(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011284
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】水素発生電極、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/053 20210101AFI20240118BHJP
C25B 11/081 20210101ALI20240118BHJP
C25B 11/093 20210101ALI20240118BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20240118BHJP
C25B 9/00 20210101ALI20240118BHJP
C25B 1/46 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C25B11/053
C25B11/081
C25B11/093
C25B1/04
C25B9/00 A
C25B1/46
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113166
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000108993
【氏名又は名称】株式会社大阪ソーダ
(72)【発明者】
【氏名】岩田 学
(72)【発明者】
【氏名】曽田 剛一
【テーマコード(参考)】
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4K011AA11
4K011AA22
4K011AA30
4K011BA07
4K011CA04
4K011DA01
4K011DA02
4K021AA01
4K021BA02
4K021BA03
4K021BB01
4K021BB03
4K021DB31
4K021DC03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】本発明は、水素発生電極として電解槽に組み込んだ際のセル電圧を効果的に削減することができ、電解停止時の逆電流に起因する電極触媒の剥離・脱落を効果的に抑制した、水素発生電極を提供する。さらに、当該水素発生電極の製造方法、及び当該水素発生電極を利用した電気分解方法を提供する。
【解決手段】導電性基体と、該導電性基体上に形成された触媒層を有する水素発生電極において該触媒層が白金金属を含む第一触媒層と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属を含む第二触媒層の酸化物を有することを特徴とする水素発生電極、及び当該水素発生電極の製造方法を提供するものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と、該導電性基体上に形成された触媒層を有する水素発生電極において
該触媒層が白金金属を含む第一触媒層と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層を有することを特徴とする水素発生電極。
【請求項2】
前記第二触媒層中における第一遷移金属および/またはランタノイド金属の含有量が、20~80モル%、白金族金属の含有量が20~80モル%である請求項1に記載の水素発生電極。
【請求項3】
前記第二触媒層中における前記第一遷移金属および/またはランタノイド金属が、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジウムから選択される1種以上である請求項1に記載の水素発生電極。
【請求項4】
前記白金族金属が、ルテニウム、ロジウム、パラジウム及びイリジウムから選択される1種以上である請求項1に記載の水素発生電極。
【請求項5】
導電性基体上に、白金を含む第一触媒層を形成する工程と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属の酸化物を含む第二触媒層を形成する工程を備える、水素発生電極の製造方法。
【請求項6】
水を含む溶液の電気分解法において、請求項1~4のいずれか1項に記載の水素発生電極を用いる、電気分解法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素発生電極、及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオン交換膜食塩電解プロセスにおいては、エネルギー消費の削減が最も大きな課題である。イオン交換膜食塩電解法における槽電圧を詳細に解析すると、理論的に必要な電圧以外に、イオン交換膜の膜抵抗による電圧、陽極と陰極の過電圧、液抵抗及びガス抵抗による電圧が加わる。これらの電圧の中でも、電極の過電圧については、陽極に関して言えば、不溶性電極への白金族酸化物の適応によって、通常の操業条件下では50mV程度にまで削減され、これ以上の改善・改良は望めないレベルにまで到達している。
【0003】
