IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友重機械工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-インバータ装置、電源装置 図1
  • 特開-インバータ装置、電源装置 図2
  • 特開-インバータ装置、電源装置 図3
  • 特開-インバータ装置、電源装置 図4
  • 特開-インバータ装置、電源装置 図5
  • 特開-インバータ装置、電源装置 図6
  • 特開-インバータ装置、電源装置 図7
  • 特開-インバータ装置、電源装置 図8
  • 特開-インバータ装置、電源装置 図9
  • 特開-インバータ装置、電源装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011288
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】インバータ装置、電源装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20240118BHJP
   H02M 9/02 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
H02M7/48 Z
H02M9/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113171
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】宮嵜 洸一
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA05
5H770DA41
5H770QA02
5H770QA09
(57)【要約】
【課題】安定的に動作可能なインバータを効率的に基板に実装できるインバータ装置等を提供する。
【解決手段】高電位ライン40Hと低電位ライン40Lの間に直列に接続される高電位側トランジスタ412Aおよび低電位側トランジスタ412Bを備え、当該各トランジスタのスイッチング制御によって高電位ライン40Hと低電位ライン40Lの間の直流電圧を交流電圧に変換し、当該各トランジスタの接続点から出力するインバータ装置500は、回路基板50の表面における高電位側インダクタンス領域に存在する高電位側インダクタンス52と、回路基板50の表面における低電位側インダクタンス領域に存在する低電位側インダクタンス53と、回路基板50の裏面における出力側インダクタンス領域に存在する出力側インダクタンスと、を備える。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電位ラインと低電位ラインの間に直列に接続される高電位側スイッチング素子および低電位側スイッチング素子を備え、当該各スイッチング素子のスイッチング制御によって前記高電位ラインと前記低電位ラインの間の直流電圧を交流電圧に変換し、当該各スイッチング素子の接続点から出力するインバータ装置であって、
前記高電位ラインと前記高電位側スイッチング素子の間の高電位側インダクタンスが、基板の第1面における高電位側インダクタンス領域に存在し、
前記低電位ラインと前記低電位側スイッチング素子の間の低電位側インダクタンスが、前記第1面において前記高電位側インダクタンス領域と異なる低電位側インダクタンス領域に存在し、
前記高電位側スイッチング素子と前記低電位側スイッチング素子の間の出力側インダクタンスが、前記基板の前記第1面と反対の第2面における出力側インダクタンス領域に存在し、
前記第2面における前記出力側インダクタンス領域の少なくとも一部は、前記第1面における前記高電位側インダクタンス領域および/または前記低電位側インダクタンス領域の少なくとも一部と、前記基板を挟んで対向している、
インバータ装置。
【請求項2】
前記高電位ラインと前記低電位ラインの間に前記高電位側スイッチング素子および前記低電位側スイッチング素子と並列に設けられるコンデンサが、前記第1面側における前記高電位側インダクタンス領域と前記低電位側インダクタンス領域の間のコンデンサ領域に実装され、
前記第2面における前記出力側インダクタンス領域の少なくとも一部は、前記第1面における前記コンデンサ領域の少なくとも一部と、前記基板を挟んで対向している、
請求項1に記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記高電位側スイッチング素子および前記低電位側スイッチング素子は、前記基板の周縁領域に実装され、
前記高電位側スイッチング素子の高電位側端子は、前記第1面の前記高電位側インダクタンス領域に接続され、
前記高電位側スイッチング素子の低電位側端子は、前記第2面の前記出力側インダクタンス領域に接続され、
