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特開2024-112876完全ヒトグリコシル化ヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を用いたムコ多糖症I型の治療
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112876
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】完全ヒトグリコシル化ヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を用いたムコ多糖症I型の治療
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/47 20060101AFI20240814BHJP
   A61K 31/343 20060101ALI20240814BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20240814BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20240814BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20240814BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20240814BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20240814BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240814BHJP
   C12N 9/24 20060101ALI20240814BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20240814BHJP
   C12N 15/56 20060101ALN20240814BHJP
【FI】
A61K38/47
A61K31/343 ZNA
A61K31/436
A61K31/573
A61K45/00
A61K48/00
A61P37/06
A61P43/00 121
A61P43/00 111
C12N9/24
C12N15/63 Z
A61K31/343
A61K38/47 ZNA
C12N15/56
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024079088
(22)【出願日】2024-05-15
(62)【分割の表示】P 2019541264の分割
【原出願日】2018-01-30
(31)【優先権主張番号】62/579,690
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/529,366
(32)【優先日】2017-07-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/485,655
(32)【優先日】2017-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/616,234
(32)【優先日】2018-01-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/452,769
(32)【優先日】2017-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】518362720
【氏名又は名称】レジェンクスバイオ インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100097456
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 徹
(72)【発明者】
【氏名】ステファン ヨー
(72)【発明者】
【氏名】リッキー ロバート ラインハルト
(72)【発明者】
【氏名】クラン マシュー シンプソン
(72)【発明者】
【氏名】ズフチュン ウー
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ムコ多糖症I型(MPS I)と診断された患者の治療方法を提供する。
【解決手段】患者の脳の脳脊髄液に、ヒト神経細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトα-L-イズロニダーゼ(IDUA)を送達することを含む方法である。IDUAによる治療の前に、又はそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、かつその後も免疫抑制治療を継続することをさらに含むことが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の脳の脳
脊髄液にヒト神経細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトα-L-イズロニダーゼ(
IDUA)を送達することを含む、前記方法。
【請求項2】
MPS Iと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の脳の脳脊髄液にヒトグ
リア細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトIDUAを送達することを含む、前記方
法。
【請求項3】
ヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、かつ
その後も免疫抑制治療を継続することをさらに含む、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
MPS Iと診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のα2,6-シアル酸付加ヒトIDUAを送達すること
;及び
該ヒトIDUAによる治療の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
【請求項5】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGcを含まない治療有効量のグリコシル化ヒ
トIDUAを送達すること;及び
該ヒトIDUAによる治療の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
【請求項6】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない治療有効
量のグリコシル化ヒトIDUAを送達すること;並びに
該ヒトIDUAによる治療の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
【請求項7】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液にチロシン硫酸化を含む治療有効量のヒトIDUAを送達するこ
と;並びに
該ヒトIDUAによる治療の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
【請求項8】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUA
がヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にα2,6-シアル酸付加さ
れる、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
【請求項9】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUA
がヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にグリコシル化されるが
検出可能なNeuGcを含まない、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
【請求項10】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUA
がヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にグリコシル化されるが
検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない、前記投与すること;並びに
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
【請求項11】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUA
がヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にチロシン硫酸化される
、前記投与すること;並びに
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
【請求項12】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該IDUA
を放出するデポーが形成される、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
【請求項13】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリコシル化
ヒトIDUAを放出するデポーが形成される、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
【請求項14】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含
まないグリコシル化ヒトIDUAを放出するデポーが形成される、前記投与すること;並びに
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
【請求項15】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果チロシン硫酸化を含む該IDUAを放出するデ
ポーが形成される、前記投与すること;並びに
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
【請求項16】
前記免疫抑制治療が、前記ヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に(a) タクロリ
ムス及びミコフェノール酸、(b) ラパマイシン及びミコフェノール酸、又は(c) タクロリ
ムス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン及び/若しくはメ
チルプレドニゾロンの組合わせを前記対象に投与し、かつその後継続することを含む、請
求項3~15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記免疫抑制治療を180日後に中止する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
前記ヒトIDUAが配列番号:1のアミノ酸配列を含む、請求項1~17のいずれか1項記載の方
法。
【請求項19】
前記免疫抑制治療が前記ヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に(a) タクロリム
ス及びミコフェノール酸、(b) ラパマイシン及びミコフェノール酸、又は(c) タクロリム
ス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン及び/若しくはメチ
ルプレドニゾロンの組合わせを前記対象に投与することを含む、請求項18記載の方法。
【請求項20】
前記免疫抑制治療を180日後に中止する、請求項19記載の方法。
【請求項21】
α2,6-シアル酸付加グリカンを含む前記IDUAの生産を、細胞培養中でヒト神経細胞株を
前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認する、請求項
12記載の方法。
【請求項22】
検出可能なNeuGcを含まない前記グリコシル化IDUAの生産を、細胞培養中でヒト神経細
胞株を前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認する、
請求項13記載の方法。
【請求項23】
検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない前記グリコシル化IDUAの生産を、細胞
培養中でヒト神経細胞株を前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入するこ
とにより確認する、請求項14記載の方法。
【請求項24】
チロシン硫酸化を含む前記IDUAの生産を、細胞培養中でヒト神経細胞株を前記組換えヌ
クレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認する、請求項15記載の方法
【請求項25】
生産をマンノース-6-リン酸の存在下及び非存在下で確認する、請求項21~24のいずれ
か1項記載の方法。
【請求項26】
前記発現ベクター又は組換えヌクレオチド発現ベクターが、シグナルペプチドをコード
する、請求項8~15及び21~25のいずれか1項記載の方法、又は請求項8~15のいずれか1項
に直接的若しくは間接的に従属する場合の請求項16~17のいずれか1項記載の方法。
【請求項27】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該IDUA
を放出するデポーが形成される、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含み、
ここで該組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細
胞培養中で該α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該IDUAを生産する、前記方法。
【請求項28】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリコシル化I
DUAを放出するデポーが形成される、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含み、
ここで該組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細
胞培養中でグリコシル化されるが検出可能なNeuGcを含まない該IDUAを生産する、前記方
法。
【請求項29】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含
まないグリコシル化IDUAを放出するデポーが形成される、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含み、
ここで該組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細
胞培養中でグリコシル化されるが検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない該IDUA
を生産する、前記方法。
【請求項30】
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果チロシン硫酸化を含む該IDUAを放出するデ
ポーが形成される、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含み、
ここで該組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細
胞培養中でチロシン硫酸化された該IDUAを生産する、前記方法。
【請求項31】
前記ヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に(a) タクロリムス及びミコフェノー
ル酸、(b) ラパマイシン及びミコフェノール酸、又は(c) タクロリムス、ラパマイシン、
及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン及び/若しくはメチルプレドニゾロンの
組合わせを前記対象に投与し、かつその後継続することを含む、請求項27~30のいずれか
1項記載の方法。
【請求項32】
前記免疫抑制治療を180日後に中止する、請求項31記載の方法。
【請求項33】
前記ヒト対象が3歳未満である、請求項1~32のいずれか1項記載の方法。
【請求項34】
前記ヒト対象が3歳未満であり、前記発現ベクター又は前記組換えヌクレオチド発現ベ
クターが1×1010 GC/g脳質量又は5×1010 GC/g脳質量の用量で投与される、請求項8~15
及び21~33のいずれか1項記載の方法、又は請求項8~15のいずれか1項に直接的若しくは
間接的に従属する場合の請求項16~20のいずれか1項記載の方法。
【請求項35】
前記ヒト対象が3歳未満であり、前記発現ベクター又は前記組換えヌクレオチド発現ベ
クターが1×1010 GC/g脳質量~5×1010 GC/g脳質量の範囲の用量で投与される、請求項8
~15及び21~33のいずれか1項記載の方法、又は請求項8~15のいずれか1項に直接的若し
くは間接的に従属する場合の請求項16~20のいずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本願は、2017年1月31日に出願された米国仮特許出願番号第62/452,769号、2017年4月14
日に出願された第62/485,655号、2017年7月6日に出願された第62/529,366号、2017年10月
31日に出願された第62/579,690号、2018年1月11日に出願された第62/616,234号の恩典を
主張し、これらはその全体が参照により本明細書に組み込まれている。
(電子的に提出された配列表の参照)
本願は、2018年1月16日に作成されて、80,541バイトのサイズを有する「Sequence_List
ing_12656-106-228.txt」という名のテキストファイルとして本願とともに提出された配
列表を参照により組み込む。
【0002】
(1. 導入)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の中枢神経系(CNS)の脳脊髄液に、完全ヒ
トグリコシル化(HuGly)α-L-イズロニダーゼ(IDUA)を送達するための組成物及び方法を記
載する。
【背景技術】
【0003】
(2. 発明の背景)
ムコ多糖症I型(MPS I)は、発生率が100,000件の出生のうち1件と推定されている稀な劣
性遺伝疾患である(Moore Dらの文献、2008、Orphanet Journal of Rare Diseases 3)。MP
S Iは遍在する複合多糖類、ヘパラン硫酸及びデルマタン硫酸のリソソーム異化に必要な
酵素である、α-l-イズロニダーゼ(IDUA)の欠損によって生じる。これらの多糖類はグリ
コサミノグリカン(GAG)と呼ばれ、MPS I患者の組織に蓄積されて、特徴的な貯蔵病変及び
多様な疾患後遺症をもたらす。患者は、低身長、骨及び関節の変形、顔の特徴の粗雑化、
肝脾腫、心臓弁膜疾患、閉塞性睡眠無呼吸、再発性上気道感染症、聴覚障害、手根管症候
群及び角膜混濁による視覚障害を示し得る(Beck Mらの文献、2014、「MPS Iの自然史: MP
S Iの記録からの全体的な展望(The natural history of MPS I: global perspectives fr
om the MPS I Registry)」、Genetics in medicine: official journal of the American
College of Medical Genetics 16(10):759-765)。さらに、多くの患者は水頭症、脊髄圧
迫症、及び一部の患者では認知障害を含み得る中枢神経系におおけるGAGの貯蔵に関連し
た症状を発症する。
【0004】
MPS I患者は、広い範囲の疾患重症度及びCNS病変の程度に及ぶ。この重症度の多様性は
、残存するIDUAの発現と相関する;活性を有する酵素の発現を喪失させる2つの突然変異―
ナンセンス変異、欠失、及び何らかのミスセンス変異を含む―を有する患者は、典型的に
2歳になる前に症状を示し、正常な発達初期の後に例外なく重度の認知機能低下を示す(Te
rlato NJ及びCox GFの文献、2003、Genetics in Medicine: official journal of the Am
erican College of Medical Genetics 5(4):286-294)。この重度の形態のMPS Iは、ハー
ラー(H)症候群とも呼ばれる。少量の活性あるIDUAの生産をもたらす少なくとも1つの突然
変異を有する患者は、ハーラー-シャイエ(HS)症候群又はシャイエ症候群と呼ばれる減弱
型表現形を示す。これらの患者は、幼小期の初期に症状を示し得るか、又は人生の最初の
10年を経た後まで識別し得ない。概して発症が遅れ、重症度が低下し得るものの、減弱型
形態のMPS Iを有する患者は、ハーラー症候群を有する患者と同じあらゆる身体特徴を経
験し得る(Vijay S及びWraith JEの文献、2005、Acta Paediatrica 94(7):872-877)。また
、減弱型MPS Iを有する患者は、高い割合で脊髄圧迫症及び水頭症を含む神経学的合併症
を経験する。減弱型MPS Iを有すると分類された患者のおよそ30%において、認知障害が報
告されている(Beck Mらの文献、2014、Genetics in medicine: official journal of the
American College of Medical Genetics 16(10):759-765)。
【0005】
酵素補充療法(ERT)[Aldurazyme(登録商標) (ラロニダーゼ)]は、MPS Iの全身症状の標
準治療として認められているが、CNS徴候を治療しない(de Ru MHらの文献、2011、Orphan
et Journal of Rare Diseases 6:9; Wraith JEらの文献、2007, Pediatrics 120(1): E37
-E46)。造血幹細胞移植(HSCT)は実際MPS Iの神経認知症状に影響を与えるが、手順に重大
な制約がある。MPS IのためのHSCTは相当な病的状態及び最大20%の死亡率に関連付けられ
、IDUA発現が安定してもなお患者はHSCTの最長1年後に神経認知機能の低下に直面するた
め、治療は不完全である(de Ru MHらの文献、2011、Orphanet Journal of Rare Diseases
6:9; Fleming DRらの文献、1998、Pediatric transplantation 2(4):299-304; Boelens
JJらの文献、2007、Bone Marrow Transplantation 40(3):225-233; Souillet Gらの文献
、2003、Bone Marrow Transplantation 31(12):1105-1117; Whitley CBらの文献、1993、
American Journal of Medical Genetics 46(2):209-218)。移植に成功した患者において
、知性は典型的に正常より顕著に下回ったままである。
【発明の概要】
【0006】
(3. 発明の概要)
本発明はハーラー、ハーラー-シャイエ又はシャイエ症候群と診断された患者を含むが
、これらに限定されないムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の中枢神経系の脳脊
髄液(CSF)に完全ヒトグリコシル化(HuGly)α-L-イズロニダーゼ(HuGlyIDUA)を送達するこ
とを含む。好ましい実施態様において、治療は遺伝子治療を介して―例えば、ヒトIDUA(h
IDUA)又はhIDUAの誘導体をコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクト
をMPS Iと診断された患者(ヒト対象)のCSFに投与して、絶えず完全ヒトグリコシル化導入
遺伝子産物をCNSに供給する形質導入細胞の永続的なデポーを生成することにより―達成
される。デポーからCSFに分泌されるHuGlyIDUAは、CNS中の細胞によってエンドサイトー
シスされて、レシピエント細胞における酵素欠陥を「横断修正(cross-correction)」する
。代替の実施態様において、HuGlyIDUAを細胞培養で生産して、酵素補充療法(「ERT」)と
して、例えば酵素を注入することにより投与することができる。しかしながら、遺伝子治
療アプローチはERTを上回るいくつかの利点を提供する―酵素は血液脳関門を通過するこ
とができないため、酵素の全身送達によってはCNSは治療されず;かつ本発明の遺伝子治療
アプローチとは異なり、CNSへの酵素の直接の送達には、大きな負担となるだけでなく感
染のリスクを生む反復注入が必要となるであろう。
【0007】
導入遺伝子によってコードされるHuGlyIDUAは、これらに限定はされないが、配列番号:
1のアミノ酸配列を有するヒトIDUA(hIDUA)(図1に示す)、及びアミノ酸の置換、欠失、又
は付加を有する、例えばこれらに限定はされないが、図2に示すIDUAのオーソログ中に対
応する非保存的残基から選択されるアミノ酸置換を含む(ただし、そのような突然変異が
図3に示す(その全体が参照により本明細書に組み込まれているSaitoらの文献、2014、Mol
Genet Metab 111:107-112、57個のMPS I突然変異を列記する表1より);又はその各々の
全体が参照により本明細書に組み込まれているVenturiらの文献、2002、Human Mutation
#522 Online(「Venturi 2002」)、若しくはBertolaらの文献、2011、Human Mutation 32:
E2189-E2210(「Bertola 2011」)によって報告された重度の、中程度に重度の、中程度の
、又は減弱型MPS I表現形において同定されたいずれの突然変異も含まないことを条件と
する)hIDUAの誘導体を含み得る。
【0008】
例えば、hIDUAの特定位置でのアミノ酸置換は図2(その全体が参照により本明細書に組
み込まれているMaitaらの文献、2013、PNAS 110:14628、図S8に報告されたオーソログの
アラインメントを示す)に表されるIDUAオーソログにおけるその位置に見出される対応す
る非保存的アミノ酸残基から選択することができる(ただし、そのような置換は図3に示さ
れるか、又は上記Venturi 2002若しくはBertola 2011において報告される有害な突然変異
のいずれも含まないことを条件とする)。結果として得られる導入遺伝子産物は、細胞培
養又は試験動物で、突然変異がIDUA機能を損なわないことを保証するためのインビトロで
の従来のアッセイを使用して試験することができる。選択される好ましいアミノ酸置換、
欠失又は付加は、細胞培養又は動物モデルにおけるMPS Iのためのインビトロでの従来の
アッセイによって試験されるIDUAの酵素活性、安定性、又は半減期を維持するか、又は増
加させるものとするべきである。例えば、導入遺伝子産物の酵素活性は基質として4-メチ
ルウンベリフェリルα-L-イズロニドを用いる従来の酵素アッセイを使用して評価するこ
とができる(使用可能な例示的なIDUA酵素アッセイについては、例えばその各々の全体が
参照により本明細書に組み込まれている、Hopwoodらの文献、1979、Clin Chim Acta 92:
257-265; Clementsらの文献、1985、Eur J Biochem 152: 21-28;及びKakkisらの文献、19
94、Prot Exp Purif 5:225-232を参照されたい)。導入遺伝子産物がMPS I表現形を修正す
る能力は;例えば、培養中でMPS I細胞にhIDUA又は誘導体をコードするウイルスベクター
又は他のDNA発現コンストラクトを形質導入することにより; 培養中のMPS I細胞にrHuGly
IDUA又は誘導体を加えることにより;あるいはMPS I細胞を rHuGlyIDUA又は誘導体を発現
及び分泌するように操作したヒト宿主細胞と共培養して、MPS I培養細胞の欠陥の修正を
決定することにより、例えば培養中のMPS I細胞におけるIDUA酵素活性及び/又はGAG貯蔵
量の低下を検出することにより、細胞培養中で評価することができる(例えば、その各々
の全体が参照により本明細書に組み込まれているMyerowitz及びNeufeldの文献、1981、J
Biol Chem 256: 3044-3048;並びにAnsonらの文献1992、Hum Gene Ther 3: 371-379を参照
されたい)。
【0009】
MPS Iのための動物モデルは、マウス(例えば、Clarkeらの文献、1997、Hum Mol Genet
6(4):503-511を参照されたい)、雑種のイエネコ(例えば、Haskinsらの文献、1979、Pedia
tr Res 13(11):1294-97を参照されたい)、及びいくつかの品種のイヌ(例えば、Menonらの
文献、1992、Genomics 14(3):763-768; Shullらの文献、1982、Am J Pathol 109(2):244-
248を参照されたい)について記載されている。イヌのMPS Iモデルは、IDUA突然変異によ
り検出可能なタンパク質が喪失するため、MPS Iの最も重度の形態であるハーラー症候群
に類似している。IDUAタンパク質間の遺伝子相同性が高いこと(図2のアラインメントを参
照されたい)は、hIDUAが動物において機能的であることを意味し、hIDUAを包含する治療
はこれらの動物モデルで試験することができる。
【0010】
好ましくは、rHuGlyIDUA導入遺伝子は、神経細胞及び/又はグリア細胞において機能す
る発現制御エレメント、例えば、CB7プロモーター(ニワトリβ-アクチンプロモーター及
びCMVエンハンサー)によって制御されるべきであり、かつベクターによって駆動される導
入遺伝子の発現を増強する他の発現制御エレメント(例えば、ニワトリβ-アクチンイント
ロン及びウサギβ-グロビンポリAシグナル)を含むことができる。hIDUA導入遺伝子のため
のcDNAコンストラクトには、形質導入されたCNS細胞による適切な翻訳中(co-translation
al)及び翻訳後プロセシング(グリコシル化及びタンパク質硫酸化)を保証するシグナルペ
プチドのためのコード配列を含めるべきである。CNS細胞によって使用されるそのような
シグナルペプチドには:
・オリゴデンドロサイト-ミエリン糖タンパク質(hOMG)シグナルペプチド:
【化1】
・E1A刺激を受けた遺伝子の細胞リプレッサー2(hCREG2)シグナルペプチド:
【化2】
・V-セット及び膜貫通ドメイン含有2B(hVSTM2B)シグナルペプチド:
【化3】
・プロトカドヘリンα-1(hPCADHA1)シグナルペプチド:
【化4】
・FAM19A1(TAFA1)シグナルペプチド:
【化5】
・インターロイキン-2シグナルペプチド:
【化6】
があり得るが、これらに限定されない。
シグナルペプチドは本明細書において、リーダー配列又はリーダーペプチドとも呼ぶこ
とができる。
【0011】
導入遺伝子を送達するために使用される組換えベクターは、神経細胞及び/又はグリア
細胞を含むがこれらに限定される、CNSの細胞への向性を有するべきである。そのような
ベクターは非複製組換えアデノ随伴ウイルスベクター(「rAAV」)を含むことができ、特に
AAV9又はAAVrh10キャプシドを有するウイルスベクターが好ましい。その全体が参照によ
り本明細書に組み込まれている米国特許第7,906,111号においてWilsonによって記載され
た、特に好ましくはAAV/hu.31、及びAAV/hu.32を有するキャプシドを含むが、これらに限
定されないAAVバリアントキャプシド;並びにその各々の全体が参照により本明細書に組み
込まれている米国特許第8,628,966号、米国特許第8,927,514号及びSmithらの文献、2014
、Mol Ther 22:1625-1634においてChatterjeeによって記載されたAAVバリアントキャプシ
ドを使用することができる。しかしながら、「ネイキッドDNA」コンストラクト(5.2節を
参照されたい)と呼ばれるレンチウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター又は非
