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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011285
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】キャップ、流路切替弁及び消火栓
(51)【国際特許分類】
   A62C 35/20 20060101AFI20240118BHJP
   A62C 35/68 20060101ALI20240118BHJP
   F16K 11/04 20060101ALN20240118BHJP
【FI】
A62C35/20
A62C35/68
F16K11/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113167
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000229405
【氏名又は名称】日本ドライケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513154223
【氏名又は名称】株式会社クリマテック
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】森田 克久
(72)【発明者】
【氏名】其木 秀文
【テーマコード(参考)】
2E189
3H067
【Fターム(参考)】
2E189EC07
2E189HA17
2E189MA05
2E189MB03
3H067AA01
3H067DD05
3H067DD12
3H067DD22
3H067EA05
3H067FF17
3H067GG13
(57)【要約】
【課題】流路切替弁からの脱落を防止することと、流路切替弁の弁体の位置を変更するための良好な操作性とを両立させることが可能なキャップを提供する。
【解決手段】一の流入路から流入した流体の流れを第1流出路又は第2流出路のいずれか一方に切り替えることが可能な流路切替弁に適用されるキャップ3であって、第2流出路の二次側に装着される円筒状の側壁を有するキャップ固定部320と、キャップ固定部320の上方の外側に装着される円筒状の側壁を有するキャップ可動部310と、を備え、キャップ固定部320の側壁に沿って、キャップ可動部310を上下方向に移動させることにより、流路切替弁に組み込まれた弁体が異なる位置に移動される。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一の流入路から流入した流体の流れを第1流出路又は第2流出路のいずれか一方に切り替えることが可能な流路切替弁に適用されるキャップであって、
前記第2流出路の二次側に装着される円筒状の側壁を有するキャップ固定部と、
前記キャップ固定部の上方の外側に装着される円筒状の側壁を有するキャップ可動部と、を備え、
前記キャップ固定部の上方には、外側に突出する環状の第1係止部が形成され、
前記キャップ可動部の上方には、前記キャップ固定部の上端の開口を覆う天壁が形成され、前記天壁の裏面中央には、下方に突出する当接部が形成され、前記キャップ可動部の側壁の内周面には、内側に突出する環状の第2及び第3係止部が上下方向に間隔をおいて形成され、
前記キャップ固定部の側壁に沿って、前記キャップ可動部を上下方向に移動させることにより、前記第2又は第3係止部の一方が前記第1係止部に選択的に係止され、これにより、前記当接部の下端が異なる位置に移動され、前記当接部の下端の位置に応じて、前記流路切替弁に組み込まれた弁体が異なる位置に移動される、ことを特徴とするキャップ。
【請求項2】
前記キャップ可動部の側壁に、少なくとも1つの上下方向に延びるスリットが形成される、請求項1に記載のキャップ。
【請求項3】
前記キャップ固定部の側壁に、少なくとも1つの上下方向に延びるスリットが形成され、且つ前記側壁の内周面に、内側に突出する環状の第4係止部が形成される、請求項1に記載のキャップ。
【請求項4】
前記キャップ固定部の側壁の外側に装着される拘束リングをさらに備え、
前記拘束リングは、前記側壁の外径よりも大きい内径を有する円形の内周面を有し、
前記拘束リングの内径と、前記キャップ固定部の側壁の外径との差の値が、前記第4係止部の突出長よりも小さいことにより、前記キャップ固定部の側壁の外方への変形量が、前記差の値の範囲内に制限される、請求項3に記載のキャップ。
【請求項5】
前記キャップ固定部の側壁の下方に、前記側壁の外側に装着された前記拘束リングに当接するストッパを設け、前記拘束リングの下端が前記ストッパに当接したときに、前記拘束リングの内周面の全部又は一部が、前記キャップ固定部の側壁の外側における前記第4係止部から前記ストッパまでの間に位置する、請求項4に記載のキャップ。
【請求項6】
所定の長さを有するワイヤーをさらに備え、
前記ストッパが、前記キャップ固定部の側壁の下方に締結されるねじの頭であり、
前記ねじが、前記ワイヤーの一端を、前記キャップ固定部の側壁の下方に固定し、
前記ワイヤーの他端が、前記流路切替弁に結合される、請求項5に記載のキャップ。
【請求項7】
前記第3係止部が、前記キャップ可動部の側壁の下端の内周面に形成され、
前記第2係止部が、前記キャップ可動部の側壁の内周面における前記第3係止部よりも上方に形成され、
前記キャップ固定部の側壁の上方の外側には、前記キャップ可動部の下端の位置を視覚的に示すことが可能な表示部が設けられる、請求項1に記載のキャップ。
【請求項8】
前記表示部が、前記キャップ固定部の側壁と異なる色の表面と、前記キャップ可動部の下端の輪郭と平行な下辺と、を有し、
前記第3係止部が前記第1係止部に係止したときに、前記表示部の少なくとも下の部分が、前記キャップ可動部の側壁に覆われず、
前記第2係止部が前記第1係止部に係止したときに、前記表示部の全部が、前記キャップ可動部の側壁に覆われる、請求項7に記載のキャップ。
【請求項9】
一の流入路から流入した流体の流れを第1流出路又は第2流出路のいずれか一方に切り替えることが可能な流路切替弁であって、
前記流入路、前記第1流出路及び前記第2流出路が内部に設けられた弁箱と、
前記第1流出路及び前記第2流出路のいずれか一方を閉鎖することが可能な弁体と、
前記第2流出路の中心軸に沿った付勢力によって、前記弁体に前記第2流出路を閉鎖させることが可能なスプリングと、
前記第2流出路の二次側に装着される、請求項1~8のいずれか1項に記載のキャップと、を備えたことを特徴とする流路切替弁。
【請求項10】
請求項9に記載の流路切替弁を備えたことを特徴とする消火栓。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路切替弁に適用されるキャップ、このキャップを備えた流路切替弁、及びこの流路切替弁を備えた消火栓に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らは、特開2021-173296号公報に開示されている流路切替弁の安全カバー(アタッチメント)を発明した。特開2021-173296号公報の図4(a)、(b)に示されるように、安全カバー3は、略円筒状の側壁と、円形の天壁とを合成樹脂によって一体成形した構成となっている。特開2021-173296号公報の図5に示されるように、安全カバー3は、流路切替弁2の差し金具40に装着され、差し金具40を全体的に覆う。