前記低電位側スイッチング素子の低電位側端子は、前記第1面の前記低電位側インダクタンス領域に接続され、
前記低電位側スイッチング素子の高電位側端子は、前記第2面の前記出力側インダクタンス領域に接続される、
請求項1または2に記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記高電位側スイッチング素子および前記低電位側スイッチング素子の少なくともいずれかは、SiC基板およびGaN基板の少なくともいずれかに形成されたトランジスタである、請求項1または2に記載のインバータ装置。
【請求項5】
高電位ラインと低電位ラインの間に直列に接続される高電位側スイッチング素子および低電位側スイッチング素子を備え、当該各スイッチング素子のスイッチング制御によって前記高電位ラインと前記低電位ラインの間の直流電圧を交流電圧に変換し、当該各スイッチング素子の接続点からレーザ共振器の一対の放電電極に印加するインバータを備える電源装置であって、
前記高電位ラインと前記高電位側スイッチング素子の間の高電位側インダクタンスが、基板の第1面における高電位側インダクタンス領域に存在し、
前記低電位ラインと前記低電位側スイッチング素子の間の低電位側インダクタンスが、前記第1面において前記高電位側インダクタンス領域と異なる低電位側インダクタンス領域に存在し、
前記高電位側スイッチング素子と前記低電位側スイッチング素子の間の出力側インダクタンスが、前記基板の前記第1面と反対の第2面における出力側インダクタンス領域に存在し、
前記第2面における前記出力側インダクタンス領域の少なくとも一部は、前記第1面における前記高電位側インダクタンス領域および/または前記低電位側インダクタンス領域の少なくとも一部と、前記基板を挟んで対向している、
電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電源装置に好適なインバータ装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
産業用の加工ツールとして、レーザ加工装置が広く普及している。レーザ加工装置には、COレーザなどの高出力のガスレーザが使用される。図1は、レーザ加工装置またはレーザ装置100Rの機能ブロック図である。レーザ装置100Rは、レーザ共振器200および電源装置250Rを備える。レーザ共振器200は、一対の放電電極202、204と、全反射鏡206と、部分反射鏡208を備える。
【0003】
一対の放電電極202、204は、COなどのレーザ媒質ガスが充填されたガスチャンバ内に設けられる。一対の放電電極202、204の間には、静電容量Cが存在する。この静電容量CとインダクタL(インダクタ素子あるいは寄生インダクタ)は、共振周波数FRESを有する共振回路210を形成する。
【0004】
レーザ共振器200を駆動する電源装置250Rは、高周波電圧VRFを共振回路210に印加する。高周波電圧VRFの周波数FRF(以下では同期周波数ともいう)は、共振回路210の共振周波数FRESの近傍に設定される。高周波電圧VRFが印加されることで、一対の放電電極202、204の間に放電電流が流れる。この放電電流がレーザ媒質ガスを励起し、レーザ発振または誘導放出のための反転分布を形成する。反転分布からの誘導放出光は、全反射鏡206と部分反射鏡208が形成する光共振器内を往復し、励起状態のレーザ媒質ガスを通過することで増幅される。増幅された誘導放出光の一部が部分反射鏡208から出力(レーザ光)として取り出される。
【0005】
電源装置250Rは、安定化された直流電圧VDCを生成する直流電源300と、直流電圧VDCを高周波電圧VRFに変換して共振回路210に印加する高周波電源400を備える。高周波電源400には、直流電圧VDCを交流電圧である高周波電圧VRFに変換するインバータが設けられる。一般的なインバータは、相補的にスイッチング制御される一または複数のトランジスタ対を備える。各トランジスタは、例えば、制御信号としてのPWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)信号によって、オン状態とオフ状態の間で切り替えられる。
【0006】
特許文献1には、出力トランス等の負荷の周りの電流経路のインダクタンスを低減できるインバータ装置が開示されている。具体的には、高電位ラインと低電位ラインの間に直列に接続されるトランジスタ対が二つ設けられ、一方のトランジスタ対における高電位側トランジスタと、他方のトランジスタ対における低電位側トランジスタが、同じ基板領域に実装されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016-165120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1のような「たすき掛け」の実装では、同じトランジスタ対を構成する高電位側トランジスタと低電位側トランジスタが異なる基板領域に配置されるため、当該トランジスタ対と並列に高電位ラインと低電位ラインの間に存在する寄生容量を通る電流経路が長くなり、むしろインダクタンスが大きくなってしまうことがある。この結果、サージ電圧等による望ましくない振動がインバータ装置に発生してしまう恐れがある。
