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特開2024-112886リアルタイム閉ループ脳刺激のための装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112886
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】リアルタイム閉ループ脳刺激のための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20240814BHJP
   A61N 1/40 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
A61N1/36
A61N1/40
【審査請求】有
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024079912
(22)【出願日】2024-05-16
(62)【分割の表示】P 2020561655の分割
【原出願日】2019-04-30
(31)【優先権主張番号】62/665,066
(32)【優先日】2018-05-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Linux
2.ZIGBEE
3.BLUETOOTH
(71)【出願人】
【識別番号】515230648
【氏名又は名称】ブレインズウェイ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001302
【氏名又は名称】弁理士法人北青山インターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】コーエン,ロイエ
(72)【発明者】
【氏名】ジブマン,サミュエル
(72)【発明者】
【氏名】ザンゲン,アブラハム
(72)【発明者】
【氏名】ロス,イフタッハ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】少なくとも1つのプロセッサおよびメモリを有する脳状態モニタリングおよび刺激コンポーネントと、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示すデータまたは信号に基づいて治療対象の脳で起こりそうな少なくとも1つの脳状態を予測するように構成され動作可能なデジタル信号処理ユニットを利用する脳刺激技術を提供する。
【解決手段】デジタル信号処理ユニット12は、予測された少なくとも1つの脳状態13s/13s’に基づいて、治療対象の脳に適用される脳刺激信号15sを調節、調整、またはトリガするための刺激データ14sを生成するように構成することができる。少なくとも1つのプロセッサ11u、メモリ11m、およびデジタル信号処理ユニットは、いくつかの実施形態では、単一のハードウェアデバイスに組み込まれる。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのプロセッサおよびメモリを有する脳状態モニタリングおよび刺激コンポーネントと、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示すデータまたは信号に基づいて治療対象の脳で発生しようとしている少なくとも1つの脳状態を予測するように構成され動作可能なデジタル信号処理ユニットとを具える脳刺激システムにおいて、前記デジタル信号処理ユニットは、予測された少なくとも1つの脳状態に基づいて、前記治療対象の脳に適用される脳刺激信号を調節、調整またはトリガするための刺激データを生成するように構成され、前記少なくとも1つのプロセッサ、メモリ、およびデジタル信号処理ユニットは、単一のハードウェアデバイスに組み込まれていることを特徴とするシステム。
【請求項2】
前記デジタル信号処理ユニットは、反復的に、データ/信号を受信し、少なくとも1つの脳状態を予測し、刺激データを生成するように構成され、それによって、生成された刺激データによって脳刺激信号を調節できる閉ループ脳刺激メカニズムを提供する、請求項1のシステム。
【請求項3】
前記脳刺激信号の調節は、生成された刺激データによる脳刺激信号の変調を含む、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
プロセッサおよびデジタル信号処理ユニットの少なくとも一方または両方が、リアルタイムオペレーティングシステムを利用して動作する、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
前記少なくとも1つのプロセッサおよびデジタル信号処理ユニットが、高速通信プロトコルを使用してデータを交換するように構成される、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項6】
前記少なくとも1つのプロセッサおよびデジタル信号処理ユニットが、ダイレクトメモリアクセスによってシステムのメモリ内のデータを読み書きするように構成され動作可能である、請求項1乃至5のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項7】
前記デジタル信号処理ユニットが、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示すデータまたは信号から干渉を除去するように構成され動作可能な少なくとも1つのデジタルフィルタリングモジュールを具える、請求項1乃至6のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項8】
前記デジタル信号処理ユニットが、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示すデータまたは信号からアーチファクトを自動的に除去するように構成され動作可能な少なくとも1つのアーチファクト除去モジュールを具える、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記少なくとも1つのアーチファクト除去モジュールが、アーチファクトの除去のために自動化された独立成分分析プロセスを使用するように構成され動作可能である、請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記デジタル信号処理ユニットが、少なくとも1つの脳状態を示す受信データまたは信号を処理し、その時間周波数分析およびスペクトル分析のうちの少なくとも1つを実行するように構成され動作可能な少なくとも1つの分析モジュールを具える、請求項1乃至9のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項11】
前記デジタル信号処理ユニットが、受信データまたは少なくとも1つの脳の状態またはそのスペクトル分析データから、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示す少なくとも1つの特徴を抽出するように構成され動作可能な少なくとも1つの特徴抽出ユニットを具える、請求項1乃至10のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項12】
前記デジタル信号処理ユニットが、少なくとも1つの脳状態を示す受信データまたは信号に基づいて、治療対象の脳で発生しようとしている少なくとも1つの脳状態を予測し、前記予測された少なくとも1つの脳状態に基づいて刺激データを生成するように構成され動作可能な少なくとも1つの予測モジュールを具える、請求項1乃至11のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項13】
前記脳状態モニタリングおよび刺激コンポーネントが通信モジュールを具え、前記脳状態モニタリングおよび刺激コンポーネントが、前記システムによって実施される治療プロトコルに関連する治療データを前記通信モジュール介して通信するように構成され動作可能である、請求項1乃至12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記通信モジュールを介して脳状態モニタリングおよび刺激コンポーネントによって通信された治療データを格納するためのデータベースシステムを具え、前記データベースシステムは、格納された治療データを分析し、それに関連する統計データを生成するように構成され動作可能である、請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
前記データベースシステムが、前記格納されたデータの分析において人工知能ツールを利用するように構成され動作可能である、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記少なくとも1つの脳状態を示すデータまたは信号が、EEG電極、tACS電極、fMRI機器、および前記治療対象によって実行される認知タスクのうちの少なくとも1つに関連する、請求項1乃至15のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項17】
前記治療対象の脳に適用される脳刺激信号が、音声、視覚、TMS、tDCS、tACS、および触覚刺激のうちの少なくとも1つに関連する、請求項1乃至16のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項18】
脳刺激を生成する方法において、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示すデータまたは信号を受信するステップと、受信したデータまたは信号を分析して、治療対象の少なくとも1つの脳状態に関連する少なくとも1つの特徴を特定するステップと、特定された少なくとも1つの特徴または受信したデータまたは信号に基づいて、治療対象の脳で起こりそうな少なくとも1つの脳状態を予測するステップと、予測された少なくとも1つの脳状態に基づいて、治療対象の脳に刺激信号を適用するための刺激データを生成するステップとを含む、方法。
【請求項19】
干渉およびアーチファクトの少なくとも1つをそれぞれそこから除去するために、前記少なくとも1つの脳状態を示す受信データまたは信号をフィルタリングするステップと処理するステップの少なくとも1つを含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記少なくとも1つの脳状態を示す受信データまたは信号を処理するステップは、アーチファクトを自動的に除去するように構成された独立成分分析プロセスを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
少なくとも1つの治療セッションを通して、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示す新たに受信されたデータまたは信号について、少なくとも1つの脳状態の予測および刺激データの生成を継続的、周期的または断続的に繰り返すステップを含む、請求項18乃至20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
前記生成された刺激データは、受信されたデータまたは信号から特定された少なくとも1つの特徴の変化に従って前記刺激信号を調整するように構成される、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記調整は、受信されたデータまたは信号から特定される少なくとも1つの特徴の変化に従って刺激信号を変調することを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記生成された刺激データが、周波数、強度、刺激パターン、電流極性、パルス形状、脳刺激信号の正確な位置、の少なくとも1つに関する、請求項18乃至23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
受信したデータまたは信号を示す治療データおよび生成された治療データをデータベースに格納するステップと、当該データベースに蓄積された治療データを分析し、それを示す分析データを生成するステップとを含む、請求項18乃至24のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
前記治療データの分析が、統計分析、機械学習、深層学習、またはそれらの任意の組み合わせのうちの少なくとも1つを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記刺激データが、前記刺激信号によって治療対象の脳に以前に誘発された脳状態に基づいて生成される、請求項18乃至26のいずれか一項に記載の方法。
【請求項28】
