(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112856
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】流体の性質を測定するデバイスおよび方法
(51)【国際特許分類】
G01N 11/16 20060101AFI20240814BHJP
G01N 11/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G01N11/16 A
G01N11/00 C
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024077165
(22)【出願日】2024-05-10
(62)【分割の表示】P 2021545308の分割
【原出願日】2020-02-03
(31)【優先権主張番号】62/800,704
(32)【優先日】2019-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.PYTHON
2.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】521343231
【氏名又は名称】エイブラム サイエンティフィック,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】アブヒシェク,ラムクマール
(57)【要約】 (修正有)
【課題】流体サンプルの1つ以上の性質または性質の変化を測定するためのデバイスを提供する。
【解決手段】デバイスは、流体サンプルを受容および保持するのに適した、デバイスの内部容積を画定するチャンバと、複数の層と、を備えることができ、複数は、チャンバの下の少なくとも底層、およびチャンバの上の少なくとも基材層を含み、基材層は、少なくとも1つの懸架されたビームと、ビームの長さの両端において繋げられており、懸架されたビームは、チャンバの上に位置し、懸架されたビームは、流体サンプルと物理的に接触することができる面を有し、懸架されたビームは、懸架されたビームにわたって延びる少なくとも1つの導電経路に作動信号を印加すると振動するように構成されている。関連する方法および使用についても開示する。
【選択図】
図1(a)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の時点において、流体サンプルの1つ以上の性質または性質の変化を測定するためのデバイスであって、前記デバイスが、
前記流体サンプルを受容および保持するのに適した、前記デバイスの内部容積を画定するチャンバと、
複数の層と、を備え、前記複数が、前記チャンバの下の少なくとも底層、および前記チャンバの上の少なくとも基材層を含み、
前記基材層が、少なくとも1つの懸架されたビームと、前記ビームの長さの両端において繋げられており、
前記懸架されたビームが、前記チャンバの上に位置し、前記懸架されたビームが、前記流体サンプルと物理的に接触することができる面を有し、
前記懸架されたビームが、前記懸架されたビームにわたって延びる少なくとも1つの導電経路に作動信号を印加すると振動するように構成されている、デバイス。
【請求項2】
前記懸架されたビームと交差する力線を有する磁場を提供するように構成された少なくとも1つの磁場源をさらに備え、それにより、電流または電圧の形態の前記作動信号が印加され、前記磁場および作動信号のうちの少なくとも1つが時間的に変化したときに、前記懸架されたビームが振動する、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
前記懸架されたビームと交差する力線を有する磁場を提供するように構成された少なくとも1つの磁場源をさらに備え、それにより、前記懸架されたビームの振動が、少なくとも1つの導電経路にわたって電流または電圧を誘起する、請求項1~2のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項4】
(i)圧電ベースの機械場、(ii)静電容量場、(iii)電磁場、および(iv)熱励起場から選択される1つ以上の励起場を印加することによって、前記懸架されたビームを振動させるように構成されたアクチュエータをさらに備え、
前記懸架されたビームの振動が、(i)圧電ベースの電気信号、(ii)静電容量信号、(iii)電磁信号、(iv)熱信号、および(v)光検出信号から選択される1つ以上の信号を発生させる、請求項1~3のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記デバイスが、前記懸架されたビームにわたって延びる少なくとも2つの独立した導電経路を備え、それにより、前記導電経路のうちの1つを使用して、前記懸架されたビームの振動を引き起こすことができ、前記導電経路のうちの別の導電経路を、前記振動によって誘起される電流または電圧の検出のために使用することができる、請求項1~4のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記チャンバの上面が、前記基材層の少なくとも一部分からなる、請求項1~5のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記流体サンプルが、前記チャンバに適用されたときに、前記少なくとも1つの懸架されたビームのうちの少なくとも1つの下および前記底層の上の領域の近傍において少なくともある容積を占める、請求項1~6のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記チャンバ内への前記流体サンプルの流れが、前記少なくとも1つの懸架されたビームのうちの少なくとも1つの前記長さに沿って誘導される、請求項1~7のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記流体サンプルが、前記少なくとも1つの懸架されたビームのうちの少なくとも1つにおける前記振動に影響を及ぼす、請求項1~8のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記基材層または前記底層のうちの少なくとも1つが、前記チャンバ内の前記流体の存在を検出するように構成された少なくとも1つの導電経路を備える、請求項1~9のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記デバイスが、
(i)血液サンプルを前記チャンバ内に配し、前記血液サンプルを凝血剤に曝露した際に、血液サンプルの凝血を誘起するのに有効な量の少なくとも1つの凝血剤、
(ii)少なくとも1つの抗凝固剤、
(iii)少なくとも1つの凝固因子、または
(iv)粘度を少なくとも0.001センチポアズだけ変化させるのに十分な量の、流体粘度を変化させる少なくとも1つの薬剤から選択される、少なくとも1つの活性剤を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
請求項1に記載のデバイスを使用して、流体サンプルの1つ以上の性質または性質の変化を測定する方法であって、前記方法が、
前記デバイスの前記チャンバ内に前記流体サンプルを配することと、
前記デバイスの前記少なくとも1つの懸架されたビームのうちの少なくとも1つを振動させることであって、前記振動が、前記デバイスの前記導電経路のうちの少なくとも1つにおける電流または電圧を誘起する、振動させることと、
1つ以上の時間において前記電流または電圧を測定することと、
前記電流または電圧の測定値のうちの1つ以上を使用して、前記流体サンプルの前記1つ以上の性質または性質の変化を計算することと、を含む、方法。
【請求項13】
振幅、位相、振動周波数の変化、および品質因子から選択される少なくとも1つの振動特性が、測定され、前記流体サンプルの1つ以上の性質の決定に使用される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
振動特性が、
(a)前記流体サンプル中の反応前の時点、
(b)前記流体サンプル中の前記反応中の時点、および
(c)前記流体サンプル中の前記反応後の時点、のうちの2つ以上の時点で測定され、 前記反応が、測定中の前記流体サンプルの前記性質のうちの1つ以上を変化させる、請求項12~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記方法が、面内振動ステップおよび面外振動ステップを含み、前記流体サンプルの少なくとも2つの性質が、連続相粘度、バルク粘度、粘弾性、および密度から選択される、請求項12~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記流体サンプルが、血液サンプルであり、血漿粘度、全血粘度、血液粘弾性、血液密度、ヘマトクリット、血小板数、血液凝血時間、血液血餅硬度、血小板収縮活性、線維素溶解活性、血液凝固因子の濃度、血液凝固因子の活性、血液成分の濃度、血液成分の活性、前記サンプル中に存在する抗凝固剤のタイプ、および前記サンプル中に存在する抗凝固剤の濃度のうちの少なくともが決定される、請求項12~15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
流体サンプルの1つ以上の性質または性質の変化を決定する方法であって、前記方法が、
チャンバ内に前記流体サンプルを配することであって、チャンバ表面が、前記流体と接触している間に振動することができる物理的要素からなる、配することと、
1つ以上の振動周波数で前記物理的要素を振動させることと、
前記1つ以上の振動周波数における前記物理的要素の前記振動の1つ以上の特性を測定することと、
前記測定された振動特性のうちの1つ以上を使用して、前記流体サンプルの1つ以上の性質または性質の変化を決定することと、を含む、方法。
【請求項18】
前記方法が、面内振動ステップおよび面外振動ステップを含み、前記流体の前記1つ以上の性質が、連続相粘度、バルク粘度、粘弾性、および密度から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記流体サンプルが、凝固反応を受けている血液サンプルであり、前記流体の前記1つ以上の性質が、血漿粘度、全血粘度、血液粘弾性、血液密度、ヘマトクリット、血小板数、血液凝血時間、血液血餅硬度、血小板収縮活性、および線維素溶解活性から選択される、請求項17~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記流体サンプルが、凝固反応を受けている血液サンプルであり、トロンビン(第IIa因子)、フィブリノーゲン(第I因子)、フィブリン(第Ia因子)、プロトロンビナーゼ(第Xa因子)、抗凝固剤、血小板、赤血球、および巨大分子または巨大分子複合体から選択される1つ以上の流体成分の1つ以上の特性または特性の変化が、決定される、請求項17~19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
流体サンプル中に存在する1つ以上の分析物のタイプを識別し、前記1つ以上の分析物の濃度を決定する方法であって、前記方法が、
チャンバ内に前記流体サンプルを配することであって、チャンバ表面が、測定された振動特性のうちの1つ以上を使用して、前記流体の1つ以上の性質または性質の変化を決定することができる振動デバイスからなる、配することと、
前記流体サンプル中で反応を惹起することと、
前記測定された流体性質のうちの1つ以上を使用して、前記反応中の1つ以上の流体成分の1つ以上の特性または特性の変化を決定することと、
前記流体成分のうちの1つ以上の前記測定された特性のうちの1つ以上を使用して、前記1つ以上の分析物のタイプを識別することと、
前記測定された流体性質のうちの1つ以上を使用して、前記1つ以上の分析物の濃度を決定することと、を含む、方法。
【請求項22】
前記1つ以上の分析物のタイプが、前記測定された流体性質のうちの1つ以上を使用して識別される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記1つ以上の分析物の濃度が、前記流体成分のうちの1つ以上の1つ以上の測定された特性を使用して決定される、請求項21~22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記流体サンプルが、凝固反応を受けている血液サンプルであり、前記流体の前記1つ以上の性質が、血漿粘度、全血粘度、血液粘弾性、血液密度、ヘマトクリット、血小板数、血液凝血時間、血液血餅硬度、血小板収縮活性、および線維素溶解活性から選択される、請求項21~23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記流体サンプルが、凝固反応を受けている血液サンプルであり、前記分析物が、抗凝固剤である、請求項21~24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記分析物が、ワルファリン、ヘパリン、第IIa因子阻害剤ベースの抗凝固剤、および第Xa因子阻害剤ベースの抗凝固剤から選択される、請求項21~25のいずれか一項に記載の方法。
【請求項27】
前記流体サンプルが、凝固反応を受けている血液サンプルであり、前記流体成分が、トロンビン(第IIa因子)、フィブリノーゲン(第I因子)、フィブリン(第Ia因子)、プロトロンビナーゼ(第Xa因子)、血小板、赤血球、および巨大分子または巨大分子複合体から選択される、請求項21~26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
流体サンプルの粘度、流体サンプルのバルク相の粘度、流体サンプルの連続相の粘度、流体サンプルの粘弾性、流体サンプルの密度、血液サンプルの血漿粘度、血液サンプルの全血粘度、血液サンプルの粘弾性、血液サンプルの密度、血液サンプルのヘマトクリット、血液サンプルの血小板数、血液サンプルの血液凝血時間、血液サンプルの血液血餅硬度、血液サンプルの血小板収縮活性、血液サンプルの線維素溶解活性、血液サンプルの血液凝固因子の濃度、血液サンプルの血液凝固因子の活性、血液サンプルの血液成分の濃度、血液サンプルの血液成分の活性、血液サンプル中の抗凝固剤のタイプ、および血液サンプル中の抗凝固剤の濃度のうちの少なくとも1つを決定するための、請求項1~11のいずれか一項に記載のデバイスの使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、参照により本明細書に組み込まれる、2019年2月4日に出願された米国特許仮出願第62/800,704号の利益を主張するものである。
【0002】
本発明は、流体の性質、例えば、流体サンプルの粘度、流体サンプルのバルク相の粘度、流体サンプルの連続相の粘度、流体サンプルの粘弾性、流体サンプルの密度、血液サンプルの血漿粘度、血液サンプルの全血粘度、血液サンプルの粘弾性、血液サンプルの密度、血液サンプルのヘマトクリット、血液サンプルの血小板数、血液サンプルの血液凝血時間、血液サンプルの血液血餅硬度、血液サンプルの血小板収縮活性、血液サンプルの線維素溶解活性、血液サンプルの血液凝固因子の濃度、血液サンプルの血液凝固因子の活性、血液サンプルの血液成分の濃度、血液サンプルの血液成分の活性、血液サンプル中の抗凝固剤のタイプ、および血液サンプル中の抗凝固剤の濃度を測定するデバイス、方法、およびシステムに関する。
【背景技術】
【0003】
粘度計は、一般的に、指定された剪断速度を達成するために必要な力を測定することによって、流体の粘度および/または粘弾性を導き出す(例えば、Wells-Brookfieldのコーンプレートタイプの粘度計)[1]。従来の実験室用粘度計は、多くの場合、粘度計のコスト、スペース要件、および他の前提条件、例えば、バイブレーションフリー装着により、粘度および粘弾性のポータブルおよびオンライン測定の助けにはならない。また、かかるデバイスでのサンプルの取り扱いは、多くの場合、手作業を伴い、時間がかかり、エラーが発生しやすい傾向がある。
【0004】
バイブレーションの減衰に基づくセンサは、サイズが小さく、小さなサンプル容積で流体の性質を測定するために使用され得る。バイブレーションの減衰に基づくセンサは、流体に曝露されると、電子的、光学的などで測定され得る、粘度もしくは粘弾性が修正された減衰または流れをもたらす、媒体内の音響バイブレーション場を誘起する。センサのバイブレーションがセンサの共振振動に対応する場合、振動の減衰は、他の変数の中でも、共振の品質因子、共振周波数、および/または共振運動の振幅を使用して測定され得る。かかるセンサの例としては、水晶厚み剪断モード共振器(TSM)[2]および表面音響波(SAW)デバイスのようなマイクロ音響センサが挙げられ、これらは、従来の粘度計[3]の代替として首尾よく使用されている。これらのデバイスは、概して、比較的高い周波数および小さいバイブレーションの振幅で粘度を測定し、これは、重大な欠点につながる可能性がある。これらのセンサによって励起される音響場の侵入深さ(
式中、ηは、流体粘度であり、ρは、流体密度であり、fは、周波数である)は、当該センサの高いバイブレーション周波数fにより、小さいため、デバイスに近い液体の薄膜のみが探索される。したがって、別個の成分/添加剤を含有するものを含むが、これらに限定されない、非ニュートン流体の場合、結果は、従来の粘度計で測定されたものから有意な偏差を呈し得る。
【0005】
血管内を流れるバルク血液の固有の抵抗の大域的な測定である全血粘度(WBV)は、血球レオロジーと、血漿粘度(PV)と、ヘマトクリットとの間の相互作用によって決定され、循環機能のマーカーと見なされ得る。その主な決定要因は、赤血球の容積分画(ヘマトクリットまたはHct)、血漿粘度(主に血漿フィブリノーゲン、他の生物学的に反応するグロブリン、およびリポタンパク質によって決定される)、赤血球の変形(高い流れ/剪断条件下)、ならびに凝血/凝固につながる赤血球の凝集(低い流れ/剪断条件下)である[4、5]。一般集団内の血液粘度のレベルの増加は、アテローム発生、血栓形成、またはアテローム血栓の狭窄もしくは閉塞の遠位の虚血に対する潜在的なレオロジー効果を通じて、心血管イベントを促進し得ることが示されている[4、6]。疫学研究では、高血液粘度を、男性、タバコの喫煙、血圧、および血漿脂質/リポタンパク質などの従来のリスク因子に関連付けている[5、7]。平均5年間にわたって追跡された1592人の男女のランダム集団の研究では、年齢および性別を調節した後、虚血性心臓発作および脳卒中を経験した患者の平均血液粘度は、そうでない患者よりも高かった[8]。拡張期血圧、LDLコレステロール、および喫煙の是正後、血液粘度(およびヘマトクリット補正後の血液粘度)との間の関連は脳卒中に対してのみ有意であった(p<0.05)。(平均4.8年にわたって追跡された)331人の高血圧の中年男性の前向き研究では、上位三分位値の拡張期血液粘度の患者の心血管イベントのリスクが増加していたことが明らかになった[9]。また、WBVを伴う2型糖尿病の発生率と、血漿過粘稠度症候群の予測および血漿粘度を伴う鎌状赤血球症の予後の両方との間には強い相関がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
血液は非ニュートン流体である。すなわち、血液の粘度は、血管を通って流れる血液の速度(より具体的には、血液の剪断速度)に依存する。高速の血液では、円盤状の赤血球は、流れの方向に向き付けされ、粘度は低くなる。極めて低い剪断速度では、赤血球凝集が起こり得るため、粘度が非常に高い値に増加する。また、血液が流れ始める前に、最小限の剪断応力(降伏応力、τy)が必要であることが示唆され、実証されている。血液サンプルの粘度を測定するために、現代の粘度計は、概して、指定された力で流体の流れの速度を測定するか、または逆に、流れの規定の速度を達成するために必要な力の量を測定する。どの方法が血漿粘度測定に使用されるかは、そのニュートン流体の性質のために重要ではない。測定の標準化を助長するように、全血粘度を測定する際に、流れの速度(剪断速度に比例)を正確に制御して指定することが理想的である。しかし、現在の血液粘度計は、同じサンプルに対して全血および血漿粘度測定を可能にすることができず、かさがあり、大量のサンプルを必要とする。
【0007】
血液の物理的性質を迅速に測定する能力により、これらの性質を、血液の凝固のリアルタイム監視を含む時間の関数として監視することを可能にすることができる。疾患を診断および監視するための現在利用可能な血行動態学的検査には、プロトロンビン時間(PT)または国際標準化比(INR)、部分トロンボプラスチン時間(PTT)、活性化された凝血時間(ACT)、およびトロンボエラストグラム(TEG)などの血液凝固検査が含まれる。上述したすべての凝固検査の測定の実験室用ゴールドスタンダードは、凝固するときの血液サンプルの物理的性質の変化を監視する直接機械式粘弾性法(direct-mechanical, viscoelastic method)である。しかし、これらの検査は、実験室で実施される際に、大量の血液サンプル(3~5ml)、サンプルを保存するための抗凝固剤(例えば、クエン酸ナトリウム)の添加、およびバイブレーションに敏感な器具を使用した手間のかかる検査プロセスが必要な場合があり、多くの場合、検査結果を発生させるには、長い所要時間が必要である。
【0008】
病院、診療所、および家庭で使用される凝固診断検査のための現在利用可能なポイントオブケア(POC)システム(例えば、RocheのCoaguChek(登録商標))は、概して、一般的に血糖値測定器で使用されるような、フィンガースティック法による毛細管全血サンプリング、およびストリップに基づく検査方法に従う。これらのデバイスはポータブルであり、使用が容易であるが、ゴールドスタンダードの直接機械式実験方法(direct-mechanical laboratory method)とは対照的に、これらは典型的には、血液凝血に起因する二次効果を測定し、血液サンプル中のヘマトクリットおよびフィブリノーゲン濃度の変化を含むが、これらに限定されない、交絡因子に起因するエラーを生じやすい、間接的な方法(例えば、電気的、光学的)を使用する。複雑な流体の物理的性質(ここでは、血液粘度、粘弾性、および密度)のリアルタイムのPOC測定は、治療/療法の有効性および応答時間に関するリアルタイムのフィードバックを提供し、最適な止血管理を可能にするのに役立つ場合がある。また、時間の関数としての粘度または粘弾性の監視は、同じ血液サンプル(例えば、PT/INR、PTT、ACT、およびTEG)に対して複数の凝固検査を実施する際に使用され得る。かかるデバイスを、血液および血漿粘度を測定するために効果的に使用して、標準化された凝固測定(PT/INR、PTT、ACT、およびTEGを含むが、これらに限定されない)を実施し、それに伴って、療法前、療法中、および療法後の血液凝固状態の全体像を提供することができる。
【0009】
したがって、インビトロまたはインビボでの、低いサンプル容積(例えば、<10μl、フィンガースティック法による血液サンプリングを含むが、これに限定されない)、全血および血漿のレオロジー性質(粘度、粘弾性、密度、および凝固)の迅速なリアルタイムの測定が現在必要である。かかる器具は、例えば、糖尿病患者のグルコース測定などのバイオセンサと一緒になって、疾患および血液機能の迅速な診断および監視のための貴重なツールとして役立つ場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