ウイルス性発現ベクターを含むがこれらに限定されない、他のウイルスベクターを使用す
ることができる。
【0012】
CSFへの投与に好適な医薬組成物は、生理的に適合性の水性緩衝剤、界面活性剤、及び
任意の賦形剤を含む製剤化緩衝液中のrHuGlyIDUAベクターの懸濁液を含む。ある実施態様
において、医薬組成物は、くも膜下腔内投与に好適である。ある実施態様において、医薬
組成物は、大槽内投与(大槽への注入)に好適である。ある実施態様において、医薬組成物
は、C1-2穿刺を介するくも膜下空間への注入に好適である。ある実施態様において、医薬
組成物は、脳室内投与に好適である。ある実施態様において、医薬組成物は、腰椎穿刺を
介する投与に好適である。
【0013】
組換えベクターの治療有効用量は、くも膜下腔内投与を介して(すなわち、くも膜下空
間に注入して、組換えベクターがCSFを通じて散布され、CNSの細胞が形質導入されるよう
にする)、CSFに投与すべきである。このことは、いくつかの方法で―例えば、頭蓋内(大
槽又は脳室)注入、又は腰椎槽への注入によって―達成することができる。例えば、(大槽
への)大槽内(IC)注入は、CTによって導かれる後頭下穿刺によって実施することができ;又
は、患者に実行できそうな場合は、C1-2穿刺を介したくも膜下空間への注入を実施するこ
とができ;又は、腰椎穿刺(典型的にCSFの試料を収集するために実施される診断手順)を、
CSFにアクセスするために使用することができる。あるいは、脳室内(ICV)投与(血液脳関
門を透過しない、抗感染性又は抗癌性の薬物の導入に使用されるより侵襲的な技術)を使
用して、組換えベクターを直接脳室内に点滴することができる。あるいは、鼻腔内投与を
使用して、CNSに組換えベクターを送達するために用いてもよい。rHuGlyIDUAのCSF濃度を
少なくとも9.25 μg/mLのCminに維持する用量又は9.25~277 μg/mLの範囲内の濃度を使
用すべきである。
【0014】
CSF濃度は後頭部又は腰椎穿刺から得られるCSF流体中のrHuGlyIDUAの濃度を直接測定す
ることによってモニタリングし、又は患者の血清において検出されたrHuGlyIDUAの濃度か
ら外挿によって推定することができる。ある実施態様において、血清中のrHuGlyIDUAが10
ng/mL~100 ng/mLであることは、CSF中のrHuGlyIDUAが1~30 mgであることを示す。ある
実施態様において、組換えベクターは、血清中のrHuGlyIDUAを10 ng/mL~100 ng/mLに維
持する用量で、CSFに投与する。
【0015】
背景として、ヒトIDUAは、653アミノ酸のポリペプチドとして翻訳され、図1において表
される6つの可能性のある部位(N110、N190、N336、N372、N415、及びN451)でN-グリコシ
ル化される。シグナル配列が除去され、ポリペプチドはリソソーム内で成熟形態にプロセ
シングされる: 75 kDaの細胞内前駆体は数時間で72 kDaまでトリミングされ、最終的に、
4~5日かけて66 kDaの細胞内形態にプロセシングされる。IDUAの分泌形態(使用するアッ
セイに応じて76 kDa又は82 kDa)はマンノース-6-リン酸受容体を介して細胞に容易にエン
ドサイトーシスされ、より小さい細胞内形態と同様にプロセシングされる。(その各々の
全体が参照により本明細書に組み込まれている、Myerowitz及びNeufeldの文献、1981、J
Biol Chem 256: 3044-3048; Clementsらの文献、1989、Biochem J. 259: 199-208; Taylo
rらの文献、1991、Biochem J. 274: 263-268;及びZhaoらの文献、1997、J Biol Chem 272
:22758-22765を参照されたい)。
【0016】
hIDUAの全体の構造は、3つのドメインからなる:残基42-396は、古典的な(β/α)トリオ
ースリン酸イソメラーゼ(TIM)バレルドメインを形成し;残基27-42及び397-545は、短いへ
リックス-ループ-へリックス(482-508)を有するβ-サンドイッチドメインを形成し;かつ
残基546-642は、Ig様ドメインを形成する。最後に挙げた2つのドメインは、C541及びC577
の間のジスルフィド架橋によって連結される。β-サンドイッチ及びIg様ドメインは、TIM
バレルの1番目、7番目、及び8番目のα-へリックスに結合される。β-ヘアピン(β12-β1
3)はTIMバレルの8番目のβ-ストランド及び8番目のα-へリックスの間に挿入され、これ
は基質結合及び酵素活性に要求されるN-グリコシル化N372を含む。(図1及びその各々の全
体が参照により本明細書に組み込まれているMaitaらの文献、2013、PNAS 110: 14628-146
33及びSaitoらの文献、2014 Mol Genet Metab 111:107-112に記載の結晶構造を参照され
たい)。
【0017】
本発明は部分的に、以下の原理に基づく:
(i) CNSの神経細胞及びグリア細胞はCNSにおける活発なプロセスであるグリコシル化及び
チロシン-O-硫酸化を含む分泌タンパク質の翻訳後プロセシングのための細胞機構を有す
る分泌細胞である。ヒトCNS細胞が行う翻訳後修飾についての、その各々の全体が参照に
より組み込まれている、例えばヒト脳マンノース-6-リン酸(M6P)グリコプロテオームにつ
いて記載され、脳が他の組織に見出されるよりはるかに多くの個々のアイソフォームを有
するより多くのタンパク質及びマンノース-6-リン酸化タンパク質を含むことを注記した
、Sleatらの文献、2005、Proteomics 5: 1520-1532及びSleatの文献、1996、J Biol Chem
271:19191-98;並びに神経細胞によって分泌されたチロシン硫酸化糖タンパク質の生産を
報告しているKananらの文献、2009、Exp. Eye Res. 89: 559-567並びにKanan及びAl-Ubai
diの文献、2015 Exp. Eye Res. 133: 126-131を参照されたい。
(ii) hIDUAは、図1と特定される6つのアスパラギン(「N」)のグリコシル化部位を有する(
N110FT; N190VS; N336TT; N372NT; N415HT; N451RS)。N372のN-グリコシル化は基質との
結合及び酵素活性に要求され、かつマンノース-6-リン酸化は分泌された酵素の細胞取り
込み及びMPS I細胞の横断修正に要求される。N-結合型グリコシル化部位は複雑なハイマ
ンノース、リン酸化マンノース糖質部分を含むが(図4)、分泌形態のみが細胞によって取
り込まれる(上記Myerowitz及びNeufeldの文献、1981)。本明細書に記載の遺伝子治療アプ
ローチは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって測定して(使用するアッセイに応じ
て)76~82 kDaの2,6-シアル酸付加され、かつマンノース-6リン酸化されたIDUA糖タンパ
ク質が絶えず分泌されるべきである。分泌されたグリコシル化/リン酸化IDUAは、CNSの形
質導入されていない神経細胞及びグリア細胞によって取り込まれ、かつ正しくプロセシン
グされるべきである。
(iii) リソソームタンパク質の細胞性及び細胞内輸送/取り込みは、M6Pを介する。Daniel
eの文献、2002、Biochimica et Biophysica Acta 1588(3):203-9においてイズロネート-2
-スルファターゼ酵素について行われたように、分泌タンパク質のM6P含有量を測定するこ
とは、可能である。(例えば、5mMの)抑制性M6Pの存在下では、非神経細胞又は非グリア細
胞、例えばDaniele の文献、2002の遺伝子操作された腎細胞によって生成された酵素前駆
体の取り込みは、Danieleの文献、2002に示されたように、対照細胞のレベルに近いレベ
ルまで減少すると予測される。抑制性M6Pの存在下であっても、脳細胞、例えば神経細胞
及びグリア細胞によって生成される酵素前駆体の取り込みは、取り込み量が対照細胞より
4倍高く、抑制性M6Pの非存在下で遺伝子操作された腎細胞によって生成された酵素前駆体
の酵素活性(すなわち、取り込み)のレベルと同等であったDanieleの文献、2002に示され
たように高レベルを維持すると予測される。このアッセイを用いると、脳細胞によって生
成される酵素前駆体のM6P含有量を予測し、特に異なる種類の細胞によって生成される酵
素前駆体中のM6P含有量を比較することが可能となる。本明細書に記載の遺伝子治療アプ
ローチは、そのようなアッセイにおいて抑制性M6Pの存在下、高レベルで神経細胞及びグ
リア細胞に取り込まれ得る、hIDUAの継続的分泌をもたらすべきである。
(iv) N-結合型グリコシル化部位に加えて、hIDUAは、結合及び活性のために要求されるN3
72を含むドメインの近くに、チロシン(「Y」)硫酸化部位
【化7】
を含む。(例えば、その全体が参照により組み込まれている、タンパク質チロシン硫酸化
を受けるチロシン残基を取り巻くアミノ酸の解析についてのYangらの文献、2015、Molecu
les 20:2138-2164、特にp. 2154を参照されたい。「規則」は、以下の通りに要約するこ
とができる: Y残基がYから+5~-5位の範囲内にE又はDを有し、かつYの-1位が中性又は酸
性荷電アミノ酸であるが―硫酸化を無効化する塩基性アミノ酸、例えばR、K、又はHでは
ない)。いかなる理論に束縛されることも意図するものではないが、チロシン硫酸化領域
内の突然変異(例えば、W306L)が酵素活性の減少及び疾患と関連することは公知であるた
め、hIDUAのこの部位の硫酸化は活性にきわめて重要となり得る。(Maitaらの文献、2013
、PNAS 110:14628、pp. 14632-14633を参照されたい)。
(v) CNSのヒト細胞によるhIDUAのグリコシル化により、安定性、半減期を向上させ、かつ
導入遺伝子産物の望まない凝集を減らすことができるグリカンが付加される。大事なこと
に、本発明のHuGlyIDUAに付加されるグリカンは2,6-シアル酸を含み、Neu5Ac(「NANA」)
を組み込むが、そのヒドロキシル化誘導体NeuGc(N-グリコリルノイラミン酸、すなわち「
NGNA」又は「Neu5Gc」)を組み込まない高度にプロセシングされた複合型二分岐N-グリカ
ンである。そのようなグリカンはこの翻訳後修飾を行うのに要求される2,6-シアリルトラ
ンスフェラーゼを有さず、バイセクティングGlcNAcも生産しないが、Neu5Ac(NANA)の代わ
りにヒトにとって典型的でない(かつ潜在的に免疫原性の)シアル酸であるNeu5Gc(NGNA)を
付加するCHO細胞において生産されるラロニダーゼには存在しない。例えば、Dumontらの
文献、2016、Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122(早期オンラインpp. 1-13、p. 5
);及びHagueらの文献、1998、Electrophor 19:2612-2630(「CHO細胞株は、α2,6-シアリ
ルトランスフェラーゼの欠如のため、グリコシル化に関して『表現形上制限されている』
と考えられている」)。さらに、CHO細胞は大部分の個体に存在する抗α-Gal抗体と反応し
て、高濃度でアナフィラキシーを誘発し得る免疫原性グリカン、α-Gal抗原も生産し得る
。例えば、Bosquesの文献、2010、Nat Biotech 28: 1153-1156を参照されたい。本発明の
HuGlyIDUAのヒトグリコシル化パターンは、導入遺伝子産物の免疫原性を低下させ、かつ
効力を向上させるべきである。
(vi) hIDUA のチロシン硫酸化―ヒトCNS細胞の活発な翻訳後プロセス―は、導入遺伝子産
物のプロセシング及び活性を向上させるべきである。リソソームタンパク質のチロシン硫
酸化の意義は、明らかにされていない;しかし、他のタンパク質では、チロシン硫酸化に
より、タンパク質-タンパク質相互作用(抗体及び受容体)の親和性が増加し、タンパク質
分解プロセシング(ペプチドホルモン)が促進されることが示されている。(Mooreの文献、
2003、J Biol. Chem. 278:24243-46;及びBundegaardらの文献、1995、EMBO J 14: 3073-7
9を参照されたい)。チロシン硫酸化(IDUAのプロセシングの最終ステップとして起こる場
合がある)を担うチロシンタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST1)は、明らかに脳(T
PST1のための遺伝子発現データは、例えば、http://www.ebi.ac.uk/gxa/homeにてアクセ
ス可能なEMBL-EBI Expression Atlasに見出すことができる)でより高いレベル(mRNAに基
づいて)で発現する。そのような翻訳後修飾は、最高でもCHO細胞の生産物であるラロニダ
ーゼにおいて過少に示される。ヒトCNS細胞とは異なり、CHO細胞は、分泌細胞ではなく、
翻訳後のチロシン-硫酸化能が限られている。(例えばMikkelsen及びEzbanの文献、1991、
Biochemistry 30: 1533-1537、特に1537ページの考察を参照されたい)。
(vii) 導入遺伝子産物の免疫原性は、患者の免疫状態、注入されたタンパク質薬物の構造
及び特徴、投与経路、及び治療の持続時間を含む様々な因子によって誘導され得る。プロ
セス関連不純物、例えば宿主細胞タンパク質(HCP)は宿主細胞DNA、及び化学的残留物、並
びに生産物関連不純物、例えばタンパク質分解物及び構造特徴、例えばグリコシル化、酸
化及び凝集(肉眼不可視粒子)は免疫反応を増強するアジュバントとしての機能を果たすこ
とによって免疫原性を増加させる場合がある。プロセス関連及び生産物関連不純物の量は
、製造プロセス:商業的に製造されるIDUA産物に影響を及ぼし得る細胞培養、精製、製剤
化、保存、及び取扱いの影響を受け得る。遺伝子治療では、タンパク質はインビボで生産
され、その結果プロセス関連不純物は存在せず、タンパク質産物は組換え技術によって生
産されるタンパク質と関連した生産物関連不純物/分解物、例えばタンパク質凝集物及び
タンパク質酸化物を含む可能性は低い。凝集は、例えばタンパク質生産及び保存と関連づ
けられ、高いタンパク質濃度、製造装置及び容器との表面相互作用、並びに特定の緩衝液
システムを用いた精製プロセスに起因する。しかし、導入遺伝子をインビボで発現させる
場合、凝集を促進するこれらの条件は存在しない。また、酸化、例えばメチオニン、トリ
プトファン、及びヒスチジンの酸化は、タンパク質生産及び保存と関連付けられ、例えば
ストレス負荷された細胞培養条件、金属及び空気との接触、並びに緩衝液及び賦形剤中の
不純物によって引き起こされる。インビボで発現されるタンパク質は、ストレス負荷され
た条件下で酸化され得るが、ヒトは多くの生物と同様に、抗酸化防衛システムを備えてお
り、それにより酸化ストレスが低下するだけでなく、酸化を修復し、かつ/又は逆行させ
もする。従って、インビボで生産されるタンパク質が、酸化形態にある可能性は低い。凝
集及び酸化は両方とも、効力、PK(クリアランス)に影響を及ぼし得、免疫原となる懸念を
大きくし得る。本明細書に記載の遺伝子治療アプローチは、商業的に製造された産物と比
較して免疫原性の低下したhIDUAを絶えず分泌するべきである。
【0018】
前述の理由のために、HuGlyIDUAの生産は―例えば、MPS I疾患(ハーラー、ハーラー-シ
ャイエ又はシャイエを含むが、これらに限定はされない)と診断される患者(ヒト対象)のC
SFにHuGlyIDUAをコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトを投与して
、形質導入されたCNS細胞によって分泌される完全ヒトグリコシル化、マンノース-6-リン
酸化、硫酸化導入遺伝子産物を絶えず供給するCNS中の永続的なデポーを作製することに
よる―遺伝子治療によって達成されるMPS Iの治療のための「バイオベター(biobetter)」
分子をもたらすべきである。デポーからCSF中に分泌されるHuGlyIDUA導入遺伝子産物は、
CNS中の細胞によりエンドサイトーシスされ、MPS Iレシピエント細胞における酵素欠陥の
「横断修正」をもたらす。
【0019】
遺伝子治療又はタンパク質治療アプローチにおいて生産されるすべてのhIDUA分子が完
全にグリコシル化され、硫酸化されることは、必須ではない。むしろ、生じる糖タンパク
質の集団は、有効性を実証するのに十分なグリコシル化(2,6-シアル酸付加及びマンノー
ス-6-リン酸化を含む)及び硫酸化を受けるべきである。本発明の遺伝子治療処置の目的は
、疾患の進行を減速させ、又は停止させることである。有効性は、認知機能(例えば、神
経認知機能の低下の防止若しくは減少);CSF及び/若しくは血清中の疾患バイオマーカー(
例えばGAG)の低下;及び/又は、CSF及び/若しくは血清のIDUA酵素活性の増加を測定するこ
とによってモニタリングすることができる。炎症の徴候及び他の安全事象をモニタリング
することもできる。
【0020】
遺伝子治療に対する代替又は追加治療として、rHuGlyIDUA糖タンパク質は組換えDNA技
術によってヒト細胞株で生産することができ、糖タンパク質は全身的に及び/又はERTのた
めのCSFにMPS Iと診断された患者に投与することができる。そのような組換え糖タンパク
質生産のために使用することができるヒト細胞株は、これらに限定されないが、少し例を
挙げればHT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、ReNcell VM、ヒト胎
児腎293細胞(HEK293)、線維肉腫HT-1080、HKB-11、CAP、HuH-7、網膜細胞株、PER.C6、又
はRPEを含む(例えば、その全体が参照により組み込まれている、rHuGlyIDUA糖タンパク質
の組換え生産のために使用することができるヒト細胞株の総説についてのDumontらの文献
、2016、Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122の「生物医薬製造のためのヒト細胞
株:歴史、現状、及び将来の展望(Human cell lines for biopharmaceutical manufacturi
ng: history, status, and future perspectives)」)。完全なグリコシル化、特にシアル
酸付加及びチロシン硫酸化を保証するために、生産に使用する細胞株をチロシン-O-硫酸
化を担うα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ(又はα-2,3-及びα-2,6-シアリルトランス
フェラーゼの両方)並びに/又はTPST-1及びTPST-2酵素を共発現するように宿主細胞を操作
することによって強化することができる。
【0021】
rHuGlyIDUAの送達が免疫反応を最小化すべきである一方、CNS関連遺伝子治療に関する
毒性の最も明白な潜在的源は遺伝的にIDUAを欠損しており、従ってタンパク質及び/又は
導入遺伝子を送達するために用いるベクターを潜在的に寛容しないヒト対象において発現
されたhIDUAタンパク質に対する免疫が発生することである。
【0022】
従って、好ましい実施態様において、患者を免疫抑制治療で共治療することは―特にID
UAのレベルが0に近い重度の疾患(例えば、ハーラー)を有する患者を治療する場合に―適
切である。タクロリムス又はラパマイシン(シロリムス)を、例えばミコフェノール酸と組
合わせた、若しくはプレドニゾロン及び/若しくはメチルプレドニゾロンなどのコルチコ
ステロイドと組合わせたレジメン、又は組織移植手順において使用される他の免疫抑制レ
ジメンを伴う免疫抑制治療を、利用することができる。そのような免疫抑制治療は遺伝子
治療クール中に投与することができ、ある実施態様において、免疫抑制治療による前処理
が好ましい場合がある。免疫抑制治療は治療医師の判断に基づいて、遺伝子治療処置の後
も継続することができ、その後免疫寛容が誘発された場合:例えば、180日後に、中止す
ることができる。
【0023】
他の利用可能な治療の送達を伴うCSFへのHuGlyIDUAの送達の組合せは、本発明の方法に
包含される。追加治療は、遺伝子治療処置の前に、それと同時に、又はその後に投与する
ことができる。本発明の遺伝子治療と併用することができるMPS Iのための利用可能な治
療には、これらに限定はされないが、全身的に、若しくはCSFに投与されるラロニダーゼ
を使用する酵素補充療法及び/又はHSCT療法がある。
(例示的実施態様)
1. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の脳の
脳脊髄液にヒト神経細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトα-L-イズロニダー
ゼ(IDUA)を送達することを含む、前記方法。
2.MPS Iと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の脳の脳脊髄液にヒトグ
リア細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトIDUAを送達することを含む、前記方
法。
3. ヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、か
つその後も免疫抑制治療を継続することをさらに含む、段落1又は2記載の方法。
4. MPS Iと診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のα2,6-シアル酸付加ヒトIDUAを送達すること
を含む、前記方法。
5. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGcを含まない治療有効量のグリコシル化ヒ
トIDUAを送達することを含む、前記方法。
6. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない治療有効
量のグリコシル化ヒトIDUAを送達すること;並びに
該ヒトIDUAによる治療の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
7. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液にチロシン硫酸化を含む治療有効量のヒトIDUAを送達するこ
とを含む、前記方法。
8. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUA
がヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にα2,6-シアル酸付加さ
れる、前記投与することを含む、前記方法。
9. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUA
がヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にグリコシル化されるが
検出可能なNeuGcを含まない、前記投与することを含む、前記方法。
10. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUA
がヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にグリコシル化されるが
検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない、前記投与することを含む、前記方法。
11. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUA
がヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にチロシン硫酸化される
、前記投与することを含む、前記方法。
12. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該IDUA
を放出するデポーが形成される、前記投与することを含む、前記方法。
13. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリコシル化
ヒトIDUAを放出するデポーが形成される、前記投与することを含む、前記方法。
14. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含
まないグリコシル化ヒトIDUAを放出するデポーが形成される、前記投与することを含む、
前記方法。
15. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果チロシン硫酸化を含む該IDUAを放出するデ
ポーが形成される、前記投与することを含む、前記方法。
16. 前記ヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に(a) タクロリムス及びミコフェノ
ール酸、(b) ラパマイシン及びミコフェノール酸、又は(c) タクロリムス、ラパマイシン
、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン及び/若しくはメチルプレドニゾロン
の組合わせを前記対象に投与し、かつその後継続することを含む、該対象に免疫抑制治療
を施すことをさらに含む、段落3~15のいずれか1つ記載の方法。
17. 前記免疫抑制治療を180日後に中止する、段落16記載の方法。
18. 前記ヒトIDUAが配列番号:1のアミノ酸配列を含む、段落1~17のいずれか1つ記載の方
法。
19.前記ヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に(a) タクロリムス及びミコフェノ
ール酸、(b) ラパマイシン及びミコフェノール酸、又は(c) タクロリムス、ラパマイシン
、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン及び/若しくはメチルプレドニゾロン
の組合わせを前記対象に投与することを含む、該対象に免疫抑制治療を施すことをさらに
含む、段落18記載の方法。
20. 前記免疫抑制治療を180日後に中止する、段落19記載の方法。
21. α2,6-シアル酸付加グリカンを含む前記IDUAの生産を、細胞培養中でヒト神経細胞株
を前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認する、段落
12記載の方法。
22. 検出可能なNeuGcを含まない前記グリコシル化IDUAの生産を、細胞培養中でヒト神経
細胞株を前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認する
、段落13記載の方法。
23. 検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない前記グリコシル化IDUAの生産を、細
胞培養中でヒト神経細胞株を前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入する
ことにより確認する、段落14記載の方法。
24. チロシン硫酸化を含む前記IDUAの生産を、細胞培養中でヒト神経細胞株を前記組換え
ヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認する、段落15記載の方法

25. 生産をマンノース-6-リン酸の存在下及び非存在下で確認する、段落21~24のいずれ
か1つ記載の方法。
26. 前記発現ベクター又は組換えヌクレオチド発現ベクターが、シグナルペプチドをコ
ードする、段落8~15及び21~25のいずれか1つ記載の方法、又は請求項8~15のいずれか1
つに直接的若しくは間接的に従属する場合の段落16~17のいずれか1項記載の方法。
27. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該IDUA
を放出するデポーが形成される、前記投与することを含み、
ここで該組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細
胞培養中で該α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該IDUAを生産する、前記方法。
28. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリコシル化I
DUAを放出するデポーが形成される、前記投与することを含み、ここで該組換えベクター
は、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細胞培養中でグリコシル化さ
れるが検出可能なNeuGcを含まない該IDUAを生産する、前記方法。
29. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含
まないグリコシル化IDUAを放出するデポーが形成される、前記投与することを含み、ここ
で該組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細胞培養
中でグリコシル化されるが検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない該IDUAを生産
する、前記方法。
30. ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果チロシン硫酸化を含む該IDUAを放出するデ
ポーが形成される、前記投与することを含み、
ここで該組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細
胞培養中でチロシン硫酸化された該IDUAを生産する、前記方法。
31. 前記ヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に(a) タクロリムス及びミコフェノ
ール酸、(b) ラパマイシン及びミコフェノール酸、又は(c) タクロリムス、ラパマイシン
、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン及び/若しくはメチルプレドニゾロン
の組合わせを前記対象に投与し、かつその後継続することを含む、該対象に免疫抑制治療
を施すことをさらに含む、段落27~30のいずれか1つ記載の方法。
32. 前記免疫抑制治療を180日後に中止する、段落31記載の方法。
33. 前記ヒト対象が3歳未満である、段落1~32のいずれか1つ記載の方法。
34. 前記ヒト対象が3歳未満であり、前記発現ベクター又は前記組換えヌクレオチド発現
ベクターが1×1010 GC/g脳質量又は5×1010 GC/g脳質量の用量(例えば、単一の一定用量
として)で投与される(例えば、IC投与(例えば、後頭下注入により))、段落8~15及び21~
33のいずれか1つ記載の方法、又は請求項8~15のいずれか1つに直接的若しくは間接的に
従属する場合の段落16~20のいずれか1つ記載の方法。
35. 前記ヒト対象が3歳未満であり、前記発現ベクター又は前記組換えヌクレオチド発現
ベクターが1×1010 GC/g脳質量~5×1010 GC/g脳質量の範囲の用量(例えば、単一の一定
用量として)で投与される(例えば、IC投与(例えば、後頭下注入により))、段落8~15及び
21~33のいずれか1つ記載の方法、又は請求項8~15のいずれか1つに直接的若しくは間接
的に従属する場合の段落16~20のいずれか1つ記載の方法。
【図面の簡単な説明】
【0024】
(4. 図面の簡単な説明)
図1】ヒトIDUAのアミノ酸配列。6つのN-結合型グリコシル化部位(N)は、太字にして下線を引いてある;1つのチロシン-O-硫酸化部位(Y)は太字にして下線を引き、完全な硫酸化部位配列
【化8】
は陰影をつけてある;かつジスルフィド結合(2つのシステイン残基;C)は、太字にして、下
線を引いてある。CHO細胞中で作製される分泌型組換え産物のN末端はA26であるが、ヒト
肝臓のネイティブ細胞内酵素のN末端はE27である(Kakkisらの文献、1994、Prot Exp Puri
f 5: 225-232のp. 230ページを参照されたい)。
【0025】