前記刺激信号が、音声信号、視覚信号、TMS信号、tDCS信号、またはtACS信号のうちの少なくとも1つを含む、請求項18乃至27のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つのメモリ、および少なくとも1つのデジタル信号処理ユニットを含み、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示す脳状態データまたは信号を受信および処理し、それに基づいて前記治療対象の脳に適用される脳刺激信号をリアルタイムで調節、調整、またはトリガするための刺激データを生成するように構成され動作可能な集積回路システム。
【請求項30】
前記集積回路に埋め込まれ、前記脳状態データまたは信号に基づいて、前記治療対象の脳で発生している、または発生しようとしている少なくとも1つの脳状態を予測し、予測された少なくとも1つの脳状態に基づいて前記刺激データを生成するように構成され動作可能な予測モジュールを具える、請求項29に記載のシステム。
【請求項31】
前記集積回路に埋め込まれ、前記脳状態データまたは信号から干渉を除去するように構成され動作可能な少なくとも1つのデジタルフィルタリングモジュールを具える、請求項29または30に記載のシステム。
【請求項32】
前記集積回路に埋め込まれ、前記脳状態データからアーチファクトを除去するための自動化された独立成分分析プロセスを使用するように構成され動作可能である、少なくとも1つのアーチファクト除去モジュールを具える、請求項29乃至31のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項33】
前記集積回路に埋め込まれ、前記脳状態データまたは信号を処理し、その時間周波数分析およびスペクトル分析のうちの少なくとも1つを実行するように構成され動作可能である、少なくとも1つの分析モジュールを含む、請求項29乃至32のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項34】
前記集積回路に埋め込まれ、前記脳状態データまたは信号から治療対象の少なくとも1つの脳状態を示す少なくとも1つの特徴を抽出するように構成され動作可能である、少なくとも1つの特徴抽出モジュールを具える、請求項29乃至33のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項35】
前記集積回路に埋め込まれ、少なくとも1つのプロセッサおよびデジタル信号処理ユニットを動作させるためのリアルタイムオペレーティングシステムを含む、請求項29乃至34のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項36】
前記集積回路に埋め込まれ、無線データ通信およびバス導体データ通信チャネルのうちの少なくとも1つを介してデータを通信するように構成され動作可能である通信インターフェースモジュールを具える、請求項29乃至35のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項37】
前記集積回路システムの少なくとも1つのプロセッサまたはデジタル信号処理ユニットがFPGAまたはGPUとして実装されている、請求項29乃至36のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項38】
請求項29乃至37のいずれか一項に記載の集積回路システムと、前記集積回路システムに電気的に接続または結合され、前記少なくとも1つのデジタル信号処理ユニットから刺激データを受信し、それに基づいて前記治療対象の脳に適用される脳刺激をリアルタイムで生成または調整するように構成された刺激発生器とを具える脳刺激システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、脳刺激の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
経頭蓋磁気刺激(TMS)療法は、さまざまな精神的/心理的、神経学的(CNS)および/または生理学的障害の治療に使用することができる。TMSの実装は、ファラデーの電磁誘導の法則に基づいており、これにより、被験者の特定の脳領域に向けられた短い磁気パルスで、脳組織に標的神経細胞の脱分極を誘発する。rTMSとして知られている反復的な方法で、または他のパルスパターンでTMSが実行される場合、神経可塑性の長期増強または長期抑制のような効果を得ることができる。このテクノロジーの可用性は、精神医学と神経学の実践、そして精神疾患の認識を劇的に変えている。
【0003】
TMSシステムは通常、開ループパラダイムに従い、ここでは被験者の脳の化学的/電気的状態に関係なく、事前にプログラムされた刺激パラメータが治療セッション全体で用いられる。閉ループTMSシステムは、センサフィードバックによって被験者の脳の状態をモニタリングし、それに応じて刺激パラメータを調整する。このような閉ループシステムは、適用された刺激パルスの持続時間、タイミング、強度、および刺激パターンを自動的に調整して、所望の治療結果を達成することができる。脳の活動をモニタリングし分析するには、瞬時位相、振幅、スペクトルなどの特徴を精密かつ正確に測定して、刺激パラメータを正確に決定する必要がある。したがって、閉ループ脳刺激アプリケーションは、高速信号分析機能を備えた非バッファデータ伝送を有する高時間分解能取得システムを含む強力で高速な処理リソースを必要とするため、現在、リアルタイムの閉ループ脳刺激アプリケーションは非実用的またはあまりにも高価なものとなっている。
【0004】
A.Gharabaghiらは、("Coupling brain-machine interfaces with cortical stimulation for brain-state dependent stimulation: enhancing motor cortex excitability for neurorehabilitation"、Frontiers in Human Neuroscience、2014)、ロボットハンド装具によって提供される触覚フィードバックと組み合わせた脳状態依存刺激(BSDS)の研究について報告しており、ここでは運動皮質のTMSと手への触覚フィードバックが運動イメージ中の感覚運動非同期化によって制御され、ブレインマシンインターフェース(BMI)環境内で適用された。BSDSは、健康な被験者と脳卒中後の被験者の両方で刺激された運動皮質の興奮性を大幅に増加させることが報告されており、これは非BSDSプロトコルでは観察されなかった効果である。この実現可能性研究は、脳内状態、皮質刺激、触覚フィードバックの間のループを閉じることで、残存手指機能を欠く脳卒中患者に新しい神経リハビリテーション戦略を提供することを示唆しており、脳卒中患者のより大きなコホートでさらに調査する必要がある。
【0005】
C.Zrennerら("Real-time EEG-defined excitability states determine efficacy of TMS-induced plasticity in human motor cortex", Brain Stimulation2018、11(2):374-389)には、状態依存性・脳波誘発式の経頭蓋磁気刺激(EEG-TMS)が記載されており、これはミリ秒解像度のリアルタイムデジタル信号処理システムを使用して、健康な被験者の感覚運動μリズムのEEGの負のピークと正のピークをターゲットとして適用される。この研究では、皮質脊髄路の興奮性が、手の筋肉の運動誘発電位の振幅によって指標付けされた。
【0006】
米国特許公開第2016/0220836号は、さまざまな神経学的および精神的状態を治療するために、患者の頭皮で測定された自然発生する脳のリズムに脳刺激のパルスが同期して発生するようにタイミングをとることによって、非侵襲的脳刺激装置の精度、特異性および有効性を改善する、脳波リズムに脳刺激を位相ロックする装置および方法を記載している。この装置および方法は、脳波測定(EEG)で記録できる脳活動の自然発生するリズミカルな振動の位相に脳刺激のオンセットを時間ロックすることによって、非侵襲的な脳刺激技術を改善することを目的とする。この装置および方法は、指定されたEEGリズムのリアルタイム信号分析を実行し、周波数領域の位相情報を抽出して、所望のEEGリズム位相の次の発生を推定し、この予測されたEEG位相と正確に一致するように脳刺激パルスをトリガする。
【発明の概要】
【0007】
これまで、脳状態依存型の非侵襲的脳刺激(BSDS)は、主に2つの主な用途に使用されてきた。1つは脳卒中からの回復であり、TMSパルスは、運動イメージタスク中のベータバンド事象関連非同期によってトリガされる(例えば、Gharabaghiら、2014を参照)。それと、反復TMSプロトコルのアルファバンドでの位相ロック用(例えば、Zrennerら、2018を参照)である。ただし、これらの用途は、直前の脳のリズムに基づいて現在の脳の状態を予測する予測モデルに依存する。この施術スキームは、治療対象の真の瞬間的な脳の状態をリアルタイムで特定することを妨げる処理および計算の遅延のために、そのような用途で必要とされる。さらに、先行技術文献の脳刺激技術は、タイミング制限に重大な影響を与える中継コンポーネントを介した脳状態分析と取得/記録ユニットとの間の通信に依存している。
【0008】
従来技術のシステムは、遅いだけでなく、その特性および/またはパターンをリアルタイムで変更することなく、刺激用のTMSパルスをトリガすることしかできない。すなわち、それらは治療対象に適用されている間、刺激信号を調整することができない。この制限は部分的に、最先端の脳刺激システムの処理速度とデータ通信速度の限界と、それによって使用されるアプリケータデバイスが、印加された信号をリアルタイムで調整できるように設計されておらず、むしろ固定の形状と時間パターンを持つ刺激信号を適用するように設計されていることによるものである。
【0009】
本出願は、高速リアルタイムかつ正確な閉ループ脳刺激システムを提供するものであり、連続的、定期的または断続的に、治療対象において測定された、または誘導された少なくとも1つの脳状態を示す脳状態信号/データを受信/読み取り、前記脳状態信号/データを分析してそこから様々な特徴を抽出し、前記脳状態信号/データおよび/または抽出された特徴に基づいて、治療対象の脳で起こりそうな少なくとも1つの脳状態を予測し、脳刺激アプリケータが使用するための刺激パラメータおよび/またはタイミングデータを生成するように構成され動作可能である。脳刺激アプリケータで使用される脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータの生成は、予測された少なくとも1つの脳状態に完全に、または少なくとも部分的に基づくことができる。任意選択で、脳刺激アプリケータで使用される脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータの生成は、完全に、または少なくとも部分的に、脳状態信号/データおよび/またはそこから抽出された特徴に基づく。
【0010】
考えられる用途において、脳刺激システムは、発生しようとする将来の脳状態を予測することなく、治療対象の脳で過去に発生した少なくとも1つの脳状態に完全にまたは少なくとも部分的に基づいて、脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータを生成する。例えば、脳刺激システムは、治療対象に1つまたは複数の脳刺激(例えば、TMSパルス、一連のTMSパルス、視覚刺激、聴覚刺激、またはそれらの任意の組み合わせ)を適用し、適用された脳刺激に応答して治療対象で測定された少なくとも1つの脳状態を示す脳状態信号/データを読み取り、測定された脳状態信号/データに少なくとも部分的に基づいて、および/または以前に適用された1つまたは複数の過去の脳刺激に応答して治療対象において以前に測定された1つまたは複数の他の脳状態信号/データに基づいて、脳刺激アプリケータで使用される新たな脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータを生成するように構成することができる。
【0011】
前記脳刺激アプリケータは、前記脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータを受信し、それに基づいて、(例えば、TMSコイルおよび/または電流刺激電極によって)1つまたは複数の刺激信号を生成し治療対象の脳の少なくとも1つの領域/範囲に適用し、および/または1つまたは複数の感覚刺激を適用する(例えば、音/音声発生器/プレーヤー、2D/3Dディスプレイ/ホログラフィックデバイス、および/または知覚/触覚刺激装置トランスデューサによって)ように構成される。前記脳刺激アプリケータは、システムから新たな脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータを受信し、それによって新たに受信された脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータに従って適用される刺激信号をリアルタイムで調整し、それによって脳刺激システムが、当該システムによって測定された現在の脳状態データ/信号に適用されている刺激信号をリアルタイムで適応可能にするように構成される。
