されたトリ、例えば、ニワトリ、アヒル、ガチョウ、シチメンチョウなど)及び魚類(特に養殖された魚、例えばサケ又はナマズ)に関する。本明細書において使用する用語「動物」はヒトも含む。好ましくは、用語「患者」は、病気の個体に関する。
【0255】
本明細書に記載された薬剤は、任意の適当な薬学的組成物の形態で投与することができる。用語「薬学的組成物」は、治療に有効な薬剤又はそれらの塩、好ましくは、薬学的添加剤、例えば、緩衝剤、防腐剤及び等張性改変剤などと一緒に含む製剤に関する。前記薬学的組成物は、疾患又は障害の重症度を、個体への前記薬学的組成物の投与により、治療、防止、又は低下するために有用である。薬学的組成物は、薬学的製剤としても当技術分野において公知である。薬学的組成物は、局所的に又は全身的に投与することができる。
【0256】
用語「全身的投与」は、該薬剤が、個体の身体中に有意の量で広く分布して、生物学的効果を表すような、治療に有効な薬剤の投与を指す。本発明により、投与は非経口投与によることが好ましい。
【0257】
用語「非経口投与」は、該薬剤が腸を通らないような治療に有効な薬剤の投与を指す。用語「非経口投与」は、静脈内投与、皮下投与、皮内投与又は動脈内投与を含むが、それらに限定されない。
【0258】
特に好ましい一実施態様において、本発明による組成物は、骨格筋などの筋組織に投与される。したがって、筋肉注射によるなどの筋肉投与は、投与の好ましい経路である。
【0259】
投与は、種々の方法で達成することができる。一実施態様において、本発明による組成物は、注射により投与される。好ましい実施態様において、注射は、注射針による。注射針を使用しない注射が、代替として使用されることもある。
【0260】
本発明の薬学的組成物は、少なくとも1種のアジュバントを含むことができる。用語「アジュバント」は、抗原又は抗原ペプチドとの組合せで個体に投与されたときに、又は免疫応答を長引かせ又は強化し又は助長する化合物に関する。アジュバントは、抗原の表面の増大、身体中における抗原の保持の長期化、抗原放出の遅延、マクロファージに対する抗原の標的化、抗原の取り込みの増大、抗原プロセシングの増強、サイトカイン放出の刺激、B細胞、マクロファージ、樹状細胞、T細胞などの免疫細胞の刺激及び活性化、及び免疫細胞の非特異的活性化を含む一又は複数の機構により、それらの生物学的活性をはたらかせると仮定される。アジュバントは、油エマルション(例えば、フロイントアジュバント)、ミネラル化合物(アラムなど)、細菌の生成物(百日咳(Bordetella pertussis)毒素など)、又は免疫を刺激する複合体などの化合物の不均一な群を含む。アジュバントの例は、サポニン、不完全フロイントアジュバント、完全フロイントアジュバント、トコフェロール又はアラムを含むが、それらに限定されない。
【0261】
本発明による薬学的組成物は、「薬学的に有効量」で及び「薬学的に許容される製剤」で一般的に適用される。
【0262】
用語「薬学的有効量」は、所望の反応又は所望の効果を、単独で又はさらなる用量と一緒に達成する量を指す。特定の疾患の治療の場合に、所望の反応は、好ましくは、疾患の進行の阻害に関する。これは疾患の進行を遅らせること、特に、疾患の進行を中断又は逆行させることを含む。疾患の治療における所望の反応は、前記疾患又は前記状態の発症の遅れであっても発症の防止であってもよい。本明細書に記載された組成物の有効量は、治療されるべき状態、疾患の重症度、年齢、生理学的状態、背格好及び体重を含む患者の個々のパラメーター、処置の持続時間、同時に受けている療法のタイプ(もしあれば)、特定の投与経路及び同様な因子に依存するであろう。したがって、本明細書に記載された組成物の投与される用量は、種々のそのようなパラメーターに依存し得る。患者における反応が、初期の投与量で不十分な場合には、より高い用量(又は異なる、より局在化された投与経路により達成される効果的により高い用量)が使用され得る。
【0263】
用語「薬学的に許容される」は、薬学的組成物の有効成分の作用と相互作用しない材料の無毒性を指す。
【0264】
本発明の薬学的組成物は、塩、緩衝剤、防腐剤、担体及び任意選択的に他の治療剤を含有してもよい。好ましくは、本発明の薬学的組成物は、一又は複数の薬学的に許容される担体、希釈剤及び/又は添加剤を含む。
【0265】
用語「添加剤」は、薬学的組成物中の有効成分でない全ての物質、例えば結合剤、潤滑剤、増粘剤、界面活性剤、防腐剤、乳化剤、緩衝剤、着香剤又は着色剤などを示すことが意図される。
【0266】
用語「希釈剤」は、希釈する薬剤及び/又は薄める薬剤に関する。さらに、用語「希釈剤」は、任意の一又は複数の流体、液体又は固体懸濁物及び/又は混合媒体を含む。
【0267】
用語「担体」は、ヒトに投与するために適当な一又は複数の適合性の固体若しくは液体の充填剤又は希釈剤に関する。用語「担体」は、有効成分の適用を助長するために、有効成分と組み合わされる天然又は合成の有機又は無機成分に関する。好ましくは、担体成分は、水又は、鉱油、動物又は植物、例えば、ピーナツ油、ダイズ油、ゴマ油、ヒマワリ油その他に由来する油を含む油類などの滅菌液体である。塩溶液及び水性デキストロース及びグリセリン溶液も、水性担体化合物として使用され得る。