図2】hIDUAの公知のオーソログとのマルチプル配列アラインメント。配列は、Clustal X ver.2を使用してアラインした(Larkin MAらの文献、2007、「Clustal W及びClustal X version 2.0(Clustal W and Clustal X version 2.0)」、Bioinformatics 23(21):2947-2948)。種の名前及びタンパク質IDは、以下の通りである:ヒト(ホモ・サピエンス(Homo sapiens);NP_000194.2)、イヌ(カニス・ファミリアリス(Canis familiaris);M81893.1)、ウシ(ボス・タウルス(Bos taurus);XP_002688492.1)、マウス(ムス・ムスクルス(Mus musculus);NP_032351.2)、ラット(ラトゥス・ノルベギクス(Rattus norvegicus);NP_001165555.1)、カモノハシ(オルニソリンクス・アナチヌス(Ornithorhynchus anatinus);XP_001514102.2)、ニワトリ(ガルス・ガルス(Gallus gallus);NP_001026604.1)、アフリカツメガエル(ゼノパス・ラエビス(Xenopus laevis);NP_001087031.1)、ゼブラフィッシュ(ダニオ・レリオ(Danio rerio);XP_001923689.3)、ウニ(ストロンギロセントロゥス・プルプラトゥス(Strongylocentrotus purpuratus);XP_796813.3) ユウレイボヤ(シオナ・インテスチナリス(Ciona intestinalis);XP_002120937.1)、そして、ショウジョウバエ(ドロソフィラ・メラノガスター(Drosophila melanogaster);NP_609489.1)。ヒトタンパク質(N110、N190、N336、N372、T374、N415、N451)のN-グリコシル化部位;基質結合に関与する残基(R89、H91、N181、E182、H262、K264、E299、D349、及びR363)及びN372でのN-グリカンとの相互作用に関与する残基(P54、H58、W306、S307、Y355、R368及びQ370)は、濃淡によって示す。(Maitaらの文献、2013、PNAS 110: 14628-14633;補助資料、図S8から改変)。
【0026】
図3】MPS I突然変異、IDUAの構造変化及び表現形。(Saitoらの文献、Mol Genet Metab 111:107-112, 表1から)。
【0027】
図4】CHO細胞によって分泌された組換えヒトO-L-イズロニダーゼの6つのグリコシル化部位のオリゴ糖。C (複合) ;M、ハイマンノース;Pは、リン酸化されたハイマンノース。大文字はよく識別された、主要なオリゴ糖を意味するが、小文字は軽微な又は不完全に特徴づけられた構成要素を意味する。(Zhaoらの文献、1997、J Biol Chem 272:22758-22765から)。
【0028】
図5】AAVキャプシド1~9のClustalマルチプル配列アラインメント(配列番号: 16~26)。アミノ酸置換(一番下の列に太字で示す)は、他のアラインされたAAVキャプシドの対応する位置からアミノ酸残基を「動員する」ことによって、AAV9及びAAV8キャプシドに加えることができる。「HVR」=超可変領域と呼ばれる配列領域。
【発明を実施するための形態】
【0029】
(5. 発明の詳細な説明)
本発明はハーラー、ハーラー-シャイエ又はシャイエ症候群と診断された患者を含むが
、これらに限定されないムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の中枢神経系の脳脊
髄液(CSF)に完全ヒトグリコシル化(HuGly)α-L-イズロニダーゼ(HuGlyIDUA)を送達するこ
とを含む。好ましい実施態様において、治療は遺伝子治療を介して―例えば、ヒトIDUA(h
IDUA)又はhIDUAの誘導体をコードしているウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラ
クトをMPS Iと診断された患者(ヒト対象)のCSFに投与して、その結果絶えず完全ヒトグリ
コシル化導入遺伝子産物をCNSに供給する形質導入細胞の永続的なデポーを生成すること
により―達成される。デポーからCSFに分泌されるHuGlyIDUAは、CNS中の細胞によってエ
ンドサイトーシスされて、レシピエント細胞における酵素欠陥を「横断修正」する。代替
の実施態様において、HuGlyIDUAを細胞培養で生産して、酵素補充療法(「ERT」)として、
例えば酵素を注入することにより投与することができる。しかしながら、遺伝子治療アプ
ローチはERTを上回るいくつかの利点を提供する―酵素は血液脳関門を通過することがで
きないため、酵素の全身送達によってはCNSは治療されず;かつ本発明の遺伝子治療アプロ
ーチとは異なり、CNSへの酵素の直接の送達には、大きな負担となるだけでなく感染のリ
スクを生む反復注入が必要となるであろう。
【0030】
導入遺伝子によってコードされるHuGlyIDUAは、これらに限定はされないが、配列番号:
1のアミノ酸配列を有するヒトIDUA(hIDUA)(図1に示す)、及びアミノ酸の置換、欠失、又
は付加を有する、例えばこれらに限定はされないが、図2に示すIDUAのオーソログ中に対
応する非保存的残基から選択されるアミノ酸置換を含むhIDUAの誘導体を含み得る(ただし
、そのような突然変異が図3に示す(その全体が参照により本明細書に組み込まれているSa
itoらの文献、2014、Mol Genet Metab 111:107-112、57個のMPS I突然変異を列記する表1
より);又はその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれているVenturiらの文献、
2002、Human Mutation #522 Online(「Venturi 2002」)、若しくはBertolaらの文献、201
1、Human Mutation 32:E2189-E2210(「Bertola 2011」)によって報告された重度の、中程
度に重度の、中程度の、又は減弱型MPS I表現形において同定されたいずれの突然変異も
含まないことを条件とする)。
【0031】
例えば、hIDUAの特定位置でのアミノ酸置換は図2(その全体が参照により本明細書に組
み込まれているMaitaらの文献、2013、PNAS 110:14628、図S8に報告されたオーソログの
アラインメントを示す)に表されるIDUAオーソログにおけるその位置に見出される対応す
る非保存的アミノ酸から選択することができる(ただし、そのような置換は図3に示される
か、又は上記Venturi 2002若しくはBertola 2011において報告される有害な突然変異のい
ずれも含まないことを条件とする)。結果として得られる導入遺伝子産物は、細胞培養又
は試験動物で、突然変異がIDUA機能を損なわないことを保証するためのインビトロでの従
来のアッセイを使用して試験することができる。選択される好ましいアミノ酸置換、欠失
又は付加は、細胞培養又は動物モデルにおけるMPS Iのためのインビトロでの従来のアッ
セイによって試験されるIDUAの酵素活性、安定性、又は半減期を維持するか、又は増加さ
せるものとするべきである。例えば、導入遺伝子産物の酵素活性は基質として4-メチルウ
ンベリフェリルα-L-イズロニドを用いる従来の酵素アッセイを使用して評価することが
できる(使用可能な例示的なIDUA酵素アッセイについては、例えばその各々の全体が参照
により本明細書に組み込まれている、Hopwoodらの文献、1979、Clin Chim Acta 92: 257-
265; Clementsらの文献、1985、Eur J Biochem 152: 21-28;及びKakkisらの文献、1994、
Prot Exp Purif 5:225-232を参照されたい)。導入遺伝子産物がMPS I表現形を修正する能
力は;例えば、培養中でMPS I細胞にhIDUA又は誘導体をコードするウイルスベクター又は
他のDNA発現コンストラクトを形質導入することにより;培養中のMPS I細胞にrHuGlyIDUA
又は誘導体を加えることにより;あるいはMPS I細胞を rHuGlyIDUA又は誘導体を発現及び
分泌するように操作したヒト宿主細胞と共培養して、MPS I培養細胞の欠陥の修正を決定
することにより、例えば培養中のMPS I細胞におけるIDUA酵素活性及び/又はGAG貯蔵量の
低下を検出することにより、細胞培養中で評価することができる(例えば、その各々の全
体が参照により本明細書に組み込まれているMyerowitz及びNeufeldの文献、1981、J Biol
Chem 256: 3044-3048;並びにAnsonらの文献、1992、Hum Gene Ther 3: 371-379を参照さ
れたい)。
【0032】
MPS Iのための動物モデルは、マウス(例えば、Clarkeらの文献、1997、Hum Mol Genet
6(4):503-511を参照されたい)、雑種のイエネコ(例えば、Haskinsらの文献、1979、Pedia
tr Res 13(11):1294-97を参照されたい)、及びいくつかの品種のイヌ(例えば、Menonらの
文献、1992、Genomics 14(3):763-768; Shullらの文献、1982、Am J Pathol 109(2):244-
248を参照されたい)について記載されている。イヌのMPS Iモデルは、IDUA突然変異によ
り検出可能なタンパク質が喪失するため、MPS Iの最も重度の形態であるハーラー症候群
に類似している。IDUAタンパク質間の遺伝子相同性が高いこと(図2のアラインメントを参
照されたい)は、hIDUAが動物において機能的であることを意味し、hIDUAを包含する治療
はこれらの動物モデルで試験することができる。
【0033】
好ましくは、rHuGlyIDUA導入遺伝子は、神経細胞及び/又はグリア細胞において機能す
る発現制御エレメント、例えば、CB7プロモーター(ニワトリβ-アクチンプロモーター及
びCMVエンハンサー)によって制御されるべきであり、かつベクターによって駆動される導
入遺伝子の発現を増強する他の発現制御エレメント(例えば、ニワトリβ-アクチンイント
ロン及びウサギβ-グロビンポリAシグナル)を含むことができる。huIDUA導入遺伝子のた
めのcDNAコンストラクトには、形質導入されたCNS細胞による適切な翻訳中及び翻訳後プ
ロセシング(グリコシル化及びタンパク質硫酸化)を保証するシグナルペプチドのためのコ
ード配列を含めるべきである。CNS細胞によって使用されるそのようなシグナルペプチド
には:
・オリゴデンドロサイト-ミエリン糖タンパク質(hOMG)シグナルペプチド:
【化9】
・E1A刺激を受けた遺伝子の細胞リプレッサー2(hCREG2)シグナルペプチド:
【化10】
・V-セット及び膜貫通ドメイン含有2B(hVSTM2B)シグナルペプチド:
【化11】
・プロトカドヘリンα-1(hPCADHA1)シグナルペプチド:
【化12】
・FAM19A1(TAFA1)シグナルペプチド:
【化13】
・インターロイキン-2シグナルペプチド:
【化14】
があり得るが、これらに限定されない。
シグナルペプチドは本明細書において、リーダー配列又はリーダーペプチドとも呼ぶこ
とができる。
【0034】
導入遺伝子を送達するために使用される組換えベクターは、神経細胞及び/又はグリア
細胞を含むがこれらに限定されない、CNSの細胞への向性を有するべきである。そのよう
なベクターは非複製組換えアデノ随伴ウイルスベクター(「rAAV」)を含むことができ、特
にAAV9又はAAVrh10キャプシドを有するウイルスベクターが好ましい。その全体が参照に
より本明細書に組み込まれている米国特許第7,906,111号においてWilsonによって記載さ
れた、特に好ましくはAAV/hu.31、AAV/hu.32を有するキャプシドを含むが、これらに限定
されないAAVバリアントキャプシド;並びにその各々の全体が参照により本明細書に組み込
まれている米国特許第8,628,966号、米国特許第8,927,514号及びSmithらの文献、2014、M
ol Ther 22:1625-1634においてChatterjeeによって記載されたAAVバリアントキャプシド
を使用することができる。しかしながら、「ネイキッドDNA」コンストラクト(5.2節を参
照されたい)と呼ばれるレンチウイルスベクター、ワクシニアウイルスベクター又は非ウ
イルス性発現ベクターを含むがこれらに限定されない、他のウイルスベクターを使用する
ことができる。
【0035】
CSFへの投与に好適な医薬組成物は、生理的に適合性の水性緩衝剤、界面活性剤、及び
任意の賦形剤を含む製剤化緩衝液中のrHuGlyIDUAベクターの懸濁液を含む。ある実施態様
において、医薬組成物は、大槽内投与(大槽の注入)に好適である。ある実施態様において
、医薬組成物は、C1-2穿刺を介するくも膜下空間への注入に好適である。ある実施態様に
おいて、医薬組成物は、くも膜下腔内投与に好適である。ある実施態様において、医薬組
成物は、脳室内投与に好適である。ある実施態様において、医薬組成物は、腰椎穿刺を介
する投与に好適である。
【0036】
組換えベクターの治療有効用量は、くも膜下腔内投与を介して(すなわち、くも膜下空
間に注入して、組換えベクターがCSFを通じて散布され、CNSの細胞が形質導入されるよう
にする)、CSFに投与すべきである。このことは、いくつかの方法で―例えば、頭蓋内(大
槽又は脳室)注入、又は腰椎槽への注入によって―達成することができる。例えば、(大槽
への)大槽内(IC)注入は、CTによって導かれる後頭下穿刺によって実施することができ;又
は、患者に実行できそうな場合は、C1-2穿刺を介したくも膜下空間への注入を実施するこ
とができ;又は、腰椎穿刺(典型的にCSFの試料を収集するために実施される診断手順)を、
CSFにアクセスするために使用することができる。あるいは、脳室内(ICV)投与(血液脳関
門を透過しない、抗感染性又は抗癌性の薬物の導入に使用されるより侵襲的な技術)を使
用して、組換えベクターを直接脳室内に点滴することができる。あるいは、鼻腔内投与を
使用して、CNSに組換えベクターを送達するために用いてもよい。rHuGlyIDUAのCSF濃度を
少なくとも9.25 μg/mLのCminに維持する用量又は9.25~277 μg/mLの範囲内の濃度を使
用すべきである。
【0037】
CSF濃度は後頭部又は腰椎穿刺から得られるCSF流体中のrHuGlyIDUAの濃度を直接測定す
ることによってモニタリングし、又は患者の血清において検出されたrHuGlyIDUAの濃度か
ら外挿によって推定することができる。ある実施態様において、血清中のrHuGlyIDUAが10
ng/mL~100 ng/mLであることは、CSF中のrHuGlyIDUAが1~30 mgであることを示す。ある
実施態様において、組換えベクターは、血清中のrHuGlyIDUAを10 ng/mL~100 ng/mLに維
持する用量で、CSFに投与する。
【0038】
背景として、ヒトIDUAは、653アミノ酸のポリペプチドとして翻訳され、図1に表される
6つの可能性のある部位(N110、N190、N336、N372、N415、及びN451)でN-グリコシル化さ
れる。シグナル配列が除去され、ポリペプチドはリソソーム内で成熟形態にプロセシング
される: 75 kDaの細胞内前駆体は数時間で72 kDaまでトリミングされ、最終的に、4~5日
かけて66 kDaの細胞内形態にプロセシングされる。IDUAの分泌形態(使用するアッセイに
応じて76 kDa又は82 kDa)はマンノース-6-リン酸受容体を介して細胞に容易にエンドサイ
トーシスされ、より小さい細胞内形態と同様にプロセシングされる。(その各々の全体が
参照により本明細書に組み込まれている、Myerowitz及びNeufeldの文献、1981、J Biol C
hem 256: 3044-3048; Clementsらの文献、1989、Biochem J. 259: 199-208; Taylorらの
文献、1991、Biochem J. 274: 263-268;及びZhaoらの文献、1997、J Biol Chem 272:2275
8-22765を参照されたい)。
【0039】
hIDUAの全体の構造は、3つのドメインからなる:残基42-396は、古典的な(β/α)トリオ
ースリン酸イソメラーゼ(TIM)バレルドメインを形成し;残基27-42及び397-545は、短いへ
リックス-ループ-へリックス(482-508)を有するβ-サンドイッチドメインを形成し;かつ
残基546-642は、Ig様ドメインを形成する。最後に挙げた2つのドメインは、C541及びC577
の間のジスルフィド架橋によって連結される。β-サンドイッチ及びIg様ドメインは、TIM
バレルの1番目、7番目、及び8番目のα-へリックスに結合される。β-ヘアピン(β12-β1
3)はTIMバレルの8番目のβ-ストランド及び8番目のα-へリックスの間に挿入され、これ
は基質結合及び酵素活性に要求されるN-グリコシル化N372を含む。(図1及びその各々の全
体が参照により本明細書に組み込まれているMaitaらの文献、2013、PNAS 110: 14628-146
33及びSaitoらの文献、2014 Mol Genet Metab 111:107-112に記載の結晶構造を参照され
たい)。
【0040】
本発明は部分的に、以下の原理に基づく:
(i) CNSの神経細胞及びグリア細胞はCNSにおける活発なプロセスであるグリコシル化及び
チロシン-O-硫酸化を含む分泌タンパク質の翻訳後プロセシングのための細胞機構を有す
る分泌細胞である。ヒトCNS細胞が行う翻訳後修飾についての、その各々の全体が参照に
より組み込まれている、例えばヒト脳マンノース-6-リン酸(M6P)グリコプロテオームにつ
いて記載され、脳が他の組織に見出されるよりはるかに多くの個々のアイソフォームを有
するより多くのタンパク質及びマンノース-6-リン酸化タンパク質を含むことを注記した
、Sleatらの文献、2005、Proteomics 5: 1520-1532及びSleatの文献、1996、J Biol Chem
271:19191-98;並びに神経細胞によって分泌されたチロシン硫酸化糖タンパク質の生産を
報告しているKananらの文献、2009、Exp. Eye Res. 89: 559-567並びにKanan及びAl-Ubai
diの文献、2015 Exp. Eye Res. 133: 126-131を参照されたい。
(ii) hIDUAは、図1と特定される6つのアスパラギン(「N」)のグリコシル化部位を有する(
N110FT; N190VS; N336TT; N372NT; N415HT; N451RS)。N372のN-グリコシル化は基質との
結合及び酵素活性に要求され、かつマンノース-6-リン酸化は分泌された酵素の細胞取り
込み及びMPS I細胞の横断修正に要求される。N-結合型グリコシル化部位は複雑なハイマ
ンノース、リン酸化マンノース糖質部分を含むが(図4)、分泌形態のみが細胞によって取
り込まれる(上記Myerowitz及びNeufeldの文献、1981)。本明細書に記載の遺伝子治療アプ
ローチは、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって測定して(使用するアッセイに応じ
て)76~82 kDaの2,6-シアル酸付加され、かつマンノース-6リン酸化されたIDUA糖タンパ
ク質が絶えず分泌されるべきである。分泌されたグリコシル化/リン酸化IDUAは、CNSの形
質導入されていない神経細胞及びグリア細胞によって取り込まれ、かつ正しくプロセシン
グされるべきである。
(iii) リソソームタンパク質の細胞性及び細胞内輸送/取り込みは、M6Pを介する。Daniel
eの文献、2002においてイズロネート-2-スルファターゼ酵素について行われたように、分
泌タンパク質のM6P含有量を測定することは、可能である。(例えば、5mMの)抑制性M6Pの
存在下では、非神経細胞又は非グリア細胞、例えばDaniele の文献、2002の遺伝子操作さ
れた腎細胞によって生成された酵素前駆体の取り込みは、Danieleの文献、2002に示され
たように、対照細胞のレベルに近いレベルまで減少すると予測される。抑制性M6Pの存在
下であっても、脳細胞、例えば神経細胞及びグリア細胞によって生成される酵素前駆体の
取り込みは、取り込み量が対照細胞より4倍高く、抑制性M6Pの非存在下で遺伝子操作され
た腎細胞によって生成された酵素前駆体の酵素活性(すなわち、取り込み)のレベルと同等
であったDanieleの文献、2002に示されたように高レベルを維持すると予測される。この
アッセイを用いると、脳細胞によって生成される酵素前駆体のM6P含有量を予測し、特に
異なる種類の細胞によって生成される酵素前駆体中のM6P含有量を比較することが可能と
なる。本明細書に記載の遺伝子治療アプローチは、そのようなアッセイにおいて抑制性M6
Pの存在下、高レベルで神経細胞及びグリア細胞に取り込まれ得る、hIDUAの継続的分泌を
もたらすべきである。
(iv) N-結合型グリコシル化部位に加えて、hIDUAは、結合及び活性のために要求されるN3
72を含むドメインの近くに、チロシン(「Y」)硫酸化部位
【化15】
を含む。(例えば、その全体が参照により組み込まれている、タンパク質チロシン硫酸化
を受けるチロシン残基を取り巻くアミノ酸の解析についてのYangらの文献、2015、Molecu
les 20:2138-2164、特にp. 2154を参照されたい。「規則」は、以下の通りに要約するこ
とができる: Y残基がYから+5~-5位の範囲内にE又はDを有し、かつYの-1位が中性又は酸
性荷電アミノ酸であるが―硫酸化を無効化する塩基性アミノ酸、例えばR、K、又はHでは
ない)。いかなる理論に束縛されることも意図するものではないが、チロシン硫酸化領域
内の突然変異(例えば、W306L)が酵素活性の減少及び疾患と関連することは公知であるた
め、hIDUAのこの部位の硫酸化は活性にきわめて重要となり得る。(Maitaらの文献、2013
、PNAS 110:14628、pp. 14632-14633を参照されたい)。
(v) CNSのヒト細胞によるhIDUAのグリコシル化により、安定性、半減期を向上させ、かつ
導入遺伝子産物の望まない凝集を減らすことができるグリカンが付加される。大事なこと
に、本発明のHuGlyIDUAに付加されるグリカンは2,6-シアル酸を含み、Neu5Ac(「NANA」)
を組み込むが、そのヒドロキシル化誘導体NeuGc(N-グリコリルノイラミン酸、すなわち「
NGNA」又は「Neu5Gc」)を組み込まない高度にプロセシングされた複合型二分岐N-グリカ
ンである。そのようなグリカンはこの翻訳後修飾を行うのに要求される2,6-シアリルトラ
ンスフェラーゼを有さず、バイセクティングGlcNAcも生産しないが、Neu5Ac(NANA)の代わ
りにヒトにとって典型的でない(かつ潜在的に免疫原性の)シアル酸であるNeu5Gc(NGNA)を
付加するCHO細胞において生産されるラロニダーゼには存在しない。例えば、Dumontらの
文献、2016、Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122(早期オンラインpp. 1-13、p. 5
);及びHagueらの文献、1998、Electrophor 19:2612-2630(「CHO細胞株は、α2,6-シアリ
ルトランスフェラーゼの欠如のため、グリコシル化に関して『表現形上制限されている』
と考えられている」)。さらに、CHO細胞は大部分の個体に存在する抗α-Gal抗体と反応し
て、高濃度でアナフィラキシーを誘発し得る免疫原性グリカン、α-Gal抗原も生産し得る
。例えば、Bosquesの文献、2010、Nat Biotech 28: 1153-1156を参照されたい。本発明の
HuGlyIDUAのヒトグリコシル化パターンは、導入遺伝子産物の免疫原性を低下させ、かつ
効力を向上させるべきである。
(vi) hIDUA のチロシン硫酸化―ヒトCNS細胞の活発な翻訳後プロセス―は、導入遺伝子産
物のプロセシング及び活性を向上させるべきである。リソソームタンパク質のチロシン硫
酸化の意義は、明らかにされていない;しかし、他のタンパク質では、チロシン硫酸化に
より、タンパク質-タンパク質相互作用(抗体及び受容体)の親和性が増加し、タンパク質
分解プロセシング(ペプチドホルモン)が促進されることが示されている。(Mooreの文献、
2003、J Biol. Chem. 278:24243-46;及びBundegaardらの文献、1995、EMBO J 14: 3073-7
9を参照されたい)。チロシン硫酸化(IDUAのプロセシングの最終ステップとして起こる場
合がある)を担うチロシンタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST1)は、明らかに脳(T
PST1のための遺伝子発現データは、例えば、http://www.ebi.ac.uk/gxa/homeにてアクセ
ス可能なEMBL-EBI Expression Atlasに見出すことができる)でより高いレベル(mRNAに基
づいて)で発現する。そのような翻訳後修飾は、最高でもCHO細胞の生産物であるラロニダ
ーゼにおいて過少に示される。ヒトCNS細胞とは異なり、CHO細胞は、分泌細胞ではなく、
翻訳後のチロシン-硫酸化能が限られている。(例えばMikkelsen及びEzbanの文献、1991、
Biochemistry 30: 1533-1537、特に1537ページの考察を参照されたい)。
(vii) 導入遺伝子産物の免疫原性は、患者の免疫状態、注入されたタンパク質薬物の構造
及び特徴、投与経路、及び治療の持続時間を含む様々な因子によって誘導され得る。プロ
セス関連不純物、例えば宿主細胞タンパク質(HCP)は宿主細胞DNA、及び化学的残留物、並
びに生産物関連不純物、例えばタンパク質分解物及び構造特徴、例えばグリコシル化、酸
化及び凝集(肉眼不可視粒子)は免疫反応を増強するアジュバントとしての機能を果たすこ
とによって免疫原性を増加させる場合がある。プロセス関連及び生産物関連不純物の量は
、製造プロセス:商業的に製造されるIDUA産物に影響を及ぼし得る細胞培養、精製、製剤
化、保存、及び取扱いの影響を受け得る。遺伝子治療では、タンパク質はインビボで生産
され、その結果プロセス関連不純物は存在せず、タンパク質産物は組換え技術によって生
産されるタンパク質と関連した生産物関連不純物/分解物、例えばタンパク質凝集物及び
タンパク質酸化物を含む可能性は低い。凝集は、例えばタンパク質生産及び保存と関連づ
けられ、高いタンパク質濃度、製造装置及び容器との表面相互作用、並びに特定の緩衝液
システムを用いた精製プロセスに起因する。しかし、導入遺伝子をインビボで発現させる
場合、凝集を促進するこれらの条件は存在しない。また、酸化、例えばメチオニン、トリ
プトファン、及びヒスチジンの酸化は、タンパク質生産及び保存と関連付けられ、例えば
ストレス負荷された細胞培養条件、金属及び空気との接触、並びに緩衝液及び賦形剤中の
不純物によって引き起こされる。インビボで発現されるタンパク質は、ストレス負荷され
た条件下で酸化され得るが、ヒトは多くの生物と同様に、抗酸化防衛システムを備えてお
り、それにより酸化ストレスが低下するだけでなく、酸化を修復し、かつ/又は逆行させ
もする。従って、インビボで生産されるタンパク質が、酸化形態にある可能性は低い。凝
集及び酸化は両方とも、効力、PK(クリアランス)に影響を及ぼし得、免疫原となる懸念を
大きくし得る。本明細書に記載の遺伝子治療アプローチは、商業的に製造された産物と比
較して免疫原性の低下したhIDUAを絶えず分泌するべきである。
【0041】
前述の理由のために、HuGlyIDUAの生産は―例えば、MPS I疾患(ハーラー、ハーラー-シ
ャイエ又はシャイエを含むが、これらに限定はされない)と診断される患者(ヒト対象)のC
SFにHuGlyIDUAをコードするウイルスベクター又は他のDNA発現コンストラクトを投与して
、形質導入されたCNS細胞によって分泌される完全ヒトグリコシル化、マンノース-6-リン
酸化、硫酸化導入遺伝子産物を絶えず供給するCNS中の永続的なデポーを作製することに
よる―遺伝子治療によって達成されるMPS Iの治療のための「バイオベター」分子をもた
らすべきである。デポーからCSF中に分泌されるHuGlyIDUA導入遺伝子産物は、CNS中の細
胞によりエンドサイトーシスされ、MPS Iレシピエント細胞における酵素欠陥の「横断修
正」をもたらす。
【0042】
遺伝子治療又はタンパク質治療アプローチにおいて生産されるすべてのhIDUA分子が完
全にグリコシル化され、硫酸化されることは、必須ではない。むしろ、生じる糖タンパク
質の集団は、有効性を実証するのに十分なグリコシル化(2,6-シアル酸付加及びマンノー
ス-6-リン酸化を含む)及び硫酸化を受けるべきである。本発明の遺伝子治療処置の目的は
、疾患の進行を減速させ、又は停止させることである。有効性は、認知機能(例えば、神
経認知機能の低下の防止若しくは減少);CSF及び/若しくは血清中の疾患バイオマーカー(
例えばGAG)の低下;及び/又は、CSF及び/若しくは血清のIDUA酵素活性の増加を測定するこ
とによってモニタリングすることができる。炎症の徴候及び他の安全事象をモニタリング
することもできる。
【0043】
遺伝子治療に対する代替又は追加治療として、rHuGlyIDUA糖タンパク質は組換えDNA技
術によってヒト細胞株で生産することができ、糖タンパク質は全身的に及び/又はERTのた
めのCSFにMPS Iと診断された患者に投与することができる。そのような組換え糖タンパク
質生産のために使用することができるヒト細胞株は、これらに限定されないが、少し例を
挙げればHT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、ReNcell VM、ヒト胎
児腎293細胞(HEK293)、線維肉腫HT-1080、HKB-11、CAP、HuH-7、網膜細胞株、PER.C6、又
はRPEを含む(例えば、その全体が参照により組み込まれている、rHuGlyIDUA糖タンパク質
の組換え生産のために使用することができるヒト細胞株の総説についてのDumontらの文献
、2016、Critical Rev in Biotech 36(6):1110-1122「生物医薬製造のためのヒト細胞株:
歴史、現状、及び将来の展望(Human cell lines for biopharmaceutical manufacturing:
history, status, and future perspectives)」)。完全なグリコシル化、特にシアル酸
付加及びチロシン硫酸化を保証するために、生産に使用する細胞株をチロシン-O-硫酸化
を担うα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ(又はα-2,3-及びα-2,6-シアリルトランスフ
ェラーゼの両方)並びに/又はTPST-1及びTPST-2酵素を共発現するように宿主細胞を操作す
ることによって強化することができる。
【0044】
rHuGlyIDUAの送達が免疫反応を最小化すべきである一方、CNS関連遺伝子治療に関する
毒性の最も明白な潜在的源は遺伝的にIDUAを欠損しており、従ってタンパク質及び/又は
導入遺伝子を送達するために用いるベクターを潜在的に寛容しないヒト対象において発現
されたhIDUAタンパク質に対する免疫が発生することである。
【0045】
従って、好ましい実施態様において、患者を免疫抑制治療で共治療することは―特にID
UAのレベルが0に近い重度の疾患(例えば、ハーラー)を有する患者を治療する場合に―適
切である。タクロリムス又はラパマイシン(シロリムス)を、例えばミコフェノール酸と組
合わせた、及び/若しくはプレドニゾロン及び/若しくはメチルプレドニゾロンなどのコル
チコステロイドと組合わせたレジメン、あるいは組織移植手順において使用される他の免
疫抑制レジメンを伴う免疫抑制治療を、利用することができる。そのような免疫抑制治療
は遺伝子治療クール中に施すことができ、ある実施態様において、免疫抑制治療による前
処理が好ましい場合がある。免疫抑制治療は治療医師の判断に基づいて、遺伝子治療処置
の後も継続することができ、その後免疫寛容が誘発された場合:例えば、180日後に、中
止することができる。
【0046】
一実施態様において、免疫抑制はコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン及び/又
はメチルプレドニゾロンの投与並びに任意にMMFとともに投与されるタクロリムス及び/又
はシロリムスのレジメンを含む。例えば、1回のコルチコステロイド、例えばメチルプレ
ドニゾロンを注入し、その後経口コルチコステロイドを投与し、12週の経過にわたり段階
的に漸減し、続いて中断する。同時に、タクロリムス及びシロリムスを組合わせで低用量
(例えば、4~8 ng/mLの血清濃度を維持する)で、又はラベル用量で単独で24~48週にわた
って経口投与することができる。タクロリムス又はシロリムスは、MMFと組合わせてラベ
ル用量で投与されることもできる。従って、患者は直ちに利用可能なステロイドの初期の