【0003】
安全カバー3の側壁には、中心軸と平行に延びるスリット301と、スリット301の上端に連続する通気口302とが形成される。図示されていないが、スリット301及び通気口302は、安全カバー3の側壁の対向する位置に2つ形成される。一対のスリット301は、安全カバー3を差し金具40に装着するときに、安全カバー3の側壁を広げやすくする。一対のスリット301及び通気口302は、安全カバー3の内外に空気を流通させる役割を果たす。
【0004】
安全カバー3の側壁の内周面には、環状の第1凸部303Aと第2凸部303Bとが間隔をおいて形成される。特開2021-173296号公報の図6に示されるように、第1凸部303Aと第2凸部303Bとの間隔は、差し金具40の段部43の縦方向の幅と略等しい。安全カバー3を差し金具40の中心軸に沿って上下方向に移動させることにより、第1凸部303A又は第2凸部303Bが、差し金具40の段部43の端面に選択的に係合する。
【0005】
このような安全カバー3は、流路切替弁2の可動部材60を動作させて、弁体100を所定の位置に配置させる機能がある。つまり、安全カバー3は、弁体100の操作部として機能する。
【0006】
特開2021-173296号公報の図5に示されるように、第1凸部303Aが段部43の端面に係合すると、安全カバー3の天壁が可動部材60を押し下げる。これにより、弁体100が挿入管30の流入口31から出て、弁箱20の第1流出路22及び第2流出路23の両方を開放させる。この結果、弁箱20内が、安全カバー3の一対のスリット301及び通気口302を介して、大気に開放された状態となる(図5中の白色矢印を参照)。このように、第1凸部303Aが段部43の端面に係合することにより、流路切替弁2が大気開放弁として機能する。
【0007】
特開2021-173296号公報の図6に示されるように、第2凸部303Bが段部43の端面に係合すると、安全カバー3の天壁が可動部材60から離れ、可動部材60がスプリング80の付勢力によって押し上げられる。これにより、弁体100が挿入管30の流入口31の中に入り、弁箱20の第2流出路23だけを閉鎖させる。この結果、弁箱20の流入路21と第1流出路22とが、連絡口24を通じて連絡した状態になる。これにより、特開2021-173296号公報の図1に示される消火栓1に供給された水は、図6に示される弁箱20の流入路21から第1流出路22へ流れ、図1に示される消防用ホース17に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-173296号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特開2021-173296号公報の安全カバー3は、流路切替弁2の差し金具40から脱落しやすいという問題がある。すなわち、安全カバー3は、弾性変形することが可能な合成樹脂によって一体成形される。さらに、安全カバー3の側壁には、中心軸と平行に延びる一対のスリット301が形成される。一対のスリット301によって、安全カバー3の側壁は、全体的に弾性変形しやくなる。この結果、第1凸部303A又は第2凸部303Bを、差し金具40の段部43の端面に選択的に係合させることが容易となる反面、安全カバー3が差し金具40から脱落しやすくなる。
【0010】
さらに、安全カバー3は、水圧を受けた可動部材60によって、流路切替弁2の差し金具40から弾き飛ばされるおそれがある。この問題は、消火栓1の待機時における流路切替弁2が、特開2021-173296号公報の図5に示される状態のときに生じ得る。すなわち、特開2021-173296号公報の図5に示される状態において、流路切替弁2の流入路21に水が供給されると、このときの水圧によって、弁体100が押し上げられる。これにより、可動部材60が、勢いよく上方向に移動し、安全カバー3を流路切替弁2の差し金具40から弾き飛ばす。このように、安全カバー3は、消火活動を開始したタイミングで流路切替弁2の差し金具40から弾き飛ばされてしまい、紛失する可能性が高い。
【0011】
ここで、安全カバー3の側壁の弾性変形を制限することによって、安全カバー3の脱落を防止することが考えられる。しかし、安全カバー3の側壁の弾性変形を制限すると、安全カバー3の上下方向への移動が困難となり、弁体100の位置を変更するための操作性が低下してしまう問題がある。
【0012】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、流路切替弁からの脱落を防止することと、流路切替弁の弁体の位置を変更するための良好な操作性とを両立させることが可能なキャップ、このキャップを備えた流路切替弁、及びこの流路切替弁を備えた消火栓を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)上記目的を達成するために、本発明のキャップは、一の流入路から流入した流体の流れを第1流出路又は第2流出路のいずれか一方に切り替えることが可能な流路切替弁に適用されるキャップであって、前記第2流出路の二次側に装着される円筒状の側壁を有するキャップ固定部と、前記キャップ固定部の上方の外側に装着される円筒状の側壁を有するキャップ可動部と、を備え、前記キャップ固定部の上方には、外側に突出する環状の第1係止部が形成され、前記キャップ可動部の上方には、前記キャップ固定部の上端の開口を覆う天壁が形成され、前記天壁の裏面中央には、下方に突出する当接部が形成され、前記キャップ可動部の側壁の内周面には、内側に突出する環状の第2及び第3係止部が上下方向に間隔をおいて形成され、前記キャップ固定部の側壁に沿って、前記キャップ可動部を上下方向に移動させることにより、前記第2又は第3係止部の一方が前記第1係止部に選択的に係止され、これにより、前記当接部の下端が異なる位置に移動され、前記当接部の下端の位置に応じて、前記流路切替弁に組み込まれた弁体が異なる位置に移動される。
【0014】
(2)好ましくは、上記(1)のキャップにおいて、前記キャップ可動部の側壁に、少なくとも1つの上下方向に延びるスリットが形成される。
【0015】
(3)好ましくは、上記(1)のキャップにおいて、前記キャップ固定部の側壁に、少なくとも1つの上下方向に延びるスリットが形成され、且つ前記側壁の内周面に、内側に突出する環状の第4係止部が形成される。
【0016】
(4)好ましくは、上記(3)のキャップにおいて、前記キャップ固定部の側壁の外側に装着される拘束リングをさらに備え、前記拘束リングは、前記側壁の外径よりも大きい内径を有する円形の内周面を有し、前記拘束リングの内径と、前記キャップ固定部の側壁の外径との差の値が、前記第4係止部の突出長よりも小さいことにより、前記キャップ固定部の側壁の外方への変形量が、前記差の値の範囲内に制限される。
【0017】
