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特開2024-112905抗体依存性細胞介在性細胞傷害の調節方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112905
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】抗体依存性細胞介在性細胞傷害の調節方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/00 20060101AFI20240814BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C07K16/00 ZNA
C12Q1/02
C07K16/00
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024081554
(22)【出願日】2024-05-20
(62)【分割の表示】P 2021512923の分割
【原出願日】2019-09-10
(31)【優先権主張番号】62/729,971
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポロゾバ,アーラ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン,チンチュン
(72)【発明者】
【氏名】クーンズ,スコット
(72)【発明者】
【氏名】シェン,ドン
(57)【要約】      (修正有)
【課題】本開示は、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物の抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を制御する方法を提供する。
【解決手段】例示的な実施形態では、方法は、(1)グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する工程;及び(2)コンセンサスグリコシル化部位における非フコシル化グリカン種中の末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させることによって、IgG1抗体組成物のADCC活性を増加又は減少させる工程を含む。関連した、参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性にマッチさせる方法、並びにグリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物の特定の標的ADCC活性を操作する方法が、本明細書においてさらに提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物の抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を制御する方法であって、
(1)グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する工程;及び
(2)前記組成物内のIgG1抗体のコンセンサスグリコシル化部位におけるグリカン種中の末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させることによって、前記グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を増加又は減少させる工程
を含む方法。
【請求項2】
参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物の抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性にマッチさせる方法であって、
(1)参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する工程;
(2)前記参照IgG1抗体と同じ抗体配列を有するIgG1抗体を含む第2の抗体組成物のADCC活性を決定する工程;及び
(3)前記第2の抗体組成物内の1つ以上の抗体のコンセンサスグリコシル化部位におけるグリカン種中の末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させることによって、前記第2の抗体組成物のADCC活性を変化させる工程
を含み、
末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させた後の前記第2の抗体組成物のADCC活性は、前記参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物と同じであるか、又は前記参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物の約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%若しくは約50%以内であるか、又は前記参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物の約1%~約50%以内である、方法。
【請求項3】
グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物の特定の目標抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を操作する方法であって、
(1)グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する工程;
(2)目標ADCC活性を決定する方法;及び
(3)コンセンサスグリコシル化部位におけるグリカン種中の末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させることによって、前記グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を増加又は減少させる工程
を含み、
末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させた後の前記グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性は、前記目標ADCC活性と同じであるか、又は前記目標ADCC活性の約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%若しくは約50%以内であるか、又は前記目標ADCC活性の約1%~約50%以内である、方法。
【請求項4】
工程1は、工程2及び/又は工程3の前、後又は同時に行われる、或いは工程2は、工程1及び/又は工程3の前、後又は同時に行われる、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
非フコシル化グリカン中のβ-ガラクトースの約1%の増加は、ADCC活性を約20%~約30%増加させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
非フコシル化グリカン中のβ-ガラクトースの約1%の減少は、ADCC活性を約20%~約30%減少させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記グリカン種中の前記末端β-ガラクトースは、前記IgG1抗体のG1、G1a、G1b、G2又はハイブリッド型ガラクトシル化種である、請求項1~6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記IgG1抗体及び/又は参照抗体は、真核宿主細胞で産生される、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記IgG1抗体及び/又は参照抗体は、CHO細胞で産生される、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物又は第2の抗体組成物は、非フコシル化グリカンを総量で約0.5%、約1%、約2%、約3%、約4%、約5%、約7%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%、約98%若しくは約99%、又は総量で約0.5%~100%の範囲、総量で約3%~100%の範囲、総量で約5%~100%の範囲、又は総量で約8%~100%の範囲を有する、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記IgG1抗体組成物又は参照抗体組成物は、抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体を含む、請求項1~10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記IgG1抗体組成物又は参照抗体組成物は、トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記抗体組成物のADCC活性は、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約125%、約150%、約175%、約200%、約1倍、約2倍、約3倍若しくは約4倍増加若しくは減少するか、又は約5%~約400%増加若しくは減少する、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記抗体組成物の末端β-ガラクトースの量は、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約125%、約150%、約175%若しくは約200%増加若しくは減少するか、又は総量で約0.5%、約1%、約2%、約3%、約5%、約7%、約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約96%、約97%若しくは約98%まで増加若しくは減少するか、又は総量で約0%~100%まで増加若しくは減少する、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ADCC活性は、細胞ベースのアッセイ又は結合アッセイを用いて測定又は決定される、請求項1~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記細胞ベースのアッセイは、NK92細胞又はPMBC細胞を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記結合アッセイは、FcγRIIIaを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記抗体組成物中の末端β-ガラクトースの量は、抗体を発現する細胞を、前記抗体の前記グリカン種中の末端β-ガラクトースの量を調節する細胞培養培地中で培養することによって増加又は減少させる、請求項1~17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記末端β-ガラクトースの量は、化学薬品又は酵素を用いて増加又は減少させる、請求項1~18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記酵素は、Endo-S2、β-(1-4)-ガラクトシダーゼ、Endo-H、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ、及びPNGアーゼ-Fからなる群から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
請求項1~20のいずれか一項に記載の方法によって生成されるIgG1抗体組成物であって、前記抗体組成物は、参照IgG1抗体組成物と比較して、増加又は減少したADCC活性を有し、前記参照IgG1抗体組成物は、前記増加又は減少したADCC活性を有するIgG1抗体と同じ抗体配列を有するIgG1抗体を含む、IgG1抗体組成物。
【請求項22】
前記抗体組成物は、前記参照抗体組成物と比較して、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約125%、約150%、約175%若しくは約200%、又は約1倍、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍若しくは約10倍増加したADCC活性、或いは前記参照抗体組成物と比較して、約0.5倍~約8倍増加したADCC活性を有する、請求項21に記載のIgG1抗体組成物。
【請求項23】
前記抗体組成物は、前記参照抗体組成物と比較して、約30%、約35%、約40%、約45%、約50%、約55%、約60%、約65%、約70%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約100%、約125%、約150%、約175%若しくは約200%、又は約1倍、約2倍、約3倍、約4倍、約5倍、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍若しくは約10倍減少したADCC活性、又は前記参照抗体組成物と比較して、約0.5倍~約8倍減少したADCC活性を有する、請求項21に記載のIgG1抗体組成物。
【請求項24】
前記IgG1抗体組成物は、トラスツズマブ、リツキシマブ又はインフリキシマブを含む、請求項21~23のいずれか一項に記載の抗体組成物。
【請求項25】
前記トラスツズマブ抗体は、
a.(i)配列番号1で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1配列、(ii)配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2配列、及び(iii)配列番号3で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3配列を含む軽鎖可変ドメイン、及び
b.(i)配列番号4で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1配列、(ii)配列番号5で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2配列、及び(iii)配列番号6で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3配列を含む重鎖可変ドメイン
を含むか、若しくは
c.配列番号7を含む軽鎖可変ドメイン、及び
d.配列番号8を含む重鎖可変ドメイン
を含む;
又は、前記リツキシマブ抗体は、
a.(i)配列番号11で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1配列、(ii)配列番号12で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2配列、及び(iii)配列番号13で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3配列を含む軽鎖可変ドメイン、及び
b.(i)配列番号14で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1配列、(ii)配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2配列、及び(iii)配列番号16で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3配列を含む重鎖可変ドメイン
を含むか、若しくは
c.配列番号17を含む軽鎖可変ドメイン、及び
d.配列番号18を含む重鎖可変ドメイン
を含む;
又は、前記インフリキシマブ抗体は、
a.(i)配列番号25で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR1配列、(ii)配列番号26で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR2配列、及び(iii)配列番号27で示されるアミノ酸配列を含む軽鎖CDR3配列を含む軽鎖可変ドメイン、及び
b.(i)配列番号28で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR1配列、(ii)配列番号29で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR2配列、及び(iii)配列番号30で示されるアミノ酸配列を含む重鎖CDR3配列を含む重鎖可変ドメイン
を含むか、若しくは
c.配列番号31を含む軽鎖可変ドメイン、及び
d.配列番号32を含む重鎖可変ドメイン
を含む、請求項12~20のいずれか一項に記載の方法、又は請求項24に記載の抗体組成物。
【請求項26】
請求項21~25のいずれか一項に記載の抗体組成物と、薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤とを含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、抗体、例えば、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体を含むIgG1抗体の抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)エフェクター機能を調節することに関する。
【0002】
電子ファイルでの提出物の参照による援用
本明細書と同時に提出されたコンピュータ可読のヌクレオチド/アミノ酸配列リストは、その全体が参照によって援用され、当該リストは、以下のとおりである:2019年9月9日作成の「A-2246-WO-PCT_Final_Seqlisting_09092019.txt」というファイル名の28.6KBのASCII(Text)ファイル。
【背景技術】
【0003】
モノクローナル抗体(mAb)に基づく治療法は、癌及び慢性疾患などの様々な疾患を治療するために有効に使用されてきた。これらの抗体の多くは免疫グロブリンG1(IgG1)のサブクラスのものであり、知られたエフェクター機能活性を有することからよく選択されている。IgGはmAbのCH2領域の保存されたAsn残基にN結合型グリカンを有する。この部位でのグリコシル化はmAbの標的結合に直接影響しないが、抗体依存性細胞介在性細胞障害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)及び抗体依存性細胞貪食(ADCP)を含む抗体エフェクター機能に重大な影響を及ぼす可能性がある(Jefferis,R.,Glycosylation as a strategy to improve antibody-based therapeutics.Nat Rev Drug Discov,2009.8(3):p.226-34;Natsume,A.,et.al,Improving effector functions of antibodies for cancer treatment:Enhancing ADCC and CDC.Drug Des Devel Ther,2009.3:p.7-16を参照)。これらの機能はいくつかのmAbの作用機序(MOA)に重要であり得る。したがって、治療用抗体の効力が、特定の製造ロット中に存在する特定のグリカン種のレベル及び種類によって変動し得る潜在的なリスクが存在する。
【0004】
バイオリアクター制御及びバイオプロセシングにおける最近の進歩にもかかわらず、標準的なmAb産生プロセスを使用して、明確なグリカン種を有するmAbを生産することは依然として困難である。多くの因子が組み換え抗体に関連するグリカンプロファイルに影響を及ぼす可能性がある。哺乳動物宿主で産生される場合、mAbに関連するFcグリカン構造に内在する不均一性及び複雑性の高さが主な理由の1つである。Flynn,G.C.,et al.,Naturally occurring glycan forms of human immunoglobulins G1 and G2.Mol Immunol,2010.47(11-12):p.2074-82;Read,E.K.,et al.,Industry and regulatory experience of the glycosylation of monoclonal antibodies.Biotechnol Appl Biochem,2011.58(4):213-9。さらに、mAbのグリカンプロファイルのバッチ間変動は、プロセシング酵素の存在及び濃度、細胞培地成分、動態パラメーター、糖ヌクレオチド供与体の利用可能性などを含む細胞変化から生じ得る。固有のタンパク質特性もまた、グリカンプロセシングに影響を及ぼし、異なるグリカン構造を生じ得る。Dicker,M.and R.Strasser,Using glyco-engineering to produce therapeutic proteins.Expert Opin Biol Ther,2015.15(10):p.1501-16。したがって、治療製造の観点からは、免疫細胞が媒介するエフェクター機能に対する様々なグリコフォームの影響についての詳細な研究から得られるべきことが多い。これらの関連するグリカン種の知識の増加は、重要な属性の制御を確実にし、また重要でない属性の範囲における適切な柔軟性を可能にする、属性に焦点を当てた制御戦略を導くために使用され得る。
【0005】
いくつかの治療用抗体の臨床的有効性の基礎となる重要なエフェクター機構の1つとして、ADCCは、標的細胞死をもたらすサイトカイン及び細胞傷害性顆粒の放出を誘発する、免疫細胞上に発現するFcγIIIa受容体への細胞表面抗原抗体複合体の結合に依存する。インビトロでのADCC活性は、標的細胞表面の抗原の密度、抗原-抗体アフィニティー、及びFcγRレセプターへの複合体の結合などのいくつかのパラメーターに依存する。所望の抗体/抗原結合特性を有する標的細胞について、ADCC活性は、FcγIIIaレセプター結合に対する影響のために、mAbのFc部分のグリコシル化プロファイルに大きく依存する。Ferrara,C.,et al.,Unique carbohydrate-carbohydrate interactions are required for high affinity binding between FcgammaRIII and antibodies lacking core fucose.Proc Natl Acad Sci USA,2011.108(31):p.12669-74;Okazaki,A.,et al.,Fucose depletion from human IgG1 oligosaccharide enhances binding enthalpy and association rate between IgG1 and FcgammaRIIIa.J Mol Biol,2004.336(5):p.1239-49;Shields,R.L.,et al.,Lack of fucose on human IgG1 N-linked oligosaccharide improves binding to human Fcgamma RIII and antibody-dependent cellular toxicity.J Biol Chem,2002.277(30):p.26733-40;Shinkawa,T.,et al.,The absence of fucose but not the presence of galactose or bisecting N-acetylglucosamine of human IgG1 complex-type oligosaccharides shows the critical role of enhancing antibody-dependent cellular cytotoxicity.J Biol Chem,2003.278(5):p.3466-73。したがって、効力に対する潜在的な影響のために、グリコシル化制御は、抗体ベースの生物学的製剤の製造における重要な戦略であるとされている。Jefferis,R.,Glycosylation as a strategy to improve antibody-based therapeutics.Nat Rev Drug Discov,2009.8(3):p.226-34。様々なタイプのFcグリカン構造のFcγR結合及びADCC活性に及ぼす影響が調べられており、いくつかの重要な関係が確立されている。複合型グリカン上のコアフコースをなくすと(非フコシル化としても知られている)、mAbとFcγIIIa受容体との結合親和性が高まる傾向があり、ADCC活性の増加をもたらす。Ferrara,C.,et al.,Unique carbohydrate-carbohydrate interactions are required for high affinity binding between FcgammaRIII and antibodies lacking core fucose.Proc Natl Acad Sci USA,2011.108(31):p.12669-74;Okazaki,A.,et al.,Fucose depletion from human IgG1 oligosaccharide enhances binding enthalpy and association rate between IgG1 and FcgammaRIIIa.J Mol Biol,2004.336(5):p.1239-49;Shields,R.L.,et al.,Lack of fucose on human IgG1 N-linked oligosaccharide improves binding to human Fcgamma RIII and antibody-dependent cellular toxicity.J Biol Chem,2002.277(30):p.26733-40;Shinkawa,T.,et al.,The absence of fucose but not the presence of galactose or bisecting N-acetylglucosamine of human IgG1 complex-type oligosaccharides shows the critical role of enhancing antibody-dependent cellular cytotoxicity.J Biol Chem,2003.278(5):p.3466-73。コアフコースを本来欠く高マンノースグリカンもまた、ADCC活性を高めることが示されており(Kanda,Y.,et al.,Comparison of biological activity among nonfucosylated therapeutic IgG1 antibodies with three different N-linked Fc oligosaccharides:the high-mannose,hybrid,and complex types.Glycobiology,2007.17(1):p.104-18;Pace,D.,et al.,Characterizing the effect of multiple Fc glycan attributes on the effector functions and FcgammaRIIIa receptor binding activity of an IgG1 antibody.Biotechnol Prog,2016.32(5):p.1181-1192;Zhou,Q.,et al.,Development of a simple and rapid method for producing non-fucosylated oligomannose containing antibodies with increased effector function.Biotechnol Bioeng,2008.99(3):p.652-65)、一方、末端のシアル化は、FcγIIIa受容体への抗体の結合を減少させ、ADCCの活性を減少させることが確認されている(Kaneko,Y.,F.et al,Anti-inflammatory activity of immunoglobulin G resulting from Fc sialylation.Science,2006.313(5787):p.670-3;Scallon,B.J.,et al.,Higher levels of sialylated Fc glycans in immunoglobulin G molecules can adversely impact functionality.Mol Immunol,2007.44(7):p.1524-34)。
【0006】