一方、陰極に関しては、従来使用されていた軟鋼やステンレス、ニッケルの電極の場合、通常の操業条件下において、300~400mVの過電圧を生じていた。そこで、これらの電極表面を活性化することによる、過電圧の低減、延いてはセル電圧の削減が検討され、これまでに多くの技術が開発されている。酸化ニッケルをプラズマ溶射することにより、電極表面が酸化物でありながら高活性な陰極を製造している例や、ラネーニッケル系のメッキや、ニッケルとスズの複合メッキ、活性炭と酸化物の複合メッキを電極表面に施している例などがあり、いずれも水酸化ナトリウム中での水素発生用陰極として利用が図られている。しかし、電解電圧を削減するためには、陰極の更なる高活性化が必要であり、このために次のような様々な陰極が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、1種類の貴金属又は2種類若しくは3種類以上の貴金属の混合物若しくは合金からなる貴金属被膜や、該貴金属被膜にニッケル等の1種類又は2種類以上の卑金属を含んだ被膜をニッケル等の導電性基体上に被膜させた水素発生電極が提案されている。しかしながら、これらの水素発生電極は、セル電圧の削減が十分であるとは言えず、更なる高活性化が求められている。(特許文献2参照)。
【0005】
従来、白金とセリウム酸化物からなる触媒を用いた水素発生電極が提案されている(特許文献3)。当該白金とセリウム酸化物の触媒からなる水素発生電極は、過電圧が低く且つ鉄イオンによる影響は抑制され、アルカリ金属塩化物水溶液の電気分解用の水素発生電極として優れた性能を示す。また、白金とセリウム酸化物からなる触媒と基体の間にニッケル酸化物からなる中間層を設ける提案がなされており、さらにコスト面などを改善すべく検討されている。
【0006】
また、電気分解方法において、電解停止時には、陽極と陰極との間に生じた電位差を解消する方向に電流が流れる。この電流は、電解時とは逆方向に流れるため、逆電流と呼ばれている。従来の水素発生電極においては、この逆電流によって、白金族金属などの電極触媒が触媒層から剥離・脱落などで減少し、水素発生電極が劣化することが知られており、高い逆電流耐性を有する水素発生電極が求められている。
【0007】
そのような中で、導電性基体上に、白金、ニッケル及びルテニウムを主成分とし、かつ、白金、ニッケル及びルテニウムが合金の状態である触媒層が担持されてなる水素発生電極が記載されている(特許文献4)が、水素発生電極を電解槽に組み込んだ際のセル電圧の削減が十分とは言えず、また、逆電流耐性に改善の余地が残されている。
【0008】
以上述べてきた通り、水又はアルカリ金属塩化物水溶液電解工業の電力消費量を削減する目的で、従来から様々な水素発生電極が提案されてきたが、従来の水素発生電極は高い水素発生活性と、起動・停止を余儀なくされる工業的な使用において十分な耐久性(逆電流耐性)を兼ね備え、工業的に満足し得る特性を持つ水素発生電極は、依然得られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭57-23083号公報
【特許文献2】特開昭64-8288号公報
【特許文献3】特開2000-239882号公報
【特許文献4】特開2015-143388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記の通り、従来、種々の水素発生電極が開発されているが、イオン交換膜食塩電解プロセスにおいては、電力を多量に消費するため、セル電圧を僅か数mV低下させることができるだけでも、電解にかかる年間のコスト低減効果は非常に大きくなる。従って、水素発生電極の改良により、セル電圧をさらに低下させることが求められる。
【0011】
このような状況下、本発明は、水素発生電極として電解槽に組み込んだ際のセル電圧を効果的に削減することができ、さらに、電解停止時の逆電流に起因する電極触媒の剥離・脱落を効果的に抑制された、水素発生電極を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、当該水素発生電極の製造方法、及び当該水素発生電極を利用した電気分解方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、導電性基体と、該導電性基体上に形成された触媒層を有する水素発生電極において、該触媒層が白金金属を含む第一触媒層と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層を有することを特徴とする水素発生電極によれば、水素発生電極を電解槽に組み込んだ際のセル電圧を効果的に削減することができ、さらに、電解停止時の逆電流に起因する触媒の剥離・脱落を効果的に抑制されることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0013】
即ち、本発明は以下のように記載することができる。
項1. 導電性基体と、該導電性基体上に形成された触媒層を有する水素発生電極において
該触媒層が白金金属を含む第一触媒層と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層を有することを特徴とする水素発生電極。
項2. 前記第二触媒層中における第一遷移金属および/またはランタノイド金属の含有量が20~80モル%、白金族金属の含有量が20~80モル%である項1に記載の水素発生電極。
項3. 前記第二触媒層中における前記第一遷移金属および/またはランタノイド金属が、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジウムから選択される1種以上である項1に記載の水素発生電極。
項4. 前記白金族金属が、ルテニウム、ロジウム、パラジウム及びイリジウムから選択される1種以上である項1に記載の水素発生電極。
項5. 導電性基体上に、白金を含む第一触媒層を形成する工程と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属の酸化物を含む第二触媒層を形成する工程を備える、水素発生電極の製造方法。