いくつかの実施形態では、本発明は、流体性質のより高い感度およびより大きな幅の測定につながり得る、流体中で比較的大きなバイブレーションの振幅および音響場の侵入深さを発生させることができる、音響バイブレーションセンサを提供する。いくつかの実施形態では、バイブレートする要素は、2つの異なる侵入深さに対応する少なくとも2つの音響場が流体媒体内で誘起され得、その結果、流体の異なる物理的性質が2つの音響場を使用して測定され得るように設計されている。例えば、流体中の別個の成分/添加剤のサイズよりも大きい侵入深さ、および当該サイズよりも小さい侵入深さである、2つの侵入深さを使用することによって、(別個の成分/添加剤からの寄与を反映する)連続相およびバルク相の粘度を、別個の成分/添加剤を流体から分離する必要なしに、同じサンプル内で正確に決定することができる。また、いくつかの実施形態に従って、デバイス内のセンサのバイブレーションモードを変化させることによって、流体の密度を正確に測定することもでき、次にこれを使用して、任意の別個の成分/添加剤の濃度を定量化することができる。このセンサは、多種多様な流体性質の測定用途において、例えば、インビボおよびインビトロでの食品、飲料、塗料、インク、油および石油製品、ならびに生物学的流体の性質の測定に有用であることが分かるであろう。
【0011】
いくつかの実施形態では、本発明による方法およびデバイスは、連続相、すなわち、血漿の粘度、および赤血球などの別個の成分の濃度に大きく依存する、全血粘度の測定に関する利点を提供する。
【0012】
本発明のいくつかの実施形態は、同じ血液サンプルに対する全血および血漿粘度の同時および迅速な測定を可能にするセンサ、ならびに/または、密度が単純な関係ρ=1.026+0.067Hct gm/cc[10]によってヘマトクリットに線形に関連しているため、ヘマトクリットを決定するために使用され得る血液の密度を測定するように構成され得るセンサを提供する。全血粘度は血漿粘度およびヘマトクリットに大きく依存するため、異なる固体の血液粘度を比較/グループ化するために、血液粘度を固定ヘマトクリット(概して、0.45が使用される)に標準化することが推奨される場合がある。ほとんどの研究では、全血粘度は、Matraiらの式[11]によって標準ヘマトクリットの45%に標準化(または補正)されており、
式中、η
WBV-0.45は、補正された全血粘度であり、η
WBV-Hctは、ヘマトクリットHctにおける全血粘度であり、η
Plasmaは、血漿粘度である。したがって、この手法を使用して標準化された血液粘度を推定するためには、サンプルのヘマトクリット、全血粘度、および血漿粘度を正確に測定する必要がある。現在、全血および血漿粘度の測定は、概して、時間のかかるサンプル処理、すなわち、血漿を分離してヘマトクリットを測定するための赤血球の遠心分離、および訓練された専門家による、かさばる器具を使用した粘度の測定を伴う。また、患者から入手可能な血液量は、わずかな場合があるため(例えば、フィンガースティック法による毛細管血液)、好ましくは抗凝固剤を添加することなく、速やかに分析しなければならない。実験室での血液の臨床診断およびインビトロ研究のための現在の既存の方法は、概して、クエン酸ナトリウムおよびEDTAなどの抗凝固剤の添加を伴うため、血液の真の生理学的状態から逸脱する[12]。いくつかの実施形態では、本発明は、サンプルの前処理を必要とせずに、同じ血液サンプルに対して、3つの測定、すなわち、全血粘度、血漿粘度、およびヘマトクリットの測定のすべてを実施し、それに伴って、迅速なPOC診断ツールとして役立つという利点を提供する。
【0013】
したがって、1つの実施形態では、本発明は、1つ以上の時点において、流体サンプルの1つ以上の性質または性質の変化を測定するためのデバイスであって、デバイスが、流体サンプルを受容および保持するのに適した、デバイスの内部容積を画定するチャンバと、複数の層と、を備え、複数が、チャンバの下の少なくとも底層、およびチャンバの上の少なくとも基材層を含み、基材層が、少なくとも1つの懸架されたビームと、ビームの長さの両端において繋がれており、懸架されたビームが、チャンバの上に位置し、懸架されたビームが、流体サンプルと物理的に接触することができる面を有し、懸架されたビームが、懸架されたビームにわたって延びる少なくとも1つの導電経路に作動信号を印加すると振動するように構成されている、デバイスを提供する。
【0014】
別の実施形態では、本発明は、本発明によるデバイスを使用して、流体サンプルの1つ以上の性質または性質の変化を測定する方法であって、方法が、デバイスのチャンバ内に流体サンプルを配することと、デバイスの少なくとも1つの懸架されたビームのうちの少なくとも1つを振動させることであって、振動が、デバイスの導電経路のうちの少なくとも1つにおける電流または電圧を誘起する、振動させることと、1つ以上の時間において電流または電圧を測定することと、電流または電圧の測定値のうちの1つ以上を使用して、流体サンプルの1つ以上の性質または性質の変化を計算することと、を含む、方法を提供する。
【0015】
別の実施形態では、本発明は、流体サンプルの1つ以上の性質または性質の変化を決定する方法であって、方法が、チャンバ内に流体サンプルを配することであって、チャンバ表面が、流体と接触している間に振動することができる物理的要素からなる、配することと、1つ以上の振動周波数で物理的要素を振動させることと、1つ以上の振動周波数における物理的要素の振動の1つ以上の特性を測定することと、測定された振動特性のうちの1つ以上を使用して、流体サンプルの1つ以上の性質または性質の変化を決定することと、を含む、方法を提供する。
【0016】
別の実施形態では、本発明は、流体サンプル中に存在する1つ以上の分析物のタイプを識別し、1つ以上の分析物の濃度を決定する方法であって、方法が、チャンバ内に流体サンプルを配することであって、チャンバ表面が、測定された振動特性のうちの1つ以上を使用して、流体の1つ以上の性質または性質の変化を決定することができる振動デバイスからなる、配することと、流体サンプル中で反応を惹起することと、測定された流体性質のうちの1つ以上を使用して、反応中の1つ以上の流体成分の1つ以上の特性または特性の変化を決定することと、流体成分のうちの1つ以上の測定された特性のうちの1つ以上を使用して、1つ以上の分析物のタイプを識別することと、測定された流体性質のうちの1つ以上を使用して、1つ以上の分析物の濃度を決定することと、を含む、方法を提供する。
【0017】
別の実施形態では、本発明は、流体サンプルの粘度、流体サンプルのバルク相の粘度、流体サンプルの連続相の粘度、流体サンプルの粘弾性、流体サンプルの密度、血液サンプルの血漿粘度、血液サンプルの全血粘度、血液サンプルの粘弾性、血液サンプルの密度、血液サンプルのヘマトクリット、血液サンプルの血小板数、血液サンプルの血液凝血時間、血液サンプルの血液血餅硬度、血液サンプルの血小板収縮活性、血液サンプルの線維素溶解活性、血液サンプルの血液凝固因子の濃度、血液サンプルの血液凝固因子の活性、血液サンプルの血液成分の濃度、血液サンプルの血液成分の活性、血液サンプル中の抗凝固剤のタイプ、および血液サンプル中の抗凝固剤の濃度のうちの少なくとも1つを決定するための、本発明によるデバイスの使用を提供する。
【0018】
本発明のさらなる目的および利点は、以下の説明に一部記載され、一部は説明から明らかになるか、または本発明の実施によって学習され得る。本発明の目的および利点は、添付の特許請求の範囲において特に指摘される要素および組み合わせによって実現および達成される。
【0019】
前述の全般的な説明および以下の詳細な説明の両方は、例示的かつ説明的なものにすぎず、特許請求されるように、本発明を限定するものではないことを理解されたい。
【0020】
本明細書に組み込まれ、本明細書の一部を構成する添付の図面は、本発明のいくつかの実施形態を例示し、説明と一般に本発明の原理を説明するのに役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0021】
本発明の前述の態様および利点は、添付の図面を参照して、以下の詳細な説明から明らかになり得る。
【0022】
【
図1(a)】流体サンプルの粘度、粘弾性、ならびに/または密度の絶対値および/もしくは変化を独立して、ならびに/または反応前、反応中、および反応後に、測定するのに適した、物理的要素(すなわち、懸架されたビーム)を含む基材層の一実施形態を概略的に描写している。
【
図1(b)】基材層の分解図を示しており、基材層に寄与する成分層を例示している。
【
図2(a)】流体サンプル、特に、血液などの体液の粘度、粘弾性、および/または密度を決定する際に使用するための使い捨て検査ストリップの形態のセンサデバイス実施形態の概略図を示す。
【
図2(b)】中の成分を示す、検査ストリップの分解図を示す。
【
図2(c)】血液サンプルがストリップに導入されていない状態の、組み立てられた使い捨て検査ストリップの写真を示す。
【
図2(d)】血液サンプルがストリップに導入された状態の、組み立てられた使い捨て検査ストリップの写真を示す。
【
図3(a)】(
図1に見られるように)物理的要素の一実施形態の有限要素分析(FEA)シミュレーションを示しており、幅(x軸)方向に沿った面内振動の基本共振を描写している。
【
図3(b)】(
図1に見られるように)物理的要素の一実施形態の有限要素分析(FEA)シミュレーションを示しており、厚さ(z軸)方向に沿った面外振動の基本共振を描写している。
【
図4(a)】4907Hzの共振周波数を測定するために、空気がチャンバ内に存在する状態で面内振動を受ける物理的要素の単一振幅周波数スキャン(3500~7000Hz)の一実施例を示す。
【
図4(b)】1374Hzの共振周波数を測定するために、空気がチャンバ内に存在する状態で面外振動を受ける同じ物理的要素の単一振幅周波数スキャン(750~3250Hz)の一実施例を示す。
【
図5(a)】複数のストリップ内の物理的要素の正規化された振幅周波数スキャンのセットの一実施例を示す。
【
図5(b)】これらのそれぞれの共振周波数の平方根の統計的ビニングを示す。
【
図6】空気中の、40.38%v/vエチレングリコール(EG)溶液と接触した物理的要素の面内振動の振幅周波数スキャンの一実施例を示す。
【
図7(a)】脱イオン水中のエチレングリコール溶液の面内共振振動、すなわち、振幅を受ける物理的要素の流体性質と応答との間の関係を示すグラフの例を示す。
【
図7(b)】脱イオン水中のエチレングリコール溶液の面内共振振動、すなわち、周波数を受ける物理的要素の流体性質と応答との間の関係を示すグラフの例を示す。
【
図7(c)】脱イオン水中のエチレングリコール溶液の面内共振振動、すなわち、品質因子を受ける物理的要素の流体性質と応答との間の関係を示すグラフの例を示す。
【
図8】RocheのCoaguChek(登録商標)XSシステムからのINR結果と、本発明の下での使い捨て検査ストリップ(AbramのCoagCare)との間の相関の一例を示す。
【
図9】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素の面外振動での減衰の一例を示しており、センサ信号は、ヘマトクリットの0~80%の増加に伴って、血液サンプルに曝露したときに着実かつ予測可能な減少を呈する。
【
図10】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定された未較正のaPTT血液凝血時間の一実施例を示す。
【
図11】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定された未較正の低域ACT血液凝血時間の一実施例を示す。
【
図12】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定された未較正の高域ACT血液凝血時間の一実施例を示す。
【
図13(a)】凝固を受けている、チャンバ内の血液サンプルを有する使い捨て検査ストリップ内の振動する物理的要素の振幅周波数スキャンの実施例を示す。
【
図13(b)】凝固を受けている、チャンバ内の血液サンプルを有する使い捨て検査ストリップ内の振動する物理的要素の位相周波数スキャンの実施例を示す。
【
図14(a)】血液凝固カスケードに関連する抽出された止血パラメータの例示的な説明を示す。
【
図14(b)】凝固を受けている、チャンバ内の血液サンプルを有する使い捨て検査ストリップ内の物理的要素からの振動振幅データに対する、対応する粘弾性バイブレーション減衰フィットの一実施例を示す。
【
図15】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、血液凝固カスケード中の時間の関数として、切断されたフィブリノーゲンまたはフィブリンおよびトロンビン濃度プロファイルを発生させるために使用されているフィットから抽出される止血パラメータの例示的な説明を示す。
【
図16(a)】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、ヘパリン抗凝固剤(トロンビン阻害剤)の存在下でのトロンビン発生および活性化された凝血時間(ACT)の変動の例示的な説明を示す。ヘパリン濃度の0~3IU/mlの増加に伴って、血液サンプル中で測定された未較正のトロンビン濃度または発生プロファイルを示す。
【
図16(b)】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、ヘパリン抗凝固剤(トロンビン阻害剤)の存在下でのトロンビン発生および活性化された凝血時間(ACT)の変動の例示的な説明を示す。使い捨て検査ストリップ(CoagCare ACT)およびTEG-5000 RapidTEGアッセイを使用して測定したときの、サンプル中の対応するACT時間の相関プロットを示す。
【
図17(a)】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、血液凝固カスケード中の血液血餅特有の特性、血餅硬度Gを監視するために使用されているフィットから抽出された止血パラメータの例示的な説明を示す。血餅硬度Gを監視するために使用される時間の関数として測定される懸架されたビームの面内バイブレーションモードの典型的な振動特性を示す。
【
図17(b)】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、血液凝固カスケード中の血液血餅特有の特性、血餅硬度Gを監視するために使用されているフィットから抽出された止血パラメータの例示的な説明を示す。切断可能なフィブリノーゲンの濃度の増加に伴って、血液サンプルに曝露したときに増加傾向を示す血餅硬度Gの用量応答を示す。
【
図18(a)】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、血液凝固カスケード中の血液成分、血小板の活性を監視するために使用されているフィットから抽出された止血パラメータの例示的な説明を示す。血小板の収縮を監視するために使用される時間の関数として測定される懸架されたビームの面内バイブレーションモードの典型的な振動特性を示す。
【
図18(b)】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、血液凝固カスケード中の血液成分、血小板の活性を監視するために使用されているフィットから抽出された止血パラメータの例示的な説明を示す。エプチフィバチドGPIIb/IIIa血小板阻害剤の濃度の増加に伴って、血液サンプルに曝露したときに減少傾向を示す血小板収縮速度に対する用量応答を示す。
【
図19(a)】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、血液凝固カスケード中の血液血餅特有の特性、線維素溶解速度Lys-Rateを監視するために使用されているフィットから抽出された止血パラメータの例示的な説明を示す。線維素溶解速度Lys-Rateを監視するために使用される時間の関数として測定される懸架されたビームの面内バイブレーションモードの典型的な振動特性を示す。
【
図19(b)】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、血液凝固カスケード中の血液血餅特有の特性、線維素溶解速度Lys-Rateを監視するために使用されているフィットから抽出された止血パラメータの例示的な説明を示す。組織プラスミノーゲン活性化剤(tPA)の濃度の増加に伴って、血液サンプルに曝露したときに増加傾向を示す線維素溶解速度Lys-Rateの用量応答を示す。
【
図20(a)】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、第IIa因子(ダビガトランまたはPradaxa(登録商標))阻害剤ベースの抗凝固剤の濃度を決定するために使用されているフィットからの止血パラメータを使用して抽出されたTEGのような粘弾性パラメータの例示的な説明を示す。ダビガトランの濃度の増加に伴って、血液サンプルに曝露したときに凝血形成時間(R)の用量応答を示す。
【
図20(b)】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、第IIa因子(ダビガトランまたはPradaxa(登録商標))阻害剤ベースの抗凝固剤の濃度を決定するために使用されているフィットからの止血パラメータを使用して抽出されたTEGのような粘弾性パラメータの例示的な説明を示す。使い捨て検査ストリップ(CoagCare)を使用して測定したこれらのR時間と、TEG-5000 RapidTEGアッセイを使用して測定したACT時間との間の相関プロットをさらに示す。
【
図21(a)】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、第Xa因子(リバーロキサバンまたはXarelto(登録商標))阻害剤ベースの抗凝固剤の濃度を決定するために使用されているフィットからの止血パラメータを使用して抽出されたTEGのような粘弾性パラメータの例示的な説明を示す。リバーロキサバンの濃度の増加に伴って、血液サンプルに曝露したときに凝血形成時間(R)の用量応答を示す。
【
図21(b)】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、第Xa因子(リバーロキサバンまたはXarelto(登録商標))阻害剤ベースの抗凝固剤の濃度を決定するために使用されているフィットからの止血パラメータを使用して抽出されたTEGのような粘弾性パラメータの例示的な説明を示す。使い捨て検査ストリップ(CoagCare)を使用して測定したこれらのR時間と、TEG-5000 RapidTEGアッセイを使用して測定したACT時間との間の相関プロットをさらに示す。
【
図22(a)】血液凝固カスケードプロセスを描写しており、具体的には、ダビガトランによるトロンビン活性またはフィブリノーゲンのフィブリンへの切断/変換の阻害、および第Xa因子を介したリバーロキサバンによるトロンビン発生の阻害、ならびに血餅形成時間(R)に対する、これらのそれぞれの効果を示す。
【
図22(b)】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、検査した血液サンプル中のリバーロキサバンの増加に伴う、最大トロンビン発生(ThrombinPeak)および血餅硬度Gに対するリバーロキサバンの効果を示す。
【
図22(c)】使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、検査した血液サンプル中のダビガトランの増加に伴う、最大トロンビン発生(ThrombinPeak)および血餅硬度Gに対するダビガトランの効果を示す。
【
図22(d)】(この図では新規経口抗凝固剤またはNOACと称される)ダビガトランおよびリバーロキサバンの濃度の増加に伴って、検査したサンプルについてプロットされる、正規化されたThrombinPeakと血餅硬度G(この図では[フィブリノーゲン]
2と称される)との比として表されるメトリックを使用して、リバーロキサバンおよびダビガトランの分化応答を示す。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語を以下に定義する。本明細書で定義されない用語は、本発明に関連する領域における、当業者によって一般的に理解される意味を有する。「a」、「an」、および「the」などの用語は、単数の実体のみを指すことを意図するものではないが、例示のために特定の例が使用され得る一般的なクラスを含む。本明細書における専門用語は、本発明の特定の実施形態を説明するために使用されるが、これらの使用は、特許請求の範囲に概説されている場合を除き、本発明の範囲を定めるものではない。
【0024】
プロトロンビン時間(PT)または国際標準化比(INR)検査は、外因性経路の凝固因子の活性に関する重要な指標であり、これは、凝固形成を誘起するために、血漿または全血検体に組織トロンボプラスチン(組織因子)および/またはカルシウムイオンが添加されるときの凝固時間である。ワルファリンは、凝固カスケードに関与する複数の因子を阻害するために処方され、その有効性はPTまたはINR検査によって測定される。
【0025】
部分トロンボプラスチン時間(PTT)検査は、固有の経路の凝固因子の指標であり、全血が凝固するまでの時間を測定する。PTTは、多くの場合、出血または血栓症エピソードの原因を調べる際の出発点として使用される。PTT検査は、固有の経路に混乱がある患者に投与されるヘパリン療法の有効性を決定するために使用される(典型的には、侵襲的手技中)。
【0026】
活性化された凝血時間(ACT)検査は、心臓バイパス手術、心臓血管形成術、および透析などの強力な抗凝固剤の投与を必要とする術前、術中、および術後間もなくの高用量ヘパリンの効果を監視するために使用される。検査は、部分トロンボプラスチン時間(PTT)検査が臨床的に有用でないか、または時間がかかりすぎる状況において実施される。
【0027】
トロンボエラストグラフィまたはトロンボエラストグラム(TEG)は、血液凝固の効率を検査する方法である。とりわけ、手術、麻酔科、および外傷関連の治療において重要である。少量の血液サンプル(典型的には0.36ml)をキュベット(カップ)内に配し、これを4°45´(サイクル時間6/分)にわたって穏やかに回転させて、活性化剤(例えば、トロンボプラスチン、カオリン)の存在下で、緩慢な静脈の流れを模倣し、凝固を活性化させる。センサシャフトがサンプルに挿入されると、カップとセンサとの間に血餅が形成される。血餅形成の速度および強度は、様々な方法で測定され、血漿凝固系の活性、血小板機能、線維素溶解、ならびに病気、環境、および薬剤によって影響を受ける可能性のある他の因子に依存する。
【0028】
品質因子(Q因子)は、共振振動系の「品質」の測定値であり、共振振動周波数の近傍の周波数の範囲で測定される、振動の共振の鋭さ、または共振バイブレーションシステムの周波数選択度の測定である。Q因子は、共振周波数の近傍の周波数の関数として振動の振幅を監視することによって測定され得る。Q因子は、複数の方法で定義され得、一般的な定義は、ピークの幅に対する共振周波数の比である。共振ピークの幅は、例えば、振動の振幅が共振周波数での振幅の半分の大きさに低下する、共振周波数の上下の2つの周波数の間の距離として決定することができ、これは、半値全幅(FWHM)として一般的に知られている。共振振動系が(振幅対周波数の関係で識別されるように)共振周波数および反共振周波数を呈する場合、Q因子を測定する別の方法は、反共振周波数と共振周波数との間の差に対する共振周波数の比をコンピュータ処理することによるものである。
【0029】
剪断侵入深さ(δ
s)は、
のように計算され、式中、fは、振動周波数であり、ηは、流体サンプルの粘度であり、ρは、流体サンプルの密度である。
【0030】