【0009】
本発明はこうした状況に鑑みてなされたものであり、安定的に動作可能なインバータを効率的に基板に実装できるインバータ装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明のある態様のインバータ装置は、高電位ラインと低電位ラインの間に直列に接続される高電位側スイッチング素子および低電位側スイッチング素子を備え、当該各スイッチング素子のスイッチング制御によって高電位ラインと低電位ラインの間の直流電圧を交流電圧に変換し、当該各スイッチング素子の接続点から出力するインバータ装置であって、高電位ラインと高電位側スイッチング素子の間の高電位側インダクタンスが、基板の第1面における高電位側インダクタンス領域に存在し、低電位ラインと低電位側スイッチング素子の間の低電位側インダクタンスが、第1面において高電位側インダクタンス領域と異なる低電位側インダクタンス領域に存在し、高電位側スイッチング素子と低電位側スイッチング素子の間の出力側インダクタンスが、基板の第1面と反対の第2面における出力側インダクタンス領域に存在し、第2面における出力側インダクタンス領域の少なくとも一部は、第1面における高電位側インダクタンス領域および/または低電位側インダクタンス領域の少なくとも一部と、基板を挟んで対向している。
【0011】
この態様では、一対の高電位側スイッチング素子および低電位側スイッチング素子の少なくともいずれかに接続される高電位側インダクタンス領域、低電位側インダクタンス領域、出力側インダクタンス領域を、基板の両面に効率的に配置できる。また、特許文献1のような「たすき掛け」の実装にもなっていないため、高電位ラインと低電位ラインの間に存在する寄生容量を通る電流経路のインダクタンスが小さくなる。この結果、サージ電圧等による望ましくない振動がインバータ装置に発生することを効果的に防止できる。
【0012】
本発明の別の態様は、電源装置である。この装置は、高電位ラインと低電位ラインの間に直列に接続される高電位側スイッチング素子および低電位側スイッチング素子を備え、当該各スイッチング素子のスイッチング制御によって高電位ラインと低電位ラインの間の直流電圧を交流電圧に変換し、当該各スイッチング素子の接続点からレーザ共振器の一対の放電電極に印加するインバータを備える電源装置であって、高電位ラインと高電位側スイッチング素子の間の高電位側インダクタンスが、基板の第1面における高電位側インダクタンス領域に存在し、低電位ラインと低電位側スイッチング素子の間の低電位側インダクタンスが、第1面において高電位側インダクタンス領域と異なる低電位側インダクタンス領域に存在し、高電位側スイッチング素子と低電位側スイッチング素子の間の出力側インダクタンスが、基板の第1面と反対の第2面における出力側インダクタンス領域に存在し、第2面における出力側インダクタンス領域の少なくとも一部は、第1面における高電位側インダクタンス領域および/または低電位側インダクタンス領域の少なくとも一部と、基板を挟んで対向している。
【0013】
なお、以上の構成要素の任意の組合せや、これらの表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラム等に変換したものも、本発明に包含される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安定的に動作可能なインバータを効率的に基板に実装できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】レーザ装置の機能ブロック図である。
図2】レーザ装置の機能ブロック図である。
図3図2の電源装置の主な回路構成の一例を示す。
図4】インバータ装置の構成を模式的に示す。
図5】インバータ装置の具体的な回路構成例を示す。
図6】インバータ装置の具体的な実装例を示す。
図7】インバータ装置の具体的な実装例を示す。
図8】インバータ装置の具体的な実装例を示す。
図9】従来の一般的なインバータ装置におけるトランジスタのドレイン/ソース間の電圧を示す。
図10】実施形態に係るインバータ装置におけるトランジスタのドレイン/ソース間の電圧を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態(以下では実施形態ともいう)について詳細に説明する。説明および/または図面においては、同一または同等の構成要素、部材、処理等に同一の符号を付して重複する説明を省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明の簡易化のために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施形態に記載される全ての特徴やそれらの組合せは、必ずしも本発明の本質的なものであるとは限らない。