項6. 水を含む溶液の電気分解法において、項1~4のいずれか1項に記載の水素発生電極を用いる、電気分解法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の導電性基体と、該導電性基体上に形成された触媒層を有する水素発生電極において、該触媒層が白金金属を含む第一触媒層と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層を有することを特徴とする水素発生電極は、高い水素発生活性を有し、且つ、耐久性に優れた水素発生電極である。
【0015】
本発明の水素発生電極は、高い水素発生活性を有し、さらに、電解運転中や停止・起動操作中に流れる逆電流による触媒の剥離・脱落が改善されている。そのため、触媒金属が本来有する高い水素発生活性を長期間に渡り安定に維持でき、特に年間数回の停止、再起動の際に流れる逆電流や陰極液中への鉄混入が余儀なくされる水又はアルカリ金属水溶液の電気分解工業等の所要エネルギーを大幅に削減可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】実施例で用いた逆電流耐性試験のサイクルを示す図である。
【
図2】実施例1及び比較例1の水素発生電極のX線回析チャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の水素発生電極は、導電性基体と、該導電性基体上に形成された触媒層を有する水素発生電極において、該触媒層が白金金属を含む第一触媒層と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層を有することを特徴としている。本発明の水素発生電極は、このような構成を備えていることにより、高い水素発生活性を有し、さらに、電解停止時の逆電流に起因する触媒層からの触媒金属の剥離・脱落による減少を効果的に抑制されている。以下、本発明の水素発生電極、当該水素発生電極の製造方法、及び当該水素発生電極を利用した電気分解方法について詳述する。
【0018】
なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0019】
1 . 水素発生電極
本発明の水素発生電極は、導電性基体と、該導電性基体上に形成された触媒層を有する水素発生電極において、該触媒層が白金金属を含む第一触媒層と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層を有することを特徴とするものである。
【0020】
導電性基体としては、導電性を備えており、かつ、被膜の基体としての機能を発揮する限りにおいて、特に制限されず、公知の水素発生電極に使用されている導電性基体を使用することができる。
【0021】
導電性基体は、金属を含むことが好ましく、金属により構成されていることがより好ましい。また、金属としては、好ましくはニッケル、ステンレス鋼、鉄、銅、チタン、鋼などが挙げられ、これらの中でも、ニッケルが好ましい。高い水素発生活性を有しつつ、電解停止時の逆電流に起因する触媒の有効表面積の減少を効果的に抑制する観点から、本発明の水素発生電極において、導電性基体は、ニッケルにより構成されていることが好ましい。ニッケルを含む導電性基体としては、ニッケルにより構成されたものの他、例えばステンレス鋼の表面がニッケルで被覆されたものなども好適である。
【0022】
また、導電性基体の形状についても、特に制限されず、板状、棒状、多孔状(エキスパンドメタル、パンチングメタル、すだれ状など)などが挙げられる。導電性基体の上に設けられる触媒層の表面積を大きくする観点からは、多孔状などが好ましい。
【0023】
導電性基体のサイズは、特に制限されず、電気分解のスケール、水素発生電極のサイズ等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、長さは300mm~2,500mm程度、幅は1,200mm~1,500mm程度、厚みは0.1mm~6mm程度が挙げられる。
【0024】
導電性基体の表面は、触媒層の密着性を向上させる観点などから、粗面化されていてもよい。導電性基体の表面粗さRaとしては、例えば1~10μm程度に設定することができる。導電性基体の表面を粗面化する方法としては、ブラスト処理などが挙げられる。
【0025】
また、導電性基体の表面は、被膜の密着性を向上させる観点などから、エッチング処理が施されていてもよい。エッチング処理の方法としては、例えば、塩酸などの酸に導電性基体を浸漬する方法などが挙げられる。また、エッチング処理後には、導電性基体の表面が中性になるまで水洗し、乾燥させることが好ましい。
【0026】
本発明の水素発生電極は、導電性基体上に形成された触媒層を有し、該触媒層は白金金属を含む第一触媒層と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層からなるものである。
【0027】
本発明の水素発生電極の触媒層において、白金金属を含む第一触媒層と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層は、導電性基体上にどのような順番で積層されていてもよい。さらには触媒層の白金金属を含む第一触媒層と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層の積層順を途中で逆にして積層することも可能である。
【0028】