粘度、粘弾性、および密度を含むが、これらに限定されない、流体の性質の決定は、物理的要素の振動特性を決定することによって達成され得る。振動は、物理的要素の共振または振動の固有周波数または基本周波数のうちの1つに対応し得る。共振の原理は、音叉の機能に関してさらに定義され得る。音叉が、それを表面または物体に対して打つことによって励起されると、そのビームまたはプロングは、基本周波数として知られている特定の周波数で共振する。プロングの基本周波数は、プロングの長さおよび断面積、ならびにフォークが作製される材料など、プロングの物理的特性に依存する。より広くは、任意の物理的要素の共振または振動の基本周波数は、これらの幾何学的形状および材料性質に依存する。
【0031】
様々な用途の一部として、例えば、モータアセンブリの一部としてのロータの運動を誘起および監視するために電磁気学が使用されてきた。可能性のある作動の電磁機構は、磁場の存在下で、電流を印加し、導体が経験するローレンツ力の結果として、電流搬送基材内の運動をもたらすことを伴う。ローレンツ力FLは、電場E、およびFL=q[E+(v×B)]によって求められる磁場Bの存在下で、速度vで移動する電荷qが経験する力として定義される。代替的に、中を通る導電経路を有する移動体内の運動は、電磁誘起によって検出され得る。電磁誘起は、磁場の存在下で移動する導体の両端で電流または電圧を生み出すことである。したがって、電磁気学の原理を使用して、運動の誘起および監視の両方を正確に行うことができる。代替的に、圧電方法、静電容量方法、電磁方法、および熱的方法などの作動方法を使用して、運動を誘起および監視することができる。運動を光学的に監視することもできる。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態では、デバイスであって、(基材層の上にまたはその一部として形成された)物理的要素の振動が、流体の物理的特性を監視するように構成されており、物理的要素が、懸架されたビームを備え、懸架されたビームが、ビームの長さまたは幅の両端において基材層に取り付けられており、振動が可能である、デバイスが提供される。物理的要素は、それを通って延びる少なくとも1つの導電経路を備え、懸架されたビームは、平面状で平らな形状を有し得る。平面状で平らな形状の実施例は、0.1~20mmの範囲の長さおよび幅と、長さまたは幅の5分の1未満の厚さと、を備え、要素の平坦さが、長さまたは幅の5分の1未満の表面粗さによって定義される、矩形形状であってもよい。代替の実施形態では、物理的要素は、非矩形形状であってもよい。電流を介した作動信号が、物理的要素と交差する磁束線を有する磁場の存在下で物理的要素を通過するとき、物理的要素で振動が誘起される。一定の磁場では、時間的に変化する電流を介して電場が、物理的要素を通る少なくとも1つの導電経路に印加/注入されると、物理的要素で振動が誘起される。代替的に、時間的に変化する磁場の存在下で物理的要素を通して一定の電場を印加することを使用して、物理的要素で振動を誘起することもできる。また、電場および磁場の相対的な方向は、特定のタイプの振動を対象とし、物理的要素の(振幅、周波数などといった)振動特性を制御することができる。振動は、振動周波数の近傍の周波数の範囲内で、物理的要素を通る少なくとも1つの導電経路内において、検出信号、すなわち、電磁誘起によって誘起される電圧または電流を測定することによって監視される。本発明のいくつかの実施形態では、作動信号および検出信号は、物理的要素を通る同じまたは独立した導電経路にわたって印加および測定される。代替的に、光学方法、圧電方法、熱的方法などを含むが、これらに限定されない、他の方法を使用して、振動を監視することができる。
【0033】
物理的要素で誘起される振動は、物理的要素の共振周波数または非共振周波数のいずれかであってもよい。本発明のいくつかの実施形態では、時間的に変化する作動信号の周波数が物理的要素の共振の固有周波数または基本周波数のうちの1つ以上に対応する場合、対応する振動モードが物理的要素で誘起される。本発明の他の実施形態では、時間的に変化する作動信号の周波数は、固有共振周波数または基本共振周波数のうちの1つ以上の1つ以上の高調波に対応する。共振振動特性は、物理的要素、すなわち、懸架されたビームであって、ビームの長さの両端において基材層に取り付けられている、懸架されたビームの物理的な寸法構造および材料に依存して変化し得、特定の振動の周波数を対象とすることができる。
【0034】
例えば、懸架されたビームは、平らな矩形であってもよい。矩形ビームの長さlおよび幅wを考慮すると、物理的要素の共振の2つの特定の周波数を、長さ方向および幅方向に沿って、それぞれ設計することができ、共振周波数の大きさを、対応する長さlおよびwによって制御することができる。本発明のいくつかの実施形態では、振動の共振周波数は、物理的要素の振動の面内モードおよび面外モードに対応し得る。本発明のいくつかの実施形態では、物理的要素で誘起された振動の共振特性は、共振振動周波数の近傍の周波数の範囲で誘起された検出信号を監視することによってコンピュータ処理され得る。物理的要素の測定可能または定量化可能な振動特性には、振動振幅、位相、周波数、および品質因子が含まれるが、これらに限定されない。本発明のいくつかの実施形態では、作動信号は、第1の共振振動に対応し得、第1の共振振動は、第2の共振振動または非共振振動に結合し、物理的要素において誘起される両方の振動モードをもたらす。この場合、検出信号は、誘起された振動周波数のいずれかまたは両方の近傍で測定され得る。
【0035】
本発明の別の実施形態では、物理的要素の振動は、物理的要素が位置する基材を、(i)圧電ベースの機械場、(ii)静電容量場、(iii)電磁場、および(iv)熱励起場から選択される、1つの励起場または励起場の組み合わせを使用する、バイブレーションを誘起するアクチュエータと結合、インターフェース、または接触させることによって誘起され得る。本発明のいくつかの実施形態では、物理的要素は、それを通って延びる少なくとも1つの導電経路を備え、少なくとも1つの導電経路は、熱抵抗器、圧電抵抗器などといった限定された導電率を有する要素を含み得る。例えば、圧電水晶(PZT)振動器は、基材層に物理的に貼着され得、PZT振動器は、特定の振動周波数で物理的要素の振動を誘起するように駆動され得る。PZT振動器が物理的要素の共振の固有周波数または基本周波数(もしくはこれらの高調波)のうちの1つに対応する周波数で駆動されると、対応する振動モードが励起される。平面状で平らな懸架されたビームを含み得る物理的要素の幾何学的形状および材料性質は、物理的要素の共振の固有周波数または基本周波数が特定の値または1Hz~1MHzなどの周波数の所与の範囲内になるように構成され得る。PZTは、上述の周波数で作動すると、物理的要素の共振振動を誘起する。
【0036】
別の実施形態は、物理的要素と、1つ以上の隔離された静止電極(物理的要素に繋がれた基材層から有限の距離に位置する)との間に静電容量場を印加して、振動を誘起することを伴う。静電容量場は、物理的要素を通って延びる導電経路と1つ以上の静止電極との間に時間的に変化する電圧信号を印加することによって設けることができる。物理的要素の固有周波数または基本周波数(もしくはこれらの高調波)で時間的に変化する電圧を印加すると、物理的要素の共振振動を誘起することができる。
【0037】
さらに別の実施形態では、物理的要素を通って延びる導電経路の一部として熱抵抗器が提供されている。共振周波数または非共振周波数での物理的要素の振動は、物理的要素を通って延びる導電経路を電流が通過するときに抵抗器を加熱することによって誘起され得る。時間的に変化する電流信号を印加することにより、定常振動または過渡振動が物理的要素で誘起され得る。
【0038】
本発明の別の実施形態では、物理的要素で誘起された振動は、振動に起因して生じる、(i)圧電ベースの電場、(ii)静電容量場、(iii)電磁場、(iv)熱場、および(v)光学場検出から選択される、1つの検出場または検出場の組み合わせによって検出される。例えば、基材に貼着された圧電結晶(PZT)振動器を使用して、物理的要素で振動を誘起する場合、振動特性は、物理的要素で励起された振動周波数の近傍の周波数範囲におけるPZTの電気入力特性を測定することによって、監視され得る。
【0039】
代替的に、物理的要素を通って延びる導電経路の一部として、物理的要素の振動に起因する抵抗の変化を呈する1つ以上の圧電抵抗器を提供することができる。振動は、ホイートストンブリッジ回路の一部として圧電抵抗器を組み込み、物理的要素で励起された振動周波数の近傍の周波数範囲のブリッジ電圧を測定することによって、監視され得る。
【0040】
さらに別の代替案では、物理的要素を通って延びる導電経路の一部として、物理的要素の振動に起因する温度の変化を測定することができる1つ以上の熱抵抗器が提供されている。熱抵抗器は、温度の変化に伴って電圧を誘起する能力を有する焦電材料で作製され得る。物理的要素の振動は、物理的要素で励起された振動周波数の近傍の周波数範囲内での抵抗器の両端における電圧の変化を測定することによって、監視され得る。
【0041】
さらに別の代替案では、光学センサモジュールを使用して、物理的要素に光学信号を誘導し、光検出器を使用して反射または透過された光学信号を監視する。物理的要素で励起された振動周波数の近傍で光検出器の出力信号を測定することにより、物理的要素の振動を監視することができる。代替的に、物理的要素を通って延びる導電経路の一部として、光検出器モジュールを物理的要素の上に組み込むことができる。光学信号が光検出器に誘導される場合、物理的要素の振動は、物理的要素で励起された振動周波数の近傍の周波数範囲で光検出器の出力の変化を測定することによって、監視され得る。
【0042】
本発明のいくつかの実施形態では、1つ以上の物理的要素(すなわち、懸架されたビーム)は、チャンバの上に位置し、チャンバは、流体サンプルを受容および保持するのに適した内部容積を画定し、1つ以上の懸架されたビームは、作動信号を印加すると振動するように構成されている。
【0043】
本発明のいくつかの実施形態では、チャンバの内部容積は、流体性質測定が実施される前に、所定の位置に流体サンプルを受容し、保つように構成されている。チャンバは、チャンバの上の少なくとも1つの層(基材層)およびチャンバの下の少なくとも1つの層(底層)が存在するように、複数の層によって形成されており、それにより、1つ以上の物理的要素(基材層に繋がれている)は、流体サンプルと物理的に接触することができる面を有する。チャンバの上の最低でも1つの基材層(1つ以上の物理的要素に繋がれている)およびチャンバの下の最低でも1つの底層を使用することにより、物理的要素センサのうちの1つ以上の面と、チャンバ内の流体との間の接触を確保しながら、チャンバを画定するのに必要な最小数の層を使用する(したがって、コストを低減する)ことを含むが、これに限定されない、利点が可能になる。基材層は、基材層に繋がれた1つ以上の物理的要素の面外振動であって、その間に物理的要素が平行な構成から変形する、面外振動の範囲を除いて、チャンバの下の層に対して概して平行であってもよい。本発明の別の実施形態では、チャンバの上面は、1つ以上の物理的要素が繋がれている、基材層の少なくとも一部分からなる。チャンバ内に導入されると、流体サンプルは、1つ以上の物理的要素と接触し、1つ以上の物理的要素の下、およびチャンバの底部の上の領域の近傍において少なくともある容積を占める、物理的要素の振動に影響を及ぼす。さらに、物理的要素のうちの1つ以上への1つ以上の流体アクセス経路を画定するために、流体サンプルはまた、1つ以上の物理的要素に向かって、および/または1つ以上の物理的要素から離れる方向に通じる基材層の領域の下のチャンバ内のさらなる容積を占め得る。本発明のさらに別の実施形態では、チャンバ内への流体の流れは、懸架されたビーム(すなわち、物理的要素)の長さに沿って誘導され、ビームの下およびチャンバの底部の上の領域の少なくとも近傍においてある容積を占める。本発明のさらに別の実施形態では、懸架されたビームの下側およびチャンバの底面の表面湿潤性質(例えば、接触角)に依存して、一旦導入されると、流体は、ビームの長さに沿って、ビームの下およびチャンバの底部の上の領域の少なくとも近傍においてある容積を占めることができ、この領域は、流体湿潤相互作用に基づいて、懸架されたビームの幅以内または幅以上のいずれかである。例えば、上記領域は、懸架されたビームの幅以上である場合、ビームの幅の1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、2、3、4、5、6、7、8、9、または10倍以内であってもよい。別の実施例では、上記領域は、懸架されたビームの幅以内である場合、ビームの幅の0.01、0.05、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、または1倍以内であってもよい。これらの実施形態は、流体が物理的要素(すなわち、懸架されたビーム)の下およびチャンバの底部の上の領域の少なくとも近傍においてある容積を占めている状態で、検査するために必要とされる流体容積を低減し、流体に曝露されるデバイス(すなわち、懸架されたビーム)の表面積を最大化することによって流体の物理的性質を測定することに対するデバイスの感度を改善すること、および流体とチャンバの他の領域との間の意図しない相互作用を回避することを含むが、これらに限定されない、利点を可能にする。
【0044】
流体サンプルがチャンバ内に存在する場合、物理的要素の面が、その下のチャンバ内の流体サンプルと接触しているため、物理的要素の振動に対する効果(例えば、減衰)を使用して、粘度、粘弾性、および密度など、流体の1つ以上の物理的性質を決定することができる。本発明のいくつかの実施形態では、物理的要素で誘起される振動は、非共振周波数であり得る。物理的要素の測定可能または定量化可能な振動特性には、振動振幅、位相、周波数、および品質因子が含まれるが、これらに限定されない。すべての共振デバイスにおいて、品質因子は、周囲に影響され、共振系の品質因子は、接触している媒体の粘度、粘弾性、および密度に応じて変化する。振動要素の振幅は、流体の粘度に比例し、低い粘度の流体と接触している場合、要素は、高い粘度の流体と接触している場合と比較して、固有周波数または基本周波数に近い、狭い周波数範囲にわたって、はるかに高い振幅で振動する。物理的要素の近傍への流体サンプルの導入は、物理的要素の振動特性を減衰させ、振幅、位相、周波数、および/または品質因子を変化させ、流体の粘度、粘弾性、および密度を示す。本発明のいくつかの実施形態では、物理的要素を通る導電経路は、チャンバ内の流体媒体の温度を制御するための、例えば、1つ以上の抵抗トラックヒータを含むが、これに限定されない、1つ以上の加熱要素、および/またはチャンバ内の流体媒体の温度を監視するための1つ以上の検知要素を備える。本発明のいくつかの実施形態では、1つ以上の加熱要素および/または1つ以上の検知要素を備える1つ以上の導電経路は、チャンバ内の流体媒体の温度を、それぞれ制御および監視するように、チャンバの下の層の上に配置され得る。
【0045】
本発明のいくつかの実施形態では、物理的要素が、凝固につながる反応を受け得る生物学的流体と接触している場合、振動要素は、流体サンプルが凝固するにつれて、流体サンプルの粘度または粘弾性が増加することによってさらに減衰される。この減衰効果を、周期的に(すなわち、2つ以上の時点で)測定して、時間の関数として、体液の凝固を決定することができる。本発明のいくつかの実施形態では、生物学的流体には、全血または血漿が含まれる。いくつかの実施形態では、血液凝固は、負に荷電した基材との物理的接触によって、または血液凝固を誘起する化合物、例えば、トロンボプラスチンの添加によって惹起され、血液血餅の形成までの時間は、プロトロンビン時間(PT)、部分トロンボプラスチン時間(PTT)、活性化された凝血時間(ACT)などといった血液検査の一部として正確に決定され得る。いくつかの実施形態では、物理的要素の振動減衰を使用して、周期的に(すなわち、2つ以上の時点で)血液の粘弾性を監視することができ、対応する粘弾性パラメータを、トロンボエラストグラム(TEG)などの血液検査の一部として、正確に決定することができる。他の実施形態では、測定された血液粘弾性パラメータを使用して、血液中の1つ以上の抗凝固剤の存在を検出すること、血液中の2つ以上の抗凝固剤を区別すること、および/または血液中の1つ以上の抗凝固剤の濃度を決定することができる。他の実施形態では、測定された血液粘弾性パラメータを使用して、血液凝固因子(例えば、フィブリノーゲン、トロンビン)および/または血液成分(例えば、赤血球、血小板)の存在を検出すること、これらの濃度を測定すること、および/またはこれらの活性を測定することができる。他の実施形態では、測定された血液粘弾性パラメータを使用して、血液血餅に特異的な特性(例えば、血餅硬度、線維素溶解)を決定することができる。
【0046】
前に論じられるように、流体特性は、物理的要素の振動特性から決定され得る。代替的に、物理的要素、ならびに基材および底層によって形成されたチャンバからなる構造全体を、対応する共振周波数または非共振周波数で振動させて、流体密度などの流体特性を決定することができる。一旦チャンバ内に導入されると、流体の追加の質量が、構造全体の振動を減衰させ、その後、振動振幅、周波数、およびQ因子などの測定可能な振動特性の低減を示す。
【0047】
面内バイブレーション
流体の粘度および粘弾性を測定する1つの方法は、流体を、固定された平行なプレートまたは平面構造と、移動可能な平行なプレートまたは平面構造との間に閉じ込めることと、移動可能な平面構造が、それ自体の平面内で、固定された平面構造に対して一定の速度で移動するときに経験する抗力を監視することと、を伴う。流体は、流体に剪断ひずみをもたらす真の剪断応力を経験し、流体の粘度および粘弾性は、流体が経験するひずみに対する印加応力の比によって決定されるようにコンピュータ処理される。
【0048】
水晶厚さ剪断モード共振器(TSM)および表面音響波(SAW)デバイスのような小型化されたマイクロ音響センサが、従来の粘度計の代替として首尾よく使用されているが、これらのデバイスは、比較的高い周波数および小さな振動振幅で粘度を測定する。これらのセンサによって励起される剪断波の侵入深さ
は(高い周波数に起因して)小さいため、デバイスに近い液体の薄膜のみがプローブされる。加えて、侵入深さが小さいため、これらのセンサは、複合流体または非ニュートン流体中の粒子(サイズ>δ
s)の存在および効果を検出することができず、流体の連続相の粘度のみを測定することができる。最後に、これらのセンサの振動振幅が小さいほど、測定感度が低くなる。
【0049】
本発明によるデバイスおよび方法では、物理的要素は、懸架されたビームが面内振動に対応するバイブレーションの少なくとも1つの固有周波数または基本周波数を有するように構成され得る。流体サンプルが導入され、流体と接触する物理的要素の下に位置するチャンバ内に拘束されている場合、物理的要素で誘起される振動は、流体に真の剪断応力を印加する。流体が経験する剪断速度および剪断応力にさらに変換され得る、物理的要素のバイブレーション特性を測定することによって、流体の粘度および粘弾性を決定することができる。本発明のいくつかの実施形態では、物理的要素の面内振動を、流体密度に敏感であるように調整することができ、ひいては、流体密度を、振動特性の減衰から決定することができる。本デバイスおよび方法論は、流体サンプル中の流体の粘度、粘弾性、および/または密度の絶対値ならびに瞬時値の高精度測定を提供する。
【0050】
本発明の1つの実施形態では、物理的要素の幾何学的設計、構造、および材料性質に基づいて、振動周波数は、数十キロヘルツ以下(例えば、30、25、20、15、10、5、4、3、2、または1kHz以下)の範囲内など、比較的低くなり、その結果、問題の流体への剪断侵入深さが比較的大きくなる場合がある。また、より高い振動振幅を達成し、流体粘度に対するより高い感度をもたらすことができる。本発明の別の実施形態では、物理的要素は、少なくとも2つの面内振動モード、1つは低周波数(上記参照)、もう1つは高周波数(例えば、30kHz超)を有し、それに伴って、大きな剪断侵入深さと、小さな剪断侵入深さと、をそれぞれ備える、2つの別個の振動モードを有することができる。非ニュートン流体を含む、別個の成分/添加剤を備える流体では、別個の成分/添加剤のサイズよりも小さい剪断侵入深さに対応する振動を使用して、連続相に対応する流体粘度を決定することができ、別個の成分/添加剤のサイズよりも大きい剪断侵入深さを使用して、流体のバルク粘度を決定することができる。本発明のいくつかの実施形態では、別個の成分/添加剤のサイズは、0.5~500μmの範囲の数字であり得る。「サイズ」とは、標準的なデカルト座標に沿って測定された流体力学的直径または物理的な最大寸法を指し得る。これらの2つの面内振動モードを、物理的要素において同時または順次に誘起し、それにより、複合流体または非ニュートン流体の連続相およびバルク相の粘度の測定を可能にすることができる。本発明のいくつかの実施形態では、物理的要素で誘起されるバイブレーションの振幅を、作動の振幅を増加させることによって制御し、結果として、流体に印加される剪断速度
を制御することができる。電磁作動が用いられる、本発明のいくつかの実施形態では、バイブレーションの振幅を、導電経路および/または印加される磁場を通る電流の大きさを変更することによって、変更することができる。したがって、異なる剪断速度での流体粘度を、複合流体または非ニュートン流体について決定することができる。
【0051】
いくつかの実施形態では、デバイスは、物理的要素の振動が、閾値の値よりも小さい第1の剪断侵入深さを有する流体サンプル中の第1の音響場を誘起するように構成され得、閾値の値は、0.5ミクロン~500ミクロンの範囲であり、第2の振動周波数での振動は、閾値の値よりも大きい第2の剪断侵入深さを有する流体サンプル中の第2の音響場を誘起する。いくつかの実施形態では、第1および第2の剪断侵入深さは、0.5、1、2、3、4、5、10、15、20、25、もしくは30ミクロン以上の値、または0.5~1、1~2、2~3、3~4、4~5、5~10、10~15、15~20、20~25、もしくは25~30ミクロンの範囲の値であってもよい、少なくとも最小量だけ異なる。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態では、血液などの生物学的流体がチャンバ内に導入される場合、2つの面内振動モードは、サンプル中の別個の成分を形成する赤血球の平均サイズよりも大きいか、または小さい侵入深さを有し得る。本発明のいくつかの実施形態では、2つの面内振動モードは、赤血球のサイズの下限に対応する、5μmよりも大きいか、または小さい侵入深さを有し得る。本発明のいくつかの実施形態では、2つの面内振動モードは、赤血球のサイズの上限に対応する、10μmよりも大きいか、または小さい侵入深さを有し得る。上で論じられるように、2つの面内振動モードを使用して、血液サンプルの血漿(連続相)および全血(バルク相)の粘度を同時または順次に測定することができる。本発明のいくつかの実施形態では、血液などの体液がチャンバ内に導入される場合、2つの面内振動モードは、サンプル中の別個の成分を形成する、血小板の平均サイズよりも大きいか、または小さい侵入深さを有し得る。本発明のいくつかの実施形態では、2つの面内振動モードは、血小板のサイズの下限に対応する、2μmよりも大きいか、または小さい侵入深さを有し得る。本発明のいくつかの実施形態では、2つの面内振動モードは、いくつかの巨大分子または巨大分子アセンブリのサイズに対応する、0.5μmよりも大きいか、または小さい侵入深さを有し得、サイズは、分子の流体力学的直径によって定義される。
【0053】
