(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112970
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】生物細胞を溶解するための手段および方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/42 20060101AFI20240814BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C12M1/42
C12M1/00 A
C12M1/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024086246
(22)【出願日】2024-05-28
(62)【分割の表示】P 2021521559の分割
【原出願日】2019-06-28
(31)【優先権主張番号】18180927.8
(32)【優先日】2018-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】521002017
【氏名又は名称】プレオミクス・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】PREOMICS GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クルカ,ニルス・アー
(72)【発明者】
【氏名】リバイロ-セリンクシ,フィニシウス
(57)【要約】 (修正有)
【課題】細胞物質を溶解および均質化するための装置を提供する。
【解決手段】(a)容器と、(b)前記容器内の磁石と、(c)音響周波数から超音波周波数までの周波数、好ましくは超音波周波数を用いて前記磁石の運動を誘発するための手段とを含むまたはこれらからなる、装置とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)容器と、
(b)前記容器内の磁石と、
(c)音響周波数から超音波周波数までの周波数、好ましくは超音波周波数を用いて前記磁石の運動を誘発するための手段とを含むまたはこれらからなる、装置。
【請求項2】
前記手段は、(a)前記容器の外部に配置され、および/または(b)少なくとも1つのコイルであり、
(ba)前記少なくとも1つのコイルは、(i)前記少なくとも1つのコイルを電源に接続するための手段を備え、および/または(ii)電源に接続され、および/または、
(bb)前記少なくとも1つのコイルは、1~1000、好ましくは1~10、より好ましくは2つの巻線を有する、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記コイルは、前記容器を取り囲む、請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記電源は、(a)交流電流、および/または(b)パルス電流、例えば5~30秒の休止期間によって区切られた2~10回の30~120秒のパルス電流を供給する、請求項2または3に記載の装置。
【請求項5】
前記周波数は、約2kHz~約1MHz、好ましくは約10kHz~約400kHz、より好ましくは約15kHz~約50kHz、例えば20kHzである、先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記装置は、溶解ビーズを含まない、先行する請求項のいずれか一項に記載の装置。
【請求項7】
装置であって、
(a)整列された容器を受容するように構成された整列された孔を有するプレートと、
(b)整列されたコイルとを含みまたはこれらからなり、
少なくとも2つの孔、好ましくは各々の孔は、少なくとも1つのコイルによって取り囲まれる、装置。
【請求項8】
前記装置は、前記コイルが印刷された回路基板である、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
請求項8に記載の装置を製造するための方法であって、
前記方法は、回路基板上に整列されたコイルを印刷することを含み、
前記整列されたコイルは、好ましくは、96、384または1536個のコイルを含むまたはこれらからなる、方法。
【請求項10】
細胞物質および/またはウイルスを溶解するための方法であって、
前記方法は、
(a)請求項1から6のいずれか一項に記載の装置を提供することを含み、前記容器は、前記細胞物質および/または前記ウイルスのサンプルを含み、
(b)前記装置内の磁石の運動を誘発することを含み、
これによって、前記細胞物質または前記ウイルスを溶解する、方法。
【請求項11】
細胞物質および/またはウイルスを溶解するための方法であって、
前記方法は、