【0017】
図2は、レーザ装置100の機能ブロック図である。レーザ装置100は、商用電源10と、直流電源300と、高周波電源400と、共振インダクタLと、レーザ共振器200を備える。レーザ共振器200の構成は図1と同様である。但し、図1におけるインダクタLは、図2では共振インダクタLとしてレーザ共振器200外に示されている。
【0018】
本発明の実施形態に係る電源装置250は、直流電源300および高周波電源400の全部または一部によって構成される。電源装置250の機能ブロックのうちソフトウェア制御を伴うものは、コンピュータの中央演算処理装置、メモリ、入力装置、出力装置、コンピュータに接続される周辺機器等のハードウェア資源と、それらを用いて実行されるソフトウェアの協働により実現される。コンピュータの種類や設置場所は問わず、上記の各機能ブロックは、単一のコンピュータのハードウェア資源で実現してもよいし、複数のコンピュータに分散したハードウェア資源を組み合わせて実現してもよい。
【0019】
直流電源300は、AC-DC変換部310と、DC-DC変換部320と、DCリンク電圧検出部330と、高周波電圧指令演算部340と、デューティ決定部350と、PWM信号生成部360を備える。AC-DC変換部310は、商用電源10から供給される三相交流等の交流電圧を直流電圧に変換する。DC-DC変換部320は、AC-DC変換部310によって変換された直流電圧を、レーザ装置100のレーザ発振動作に好適な直流電圧に変換する。DC-DC変換部320は、PWM信号生成部360によって生成されるPWM(パルス幅変調:Pulse Width Modulation)信号によってスイッチング制御されるトランジスタ等のスイッチング素子を備える。以下では、DC-DC変換部320によって変換された直流電圧を、直流電圧VDCやDCリンク電圧VDCともいう。DCリンク電圧検出部330は、DC-DC変換部320によって生成されたDCリンク電圧VDC(データ)を検出してデューティ決定部350にフィードバックする。
【0020】
高周波電圧指令演算部340は、レーザ共振器200の動作および/または状態を示す情報のフィードバックに基づいて、高周波電源400が生成すべき高周波電圧VRFおよび/または直流電源300が生成すべきDCリンク電圧VDCについての指令を演算する。レーザ共振器200から高周波電圧指令演算部340にフィードバックされる情報としては、レーザ共振器200が発振するレーザ光の強度や、一対の放電電極202、204および/または共振インダクタLを流れる電流が例示される。デューティ決定部350は、DCリンク電圧検出部330によって検出されたDCリンク電圧VDC(データ)と、高周波電圧指令演算部340によって演算された高周波電圧指令に基づいて、PWM信号生成部360が生成すべきPWM信号(パルス波)のデューティ比を決定する。PWM信号生成部360は、デューティ決定部350によって決定されたデューティ比のPWM信号を生成してDC-DC変換部320のスイッチング素子に印加する。
【0021】
高周波電源400は、DC-RF変換部410と高周波信号生成部420を備える。DC-RF変換部410は、直流電源300によって生成されたDCリンク電圧VDCを、同期周波数FRFの高周波電圧VRFに変換する。後述する図3に示されるように、DC-RF変換部410は、DCリンク電圧VDCを交流電圧VACに変換するインバータ412と、当該交流電圧VACを昇圧して高周波電圧VRFを生成する昇圧トランス413を備える。高周波信号生成部420は、インバータ412のトランジスタ群をスイッチング制御するための高周波信号を生成する。この高周波信号の周波数であるスイッチング周波数FSWは、高周波電圧VRFの同期周波数FRFと実質的に等しい。また、同期周波数FRFは共振回路210の共振周波数FRESの近傍に設定されるため、スイッチング周波数FSWも共振周波数FRESの近傍に設定される。本実施形態は高周波数で動作する電源装置250に好適であり、スイッチング周波数FSW、同期周波数FRF、共振周波数FRESは例えば1 MHz以上であるのが好ましい。また、レーザ装置100がレーザ加工装置である場合の高周波電源400の出力(高周波電圧VRF)は1 kW以上であるのが好ましい。
【0022】