Fcグリカンの末端ガラクトシル化のADCCに対する影響を理解することは、依然として活発に行われている研究の領域である。いくつかの研究は、末端ガラクトースがmAbのFcγIIIaへの結合及びADCC活性に影響を及ぼさないことを示唆しており(Shinkawa,T.,et al.,The absence of fucose but not the presence of galactose or bisecting N-acetylglucosamine of human IgG1 complex-type oligosaccharides shows the critical role of enhancing antibody-dependent cellular cytotoxicity.J Biol Chem,2003.278(5):p.3466-73;Boyd,P.N.,et al,The effect of the removal of sialic acid,galactose and total carbohydrate on the functional activity of Campath-1H.Mol Immunol,1995.32(17-18):p.1311-8;Hodoniczky,J.,et.al,Control of recombinant monoclonal antibody effector functions by Fc N-glycan remodeling in vitro.Biotechnol Prog,2005.21(6):p.1644-52;Raju,T.S.,Terminal sugars of Fc glycans influence antibody effector functions of IgGs.Curr Opin Immunol,2008.20(4):p.471-8)、一方、他の研究では、Fcガラクトシル化がそのような活性に正の影響を及ぼし得ることが示されている(Kumpel,B.M.,et al.,The biological activity of human monoclonal IgG anti-D is reduced by beta-galactosidase treatment.Hum Antibodies Hybridomas,1995.6(3):p.82-8;Thomann,M.,et al.,Fc-galactosylation modulates antibody-dependent cellular cytotoxicity of therapeutic antibodies.Mol Immunol,2016.73:p.69-75;Thomann,M.,et al.,In vitro glycoengineering of IgG1 and its effect on Fc receptor binding and ADCC activity.PLoS One,2015.10(8):p.e0134949;Houde,D.,et al.,Post-translational modifications differentially affect IgG1 conformation and receptor binding.Mol Cell Proteomics,2010.9(8):p.1716-28)。ガラクトシル化とmAbのADCC活性との関係を深く理解することは、所望の治療特性を有する治療用mAbを設計し製造する機会、制御戦略を最適化する機会を提供する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Jefferis,R.,Glycosylation as a strategy to improve antibody-based therapeutics.Nat Rev Drug Discov,2009.8(3):p.226-34
【非特許文献2】Natsume, A.,et.al.,Improving effector functions of antibodies for cancer treatment:Enhancing ADCC and CDC.Drug Des Devel Ther,2009.3:p.7-16
【非特許文献3】Flynn,G.C.,et al.,Naturally occurring glycan forms of human immunoglobulins G1 and G2.Mol Immunol,2010.47(11-12):p.2074-82
【非特許文献4】Read,E.K.,et al.,Industry and regulatory experience of the glycosylation of monoclonal antibodies.Biotechnol Appl Biochem,2011.58(4):p.213-9
【非特許文献5】Dicker,M.and R.Strasser,Using glyco-engineering to produce therapeutic proteins.Expert Opin Biol Ther,2015.15(10):p.1501-16
【非特許文献6】Ferrara,C.,et al.,Unique carbohydrate-carbohydrate interactions are required for high affinity binding between FcgammaRIII and antibodies lacking core fucose.Proc Natl Acad Sci USA,2011.108(31):p.12669-74
【非特許文献7】Okazaki,A.,et al.,Fucose depletion from human IgG1 oligosaccharide enhances binding enthalpy and association rate between IgG1 and FcgammaRIIIa.J Mol Biol,2004.336(5):p.1239-49
【非特許文献8】Shields,R.L.,et al.,Lack of fucose on human IgG1 N-linked oligosaccharide improves binding to human Fcgamma RIII and antibody-dependent cellular toxicity.J Biol Chem,2002.277(30):p.26733-40
【非特許文献9】Shinkawa,T.,et al.,The absence of fucose but not the presence of galactose or bisecting N-acetylglucosamine of human IgG1 complex-type oligosaccharides shows the critical role of enhancing antibody-dependent cellular cytotoxicity.J Biol Chem,2003.278(5):p.3466-73
【非特許文献10】Kanda,Y.,et al.,Comparison of biological activity among nonfucosylated therapeutic IgG1 antibodies with three different N-linked Fc oligosaccharides:the high-mannose,hybrid,and complex types.Glycobiology,2007.17(1):p.104-18
【非特許文献11】Pace,D.,et al.,Characterizing the effect of multiple Fc glycan attributes on the effector functions and FcgammaRIIIa receptor binding activity of an IgG1 antibody.Biotechnol Prog,2016.32(5):p.1181-1192
【非特許文献12】Zhou,Q.,et al.,Development of a simple and rapid method for producing non-fucosylated oligomannose containing antibodies with increased effector function.Biotechnol Bioeng,2008.99(3):p.652-65
【非特許文献13】Kaneko,Y.,F.et al.,Anti-inflammatory activity of immunoglobulin G resulting from Fc sialylation.Science,2006.313(5787):p.670-3
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【非特許文献21】Houde,D.,et al.,Post-translational modifications differentially affect IgG1 conformation and receptor binding.Mol Cell Proteomics,2010.9(8):p.1716-28
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書においては、末端β-ガラクトースが、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体のADCC活性に有意な影響を及ぼすことを示す。したがって、本開示は、末端β-ガラクトースを調節する(すなわち、増加又は減少させる)(例えば、ガラクトシル化グリカンを濃縮、増加、除去、及び/又はリモデリングすることを含む)ことによって、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を調節する(すなわち、増加又は減少させる)方法(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(例えば、トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)を含む組成物のADCC活性を増加又は減少させる方法を含む)を提供する。例示的な実施形態では、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)を含む組成物など)のADCC活性を調節する方法は、組成物内の1つ以上のIgG1抗体上の末端ガラクトースの量を調節する(例えば、組成物内の1つ以上のIgG1抗体上の末端ガラクトースの量を増加させてADCC活性を増加させる、又は組成物内の1つ以上のIgG1抗体上の末端ガラクトースの量を減少させてADCC活性を減少させる)ことを含む。
【0009】
例示的な実施形態では、ADCC活性を調節する方法は、抗体組成物の非フコシル化、ガラクトシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)の量又は割合を調節することを含む。例示的な態様では、本明細書で提供される方法は、抗体組成物の非フコシル化、ガラクトシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)の量又は割合を増加させることによって、ADCC活性を増加させる。代替の例示的な態様では、本明細書で提供される方法は、抗体組成物の非フコシル化、ガラクトシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)の量又は割合を減少させることによって、ADCC活性を減少させる。
【0010】
本開示は、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)を含む抗体組成物のADCC活性を制御、調整又は維持する方法を提供する。例示的な実施形態では、方法は、(1)グリコシル化非フコシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)を含む組成物のADCC活性を決定する工程;及び(2)組成物内の1つ以上の抗体のコンセンサスグリコシル化部位におけるグリカン種中の末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させることによって、IgG1抗体組成物のADCC活性を増加又は減少させる工程を含む。
【0011】
本開示はまた、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)を含む参照組成物のADCC活性にマッチさせる方法を提供する。例示的な実施形態では、この方法は、(1)参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する工程;(2)参照IgG1抗体と同じ抗体配列を有するIgG1抗体を含む第2の抗体組成物のADCC活性を決定する工程;及び(3)第2の抗体組成物内の1つ以上の抗体のコンセンサスグリコシル化部位におけるグリカン種中の末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させることによって、第2の抗体組成物のADCC活性を変化させる工程を含み、末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させた後の第2の抗体組成物のADCC活性は、参照IgG1抗体組成物と同じであるか、又は参照IgG1抗体組成物の約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%若しくは約50%以内であるか、又は参照IgG1抗体組成物の約1%~約50%以内である。いくつかの実施形態では、工程1(「参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する」)は、工程2(「参照IgG1抗体と同じ抗体配列を有するIgG1抗体を含む第2の抗体組成物のADCC活性を決定する」)及び/又は工程3(「…第2の抗体組成物のADCC活性を変化させる」)の前、後又は同時に行われる。
【0012】
また、本開示によって、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)を含む組成物の特定の目標ADCC活性を操作する方法が提供される。例示的な実施形態では、方法は、(1)グリコシル化非フコシル化IgG1抗体を含む組成物のADCC活性を決定する工程;(2)目標ADCC活性を決定する方法;及び(3)組成物内の1つ以上の抗体のコンセンサスグリコシル化部位におけるグリカン種中の末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させることによって、IgG1抗体組成物のADCC活性を増加又は減少させる工程を含み、末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させた後の抗体組成物のADCC活性は、目標ADCC活性と同じであるか、又は目標ADCC活性の約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%若しくは約50%以内であるか、又は目標ADCC活性の約1%~約50%以内である。いくつかの実施形態では、工程2(「目標ADCC活性を決定する」)は、工程1(「グリコシル化非フコシル化IgG1抗体を含む組成物のADCC活性を決定する」)及び/又は工程3(「…IgG1抗体のADCC活性を増加又は減少させる」)の前、後又は同時に行われる。いくつかの他の実施形態では、工程1(「グリコシル化非フコシル化IgG1抗体を含む組成物のADCC活性を決定する」)は、工程2(「目標ADCC活性を決定する」)及び/又は工程3(「…IgG1抗体のADCC活性を増加又は減少させる」)の前、後又は同時に行われる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、哺乳動物タンパク質に一般に見出される3つの主要な型のN-グリカン(オリゴマンノース型、複合型及びハイブリッド型)、及びこのようなグリカンに対し一般に使用されている記号を示す図である。CHO産生モノクローナルIgG抗体では、末端シアル酸のレベルは通常低く、末端ガラクトース、GlcNac又はマンノースを有するオリゴ糖がより一般的である。
図2図2は、主要なグリカン群分類の概略図である。各群に示すグリカン構造は完全に包括したものではなく、すなわち、CHO発現IgGに通常見られる、代表的構造に過ぎない。
図3A図3Aは、FcγRIIIa受容体結合部位と複合体化したlgG1 Fc領域の結晶構造を示す図である(Mizushima et al.,Genes to Cells(2011)16,1071-1080から)。図3Bは、非フコシル化ガラクトシル化グリカン種のより最適で且つより高い親和性結合を示す構造的仮説の図である。
図3B図3Aは、FcγRIIIa受容体結合部位と複合体化したlgG1 Fc領域の結晶構造を示す図である(Mizushima et al.,Genes to Cells(2011)16,1071-1080から)。図3Bは、非フコシル化ガラクトシル化グリカン種のより最適で且つより高い親和性結合を示す構造的仮説の図である。
図4A図4A及び4Bは、非フコシル化ガラクトシル化種及び非フコシル化非ガラクトシル化種の組み合わせの寄与に基づくグリカン-ADCCモデルを示すグラフである。図4Aはモデル適合の評価であり、図4Bは個々の構成要素の寄与(力)を示すグラフである。図4Cは、非フコシル化ガラクトシル化グリカン群及び非フコシル化非ガラクトシル化グリカン群の組み合わせの寄与によってサポートされるADCC目標範囲の例を示す。
図4B図4A及び4Bは、非フコシル化ガラクトシル化種及び非フコシル化非ガラクトシル化種の組み合わせの寄与に基づくグリカン-ADCCモデルを示すグラフである。図4Aはモデル適合の評価であり、図4Bは個々の構成要素の寄与(力)を示すグラフである。図4Cは、非フコシル化ガラクトシル化グリカン群及び非フコシル化非ガラクトシル化グリカン群の組み合わせの寄与によってサポートされるADCC目標範囲の例を示す。
図4C図4A及び4Bは、非フコシル化ガラクトシル化種及び非フコシル化非ガラクトシル化種の組み合わせの寄与に基づくグリカン-ADCCモデルを示すグラフである。図4Aはモデル適合の評価であり、図4Bは個々の構成要素の寄与(力)を示すグラフである。図4Cは、非フコシル化ガラクトシル化グリカン群及び非フコシル化非ガラクトシル化グリカン群の組み合わせの寄与によってサポートされるADCC目標範囲の例を示す。
図5図5は、フコース代謝のサルベージ経路及びデノボ経路の図である。サルベージ経路において、遊離L-フコースはGDP-フコースに変換されるが、デノボ経路においては、GDP-フコースは、GMD及びFXにより触媒される3つの反応を介して合成される。次に、GDP-フコースは、GDP-Fucトランスフェラーゼによって細胞質基質からゴルジ内腔に輸送され、アクセプターオリゴ糖及びタンパク質へ移される。他の反応産物であるGDPは、内腔のヌクレオチドジホスファターゼによって、グアノシン5-一リン酸(GMP)及び無機リン酸(Pi)に変換される。前者は、(GDP-フコースの輸送と共役される対向輸送系を介して)細胞質基質に排出されるが、後者は、ゴルジアニオンチャネルであるGOLACを介してゴルジ内腔を離れると想定される。例えば、Nordeen et al.2000;Hirschberg et al.2001を参照されたい。
図6A図6は、(A)抗HER2 IgG1抗体(トラスツズマブ)(「mAb1」)、(B)抗CD20 IgG1抗体(リツキシマブ)(「mAb2」)及び(C)抗TNFαIgG1抗体(インフリキシマブ)(「mAb3」)のADCC活性に対する総ガラクトシル化の影響を示す。3つの抗体全ての原薬のインビトロでの酵素によるリモデリングを行って、広範囲にわたる様々なレベルのガラクトシル化mAbを有する試料を作製したが、非フコシル化(Afuc%)及び高マンノース(HM%)などの他のグリカン属性は個々の各mAbで一定に保った。図6Aは、抗HER2 IgG1抗体(トラスツズマブ)組成物のGal%の関数としてプロットされた相対ADCC活性(%)のグラフであり、グラフの下の表に、トラスツズマブ抗体組成物のグリカンプロファイルを記載する。図6Bは、抗CD20 IgG1抗体(リツキシマブ)組成物のGal%の関数としてプロットされた相対ADCC活性(%)のグラフであり、グラフの下の表に、リツキシマブ抗体組成物のグリカンプロファイルを記載する。図6Cは、抗TNFαIgG1抗体(インフリキシマブ)組成物のGal%の関数としてプロットされた相対ADCC活性(%)のグラフであり、グラフの下の表に、インフリキシマブ抗体組成物のグリカンプロファイルを記載する。
図6B図6は、(A)抗HER2 IgG1抗体(トラスツズマブ)(「mAb1」)、(B)抗CD20 IgG1抗体(リツキシマブ)(「mAb2」)及び(C)抗TNFαIgG1抗体(インフリキシマブ)(「mAb3」)のADCC活性に対する総ガラクトシル化の影響を示す。3つの抗体全ての原薬のインビトロでの酵素によるリモデリングを行って、広範囲にわたる様々なレベルのガラクトシル化mAbを有する試料を作製したが、非フコシル化(Afuc%)及び高マンノース(HM%)などの他のグリカン属性は個々の各mAbで一定に保った。図6Aは、抗HER2 IgG1抗体(トラスツズマブ)組成物のGal%の関数としてプロットされた相対ADCC活性(%)のグラフであり、グラフの下の表に、トラスツズマブ抗体組成物のグリカンプロファイルを記載する。図6Bは、抗CD20 IgG1抗体(リツキシマブ)組成物のGal%の関数としてプロットされた相対ADCC活性(%)のグラフであり、グラフの下の表に、リツキシマブ抗体組成物のグリカンプロファイルを記載する。図6Cは、抗TNFαIgG1抗体(インフリキシマブ)組成物のGal%の関数としてプロットされた相対ADCC活性(%)のグラフであり、グラフの下の表に、インフリキシマブ抗体組成物のグリカンプロファイルを記載する。
図6C図6は、(A)抗HER2 IgG1抗体(トラスツズマブ)(「mAb1」)、(B)抗CD20 IgG1抗体(リツキシマブ)(「mAb2」)及び(C)抗TNFαIgG1抗体(インフリキシマブ)(「mAb3」)のADCC活性に対する総ガラクトシル化の影響を示す。3つの抗体全ての原薬のインビトロでの酵素によるリモデリングを行って、広範囲にわたる様々なレベルのガラクトシル化mAbを有する試料を作製したが、非フコシル化(Afuc%)及び高マンノース(HM%)などの他のグリカン属性は個々の各mAbで一定に保った。図6Aは、抗HER2 IgG1抗体(トラスツズマブ)組成物のGal%の関数としてプロットされた相対ADCC活性(%)のグラフであり、グラフの下の表に、トラスツズマブ抗体組成物のグリカンプロファイルを記載する。図6Bは、抗CD20 IgG1抗体(リツキシマブ)組成物のGal%の関数としてプロットされた相対ADCC活性(%)のグラフであり、グラフの下の表に、リツキシマブ抗体組成物のグリカンプロファイルを記載する。図6Cは、抗TNFαIgG1抗体(インフリキシマブ)組成物のGal%の関数としてプロットされた相対ADCC活性(%)のグラフであり、グラフの下の表に、インフリキシマブ抗体組成物のグリカンプロファイルを記載する。
図7A図7は、様々なレベルの末端ガラクトースを有する(A)抗HER2 IgG1抗体(トラスツズマブ)(「mAb1」)及び(B)抗CD20 IgG1抗体(リツキシマブ)(「mAb2」)に対する抗原結合活性を示す。ここで示す相対活性は、各mAbについて最も低いガラクトースレベルを有する試料の活性に対して正規化された。図7Aは、1%Gal、52%Gal又は91%Galを含むトラスツズマブ抗体組成物についてプロットされた相対標的結合(%)のグラフである。図7Bは、0%Gal、53%Gal又は89%Galを含むリツキシマブ抗体組成物についてプロットされた相対標的結合(%)のグラフである。
図7B図7は、様々なレベルの末端ガラクトースを有する(A)抗HER2 IgG1抗体(トラスツズマブ)(「mAb1」)及び(B)抗CD20 IgG1抗体(リツキシマブ)(「mAb2」)に対する抗原結合活性を示す。ここで示す相対活性は、各mAbについて最も低いガラクトースレベルを有する試料の活性に対して正規化された。図7Aは、1%Gal、52%Gal又は91%Galを含むトラスツズマブ抗体組成物についてプロットされた相対標的結合(%)のグラフである。図7Bは、0%Gal、53%Gal又は89%Galを含むリツキシマブ抗体組成物についてプロットされた相対標的結合(%)のグラフである。
図8図8は、非フコシル化グリカン構造を有するmAbに対するガラクトシル化の影響を研究するための、G0F、G1及びG0濃縮種を有する抗体を生成するためのインビトログリカン濃縮ワークフローを示す図である。FcγIIIa受容体アフィニティークロマトグラフィーを用いて、フコシル化種を非フコシル化及び高マンノース種から分離した。フコシル化画分中のガラクトースを、ガラクトシダーゼを用いて除去して、優勢グリコフォームとしてG0Fを有するmAbを生成した。非フコシル化種は、最初にFcγIIIa受容体カラムからの溶出画分中の高マンノースをエンド-H処理で除去し、続いて、ガラクトシダーゼで処理して、非フコシル化G0及びG1試料を生成することによって、さらに濃縮した。mAbのインタクト質量分析を行い、各ステップを注意深くモニターし、濃縮材料の特性をさらに明らかにした。
図9A図9は、抗HER2 IgG1抗体(トラスツズマブ)のADCC活性に対する非フコシル化グリカンと結合した末端Galの効果を示す。図9Aは、G0F濃縮、G0濃縮及びG1濃縮試料中のG0及びG1種の割合を記載した表、並びに、表下の、G0F、G0及びG2グリカンの構造を概略的に描いた図である。図9Bは、初期原薬(「DS」)、G0F、G0系(G0-1、G0-2及びG0-3)及びG1系(G1-1、G1-2及びG1-3)試料の相対ADCC活性(%)を示すグラフである。灰色のバーはG0系試料のADCC活性を表し、一方、パターンのあるバーは、G1系試料のADCC活性を表す。出発物質DS及び濃縮G0Fは、2つの対照(黒色のバー)である。図9Cは、トラスツズマブについてのG0(%)(上)又はG1(%)(下)の関数としての相対ADCC活性(%)を示す一対のグラフである。ADCCに対するG0の影響(図9Cの上のパネル)は、G0が主要な非フコシル化種であるので、G0系試料から容易に得られた。G1の影響は、図9Cの上のパネルからのG0影響係数に基づいて、G1系からG0寄与分を除去することによって算出した。
図9B図9は、抗HER2 IgG1抗体(トラスツズマブ)のADCC活性に対する非フコシル化グリカンと結合した末端Galの効果を示す。図9Aは、G0F濃縮、G0濃縮及びG1濃縮試料中のG0及びG1種の割合を記載した表、並びに、表下の、G0F、G0及びG2グリカンの構造を概略的に描いた図である。図9Bは、初期原薬(「DS」)、G0F、G0系(G0-1、G0-2及びG0-3)及びG1系(G1-1、G1-2及びG1-3)試料の相対ADCC活性(%)を示すグラフである。灰色のバーはG0系試料のADCC活性を表し、一方、パターンのあるバーは、G1系試料のADCC活性を表す。出発物質DS及び濃縮G0Fは、2つの対照(黒色のバー)である。図9Cは、トラスツズマブについてのG0(%)(上)又はG1(%)(下)の関数としての相対ADCC活性(%)を示す一対のグラフである。ADCCに対するG0の影響(図9Cの上のパネル)は、G0が主要な非フコシル化種であるので、G0系試料から容易に得られた。G1の影響は、図9Cの上のパネルからのG0影響係数に基づいて、G1系からG0寄与分を除去することによって算出した。
図9C図9は、抗HER2 IgG1抗体(トラスツズマブ)のADCC活性に対する非フコシル化グリカンと結合した末端Galの効果を示す。図9Aは、G0F濃縮、G0濃縮及びG1濃縮試料中のG0及びG1種の割合を記載した表、並びに、表下の、G0F、G0及びG2グリカンの構造を概略的に描いた図である。図9Bは、初期原薬(「DS」)、G0F、G0系(G0-1、G0-2及びG0-3)及びG1系(G1-1、G1-2及びG1-3)試料の相対ADCC活性(%)を示すグラフである。灰色のバーはG0系試料のADCC活性を表し、一方、パターンのあるバーは、G1系試料のADCC活性を表す。出発物質DS及び濃縮G0Fは、2つの対照(黒色のバー)である。図9Cは、トラスツズマブについてのG0(%)(上)又はG1(%)(下)の関数としての相対ADCC活性(%)を示す一対のグラフである。ADCCに対するG0の影響(図9Cの上のパネル)は、G0が主要な非フコシル化種であるので、G0系試料から容易に得られた。G1の影響は、図9Cの上のパネルからのG0影響係数に基づいて、G1系からG0寄与分を除去することによって算出した。
図10図10は、抗HER2 IgG1抗体(トラスツズマブ)のADCC活性に対する全非フコシル化の影響の実験的測定を示す。非フコシル化G1種及び非フコシル化G0種の両方を含有するトラスツズマブDSロットを、Endo-Hで処理し、続いて、アフィニティークロマトグラフィーにより非フコシル化mAbを濃縮した。非フコース濃縮トラスツズマブをG0F濃縮トラスツズマブと種々の比率でブレンドし、続いて、ADCC活性を測定して、ADCC活性に対する両種の全体的な影響を評価した。図10は、非フコシル化グリカン(%)の関数としての相対ADCC活性(%)を示すグラフである。
図11A図11は、抗CD20 IgG1抗体(リツキシマブ)のADCC活性に対する非フコシル化グリカンと結合した末端Galの効果を示す。図11Aは、初期原薬(「DS」)、G0F、G0系(G0-1、G0-2及びG0-3)及びG1シリーズ(G1-1、G1-2及びG1-3)試料の相対ADCC活性(%)を示すグラフである。灰色のバーはG0系試料のADCC活性を表し、一方、パターンのあるバーは、G1系試料のADCC活性を表す。出発物質DS及び濃縮G0Fは、2つの対照(黒色のバー)である。グラフの下は、各試料又は試料系におけるグリカン種の量を記載した表である。図11Bは、リツキシマブについてのG0%(上)及びG1%(下)とADCC活性との相関を示す一対のグラフである。ADCCに対するG0の影響(図11Bの上のパネル)は、G0が主要な非フコシル化種であるので、G0系試料から容易に得られた。G1の影響は、図11Bの上のパネルからのG0影響係数に基づいて、G1系からG0寄与分を除去することによって算出した。