注入を受けこのステロイドは続いて経口投与によって維持されて、12週までに漸減される
。さらなる免疫抑制は、任意にMMFと組合わせて、タクロリムス及び/又はシロリムスによ
って48週を通じて維持される。
【0047】
他の利用可能な治療薬の送達を伴うCSFへのHuGlyIDUAの送達の併用は、本発明の方法に
包含される。追加治療薬は、遺伝子治療処置の前に、それと同時に、又はその後に投与す
ることができる。本発明の遺伝子治療と組合わせることができるMPS Iの利用可能な治療
には、これらに限定はされないが、全身に、若しくはCSFに投与するラロニダーゼを使用
する酵素補充療法;及び/又はHSCT療法がある。
【0048】
ある実施態様において、MPS I と診断されたヒト対象を治療する方法であって、前記ヒ
ト対象の脳の脳脊髄液にヒト神経細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトIDUAを
送達することを含む、前記方法を本明細書に記載する。ある実施態様において、MPS Iと
診断されたヒト対象を治療する方法であって、前記ヒト対象の脳の脳脊髄液にヒトグリア
細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトIDUAを送達することを含む、前記方法を
本明細書に記載する。
【0049】
ある実施態様において、ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象を治療する方法は
:前記ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のα2,6シアル酸付加ヒトα-L-イズロニダー
ゼ(IDUA)を送達すること;及びヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に前記対象に
免疫抑制治療を施して、その後も免疫抑制治療を継続することを含む、前記方法を本明細
書において提供する。
【0050】
ある実施態様において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって:前記ヒ
ト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGcを含まない治療有効量のグリコシル化ヒトIDUA
を送達すること;及びヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に前記対象に免疫抑制
治療を施し、その後も免疫抑制治療を継続することを含む、前記方法を本明細書において
提供する。
【0051】
ある実施態様において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって:前記ヒ
ト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない治療有効量のグ
リコシル化ヒトIDUAを送達すること;及びヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に
前記対象に免疫抑制治療を施し、その後も免疫抑制治療を継続することを含む、前記方法
を本明細書において提供する。
【0052】
ある実施態様において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって:前記ヒ
ト対象の脳の脳脊髄液にチロシン-硫酸化を含む治療有効量のヒトIDUAを送達すること;及
びヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に前記対象に免疫抑制治療を施し、その後
も免疫抑制治療を継続することを含む、前記方法を本明細書において提供する。
【0053】
ある実施態様において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって:前記ヒ
ト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、前記IDUAがヒ
ト不死化神経細胞において前記発現ベクターから発現される際にα2,6シアル酸付加され
る、前記投与すること;及び
【0054】
発現ベクターの投与の前に、又はそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、その
後も免疫抑制治療を継続することを含む、前記方法を本明細書において提供する。
【0055】
ある実施態様において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって:前記ヒ
ト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、前記IDUAがヒ
ト不死化神経細胞において前記発現ベクターから発現される際にグリコシル化されるが検
出可能なNeuGcを含まない、前記投与すること;及び発現ベクターの投与の前に、又はそれ
と同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、その後も免疫抑制治療を継続することを含む
、前記方法を本明細書において提供する。
【0056】
ある実施態様において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法は:工程a) 前記ヒ
ト対象の脳にヒトIDUAをコードしている発現ベクターを投与することであって、前記ヒト
IDUAは、ヒト又は不死化神経細胞において前記発現ベクターから発現される際にグリコシ
ル化されるが、検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない、前記投与すること;並
びに工程b) 発現ベクターの投与の前に及び/又はそれと同時に、及び/又はその後に前記
対象に免疫抑制治療を施し、その後も免疫抑制治療を継続することを含む、前記方法を本
明細書において提供する。
【0057】
ある実施態様において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法は:前記ヒト対象
の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、前記IDUAがヒト不死
化神経細胞において前記発現ベクターから発現される際にチロシン硫酸化される、前記投
与すること;及び発現ベクターの投与の前に、又はそれと同時に前記対象に免疫抑制治療
を施し、その後も免疫抑制治療を継続することを含む、前記方法を本明細書において提供
する。
【0058】
ある実施態様において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法は:前記ヒト対象
の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベクターを
投与することであって、その結果α2,6シアル酸付加グリカンを含む前記IDUAを放出する
デポーが形成される、前記投与すること;及び発現ベクターの投与の前に、又はそれと同
時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、その後も免疫抑制治療を継続することを含む、前
記方法を本明細書において提供する。
【0059】
ある実施態様において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって:前記ヒ
ト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベク
ターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリコシル化ヒトIDU
Aを放出するデポーが形成される、前記投与すること;及び発現ベクターの投与の前に、又
はそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、その後も免疫抑制治療を継続すること
を含む、前記方法を本明細書において提供する。
【0060】
ある実施態様において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって:前記ヒ
ト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベク
ターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない
グリコシル化ヒトIDUAを放出するデポーが形成される、前記投与すること;及び発現ベク
ターの投与の前に、又はそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、その後も免疫抑
制治療を継続することを含む、前記方法を本明細書において提供する。
【0061】
ある実施態様において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって:前記ヒ
ト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベク
ターを投与することであって、その結果チロシン硫酸化を含む前記IDUAを放出するデポー
が形成される、前記投与すること;及び発現ベクターの投与の前に、又はそれと同時に、
前記対象に免疫抑制治療を施し、その後も免疫抑制治療を継続することを含む、前記方法
を本明細書において提供する。
【0062】
ある実施態様において、α2,6シアル酸付加グリカンを含む前記IDUAの生産は、細胞培
養中で前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用いてヒト神経細胞株を形質導入すること
によって確認する。ある実施態様において、検出可能なNeuGcを含まない前記グリコシル
化IDUAの生産は、細胞培養中で前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用いてヒト神経細
胞株を形質導入することによって確認する。ある実施態様において、検出可能なNeuGc及
び/又はα-Gal抗原を含まない前記グリコシル化IDUAの生産は、細胞培養中で前記組換え
ヌクレオチド発現ベクターを用いてヒト神経細胞株を形質導入することによって確認する
。ある実施態様において、チロシン硫酸化を含む前記IDUAの生産は、細胞培養中で前記組
換えヌクレオチド発現ベクターを用いてヒト神経細胞株を形質導入することによって確認
する。具体的な実施態様において、IDUA導入遺伝子は、シグナルペプチドをコードする。
ある実施態様において、ヒト神経細胞株は、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-S
Y5y、hNSC11又はReNcell VMである。
【0063】
ある実施態様において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって:前記ヒ
ト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベク
ターを投与することであって、その結果α2,6シアル酸付加グリカンを含む前記IDUAを放
出するデポーが形成される、前記投与すること;及び発現ベクターの投与の前に、又はそ
れと同時に前記対象に免疫抑制治療を施し、その後も免疫抑制治療を継続することを含み
、ここで前記組換えベクターが、培養中でヒト神経細胞に形質導入するために使用される
場合、前記細胞培養中の前記α2,6シアル酸付加グリカンを含む前記IDUAの生産をもたら
す、前記方法を本明細書において提供する。ある実施態様において、ヒト神経細胞は、HT
-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11又はReNcell VM細胞である。
【0064】
ある実施態様において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって:前記ヒ
ト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベク
ターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリコシル化IDUAを
放出するデポーが形成される、前記投与すること;及び発現ベクターの投与の前に、又は
それと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、その後も免疫抑制治療を継続することを
含み;ここで前記組換えベクターが、培養中でヒト神経細胞に形質導入するために使用さ
れる場合、前記細胞培養中の検出可能なNeuGcを含まないグリコシル化された前記IDUAの
生産をもたらす、前記方法を本明細書において提供する。ある実施態様において、ヒト神
経細胞は、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11又はReNcell VM細胞
である。
【0065】
ある実施態様において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって:前記ヒ
ト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードしている組換えヌクレオチド発現
ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含ま
ないグリコシル化IDUAを放出するデポーが形成される、前記投与すること;及び発現ベク
ターの投与の前に、又はそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、その後も免疫抑
制治療を継続することを含み;ここで前記組換えベクターが、培養中でヒト神経細胞に形
質導入するために使用される場合、前記細胞培養中のグリコシル化されるが、検出可能な
NeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない前記IDUAの生産をもたらす、前記方法を本明細書に
おいて提供する。ある実施態様において、ヒト神経細胞は、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HC
N-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11又はReNcell VM細胞である。
【0066】
ある実施態様において、MPS Iと診断されたヒト対象を治療する方法であって:前記ヒ
ト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発現ベク
ターを投与することであって、その結果チロシン硫酸化を含む前記IDUAを放出するデポー
が形成される、前記投与すること;及び発現ベクターの投与の前に、又はそれと同時に前
記対象に免疫抑制治療を施し、その後も免疫抑制治療を継続することを含み;ここで前記
組換えベクターが、培養中でヒト神経細胞に形質導入するために使用される場合、前記細
胞培養中のチロシン硫酸化された前記IDUAの生産をもたらす前記方法を、本明細書におい
て提供する。ある実施態様において、ヒト神経細胞は、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2
、NT2、SH-SY5y、hNSC11又はReNcell VM細胞である。
【0067】
ある実施態様において、ヒトIDUAは、配列番号:1のアミノ酸配列を含む。ある実施態様
において、免疫抑制治療は、ヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に前記対象に(a
)タクロリムス及びミコフェノール酸、又は(b)ラパマイシン及びミコフェノール酸の組合
せを投与すること、並びにその後も継続することを含む。ある実施態様において、免疫抑
制治療は、180日後に中止する。
【0068】
好ましい実施態様において、グリコシル化IDUAは、検出可能なNeuGc及び/又はα-Galを
含まない。本明細書で使用するフレーズ「検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal」は、NeuGc
及び/又はα-Gal成分が当技術分野において公知の標準アッセイ方法によって検出可能で
あることを意味する。例えば、NeuGcは、NeuGcを検出する方法について参照により本明細
書に組み込まれているHaraらの文献、1989、「蛍光検出を伴う逆相液体クロマトグラフィ
ーによる、ヒト血清及び尿、並びにラット血清中のN-アセチル及びN-グリコリルノイラミ
ン酸の高感度測定(Highly Sensitive Determination of N-Acetyl-and N-Glycolylneuram
inic Acids in Human Serum and Urine and Rat Serum by Reversed-Phase Liquid Chrom
atography with Fluorescence Detection.)」J. Chromatogr., B: Biomed. 377: 111-119
に従ったHPLCによって検出することができる。あるいは、NeuGcは、質量分析によって検
出することができる。α-Galは、ELISAを使用して(例えば、Galiliらの文献、1998、「モ
ノクローナル抗Gal抗体によって細胞表面のα-Galエピトープ発現を測定するための高感
度アッセイ(A sensitive assay for measuring alpha-Gal epitope expression on cells
by a monoclonal anti-Gal antibody.)」、Transplantation. 65(8):1129-32を参照され
たい)、又は質量分析により(例えば、Ayoubらの文献、2013、「インタクトな、ミドル-ア
ップ、ミドル-ダウン、及びボトム-アップESI及びMALDI質量分析技術の組合せによる、セ
ツキシマブの修正された一次構造評価及び広範囲のグリコプロファイリング(Correct pri
mary structure assessment and extensive glyco-profiling of cetuximab by a combin
ation of intact, middle-up, middle-down and bottom-up ESI and MALDI mass spectro
metry techniques.)」、Landes Bioscience. 5(5): 699-710を参照されたい)を検出する
ことができる。また、Platts-Millsらの文献、2015、「糖側鎖α-galに対するアナフィラ
キシー(Anaphylaxis to the Carbohydrate Side-Chain Alpha-gal)」Immunol Allergy Cl
in North Am. 35(2): 247-260において引用されている参考文献も参照されたい。
【0069】
(5.1 N-グリコシル化及びチロシン硫酸化)
(5.1.1. N-グリコシル化)
CNSの神経細胞及びグリア細胞はグリコシル化及びチロシン-O-硫酸化を含む分泌タンパ
ク質の翻訳後プロセシングのための細胞機構を備える分泌細胞である。hIDUAは、図1にお
いて特定される6つのアスパラギン(「N」)グリコシル化部位(N110FT; N190VS; N336TT; N
372NT; N415HT; N451RS)を有する。N372のN-グリコシル化は基質との結合及び酵素活性に
要求され、マンノース-6-リン酸化は分泌された酵素の細胞取り込み及びMPS I細胞の横断
修正に要求される。N-結合型グリコシル化部位は複雑な、ハイマンノース及びリン酸化さ
れたマンノース糖質成分を含むが(図4)、分泌形態のみが細胞によって取り込まれる。本
明細書に記載の遺伝子治療アプローチでは、2,6シアル酸付加され、かつマンノース-6リ
ン酸化されたIDUA糖タンパク質が絶えず分泌されるべきである。分泌されたグリコシル化
/リン酸化IDUAは、CNSの形質導入されていない神経細胞及びグリア細胞によって取り込ま
れ、かつ正しくプロセシングされるべきである。
【0070】
CNSのヒト細胞によるhIDUAのグリコシル化により、安定性、半減期を向上させ、かつ導
入遺伝子産物の望まない凝集を減らすことができるグリカンが付加される。大事なことに
、本発明のHuGlyIDUAに付加されるグリカンは2,6-シアル酸を含み、Neu5Ac(「NANA」)を
組み込むが、そのヒドロキシル化誘導体NeuGc(N-グリコリルノイラミン酸、すなわち「NG
NA」又は「Neu5Gc」)を組み込まない高度にプロセシングされた複合型二分岐N-グリカン
である。そのようなグリカンはこの翻訳後修飾を行うのに要求される2,6-シアリルトラン
スフェラーゼを有さず、バイセクティングGlcNAcも生産しないが、Neu5Ac(NANA)の代わり
にヒトにとって典型的でない(かつ潜在的に免疫原性の)シアル酸であるNeu5Gc(NGNA)を付
加するCHO細胞において生産されるラロニダーゼには存在しない。さらに、CHO細胞はまた
、大部分の個体に存在する抗α-Gal抗体と反応して、高濃度でアナフィラキシーを誘発し
得る免疫原性グリカン、α-Gal抗原を生産し得る。例えば、Bosquesの文献、2010、Nat B
iotech 28: 1153-1156を参照されたい。本発明のHuGlyIDUAのヒトグリコシル化パターン
は、導入遺伝子産物の免疫原性を低下させ、かつ効力を向上させるべきである。
【0071】
遺伝子治療又はタンパク質治療アプローチにおいて生産されるすべての分子が完全にグ
リコシル化され、硫酸化されることは、必須ではない。むしろ、生じる糖タンパク質の集
団は、有効性を実証するのに十分なグリコシル化及び硫酸化を受けるべきである。
【0072】
特定の実施態様において、本明細書に記載の方法に従って使用されるHuGlyIDUAは、神
経細胞又はグリア細胞においてインビボ又はインビトロで発現させた場合、そのN-グリコ
シル化部位の100%でグリコシル化され得る。しかしながら、当業者であれば、グリコシル
化の利益が達成されるためには、必ずしもすべてのHuGlyIDUAのN-グリコシル化部位がN-
グリコシル化される必要はないことを認識されよう。むしろ、グリコシル化の利益はN-グ
リコシル化部位の一定の割合のみがグリコシル化され、かつ/又は発現されたIDUA分子の
一定の割合のみがグリコシル化される場合に実現され得る。したがって、ある実施態様に
おいて、本明細書に記載の方法に従って使用されるHuGlyIDUAは、神経細胞又はグリア細
胞においてインビボ又はインビトロで発現させた場合、その利用可能なN-グリコシル化部
位の10%~20%、20%~30%、30%~40%、40%~50%、50%~60%、60%~70%、70%~80%、80%~9
0%、又は90%~100%でグリコシル化される。ある実施態様において、神経細胞又はグリア
細胞においてインビボ又はインビトロで発現させた場合、本明細書に記載の方法に従って
使用されるHuGlyIDUA分子の10%~20%、20%~30%、30%~40%、40%~50%、50%~60%、60%~
70%、70%~80%、80%~90%又は90%~100%は、それらの利用可能なN-グリコシル化部位の少
なくとも1つでグリコシル化される。
【0073】
具体的な実施態様において、HuGlyIDUAを神経細胞又はグリア細胞においてインビボ又
はインビトロで発現させた場合、本明細書に記載の方法に従って使用されるHuGlyIDUAに
存在するN-グリコシル化部位の少なくとも10%、20% 30%、40%、50%、60%、70%、75%、80%
、85%、90%、95%又は99%はN-グリコシル化部位に存在するAsn残基(又は他の関連した残基
)でグリコシル化される。すなわち、結果として生じるHuGlyIDUAのN-グリコシル化部位の
少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、95%又は99%は、グリコシル化される。
【0074】
別の具体的な実施態様において、HuGlyIDUAが神経細胞又はグリア細胞においてインビ
ボ又はインビトロで発現された場合、本明細書に記載の方法に従って使用されるHuGlyIDU
A分子に存在するN-グリコシル化部位の少なくとも10%、20% 30%、40%、50%、60%、70%、7
5%、80%、85%、90%、95%、又は99%は、N-グリコシル化部位に存在するAsn残基(又は他の
関連した残基)に結合される同一の結合されたグリカンによりグリコシル化される。すな
わち、結果として生じるHuGlyIDUAのN-グリコシル化部位の少なくとも50%、60%、70%、75
%、80%、85%、90%、95%、又は99%は、同一の結合されたグリカンを有する。
【0075】
重要なことに、本明細書に記載の方法に従って使用されるIDUAタンパク質が神経細胞又
はグリア細胞において発現される場合、原核生物宿主細胞(例えば、大腸菌(E. coli))又
は真核生物宿主細胞(例えば、CHO細胞)におけるインビトロ生産の必要は回避される。そ
の代わりに、本明細書に記載の方法の結果(例えば、IDUAを発現させるための神経細胞又
はグリア細胞の使用)、IDUAタンパク質のN-グリコシル化部位は、有利なことにヒトの治
療に関連及び有益なグリカンで修飾される(decorated)。CHO細胞又は大腸菌がタンパク質
生産に利用される場合、そのような利点には到達できない;それは、例えばCHO細胞は、(
1)は2,6シアリルトランスフェラーゼを発現せず、従ってN-グリコシル化の間、2,6シアル
酸を付加することができず、かつ(2)シアル酸としてNeu5Acの代わりにNeu5Gcを付加する
ことができるためであり;並びに大腸菌は天然にはN-グリコシル化に必要な構成要素を含
まないためである。したがって、一実施態様において、神経細胞又はグリア細胞において
発現され、本明細書に記載の治療方法において使用されるHuGlyIDUAを生じるIDUAタンパ
ク質は、ヒト神経細胞又はグリア細胞においてタンパク質がN-グリコシル化される様式で
グリコシル化されるが、CHO細胞においてタンパク質がグリコシル化される様式でグリコ
シル化されるのではない。別の実施態様において、神経細胞又はグリア細胞において発現
されて本明細書に記載の治療方法で使用されるHuGlyIDUAを生じるIDUAタンパク質は、神
経細胞又はグリア細胞においてタンパク質がN-グリコシル化される様式でグリコシル化さ
れ、そのようなグリコシル化は、原核生物宿主細胞を使用して、例えば大腸菌を使用した
場合は手を加えずには不可能である。
【0076】
タンパク質のグリコシル化パターンを決定するためのアッセイは、当技術分野において
公知である。例えば、ヒドラジン分解は、グリカンを分析するために使用することができ
る。第一に、多糖を、ヒドラジンとのインキュベーションによって、その会合するタンパ
ク質から放出させる(Ludger解放ヒドラジン分解グリカン放出キット、Oxfordshire, UKを
使用することができる)。求核剤であるヒドラジンは、多糖及びキャリアタンパク質間の
グリコシド結合を攻撃して、結合したグリカンを放出させる。N-アセチル基は、この処理
の間、失われて、再N-アセチル化によって再構成されなければならない。遊離グリカンは
、炭素カラム上で精製し、続いて蛍光色素分子である2-アミノベンズアミドを用いて還元
末端を標識することができる。標識多糖は、Royleらの文献、Anal Biochem 2002, 304(1)
:70-90.のHPLCプロトコルに従ってGlycoSep-Nカラム(GL Sciences)上で分離することがで
きる。結果として生じる蛍光クロマトグラムは、多糖の長さ及び繰り返し単位の数を示す
。構造情報は、個々のピークを収集し、引き続きMS/MS分析を実施することによって集め
ることができる。それにより、繰り返し単位の単糖の組成及び配列を確認することができ
、さらに多糖の組成の均一性を特定することができる。低分子量の特異的ピークは、MALD
I-MS/MS及びグリカン配列を確認するために使用される結果によって分析することができ
る。各ピークは、特定の数の繰り返し単位及びその断片からなるポリマーに対応する。従
って、クロマトグラムを用いれば、ポリマー長の分布の測定が可能となる。
溶出時間はポリマー長の指標である一方、蛍光強度はそれぞれのポリマーのためのモル存
在量と相関する。
【0077】
タンパク質と会合するグリカンパターンの均一性は、グリカン長及びグリコシル化部位
全体に存在するグリカンの数と関係しているため、この均一性は当技術分野で公知の方法
、例えばグリカン長及び流体力学半径を測定する方法を使用して評価することができる。
サイズ排除HPLCは、流体力学半径の測定を可能にする。タンパク質中のグリコシル化部位
の数が多いほど、グリコシル化部位がより少ないキャリアと比較して、流体力学半径の多
様性がより大きくなる。しかしながら、単一のグリカン鎖が分析される場合、それらは長
さがより高度に制御されているために、より均一になり得る。グリカン長は、ヒドラジン
分解、SDS PAGE、及びキャピラリーゲル電気泳動によって測定することができる。さらに
、また、均一であることは、特定のグリコシル化部位の使用パターンがより広い/より狭
い範囲に変化することを意味し得る。これらの因子は、糖ペプチドLC-MS/MSで測定するこ
とができる。
【0078】
N-グリコシル化は、本明細書に記載の方法で使用されるHuGlyIDUAに多くの利益を付与
する。そのような利益は大腸菌におけるタンパク質生産によっては到達不能である。それ
は、大腸菌は、N-グリコシル化に必要とされる構成要素を天然には有しないためである。
さらに、いくつかの利益は例えば、CHO細胞におけるタンパク質生産によっては到達不能
である。それは、CHO細胞が特定のグリカン(例えば、2,6シアル酸)の付加に必要な構成要
素を欠いており、かつヒトにとって典型的でないグリカン、例えばNeu5Gc及び大部分の個
体において免疫原性であり、かつ高濃度ではアナフィラキシーを誘発し得るα-Gal抗原を
付加し得るためである。従って、ヒト神経細胞又はグリア細胞におけるIDUAの発現により
、そうせずにCHO細胞又は、大腸菌において生産された場合はタンパク質と会合していな
いであろう有益なグリカンを含むHuGlyIDUAが生産される。
【0079】
(5.1.2. チロシン硫酸化)
N-結合型グリコシル化部位に加えて、hIDUAは、結合及び活性に要求されるN372を含む
ドメインの近くにチロシン(「Y」)硫酸化部位
【化16】
を含む。(例えば、その全体が参照により組み込まれている、タンパク質チロシン硫酸化
を受けるチロシン残基を取り巻くアミノ酸の解析についてのYangらの文献、2015、Molecu
les 20:2138-2164、特にp. 2154を参照されたい。「規則」は、以下の通りに要約するこ
とができる: Y残基がYから+5~-5位の範囲内にE又はDを有し、かつYの-1位が中性又は酸
性荷電アミノ酸であるが―硫酸化を無効化する塩基性アミノ酸、例えばR、K、又はHでは
ない。任意の理論に束縛されることを意図するものではないが、チロシン-硫酸化領域内
の突然変異(例えば、W306L)が酵素活性の減少及び疾患と関係することは公知であるため
、hIDUAのこの部位の硫酸化は活性に非常に重要となり得る。(Maitaらの文献、2013、PNA
S 110:14628、pp. 14632-14633を参照されたい)。
【0080】
重要なことに、チロシン硫酸化タンパク質は、チロシン硫酸化に要求される酵素を天然
には有しない大腸菌では、生産することができない。さらに、CHO細胞は、チロシン硫酸
化について欠陥がある―この細胞は、分泌細胞ではなく、翻訳後のチロシン硫酸化を行う
能力が限定されている。例えば、Mikkelsen及びEzbanの文献、1991、Biochemistry 30: 1
533-1537.を参照されたい。有利なことに、本明細書で提供する方法は分泌型であり、か
つ実にチロシン硫酸化のための能力を備える神経細胞又はグリア細胞におけるIDUA、例え
ばHuGlyIDUAの発現を必要とする。チロシン硫酸化を検出するためのアッセイは、当技術
分野において公知である。例えば、Yangらの文献、2015, Molecules 20:2138-2164.を参
照されたい。
【0081】
hIDUA のチロシン硫酸化―ヒトCNS細胞の活発な翻訳後プロセス―は、導入遺伝子産物
のプロセシング及び活性を向上させるべきである。リソソームタンパク質のチロシン硫酸
化の意義は、明らかにされていない;しかし、他のタンパク質では、チロシン硫酸化によ
り、タンパク質-タンパク質相互作用(抗体及び受容体)の親和性を増加させ、タンパク質
分解プロセシング(ペプチドホルモン)を促進することが示されている。(Mooreの文献、20