図3は、図2の電源装置250(特に高周波電源400)の主な回路構成の一例を示す。高周波電源400におけるDC-RF変換部410は、充電コンデンサ411と、インバータ412と、昇圧トランス413を備える。バンクコンデンサとも呼ばれる充電コンデンサ411は、DC-DC変換部320(図3では不図示)の後段において、高電位ライン40Hと低電位ライン40Lの間に接続される。このため、充電コンデンサ411は、充電回路として機能するDC-DC変換部320が生成したDCリンク電圧VDCによって充電される。電極間にDCリンク電圧VDCが現れる充電コンデンサ411は、DCリンク電圧検出部330としても機能しうる。
【0023】
インバータ412は、充電コンデンサ411の電極間の直流電圧VDCを交流電圧VACに変換して、昇圧トランス413の1次コイル413Aに印加する。インバータ412は、高電位ライン40Hと低電位ライン40Lの間に直列に接続される少なくとも二つのスイッチング素子を備え、高周波信号生成部420による当該各スイッチング素子のスイッチング制御によって高電位ライン40Hと低電位ライン40Lの間の直流電圧VDCを交流電圧VACに変換し、当該各スイッチング素子の接続点から昇圧トランス413を介してレーザ共振器200の一対の放電電極202、204に印加する。
【0024】
本実施形態では、インバータ412におけるスイッチング素子がトランジスタ412A~412Dによって構成される。トランジスタ412A~412Dの種類は任意であり、電界効果トランジスタ(FET: Field effect transistor)でもよいし、バイポーラトランジスタでもよいし、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT: Insulated Gate Bipolar Transistor)でもよいし、高電子移動度トランジスタ(HEMT: High Electron Mobility Transistor)でもよい。また、トランジスタ412A~412Dの少なくともいずれかは、SiC基板およびGaN基板の少なくともいずれかに形成されたトランジスタであるのが好ましい。このようなトランジスタ412A~412Dは、電力の制御に好適であることから、パワー半導体(デバイス)とも呼ばれる。
【0025】
図3の例におけるインバータ412は、高電位ライン40Hと低電位ライン40Lの間に直列に接続される第1高電位側スイッチング素子としての第1高電位側トランジスタ412Aと第1低電位側スイッチング素子としての第1低電位側トランジスタ412Bからなる第1スイッチング素子対としての第1トランジスタ対412A/412Bと、高電位ライン40Hと低電位ライン40Lの間に直列に接続される第2高電位側スイッチング素子としての第2高電位側トランジスタ412Cと第2低電位側スイッチング素子としての第2低電位側トランジスタ412Dからなる第2スイッチング素子対としての第2トランジスタ対412C/412Dを備える。第1高電位側トランジスタ412Aと第1低電位側トランジスタ412Bの接続点(中点)は、昇圧トランス413の1次コイル413Aの一端(図3における上端)に接続されている。同様に、第2高電位側トランジスタ412Cと第2低電位側トランジスタ412Dの接続点(中点)は、昇圧トランス413の1次コイル413Aの他端(図3における下端)に接続されている。
【0026】
高周波信号生成部420(図2)は、これらの二組のトランジスタ対(412A/412Bおよび412C/412D)に対して、互いに相補的な高周波信号を印加することで、昇圧トランス413の1次コイル413Aに交流電圧VACを発生させる。具体的には、第1トランジスタ対412A/412Bの一方のトランジスタの制御端子に印加される高周波信号が「ON」の時は、他方のトランジスタの制御端子に印加される高周波信号が「OFF」になっている。すなわち、第1トランジスタ対412A/412Bは、同時に「ON」となることがないように制御される。図3において、第1高電位側トランジスタ412Aの制御端子への入力が「420」と示されているのに対し、第1低電位側トランジスタ412Bの制御端子への入力が「420′」と示されているのは、このことを便宜的に表す趣旨である。
【0027】
同様に、第2トランジスタ対412C/412Dの一方のトランジスタの制御端子に印加される高周波信号が「ON」の時は、他方のトランジスタの制御端子に印加される高周波信号が「OFF」になっている。すなわち、第2トランジスタ対412C/412Dは、同時に「ON」となることがないように制御される。図3において、第2高電位側トランジスタ412Cの制御端子への入力が「420′」と示されているのに対し、第2低電位側トランジスタ412Dの制御端子への入力が「420」と示されているのは、このことを便宜的に表す趣旨である。
【0028】
図3における同一の符号「420」で表されるように、第1高電位側トランジスタ412Aおよび第2低電位側トランジスタ412Dの制御端子には、当該各トランジスタ412A、412Dが同時に「ON」となるような制御信号が高周波信号生成部420によって印加される。トランジスタ412A、412Dが同時に「ON」となっている間は、これらと相補的に制御されるトランジスタ412B、412Cは「OFF」となっており、図3における上から下に1次コイル413Aに電流が流れる。