図11B図11は、抗CD20 IgG1抗体(リツキシマブ)のADCC活性に対する非フコシル化グリカンと結合した末端Galの効果を示す。図11Aは、初期原薬(「DS」)、G0F、G0系(G0-1、G0-2及びG0-3)及びG1シリーズ(G1-1、G1-2及びG1-3)試料の相対ADCC活性(%)を示すグラフである。灰色のバーはG0系試料のADCC活性を表し、一方、パターンのあるバーは、G1系試料のADCC活性を表す。出発物質DS及び濃縮G0Fは、2つの対照(黒色のバー)である。グラフの下は、各試料又は試料系におけるグリカン種の量を記載した表である。図11Bは、リツキシマブについてのG0%(上)及びG1%(下)とADCC活性との相関を示す一対のグラフである。ADCCに対するG0の影響(図11Bの上のパネル)は、G0が主要な非フコシル化種であるので、G0系試料から容易に得られた。G1の影響は、図11Bの上のパネルからのG0影響係数に基づいて、G1系からG0寄与分を除去することによって算出した。
図12A図12は、(A)抗HER2 IgG1抗体(トラスツズマブ)(「mAb1」)及び(B)抗CD20 IgG1抗体(リツキシマブ)(「mAb2」)のADCC活性に対するフコシル化グリカンと結合した末端Galの効果を示す。フコシル化トラスツズマブ及びフコシル化リツキシマブにおけるADCC活性に対する末端ガラクトースの影響の評価は、図8(左)に記載されるように、各mAbについてG0F濃縮試料を作製し、続いて、β(1,4)ガラクトシルトランスフェラーゼで酵素によるリモデリングを行うことによってなされた。図12Aは、トラスツズマブを含有する試料中のGal(%)の関数としての相対ADCC活性(%)を示すグラフであり、図12Bは、リツキシマブを含有する試料中のGal(%)の関数としての相対ADCC活性(%)を示すグラフである。
図12B図12は、(A)抗HER2 IgG1抗体(トラスツズマブ)(「mAb1」)及び(B)抗CD20 IgG1抗体(リツキシマブ)(「mAb2」)のADCC活性に対するフコシル化グリカンと結合した末端Galの効果を示す。フコシル化トラスツズマブ及びフコシル化リツキシマブにおけるADCC活性に対する末端ガラクトースの影響の評価は、図8(左)に記載されるように、各mAbについてG0F濃縮試料を作製し、続いて、β(1,4)ガラクトシルトランスフェラーゼで酵素によるリモデリングを行うことによってなされた。図12Aは、トラスツズマブを含有する試料中のGal(%)の関数としての相対ADCC活性(%)を示すグラフであり、図12Bは、リツキシマブを含有する試料中のGal(%)の関数としての相対ADCC活性(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示をより容易に理解できるようにするために、特定の用語を最初に定義する。発明を実施するための形態を通して、さらなる定義を記載する。
【0015】
「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」という用語、並びに類似の指示対象は、本明細書で使用する場合、本明細書に別段の指示がない限り又は文脈と明確に矛盾しない限り、単数及び複数の両方を包含するものと解釈されるべきである。用語「含む(comprising)」、「有する(having)」、「包含する(including)」及び「含有する(containing)」は、特に指定がない限り、開放型用語として解釈されるべきである(すなわち、「包含するが、これに限定されない」を意味し、1つ以上の特徴又は構成要素の存在を許容する)。「1つの(a)」(又は「1つの(an)」)という用語、並びに「1つ以上の(one or more)」及び「少なくとも1つの(at least one)」という用語は、本明細書では互換的に使用することができる。さらに、「及び/又は」は、本明細書で使用される場合、2つの特定の特徴又は構成要素のそれぞれの特定の開示として(他の特徴又は構成要素の有無にかかわらず)解釈されるべきである。したがって、本明細書で「A及び/又はB」などの句で使用される「及び/又は」という用語は、「A及びB」、「A又はB」、「A」(単独)及び「B」(単独)を包含するものとする。同様に、「A、B、及び/又はC」などの句で使用される「及び/又は」という用語は、以下の態様のそれぞれを包含するものとする:A、B及びC;A、B又はC;A又はC;A又はB;B又はC;A及びC;A及びB;B及びC;A(単独);B(単独);並びにC(単独)。
【0016】
明細書及び特許請求の範囲を通して数値又は範囲に関連して使用される「約」という用語は、当業者によく知られ、且つ受け入れられる精度の間隔を示す。一般に、このような精度の間隔は±10%である。
【0017】
他に定義されていない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本開示が属する技術分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味を有する。例えば、Concise Dictionary of Biomedicine and Molecular Biology,Juo,Pei-Show,2nd ed.,2002,CRC Press、The Dictionary of Cell and Molecular Biology,3rd ed.,1999,Academic Press、及びOxford Dictionary of Biochemistry And Molecular Biology,Revised,2000,Oxford University Pressは、本開示で使用される用語の多くの一般辞書を当業者に提供する。一般に、本明細書に記載される、細胞及び組織培養、分子生物学、免疫学、タンパク質グリコシル化、抗体産生及び抗体精製に関連して使用される命名法、並びにそれらの技術は、当該技術分野でよく知られ、またよく使用されているものである。組み換えDNA、オリゴヌクレオチド合成、組織培養及び形質転換、タンパク質精製、抗体生成などに標準的手法を使用することができる。酵素反応及び精製技術は、製造業者の仕様書にしたがって、又は当該技術分野において一般的に達成されるように若しくは本明細書に記載されるように実施することができる。以下の手順及び手法は、当該技術分野においてよく知られている従来の方法にしたがって、また明細書全体を通して引用され論じられている様々な一般的で且つより具体的な参考文献に記載されるように概ね実施することができる。例えば、Sambrook et al.,2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,3rd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,cold Spring Harbor,N.Y.を参照されたい。この文献はいかなる目的に対しても参照により本明細書に組み込まれる。
【0018】
単位、接頭辞及び記号は、国際単位系(SI)で認められた形式で示される。数値範囲は、範囲を規定する数値を含む。別段の指示がない限り、アミノ酸配列は、左から右に、アミノからカルボキシへの向きで書かれている。本明細書で示される見出しは、本開示の様々な態様を限定するものではなく、それは本明細書全体を参照することによって有することができる。
【0019】
翻訳後のグリコシル化
多くの分泌タンパク質が翻訳後グリコシル化され、この過程により、糖部分(例えば、グリカン、糖類)がタンパク質の特定のアミノ酸に共有結合される。真核細胞においては、次の2種類のグリコシル化反応が起こる:(1)グリカンが認識配列Asn-X-Thr/Ser(ここで、「X」はプロリン以外の任意のアミノ酸である)のアスパラギンに連結されるN結合型グリコシル化、及び(2)グリカンがセリン又はスレオニンに連結されるO結合型グリコシル化。グリコシル化のタイプ(N結合型又はO結合型)にかかわらず、各部位(O又はN)と結合されるグリカン構造は広範囲にわたるため、タンパク質グリコフォームには微小不均一性がある。
【0020】
全てのN-グリカンは、共通のコア糖配列:Manα1-6(Manα1-3)Manβ1-4GlcNAcβ1-4GlcNAcβ1-Asn-X-Ser/Thr(ManGlcNAcAsn)を有し、次の3つのタイプのうちの1つに分類される:(A)2個のN-アセチルグルコサミン(GalNAc)部分及び多数(例えば、4、5、6、7、8若しくは9個)のマンノース(Man)残基からなる高マンノース(HM)若しくはオリゴマンノース(OM)型、(B)3個以上のGlcNAc部分及び任意の数の他の糖タイプを含む複合型、又は(C)分枝の一方にMan残基を、複合枝の基部にGlcNAcを含むハイブリッド型。図1A(Stanley et al.,Chapter 8:N-Glycans,Essentials of Glycobiology,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press;2009から得た)は、N-グリカンの3つのタイプを示す。
【0021】
N結合型グリカンは、通常、ガラクトース(Gal)、N-アセチルガラクトサミン(GalNAc)、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、マンノース(Man)、N-アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、フコース(Fuc)の1つ以上の単糖を含む。このような糖類に対し一般的に使用されている記号を、図1に示す。
【0022】
N結合型グリコシル化は小胞体(ER)において開始され、複雑な一連の反応の結果、2個のGlcNAc単位及び3個のMan単位からなるコアグリカン構造の連結が起こる。さらなるプロセシングの際に、さらなるMan単位がコアグリカン構造に付加され、高マンノース(HM)構造が得られる。ERにおいて形成されたグリカン複合体は、ゴルジ装置において酵素の作用により修飾される。オリゴ糖が酵素に比較的接近しにくいか、又は酵素が存在しないか、又は酵素が活性でない場合、オリゴ糖は元のHM形態のままである。活性酵素がオリゴ糖に接近し得る場合、非コアMan残基は切断され、糖類はさらに修飾され、その結果、複合型のN-グリカン構造が生じる。例えば、cis-ゴルジに位置するマンノシダーゼ-1は、HMグリカンを切断又は加水分解し得、一方、メディアル-ゴルジに位置するフコシルトランスフェラーゼFUT-8はグリカンをフコシル化する(Harue Imai-Nishiya(2007),BMC Biotechnology,7:84)。
【0023】
したがって、グリカン構造の糖組成及び構造立体配置は、とりわけ、ER及びゴルジ装置におけるグリコシル化機構、その機構の酵素のグリカン構造への到達性、各酵素の作用の順序及びタンパク質がグリコシル化機構から放出される段階に依って変動する。
【0024】
Fcドメインに結合するグリカン構造はADCC及びADCPを媒介するFcγRとの相互作用、並びにCDCに導く最初の結合事象であるC1q結合との相互作用に影響を及ぼすので、グリカン構造を制御することは、治療用モノクローナル抗体の組み換え産生において重要である。
【0025】
ADCCは、いくつかの治療的IgG1抗体の臨床的有効性の基礎となる潜在的に重要なエフェクター機能の1つであると確認されている。Fc領域上の高レベルの非フコシル化N結合型グリカン構造がFcγIIIa受容体に対するIgG結合親和性を増強し、ADCC活性の増加をもたらすことが十分に確立されている。しかしながら、非フコシル化IgG1を含むIgG1の末端ガラクトシル化がADCC活性に影響するかどうかは明らかではない。
【0026】
ここでは、グリカン組成物とADCC機能との間の関係を分析するために、様々な範囲のADCCを有するIgG1組成物中の活性種を確認する戦略を用いた。本明細書に提示した結果は、インビトロADCC活性に対する末端β-ガラクトースの影響の程度が、通常N-結合型グリコシル化コア構造の最初のN-アセチルグルコサミン残基に結合しているコアフコースの非存在に依存することを示している。さらに、治療用IgG1組成物のADCC活性に対する末端β-ガラクトースの影響を確認するために、グリカンの濃縮及びブレンドの研究を実施し、その結果は、グリカン組成物-ADCCモデリング観察と一致した。具体的には、非フコシル化mAbの末端β-ガラクトースはADCC活性を増強したが、フコシル化グリカン構造の活性には影響しなかった。ここで得られた知見は、有効性のためにエフェクター機能を必要とする生物学的治療用抗体の製品及びプロセスの開発活動を導くために使用することができるだけでなく、抗体のN結合型グリコシル化による免疫応答の調節における複雑さのレベルを強調する。
【0027】
したがって、本開示は、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体(例えば、トラスツズマブ、リツキシマブ又はインフリキシマブを含む、)のADCC活性に対する末端β-ガラクトースの影響を記載し、したがって、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を、組成物内の末端β-ガラクトースを調節する(すなわち、増加又は減少させる)(例えば、ガラクトシル化グリカンを濃縮、増加、除去及び/又はリモデリングすることを含む)ことによって調節する(すなわち、増加又は減少させる)方法(抗HER2抗体組成物、抗TNFα抗体組成物又は抗CD20抗体組成物(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含有するものを含む)のADCC活性を増加又は減少させる方法を含む)を提供する。本開示はまた、IgG1抗体組成物(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む))によって誘発又は刺激されるADCC活性を調節する方法であって、抗体組成物内のガラクトシル化グリコフォーム、非フコシル化グリコフォーム又はそれらの組み合わせ(例えば、ガラクトシル化非フコシル化グリコフォーム)の量を調節する(すなわち、増加又は減少させる)ことを含む方法を提供する。例示的な態様では、IgG1抗体組成物(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)内のガラクトシル化グリコフォーム、非フコシル化グリコフォーム又はそれらの組み合わせ(例えば、ガラクトシル化非フコシル化グリコフォーム)の量を増加させることにより、抗体組成物のADCC活性が増加し、一方、IgG1抗体組成物(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)内のガラクトシル化グリコフォーム、非フコシル化グリコフォーム又はそれらの組み合わせ(例えば、ガラクトシル化非フコシル化グリコフォーム)の量を減少させることにより、抗体組成物のADCC活性が減少する。
【0028】
例示的な実施形態では、IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)のADCC活性を調節する方法は、IgG1抗体の末端β-ガラクトースの存在又は非存在を調節する、例えば、IgG1抗体に末端β-ガラクトースを付加してADCC活性を増加させる、又はIgG1抗体の末端β-ガラクトースを除去してADCC活性を減少させることを含む。例示的な態様では、IgG1抗体は非フコシル化されている。したがって、例示的な態様では、IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)のADCC活性を調節する方法は、非フコシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)に末端βガラクトースを付加して、そのADCC活性を増加させる、或いは非フコシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)から末端βガラクトースを除去して、そのADCC活性を減少させることを含む。
【0029】
例示的な実施形態では、IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)を含む組成物のADCC活性を調節する方法は、非フコシル化抗体組成物のガラクトシル化グリコフォームの量を調節する、例えば、組成物中の非フコシル化抗体のガラクトシル化グリコフォームの量を増加させて抗体組成物のADCC活性を増加させる、又は組成物中の非フコシル化抗体のガラクトシル化グリコフォームの量を減少させて抗体組成物のADCC活性を減少させることを含む。
【0030】
例示的な実施形態では、ADCC活性を調節する方法は、抗体組成物の非フコシル化、ガラクトシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)の量又は割合を調節することを含む。例示的な態様では、方法は、非フコシル化、ガラクトシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)の量又は割合を増加させることによって、ADCC活性を増加させる。代替の例示的な態様では、方法は、抗体組成物の非フコシル化、ガラクトシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)の量又は割合を減少させることによって、ADCC活性を減少させる。
【0031】
本開示は、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を制御し、調節し又は維持する方法を提供する。例示的な実施形態では、方法は、(1)グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する工程;及び(2)組成物内の非フコシル化IgG1抗体のコンセンサスグリコシル化部位におけるグリカン種中の末端β-ガラクトースの量又は割合を増加又は減少させることによって、IgG1抗体組成物のADCC活性を増加又は減少させる工程を含む。
【0032】
本開示はまた、参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性にマッチさせる方法を提供する。例示的な実施形態では、方法は、(1)参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する工程;(2)参照IgG1抗体と同じ抗体配列を有する抗体を含む第2の抗体組成物のADCC活性を決定する工程;及び(3)第2の組成物内の非フコシル化IgG1抗体のコンセンサスグリコシル化部位におけるグリカン種中の末端β-ガラクトースの量又は割合を増加又は減少させることによって、第2の組成物のADCC活性を変化させる工程を含み、末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させた後の第2の組成物のADCC活性は、参照IgG1抗体組成物と同じであるか、又は参照IgG1抗体組成物の約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%若しくは約50%以内であるか、又は参照IgG1抗体組成物の約1%~約50%以内である。いくつかの実施形態では、工程1(「参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する」)は、工程2(「参照IgG1抗体と同じ抗体配列を有する抗体を含む第2の組成物のADCC活性を決定する」)及び/又は工程3(「…第2の組成物のADCC活性を変化させる」)の前、後又は同時に行われる。
【0033】
また、本開示によって、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物の特定の目標ADCC活性を操作する方法が提供される。例示的な実施形態では、方法は、(1)グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する工程;(2)目標ADCC活性を決定する工程;及び(3)組成物内の非フコシル化IgG1抗体のコンセンサスグリコシル化部位におけるグリカン種中の末端β-ガラクトースの量又は割合を増加又は減少させることによって、IgG1抗体組成物のADCC活性を増加又は減少させる工程を含み、末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させた後の抗体組成物のADCC活性は、目標ADCC活性と同じであるか、又は目標ADCC活性の約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%若しくは約50%以内であるか、又は目標ADCC活性の約1%~約50%以内である。いくつかの実施形態では、工程2(「目標ADCC活性を決定する」)は、工程1(「グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する」)及び/又は工程3(「…IgG1抗体組成物のADCC活性を増加又は減少させる」)の前、後又は同時に行われる。いくつかの他の実施形態では、工程1(「グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する」)は、工程2(「目標ADCC活性を決定する」)及び/又は工程3(「…IgG1抗体組成物のADCC活性を増加又は減少させる」)の前、後又は同時に行われる。
【0034】
「抗体依存性細胞介在性細胞障害」又は「ADCC」又は「抗体依存性細胞傷害」という用語は、免疫系のエフェクター細胞、主としてナチュラルキラー細胞(NK細胞)が、膜表面抗原に特定の抗体が結合している標的細胞を活発に溶解する機構を指す。ADCCは適応免疫反応の一部であり、抗原特異的抗体が(1)その抗原結合領域を介して標的細胞の膜表面抗原に結合し、且つ(2)そのFc領域を介してエフェクター細胞表面のFc受容体、主にFcγRIIIa(CD16)に結合したときに生じる。抗体のFc領域のFc受容体への結合は、エフェクター細胞に、(例えば、細胞溶解又は細胞脱顆粒を介して)標的細胞の死をもたらす細胞傷害性因子を放出させる。
【0035】
Fc受容体は、Bリンパ球、濾胞樹状細胞、NK細胞、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球、血小板、肥満細胞の表面にあるレセプターで、抗体のFc領域に結合する。Fc受容体は、それらが結合する抗体のタイプに基づいて異なるクラスに分類される。例えば、Fcガンマ受容体はIgG抗体のFc領域に対する受容体であり、Fcアルファ受容体はIgA抗体のFc領域に対する受容体であり、Fcイプシロン受容体はIgE抗体のFc領域に対する受容体である。
【0036】
「FcγR」又は「Fcガンマ受容体」という用語は、オプソニン化された細胞又は微生物の食作用の誘導に関与する免疫グロブリンスーパーファミリーに属するタンパク質である。例えば、Fridman WH.Fc receptors and immunoglobulin binding factors.FASEB Journal.5(12):2684-90(1991)を参照されたい。Fcガンマ受容体ファミリーのメンバーには、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、FcγRIIB(CD32)、FcγRIIIA(CD16a)及びFcγRIIIB(CD16b)が含まれる。FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIIA及びFcγRIIIBの配列は、多くの配列データベース、例えば、Uniprotデータベース(www.uniprot.org)のアクセッション番号P12314(FCGR1_HUMAN)、P12318(FCG2A_HUMAN)、P31994(FCG2B_HUMAN)、P08637(FCG3A_HUMAN)及びP08637(FCG3A_HUMAN)の下にそれぞれ見出すことができる。
【0037】
「ADCC活性」という用語は、ADCCが活性化又は刺激される程度を指す。「抗体のADCC活性」という句は、ADCCを誘導する抗体の能力を指す。
【0038】
市販のアッセイ及びキットを含む、抗体又は抗体組成物のADCC活性を測定又は決定する方法は、Yamashita et al.,Scientific Reports 6:article number 19772(2016);Kantakamalakul et al.,“A novel EGFP-CEM-NKr flow cytometric method for measuring antibody dependent cell mediated-cytotoxicity(ADCC)activity in HIV-1 infected individuals”,J Immunol Methods 315(Issues 1-2):1-10;(2006);Gomez-Roman et al.,“A simplified method for the rapid fluorometric assessment of antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity”,J Immunol Methods 308(Issues 1-2):53-67(2006);Schnueriger et al.,Development of a quantitative,cell-line based assay to measure ADCC activity mediated by therapeutic antibodies,Molec Immunology 38(Issues 12-13):1512-1517(2011);及びMata et al.,“Effects of cryopreservation on effector cells for antibody dependent cell-mediated cytotoxicity(ADCC)and natural killer(NK)cell activity in51Cr-release and CD107a assays”,J Immunol Methods 406:1-9(2014)で記載されているように、当技術分野で周知であり;全ての文献はあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。「ADCCアッセイ」又は「FcγRレポーター遺伝子アッセイ」という用語は、抗体又は抗体組成物のADCC活性を決定するために有用なアッセイ、キット又は方法を指す。
【0039】
本明細書に記載の方法における抗体組成物のADCC活性を測定又は決定する例示的な方法には、実施例に記載のADCCアッセイ、又はPromegaから市販されているADCCレポーターアッセイ(カタログ番号G7010及びG7018)が含まれる。いくつかの実施形態では、ADCC活性は、以下の1つ以上を含むカルセイン放出アッセイを使用して測定又は決定される:エフェクター細胞としてFcγRIIIa(158V)発現NK92(M1)細胞、及びカルセイン-AMで標識した標的細胞としてHCC2218細胞又はWIL2-S細胞。
【0040】
ADCC活性の調節
「調節する(modulate)」又は「調節する(modulating)」という用語は、増加又は減少させることによって変化させることを意味する。したがって、本明細書中、「ADCC活性を調節する」などの句で使用される「調節する」という用語は、ADCC活性を増加させること、又はADCC活性を減少させることを含むことが意図される。また、「ガラクトシル化、非フコシル化グリカン、フコシル化グリカン、ガラクトシル化グリカン、非フコシル化グリカン、又はこれらの組み合わせの量を調節する」などの句で使用される「調節する」という用語は、前記グリカンの量を増加させること、又は前記グリカンの量を減少させることを含むことが意図される。
【0041】