(a)請求項7または8に記載の装置を提供することと、
(b)各々の容器が少なくとも1つのコイルによって取り囲まれるように、前記装置を整列された容器と組み合わせることとを含み、各々の容器は、磁石と、細胞物質のサンプルとを含み、
(c)前記容器内の磁石の運動を誘発することとを含み、
これによって、前記細胞物質または前記ウイルスを溶解する、方法。
【請求項12】
細胞物質および/またはウイルスを溶解するための請求項1から8のいずれか一項に記載の装置の使用。
【請求項13】
前記細胞物質は、骨などの組織および植物材料から選択される、請求項10または11に記載の方法または請求項12に記載の使用。
【請求項14】
(a)容器と、
(b)磁石と、
(c)前記容器に配置された前記磁石の超音波運動を誘発するための手段とを含むまたはこれらからなる、キット。
【請求項15】
(a)整列された容器と、
(b)前記整列された容器内の容器を受容するように構成された整列されたコイルと、
(c)前記整列された容器内の容器の数と同様の数を有する複数の磁石とを含むまたはこれらからなる、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(a)容器と、(b)容器内の磁石と、(c)音響周波数から超音波周波数までの周波数、好ましくは超音波周波数を用いて磁石の運動を誘発するための手段とを含むまたはこれらからなる装置に関する。
【0002】
本明細書は、特許出願および製造マニュアルを含む多くの文献を引用する。これらの文献の開示は、本発明の特許性に関連するものではないが、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。より具体的には、引用された全ての文献は、個々の文献が参照により組み込まれることを具体的に示す程度と同様の程度で、参照により組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
細胞物質の溶解および均質化は、生物物質の分析に必須な処置である。実験室において、細胞溶解を用いて、細胞外基質を破壊し、細胞を開放することによって、細胞の内容物を研究する。最も一般的な溶解手段は、酵素破壊、化学破壊および機械破壊である。通常、酵素破壊および化学破壊が採用されるが、機械破壊は、頑丈な材料に対してより良好な信頼性、速度および効率を有するため、しばしば使用される。強力な化学方法は、分析対象物を著しく損傷または修飾することがあり、酵素は、分析対象物と干渉することがある。
【0004】
最も一般的な機械溶解方法は、反復凍結融解サイクル、研磨、圧力、濾過、剪断、ビーズミリング、または超音波処理である。方法の選択は、後続の分析対象物および方法の全体的な処理能力によって異なる。凍結融解サイクルは、高処理能力を有するが、細胞膜を容易に破壊できるが、結合組織を効率的に破壊できないソフト溶解方法である。また、凍結融解サイクルは、時間がかかる。研磨は、しばしば、筋肉組織または骨のような非常に頑丈な材料を処理する場合に選択されるが、処理能力および表面結合によって感度が制限される。フレンチプレスなどの装置に圧力を加えることは、圧力を利用して、細胞を破壊し、均質化する。この方法は、溶液中の頑丈な細胞物質を大量に効率的に溶解できるが、全体的な処理能力が低く、より大きな組織材料または植物材料を殆ど溶解できない。濾過は、圧力方法と同様に、フィルタを通るように小さい材料を押すことによって、材料の破裂を誘発する。この方法は、多くの場合、大きな濾過表面に起因する材料損失を引き起こす。ULTRA-TURRAX(登録商標)ホモジナイザなどの剪断方法は、切断ブレードを使用して、材料を効率的に切断し、剪断する。この方法は、殆どの組織材料に対して最も効率的な方法であるが、処理能力が制限される。また、この方法は、持ち越し汚染を引き起こし、意図しない結合によって感度が制限される。ビーズミリング方法は、複数のサンプルを並列に処理できるため、多くの場合、高処理能力を必要とするときに使用される。典型的には、サンプルにビーズを加え、その後サンプルを強く振とうする。ビーズが衝突すると、強い圧力差を引き起こし、大きな材料を同時に研磨すると共に、小さな材料を破壊する。新型のビーズミリング機器は、多方向振とうを使用して、ビーズを効率的に衝突させ、任意の方向に前進させる。ビーズミリング方法の主な欠点は、器具のサイズおよび複雑さ並びにビーズの大きな表面積による望ましくないサンプル損失である。
【0005】