【0029】
同様に、図3における同一の符号「420′」で表されるように、第1低電位側トランジスタ412Bおよび第2高電位側トランジスタ412Cの制御端子には、当該各トランジスタ412B、412Cが同時に「ON」となるような制御信号が高周波信号生成部420によって印加される。トランジスタ412B、412Cが同時に「ON」となっている間は、これらと相補的に制御されるトランジスタ412A、412Dは「OFF」となっており、図3における下から上に1次コイル413Aに電流が流れる。
【0030】
昇圧トランス413は、インバータ412によって生成された交流電圧VACを昇圧して高周波電圧VRFを生成する。具体的には、1次コイル413Aの交流電圧VACが昇圧された高周波電圧VRFが2次コイル413Bに現れる。
【0031】
図4は、インバータ412を構成する第1インバータ装置500Aおよび第2インバータ装置500Bの構成を模式的に示す。第1インバータ装置500Aを構成する第1回路基板には、インバータ412における第1トランジスタ対412A/412Bが実装される。第2インバータ装置500Bを構成する第2回路基板には、インバータ412における第2トランジスタ対412C/412Dが実装される。以下では第1回路基板および第2回路基板が互いに異なる基板であるものとするが、第1回路基板および第2回路基板は一つの基板における互いに異なる領域でもよい。
【0032】
第1インバータ装置500Aおよび第2インバータ装置500Bの構成は、実装されるトランジスタ対(412A/412Bおよび412C/412D)の違いを除けば実質的に同じである。そこで、以下では第1インバータ装置500Aおよび第2インバータ装置500Bを区別する必要がある場合を除いて、第1インバータ装置500Aのみについて説明する。記載の簡素化のため、第1インバータ装置500A(および/または第2インバータ装置500B)をインバータ装置500ともいう。
【0033】
インバータ装置500は、高電位ライン40Hと低電位ライン40Lの間に直列に接続される高電位側トランジスタ412Aと低電位側トランジスタ412Bからなるトランジスタ対412A/412Bを備える。高電位側トランジスタ412AがMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor:金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)等のFETの場合、高電位側端子であるドレインが高電位ライン40Hに接続され、低電位側端子であるソースが昇圧トランス413の1次コイル413Aの一端および低電位側トランジスタ412Bの高電位側端子(ドレイン)に接続される。同様に、低電位側トランジスタ412BがMOSFET等のFETの場合、高電位側端子であるドレインが昇圧トランス413の1次コイル413Aの一端および高電位側トランジスタ412Aの低電位側端子(ソース)に接続され、低電位側端子であるソースが低電位ライン40Lに接続される。
【0034】
高電位ライン40Hと低電位ライン40Lの間には、高電位側トランジスタ412Aおよび低電位側トランジスタ412Bと並列にセラミックコンデンサ等のコンデンサ51が設けられる。換言すれば、コンデンサ51の高電位側電極は高電位側トランジスタ412Aのドレインに接続され、コンデンサ51の低電位側電極は低電位側トランジスタ412Bのソースに接続される。コンデンサ51は、後述する平滑コンデンサ54の充放電に関わる電流経路を実質的に短くする効果があり、トランジスタ対412A/412Bのスイッチング動作を安定化させる。この効果を発揮させる上で、コンデンサ51のインピーダンスは、スイッチング周波数FSW(例えば1 MHz以上)において1Ω以下とするのが好ましい。
【0035】
高電位ライン40Hと高電位側トランジスタ412Aのドレインの間には、高電位側インダクタンス52が存在する。同様に、低電位ライン40Lと低電位側トランジスタ412Bのソースの間には、低電位側インダクタンス53が存在する。高電位側インダクタンス52、低電位側インダクタンス53、後述する出力側インダクタンス55は、典型的には回路パターンにおける寄生インダクタンスである。また、高電位ライン40Hと低電位ライン40Lの間には、トランジスタ対412A/412Bおよびコンデンサ51と並列に、高電位側トランジスタ412Aおよび/または低電位側トランジスタ412Bの平滑コンデンサ54が実装される。
【0036】