本発明によるデバイスのチャンバは、流体サンプルを受容および保持するのに適した内部容積を画定し、流体と接触する少なくとも1つの物理的要素に繋がれた、チャンバの上に位置する基材層からなり、基材層は、懸架されたビームの運動または振動を可能にする方法で配置される。運動または振動は、妨害を受けない方法、すなわち、振動中に横断する空間の範囲のいずれかを占める方法で生じ得、物理的要素の他の固体材料との衝突または接触をもたらさない。明確にするために、「妨害を受けない」とは、「まったく抵抗がない」ことを意味するものではなく、流体は、存在する場合、振動に対するある程度の抵抗または減衰を提供し、ビーム構造は、懸架されたビームがその静止位置から変位したときに復元力を提供することができ、流体による抵抗の存在、ビーム構造による復元力などは、本明細書で使用される「妨害を受けない」運動または振動と完全に一致する。チャンバは、(基材層に繋がれた)物理的要素が、チャンバ内の流体サンプルと物理的に接触することができる面を有するように、チャンバの上および下にそれぞれ位置付けられた基材層および底層によって画定され、基材層は、1つ以上の物理的要素を備えるように、形成され得るか、パターン化され得るか、または別様に組み立てられ得るか、もしくは構築され得る。本発明のいくつかの実施形態では、基材層は、物理的要素がチャンバの上に位置付けられ、それにより、基材の運動が物理的要素のみに効果的に制限される面積を除き、すべての面積において中間層によって底層に貼着される。本発明のいくつかの実施形態では、チャンバは、デバイス内の複数の層の一部として、同じ基材または複数の基材内に複数の物理的要素を含み得る。
【0054】
本発明の別の実施形態では、振動が物理的要素(すなわち、懸架されたビーム)で誘起されると、剪断波場が、チャンバ内に保持された流体で誘起される。デバイスは、底層と、基材層に繋がれた物理的要素との間の距離(D)が、振動中に底層と懸架されたビームとの間の流体媒体で誘起される定常剪断波場(standing shear-wave field)を有するように構成されるように、構成され得る。一貫した信頼性のある定常剪断波場を誘起させるために、距離Dは、振動の剪断侵入深さ
以下であってもよい。例えば、流体媒体が、1gm/ccの密度および1cPの粘度、ならびに1kHzの振動周波数を有する水である場合、距離Dは、δ
s=17.84μm以下でなければならない。物理的要素の下のチャンバ内の流体媒体で誘起される場の剪断波長(λ
s)に対する距離Dの比が低いほど、流体媒体中に設けられる音響場の一貫性および均一性が高くなり、
である場合、式中、δ
sは、剪断侵入深さ
であり、δ
lは、流体媒体の損失正接角である。
【0055】
距離Dは、取り囲む媒体の性質に依存して、調節可能であり得るか、または恒久的に固定され得る。本発明のいくつかの実施形態では、距離Dは、物理的要素を備える基材層と底層との間の中間層によって調節され得る。中間層は、中間層の厚さが、厚さ方向にデバイスに圧縮を加えることによって変化し得るように、発泡体、高分子基材などといった可撓性材料からなり得る。圧縮圧力は、流体サンプルに依存して測定前にオフラインで加えられ得るか、または流体で誘起される定常剪断波場を監視するのと同時に、検査対象の流体がチャンバ内に導入された状態で、リアルタイムで加えられ得る。本発明のいくつかの実施形態では、距離Dは、自動化されたアセンブリを使用して、底層を物理的要素の近くに、もしくは物理的要素から離れてより遠くに物理的に移動させるか、またはその逆を行い、続いて、チャンバを形成するために、物理的要素を含む基材層と底層との間の物理的要素の周りの領域を充填することによって、調節され得る。充填材料は、エポキシなどを含むが、これに限定されない、流体から固体へと流れ、状態を変化させることができるものであり得る。本発明のいくつかの実施形態では、物理的要素とチャンバ壁との間に閉じ込められた流体に設けられた音響場を使用して、流体の粘度だけでなく、その粘弾性性質も決定することができる。また、振動する物理的要素に近い固定されたチャンバ壁の存在は、ゲル形成中の時間の関数としての流体の物理的性質の変化を高い精度で監視するためのさらなる利点を提供する。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態では、血液などの生物学的流体がチャンバ内に導入され、凝固反応を受ける場合、物理的要素とチャンバ壁との間に形成される血液血餅を使用して、血液血餅の粘弾性性質をコンピュータ処理することができる。本発明のいくつかの実施形態では、凝固を受けている血液の粘弾性性質を、時間の関数として監視することができ、対応する粘弾性パラメータを、トロンボエラストグラム(TEG)などの血液検査の一部として、正確に決定することができる。他の実施形態では、測定された血液粘弾性パラメータを使用して、血液中の1つ以上の抗凝固剤の存在を検出すること、血液中の2つ以上の抗凝固剤を区別すること、および/または血液中の1つ以上の抗凝固剤の濃度を決定することができる。他の実施形態では、測定された血液粘弾性パラメータを使用して、血液凝固因子(例えば、フィブリノーゲン、トロンビン)および/または血液成分(例えば、赤血球、血小板)の存在を検出すること、これらの濃度を測定すること、および/またはこれらの活性を測定することができる。他の実施形態では、測定された血液粘弾性パラメータを使用して、血液血餅に特異的な特性(例えば、血餅硬度、線維素溶解)を決定することができる。
【0057】
面外バイブレーション
本発明の別の実施形態では、懸架されたビーム(すなわち、物理的要素)は、面外振動に対応するバイブレーションの少なくとも1つの固有周波数または基本周波数を有し得る。流体サンプルが導入され、チャンバ内に拘束され、物理的要素がチャンバの上に位置し、流体と接触すると、懸架されたビームの振動特性が減衰される。流体の密度は、振動振幅、位相、周波数、および品質因子を含むが、これらに限定されない、振動特性を監視することによって決定され得る。流体サンプルをチャンバに添加する際、振動特性を、それぞれの特性の変化として測定することができる。加えて、物理的要素の面外振動を、流体密度に敏感であるように調整することができ、ひいては、流体密度を、振動特性の減衰から決定することができる。本発明のいくつかの実施形態では、測定された流体密度を使用して、流体中の少なくとも1つの別個の成分/添加剤の濃度を識別することができる。別個の成分/添加剤は、例えば、巨大分子、巨大分子複合体(例えば、細胞骨格フィラメント)、赤血球、血小板、粒子、または固相物体であり得る。本発明のいくつかの実施形態では、物理的要素の振動は、物理的要素の同じまたは異なる共振振動モードを使用して、流体の連続相およびバルク相の密度を独立して測定するように構成され得る。
【0058】
本発明の別の実施形態では、物理的要素は、流体の連続相の粘度、バルク粘度、および密度の測定を可能にすることができる。本発明のいくつかの実施形態では、流体のバルク粘度の標準化された測定は、連続相、バルク相の粘度、流体密度、および別個の成分/添加剤の濃度(存在する場合)のうちの1つ以上の関数として決定され得る。さらに、時間の関数としての流体の静的または動的粘弾性性質は、様々な理論モデルまたは経験モデルを使用して、印加された異なる剪断速度での流体の測定された(または標準化された測定値の)粘度から決定され得る。例えば、回帰分析などの統計的方法によって、τ
yおよびkの値を決定するために、異なる剪断速度で測定されたバルク粘度を、
によって求められるCassonモデルと共に使用することができ、式中、τ
yは、流体の降伏応力であり、
は、流体に印加される剪断速度であり、kは、定数である。
【0059】
本発明の別の実施形態では、検査対象の流体がチャンバ内に導入された血液である場合、物理的要素を使用して、血液サンプルに曝露したときの血漿粘度(η
plasma、連続相)、全血粘度(η
WBV、バルク相)、および血液密度を測定することができる。測定された血液密度を使用して、サンプル中の赤血球またはヘマトクリット(Hct)の濃度を識別することができる。全血粘度は血漿粘度およびヘマトクリットに大きく依存するので、異なる個体の血液粘度の正常性または異常性を識別するために、血液粘度を固定ヘマトクリット(概して、0.45が使用される)に標準化または補正する必要がある。0.45の固定ヘマトクリットにおける標準化または補正された全血粘度の式は、以下によって求められ、
式中、η
WBV-0.45は、0.45のヘマトクリットにおける標準化または補正された全血粘度であり、η
WBV-Hctは、ヘマトクリットHctにおける全血粘度であり、η
plasmaは、血漿粘度である。
【0060】
本発明の別の実施形態では、物理的要素を含む基材層と共にチャンバを使い捨て検査ストリップに組み込むことができる。チャンバは、基材層内の1つ以上の物理的要素をチャンバの上に懸架するように組み立てられ、下のチャンバ内の流体サンプルと物理的に接触することができる面を有する一方、基材層の別の部品は、検査ストリップを形成するように積み重ねられた複数の層の一部として、チャンバの下の底層に貼着される。さらに、チャンバは、その壁を、毛細管を形成するように一緒に緊密に位置付けるために、パターン化/形成された複数の層からなる場合がある。チャンバの表面を作り出すように選択される材料は、チャンバを毛細管作用によって充填することができる低い表面張力および/または接触角(例えば、45度以下)を提供するように選択され得る。これらの材料が選択されるのは、当該材料が、反応を妨げることなく液体充填を強化するためである。かかる材料の例は、当業者には広く知られているであろう。本発明のいくつかの実施形態では、チャンバの基材層および底層は、電気化学分析を実施するため、ならびに/またはチャンバ内の流体中の分析物および/もしくは流体自体の存在を検出するための導電経路を含むが、これらに限定されない、複数の成分を備え得る。本発明のいくつかの実施形態では、導電経路を使用して、チャンバ内に導入された血液サンプル中の糖レベルの電気化学的検出を実施することができる[13]。本発明のいくつかの実施形態では、基材層および底層は、それぞれ上記チャンバの温度を制御および監視するための、抵抗トラックヒータなどの1つ以上の加熱要素および/または1つ以上の温度センサを含む、導電経路をさらに備え得る。
【0061】
いくつかの実施形態では、流体サンプルを、流体サンプルがその添加直後に化学反応を受け始めるチャンバ内に導入することができる。例えば、サンプルが存在するやいなやサンプルと反応する薬剤をチャンバが含有することができるか、サンプルが存在するやいなやサンプルに薬剤を添加することができるか、またはチャンバの表面のうちの1つ以上が、流体サンプル中の反応を促進または触媒することができる。検査ストリップの内側に入れられたチャンバ内に流体が導入され、拘束されると、物理的要素の振動特性(振幅、位相、周波数、Q因子などを含むが、これらに限定されない)は、概して、化学反応に起因してさらなる変化が起こる前に、一時的に安定し、流体の物理的特性の迅速な決定を可能にする。センサの高速応答時間により、流体サンプルがチャンバ内に導入された時間の正確な識別を可能にすることもできる。
【0062】
物理的要素を備える基材層は、任意の好適な不活性材料から作製することができ、とりわけ、ポリエステル(PET)、プラスチックなどといったポリマーから選択することができる。基材層は、ロールツーロール連続フロー製造を含むが、これらに限定されない、大量製造方法を使用して製作され得る。物理的要素は、基材層のエッチング、レーザー処理、または機械式パンチング(例えば、ダイを使用する)によって形成またはパターン化され得る。物理的要素を通る導電経路は、プリント回路板の場合などの回路を形成する基材層上のパターン化された導電経路によって作製され得る。導電回路は、任意の好適な導電材料のものであってよく、導電性のポリマーまたはインク、金、白金、銅、または銀から選択され得るが、これらに限定されない。導電経路は、レーザーアブレーションなどのいくつかの方法によって、またはスクリーン印刷もしくはインクジェット印刷によってパターン化することができる。さらに、導電経路を、導電経路への絶縁層の堆積によって流体から絶縁することができるか、または物理的要素を備える基材層内に導電層を埋め込むことができる。
【0063】
本発明のいくつかの実施形態では、導電経路を流体に曝露することにより、電気化学的分析、ならびに/またはチャンバ内の流体中の分析物および/もしくは流体自体の存在の検出を可能にすることができる。本発明のいくつかの実施形態では、導電経路を使用して、チャンバ内に導入された血液サンプル中の糖レベルの電気化学的検出を実施することができる。導電経路は、物理的要素を通る閉じた電気経路を形成するのに役立つであろう。本発明のいくつかの実施形態では、物理的要素を備える基材は、物理的要素を通る導電経路の追加の機能の目的にも役立つ、実質的または完全に金属の材料で作製され得る。
【0064】
他の実施形態では、物理的要素は、実質的に金属ではない。例えば、物理的要素の金属含有量は、50重量もしくは容量%、40重量もしくは容量%、30重量もしくは容量%、20重量もしくは容量%、10重量もしくは容量%、5重量もしくは容量%、または1重量もしくは容量%未満であってもよい。物理的要素が実質的に金属ではないデバイスの構成により、有益な性質を提供することができる。例えば、基材は、ポリエステルで作製され得、導電経路は、導電インクをポリエステル基材上に印刷することによって形成され得る。実質的に金属ではない物理的要素の使用は、ポリエステル基材および導電経路の幾何学的形状を独立して制御することを可能にし、結果として、要素が実質的に金属であった場合よりも、物理的要素の振動特性についてより細かく制御することを可能にする。さらに、可撓性のポリエステルは、大量のロールツーロール連続フロー製造プロセスと互換性があり、これは、例えば、使い捨て検査ストリップの一部としての基材層の費用対効果の高い製造にとって有益な場合がある。
【0065】
本発明のいくつかの実施形態では、上に物理的要素が配置される基材層を、ポリエステルのシートをレーザー切断することによってパターン化することができ、その上において、導電経路を特定のパターンで印刷して、物理的要素を通して導電性を提供する。銀インクおよびパラジウムインクを含むが、これらに限定されない、導電インクを、基材層上に導電経路を印刷するために使用することができる。
【0066】
特定の実施形態では、使い捨てストリップ上に一連のエッジコネクタを提供することにより、検査計と物理的要素との間の直接的な接触または接続を可能にすることができる。導電回路のさらなる目的は、エッジコネクタによって提供される接点を橋絡することによって、流体サンプルを受容する準備ができている状態でデバイスを起動することであろう。代替的に、物理的要素は、音響波振幅反射、光ビーム、または無線周波数などの非接触手段によって励起および/または監視され得る。検査ストリップの個別の層は、検査ストリップの組み立て後に、それらのサイズおよび/または外周表面に対するさらなるトリミングまたは調節が必要とされないように、製作および整列され得る。代替的に、複数の検査ストリップを、検査ストリップの個別の層を製作し、整列させることによって、同時に生み出し、組み立て後に、個々の使い捨て検査ストリップの所望のサイズおよび形状にトリミングすることができる。
【0067】
本発明の別の実施形態では、検査対象の流体は、生物学的流体、特に血液である。チャンバは、チャンバ内の血液サンプルの凝固を誘起するのに適した量の少なくとも1つの血液凝血剤を含む1つ以上の試薬を備え得る。本発明のいくつかの実施形態では、試薬は、チャンバ内に乾燥形態で存在する。試薬は、ストリップの組み立て完了前または完了後に、チャンバに添加され得る。さらに、試薬は、チャンバの上に位置する基材層の物理的要素のチャンバに面する面の上に提供され得る。本発明のいくつかの実施形態では、試薬は、血液導入の前または後にチャンバに添加される。本発明のいくつかの実施形態では、試薬は、(ヘパリン、ワルファリンなどといった)抗凝固剤、粘度が変化する分子(デキストランなど)、および凝固を誘起し得る凝固因子分子のうちの1つまたはこれらの組み合わせからなる。概して、凝固因子分子には、第I、II、III、IV、V、VI、VII、VIII、IX、X、XI、XII、XIII因子、フォンウィレブランド因子、プレカリクレイン、高分子量キニノーゲン、フィブロネクチン、アンチトロンビンIII、ヘパリン副因子II、プロテインC、プロテインS、プロテインZ、プロテインZ関連プロテアーゼ阻害剤、プラスミノーゲン、アルファ2-アンチプラスミン、組織プラスミノーゲン活性化剤(tPA)、ウロキナーゼ、プラスミノーゲン活性化剤阻害剤-1(PAI1)、プラスミノーゲン活性化剤阻害剤-2(PAI2)、およびがんプロコアグラントを含むが、これらに限定されない、血液凝固の促進または阻害のいずれかを行う、天然に存在する化合物または合成化合物が含まれる。概して、「粘度が変化する分子」には、チャンバ内に存在する血液中に導入されると、血液の粘度を少なくとも0.001cP変化させる化合物が含まれる。他の実施形態では、上述の試薬は、チャンバ内に導入されるときに流体中に存在し得、必ずしもそのままでデバイス中に存在する必要はない。例えば、試薬は、血液を供給した個体に投与した結果として血液サンプル中に存在し得る。別の実施形態では、デバイスは、試薬のうちの1つ以上が1つ以上のチャンバ内に提供される複数のチャンバを備え、少なくとも1つの基材を、チャンバの上に懸架された1つ以上の物理的要素と共に収容し、チャンバ内の流体と物理的に接触することができる面を有する。さらに、同じ血液サンプルを、デバイス内の異なるチャンバにつながる複数のマイクロ流体経路に誘導し、分割することができる。したがって、血液凝固は、同じ血液サンプル中のデバイスの別個の領域において誘起および監視され得る。
【0068】
本発明のいくつかの実施形態では、血液などの生物学的流体がチャンバ内に導入される場合、物理的要素の2つの面内振動モードは、サンプル中の別個の成分を形成する赤血球の平均サイズよりも大きいか、または小さい侵入深さを有し得る。本発明のいくつかの実施形態では、2つの面内振動モードは、赤血球のサイズのほぼ下限に対応する、5μmよりも大きいか、または小さい侵入深さを有し得る。2つの面内振動モードを使用して、血液サンプルの血漿(連続相)および全血(バルク相)の粘度を同時または順次に測定することができる。本発明のいくつかの実施形態では、血液などの生物学的流体がチャンバ内に導入される場合、2つの面内振動モードは、サンプル中の別個の成分を形成する、血小板の平均サイズよりも大きいか、または小さい侵入深さを有し得る。本発明のいくつかの実施形態では、2つの面内振動モードは、血小板のサイズの下限に対応する、2μmよりも大きいか、または小さい侵入深さを有し得る。本発明のいくつかの実施形態では、2つの面内振動モードは、いくつかの巨大分子および/または巨大分子複合体のおよそのサイズに対応する、0.5μmよりも大きいか、または小さい侵入深さを有し得る。先に論じたように、2つの侵入深さは、少なくとも最小量、または所与の範囲内の量だけ異なり得る。
【0069】
本発明の別の実施形態では、検査対象の流体がチャンバ内に導入される血液である場合、物理的要素は、血液サンプルに曝露したときの血漿粘度(ηplasma、連続相)、全血粘度(ηWBV、バルク相)、および血液密度を測定するように構成されている。測定された血液密度を使用して、サンプル中の赤血球またはヘマトクリット(Hct)の濃度を識別することができる。全血粘度は血漿粘度およびヘマトクリットに大きく依存するので、異なる個体の血液粘度の正常性または異常性を識別するために、血液粘度を固定ヘマトクリット(概して、0.45が使用される)に標準化または補正する必要がある。
【0070】
本発明のいくつかの実施形態では、生物学的流体は、血液または血漿からなり、凝固は、負に荷電した基材との物理的接触、またはトロンボプラスチンおよびカオリンを含むが、これらに限定されない、血液凝固を誘起する化合物への曝露によって惹起され得る。したがって、トロンボプラスチンなどの血液凝固を誘起する化合物は、血液または血漿の添加前を含む、本発明によるデバイス内に存在し、本発明による方法で使用され得る。代替的に、トロンボプラスチンなどの血液凝固を誘起する化合物は、チャンバへの挿入前もしくは挿入後に、血液または血漿に添加され得る。サンプルの血漿、全血粘度、粘弾性、および/または密度を、凝固反応の前、間、および/または後に監視することができる。さらに、血液血餅の形成までの時間は、プロトロンビン時間(PT)、部分トロンボプラスチン時間(PTT)、活性化された凝血時間(ACT)などを含むが、これらに限定されない、血液検査の一部として決定され得る。本発明のいくつかの実施形態では、血液などの生物学的流体がチャンバ内に導入され、凝固反応を受けると、物理的要素とチャンバ壁との間に形成された血液血餅を使用して、血液血餅の粘弾性性質を測定することができる。本発明のいくつかの実施形態では、凝固を受けている血液の粘弾性性質は、時間の関数として監視することができ、トロンボエラストグラム(TEG)などの血液検査を実施することができる。本発明のいくつかの実施形態では、測定された血液密度によって血液サンプル中のコンピュータ処理されたヘマトクリットを使用して、実施された上述の血液凝固検査(PT、PTT、ACT、TEGなど)を較正することができる。
【0071】