03、J Biol. Chem. 278:24243-46;及びBundegaardらの文献、1995、EMBO J 14: 3073-79
を参照されたい)。チロシン硫酸化(IDUAのプロセシングの最終ステップとして起こる場合
がある)を担うチロシンタンパク質スルホトランスフェラーゼ(TPST1)は、明らかに脳(TPS
T1のための遺伝子発現データは、例えば、http://www.ebi.ac.uk/gxa/homeにてアクセス
可能なEMBL-EBI Expression Atlasに見出すことができる)でより高いレベル(mRNAに基づ
いて)で発現する。そのような翻訳後修飾は、最高でもCHO細胞の生産物であるラロニダー
ゼにおいて過少に示される。
【0082】
(5.2 コンストラクト及び製剤化)
α-L-イズロニダーゼ(IDUA)、例えばヒトIDUA(hIDUA)をコードするウイルスベクター又
は他のDNA発現コンストラクトは、本明細書において提供する方法における使用のための
ものである。本明細書において提供するウイルスベクター及び他のDNA発現コンストラク
トは、脳脊髄液(CSF)に、導入遺伝子を送達するための任意の好適な方法を含む。導入遺
伝子の送達の手段には、ウイルスベクター、リポソーム、他の脂質を含む複合体、他の高
分子複合体、合成修飾mRNA、非修飾mRNA、小分子、非生物活性分子(例えば、金粒子)、重
合分子(例えば、デンドリマー)、ネイキッドDNA、プラスミド、ファージ、トランスポゾ
ン、コスミド又はエピソームがある。いくつかの実施態様において、ベクターは、標的化
ベクター(例えば、神経細胞を標的とするベクター) である。
【0083】
いくつかの態様において、本開示はIDUA、例えばhIDUAをコードする使用のための核酸
を提供し、該核酸はサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)
プロモーター、MMTプロモーター、EF-1αプロモーター、UB6プロモーターニワトリβアク
チンプロモーター、CAGプロモーター、RPE65プロモーター、及びオプシンプロモーターか
らなる群から選択されるプロモーターと作用可能に連結されている。
【0084】
ある実施態様において、1以上の核酸(例えばポリヌクレオチド)を含む組換えベクター
を、本明細書において提供する。核酸は、DNA、RNA又はDNA及びRNAの組合せを含むことが
できる。ある実施態様において、DNAは、プロモーター配列、関心対象の遺伝子配列(導入
遺伝子、例えば、IDUA)、非翻訳領域及び終結配列からなる群から選択される1以上の配列
を含む。ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、関心対
象の遺伝子と作用可能に連結されたプロモーターを含む。
【0085】
ある実施態様において、本明細書において開示する核酸(例えば、ポリヌクレオチド)及
び核酸配列は、例えば、当業者に公知の任意のコドン-最適化技術を介して、コドン最適
化することができる(例えば、Quaxらによる総説、2015, Mol Cell 59:149-161を参照され
たい)。
【0086】
(5.2.1. mRNA)
ある実施態様において、本明細書において提供するベクターは、関心対象の遺伝子(例
えば、導入遺伝子、例えば、IDUA)をコードしている修飾mRNAである。CSFへの導入遺伝子
の送達のための修飾及び非修飾mRNAの合成は、例えば、その全体が参照により本明細書に
組み込まれているHocquemillerらの文献、2016、Human Gene Therapy 27(7):478-496 に
おいて教示される 。ある実施態様において、IDUA、例えば、hIDUAをコードしている修飾
mRNAを、本明細書において提供する。
【0087】
(5.2.2. ウイルスベクター)
ウイルスベクターには、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV、例えば、AAV9)、
レンチウイルス、ヘルパー依存的アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、ポックスウイ
ルス、センダイウイルス(hemagglutinin virus of Japan)(HVJ)、アルファウイルス、ワ
クシニアウイルス、及びレトロウイルスベクターがある。レトロウイルスベクターには、
マウス白血病ウイルス(MLV)及びヒト免疫不全ウイルス(HIV)ベースのベクターがある。ア
ルファウイルスベクターには、セムリキ森林ウイルス(SFV)及びシンドビスウイルス(SIN)
がある。ある実施態様において、本明細書において提供されるウイルスベクターは、組換
えウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書において提供するウイルス
ベクターは、ヒトにおいて複製欠損型となるように、改変される。ある実施態様において
、ウイルスベクターは、ハイブリッドベクター、例えば、「ヘルプレス」アデノウイルス
ベクターに配置されるAAVベクターである。ある実施態様において、第1のウイルスからの
ウイルスキャプシド及び第2のウイルスからのウイルスエンベロープタンパク質を含むウ
イルスベクターを、本明細書において提供する。具体的な実施態様において、第2のウイ
ルスは、水疱性口内炎ウイルス(VSV)である。より具体的な実施態様において、エンベロ
ープタンパク質は、VSV-Gタンパク質である。
【0088】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、HIVベースの
ウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書において提供するHIVベース
のベクターは少なくとも2つのポリヌクレオチドを含み、ここでgag及びpol遺伝子はHIVゲ
ノム由来のものとし、env遺伝子は別のウイルス由来のものとする。
【0089】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、単純ヘルペス
ウイルスベースのウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書において提
供する単純ヘルペスウイルスベースのベクターは、1以上の前初期(IE)遺伝子を含まず、
そのために細胞傷害性がなくなるように改変する。
【0090】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、MLVベースの
ウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書において提供するMLVベース
のベクターは、ウイルス遺伝子の代わりに最高8kbの異種DNAを含む。
【0091】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、レンチウイル
スベースのウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書において提供する
レンチウイルスベクターは、ヒトレンチウイルスに由来する。ある実施態様において、本
明細書において提供するレンチウイルスベクターは、非ヒトレンチウイルスに由来する。
ある実施態様において、本明細書において提供するレンチウイルスベクターは、レンチウ
イルスキャプシドにパッケージングされる。ある実施態様において、本明細書において提
供するレンチウイルスベクターは、以下のエレメント:長鎖末端反復配列、プライマー結
合部位、ポリプリントラクト、att部位、及びキャプシド化部位の1以上を含む。
【0092】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、アルファウイ
ルスベースのウイルスベクターである。ある実施態様において、本明細書において提供す
るアルファウイルスベクターは、組換え、複製欠損アルファウイルスである。ある実施態
様において、本明細書において提供するアルファウイルスベクターのアルファウイルスレ
プリコンは、それらのビリオン表面に機能的な異種リガンドを提示することによって、特
定の細胞種に標的化される。
【0093】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、AAVベースの
ウイルスベクターである。好ましい実施態様において、本明細書において提供するウイル
スベクターはAAV9又はAAVrh10ベースのウイルスベクターである。ある実施態様において
、本明細書において提供するAAV9又はAAVrh10ベースのウイルスベクターは、CNS細胞への
向性を保持する。複数のAAV血清型が特定されている。ある実施態様において、本明細書
において提供するAAVベースのベクターは、AAVの1以上の血清型に由来する成分を含む。
ある実施態様において、本明細書において提供するAAVベースのベクターは、AAV1、AAV2
、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh10、又はAAV11の1以上に由来する
成分を含む。好ましい実施態様において、本明細書において提供するAAVベースのベクタ
ーは、AAV8、AAV9、AAV10又はAAV11血清型の1以上に由来する成分を含む。AAV9ベースの
ウイルスベクターは、本明細書に記載の方法で使用する。AAVベースのウイルスベクター
の核酸配列並びに組換えAAV及びAAVキャプシドの作製方法は、例えばその各々の全体が参
照により本明細書に組み込まれている、米国特許第7,282,199 B2号、米国特許第7,790,44
9 B2号、米国特許第8,318,480 B2号、米国特許第8,962,332 B2号及び国際特許出願第PCT/
EP2014/076466号において教示される。一態様において、ただし、導入遺伝子(例えば、ID
UA)をコードするAAV(例えば、AAV9又はAAVrh10)-ベースのウイルスベクターを本明細書に
おいて提供する。具体的な実施態様において、IDUAをコードするAAV9ベースのウイルスベ
クターを、本明細書において提供する。より具体的な実施態様において、hIDUAをコード
しているAAV9ベースのウイルスベクターを、本明細書において提供する。
【0094】
(i) 調節エレメントの制御下にあり、ITRと隣接している導入遺伝子を含む発現カセッ
ト;及び(ii) AAV9キャプシドタンパク質のアミノ酸配列を有し、又はAAV9キャプシドタ
ンパク質(配列番号:26)のアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%、又は99.9
%同一であり、同時にAAV9キャプシドの生物学的機能を保持するウイルスキャプシドを含
む人工ゲノムを含むAAV9ベクターを、特定の実施態様において提供する。ある実施態様に
おいて、コードされたAAV9キャプシドは、配列番号:26の配列に1、2、3、4、5、6、7、8
、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28
、29、又は30個のアミノ酸置換を有し、かつAAV9キャプシドの生物学的機能を保持する。
図5は、置換と表示された列における比較に基づくアラインされた配列の特定の位置で置
換され得る潜在的アミノ酸を有する異なるAAV血清型のキャプシドタンパク質のアミノ酸
配列の比較アラインメントを提供する。従って、具体的な実施態様で、AAV9ベクターは、
ネイティブAAV9配列中のその位置に存在しない図5の置換列において特定される1、2、3、
4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25
、26、27、28、29、又は30個のアミノ酸置換を有するAAV9キャプシドバリアントを含む。
【0095】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法で使用するAAVは、その全体が参照によ
り組み込まれているZinnらの文献、2015, Cell Rep. 12(6): 1056-1068に記載の通り、An
c80又はAnc80L65である。ある実施態様において、本明細書に記載の方法で使用されるAAV
は、その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第9,193,956号、
第9458517号;及び第9,587,282号、並びに米国特許出願公開第2016/0376323号に記載の通
り、以下のアミノ酸挿入:LGETTRP又はLALGETTRPのうちの1つを含む。ある実施態様におい
て、その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている米国特許第9,193,956号;第
9,458,517号;及び第9,587,282号、並びに米国特許出願公開第2016/0376323号にて説明し
たように、本明細書に記載の方法で使用するAAVは、AAV.7m8である。ある実施態様におい
て、本明細書に記載の方法で使用されるAAVは、米国特許第9,585,971号において開示され
る任意のAAV(例えばAAV-PHP.B)である。ある実施態様において、本明細書に記載の方法で
使用されるAAVは、その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれている以下の特許
及び特許出願:米国特許第7,906,111号; 第8,524,446号; 第8,999,678号; 第8,628,966号
; 第8,927,514号; 第8,734,809号; 米国第9,284,357号; 第9,409,953号; 第9,169,299号;
第9,193,956号; 第9458517号;及び第9,587,282号、米国特許出願公開第2015/0374803号;
第2015/0126588号; 第2017/0067908号; 第2013/0224836号; 第2016/0215024号; 第2017/
0051257号;及び国際特許出願番号PCT/US2015/034799; PCT/EP2015/053335のいずれかにお
いて開示されるAAVである。
【0096】
ある実施態様において、一本鎖AAV(ssAAV)は、上記の通り使用することができる。ある
実施態様において、自己相補的ベクター、例えば、scAAVを使用することができる(例えば
、その各々の全体が参照により本明細書に組み込まれているWuの文献、2007、Human Gene
Therapy、18(2):171-82、McCartyらの文献、2001、Gene Therapy、Vol 8、Number 16、1
248-1254ページ;及び米国特許第6,596,535号; 第7,125,717号;及び第7,456,683号を参照
されたい)。
【0097】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法で使用するウイルスベクターは、アデノ
ウイルスベースのウイルスベクターである。組換えアデノウイルスベクターは、IDUAの導
入に使用することができる。組換えアデノウイルスは、E1欠失を有し、E3欠失を有してい
てもいなくてもよく、かつ発現カセットがいずれかの欠失した領域に挿入されている第一
世代のベクターとし得る。組換えアデノウイルスはE2及びE4領域の完全又は部分的欠失を
含む第二世代のベクターとし得る。ヘルパー依存的アデノウイルスは、アデノウイルス逆
向き末端反復配列及びパッケージングシグナル(φ)のみを保持する。導入遺伝子は、パッ
ケージングシグナル及び3'ITRの間に挿入され、およそ36 kbの野生型のサイズの近くに人
工ゲノムを維持するかさ増し配列(stuffer sequences)があってもなくてもよい。アデノ
ウイルスベクターの生産のための例示的なプロトコルは、その全体が参照により本明細書
に組み込まれているAlbaらの文献、2005、「弱体化アデノウイルス:遺伝子治療のための
最新世代アデノウイルス(Gutless adenovirus: last generation adenovirus for gene t
herapy)」、Gene Therapy 12:S18-S27に見出すことができる。
【0098】
ある実施態様において、本明細書に記載の方法で使用するウイルスベクターは、レンチ
ウイルスベースのウイルスベクターである。組換えレンチウイルスベクターは、IDUAの導
入に使用することができる。4つのプラスミドを、コンストラクト:gag/pol配列を含むプ
ラスミド、Rev配列を含むプラスミド、エンベロープタンパク質を含むプラスミド(すなわ
ちVSV-G)、並びにパッケージングエレメント及びIDUA遺伝子を有するCisプラスミドを作
製するために使用する。
【0099】
レンチウイルスベクター作製のため、とりわけポリエチレンイミン又はリン酸カルシウ
ムをトランスフェクション薬剤として使用し得ることにより4つのプラスミドを細胞(すな
わち、HEK293ベースの細胞)に共トランスフェクションする。続いて上清中のレンチウイ
ルスを採取する(レンチウイルスは、活性を示すために細胞から出芽する必要があるため
、細胞からの採取は行う必要がないし、するべきではない)。上清を濾過し(0.45 μm)、
続いて塩化マグネシウム及びベンゾナーゼを加える。さらに下流のプロセスは、非常に様
々なものがあり得、TFF及びカラムクロマトグラフィーの使用が最もGMPに適合するプロセ
スである。他のプロセスでは、超遠心分離が使用され、カラムクロマトグラフィーを伴っ
てもよいし、伴わなくてもよい。レンチウイルスベクターの作製のための例示的なプロト
コルは、その両方とも全体が参照により本明細書に組み込まれている、Leschらの文献、2
011、「バキュロウイルスベクターを用いて293T懸濁細胞中に生成されたレンチウイルス
ベクターの生産及び精製(Production and purification of lentiviral vector generate
d in 293T suspension cells with baculoviral vectors)」、Gene Therapy 18:531-538
及びAusubelらの文献、2012、「CGMP-等級のレンチウイルスベクターの生産(Production
of CGMP-Grade Lentiviral Vectors)」、Bioprocess Int. 10(2):32-43に見出すことがで
きる。
【0100】
具体的な実施態様において、本明細書に記載の方法に用いられるベクターはIDUA(例え
ば、hIDUA)をコードするベクターであり、CNSの細胞又は関連した細胞(例えば、インビボ
又はインビトロの神経細胞)に形質導入した際に、IDUAのグリコシル化バリアントが形質
導入された細胞によって発現されるようになっている。具体的な実施態様において、本明
細書に記載の方法に用いられるベクターはIDUA(例えば、hIDUA)をコードするベクターで
あり、CNSの細胞又は関連した細胞(例えば、インビボ又はインビトロの神経細胞)に形質
導入した際に、IDUAの硫酸化バリアントが細胞によって発現されるようになっている。
【0101】
(5.2.3. 遺伝子発現のプロモーター及び調節配列(modifiers))
ある実施態様において、本明細書において提供するベクターは、遺伝子送達又は遺伝子
発現(例えば、「発現制御エレメント」)を調節する構成要素を含む。ある実施態様におい
て、本明細書において提供するベクターは、遺伝子発現を調節する構成要素を含む。ある
実施態様において、本明細書において提供するベクターは、細胞との結合に影響を及ぼす
か又は細胞を標的とする構成要素を含む。ある実施態様において、本明細書において提供
するベクターは、取り込みの後細胞内でのポリヌクレオチド(例えば、導入遺伝子)の局在
化に影響を及ぼす構成要素を含む。ある実施態様において、本明細書において提供するベ
クターは、例えば、ポリヌクレオチドを取り込んだ細胞を検出するか、又は選択するため
の検出可能な、又は選択可能なマーカーとして使用することができる構成要素を含む。
【0102】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、1以上のプロ
モーターを含む。ある実施態様において、プロモーターは、構成的プロモーターである。
代替の実施例において、プロモーターは、誘導性プロモーターである。ネイティブのIDUA
遺伝子は、大部分のハウスキーピング遺伝子と同様に、主にGCリッチプロモーターを使用
する。好ましい実施態様において、hIDUAの持続的な発現を提供する強力な構成的プロモ
ーターを使用する。そのようなプロモーターには:「C」―サイトメガロウイルス(CMV)初
期エンハンサーエレメント;「A」―ニワトリβアクチン遺伝子のプロモーター並びに第一
エキソン及びイントロン;並びに「G」 ― ウサギβ-グロビン遺伝子のスプライスアクセ
プターを含む「CAG」合成プロモーターがある(Miyazakiらの文献、1989、Gene 79: 269-2
77;及びNiwaらの文献、Gene 108: 193-199を参照されたい)。
【0103】
ある実施態様において、プロモーターはCB7プロモーターである(その全体が参照により
本明細書に組み込まれているDinculescuらの文献、2005、Hum Gene Ther 16:649-663を参
照されたい。いくつかの実施態様において、CB7プロモーターは、ベクターによって駆動
される導入遺伝子の発現を増強する他の発現制御エレメントを含む。ある実施態様におい
て、他の発現制御エレメントには、ニワトリβ-アクチンイントロン及び/又はウサギβ-
グロビンpolAシグナルがある。ある実施態様において、プロモーターは、TATAボックスを
含む。ある実施態様において、プロモーターは、1以上のエレメントを含む。ある実施態
様において、1以上のプロモーターエレメントは、互いに対して逆向きにしても、位置を
変えてもよい。ある実施態様において、プロモーターのエレメントは、協働的に機能する
ように配置する。ある実施態様において、プロモーターのエレメントは、独立して機能す
るように配置する。ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクター
はヒトCMV前初期遺伝子プロモーター、SV40初期プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RS)
長鎖末端反復配列、及びラットインスリンプロモーターからなる群から選択される1以上
のプロモーターを含む。ある実施態様において、本明細書において提供するベクターは、
AAV、MLV、MMTV、SV40、RSV、HIV-1、及びHIV-2 LTRからなる群から選択される1以上
の長鎖末端反復配列(LTR)プロモーターを含む。ある実施態様において、本明細書におい
て提供するベクターは、1以上の組織特異的プロモーター(例えば、神経細胞特異的なプ
ロモーター)を含む。
【0104】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、1以上のプロ
モーター以外の調節エレメントを含む。ある実施態様において、本明細書において提供す
るウイルスベクターは、エンハンサーを含む。ある実施態様において、本明細書において
提供するウイルスベクターは、リプレッサーを含む。ある実施態様において、本明細書に
おいて提供するウイルスベクターは、イントロン又はキメライントロンを含む。ある実施
態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、ポリアデニル化配列を含
む。
【0105】
(5.2.4. シグナルペプチド)
ある実施態様において、本明細書において提供するベクターは、タンパク質送達を調節
する構成要素を含む。ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクタ
ーは、1以上のシグナルペプチドを含む。ある実施態様において、シグナルペプチドは、
導入遺伝子産物(例えば、IDUA)の細胞内での適切なパッケージング(例えばグリコシル化)
を達成することを可能にする。ある実施態様において、シグナルペプチドは、導入遺伝子
産物(例えば、IDUA)が細胞内で適切な局在化を達成することを可能にする。ある実施態様
において、シグナルペプチドは、導入遺伝子産物(例えば、IDUA)が細胞からの分泌を達成
することを可能にする。ベクターに関連して使用されるシグナルペプチドの例及び本明細
書において提供する導入遺伝子は、表1に見出すことができる。シグナルペプチドは、本
明細書において、リーダー配列又はリーダーペプチドと呼んでもよい。
表1. 本明細書において提供するベクターとともに使用するためのシグナルペプチド。
【表1】
【0106】
(5.2.5. 非翻訳領域)
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、1以上の非翻
訳領域(UTR) (例えば、3'及び/又は5’ UTR)を含む。ある実施態様において、UTRは、タ
ンパク質発現の所望のレベルのために最適化される。ある実施態様において、UTRは、導
入遺伝子のmRNA半減期の間最適化される。ある実施態様において、UTRは、導入遺伝子のm
RNAの安定性のために最適化される。ある実施態様において、UTRは、導入遺伝子のmRNAの
二次構造のために最適化される。
【0107】
(5.2.6. 逆向き末端反復配列)
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、1以上の逆向
き末端反復(ITR)配列を含む。ITR配列は、ウイルスベクターのビリオンに組換え遺伝子発
現カセットをパッケージングするために使用することができる。ある実施態様において、
ITRは、AAV(例えば、AAV9)に由来するものである(その各々の全体が参照により本明細書
に組み込まれている、例えばYanらの文献、2005, J. Virol., 79(1):364-379;米国特許第
7,282,199 B2号、米国特許第7,790,449 B2号、米国特許第8,318,480 B2号、米国特許第8,
962,332 B2号及び国際特許出願番号PCT/EP2014/076466を参照されたい)。
【0108】
(5.2.7. 導入遺伝子)
ある実施態様において、本明細書において提供するベクターは、IDUA導入遺伝子をコー
ドする。具体的な実施態様において、IDUAは、神経細胞における発現に適当な発現制御エ
レメントによって制御される:ある実施態様において、IDUA(例えば、hIDUA)導入遺伝子は
、配列番号:1のアミノ酸配列を含む。ある実施態様において、IDUA(例えば、hIDUA)導入
遺伝子は、配列番号:1に記載の配列と少なくとも85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、9
2%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%同一のアミノ酸配列を含む。
【0109】
導入遺伝子によってコードされるHuGlyIDUAは、これらに限定はされないが、配列番号:
1のアミノ酸配列を有するヒトIDUA(hIDUA)(図1に示す)、及びアミノ酸の置換、欠失、又
は付加を有する、例えばこれらに限定はされないが、図2に示すIDUAのオーソログ中に対
応する非保存的残基から選択されるアミノ酸置換を含むhIDUAの誘導体を含み得る(ただし
、そのような突然変異が図3に示す(その全体が参照により本明細書に組み込まれているSa
itoらの文献、2014、Mol Genet Metab 111:107-112、57個のMPS I突然変異を列記する表1
より);又はその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれているVenturiらの文献、
2002、Human Mutation #522 Online(「Venturi 2002」)、若しくはBertolaらの文献、201
1、Human Mutation 32:E2189-E2210(「Bertola 2011」)によって報告された重度の、中程
度に重度の、中程度の、又は減弱型MPS I表現形において同定されたいずれの突然変異も
含まないことを条件とする)。
【0110】
例えば、hIDUAの特定位置でのアミノ酸置換は図2(その全体が参照により本明細書に組
み込まれているMaitaらの文献、2013、PNAS 110:14628、図S8に報告されたオーソログの
アラインメントを示す)に表されるIDUAオーソログにおけるその位置に見出される対応す
る非保存的アミノ酸残基から選択することができる(ただし、そのような置換は図3に示さ
れるか、又は上記Venturi 2002若しくはBertola 2011において報告される有害な突然変異
のいずれも含まないことを条件とする)。結果として得られる導入遺伝子産物は、細胞培
養又は試験動物で、突然変異がIDUA機能を損なわないことを保証するためのインビトロで
の従来のアッセイを使用して試験することができる。選択される好ましいアミノ酸置換、
欠失又は付加は、細胞培養又は動物モデルにおけるMPS Iのためのインビトロでの従来の
アッセイによって試験されるIDUAの酵素活性、安定性、又は半減期を維持するか、又は増
加させるものとするべきである。例えば、導入遺伝子産物の酵素活性は基質として4-メチ
ルウンベリフェリルα-L-イズロニドを用いる従来の酵素アッセイを使用して評価するこ
とができる(使用可能な例示的なIDUA酵素アッセイについては、例えばその各々の全体が
参照により本明細書に組み込まれている、Hopwoodらの文献、1979、Clin Chim Acta 92:
257-265; Clementsらの文献、1985、Eur J Biochem 152: 21-28;及びKakkisらの文献、19
94、Prot Exp Purif 5:225-232を参照されたい)。導入遺伝子産物がMPS I表現形を修正す
る能力は;例えば、培養中でMPS I細胞にhIDUA又は誘導体をコードするウイルスベクター
又は他のDNA発現コンストラクトを形質導入することにより; 培養中のMPS I細胞にrHuGly
IDUA又は誘導体を加えることにより;あるいはMPS I細胞を rHuGlyIDUA又は誘導体を発現
及び分泌するように操作したヒト宿主細胞と共培養して、MPS I培養細胞の欠陥の修正を
決定することにより、例えば培養中のMPS I細胞におけるIDUA酵素活性及び/又はGAG貯蔵
量の低下を検出することにより、細胞培養中で評価することができる(例えば、その各々
の全体が参照により本明細書に組み込まれているMyerowitz及びNeufeldの文献、1981、J
Biol Chem 256: 3044-3048;並びにAnsonらの文献、1992、Hum Gene Ther 3: 371-379を参
照されたい)。
【0111】
(5.2.8. コンストラクト)
ある実施態様において、本明細書において提供されるウイルスベクターは、以下の順序
で以下のエレメント: a) 第1のITR配列、b) 第1のリンカー配列、c) プロモーター配列、
d) 第2のリンカー配列、e) イントロン配列、f) 第3のリンカー配列、g) 導入遺伝子(例
えば、IDUA)をコードする配列、h) 第4のリンカー配列、i) ポリA配列、j) 第5のリンカ
ー配列、及びk) 第2のITR配列を含む。
【0112】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、以下の順序で
以下のエレメント: a) プロモーター配列、及びb) 導入遺伝子(例えば、IDUA)をコードす
る配列を含む。ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、
以下の順序で以下のエレメント: a) プロモーター配列、及びb) 導入遺伝子(例えば、IDU
A)をコードする配列を含み、ここで導入遺伝子はシグナルペプチドを含む。
【0113】
ある実施態様において、本明細書において提供するウイルスベクターは、以下の順序で
以下のエレメント: a)最初のITR配列、b) 第1のリンカー配列、c) プロモーター配列、d)
第2のリンカー配列、e) イントロン配列、f) 第3のリンカー配列、g) 第1のUTR配列、h)
導入遺伝子(例えば、IDUA)をコードする配列、i) 第2のUTR配列、j) 第4のリンカー配列
、k) ポリA配列、l) 第5のリンカー配列、及びm) 第2のITR配列を含む。
【0114】
ある実施態様において、本明細書において提供されるウイルスベクターは、以下の順序
で以下のエレメント: a) 第1のITR配列、b) 第1のリンカー配列、c) プロモーター配列、
d) 第2のリンカー配列、e) イントロン配列、f) 第3のリンカー配列、g) 第1のUTR配列、
h) 導入遺伝子(例えば、IDUA)をコードする配列、i) 第2のUTR配列、j) 第4のリンカー配