【0012】
前記脳刺激システムは、これらのステップを繰り返し実行して、決定された期間、治療対象の少なくとも1つの脳の領域/範囲を継続的に刺激するように構成される。任意選択で、そのような連続的な脳刺激は、脳状態測定アルゴリズムを使用して、または事前定義された制限に従って実行される。このようにして、脳刺激アプリケータによって適用される刺激信号は、バイオフィードバック脳刺激プロセスを取得するために、受信/読み取りされた脳状態信号/データ測定値の特徴に動的に調整/同期することがすることができる。したがって、脳刺激アプリケータによって生成された脳刺激信号は、いくつかの実施形態では、脳状態信号/データから抽出された少なくとも1つの特徴によって変調/調節されて、周波数、振幅、刺激パターン、電流極性、脳刺激信号の正確な位置のいずれかを動的に調整する。
【0013】
従来技術の脳刺激システムは、往々にして、出力刺激を単一の刺激パターンに限定するトランジスタ-トランジスタ論理トリガを使用している。本出願の脳刺激システムは、脳刺激アプリケータ(例えば、TMSおよび/または感覚刺激装置)とのより完全な統合を提供し、それにより、事前設定されたターゲット信号が同定されるたびに単一の出力パターンを適用する代わりに、システムによって測定された様々な脳状態信号/データ(EEG信号など)に応じて、異なる刺激パターンの適用、および適用された刺激信号のリアルタイム適応を可能にする。
【0014】
治療対象の少なくとも1つの脳領域/範囲で所望の刺激をもたらすために、データ処理および分析、特徴抽出、脳状態予測、および/または刺激信号パラメータ/タイミング/整形データ生成ステップを非常に迅速かつ正確に実行する必要がある。これらの目標は、リアルタイムオペレーティングシステム(RTOS、例えば、Abassi、AMOS、NI Linux Real-Time)によってデジタル信号処理(DSP)ユニットを操作するように構成され動作可能な1つまたは複数のプロセッサ(中央処理装置-CPU)を使用して、本出願の脳刺激システムで達成され、これらはすべてハードウェア(FPGA/GPUなど)により全体が実装される。したがって、本明細書に開示される脳刺激システムのアプリケーションは、システムオンチップ(SoC)の実装に適しており、システムの幾何学的寸法の性能および小型化の改善に貢献することができる。
【0015】
脳刺激システムの処理速度をさらに向上するために、1つまたは複数のプロセッサおよび/またはDSPユニットは、高速通信プロトコル(FCP)を使用してデータを交換するように構成される。追加的または代替的に、1つまたは複数のプロセッサおよび/またはDSPユニットはダイレクトメモリアクセス(DMA)用に構成され、システムの処理ユニットがシステムの継続的な操作を中断することなく、メモリ(例えば、RAM、SDRAM、FLASH)から/メモリ内でデータを読み書きできるようにする。
【0016】
本出願の別の利点は、中間コンポーネントを中継することなく、脳状態測定機器(例えば、EEGユニット/システム、fMRI、認知タスクアプリケーション)との直接通信の能力である。従来の脳刺激システムは、通常、測定機器のソフトウェアモジュール(すなわち、製造業者によって供給される)を利用して、例えば、ネットワークまたは他のAPIソフトウェアツールを介してストリーミングすることによって、測定された脳状態データを通信する。しかしながら、そのようなソフトウェアモジュールは通常、複雑さと不確実性の別の層を追加するものであり、脳刺激システムによって測定された脳状態データ/信号を受信する遅延時間を増加させる。本明細書に開示される脳刺激システムは、通信の中間ソフトウェア層なしで脳状態測定機器と直接通信するように構成され、それにより、システムによる測定された脳状態データ/信号の取得時間が大幅に短縮され、システムによって治療対象に応答して適用される刺激信号を制御し整形する能力が向上する。
【0017】
本明細書に開示される脳刺激システムのハードウェア実装例は、従来の脳刺激システムと比較して、例えば処理および計算時間を実質的に数十ミリ秒短縮し、それにより、可能性が高い将来の脳状態を予測し、それに応じて適切な刺激信号をリアルタイムで形成し、予測モデルの精度と適用される刺激信号の有効性を大幅に改善するために実質的により多くの時間およびリソースを割り当てることができる。
【0018】
いくつかの実施形態では、脳状態信号/データは脳波(EEG)電極から受信され、脳刺激システムは、スペクトル分析を実行して脳状態信号/データの支配的な周波数帯域を識別し、時間周波数分析を実行するように構成される。次に、システムは、周波数(例えば周波数データ、位相データ、振幅データ)、および/または時間(振幅、時間遅延など)ドメインに関連する様々な特徴を抽出し、および/または脳状態信号/データの周波数あるいは時間ドメインの特徴のいずれかの脳接続性分析を実行し、それに応じて脳状態予測と、それぞれの脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータの生成を実行することができる。
【0019】
代替的または追加的に、脳刺激システムは、治療対象の脳の少なくとも1つの領域/範囲において所望の脳状態を誘発するために使用される経頭蓋交流電流刺激(tACS)デバイスおよび/または電極から受信されるtACS信号/データを使用するように構成され動作可能である。tACS信号/データは、脳刺激システムによって同様に処理されて、治療対象の脳で発生しようとしている1つまたは複数の脳状態を予測し、それに応じて被験者にそれぞれの刺激を適用する脳刺激アプリケータを動作さえるための対応する動作パラメータおよび/またはタイミングデータを生成することができる。
【0020】
モデルの予測力は時間とともに低下するため、脳刺激システムの遅延を短縮することで、予測モデルのパフォーマンスを向上させることができる。本明細書に開示される脳刺激システムの高速かつリアルタイムの実装は、これまで閉ループBDSSに適さないと分類されていた被験者を治療するためのシステムの有用性を拡大し得る。例えば、Zrenneretら(2018)では、位相ロックに用いられるアルゴリズムに、アルファバンドのパワーが測定された信号の総電力の少なくとも25%である場合にのみアルファバンド脳波の位相ロックが可能であるという制限がある。この制限により潜在的な被験者の50%が除外され、すべての被験者の他のバンドへの位相ロックが排除される。しかしながら、従来技術システムのこの制限は、本出願の脳刺激システムのリアルタイムデータ処理によって克服することができる。これは、限定しないがバックプロパゲーション(BP)フィードバックモデルなどのデータ/信号の取得および処理機能の制限のために従来技術の課題解決手段には適用できない追加のアルゴリズムを含めることによっても対処することができる。
【0021】
特に、低パワーの脳波信号の主な問題は、それに適用されるフィルタリングの精度である(これは、脳波が純粋に正弦波ではないという事実のために悪化する)。したがって、オンラインアルゴリズムの不正確さを修正するために、刺激フェーズのオフライン評価からのフィードバックおよび/または以前に適用された刺激信号に応答して測定された脳波信号を用いることによって、そのような低パワーの脳状態測定信号状況を確実に処理し反応する脳刺激システム能力を向上するために、いくつかの実施形態でBPフィードバックが使用される。このようにして、BPフィードバックを使用して、測定された脳状態の値のどれがアプリケータによる刺激信号を適用および/または調整する時間を最も正確に示しているかを決定することができる。
【0022】
本明細書に開示される脳刺激システムは、一般に、データ/信号を受信および処理するように構成され動作可能な単一の集積回路デバイス(例えば、SoC)に埋め込まれ、治療対象の1以上の脳状態を示し、それに基づいて当該治療対象の脳に適用されるリアルタイムの脳刺激信号を調節、調整、またはトリガするための刺激データを生成する、少なくとも1つのプロセッサ、メモリ、およびデジタル信号処理ユニットを含む脳状態モニタリングおよび刺激コンポーネントを具える。デジタル信号処理ユニットは、いくつかの実施形態では、治療対象の脳で発生している、または発生しようとしている少なくとも1つの脳状態を予測し、予測された少なくとも1つの脳状態に基づいて治療対象の脳に適用される脳刺激信号をリアルタイムで調節、調整またはトリガするための刺激データを生成するように構成される。任意選択だがいくつかの実施形態では好ましくは、少なくとも1つのプロセッサおよび/またはデジタル信号処理ユニットは、集積回路デバイスに埋め込まれたリアルタイムオペレーティングシステムを利用して動作される。
【0023】
集積回路デバイスに電気的に接続/結合された刺激発生器を使用して、集積チップデバイスのデジタル信号処理ユニットによって生成された刺激データに基づいて、治療対象の脳に適用される脳刺激を生成することができる。刺激発生器は、導体によって集積チップデバイスに電気的に接続され(例えば、シリアルまたはパラレルバスデータ通信プロトコルを使用して)、および/またはそれとの無線データ通信のための集積回路デバイスに無線で接続することができる(例えば、WiFi、Zigbee、Bluetoothなど)。刺激発生器は、いくつかの実施形態では、集積チップデバイスのデジタル信号処理ユニットで生成された刺激データに基づいて、生成された脳刺激の形状、タイミング、および/または周波数の少なくとも1つをリアルタイムで調整するように構成される。このようにして、脳刺激システムは、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示すデータ/信号を迅速に取得および処理し、対応する刺激データを生成して刺激アプリケータに伝達し、そして治療対象の脳に適用される脳刺激を瞬時に生成し調整することができる。
【0024】
本明細書に開示される主題の1つの発明的態様は、少なくとも1つのプロセッサおよびメモリを有する脳状態モニタリングおよび刺激コンポーネントと、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示すデータ/信号(例えば、EEG電極、および/またはtACS電極、および/またはfMRI、および/または治療対象によって実行される認知タスクに関連する)に基づいて治療対象の脳に発生しようとしている少なくとも1つの脳状態を予測するように構成され動作可能なデジタル信号処理ユニットを具える脳刺激システムに関する。デジタル信号処理ユニットは、予測された少なくとも1つの脳状態および/またはデータ/信号に基づいて、治療対象の脳に適用される脳刺激信号を調節、調整またはトリガするための刺激データを生成するように構成される。任意選択だがいくつかの実施形態では好ましくは、少なくとも1つのプロセッサ、メモリ、および/またはデジタル信号処理ユニットが、単一のハードウェアデバイス(例えば、SoC)に埋め込まれる。少なくとも1つのプロセッサおよび/またはデジタル信号処理ユニットは、いくつかの実施形態では、リアルタイムオペレーティングシステムを利用して運用される。
【0025】
任意選択だがいくつかの実施形態では好ましくは、デジタル信号処理ユニットは、治療対象の現在の脳状態を示すデータ/信号を反復的に受信し、受信したデータ/信号に基づいて被験者に発生しようとしている少なくとも1つの脳状態を予測し、新しい刺激サイクルを適用するための刺激データ/信号を生成し、それにより、生成された刺激データに従って治療対象に適用される脳刺激信号を調節することができる閉ループ脳刺激メカニズムを提供するように構成され動作可能である。任意選択で、脳刺激信号の調節は、生成された刺激データによって脳刺激信号を調節することを含む。
【0026】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つのプロセッサおよびデジタル信号処理ユニットは、高速通信プロトコルを使用してデータを交換するように構成される。代替的または追加的に、少なくとも1つのプロセッサおよびデジタル信号処理ユニットは、ダイレクトメモリアクセス方式によってシステムのメモリから/メモリ内にデータを読み書きするように構成され動作可能である。いくつかの実施形態において、性能をさらに改善するために、少なくとも1つのプロセッサ、デジタル信号処理ユニット、およびそれらのメモリは、例えば、SoCとして、単一の集積回路チップデバイスに実装される(例えば、少なくとも1つのプロセッサをFPGAに実装し、デジタル信号処理装置をGPUに実装することを同一半導体基板上に実現する)。