本発明のいくつかの実施形態では、血液などの生物学的流体がチャンバ内に導入され、凝固反応を受ける場合、基材層内の1つ以上の物理的要素における振動特性の減衰を使用して、凝血するときの血液のリアルタイムの粘弾性を決定することができる。物理的要素の測定可能または定量化可能な振動特性には、振動振幅、位相、周波数、および品質因子が含まれるが、これらに限定されない。本発明のいくつかの実施形態では、1つ以上の物理的要素の振動は、面内または面外のいずれかであってもよい。本発明のいくつかの実施形態では、振動が物理的要素の固有共振周波数または基本共振周波数(もしくはその高調波)に対応する場合、振動特性は、共振周波数の近傍の周波数の範囲における物理的要素の振動の作動および検出を行うことによって決定される。振幅および位相などのこれらの振動特性は、血液凝固カスケードの異なる態様を決定するために周期的に(すなわち、2つ以上の時点で)監視および記録することができる、共振周波数の近傍の周波数の関数(例えば、振幅対周波数、および位相対周波数スキャン)として測定され得る。時間と共に周期的に監視されるこれらの振動特性の周波数スキャンを使用して、トロンボエラストグラム(TEG)などの検査を実施することができ、特徴的なワイングラス形状の粘弾性曲線およびパラメータを抽出することができる。TEGのような粘弾性パラメータには、血餅形成時間(R)、活性化された凝血時間(ACT)、最大トロンビン発生(ThrombinPeak)、血餅硬度(G)、血小板収縮速度(Plt-Cont)、および線維素溶解速度(Lys-Rate)が含まれるが、これらに限定されない。本発明のいくつかの実施形態では、より小さな血餅がより速く形成されることを考慮すると、物理的要素のデバイスの高い感度および検査するために必要とされる低い血液サンプル容積に起因して、TEGのような曲線およびパラメータは、10分未満で抽出され得る。これにより、TEG曲線全体およびパラメータを発生させるために最大30~60分かかる市販のTEGシステム(例えば、HaemoneticsのTEG-5000、6s、およびInstrumentation LaboratoryのROTEM)に比べて大きな利点が得られる。本発明のいくつかの実施形態では、物理的要素の振動は高い周波数(例えば、数十、数百、または数千kHz程度)であり得るため、使い捨て検査ストリップを使用して実施される凝固検査測定は、周囲バイブレーション(例えば、周波数<100Hz)に反応しない。これにより、バイブレーションに敏感で、据え置き型である市販のシステムに比べて大きな利点が得られる。血液凝固カスケードに異なる動力学的プロセスを組み込む、物理的要素の粘弾性振動減衰の数理モデルを使用して、時間の関数として振動特性の周波数スキャンからのデータにフィットさせ、ひいては、閾値トロンビン発生時間(R)、プロトロンビナーゼまたは第Xa因子による触媒作用の速度(k2)、トロンビンまたは第IIa因子による触媒作用の速度(k1)、切断可能なフィブリノーゲンまたは第I因子の濃度(Cfibrinogen)、切断不可能なフィブリノーゲンまたは第I因子の濃度、血餅硬度(G)、血小板収縮速度(Plt-Cont)、および線維素溶解速度(Lys-Rate)を含むが、これらに限定されない、異なる止血パラメータの抽出を可能にすることができる。これらの測定された止血パラメータは、上述のTEGのような粘弾性パラメータを抽出するために使用され、血液凝固カスケード中の時間の関数として、異なる凝固因子(例えば、フィブリノーゲン、トロンビン)の濃度および活性、血液血餅に特異的な特性(例えば、血餅硬度G、線維素溶解速度Lys-Rate)、ならびに凝固に関与する異なる血液成分の活性/効果(例えば、血小板収縮速度Plt-Cont、赤血球またはヘマトクリットの効果)を監視することを可能にする。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態では、血液凝固カスケード中の時間の関数として切断されたフィブリノーゲンの濃度を監視し、それを(例えば、x軸が時間であり、y軸がフィブリノーゲン濃度である)時間軸を中心としてミラーリングすることによりプロットすることによって、TEG検査において通常出力されるワイングラス形状の粘弾性曲線の発生を可能にすることができる。代替的に、1つ以上の振動周波数における振動特性のうちの1つ(例えば、振幅)を時間の関数としてプロットし、時間軸を中心としてミラーリングして、典型的なTEGのような粘弾性曲線を発生させることができる。本発明の別の実施形態では、血液凝固カスケード中の時間の関数としてトロンビンの濃度を監視することにより、閾値トロンビン発生時間(例えば、血餅形成時間R)、最大トロンビン発生までの時間(例えば、ACT)、最大トロンビン濃度(例えば、ThrombinPeak)、および異なる時間の持続時間でのトロンビン発生曲線下の面積(例えば、内因性トロンビン生成能(ETP)の測定を可能にし、ひいては、トロンビン発生アッセイ(TGA)などの検査を実施するために使用することができる。本発明のさらに別の実施形態では、トロンビン濃度は、切断されたフィブリノーゲン濃度の増加の速度を監視することによって抽出することができる。本発明のさらに別の実施形態では、トロンビン濃度および/または閾値トロンビン発生時間もしくは血餅形成時間Rを監視して、ヘパリンおよび第Xa因子阻害剤(例えば、リバーロキサバン、アピキサバン)を含むが、これらに限定されない、血液中の1つ以上の抗凝固剤の存在を検出し、その効果を定量化することができる。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態では、血液凝固カスケード中の時間の関数として、血餅硬度Gなどの血液血餅に特異的な特性を監視し、それを(例えば、x軸が時間であり、y軸が血餅硬度Gである)時間軸を中心としてミラーリングすることによりプロットすることによって、TEG検査において通常出力されるワイングラス形状の粘弾性曲線の発生を可能にすることができる。本発明の別の実施形態では、血餅硬度Gを監視して、切断可能なフィブリノーゲンまたは第I因子および第XIIIa因子を含むが、これらに限定されない、1つ以上の凝固因子の濃度を測定し、その効果を定量化することができる。本発明のさらに別の実施形態では、血餅硬度Gは、切断されたフィブリノーゲンの濃度の関数として表すことができる(例えば、Gは、(Cfibrinogen)2に比例し得る)。本発明のさらに別の実施形態では、血餅硬度G、切断されたフィブリノーゲンの濃度、および/または閾値トロンビン発生時間もしくは血餅形成時間Rを監視して、第IIa因子阻害剤(例えば、ダビガトラン)を含むが、これに限定されない、血液中の1つ以上の抗凝固剤の存在を検出し、その効果を定量化することができる。本発明のさらに別の実施形態では、血液凝固カスケード中に時間の関数として、凝固に関与する異なる血液成分(例えば、血小板、赤血球、またはヘマトクリット)の活性/効果を監視することにより、これらの血液成分(例えば、血小板)の濃度の測定、ならびにこれらの対応する、血小板収縮などの血液凝固プロセスの効果、および血餅硬度に対する赤血球の効果の定量化を可能にすることができる。本発明のさらに別の実施形態では、血小板収縮速度Plt-Contを監視して、血液中のアデノシン二リン酸(ADP)、アラキドン酸(AA)、コラーゲン、およびトロンビン受容体活性化剤ペプチド6(TRAP-6)を含むが、これらに限定されない、1つ以上の血小板アゴニスト、ならびに/または糖タンパク質(GP)IIb/IIIa阻害剤(例えば、アブシキシマブ、エプチフィバチド)、アスピリン(登録商標)、およびクロピドグレルを含むが、これらに限定されない、血小板阻害剤の存在を検出し、その効果を定量化し、ひいては、血小板機能アッセイ(PFA)(例えば、RocheのMultiplate Analyzer)などの検査を実施するために使用することができる。
【0074】
本発明のいくつかの実施形態では、血液凝固カスケード中の時間の関数として、線維素溶解速度Lys-Rateなどの血液血餅に特異的な特性を監視することにより、内部および外部線維素溶解などの血液凝固プロセスの定量化を可能にすることができる。本発明の別の実施形態では、線維素溶解速度Lys-Rateを監視して、1つ以上の血液凝固プロセス(例えば、外部線維素溶解)に影響を及ぼす組織プラスミノーゲン活性化剤(tPA)およびトラネキサム酸(TXA)を含むが、これらに限定されない、血液中の1つ以上の添加剤の存在を検出し、その効果を定量化することができる。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態では、2つ以上の凝固因子の濃度および/または効果を監視して、2つ以上の抗凝固剤の存在を区別すること、例えば、第Xa因子(例えば、リバーロキサバン、アピキサバン)阻害剤ベースの抗凝固剤と、第IIa因子(例えば、ダビガトラン)阻害剤ベースの抗凝固剤とを区別することができる。本発明の別の実施形態では、トロンビン、ならびに切断された/または切断されていないフィブリノーゲンの濃度(もしくは1つ以上の振動特性に対するこれらの効果)を監視して、血液中の第Xa因子および第IIa因子阻害剤ベースの抗凝固剤の存在を区別することができる。これは、第Xa因子阻害剤が、トロンビン濃度を減少させる傾向があるが、切断されたまたは切断されていないフィブリノーゲンの濃度への効果が限定されているか、または全くない一方、第IIa因子阻害剤が、トロンビン濃度への効果が限定されているか、または全くないが、切断されたフィブリノーゲンの濃度を減少させる(または切断されていないフィブリノーゲンの濃度を増加させる)傾向があり、それに伴って、抗凝固剤間の区別を可能にする分化応答を可能にするためである。本発明の別の実施形態では、抗凝固剤間の区別を可能にするこの分化応答は、切断されたまたは切断されていないフィブリノーゲンの濃度に対するトロンビンの比によって定義されるメトリックであってもよい。本発明のさらに別の実施形態では、抗凝固剤間の区別を可能にするこの分化応答は、トロンビン濃度に敏感な懸架されたビームの振動特性のうちの1つまたはその組み合わせと、切断されたまたは切断されていないフィブリノーゲンの濃度に敏感な振動特性のうちの1つまたはその組み合わせとの比によって定義されるメトリックであってもよい。本発明のさらに別の実施形態では、血液中の特定の抗凝固剤の識別に成功した後、血餅形成時間Rに対する抗凝固剤の効果は、血餅形成時間Rについての所定の較正または抗凝固剤用量応答曲線を使用して、抗凝固剤の濃度を決定するために使用され得る。
【0076】
流体サンプルの粘度、粘弾性、および/または密度を決定するための自動化された手段を提供するために、本発明によるデバイスを監視するか、または読み取ることは、計測器がサンプル検査の結果を決定することを可能にする方法で、本発明のセンサデバイスと相互作用することができる、計測デバイスなどの機械の使用によって提供され得る。本発明のいくつかの実施形態では、計測デバイスは、プロセッサ、バス、キーパッドもしくはデータポートなどの入力インターフェース、抵抗性もしくは静電容量性タッチスクリーンディスプレイなどの入力インターフェース、ディスプレイスクリーンなどの出力インターフェース、データポートなどの出力インターフェース、入力および/もしくは出力インターフェースのための有線および/もしくは無線接続、バッテリもしくは電源コードもしくは電源レセプタクルなどの電源、導電性を提供するためのストリップコネクタインターフェースなどのうちの1つ以上を備える。本発明のいくつかの実施形態では、センサデバイスが計測器に接続または係合されている場合、計測器は、粘度、粘弾性、および/または密度を含むが、これらに限定されない、流体の物理的特性を決定するための自動化された手段を提供する。例えば、計測器がセンサデバイスに接続されている場合、計測器は、検査ストリップに解放可能/一時的に係合することができ、典型的には、ビジュアルディスプレイまたは読み出しによって検査結果を出力する能力を有し得る。加えて、計測器がセンサデバイスから受信されたデータを処理する場合、計測器は、この情報を処理し、使い捨て検査ストリップの製造に関連付けられた任意のバッチ間変動を考慮し得る補正因子を適用し得る。
【0077】
本発明のいくつかの実施形態では、計測器は、物理的要素の振動を誘起および検出するように構成されたプロセッサユニットの一部として電子構成要素を含み得る。計測器がセンサデバイスに接続されている場合、プロセッサユニットと、センサデバイス内の1つ以上の物理的要素を通る導電経路との間に導電性が確立される。本発明のいくつかの実施形態では、プロセッサユニットが、物理的要素内の1つ以上の導電経路を通して、振動周波数に対応する電圧/電流などの時間的に変化する作動信号を印加することによって、特定の周波数での振動が物理的要素で誘起される。同様に、電圧/電流などの時間的に変化する検出信号が、プロセッサユニットによって、振動周波数の近傍における物理的要素内の1つ以上の導電経路を通して測定される。本発明のいくつかの実施形態では、振動が物理的要素の固有共振周波数または基本共振周波数(もしくはその高調波)に対応する場合、共振特性は、共振周波数の近傍の周波数の範囲、例えば、共振周波数の1.5、2、3、4、または5倍以内の物理的要素の振動の作動および検出を行うことによって決定される。測定される共振特性には、共振振幅、位相、共振周波数、Q因子などが含まれ得るが、これらに限定されない。本発明のいくつかの実施形態では、物理的要素の振動が電磁気を使用して誘起および/または検出される場合、プロセッサユニットによって提供される作動信号は、0.001T~10T、例えば0.01T~2Tの範囲内の磁場の存在下で、物理的要素内の導電経路を通して、100nA~10A、例えば、100μA~1Aの範囲内で注入/印加される電流に対応する。同様に、いくつかの実施形態では、プロセッサユニットによって測定される検出信号は、0.001~10Tまたは0.01T~2Tの範囲内の磁場の存在下で、0.01μV~10V、例えば、1μV~1Vの範囲内の電圧に対応する。いくつかの実施形態では、物理的要素で誘起される振動の振幅は、1ナノメートル~100ミクロン、例えば、10ナノメートル~10ミクロンの範囲内である。計測器は、センサデバイス内の1つ以上の物理的要素に導電性を提供するコネクタの近傍において1つ以上の永久磁石アセンブリまたは可変磁石アセンブリ(電磁石など)を収容するための1つ以上のエンクロージャを備える。本発明のいくつかの実施形態では、計測器は、上半割部および下部半割部を備え、これらは、入力および出力インターフェースのためのタッチスクリーンディスプレイ、センサデバイスへのコネクタ、磁石アセンブリ、プロセッサユニット、バッテリ、データポート、および電源コードレセプタクルを含むが、これらに限定されない、アイテムを下半割部または上半割部のいずれかの中に封入することを可能にする、クラムシェルベースのアセンブリの一部を形成する。上半割部および下半割部は、スナップ嵌めアセンブリ、ねじベースの圧縮アセンブリなどといった手段を使用して、2つの半割部の正確な組み立ておよび固設または締結を可能にする、1つ以上のアライメント特徴を備え得る。
【0078】
本発明のいくつかの実施形態では、計測器は、温度、湿度、高度、気圧などといった環境条件をサンプリングし、測定応答に補正因子を適用するための設備を含み得る。本発明の別の実施形態では、計測器は、物理的要素の共振周波数の近傍における周波数の範囲内での物理的要素の振動のための作動信号を提供し、当該振動からの検出信号を測定し、周波数の関数として振動特性のスキャンを記録する。振動特性のこの周波数スキャンは、使い捨て検査ストリップの製造に関連付けられた任意のバッチ間変動を識別するためのメトリックとして使用され得る。本発明のさらに別の実施形態では、振動特性の周波数スキャンを使用して、温度、湿度などといった環境条件に対して敏感であってもよく、これらの環境状況を、それらを可能にするために確立された所定の較正曲線を使用して測定するように使用され得る、時間の関数として物理的要素の共振周波数を検出および監視することもできる。さらに、計測器は、例えば、2つ以上の日付または時間にわたる測定値の比較を提供するために、以前の読み取り値を記憶および呼び戻すことを可能にし得る、メモリ設備を有し得る。この特徴は、血液凝固カスケードの異なる態様(例えば、ワルファリン、ヘパリンなどといった抗凝固剤レベル)を監視するための定期的な検査の場合に特に有用なものになり得る。本発明のいくつかの実施形態では、機械または個々のセンサデバイスを較正するために、計測器は、血液導入前に使い捨てストリップで初期自己検査を実施し得る。血液がストリップに導入されるとき、振動する物理的要素の周りの領域の流体性質の変化は、血液サンプルの分析を開始する電子機器を含む構造の振動特性の変化をもたらす。既知の期間中に、分析が完了し、凝固反応の前、間、および後の血液サンプルの粘度、粘弾性、および密度の変化が測定される。好適な反応時間が経過した後、物理的要素の測定された振動特性を使用可能な検査結果に変換するためにアルゴリズムが使用され得る。
【0079】
図1(a)は、物理的要素であって、その振動が、粘度、粘弾性、および/または密度を含むが、これらに限定されない、流体の性質を測定するのに適している、物理的要素からなる、本発明のセンサデバイスの基材層の実施形態を示す。流体は、生物学的流体であってもよく、その性質は、化学反応の前、間、および後に測定され得る。
図1(a)に示されるように、本発明のセンサデバイスの使い捨て検査ストリップ実施形態に統合するための基材層アセンブリ100が提供される。この実施形態によれば、基材層は、「物理的要素」(例えば、物理的要素を形成するように機械加工された結果として)を備え、物理的要素は、懸架されたビーム101であって、ビーム101の長さの両端において基材層102の本体に取り付けられている、懸架されたビーム101を含む。基材層102の本体は、静止状態であるように維持され、その結果、物理的要素は、作動時に妨害を受けない運動または振動を実施するように構成されている。また、基材層102の本体は、懸架されたビーム101よりも比較的大きくてもよい。2つの導電体103および104は、物理的要素を通る2つの独立し、隔離された導電経路が存在するように、基材層上に形成およびパターン化される。代替の実施形態では、単一の導電体が基材層上に形成およびパターン化される。磁場105は、基材層の平面に垂直な方向に印加される。一定の磁場105の存在下で、一方または両方の導電体103および104を通して印加される時間的に変化する電流は、物理的要素を面内で振動させ、振動は、物理的要素の基本共振周波数または高調波共振周波数のものであってもよい。代替的に、物理的要素のものと同じ平面に印加された磁場105は、物理的要素を面外で振動させ、この場合もまた、振動は、物理的要素の基本共振周波数または高調波共振周波数のものであってもよい。磁場105の存在下で、導電体103および104の振動は、構造内の物理的な振動の動きの特性を確認するために使用され得る、「検出電圧」を電磁的に誘起する。時間的に変化する電流および検出電圧を、導電体103および104のうちのいずれか一方を通して、それぞれ印加および測定し、それに伴って、クロストークまたは干渉を低減する作動信号および検出信号を隔離することができる。代替の実施形態では、単一の導電体を基材層上に形成およびパターン化することができ、それにより、時間的に変化する電流および検出電圧の両方を、同じ導電体を通して印加および測定することができる。懸架されたビーム101の形状および幾何学的形状、ならびにビーム101を基材層102の本体に取り付ける正確な位置は、有限要素分析、経験的分析、理論的分析、トライアルアンドエラーなどの方法によって確認される、流体性質の測定のための最適な感度を得るように選択され得る。加えて、幾何学的形状は、比較的低いまたは高い振動周波数と一致し、結果として、検査対象の流体への比較的大きなまたは小さな剪断侵入深さ
をそれぞれもたらし得る。また、物理的要素で誘起される振動の振幅を、導電体103および104のうちのいずれか一方または両方を通して印加される電流によって制御し、その後、流体に印加される剪断速度
を制御することができる。
【0080】
図1(b)は、使い捨て検査ストリップに統合するための基材層アセンブリの分解概略図を示す。基材層110は、矩形の懸架されたビーム(すなわち、物理的要素)であって、ビームの長さの両端において基材層の本体に取り付けられている、懸架されたビームを形成するようにパターン化されている。物理的要素の構造は、基材層のレーザー切断、CNCミーリング加工、化学エッチング、スタンピング、または機械式パンチング(例えば、ダイを使用する)の従来の方法などの任意の適切な方法によって形成され得る。独立し、隔離されてパターン化された導電性トラック111および112が基材層110上に配置される。これらの導電性トラックは、スクリーン印刷、インクジェット印刷、またはレーザーアブレーションの従来の方法などの任意の適切な方法によって配置され得、任意の好適な導電性および化学的に不活性な材料からなり得る。パターン化された絶縁誘電体層113は、導電性トラックが、物理的要素に電気的接続を提供すること専用の領域114および115の上を除き、どこでも完全に絶縁されるように、導電性トラック111および112の上に配置される。
【0081】
図2は、さらなる実施形態を示す。
図2(a)は、使い捨て検査ストリップ200の形態のセンサデバイスのさらなる実施形態を示す。
図2(b)は、
図2(a)の使い捨て検査ストリップ200の分解概略図を示す。
図2(c)および
図2(d)は、ストリップに導入された血液サンプルを伴わずに組み立てられた使い捨て検査ストリップの写真、および血液サンプルを伴って組み立てられた使い捨て検査ストリップの写真をそれぞれ示す。
【0082】
使い捨て検査ストリップ200は、上に親水性ウィッキング層202が配置されたベース基材201からなり、親水性ウィッキング層202は、任意選択で、化学反応を容易にする試薬を含み得る。ベース基材201は、剛性を提供し、使い捨て検査ストリップの全体的な硬度を改善する。チャンバ形成層203が、親水性ウィッキング層202上に配置される。このチャンバ形成層は、例えば、パターン化されたプレキャストフィルムを使用して、またはフィルムをレーザー切断もしくは機械式パンチング(例えば、ダイを使用する)することによって、または好適な非反応性ポリマー材料をスクリーン印刷もしくはインクジェット印刷することによって、形成され得る。このチャンバ形成層は、チャンバ上の妨害を受けない運動または振動のために懸架することができる、物理的要素の近傍にチャンバ壁を形成するための切り欠き204を有するようにパターン化され、チャンバ内の流体サンプルと物理的に接触することができる、物理的要素の面を有する。代替の実施形態では、流体中の化学反応を容易にする試薬は、副層として存在し得る。さらに別の代替の実施形態では、試薬は、チャンバの任意の内部表面上に提供され得る。層の組み立てられた「底部スタック」は、ベース基材201、親水性層202、およびチャンバ形成層203からなる。アセンブリを形成するために、これらの成分層の片面または両面に接着剤(例えば、感圧性接着剤)を組み込んで、層の各々の間の接着を容易にすることができる。チャンバ内の反応を容易にするための試薬層は、代替的に、層の「底部スタック」が組み立てられた後に、親水性ウィッキング層202の曝露された表面上に装填され得る。
【0083】
図1(a)および
図1(b)に描写される実施形態に詳述されるような物理的要素センサデバイスアセンブリ205が、ベース基材201、親水性層202、およびチャンバ形成層203を含む「底部スタック」の上に積層され得、それにより、物理的要素(または矩形の懸架されたビーム)が、チャンバ形成層203内の切り欠き204の側壁によって画定される「チャンバ」の上に懸架される。使い捨て検査ストリップ200を形成するための2つの層の間の接着を容易にするために、物理的要素センサデバイスアセンブリ205および/またはチャンバ形成層203の互いに面する対応する側面に接着剤(例えば、感圧接着剤)を組み込むことができる。物理的要素センサデバイスアセンブリ205は、
図2(a)に見られるように、3つの円形開口部206を有するようにパターン化される。これらの円形開口部は、物理的要素センサデバイスアセンブリ205のレーザー切断、CNCミーリング加工、化学エッチング、スタンピング、または機械式パンチング(例えば、ダイを使用する)の従来の方法などの任意の適切な方法によって形成され得る。
図2(b)に見られるように、これらの3つの円形開口部はまた、物理的要素センサデバイスアセンブリ205上の3つの円形開口部206と同じ正確な位置において、層の「底部スタック」にパターン化される。円形開口部は、「底部スタック」の個々の層に形成され得るか、またはこれらの層の組み立て後に、レーザー切断、CNCミーリング加工、化学エッチング、スタンピング、または機械式パンチング(例えば、ダイを使用する)の従来の方法などの任意の適切な方法を使用して、「底部スタック」アセンブリを形成するようにパターン化され得る。物理的要素センサデバイスアセンブリ205上の3つの円形アライメント開口部および「底部スタック」層は、チャンバ上の懸架されたビームの正確な位置付けを確実にするために、2つのアセンブリ間のアライメントを容易にするためのアライメント特徴として役立つ。物理的要素センサデバイスアセンブリ205は、流体をストリップに導入するためのポート、および空気が流体サンプルに充填されるときに空気をチャンバから逃がすための通気孔として、それぞれ役立つ、2つの矩形開口部207および208を有するようにさらにパターン化される。これらの矩形開口部の位置は、流体がチャンバに入るための、および空気をチャンバから逃がすためのアクセスを提供するために、チャンバの上、およびチャンバ形成層203内の切り欠き204のフットプリント内にあるように選択され得る。さらに、これらの矩形開口部の開口部サイズ、形状、および幾何学的形状は、チャンバ内への流体の導入および空気の通気を最適化するように設計および選択され得る。
【0084】