列、k) ポリA配列、l) 第5のリンカー配列、及びm) 第2のITR配列を含み、ここで導入遺
伝子はシグナルペプチドを含み、かつhIDUAをコードする。
【0115】
(5.2.9. ベクターの製造及び試験)
本明細書において提供するウイルスベクターは、宿主細胞を使用して製造することがで
きる。本明細書において提供するウイルスベクターは、哺乳動物の宿主細胞、例えば、A5
49、WEHI、10T1/2、BHK、MDCK、COS1、COS7、BSC 1、BSC 40、BMT 10、VERO、W138、HeLa
、293、Saos、C2C12、L、HT1080、HepG2、初代線維芽細胞、肝細胞及び筋芽細胞) を使用
して製造することができる。本明細書において提供するウイルスベクターは、ヒト、サル
、マウス、ラット、ウサギ、又はハムスターから宿主細胞を使用して製造することができ
る。
【0116】
宿主細胞は、導入遺伝子及び関連するエレメント(すなわち、ベクターゲノム)、及びウ
イルスを宿主細胞で生産する手段、例えば複製及びキャプシド遺伝子(例えば、AAVのrep
及びcap遺伝子)をコードする配列を用いて安定的に形質転換する。AAV8キャプシドを有す
る組換えAAVベクターを生産する方法については、その全体が参照により本明細書に組み
込まれている米国特許第7,282,199 B2号の詳細な説明の第IV節を参照されたい。前記ベク
ターのゲノムコピー力価は、例えばTAQMAN(登録商標)分析によって決定することができる
。ビリオンは、例えばCsCl2沈降によって回収することができる。
【0117】
インビトロアッセイ、例えば細胞培養アッセイは本明細書に記載のベクターからの導入
遺伝子発現を測定するために使用することができ、従って例えば、ベクターの効力を示す
ことができる。例えば、HT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2、NT2、SH-SY5y、hNSC11、又はR
eNcell VM細胞株、あるいは神経細胞若しくはグリア細胞、又は神経細胞若しくはグリア
細胞の前駆細胞に由来する他の細胞株を、導入遺伝子発現を評価するために使用すること
ができる。いったん発現されると、HuGlyIDUAと関連したグリコシル化及びチロシン硫酸
化のパターンの決定を含め、発現された産物(すなわち、HuGlyIDUA)の特徴を決定するこ
とができる。
【0118】
(5.2.10. 組成物)
本明細書に記載の導入遺伝子をコードしているベクター及び好適な担体を含む組成物を
記載する。好適な担体(例えば、CSF、及び例えば神経細胞への投与のために)は、当業者
によって容易に選択される。
【0119】
(5.3 遺伝子治療)
MPS Iを有するヒト対象に、治療有効量の導入遺伝子コンストラクトの投与のための方
法を記載する。より詳細には、MPS Iを有する患者に、治療有効量の導入遺伝子コンスト
ラクトを、投与するため、特にCSFに投与のための方法を記載する。特定の実施態様にお
いて、そのような治療有効量の導入遺伝子コンストラクトのCSFに投与するための方法は
、ハーラー症候群又はハーラー-シャイエ症候群を有する患者を治療するために使用する
ことができる。
【0120】
(5.3.1. 標的患者集団)
ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターをMPS Iと診断された患者に投
与する。具体的な実施態様において、患者は、ハーラー-シャイエ症候群と診断された。
具体的な実施態様において、患者は、シャイエ症候群と診断された。具体的な実施態様に
おいて、患者は、ハーラー症候群と診断された。
【0121】
ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、重度のMPS Iと診断された
患者に投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、減弱型MPS
Iと診断された患者に投与する。
【0122】
ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、MPS Iと診断され、IDUA (
例えば、hIDUA)を用いた治療に反応すると特定された患者に投与する。
【0123】
ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、小児患者に投与する。ある
実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、3歳未満である患者に投与する。
ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、2~4歳である患者に投与する
。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、3~8歳である患者に投与す
る。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、8~16歳である患者に投
与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、6~18歳である患者
に投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、6歳以上である
患者に投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、3歳未満の
患者に投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、4ヵ月齢以
上であるが9ヵ月齢未満である患者に投与する。ある実施態様において、治療有効用量の
組換えベクターを、9ヵ月齢以上であるが18ヵ月齢未満である患者に投与する。ある実施
態様において、治療有効用量の組換えベクターを、18ヵ月以上であるが3歳未満である患
者に投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、10歳を超える
患者に投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、青年期の患
者に投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターを、成人の患者に
投与する。
【0124】
ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターは、MPS Iと診断され、遺伝子
治療処置の前にCSFに注入されたIDUA (例えば、hIDUA )による治療に反応すると特定され
た患者に投与する。
【0125】
(5.3.2. 投薬量及び投与様式)
ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターは、くも膜下腔内投与(すなわ
ち、くも膜下空間に注入して、組換えベクターがCSFを通じて散布され、CNSの細胞が形質
導入されるようにする)を介して、CSFに投与する。このことは、いくつかの方法で―例え
ば、頭蓋内(大槽又は脳室)注入、又は腰椎槽への注入によって―達成することができる。
ある実施態様において、くも膜下腔内投与は、大槽内(IC)注入(例えば、大槽に)により実
施する。具体的な実施態様において、大槽内注入は、CTによって導かれる後頭下穿刺によ
って実施する。具体的な実施態様において、くも膜下腔内注入は、腰椎穿刺によって実施
する。具体的な実施態様において、患者に実行できそうな場合は、くも膜下空間への注入
はC1-2穿刺によって実施する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベクターは
、鼻腔内投与を介してCNSに投与する。ある実施態様において、治療有効用量の組換えベ
クターは、実質内注入によりCNSに投与する。ある実施態様において、実質内注入は、線
条体を標的とする。ある実施態様において、実質内注入は、白質を標的とする。ある実施
態様において、治療有効用量の組換えベクターは、当技術において公知の任意の手段、例
えばその全体が参照により本明細書に組み込まれているHocquemillerらの文献、2016、Hu
man Gene Therapy 27(7):478-496において開示された任意の手段によって、CSFに投与す
る。
【0126】
組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも9.25~277 μg/mLのCminに維持
する用量で、CSFに投与するべきである。ある実施態様において、組換えベクターは、rHu
GlyIDUAのCSF濃度を少なくとも9.25、16、46、92、185、又は277 μg/mL) のCminに維持
する用量で、CSFに投与する。ある実施態様において、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのC
SF濃度を少なくとも9.25、16、46、92、185、又は277 μg/mL) のCminに維持する用量で
、CSFに投与する。ある実施態様において、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少
なくとも9.25 μg/mLのCminに維持する用量で、CSFに投与する。ある実施態様において、
組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも16 μg/mLのCminに維持する用量で
、CSFに投与する。ある実施態様において、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少
なくとも46 μg/mLのCminに維持する用量で、CSFに投与する。ある実施態様において、組
換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも92 μg/mLのCminに維持する用量で、
CSFに投与する。ある実施態様において、組換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少な
くとも185 μg/mLのCminに維持する用量で、CSFに投与する。ある実施態様において、組
換えベクターは、rHuGlyIDUAのCSF濃度を少なくとも277 μg/mLのCminに維持する用量で
、CSFに投与する。
【0127】
ある実施態様において、小児患者のために、組換えベクターは、CSF中で総rHuGlyIDUA
を1.00~30.00 mgに維持する用量で、CSFに投与する。ある実施態様において、小児患者
のために、組換えベクターは、CSF中で総rHuGlyIDUAを1.00、1.74、5.00、10.00、20.00
又は30.00 mgに維持する用量で、CSFに投与する。ある実施態様において、小児患者のた
めに、組換えベクターは、CSF中で総rHuGlyIDUAを1.00 mgに維持する用量で、CSFに投与
する。ある実施態様において、小児患者のために、組換えベクターは、CSF中で総rHuGlyI
DUAを1.74 mgに維持する用量で、CSFに投与する。ある実施態様において、小児患者のた
めに、組換えベクターは、CSF中で総rHuGlyIDUAを5.00 mgに維持する用量で、CSFに投与
する。ある実施態様において、小児患者のために、組換えベクターは、CSF中で総rHuGlyI
DUAを10.00 mgに維持する用量で、CSFに投与する。ある実施態様において、小児患者のた
めに、組換えベクターは、CSF中で総rHuGlyIDUAを20.00 mgに維持する用量で、CSFに投与
する。ある実施態様において、小児患者のために、組換えベクターは、CSF中で総rHuGlyI
DUAを30.00 mgに維持する用量で、CSFに投与する。
【0128】
ある実施態様において、成人患者のために、組換えベクターは、CSF中の総rHuGlyIDUA
を1.29~38.88 mgに維持する用量で、CSFに投与する。ある実施態様において、成人患者
のために、組換えベクターは、CSF中の総rHuGlyIDUAを1.29、2.25、8.40、12.96、25.93
又は38.88 mgに維持する用量で、CSFに投与する。ある実施態様において、成人患者のた
めに、組換えベクターは、CSF中の総rHuGlyIDUAを1.29 mgに維持する用量で、CSFに投与
する。ある実施態様において、成人患者のために、組換えベクターは、CSF中の総rHuGlyI
DUAを2.25 mgに維持する用量で、CSFに投与する。ある実施態様において、成人患者のた
めに、組換えベクターは、CSF中の総rHuGlyIDUAを8.40 mgに維持する用量で、CSFに投与
する。ある実施態様において、成人患者のために、組換えベクターは、CSF中の総rHuGlyI
DUAを12.96 mgに維持する用量で、CSFに投与する。ある実施態様において、成人患者のた
めに、組換えベクターは、CSF中の総rHuGlyIDUAを25.93 mgに維持する用量で、CSFに投与
する。ある実施態様において、成人の患者のために、組換えベクターは、CSF中の総rHuGl
yIDUAを38.88 mgに維持する用量で、CSFに投与する。
【0129】
くも膜下腔内投与について、治療有効用量の組換えベクターは、注入容量を好ましくは
最高約20mLとしてCSFに投与するべきである。くも膜下腔内注入に好適な担体、例えばEll
iotts B溶液は、組換えベクターのためのビヒクルとして使用するべきである。Elliots B
溶液(一般名:塩化ナトリウム、重炭酸ナトリウム、無水ブドウ糖、硫酸マグネシウム、塩
化カリウム、塩化カルシウム、及びリン酸ナトリウム)は、静菌保存剤を含んでいない無
菌の、非発熱性の、等張溶液であり、化学療法薬のくも膜下腔内投与のための希釈剤とし
て使用する。
【0130】
CSF濃度は後頭部又は腰椎穿刺から得られるCSF流体中のrHuGlyIDUAの濃度を直接測定す
ることによってモニタリングし、又は患者の血清において検出されたrHuGlyIDUAの濃度か
ら外挿によって推定することができる。ある実施態様において、血清中のrHuGlyIDUAが10
ng/mL~100 ng/mLであることは、CSF中のrHuGlyIDUAが1~30 mgであることを示す。ある
実施態様において、組換えベクターは、血清中のrHuGlyIDUAを10 ng/mL~100 ng/mLに維
持する用量で、CSFに投与する。
【0131】
ある実施態様において、投薬量は、患者(例えば、後頭下穿刺又は腰椎穿刺を介して注
入された)のCSFに投与されるゲノムコピーの数により測定する。ある実施態様において、
1×1012~2×1014ゲノムコピーを投与する。ある実施態様において、5×1012~2×1014
ノムコピーを投与する。具体的な実施態様において、1×1013~1×1014ゲノムコピーを投
与する。具体的な実施態様において、1×1013~2×1013ゲノムコピーを投与する。具体的
な実施態様において、6×1013~8×1013ゲノムコピーを投与する。
【0132】
ある実施態様において、1×1013ゲノムコピーの一定用量を、小児患者に投与する。あ
る実施態様において、5.6×1013ゲノムコピーの一定用量を、小児患者に投与する。ある
実施態様において、1×1012~5.6×1013ゲノムコピーの一定用量を、小児患者に投与する
。ある実施態様において、1×1013~5.6×1013ゲノムコピーの一定用量を、小児患者に投
与する。ある実施態様において、2.6×1012ゲノムコピーの一定用量を、成人患者に投与
する。ある実施態様において、1.3×1013ゲノムコピーの一定用量を、成人患者に投与す
る。ある実施態様において、1.4×1013ゲノムコピーの一定用量を、成人患者に投与する
。ある実施態様において、7.0×1013ゲノムコピーの一定用量を、成人患者に投与する。
ある実施態様において、1.4×1013~7.0×1013ゲノムコピーの一定用量を、成人患者に投
与する。ある実施態様において、1×1012~5.6×1013ゲノムコピーの一定用量を、成人患
者に投与する。
【0133】
ある実施態様において、投薬量は、患者のCSFに脳質量のグラム当たりに投与する(例え
ば、後頭下穿刺又は腰椎穿刺を介して注入する)ゲノムコピーの数によって測定する。あ
る実施態様において、脳質量のグラム当たり1×109~2×1010ゲノムコピーを投与する。
ある実施態様において、脳質量のグラム当たり5×109~2×1010ゲノムコピーを投与する
。ある実施態様において、脳質量のグラム当たり2×109ゲノムコピーを投与する。ある実
施態様において、脳質量のグラム当たり1×1010ゲノムコピーを投与する。具体的な実施
態様において、脳質量のグラム当たり9×109~1×1010ゲノムコピーを投与する。具体的
な実施態様において、脳質量のグラム当たり1×1010~1.5×1010ゲノムコピーを投与する
。具体的な実施態様において、脳質量のグラム当たり5×1010~6×1010ゲノムコピーを投
与する。
【0134】
一実施態様において、hIDUA発現カセットを含む血清型9キャプシドの非複製組換えAAV(
rAAV9.hIDUA)を、治療用に使用する。AAV9血清型を用いると、IC投与の後、CNS中でhIDUA
タンパク質の効率的発現が可能となる。ベクターゲノムは、AAV2の逆向き末端反復配列(I
TR)と隣接したhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、強力な構成的プロモー
ターによって駆動される。
【0135】
rAAV9.hIDUAは、約5~20mlの容量、又は約5ml以下の容量中、1.4×1013 GC(1.1×1010
GC/g脳質量)~7.0×1013 GC(5.6×1010 GC/g脳質量)の範囲にわたる単一の一定用量とし
てのICで(後頭下注入によって)投与することができる。患者がAAVに対する中和抗体を有
する場合、高い範囲の用量を使用することができる。rAAV9.hIDUAは、約5~20mlの容量、
又は約5ml以下の容量中、2.6×1012 GC(2×109 GC/g脳質量)~1.3×1013 GC(1×1010 GC/
g脳質量)の範囲にわたる単一の一定用量としてのICで(後頭下注入によって)投与すること
ができる。患者が4ヵ月齢以上であるが9ヵ月齢未満の場合、rAAV9.hIDUAは約5~20mlの容
量、又は約5ml以下の容量中、6.0×1012 GC(1.0×1010 GC/g脳質量)~3.0×1013 GC(5×1
010 GC/g脳質量)の範囲にわたる単一の一定用量としてのICで(後頭下注入によって)投与
することができる。患者が9ヵ月齢以上であるが18ヵ月齢未満の場合、rAAV9.hIDUAは約5
~20mlの容量、又は約5ml以下の容量中、1.0×1013 GC(1.0×1010 GC/g脳質量)~5.0×10
13 GC(5×1010 GC/g脳質量)の範囲にわたる単一の一定用量としてのICで(後頭下注入によ
って)投与することができる。患者が18ヵ月齢以上であるが3歳未満の場合、rAAV9.hIDUA
は約5~20mlの容量、又は約5ml以下の容量中、1.1×1013 GC(1.0×1010 GC/g脳質量)~5.
5×1013 GC(5×1010 GC/g脳質量)の範囲にわたる単一の一定用量としてのICで(後頭下注
入によって)投与することができる。
【0136】
(5.4 併用療法)
(5.4.1. 免疫抑制による共治療)
rHuGlyIDUAの送達が免疫反応を最小化すべきである一方、CNSを対象とする遺伝子治療
に関する毒性の最も明白な潜在的源は遺伝的にIDUAを欠損しており、従ってタンパク質及
び/又は導入遺伝子を送達するために用いるベクターを潜在的に寛容しないヒト対象にお
いて発現されたhIDUAタンパク質に対する免疫が発生することである。従って、好ましい
実施態様において、患者を免疫抑制治療で共治療することは―特にIDUAのレベルが0に近
い重度の疾患を有する患者(例えば、ハーラー症候群を有する患者)を治療する場合に―適
切である。タクロリムス又はラパマイシン(シロリムス)を、ミコフェノール酸と組合わせ
たレジメン、又は組織移植手順において使用される他の免疫抑制レジメンを伴う免疫抑制
治療を、利用することができる。そのような免疫抑制治療は遺伝子治療クール中に投与す
ることができ、ある実施態様において、免疫抑制治療による前処理が好ましい場合がある
。免疫抑制治療は治療医師の判断に基づいて、遺伝子治療処置の後も継続することができ
、その後免疫寛容が誘発された場合:例えば、180日後に、中止することができる。
【0137】
ある実施態様において、本明細書において提供する治療方法は、プレドニゾロン、ミコ
フェノール酸、及びタクロリムスを含む免疫抑制レジメンとともに施す。ある実施態様に
おいて、本明細書において提供する治療方法は、プレドニゾロン、ミコフェノール酸、及
びラパマイシン(シロリムス)を含む免疫抑制レジメンとともに施す。ある実施態様におい
て、本明細書において提供する治療方法は、タクロリムスを含まない免疫抑制レジメンと
ともに施す。ある実施態様において、本明細書において提供する治療方法は、1以上のコ
ルチコステロイド、例えばメチルプレドニゾロン及び/又はプレドニゾロン並びにタクロ
リムス及び/又はシロリムスを含む免疫抑制レジメンとともに施す。ある実施態様におい
て、免疫抑制治療は、ヒトIDUA治療の前に、又はそれと同時に前記対象に(a) タクロリム
ス及びミコフェノール酸、又は(b) ラパマイシン及びミコフェノール酸の組合わせを投与
して、その後も継続することを含む。ある実施態様において、免疫抑制治療は、180日後
に中止する。ある実施態様において、免疫抑制治療は、30、60、90、120、150、又は180
日後に中止する。
【0138】
ある実施態様において、タクロリムスは、血清濃度を5~10 ng/mLとする用量で投与す
る。ある実施態様において、タクロリムスは、血清濃度を4~8 ng/mLとする用量で投与す
る。ある実施態様において特に、患者が3歳未満である場合、タクロリムスは、血清濃度
を2~4 ng/mLとする用量で投与する。ある実施態様において、MMFは、血清濃度を2~3.5
μg/mLとする用量で投与する。ある実施態様において、タクロリムスは、血清濃度を5~1
0 ng/mLとする用量で投与し、かつMMFは、血清濃度を2~3.5 μg/mLとする用量で投与す
る。ある実施態様において、血清濃度は、タクロリムス及び/又はMMFのトラフレベルの測
定後、タクロリムス及び/又はMMFの漸増によって達成する。
【0139】
ある実施態様において、メチルプレドニゾロンは、10 mg/kgの用量で1回静脈内投与す
る。ある実施態様において、プレドニゾロンは、0.5 mg/kgの用量で1日1回経口投与す
る。ある実施態様において、プレドニゾロンは、段階的に漸減し、その後中断する。ある
実施態様において、タクロリムスは、4~8 ng/mlの目標血中レベルを維持するために、1
日2回1 mgを経口投与する。ある実施態様において特に、患者が3歳未満である場合、タク
ロリムスは2~4 ng/mlの目標血中レベルを維持するために1日2回0.05 mg/kgを経口投与す
る。ある実施態様において、シロリムスも投与する。患者にシロリムスを事前投与し、続
いてレジメンの間、標的血中レベルを4~8 ng/mlに維持することができる。しかしながら
、ある実施態様において、患者が3歳未満である場合、好ましくは患者にシロリムスを事
前投与し、続いてレジメンの間、標的血中レベルを1~3 ng/mlに維持する。ある実施態様
において、メチルプレドニゾロンを10 mg/kgの用量で1回静脈内投与し、プレドニゾロン
を0.5 mg/kgの用量で1日1回経口投与し、タクロリムスを1日1回0.2 mg/kgを経口投与
し、かつシロリムスを投与する。
【0140】
ある実施態様において、ラパマイシンを2又は4 mg/kgの用量で1日1回経口投与する。
ある実施態様において、MMFを25 mg/kgの用量で1日2回経口投与する。ある実施態様にお
いて、ラパマイシンを2又は4 mg/kgの用量で1日1回経口投与し、かつMMFを25 mg/kgの
用量で1日2回経口投与する。ある実施態様において、ラパマイシンは、血清濃度を5~15
ng/mLとする用量で投与する。ある実施態様において、MMFは、血清濃度を2~3.5 μg/mL
とする用量で投与する。ある実施態様において、ラパマイシンは血清濃度を5~15 ng/mL
とする用量で投与し、かつMMFは血清濃度を2~3.5 μg/mLとする用量で投与する。ある実
施態様において、血清濃度は、ラパマイシン及び/又はMMFのトラフレベルの測定後、ラパ
マイシン及び/又はMMFの滴定によって達成する。
【0141】
(5,4,2. 標準治療を含む他の治療との共治療)
CSFへのHuGlyIDUAの投与及びこれに伴う他の利用可能な治療を施すことの組合わせは、
本発明の方法に包含される。追加治療を、遺伝子治療処置の前に、それと同時に、その後
に施すことができる。本発明の遺伝子治療と併用することができる利用可能なMPS Iの治
療には、これらに限定はされないが、全身に、又はCSFに投与されるラロニダーゼを用い
た酵素補充療法(ERT);及び/又はHSCT療法がある。別の実施態様において、ERTは、組み
換えDNA技術によってヒト細胞株で生産されるrHuGlyIDUA糖タンパク質を使用して投与す
ることができる。そのような組換え糖タンパク質生産のために使用することができるヒト
細胞株は、これらに限定されないが、少し例を挙げればHT-22、SK-N-MC、HCN-1A、HCN-2
、NT2、SH-SY5y、hNSC11、ReNcell VM、ヒト胎児腎293細胞(HEK293)、線維肉腫HT-1080、
HKB-11、CAP、HuH-7、網膜細胞株、PER.C6、又はRPEを含む(例えば、その全体が参照によ
り組み込まれている、rHuGlyIDUA糖タンパク質の組換え生産のために使用することができ
るヒト細胞株の総説についてのDumontらの文献、2016、Critical Rev in Biotech 36(6):
1110-1122「生物医薬製造のためのヒト細胞株:歴史、現状、及び将来の展望(Human cell
lines for biopharmaceutical manufacturing: history, status, and future perspecti
ves)」)。完全なグリコシル化、特にシアル酸付加及びチロシン硫酸化を保証するために
、生産に使用する細胞株をチロシン-O-硫酸化を担うα-2,6-シアリルトランスフェラーゼ
(又はα-2,3-及びα-2,6-シアリルトランスフェラーゼの両方)並びに/又はTPST-1及びTPS
T-2酵素を共発現するように宿主細胞を操作することによって強化することができる。
【0142】
(5.5. バイオマーカー/採取/モニタリング効率)
有効性は、認知機能(例えば、神経認知機能低下の防止若しくは減少);CSF及び/若しく
は血清中の疾患バイオマーカー(例えばGAG)の低下;並びに/又はCSF及び/若しくは血清中
のIDUA酵素活性の増加を測定することによってモニタリングすることができる。炎症の徴
候及び他の安全事象をモニタリングすることもできる。
【0143】
(5.5.1. 疾患マーカー)
ある実施態様において、組換えベクターによる治療の有効性は、患者における疾患バイ
オマーカーのレベルを測定することによってモニタリングする。ある実施態様において、
疾患バイオマーカーのレベルは、患者のCSFにおいて測定する。ある実施態様において、
疾患バイオマーカーのレベルは、患者の血清において測定する。ある実施態様において、
疾患バイオマーカーのレベルは、患者の尿において測定する。ある実施態様において、疾
患バイオマーカーは、GAGである。ある実施態様において、疾患バイオマーカーは、IDUA
酵素活性である。ある実施態様において、疾患バイオマーカーは、炎症である。ある実施
態様において、疾患バイオマーカーは、安全事象である。
【0144】
(5.5.2. 神経認知機能の試験)
ある実施態様において、組換えベクターによる治療の有効性は、患者の認知機能のレベ
ルを測定することによってモニタリングする。認知機能は、当業者に知られている任意の
方法で測定することができる。ある実施態様において、認知機能は、知能指数(IQ)を測定
するための認証された装置を介して測定する。具体的な実施態様において、IQは、「ベク
スラー略式知能スケール(Wechsler Abbreviated Scale of Intelligence)」第2版(WASI-I
I)によって測定する。ある実施態様において、認知機能は、記憶力を測定するための認証
された装置を介して測定する。具体的な実施態様において、記憶力は、ホプキンス言語学
習試験(HVLT)によって測定する。ある実施態様において、認知機能は、注意力を測定する
ための認証された装置を介して測定する。具体的な実施態様において、注意力は、注意変
数試験(TOVA)によって測定する。ある実施態様において、認知機能は、IQ、記憶力、及び
注意力の1以上を測定するための認証された装置を介して測定する。
【0145】
(5.5.3. 身体的変化)
ある実施態様において、組換えベクターによる治療の有効性は、患者のリソソームの貯
蔵欠陥に関連する身体的な特徴を測定することによってモニタリングする。ある実施態様
において、身体的な特徴は、貯蔵部の病変である。ある実施態様において、身体的な特徴
は、低身長である。ある実施態様において、身体的な特徴は、顔の特徴の粗雑化である。
ある実施態様において、身体的な特徴は、閉塞性睡眠無呼吸である。ある実施態様におい
て、身体的な特徴は、聴覚障害である。ある実施態様において、身体的な特徴は、視覚障
害である。具体的な実施態様において、視覚障害は、角膜混濁に起因する。ある実施態様
において、身体的な特徴は、水頭症である。ある実施態様において、身体的な特徴は、脊
髄圧迫症である。ある実施態様において、身体的な特徴は、肝脾腫である。ある実施態様
において、身体的な特徴は、骨及び関節の変形である。ある実施態様において、身体的な
特徴は、心臓弁膜疾患である。ある実施態様において、身体的な特徴は、再発性上気道感
染症である。ある実施態様において、身体的な特徴は、手根管症候群である。ある実施態
様において、身体的な特徴は、巨舌症(舌の肥大)である。ある実施態様において、身体的
な特徴は、声帯肥大及び/又は変声である。そのような身体的な特徴は、当業者に公知の
任意の方法によって測定することができる。
(配列表)
【表2】
【0146】
(6. 実施例)
(6.1 実施例1: hIDUA cDNA)
hIDUA cDNAベースのベクターは、hIDUA(配列番号:1)を含む導入遺伝子を含むように構
築する。また、導入遺伝子は、表1に列記される群から選択されるシグナルペプチドを含
む核酸を含む。任意に、ベクターは、さらにプロモーターを含む。
【0147】
(6.2 実施例2:置換hIDUA cDNA)
配列番号:1のhIDUA配列と比較してアミノ酸置換、欠失、又は付加を有する、例えばこ
れに限定はされないが、図2に示すIDUAのオーソログ中の対応する非保存的残基から選択
されるアミノ酸置換を含むhIDUAを含む、導入遺伝子を含むhIDUA cDNAベースのベクター
を構築する(ただし、そのような突然変異が図3に示す(その全体が参照により本明細書に
組み込まれているSaitoらの文献、2014、Mol Genet Metab 111:107-112、57個のMPS I突
然変異を列記する表1より);又はその各々の全体が参照により本明細書に組み込まれてい
るVenturiらの文献、2002、Human Mutation #522 Online(「Venturi 2002」)、若しくはB
ertolaらの文献、2011、Human Mutation 32:E2189-E2210(「Bertola 2011」)によって報
告された重度の、中程度に重度の、中程度の、又は減弱型MPS I表現形において同定され
たいずれの突然変異も含まないことを条件とする)。また、導入遺伝子は、表1に列記され
る群から選択されるシグナルペプチドを含む核酸を含む。任意には、ベクターは、さらに
プロモーターを含む。
【0148】
(6.3 実施例3:hIDUA又は置換hIDUAを用いた動物モデルにおけるMPS Iの治療)
導入遺伝子として発現される場合、hIDUA cDNAベースのベクターはMPS Iの治療に有用
であると考えられる。MPS Iのための動物モデル、例えばClarkeらの文献、1997、Hum Mol
Genet 6(4):503-511(マウス)、Haskinsらの文献、1979、Pediatr Res 13(11):1294-97(
雑種のイエネコ)、Menonらの文献、1992、Genomics 14(3):763-768(イヌ)、又はShullら
の文献、1982、Am J Pathol 109(2):244-248(イヌ)に記載される動物モデルに、導入遺伝