本発明の水素発生電極の触媒層において、白金金属を含む第一触媒層と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層は、想定される発明の効果が得られる範囲で何層にも積層させることができる。例えば、導電性基体上に白金金属を含む第一触媒層を積層(例えば、2層から何十層)した後、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層を積層(例えば、2層から何十層)させてもよく、導電性基体上に第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層を積層(例えば、2層から何十層)後、白金金属を含む第一触媒層を積層(例えば、2層から何十層)させてもよい。
【0029】
第一触媒層と第二触媒層の積層数は、発明の効果が得られる範囲で適宜検討すればよく、通常1層~10層であればよく、4層~8層が好ましい。また、第一触媒層と第二触媒層のいずれが最表層(触媒層の表面)となる態様であっても問題ない。
【0030】
本発明の水素発生電極における第一触媒層は、白金金属を含んでいればよく、他の白金族金属を含んでいてもよい。第一触媒層における白金の含有量は、80モル%以上であればよく、90モル%以上が好ましく、95モル%以上がより好ましく、98モル%以上がさらに好ましく、100モル%が特に好ましい。
【0031】
第一触媒層において、白金金属以外の白金族金属を含む場合、白金族金属であればいずれの金属を含んでいてもよく、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムのいずれを含んでいてもよく、ルテニウム、パラジウムが好ましい。第一触媒層において、白金以外の白金族金属を含む場合の含有量は、20モル%以下であり、10モル%以下が好ましく、5モル%以下がより好ましく、2モル%以下がさらに好ましい。
【0032】
第一触媒層における白金の状態は特に制限させないが、少なくとも一部は白金金属として含まれていることが好ましく、白金酸化物、白金水酸化物などが含まれていてもよい。なお、第一触媒層における白金の状態はX線回折により、解析することができる。本発明の水素発生電極において、第一触媒層のX線回折によれば、白金金属の特徴ピーク(2θ=46~47°、あるいは39~40°)を確認することができる。
【0033】
水素発生の活性を向上させつつ、電解停止時の逆電流に起因する触媒の剥離・脱落を効果的に抑制する観点から、第一触媒層における白金金属の含有量(すなわち、第一触媒層における触媒担持量) は、好ましくは2g/m2以上、より好ましくは3g/m2以上、さらに好ましくは4g/m2以上が挙げられる。第一触媒層における触媒担持量は、多ければ多いほど効果を発揮するが、経済的な観点から、第一触媒層における触媒担持量の上限は、例えば20g/m2が挙げられる。
【0034】
また、同様の観点から、第一触媒層の厚みとしては、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに1μm以上が挙げられる。第一触媒層の厚みは、厚ければ厚いほど効果を発揮するが、経済的な観点から、第一触媒層の厚みの上限は、例えば20μmが挙げられる。
【0035】
本発明の水素発生電極における第二触媒層は、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含むものである。
【0036】
第二触媒層における第一遷移金属としては、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅が挙げられる。また、ランタノイド金属としては、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジウム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、テルピウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルピウム、ツリウム、オッテルピウム、ルテチウムが挙げられる。中でも、アルカリ腐食耐性、陰分極耐性の点で、チタン、ニッケル、鉄、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジウムが好ましく、ニッケル、セリウムが好ましい。第二触媒層における第一遷移金属および/またはランタノイド金属の含有量は、20~80モル%であればよく、20~50モル%が好ましい
【0037】
第二触媒層における白金族金属としては、白金以外のものであれば特に制限なく用いることができる。具体的には、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムを例示することができ、中でも、水素発生の活性向上の点で、ルテニウム、パラジウムが好ましく、ルテニウムが好ましい。第二触媒層における白金族金属の含有量は、20~80モル%であればよく、20~50モル%が好ましい
【0038】
第二触媒層における第一遷移金属および/またはランタノイド金属と白金族金属(白金を除く)の状態は特に制限されないが、例えば、第一遷移金属および/またはランタノイド金属に属する金属、第一遷移金属および/またはランタノイド金属に属する金属の酸化物、第一遷移金属および/またはランタノイド金属に属する金属の水酸化物、白金族金属、白金族金属の酸化物、白金族金属の酸化物のいずれの状態であってもよい。また、上述した各金属の合金、若しくはアモルファス金属の状態となっていてもよい。第二触媒層における第一遷移金属および/またはランタノイド金属と白金族金属の状態はX線回折により、解析することができる。
【0039】