チャンバ形成層203の高さによって画定される、底部親水性層202と物理的要素センサデバイスアセンブリ205との間の距離(D)、およびチャンバ形成層内の切り欠き204の幾何学的形状は、チャンバの容積を最適化し、チャンバ内への流体の導入および空気の通気を最適化するように、設計および選択され得る。チャンバ形成層203の距離Dまたは高さは、底部親水性層202と物理的要素センサデバイスアセンブリ205との間で、振動する物理的要素がチャンバ内の流体媒体に定常剪断波場を誘起するようにさらに構成され得る。流体性質に依存して、一貫した信頼性のある定常剪断波場を誘起するために、距離Dは、剪断侵入深さ
以下であるように構成され得る。物理的要素を取り囲む媒体で誘起される場の剪断波長(λ
s)に対する距離Dの比が低いほど、流体媒体中に設けられる音響場の一貫性および均一性が高くなり、
である場合、式中、δ
sは、剪断侵入深さ
であり、δ
lは、媒体の損失正接角である。距離Dは、チャンバ内に導入される、検査対象の流体の性質に依存して、調節可能であるように、または永久的に固定されるように構成され得る。チャンバ形成層203は、距離Dを調整するように単一または複数の積層されたポリマー基材から形成され、両側に感圧接着剤を組み込んで、上の物理的要素センサデバイスアセンブリ205、および下の親水性層202への積層を容易にすることができる。物理的要素とチャンバ壁との間に閉じ込められた流体に設けられた音響場を使用して、流体の粘度だけでなく、流体の粘弾性性質も決定することができる。また、振動する物理的要素に近い固定されたチャンバ壁の存在は、時間の関数として流体の物理的性質を高い精度で監視するためのさらなる利点を提供する。
【0085】
チャンバ形成層203の要素の構造および配列は、センサデバイス内に提供される内部容積によって画定されるチャンバ内に流体サンプルを装填することを可能にする開口部を画定するために、チャンバ形成層203の本体に対して配列された2つ以上の補助的な別個のパッドを備え得る。流体は、生物学的流体、例えば、血液であってもよい。チャンバ形成層203に寄与する2つ以上の補助的なパッドの配列は、典型的にはチャンバの異なる側面に提供される少なくとも1つのさらなるチャネルまたは開口部を主開口部にさらに提供するために、チャンバ形成層203の本体に対して配列され得る。これらの二次開口部は、液体の側面充填を可能にするか、または開口部が中央チャンバと連通可能であることに起因して、空気が流体サンプルに装填されるときに空気をチャンバから逃がすことも可能にする。
【0086】
図2(c)は、
図2(a)に示される組み立てられた使い捨て検査ストリップ200の写真を描写している。
図2(d)は、
図2(a)および
図2(b)に描写されるように、物理的要素センサデバイスアセンブリ205内の矩形開口部207を通してチャンバ内に導入された血液サンプルを有する組み立てられた使い捨て検査ストリップの写真を描写するさらなる実施形態を示しており、物理的要素(すなわち、懸架されたビーム)の振動に影響を及ぼす。この実施形態では、チャンバの上面は、基材層の少なくとも一部分からなり、懸架されたビームが、ビームの長さの両端において基材層の本体に取り付けられている。血液サンプルは、入口ポート(すなわち、
図2(a)の矩形開口部207)を通って使い捨て検査ストリップに導入されると、懸架されたビームに至る基材層の領域の下でチャンバに流れ込み、続いて、血液の流れが、ビームの下側との接触を維持しながら、ビームの長さに沿ってチャンバを通して誘導され、最後に、空気が流体サンプルに装填されるときに空気をチャンバから逃がす通気ポート(すなわち、
図2(a)の矩形開口部208)に至るビームを通過する基材層の領域の下のチャンバを通って流れる。チャンバの底面(すなわち、親水性ウィッキング層202)の良好な表面湿潤性質(例えば、低い接触角)を考慮すると、血液サンプルは、懸架されたビームの下、およびビームの長さに沿ったチャンバの底部の上にあるチャンバ内のある領域を占め、この領域は、ビームの幅まで、またはその幅を越えて(例えば、
図2(d)に見られるように、ビームの幅の1.5倍以内に)延在する。チャンバの底面(すなわち、親水性ウィッキング層202)は、懸架されたビームの下の領域の近傍において、血液凝固を誘起する試薬と共に配置される。血液サンプルを使い捨て検査ストリップに導入した後、血液は、試薬によって惹起される凝固を受け、凝固の前、間、および後の血液サンプルの物理的性質(例えば、粘度、粘弾性、密度)は、懸架されたビームの振動およびビームが経験する対応する減衰を周期的に監視することによって決定される。
【0087】
図3は、
図1(a)および
図1(b)に描写される実施形態において詳述され、
図2(a)および
図2(b)に描写される実施形態において詳述されるものなどの使い捨て検査ストリップの形態で組み立てられたものなどの物理的要素センサデバイスアセンブリにおいて誘起され、有限要素分析(FEA)シミュレーションを使用してコンピュータ処理された、面内振動(
図3(a))および面外振動(
図3(b))を示す。
図3(a)は、磁場の方向を固定し、印加される電流もしくは物理的要素に印加される電場の方向を変化させることによって、または磁場の方向を変化させ、印加される電流もしくは物理的要素に印加される電場の方向を固定することによって誘起され得る、物理的要素の幅方向(x-y平面または上面図で見た場合、x軸)の面内振動の基本共振を示す。
図3(b)は、磁場の方向を固定し、印加される電流もしくは物理的要素に印加される電場の方向を変化させることによって、または磁場の方向を変化させ、印加される電流もしくは物理的要素に印加される電場の方向を固定することによって誘起され得る、物理的要素の厚さ方向(y-z平面または断面図/側面図で見た場合、z軸)の面外振動の基本共振を示す。一実施形態では、面内振動(
図3(a))および面外振動(
図3(b))は、単一のチャンバまたは複数の個々のチャンバの上に位置する、単一の物理的要素または複数の物理的要素の組み合わせにおいて誘起され得、1つ以上の物理的要素のうちのある面は、チャンバのうちの1つ以上の中の流体と物理的に接触することができる。
【0088】
図4~
図22について、以下の実施例の項で考察する。
【0089】
[実施例]
以下の具体的な実施例は、単なる例示として解釈されるべきものであり、本開示の残りの部分をいかなる意味においても限定するものではない。さらなる詳細なしに、当業者が、本明細書の説明に基づいて、本発明を最大限に利用することができると考えられる。
【0090】
実施例1:使い捨て検査ストリップに組み立てられた物理的要素センサデバイスを使用して、エチレングリコール水溶液の流体特性を決定する
材料および方法:
図2(b)は、
図2(a)の使い捨て検査ストリップ200の分解概略図を示す。ストリップは、構造を所定の位置に保つためにアクリル系接着剤を含むポリエステル系基材で作製された標準的な診断用検査ストリップ製造材料を使用して製作し、組み立てた。
【0091】
底部スタックアセンブリ:
ベース基材201は、構造的支持を提供するために、片側がポリエステル(PET)層(厚さ0.010インチ、Melinex(登録商標)339、Dupont Teijin)の上に積層された両面感圧接着剤(PSA)層(厚さ0.0032インチ、AR90445、Adhesives Research,Inc.)から構成した。片側に親水性ウィッキング層を有するポリエステル基材202(厚さ0.0045インチ、ARFlow90469、Adhesives Research,Inc.)を、親水性側面がベース基材から離れる方向に向いた状態で、ベース基材上に積層した。両面PSA(厚さ0.005インチ、AR8939、Adhesives Research,Inc.)からなるチャンバ形成層203は、物理的要素の近傍にチャンバ壁を形成するために、切り欠き204を有するようにパターン化し、親水性面が切り欠きを通して曝露されるように、片側をベース基材の上の親水性層上に積層した。ベース基材201、親水性層202、および第1のチャンバ形成層203層もまた、「底部スタック」の上の基材層の組み立てを容易にするためのアライメント機能として役立たせるために、3つの円形開口部が、物理的要素感知デバイスアセンブリ205上の3つの円形開口部206と同じ正確な位置にある状態でパターン化した。最後に、ベース基材201、親水性層202、および第1のチャンバ形成層203からなる組み立てられた「底部スタック」を、
図2に示されるように、チャンバを取り囲むストリップ(1.6×3.0cm
2)のフットプリントを形成するようにパターン化した。
【0092】
物理的要素センサデバイスアセンブリ:
物理的要素センサデバイスは、
図1(a)に描写されるように、懸架されたビーム101を通る導電経路103および104をパターン化し、計測器に接続するための電気パッドを提供するために、ポリエステル基材上に(0.003インチ~0.0030インチの範囲の厚さで)銀ベースの導電性インクをスクリーン印刷することによって作製した。
図1(b)に示されるように、ポリマーインクで作製された絶縁誘電層113を、導電性トラックが、計測器への電気的接続を提供すること専用の領域114および115の上を除き、どこでも完全に絶縁されるように、導電性トラック111および112の上にスクリーン印刷した。懸架されたビームからなる物理的要素は、導電経路および誘電体層からなるポリエステル基材のレーザー機械加工によってパターン化した。物理的要素は、長さおよび幅が0.5~20mmで変化する矩形ビームの形状で製作した。
【0093】
最終的な使い捨てストリップアセンブリ:
物理的要素センサデバイスアセンブリ205は、懸架されたビームが、親水性層202、およびチャンバ形成層203内の切り欠き204の側壁によって画定されるように、チャンバの上に懸架され、その結果、ビームがチャンバの上面の一部分を形成するように、「底部スタック」アセンブリの上に積層した。2つのアセンブリ間のアライメントを容易にし、チャンバ上の懸架されたビームの正確な位置付けを確保するために、アライメント固定具を使用して、物理的要素センサデバイスアセンブリ205および「底部スタック」アセンブリ上の3つの円形開口部を一致させた。チャンバ形成層203の高さ(0.005インチ)によって画定される、親水性層202の親水性表面と物理的要素センサデバイスアセンブリ205との間の距離(D)、およびポリエステル基材層内の懸架されたビームの幾何学的形状は、検査するために必要な流体の総容積が<10μlになるように選択した。
【0094】
測定方法:
測定を実施するために使用した計測器は、標準的なステレオリソグラフィ(SLA)プロセスを使用して製作した。これは、機械式ガイドを備えたストリップレセプタクルを含んで、レセプタクルの端にある電気コネクタへの一貫した信頼性の高いストリップの挿入および接続を確保するように設計した。コネクタは、ビームの共振周波数の近傍の周波数で時間的に変化する電流/電圧を印加および検出するために、懸架されたビームを通る導電経路に電気的接続を提供した。ストリップレセプタクルは、測定中にストリップの温度(例えば、血液検査用に37C)を制御および監視するための抵抗ヒータ、および任意選択でサーミスタから構成した。設計には、ビームの1つ以上の共振周波数(例えば、面内共振および面外共振)の近傍の周波数での懸架されたビームにおける電磁作動および振動の検出を可能にするために必要な(ストリップ表面に対する)面内磁場および/または面外磁場を提供するために、永久磁石(焼結磁石、N52グレード、0.1~0.5T)をレセプタクル内のストリップに対して正確に位置付けるための磁石エンクロージャも含めた。ファンクションジェネレータ(Hewlett-Packard HP33120)、低雑音前置増幅器(Stanford Research SR560)、DSPロックイン増幅器(Stanford Research SR850)、およびデータ取得ユニット(National Instruments USB-6009)を使用して、すべての器具が、測定プロセスを自動化したPythonコードを実行中のコンピュータへの汎用インターフェースバス(GPIB)有線接続を介して制御された状態で、懸架されたビームを通して電流を印加し、懸架されたビームからの「検出電圧」を測定した。いくつかの検査では、カスタムPCBとインターフェースした既製のマイクロコントローラベースのプリント回路板(PCB)システムを使用して、この測定プロセスを最小化し、さらに自動化した。
【0095】
様々な周波数で0.1~1A程度の電流(以下の結果の項で詳述する)を、磁場(0.1~0.5T)の存在下で第1の導電経路を通して、物理的要素または懸架されたビームに導入した。懸架されたビームに垂直な(
図3(a)のz軸に沿った)磁場を考慮する場合、矩形ビームの長辺に垂直な(
図3(a)のx軸に沿った)方向で、共振の基本周波数に対応する面内運動を、当該周波数またはその近くで電流を印加したときに誘起した。懸架されたビームに平行で、かつビームの長辺に垂直な(
図3(b)のx軸に沿った)磁場を考慮する際、矩形ビームに垂直な(
図3(b)のz軸に沿った)方向で、共振の基本周波数に対応する面外運動を、当該周波数またはその近くで電流を印加したときに誘起した。懸架されたビームの振動特性、すなわち、振幅、位相、周波数、および品質因子は、懸架されたビームを通って延びる第2の導電経路を通る様々な周波数での電磁誘起によって誘起される「検出電圧」を監視することによって測定した。「検出電圧」の振幅および位相などのこれらの振動特性を、共振周波数の近傍における周波数の関数(例えば、振幅対周波数および位相対周波数スキャン)として測定し、この関数を監視および記録して、物理的性質に対するこれらの特性の応答を、様々な流体タイプ(この実施例では、エチレングリコール溶液)に対して測定した。
【0096】
センサ特徴付け:
流体検査の前に、複数の使い捨て検査ストリップを生成し、当該検査ストリップのそれぞれの空気中の懸架されたビームの振動振幅および位相を、(上述のように)計測器を使用して記録した。物理的要素の面内振動および面外振動についての空気中の振幅周波数スキャンの実施例を、
図4(a)および
図4(b)にそれぞれ示す。この具体的な実施例では、面内振動および面外振動の周波数掃引を、3500~7000Hzおよび750~3250Hzの近傍で実施して、それぞれ4907Hzおよび1374Hzの共振周波数を測定した。実施時のストリップ間の一貫性を測定するために、複数のストリップからのビームにおける面内振動の振幅周波数スキャンを正規化し、それらのそれぞれの共振周波数を識別した。これらの共振周波数の平方根を、ストリップ間の分散を識別するために統計的にビニングした流体性質を測定するためのストリップ間の一貫性に関するメトリックとして使用した。複数のストリップ内の物理的要素の正規化された振幅周波数スキャンのセット、およびこれらのそれぞれの共振周波数の平方根の統計的ビニングの実施例を、
図5(a)および
図5(b)にそれぞれ示す。この具体的な実施例では、192個の使い捨て検査ストリップを検査し、共振周波数メトリックの平方根は、平均偏差70.46Hz
1/2および標準偏差1.19Hz
1/2をそれぞれ示し、分散係数(CV)は1.68%であった。
【0097】
流体検査処置:
表Iに示されるように、0~40.38%の範囲の異なる濃度の脱イオン水を使用して、エチレングリコール溶液を調製した。溶液は、20mlの脱イオン水および対応する容積のエチレングリコール溶液濃度で調製した。流体サンプルは、入口ポート(すなわち、
図2(a)の矩形開口部207)を通して、組み立てられた使い捨て検査ストリップに導入されると、懸架されたビームに至る基材層の領域の下でチャンバ内にウィッキングされ、続いて、流体の流れが、(ビームまたはビームの幅をわずかに超えて)ビームの下側との接触を維持しながら、ビームの長さに沿ってチャンバを通して誘導され、最後に、空気が流体サンプルに装填されるときに空気をチャンバから逃がす通気ポート(すなわち、
図2(a)の矩形開口部208)に至るビームを通過する基材層の領域の下のチャンバを通って流れた。
【0098】
【0099】
結果:
4つのエチレングリコール溶液(上記のとおり)の挿入前および挿入後に、単回使用の使い捨て検査ストリップ内の懸架されたビームの面内振動および面外振動の振幅周波数スキャンを測定し、1つの溶液につき3つのストリップを検査した。溶液を挿入した後、(面内振動および面外振動に関する)共振振幅、周波数、および品質因子の正規化された分数変化率をコンピュータ処理した。エチレングリコールの濃度が増加すると、センサが減衰し、それにより、振幅および周波数が減少する。溶液の密度が高くなり、粘度がより高くなると、これにより、面内振動および面外振動の両方のモードで流体と接触すると、物理的要素の振動がより緩徐になり、力強さが弱くなる。空気中の、40.38%v/vエチレングリコール(EG)溶液と接触した物理的要素の面内振動の振幅周波数スキャンの一例を
図6に示す。この具体的な実施例では、溶液がストリップに導入されると、面内共振のピークの振幅および周波数の両方が低減される。
【0100】
様々な濃度のエチレングリコール溶液に曝露されたときの物理的要素の面内モードの振動特性の例を
図7に示す。この具体的な実施例では、
図7(a)、
図7(b)、および
図7(c)にそれぞれ見られるように、共振振幅、周波数、および品質因子の正規化された分数変化率の対数は、エチレングリコール溶液の密度と粘度の積の対数で線形傾向を呈した。この実施例の結果は、減衰が流体の密度と粘度の積の逆平方根に比例する、機械的構造の振動減衰の理論によって予測されるとおりである。
【0101】
物理的要素の面内振動および面外振動を監視することによって、任意の流体の粘度および密度を推測することができる。流体の密度は、面外モード特性から推定することができ、粘度と密度の積は、面内モードから推定することができ、したがって、検査対象の流体の密度および粘度の独立した絶対的な測定を可能にする。
【0102】
実施例2:使い捨て検査ストリップに組み立てられた物理的要素センサデバイスを使用した、プロトロンビン時間(PT)または国際標準化比(INR)凝固検査の実施
材料および方法:
この実施例では、使用した概略的な方法および処置は、以下に詳述される、血液凝固を誘起する試薬の組み込み、ならびに血液サンプルの取得および処理を除き、「実施例1」に概説される方法および処置と同様であった。
【0103】
プロトロンビン時間試薬の組み込み:
本実施例で使用した使い捨て検査ストリップには、ウサギ脳トロンボプラスチン(Pacific Hemostasis Prothrombin Time試薬、Thromboplastin-DS、製品番号29-227-3)、塩化カルシウム(25mM)、およびTween(2%v/v水溶液)からなる試薬を組み込んだ。ストリップの最終的な組み立て前に、溶液を底部スタック内の曝露された親水性表面に分注し、続いて、湿度が標準的な室温および圧力で制御された乾燥箱内で空気乾燥させることによって、試薬を組み込んだ。チャンバ内で検査した血液に対する試薬の容積の比は、血液凝固反応の正常な惹起を確実にするために、2:1近くに維持した。次いで、血液サンプルと接触したときに凝固反応を惹起する際の時間遅延を最小限に抑えながら、試薬が最適な状態まで乾燥することを確実にするために、試薬を組み込んだ組み立てられたストリップを、乾燥剤(例えば、シリカゲル)と共に金属箔ポーチ内に配してヒートシールし、続いて、使用前に数日間保存した。
【0104】
血液サンプルの取得および処理:
この実施例では、抗凝固クリニックでのワルファリン療法を受けている患者および正常な対象者からのフィンガースティック法による毛細管全血サンプルを使用した。治験審査委員会(IRB)が承認したプロトコルに基づいてインフォームドコンセントを得た後、標準的なランセットを使用して、フィンガースティック法により血液サンプルを抽出し、ピペットまたはドロッパーを使用して、使い捨て検査ストリップに挿入するためのサンプルを取り出した。抗凝固クリニックにおける標準的な医療処置に従って、ランセットを2回目に使用して、市販されているRocheのCoaguChek(登録商標)XSシステムで検査するための血液サンプルを抽出した。
【0105】
結果:
この実施例では、血液サンプルが凝固を受ける際の時間の関数として血液サンプルの粘度および粘弾性の変化を測定するために、血液サンプルの導入前と導入後に、単回使用の使い捨て検査ストリップ内の物理的要素の面内モードの振動特性(例えば、振幅)を監視し、記録した。血液サンプルは、チャンバに入ると、乾燥試薬と反応し、外因性凝固経路を通して凝固を開始した。アルゴリズムを使用して、測定された振動特性、粘度、および/または粘弾性を時間の関数として追跡し、(血液サンプル挿入時間t=0から測定される)血餅形成までの時間、言い換えれば、プロトロンビン時間(PT)として知られる時間を識別した。市販されているRocheのCoaguChek(登録商標)XSシステムからのPT/INR結果も、比較のために記録した。RocheのCoaguChek(登録商標)XSシステムからのINR結果と、本発明の下での使い捨て検査ストリップ(AbramのCoagCare)との間の相関の一例を
図8に示す。この具体的な実施例では、2ラウンドの検査、すなわち、較正ラウンド(患者19名、正常者7名)および相関ラウンド(患者16名、正常者7名)を実施した。較正ラウンドを使用して、使い捨て検査ストリップを使用して測定されたPT時間とCoaguChek(登録商標)XSシステムからのINR結果との間の関係を確立するように較正曲線を決定した。相関ラウンドを使用して、この較正曲線を測定されたPT時間に適用し、測定されたINR結果を計算した。この具体的な実施例では、すべてのデータポイントが市販のPT/INRシステムに課せられた米国食品医薬品局(FDA)510(k)クリアランス限界内にある状態で、0.5~3のINR範囲にわたって、回帰係数R
2が0.8である良好な線形相関が実証された。
【0106】
実施例3:使い捨て検査ストリップに組み立てられた物理的要素センサデバイスを使用したヘマトクリット(Hct)測定の実施
材料および方法:
この実施例では、使用した概略的な方法および処置は、以下に詳述される血液サンプルの取得および処理を除き、「実施例1」に概説される方法および処置と同様であった。
【0107】
血液サンプルの取得および処理:
この実施例では、正常な対象者からの静脈全血サンプルを使用した。治験審査委員会(IRB)が承認したプロトコルに基づいてインフォームドコンセントを得た後、静脈切開を実施して、静脈穿刺により血液サンプルを抽出し、サンプルを、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)抗凝固剤を含有する採血管内に直接分注した。EDTA抗凝固全血サンプルを遠心分離して血漿を抽出し、10%刻みで0~80%の範囲に及ぶヘマトクリットを伴って、赤血球で再懸濁して、全血サンプルを配合した。標準的なマイクロリットルのピペットを使用して、血液サンプルを使い捨て検査ストリップに分注した。
【0108】
結果:
この実施例では、血液サンプルの密度を測定するために、血液サンプルの導入前と導入後に、単回使用の使い捨て検査ストリップ内の物理的要素の面外モードの振動特性(例えば、振幅)を監視し、記録した。チャンバに入ると、血液サンプルは、主に血液サンプルの密度に起因して、物理的要素と相互作用し、物理的要素の振動を減衰する。使い捨て検査ストリップ内の物理的要素が経験する信号減衰の実施例が
図9に示されており、センサ信号は、ヘマトクリットの0~80%の増加に伴って、血液サンプルに曝露したときに、着実で予測可能な減少(バイブレーション減衰フィット後、回帰係数R
2=0.88)を呈する。密度は、単純な関係ρ=1.026+0.067Hct gm/ccによって血液サンプル中のヘマトクリットと線形関係にあるため、振動特性の減衰を使用してコンピュータ処理した血液密度からヘマトクリットを正確に確認することができる。
【0109】
実施例4:使い捨て検査ストリップに組み立てられた物理的要素センサデバイスを使用した活性化された部分トロンボプラスチン時間(aPTT)凝固検査の実施