【0027】
いくつかの実施形態では、デジタル信号処理ユニットは、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示すデータ/信号から干渉を除去するように構成され動作可能な少なくとも1つのデジタルフィルタモジュール、および/または、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示す受信データ/信号を処理し、その時間周波数分析およびスペクトル分析のうちの少なくとも1つを実行するように構成され動作可能な少なくとも1つの分析モジュール、および/または、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示す受信データ/信号から治療対象の少なくとも1つの脳状態を示す1つの特徴および/またはそのスペクトルおよび/または時間周波数分析データを抽出するように構成され動作可能な少なくとも1つの特徴抽出ユニット、および/または、受信したデータ/信号に基づいて治療対象の脳で発生しようとしている少なくとも1つの脳状態を予測し、予測された少なくとも1つの脳状態に基づいて刺激データを生成するように構成および動作可能な少なくとも1つの予測モジュールを具える。
【0028】
デジタル信号処理ユニットは、いくつかの実施形態では、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示すデータまたは信号からアーチファクトを自動的に除去するように構成され動作可能な少なくとも1つのアーチファクト除去モジュールを具える。任意選択で、少なくとも1つのアーチファクト除去モジュールは、アーチファクトの除去のために自動化された独立成分分析(ICA)リアルタイムプロセスを使用するように構成され動作可能である。
【0029】
脳状態モニタリングおよび刺激コンポーネントは、いくつかの実施形態では、少なくとも1つの他のデバイス/システムとデータを交換するように構成され動作可能な通信モジュールを具える。したがって、脳状態モニタリングおよび刺激コンポーネントは、システムによって実施される治療プロトコルに関連する通信モジュール治療データを介して通信するように構成され動作可能であり得る。システムは、いくつかの実施形態では、通信モジュールを介して脳状態モニタリングおよび刺激コンポーネントによって通信された治療データを格納するためのデータベースシステムを具える。このデータベースシステムは、保存された治療データを分析し、それに関連する統計データを生成するように構成され動作することができる。任意選択だがいくつかの実施形態では好ましくは、データベースシステムは格納されたデータの分析に人工知能ツールを利用するように構成され動作可能である。
【0030】
治療対象の脳に適用される脳刺激信号は、いくつかの実施形態において、可聴刺激、視覚刺激、TMS刺激、tDCS刺激、tACS刺激、および/または触覚刺激、の少なくとも1つに関する。
【0031】
本明細書に開示される主題の別の発明的態様は、脳刺激を生成する方法に関する。この方法は、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示すデータまたは信号を受信するステップと、受信したデータまたは信号を分析して、少なくとも1つの脳状態に関連する少なくとも1つの特徴を特定するステップと、特定された少なくとも1つの特徴および/または受信したデータ/信号に基づいて、治療対象の脳で発生しようとしている(または発生した)少なくとも1つの脳状態を予測するステップと、予測された少なくとも1つの脳状態に基づいて、治療対象の脳に刺激信号を適用するための刺激データを生成するステップとを含む。
【0032】
任意選択で、この方法は、干渉およびアーチファクトの少なくとも1つをそれぞれそこから除去するために、前記少なくとも1つの脳状態を示す受信データまたは信号をフィルタリングするステップと処理するステップの少なくとも1つを含む。前記少なくとも1つの脳状態を示す受信データまたは信号のを処理するステップは、受信データまたは信号からアーチファクトをリアルタイムで自動的に除去するように構成された独立成分分析プロセスを含むことができる。
【0033】
前記方法は、いくつかの実施形態では、少なくとも1つの治療セッションを通して、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示す新たに受信されたデータまたは信号について、少なくとも1つの脳状態の予測および刺激データの生成を継続的、周期的または断続的に繰り返すステップを含む。任意選択だがいくつかの実施形態では好ましくは、生成された刺激データは、受信されたデータまたは信号から特定される少なくとも1つの特徴の変化に従って刺激信号を調整/変調するように構成される。いくつかの可能な実施形態では、生成された刺激データは、周波数、振幅、刺激パターン、電流極性、および/または脳刺激信号の正確な位置のうちの少なくとも1つに関連付けられている。このようにして、生成された刺激を使用して、運用中にシステムで新たに受信された少なくとも1つの脳状態を示すデータまたは信号に基づいて、治療対象に適用される刺激信号をリアルタイムで調整することができる。
【0034】
この方法は、いくつかの実施形態では、受信データまたは信号および生成された治療データを示す治療データをデータベースに格納するステップと、前記データベースに蓄積された治療データを分析するステップと、それを示す分析データを生成するステップとを含む。治療データを分析するステップは、いくつかの実施形態では、統計分析、機械学習、深層学習、またはそれらの任意の組み合わせのうちの少なくとも1つを含む。
【0035】
いくつかの実施形態では、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いて、治療対象の脳活動をモニタリングする。fMRIシステムからのデータ信号は、EEGおよび/またはtACSデータまたは信号に加えて、またはその代わりに、本明細書に記載の脳刺激スキームによって治療対象の脳状態を特定するために利用することができる。
【0036】
刺激データは、刺激信号によって治療対象の脳に以前に誘発された脳の状態に基づいて生成することができる。任意選択で、刺激信号は、音声信号、視覚信号、TMS信号、tDCS信号、またはtACS信号のうちの少なくとも1つを含む。例えば、限定することなく、この方法を使用して、脳刺激の適用によって治療対象の脳にいくらかの活性化を誘発し、その後に取得した脳状態データを処理して、適用した脳刺激に応答して発生した少なくとも1つの反応を特定し、それに応じて望ましい脳の状態を誘発するための新しい刺激データを生成することができる。処理済みの脳状態データで観察された応答は、治療対象の脳の少なくとも1つの将来の脳状態を予測できるものであり、および/または予測プロセスで使用できる現在の脳状態を示すものであり得る。例えば、予測プロセスは、取得された脳状態データで識別されたパターンを既知の応答と比較し、それに応じて、治療対象の脳で応答的に発生し得る将来の脳状態を特定するように構成されたパターンマッチングプロセスによって実装することができる。
【0037】
本出願の別の発明的態様は、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示す脳状態データまたは信号を受信して処理し、それに基づいて治療対象の脳に適用される脳刺激信号をリアルタイムで調節、調整、またはトリガするための刺激データを生成するように構成され動作可能な、少なくとも1つのプロセッサ、少なくとも1つのメモリ、および少なくとも1つのデジタル信号処理ユニットを具える集積回路(IC)システムに関する。この集積回路は、いくつかの実施形態では、脳状態データまたは信号に基づいて、治療対象の脳で発生している、または発生しようとしている少なくとも1つの脳状態を予測し、予測された少なくとも1つの脳状態に基づいて刺激データを生成するように構成され動作可能な予測モジュールをその中に埋め込んでいる。さらに、少なくとも1つのプロセッサおよびそのデジタル信号処理ユニットを動作させるために、リアルタイムオペレーティングシステムを集積回路システムに組み込むことができる。
【0038】
ICシステムは、いくつかの実施形態では、その中に組み込まれ、脳状態データまたは信号から干渉を除去するように構成され動作可能な少なくとも1つのデジタルフィルタリングモジュールを具える。少なくとも1つのアーチファクト除去モジュールをICシステムに組み込んで、脳状態データからアーチファクトを除去するための自動化された独立成分分析プロセスを適用することもできる。任意選択で、ICシステムに埋め込まれた少なくとも1つの分析モジュールを使用して、脳状態データまたは信号を処理し、それらの時間周波数分析およびスペクトル分析の少なくとも1つを実行する。また、少なくとも1つの特徴抽出モジュールを、いくつかの実施形態のICシステムに埋め込んで、脳状態データまたは信号から治療対象の少なくとも1つの脳状態を示す少なくとも1つの特徴を抽出する。
【0039】
任意選択だがいくつかの実施形態では好ましくは、さらに通信インターフェースモジュールが、無線データ通信およびバス導体データ通信チャネルのうちの少なくとも1つを介してデータを通信するために、ICシステムに埋め込まれる。任意選択で、集積回路システムの少なくとも1つのプロセッサまたはデジタル信号処理ユニットが、FPGAまたはGPUとして実装される。
【0040】
このようにして、脳刺激システムは、ICシステムと、当該ICシステムに電気的に接続または連結され、少なくとも1つのデジタル信号処理ユニットから刺激データを受信し、それに基づいて治療対象の脳に適用されるリアルタイムの脳刺激を生成または調整するように構成された刺激発生器とを用いて実装することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
本発明を理解し、それが実際にどのように実現され得るかを理解するために、添付の図面を参照して、非限定的な例としてのみ実施形態を説明する。図示される特徴は、他に暗黙的に示されない限り、本発明のいくつかの実施形態のみを例示することを意図している。図面では、対応する部品を示すために同じ符号が使用されている。
図1A図1Aは、いくつかの可能な実施形態による脳刺激システムを概略的に示すブロック図である。
図1B図1Bは、いくつかの可能な実施形態による脳刺激システムを概略的に示すブロック図である。
図1C図1Cは、いくつかの可能な実施形態による脳刺激システムを概略的に示すブロック図である。
図2図2は、治療対象の脳状態を特定するために経頭蓋交流電流刺激を利用する、いくつかの可能な実施形態による脳刺激システムを概略的に示すブロック図である。
図3図3は、治療対象の脳状態を特定するためにEEG信号および経頭蓋交流電流刺激信号/データを利用する、いくつかの可能な実施形態による脳刺激システムを概略的に示すブロック図である。
図4図4は、治療対象の脳状態を特定するためにfMRIデータ/信号を利用する、いくつかの可能な実施形態による脳刺激システムを概略的に示すブロック図である。
図5図5は、いくつかの可能な実施形態による、システムによって印加される刺激信号の形状および/またはタイミングをリアルタイムで適応させるように構成されたアプリケータユニットのブロック図である。
図6図6は、いくつかの可能な実施形態による閉ループ脳刺激プロセスを例示するフローチャートである。
図7図7は、いくつかの可能な実施形態によるデータ処理および分析システムのブロック図である。
図8図8は、本出願の実施形態による脳刺激システムを使用して得られた実験結果の角度ヒストグラムを示している。
【発明を実施するための形態】
【0042】
本出願は、EEG信号に基づいて特定されたリアルタイムの脳状態、および/または経頭蓋交流電流刺激(tACS)によって得られた脳状態周波数および位相リズム、および/または外部トリガの入力によって達成されるタスク依存の脳状態(例えば、特定の脳状態を誘発するTMSパルス、および/または、例えば限定しないが聴覚および/または視覚、および/または触覚などの感覚刺激)(これらはすべて、本明細書では全体的に脳状態信号/データと呼ばれる)に従って脳刺激をトリガおよび/または変調/調節するように構成された閉ループ脳刺激技術およびその実装を開示するものである。このようなリアルタイムの実装は、生信号のフィルタリングとクリーニング、ソースローカリゼーションの決定、スペクトル分析、位相ロック、統計演算、および/または予測モデル推定を含む脳状態信号/データの分析に必要なデータ処理量、およびこれらの動作を実行するための高いデータ処理レートのために達成が困難である。したがって、リアルタイム閉ループ脳刺激ソリューションの設計には、システムのパフォーマンスと精度を最適化するための特別で注意深い考慮が必要である。