【0268】
治療的使用のための薬学的に許容される担体又は希釈剤は、薬学技術分野で周知であり、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Co.(A. R Gennaro編、1985)に記載されている。適当な担体の例には、例えば、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、デンプン、ゼラチン、トラガカント、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース、低融点ワックス、ココアバター等が含まれる。適当な希釈剤の例は、エタノール、グリセロール及び水を含む。
【0269】
薬学的担体、添加剤又は希釈剤は、意図される投与経路及び標準薬務を考慮して選択することができる。本発明の薬学的組成物は、担体(一又は複数)、添加剤(一又は複数)又は希釈剤(一又は複数)として又はそれに加えて、任意の適当な結合剤(一又は複数)、潤滑剤(一又は複数)、懸濁剤(一又は複数)、コーティング剤(一又は複数)、及び/又は可溶化剤(一又は複数)を含むことができる。適当な結合剤の例には、デンプン、ゼラチン、天然糖類、例えば、グルコース、無水ラクトース、フリー・フロー・ラクトース(free-flow lactose)、ベータ-ラクトース、トウモロコシ甘味料など、天然及び合成ゴム、例えば、アラビアゴム、トラガカントなど又はアルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース及びポリエチレングリコールが含まれる。適当な潤滑剤の例には、オレイン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム、安息香酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、塩化ナトリウム等が含まれる。防腐剤、安定剤、染料及びさらに着香剤が、薬学的組成物中で供給されてもよい。防腐剤の例には、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸及びp-ヒドロキシ安息香酸のエステルが含まれる。抗酸化剤及び懸濁剤も使用され得る。
【0270】
一実施態様において、組成物は水性組成物である。水性組成物は、任意選択的に溶質、例えば塩を含むことができる。一実施態様において、組成物は、凍結乾燥された組成物の形態にある。凍結乾燥された組成物は、それぞれの水性組成物を凍結乾燥することにより得ることができる。
【0271】
本明細書で提供される薬剤及び組成物は、単独又は手術、照射、化学療法及び/又は骨髄移植(自家の、同系の、同種の又は無関係の)などの他の治療レジメンとの組合せで使用することができる。
【0272】
本発明を、詳細に記載して、図及び実施例により例示しているが、それらは、例示目的にのみ使用されており、限定することは意図されていない。記載及び例によって、本発明に同様に含まれるさらなる実施態様が、当業者には利用可能である。
【実施例0273】
本明細書で使用される技法及び方法は、本明細書に記載されているか又はそれ自体公知であり、例えばSambrookら, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y.に記載された様式で実施される。キット及び試薬の使用を含む全ての方法は、特に断りのない限り、製造業者の情報に従って実施される。
【0274】
実施例1: 公開されているエピトープを含有するタンパク質の位置特定
MHCクラスIに限定された変異ネオエピトープを同定するために(「公開されているエピトープ」、n=129)、文献をスクリーニングして、それらの位置を、タンパク質をコードする遺伝子のランダム試料(「プロテオーム」、n=500)(
図1)と比較した。それぞれの遺伝子の位置は、遺伝子オントロジーデータベース(http://www.ebi.ac.uk/QuickGO/)により決定した。さらに、エキソソーム中における存在を、ExoCartaデータベース(http://www.exocarta.org/)により試験した。
図1に示したように、ネオエピトープ含有遺伝子は、コントロール遺伝子と比較してエキソソーム並びにサイトゾル中で有意に富化されている(フィッシャーの正確検定;p<0.0001)。
【0275】
第2の工程で、SEREXデータベース(V. Jongeneel, Cancer Immunity, Vol. 1, p.3 (3月30日、2001))中で公開されているエピトープから遺伝子の存在を、ランダムなコントロール遺伝子と比較した(
図2)。自己抗体により認識されることが示されたSEREXデータベースのリストのタンパク質。公開されているエピトープの遺伝子は、ランダムペプチドと比較して、有意により高頻度でSEREXデータベースに見出される(フィッシャーの正確検定;p<0.0001)。
【0276】
図1及び
図2に示された結果は、エキソソーム、サイトゾル又は自己抗体データベース中における変異遺伝子の存在が、免疫療法のために関係する変異抗原を予測する有用なパラメーターであることを示す。