(5)好ましくは、上記(4)のキャップにおいて、前記キャップ固定部の側壁の下方に、前記側壁の外側に装着された前記拘束リングに当接するストッパを設け、前記拘束リングの下端が前記ストッパに当接したときに、前記拘束リングの内周面の全部又は一部が、前記キャップ固定部の側壁の外側における前記第4係止部から前記ストッパまでの間に位置する。
【0018】
(6)好ましくは、上記(5)のキャップにおいて、所定の長さを有するワイヤーをさらに備え、前記ストッパが、前記キャップ固定部の側壁の下方に締結されるねじの頭であり、 前記ねじが、前記ワイヤーの一端を、前記キャップ固定部の側壁の下方に固定し、前記ワイヤーの他端が、前記流路切替弁に結合される。
【0019】
(7)好ましくは、上記(1)のキャップにおいて、前記第3係止部が、前記キャップ可動部の側壁の下端の内周面に形成され、前記第2係止部が、前記キャップ可動部の側壁の内周面における前記第3係止部よりも上方に形成され、前記キャップ固定部の側壁の上方の外側には、前記キャップ可動部の下端の位置を視覚的に示すことが可能な表示部が設けられる。
【0020】
(8)好ましくは、上記(7)のキャップにおいて、前記表示部が、前記キャップ固定部の側壁と異なる色の表面と、前記キャップ可動部の下端の輪郭と平行な下辺と、を有し、前記第3係止部が前記第1係止部に係止したときに、前記表示部の少なくとも下の部分が、前記キャップ可動部の側壁に覆われず、前記第2係止部が前記第1係止部に係止したときに、前記表示部の全部が、前記キャップ可動部の側壁に覆われる。
【0021】
(9)上記目的を達成するために、本発明の流路切替弁は、一の流入路から流入した流体の流れを第1流出路又は第2流出路のいずれか一方に切り替えることが可能な流路切替弁であって、前記流入路、前記第1流出路及び前記第2流出路が内部に設けられた弁箱と、前記第1流出路及び前記第2流出路のいずれか一方を閉鎖することが可能な弁体と、前記第2流出路の中心軸に沿った付勢力によって、前記弁体に前記第2流出路を閉鎖させることが可能なスプリングと、前記第2流出路の二次側に装着される、上記(1)~(8)のいずれかのキャップと、を備える。
【0022】
(10)上記目的を達成するために、本発明の消火栓は、上記(9)に記載の流路切替弁を備える。
【発明の効果】
【0023】
本発明のキャップは、キャップ固定部とキャップ可動部とを備える。キャップ固定部は、流路切替弁の第2流出路の二次側に装着される。キャップ可動部は、キャップ固定部の側壁に沿って上下方向に移動させることが可能である。このような構成により、キャップ固定部を流路切替弁の第2流出路の二次側に強固に固定した場合でも、キャップ可動部の上下方向に移動に全く影響を与えない。したがって、本発明のキャップによれば、流路切替弁からの脱落を防止することと、流路切替弁の弁体の位置を変更するための良好な操作性とを両立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1(a)は、本発明の実施形態に係る消火栓を示す正面図である。図1(b)は、前記消火栓の内部の構成を示す概略図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る流路切替弁を示す断面図である。
図3図3は、前記流路切替弁の主な構成要素を示す分解斜視図である。
図4図4(a)、(b)は、本発明の実施形態に係るキャップを示す正面図である。図4(a)は、前記キャップを構成するキャップ可動部が上方向に移動された状態を示す。図4(b)は、前記キャップ可動部が下方向に移動された状態を示す。
図5図5(a)は、前記キャップ可動部を示す平面図である。図5(b)は、前記キャップ可動部を示す正面図である。図5(c)は、前記キャップ可動部を示す底面図である。図5(d)は、図5(a)のA-A断面図である。
図6図6(a)は、前記キャップを構成するキャップ固定部を示す平面図である。図6(b)は、前記キャップ固定部を示す正面図である。図6(c)は、前記キャップ固定部を示す底面図である。図6(d)は、図6(a)のB-B断面図である。
図7図7(a)は、前記キャップを構成する拘束リングを示す平面図である。図7(b)は、前記拘束リングを示す正面図である。図7(c)は、前記拘束リングを示す底面図である。図7(d)は、図7(a)のC-C断面図である。
図8図8は、前記消火栓の待機時における前記流路切替弁及び前記キャップの状態を示す断面図である。
図9図9は、前記消火栓の消火時における前記流路切替弁及び前記キャップの状態を示す断面図である。
図10図10(a)は、上記消火栓の点検に使用される点検装置の結合金具を示す断面図である。図10(b)は、上記消火栓の点検時における上記流路切替弁の状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明のキャップ、このキャップを備えた流路切替弁、及びこの流路切替弁を備えた消火栓の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
1.消火栓
図1(a)において、本実施形態の消火栓1は、例えば、道路用トンネル内に設置されており、トンネル内で発生した火災に対する初期消火に用いられる。消火栓1は、消火栓扉10A、消火器扉10B及び保守用扉10Cを備える。消火栓扉10Aの内側には、図1(b)に示す各種の弁15、16、19、2、消火用ホース17及び消火用ノズル18、点検装置4、開閉レバー15aなどが収納される。消火栓扉10Aは、ハンドル11aを操作して手動で開くことが可能である。消火栓扉10Aは、例えば、扉の下辺を中心にして上から下へ開く。消火栓扉10Aの裏面には、消火用ホース17に接続された状態の消火用ノズル18が着脱自在に保持される。また、開閉レバー15aは、消火栓扉10Aの裏面に設置されている。消火栓扉10Aの内側の各種の弁15、16、19、2については、後述する。
【0027】
消火器扉10Bの内側には、図示しない消火器が収納される。消火器扉10Bは、ハンドル11bを操作して手動で開くことが可能である。消火器扉10Bは、例えば、扉の左辺を中心して右から左へ開く。消火器扉10Bと保守用扉10Cとの間には、赤色表示灯12及び通報ボタン13が設けられている。赤色表示灯12は、常時点灯しており、遠方からでも消火栓1の設置場所を特定することが可能となっている。通報ボタン13を押すと発信信号が送信される。この発信信号は、図示しない監視室の受信機に受信され、火災や事故を通報する信号として処理される。
【0028】
ここで、図1(b)に示される各種の弁15、16、19、2について、図示しないポンプから供給される水の流れに沿って説明する。消火栓1の右側面には、消火栓接続口14が配置されている。ポンプから供給される水は、消火栓接続口14に接続された図示しない配管を介して、消火栓1に供給される。
【0029】