【0043】
いくつかの可能な実施形態では、リアルタイム閉ループ脳刺激システムの多様なデータ処理モジュールが、例えば限定しないがシリアルペリフェラルインターフェース(SPI)、2線式インターフェース(TWI)、ユニバーサル同期および非同期レシーバートランスミッタ(USART)などの、ダイレクトメモリアクセス(DMA)または任意の他の適切な高速通信プロトコル(FCP)用に構成されたハードウェア(例えば、FPGA/GPU)に実装され、リアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)を用いてこれらのハードウェアデータ処理モジュールを動作させる1つ以上の処理ユニットを使用し、これにより、システムのパフォーマンス/速度が大幅に向上する。データ処理ハードウェアモジュールは、参照、ソースローカライゼーション、および信号フィルタリング用に構成された前処理モジュールと、時間周波数分析モジュールと、脳状態予測モジュールとを具え得る。脳状態予測モジュールは、信号パワースペクトル、および/または信号強度、および/または信号タイミング、および/または位相ロック値などの脳接続性測定値などであるがこれらに限定されない、脳状態信号/データから抽出された様々な特徴を使用して、システムによって適用される刺激信号の少なくとも1つのパラメータを決定し、それに基づいてトリガ信号を生成するように構成することができる。自己回帰前方予測モデルを使用して、脳状態信号/データでシステムによって識別されたピーク周波数に基づいて、時間の経過とともに予測モデルを更新することができる。
【0044】
いくつかの実施形態では、ユーザインターフェースユニットを使用して、様々な動作パラメータ(パワー閾値、ターゲット周波数/位相、分析タイプ/時間ウィンドウ、予測モデル、処理ステップ)および/または条件/状態(ターゲット電極、刺激パターン)を設定する。このようにして、決定された刺激パターンを使用する特定の刺激誘発プロセスを、特定の神経学的/精神医学的状態を治療するための特定の対象に合わせて調整することができる。
【0045】
対象インターフェースユニットは、いくつかの実施形態では、治療対象に所望の脳状態を誘発するために治療対象と相互作用するために使用される。この対象インターフェースユニットは、ユーザにオーディオまたはビジュアル、あるいはオーディオビジュアルコンテンツを提示するように、および/または触覚刺激を与え、所望の脳状態を誘発するように、および/またはtACS電極を使用して脳を刺激して所望の脳状態を誘発するように構成することができる。代替的または追加的に、対象インターフェースユニットは、治療対象に特別に設計されたタスク(認知タスク)を提示し、任意選択で対応する入力/フィードバックを治療対象から受け取るように構成することができ、これが例えば外部トリガの入力によって達成される、依存する脳状態を誘発するためにシステムによって使用可能となる。
【0046】
本出願の1つまたは複数の特定の実施形態を、図面を参照して以下に説明する。これらの図面は、すべての面で例示のみであり、いかなる方法でも限定的ではないと見なされるべきである。これらの実施形態の簡潔な説明を提供するために、実際の実装例のすべての機能が本明細書に記載されているわけではない。代わりに、本明細書に開示される主題の原理を理解すれば、当業者が脳刺激アプリケーションを製造および使用できるように、本発明の原理を明確に説明することに重点が置かれている。
【0047】
以下に記載される実施形態は、本明細書に記載される本質的な特徴から逸脱することなく、他の特定の形態で実施され得る。図に概略的および図式的に示されている実施形態は、リアルタイムの閉ループ脳刺激を提供するために使用されるいくつかの機能、プロセス、および原理を示す例示的な実装例として提供されるが、これらは他の用途にも有用であり、さまざまなバリエーションで作成することができる。したがって、この説明は、図示する実施例を参照して進めるが、本明細書で提供される記載、説明、および図面から原理が理解されれば、以下の特許請求の範囲に記載の発明は他の無数の方法でも実施できることを理解されたい。そのようなすべての変形、ならびに当業者に明らかであり脳刺激用途に有用な他の任意の変更例は、適切に利用することができ、本開示の範囲内に入ることが意図されている。
【0048】
図1Aは、脳刺激システム1Aのブロック図であり、リアルタイムの脳状態表示に基づく非侵襲的脳刺激の閉ループトリガおよび調整のためにいくつかの可能な実施形態で構成されている。システム10は、脳波(EEG)ユニット18から連続的に、定期的にまたは断続的に、被験者の頭10sに配置されたEEG電極17によって測定された脳波を示すEEGデータ/信号13s/13s’(本明細書では脳状態データとも呼ばれる)を読み取り、受信したEEGデータ/信号13s/13s’を処理し、刺激発生器14によって使用するための対応する脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータ14s(全体を本明細書では刺激データと呼ぶ)を生成するように構成され動作可能なリアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11を具える。刺激発生器14は、治療対象の脳の少なくとも1つの領域/範囲に刺激を適用するために刺激アプリケータ15によって使用される刺激信号15sを生成するように構成され動作可能である。リアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11は、脳の状態の監視と刺激システム11内に組み込まれたデジタル信号処理(DSP)ユニット12を動作させるためのリアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)を使用するように構成され動作可能な1つまたは複数のプロセッサ11u、メモリ11mを具える。
【0049】
DSPユニット12は、脳状態データ/信号13s/13s’を処理し、それに基づいて、刺激アプリケータに供給される脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータ14sを生成するように構成され動作可能である。図1Bは、脳状態データ/信号13s/13s’から干渉/アーチファクトを除去するように構成されたフィルタユニット12e、脳状態データ/信号13s/13s’を処理し分析するように構成された分析ユニット12f、および脳状態データ/信号13s/13s’に基づいて1つまたは複数の脳状態特徴を特定するように構成された特徴抽出ユニット12xを具える、いくつかの可能な実施形態によるDSPユニット12の構成要素を示す。DSPユニットは、特徴抽出ユニット12xからの1つまたは複数の脳状態特徴に基づいて、脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータ14sを生成するように構成することができる。
【0050】
いくつかの実施形態では、リアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11およびそのすべてのコンポーネントは、単一の集積回路デバイスに実装されている。
【0051】
図1Cは、リアルタイム脳状態表示に基づく非侵襲的脳刺激の閉ループトリガおよび調整のためのいくつかの可能な実施形態として構成された脳刺激システム10のブロック図である。システム10は、被験者の頭部10sに配置されたEEG電極17によって測定された脳波を示す脳波(EEG)ユニット18からEEGデータ/信号13s/13s’を連続的、周期的または断続的に読み取り、受信したEEGデータ/信号13s/13s’を処理し、刺激発生器14で使用するための対応する脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータ14s(一般に本明細書では刺激データと呼ばれる)を生成するように構成され動作可能なリアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11を具える。刺激発生器14は、刺激アプリケータ15によって使用される刺激信号15sを生成して、治療対象10sの脳の少なくとも1つの領域/範囲に刺激を適用するように構成され動作可能である(例えば、TMSコイル、および/または音/音声ジェネレータ/プレイヤー、および/または電流刺激電極、および/または2D/3Dディスプレイ/ホログラフィックデバイス、および/または触覚刺激トランスデューサによって)。
【0052】
リアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11は、いくつかの実施形態において、受信したEEGデータ/信号13s/13s’から反映されるEEGリズムを分析することによって治療対象(10s)の脳状態を特定し、特定された脳状態リズムに基づいて治療対象(10s)の脳で発生しようとしている少なくとも1つの脳状態を予測し、特定および/または予測された脳状態に基づいて、1つまたは複数の脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータ14s(例えば、周波数、および/または振幅、および/またはタイミング)を生成するように構成され、これが刺激アプリケータ15によって治療対象の脳(10s)を刺激するための刺激信号15sを生成するために刺激発生器14によって使用される。
【0053】
EEGユニット18からの脳状態信号13s’は、リアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11に組み込まれた一体型ユニット、またはリアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11の外部ユニットであり得るアナログ-デジタル変換器(ADC)13によってデジタル化される。この特定の非限定的な例では、脳刺激発生器14は、治療対象(10s)の脳組織に磁場を誘導するように構成されたTMSコイルなどのアプリケータ15の1つまたは複数の電磁コイル15cによって使用される刺激信号15sを生成するように構成される。しかしながら、リアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11によって調整された閉ループで動作させる場合、上記および以下に記載されるような他の脳刺激技術を脳刺激発生器14およびアプリケータ15ユニットに同様に使用することができる。
【0054】
リアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11は、脳状態モニタリングおよび刺激システム11の内部に組み込まれたデジタル信号処理(DSP)ユニット12を操作するためにリアルタイムオペレーティングシステム(RTOS)を使用するように構成され動作可能な1つまたは複数のプロセッサ11uおよびメモリ(例えば、RAM、SDRNA、フラッシュ)11mを具える。DSPユニット12は、データフィルタリング、スペクトル分析機能、特徴抽出、脳状態予測を実行し、脳刺激発生器14が刺激信号15sの生成に使用する動作パラメータおよび/またはタイミングデータを決定するように構成され動作可能である。
【0055】
処理速度は、治療対象(10s)の脳状態をリアルタイムで正確に特定するために本質的であるため、RTOSによって操作されるリアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11の1つまたは複数の処理ユニット11uおよびメモリ11mは、単一のハードウェアデバイスに実装され、DSPユニット12は、FPGA/GPU実装などの別個のハードウェアユニットとして実装される。システム性能を最適化するために、1つまたは複数のプロセッサ11uおよび/またはDSPユニット12は、高速データ通信プロトコル(例えば、FCP)を利用し、および/またはダイレクトメモリアクセス(DMA)を用いるように構成され、それにより、処理ユニットがメモリアクセス操作を処理する必要がある従来のシステムで一般的に必要とされる避けられない「ハンドシェイク」遅延が防止される。
【0056】
例えば、DMAを用いて実装される場合、1つまたは複数のプロセッサ11uおよびDSPユニット12は、一方のユニットが他方の連続データ処理操作を中断することなく、メモリ11mに対するデータ読み出しおよび書き込み操作を独立して実行することができる。したがって、脳状態モニタリングおよび刺激システム11にDMAおよび/または高速通信プロトコルを用いると、一般に脳状態データ/信号13s/13s’の取得を担う1つまたは複数のプロセッサ11uから負荷を解放する。脳状態モニタリングおよび刺激システム11のこの構成により、1つまたは複数のプロセッサ11uがより効率的となり、低い遅延時間でリアルタイムにデータを中継することが可能となる。DSPユニット12はさらに、動作パラメータおよびスケジューリング/タイミングデータ14sを決定し、それを脳刺激発生器14に出力するように構成される。