したがって、例示的な実施形態では、本開示の方法は、抗体又はそれを含む組成物のADCC活性を増加させる方法を表す。例示的な態様では、本開示の方法は、抗体又はそれを含む組成物のADCC活性を、対照又は参照抗体と比較して、任意の程度又はレベルまで増加させる。例示的な例では、本開示の方法により提供されるADCC活性の増加は、対照又は参照抗体と比較して、少なくとも又は約1%~約100%の増加(例えば、少なくとも又は約1%の増加、少なくとも又は約2%の増加、少なくとも又は約3%の増加、少なくとも又は約4%の増加、少なくとも又は約5%の増加、少なくとも又は約6%の増加、少なくとも又は約7%の増加、少なくとも又は約8%の増加、少なくとも又は約9%の増加、少なくとも又は約9.5%の増加、少なくとも又は約9.8%の増加、少なくとも又は約10%の増加、少なくとも又は約15%の増加、少なくとも又は約20%の増加、少なくとも又は約25%の増加、少なくとも又は約30%の増加、少なくとも又は約35%の増加、少なくとも又は約40%の増加、少なくとも又は約45%の増加、少なくとも又は約50%の増加、少なくとも又は約55%の増加、少なくとも又は約60%の増加、少なくとも又は約65%の増加、少なくとも又は約70%の増加、少なくとも又は約75%の増加、少なくとも又は約80%の増加、少なくとも又は約85%の増加、少なくとも又は約90%の増加、少なくとも又は約95%の増加、少なくとも又は約100%の増加)である。例示的な実施形態では、本開示の方法により提供される増加は、対照又は参照抗体と比較して、100%超、例えば、少なくとも又は約125%、少なくとも又は約150%、少なくとも又は約175%、少なくとも又は約200%、少なくとも又は約300%、少なくとも又は約400%、少なくとも又は約500%、少なくとも又は約600%、少なくとも又は約700%、少なくとも又は約800%、少なくとも又は約900%、或いは少なくとも又は約1000%にもなる。例示的な実施形態では、抗体又はそれを含む組成物のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体と比較して、約5%~約400%の範囲内の量だけ増加する。例示的な実施形態では、抗体又はそれを含む組成物のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体と比較して、少なくとも又は約1.5倍、少なくとも又は約2倍、少なくとも又は約3倍、少なくとも又は約4倍、或いは少なくとも又は約5倍増加する。例示的な実施形態では、抗体又はそれを含む組成物のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体と比較して、少なくとも約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、又は約10倍増加する。例示的な実施形態では、抗体又はそれを含む組成物のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体と比較して、約0.5倍~約8倍の範囲内の量だけ増加する。
【0042】
代替の実施形態では、本開示の方法は、抗体又はそれを含む組成物のADCC活性を減少させる方法を表す。いくつかの態様では、本開示の方法は、抗体又はそれを含む組成物のADCC活性のレベルを、対照又は参照抗体と比較して、任意の程度又はレベルまで減少させる。例えば、本開示の方法により提供されるADCC活性の減少は、対照又は参照抗体のレベルと比較して、少なくとも又は約1%~約100%の減少(例えば、少なくとも又は約1%の減少、少なくとも又は約2%の減少、少なくとも又は約3%の減少、少なくとも又は約4%の減少、少なくとも又は約5%の減少、少なくとも又は約6%の減少、少なくとも又は約7%の減少、少なくとも又は約8%の減少、少なくとも又は約9%の減少、少なくとも又は約9.5%の減少、少なくとも又は約9.8%の減少、少なくとも又は約10%の減少、少なくとも又は約15%の減少、少なくとも又は約20%の減少、少なくとも又は約25%の減少、少なくとも又は約30%の減少、少なくとも又は約35%の減少、少なくとも又は約40%の減少、少なくとも又は約45%の減少、少なくとも又は約50%の減少、少なくとも又は約55%の減少、少なくとも又は約60%の減少、少なくとも又は約65%の減少、少なくとも又は約70%の減少、少なくとも又は約75%の減少、少なくとも又は約80%の減少、少なくとも又は約85%の減少、少なくとも又は約90%の減少、少なくとも又は約95%の減少、少なくとも又は約100%の減少)である。例示的な実施形態では、本開示の方法により提供される減少は、対照又は参照抗体のレベルと比較して、約100%超、例えば、少なくとも又は約125%、少なくとも又は約150%、少なくとも又は約175%、少なくとも又は約200%、少なくとも又は約300%、少なくとも又は約400%、少なくとも又は約500%、少なくとも又は約600%、少なくとも又は約700%、少なくとも又は約800%、少なくとも又は約900%、或いは少なくとも又は約1000%にもなる。例示的な実施形態では、抗体又はそれを含む組成物のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体と比較して、約5%~約400%の範囲内の量だけ減少する。例示的な実施形態では、抗体又はそれを含む組成物のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体と比較して、少なくとも又は約1.5倍、少なくとも又は約2倍、少なくとも又は約3倍、少なくとも又は約4倍、或いは少なくとも又は約5倍減少する。例示的な実施形態では、抗体又はそれを含む組成物のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体と比較して、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、又は約10倍減少する。例示的な実施形態では、抗体又はそれを含む組成物のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体と比較して、約0.5倍~約8倍の範囲内の量だけ減少する。
【0043】
グリカン
例示的な実施形態において、本明細書に開示する方法は、抗体のグリカンの量を調節して(例えば、(a)ガラクトシル化グリカン、(b)非フコシル化グリカン、又は(c)これらの組み合わせ(例えば、ガラクトシル化非フコシル化グリカン)を調節して)、抗体のADCC活性を増加又は減少させることを含む。例示的な態様では、本明細書に開示する方法は、抗体のFcドメインに結合するグリカンの量を調節して(例えば、(a)ガラクトシル化グリカン、(b)非フコシル化グリカン(例えば、フコースを調節することによって)、又は(c)これらの組み合わせ(例えば、ガラクトシル化非フコシル化グリカン)を調節して)、抗体のADCC活性を増加又は減少させることを含む。さらなる例示的な態様では、本明細書に開示する方法は、抗体のFcドメインのC2ドメインにおけるコンセンサスN-グリコシル化部位に結合したグリカンの量を調節して(例えば、(a)ガラクトシル化グリカン、(b)非フコシル化グリカン(例えば、フコースを調節することによって)、又は(c)これらの組み合わせ(例えば、ガラクトシル化非フコシル化グリカン)を調節して)、抗体のADCC活性を増加又は減少させることを含む。
【0044】
例示的な態様では、本開示によって提供される方法は、IgG1抗体組成物の調節であって、所望の又は所定の又は予め選択されたレベルのADCC活性を達成するために、IgG1抗体のグリコフォームの所望の又は所定の又は予め選択されたレベルを達成するための工程が行われる調節に関する。例示的な実施形態では、方法は、抗体組成物によって誘発又は刺激されるADCC活性を調節する(増加又は減少させる)ために、IgG1抗体のガラクトシル化グリコフォームの量を調節する(増加又は減少させる)ことを含む。例示的な実施形態では、方法は、抗体組成物によって誘発又は刺激されるADCC活性を調節する(増加又は減少させる)ために、ガラクトシル化され且つ非フコシル化されているグリコフォーム(すなわち、ガラクトシル化、非フコシル化グリコフォーム)の量を調節する(増加又は減少させる)ことを含む。特定の理論に縛られるものではないが、本開示の方法は、特定のレベルのADCC活性を達成するために有用な、特定の量の所与の抗体の特定のグリコフォームを含むテーラーメイドの抗体組成物のための手段を提供すると考えられる。したがって、いくつかの態様では、本明細書に開示する方法は、抗体組成物内のガラクトシル化グリカン、非フコシル化グリカン、又はガラクトシル化、非フコシル化グリカンの量又は割合を調節することを含む。
【0045】
代替の態様では、本明細書に開示する方法は、特定のIgG1分子に結合した末端β-ガラクトースの量を調節することを含む。例えば、この方法は、IgG1抗体上の末端β-ガラクトースの量を(例えば、以下に限定されないが、グリカンをG0種からG1種若しくはG2種に、又はG1種からG2種に効果的に変化させることにより)増加させて、IgG1抗体のADCC活性を増加させることを含み得る。或いは、この方法は、末端ガラクトースの量を(例えば、以下に限定されないが、グリカンをG2種からG1種若しくはG0種に、又はG1種からG0種に変化させることにより)減少させて、IgG1抗体のADCC活性を減少させることを含み得る。いくつかの実施形態では、方法は、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)の末端β-ガラクトースの量を調節して、IgG1抗体のADCC活性を調節することを含む。いくつかの態様では、方法は、末端ガラクトースの量を(例えば、グリカンをG0種からG1種若しくはG2種に、又はG1種からG2種に効果的に変化させることにより)増加させて、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体、又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)のADCC活性を増加させることを含む。或いは、本方法は、末端ガラクトースの量を(例えば、以下に限定されないが、グリカンをG2種からG1種若しくはG0種に、又はG1種からG0種に変化させることにより)減少させて、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体、又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)のADCC活性を減少させることを含み得る。
【0046】
用語「グリカン(glycan)」、「グリカン(glycans)」、「グリコフォーム(glycoform)」又は「グリコフォーム(glycoforms)」は、種々のグリコシド結合によって連結された単糖種のオリゴマーを指す。哺乳動物のN結合型グリカンに一般に見られる単糖の例には、ヘキソース(Hex)、グルコース(Glc)、ガラクトース(Gal)、マンノース(Man)及びN-アセチルグルコサミン(GlcNAc)が含まれる。組み換えIgG1抗体上に見られる主要なN-グリカン種には、図1に示すように、フコース、ガラクトース、マンノース、シアル酸及びGlcNAcが含まれる。グリカンオリゴ糖の構造は、C2ドメインのコンセンサスN-グリコシル化部位に結合しており、一般に、フコース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、シアル酸(SA)、及びバイセクト型N-GlcNAcの可変付加によって構築されたアウターアームを有する7糖コアから構成されている。代表的なオリゴ糖構造は、以下のように略することができる:A2G0F、A2G1F、A2G2F、A2G0、A2G1、A2G2はそれぞれ、コアフコース(F)が結合しているか又は結合していない、0、1つ又は2つの末端β-ガラクトース部分を有する、コアGlcNAc及びマンノースオリゴ糖構造を指す。或いは、図2に示すように、G0F、G1F、G2F、G0、G1及びG2の略語を使用することができる。G1には、G1aとG1bと略される2つの付加的な構造が存在し得、G1a又はG1bは末端ガラクトース基がコア構造の6-アーム又は3-アームのいずれに結合しているかを示す。シアル酸が存在する場合、これらの略語は「S」を含み、例えば、G2FS2が2つのガラクトース、フコース及び2つのシアル酸基を有するグリカンを指す。追加のマンノース基を組み込むことによって形成される高マンノース(HM)構造、例えば、図1に示すような高マンノース種「M9」及び「A2G1S1M5」を含む、IgG1抗体に連結されたさらなるグリカンも存在し得る。本明細書で使用される場合、「グリカン」又は「グリコフォーム」という用語は、本明細書に記載される単糖種のオリゴマーのいずれか、又は抗体若しくはIgG1抗体に連結された単糖種の任意の他のオリゴマーを指す。
【0047】
「末端β-ガラクトース」、「ガラクトシル化グリカン」又は「G1、G1a、G1b及び/又はG2ガラクトシル化種」という用語は、コアマンノース構造に結合するN-アセチルグルコサミン部分を介してC2ドメインのコンセンサスN-グリコシル化部位でIgG1抗体に連結された1つ(例えば、G1a及びG1bを含むG1)又は2つのガラクトース(例えば、G2)分子を含むグリカンを指す。フコース含有グリカンについて「末端β-ガラクトース」を含む例示的なグリカン、「ガラクトシル化グリカン」又はA2G1F、A2G2F、並びに非フコシル化形態A2G1(A2G1a及びA2G1bを含む)及びA2G2(又はG1及びG2)を図2に示す。いくつかの実施形態では、ガラクトシル化グリカンは、図2中それぞれA1G1M5及びA1G1によって例示される、高マンノースアーム及びガラクトース含有アームを含むハイブリッド型グリカン、並びにシングルアームグリカンである。
【0048】
用語「コアフコース」又は「フコシル化種」は、コアマンノース構造に結合するN-アセチルグルコサミン部分を介して、C2ドメインのコンセンサスN-グリコシル化部位でIgG1抗体に連結されたフコース分子(アルファ1-6)を含むグリカンを指す。「コアフコース」又は「フコシル化種」を含む例示的なグリカンを図1及び図2に示す。いくつかの実施形態では、コアフコース及び/又はフコシル化種を含有する抗体は、末端β-ガラクトース及び/又は高マンノースを含む他のグリカンを含んでも含まなくてもよい。
【0049】
用語「非フコシル化の(afucosylated)」、「非フコシル化グリカン」又は「非フコシル化(afucosylation)」は、抗体におけるコアフコースの除去又は欠如を指す。例示的な非フコシル化抗体種を図2に示す。いくつかの実施形態では、コアフコースを欠く抗体は、末端β-ガラクトース及び/又は高マンノースを含む他のグリカンを含んでも含まなくてもよい。非フコシル化グリコフォームとしては、A1G0、A1G1a、A2G0、A2G1a、A2G1b、A2G2及びA1G1M5が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、Reusch and Tejada,Glycobiology 25(12):1325-1334(2015)を参照されたい。
【0050】
「高マンノース」、「高マンノースグリカン」又は「HM」という用語は、C2ドメインのコンセンサスN-グリコシル化部位でIgG1抗体に連結された3個を超えるマンノース分子を含むグリカンを指す。例示的な高マンノース抗体を図1及び図2に示す。高マンノースグリカンは、それぞれMan5、Man6、Man7、Man8及びMan9、又はM5、M6、M7、M8及びM9と略される、5、6、7、8又は9個のマンノース残基を含むグリカンを包含する。
【0051】
本明細書で使用される「グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物」又は「非フコシル化組成物」という句は、組成物内の抗体がC2ドメイン中のコンセンサスN-グリコシル化部位に連結されたグリカンオリゴ糖構造を含有するIgG1抗体組成物を指す。好ましい実施形態では、組成物は、少なくとも約0.5%が非フコシル化であるか、又は約0.5%超が非フコシル化であるか、又は約0.5%~100%が非フコシル化である(或いは、99.5%のコアフコース若しくは99.5%未満のコアフコースを有するか、又は0%~99.5%の範囲のコアフコースを有する)7糖コアを含む抗体を含む。
【0052】
グリカン量の調節
例示的な実施形態では、本明細書に記載の方法は、IgG1抗体組成物の、例えば、G1、G1a、G1b及び/又はG2ガラクトシル化種を含むグリカンの量又は割合を調節する(すなわち、増加又は減少させる)ことを含む。
【0053】
用語「量」は、グリカンの量(例えば、(1)末端β-ガラクトースの量、(2)G1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種の量、(3)コアフコースの量、(4)非フコシル化種の量、又は(5)ガラクトシル化非フコシル化グリカンの量を含む)をいう場合、試料又は糖タンパク質中のグリカンの総量と比較した特定のグリカンの相対的な量又は割合を指す。例えば、(1)末端β-ガラクトース、(2)G1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種、並びに/又は(3)コアフコース/非フコシル化種の量は、G1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種又はコアフコース/非フコシル化種を含む末端β-ガラクトースを有する種の量を試料又は糖タンパク質中の全てのグリカン種の総量で除した割合として示される。グリカン(例えば、G1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種、コアフコース、非フコシル化種などを含む)の量又は相対的割合を測定及び決定する方法は当該技術分野でよく知られており、実施例に記載されるような親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)が挙げられる。また、Pace et al.,Characterizing the Effect of Multiple Fc Glycan Attributes on the Effector Functions and FccRIIIa Receptor Binding Activity of an IgG1 Antibody,Biotechnol.Prog.,2016,Vol.32,No.5 pages 1181-1192、及びShah,B.et al.LC-MS/MS Peptide Mapping with Automated Data Processing for Routine Profiling of N-Glycans in Immunoglobulins J.Am.Soc.Mass Spectrom.(2014)25:999を参照されたい。これらの各文献はあらゆる目的のために参照により本明細書に組み込まれる。いくつかの実施形態では、量は取り込みモルパーセントとして決定又は算出することができる。
【0054】
「調節する」は、本明細書で使用される場合、減少又は増加させることによって変化させることを意味し、したがって、例示的な態様では、この方法は抗体のグリカン量を増加させることを含み、一方、代替の態様では、この方法は組成物中の抗体のグリカン量を減少させることを含む。例示的な態様では、本開示の方法は、組成物内の抗体のグリカン(例えば、ガラクトシル化グリカン、G1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種、非フコシル化グリカン、コアフコース、又はこれらの組み合わせ(例えば、ガラクトシル化非フコシル化種))を、対照又は参照抗体組成物と比較して任意の程度又はレベルまで増加させることを含む。例示的な例では、本方法は、対照又は参照抗体組成物と比較して、グリカン(例えば、組成物(抗HER2抗体組成物、抗TNFα抗体組成物又は抗CD20抗体組成物(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)内のグリコシル化非フコシル化IgG1抗体の末端βガラクトースを含む)を、少なくとも又は約1%~約100%(例えば、少なくとも又は約1%、少なくとも又は約2%、少なくとも又は約3%、少なくとも又は約4%、少なくとも又は約5%、少なくとも又は約6%、少なくとも又は約7%、少なくとも又は約8%、少なくとも又は約9%、少なくとも又は約9.5%、少なくとも又は約9.8%、少なくとも又は約10%、少なくとも又は約15%、少なくとも又は約20%、少なくとも又は約25%、少なくとも又は約30%、少なくとも又は約35%、少なくとも又は約40%、少なくとも又は約45%、少なくとも又は約50%、少なくとも又は約55%、少なくとも又は約60%、少なくとも又は約65%、少なくとも又は約70%、少なくとも又は約75%、少なくとも又は約80%、少なくとも又は約85%、少なくとも又は約90%、少なくとも又は約95%、少なくとも又は約100%)増加させることを含む。例示的な実施形態では、本方法は、対照又は参照抗体組成物と比較して、グリカンを100%以上、例えば、少なくとも又は約125%、少なくとも又は約150%、少なくとも又は約175%、少なくとも又は約200%、少なくとも又は約300%、少なくとも又は約400%、少なくとも又は約500%、少なくとも又は約600%、少なくとも又は約700%、少なくとも又は約800%、少なくとも又は約900%、或いは少なくとも又は約1000%さえも増加させることを含む。例示的な実施形態では、抗体組成物中のグリカンレベルの増加は、対照又は参照抗体組成物と比較して約5%~約400%の範囲である。例示的な実施形態では、本方法は、グリカンを、対照又は参照抗体組成物と比較して、少なくとも又は約1.5倍、少なくとも又は約2倍、少なくとも又は約3倍、少なくとも又は約4倍、或いは少なくとも又は約5倍増加させることを含む。例示的な実施形態では、本方法は、グリカンを、対照又は参照抗体組成物と比較して、少なくとも約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、又は約10倍増加させることを含む。例示的な実施形態では、本方法は、グリカンを、対照又は参照抗体組成物と比較して、約0.5倍~約8倍の範囲内の量だけ増加させることを含む。
【0055】
例示的な態様では、本開示の方法は、抗体組成物のグリカン(例えば、ガラクトシル化グリカン、G1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種、非フコシル化グリカン、コアフコース、又はこれらの組み合わせ(例えば、ガラクトシル化及び非フコシル化グリカン))を、対照又は参照抗体組成物と比較して任意の程度又はレベルまで減少させることを含む。例示的な例では、本方法は、対照又は参照抗体組成物と比較して、グリカン(例えば、組成物(抗HER2抗体組成物、抗TNFα抗体組成物又は抗CD20抗体組成物(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)内のグリコシル化非フコシル化IgG1抗体の末端βガラクトースを含む)を、少なくとも又は約1%~約100%(例えば、少なくとも又は約1%、少なくとも又は約2%、少なくとも又は約3%、少なくとも又は約4%、少なくとも又は約5%、少なくとも又は約6%、少なくとも又は約7%、少なくとも又は約8%、少なくとも又は約9%、少なくとも又は約9.5%、少なくとも又は約9.8%、少なくとも又は約10%、少なくとも又は約15%、少なくとも又は約20%、少なくとも又は約25%、少なくとも又は約30%、少なくとも又は約35%、少なくとも又は約40%、少なくとも又は約45%、少なくとも又は約50%、少なくとも又は約55%、少なくとも又は約60%、少なくとも又は約65%、少なくとも又は約70%、少なくとも又は約75%、少なくとも又は約80%、少なくとも又は約85%、少なくとも又は約90%、少なくとも又は約95%、少なくとも又は約100%)減少させることを含む。例示的な実施形態では、本方法は、対照又は参照抗体組成物と比較して、グリカンを100%以上、例えば、少なくとも又は約125%、少なくとも又は約150%、少なくとも又は約175%、少なくとも又は約200%、少なくとも又は約300%、少なくとも又は約400%、少なくとも又は約500%、少なくとも又は約600%、少なくとも又は約700%、少なくとも又は約800%、少なくとも又は約900%、或いは少なくとも又は約1000%さえも減少させることを含む。例示的な実施形態では、抗体組成物のグリカンは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約5%~約400%の範囲の量だけ減少する。例示的な実施形態では、本方法は、グリカンを、対照又は参照抗体組成物と比較して、少なくとも又は約1.5倍、少なくとも又は約2倍、少なくとも又は約3倍、少なくとも又は約4倍、或いは少なくとも又は約5倍減少させることを含む。例示的な実施形態では、本方法は、グリカンを、対照又は参照抗体組成物と比較して、少なくとも約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、又は約10倍減少させることを含む。例示的な実施形態では、本方法は、グリカンを、対照又は参照抗体組成物と比較して、約0.5倍~約8倍の範囲内の量だけ減少させることを含む。
【0056】
例示的な態様では、本開示の方法は、抗体組成物のガラクトシル化グリカン、又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種の量を、総量で少なくとも若しくは約0.5%、少なくとも若しくは約1%、少なくとも若しくは約2%、少なくとも若しくは約3%、少なくとも若しくは約5%、少なくとも若しくは約7%、少なくとも若しくは約10%、少なくとも若しくは約15%、少なくとも若しくは約20%、少なくとも若しくは約25%、少なくとも若しくは約30%、少なくとも若しくは約35%、少なくとも若しくは約40%、少なくとも若しくは約45%、少なくとも若しくは約50%、少なくとも若しくは約55%、少なくとも若しくは約60%、少なくとも若しくは約65%、少なくとも若しくは約70%、少なくとも若しくは約75%、少なくとも若しくは約80%、少なくとも若しくは約85%、少なくとも若しくは約90%、少なくとも若しくは約95%、少なくとも若しくは約96%、少なくとも若しくは約97%、又は少なくとも若しくは約98%に調節する(すなわち、増加又は減少させる)、或いは総量で少なくとも又は約0.5%~98%の範囲に増加又は減少させる、或いは総量で0%~100%の範囲に増加又は減少させることを含む。
【0057】
例示的な態様では、本開示の方法は、抗体組成物のガラクトシル化グリカン、又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種、並びに非フコシル化グリカンの量を調節する(すなわち、増加又は減少させる)ことを含み、ガラクトシル化グリカン、又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種の総量は、少なくとも若しくは約0.5%、少なくとも若しくは約1%、少なくとも若しくは約2%、少なくとも若しくは約3%、少なくとも若しくは約5%、少なくとも若しくは約7%、少なくとも若しくは約10%、少なくとも若しくは約15%、少なくとも若しくは約20%、少なくとも若しくは約25%、少なくとも若しくは約30%、少なくとも若しくは約35%、少なくとも若しくは約40%、少なくとも若しくは約45%、少なくとも若しくは約50%、少なくとも若しくは約55%、少なくとも若しくは約60%、少なくとも若しくは約65%、少なくとも若しくは約70%、少なくとも若しくは約75%、少なくとも若しくは約80%、少なくとも若しくは約85%、少なくとも若しくは約90%、少なくとも若しくは約95%、少なくとも若しくは約96%、少なくとも若しくは約97%、又は少なくとも若しくは約98%である、或いは総量で少なくとも又は約0.5%~98%の範囲に増加又は減少する、或いは総量で0%~100%の範囲に増加又は減少し;非フコシル化グリカンの総量は、少なくとも約0.5%若しくは約0.5%超、又は少なくとも若しくは約3%、少なくとも若しくは約4%、少なくとも若しくは約5%、少なくとも若しくは約7%、少なくとも若しくは約10%、少なくとも若しくは約15%、少なくとも若しくは約20%、少なくとも若しくは約25%、少なくとも若しくは約30%、少なくとも若しくは約35%、少なくとも若しくは約40%、少なくとも若しくは約45%、少なくとも若しくは約50%、少なくとも若しくは約55%、少なくとも若しくは約60%、少なくとも若しくは約65%、少なくとも若しくは約70%、少なくとも若しくは約75%、少なくとも若しくは約80%、少なくとも若しくは約85%、少なくとも若しくは約90%、少なくとも若しくは約95%、少なくとも若しくは約96%、少なくとも若しくは約97%、少なくとも若しくは約98%、又は少なくとも若しくは約99%である、或いは総量で約0.5%~100%の範囲、総量で約3%~100%の範囲、総量で約5%~100%の範囲、又は総量で約8%~100%の範囲に増加又は減少する。
【0058】
例示的な実施形態では、本開示の方法は、抗体組成物のガラクトシル化グリカン(例えば、末端β-ガラクトース、又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種を含む)の量を調節して、抗体組成物のADCC活性を調節することを含む。例示的な態様では、本方法は、抗体組成物のガラクトシル化グリカン(例えば、末端β-ガラクトース、又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種を含む)の量を増加させて、抗体組成物のADCC活性を増加させることを含む。例示的な態様では、本方法は、抗体組成物のガラクトシル化グリカン(例えば、末端β-ガラクトース、又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種を含む)の量を減少させて、抗体組成物のADCC活性を減少させることを含む。例示的な態様では、本方法は、非フコシル化IgG1抗体組成物のガラクトシル化グリカン(例えば、末端β-ガラクトース、又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種を含む)の量を増加させて、抗体組成物のADCC活性を増加させることを含む。例示的な態様では、本方法は、非フコシル化IgG1抗体組成物のガラクトシル化グリカン(例えば、末端β-ガラクトース、又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種を含む)の量を減少させて、抗体組成物のADCC活性を減少させることを含む。