消火栓1内において、消火栓接続口14には、消火栓弁15、自動調圧弁16、流路切替弁2及び自動排水弁19が、この順番で接続される。消火栓弁15は、作業者が開閉レバー15aを操作することにより、開閉動作する。開閉レバー15aが閉鎖位置から開放位置に操作されると、消火栓弁15が解放状態になる。このときの開閉レバー15aの操作に連動して、図示しないリミットスイッチから発信信号が送信される。この発信信号は、図示しない監視室の受信機に受信され、受信機からポンプを起動させるための命令信号が送信される。この命令信号に基づいてポンプが起動し、水の供給が開始される。これにより、配管内の圧力が上昇する。自動調圧弁16は、一次側配管内の圧力が指定の範囲内で変動したときに、自動的に二次側配管内の圧力を指定の範囲内に調整する。水は、自動調圧弁16から流路切替弁2を介して、消火用ホース17に供給され、消火用ノズル18から放出される。自動調圧弁16は、例えば、一次側配管内の圧力が0.47~1.77MPaの範囲内で変動したときに、消火用ノズル18の放水圧力が0.29MPa以上0.35MPa以下となるように、二次側配管内の圧力を自動的に調整する。
【0030】
自動排水弁19は、自動調圧弁16の二次側配管に接続され、配管内の水圧に応じて自動的に開閉する。すなわち、消火栓1の待機時は、配管内の水圧が所定の値より低くなり、自動排水弁19は開放状態となる。一方、消火栓1の消火時及び点検時は、配管内の水圧が所定の値より高くなり、自動排水弁19は閉鎖状態となる。このような自動排水弁19によって、消火栓1の使用後に配管内の残水が自動的に排出され、配管が乾いた状態に保たれる。
【0031】
2.流路切替弁
次に、本実施形態の流路切替弁2の構成について、図2及び図3を参照して説明する。流路切替弁2は、2つの機能を有する。第1に、流路切替弁2は、消火栓1を点検するための点検弁として機能する。第2に、流路切替弁2は、消火栓1の配管内及び消火用ホース17内の残水を円滑に排出するための大気開放弁として機能する。
【0032】
図2及び図3に示されるように、流路切替弁2は、主として、弁箱20、挿入管30、差し金具40、押し輪50、可動部材60、シャフト70、スプリング80、ストッパ90及び弁体100によって構成される。
【0033】
弁箱20の内部には、流入路21、第1流出路22及び第2流出路23が設けられている。流入路21と第1流出路22との間には、円形の連絡口24が設けられている。流入路21は、図1(b)に示される自動調圧弁16に接続される。第1流出路22は、図示しないホース継手に接続される。このホース継手には、図1(b)に示される消火用ホース17が接続される。流入路21から弁箱20内に流入した水は、弁体100が移動することによって、第1流出路22又は第2流出路23のいずれか一方に流れる。
【0034】
弁箱20の第2流路23の中心軸は、垂直軸に対して10°~30°の傾きを有することが好ましい。本実施形態の第2流出路23の中心軸は、垂直軸に対して約20°の傾きを有している。第2流出路23と連絡口24とは、互いに中心軸を共有しており、連絡口24中心軸もまた、垂直軸に対して約20°の傾きを有している。なお、ここでいう「垂直軸」とは、流入路21及び第1流出路22の少なくとも一方の中心軸と90°で交わる仮想軸をいう。
【0035】
弁箱20の第2流出路23には、上述した挿入管30、差し金具40、押し輪50、可動部材60、シャフト70、スプリング80、ストッパ90及び弁体100が組み付けられている。
【0036】
挿入管30は、小径の流入口31と、大径の流出口32とを有する略円筒状の管である。挿入管30の流入口31側は、弁箱20の第2流出路23内に挿入される。挿入管30の流入口31の内径は、弁箱20の連絡口24の開口径に等しい。挿入管30の流出口32内には、ストッパ90が収納され、且つ差し金具40の流入口41が挿入される。挿入管30と第2流出路23と間は、Oリング33によってシールされる。一方、挿入管30と差し金具40との間は、Oリング34によってシールされる。
【0037】
差し金具40は、「マチノ式」と呼ばれる差込式結合金具の差し口を構成する。差し金具の外側には、押し輪50が装着される。押し輪50の下端外周には、押し輪50を差し金40の外周面に沿って移動させるためのフランジ51が設けられている。差し金具40の流出口42の外周には、直径方向に均等に突出し、且つ押し輪50の移動を制限することが可能な段部43が形成されている。
【0038】
ストッパ90は、円形の板部材からなり、挿入管30の流出口32と、差し金具40の流入口41との間に挟持される。ストッパ90の中心には、円形の挿通孔91が形成されている。挿通孔91は、シャフト70の外径と略等しい開口径を有し、シャフト70が移動可能に挿通される。ストッパ90の挿通孔91に挿通されたシャフト70は、弁箱20の第2流出路23の中心軸と一致する。また、ストッパ90には、3つの略扇形の通水孔92が均等に形成されている。各通水孔92は、挿通孔91を中心にして放射状に配置されている。弁箱20の流入路21から挿入管30内に流入した水は、各通水孔92を通過して、差し金具40の側に流出する。なお、ストッパ90の構成は、水の通過を可能とし、且つスプリング80の移動を止めることができるものであれば、特に限定されない。例えば、ストッパ90は、挿通孔91を中心にして、複数の円形の通水孔92が放射状に形成された構成としてもよい。
【0039】
可動部材60は、環状の本体61、3つの支持杆62、雌ねじ部63及び3つのガイド片64を一体に形成した構成となっている。環状の本体61は、押し子として機能する。各支持杆62は、環状の本体61に120°の角度で放射状に配置されており、環状の本体61の中心に雌ねじ部63を支持する。各支持杆62は、水を通過させるための3つの開口部65を形成する。各ガイド片64は、環状の本体61の裏面において、3つの支持杆62のそれぞれと対応する位置に均等の間隔をおいて配置されている。各ガイド片64の外周面は、差し金具40の内周面と同じ曲率半径の曲面となっている。
【0040】
弁体100は、略円盤状の部材であり、ピストンとして機能する。弁体100の直径は、挿入管30の流入口31の内径、及び弁箱20の連絡口24の開口径よりも若干小さい。これにより、弁体100は、挿入管30の流入口31、及び弁箱20の連絡口24に出入りすることが可能となっている。弁体100の中心には、雌ねじ部101が設けられている。弁体100の環状の上面には、周縁に沿って3つのガイド片102が一体に形成されている。各ガイド片102は、互いに均等の間隔をおいて配置されている。各ガイド片102の外周面は、挿入管30の流入口31の内周面と同じ曲率半径の曲面となっている。弁体100の外周面には、シール部材としてのOリング103が装着される。
【0041】
ストッパ90の挿通孔91に挿通されたシャフト70に、可動部材60、スプリング80及び弁体100が組み付けられることによって、弁体100を動作させるための構成が形成される。
【0042】
すなわち、シャフト70のストッパ90よりも上の部分の外側には、スプリング80が装着される。このスプリング80が介在した状態で、可動部材60の雌ねじ部63が、シャフト70の一端に設けられた第1雄ねじ部71に螺合される。スプリング80は、可動部材60とストッパ90との間において、圧縮された状態で保持される。これにより、スプリング80は、常時、可動部材60を押し上げる方向の付勢力を生じさせる。スプリング80の付勢力を受けた可動部材60は、その半分以上の部分が差し金具40の流出口42から外部に露出した状態になる。
【0043】