水素発生の活性を向上させつつ、電解停止時の逆電流に起因する触媒の剥離・脱落を効果的に抑制する観点から、第二触媒層における第一遷移金属および/またはランタノイド金属と白金族金属の含有量(すなわち、触媒担持量) は、好ましくは2g/m2以上、より好ましくは3g/m2以上、さらに好ましくは4g/m2以上が挙げられる。第二触媒層における触媒担持量は、多ければ多いほど効果を発揮するが、第二触媒層における経済的な観点から、触媒担持量の上限は、例えば20g/m2が挙げられる。
【0040】
また、同様の観点から、第二触媒層の厚みとしては、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.5μm以上、さらに1μm以上が挙げられる。第二触媒層の厚みは、厚ければ厚いほど効果を発揮するが、経済的な観点から、第二触媒層の厚みの上限は、例えば20μmが挙げられる。
【0041】
導電性基体の上に白金金属を含む第一触媒層と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層を有する触媒層を形成する方法としては、特に制限されないが、後述のように、例えば、白金化合物、第一遷移金属化合物および/またはランタノイド金属化合物、及び白金族金属化合物(白金化合物を除く)を含む各溶液を、導電性基体上に塗布し、形成された塗膜を焼成してこれらの化合物を熱分解させる方法によって好適に形成することができる。
【0042】
さらに触媒層(第一触媒層及び/または第二触媒層)には、白金金属、第一遷移金属および/またはランタノイド金属と白金族金属とは異なる他の金属が含まれていてもよい。他の金属としては、例えば、ジルコニウム、ニオブ、モリブデンなどが挙げられる。触媒層(第一触媒層及び/または第二触媒層)における触媒に他の金属が含まれる場合、その含有量としては、好ましくは5モル%以下、より好ましくは1モル%以下、さらに好ましくは0.5モ%以下が挙げられる。
【0043】
本発明の水素発生電極は、水を含む溶液(例えば、水や、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属塩化物水溶液、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液)の公知の電気分解法の電極として好適に使用されて、当該電極から水素が発生する。すなわち、本発明の水素発生電極は、水を含む溶液の電気分解法における陰極として好適である。
【0044】
2 . 水素発生電極の製造方法
本発明の水素発生電極の製造方法は、白金金属を含む第一触媒層を形成する工程と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層を形成する工程を備える。当該触媒層の形成方法としては、特に制限されず、熱分解法、粉末焼結法、電気めっき法、分散めっき法、溶射法、アークイオンプレーティング法など、白金を含む第一触媒層と、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層を有する触媒層を導電性基体の上に形成することができる、公知の方法を採用することができる。
【0045】
これらの触媒層の形成方法の中でも、熱分解法が好ましい。熱分解法においては、例えば、白金化合物を含む溶液を、導電性基体上に塗布し、導電性基体上に白金化合物を含む溶液の塗膜を形成する工程と、導電性基体上の塗膜を焼成して、導電性基体上に白金金属を含む第一触媒層を形成する工程(第一触媒層形成工程)と、第一遷移金属化合物および/またはランタノイド金属化合物と白金族金属(白金を除く)の化合物を含む溶液を、導電性基体上に塗布し、導電性基体上に溶液の塗膜を形成する工程と、導電性基体上の塗膜を焼成して、導電性基体上に、第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属(白金を除く)の酸化物を含む第二触媒層を形成する工程(第二触媒層形成工程)を備えるものである。
【0046】
第一触媒層の形成に用いる白金化合物としては、塗膜の焼成によって熱分解して第一触媒層に白金金属が含まれるものであれば特に制限されず、例えば、ジニトロジアンミン白金、塩化白金酸、硝酸テトラアンミン白金、ヘキサアンミン白金水酸塩、ビス(アセチルアセトナト)白金、エタノールアミン白金などが挙げられ。白金化合物は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0047】
第一触媒層の形成に用いる白金化合物を含む溶液に含まれる溶媒としては、特に制限されないが、白金化合物を溶解できるものが好ましい。溶媒の具体例としては、水や、硝酸、塩酸、硫酸、酢酸などの無機酸、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコール、またはこれらのうち少なくとも2種を含む混合溶液などが挙げられる。また、導電性基体の溶解を抑制する観点などから、溶液にはpH調整剤などを配合してもよく、また、白金を錯化させて表面積を大きくする観点などから、リシン、クエン酸などを添加してもよい。
【0048】
第一触媒層の形成に用いる白金化合物を含む溶液中の白金の濃度としては、特に制限されないが、第一触媒層に含まれる白金触媒の担持量が所定量となるように、被膜を好適に形成する観点から、好ましくは2%以上、より好ましくは3~30%程度、さらに好ましくは4~20%程度が挙げられる。
【0049】
第一触媒層の塗膜を形成する工程において、少なくとも白金化合物を含む溶液を用意し、溶液を導電性基体の上に塗布することで、塗膜を形成してもよい。溶液を塗布した後、後述の乾燥、さらに焼成を行って、白金金属を含む第一触媒層を形成させる。
【0050】