【0057】
表1は、いくつかの可能な実施形態による、脳状態モニタリングおよび刺激システム11の上記のハードウェア実装によって達成できるデータ処理速度の改善を示す。この設計により、データの収集および処理操作が大幅に高速化され、より短い期間でより多くのデータを収集できるようになる。これにより、予測アルゴリズムにより、脳波のより正確で長期的な予測が可能になり、脳刺激パルスの正確なトリガおよび変調が可能になる。
【0058】
(表1)
(C.Cullinanら、Math Works 2012から)
【0059】
脳刺激システム10によって得られる処理速度および予測精度の改善によって、測定されたアルファまたは他の脳波帯域のパワーが比較的低く、したがって従来技術による治療には適さなかった対象にシステムの有用性を拡大することが可能になる。例えば、Zrennerら(2018)のシステムで位相ロックに使用されるアルゴリズムでは、位相ロックを実行するために、アルファ脳波帯域の測定パワーが全脳波帯域の合計測定パワーの少なくとも25%である必要があった。このパワーの制限は、脳刺激システム10の処理速度の改善によって克服することができ、これにより弱い信号またはノイズの多い信号に対してさえ、より良い予測精度が可能になる。
【0060】
DSPユニット12は、いくつかの実施形態では、例えば、無限インパルス応答(IIR、例えば、バターワースまたは楕円フィルタ)、有限インパルス応答(FIR)フィルタを使用して、ADC13によってデジタル化されたEEG信号/データ13s’/13sから干渉信号を除去するように構成され動作可能なデジタルフィルタモジュール12eを具える。DSPユニット12は、フィルタモジュール12eからのフィルタリングされたEEG信号/データに対するスペクトル分析(例えば、高速フーリエ変換-FFTを利用する)および時間周波数分析を実行し、それを示すデータを生成する時間周波数(TF)分析モジュール12fと、分析モジュール12fによって生成された処理およびフィルタリングされた測定データを分析し、それに基づいて1つまたは複数の脳状態の特徴(例えば、フィルタリングされた測定データの支配的な周波数帯域、位相データ、振幅データなど)を特定し、それを示す特徴データを生成するように構成され動作可能な特徴抽出モジュール12xとを具える。脳状態予測モジュール12pは、特徴抽出モジュール12xによって生成された特徴データを処理し、治療対象(10s)の脳で発生しようとしている少なくとも1つの脳状態を予測し、予測された少なくとも1つの脳状態に基づいて、刺激発生器14によって1つまたは複数の脳刺激を生成するために使用される動作パラメータおよび/またはタイミングデータ14sを生成するように構成され動作可能である。
【0061】
任意選択で、いくつかの実施形態では好ましくは、DSPユニット12は、EEGユニット18から受信されたEEG信号/データ13s’/13sを処理するように構成され動作可能なアーチファクト除去モジュール12rを具える。コイル15cによって生成された磁場が、EEGユニット18によって測定されたEEGデータ/信号13s/13s’に強いアーチファクトをもたらし、したがってEEGデータ/信号13s/13s’の分析を複雑にするため、アーチファクト除去モジュール12rは、アプリケータ15において電磁コイル15c(例えば、TMSコイル)を利用する実施形態において特に有利である。しかしながら、アーチファクトは、例えば、電源、瞬き、動き、筋収縮、心臓の鼓動、電極の動き、電極の機械的圧力などの複数の異なるソースからEEGデータ/信号13s/13s’に導入され得ることに留意されたい。
【0062】
いくつかの実施形態では、分析モジュール12fは、コイル15cによるTMSパルスなどアプリケータ15による脳刺激の適用後最大100ミリ秒の時間ウィンドウ内でEEGユニット18によって測定されたEEGデータ/信号13s/13s’を分析するように構成され動作可能である。これは、誘発されたアーチファクトのために実行するのが実質的に困難であり得るからである。通常、このようなアーチファクトは、独立成分分析(ICA)を使用して抽出された特定の成分を除去することにより、記載されたアーチファクトを排除することを目的とした手動の後処理分析ステージによって、従来の脳刺激システムで除去される。ICAは堅牢で良好な結果を提供すると考えられるが、時間のかかるプロセス/アルゴリズムであり、本明細書に開示されるリアルタイムの脳刺激システムには適していない。したがって、アーチファクト除去モジュール12rは、いくつかの実施形態において、例えば、脳状態データ/信号13s/13s’の取得から約100~600ミリ秒、任意で約150~500ミリ秒、およびいくつかの実施形態では約200ミリ秒の時間ウィンドウ内で、EEGデータ/信号13s/13s’からアーチファクトをリアルタイムで除去するように構成されたリアルタイムICAプロセスを利用して(ハードウェア、ソフトウェア、またはハードウェアとソフトウェアの組み合わせによって)実装される。
【0063】
アーチファクト除去モジュール12rは、EEG信号/データ13s’/13sからアーチファクトを除去し、信号フィルタリングのために実質的にアーチファクトのないEEG信号/データをフィルタユニット12eに渡すように構成され動作可能である。あるいは、いくつかの可能な実施形態では、アーチファクト除去モジュール12rは、フィルタモジュール12eによって生成されたフィルタリングされたEEG信号/データを受信し、受信されたフィルタリングEEG信号/データを処理してそこからアーチファクトを除去し、実質的にアーチファクトのないフィルタリングEEG信号/データを分析モジュール12fへ渡すように構成され動作可能である。
【0064】
いくつかの実施形態では、RTOSによって動作されるリアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11の様々なコンポーネントが、単一のチップデバイス(例えば、SoCとしての単一の半導体基板上)に実装される。例えば、リアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11のSoC実装例では、1つまたは複数の処理ユニット11uをFPGAに実装す、DSPユニット12をSoCのGPUによって実装することができる。このように、DMAおよびすべての電気接続は、通常必要とされる個別のコンポーネントやプリント回路基板なしで、チップ内に内部的に形成/パターン化される。システム11のすべての構成要素がチップの同じ半導体基板上に実装され相互接続されるので、そのようなSoC実装例では、データ通信速度が改善し、システムの幾何学的寸法が大幅に低減する。
【0065】
非侵襲的脳刺激は、それぞれ独自のプロトコルを有するある範囲の神経学的および精神医学的適応症に対して治療上の利益があることが示されており、したがってそれぞれが異なる脳状態に適用することで最適化し得る。したがって、いくつかの実施形態では、刺激発生器14によって生成される刺激信号15sを調整するため予測モジュール12pによって決定される動作パラメータデータ14sは、刺激信号の強度、および/または刺激信号周波数および/またはタイミング、および/または刺激される治療対象の脳領域/範囲のうちの1つまたは複数を含むことができる。
【0066】
いくつかの実施形態では、システム10は、情報をユーザ/施術者に提示し、ユーザ/施術者から様々なデータ入力を受け取るように構成されたユーザインターフェースユニット11zを具える。例えば、限定しないが、ユーザインターフェースユニット11zは、ユーザ/施術者が以下のパラメータ/オプションのうちの少なくとも1つを指定できるように構成することができる。
(1)分析モジュール12fおよび特徴抽出モジュール12xが被験者の脳状態を特定するために使用される入力ソース/電極(例えば、EEG電極17、および/または特定のtACS電極17’、および/またはfMRI信号/データ、および/または対象インターフェースユニット11sからの認知タスク応答)。これには脳の接続性を測定するために複数の脳の領域/範囲にわたって電極をターゲットとするオプションが含まれる。
(2)参照、フィルタリング、およびソースローカリゼーションなどであるがこれらに限定されない、DSPユニット12によって実行される前処理ステップ。
(3)刺激発生器14によって使用されるターゲット周波数帯域および位相。
(4)刺激発生器14によって使用されるターゲット周波数帯域のパワー閾値。
(5)分析モジュール12fおよび特徴抽出モジュール12xによる分析のための時間ウィンドウ。
(6)分析モジュール12fおよび特徴抽出モジュール12xによって実行される分析タイプ。
(7)予測モジュール12pによって使用される予測モデル。
(8)刺激発生器14によって適用される出力刺激パターン。
【0067】
したがって、予測モジュール12pは、入力データ/信号から抽出された特徴、および/または、ユーザインターフェースユニット11zを介してオペレータ/施術者に設定された上記パラメータ/オプション(1)~(8)に基づいて、発生器14によって生成される刺激信号15sを調整するために使用される動作パラメータ/刺激データ14sを決定するように構成され動作可能である。アプリケーションが異なると特定の脳状態を識別するだけでなく、速度と精度のバランスの変更も必要となるため、いくつかの実施形態では、ユーザ/施術者の仕様が不可欠である。定義上、位相は連続的に変化するため、瞬間的な位相ロックは高速である必要がある。本明細書の脳刺激システムの実施形態は、必要とされる高い時間的精度で瞬間的に位相を分析するためにそのような高速で動作するように構成されている。しかしながら、この脳刺激システムは、分析の安定性を高め分析パイプラインに他の側面を追加する機能を開く、事象関連非同期(ERD)のような、時間的精度が低くてすむ分析タイプも利用できることに留意されたい。例えば、これは特徴抽出モジュール12xによって使用されるソースローカリゼーションプロセスの選択に反映することができ、これは、ERDが用いられる場合、例えばラプラシアン変換を利用するなどのより正確であるがより遅いプロセスを利用するか、例えばHjorth変換を利用する。
【0068】
別の非限定的な例は、予測モジュール12pによって採用される予測モデルの選択である。いくつかの可能な実施形態では、刺激システム10は限定しないが、自己回帰順方向予測モデル、FFT変換のピーク周波数に基づくモデリング、および逆伝播フィードバックモデルなどの一連のオプションを使用して、経時的に予測モジュール12pを更新するように構成される。予測モジュール12pは、EEGユニット18からの脳状態データ/信号13s/13s’と、現在または以前のセッションでシステムによって前に測定された脳状態パターンとの相関を特定し、この相関に基づいて治療対象の脳で発生する可能性が高い将来の脳状態を予測し、これによって刺激発生器14に供給される刺激データ14sを決定するように構成することができる。
【0069】
脳状態モニタリングおよび刺激システム11によって脳刺激発生器14に提供される刺激データ14sは、いくつかの実施形態では、ターゲット脳状態に一致する所定の刺激パターンをトリガするための命令、および/または様々な脳状態用に指定された異なるパターンを適用するための命令を含む。したがって、刺激発生器14は、経頭蓋磁気刺激(TMS)処置、経頭蓋直流電流刺激(tDCS)処置、および/または経頭蓋電気刺激(TES)処置と互換性があるように構成することができる。
【0070】
いくつかの実施形態では、脳刺激システムは、治療対象に所望の脳状態を誘導するために治療対象と相互作用するように構成され動作可能な対象インターフェースユニット11sを具える。この対象インターフェースユニット11sは、治療対象に所望の脳状態を誘発するように構成された視聴覚コンテンツを再生するように構成でき、および/または特別に設計された(例えば、認知)タスクを治療対象に提示し、任意で、例えば外部トリガの入力によって達成される、依存性の脳状態を誘発するためにシステム10によって使用可能である対応する入力/フィードバックを受け取るように構成することができる。
【0071】