【0059】
例示的な実施形態では、本開示の方法は、抗体組成物のガラクトシル化グリカン(例えば、末端β-ガラクトース又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種を含む)、及び非フコシル化グリカン又はコアフコースの量を調節して、抗体組成物のADCC活性を調節することを含む。例示的な態様では、本方法は、(1)ガラクトシル化グリカン(例えば、末端β-ガラクトース又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種を含む)の量を増加させること、及び(2)非フコシル化グリカンを増加させるか又はコアフコースの量を減少させることの両方によって、IgG1抗体組成物のADCC活性を増加させることを含む。例示的な態様では、本方法は、(1)ガラクトシル化グリカン(例えば、末端β-ガラクトース又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種を含む)の量を減少させること、及び(2)非フコシル化グリカンの量を減少させるか又はコアフコースの量を増加させることの両方によって、IgG1抗体組成物のADCC活性を減少させることを含む。いくつかの実施形態では、IgG1抗体は、抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)である。
【0060】
抗体のADCC活性を操作する方法
本明細書で提供される方法はまた、第2の抗体組成物中のグリカン(例えば、ガラクトシル化グリカン、末端β-ガラクトース、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種、非フコシル化グリカン、コアフコース、又はこれらの組み合わせ(例えば、ガラクトシル化非フコシル化グリカン))の量を調節して、第1の参照IgG1抗体組成物のADCC活性にマッチさせることにより、第1の参照IgG1抗体組成物のADCC活性と第2の抗体組成物のADCC活性をマッチさせる方法を含む。
【0061】
例えば、いくつかの例示的な実施形態において、本開示の方法は、(1)参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する工程;(2)抗体が参照抗体と同じ抗体配列を有する第2の抗体組成物のADCC活性を決定する工程;及び(3)第2の組成物中の抗体のコンセンサスグリコシル化部位におけるグリカン種中の末端β-ガラクトースの量(例えば、G1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種の量を含む)を増加又は減少させることによって、第2の抗体組成物のADCC活性を変化させる工程(ここで、末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させた後の第2の抗体組成物のADCC活性は、参照IgG1抗体組成物と同じであるか、又は参照IgG1抗体組成物の約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%若しくは約50%以内であるか、又は参照IgG1抗体組成物の約1%~約50%以内である)によって、参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性にマッチさせることを含む。例示的な態様では、約1%の末端β-ガラクトースの増加は、ADCC活性を約20%~約30%増加させる。例示的な態様では、約1%の末端β-ガラクトースの減少は、ADCC活性を約20%~約30%減少させる。例示的な態様では、本方法は、第2の抗体組成物のガラクトシル化非フコシル化グリカンの量又は割合を調節して、この抗体組成物のADCC活性を、参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性にマッチするように調節することを含む。例示的な態様では、本方法は、第2の抗体組成物のガラクトシル化非フコシル化グリカンの量又は割合を増加させることによって、第2の抗体組成物のADCC活性を増加させ、参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性にマッチさせることを含む。例示的な態様では、本方法は、第2の抗体組成物のガラクトシル化非フコシル化グリカンの量又は割合を減少させることによって、第2の抗体組成物のADCC活性を減少させ、参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性にマッチさせることを含む。いくつかの実施形態では、本方法の工程1(すなわち、「参照グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する」)は、本方法の工程2及び/又は工程3の前、後又は同時に行われる。
【0062】
参照抗体組成物のADCC活性にマッチさせる方法に加えて、本明細書で提供される方法はまた、目標の、所望の又は予め選択されたADCC活性を達成するために、特定のADCC活性を有する抗体組成物を、この抗体組成物のグリカン(例えば、ガラクトシル化グリカン、末端β-ガラクトース、G1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種、非フコシル化グリカン、コアフコース、又はこれらの組み合わせ(例えば、ガラクトシル化、非フコシル化グリカン)の量を調節することによって操作する方法を意図する。
【0063】
例えば、本開示の方法のいくつかの例示的な実施形態では、方法は、(1)グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する工程;(2)目標ADCC活性を決定する工程;及び(3)コンセンサスグリコシル化部位におけるグリカン種中の末端β-ガラクトース(例えば、G1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種を含む)の量又は割合を増加又は減少させることによって、IgG1抗体組成物のADCC活性を増加又は減少させる工程(ここで、末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させた後の抗体組成物のADCC活性は、目標ADCC活性と同じであるか、又は目標ADCC活性の約10%、約15%、約20%、約25%、約30%、約35%、約40%、約45%若しくは約50%以内であるか、又は目標ADCC活性の約1%~約50%以内である)によって、抗体組成物の特定の目標ADCC活性を操作することを含む。例示的な態様では、約1%の末端β-ガラクトースの増加は、ADCC活性を約2%増加させる。例示的な態様では、約1%の末端β-ガラクトースの減少は、ADCC活性を約2%減少させる。例示的な態様では、本方法は、目標ADCC活性にマッチするように、IgG1抗体組成物のガラクトシル化非フコシル化グリカンの量又は割合を調節することを含む。例示的な態様では、本方法は、目標ADCC活性にマッチするように、IgG1抗体組成物のガラクトシル化非フコシル化グリカンの量又は割合を増加させることによって、IgG1抗体組成物のADCC活性を増加させることを含む。例示的な態様では、本方法は、目標ADCC活性にマッチするように、IgG1抗体組成物のガラクトシル化非フコシル化グリカンの量又は割合を減少させることによって、IgG1抗体組成物のADCC活性を減少させることを含む。いくつかの実施形態では、本方法の工程1(すなわち、「グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する」)は、本方法の工程2及び/又は工程3の前、後又は同時に行われる。
【0064】
グリカンの調節方法
糖タンパク質、例えば、抗体上のグリカン(ガラクトシル化グリカン(例えば、末端β-ガラクトース、又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種を含む)、及び/又は非フコシル化グリカンなど)を調節する好適な方法は、当該技術分野で知られている。例えば、Zhang et al.,Drug Discovery Today 21(5):2016を参照されたい。この文献はグリコシル化に対する細胞培養条件の効果を概説している。また実施例に記載の方法も参照されたい。
【0065】
したがって、いくつかの態様では、グリコシル化コンピテント細胞(これは、糖タンパク質、例えば、抗体を、組み換え技術により産生するために使用することができる)が、細胞を用いて生産される抗体組成物中に所望のレベルのグリカンを達成するための特定の条件下で培養される。例えば、国際公開第2013/114164号パンフレット、国際公開第2013/114245号パンフレット、国際公開第2013/114167号パンフレット、国際公開第2015/128793号パンフレット、及び国際公開第2016/089919号パンフレットはそれぞれ、グリカン(ガラクトシル化グリカン(例えば、末端β-ガラクトース、又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種を含む)、非フコシル化グリカン、又はコアフコースを含有するグリカンなど)を調節するのに有用な組み換え細胞培養技術、例えば、全非フコシル化グリカンを高い割合で有する糖タンパク質を得る方法(国際公開第2013/114164号パンフレット)、Man5グリカン及び/又は非フコシル化グリカンを高い割合で有する糖タンパク質を得る方法(国際公開第2013/114245号パンフレット)、特定量の高マンノースグリカン、非フコシル化グリカン及びG0Fグリカンを有する糖タンパク質を得る方法(国際公開第2013/114167号パンフレット)、高マンノースグリカン並びに減少したガラクトシル化及び/又は高ガラクトシル化グリカンを有する糖タンパク質を得る方法(国際公開第2015/128793号パンフレット);並びに組み換えタンパク質上のフコシル化グリカン含有量を操作する方法(国際公開第2016/089919号パンフレット)を教示している。国際公開第2013/114164号パンフレット、国際公開第2013/114245号パンフレット、国際公開第2013/114167号パンフレット、国際公開第2015/128793号パンフレット、及び国際公開第2016/089919号パンフレットによって記載されている細胞培養技術には、特異的グリカンを調節するために、温度、pHなどの1つ以上の細胞培養パラメーターを改変すること、細胞をマンガンイオン若しくはその塩(例えば、0.35μM~約20μMのマンガン)と共に培養すること、及び/又は細胞を銅(例えば、10~100ppb)及びマンガン(例えば、50~1000nM)と共に培養することが含まれる。
【0066】
さらに、国際公開第2015/140700号パンフレットは、非フコシル化グリカンを増加させるためにベタインと共に細胞を培養することを教示し、さらに、マンノシル化、ガラクトシル化非フコシル化グリカンの目標値を得るためにマンガン、ガラクトース及びベタインと共に細胞を培養することを教示している。同様に、Konno et al.,Cytotechnology 64:249-3+6(2012)は、抗体のフコース含量が培養培地の浸透圧によって制御され得ることを教示している。国際公開第2017/079165号パンフレットには、タンパク質の非フコシル化形態及びフコシル化形態を産生するために、GMDもFXも有さない遺伝子操作された宿主細胞をフコースと共に培養することが記載されている。国際公開第2017/134667号パンフレットには、細胞を少なくとも1mMの濃度のニコチンアミド及びフコースと共に培養することによってグリカン含量を操作することが記載されている。Sha et al.,TIBs 34(10):835-846(2016)にもまた、グリカンを調節するいくつかの方法、例えば、ウリジン、マンガン及びガラクトースを用いて抗体上のガラクトシル化レベルを増加させること、及びマンノースを炭素源として使用して高マンノースグリコフォームを増加させることを含む方法が概説されている。さらに、McCracken et al.,Biotechnol.Prog.30(3):547-553(2014)は、G0F、G1F及びG2Fの量に影響を及ぼす特定のアスパラギン濃度、アンモニウムレベル及びpHを含む細胞培養培地を含む、細胞培養物中のガラクトシル化グリコフォーム分布を制御する方法を教示している。
【0067】
したがって、本開示の方法は、例示的な態様において、抗体組成物中のガラクトシル化グリカン(例えば、末端β-ガラクトース、又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種を含む)、及び/又は非フコシル化グリカン若しくはコアフコースを含有するグリカンの量を調節するために、上記参考文献又は本明細書に記載の他の参考文献のいずれか1つ以上において教示されている手順及び/又は条件の1つ以上を採用することを含む。例示的な態様では、この方法は、ガラクトシル化グリカン(例えば、末端β-ガラクトース又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種を含む)及び/又は非フコシル化グリカン若しくはコアフコースを含有するグリカンのレベルを調節する条件下、細胞培養培地中で抗体を発現するグリコシル化コンピテント細胞を培養することを含む。
【0068】
細胞培養物中で細胞を維持又は培養することを含む本明細書に記載の方法において、細胞培養物は、組み換えグリコシル化タンパク質又は抗体産生に好適な任意の一連の条件にしたがって維持され得る。例えば、いくつかの態様では、細胞培養物は、組み換えグリコシル化タンパク質又は抗体産生に好適な、特定のpH、温度、細胞密度、培養体積、溶存酸素レベル、圧力、浸透圧などで維持される。例示的な態様では、COインキュベーター中、標準的な加湿条件下、5%COで接種前の細胞培養物を振盪する(例えば、70rpmで)。
【0069】
例示的な態様では、本開示の方法は、当該技術分野でよく知られているように、細胞培養培地中のグリコシル化コンピテント細胞を、組み換えグリコシル化タンパク質又は抗体の産生に好適なpH、温度、浸透圧、及び溶存酸素レベルに維持することを含む。例示的な態様では、細胞培養物は、当該技術分野でよく知られているように、細胞増殖に好適な培地中で維持され、且つ/又は任意の好適な供給スケジュールにしたがって1つ以上のフィード培地が与えられる。
【0070】
例示的な態様では、グリコシル化コンピテント細胞は真核細胞であり、例えば、酵母細胞、糸状菌細胞、原生生物細胞、藻類細胞、昆虫細胞又は哺乳動物細胞が挙げられるが、これらに限定されない。このような宿主細胞は、当該技術分野で記載されている。例えば、Frenzel,et al.,Front Immunol 4:217(2013)を参照されたい。例示的な態様では、真核細胞は哺乳動物細胞である。例示的な態様では、哺乳動物細胞は非ヒト哺乳動物細胞である。いくつかの態様では、細胞は、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞及びその誘導体(例えば、CHO-K1、CHO pro-3)、マウス骨髄腫細胞(例えば、NS0、GS-NS0、Sp2/0)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)活性を欠くように操作された細胞(例えば、DUKX-X11、DG44)、ヒト胚性腎臓293(HEK293)細胞又はその誘導体(例えば、HEK293T、HEK293-EBNA)、アフリカミドリザル腎臓細胞(例えば、COS細胞、VERO細胞)、ヒト子宮頸癌細胞(例えば、HeLa)、ヒト骨の骨肉腫上皮細胞U2-OS、腺癌ヒト肺胞基底上皮細胞A549、ヒト線維肉腫細胞HT1080、マウス脳腫瘍細胞CAD、胚性癌腫細胞P19、マウス胚性繊維芽細胞NIH 3T3、マウス繊維芽細胞L929、マウス神経芽腫細胞N2a、ヒト乳癌細胞MCF-7、網膜芽腫細胞Y79、ヒト網膜芽腫細胞SO-Rb50、ヒト肝臓癌細胞Hep G2、マウスB骨髄腫細胞J558L又は新生児ハムスター腎臓(BHK)細胞(Gaillet et al.2007;Khan,Adv Pharm Bull 3(2):257-263(2013))である。
【0071】
グリコシル化にコンピテントではない細胞はまた、例えば、グリコシル化に必要な関連酵素をコードする遺伝子をそれらに導入することによって、グリコシル化コンピテント細胞に形質転換され得る。例示的な酵素としては、オリゴサッカリルトランスフェラーゼ、グリコシダーゼ、グルコシダーゼI、グルコシダーゼII、カルネキシン/カルレティキュリン、グリコシルトランスフェラーゼ、マンノシダーゼ、GlcNAcトランスフェラーゼ、ガラクトシルトランスフェラーゼ、及びシアリルトランスフェラーゼが挙げられるが、これらに限定されない。
【0072】
さらなる又は代替の態様では、抗体を組み換え技術により産生するグリコシル化コンピテント細胞は、細胞により産生される抗体のグリカン(ガラクトシル化グリカン(例えば、末端β-ガラクトース、又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種を含む)、及び/又は非フコシル化グリカン若しくはコアフコースを含有するグリカンなど)を調節するように遺伝子操作される。例示的な態様では、グリコシル化コンピテント細胞は、デノボ経路又はサルベージ経路の酵素の活性を変えるように遺伝子操作される。任意選択により、グリコシル化コンピテント細胞は、GDP-ケト-6-デオキシマンノース-3,5-エピメラーゼ,4-レダクターゼをコードする遺伝子をノックアウトするように遺伝子操作される。例示的な実施形態では、グリコシル化コンピテント細胞は、デノボ経路又はサルベージ経路の酵素の活性を変えるように遺伝子操作される。フコース代謝のこれらの2つの経路は当該技術分野でよく知られており、図5に示す。例示的な実施形態では、グリコシル化コンピテント細胞は、フコシル-トランスフェラーゼ(FUT、例えば、FUT1、FUT2、FUT3、FUT4、FUT5、FUT6、FUT7、FUT8、FUT9)、フコースキナーゼ、GDP-フコースピロホスホリラーゼ、GDP-D-マンノース-4,6-デヒドラターゼ(GMD)、及びGDP-ケト-6-デオキシマンノース-3,5-エピメラーゼ、4-レダクターゼ(FX)のいずれか1つ以上の活性を変えるように遺伝子操作される。例示的な実施形態では、グリコシル化コンピテント細胞は、FXをコードする遺伝子をノックアウトするように遺伝子操作される。例示的な実施形態では、グリコシル化コンピテント細胞は、β(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GNTIII)又はGDP-6-デオキシ-D-リキソ-4-ヘキスロースレダクターゼ(RMD)の活性を変えるように遺伝子操作される。例示的な態様では、グリコシル化コンピテント細胞は、GNTIII又はRMDを過剰発現するように遺伝子操作される。例示的な実施形態では、グリコシル化コンピテント細胞は、改変されたベータ-ガラクトシルトランスフェラーゼ活性を有するように遺伝子操作される。
【0073】
当該技術分野においては、Fc含有分子、例えば、抗体の、フコシル化を減少又はなくすためのいくつかの方法が知られている。これらには、FUT8ノックアウト細胞株、変異型CHO株Lec13、ラットハイブリドーマ細胞株YB2/0、FUT8遺伝子に対し特異的な低分子干渉RNAを含む細胞株、及びβ-1,4-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII及びゴルジα-マンノシダーゼIIを共発現する細胞株を含む特定の哺乳動物細胞株における組み換え発現が含まれる。或いは、Fc含有分子を、植物細胞、酵母、又は原核細胞(例えば、E,コリ(E.coli))などの非哺乳動物細胞において発現し得る。
【0074】
例示的な態様では、目標グリカン量は、抗体組成物の産生後の化学的処理又は酵素による処理によって達成される。例示的な態様では、本開示の方法は、抗体が組み換え技術により産生された後に、抗体組成物を化学的に又は酵素により処理することを含む。例示的な態様では、化学薬品又は酵素は、Endo-S、Endo-S2、Endo-D、Endo-M、Endo-LL、α-フコシダーゼ、β-(1-4)-ガラクトシダーゼ、Endo-H、Endo-F1、Endo-F2、Endo-F3、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ、キフネンシン、及びPNGアーゼ-Fからなる群から選択される。例示的な態様では、化学薬品又は酵素を抗体組成物と様々な時間インキュベートして、種々の量のグリカンを有する抗体を生成する。いくつかの態様では、抗体組成物を、実施例に記載するように、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ(GalTアーゼ)とインキュベートする。いくつかのさらなる態様では、種々のレベルのガラクトースを有する抗体は、抗体組成物をβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼと一定時間、例えば、以下に限定されないが、約10分、約20分、約30分、約1時間、約2時間、約4時間、約9時間、又は約10分~約9時間の範囲内の時間、インキュベートすることによって生成され得る。
【0075】
グリカンの測定方法
糖タンパク質含有組成物(抗体組成物を含む)中に存在するグリコフォームを評価するため、又は糖タンパク質を含む特定の試料のグリコフォームプロファイルを決定、検出若しくは測定するための様々な方法が、当該技術分野で知られている。好適な方法としては、親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)、液体クロマトグラフィー-タンデム質量分析(LC-MS)、陽イオンMALDI-TOF分析、陰イオンMALDI-TOF分析、HPLC、弱陰イオン交換(WAX)クロマトグラフィー、順相クロマトグラフィー(NP-HPLC)、エキソグリコシダーゼ消化、Bio-Gel P-4クロマトグラフィー、陰イオン交換クロマトグラフィー及び一次元NMR分光法、並びにこれらの組み合わせが挙げられるが、これらに限定されない。例えば、Pace et al.,Biotechnol.Prog.,2016,Vol.32,No.5 pages 1181-1192、Shah,B.et al.J.Am.Soc.Mass Spectrom.(2014)25:999、Mattu et al.,JBC 273:2260-2272(1998)、Field et al.,Biochem J 299(Pt 1):261-275(1994)、Yoo et al.,MAbs 2(3):320-334(2010)、Wuhrer M.et al.,Journal of Chromatography B,2005,Vol.825,Issue 2,pages 124-133、Ruhaak L.R.,Anal Bioanal Chem,2010,Vol.397:3457-3481、Kurogochi et al.,PLOS One 10(7):e0132848(2015)、Thomann et al.,PLOS One10(8):e0134949.(2015)、Pace et al.,Biotechnol.Prog.32(5):1181-1192(2016)、及びGeoffrey,R.G.et.al.Analytical Biochemistry 1996,Vol.240,pages210-226を参照されたい。また、本明細書中に示す実施例に、抗体組成物などの糖タンパク質含有組成物中に存在するグリコフォームを評価するのに好適な方法を記載する。
【0076】
対照
本明細書に記載するように、本開示の方法のいくつかは、「対照」又は「参照」抗体組成物と比較して、そのような方法によってもたらされる調節(例えば、増加又は減少)を挙げる。例示的な態様では、ADCC活性又はグリカンの量に関して、「対照」は、最初に測定又は決定されたときの抗体組成物(例えば、参照抗体組成物)のADCC活性レベル及び/又はグリカン量などの、ADCC活性の調節及び/又はグリカンプロファイルの調節に向けた実験的介入の前の、抗体組成物(例えば、参照抗体組成物)のADCC活性レベル及び/又はグリカン量である。特定の態様では、「対照」又は「参照」抗体組成物は、ADCC活性の調節及び/又はグリカンプロファイルの調節に向けた有意な実験的介入を受けたが、ADCC活性及び/又はグリカンプロファイルのさらなる調節が所望される抗体組成物であり得る。これらの例では、「対照」は、ADCC活性のさらなる調節及び/又はグリカンプロファイルのさらなる調節に向けたさらなる実験的介入の前の抗体組成物(例えば、参照抗体組成物)のADCC活性のレベル及び/又はグリカン量である。
【0077】
抗体、断片及びタンパク質産物
本明細書で使用される場合、「抗体」という用語は、重鎖及び軽鎖を含み、且つ可変領域及び定常領域を含む、従来の免疫グロブリン構成を有するタンパク質を指す。例えば、抗体は、同一のポリペプチド鎖の対が2つある「Y字型」構造であり、各対が1つの「軽」鎖(通常、分子量が約25kDaである)及び1つの「重」鎖(通常、分子量が約50~70kDaである)を有する、IgGであり得る。抗体は、可変領域及び定常領域を有する。IgG型において、可変領域は、一般に、約100~110又はそれを超えるアミノ酸であり、3つの相補性決定領域(CDR)を含み、主に抗原認識に関与し、異なる抗原に結合する他の抗体と実質的に異なる。例えば、Janeway et al.,“Structure of the Antibody Molecule and the Immunoglobulin Genes”,Immunobiology:The Immune System in Health and Disease,4th ed.Elsevier Science Ltd./Garland Publishing,(1999)を参照されたい。
【0078】
「抗体断片」又は「その抗体断片」という用語は、完全な抗体の一部を指す。「抗原結合断片」又は「その抗原結合断片」は、抗原に結合する完全な抗体の一部を指す。抗原結合断片は、完全な抗体の抗原決定可変領域を含み得る。抗体断片の抗原結合断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab’)2及びFv断片、線形抗体、scFv、並びに一本鎖抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0079】
本明細書で使用される用語「IgG」は、認識される免疫グロブリンγ遺伝子によって実質的にコードされる抗体のクラスに属するポリペプチドを指す。ヒトでは、このクラスは、IgG1、IgG2、IgG3、及びIgG4を含む。マウスでは、このクラスは、IgG1、IgG2a、IgG2b、及びIgG3を含む。ヒトIgG1、IgG2、IgG3及びIgG4の重鎖の配列は、多くの配列データベースにおいて見出すことができ、例えば、Uniprotデータベース(www.uniprot.org)において、アクセッション番号P01857(IGHG1_HUMAN)、P01859(IGHG2_HUMAN)、P01860(IGHG3_HUMAN)及びP01861(IGHG1_HUMAN)でそれぞれ見出すことができる。好ましい実施形態では、本明細書に開示する方法及び抗体は、IgG1抗体に関する。いくつかの他の好ましい実施形態では、本明細書に開示する方法及び抗体は、ヒトIgG1抗体に関する。
【0080】
用語「CDR」及びその複数形である「CDRs」は、相補性決定領域を指し、そのうちの3つが軽鎖可変領域の結合特性を構成し(CDR-L1、CDR-L2及びCDR-L3)、3つが重鎖可変領域の結合特性を構成する(CDR-H1、CDR-H2及びCDR-H3)。CDRは、抗体と抗原との特異的相互作用を担う残基の大部分を含み、したがって抗体分子の機能的活性に寄与する。CDRは、抗原特異性の主要な決定基である。
【0081】
CDRの境界及び長さの厳密な定義は、各種の分類及び付番方式に従う。したがって、CDRは、本明細書に記載される付番方式を含む、Kabat、Chothia、接触又は任意の他の境界定義によって表わされ得る。境界が異なっていても、これらの方式の各々は、可変配列内のいわゆる「超可変領域」を構成する部分においてある程度の重複を有する。したがって、これらの方式によるCDRの定義は、長さ及び隣接するフレームワーク領域に関する境界領域が相違する場合がある。例えば、Kabat(異種間の配列可変性に基づく手法)、Chothia(抗原-抗体複合体の結晶学的研究に基づく手法)及び/又はMacCallumを参照されたい(Kabat et al.,前掲、Chothia et al.,J.MoI.Biol,1987,196:901-917、及びMacCallum et al.,J.MoI.Biol,1996,262:732)。抗原結合部位の特性決定のためのさらに別の基準は、Oxford MolecularのAbM抗体モデリングソフトウェアによって用いられるAbM定義である。例えば、Protein Sequence and Structure Analysis of Antibody Variable Domains.In:Antibody Engineering Lab Manual(Ed.:Duebel,S.and Kontermann,R.,Springer-Verlag,Heidelberg)を参照されたい。2つの残基同定技法が、重複するが、同一ではない領域を定義する限り、それらを組み合わせてハイブリッドCDRを定義することができる。しかしながら、いわゆるKabat方式による付番が好ましい。例えば、Chothia and Lesk,J.MoI.Biol.,1987,196:901、Chothia et al.,Nature,1989,342:877、Martin and Thornton,J.MoI.Biol,1996,263:800、Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,eds.Harlow et al.,1988を参照されたい。各文献は参照により本明細書に組み込まれる。