超音波処理は、低程度から中程度までの頑丈な材料、例えば細胞物質または筋肉を効率的に溶解および均質化するための方法である。しばしば超音波を使用して、DNAを剪断および溶解すると共に、サンプルを混合する。超音波処理方法は、外部超音波処理およびプローブ型ソニケータによる超音波処理との2つの主な種類を含む。外部超音波処理の場合、超音波は、サンプルを含む装置を貫通する必要がある。プローブ型ソニケータ超音波による処理の場合、ソニケータのプローブをサンプルに浸漬する必要がある。外部超音波処理は、典型的には水浴を使用し、より高い処理能力および均一な溶解を達成できるが、サンプルと直接に接触していないため、強度が制限される。プローブ型ソニケータ超音波による処理は、効率的であるが、各サンプルを順次に調製する必要があるため、処理能力が低く、および/または複数先端のプローブを使用する場合均一にならない。
【0006】
従来技術の欠点に鑑みて、生物細胞を溶解するための手段および方法を改善する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
この技術的な課題は、添付の特許請求の範囲の主題によって解決される。
したがって、第1の態様において、本発明は、a)容器と、(b)容器内の磁石と、(c)音響周波数から超音波周波数までの周波数、好ましくは超音波周波数を用いて前記磁石の運動を誘発するための手段とを含むまたはこれらからなる装置に関する。
【0008】
本明細書の背景技術の部分から分かるように、第1の態様に係る装置は、好ましくは、細胞物質を溶解するために構成される。本明細書における「細胞の」という用語は、生物の基本構成要素である細胞に関連することを意味する。細胞は、動物細胞および植物細胞並びに細胞を含む組織、特に当技術分野において既定の手順を用いて溶解することが難しい骨などの組織または植物材料を含む。細胞および組織は、好ましくは、インビトロまたはエクスビボで単離される。
【0009】
最も広い定義において、容器および磁石は、いずれも特に制限されない。しかしながら、第1の態様に係る装置の特徴(c)は、磁石の運動を誘発するための手段が、容器内で効果を示すことを示唆している。例えば、運動を誘発するための手段が磁場であるまたは磁場を含む場合、容器の材料は、磁場を(完全に)遮蔽しない。
【0010】
(b)に記載の磁石は、磁場を永久的にまたは一時的に生成する任意種類の材料を含んでもよく、またはその材料から形成されてもよい。用語「一時的」は、材料を磁場に配置する時に、磁気特性または強い磁気特性を示すことを意味する。本発明において「磁気特性」という用語は、磁場の発生を含む。
【0011】
材料に関して、フェリ磁性材料および強磁性材料の両方は、好ましい。公知の強磁性材料は、鉄、ニッケルおよびコバルト並びにそれらの合金である。また、一部の希土類金属の合金は、強磁性を示す。このような希土類金属の一例として、ネオジムが挙げられる。特に好ましい希土類金属の合金は、ネオジム、鉄およびホウ素を含む合金である。例示的な合金は、Nd2Fe14Bである。
【0012】
フェリ磁性材料の例は、マグネタイト(Fe3O4)が挙げられる。
磁石の運動を誘発するための手段は、好ましくは容器(下記参照)の外部に配置される。したがって、上述したように、容器は、手段(c)と磁石(b)の磁場との相互作用を可能にする材料で作製されなければならない。好ましい材料は、合成材料、プラスチックまたはガラスを含む。好ましい材料は、以下にさらに説明される。
【0013】
「音響周波数」および「超音波周波数」という用語は、当技術分野において既定の意味を有する。好ましくは、「音響周波数」という用語は、20~20000Hz以内の周波数を指す。20kHzを超える周波数は、超音波周波数と呼ばれる。
【0014】
用語「超音波」は、明確な上限を有しない。本発明によれば、好ましい実施形態において、超音波周波数は、20kHz~100MHzの範囲にある。さらに好ましい範囲は、以下に説明される。
【0015】
上述したように、20kHzは、一般的に、音響周波数と超音波周波数とを分離する特定の周波数値である。明瞭性のために、20kHzという値は、本開示における「音響周波数」という用語に含まれる。
【0016】
基本的に、3つの要素(a)~(c)は、細胞を溶解することができる装置を構成するのに十分である。上述したように、第1の態様に係る装置は、さらなる要素を備えてもよい。この点に関する好ましい実施形態は、以下にさらに説明される。
【0017】
従来技術において、生物材料を含み得る容器内に配置された磁石は、一般的には撹拌の目的で使用される。(本明細書の背景技術の部分でより詳細に検討したように)当技術分野において既定の細胞を溶解するための方法として、ビーズミリングは、好ましい方法の1つである。溶解対象の細胞を含む溶液または懸濁液を撹拌することによって、溶解ビーズ(ビーズミリングに使用されるビーズ)の作用を増強することができると考えられる。換言すれば、溶解対象の生物材料を含む容器に磁石を入れることは、従来技術によく使用される。しかしながら、この場合の磁石は、撹拌素子として、溶解ビーズと協働する。
【0018】