一方、弁体100の雌ねじ部101は、シャフト70の他端に設けられた第2雄ねじ部72に螺合される。弁体100は、シャフト70を介して、常時、スプリング80の付勢力を受け、挿入管30の流入口31の中に入った状態になる。このとき、弁体100のOリング103が、挿入管30の流入口31の内周面に密接する。これにより、挿入管30の流入口31が、弁体100によって閉鎖される。つまり、スプリング80の付勢力以外の力を受けていない可動部材60の自由状態において、流路切替弁2の第2流出路23は、弁体100によって閉鎖される。
【0044】
そして、スプリング80の付勢力に対抗する力によって、可動部材60を差し金具40の流出口42の中へ押し込むと、シャフト70とともに弁体100が下方へ移動する。これにより、弁体100は、挿入管30の流入口31から出て、弁箱20の連絡口24の中に入った状態になる。このとき、弁体100のOリング103が、弁箱20の連絡口24の内周面に密接する。これにより、弁箱20の連絡口24が、弁体100によって閉鎖される。つまり、可動部材60を差し金具40の流出口42の中へ押し込むと、流路切替弁2の第2流出路23が開放されるとともに、第1流出路22が閉鎖される。このようにして、流路切替弁2の流出路が、第1流出路22から第2流出路23に切り替えられる。
【0045】
3.キャップ
次に、本実施形態のキャップ3の構成について、図4図7を参照して説明する。キャップ3は、流路切替弁2の差し金具40に装着され、差し金具40を全体的に覆う(図8及び図9を参照)。
【0046】
図4(a)、(b)に示されるように、本実施形態のキャップ3は、キャップ可動部310、キャップ固定部320、拘束リング330、ワイヤー340、ねじ341及びワッシャ342で構成される。キャップ可動部310は、キャップ固定部320の上方の外側に装着される。拘束リング330は、キャップ固定部320の側壁の外側に装着される。キャップ可動部310及び拘束リング330は、いずれもキャップ固定部320の側壁に沿って、図中の上下方向に移動することが可能である。ワイヤー340の一端は、キャップ固定部320の側壁の下方にねじ341によって締結される。ワイヤー340の他端は、ワッシャ342に結合される。
【0047】
キャップ可動部310、キャップ固定部320及び拘束リング330のそれぞれは、合成樹脂によって成形される。合成樹脂として、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)を用いる。ポリ塩化ビニルは、比較的に軽く、耐久性が高く、難燃性に優れている。一方、ワイヤー340は、金属からなる撚線で構成される。撚線を構成する金属として、例えば、SUS304を用いる。SUS304は、耐食性及び耐久性に優れ、汚れが付きにくい。
【0048】
3.1 キャップ可動部
図5(a)、(b)に示されるように、キャップ可動部310は、キャップ固定部320の上方の外側に装着される円筒状の側壁を有する。キャップ可動部310の上方には、キャップ固定部320の上端の開口を覆う天壁が形成される。
【0049】
図5(b)、(c)に示されるように、キャップ可動部310の側壁には、上下方向に延びる4つのスリット311が形成される。4つのスリット311は、互いに90°の間隔をおいて配置される。4つのスリット311は、キャップ可動部310の側壁の弾性変形を容易にする役割と、キャップ可動部310の内外に空気を流通させる役割とを果たす。なお、4つのスリット311の全長は、特に限定されるものではなく、キャップ可動部310の側壁の弾性変形の量を考慮して決定される。
【0050】
図5(c)、(d)に示されるように、キャップ可動部310の天壁の裏面中央には、下方に突出する円柱状の当接部312が形成される。当接部312の直径は、図6(d)に示されるキャップ固定部320の上方の開口の直径よりも小さい。当接部312は、キャップ固定部320に装着されたキャップ可動部310を上下方向に移動させたときに、キャップ固定部320の上方の開口を出入りする。図8及び図9に示されるように、当接部312は、流路切替弁2の可動部材60に接触又は離反し、弁体100を異なる位置に移動させる役割を果たす。
【0051】
図5(c)、(d)に示されるように、キャップ可動部310の側壁の内周面には、内側に突出する環状の第2及び第3係止部313、314が上下方向に間隔をおいて形成される。第3係止部314は、キャップ可動部310の側壁の下端の内周面に形成される。第2係止部313は、キャップ可動部310の側壁の内周面における第3係止部314よりも上方に形成される。
【0052】
第2係止部313は、図6(b)に示されるキャップ固定部320の第1係止部324と選択的に係止される。第1係止部324との選択的な係止をスムーズにするために、第2係止部313は、水平方向の中心線に関して上下に対称的な2つの傾斜面で構成される。これらの傾斜面によって、第3係止部314は、キャップ固定部320の第1係止部324を上から下へ、及び下から上へいずれの方向からも通過しやすくなる。つまり、キャップ可動部310を上下方向に移動させるための操作性が向上する。
【0053】
第3係止部314は、キャップ可動部310がキャップ固定部320から脱落することを防止するストッパの役割を果たす。第3係止部314の上面は、図6(b)に示されるキャップ固定部320の第1係止部324の裏面に当接する水平面となっている。第3係止部314の側面は、キャップ可動部310の側壁の下端から中心に向かって傾斜する傾斜面となっている。この傾斜面によって、第3係止部314は、キャップ固定部320の第1係止部324を上から下へ通過しやすくなる。つまり、キャップ可動部310をキャップ固定部320の上方の外側に容易に装着することが可能となる。但し、第3係止部314の上面が水平面となっているので、キャップ可動部310は、キャップ固定部320の第1係止部324から容易に外れない。
【0054】
3.2 キャップ固定部
図6(a)、(b)に示されるように、キャップ固定部320は、流路切替弁2の第2流出路23の二次側に装着される円筒状の側壁を有する。キャップ固定部320の上方には、外側に突出する環状の第1係止部324が形成される。
【0055】
図6(b)、(c)に示されるように、キャップ固定部320の側壁には、上下方向に延びる4つのスリット321が形成される。4つのスリット321は、互いに90°の間隔をおいて配置される。4つのスリット321は、キャップ固定部320の側壁の弾性変形を容易にする役割と、キャップ固定部320の内外に空気を流通させる役割とを果たす。なお、4つのスリット321の全長は、特に限定されるものではなく、キャップ固定部320の側壁の弾性変形の量を考慮して決定される。
【0056】
図6(c)、(d)に示されるように、キャップ固定部320の側壁の内周面には、内側に突出する環状の第4係止部325が形成される。第4係止部325は、流路切替弁2の差し金具40の段部43に係止される。キャップ固定部320の差し金具40への着脱を容易にするために、第4係止部325は、水平方向の中心線に関して上下に対称的な2つの傾斜面で構成される。これらの傾斜面によって、第4係止部325は、差し金具40の段部43を上から下へ、及び下から上へいずれの方向からも通過しやすくなる。つまり、キャップ固定部320の差し金具40への着脱が容易になる。但し、キャップ固定部320は、拘束リング330によって、差し金具40の段部43から容易に外れない。