【0082】
用語「可変」は、配列内で可変性を示し、特定の抗体の特異性及び結合親和性の決定に関与する、抗体又は免疫グロブリンドメインの一部分(すなわち「可変ドメイン」)を指す。可変重鎖(VH)と可変軽鎖(VL)が対合し、共に単一の抗原結合部位を形成する。
【0083】
可変性は、抗体の可変ドメイン全体に均一に分布しているのではなく、重鎖及び軽鎖可変領域の各々のサブドメインに集中している。これらのサブドメインは、「超可変領域」又は「相補性決定領域」(CDR)と呼ばれる。可変ドメインのより保存的な(すなわち、非超可変)部分は、「フレームワーク」領域(FRM又はFR)と呼ばれ、抗原結合表面を形成する三次元空間内における6つのCDRのための足場を提供する。天然に存在する重鎖及び軽鎖の可変ドメインは、大部分がβシート配置をとる4つのFRM領域(FR1、FR2、FR3及びFR4)をそれぞれ含み、これらは、ループ接続を形成し、場合によりβシート構造の一部を形成する3つの超可変領域によって接続される。各鎖の超可変領域は、FRMによって近接して一体に保持されており、他の鎖の超可変領域と共に抗原結合部位の形成に寄与する(前掲のKabat et al.を参照されたい)。
【0084】
本明細書で使用される用語「Fcドメイン」、「Fc領域」及び「IgG Fcドメイン」は、免疫グロブリン、例えば、IgG分子のパパイン消化によって得られる結晶性断片と相関するIgG分子の一部分を指す。Fc領域は、ジスルフィド結合によって連結されたIgG分子の2本の重鎖のC末端側半分を含む。それは抗原結合活性を有さないが、炭水化物部分と、補体受容体及びFc受容体、例えばFcRn受容体、に結合する部位とを含む。例えば、Fcドメインは、第2の定常ドメインCH2全体(ヒトIgG1のEU位置231~340の残基)及び第3の定常ドメインCH3(ヒトIgG1のEU位置341~447の残基)を含む。
【0085】
Fcは、単離されたこの領域、又は抗体若しくは抗体断片と関連したこの領域を指し得る。多型は、Fcドメイン中の多くの位置で、例えば、以下に限定されないが、EU位置270、272、312、315、356、及び358で、観察されている。したがって、「野生型IgG Fcドメイン」又は「WT IgG Fcドメイン」は、天然に存在するIgG Fc領域(すなわち、いずれかのアレル)を指す。Myriad Fc変異体、Fc断片、Fcバリアント、及びFc誘導体は、例えば、米国特許第5,624,821号明細書、同第5,885,573号明細書、同第5,677,425号明細書、同第6,165,745号明細書、同第6,277,375号明細書、同第5,869,046号明細書、同第6,121,022号明細書、同第5,624,821号明細書、同第5,648,260号明細書、同第6,528,624号明細書、同第6,194,551号明細書、同第6,737,056号明細書、同第7,122,637号明細書、同第7,183,387号明細書、同第7,332,581号明細書、同第7,335,742号明細書、同第7,371,826号明細書、同第6,821,505号明細書、同第6,180,377号明細書、同第7,317,091号明細書、同第7,355,008号明細書、米国特許出願公開第2004/0002587号明細書、並びに国際公開第99/058572号パンフレット、国際公開第2011/069164号パンフレット、及び国際公開第2012/006635号パンフレットに記載されている。
【0086】
Fc領域は一般に、抗原結合後に生じる抗体エフェクター機能を決定する。C1qなどの自然免疫系のほか、Fcγ受容体との結合相互作用を介して細胞傷害性細胞や抗原提示細胞の分子を動員することができる。IgG Fc領域は、Asn297に2つの保存されたN-グリコシル化部位(各重鎖に1つ)を含む(P.M.Rudd.Glycosylation and the immune system.Science,291(2001),pp.2370-2376を参照)。コンセンサスグリコシル化部位における構造グリカンの変動は、IgGと免疫系との相互作用に影響する構造の微妙な変化をもたらす。例えば、Fc領域グリカンは、Fc領域の構造を変化させることによって(S.Krapp,et al.Structural analysis of human IgG-Fc glycoforms reveals correlation between glycosylation and structural integrity J.Mol.Biol.,325(2003);979-98931、Y.Mimura,et al.Role of oligosaccharide residues of IgG1-Fc in Fc RIIb binding J.Biol.Chem.,276(2001),45539-45547を参照)、又はグリカン-グリカンの相互作用によって(C.Ferrara,et al.Unique carbohydrate-carbohydrate interactions are required for high affinity binding between Fc(RIII and antibodies lacking core fucose. Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,108(2011),12669-12674を参照)、Fcγ受容体に対するIgGの親和性に直接影響を及ぼし、その結果として、それらの免疫エフェクター細胞を動員する能力に強く影響し得る。また、Zhang et al.Challenges of glycosylation analysis and control:an integrated approach to producing optimal and consistent therapeutic drugs. Drug Discovery Today,(21)5(2016)740-765を参照されたい。
【0087】
本明細書で使用される「モノクローナル抗体」(mAb)という用語は、実質的に均一な抗体の集団から得られた抗体、すなわち少量存在する可能性がある、考えられる天然に存在する変異及び/又は翻訳後修飾(例えば、異性化、アミド化)を除いて同一である集団を含む個々の抗体を指す。モノクローナル抗体は、特異性が高く、異なる決定基(又はエピトープ)に対して誘導された異なる抗体を通常含む従来の(ポリクローナル)抗体製剤とは対照的に、抗原上の単一の抗原部位又は決定基に対して誘導される。それらの特異性に加えて、モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養によって合成されるため、他の免疫グロブリンが混入しない点で有利である。修飾語「モノクローナル」は、実質的に均一な抗体集団から得られるという抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるべきではない。
【0088】
モノクローナル抗体の調製には、連続細胞株培養物によって作製される抗体を提供する任意の技法を用いることができる。例えば、使用されるモノクローナル抗体は、Koehler et al.,Nature,256:495(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ方法によって作られ得、又は組み換えDNA方法(例えば、米国特許第4,816,567号明細書を参照)によって作られ得る。ヒトモノクローナル抗体を作製するさらなる技法の例としては、トリオーマ技法、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法(Kozbor,Immunology Today 4(1983),72)及びEBV-ハイブリドーマ技法(Cole et al.,Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy,Alan R.Liss,Inc.(1985),77-96)が挙げられる。
【0089】
次に、ハイブリドーマを、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)及び表面プラズモン共鳴(BIACORE(商標))分析などの標準的な方法を使用してスクリーニングして、特定の抗原に特異的に結合する抗体を産生する1つ以上のハイブリドーマを同定することができる。例えば、組み換え抗原、天然に存在する形態、その任意のバリアント又は断片、並びにその抗原性ペプチドなど、任意の形態の関連抗原が免疫原として使用され得る。BIAcoreシステムで採用されている表面プラズモン共鳴を使用して、標的抗原のエピトープにファージ抗体が結合する効率を高めることができる(Schier,Human Antibodies Hybridomas 7(1996),97-105、Malmborg,J.Immunol.Methods 183(1995),7-13)。
【0090】
モノクローナル抗体を作製する別の例示的な方法としては、タンパク質発現ライブラリ、例えばファージディスプレイライブラリ又はリボソームディスプレイライブラリのスクリーニングが挙げられる。ファージディスプレイについては、例えば、Ladner et al.、米国特許第5,223,409号明細書、Smith(1985)Science 228:1315-1317、Clackson et al.,Nature,352:624-628(1991)及びMarks et al.,J.Mol.Biol.,222:581-597(1991)に記載されている。
【0091】
ディスプレイライブラリの使用に加えて、関連抗原を使用して、非ヒト動物、例えば齧歯類(マウス、ハムスター、ウサギ又はラットなど)を免疫化することができる。一実施形態では、非ヒト動物は、ヒト免疫グロブリン遺伝子の少なくとも一部を含む。例えば、マウス抗体産生が欠損したマウス系統を、ヒトIg(免疫グロブリン)遺伝子座の大きい断片を用いて操作することが可能である。ハイブリドーマ技術を用いて、所望の特異性を有する遺伝子由来の抗原特異的モノクローナル抗体を作製し、選択し得る。例えば、XENOMOUSE(商標)、Green et al.(1994)Nature Genetics 7:13-21、米国特許出願公開第2003/0070185号明細書、国際公開第96/34096号パンフレット及び国際公開第96/33735号パンフレットを参照されたい。
【0092】
モノクローナル抗体はまた、非ヒト動物から得た後、当該技術分野で知られる組み換えDNA技術を用いて、例えばヒト化、脱免疫、キメラ化などの改変を行うことができる。改変抗体コンストラクトの例としては、非ヒト抗体のヒト化バリアント、「親和性成熟」抗体(例えば、Hawkins et al.J.Mol.Biol.254,889-896(1992)及びLowman et al.,Biochemistry 30,10832-10837(1991)を参照)及びエフェクター機能が改変された抗体変異体(例えば、米国特許第5,648,260号明細書、前掲のKontermann and Duebel(2010)及び前掲のLittle(2009)を参照)が挙げられる。
【0093】
免疫学において、親和性成熟とは、免疫反応の過程で抗原に対する親和性の増大した抗体をB細胞が産生するプロセスである。同一抗原への反復暴露により、宿主は、親和性が連続的に増大する抗体を産生することになる。天然のプロトタイプと同様に、インビトロ親和性成熟は、変異と選択の原理に基づいている。インビトロ親和性成熟を問題なく使用して、抗体、抗体コンストラクト及び抗体フラグメントを最適化している。CDR内のランダム変異は、放射線、化学的変異原又はエラープローンPCRを用いて導入される。加えて、遺伝的多様性は、チェイン・シャッフリング法によって増大させることができる。ファージディスプレイのようなディスプレイ方法を用いた2又は3ラウンドの変異及び選択により、通常、低ナノモル範囲の親和性を有する抗体フラグメントが得られる。
【0094】
本発明に記載のモノクローナル抗体としては、重鎖及び/若しくは軽鎖の一部が特定の種に由来するか、又は特定の抗体のクラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一若しくは相同である一方、鎖の残部は、所望の生物活性を示す限り、別の種に由来するか、又は別の抗体のクラス若しくはサブクラスに属する抗体並びにそのような抗体の断片中の対応する配列と同一若しくは相同である「キメラ」抗体(免疫グロブリン)(米国特許第4,816,567号明細書、Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81:6851-6855(1984))が挙げられる。本明細書における目的のキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、旧世界ザル、類人猿など)に由来する可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化」抗体が含まれる。キメラ抗体を作製するための様々な手法が記載されている。例えば、Morrison et al.,Proc.Natl.Acad.ScL U.S.A.81:6851,1985、Takeda et al.,Nature 314:452,1985、Cabilly et al.、米国特許第4,816,567号明細書;Boss et al.、米国特許第4,816,397号明細書;Tanaguchi et al.、欧州特許第0171496号明細書、欧州特許第0173494号明細書、及び英国特許第2177096号明細書を参照されたい。
【0095】
ヒト化抗体はまた、ヒト重鎖及び軽鎖遺伝子を発現するが、内在性のマウス免疫グロブリン重鎖及び軽鎖遺伝子を発現することができないマウスなどのトランスジェニック動物を用いて作製され得る。Winterは、本明細書に記載されるヒト化抗体の調製に使用され得る例示的なCDR移植法を記載している(米国特許第5,225,539号明細書)。特定のヒト抗体のCDRの全ては、非ヒトCDRの少なくとも一部分で置換されるか、又はCDRの一部のみが非ヒトCDRで置換され得る。所定の抗原に対するヒト化抗体の結合に必要とされる数のCDRを置換することのみが必要である。
【0096】
ヒト化抗体は、保存的置換、コンセンサス配列置換、生殖細胞系列置換及び/又は復帰変異の導入によって最適化することができる。このような改変免疫グロブリン分子は、当該技術分野で知られる複数の技術のいずれかによって作製することができる(例えば、Teng et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,80:7308-7312,1983、Kozbor et al.,Immunology Today,4:7279,1983、Olsson et al.,Meth.Enzymol.,92:3-16,1982、及び欧州特許第239400号明細書)。
【0097】
「ヒト抗体」という用語には、例えば、Kabat et al.(1991)(前掲)によって記載されているものを含む、当該技術分野で知られるヒト生殖細胞系列免疫グロブリン配列に実質的に対応する、可変及び定常領域又はドメインなどの抗体領域を有する抗体が含まれる。本発明のヒト抗体、抗体コンストラクト又は結合ドメインは、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基(例えば、インビトロでのランダム変異誘発若しくは部位特異的変異誘発により、又はインビボでの体細胞変異により導入される変異)を、例えばCDR、特にCDR3に含み得る。ヒト抗体、抗体コンストラクト又は結合ドメインは、ヒト生殖細胞系列の免疫グロブリン配列によってコードされないアミノ酸残基で置換された少なくとも1つ、2つ、3つ、4つ、5つ又はそれを超える数の位置を有し得る。本明細書で使用されるヒト抗体、抗体コンストラクト及び結合ドメインの定義は、Xenomouseなどの技術又はシステムを使用することによって得ることができる、非人為的且つ/又は遺伝子操作により改変された抗体のヒト配列のみを含む完全ヒト抗体も意図している。
【0098】
有利には、本明細書に記載する方法は、特異的抗体又は特定の型の抗体に限定されない。しかしながら、例示的態様では、抗体はFcドメインを含み、例示的な例においては、抗体はIgG1抗体である。例示的な実施形態では、抗体は、特定の抗体配列を有するIgG1抗体である。「抗体配列」という用語は、抗体のアミノ酸配列を指す。本明細書で使用される句「参照抗体と同じ配列を有する」は、参照抗体の相補性決定領域(CDR)、可変重鎖(VH)及び/又は可変軽鎖(VL)のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を有する抗体を指す。好ましい実施形態では、本明細書で使用される「参照抗体と同じ配列を有する」抗体は、参照抗体のCDR、VH及びVL配列と同じCDR、VH及びVLアミノ酸配列を有する抗体を指す。
【0099】
例示的な態様では、IgG1抗体は、抗EGFR抗体、例えば、抗HER2モノクローナル抗体である。例示的な態様では、IgG1抗体は、トラスツズマブ、又はそのバイオシミラーである。トラスツズマブという用語は、表1に列挙される、すなわち配列番号1~8、21又は22に記載されるVH及びVL、又はVH-IgG1及びVL-IgGカッパ配列を含む、HER2/neu抗原に結合するIgG1カッパヒト化モノクローナル抗体を指す(CAS番号:180288-69-1、DrugBank-DB00072、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG)entry D03257を参照)。
【0100】
【表1】
【0101】
代替の態様では、IgG1抗体は、抗CD20抗体、例えば、抗CD20モノクローナル抗体である。代替の態様では、IgG1抗体は、リツキシマブ、又はそのバイオシミラーである。リツキシマブという用語は、表2に列挙される、すなわち配列番号11~18、23又は24に記載されるVH及びVL、又はVH-IgG1及びVL-IgGカッパ配列を含む、CD20抗原に結合するIgG1カッパキメラマウス/ヒトモノクローナル抗体を指す(CAS番号:174722-31-7、DrugBank-DB00073、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG)entry D02994を参照)。
【0102】
【表2】
【0103】
例示的な態様では、IgG1抗体は、抗TNFα抗体である。例示的な態様では、IgG1抗体は、インフリキシマブ、又はそのバイオシミラーである。インフリキシマブという用語は、表3に列挙される、すなわち配列番号25~34に記載されるVH及びVL、又はVH-IgG1及びVL-IgGカッパ配列を含む、TNFα抗原に結合するIgG1カッパキメラマウス/ヒトモノクローナル抗体を指す(CAS番号:170277-31-3;DrugBank-DB00065、Kyoto Encyclopedia of Genes and Genomes(KEGG)entry D02598を参照)。
【0104】
【表3】
【0105】
追加の工程
本明細書に開示する方法は、様々な態様において、追加の工程を含む。例えば、いくつかの態様では、本方法は、組み換えタンパク質(例えば、抗体)を産生し、精製し、製剤化することに関与する1つ以上の上流工程又は下流工程を含む。例示的な実施形態では、本方法は、組み換えグリコシル化タンパク質(例えば、抗体)を発現する宿主細胞を作製するための工程を含む。宿主細胞は、いくつかの態様では、原核宿主細胞、例えばE.コリ(E.coli)若しくはバチルス・サブチリス(Bacillus subtilis)であるか、又は宿主細胞は、いくつかの態様では、真核宿主細胞、例えば、酵母細胞、糸状菌細胞、原生動物細胞、昆虫細胞、若しくは哺乳動物細胞(例えば、CHO細胞)である。このような宿主細胞は、当該技術分野で記載されている。例えば、Frenzel,et al.,Front Immunol 4:217(2013)及び本明細書の「細胞」の節を参照されたい。例えば、本方法は、いくつかの例では、組み換えタンパク質又はそのポリペプチド鎖をコードするヌクレオチド配列を含む核酸を含むベクターを宿主細胞に導入することを含む。
【0106】
例示的な実施形態では、本明細書で開示する方法は、培養物から組み換えタンパク質(例えば、組み換え抗体)を単離及び/又は精製するための工程を含む。例示的な態様では、本方法は、以下に限定されないが、例えば、アフィニティークロマトグラフィー(例えば、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー)、イオン交換クロマトグラフィー、及び/又は疎水性相互作用クロマトグラフィーを含む1つ以上のクロマトグラフィー工程を含む。例示的な態様では、本方法は、組み換えタンパク質を含む溶液から結晶性生体分子を生成するための工程を含む。
【0107】
本開示の方法は、様々な態様において、組成物、例えば、いくつかの態様では、精製組み換えタンパク質を含む医薬組成物、を調製するための1つ以上の工程を含む。このような組成物について、以下で説明する。
【0108】
組成物
本明細書に記載される方法によって生成される組み換えグリコシル化タンパク質及び抗体を含む組成物もまた、本明細書において提供される。例示的な実施形態では、抗体組成物はグリカン(例えば、ガラクトシル化グリカン、末端β-ガラクトース、G1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種、非フコシル化グリカン、コアフコース、又はこれらの組み合わせ)の量を調節する方法によって調製される。例示的な態様では、抗体は、IgG1抗体である。したがって、増加又は減少したADCC活性を有するグリコシル化非フコシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)を含む抗体組成物(ここで、グリコシル化非フコシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)は、IgG1抗体組成物上のグリカン(例えば、ガラクトシル化グリカン、末端β-ガラクトース、G1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種、非フコシル化グリカン、コアフコース、又はこれらの組み合わせ)の量を調節する(例えば、増加又は減少させる)ことによって、対照又は参照抗体組成物と比較して、特定のADCC活性、又は増加若しくは減少したADCC活性を有するように操作されている)が本明細書において提供される。
【0109】
いくつかの実施形態では、組成物は、本明細書に記載される方法によって産生されるグリコシル化非フコシル化IgG1抗体(抗HER2抗体、抗TNFα抗体、又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)を含み、このIgG1抗体組成物は、参照IgG1抗体組成物と比較してADCC活性が増加又は減少しており、参照IgG1抗体組成物は、増加又は減少したADCC活性を有するIgG1抗体組成物内のIgG1抗体と同じ抗体配列を有する抗体を含有する。
【0110】
したがって、例示的な実施形態では、本開示の抗体組成物は、対照又は参照抗体と比較して任意の程度又はレベルにまでADCC活性が増加している。例示的な例では、本開示の方法を使用した、本明細書に開示する抗体組成物(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)のADCC活性の増加は、対照又は参照抗体組成物と比較して、少なくとも又は約1%~約100%の増加(例えば、少なくとも又は約1%の増加、少なくとも又は約2%の増加、少なくとも又は約3%の増加、少なくとも又は約4%の増加、少なくとも又は約5%の増加、少なくとも又は約6%の増加、少なくとも又は約7%の増加、少なくとも又は約8%の増加、少なくとも又は約9%の増加、少なくとも又は約9.5%の増加、少なくとも又は約9.8%の増加、少なくとも又は約10%の増加、少なくとも又は約15%の増加、少なくとも又は約20%の増加、少なくとも又は約25%の増加、少なくとも又は約30%の増加、少なくとも又は約35%の増加、少なくとも又は約40%の増加、少なくとも又は約45%の増加、少なくとも又は約50%の増加、少なくとも又は約55%の増加、少なくとも又は約60%の増加、少なくとも又は約65%の増加、少なくとも又は約70%の増加、少なくとも又は約75%の増加、少なくとも又は約80%の増加、少なくとも又は約85%の増加、少なくとも又は約90%の増加、少なくとも又は約95%の増加、少なくとも又は約100%の増加)である。例示的な実施形態では、本開示の方法を使用した、本明細書に開示する抗体組成物(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)のADCC活性の増加は、対照又は参照抗体組成物と比較して、100%超、例えば、少なくとも又は約125%、少なくとも又は約150%、少なくとも又は約175%、少なくとも又は約200%、少なくとも又は約300%、少なくとも又は約400%、少なくとも又は約500%、少なくとも又は約600%、少なくとも又は約700%、少なくとも又は約800%、少なくとも又は約900%、或いは少なくとも又は約1000%にもなる。例示的な実施形態では、本開示の方法を使用した、本明細書に開示する抗体組成物(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約5%~約400%の範囲内の量だけ増加する。例示的な実施形態では、抗体組成物のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約1.5倍、約2倍、約3倍、約4倍、或いは約5倍増加する。例示的な実施形態では、抗体組成物のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、又は約10倍増加する。例示的な実施形態では、本開示の方法を使用した、本明細書に開示する抗体組成物(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約0.5倍~約8倍の範囲内の量だけ増加する。
【0111】
代替の実施形態では、本開示の抗体組成物は、対照又は参照抗体組成物と比較して任意の程度又はレベルにまでADCC活性が減少している。例えば、本開示の方法を使用した、本明細書に開示する抗体組成物(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)のADCC活性の減少は、対照又は参照抗体組成物と比較して、少なくとも又は約1%~約100%の減少(例えば、少なくとも又は約1%の減少、少なくとも又は約2%の減少、少なくとも又は約3%の減少、少なくとも又は約4%の減少、少なくとも又は約5%の減少、少なくとも又は約6%の減少、少なくとも又は約7%の減少、少なくとも又は約8%の減少、少なくとも又は約9%の減少、少なくとも又は約9.5%の減少、少なくとも又は約9.8%の減少、少なくとも又は約10%の減少、少なくとも又は約15%の減少、少なくとも又は約20%の減少、少なくとも又は約25%の減少、少なくとも又は約30%の減少、少なくとも又は約35%の減少、少なくとも又は約40%の減少、少なくとも又は約45%の減少、少なくとも又は約50%の減少、少なくとも又は約55%の減少、少なくとも又は約60%の減少、少なくとも又は約65%の減少、少なくとも又は約70%の減少、少なくとも又は約75%の減少、少なくとも又は約80%の減少、少なくとも又は約85%の減少、少なくとも又は約90%の減少、少なくとも又は約95%の減少、少なくとも又は約100%の減少)である。例示的な実施形態では、本開示の方法を使用した、本明細書に開示する抗体組成物のADCC活性の減少は、対照又は参照抗体組成物のレベルと比較して、約100%超、例えば、少なくとも又は約125%、少なくとも又は約150%、少なくとも又は約175%、少なくとも又は約200%、少なくとも又は約300%、少なくとも又は約400%、少なくとも又は約500%、少なくとも又は約600%、少なくとも又は約700%、少なくとも又は約800%、少なくとも又は約900%、或いは少なくとも又は約1000%にもなる。例示的な実施形態では、本開示の方法を使用した、本明細書に開示する抗体組成物(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約5%~約400%の範囲内の量だけ減少する。例示的な実施形態では、抗体組成物のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約1.5倍、約2倍、約3倍、約4倍、又は約5倍減少する。例示的な実施形態では、抗体組成物のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、又は約10倍減少する。例示的な実施形態では、本開示の方法を使用した、本明細書に開示する抗体組成物(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)のADCC活性のレベルは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約0.5倍~約8倍の範囲内の量だけ減少する。