材料および方法:
この実施例では、使用した概略的な方法および処置は、以下に詳述される、血液凝固を誘起する試薬の組み込み、ならびに血液サンプルの取得および処理を除き、「実施例1」に概説される方法および処置と同様であった。
【0110】
活性化された部分トロンボプラスチン時間試薬の組み込み:
本実施例で使用した使い捨て検査ストリップには、アクチン-FS活性化された部分トロンボプラスチン時間試薬(Siemens Diagnostics、カタログ番号B4218-20)、塩化カルシウム(25mM)、およびTween(2%v/v水溶液)からなる試薬を組み込んだ。ストリップの最終的な組み立て前に、溶液を底部スタック内の曝露された親水性表面に分注し、続いて、湿度が標準的な室温および圧力で制御された乾燥箱内で空気乾燥させることによって、試薬を組み込んだ。チャンバ内で検査した血液に対する試薬の容積の比は、血液凝固反応の正常な惹起を確実にするために、2:1近くに維持した。次いで、血液サンプルと接触したときに凝固反応を惹起する際の時間遅延を最小限に抑えながら、試薬が最適な状態まで乾燥することを確実にするために、試薬を組み込んだ組み立てられたストリップを、乾燥剤(例えば、シリカゲル)と共に金属箔ポーチ内に配してヒートシールし、続いて、使用前に数日間保存した。
【0111】
血液サンプルの取得および処理:
この実施例では、正常な対象者からの静脈全血およびフィンガースティック法による毛細管全血サンプルを使用した。治験審査委員会(IRB)が承認したプロトコルに基づいてインフォームドコンセントを得た後、静脈切開を実施して、静脈穿刺により血液サンプルを抽出し、サンプルを、クエン酸ナトリウム抗凝固剤を含有する採血管内に直接分注した。ヘパリン濃度を0.0~1.0IU/mlの範囲で0.2IU/ml刻みで変化させながら、クエン酸全血サンプルに未分画ヘパリン(ScienCell、カタログ番号0863)をインビトロでスパイクして、全血サンプルを配合した。加えて、標準的なランセットを使用して、フィンガースティック法により毛細管全血サンプルを抽出した。標準的なマイクロリットルのピペットを使用して、血液サンプルを使い捨て検査ストリップに分注した。
【0112】
結果:
この実施例では、血液サンプルが凝固を受ける際の時間の関数として血液サンプルの粘度および粘弾性の変化を測定するために、血液サンプルの導入前と導入後に、単回使用の使い捨て検査ストリップ内の物理的要素の面内モードの振動特性(例えば、振幅)を監視し、記録した。血液サンプルは、チャンバに入ると、乾燥試薬と反応し、内因性凝固経路を通じて凝固を開始した。アルゴリズムを使用して、測定された振動特性、粘度、および/または粘弾性を時間の関数として追跡し、(血液サンプル挿入時間t=0から測定される)血餅形成までの時間、言い換えれば、部分トロンボプラスチン時間(aPTT)として知られる時間を識別した。使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定した未較正のaPTT凝血時間の実施例が
図10に示されており、凝血時間は、ヘパリンの濃度の増加に伴って、静脈全血サンプルに曝露されると、線形用量応答(回帰係数R
2=0.92)を呈する。この具体的な実施例では、正常な対象者(ヘパリン療法を受けていない)からのフィンガースティック法により毛細管全血サンプルで測定したaPTT凝血時間は、ヘパリンを含まない対象者の静脈全血サンプル中で測定した時間(0.0IU/ml)に近かった。
【0113】
実施例5:使い捨て検査ストリップに組み立てられた物理的要素センサデバイスを使用した低い範囲の活性化された凝血時間(ACT)凝固検査の実施
材料および方法:
この実施例では、使用した概略的な方法および処置は、以下に詳述される、血液凝固を誘起する試薬の組み込み、ならびに血液サンプルの取得および処理を除き、「実施例1」に概説される方法および処置と同様であった。
【0114】
活性化された凝血時間試薬の組み込み:
本実施例で使用した使い捨て検査ストリップには、蒸留水中に懸濁したカオリン、塩化カルシウム(25mM)、およびTween(2%v/v水溶液)からなる試薬を組み込んだ。ストリップの最終的な組み立て前に、溶液を底部スタック内の曝露された親水性表面に分注し、続いて、湿度が標準的な室温および圧力で制御された乾燥箱内で空気乾燥させることによって、試薬を組み込んだ。チャンバ内で検査した血液に対する試薬の容積の比は、血液凝固反応の正常な惹起、および血液サンプル中の低い範囲のヘパリン濃度に対する最適な感度を確実にするために、2:1近くに維持した。次いで、血液サンプルと接触したときに凝固反応を惹起する際の時間遅延を最小限に抑えながら、試薬が最適な状態まで乾燥することを確実にするために、試薬を組み込んだ組み立てられたストリップを、乾燥剤(例えば、シリカゲル)と共に金属箔ポーチ内に配してヒートシールし、続いて、使用前に数日間保存した。
【0115】
血液サンプルの取得および処理:
この実施例では、正常な対象者からの静脈全血サンプルを使用した。治験審査委員会(IRB)が承認したプロトコルに基づいてインフォームドコンセントを得た後、静脈切開を実施して、静脈穿刺により血液サンプルを抽出し、サンプルを、クエン酸ナトリウム抗凝固剤を含有する採血管内に直接分注した。ヘパリン濃度を0.0~3.0IU/mlの低い範囲で1.0IU/ml刻みで変化させながら、クエン酸全血サンプルに未分画ヘパリン(ScienCell、カタログ番号0863)をインビトロでスパイクして、全血サンプルを配合した。標準的なマイクロリットルのピペットを使用して、血液サンプルを使い捨て検査ストリップに分注した。
【0116】
結果:
この実施例では、血液サンプルが凝固を受ける際の時間の関数として血液サンプルの粘度および粘弾性の変化を測定するために、血液サンプルの導入前と導入後に、単回使用の使い捨て検査ストリップ内の物理的要素の面内モードの振動特性(例えば、振幅)を監視し、記録した。血液サンプルは、チャンバに入ると、乾燥試薬と反応し、内因性凝固経路を通じて凝固を開始した。アルゴリズムを使用して、測定された振動特性、粘度、および/または粘弾性を時間の関数として追跡し、(血液サンプル挿入時間t=0から測定される)血餅形成までの時間、言い換えれば、活性化された凝血時間(ACT)として知られる時間を識別した。使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定した未較正のACT凝血時間の実施例が
図11に示されており、凝血時間は、ヘパリンの濃度の増加に伴って、静脈全血サンプルに曝露されると、線形用量応答(回帰係数R
2=0.99)を呈する。この具体的な実施例では、測定されたACT凝血時間は、システムの感度が0.0~3.0IU/mlであることを考慮すると、心臓手術および肝臓手術中に使用されるヘパリン療法の低い範囲に対応する、低い範囲のACT測定に対応する。
【0117】
実施例6:使い捨て検査ストリップに組み立てられた物理的要素センサデバイスを使用した高い範囲の活性化された凝血時間(ACT)凝固検査の実施
材料および方法:
この実施例では、使用した概略的な方法および処置は、以下に詳述される、血液凝固を誘起する試薬の組み込み、ならびに血液サンプルの取得および処理を除き、「実施例1」に概説される方法および処置と同様であった。
【0118】
活性化された凝血時間試薬の組み込み:
本実施例で使用した使い捨て検査ストリップには、蒸留水中に懸濁したカオリン、塩化カルシウム(25mM)、およびTween(2%v/v水溶液)からなる試薬を組み込んだ。ストリップの最終的な組み立て前に、溶液を底部スタック内の曝露された親水性表面に分注し、続いて、湿度が標準的な室温および圧力で制御された乾燥箱内で空気乾燥させることによって、試薬を組み込んだ。チャンバ内で検査した血液に対する試薬の容積の比は、血液凝固反応の正常な惹起、および血液サンプル中の高い範囲のヘパリン濃度に対する最適な感度を確実にするために、2:1近くに維持した。次いで、血液サンプルと接触したときに凝固反応を惹起する際の時間遅延を最小限に抑えながら、試薬が最適な状態まで乾燥することを確実にするために、試薬を組み込んだ組み立てられたストリップを、乾燥剤(例えば、シリカゲル)と共に金属箔ポーチ内に配してヒートシールし、続いて、使用前に数日間保存した。
【0119】
血液サンプルの取得および処理:
この実施例では、正常な対象者からの静脈全血サンプルを使用した。治験審査委員会(IRB)が承認したプロトコルに基づいてインフォームドコンセントを得た後、静脈切開を実施して、静脈穿刺により血液サンプルを抽出し、サンプルを、クエン酸ナトリウム抗凝固剤を含有する採血管内に直接分注した。ヘパリン濃度を1.0~5.0IU/mlの高い範囲で1.0IU/ml刻みで変化させながら、クエン酸全血サンプルに未分画ヘパリン(ScienCell、カタログ番号0863)をインビトロでスパイクして、全血サンプルを配合した。標準的なマイクロリットルのピペットを使用して、血液サンプルを使い捨て検査ストリップに分注した。
【0120】
結果:
この実施例では、血液サンプルが凝固を受ける際の時間の関数として血液サンプルの粘度および粘弾性の変化を測定するために、血液サンプルの導入前と導入後に、単回使用の使い捨て検査ストリップ内の物理的要素の面内モードの振動特性(例えば、振幅)を監視し、記録した。血液サンプルは、チャンバに入ると、乾燥試薬と反応し、内因性凝固経路を通じて凝固を開始した。アルゴリズムを使用して、測定された振動特性、粘度、および/または粘弾性を時間の関数として追跡し、(血液サンプル挿入時間t=0から測定される)血餅形成までの時間、言い換えれば、活性化された凝血時間(ACT)として知られる時間を識別した。使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定した未較正のACT凝血時間の実施例が
図12に示されており、凝血時間は、ヘパリンの濃度の増加に伴って、静脈全血サンプルに曝露されると、線形用量応答(回帰係数R
2=0.95)を呈する。この具体的な実施例では、測定されたACT凝血時間は、システムの感度が1.0~5.0IU/mlであることを考慮すると、心臓手術および肝臓手術中に使用されるヘパリン療法の高い範囲に対応する、高い範囲のACT測定に対応する。
【0121】
実施例7:使い捨て検査ストリップに組み立てられた物理的要素センサデバイスを使用したトロンボエラストグラム(TEG)凝固検査の実施
材料および方法:
この実施例では、使用した概略的な方法および処置は、以下に詳述される、血液凝固を誘起する試薬の組み込み、ならびに血液サンプルの取得および処理を除き、「実施例1」に概説される方法および処置と同様であった。
【0122】
トロンボエラストグラム試薬の組み込み:
本実施例で使用した使い捨て検査ストリップには、ウサギ脳トロンボプラスチン(Pacific Hemostasis Prothrombin Time試薬、Thromboplastin-DS、製品番号29-227-3)、塩化カルシウム(25mM)、およびTween(2%v/v水溶液)からなる試薬を組み込んだ。ストリップの最終的な組み立て前に、溶液を底部スタック内の曝露された親水性表面に分注し、続いて、湿度が標準的な室温および圧力で制御された乾燥箱内で空気乾燥させることによって、試薬を組み込んだ。チャンバ内で検査した血液に対する試薬の容積の比は、血液凝固反応の正常な惹起を確実にするために、2:1近くに維持した。次いで、血液サンプルと接触したときに凝固反応を惹起する際の時間遅延を最小限に抑えながら、試薬が最適な状態まで乾燥することを確実にするために、試薬を組み込んだ組み立てられたストリップを、乾燥剤(例えば、シリカゲル)と共に金属箔ポーチ内に配してヒートシールし、続いて、使用前に数日間保存した。
【0123】
血液サンプルの取得および処理:
この実施例では、正常な対象者からの静脈全血およびフィンガースティック法による毛細管全血サンプルを使用した。加えて、抗凝固クリニックでのワルファリン療法を受けている患者からのフィンガースティック法による毛細管全血サンプルを使用した。治験審査委員会(IRB)が承認したプロトコルに基づいてインフォームドコンセントを得た後、静脈切開を実施して、静脈穿刺により血液サンプルを抽出し、サンプルを、クエン酸ナトリウム抗凝固剤を含有する採血管内に直接分注した。クエン酸全血サンプルは、様々な量の未分画ヘパリン(0~3IU/ml)、切断可能なフィブリノーゲン(42~231mg/dL)、エプチフィバチド(GPIIb/IIIa血小板阻害剤、0~12μg/mL)、および組織プラスミノーゲン活性化剤(tPA、0~1.8nM)をインビトロで組み込むように企図した。さらに、いくつかの検査では、治験審査委員会(IRB)が承認したプロトコルに基づいてインフォームドコンセントを得た後、標準的なランセットを使用して、フィンガースティック法により血液サンプルを抽出し、標準的なマイクロリットルのピペットまたはドロッパーを使用して、使い捨て検査ストリップに挿入するためのサンプルを取り出した。最後に、いくつかの検査では、使い捨て検査ストリップを使用して発生させた結果との対照比較を実施するために、血液サンプルも、2つのHaemoneticsのTEG-5000器具(器具ごとに2回検査)を使用して検査し、これらの対応するTEG曲線およびパラメータを記録した。
【0124】
結果:
この実施例では、単回使用の使い捨て検査ストリップ内の物理的要素の面内バイブレーションモードの振動特性(振幅および位相)を、共振周波数の近傍の周波数の関数として測定し、これらの振幅および位相周波数スキャンを周期的に監視して、血液凝固カスケードの異なる態様を決定した。血液サンプルは、チャンバに入ると、乾燥試薬と反応し、外因性凝固経路を通して凝固を開始した。凝固を受けている、チャンバ内の血液サンプルを有する使い捨て検査ストリップ内の振動する物理的要素の振幅周波数スキャンおよび位相周波数スキャンの実施例が、それぞれ
図13(a)および
図13(b)に示されており、血液凝固カスケードが進行するにつれて、共振周波数ピークにおける振幅および位相の大きさが減少するのが分かる。時間と共に周期的に監視されるこれらの振幅周波数スキャンおよび位相周波数スキャンを使用して、トロンボエラストグラム(TEG)検査を実施し、特徴的なワイングラス形状の粘弾性曲線およびパラメータを抽出した。抽出されたTEGのような粘弾性パラメータは、血餅形成時間(R)、活性化された凝血時間(ACT)、最大トロンビン発生(ThrombinPeak)、血餅硬度(G)、血小板収縮速度(Plt-Cont)、および線維素溶解速度(Lys-Rate)であった。凝固カスケードに異なる動力学的プロセスを組み込む、物理的要素の粘弾性振動減衰の数理モデルを使用して、時間の関数として振幅周波数スキャンおよび位相周波数スキャンからのデータにフィットさせた。このモデルは、閾値トロンビン発生(R)、プロトロンビナーゼまたは第Xa因子による触媒作用の速度(k
2)、トロンビンまたは第IIa因子による触媒作用の速度(k
1)、切断可能なフィブリノーゲンまたは第I因子の濃度(C
fibrinogenまたは[フィブリノーゲン])、血餅硬度(G)、血小板収縮速度(Plt-Cont)、および線維素溶解速度(Lys-Rate)などの異なる止血パラメータの抽出を可能にした。これらの測定された止血パラメータを使用して、上述のTEGのような粘弾性パラメータを抽出し、血液凝固カスケード中の時間の関数として、異なる凝固因子(例えば、フィブリノーゲン、トロンビン)の濃度および活性、血液血餅に特異的な特性(例えば、血餅硬度G、線維素溶解速度Lys-Rate)、ならびに凝固に関与する異なる血液成分の活性/効果(例えば、血小板収縮速度Plt-Cont)を監視した。
【0125】
血液凝固カスケードに関連する抽出された止血パラメータ、ならびに凝固を受けている、チャンバ内の血液サンプルを有する使い捨て検査ストリップ内の物理的要素からの振動振幅データに対する、対応する粘弾性バイブレーション減衰フィットの実施例を、それぞれ
図14(a)および
図14(b)に示す。この具体的な実施例では、時間の関数としてプロットし、時間軸を中心としてミラーリングした振動振幅データおよびそのフィットを、典型的なTEGのようなワイングラス形状の粘弾性曲線と同様、上述のTEGのような粘弾性パラメータの抽出と共に、5~10分未満で発生させた。この高速のターンアラウンド時間は、より小さな血餅がより速く形成されることを考慮すると、物理的要素デバイスの高い感度、および検査するために必要な少量の血液サンプル量のため、可能になった。
【0126】
使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、血液凝固カスケード中の時間の関数として、切断されたフィブリノーゲンまたはフィブリンおよびトロンビン濃度プロファイルを発生させるために使用されているフィットから抽出される止血パラメータを示す実施例を
図15に示す。切断されたフィブリノーゲン(または変換されたフィブリン)およびトロンビンの濃度を追跡するために使用される典型的な数学的配合の実施例を、
図15の左手側に示す。この具体的な実施例では、3つのワルファリン患者サンプル(PT値が17.4、36.4、および54.4秒増加している)を使用して、使い捨てストリップを使用した血液凝固測定を実施し、血液凝固カスケードの様々な態様が、ワルファリンのレベルの増加に起因して阻害された。
図15の右手側に見られるように、ワルファリン活性がサンプルにわたって増加する状態で、最大トロンビン発生の着実な減少を示す、これら3つのサンプルの切断されたフィブリノーゲンおよびトロンビン濃度プロファイルを発生させた。切断されたフィブリノーゲン濃度プロファイルを時間の関数として時間軸を中心としてミラーリングしたことに留意されたい。さらに、最大トロンビン発生までの時間(ACTに類似)および最大フィブリン形成までの時間(TMA)などの他のパラメータは、ワルファリン活性がサンプルにわたって増加する状態で、遅延することが観察された。時間軸を中心としてミラーリングされた時間の関数としてのこの切断されたフィブリノーゲンまたはフィブリン形成プロファイルは、測定されたTEGのような粘弾性パラメータと共に、典型的なTEGのようなワイングラス形状の粘弾性曲線を報告するために使用することもできることに留意されたい。
【0127】
使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、ヘパリン抗凝固剤(トロンビン阻害剤)の存在下でのトロンビン発生および活性化された凝血時間(ACT)の変動を示す一実施例を
図16に示す。この具体的な実施例では、
図16(a)は、ヘパリン濃度の0~3IU/mlの増加に伴って、血液サンプル中で測定されたトロンビンの濃度または発生プロファイル(未較正であるため、任意の単位)を示しており、ピークトロンビン発生は、ヘパリンのトロンビン阻害効果に起因して減少し、遅延すること(すなわち、ACTの増加)が観察された。5~10分未満で発生したトロンビン濃度プロファイルおよび対応するパラメータは、典型的なトロンビン発生アッセイ(TGA)曲線、および市販のシステムで測定したパラメータと同様であり、ひいては、この結果を較正して、このTGA測定を実施することができることに留意されたい。これにより、TGA曲線全体およびパラメータを発生させるために最大30~60分かかる市販のTGAシステムに比べて大きな利点が得られる。さらに、この具体的な実施例では、
図16(b)は、線形用量応答(回帰係数R
2=1)を実証した、使い捨て検査ストリップ(CoagCare ACT)およびTEG-5000 RapidTEGアッセイを使用して測定したサンプル中の増加するACT時間の相関プロットを示す。
【0128】
使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、血液凝固カスケード中の血液血餅特有の特性、血餅硬度Gを監視するために使用されているフィットから抽出された止血パラメータを示す一実施例を
図17に示す。この具体的な実施例では、
図17(a)は、時間の関数として測定される懸架されたビームの面内バイブレーションモードの典型的な振動特性を示しており、最初に観察される急激な増加は、フィブリノーゲンのフィブリンへの変換(すなわち、切断)、続いて、フィブリンネットワークを形成するためのフィブリノーゲンの架橋を追跡する、血餅硬度Gを示す。この血餅硬度Gは、フィットから抽出された止血パラメータを使用してコンピュータ処理する。さらに、この具体的な実施例では、
図17(b)は、切断可能なフィブリノーゲンの濃度の増加に伴って、血液サンプルに曝露したときに、(数学的配合への良好なフィットを伴って)増加傾向を示す血餅硬度Gに対する用量応答を示す。
【0129】
使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、血液凝固カスケード中の血液成分、血小板の活性を監視するために使用されているフィットから抽出された止血パラメータを示す一実施例を
図18に示す。この具体的な実施例では、
図18(a)は、時間の関数として測定される懸架されたビームの面内バイブレーションモードの典型的な振動特性を示しており、(最初の増加に続いて)観察される急激な低下は、架橋されたフィブリンネットワークへの接着後の血小板の収縮の開始を示す。この血小板収縮速度Plt-Contは、フィットから抽出された止血パラメータを使用してコンピュータ処理する。さらに、この具体的な実施例では、
図18(b)は、エプチフィバチドGPIIb/IIIa血小板阻害剤の濃度の増加に伴って、血液サンプルに曝露したときに、(数学的配合への良好なフィットを伴って)減少傾向を示す血小板収縮速度に対する用量応答を示す。測定された血小板収縮速度を使用して、血小板の濃度を測定し、市販のシステム(例えば、RocheのMultiplate Analyzer)で実施されるものと同様のアゴニスト(例えば、アデノシン二リン酸(ADP)、アラキドン酸(AA))の存在下で特定の血小板機能アッセイ(PFA)を実施することもできることに留意されたい。
【0130】
使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、血液凝固カスケード中の血液血餅特有の特性、線維素溶解速度Lys-Rateを監視するために使用されているフィットから抽出された止血パラメータを示す一実施例を
図19に示す。この具体的な実施例では、
図19(a)は、時間の関数として測定される懸架されたビームの面内バイブレーションモードの典型的な振動特性を示しており、最初の急激な上昇に続いて観察される漸進的な減少は、架橋されたフィブリンネットワークの溶解または破壊を追跡する線維素溶解速度Lys-Rateを示す。この線維素溶解速度Lys-Rateは、フィットから抽出された止血パラメータを使用してコンピュータ処理する。さらに、この具体的な実施例では、
図19(b)は、血液凝固カスケードの外部線維素溶解プロセスを強化する組織プラスミノーゲン活性化剤(tPA)の濃度の増加に伴って、血液サンプルに曝露したときに、数学的配合への良好な指数関数的フィットを伴って増加傾向を示す線維素溶解速度Lys-Rateの用量応答を示す。
【0131】
使い捨て検査ストリップ内の物理的要素を使用して測定したときの、第IIa因子(ダビガトランまたはPradaxa(登録商標))および第Xa因子(リバーロキサバンまたはXarelto(登録商標))阻害剤ベースの抗凝固剤の濃度を決定するために使用されているフィットからの止血パラメータを使用して抽出されたTEGのような粘弾性パラメータを示す一実施例を
図20、
図21、および
図22に示す。この具体的な実施例では、
図20(a)は、トロンビンもしくは第IIa因子の活性、または言い換えれば、フィブリノーゲンのフィブリンへの切断/変換を直接阻害するダビガトランの濃度の増加に伴って、血液サンプルに曝露したときに、増加する線形傾向(回帰係数R