【0057】
図6(b)に示されるように、キャップ固定部320の側壁の上方の外側には、キャップ可動部310の下端の位置を視覚的に示すことが可能な表示部322が設けられる。表示部322は、キャップ固定部320の側壁と異なる色の表面と、キャップ可動部310の下端の輪郭と平行な下辺と、を有する。
【0058】
図4(a)に示されるように、キャップ可動部310の第3係止部314が、キャップ固定部320の第1係止部324に係止したときに、表示部322の下半分が、キャップ可動部310の側壁に覆われない。一方、図4(b)に示されるように、キャップ可動部310の第2係止部313が、キャップ固定部320の第1係止部324に係止したときに、表示部322の全部が、キャップ可動部310の側壁に覆われる。つまり、作業者は、表示部322が視認可能か否かに基づいて、キャップ可動部310の状態を直感的に把握することができる。
【0059】
このような表示部322は、例えば、キャップ固定部320の側壁に貼付することが可能なステッカーによって構成することができる。また、表示部322は、キャップ固定部320の側壁と異なる色の塗装であってもよい。さらに、キャップ固定部320の側壁を、異なる色の合成樹脂で2色成形することにより、表示部322を設けてもよい。
【0060】
3.3 拘束リング
図7(a)~(d)に示されるように、拘束リング330は、フランジ付きの環状部材であり、キャップ固定部320の側壁の外側に装着される。拘束リング330は、キャップ固定部320の側壁の外径よりも大きい内径を有する円形の内周面を有する。拘束リング330の内径と、キャップ固定部320の側壁の外径との差の値は、上述した第4係止部325の突出長よりも小さい。これにより、キャップ固定部320の側壁の外方への変形量が、前記差の値の範囲内に制限される。例えば、第4係止部325の突出長を1mmとする。一方、拘束リング330の内径と、キャップ固定部320の側壁の外径との差の値を0.5mmとする。この条件下において、キャップ固定部320の側壁の外方への変形量は、拘束リング330の内面よって最大0.5mmに制限される。これにより、突出長1mmの第4係止部325は、最大0.5mmしか外方へ変形できず、第4係止部325と、差し金具40の段部43との係止が維持される。
【0061】
キャップ3は、拘束リング330を、キャップ固定部320の側壁の上方に移動させた状態で、流路切替弁2の差し金具40に装着する。このとき、キャップ固定部320の側壁の下方は、拘束リング330に制限されることなく外方へ弾性変形する。これにより、キャップ固定部320の第4係止部325が、差し金具40の段部43を容易に乗り越えて、この段部43に係止される。その後、拘束リング330を、キャップ固定部320の側壁の下方に移動させることにより、キャップ固定部320の側壁の外方への弾性変形が制限される。これにより、第4係止部325と、差し金具40の段部43との係止が維持され、キャップ3が差し金具40に強固に固定される。
【0062】
3.4 ワイヤ、ねじ、ワッシャ
図4(a)、(b)に示されるように、キャップ固定部320の側壁の下方には、所定の長さを有するワイヤー340が固定される。ワイヤー340の長さは、流路切替弁2の差し金具40の突出長+αとすることが好ましい。αは、キャップ3を差し金具40に装着するために必要なワイヤー340の余長であり、数cm程度とすることが好ましい。消火栓1が待機時から消火時に移行するときに、万が一、水圧を受けた可動部材60によって、キャップ3が差し金具40から弾き飛ばされた場合でも、ワイヤー340によって、キャップ3の飛距離を数cm程度に短くすることができる。また、消火栓1の点検時に、差し金具40からキャップ3を取り外した場合でも、ワイヤー340によって、キャップ3の紛失が防止される。ワイヤー340の全長は、例えば、25cmとする。
【0063】
ワイヤー340の一端は、キャップ固定部320の側壁の下方にねじ341によって締結される。このねじ341は、上述した拘束リング330を位置決めするためのストッパの役割を果たす。図8及び図9に示されるように、拘束リング330の下端がねじ341に当接したときに、拘束リング330の内周面の全部が、キャップ固定部320の側壁の外側における第4係止部325からねじ341までの間に位置する。これにより、キャップ固定部320の側壁の外方への変形が、拘束リング330の内周面によって制限され、第4係止部325と、差し金具40の段部43との係止が維持される。
【0064】
ワイヤー340の他端は、ワッシャ342に結合される。このワッシャ342は、流路切替弁2の弁箱20に結合される。例えば、ワッシャ342は、ボルトによって、流路切替弁2の流入路21又は第1流出路22のフランジに締結される。
【0065】
4.キャップ及び流路切替弁の状態
キャップ3は、消火栓1の点検時を除き、常時、流路切替弁2の差し金具40に装着される。つまり、消火栓1の待機時及び消火時においては、キャップ3が流路切替弁2の差し金具40に装着され、消火栓1の点検時には、差し金具40からキャップ3が取り外され、差し金具40に点検用の短いホースが装着される。
【0066】
4.1 消火栓の待機時
図1(b)に示される消火栓1は、作業者が開閉レバー15aを閉鎖位置から開放位置に操作することにより、いつでも消火用ノズル18から水を放出することが可能な状態で待機している。消火栓1の待機時におけるキャップ3及び流路切替弁2の状態は、図8に示される。
【0067】
図8に示されるように、消火栓1の待機時においては、キャップ3のキャップ可動部310が、下方向に移動された状態となる。この状態は、キャップ可動部310の第2係止部313が、キャップ固定部320の第1係止部324に係止することによって維持される。また、キャップ可動部310が下方に移動された状態であることは、図4(b)において、キャップ固定部320の表示部322が、キャップ可動部310の側壁に覆われて視認できないことにより、直感的に把握することができる。すなわち、作業者は、表示部322が視認できないことによって、流路切替弁2が図8に示される状態になったことを、直感的に把握することができる。
【0068】
キャップ可動部310が下方に移動された状態においては、キャップ可動部310の当接部312が、流路切替弁2の可動部材60を押し下げる。これにより、弁箱20内の弁体100が、挿入管30の流入口31から出て、弁箱20の第1流出路22及び第2流出路23の両方を開放させる。この結果、弁箱20内が、キャップ3に形成された合計8つのスリット311、321を介して、大気に開放された状態となる(図8中の白色矢印を参照)。このように、キャップ可動部310が下方に移動された状態においては、流路切替弁2が大気開放弁として機能する。
【0069】
例えば、消火栓1による消火作業が完了した後は、作業者が開閉レバー15aを開放位置から閉鎖位置に操作することによって、消火用ホース17からの水の放出を止める。その後、数十メートルの長さがある消火用ホース17内から残水を排出させる。このとき、作業者は、キャップ3のキャップ可動部310を下方に移動させることにより、流路切替弁2を大気開放弁として機能させる。これにより、作業者が消火用ホース17を持ち上げて残水を排出させるときに、流路切替弁2から消火用ホース17内に空気が送り込まれ、残水の排出が円滑に行われる。作業者が、キャップ3のキャップ可動部310を操作する必要があるのは、消火作業が完了した後のこの1回だけである。