第一触媒層の形成に用いる白金化合物を含む溶液を導電性基体上に塗布する方法としては、特に制限されず、刷毛による塗布する方法、スプレー法、ディップコート法など公知の方法を採用することができる。なお、前述のとおり、導電性基体の表面は、粗面化してもよいし、エッチング、水洗、乾燥などの処理を行ってもよい。
【0051】
第一触媒層の形成に用いる白金化合物を含む溶液を導電性基体上に塗布した後、塗膜を焼成させる前に、塗膜を乾燥させることが好ましい。乾燥は、溶媒が蒸発する程度の条件で行えばよく、例えば200℃以下の温度で5~60分間程度行えばよく、150℃以下の温度で行うことがより好ましい。
【0052】
次に、得られた塗膜を焼成し、導電性基体上に、白金を含む第一触媒層を形成させ、次に第二触媒層形成工程に付してもよい。焼成は、例えば、空気中等の酸化性雰囲気中(例えば大気中) において行うことができる。
【0053】
焼成は、塗膜中の白金化合物が熱分解して、得られる第一触媒層中に白金金属が含まれる条件で行えばよい。焼成温度としては、好ましくは200~700℃程度、より好ましくは350~550℃程度が挙げられる。また、焼成時間としては、好ましくは5~60分間程度、より好ましくは10~30分間程度が挙げられる。
【0054】
以上の塗布、乾燥、及び焼成の一連の工程を1回以上、好ましくは複数回繰り返して行い、導電性基体の上に第一触媒層を形成する。当該一連の工程の回数としては、特に制限されず、第一触媒層中における触媒の担持量が所定量となるまで繰り返すことが好ましい。また、一連の工程を繰り返す場合、塗布する溶液の組成は同一であってもよいし、異なっていてもよいが、通常は同一とする。
【0055】
第二触媒層の形成に用いる第一遷移金属化合物および/またはランタノイド金属としては、具体的には、塗膜の焼成によって熱分解して第二触媒層に第一遷移金属および/またはランタノイド金属の酸化物が含まれるものであれば特に制限されず、例えば、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジウム、プロメチウム、サマリウム、ユウロピウム、テルピウムの硝化物、硫化物、炭化物、塩化物などが挙げられる。中でも、ニッケル化合物、セリウム化合物が好ましく、硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、硝酸セリウム、硫酸セリウム、炭酸セリウム、塩化セリウム、酢酸セリウムなどが挙げられる。第一遷移金属化合物および/またはランタノイド金属化合物は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0056】
第二触媒層の形成に用いる白金族金属化合物としては、具体的には、塗膜の焼成によって熱分解して第二触媒層に白金族金属の酸化物が含まれるものであれば特に制限されず、例えば、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウムなどの塩化物、硫化物、硝化物、水酸塩などが挙げられる。中でもルテニウム化合物が好ましく、塩化ルテニウム、硝酸ルテニウム、硫酸ルテニウムなどが挙げられる。第一遷移金属化合物および/またはランタノイド金属は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。なお、第二触媒層形成工程に用いる白金族金属化合物には、白金は含まない。
【0057】
第二触媒層の形成に用いる溶液に含まれる溶媒としては、特に制限されないが、第一遷移金属化合物、ランタノイド金属化合物、白金族金属化合物を溶解できるものが好ましい。溶媒の具体例としては、水や、硝酸、塩酸、硫酸、酢酸などの無機酸、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルコール、またはこれらのうち少なくとも2種を含む混合溶液などが挙げられる。また、導電性基体の溶解を抑制する観点などから、溶液にはpH調整剤などを配合してもよく、また、第一遷移金属、ランタノイド金属、白金族金属を錯化させて表面積を大きくする観点などから、リシン、クエン酸などを添加してもよい。
【0058】
第二触媒層の形成に用いる溶液中の第一遷移金属および/またはランタノイド金属と白金族金属の合計濃度としては、特に制限されないが、第二触媒層に含まれる触媒の担持量が所定量となるように、第二触媒層を好適に形成する観点から、好ましくは2%以上、より好ましくは3~30%程度、さらに好ましくは4~20%程度が挙げられる。
【0059】
塗膜を形成する工程において、少なくとも第一遷移金属化合物および/またはランタノイド金属化合物を含む溶液と、少なくとも白金族金属化合物を含む溶液を用意し、それぞれの溶液を導電性基体の上に塗布することで、塗膜を形成してもよい。なお、このとき、第一遷移金属化合物および/またはランタノイド金属化合物を含む溶液に白金族金属化合物がさらに含まれているものを用いてもよい。また、各溶液を塗布した後、後述の乾燥、さらには焼成を行って、第一遷移金属および/またはランタノイド金属と白金族金属(白金を除く)を含む第二触媒層を形成させる。
【0060】
第二触媒層の形成に用いる溶液を導電性基体上に塗布する方法としては、特に制限されず、刷毛による塗布する方法、スプレー法、ディップコート法など公知の方法を採用することができる。なお、前述のとおり、導電性基体の表面は、粗面化してもよいし、エッチング、水洗、乾燥などの処理を行ってもよい。
【0061】
第二触媒層の形成に用いる溶液を導電性基体上に塗布した後、塗膜を焼成させる前に、塗膜を乾燥させることが好ましい。乾燥は、溶媒が蒸発する程度の条件で行えばよく、例えば200℃以下の温度で5~60分間程度行えばよく、150℃以下の温度で行うことがより好ましい。