【0112】
例示的な態様では、本開示の抗体組成物は、グリカン(例えば、ガラクトシル化グリカン、G1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種、非フコシル化グリカン、コアフコース、又はこれらの組み合わせ)の量が、対照又は参照抗体組成物と比較して任意の程度又はレベルにまで増加した抗体を含む。例示的な例では、本開示の方法を使用した、本明細書に開示する抗体組成物(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)はグリカンの量が増加しており、グリカンは、対照又は参照抗体組成物と比較して、少なくとも又は約1%~約100%(例えば、少なくとも又は約1%、少なくとも又は約2%、少なくとも又は約3%、少なくとも又は約4%、少なくとも又は約5%、少なくとも又は約6%、少なくとも又は約7%、少なくとも又は約8%、少なくとも又は約9%、少なくとも又は約9.5%、少なくとも又は約9.8%、少なくとも又は約10%、少なくとも又は約15%、少なくとも又は約20%、少なくとも又は約25%、少なくとも又は約30%、少なくとも又は約35%、少なくとも又は約40%、少なくとも又は約45%、少なくとも又は約50%、少なくとも又は約55%、少なくとも又は約60%、少なくとも又は約65%、少なくとも又は約70%、少なくとも又は約75%、少なくとも又は約80%、少なくとも又は約85%、少なくとも又は約90%、少なくとも又は約95%、少なくとも又は約100%)増加している。例示的な実施形態では、抗体組成物はグリカンの量が増加しており、グリカンは、対照又は参照抗体組成物と比較して、100%以上、例えば、少なくとも又は約125%、少なくとも又は約150%、少なくとも又は約175%、少なくとも又は約200%、少なくとも又は約300%、少なくとも又は約400%、少なくとも又は約500%、少なくとも又は約600%、少なくとも又は約700%、少なくとも又は約800%、少なくとも又は約900%、或いは少なくとも又は約1000%さえも増加している。例示的な実施形態では、本開示の方法を使用した、本明細書に開示する抗体組成物(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)のグリカンのレベルは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約5%~約400%の範囲内の量だけ増加する。例示的な実施形態では、抗体組成物はグリカンの量が増加しており、グリカンは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約1.5倍、約2倍、約3倍、約4倍、又は約5倍増加している。例示的な実施形態では、抗体組成物はグリカンの量が増加しており、グリカンは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、又は約10倍増加している。例示的な実施形態では、本開示の方法を使用した、本明細書に開示する抗体組成物(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)はグリカンの量が増加しており、グリカンは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約0.5倍~約8倍の範囲内の量だけ増加している。
【0113】
例示的な態様では、本開示の抗体組成物は、グリカン(例えば、ガラクトシル化グリカン、G1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種、非フコシル化グリカン、コアフコース、又はこれらの組み合わせ)の量が、対照又は参照抗体組成物と比較して任意の程度又はレベルにまで減少した抗体を含む。例示的な例では、本明細書に開示する抗体組成物(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)はグリカンの量が減少しており、グリカンは、対照又は参照抗体組成物と比較して、少なくとも又は約1%~約100%(例えば、少なくとも又は約1%、少なくとも又は約2%、少なくとも又は約3%、少なくとも又は約4%、少なくとも又は約5%、少なくとも又は約6%、少なくとも又は約7%、少なくとも又は約8%、少なくとも又は約9%、少なくとも又は約9.5%、少なくとも又は約9.8%、少なくとも又は約10%、少なくとも又は約15%、少なくとも又は約20%、少なくとも又は約25%、少なくとも又は約30%、少なくとも又は約35%、少なくとも又は約40%、少なくとも又は約45%、少なくとも又は約50%、少なくとも又は約55%、少なくとも又は約60%、少なくとも又は約65%、少なくとも又は約70%、少なくとも又は約75%、少なくとも又は約80%、少なくとも又は約85%、少なくとも又は約90%、少なくとも又は約95%、少なくとも又は約100%)減少している。例示的な実施形態では、抗体組成物はグリカンの量が減少しており、グリカンは、対照又は参照抗体組成物と比較して、100%以上、例えば、少なくとも又は約125%、少なくとも又は約150%、少なくとも又は約175%、少なくとも又は約200%、少なくとも又は約300%、少なくとも又は約400%、少なくとも又は約500%、少なくとも又は約600%、少なくとも又は約700%、少なくとも又は約800%、少なくとも又は約900%、或いは少なくとも又は約1000%さえも減少している。例示的な実施形態では、本開示の方法を使用した、本明細書に開示する抗体組成物(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)のグリカンは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約5%~約400%の範囲内の量だけ減少する。例示的な実施形態では、抗体組成物はグリカンの量が減少しており、グリカンは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約1.5倍、約2倍、約3倍、約4倍、又は約5倍減少している。例示的な実施形態では、抗体組成物はグリカンの量が減少しており、グリカンは、対照又は参照抗体組成物と比較して、約6倍、約7倍、約8倍、約9倍、又は約10倍減少している。例示的な実施形態では、本明細書に開示する抗体組成物(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)は、対照又は参照抗体組成物と比較して、グリカンが約0.5倍~約8倍の範囲内の量だけ減少している。
【0114】
例示的な態様では、本開示の抗体組成物(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)は、ガラクトシル化グリカン、又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種を、総量で少なくとも若しくは約0.5%、少なくとも若しくは約1%、少なくとも若しくは約2%、少なくとも若しくは約3%、少なくとも若しくは約5%、少なくとも若しくは約7%、少なくとも若しくは約10%、少なくとも若しくは約15%、少なくとも若しくは約20%、少なくとも若しくは約25%、少なくとも若しくは約30%、少なくとも若しくは約35%、少なくとも若しくは約40%、少なくとも若しくは約45%、少なくとも若しくは約50%、少なくとも若しくは約55%、少なくとも若しくは約60%、少なくとも若しくは約65%、少なくとも若しくは約70%、少なくとも若しくは約75%、少なくとも若しくは約80%、少なくとも若しくは約85%、少なくとも若しくは約90%、少なくとも若しくは約95%、少なくとも若しくは約96%、少なくとも若しくは約97%、又は少なくとも若しくは約98%、或いは総量で少なくとも又は約0.5%~98%の範囲で、或いは総量で0%~100%の範囲で含む。
【0115】
例示的な態様では、本開示の抗体組成物(グリコシル化非フコシル化の抗HER2抗体、抗TNFα抗体又は抗CD20抗体(トラスツズマブ、インフリキシマブ又はリツキシマブを含む)など)は、ガラクトシル化グリカン、又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種、並びに非フコシル化グリカンを含み、ガラクトシル化グリカン、又はG1、G1a、G1b及び/若しくはG2ガラクトシル化種は、総量で少なくとも若しくは約0.5%、少なくとも若しくは約1%、少なくとも若しくは約2%、少なくとも若しくは約3%、少なくとも若しくは約5%、少なくとも若しくは約7%、少なくとも若しくは約10%、少なくとも若しくは約15%、少なくとも若しくは約20%、少なくとも若しくは約25%、少なくとも若しくは約30%、少なくとも若しくは約35%、少なくとも若しくは約40%、少なくとも若しくは約45%、少なくとも若しくは約50%、少なくとも若しくは約55%、少なくとも若しくは約60%、少なくとも若しくは約65%、少なくとも若しくは約70%、少なくとも若しくは約75%、少なくとも若しくは約80%、少なくとも若しくは約85%、少なくとも若しくは約90%、少なくとも若しくは約95%、少なくとも若しくは約96%、少なくとも若しくは約97%、又は少なくとも若しくは約98%、或いは総量で少なくとも又は約0.5%~98%の範囲で、或いは総量で0%~100%の範囲であり、非フコシル化グリカンは、総量で少なくとも約5%又は約5%超、或いは総量で約5%~100%である。
【0116】
例示的な実施形態では、本明細書で提供される抗体組成物は、薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤と組み合わされる。したがって、本明細書では、本明細書に記載される組み換えグリコシル化タンパク質組成物(例えば、抗体組成物)及び薬学的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤を含む医薬組成物が提供される。本明細書で使用する場合、「薬学的に許容可能な担体」という用語は、リン酸緩衝生理食塩水、水、油/水又は水/油エマルションなどのエマルション、及び様々なタイプの湿潤剤などの標準的な医薬担体のいくつかを含む。
【0117】
以下の実施例は、単に本開示を説明するために与えられ、決してその範囲を限定するものではない。
【実施例0118】
以下の実施例は、非フコシル化ガラクトシル化グリカンを含む特定のグリカンの増加又は減少によって、IgG1抗体及び抗体組成物のADCCエフェクター機能を調節することを記載する。これらの実施例は、種々のグリカン濃縮及びリモデリングツールを適用し、次いで、細胞をベースとしたエフェクター機能アッセイでグリカン操作されたmAbの影響を試験することによって、ADCC活性に対する治療用IgG1mAbのガラクトシル化の影響を示す。フコシル化mAb種及び非フコシル化mAb種の両方についてADCCに対する末端ガラクトースの詳細な影響を説明することができるように、所望のグリカン組成を有する材料を生成する努力がなされた。
【0119】
以下の実施例では、以下の材料方法を用いた。
【0120】
材料及び方法
治療用モノクローナル抗体のトラスツズマブ(抗HER2)、リツキシマブ(抗CD20)及びインフリキシマブ(抗TNFα)をCHO細胞中に発現させ、標準的な製造プロセスにより高濃度溶液として製造した。この研究で用いたmAbは、CD20、EGFRファミリーメンバーであるHER2、及びTNFαなどの受容体を標的としている。
【0121】
トラスツズマブ、リツキシマブ及びインフリキシマブ上の末端ガラクトース残基の酵素によるリモデリング
β-(1-4)-ガラクトシダーゼ(QA-Bio)及びβ-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ(Roche)のインビトロでの脱ガラクトシル化及びガラクトシル化能を利用して、トラスツズマブ、リツキシマブ及びインフリキシマブ用のガラクトースリモデリングシリーズの試料を作製した。ガラクトースを除去するために、トラスツズマブ、リツキシマブ及びインフリキシマブを、最初に、50mMのリン酸ナトリウム(pH6.0)を含有する反応緩衝液の存在下、1/50の比のβ-(1-4)-ガラクトシダーゼ(QA-Bio)と、37℃で1~2時間インキュベートした。次いで、プロテインAアフィニティークロマトグラフィー精製(ガラクトシダーゼ及び他の成分を除去するために使用される)を、Agilent1100シリーズHPLCシステムで、予め充填したプロテインAカラム(Poros PrA、Applied Biosystem)を用いて、3mL/分の流量で実施した。適切な量の各試料をカラムに注入した後、100%緩衝液A(20mMトリス-HCl/150mM NaCl、pH7.0)をカラムに1.4分間通し、続いて100%緩衝液B(0.1%酢酸)を2.9分間通し、その間に画分を集めた。溶出したmAbを含有する画分を、3kDaカットオフ膜を有するAmicon Ultra遠心フィルターを使用して所望の緩衝液系中に透析濾過した。
【0122】
次いで、ガラクトースを所定のレベルに戻すために、試料を、10mM UDP-ガラクトース、100mM MES(pH6.5)、20mM MnCl及び0.02%アジ化ナトリウムを含有する反応緩衝液中、37℃で、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ(Roche)と共にインキュベートした。酵素とmAbの最終的な比は6/1(μL/mg)であり、mAb濃度は2mg/mLである。異なる時点で反応混合物から試料を取り出し、続いて瞬間冷凍して反応を停止させることにより、異なるレベルのガラクトースを有するmAbを得た。β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼを、上記のようにプロテインAクロマトグラフィーによって除去した。ADCCアッセイのための最終mAb濃度は、通常、280nmでのUV吸光度に基づいて1mg/mLである。一般的には、ガラクトースリモデリング試料をアリコートし、ADCCアッセイの前に約80℃で保存した。
【0123】
末端ガラクトースを有する場合と有さない場合の非フコシル化トラスツズマブ及びリツキシマブの調製
最初に、トラスツズマブ及びリツキシマブ原薬(「DS」)を、Agilent 1100シリーズHPLCで、カスタマイズしたglycap-3Aカラム(低密度FcγIIIa受容体、3×150mm、Zepteon)を使用して、2つの画分(フロースルー及び溶出液)に分離した。移動相Aは、20mMトリス(pH7.5)、150mM NaClを含み、移動相Bは50mMクエン酸ナトリウム(pH4.2)であった。0.5mL/分の流量で勾配(0%Bで8分間保持、0%Bから18%Bへ22分間)を使用して、フコース濃縮(フロースルー)mAb及び非フコース/HM濃縮(溶出)mAbの両方を得た。非フコシル化種及びHM濃縮種の両方を含む溶出液画分を、Endo-H(QA-Bio、PN E-EH02)でさらに酵素処理して、高マンノース種を除去した。具体的には、50mMリン酸ナトリウムの反応緩衝液(pH5.5)中、37℃で、24時間、mAbをEndo-Hと共にインキュベートした。最終mAb濃度は4mg/mLである。
【0124】
Endo H処理した非フコシル化画分をβ-(1-4)-ガラクトシダーゼと共に異なる条件でインキュベートすることによって、末端ガラクトースを有する非フコシル化mAbと末端ガラクトースを有さない非フコシル化mAbとを調製した。具体的には、588μgの非フコシル化mAb1を60μLの容量で、12μLのβ-(1-4)-ガラクトシダーゼ(QA-Bio、20mMのトリス-HCl、25mMのNaCl、pH7.5中に3U/mL)、20μLの5×反応緩衝液(250mMリン酸ナトリウム、pH6.0)及び5μLの水と37℃で2時間インキュベートした。最終mAb濃度は6.1mg/mLであり、総容量は97μLであった。40μLの反応混合物を取り出し、上記のようにプロテインAクロマトグラフィーを用いてさらに精製した。この物質を非フコース濃縮G1物質として使用した。残りの57μLの反応混合物に、さらなるβ-(1-4)-ガラクトシダーゼ酵素(170μL)及び5×反応緩衝液を新たに添加し、続いて37℃で4時間インキュベートして、非フコシル化トラスツズマブ種からの末端ガラクトースの完全な除去を確実にした。反応混合物中の最終トラスツズマブ濃度は1.2mg/μLであった。生成した非フコシル化G0試料を、上記のようにプロテインAクロマトグラフィーを用いてさらに精製した。
【0125】
主にフコシル化G0F種を含有する、トラスツズマブに使用した対照試料もまた、フロースルー画分をβ-(1-4)-ガラクトシダーゼと共に、非フコシル化G0試料と同様の条件下(詳細は上記の段落に見出すことができる)でインキュベートすることによって生成した。このようなタイプの試料は、HM、非フコシル化及びガラクトシル化種が存在しないためにADCC活性がないと予想され、ADCCアッセイで所望の活性範囲が確保されるように、非フコース濃縮G1及びG0と種々の比率でブレンドするために用いた。mAb2 G0F、G1及びG0濃縮試料を、トラスツズマブと同様の方法で生成した。
【0126】
末端ガラクトースを種々のレベルで含むフコシル化トラスツズマブ及びリツキシマブの調製
glycap-3Aカラムからフロースルー画分を集め、β(1,4)ガラクトシダーゼで処理して末端ガラクトースを除去することにより、様々なレベルのガラクトースを含むフコシル化トラスツズマブ及びリツキシマブを生成した。次いで、G0F濃縮mAbを、10mMのUDP-ガラクトース、100mMのMES(pH6.5)、20mMのMnCl、及び0.02%のアジ化ナトリウムを含有する反応緩衝液中で、β-1,4-ガラクトシルトランスフェラーゼ(Roche)と共に37℃でインキュベートした。酵素とmAbの最終的な比は6/1(μL/mg)であり、mAb濃度は2mg/mLであった。異なる時点で反応混合物からアリコートを取り出し、続いて瞬間冷凍して反応を停止させることにより、異なるレベルのガラクトースを有するmAbを得た。プロテインAクロマトグラフィーを実施し、溶出液を、Amicon Ultra遠心フィルターを使用して所望の緩衝液系に透析濾過した。
【0127】
濃縮及びリモデリングしたグリカン種の特性評価
所望のグリカン特性及び最小レベルの高分子量種を確実にするために、濃縮及びリモデリングした全ての試料を、親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)及びサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で特性評価した。
【0128】
mAbからグリカンを酵素/基質(E/S)比1/25(μL/μg)のPNGアーゼF(New England BioLabs)を用いて放出させ、12mg/mLの2-アミノ安息香酸(2-AA、Sigma-Aldrich)で、反応混合物を80℃で75分間インキュベートすることにより標識した。2-AA標識グリカンを、蛍光検出器を備えたWaters Acuity又はH-Class UPLCシステムで、BEHグリカンカラム(1.7μm、2.1×100mm、Waters)を用いて分離した。カラム温度は55℃に維持した。移動相Aは100mMのギ酸アンモニウム(pH3.0)を含み、移動相Bは100%アセトニトリルであった。グリカンを高有機溶媒でカラムに結合させ、次いで、水性ギ酸アンモニウム緩衝液の勾配を増加させて溶出した(76%Bを5分間保持し、続いて14分間にわたって76%B~65.5%Bへの勾配により溶出した)。
【0129】
Agilent 1100HPLCシステムで、サイズ排除カラム(SEC)TSK-Gel G3000SWLXL(7.8×300mm、Tosoh Bioscience)を用い、流量0.5mL/分で、高分子量種の分析を行った。通常、20~40μgの試料をロードし、100mMのリン酸ナトリウム(pH6.8)及び250mMのNaClを含有する移動相を用いて、μgのサンプルをロードし、均一濃度で分離した。
【0130】
トラスツズマブのADCC活性に対する全非フコシル化トラスツズマブ(G0及びG1)の影響の実験的測定
ADCCに対する非フコシル化トラスツズマブの計算による全体的影響(これは、G0及びG1からの個々の影響、並びにDSロットに対するそれらの相対比に基づく)を確認するために、実験は全体的な非フコースの影響を直接測定するように設計された。
【0131】
非フコシル化G1及びG0を4:3の比で有するトラスツズマブDSロットを、Endo-H(QA-Bio)で処理し、続いてAgilent1100シリーズHPLCで、カスタマイズされたglycap-3Aカラム(低密度FcγIIIa受容体、3×150mm、Zepteon)を使用して、アフィニティークロマトグラフィーを実施した。Endo-H処理及びFcγIIIaアフィニティークロマトグラフィー手順の詳細は、上述した手順と基本的に同じであった。ガラクトシル化種及び非ガラクトシル化種の両方を含む非フコシル化トラスツズマブを、さらに分離せずに、種々の比率でG0F濃縮mAb1とブレンドし、続いてADCCアッセイを行い、ADCC活性に対する両種の全体的な影響を測定した。
【0132】
インビトロADCCアッセイ
ADCCアッセイを、エフェクター細胞としてFcγIIIa(158V)発現NK92(M1)細胞を使用し、標的細胞としてトラスツズマブにHCC2218細胞、リツキシマブにWIL2-S細胞、インフリキシマブにCHO MT-3細胞を用いて行った。標的細胞を最初にカルセイン-AMで標識した後、トラスツズマブについては3.3~2000ng/mL、リツキシマブについては0.0155~100ng/mL、インフリキシマブについては0.01024ng/mL~100000ng/mLの漸増濃度でインキュベートした。次いで、エフェクター細胞を、約1~2時間の間、25:1のE:T比で、オプソニン化標的細胞に添加した。溶解した標的細胞から放出されたカルセインを、Envision(Perkin Elmer)蛍光プレートリーダーで反応上清の蛍光を測定することによって決定した。SoftMaxProソフトウェアを使用する拘束4パラメーターフィットを使用してデータを平均蛍光値にフィットさせ、EC50標準/EC50試料比によって計算し、参照標準に対するADCC活性の割合として報告した。各アッセイを3回行い、平均及び標準偏差を報告した。
【0133】
抗原結合アッセイ
リツキシマブに対するCD20抗原結合アッセイを、蛍光阻害を報告する競合的アッセイフォーマットを利用して、ヒトβ-リンパ芽球様細胞株であるWIL2-S細胞を用いて行った。試験試料は、WIL2-S細胞の細胞表面発現CD20への結合について、参照標準の固定濃度のAlexa-488標識形態と競合する。0.5mg/mLのBSAを含有するPBS中で、4.92~3000ng/mLの最終濃度範囲まで8つの濃度にわたって段階希釈することによって、参照標準、アッセイ対照及び試験試料の用量応答曲線を作成した。Alexa-488標識競合体を最終的なウェル内濃度100ng/mLに希釈する。30,000細胞/ウェルに希釈した試料、競合体及びWIL2-S細胞を96ウェルプレートに2連で加え、プレートシーラーで密封する。次いで、プレートを室温で4.5~6時間インキュベートした後、Acumen(登録商標)eX3イメージングサイトメーター(TTP Labtech)で蛍光シグナルを測定する。蛍光シグナルの用量依存的減少が、試験試料の濃度の上昇に伴い検出される。参照標準試料に対する試験試料の相対CD20結合を報告する。SoftMaxProによる4パラメーター曲線フィットを使用してデータを平均発光値にフィットさせ、IC50標準/IC50試料を計算し、相対結合活性パーセントとして報告した。各試料を3つの独立したアッセイで試験し、最終結果を3回の測定の平均として報告する。トラスツズマブ結合アッセイを、SKBR-3を標的細胞として使用し、用量応答曲線を(0.016~10μg/mL)の範囲としたことを除いて、同様の方法で実施した。
【0134】
実施例1
IgG分子におけるADCC機能の高精度制御のための非フコシル化-ガラクトシル化及び非フコシル化-非ガラクトシル化グリカン基の組合せの使用
抗体のADCC活性を大きく増強する際のグリカン非フコシル化の役割は、この略20年にわたって知られている(Mizushima et al.,2011)が、ガラクトシル化又は高マンノースなどの他のグリカン構造の成分の寄与は、十分には理解されていなかった。例えば、ガラクトシル化のADCCへの影響に関する公表されたデータには議論の余地があった。グリカン構造の全体的な複雑さ及び不均一性には意味があり、一般的なモノクローナル抗体は多くは、20を超える個々のグリカン種を示す。グリカン-ADCC関係及びグリカン組成物の全体的な複雑さに関する理解が限られているため、治療用抗体に対するADCC機能の正確な制御は依然として困難であった。種々のグリカン群におけるグリカン構造の例を図2に示す。
【0135】
非フコシル化グリカン種のガラクトシル化は、非ガラクトシル化非フコシル化グリカン種と比較して、FcγRIIIa受容体へのIgG Fc領域の結合を直接的又はアロステリックな相互作用により増強させるという仮説が立てられた(図3B)。次に、モデリング法を用いて、ADCC活性に対して影響の最も大きいグリカン種を、トラスツズマブ抗体についてのADCC及びグリカンの試験結果からなる既存のデータセットによりスクリーニングし、同定した。グリカン-ADCCモデリングにより、図4Bに示すように、非フコシル化種のガラクトシル化がADCCを約2倍増強させることが確認された。
【0136】
モデリングの結果は、トラスツズマブ材料を用いた実験的な糖鎖工学研究により確認された。これらの糖鎖工学研究は、ガラクトシル化を伴う精製非フコシル化種(A2G1)のADCC活性が、ガラクトシル化を伴わない非フコシル化種(A2G0)と比較して、勾配の比較でそれぞれ20及び13と、約2倍高いことを示した(実施例2~4を参照)。さらなる糖鎖工学研究により、フコシル化種のガラクトシル化はADCCに有意な影響を及ぼさないことが確認された(データは示さず)。
【0137】
確立されたモデルを用いて、所望の目標ADCC範囲に基づくトラスツズマブグリカン種の設計空間を定義した(図4C)。増強されたグリカン-ADCCの理解及びモデル設計空間を用いて、非フコシル化、非フコシル化ガラクトシル化、及び高マンノースのための限界を組み合わせた対照戦略を開発し、全非フコシル化及び高マンノースの対照と比較してADCC活性に対するより強力な対照を確実にした。
【0138】
これらの実験は、非フコシル化ガラクトシル化が、個々のグリカン基の組成に対するADCC活性依存性の仮説主導のコンピュータ分析によって発見された、ADCCの調節を担うIgG分子における重要なグリカン基であることを示した。非フコシル化ガラクトシル化がADCCに最も強い影響を及ぼし、非フコシル化非ガラクトシル化がそれに続くことがわかった(グリカン群の定義については図2を参照)。フコシル化グリカンのガラクトシル化は、ADCC活性に対する寄与が最小であった。高マンノース群はADCCへの寄与が中程度~低程度であり、高マンノース群のレベルの変動が<5%であれば実質的に有意ではなかった。この発見は、(実施例2~4に記載するように)標的糖鎖工学実験によって後に確認された。非フコシル化ガラクトシル化群は、非フコシル化非ガラクトシル化グリカン種と比較して、ADCCの影響力は約2倍大きかった。いかなる特定の理論にも縛られることを望むものではないが、観察された差異は、FcγRlllaにより高い親和性で結合するためのFc領域の構造変化を引き起こすか、又はFcグリカンとFcγRllla受容体とのより高い親和性相互作用を指示する非フコシル化ガラクトシル化の能力によって引き起こされるようであった。この構造の仮説は、FcγRllla結合アッセイにおいて観察された同様の傾向によってさらに支持された。この知見は、イノベーター分子及びバイオシミラー分子の両方の所望の機能的ADCC標的を達成する治療用タンパク質のためのグリカン組成物の最適な選択、並びにADCCの制御戦略に適用可能である。
【0139】
実施例2
ADCC活性に対する末端ガラクトースの影響
FcγIIIa受容体結合及びその後のADCC活性に対する末端ガラクトースの効果を調べるための有効な方法は、脱ガラクトシル化及び/又は完全ガラクトシル化タンパク質を生成し、次いで、ADCC活性に対するガラクトースの影響を試験することであった。しかしながら、大部分の治療用IgG1は不均一なグリカン種の集団を含み、製剤内にはガラクトシル化されていない種、一部ガラクトシル化されている種、及び完全にガラクトシル化されている種の全てが存在する。さらに、完全にガラクトシル化された種(G2Fなど)は、一般的に他の2つのタイプの種と比較してわずかな割合でしか存在しない。例えば、Raju,T.S.,et al.,Glycoengineering of therapeutic glycoproteins:in vitro galactosylation and sialylation of glycoproteins with terminal N-acetylglucosamine and galactose residues.Biochemistry,2001.40(30):p.8868-76を参照されたい。したがって、IgG1のADCC活性に対するガラクトシル化の影響を評価するために、関連する全てのグリカン形態の役割を解読する機会が存在する。Fc N結合型グリカン種の一般的な形態(0、1又は2個のガラクトース残基を有するものを含む)を図2に示す。