図5は、インバータ装置500の具体的な回路構成例を示す。本図の例における高電位側トランジスタ412Aおよび低電位側トランジスタ412Bは、それぞれ並列に接続された七つのトランジスタによって構成される。高電位ライン40Hと七つの高電位側トランジスタ412Aのドレインおよびコンデンサ51の高電位側電極の間には、多数の寄生インダクタンスである高電位側インダクタンス52が存在する。同様に、低電位ライン40Lと七つの低電位側トランジスタ412Bのソースおよびコンデンサ51の低電位側電極の間には、多数の寄生インダクタンスである低電位側インダクタンス53が存在する。七つの高電位側トランジスタ412Aのソースと七つの低電位側トランジスタ412Bのドレインの間の出力段には、多数の寄生インダクタンスである出力側インダクタンス55が存在する。なお、高電位側トランジスタ412Aおよび/または低電位側トランジスタ412Bの平滑コンデンサ54については図示を省略した。
【0037】
図6図8は、インバータ装置500の具体的な実装例を示す。これらの例におけるインバータ装置500の回路基板50は略半円状である。図6は回路基板50の第1面(以下では便宜的に表面ともいう)における実装例を示し、図7は回路基板50の第1面(表面)と反対の第2面(以下では便宜的に裏面ともいう)における実装例を示す。図8は、図6におけるA-A断面図である。これらの例における高電位側トランジスタ412Aおよび低電位側トランジスタ412Bのパッケージとしては、「TO-247-3」や「TO-247-4」等の汎用パッケージを利用できる。なお、回路基板50は略半円状に限られない任意の形状(例えば矩形状)でよい。
【0038】
回路基板50の表面を示す図6において、回路基板50の一端(図6における右上端)には高電位ライン40Hに接続される高電位端子「P」が設けられ、回路基板50の他端(図6における右下端)には低電位ライン40Lに接続される低電位端子「N」が設けられる。
【0039】
回路基板50の表面において高電位端子「P」と隣接する高電位側インダクタンス領域には、高電位側インダクタンス52の群が存在する。図示の例における高電位側インダクタンス領域は、回路基板50の表面の高電位側(図6における上側)の略半分を占める。回路基板50が略半円状の場合の高電位側インダクタンス領域は中心角が略90度の略扇形状である。高電位側インダクタンス領域の周縁領域には、図5の例における七つの高電位側トランジスタ412Aが実装される。各高電位側トランジスタ412Aの高電位側端子であるドレインDは、回路基板50の表面の高電位側インダクタンス領域に接続される。
【0040】
回路基板50の表面において低電位端子「N」と隣接する低電位側インダクタンス領域には、低電位側インダクタンス53の群が存在する。図示の例における低電位側インダクタンス領域は、回路基板50の表面の低電位側(図6における下側)の略半分を占める。回路基板50が略半円状の場合の低電位側インダクタンス領域は中心角が略90度の略扇形状である。低電位側インダクタンス領域の周縁領域には、図5の例における七つの低電位側トランジスタ412Bが実装される。各低電位側トランジスタ412Bの低電位側端子であるソースSは、回路基板50の表面の低電位側インダクタンス領域に接続される。
【0041】
以上のように、回路基板50の表面において、高電位側インダクタンス52が存在する高電位側インダクタンス領域(図6における略上半分の領域)と、低電位側インダクタンス53が存在する低電位側インダクタンス領域(図6における略下半分の領域)は互いに異なる。更に、高電位側インダクタンス領域と低電位側インダクタンス領域の間のコンデンサ領域にはコンデンサ51が実装される。コンデンサ領域は、「北半球」としての高電位側インダクタンス領域と「南半球」としての低電位側インダクタンス領域に挟まれた「赤道領域」である。このように、「北半球」の高電位側インダクタンス領域および「南半球」の低電位側インダクタンス領域が隣接または対向する、広いまたは長い「赤道領域」を利用してコンデンサ領域を配置することで、サージが影響する経路のインピーダンスが低減されるためインバータ装置500の動作が安定化される。
【0042】
回路基板50の裏面を示す図7において、略半円状の回路基板50の中央には昇圧トランス413の1次コイル413Aに接続される出力端子「OUT」が設けられる。回路基板50の裏面において出力端子「OUT」と隣接する出力側インダクタンス領域には、出力側インダクタンス55の群が存在する。図示の例における出力側インダクタンス領域は、略半円状の回路基板50の裏面の略全体を占める。
【0043】
出力側インダクタンス領域の高電位側(図7における上側)の周縁領域には、図5の例における七つの高電位側トランジスタ412Aが実装される。各高電位側トランジスタ412Aの低電位側端子であるソースSは、回路基板50の裏面の出力側インダクタンス領域に接続される。出力側インダクタンス領域の低電位側(図7における下側)の周縁領域には、図5の例における七つの低電位側トランジスタ412Bが実装される。各低電位側トランジスタ412Bの高電位側端子であるドレインDは、回路基板50の裏面の出力側インダクタンス領域に接続される。