本発明は、従来技術とは本質的に異なる。第1に、溶解ビーズを完全に省くことが好ましい。従来技術とは逆に、本発明による溶解は、単一の磁石で十分である。重要なことに、この磁石は、一般的に溶液または懸濁液を撹拌する目的で使用される比較的低い(各々8.3Hzおよび25Hzに対応する約500rpm~1500rpm)周波数で作動されるのではない。むしろ、この磁石は、超音波周波数または音響周波数、好ましくは高音響周波数で作動される。本発明に使用された高音響周波数は、2kHz~20kHzまでの周波数である。
【0019】
驚くべきことに、本発明者らは、溶解ビーズを含まず、1つまたは非常に少ない磁石を含む装置が、細胞を溶解するために使用される場合、優れた性能を示すことを発見した。本明細書に添付の比較例からわかるように、当技術分野において既定のビーズミリング方法を超える性能が観察された。
【0020】
これは、驚くべきことだけではなく、さらに有利である。本明細書において上述したように、頻繁に使用されているビーズミリング方法は、非常に多くの小さいビーズを使用するため、大量の材料がビーズの大きな表面上に吸着することによって損失するという欠点がある。本発明は、この欠点を克服する。
【0021】
さらなる利点は、ビーズミルよりも、1つまたは少数の磁石を溶解材料から容易に分離できることである。
【0022】
本発明に使用されるコイルが非常に簡単であるため、第1の態様に係る装置の設計は、非常に簡単で費用効率が高い。また、本発明の装置は、高い処理能力に適する。これは、本発明の第2の態様に係る装置に関連してより詳細に説明される。
【0023】
好ましい実施形態において、(c)に記載の手段は、(a)容器の外部に配置され、および/または(b)少なくとも1つのコイルであり、(ba)少なくとも1つのコイルは、(i)少なくとも1つのコイルを電源に接続するための手段を備え、および/または(ii)電源に接続され、および/または(bb)少なくとも1つのコイルは、1~1000、好ましくは1~10、より好ましくは2つの巻線を有する。
【0024】
装置が2つ以上のコイルを含む場合、2つ、3つ、4つまたは5つのコイルなどの一桁のコイルが好ましく、2つのコイルが好ましい。全体として、1つのコイルが最も好ましい。2つ以上のコイルを有する場合、各々のコイルは、同一数の巻線を有することが好ましいが、必要ではない。コイル間距離は、2個以上のコイルを使用できる限り、特に限定されない。一般的に、全てのコイルは、容器を取り囲む。2つの隣接するコイル間の典型的な距離は、容器内の磁石の最大寸法である。
【0025】
第1の態様に係る装置の好ましい構成において、(c)に記載の手段は、容器の外部に配置される。典型的には、容器の壁は、磁石と手段との間にある。
【0026】
好ましい実施形態の(b)に記載のコイルは、少なくとも1つの電磁コイルである。すなわち、このコイルは、導電体から作られる。導電体に電流が流れると、磁場が生成される。コイルによって生成されたこの磁場は、磁石の運動を誘発する。多くの実装において、コイルは、銅、銀、金、スズ、およびこれらの金属のうち1つ以上の金属を含む合金を含む当技術分野において既定の材料で作られた電気導体で作られたワイヤである。巻線の好ましい数は、上記に記載されている。特に好ましくは、巻線の数は、2、3、4、5、6、7、8、9または10である。コイルは、20、30、40、50、60、70、80、90、100、または数百個の巻線を有してもよい。
【0027】
さらに、理解すべきことは、コイルに電流を流すためには、電源が必要であることである。この電源は、第1の態様に係る装置の一部であってもよい。コイルは、好ましくは、電源に接続するための手段を含む。
【0028】
電源は、交流電流を供給してもよく、または直流電流を供給してもよい。好ましい実施形態において、電源は、パルス電流を供給することができる。好ましい実施形態において、パルス電流の導通期間中に流れる電流は、直流電流である。
【0029】
電源の推奨電圧は、10~60Vであり、好ましくは12~24Vである。推奨電流は、100mA~20Aであり、好ましくは1A~16A、例えば6Aである。
【0030】
さらに好ましい実施形態において、コイルは、容器を取り囲む。より好ましくは、容器は、回転対称軸を有し、コイルも同様である。この場合、好ましくは、2つの回転対称軸は、整列されるまたは一致する。例示的な実装は、実施例に記載され、
図1に示される。
【0031】
さらなる好ましい実施形態において、電源は、(a)交流電流、および/または(b)パルス電流、例えば5~30秒の休止期間によって区切られた2~10回の30~120秒のパルス電流を供給する。
【0032】
上述したように、パルス電流は、特に好ましい。パルスシーケンスの場合、パルスの長さは、特に好ましくは約60秒である。休止期間は、好ましくは約15秒である。パルスの数は、好ましくは3である。