図2は、脳刺激システム10’の可能な実施形態のブロック図であり、これは図1に示す脳刺激システム10に実質的に類似しているが、EEGデータ/信号の代わりにtACSデータ19sを用いて治療対象の脳状態を特定するものである。本例では、脳刺激システム10’は、tACS電極17’によって治療対象の脳に所望の脳状態を誘導する(例えば、対象の脳リズムを所与の周波数および位相に同調させる)ように構成され動作可能なtACSユニット19sをさらに具える。任意選択で、脳刺激システム10’は、tACS電極17’によって治療対象に適用されたtACS信号19s’を受け取り、受け取ったtACS信号19s’をADC13によってデジタル化するように構成することができる。tACSデータ/信号19s/19s’は、上記のように、脳状態モニタリングおよび刺激システム11によって同様に処理され、アーチファクトが除去され、および/またはアーチファクト除去モジュール12rおよびフィルタモジュール12eによって干渉がフィルタリングされ、分析モジュール12fによってフィルタリングされた、および/またはアーチファクトのないtACSデータ/信号が分析され、脳状態予測モジュール12pによって治療対象の脳で起こりそうな少なくとも1つの脳状態が予測され、刺激発生器14によって生成される刺激信号15sを調整/調節するための対応する刺激パラメータおよび/またはタイミングデータ14sが生成される。対象インターフェースユニット11sは、行動パフォーマンスなどであるがこれに限定されない外部トリガを入力するために同様に使用することができ、それにより、脳状態によるトリガをタスク依存させることができる。
【0072】
図3は、治療対象(10s)の脳状態を特定するために、EEG信号/データ13s’/13sおよびtACS信号/データ19sおよび/または19s’を利用する脳刺激システム10’’を概略的に示すブロック図である。脳刺激システム10’’は、EEGデータ/信号13s/13s’のみ、tACS信号/データ19sおよび/または19s’のみ、またはEEGおよびtACS信号/データの両方を選択して、治療対象の脳で発生しようとしている少なくとも1つの脳状態を予測し、これを使用して、上記のように、刺激発生器14によって適用される刺激信号15sを調整/調節するために対応する刺激パラメータおよび/またはタイミングデータ14sを生成するように構成することができる。
【0073】
図4は、治療対象の脳状態を特定するために、fMRIシステム44からのfMRIデータ44sおよび/または信号44s’を使用するように構成された脳刺激システム10’’’を概略的に示すブロック図である。fMRIシステム44は、対象(10s)の脳活動を測定するように構成され、脳刺激システム10’’’は、fMRIシステム44からの信号/データに基づいて治療対象の脳で起こりそうな少なくとも1つの脳状態を予測し、これを使用して、上記のように、刺激発生器14によって適用される刺激信号15sを調整/調節するための対応する刺激パラメータおよび/またはタイミングデータ14sを生成するように構成され動作可能である。
【0074】
図4に示されるように、脳刺激システム10’’’は、EEG電極17から受信された信号/データ13s’/13s、および/またはtACS信号/データ19s’/19sを、fMRIデータ/信号44s/44sと組み合わせ、様々なソースから受信した信号/データを使用して、刺激データ14sの予測および/または生成のために脳状態の特徴を抽出する。
【0075】
図1から図4に示されるように、リアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11は、EEGユニット18、および/またはtACSユニット19、および/またはfMRIシステム44、および/またはユーザインターフェースユニット11z、および/または対象インターフェースユニット11s、および/または刺激発生器14とのデータ通信を処理するように構成され動作可能な通信インターフェースモジュール11iを具えることができる。通信インターフェースモジュール11iは、例えば、シリアル(例えば、USB、UARTなど)またはパラレル(ISA、ATA、SCSI、PCIなど)バスデータ通信プロトコル、および/またはワイヤレスデータ通信(例えば、WiFi、Bluetooth、Zigbeeなど)を使用して、導電配線を介して様々なユニット/システムとデータ通信するように構成することができる。したがって、リアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11の構成要素が単一の集積回路(IC)デバイスに埋め込まれている実施形態では、通信インターフェースモジュール11iもシステム11のICに埋め込まれる。
【0076】
図5は、脳状態モニタリングおよび刺激システム11によって生成された脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータ14sに基づいて、システムによって治療対象の脳に適用される信号をリアルタイムで調整するように構成された可能な刺激発生器14のブロック図である。この特定の非限定的な例では、刺激発生器14は、脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータ14sを受信し、それに基づいて刺激アプリケータ15に供給される刺激信号15sの形状および/またはスケジューリングおよび/またはパターンをリアルタイムで調整するための制御信号14wおよび/または14mを生成するように構成され動作可能な制御ユニット14uを具える。
【0077】
刺激発生器14は、それぞれがそれぞれのスイッチユニットw1、w2、w3、…、wnに関連付けられ、所望の形状と周波数を有する特定の波形を生成するように構成された複数の信号源g1、g2、g3、…、gnを具え得る。各信号源g1、g2、g3、…、およびgnによって生成される波形の周波数は、脳刺激パラメータおよび/またはタイミングデータ14sに基づいて制御ユニット14uで生成される制御信号(図示せず)によって決定することができる。制御ユニット14uは、それぞれのスイッチユニットw1、w2、w3、…、wnの状態を変化させるためのそれぞれの制御信号14wを生成することによって刺激信号15sの波形を選択し、それによって信号加算ユニット14tに供給される波形を選択するするように構成され動作可能である。
【0078】
加算ユニット14tによって生成された信号加算は、制御ユニット14uからの信号/データ14mを介して提供される信号パターンでそれを変調するように構成され動作可能な信号変調ユニット14dに入力することができる。加算ユニット14tからの信号の変調は、すべての脳刺激セッションにおいて本質的に必要でないことに留意されたい。したがって、制御ユニット14uからの信号/データ14mを使用して、変調器14dに加算ユニット14tからの信号をそのまま、変調をかけずに渡すように指示することができる。
【0079】
図6は、いくつかの可能な実施形態による閉ループ脳刺激プロセス40を例示するフローチャートである。脳刺激プロセス40はステップS1から始まり、ここで脳刺激システムは、ユーザインターフェースユニット11zを介してユーザ/施術者からセッション入力を受け取る(例えば、上記のパラメータ/オプション(1)~(8))。ステップS2において、システムは、ステップS1で受信された入力に基づいて、セッションで使用される脳状態(BS)データ/信号源(例えば、EEG信号、tACS信号、および/またはfMRIデータ)、脳刺激の適用に用いる装置(例えば、所望の脳領域/範囲を標的とするためのコイルおよび/または電極の選択、および/または感覚アプリケータ)、および/または治療対象に適用されるべき信号パターンを決定する。
【0080】
ステップS3において、システムは、脳状態信号/データを受信し、フィルタリングし、および/またはそこからアーチファクトを除去する。次に、フィルタリングされ、および/またはアーチファクトのない信号/データがステップS4で分析され(例えば、スペクトル分析および/または時間周波数分析)、ステップS5で、システムは分析されたフィルタ済・処理および/またはアーチファクトのない脳状態信号/データから1つまたは複数の脳状態特徴を抽出する。次に、ステップS6で、治療対象の脳で発生しようとしている1つまたは複数の脳状態がシステムによって予測され、ステップS7で、システムは、刺激アプリケータがステップS8で刺激信号を適用するために使用する動作パラメータおよび/またはタイミングデータを決定する。
【0081】
ステップS9では、脳刺激セッションが終了されるかどうかがチェックされる。さらに脳刺激を加える場合は、ステップS3~S8を必要な回数繰り返し、これがステップS9で、アプリケータによって適用される刺激を停止し、制御をステップS10に移すことによって当該セッションを終了すべきであると決定されるまで行われる。ステップS8の脳刺激信号の適用は、ステップS3~S8が繰り返されるときに連続的に継続することができ、適用される脳刺激信号は、治療ユーザの脳状態で発生する変化に合わせて適用される脳刺激を調整するためにステップS7で新しい刺激パラメータおよび/またはタイミングデータが生成されたら、これらのステップ中に動的に変化させられることに留意されたい。
【0082】
また、プロセス40あるいは本明細書に記載の方法において、プロセス/方法のステップは、あるステップが最初に実行される別のステップに従属することが文脈から明らかでない限り、任意の順序で、または同時に実行できることも理解されたい。プロセス40、またはその1つまたは複数のステップは、構造化プログラミング言語(例えば、C)、C++などのオブジェクト指向プログラミング言語、またはコンピュータデバイス上で実行するために格納され、コンパイルされ、または解釈される任意のより高レベルまたは低レベルのプログラミング言語(アセンブリ言語、ハードウェア記述言語、データベースプログラミング言語およびテクノロジを含む)、さらに異種プロセッサの組み合わせ、プロセッサアーキテクチャ、または異なるハードウェアとソフトウェアの組み合わせを使用して作成されたコンピュータ実行可能コードとして実現することができる。
【0083】
本明細書に開示される脳刺激システムのデータ処理は、いくつかのコンピュータデバイスにわたって分散され、これらが1つの専用の独立した刺激システムに機能的に統合されてもよい。そのような順列および組み合わせはすべて、本開示の範囲内に入ることが意図されている。
【0084】
図7は、いくつかの可能な実施形態によるデータ処理および分析システム50を示す。システム50は、例えばインターネットであるデータネットワーク51を介してデータを通信するように構成され動作可能な通信モジュール11cをそれぞれ有する複数のリアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11を具える。いくつかの実施形態では、データサーバ52を使用して、複数のリアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11によって実施される治療プロトコルに関連する治療データ、ならびに治療経過および治療プロトコルを用いて得られた結果を受信および記録する。複数のリアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11から受信したデータは、データサーバ52によって維持されるデータベース52dに格納することができる。データサーバ52は、データサーバで一般的に使用されるように、1つまたは複数のプロセッサ(図示せず)、メモリ(例えば、揮発性および不揮発性-図示せず)、およびデータ通信モジュール(図示せず)を有するコンピュータシステムで実装することができる。
【0085】
いくつかの実施形態では、分析モジュール52aは、データベース52dに格納されたプロトコルおよび治療結果データを処理し、経時的に蓄積されたデータから満足のいく結果を示した治療プロトコルを識別するために、データサーバ52で使用される。したがって、分析モジュール52aは、高い割合の治療セッションが有益な治療効果を示した治療プロトコルを特定するための統計分析および/または機械学習ツールを利用するように構成することができる。任意選択だがいくつかの実施形態では好ましくは、分析モジュール52aは、ニューラルネットワーク、機械/深層学習アルゴリズムなどであるがこれらに限定されない、データベース52dに蓄積されたデータを分析するための人工知能ツールを利用するように構成される。したがって、データベース52dに蓄積された治療データの分析を用いて、状態および予測バイオマーカーおよび/またはプロトコルおよび/またはそれらの結果の統計を生成することができる。
【0086】
データサーバ52は、特定の神経学的/精神的状態の治療の最高スコアを有する治療プロトコルを示す複数のリアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11の分析データを転送するように構成することができる。リアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11は、データベース52dをスキャンし、特定の神経学的/精神医学的状態の治療において満足のいく結果を提供すると報告された治療プロトコルを探すためのクエリを生成してデータサーバ52に送信するように構成することができる。したがって、リアルタイム脳状態モニタリングおよび刺激システム11は、発行されたクエリに関し分析モジュール52aの統計分析とともにデータサーバ52から応答データを受信し、ユーザ/施術者にユーザインターフェースユニット11zの応答データを提示するように構成することができる。