【0140】
ガラクトシル化レベルの異なる試料を作製するために、まず、単一ロットのトラスツズマブ、リツキシマブ及びインフリキシマブ原薬(「DS」)をガラクトシダーゼで処理することにより、末端ガラクトースを除去した。次いで、β(1,4)ガラクトシルトランスフェラーゼ(GalTアーゼ)を用いて、制御された選択的な方法で末端ガラクトースを付着させた。試料の調製及びグリカン分析のための詳細な手順は、上述した実施例の材料及び方法のセクションに記載される。Gal付着実験において異なる時点で集めた試料は、異なるレベルのガラクトースを示しただけでなく、G1F及びG2Fなどの関連する全てのガラクトシル化種も含有していた。各mAb上の非フコシル化及び高マンノース種などの他の重要なグリカン種のレベルは、これらの操作において影響を受けず、これらの試料では、元のDSから一定に保たれた。ガラクトシル化レベルは意図的に変化し、数パーセント~約90%の広い範囲にわたった。末端シアリル化は、3種のmAb全てで、その低レベルのために示されなかった。
【0141】
異なるレベルのガラクトースを有するこれらのGalTアーゼの経時的試料、トラスツズマブ、リツキシマブ及びインフリキシマブを、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)、又は質量分析に基づくグリカン分析及びサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)法を用いて試験し、所望のグリカン組成が達成され、高分子量(HMW)種が存在しないことを確認した。対応するADCC機能アッセイで試験した全ての試料が予想されたグリカン種を含み、HMW種は測定不能であるか又は最小であることがわかった。トラスツズマブ(「mAb1」)、リツキシマブ(「mAb2」)及びインフリキシマブ(「mAb3」)について、末端ガラクトース、非フコース及び高マンノースを含むグリカン種のレベルを、それぞれ図6A、6B及び6Cの表に要約した。
【0142】
次いで、ガラクトース再操作mAbを、細胞ベースの機能アッセイにおいて試験して、ADCC活性に対するガラクトシル化の影響を決定した。図6に、トラスツズマブ(「mAb1」)、リツキシマブ(「mAb2」)、及びインフリキシマブ(「mAb3」)試料の相対ADCC活性を、末端ガラクトースの割合の関数として示す(G1F及びG1の両方が寄与したGal%を、G2Fなどの完全ガラクトシル化種に対して正規化した。Gal%の計算については上記の方法のセクションを参照されたい)。トラスツズマブ及びインフリキシマブのいずれについても、ADCCとGal%との間に正の相関が認められた。傾きによって表される影響係数(ADCC%/Gal%)は図6A及び6Cにそれぞれ示すように、トラスツズマブで2.8、インフリキシマブで0.3であった。対照的に、図6Bに示すように、末端ガラクトースはリツキシマブのADCC活性には影響を及ぼさないようであった。特に、トラスツズマブ及びインフリキシマブ抗体は非フコシル化が5%以上であり、リツキシマブ抗体は非フコシル化がわずか3%であった(図6A~6C参照)。
【0143】
これらの結果は、ADCC活性に対する末端ガラクトースの影響がmAb特異的であり得ることを示した。言い換えれば、末端ガラクトシル化は、特定のIgG1に対して正の影響を有するか影響を有さないかのいずれかであり得る。しかしながら、この結論は、フコシル化及び非フコシル化の両タイプの種が試験試料中に存在したので、フコシル化及び非フコシル化mAb上の末端ガラクトースが、それらのADCC活性に同様の影響を及ぼすという仮定によってのみ引き出すことができた。ADCC活性に対する末端ガラクトースの潜在的機能のより深い理解を持ち、ADCC活性のフコシル化/非フコシル化の潜在的影響を除外するために、非フコシル化mAb及びフコシル化mAbに対するガラクトシル化の影響を別々に調べるためにさらなる試験を行った。実施例3を参照されたい。
【0144】
グリカンの再操作/操作に関するもう一つの一般的な懸念は、標的細胞結合及びエフェクター機能活性の低下につながりうる抗原結合に意図せずに又は間接的に影響を及ぼす潜在的リスクである。トラスツズマブ及びリツキシマブの両方に対する競合的抗原結合アッセイを行い、末端ガラクトースを再操作したmAbの対応する抗原に対する相対結合活性を試験した。図7A及び7Bにそれぞれ示すように、トラスツズマブ及びリツキシマブの両方について、低、中及び高レベルのガラクトシル化を有する代表的な試料で変化はほとんど認められなかった。
【0145】
実施例3
非フコシル化mAbのADCC活性に対する末端ガラクトースの影響
非フコシル化mAb種に対するガラクトースの影響を評価するために、末端ガラクトースを有する非フコシル化種及び末端ガラクトースを有さない非フコシル化種の両方を生成した。実験計画では2つの因子を考慮した。第1に、代表的なmAb産生プロセスからのロットを出発物質と使用することによって、関連するグリカン種の影響に焦点を当てた。ここでは、非フコシル化G0及びG1グリカンが優勢な非フコシル化種であった。ガラクトースを含まない非フコシル化トラスツズマブ(G0)及びガラクトースを含む非フコシル化トラスツズマブ(G1)の両方は濃縮したが、他のグリカン属性(マンノースなど)は一定に保った。第2に、濃縮非フコシル化G0mAb及びG1mAbは、ADCC応答が非フコシル化種(ADCC活性に大きな影響を有することが知られている)の高含量のためにアッセイの作業範囲外であるため、直接測定することができなかった。したがって、最小のADCC活性を有すると予想されるG0Fグリカンを濃縮したmAbを、次に、非フコシル化G0及びG1種を濃縮した試料と種々の比でブレンドして、ブレンドした物質のADCC活性を各mAbのADCCアッセイの作業範囲に収まるようにした。
【0146】
非フコシル化mAb及びフコシル化mAbの濃縮手順を、図8のワークフローに示す。まず、FcγIIIa受容体ベースのアフィニティークロマトグラフィーを用いて、フコシル化種を非フコシル化及び高マンノース種から分離した。例えば、Bolton,G.R.,et al.,Separation of nonfucosylated antibodies with immobilized FcgammaRIII receptors.Biotechnol Prog,2013.29(3)p.825-828を参照されたい。次いで、フコシル化画分中のガラクトースを、ガラクトシダーゼを用いて除去して、優勢グリコフォームとしてG0Fを有するmAbを生成した。次に、FcγIIIa受容体カラムから溶出した画分において、endo-H処理によりmAbから高マンノースグリカンを最初に除去することによって、非フコシル化種をさらに濃縮した。次に、続いて、エンドH処理した試料を、わずかに異なる酵素条件下でガラクトシダーゼにより処理して(実験の詳細は方法のセクションに記載されている)、非フコシル化G0及びG1濃縮mAb試料を生成し、次いで、これらを3つの異なる比率でG0Fを濃縮したmAbとブレンドした後、ADCC活性を測定した。mAbについてインタクト質量分析を行い、各工程を注意深く観察し、濃縮材料をHILIC/質量分析に基づくグリカン分析によりさらに特性評価した。
【0147】
トラスツズマブのADCC活性に対する末端ガラクトースの影響を決定するために、G0F、G0及びG1濃縮サンプルを、上記の方法セクションに記載のように作製した。関連するグリカン情報を図9Aに示す。全非フコシル化レベルはG0及びG1濃縮試料で同等であった(37~38%)が、G1グリコフォームのレベルはG1濃縮試料で15%、G0濃縮試料で1%であった。G0濃縮試料をG0F濃縮試料と3つの異なる比率でブレンドして、G0-1で5%、G0-2で11%、G0-3で16%の非フコシル化トラスツズマブを含むG0系の試料を作製した。同様に、G1濃縮試料をG0Fとブレンドすることによって、G1系の試料を作製し、その非フコシル化レベルは、G1-1、G1-2及びG1-3でそれぞれ5%、11%及び16%であった。
【0148】
G0系試料(G0-1、G0-2、G0-3)とG1系試料(G1-1、G1-2、G1-3)のADCC活性を並行して分析した。トラスツズマブの参照標準(通常、他のDSロット及びDPロットの一次参照として機能する十分に特性評価されたDSロット)と比較して、トラスツズマブDSロットの出発物質は平均で111%のADCC活性を示し、一方、G0F濃縮試料は1%の平均活性を有した(図9B、黒色のバー)。これは、最初のDS物質がトラスツズマブ参照標準と同様の活性を有し、G0F濃縮mAbが高マンノース、非フコシル化及びガラクトシル化グリカン構造を有するトラスツズマブ種を除去したことによりADCC活性が最小になるという我々の予想と一致する。さらに、G1濃縮トラスツズマブ試料(G1-1、G1-2及びG1-3を含む)は、対応するG0試料のG0-1、G0-2及びG0-3のADCC活性(図9B、灰色のバー)よりも一貫して相対的に高いADCC活性を示した(図9B、パターンのあるバー)。さらに、図9Cに示すように、G0含量(上のパネル)及びG1含量(下のパネル)によるADCC活性については、定量的な線形相関が観察された。ADCC%/グリカン%として定義される影響係数は、G0では約13であり(図9Cの上、勾配)、G1では約21である(図9Cの下、勾配)。まとめると、ここで得られた結果は、末端ガラクトースを有する非フコシル化グリカンが末端ガラクトースを有さない非フコシル化グリカンよりも大きい影響を有することを示している。G1:G0の活性係数の比は、トラスツズマブについて約1.6である。
【0149】
これらの結果は、非フコシル化G0及びG1グリカン種がいずれもADCC活性を刺激することができ、非フコシル化複合型グリカンへのガラクトースの添加がより活性が高いことを示した。したがって、ADCC活性に対する特定のmAbの非フコシル化の全体的な影響は、非フコシル化G1種及び非フコシル化G0種の両グリコフォームが通常そのDSロット中に存在しているので、それらの相対レベルによって影響されるであろう。この研究で用いたDSロットは、G0種とG1種の相対比はトラスツズマブで4:3である。したがって、図9Cの個々の影響勾配とG1対G0の相対比に基づき、トラスツズマブのADCC活性に対する非フコシル化の全体的な影響係数(ADCC%/Afuc%)は、次のように計算することができる:13×4/7+21×3/7=16。
【0150】
このトラスツズマブADCCに対する非フコシル化の影響係数も実験的に測定した。簡単に記載すると、G0型及びG1型の両方を含む非フコシル化トラスツズマブを濃縮し、次いで、G0F濃縮トラスツズマブとブレンドして、種々のレベルの非フコシル化を有する一連の試料を作製し、次いで、ADCCアッセイを用いて分析した。結果は、図10に示すように、非フコシル化について測定された影響係数が18であることを示し、全体として計算された影響係数と一致した。実験の詳細は、上記の方法セクションに記載した。
【0151】
非フコシル化リツキシマブに関連するガラクトシル化の影響を理解するために、トラスツズマブと同様に、リツキシマブについても、非フコース及びガラクトースのリモデリング実験(図8に概要を示す)を実施した。これらの濃縮材料の非フコシル化グリカンレベルを図11A(下)に示す。G1濃縮リツキシマブ材料は、合計29%の非フコシル化種のうち12%のG1を有し、一方、G0濃縮材料は、わずか1%のG1と29%のG0とを有した。これは、出発物質が含有する非フコシル化種が低レベル(2%)であっても、所望の種の濃縮に成功したことを示した。トラスツズマブについて行ったのと同様に、次に、G0及びG1濃縮サンプルを3つの異なる比率でG0Fとブレンドした。これらのブレンド試料は、最終的に、G0-1及びG1-1で5%、G0-2及びG1-2で10%、G0-3とG1-3で15%の非フコシル化レベルを含んでいた。リツキシマブに特異的なADCCアッセイを用いて、G0系の試料(G0-1、G0-2、G0-3)、G1系の試料(G1-1、G1-2、G1-3)、出発DS材料、及びG0F濃縮材料についてADCC活性を測定した。
【0152】
トラスツズマブと同様に、リツキシマブのG1系は、対応するG0系よりも全体的に高いADCC活性を示した(図11A)。リツキシマブADCC活性とグリカンレベルとの間の活性係数(図11B、勾配)は、G0(上)で19であり、G1(下)で29であった。G1対G0の影響比は、リツキシマブで1.5であり、トラスツズマブ(1.6)と類似している。まとめると、トラスツズマブとリツキシマブの結果は、末端ガラクトースが非フコシル化mAbのADCC活性に有意な影響を及ぼすことを示した。
【0153】
実施例4
フコシル化mAbのADCC活性に対する末端ガラクトースの影響
フコシル化トラスツズマブ及びリツキシマブのADCC活性に対する末端ガラクトースの影響の評価も実施した。まず、FcγIIIaアフィニティークロマトグラフィーからフロースルーを回収し、ガラクトシダーゼにより処理し、ProAクロマトグラフィーで浄化することにより、対応するDSロットからG0F濃縮トラスツズマブ及びG0F濃縮リツキシマブを作製した(図8、左)。次に、β(1,4)ガラクトシルトランスフェラーゼによるmAbの酵素的リモデリングにより、末端ガラクトースをG0F種に加えた。このような酵素反応のインキュベーション時間を制御することにより、種々のレベルの末端ガラクトースを有する試料を得た。最後に、フコシル化トラスツズマブ及びフコシル化リツキシマブに対する末端ガラクトースの影響を、これらの異なるGal%を有する試料のADCC活性を、それらの対応する機能アッセイを用いて測定することにより評価した。トラスツズマブ(「mAb1」)及びリツキシマブ(「mAb2」)について得られた結果を、それぞれ図12A及び12Bに示す。参照標準と比較したこれらのフコシル化試料の相対ADCC活性は、トラスツズマブ及びリツキシマブともに低かった。最高レベルの末端ガラクトース(約90%)を有する最大ADCC活性は、トラスツズマブで15%未満、リツキシマブで40%未満である。さらに、影響係数(ADCC%/Gal%)が20を超える非フコシル化トラスツズマブ及び非フコシル化リツキシマブに対する末端Galの影響(図9及び図11)とは異なり、フコシル化トラスツズマブ及びフコシル化リツキシマブに対する末端Galの影響は非常に小さく、影響係数はmAb1で約0.1であり、mAb2で約0.2であった(図12A及び図12B)。0~90%の範囲のガラクトシル化はADCC活性に、それがフコシル化mAbと関連している場合、有意な影響を及ぼす可能性が低いことを、この結果は示した。換言すれば、ADCC活性に対する末端ガラクトースの影響は、コアフコースの非存在によって有意に影響され、フコシル化mAbに対するその影響は無視できるものであった。
【0154】
以下は、実施例2~4の結果の考察である。
【0155】
製品の品質属性の構造-機能関係を完全に理解することは、クオリティ・バイ・デザイン(QbD)パラダイムの下でのタンパク質製剤開発にとって極めて重要である。IgGのFc領域におけるN結合型グリコシル化はADCCなどの抗体エフェクター機能の調節に重要な役割を果たすことはよく知られているが、個々のグリカン種の寄与は完全にはわかっていない。これは、一つには、治療用抗体で一般に観察されるグリカン構造の複雑さ及び不均一性による。生物学的機能に対する個々のグリカン種の影響を包括的に理解することは、所望の範囲のエフェクター機能の達成に最も関連する属性に焦点を当てることによって、制御戦略を最適化するのに役立ち得るであろう。
【0156】
本研究では、ADCCに対するガラクトシル化と非フコシル化の相互に関連する効果がトラスツズマブとリツキシマブの両方で明らかになった。末端ガラクトースは、主に非フコシル化mAbに存在するとADCC活性を増加させたが、フコシル化種では増加させなかった。重要な品質属性としての非フコシル化IgG1に関連するガラクトシル化の確認は、FcグリカンがどのようにADCCを調節するかを理解するための有意な進歩である。このような徹底した理解は、生物学的製剤のための属性に焦点を当てた開発戦略の確立の促進に役立ち、非フコシル化末端ガラクトシル化などの重要な属性を制御することによって目標とする製品プロファイルの獲得を確実にする。一方、それはまた、フコシル化種に関連するガラクトシル化のような重要でないグリカン属性のための適切な柔軟性又は設計空間を可能にする。これらの結果は、ADCC活性に対する末端ガラクトースの影響をmAbについて評価する場合、非フコシル化種に対する末端ガラクトースとフコシル化種に対する末端ガラクトースを区別する必要性を強調している。さらに、末端ガラクトースを含む非フコシル化グリカンと末端ガラクトースを含まない非フコシル化グリカンの、特定のmAbのADCCに対する影響係数が得られれば、それらを用いて非フコシル化の全体的な影響係数を計算することができる。これは、例えば、トラスツズマブを使用することによって確認され、非フコシル化の計算による影響係数は実験で測定された値と良好に一致する。これは、非フコシル化G0対非フコシル化G1の比がロットごとに異なる場合に特に有用であり、その理由は、非フコシル化の過度の影響を、時間のかかる実験を行う必要なしに予測され得るからである。
【0157】
トラスツズマブとリツキシマブの両方で観察されるグリカンの相互に関連する作用は、トラスツズマブとリツキシマブが異なる抗原を標的とし、末端ガラクトシル化の影響を評価するために異なる標的細胞を用いた異なる分子に特異的なADCCアッセイを有することを考えると、他のIgG1分子にも適用できる可能性がある。
【0158】
ADCC活性の重要なグリカン属性としての非フコシル化末端ガラクトースの確認が、非フコシル化末端ガラクトースとフコシル化末端ガラクトースが分離されなかった図6に示すように、トラスツズマブ(「mAb1」)、リツキシマブ(「mAb2」)、及びインフリキシマブ(「mAb3」)についての末端ガラクトースの総合的な影響評価の結果と一致することもまた注目に値する。具体的には、末端ガラクトースのADCC活性への影響の程度は、それらの対応する傾きによって示されるように、トラスツズマブ(「mAb1」)>インフリキシマブ(「mAb3」)>リツキシマブ(「mAb2」)の順であり、これは、トラスツズマブ(「mAb1」)(8%)、インフリキシマブ(「mAb3」)(5%)及びリツキシマブ(「mAb2」)(3%)における非フコシル化種の割合と同じ傾向である。フコシル化ガラクトシル化の寄与は無視できるものであった。図6Bに示すように、リツキシマブADCCに対するガラクトースの影響係数が全体的に低かった(約0)ことは注目すべきことである。理論に束縛されるものではないが、この観察は、分子に特異的なADCCアッセイの変動とバックグラウンドノイズが混合された、この試料中の非フコシル化グリコフォームの低い含量によるものであろう。これらの知見は、ADCC機能に対する末端ガラクトースの影響を研究するための任意の努力がコアフコースを説明する必要があることをさらに強調する。本研究で得られた知見はまた、末端ガラクトースのADCC活性に及ぼす影響の報告に一貫性がない(影響がない、又は正の影響がある)理由を説明することができよう。β(1,4)ガラクトシルトランスフェラーゼ処理は、フコシル化種及び非フコシル化種の両方に末端ガラクトースを加えることができる(Warnock,et al.,In vitro galactosylation of human IgG at 1kg scale using recombinant galactosyltransferase.Biotechnol Bioeng,2005.92(7):p.831-42)ので、特定のmAbのADCCに対するガラクトシル化全体の影響は、非フコシル化グリカン種及びフコシル化グリカン種の相対レベルに依存し、mAbが最小レベルの非フコシル化グリカン種を有する場合、検出されるガラクトースの影響は無視できる程度であり得、mAbがより高いレベルの非フコシル化種(例えば、5%以上の非フコシル化)を有する場合、有意な影響が予想され得る。
【0159】
ガラクトースが非フコシル化mAb及びフコシル化mAbのADCC活性に対しいかにして影響を及ぼすかについての構造的基礎は明らかではない。IgG1上の末端ガラクトースはFcγIIIa受容体に直接結合することができ、且つ/又は抗体の構造変化を引き起こすことにより、IgG1の受容体への結合に間接的に影響することができる。いくつかの異なるグリカン形態を有するIgG1 Fc断片の結晶構造に基づき、ガラクトシル化(主にフコシル化されている)がFc構築物中のCH2ドメイン間の空間距離を増加させ、これによりFcγIIIa受容体に結合するより多くのアミノ酸残基が露出され得ると示唆された。例えば、Krapp,S.,et al.,Structural analysis of human IgG-Fc glycoforms reveals a correlation between glycosylation and structural integrity.2003,325,979-989を参照されたい。一方、水素/重水素交換(H/DX)の使用による、異なるレベルの末端ガラクトース(G0、G1及びG2)を有する非フコシル化IgGでは、構造の差は観察されなかった。例えば、Houde,D.,et al.,Post-translational modifications differentially affect IgG1 conformation and receptor binding.Mol Cell Proteomics,2010.9(8):p.1716-28を参照されたい。受容体とmAb間の特有の炭水化物-炭水化物相互作用の発見は、Fcγ受容体に対する非フコシル化IgG1対フコシル化IgG1の結合親和性が100倍にも達する理由を明らかにした。Ferrara,C.,et al.,Unique carbohydrate-carbohydrate interactions are required for high affinity binding between FcγRIII and antibodies lacking core fucose.PNAS,2011(108),p.12669-12674。
【0160】
グリコシル化は主要な翻訳後修飾の1つであり、タンパク質フォールディング、構造、分布、安定性及び活性に有意な潜在的効果を有する。G0及びG1の両グリカン形態を有するIgG1がヒト血清中に少なくとも低レベルで存在することを考えると(例えば、Flynn,G.C.,et al.,Naturally occurring glycan forms of human immunoglobulins G1 and G2.2010,Molecular Immunology,2010(47),2074-2082を参照)、天然に存在する抗体のエフェクター機能に対するガラクトシル化及び非フコシル化についての相互に関連するグリカンの影響の関連性を考慮することが有益であり得る。このような相互作用によって、免疫系がこの種の重要な細胞活性に対してより微妙な調節及び制御を行うことが可能になり得る。このような制御がADCCを含む適応免疫応答に存在するかどうかを明らかにするために、さらなる抗体及び関連する実験系を使用する実験が今後行われる必要がある。
【0161】
要約すると、ADCC活性に対する末端ガラクトースの生物学的影響の包括的評価が複数のIgG1で行われた。出願人らの結果は、ADCC活性に対する末端ガラクトースの影響の程度がコアフコース構造の有無に依存することを示している。非フコシル化mAbに対する末端ガラクトースはADCC活性に有意な影響を示したが、フコシル化グリカン構造に関連した末端ガラクトースでは観察された影響は極めて小さかった。このようなグリカン構造が生物活性にどのように影響するかについての深い知識は、QbDパラダイムにおける目標の製品品質プロファイルの確立及び属性に焦点を当てた製品開発の確保に重要な役割を果たす。
【0162】
選択的参照文献
以下の参考文献は、背景及び実施例を通して引用されている。
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23.Warnock,D.,et al.,In vitro galactosylation of human IgG at 1kg scale using recombinant galactosyltransferase.Biotechnol Bioeng,2005.92(7):p.831-42.
24.Ferrara,C.,et al,Unique carbohydrate-carbohydrate interactions are required for high affinity binding between FcγRIII and antibodies lacking core fucose.PNAS,2011(108),p.1 2669-12674
25.Flynn,G.C.,et al,Naturally occurring glycan forms of human immunoglobulins G1 and G2.2010,Molecular Immunology,2010(47),2074-2082
26.Bolton,G.R.,et al.,Separation of nonfucosylated antibodies with immobilized FcgammaRIII receptors.Biotechnol Prog,2013.29(3):p.825-828
27.Krapp,S.,et al,Structural analysis of human IgG-Fc glycoforms reveals a correlation between glycosylation and structural integrity.2003,325,979-989
【0163】
本明細書で引用される全ての刊行物、特許及び特許出願は、各々の個々の刊行物、特許又は特許出願が具体的且つ個別に参照により組み込まれるとあたかも示されたかのように、参照により本明細書に組み込まれる。上記の発明は、理解を明確にする目的で、説明や例によってある程度詳細に記載されているが、本開示の教示に照らして、開示された実施形態の精神又は範囲から逸脱することなく、それに対して特定の変更及び修正がなされ得ることは、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で使用される項目の見出しは、単に構成を目的とするものに過ぎず、記載される主題を限定するものと解釈されるべきではない。
【0164】
本明細書における値の範囲の記載は、本明細書に別段の指示がない限り、単に、その範囲及び各端点にある別個の値の各々を個々に指す簡略法の役目をするものに過ぎず、別個の値及び端点の各々は、それが個々に本明細書に記載されているかのように本明細書に組み込まれる。
【0165】
本明細書に記載される全ての方法は、本明細書に別段の指示がない限り又は文脈と明確に矛盾しない限り、任意の適切な順序で実施することができる。本明細書で提供されるあらゆる例又は例示的な語(例えば、「など」)の使用は、単に本開示をさらに明らかにするものであり、別段の主張がない限り、本開示の範囲に限定を課すものではない。本明細書におけるいかなる語も、任意の特許請求されていない要素を本開示の実施に必須として示していると解釈されるべきではない。
【0166】
本開示を実行するために、本発明者らには既知の最良の形態を含む、本開示の好ましい実施形態が本明細書に記載される。それらの好ましい実施形態の変形形態は、上述の記載を読めば、当業者には明らかになるであろう。本発明者らは、当業者が必要に応じてこのような変形形態を採用することを期待し、また、本発明者らは、本明細書で具体的に記載されている形態以外で本開示が実施されることを意図している。したがって、本開示は、適用される法により認められるとおり、本明細書に添付される特許請求の範囲に列挙される主題の全ての変更形態及び均等物を含む。さらに、上記の要素の全ての可能な変形形態におけるそれらの要素の任意の組合せが、本明細書に別段の指示がない限り又は文脈と明確に矛盾しない限り、本開示に包含される。
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図9C
図10
図11A
図11B
図12A
図12B
【配列表】
2024112905000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2024-05-29
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物の抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性を制御する方法であって、
(1)グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を決定する工程;及び
(2)前記組成物内のIgG1抗体のコンセンサスグリコシル化部位におけるグリカン種中の末端β-ガラクトースの量を増加又は減少させることによって、前記グリコシル化非フコシル化IgG1抗体組成物のADCC活性を増加又は減少させる工程
を含む方法。
【外国語明細書】