【0062】
次に、得られた塗膜を焼成し、導電性基体上に、第一遷移金属の酸化物および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属の酸化物を含む第二触媒層を形成して、水素発生電極を得る。焼成は、例えば、空気中等の酸化性雰囲気中(例えば大気中) において行うことができる。
【0063】
焼成は、塗膜中の第一遷移金属化合物および/またはランタノイド金属化合物と白金族金属化合物が熱分解して、得られる第二触媒層中に、第一遷移金属の酸化物および/またはランタノイド金属の酸化物と白金族金属の酸化物が含まれる条件で行えばよい。焼成温度としては、好ましくは200~700℃程度、より好ましくは350~550℃程度が挙げられる。また、焼成時間としては、好ましくは5~60分間程度、より好ましくは10~30分間程度が挙げられる。
【0064】
以上の塗布、乾燥、及び焼成の一連の工程を1回以上、好ましくは複数回繰り返して行い、導電性基体の上に第二触媒層を形成する。当該一連の工程の回数としては、特に制限されず、触媒の担持量が所定量となるまで繰り返すことが好ましい。また、一連の工程を繰り返す場合、塗布する溶液の組成は同一であってもよいし、異なっていてもよいが、通常は同一とする。
【0065】
以上の方法により、本発明の水素発生電極を好適に製造することができる。
【0066】
3 . 電気分解方法
本発明の電気分解方法は、水を含む溶液(例えば、水や、塩化ナトリウムなどのアルカリ金属塩化物水溶液、水酸化ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液) の電気分解法において、本発明の水素発生電極を用いる方法である。具体的には、水を含む溶液の公知の電気分解法において、水素発生電極として、本発明の水素発生電極を用いる。
【0067】
例えば、本発明の水素発生電極をイオン交換膜法食塩電解の水素発生電極に供する場合、使用開始時の電解液温度は70~90℃程度、陰極室の電解液濃度(水酸化ナトリウム) は例えば20~40質量%程度であればよく、30~35%質量%程度が好ましく、電流密度は0.1~10kA/m2程度とすることができる。
【実施例0068】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0069】
尚、各評価は下記に示す方法で実施した。
【0070】
<水素発生電極の被膜を形成する溶液の調製>
(実施例1)
第一触媒層の形成に用いるエタノールアミン白金(IV)溶液と、第二触媒層の形成に用いる硝酸ルテニウム(III)溶液と硝酸ニッケル(II)六水和物を含む水溶液をそれぞれ調製した。
【0071】
(比較例1)
ジニトロジアンミン白金硝酸溶液と、硝酸ルテニウム(III)水溶液と、硝酸ニッケル(II)六水和物水溶液を、混合して水素発生電極の触媒層を形成する溶液を調製した。
【0072】
<水素発生電極の製造>
(実施例1)
導電性基体として用いるためのニッケル製エキスパンデッドメタル(100mm×100mm×0.15mmサイズ)を用意した。次に、ブラスト処理により、ニッケル製エキスパンデッドメタルの表面を粗面化(表面粗さRa=3~5μm程度)した。次に、10%塩酸水溶液にニッケル製エキスパンデッドメタルを10分間浸漬した後、ニッケル製エキスパンデッドメタルの表面が中性になるまで水洗し、乾燥させて導電性基体とした。次に、大気中で、エタノールアミン白金(IV)溶液を、導電性基体の表面に刷毛で塗布し、80℃、10分で乾燥、460℃、10分で焼成(熱分解)を行った。再度同じ作業を行い、第一触媒層形成工程を行った。その後、硝酸ルテニウム(III)溶液と硝酸ニッケル(II)六水和物を含む水溶液を塗布し、導電性基体の表面に刷毛で塗布し、80℃、10分で乾燥、460℃、10分で焼成(熱分解)を行った。再度同じ作業を行い、第二触媒層形成工程を行った。この工程を2回繰り返し、第一触媒層における所定の触媒量と、第二触媒層における所定の触媒量を有する、水素発生電極1を作成した。なお、X線回折によって、第一触媒層における白金が白金金属である特徴ピークを確認した(
図2)。
【0073】
(実施例2)
実施例1と第一触媒層と第二触媒層の焼成温度を400℃として以外は、同じ方法で水素発生電極2を作成した。なお、X線回折によって、第一触媒層における白金が白金金属である特徴ピークを確認した。
【0074】
(実施例3)
導電性基体として用いるためのニッケル製エキスパンデッドメタル(100mm×100mm×0.15mmサイズ)を用意した。次に、ブラスト処理により、ニッケル製エキスパンデッドメタルの表面を粗面化(表面粗さRa=3~5μm程度)した。次に、10%塩酸水溶液にニッケル製エキスパンデッドメタルを10分間浸漬した後、ニッケル製エキスパンデッドメタルの表面が中性になるまで水洗し、乾燥させて導電性基体とした。次に、大気中で、エタノールアミン白金(IV)溶液を、導電性基体の表面に刷毛で塗布し、80℃、10分で乾燥、400℃、10分で焼成(熱分解)を行った。再度同じ作業を行い、第一触媒層形成工程を行った。その後、硝酸ルテニウム(III)溶液と硝酸ニッケル(II)六水和物の混合水溶液を塗布し、導電性基体の表面に刷毛で塗布し、80℃、10分で乾燥、400℃、10分で焼成(熱分解)を行った。再度同じ作業を行い、第二触媒層形成工程を行った。この工程を2回繰り返した。さらに、大気中で、エタノールアミン白金(IV)溶液を、導電性基体の表面に刷毛で塗布し、80℃、10分で乾燥、400℃、10分で焼成(熱分解)を行った。再度同じ作業を行い、第一触媒層形成工程を行った。第一触媒層における所定の触媒量と、第二触媒層における所定の触媒量を有する、水素発生電極3を作成した。なお、X線回折によって、第一触媒層における白金が白金金属である特徴ピークを確認した。