【0033】
さらなる好ましい実施形態において、装置は、容器を冷却するための手段をさらに含む。好ましい実施形態において、第1の態様に係る装置は、電源と冷却手段との両方を含む。
【0034】
好ましい冷却手段は、当技術分野に公知であり、水による冷却、熱電素子(ペルチェ素子)による冷却、および/または圧縮機による冷却を含む。
【0035】
さらなる好ましい実施形態において、磁石の運動、すなわち第1の態様に係る手段(c)によって誘発された磁石の運動は、3次元運動である。
【0036】
「3次元」は、ユークリッド空間の3次元を指し、互いに直線的に独立している任意の3つの軸によって定義されてもよい。好ましくは、3次元を定義するために使用される3つの軸は、互いに直交している。これらの軸は、x、yおよびzで示されてもよい。
【0037】
これは、本発明の重要な特徴である。一般的に、磁石または少数の磁石の寸法は、容器の寸法よりも小さい。したがって、磁石は、手段(c)によって誘発されると、3次元で運動する。好ましい実装例において、この運動は、自由であり、3次元のx、yおよびzに沿って同様の振幅を有する。好ましい寸法関係(磁石が容器よりも小さい)および手段(c)の調整によって、磁石は、3次元で自由に運動する。
【0038】
上記の説明に関連して、本発明において、磁石の寸法は、例えば少なくとも一方向において、容器の寸法と同様である必要がない。このような構成は、磁石の表面と容器の内壁との間の液体の薄膜における剪断力を増強する手段であり得るが、本発明は、このような構成を必要せず、好ましいものではない。逆に、本発明は、好ましくはこの構成を除外する。
【0039】
さらに好ましい実施形態において、周波数は、約2kHz~約1MHz、好ましくは約10kHz~約400kHz、より好ましくは約15kHz~約50kHz、例えば20kHzである。
【0040】
さらに特に好ましくは、周波数は、25kHz、30kHz、35kHz、40kHzおよび45kHzである。
【0041】
第1の態様の最も広い定義を含む前述した第1の態様の全ての実施形態のうち、さらなる好ましい実施形態において、磁石は、(a)1つの磁石または複数の磁石、好ましくは2~10個の磁石であり、(b)永久磁石であり、(c)Nd、好ましくはNd-Fe-B合金、例えばNd2Fe14Bを含み、(d)円筒状、立方状または球状の形状を有し、(e)容器よりも小さく、好ましくは、磁石の最大寸法が容器の最小寸法の1/2よりも小さく、および/または(f)コーティングを有する。
【0042】
磁石の数は、好ましくは2、3、4、5、6、7、8および9などの一桁であり、特に好ましくは1つのみである。
【0043】
磁化可能な材料を使用してもよいが、永久磁石が好ましい。磁石の好ましい材料は、既に上記で検討されている。
【0044】
特に好ましくは、磁石の幾何学形状は、約1mmの辺長を有する立方体、約2mmの直径および約1mmの厚さ(または高さ)を有する円筒、約2mmの直径および約0.5mmの高さを有する円筒である。
【0045】
この好ましい実施形態の項目(e)は、磁石が容器よりも小さいということを繰り返している。好ましくは、磁石の最大寸法は、容器の最小寸法の1/2、1/3、1/4または1/5よりも小さい。
【0046】
必要に応じて、磁石は、コーティングを有してもよい。コーティングは、好ましくは、当技術分野において既定のプラスチックコーティング、例えばポリエチレン、ポリカーボネート、ポリプロピレン、および合成フルオロポリマー例えばPTFEから選択される。
【0047】
上述したように、装置は、好ましくは、溶解ビーズを含まない。一部の実装において、溶解ビーズを使用してもよい。溶解ビーズを使用する場合、これらのビーズは、一般的に非磁性ビーズである。
【0048】
本発明の第1の態様の最も広い定義を含む全ての前述した実施形態のうち、さらなる好ましい実施形態において、容器は、(a)細胞物質および/またはウイルスのサンプルを受容および溶解するように構成され、(b)1つ以上のクロマトグラフ材料、好ましくはクロマトグラフ材料を含むまたはクロマトグラフ材料からなる1つ以上の円盤を含み、(c)水溶液または懸濁液を含有し、および/または(d)細胞物質および/またはウイルスを含有する。
【0049】
上述したように、第1の態様に係る装置の好ましい使用は、生物サンプル、すなわち、細胞物質を含むサンプルを溶解することである。したがって、容器の材料は、好ましくは、細胞物質のサンプルを受容するのに適し、サンプルの溶解に耐えられる。
【0050】
上述に従って、さらなる好ましい実施形態によれば、容器は、実際に細胞物質を含む。細胞物質は、水溶液または懸濁液に含まれてもよい。また、容器は、細胞物質を含まない水溶液または懸濁液を含んでもよい。一例として、水溶液は、緩衝溶液である。