【0087】
図8は、図1に示した脳刺激システムの実装例を使用して実行された実験的刺激の適用の角度ヒストグラム(ローズプロット)を示す。このプロットは、代表的な生のEEGトレースに対して0°(ゼロ度)に設定された場合の、トリガ時の実際の位相角分布を示している。測定された総電力のアルファバンドのパーセンテージが1%未満であるにも拘わらず、ここでの標準偏差は約38°である。したがって、これはアルゴリズムが総測定パワーに対するアルファバンドのパーセンテージが総パワーの25%以上であることが要求される被験者に制限され、標準偏差が53°であるZrennerら、2018の従来技術に対し改善されている。このように、本明細書に開示される脳刺激プロセス、およびその実装は、明らかにより正確であり、より多くの対象集団に対してより効果的である。
【0088】
上記の脳刺激システムの機能は、コンピュータベースの制御システムによって実行される命令を介して制御することができる。上記の実施形態での使用に適した制御システムは、例えば、通信バスに接続された1つまたは複数のプロセッサ、1つまたは複数の揮発性メモリ(例えば、ランダムアクセスメモリ-RAM)または不揮発性メモリ(例えば、フラッシュメモリ)を含み得る。セカンダリメモリ(例えば、ハードディスクドライブ、リムーバブルストレージドライブ、および/またはEPROM、PROM、フラッシュメモリなどのリムーバブルメモリチップ)を使用して、コンピューターシステムにロードされるデータ、コンピュータプログラム、またはその他の命令を格納することができる。
【0089】
当業者は、本明細書に記載の様々な例示的なブロック、モジュール、要素、コンポーネント、方法、操作、ステップ、およびアルゴリズムなどのアイテムが、ハードウェアとして、またはハードウェアとコンピュータソフトウェアの組み合わせとして実装され得ることを理解するであろう。
【0090】
本明細書に開示される実施形態では、本発明の特徴は、主に、例えば特定用途向け集積回路(ASIC)および/またはフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などのハードウェアコンポーネント、および/またはシステムオンチップ実装を用いたハードウェアに実装される。本明細書に記載の機能を実行するためのハードウェアステートマシンの実装は、関連技術分野の当業者には明らかであろう。さらに別の実施形態では、本発明の特徴は、ハードウェアとソフトウェアの両方の組み合わせを使用して実装することができる。
【0091】
上記に記載され、関連する図に示されるように、本発明は、閉ループ脳刺激システム、および関連する方法を提供する。本発明の特定の実施形態について説明したが、本発明はそれらに限定されるものではなく、当業者であれば特に前述の教示に照らして修正を加えることができる。当業者によって理解されるように、本発明は、上記の複数の技術を使用して、特許請求の範囲を逸脱することなく、多種多様な方法で実施することができる。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【手続補正書】
【提出日】2024-06-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳刺激システムにおいて、
治療対象の頭部に接続されて脳状態信号を取得する複数の電極と、
治療対象の頭部の領域に経頭蓋磁気刺激(TMS)信号を適用するためのTMSアプリケータと、
前記TMSアプリケータによって治療中に治療対象の頭部に適用される前記TMS信号を生成するように構成された脳状態モニタリングおよび刺激コンポーネントであって、集積回路デバイスを有する脳状態モニタリングおよび刺激コンポーネントと、を具え、
前記集積回路デバイスが、
前記複数の電極からの前記脳状態信号を処理するとともに、前記TMS信号をリアルタイムで生成するように構成されたデジタル信号処理(DSP)ユニットであって、当該DSPユニットが、
(i)前記脳状態信号から干渉を除去し、および/または前記TMSアプリケータによって適用された前記TMS脳刺激信号により取得された前記脳状態信号内に誘発されたアーチファクトを除去するように構成された、少なくとも1つのデジタルフィルタリングモジュールと、
(ii)前記少なくとも1つのデジタルフィルタリングモジュールからの前記脳状態信号に対して、時間周波数分析およびスペクトル分析のうちの少なくとも1つを適用するように構成された少なくとも1つの分析モジュールと、
(iii)前記少なくとも1つの分析モジュールの分析に基づいて、治療対象の脳状態を示す少なくとも1つの特徴を決定するように構成された少なくとも1つの特徴抽出モジュールと、
(iv)少なくとも1つの予測モジュールであって、1以上の以前に適用されたTMS信号に反応して治療対象において以前に測定された数多くの脳状態信号に対して、前記少なくとも1つの特徴抽出モジュールによって決定された少なくとも1つの特徴に基づいて、治療対象の脳でこれから発生する少なくとも1つの脳状態をリアルタイムで予測して、前記脳状態モニタリングおよび刺激コンポーネントにより生成されるTMS信号の少なくとも1つのパラメータを決定する少なくとも1つの予測モジュールと、を具えるDSPユニットと、
前記集積回路デバイスに組み込まれた前記DSPユニットをリアルタイムで動作させる少なくとも1つのプロセッサおよびメモリであって、1つ以上の治療プロトコルを実行させるプロセッサおよびメモリと、を具え、
前記少なくとも1つのプロセッサおよび前記DSPユニットが、高速通信プロトコル(FCP)を使用してデータを交換して、前記脳刺激システムの処理速度を向上させるとともに、前記メモリにダイレクトメモリアクセス(DMA)することで前記少なくとも1つのプロセッサおよび前記DSPユニットの継続的な中断のない動作を可能にするように構成されている、ことを特徴とする脳刺激システム。
【請求項2】
前記DSPユニットは、反復的に、前記治療対象の少なくとも1つの脳状態を示す前記脳状態信号を受信し、少なくとも1つの脳状態をリアルタイムで予測し、当該予測の直後に、予測された少なくとも1つの脳状態に基づいてTMS脳刺激信号を調整または調節するための対応するTMS脳刺激データをリアルタイムで生成するように構成され、それによって、生成されたTMS刺激データによってTMS信号をリアルタイムで調整または調節できる閉ループ脳刺激メカニズムを提供する、請求項1のシステム。
【請求項3】
前記脳状態モニタリングおよび刺激コンポーネントが、生成されたTMS刺激データによるTMS信号を変調するように構成されている、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記DSPユニットが、自動化された独立成分分析プロセスを使用して前記TMS脳刺激信号により誘発されたアーチファクトを自動的に除去するように構成された少なくとも1つのアーチファクト除去モジュールを具える、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシステムが、前記システムによって実施される1以上の治療プロトコルに関連する治療データを通信するように構成された通信モジュールを具えることを特徴とするシステム。
【請求項6】
前記通信モジュールを介して脳状態モニタリングおよび刺激コンポーネントによって通信された治療データを格納するためのデータベースシステムを具え、前記データベースシステムは、格納された治療データを分析し、それに関連する統計データを生成するように構成されている、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記データベースシステムが、人工知能ツールを利用して、格納された前記治療データを分析し、前記統計データまたはバイオマーカを生成するように構成されている、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記脳状態信号が、EEG電極、tACS電極、fMRI機器、および前記治療対象によって実行される認知タスクのうちの少なくとも1つに関連する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記治療対象の頭部に適用されるTMS信号が、さらに、音声信号、視覚信号、tDCS信号、およびtACS信号、うちの少なくとも1つを含む、請求項1乃至8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
集積回路システムにおいて、
治療対象の頭部に接続しうる複数の電極によってリアルタイムで測定された脳状態信号を受信して処理するとともに、TMSアプリケータによって治療対象の頭部に適用されるTMS信号をリアルタイムで生成するように構成されたDSPユニットであって、測定された前記脳状態信号が、治療中に治療対象の頭部に以前に適用された1つ以上のTMS信号に応答したものであるとともに、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示すものであり、当該DSPユニットが、
(i)前記脳状態信号から干渉を除去し、および/または前記TMSアプリケータによって治療対象の頭部に適用された前記TMS信号により誘発されたアーチファクトを除去するように構成された、少なくとも1つのデジタルフィルタリングモジュールと、
(ii)前記少なくとも1つのデジタルフィルタリングモジュールからの前記脳状態信号に対して、時間周波数分析およびスペクトル分析のうちの少なくとも1つを適用するように構成された少なくとも1つの分析モジュールと、
(iii)前記少なくとも1つの分析モジュールの分析に基づいて、治療対象の少なくとも1つの脳状態を示す少なくとも1つの特徴を決定するように構成された少なくとも1つの特徴抽出モジュールと、
(iv)少なくとも1つの予測モジュールであって、前記少なくとも1つの特徴抽出モジュールによって決定された少なくとも1つの特徴に基づいて、治療対象の脳でこれから発生する少なくとも1つの脳状態をリアルタイムで予測して、治療対象の頭部に前記TMSアプリケータによって適用される新たなTMS信号の少なくとも1つのパラメータを決定する少なくとも1つの予測モジュールと、を具えるDSPユニットと、
少なくとも1つのプロセッサおよびメモリであって、リアルタイムオペレーティングシステムを用いて前記DSPユニットをプロセッサによりリアルタイムで動作させ、治療中に前記治療対象の頭部に適用されるTMS信号をリアルタイムで調節、調整、またはトリガするためのTMSデータをリアルタイムで生成するように構成されたプロセッサおよびメモリと、を具え、
前記少なくとも1つのプロセッサおよび前記DSPユニットが、高速通信プロトコル(FCP)を使用してデータを交換して、前記集積回路システムの処理速度を向上させるとともに、前記メモリにダイレクトメモリアクセス(DMA)することで前記少なくとも1つのプロセッサおよび前記DSPユニットの継続的な中断のない動作を可能にするように構成されている、ことを特徴とする集積回路システム。
【請求項11】
前記予測モジュールが、前記脳状態信号に基づいて、治療中に前記治療対象の脳で発生しようとしている少なくとも1つの脳状態を予測し、予測された少なくとも1つの前記脳状態に基づいて前記TMSデータをリアルタイムで生成するように構成されている、請求項10のシステム。
【請求項12】
少なくとも1つのアーチファクト除去モジュールが、前記脳状態信号からアーチファクトを除去するための自動化された独立成分分析プロセスを使用するように構成されている、請求項10または11のシステム。
【請求項13】
前記集積回路に埋め込まれ、無線データ通信またはバス導体データ通信チャネルのうちの少なくとも1つを介してデータを通信するように構成された通信インターフェースモジュールを具える、請求項10乃至12のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記集積回路システムのプロセッサまたはDSPユニットの少なくとも一方がFPGAまたはGPUとして実装されている、請求項10乃至13のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項15】
請求項10乃至14のいずれか一項に記載の集積回路システムと、前記集積回路システムに電気的に接続または結合された刺激発生器であって、前記少なくとも1つのデジタル信号処理ユニットから前記TMSデータを受信することに基づいて、前記治療対象の頭部に適用されるTMS信号をリアルタイムで生成または調整するように構成された刺激発生器とを具える脳刺激システム。
【外国語明細書】