子産物を送達し、動物のCSF中でCminを少なくとも9.25 μg/mLの濃度に維持するのに十分
な用量でくも膜下腔内にhIDUAをコードする組換えベクターを投与する。治療の後、動物
を、特定の動物モデルの疾患と一致した症状の改善について評価する。
【0149】
(6.4 実施例4:hIDUA又は置換hIDUAを用いたMPS Iの治療)
導入遺伝子として発現される場合、hIDUA cDNAベースのベクターはMPS Iの治療に有用
であると考えられる。MPS Iを呈する対象に導入遺伝子産物を送達し、CSF中でCminを少な
くとも9.25 μg/mLの濃度に維持するのに十分な用量でくも膜下腔内にhIDUAをコードする
cDNAベースのベクターを投与する。治療の後、対象を、MPS Iの症状の改善について評価
する。hIDUAをコードするcDNAベースのベクターの投与の前に、それと同時に、又はその
後に、患者に、ラパマイシン、MMF、及びプレドニゾロンを含む免疫抑制治療薬を投与す
る。
【0150】
(6.5 実施例5:MPS I治療の臨床プロトコル)
以下の実施例は、MPS Iを治療するためにヒト対象をrAAV9.hIDUAベクターで治療するた
めに使用することができるプロトコルを記載する。
【0151】
患者集団。治療されることとなる患者は:
・血漿、線維芽細胞又は白血球において測定された酵素活性によって確認されるMPS Iの
診断、
・任意の他の神経学的又は精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいずれ
かとして定義されるMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能低下:
○IQ試験での、又は1ドメインの神経心理的機能(言語理解、記憶力、注意力、又は知覚推
理)における平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
○逐次試験での>1の標準偏差の低下の文書化された履歴的証拠(医療記録)、を有する男
性又は女性を含み得る。
【0152】
患者には、ERT(例えば、ALDURAZYME[ラロニダーゼ] IV)の安定レジメンを受けている患
者を含み得る。出産可能性のある女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである
。性的に活発な対象(女性及び男性の両方とも)は、ベクター投与の24週間後まで医学的に
認められた障害的避妊法(例えば、コンドーム、隔膜又は節制)を使用するべきである。大
槽内(IC)治療から除外され得る患者には、IC注入又は腰椎穿刺についての禁忌を有する対
象が含まれ得る。IC注入のための禁忌には、以下のいずれかを含むことができる:
・過去の頭部/頸部手術の履歴の結果IC注入が禁忌となっている、
・CT(若しくは造影)又は全身麻酔に任意の禁忌を有する、
・MRI(又はガドリニウム)に対する任意の禁忌を有する、
・糸球体濾過速度(eGFR) <30mL/分/1.73m2の推定値を有する。
【0153】
いずれかの時にIT治療を受けて、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を経験
した患者は、ICで治療されるべきではない。
【0154】
治療医師が免疫抑制治療に適当でないと考える任意の状態を有する患者は、治療を受け
るべきではない(例えば、絶対好中球数<1.3×103/μL、血小板数<100×103/μL、及び
ヘモグロビン<12 g/dL[男性]又は<10 g/dL[女性])。代替免疫抑制レジメンは、シロリ
ムス、MMF、又はプレドニゾロンに対する過敏性反応の任意の履歴を有する任意の患者に
対し使用すべきである。
【0155】
リンパ腫又は皮膚の扁平上皮細胞又は基底細胞癌以外の別の癌の病歴を有する患者は、
治療前少なくとも3ヵ月にわたって完全寛解にない限り、治療するべきではない。
【0156】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)若しくはアスパラギン酸アミノトランスフェ
ラーゼ(AST)が>3×正常上限値(ULN)であるか、又は総ビリルビンが>1.5×ULNである患
者は、対象が過去ギルバート症候群及び総ビリルビンの<35%の抱合ビリルビンを示す分
画ビリルビンの履歴を有することが分かっている場合を除いては、治療するべきではない
【0157】
感染症又は物質乱用の履歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例えば
、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)試験陽性の履歴、活動性若しくは再発性のB型肝炎若しくは
C型肝炎、又はB型肝炎、C型肝炎、若しくはHIVスクリーニング試験陽性の履歴;治療前1年
以内のアルコール又は物質乱用の履歴である。
【0158】
一実施態様において、患者は、成人の患者である。別の実施態様において、患者は、小
児患者である。
【0159】
(施される治療―免疫抑制治療による前治療)
遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子及び/又はAAVキャプシドへの免疫反応を防止す
るために、免疫抑制治療で治療すべきである。そのような免疫抑制治療は、プレドニゾロ
ン(第-2~8日に60 mgを1日1回、経口)、MMF(第-2~60日に1gを1日2回、経口)及びシロリ
ムス(第-2日に6 mgを経口で 、その後第-1日から第48週まで2 mgを1日1回)を含む。シロ
リムスの用量は、全血トラフ濃度を16~24 ng/mL以内に維持するように調整する。大部分
の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づ
くことができる。対象は、さらに投薬量を調整する前に、濃度をモニタリングしながら少
なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続するべきである。好中球減少症を発症
する場合(絶対好中球数<1.3×103/μL)、MMFの投薬は中断するか、又は用量を低下させ
るべきである。
【0160】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャプシドの非複製組換
えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型は、IC投与の後、CNSにおけるhIDUAタンパク質の
効率的な発現を可能にする。ベクターゲノムは、AAV2逆向き末端反復配列(ITR)に隣接す
るhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによ
って駆動する。rAAV9.hIDUAベクターは、くも膜下腔内注入のためのElliotts B溶液中に
懸濁させる。
【0161】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単一の一定用量として投与する:1.4×1013 GC(1.1×1010
GC/g脳質量)の低用量、又は7.0×1013 GC(5.6×1010 GC/g脳質量)の高用量を、約5~20m
lの容量中で使用することができる。患者がAAVに対する中和抗体を有する場合、高用量は
使用することができる。
【0162】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。腰椎穿刺を実施し、まず5 ccの
CSFを除去し、その後大槽の可視化を補助するために造影ITを注入する。CT(造影を伴う)
を利用して針挿入及び後頭下空間への選択された用量のrAAV9.IDUAの投与を導く。
【0163】
(6.6 実施例6:MPS I治療の臨床プロトコル)
以下の実施例では、MPS Iを治療するためにヒト対象をrAAV9.hIDUAベクターで治療する
ために使用することができるプロトコルを記載する。
【0164】
患者集団。治療されることとなる患者は:
・血漿、線維芽細胞又は白血球において測定された酵素活性によって確認されるMPS Iの
診断(これには、過去にHSCTを受けたことがあり、又は過去若しくは現在ラロニダーゼ治
療を受けている患者を含む)、
・任意の他の神経学的又は精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいずれ
かとして定義されるMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能低下:
○IQ試験での、又は1ドメインの神経心理的機能(言語理解、注意力、又は知覚推理)にお
ける平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
○逐次試験での>1の標準偏差の低下、を有する6歳以上の男性又は女性を含み得る。
【0165】
患者は、補助具の有無にかかわらず、要求されるプロトコル試験を完了するのに十分な
聴覚的及び視覚的能力を有し、適用できる場合、試験日に進んで補助具を着用することに
従うべきである。
【0166】
出産可能性のある女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである。全ての性的
に活発な対象は、スクリーニング受診からベクター投与の24週間後まで医学的に認められ
た障害的避妊法を進んで使用しなくてはならない。性的に活発な女性は、スクリーニング
受診からシロリムスの最後の投薬の12週間後まで(どちらか遅い方)有効な受胎調節法を進
んで使用しなければならない。大槽内(IC)治療から除外され得る患者には、IC注入又は腰
椎穿刺についての禁忌を有する対象が含まれ得る。IC注入のための禁忌には、以下のいず
れかを含むことができる:
・過去の頭部/頸部手術の履歴の結果IC注入が禁忌となっている、
・CT(若しくは造影)又は全身麻酔に任意の禁忌を有する、
・MRI(又はガドリニウム)に対する任意の禁忌を有する、
・糸球体濾過速度(eGFR) <30mL/分/1.73m2の推定値を有する。
【0167】
いずれかの時にIT治療を受けて、IT投与に関し関係すると考えられる重大な有害反応を
経験した患者は、ICで治療されるべきではない。治療医師が免疫抑制治療に適当でないと
考える任意の状態を有する患者は、治療を受けるべきではない(例えば、絶対好中球数<1
.3×103/μL、血小板数<100×103/μL、及びヘモグロビン<12 g/dL[男性]又は<10 g/d
L[女性])。代替免疫抑制レジメンは、シロリムス、MMF、又はプレドニゾロンに対する過
敏性反応の任意の履歴を有する任意の患者に対し使用すべきである。
【0168】
リンパ腫又は皮膚の扁平上皮細胞又は基底細胞癌以外の別の癌の病歴を有する患者は、
治療前少なくとも3ヵ月にわたって完全寛解にない限り、治療するべきではない。
【0169】
最大限の医学的治療にもかかわらず抑制されない高血圧(収縮期BP >180 mmHg、拡張期
BP >100 mmHg)を有する患者は、治療するべきではない。
【0170】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)若しくはアスパラギン酸アミノトランスフェ
ラーゼ(AST)が>3×正常上限値(ULN)であるか、又は総ビリルビンが>1.5×ULNである患
者は、対象が過去ギルバート症候群及び総ビリルビンの<35%の抱合ビリルビンを示す分
画ビリルビンの履歴を有することが分かっている場合を除いては、治療するべきではない
【0171】
感染症又は物質乱用の履歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例えば
、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)又はB型肝炎若しくはC型肝炎ウイルス感染の履歴、あるい
はB型肝炎表面抗原若しくはB型肝炎核抗体、又はC型肝炎若しくはHIV抗体のスクリーニン
グ陽性の試験結果;スクリーニング前1年以内のアルコール又は物質乱用の履歴である。
【0172】
30日以内又は半減期の5倍の期間だけ前に任意の治験薬を与えられた患者はどちらの期
間が長かったとしても、任意の時間先立って投与することができるITラロニダーゼを投与
された患者を除き、治療するべきではない。
【0173】
妊娠している、分娩後6週未満の、スクリーニング時に授乳中の、又は52週を通じて任
意の時に妊娠する予定である患者は、治療するべきではない。
【0174】
対象の安全を脅かす臨床的に重要なECG異常を有する患者は、治療するべきではない。
対象の安全を脅かす、深刻又は不安定な医学又は心理状態を有する患者は、治療するべき
ではない。
【0175】
(施される治療―免疫抑制治療による前治療)
遺伝子治療の前に、患者は、導入遺伝子及び/又はAAVキャプシドへの免疫反応を防止す
るために、免疫抑制治療で治療すべきである。そのような免疫抑制治療は、プレドニゾロ
ン(第-2~8日に60 mgを1日1回、経口)、MMF(第-2~60日に1gを1日2回、経口)及びシロリ
ムス(第-2日に6 mgを経口で 、その後第-1日から第48週まで2 mgを1日1回)を含む。シロ
リムスの用量は、全血トラフ濃度を16~24 ng/mL以内に維持するように調整する。大部分
の対象において、用量調整は、式:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づ
くことができる。対象は、さらに投薬量を調整する前に、濃度をモニタリングしながら少
なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量を継続するべきである。
【0176】
免疫抑制レジメンの土台となる原理は完全に免疫を抑制するためにコルチコステロイド
を投与すること―用量を負荷するためにIVメチルプレドニゾロンから開始し、続いて経口
プレドニゾロンを段階的に漸減させて、患者が12週までにステロイドを中止するようにす
る。コルチコステロイド治療は、タクロリムス(24週間)及び/又はシロリムス(12週間)に
よって補充し、MMFでさらに補充することができる。タクロリムス及びシロリムスの両方
を使用する場合、各々の用量は4~8 ng/mlの血液トラフレベルを維持するように調整され
た低用量とすべきである。一方の薬剤のみを使用する場合、ラベル用量(高用量)を利用す
るべきである;例えば、12時間ごとの2分割された用量として与えられる0.15~0.20 mg/kg
/日のタクロリムス;及び1 mg/m2/日のシロリムス;負荷投与量は、3 mg/m2とするべきであ
る。MMFをレジメンに加える場合、作用機序が異なるため、タクロリムス及び/又はシロリ
ムスの用量は維持することができる。
【0177】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャプシドの非複製組換
えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型は、IC投与の後、CNSにおけるhIDUAタンパク質の
効率的な発現を可能にする。ベクターゲノムは、AAV2逆向き末端反復配列(ITR)に隣接す
るhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによ
って駆動する。rAAV9.hIDUAベクターは、くも膜下腔内注入のためのElliotts B溶液中に
懸濁させる。
【0178】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単一の一定用量として投与する: 2×109 GC/g脳質量(2.6
×1012 GC)の用量、又は1×1010 GC/g脳質量(1.3×1013 GC)の用量。用量は、約5~20ml
の容量とすることができる。
【0179】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0180】
(6.7 実施例7:MPS I治療の臨床プロトコル)
以下の実施例は、MPS Iを治療するためにヒト対象をrAAV9.hIDUAベクターで治療するた
めに使用することができるプロトコルを記載する。
【0181】
患者集団。治療されることとなる患者は:
・血漿、線維芽細胞又は白血球において測定された酵素活性によって確認されるMPS Iの
診断(これには、過去又は現在HSCT又はラロニダーゼ治療を受け得る患者を含む)、
・任意の他の神経学的又は精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいずれ
かとして定義されるMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能低下:
○IQ試験での、又は1ドメインの神経心理的機能(言語理解、注意力、又は知覚推理)にお
ける平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
○逐次試験での>1の標準偏差の低下、を有する男性又は女性を含み得る。
【0182】
患者は、補助具の有無にかかわらず、要求されるプロトコル試験を完了するのに十分な
聴覚的及び視覚的能力を有し、適用できる場合、試験日に進んで補助具を着用することに
従うべきである。
【0183】
出産可能性のある女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである。全ての性的
に活発な対象は、スクリーニング受診からベクター投与の24週間後まで医学的に認められ
た障害的避妊法を進んで使用しなくてはならない。性的に活発な女性は、スクリーニング
受診からシロリムスの最後の投薬の12週間後まで(どちらか遅い方)有効な受胎調節法を進
んで使用しなければならない。大槽内(IC)治療から除外され得る患者には、IC注入又は腰
椎穿刺についての禁忌を有する対象が含まれ得る。IC注入のための禁忌には、以下のいず
れかを含むことができる:
・過去の頭部/頸部手術の履歴の結果IC注入が禁忌となっている、
・CT(若しくは造影)又は全身麻酔に任意の禁忌を有する、
・MRI(又はガドリニウム)に対する任意の禁忌を有する、
・糸球体濾過速度(eGFR) <30mL/分/1.73m2の推定値を有する。
【0184】
いずれかの時にIT治療を受けて、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を経験
した患者は、ICで治療されるべきではない。治療医師が免疫抑制治療に適当でないと考え
る任意の状態を有する患者は、治療を受けるべきではない(例えば、絶対好中球数<1.3×
103/μL、血小板数<100×103/μL、及びヘモグロビン<12 g/dL[男性]又は<10 g/dL[女
性])。
【0185】
代替免疫抑制レジメンは、シロリムス、又はプレドニゾロンに対する過敏性反応の任意
の履歴を有する任意の患者に対し使用すべきである。原発性免疫不全症、脾臓摘出又は感
染にかかりやすくする任意の基礎的状態の履歴を有する患者は、免疫抑制治療で治療する
べきではない。スクリーニングの少なくとも12週間前に完全には消散していない帯状疱疹
ウイルス、サイトメガロウイルス又はエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)に感染してい
る患者は、免疫抑制治療で治療するべきではない。(1) 2回目の受診の少なくとも8週間前
に消散しておらず、入院又は親世代抗感染症薬による治療を必要とする任意の感染症を有
する患者、又は(2) 2回目の受診前10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必
要とする任意の活発な感染症、若しくは活発な結核の病歴を有する患者、又は(3) スクリ
ーニングの間のQuantiferon_TB Gold試験で陽性となった患者、又は(4) インフォームド
コンセント用紙に署名をする前8週間以内に任意の生ワクチンを受けた患者、又は(5) イ
ンフォームドコンセントに署名をする前8週間以内に大手術を行った患者、又は(6) 試験
期間中に大手術を予定している患者は、免疫抑制治療で治療するべきではない。絶対好中
球数<1.3×103/μLである患者は、免疫抑制治療で治療するべきではない。
【0186】
治療前少なくとも3ヵ月にわたり完全寛解にない限り、リンパ腫又は皮膚の扁平上皮細
胞又は基底細胞癌以外の別の癌の病歴を有する患者は、治療するべきではない。
【0187】
最大限の医学的治療にもかかわらず抑制されない高血圧(収縮期BP >180 mmHg、拡張期
BP >100 mmHg)を有する患者は、治療するべきではない。
【0188】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)若しくはアスパラギン酸アミノトランスフェ
ラーゼ(AST)が>3×正常上限値(ULN)であるか、又は総ビリルビンが>1.5×ULNである患
者は、対象が過去ギルバート症候群及び総ビリルビンの<35%の抱合ビリルビンを示す分
画ビリルビンの履歴を有することが分かっている場合を除いては、治療するべきではない
【0189】
感染症又は物質乱用の履歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例えば
、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)又はB型肝炎若しくはC型肝炎ウイルス感染の履歴、あるい
はB型肝炎表面抗原若しくはB型肝炎核抗体、又はC型肝炎若しくはHIV抗体のスクリーニン
グ陽性の試験結果;治療前1年以内のアルコール又は物質乱用の履歴である。
【0190】
一実施態様において、患者は成人患者である。別の実施態様において、患者は小児患者
である。
【0191】
(施される治療―免疫抑制治療による前治療)
遺伝子治療に先立ち、導入遺伝子及び/又はAAVキャプシドに対する免疫反応を予防する
ために、患者を免疫抑制治療で治療するべきである。そのような免疫抑制治療はコルチコ
ステロイド(第1日にメチルプレドニゾロン10 mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与し、第2日に
経口プレドニゾンを0.5 mg/kg/日から開始し、段階的に漸減させて、第12週までに中断す
る)、タクロリムス(第2日から第24週まで1日2回[BID]1 mgを経口的に[PO]、目標血中レベ
ルを4~8 ng/mLとし、第24週から第32週にかけての8週間にわたり漸減する)、及びシロリ
ムス(第-2日に4時間ごとに1 mg/m2×3用量の負荷用量、続いて第-1日からシロリムス0.5
mg/m2/日をBIDに分けて、第48週まで目標血中レベルを4~8 ng/mLとして投薬する)を含む
。神経学的評価及びタクロリムス/シロリムス血中レベルのモニタリングを実施する。シ
ロリムス及びタクロリムスの用量は、目標範囲の血中レベルを維持するように調整する。
48週の経過後は、免疫抑制治療は予定されない。大部分の対象において、用量調整は、式
:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらに
投薬量を調整する前に、濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新し
い維持用量を継続するべきである。
【0192】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャプシドの非複製組換
えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型は、IC投与の後、CNSにおけるhIDUAタンパク質の
効率的な発現を可能にする。ベクターゲノムは、AAV2逆向き末端反復配列(ITR)に隣接す
るhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによ
って駆動する。rAAV9.hIDUAベクターは、くも膜下腔内注入のためのElliotts B溶液中に
懸濁させる。
【0193】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単一の一定用量として投与する: 2×109 GC/g脳質量(2.6
×1012 GC)の用量、又は1×1010 GC/g脳質量(1.3×1013 GC)の用量。用量は、約5~20ml
の容量とすることができる。
【0194】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0195】
(6.8 実施例8:MPS I治療の臨床プロトコル)
以下の実施例は、MPS Iを治療するためにヒト対象をrAAV9.hIDUAベクターで治療するた
めに使用することができるプロトコルを記載する。
【0196】
患者集団。治療されることとなる患者は:
・血漿、線維芽細胞又は白血球において測定された酵素活性によって確認されるMPS Iの
診断(これには、過去又は現在HSCT又はラロニダーゼ治療を受け得る患者を含む)、
・任意の他の神経学的又は精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいずれ
かとして定義されるMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能欠陥:
○IQ試験での、又は1ドメインの神経心理的機能(言語理解、注意力、又は知覚推理)にお
ける平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
○逐次試験での>1の標準偏差の低下、を有する6歳以上の男性又は女性を含み得る。
【0197】
患者は、補助具の有無にかかわらず、要求されるプロトコル試験を完了するのに十分な
聴覚的及び視覚的能力を有し、適用できる場合、試験日に進んで補助具を着用することに
従うべきである。
【0198】
出産可能性のある女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである。全ての性的
に活発な対象は、スクリーニング受診からベクター投与の24週間後まで医学的に認められ
た障害的避妊法を進んで使用しなくてはならない。性的に活発な女性は、スクリーニング
受診からシロリムスの最後の投薬の12週間後まで(どちらか遅い方)有効な受胎調節法を進
んで使用しなければならない。大槽内(IC)治療から除外され得る患者には、IC注入又は腰
椎穿刺についての禁忌を有する対象が含まれ得る。IC注入のための禁忌には、以下のいず
れかを含むことができる:
・過去の頭部/頸部手術の履歴の結果IC注入が禁忌となっている、
・CT(若しくは造影)又は全身麻酔に任意の禁忌を有する、
・MRI(又はガドリニウム)に対する任意の禁忌を有する、
・糸球体濾過速度(eGFR) <30mL/分/1.73m2の推定値を有する。
【0199】
いずれかの時にIT治療を受けて、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を経験
した患者は、ICで治療されるべきではない。治療医師が免疫抑制治療に適当でないと考え
る任意の状態を有する患者は、治療を受けるべきではない(例えば、絶対好中球数<1.3×
103/μL、血小板数<100×103/μL、及びヘモグロビン<12 g/dL[男性]又は<10 g/dL[女
性])。
【0200】
代替免疫抑制レジメンは、タクロリムス、シロリムス、又はプレドニゾロンに対する過
敏性反応の任意の履歴を有する任意の患者に対し使用すべきである。原発性免疫不全症、
脾臓摘出又は感染にかかりやすくする任意の基礎的状態の履歴を有する患者は、免疫抑制
治療で治療するべきではない。スクリーニングの少なくとも12週間前に完全には消散して
いない帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス又はエプスタイン・バー・ウイルス(EBV
)に感染している患者は、免疫抑制治療で治療するべきではない。(1) 2回目の受診の少な
くとも8週間前に消散しておらず、入院又は親世代抗感染症薬による治療を必要とする任
意の感染症を有する患者、又は(2) 2回目の受診前10日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス
薬を含む)を必要とする任意の活発な感染症、若しくは活発な結核の病歴を有する患者、
又は(3) スクリーニングの間のQuantiferon_TB Gold試験で陽性となった患者、又は(4)
インフォームドコンセント用紙に署名をする前8週間以内に任意の生ワクチンを受けた患
者、又は(5) インフォームドコンセントに署名をする前8週間以内に大手術を行った患者
、又は(6) 試験期間中に大手術を予定している患者は、免疫抑制治療で治療するべきでは
ない。絶対好中球数<1.3×103/μLである患者は、免疫抑制治療で治療するべきではない
【0201】
リンパ腫又は皮膚の扁平上皮細胞又は基底細胞癌以外の別の癌の病歴を有する患者は、
治療前少なくとも3ヵ月にわたって完全寛解にない限り、治療するべきではない。
【0202】
最大限の医学的治療にもかかわらず抑制されない高血圧(収縮期BP >180 mmHg、拡張期
BP >100 mmHg)を有する患者は、治療するべきではない。
【0203】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)若しくはアスパラギン酸アミノトランスフェ
ラーゼ(AST)が>3×正常上限値(ULN)であるか、又は総ビリルビンが>1.5×ULNである患
者は、対象が過去ギルバート症候群及び総ビリルビンの<35%の抱合ビリルビンを示す分
画ビリルビンの履歴を有することが分かっている場合を除いては、治療するべきではない
【0204】
感染症又は物質乱用の履歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例えば
、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)又はB型肝炎若しくはC型肝炎ウイルス感染の履歴、あるい
はB型肝炎表面抗原若しくはB型肝炎核抗体、又はC型肝炎若しくはHIV抗体のスクリーニン
グ陽性の試験結果;治療前1年以内のアルコール又は物質乱用の履歴である。
【0205】
(施される治療―免疫抑制治療による前治療)
遺伝子治療に先立ち、導入遺伝子及び/又はAAVキャプシドに対する免疫反応を予防する
ために、患者を免疫抑制治療で治療するべきである。そのような免疫抑制治療はコルチコ
ステロイド(第1日にメチルプレドニゾロン10 mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与し、第2日に
経口プレドニゾンを0.5 mg/kg/日から開始し、段階的に漸減させて、第12週までに中断す
る)、タクロリムス(第2日から第24週まで1日2回[BID]1 mgを経口的に[PO]、目標血中レベ
ルを4~8 ng/mLとし、第24週から第32週にかけての8週間にわたり漸減する)、及びシロリ
ムス(第-2日に4時間ごとに1 mg/m2×3用量の負荷用量、続いて第-1日からシロリムス0.5
mg/m2/日をBIDに分けて、第48週まで目標血中レベルを4~8 ng/mlとして投薬する)を含む
。神経学的評価及びタクロリムス/シロリムス血中レベルのモニタリングを実施する。シ
ロリムス及びタクロリムスの用量は、目標範囲の血中レベルを維持するように調整する。
48週の経過後は、免疫抑制治療は予定されない。大部分の対象において、用量調整は、式
:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらに
投薬量を調整する前に、濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新し
い維持用量を継続するべきである。
【0206】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャプシドの非複製組換
えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型は、IC投与の後、CNSにおけるhIDUAタンパク質の
効率的な発現を可能にする。ベクターゲノムは、AAV2逆向き末端反復配列(ITR)に隣接す
るhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによ
って駆動する。rAAV9.hIDUAベクターは、くも膜下腔内注入のためのElliotts B溶液中に
懸濁させる。
【0207】
rAAV9.hIDUAは、IC投与による単一の一定用量として投与する: 2×109 GC/g脳質量(2.6
×1012 GC)の用量、又は1×1010 GC/g脳質量(1.3×1013 GC)の用量。用量は、約5~20ml
の容量とすることができる。