【0051】
さらなる好ましい実施形態において、および本発明者らの過去発明に関連して、容器は、1つ以上のクロマトグラフ材料を含む。
【0052】
特定の好ましい実施形態において、容器は、開示の全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2014/096136に記載されたサンプル調製容器である。したがって、好ましくは、容器は、細胞物質、ウイルスおよび/または細胞物質および/またはウイルスの副成分からの生体有機化合物の精製および/または濃縮を行うためのサンプル調製容器であり、容器は、反応チャンバおよびクロマトグラフ媒体を含み、反応チャンバは、細胞物質、ウイルスおよび/または細胞物質および/またはウイルスの副成分を保持し、以下の反応、例えば、超音波処理および/または沸騰による溶解、クロマトグラフ精製、還元、アルキル化、酵素反応、例えばタンパク質分解のうち、少なくとも1つの反応を行うように構成される。クロマトグラフ媒体は、生体有機化合物を精製および/または濃縮するように構成され、(a)クロマトグラフ媒体は、反応チャンバの壁に配置され、壁は、閉鎖されまたは密封され、精製および/または濃縮された生体有機化合物を取り出すために開放されるように構成され、または(b)サンプル調製容器は、生物有機化合物を受容するための受容チャンバをさらに含み、受容チャンバは、クロマトグラフ媒体が反応チャンバと受容チャンバとを分離するようにクロマトグラフ媒体に隣接して配置され、受容チャンバの外面は、閉鎖され、精製および/または濃縮されたバイオ有機化合物を取り出すために開放されるように構成される。
【0053】
なお、磁石は、細胞物質、ウイルスおよび/または細胞物質および/またはウイルスの副成分と接触するように、サンプル調製容器内の反応チャンバに配置される。
【0054】
さらに特に好ましい実施形態において、容器は、開示の全体が参照により本明細書に組み込まれるWO2018/078106に記載されたものと同様である。換言すれば、特定の好ましい実施形態において、容器は、上部から底部の順に、以下の要素、すなわち、(a)入口、(b)上部空間、(c)第1の材料で作られた少なくとも1つの任意の層、(d)上部空間(b)に隣接して配置され、または(c)が存在する場合(c)に隣接して配置された少なくとも1つのクロマトグラフ材料層、(e)第1の材料で作られ、(d)に隣接して配置された少なくとも1つの層、(f)出口を含むまたはこれらからなるカートリッジである。第1の材料は、疎水性の多孔材料である。
【0055】
なお、磁石は、カートリッジ内の上部空間に配置される。
材料および寸法に関して、当技術分野において多くの製造業者から入手可能な既定の容器が好ましい。
【0056】
好ましい容器は、PCRプレート、384ウェルを有するプレート、および1536ウェルを有するプレートに形成された容器である。また、エッペンドルフチューブも好ましい。
【0057】
メトリック寸法に関して、PCRプレートのウェルは、約5mm~約8mmの内径および約15mmの深さを有する。通常の1.5mlのエッペンドルフチューブは、約9mm~10mmの内径および約38mmの深さを有する。当技術分野で公知のように、これらのエッペンドルフチューブの底部は、円錐状である。さらに好ましい容器は、約9mm~約10mmの内径および約38mmの深さを有する2mlのエッペンドルフチューブである。2mlのエッペンドルフチューブは、1.5mlのエッペンドルフチューブに比べてそれほど円錐状にならない。384ウェルプレートのウェルは、約3mmの内径および約9mm~10mmの深さを有する。1536ウェルプレートのウェルは、約1mm~1.7mmの内径および約5mmの深さを有する。
【0058】
さらなる種類の好ましい容器は、カートリッジである。好ましくは上記2つの特許出願に従って、カートリッジにクロマトグラフ材料を充填してもよいが、必ずしもクロマトグラフ材料を充填する必要はない。好ましいカートリッジは、1ml、3ml、6ml、15mlまたは25mlの容積を有する。メトリック寸法に関して、1mlのカートリッジは、典型的には、約7mmの内径および約5cmの深さを有する。3ml、6ml、15mlおよび25mlのカートリッジの内径および深さは、それぞれ、約9mmおよび約6cm、約12mmおよび約6.5cm、約15mmおよび約8cm、約20mmおよび約8.5cmである。
【0059】
好ましい実施形態において、容器は、蓋を含む。蓋は、容器の壁材料と同様の材料から作られてもよい。蓋は、ねじ付きキャップであってもよい。また、蓋は、クリップクロージャであってもよい。さらに、蓋は、ゴム製であってもよい。
【0060】