【0070】
4.2.消火栓の消火時
消火栓1の消火時における流路切替弁2の状態は、図9に示される。火災が発生した場合、流路切替弁2は、図8に示される大気開放弁として機能する状態から図9に示される点検用の第2流出路23を閉鎖する状態に切り替わる。
【0071】
上述したように、消火栓1の待機時においては、流路切替弁2の弁体100が、図8に示される大気開放弁として機能する状態になっている。すなわち、キャップ3のキャップ可動部310は、下方向に移動された状態となり、キャップ可動部310の第2係止部313が、キャップ固定部320の第1係止部324に係止する。このとき、キャップ可動部310の当接部312が、流路切替弁2の可動部材60を押し下げる。これにより、弁体100が、弁箱20の第1流出路22及び第2流出路23の両方を開放させる。
【0072】
流路切替弁2が図8に示される状態において、火災が発生した場合は、作業者が、消火栓1の開閉レバー15aを閉鎖位置から開放位置に操作する。これにより、ポンプから供給された水が、自動調圧弁16及び流路切替弁2を通過して、消火用ホース17に供給され、消火用ノズル18から放出される。
【0073】
ここで、図9中の2つの灰色矢印は、流路切替弁2を通過する水の流れを示す。ポンプから供給された水は、流路切替弁2の流入路21から弁箱20内に流入し、連絡口24を通過して第1流出路22へ流出する。このときの水の圧力によって、弁体100が上方に押し上げられる。このときの弁体100の移動が、シャフト70を介して可動部材60に伝達され、可動部材60によって、キャップ可動部310の当接部312が上方に移動される。この結果、キャップ可動部310の第2係止部313の係止が解除され、第3係止部314が差し金具40の段部43に係止する。これにより、弁体100が、点検用の第2流出路23を閉鎖し、且つ流入路21と第1流出路22とが、連絡口24を通じて連絡した状態になる。したがって、ポンプから消火栓1に供給された水は、弁箱20の流入路21から第1流出路22へ流れ、消防用ホース17に供給される。
【0074】
キャップ可動部310が上方に移動された状態であることは、図4(a)において、キャップ固定部320の表示部322が、キャップ可動部310の側壁に覆われずに視認できることにより、直感的に把握することができる。すなわち、作業者は、表示部322を視認することによって、流路切替弁2が図9に示される状態になったことを、直感的に把握することができる。
【0075】
4.3 消火栓の待機時における流路切替弁の状態の変更
なお、消火栓1の待機時において、流路切替弁2は、図9に示される状態であってもよい。この場合、流路切替弁2は、消火栓1の待機時及び消火時の両方において、図9に示される状態となる。消火栓1が待機時から消火時に移行するときに、流路切替弁2の弁体100は、全く移動されず、点検用の第2流出路23を閉鎖した状態を維持する。
【0076】
消火栓1による消火作業が完了した後、作業者は、キャップ3のキャップ可動部310を下方に移動させることにより、流路切替弁2を、図8に示される状態にして、大気開放弁として機能させる。これにより、作業者が消火用ホース17を持ち上げて残水を排出させるときに、流路切替弁2から消火用ホース17内に空気が送り込まれ、残水の排出が円滑に行われる。その後、作業者は、キャップ3のキャップ可動部310を上方に移動させることにより、流路切替弁2を、図9に示される状態に戻す。
【0077】
4.4 消火栓の点検時
図1(b)に示される消火栓1は、定期的な点検が義務付けられる。ところが、上述したように、実際の消火に用いられる消火用ホース17は、数十メートルの長さがある。このため、消火栓1の点検に消火用ホース17を用いると、消火用ホース17を再び元の状態に戻し、消火栓1内に収納するために多大な手間と時間を要する。そこで、消火栓1の点検には、図10(a)に示されるような点検装置4が用いられる。
【0078】
図10(a)において、本実施形態の点検装置4は、結合金具(401~406)、点検用ホース500及び図示しない点検用ノズルを備える。点検用ホース500の長さは、数メートル程度と短く、残水の排出や巻取りを容易に行うことができる。
【0079】
点検装置4の結合金具(401~406)は、流路切替弁2の差し金具40に対応しており、上述した「マチノ式」の差込式結合金具の受け口を構成する。この結合金具は、受け金具401、締め輪402、複数の爪403、爪座404、差し込み口405及びゴムバンド406を備える。
【0080】
受け金具401は、図2に示す差し金具40の段部43の直径と略等しい内径の先端部を有する。締め輪402は、受け金具401の先端部の外側に装着され、差し金具40の段部43の直径と略等しい内径の先端部を有する。各爪403は、受け金具401の先端部と締め輪402の先端部との間に設けられた爪座404の上に載置される。各爪403は、受け金具401の先端部の直径方向に移動することが可能となっている。差し込み口405は、受け金具401の後方に一体的に設けられており、点検用ホース500に差し込まれる。ゴムバンド406は、締め輪402の外周に装着される。
【0081】
図10(b)に示されるように、消火栓1を点検する場合は、点検装置4の結合金具(401~406)を、流路切替弁2の差し金具40に差込式結合させる。これにより、流路切替弁2の流出路が、第1流出路22から第2流出路23へ切り替えられる。
【0082】
すなわち、点検装置4の結合金具(401~406)を、流路切替弁2の差し金具40に差込式結合させると、受け金具401の内面によって、可動部材60が差し金具40の流出口42の中へ押し込まれ、シャフト70とともに弁体100が下方へ移動する。これにより、流路切替弁2の第2流出路23が開放されるとともに、第1流出路22が閉鎖される。このようにして、流路切替弁2の流出路が、消火時の第1流出路22から点検時の第2流出路23に切り替えられる。したがって、ポンプから消火栓1に供給された水は、弁箱20の流入路21から第2流出路23へ流れ、点検用ホース500に供給される(図10(b)中の2つの灰色矢印を参照)。
【0083】
上述した流路切替弁2の流出路の切り替え動作が完了したと同時に、結合金具(401~406)の各爪403が、差し金具40の段部43の端面に係合する。これにより、結合金具(401~406)と差し金具40との差込式結合が強固に維持される。
【0084】
結合金具(401~406)と差し金具40との差込式結合は、押し輪50を差し金具40の外周面に沿って移動させることにより解除される。すなわち、押し輪50を上方に移動させると、押し輪50の先端が各爪403の傾斜面に当接する。これにより、各爪403が、差し金具40の先端部の直径方向に後退し、各爪403と段部43との係合が解除される。結合金具(401~406)を差し金具40から取り外すことにより、可動部材60が、スプリング80の付勢力によって押し上げられる。これにより、流路切替弁2の流出路が、点検時の第2流出路23から消火時の第1流出路22に切り替えられる。