2=0.997)を示す血塊形成時間(R)の用量応答示す。
図20(b)は、使い捨て検査ストリップ(CoagCare)を使用して測定したときのダビガトラン血液サンプル中の増加するR時間と、TEG-5000 RapidTEGアッセイを使用して測定したACT時間との間の相関プロットをさらに示しており、これは、線形相関(回帰係数R
2=0.997)を示した。さらにこの具体的な実施例では、
図21(a)は、トロンビンまたは第IIa因子の発生を直接阻害するリバーロキサバンの濃度の増加に伴って、血液サンプルに曝露したときに、増加する線形傾向(回帰係数R
2=0.989)を示す凝血形成時間(R)の用量応答を示す。
図21(b)は、使い捨て検査ストリップ(CoagCare)を使用して測定したときのリバーロキサバン血液サンプル中の増加するR時間と、TEG-5000 RapidTEGアッセイを使用して測定したACT時間との間の相関プロットをさらに示しており、これは、線形相関(回帰係数R
2=0.997)を示した。さらに、この実施例では、
図22(a)は、血液凝固カスケードプロセスを描写しており、具体的には、上記で詳述される、ダビガトランによるトロンビン活性またはフィブリノーゲンのフィブリンへの切断/変換の阻害、および第Xa因子を介したリバーロキサバンによるトロンビン発生の阻害、ならびに血餅形成時間(R)に対する、これらのそれぞれの効果を示す。
図22(b)は、検査した血液サンプル中のリバーロキサバン濃度の増加に伴って、指数関数的傾向(回帰係数R
2=0.997)で最大トロンビン発生(ThombinPeak)を低減するリバーロキサバンの効果を具体的に示しているが、フィブリンに変換された、切断されたフィブリノーゲンを追跡する血塊硬度Gへの効果は限定されているか、または全くない(
図17に見られるように)。この限定された効果は、リバーロキサバンの第Xa因子を介したトロンビン発生の阻害にもかかわらず(
図22(a)に見られるように)、典型的には、凝固プロセスがフィブリノーゲンのフィブリンへの変換を段階的に行う前に、最小閾値量のトロンビンのみを発生させる必要があるという事実に起因する。
図22(c)は、検査した血液サンプル中のダビガトラン濃度の増加に伴って、二次的傾向(回帰係数R
2=0.98)で(フィブリンに変換された、切断されたフィブリノーゲンを追跡する)血餅硬度Gを低減するダビガトランの効果を具体的に示しているが、最大トロンビン発生(ThrombinPeak)への効果は限定されているか、または全くない。この限定された効果は、ダビガトランがトロンビン活性を阻害するだけでなく、その発生に影響を及ぼすトロンビンへの凝固カスケード上流プロセスへの効果はほとんど、または全くないという事実に起因する(
図22(a)に見られるように)。トロンビン発生およびトロンビン活性、またはフィブリノーゲンの切断/変換に対する、第IIa因子阻害剤抗凝固剤および第Xa因子阻害剤抗凝固剤のこの分化応答を使用して、これらの血液サンプル中での存在を区別した。
図22(d)は、(この図では新規経口抗凝固剤またはNOACと称される)ダビガトランおよびリバーロキサバンの濃度の増加に伴って、検査したサンプルについてプロットされたときに、増加する線形傾向および減少する線形傾向をそれぞれ示した、正規化されたThrombinPeakと血餅硬度G(この図では[フィブリノーゲン]
2と称される)との比として表されるメトリックを使用して、この分化応答を具体的に示す。したがって、検査結果の適切な較正により、この分化応答を使用して、第IIa因子阻害剤抗凝固剤の存在と第Xa因子阻害剤抗凝固剤の存在とを区別することができる。血液サンプル中の特定の抗凝固剤の識別に成功した後、血餅形成時間Rに対する抗凝固剤の効果は、所定の較正または抗凝固剤用量応答曲線(
図20(a)および
図21(a)に見られるように)を使用して、抗凝固剤の濃度を決定するために使用され得る。
【0132】
特徴および実施形態の一覧
以下の一覧は、本発明によるデバイスおよび/または方法に存在し得る追加の特徴を提供する。
1.基材層は、ポリエステル(PET)、プラスチックなどのポリマーを含む材料の群から選択される材料、プリント回路板などから構成され得、および/またはロールツーロール連続フロー製造を含む大量製造方法を使用して製作され得る。
2.基材層の物理的要素(すなわち、懸架されたビーム)は、エッチング、レーザー処理、印刷、および機械式パンチング/切断から選択される技術によってパターン化/形成され得る。
3.物理的要素にわたって延びる導電経路は、純金属(例えば、銀、金、パラジウム、チタン、タングステン、白金、ステンレス鋼など)、金属合金、半導体材料(例えば、シリコン)、導電性ポリマーなどを含み得、および/または電気経路が、基材層の上部、底部、内部、または一部として組み込まれ得る。
4.物理的要素にわたって延びる導電経路は、金属蒸発、薄い金属フィルム押出、印刷、またはレーザー処理から選択される技術によって形成され得る。
5.物理的要素の振動を作動させ、物理的要素からの信号を測定するとき、電場を印加することができ、検出信号を独立した導電経路にわたって測定することができる。
6.物理的要素の振動を作動させ、物理的要素からの信号を測定するとき、時間的に変化する電場および一定の磁場、または一定の電場および時間的に変化する磁場を通して振動を誘起することができる。時間的に変化する場は、物理的要素の共振の基本周波数または高調波周波数のうちの少なくとも1つに対応し得る。
7.物理的要素の振動から生じる検出信号は、時間的に変化する励起場(複数可)の周波数の近傍の周波数の範囲内(例えば、1.5、2、3、4、または5倍以内)で監視され得る。
8.物理的要素の振動、または2つ以上の独立した物理的要素の振動は、2つ以上の周波数で誘起され得、振動は、2つの面内振動、ならびに/または面内振動および面外振動を異なる周波数で含み得る。
9.本発明によるデバイスの下層は、基材層の下に固定された距離または調節可能な距離で位置付けることができ、および/または基材層は、物理的要素を除き、下層のどこにでも挟着または貼着することができる。
10.本発明による方法は、物理的要素と下層との間の媒体内に定常剪断波場を誘起することを含み得る。
11.本発明によるデバイスは、
図2(b)に示されるものなどの追加の層を含み得る。
12.本発明によるデバイスの1つ以上の層は、流体サンプルの反応チャンバへの進入を可能にするのに適した少なくとも1つのチャネルまたは開口部を備えることができ、少なくとも1つのチャネルまたは開口部は、任意選択で、流体サンプルが毛細管作用によって上記反応チャンバに進入することができるように好適な寸法のものであってもよく、かつ/または少なくとも1つのチャネルまたは開口部が、流体サンプルによる反応チャンバの充填時に、内部を通る空気の変位を可能にするのに適していてもよい。
13.デバイスのチャンバの少なくとも1つの表面は、流体との低い接触角(例えば、45度以下)を有し得、これにより、チャンバ内への水溶性流体サンプルの毛細管作用を容易にすることができる。
14.方法は、印加された異なる剪断速度
における流体の測定された粘度および/または密度から流体の静的または動的な粘弾性性質をコンピュータ処理することを含み得、かかるコンピュータ処理において、理論的または経験的モデルを使用することができる。
15.少なくとも1つの物理的要素の1つの振動特性または振動特性の組み合わせの変化を、サンプル中の化学反応の前、間、および/または後の流体性質を決定するための方法において使用することができる。
16.血液サンプルを分析する方法は、血液サンプルを、サンプルのチャンバ内への導入前、導入中、または導入後に、少なくとも1つの血液凝血剤と接触させることを含み得、少なくとも1つの物理的要素の振動特性は、PT、PTT、ACT、および/またはTEG凝固検査における凝血時間などの、血液流体性質および血液凝血反応動力学を決定するために使用される。
17.血液サンプルを分析する方法は、血液サンプル中の赤血球の濃度またはヘマトクリットを決定することを含み得る。この決定は、流体を凝血試薬と接触させる前に実施され得るか、または流体を凝血試薬と接触させる前に取得されたデータを使用し得る。血液凝血反応動力学および/または血液流体性質は、測定されたヘマトクリットを使用して較正または調節され得る。
18.抗凝固剤を含む血液サンプルを分析する場合、方法は、血液サンプル中の1つ以上の抗凝固剤間を区別することと、1つ以上の抗凝固剤の濃度を決定することと、を含み得る。これは、血液サンプルを凝血試薬と接触させる前もしくは接触させた後に実施され得るか、または血液サンプルを凝血試薬と接触させる前もしくは接触させた後に取得されたデータを使用し得る。
【0133】
以下の一覧は、本発明に従って企図されるシステムおよび方法の追加の非限定的な実施例を提供する。
1.流体を測定するためのシステムであって、
流体に剪断速度および/または剪断応力を印加するように構成された共振器と、
剪断速度および/または剪断応力の印加中に共振器のバイブレーションを測定するように構成されたセンサと、
印加された固定の剪断速度および/または剪断応力で流体によって引き起こされる共振器のバイブレーションの減衰に基づいて、流体の粘度、粘弾性、および/または密度を示すパラメータを識別するように構成されたプロセッサと、を備える、システム。
2.センサが、(a)バイブレーションの共振周波数、(b)共振バイブレーションの品質因子、(c)共振バイブレーションの振幅、および(d)共振バイブレーションの位相のうちの少なくとも1つを測定するように構成されている、実施形態1に記載のシステム。
3.センサが、(a)バイブレーションの共振周波数、(b)共振バイブレーションの品質因子、(c)共振バイブレーションの振幅、および(d)共振バイブレーションの位相の組み合わせを測定するように構成されている、実施形態1に記載のシステム。
4.共振器が、純粋に面内共振器である、実施形態1に記載のシステム。
5.共振器が、純粋に面外共振器である、実施形態1に記載のシステム。
6.
バイブレーションの測定中に流体の温度を検知するように構成された熱センサと、
バイブレーションの測定中に流体の温度を制御するように構成された熱アクチュエータと、をさらに備える、実施形態1に記載のシステム。
7.流体を測定する方法であって、
共振器を介して流体に剪断速度および/または剪断応力を印加することと、
剪断速度および/または剪断応力の印加中に共振器のバイブレーションを測定することと、
印加された固定の剪断速度および/または剪断応力で流体によって引き起こされる共振器のバイブレーションの減衰に基づいて、流体の粘度、粘弾性、および/または密度を示すパラメータを識別することと、を含む、方法。
8.
測定されたバイブレーションが、剪断波の侵入深さ(δ=Sqrt(η/ρπf))が比較的小さくなるような、印加された固定の剪断速度および/または剪断応力での周波数fにおける共振器の面内バイブレーションであり、
識別されたパラメータが、複雑な非ニュートン流体の定位相の粘度(η
cp)を示す、実施形態7に記載の方法。
9.
測定されたバイブレーションが、剪断波の侵入深さ(δ=Sqrt(η/ρπf))が比較的大きくなるような、印加された固定の剪断速度および/または剪断応力での周波数fにおける共振器の面内バイブレーションであり、
識別されたパラメータが、複雑な非ニュートン流体のバルク粘度(η
bulk)を示す、実施形態7に記載の方法。
10.識別されたパラメータが、非ニュートン流体中の添加剤の濃度(c
s)を示す、実施形態7に記載の方法。
11.非ニュートン流体が、粒子または固相物体を含む、実施形態10に記載の方法。 12.
標準化された添加剤濃度での複雑な非ニュートン流体のバルク粘度の標準化された測定を、流体の性質の関数として識別することをさらに含む、実施形態7に記載の方法。
13.標準化された測定が、流体の定位相の粘度(η
cp)、流体のバルク粘度(η
bulk)、および添加剤の濃度(c
s)のうちの1つ以上の関数として識別される、実施形態12に記載の方法。
14.
異なる理論的または経験的モデルを使用して、異なる印加された剪断速度
で測定された流体の粘度および/または密度から、時間の関数として複雑な非ニュートン流体の静的または動的な粘弾性性質をコンピュータ処理することをさらに含む、実施形態7に記載の方法。
15.粘弾性性質が、降伏応力(τ
y)を含む、実施形態14に記載の方法。
16.粘弾性性質が、Cassonモデル
に従って決定される、実施形態14に記載の方法。
17.
異なる理論的または経験的モデルを使用して、添加剤の異なる濃度(c
s)および印加された剪断速度
でコンピュータ処理された流体の標準化されたバルク粘度から、複雑な非ニュートン流体の静的または動的な粘弾性性質をコンピュータ処理し、それによって、流体性質と添加剤の濃度(c
s)との間の経験的関係を識別することを可能にすることをさらに含む、実施形態7に記載の方法。
18.粘弾性性質が、降伏応力(τ
y)を含む、実施形態17に記載の方法。
19.粘弾性性質が、Cassonモデル
に従って決定される、実施形態17に記載の方法。
引用される参照文献の一覧
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2.E.Nwanko, C.J.Durning,“Fluid property investigation by impedance characterization of quartz crystal resonators(2 parts),”Sensors and Actuators A.Physical,vol.72,pp.99-109,1999。
3.B.Jakoby,M.Scherer,M.Buskies,H.Eisenschmid,“An automotive engine oil viscosity sensor,”IEEE Sensors Journal,vol.3,pp.562-568,2003。
4.G.D.O.Lowe,“Blood rheology in arterial disease,”Clinical Science,vol.71,pp.137-146,1986。
5.G.D.O.Lowe,“Blood rheology and vascular disease,”Haemostasis and Thrombosis(ed.by A.L.Bloom et al),3
rded.,pp.1169-1188.Churchill Livingstone,Edinburgh,1994。
6.L.Dintenfass,“Blood Microrheology:viscosity factors in blood flow ischaemia and thrombosis,”Butterworth,London,1971。
7.G.D.O.Lowe,W.C.S Smith,H.D.Tunstall-Pedoe,I.K.Crombie,S.E.Lennie,J.Anderson,J.C.Barbenel,“Cardiovascular risk and haemorheology:results from the Scottish Heart Health Study and the MONICA project,Glasgow,”Clinical Haemorheology,vol.8,pp.518-524,1988。
8.G.D.O.Lowe,A.J.Lee,A.Rumley,J.F.Price,F.G.R.Fowkes,“Blood viscosity and risk of cardiovascular events:the Edinburgh Artery Study,”British Journal of Haematology,vol.96,pp.168-73,1997。
9.G.Ciuffetti,G.Schillaci,R.Lombardini,M.Pirro,G.Vaudo,E.Mannarino,“Prognostic impact of low-shear whole blood viscosity in hypertensive men,”European Journal of Clinical Investigation,vol.35 no.2,pp.93-98,February 2005。
10.S.Chien,J.Dormandy,E.Ernst,A.Matrai,“Clinical Hemorheology,” Martinus Nijhoff Publishers,Dordrecht,1987。
11.A.Matrai,R.B.Whittington,E.Ernst,“A simple method of estimating whole blood viscosity at standardized hematocrit,”Clinical Haemorheology,vol.7,pp.261-265,1987。
12.W.I.Rosenblum,“In vitro measurements of the effects of anticoagulants on the flow properties of blood: The relationship of these effects to red cell shrinkage,”Blood,vol.31,no.2,pp.234-241,1968。
13.J.Wang,“Electrochemical Glucose Biosensors,”Chemical Reviews,vol.108,pp.814-825,2008。
***
【0134】
本明細書は、本明細書内で引用される参照文献の教示に照らして最も完全に理解される。本明細書内の実施形態は、本発明の実施形態の例示を提供するものであり、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。当業者は、他の多くの実施形態が本発明に包含されることを容易に認識する。本開示において引用されるすべての刊行物および特許は、その全体が参照により組み込まれる。参照により組み込まれる資料が本明細書と矛盾するか、または相反する限り、本明細書は、任意のかかる資料に優先する。本明細書における任意の参照文献の引用は、かかる参照文献が本発明の先行技術であることを認めるものではない。
【0135】
別段の指示がない限り、特許請求の範囲を含む本明細書で使用される成分の量、反応条件などを表すすべての数値は、近似値として理解されるべきであり、本発明によって得られることが求められる所望の性質に依存して変化し得る。最低限でも、特許請求の範囲に相当する学説の適用を限定する試みとしてではなく、各数値パラメータは、有効桁数および通常の端数処理のアプローチに照らして解釈されるべきである。本明細書における有効桁の量が異なる一連の数字の列挙は、より少ない有効桁が与えられた数字が、より有効桁が与えられた数字と同じ精度を有することを暗示するものとして解釈されるべきではない。
【0136】
特許請求の範囲および/または本明細書において「備える(comprising)」という用語と共に使用されるときの冠詞「a」または「an」の使用は、「1つ」を意味し得るが、「1つ以上」、「少なくとも1つ」、および「1つまたは2つ以上」の意味とも一致する。特許請求の範囲における「または」という用語の使用は、代替案のみを指すか、または代替案が相互に排他的であることが明示的に示されていない限り、「および/または」を意味するために使用されるが、本開示は、代替案のみ、ならびに「および/または」を指す定義を支持する。
【0137】
別段の指示がない限り、一連の要素の前の「少なくとも」という用語は、一連の要素のすべてを指すと理解されるべきである。当業者であれば、本明細書に記載の本発明の特定の実施形態に対する多くの同等物を、日常的な実験のみを使用して認識するか、または確認することができるであろう。かかる同等物は、以下の特許請求の範囲によって包含されるよう意図されている。
【0138】
別段の定義がされない限り、本明細書で使用されるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。本明細書に記載される方法および材料と類似または同等の任意の方法および材料を本発明の実施または検査に使用することができるが、好ましい方法および材料をここで説明する。
【0139】
本明細書において論じられる刊行物は、本出願の出願日より前の当該刊行物の開示についてのみ提供される。本明細書におけるいかなるものも、本発明が、先行発明のためにかかる刊行物に先行する権利がないことを認めるものとして解釈されるべきではない。さらに、提供される刊行物の日付は実際の公開日とは異なる可能性があり、これらは独立して確認する必要があり得る。
【0140】
本発明の他の実施形態は、本明細書に開示される本発明の仕様および実施を考慮することにより当業者には明らかであろう。仕様および実施例は、例示的なものに過ぎないと考慮されることが意図されており、本発明の真の範囲および趣旨は、以下の特許請求の範囲によって示される。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-05
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体サンプル中に存在する1つ以上の分析物のタイプを識別し、前記1つ以上の分析物の濃度を決定する方法であって、前記方法が、
チャンバ内に前記流体サンプルを配することであって、チャンバ表面が、測定された振動特性のうちの1つ以上を使用して、前記流体サンプルの1つ以上の性質または性質の変化を決定することができる振動デバイスからなる、配することと、
前記流体サンプル中で反応を惹起することと、
前記測定された流体性質のうちの1つ以上を使用して、前記反応中の1つ以上の流体成分の1つ以上の特性または特性の変化を決定することと、
前記流体成分のうちの1つ以上の前記測定された特性のうちの1つ以上を使用して、前記1つ以上の分析物のタイプを識別することと、
前記測定された流体性質のうちの1つ以上を使用して、前記1つ以上の分析物の濃度を決定することと、を含む、方法。
【請求項2】
前記1つ以上の分析物のタイプが、前記測定された流体性質のうちの1つ以上を使用して識別される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記1つ以上の分析物の濃度が、前記流体成分のうちの1つ以上の1つ以上の測定された特性を使用して決定される、請求項1~2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項4】
前記流体サンプルが、凝固反応を受けている血液サンプルであり、前記流体サンプルの前記1つ以上の性質が、血漿粘度、全血粘度、血液粘弾性、血液密度、ヘマトクリット、血小板数、血液凝血時間、血液血餅硬度、血小板収縮活性、および線維素溶解活性から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記流体サンプルが、凝固反応を受けている血液サンプルであり、前記分析物が、抗凝固剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記分析物が、ワルファリン、ヘパリン、第IIa因子阻害剤ベースの抗凝固剤、および第Xa因子阻害剤ベースの抗凝固剤から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記流体サンプルが、凝固反応を受けている血液サンプルであり、前記流体成分が、トロンビン(第IIa因子)、フィブリノーゲン(第I因子)、フィブリン(第Ia因子)、プロトロンビナーゼ(第Xa因子)、血小板、赤血球、および巨大分子または巨大分子複合体から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【外国語明細書】