さらなる好ましい実施形態において、容器は、マイクロタイタープレートなどの整列された容器であり、整列された容器の各々は、磁石または複数の磁石を含む。
【0061】
整列された容器は、当技術分野においていくつかの製造者から入手可能な既成ものである。既成の様式は、96ウェル、384ウェルまたは1536ウェルを有するマイクロウェルプレートである。
【0062】
第1の態様に関連して、本発明は、第2の態様において、(a)整列された容器を受容するように構成された整列された孔を有するプレートと、(b)整列されたコイルとを含みまたはこれらからなり、少なくとも2つの孔、好ましくは各々の孔は、少なくとも1つのコイルによって取り囲まれる。
【0063】
この態様は、特に高処理能力用途のために設計される。
好ましい実施形態において、装置は、コイルが印刷された回路基板である。すなわち、第2の態様に係る装置は、簡便に製造することができる。製造は、回路基板を製造する分野において、最先端技術から利益を得る。
図3は、例示的な回路基板を示す。2つ以上のコイルが2つの孔、好ましくは1つの孔を取り囲む場合、印刷プロセスは、例えば、第1のコイルを印刷するステップと、分離層を印刷するステップと、第2のコイルを印刷するステップとを含む複数のステップを含んでもよい。
【0064】
言うまでもなく、第2の態様に係る装置は、整列された容器をさらに含んでもよい。好ましくは、各々の容器は、1つ以上の磁石を含む。第2の態様に係る装置は、容器および磁石を含む場合、第1の態様の好ましい実施形態の装置と同様である。
【0065】
適用可能な場合、第1の態様の好ましい実施形態は、第2の態様の好ましい実施形態を規定する。
【0066】
第2の態様の装置に関連して、本発明は、第3の態様において、第2の態様の装置を製造するための方法を提供する。この方法は、回路基板上に整列されたコイルを印刷することを含み、整列されたコイルは、好ましくは、96、384または1536個のコイルを含むまたはこれらからなる。1つの孔に2つ以上のコイルを配置する場合、コイルの数は、それぞれ192、768または3072になるあろう。
【0067】
回路基板上にコイルを印刷することは、好ましくは、当技術分野において既成の方法に従って行われる。このような方法は、例えば、プリント回路基板の設計、製造、および組立(McGraw-Hill Electronic Engineering、ISBN 0071464204)に記載されている。
【0068】
第4の態様において、本発明は、細胞物質および/またはウイルスを溶解するための方法を提供する。この方法は、(a)第1の態様の装置を提供することを含み、容器は、細胞物質および/またはウイルスのサンプルを含み、(b)装置内の磁石の運動を誘発することを含み、これによって細胞物質またはウイルスを溶解する。
【0069】
上記で検討したように、本発明に係る装置は、細胞物質およびウイルスを溶解するのに適している。これは、第4の態様の方法の主題である。
【0070】
これに関連して、第5の態様において、本発明は、細胞物質および/またはウイルスを溶解するための方法を提供する。この方法は、(a)第2の態様の装置を提供するステップを含み、(b)各々の容器が少なくとも1つのコイルによって取り囲まれるように、装置を整列された容器と組み合わせることとを含み、各々の容器は、磁石と、細胞物質のサンプルとを含み、(c)容器内の磁石の運動を誘発することとを含み、これによって、細胞物質またはウイルスを溶解する。
【0071】
この方法は、本質的に、第2の態様に係る装置を必要とする以外、第4の態様の方法に相当する。換言すれば、この態様は、細胞物質またはウイルスを溶解するための方法の高処理能力実装である。
【0072】
添付の実施例を参照して、本発明の細胞物質を溶解するための方法は、実践に変えられている。驚くべきことに、当技術分野においてビーズミリングをする既定の溶解方法に比べて、本発明の手段および方法を使用する場合、溶解後に検出可能なタンパク質の量が有意に高いという優れた性能が観察された。
【0073】
タンパク質だけでなく、DNAなどの核酸を分析物する場合でも、優れた性能が観察された。
【0074】
第4および第5の態様の方法の好ましい実施形態において、第4の態様の方法がコイルを有する装置を利用する場合、運動は、コイルに流れる交流電流および/またはパルス電流によって誘発される。
【0075】
交流電流およびパルス電流のパラメータは、上記で詳細に記載されている。
交流電流の周波数は、好ましくは、10Hz~100Hz、例えば50Hzである。また、交流電流をパルス化してもよい。好ましいパルス化スキームは、直流電流に関して開示されている。
【0076】
第6の態様において、本発明は、細胞物質および/またはウイルスを溶解するために、本発明の第1または第2の態様の装置の使用を提供する。
【0077】