【0085】
結合金具(401~406)を差し金具40から取り外した後は、図8に示されるように、キャップ固定部320の第4係止部325を、差し金具40の段部43の端面に係止させることにより、キャップ3を差し金具40に装着する。このとき、キャップ可動部310の第2係止部313は、キャップ固定部320の第1係止部324に係止される。これにより、流路切替弁2は、図8に示される大気開放弁として機能する状態になる。
【0086】
消火栓1の点検作業が完了した後は、配管内の水圧が所定の値より低くなり、自動排水弁19は開放状態となる。これにより、消火栓1の配管内の残水が自動排水弁19から排出される。このときに、流路切替弁2が大気開放弁として機能し、消火栓1の配管内に空気が送り込まれる。これにより、消火栓1の配管内から残水が円滑に排出される。
【0087】
5.キャップの作用効果
上述したように、本実施形態のキャップ3は、キャップ可動部310、キャップ固定部320、拘束リング330、ワイヤー340、ねじ341及びワッシャ342を備えることによって、以下に述べる第1~第4の作用効果を奏する。
【0088】
第1に、キャップ固定部320は、流路切替弁2の差し金具40に装着される。キャップ可動部310は、キャップ固定部320の側壁に沿って上下方向に移動させることが可能である。このような構成により、キャップ固定部320を流路切替弁2の差し金具40に強固に固定した場合でも、キャップ可動部310の上下方向に移動に全く影響を与えない。したがって、本実施形態のキャップ3によれば、拘束リング330によってキャップ固定部320を差し金具40に強固に固定することができ、流路切替弁2からの脱落を確実に防止することができる。さらに、キャップ固定部320の固定とは無関係に、キャップ可動部310の良好な操作性が維持され、流路切替弁2の弁体100の位置を容易に変更することが可能となる。
【0089】
第2に、キャップ固定部320の側壁に設けられた表示部322によって、キャップ可動部310の下端の位置を視覚的に示すことが可能である。この構成により、作業者は、表示部322が視認可能か否かに基づいて、キャップ可動部310の状態を直感的に把握することができる。つまり、作業者は、表示部322が視認可能か否かに基づいて、流路切替弁2の状態を、直感的に把握することができる。
【0090】
第3に、消火栓1が待機時から消火時に移行するときに、万が一、水圧を受けた可動部材60によって、キャップ3が差し金具40から弾き飛ばされた場合でも、ワイヤー340によって、キャップ3の飛距離を数cm程度に短くすることができる。また、消火栓1の点検時に、差し金具40からキャップ3を取り外した場合でも、ワイヤー340によって、キャップ3の紛失が確実に防止される。
【0091】
第4に、ワイヤー340の一端をキャップ固定部320の側壁に締結するためのねじ341が、拘束リング330を位置決めするためのストッパの役割を果たす。このねじ341によって、拘束リング330の内周面の全部が、キャップ固定部320の側壁の外側における第4係止部325からねじ341までの間に位置する。これにより、キャップ固定部320の側壁の外方への変形が、拘束リング330の内周面によって制限され、第4係止部325と、差し金具40の段部43との係止が維持される。つまり、キャップ固定部320が、差し金具40に強固に固定される。
【0092】
6.大気開放弁としての作用効果
本実施形態の流路切替弁2は、本実施形態のキャップ3を第2流出路23の差し金具40に装着することによって、第1流出路22及び第2流出路23の両方を開放させる位置に弁体100を配置させることが可能であり、これにより、大気開放弁として機能する。
【0093】
したがって、本実施形態の流路切替弁2によれば、消火栓1の配管内及び消火用ホース17内の残水を円滑に排出するために、専用の大気開放弁を設ける必要がなく、消火栓1を構成する弁の数、配管の数を減少させることができる。また、消火栓1の待機時に、弁体が、第1流出路22及び第2流出路23の両方を開放させる位置に配置されるので、弁体100のOリング(シール部材)103が第1流出路22及び第2流出路23の内周面に固着せず、且つOリング103の寿命が延長される。
【0094】
7.点検弁としての作用効果
本実施形態の流路切替弁2は、差し金具40の流出口42から外部に露出した可動部材60を手動で動作させることが可能である。これにより、流路切替弁2を分解することなく、弁体100の切り替え動作を確認することができ、及びシャフト70、スプリング80及びストッパ90の汚損状態を目視で確認することもできる。また、可動部材60を介して、差し金具40の内部にアクセスすることが可能であり、流路切替弁2を分解することなく、内部清掃を行うこともできる。
【0095】
本実施形態の流路切替弁2は、弁体100を移動させるための構成要素であるシャフト70、スプリング80及びストッパ90が、いずれも弁箱20の流入路21と第1流出路22とを連絡する流路内に配置されていない。これにより、シャフト70、スプリング80及びストッパ90のいずれもが、消火栓1の消火時における水の流れに曝されず、圧損を生じさせない。
【0096】
本実施形態の流路切替弁2の差し金具40は、消防用結合金具として一般的な「マチノ式」の差込式結合金具の受け口に対応している。これにより、点検装置の結合金具として汎用品をそのまま用いることが可能である。さらに、流路切替弁2の差し金具40は、「マチノ式」の差込式結合金具の受け口を備えた、点検装置以外の消防機器と差込式結合することができる。したがって、流路切替弁2の用途は、消火栓1の点検に限定されず、種々の消防設備に汎用することが可能である。
【符号の説明】
【0097】
1 消火栓
10A 消火栓扉
10B 消火器扉
10C 保守用扉
11a、11b ハンドル
12 赤色表示灯
13 通報ボタン
14 消火栓接続口
15 消火栓弁
15a 開閉レバー
16 自動調圧弁
17 消火用ホース
18 消火用ノズル
19 自動排水弁
2 流路切替弁
20 弁箱
21 流入路
22 第1流出路
23 第2流出路
24 連絡口
30 挿入管
31 流入口
32 流出口
33、34 Oリング(シール部材)
40 差し金具
41 流入口
42 流出口
43 段部
50 押し輪
51 フランジ
60 可動部材
61 環状の本体
62 支持杆
63 雌ねじ部
64 ガイド片
65 開口部
70 シャフト
71 第1雄ねじ部
72 第2雄ねじ部
80 スプリング
90 ストッパ
91 挿通孔
92 通水孔
100 弁体
101 雌ねじ部
102 ガイド片
103 Oリング
3 キャップ
310 キャップ可動部
311 スリット
312 当接部
313 第2係止部
314 第3係止部
320 キャップ固定部
321 スリット
322 表示部(ステッカー)
323 孔
324 第1係止部
325 第4係止部
330 拘束リング
340 ワイヤー
341 ねじ
342 ワッシャ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10