【0044】
図8に示されるように、回路基板50の裏面における出力側インダクタンス領域(55)の少なくとも一部は、回路基板50の表面における高電位側インダクタンス領域(52)および/または低電位側インダクタンス領域(53)の少なくとも一部と、回路基板50を挟んで対向している。好ましくは、高電位側インダクタンス領域(52)および低電位側インダクタンス領域(53)の略全体が、上面視で出力側インダクタンス領域(55)に包含されるのが好ましい。また、回路基板50の裏面における出力側インダクタンス領域(55)の少なくとも一部は、回路基板50の表面におけるコンデンサ領域(51)の少なくとも一部と、回路基板50を挟んで対向している。好ましくは、コンデンサ領域(51)の略全体が、上面視で出力側インダクタンス領域(55)に包含されるのが好ましい。
【0045】
以上のような本実施形態によれば、回路基板50の表面と裏面を効率的に利用して、コンデンサ51、高電位側インダクタンス52、低電位側インダクタンス53、出力側インダクタンス55を配置でき、更には回路基板50の周縁領域を効率的に利用して、高電位側トランジスタ412Aおよび低電位側トランジスタ412Bを実装できるため、インバータ装置500をコンパクトに構成できる。
【0046】
図9は、従来の一般的なインバータ装置500における高電位側トランジスタ412Aおよび低電位側トランジスタ412Bのドレイン/ソース間の電圧を示す。各トランジスタ412A、412Bがオン状態とオフ状態の間で切り替えられる度に、サージ電圧等による大きな振動が発生している。
【0047】
図10は、本実施形態に係るインバータ装置500における高電位側トランジスタ412Aおよび低電位側トランジスタ412Bのドレイン/ソース間の電圧を示す。図9におけるサージ電圧等による望ましくない振動が効果的に抑制されていることが分かる。これは、回路基板50の表面における高電位側インダクタンス52と回路基板50の裏面における出力側インダクタンス55、および、回路基板50の表面における低電位側インダクタンス53と回路基板50の裏面における出力側インダクタンス55、がそれぞれ一対となったリターン経路が構成されたことや、コンデンサ51が、高電位側インダクタンス52および低電位側インダクタンス53の間であって、出力側インダクタンス55と対向する効果的な位置に配置されたことによって、寄生インダクタンス(高電位側インダクタンス52、低電位側インダクタンス53、出力側インダクタンス55)の影響が抑制されたためと考えられる。この結果、インバータ装置500のインピーダンスが最小化されて高電位側トランジスタ412Aおよび低電位側トランジスタ412Bの動作が安定する(例えば、各トランジスタ412A、412Bのスイッチングに影響を及ぼすインピーダンスが最小化されたことで、サージ電圧が抑制される)。また、特許文献1のような「たすき掛け」の実装になっていないことやコンデンサ51の作用によって、平滑コンデンサ54の充放電に関わる電流経路が実質的に短くなった結果、サージ電圧が効果的に抑制されたとも考えられる。
【0048】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明した。例示としての実施形態における各構成要素や各処理の組合せには様々な変形例が可能であり、そのような変形例が本発明の範囲に含まれることは当業者にとって自明である。
【0049】
実施形態ではレーザ装置100における電源装置250について具体的に説明したが、これらに限られない任意のインバータ装置に本発明は適用できる。例えば、バッテリーの充電システムや電動の建設機械に設けられるインバータ装置に本発明を適用してもよい。
【0050】
なお、実施形態で説明した各装置や各方法の構成、作用、機能は、ハードウェア資源またはソフトウェア資源によって、あるいは、ハードウェア資源とソフトウェア資源の協働によって実現できる。ハードウェア資源としては、例えば、プロセッサ、ROM、RAM、各種の集積回路を利用できる。ソフトウェア資源としては、例えば、オペレーティングシステム、アプリケーション等のプログラムを利用できる。
【符号の説明】
【0051】
40H 高電位ライン、40L 低電位ライン、50 回路基板、51 コンデンサ、52 高電位側インダクタンス、53 低電位側インダクタンス、54 平滑コンデンサ、55 出力側インダクタンス、100 レーザ装置、200 レーザ共振器、250 電源装置、400 高周波電源、410 DC-RF変換部、412 インバータ、420 高周波信号生成部、500 インバータ装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10