【0075】
(比較例1)
導電性基体として用いるためのニッケル製エキスパンデッドメタル(100mm×100mm×0.15mmサイズ)を用意した。次に、ブラスト処理により、ニッケル製エキスパンデッドメタルの表面を粗面化(表面粗さRa=3~5μm程度)した。次に、10%塩酸水溶液にニッケル製エキスパンデッドメタルを10分間浸漬した後、ニッケル製エキスパンデッドメタルの表面が中性になるまで水洗し、乾燥させて導電性基体とした。次に、大気中で、ジニトロジアンミン白金硝酸と硝酸ルテニウム(III)と硝酸ニッケル(II)六水和物を含む水溶液、導電性基体の表面に刷毛で塗布し、80℃、10分で乾燥、500℃、10分で焼成(熱分解)を行った。この工程を6回繰り返し、比較用の水素発生電極4を作成した。なお、X線回折によって、触媒層における白金が白金金属の特徴ピークを有していないことを確認した(
図2)。
【0076】
(比較例2)
導電性基体として用いるためのニッケル製エキスパンデッドメタル(100mm×100mm×0.15mmサイズ)を用意した。次に、ブラスト処理により、ニッケル製エキスパンデッドメタルの表面を粗面化(表面粗さRa=3~5μm程度)した。次に、10%塩酸水溶液にニッケル製エキスパンデッドメタルを10分間浸漬した後、ニッケル製エキスパンデッドメタルの表面が中性になるまで水洗し、乾燥させて導電性基体とした。次に、大気中で、硝酸ルテニウム(III)と硝酸ニッケル(II)六水和物を含む水溶液を、導電性基体の表面に刷毛で塗布し、80℃、10分で乾燥、460℃、10分で焼成(熱分解)を行った。この工程を6回繰り返し、比較用の水素発生電極5を作成した。
【0077】
(比較例3)
導電性基体として用いるためのニッケル製エキスパンデッドメタル(100mm×100mm×0.15mmサイズ)を用意した。次に、ブラスト処理により、ニッケル製エキスパンデッドメタルの表面を粗面化(表面粗さRa=3~5μm程度)した。次に、10%塩酸水溶液にニッケル製エキスパンデッドメタルを10分間浸漬した後、ニッケル製エキスパンデッドメタルの表面が中性になるまで水洗し、乾燥させて導電性基体とした。次に、大気中で、エタノールアミン白金(IV)溶液を、導電性基体の表面に刷毛で塗布し、80℃、10分で乾燥、400℃、10分で焼成(熱分解)を行った。この工程を6回繰り返し、比較用の水素発生電極6を作成した。
【0078】
<電解性能評価>
水素発生電極の電解性能評価には、電解面積80cm2(幅8cm×高さ10cm)の試験電解槽を用いた。陰極として実施例1~3及び比較例1~3の水素発生電極をそれぞれ装着し、陽極としてチタン製エキスパンデッドメタルを基材とした塩素発生用電極(ダイソーエンジニアリング株式会社製MD-52I)を装着し、2質量%の水酸化ナトリウム水溶液に浸漬処理した陽イオン交換膜(デュポン社製N-2050WX)で陰極室と陽極室を区画し、弾性体としてニッケル製波型ばねを陰極の背面(イオン交換膜と接する面の反対面)に配することによって、ゼロギャップ式試験電解槽を組み立てた。陽極室には、食塩水を200g/L、陰極室には、水酸化ナトリウム水溶液を32質量%となるようにそれぞれ供給し、運転温度80℃、電流密度4kA/m2の条件で14日間電気分解を行った。14日経過時点でのセル電圧を表1に示す。
【0079】
<逆電流耐性試験>
実施例1~3及び比較例1~2の水素発生電極を用いて、逆電流耐性試験を行った。具体的には、300mLの32質量%の水酸化ナトリウム水溶液を充填したビーカー内に、各水素発生電極を作用極、白金板を対極として対向させて設置し、セルを組み立てた。次に、6kA/m
2で120分間の陰分極電解(電流は、通常使用される方向である)と0.5kA/m
2で60分間の陽分極電解(電流は、通常使用される方向とは逆方向である)とを1サイクルとし、これを8サイクル繰り返すサイクル試験(
図1のサイクル図を参照)を行い、8サイクル前後での水素発生電極のルテニウム触媒量をハンドヘルド蛍光X線分析計VANTA(オリンパス株式会社製)にて測定し、逆電流耐性試験前後での触媒の消耗率を算出した。結果を表1に示す。
【0080】
【0081】
比較例2で最も低いセル電圧が得られたものの、実施例1では、比較例2と同等の低いセル電圧が得られた。また、実施例1~3の全てで、比較例1と比較して低いセル電圧が得られた。これは、実施例1~3、および比較例2では、ルテニウムが第一遷移金属であるニッケルと混合されることによって水素発生高活性を発現しており、比較例1ではルテニウム、ニッケルに加えて白金が混合されることによって、上述の高活性の発現が阻害された結果であると考えられる。比較例3では、顕著に高いセル電圧が確認された。比較例3ではルテニウムとニッケルの混合によって生じる水素発生の高活性化作用がなく、高いセル電圧となったものと考えられる。
実施例1では、比較例1と比較して高い逆電流耐性(低いルテニウム触媒消耗率)が得られた。白金金属を主成分とする第一触媒層が、第二触媒層と分離して形成されることで、逆電流から触媒層を保護する作用が高められ、ルテニウム触媒の剥離・脱落が抑制された結果であると考えられる。最表層に第一触媒層を配した実施例3では、顕著に高い逆電流耐性が得られた。これは、最表層に白金保護層が形成されていることによって、さらにルテニウムの剥離・脱落が抑制された結果であると考えられる。
比較例2では顕著に低い逆電流耐性が確認された。比較例2では、白金金属によるルテニウムの剥離・脱落の抑制作用がなく、低い逆電流耐性となったものと思われる。