【0208】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0209】
(6.9 実施例9:MPS I治療の臨床プロトコル)
以下の実施例は、MPS Iを治療するためにヒト対象をrAAV9.hIDUAベクターで治療するた
めに使用することができるプロトコルを記載する。
【0210】
患者集団。治療されることとなる患者は:
・血漿、線維芽細胞又は白血球において測定された酵素活性によって確認されるMPS Iの
診断(これには、過去又は現在HSCT又はラロニダーゼ治療を受け得る患者を含む)、
・任意の他の神経学的又は精神医学的な因子によって説明可能でない場合、以下のいずれ
かとして定義されるMPS Iに起因する初期段階の神経認知機能欠陥:
○IQ試験での、又は1ドメインの神経心理的機能(言語理解、注意力、又は知覚推理)にお
ける平均を下回る標準偏差≧1のスコア、
○逐次試験での>1の標準偏差の低下、を有し、
・3歳未満の患者が神経認知機能低下を伴うハーラー症候群をもたらすことが知られる突
然変異(複数可)によって確認される、重度形態のMPS I(ハーラー症候群)を有する、6歳以
上の男性又は女性及び3歳未満の男性又は女性を含み得る。
【0211】
患者は、補助具の有無にかかわらず、要求されるプロトコル試験を完了するのに十分な
聴覚的及び視覚的能力を有し、適用できる場合、試験日に進んで補助具を着用することに
従うべきである。
【0212】
出産可能性のある女性は、治療の日に血清妊娠試験陰性であるべきである。全ての性的
に活発な対象は、スクリーニング受診からベクター投与の24週間後まで医学的に認められ
た障害的避妊法を進んで使用しなくてはならない。性的に活発な女性は、スクリーニング
受診からシロリムスの最後の投薬の12週間後まで(どちらか遅い方)有効な受胎調節法を進
んで使用しなければならない。大槽内(IC)治療から除外され得る患者には、IC注入又は腰
椎穿刺についての禁忌を有する対象が含まれ得る。IC注入のための禁忌には、以下のいず
れかを含むことができる:
・過去の頭部/頸部手術の履歴の結果IC注入が禁忌となっている、
・CT(若しくは造影)又は全身麻酔に任意の禁忌を有する、
・MRI(又はガドリニウム)に対する任意の禁忌を有する、
・糸球体濾過速度(eGFR) <30mL/分/1.73m2の推定値を有する。
【0213】
いずれかの時にIT治療を受けて、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を経験
した患者は、ICで治療されるべきではない。治療医師が免疫抑制治療に適当でないと考え
る任意の状態を有する患者は、治療を受けるべきではない(例えば、絶対好中球数<1.3×
103/μL、血小板数<100×103/μL、及びヘモグロビン<12 g/dL[男性]又は<10 g/dL[女
性])。
【0214】
代替免疫抑制レジメンは、タクロリムス、シロリムス、又はプレドニゾロンに対する過
敏性反応の任意の履歴を有する任意の患者に対し使用すべきであるか、又は該患者は除外
するべきである。原発性免疫不全症、脾臓摘出又は感染にかかりやすくする任意の基礎的
状態の履歴を有する患者は、免疫抑制治療で治療するべきではない。スクリーニングの少
なくとも12週間前に完全には消散していない帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス又
はエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)に感染している患者は、免疫抑制治療で治療する
べきではない。(1) 2回目の受診の少なくとも8週間前に消散しておらず、入院又は親世代
抗感染症薬による治療を必要とする任意の感染症を有する患者、又は(2) 2回目の受診前1
0日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とする任意の活発な感染症、若し
くは活発な結核の病歴を有する患者、又は(3) スクリーニングの間のQuantiferon_TB Gol
d試験で陽性となった患者、又は(4) インフォームドコンセント用紙に署名をする前8週間
以内に任意の生ワクチンを受けた患者、又は(5) インフォームドコンセントに署名をする
前8週間以内に大手術を行った患者、又は(6) 試験期間中に大手術を予定している患者は
、免疫抑制治療で治療するべきではない。絶対好中球数<1.3×103/μLである患者は、免
疫抑制治療で治療するべきではない。
【0215】
リンパ腫又は皮膚の扁平上皮細胞又は基底細胞癌以外の別の癌の病歴を有する患者は、
治療前少なくとも3ヵ月にわたって完全寛解にない限り、治療するべきではない。
【0216】
最大限の医学的治療にもかかわらず抑制されない高血圧(収縮期BP >180 mmHg、拡張期
BP >100 mmHg)を有する患者は、治療するべきではない。
【0217】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)若しくはアスパラギン酸アミノトランスフェ
ラーゼ(AST)が>3×正常上限値(ULN)であるか、又は総ビリルビンが>1.5×ULNである患
者は、対象が過去ギルバート症候群及び総ビリルビンの<35%の抱合ビリルビンを示す分
画ビリルビンの履歴を有することが分かっている場合を除いては、治療するべきではない
【0218】
感染症又は物質乱用の履歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例えば
、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)又はB型肝炎若しくはC型肝炎ウイルス感染の履歴、あるい
はB型肝炎表面抗原若しくはB型肝炎核抗体、又はC型肝炎若しくはHIV抗体のスクリーニン
グ陽性の試験結果;治療前1年以内のアルコール又は物質乱用の履歴である。
【0219】
(施される治療―免疫抑制治療による前治療)
遺伝子治療に先立ち、導入遺伝子及び/又はAAVキャプシドに対する免疫反応を予防する
ために、患者を免疫抑制治療で治療するべきである。6歳以上の患者のためのそのような
免疫抑制治療はコルチコステロイド(第1日にメチルプレドニゾロン10 mg/kgを1回静脈内[
IV]に前投与し、第2日に経口プレドニゾンを0.5 mg/kg/日から開始し、段階的に漸減させ
て、第12週までに中断する)、タクロリムス(第2日から第24週まで1日2回[BID]1 mgを経口
的に[PO]、目標血中レベルを4~8 ng/mLとし、第24週から第32週にかけての8週間にわた
り漸減する)、及びシロリムス(第-2日に4時間ごとに1 mg/m2×3用量の負荷用量、続いて
第-1日からシロリムス0.5 mg/m2/日をBIDに分けて、第48週まで目標血中レベルを4~8 ng
/mlとして投薬する)を含む。3歳未満の患者のためのそのような免疫抑制治療はコルチコ
ステロイド(第1日にメチルプレドニゾロン10 mg/kgを1回静脈内[IV]に前投与し、第2日に
経口プレドニゾンを0.5 mg/kg/日から開始し、段階的に漸減させて、第12週までに中断す
る)、タクロリムス(第2日から第24週まで1日2回[BID]0.05 mg/kgを経口的に[PO]、目標血
中レベルを2~4 ng/mLとし、第24週から第32週にかけての8週間にわたり漸減する)、及び
シロリムス(第-2日に4時間ごとに1 mg/m2×3用量の負荷用量、続いて第-1日からシロリム
ス0.5 mg/m2/日をBIDに分けて、第48週まで目標血中レベルを1~3 ng/mlとして投薬する)
を含む。神経学的評価及びタクロリムス/シロリムス血中レベルのモニタリングを実施す
る。シロリムス及びタクロリムスの用量は、目標範囲の血中レベルを維持するように調整
する。48週の経過後は、免疫抑制治療は予定されない。大部分の対象において、用量調整
は、式:新規用量=現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、
さらに投薬量を調整する前に、濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわた
り新しい維持用量を継続するべきである。
【0220】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャプシドの非複製組換
えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型は、IC投与の後、CNSにおけるhIDUAタンパク質の
効率的な発現を可能にする。ベクターゲノムは、AAV2逆向き末端反復配列(ITR)に隣接す
るhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによ
って駆動する。rAAV9.hIDUAベクターは、くも膜下腔内注入のためのElliotts B溶液中に
懸濁させる。
【0221】
6歳以上の患者には、rAAV9.hIDUAは、IC投与による単一の一定用量として投与する: 2
×109 GC/g脳質量(2.6×1012 GC)の用量、又は1×1010 GC/g脳質量(1.3×1013 GC)の用量
。用量は、約5 ml以下の容量とすることができる。
【0222】
3歳未満の患者には、rAAV9.hIDUAをIC投与により、1×1010 GC/g脳質量の用量で(4ヵ月
齢以上であるが9ヵ月齢未満の患者については6.0×1012 GC;9ヵ月齢以上であるが18ヵ月
齢未満の患者については1.0×1013 GC;18ヵ月以上であるが3歳未満の患者については1.1
×1013 GC)、又は5×1010 GC/g脳質量の用量で(4ヵ月齢以上であるが9ヵ月齢未満の患者
については3.0×1013 GC;9ヵ月齢以上であるが18ヵ月齢未満の患者については5.0×1013
GC;18ヵ月以上であるが3歳未満の患者については5.5×1013 GC)、単一の一定用量とし
て投与する。用量は、約5 ml以下の容量とし得る。
【0223】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0224】
(6.10 実施例10:MPS I治療の臨床プロトコル)
以下の実施例は、MPS Iを治療するためにヒト対象をrAAV9.hIDUAベクターで治療するた
めに使用することができるプロトコルを記載する。
【0225】
患者集団。治療されることとなる患者は:
・臨床徴候及びMPS I-Hに合致する症状、及び/又は重症表現形のみに関連付けられる突然
変異についてのホモ接合性若しくは複合的ヘテロ接合性の存在によって確認される重度の
MPS I-ハーラーとの診断、
・知能指数(IQ)スコア≧55、を有する3歳未満の男性又は女性を含み得る。
【0226】
患者は、補助具の有無にかかわらず、要求されるプロトコル試験を完了するのに十分な
聴覚的及び視覚的能力を有し、適用できる場合、試験日に進んで補助具を着用することに
従うべきである。
【0227】
大槽内(IC)治療から除外され得る患者には、IC注入又は腰椎穿刺についての禁忌を有す
る対象が含まれ得る。IC注入のための禁忌には、以下のいずれかを含むことができる:
・過去の頭部/頸部手術の履歴の結果IC注入が禁忌となっている、
・CT(若しくは造影)又は全身麻酔に任意の禁忌を有する、
・MRI(又はガドリニウム)に対する任意の禁忌を有する、
・糸球体濾過速度(eGFR) <30mL/分/1.73m2の推定値を有する。
【0228】
いずれかの時にIT治療を受けて、IT投与に関係すると考えられる重大な有害反応を経験
した患者は、ICで治療されるべきではない。治療医師が免疫抑制治療に適当でないと考え
る任意の状態を有する患者は、治療を受けるべきではなく(例えば、絶対好中球数<1.3×
103/μL、血小板数<100×103/μL)、かつヘモグロビンを評価する。
【0229】
代替免疫抑制レジメンは、タクロリムス、シロリムス、又はプレドニゾロンに対する過
敏性反応の任意の履歴を有する任意の患者に対し使用すべきであるか、又は該患者は除外
するべきである。原発性免疫不全症、脾臓摘出又は感染にかかりやすくする任意の基礎的
状態の履歴を有する患者は、免疫抑制治療で治療するべきではない。スクリーニングの少
なくとも12週間前に完全には消散していない帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス又
はエプスタイン・バー・ウイルス(EBV)に感染している患者は、免疫抑制治療で治療する
べきではない。(1) 2回目の受診の少なくとも8週間前に消散しておらず、入院又は親世代
抗感染症薬による治療を必要とする任意の感染症を有する患者、又は(2) 2回目の受診前1
0日以内に経口抗感染症薬(抗ウイルス薬を含む)を必要とする任意の活発な感染症、若し
くは活発な結核の病歴を有する患者、又は(3) スクリーニングの間のQuantiferon_TB Gol
d試験で陽性となった患者、又は(4) インフォームドコンセント用紙に署名をする前8週間
以内に任意の生ワクチンを受けた患者、又は(5) インフォームドコンセントに署名をする
前8週間以内に大手術を行った患者、又は(6) 試験期間中に大手術を予定している患者は
、免疫抑制治療で治療するべきではない。絶対好中球数<1.3×103/μLである患者は、免
疫抑制治療で治療するべきではない。
【0230】
リンパ腫又は皮膚の扁平上皮細胞又は基底細胞癌以外の別の癌の病歴を有する患者は、
治療前少なくとも3ヵ月にわたって完全寛解にない限り、治療するべきではない。
【0231】
最大限の医学的治療にもかかわらず抑制されない高血圧(収縮期BP >180 mmHg、拡張期
BP >100 mmHg)を有する患者は、治療するべきではない。
【0232】
アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)若しくはアスパラギン酸アミノトランスフェ
ラーゼ(AST)が>3×正常上限値(ULN)であるか、又は総ビリルビンが>1.5×ULNである患
者は、対象が過去ギルバート症候群の履歴を有することが分かっている場合を除いては、
治療するべきではない。
【0233】
感染症又は物質乱用の履歴を有する患者は、治療の候補とすることはできない。例えば
、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)又はB型肝炎若しくはC型肝炎ウイルス感染の履歴、あるい
はB型肝炎表面抗原若しくはB型肝炎核抗体、又はC型肝炎若しくはHIV抗体のスクリーニン
グ陽性の試験結果;治療前1年以内のアルコール又は物質乱用の履歴である。
【0234】
(施される治療―免疫抑制治療による前治療)
遺伝子治療に先立ち、導入遺伝子及び/又はAAVキャプシドに対する免疫反応を予防する
ために、患者を免疫抑制治療で治療するべきである。プレドニゾンの投薬は、0.5 mg/kg/
日から開始し、第12週の受診まで段階的に漸減させる。タクロリムスの用量は、最初の24
週にわたり全血中トラフ濃度を2~4 ng/mL以内に維持するように調整する。第24週に、用
量をおよそ50%まで減少させる。第28週に、用量をおよそ50%までさらに減少させる。
タクロリムスは、第32週に中断する。シロリムスの用量は、全血中トラフ濃度を1~3 ng/
mL以内に維持するように調整する。大部分の対象において、用量調整は、式:新規用量=
現在の用量×(目標濃度/現在の濃度)に基づくことができる。対象は、さらに投薬量を調
整する前に、濃度をモニタリングしながら少なくとも7~14日間にわたり新しい維持用量
を継続するべきである。さらなる詳細については以下を参照されたい。
【0235】
(コルチコステロイド)
【0236】
ベクター投与(第1日、前投与)の朝において、患者に、少なくとも30分間にわたるメチ
ルプレドニゾロン10 mg/kg(最大500 mg)をIVで与える。メチルプレドニゾロンは、IPの腰
椎穿刺及びIC注入の前に投与するべきである。アセトアミノフェン及び抗ヒスタミン剤に
よる前投薬は、治験責任医師の裁量で任意に行う。
【0237】
第12週までにプレドニゾンを中断することを目標として、第2日に経口プレドニゾンを
開始する。プレドニゾンの用量は、以下の通りである:
第2日から第2週の終わりまで:0.5 mg/kg/日
第3週及び4週:0.35 mg/kg/日
第5週~8週:0.2 mg/kg/日
第9週~12週:0.1 mg/kg。
プレドニゾンは、第12週の後に中断する。プレドニゾンの正確な用量は、一段階高めた
臨床上実用的な用量に調整することができる。
【0238】
(シロリムス)
【0239】
ベクター投与の2日前(第-2日):4時間ごとに1 mg/m2×3用量のシロリムスの負荷用量を
投与する。
【0240】
第-1日から:目標血中レベルを1~3 ng/mlとする、1日2回の投薬に分割した0.5 mg/m2/
日のシロリムス。
【0241】
シロリムスを、第48週の受診後に中断する。
【0242】
(タクロリムス)
【0243】
第2日(IP投与の次の日)にタクロリムスを1日2回0.05 mg/kgの用量で開始し、24週間に
わたり2~4 ng/mLの血中レベルを達成するように調整した。
【0244】
タクロリムスは第24週の受診から開始し、8週にわたって漸減する。第24週に、用量を
およそ50%減少させる。第28週に、用量をさらにおよそ50%減少させる。タクロリムスは、
第32週で中断する。
【0245】
遺伝子治療。hIDUA発現カセット(rAAV9.hIDUA)を含む血清型9キャプシドの非複製組換
えAAVを、治療に使用する。AAV9血清型は、IC投与の後、CNSにおけるhIDUAタンパク質の
効率的な発現を可能にする。ベクターゲノムは、AAV2逆向き末端反復配列(ITR)に隣接す
るhIDUA発現カセットを含む。カセットからの発現は、強力な構成的CAGプロモーターによ
って駆動する。rAAV9.hIDUAベクターは、くも膜下腔内注入のためのElliotts B溶液中に
懸濁させる。
【0246】
rAAV9.hIDUAをIC投与により、1×1010 GC/g脳質量の用量で(4ヵ月齢以上であるが9ヵ月
齢未満の患者については6.0×1012 GC;9ヵ月齢以上であるが18ヵ月齢未満の患者につい
ては1.0×1013 GC;18ヵ月以上であるが3歳未満の患者については1.1×1013 GC)、又は5
×1010 GC/g脳質量の用量で(4ヵ月齢以上であるが9ヵ月齢未満の患者については3.0×101
3 GC;9ヵ月齢以上であるが18ヵ月齢未満の患者については5.0×1013 GC;18ヵ月以上で
あるが3歳未満の患者については5.5×1013 GC)、単一の一定用量として投与する。用量は
、約5~20 mlの容量とし得る。
【0247】
rAAV9.IDUAの投与のために、対象を全身麻酔下におく。
【0248】
(等価物)
本発明がその具体的な実施態様に関して詳細に記載されるにもかかわらず、機能的に等
価である変形が本発明の範囲内にあることが理解されよう。実際、本明細書において示さ
れ、説明される発明に加え、本発明の様々な修正が、上記明細書及び添付される図面から
当業者にとって明らかとなるであろう。そのような修正は、添付の特許請求の範囲の範囲
内にあることを意図する。当業者であれば、本明細書に記載の発明の具体的な実施態様と
の多くの等価物を認識するか又は定型的な実験の範囲の域でこれを使用し、確認すること
が可能である。そのような等価物は、以下の特許請求の範囲に包含されることを意図する
【0249】
この明細書に言及のある全ての刊行物、特許、及び特許出願は、各々の個別の刊行物、
特許、又は特許出願の全体が参照により本明細書に組み込まれていることが具体的かつ個
別的に示されているかのように、同程度明細書中に参照により本明細書中に組み込まれて
いる。
図1
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
図5-5】
【配列表】
2024112876000001.app
【手続補正書】
【提出日】2024-06-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
本願明細書に実質的に記載された、新規な物、方法及び製造方法。
【手続補正書】
【提出日】2024-06-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0249
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0249】
この明細書に言及のある全ての刊行物、特許、及び特許出願は、各々の個別の刊行物、
特許、又は特許出願の全体が参照により本明細書に組み込まれていることが具体的かつ個
別的に示されているかのように、同程度明細書中に参照により本明細書中に組み込まれて
いる。
本件出願は、以下の態様の発明を提供する。
(態様1)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の脳の脳
脊髄液にヒト神経細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトα-L-イズロニダーゼ(
IDUA)を送達することを含む、前記方法。
(態様2)
MPS Iと診断されたヒト対象の治療方法であって、該ヒト対象の脳の脳脊髄液にヒトグ
リア細胞によって生産された治療有効量の組換えヒトIDUAを送達することを含む、前記方
法。
(態様3)
ヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に、前記対象に免疫抑制治療を施し、かつ
その後も免疫抑制治療を継続することをさらに含む、態様1又は2記載の方法。
(態様4)
MPS Iと診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のα2,6-シアル酸付加ヒトIDUAを送達すること
;及び
該ヒトIDUAによる治療の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
(態様5)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGcを含まない治療有効量のグリコシル化ヒ
トIDUAを送達すること;及び
該ヒトIDUAによる治療の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
(態様6)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない治療有効
量のグリコシル化ヒトIDUAを送達すること;並びに
該ヒトIDUAによる治療の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
(態様7)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液にチロシン硫酸化を含む治療有効量のヒトIDUAを送達するこ
と;並びに
該ヒトIDUAによる治療の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
(態様8)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUA
がヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にα2,6-シアル酸付加さ
れる、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
(態様9)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUA
がヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にグリコシル化されるが
検出可能なNeuGcを含まない、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
(態様10)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUA
がヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にグリコシル化されるが
検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない、前記投与すること;並びに
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
(態様11)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳にヒトIDUAをコードする発現ベクターを投与することであって、該IDUA
がヒト不死化神経細胞において該発現ベクターから発現される際にチロシン硫酸化される
、前記投与すること;並びに
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
(態様12)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該IDUA
を放出するデポーが形成される、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
(態様13)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリコシル化
ヒトIDUAを放出するデポーが形成される、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
(態様14)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含
まないグリコシル化ヒトIDUAを放出するデポーが形成される、前記投与すること;並びに
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
(態様15)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果チロシン硫酸化を含む該IDUAを放出するデ
ポーが形成される、前記投与すること;並びに
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含む、前記方法。
(態様16)
前記免疫抑制治療が、前記ヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に(a) タクロリ
ムス及びミコフェノール酸、(b) ラパマイシン及びミコフェノール酸、又は(c) タクロリ
ムス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン及び/若しくはメ
チルプレドニゾロンの組合わせを前記対象に投与し、かつその後継続することを含む、態
様3~15のいずれか1項記載の方法。
(態様17)
前記免疫抑制治療を180日後に中止する、態様16記載の方法。
(態様18)
前記ヒトIDUAが配列番号:1のアミノ酸配列を含む、態様1~17のいずれか1項記載の方法

(態様19)
前記免疫抑制治療が前記ヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に(a) タクロリム
ス及びミコフェノール酸、(b) ラパマイシン及びミコフェノール酸、又は(c) タクロリム
ス、ラパマイシン、及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン及び/若しくはメチ
ルプレドニゾロンの組合わせを前記対象に投与することを含む、態様18記載の方法。
(態様20)
前記免疫抑制治療を180日後に中止する、態様19記載の方法。
(態様21)
α2,6-シアル酸付加グリカンを含む前記IDUAの生産を、細胞培養中でヒト神経細胞株を
前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認する、態様12
記載の方法。
(態様22)
検出可能なNeuGcを含まない前記グリコシル化IDUAの生産を、細胞培養中でヒト神経細
胞株を前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認する、
態様13記載の方法。
(態様23)
検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない前記グリコシル化IDUAの生産を、細胞
培養中でヒト神経細胞株を前記組換えヌクレオチド発現ベクターを用いて形質導入するこ
とにより確認する、態様14記載の方法。
(態様24)
チロシン硫酸化を含む前記IDUAの生産を、細胞培養中でヒト神経細胞株を前記組換えヌ
クレオチド発現ベクターを用いて形質導入することにより確認する、態様15記載の方法。
(態様25)
生産をマンノース-6-リン酸の存在下及び非存在下で確認する、態様21~24のいずれか1
項記載の方法。
(態様26)
前記発現ベクター又は組換えヌクレオチド発現ベクターが、シグナルペプチドをコード
する、態様8~15及び21~25のいずれか1項記載の方法、又は態様8~15のいずれか1項に直
接的若しくは間接的に従属する場合の態様16~17のいずれか1項記載の方法。
(態様27)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該IDUA
を放出するデポーが形成される、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含み、
ここで該組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細
胞培養中で該α2,6-シアル酸付加グリカンを含む該IDUAを生産する、前記方法。
(態様28)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGcを含まないグリコシル化I
DUAを放出するデポーが形成される、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含み、
ここで該組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細
胞培養中でグリコシル化されるが検出可能なNeuGcを含まない該IDUAを生産する、前記方
法。
(態様29)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含
まないグリコシル化IDUAを放出するデポーが形成される、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含み、
ここで該組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細
胞培養中でグリコシル化されるが検出可能なNeuGc及び/又はα-Gal抗原を含まない該IDUA
を生産する、前記方法。
(態様30)
ムコ多糖症I型(MPS I)と診断されたヒト対象の治療方法であって:
該ヒト対象の脳の脳脊髄液に治療有効量のヒトIDUAをコードする組換えヌクレオチド発
現ベクターを投与することであって、その結果チロシン硫酸化を含む該IDUAを放出するデ
ポーが形成される、前記投与すること;及び
該発現ベクターの投与の前又はそれと同時に、該対象に免疫抑制治療を施し、かつその
後も免疫抑制治療を継続すること、を含み、
ここで該組換えベクターは、培養中でヒト神経細胞への形質導入に使用する場合、該細
胞培養中でチロシン硫酸化された該IDUAを生産する、前記方法。
(態様31)
前記ヒトIDUAによる治療の前に、又はそれと同時に(a) タクロリムス及びミコフェノー
ル酸、(b) ラパマイシン及びミコフェノール酸、又は(c) タクロリムス、ラパマイシン、
及びコルチコステロイド、例えばプレドニゾロン及び/若しくはメチルプレドニゾロンの
組合わせを前記対象に投与し、かつその後継続することを含む、態様27~30のいずれか1
項記載の方法。
(態様32)
前記免疫抑制治療を180日後に中止する、態様31記載の方法。
(態様33)
前記ヒト対象が3歳未満である、態様1~32のいずれか1項記載の方法。
(態様34)
前記ヒト対象が3歳未満であり、前記発現ベクター又は前記組換えヌクレオチド発現ベ
クターが1×10 10 GC/g脳質量又は5×10 10 GC/g脳質量の用量で投与される、態様8~15及
び21~33のいずれか1項記載の方法、又は態様8~15のいずれか1項に直接的若しくは間接
的に従属する場合の態様16~20のいずれか1項記載の方法。
(態様35)
前記ヒト対象が3歳未満であり、前記発現ベクター又は前記組換えヌクレオチド発現ベ
クターが1×10 10 GC/g脳質量~5×10 10 GC/g脳質量の範囲の用量で投与される、態様8~1
5及び21~33のいずれか1項記載の方法、又は態様8~15のいずれか1項に直接的若しくは間
接的に従属する場合の態様16~20のいずれか1項記載の方法。
【外国語明細書】