第4および第5の態様の方法並びに第6の態様の使用に関する好ましい実施形態において、細胞物質は、骨などの組織および植物材料から選択される。
【0078】
骨および植物材料を溶解することが特に困難であることは、当技術分野において公知である。驚くべきことに、本発明の手段および方法を使用する場合、これらの非常に困難な材料に関して、優れた性能も観察されている。
【0079】
本発明の方法および使用のさらなる好ましい実施形態において、所定量の所定サンプルからのタンパク質収率は、ビーズミリングを使用する場合に得られるタンパク質収率に比べて、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、または少なくとも3倍である。
【0080】
第7の態様において、本発明は、以下のキットを提供する。このキットは、(a)容器と、(b)磁石と、(c)容器内に配置された磁石の超音波運動を誘発するための手段とを含むまたはこれらからなる。
【0081】
本発明は、第8の態様において、以下のキットを提供する。このキットは、(a)整列された容器と、(b)整列された容器の容器を受容するように構成された整列されたコイルと、(c)整列された容器内の容器の数と同様の数を有する複数の磁石とを含むまたはこれらからなる。
【0082】
本発明のキットの好ましい実施形態において、キットは、本発明にしたがって、細胞物質を溶解するための方法を実行するための指示を有するマニュアルをさらに含む。
【0083】
本明細書、特に特許請求の範囲に記載された実施形態に関して、従属請求項に記載の各実施形態は、当該従属請求項が従属している各々の(独立または従属)請求項に記載の各実施形態と組み合わられてもよい。例えば、独立請求項1が3つの選択肢A、BおよびCを含み、従属請求項2が3つの選択肢D、EおよびFを含み、および請求項1および2に従属する請求項3が3つの選択肢G、HおよびIを含む場合、特に断らない限り、本明細書は、組み合わせA、D、G、組み合わせA、D、H、組み合わせA、D、I、組み合わせA、E、G、組み合わせA、E、H、組み合わせA、E、I、組み合わせA、F、G、組み合わせA、F、H、組み合わせA、F、I、組み合わせB、D、G、組み合わせB、D、H、組み合わせB、D、I、組み合わせB、E、G、組み合わせB、E、H、組み合わせB、E、I、組み合わせB、F、G、組み合わせB、F、H、組み合わせB、F、I、組み合わせC、D、G、組み合わせC、D、H、組み合わせC、D、I、組み合わせC、E、G、組み合わせC、E、H、組み合わせC、E、I、組み合わせC、F、G、組み合わせC、F、H、および組み合わせC、F、Iに対応する実施形態を明確に開示している。
【0084】
同様に、独立請求項および/または従属請求項が選択肢を含まない場合、従属請求項が先行する複数の請求項に従属すると、これらの請求項に包含された主題の任意の組み合わせが明示的に開示されていると考えられる。例えば、独立請求項1、独立請求項1を引用する従属請求項2、および請求項1と請求項2の両方を引用する従属請求項3場合、請求項3、請求項2および請求項1の主題の組み合わせと同様に、請求項3および請求項1の主題の組み合わせは、明確に開示されている。請求項1から3のいずれか1項を引用するさらなる従属請求項4が存在する場合、請求項4および請求項1の主題の組み合わせ、請求項4、請求項2および請求項1の主題の組み合わせ、請求項4、請求項3および請求項1の主題の組み合わせ、および請求項4、請求項3、請求項2および請求項1の主題の組み合わせは、明確に開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【
図1】本発明に係る装置を概略図である。図面は、コイル(20)によって生成された2つの逆向きの外部磁場を示している。容器(10)には、クロマトグラフ材料(13)が配置されている。また、装置は、入口(11)と、出口(12)とを含む。磁石は、N極およびS極を有する小さな四角物(30)として示されている。コイルの端部の符号「+」と「-」は、図示しない電源(40)への接続を示す。
【
図2A】内部に磁石を有する例示的な容器を示す図である。
【
図2B】本発明の方法の高処理能力を実現するために設計された整列された容器を示す図である。
【
図2C】本発明の方法の高処理能力を実現するために設計された整列された容器を示す図である。
【
図3A】本発明の第2の態様に係る装置、より具体的には、コイルがプリントされた回路基板(8×12マイクロタイタープレート)を示す図である。
【
図3B】本発明の第2の態様に係る装置、より具体的には、コイルがプリントされた回路基板(8×12マイクロタイタープレート)を示す拡大図である。
【
図3C】容器が回路基板の孔の一部に配置されていることを示す図である。
【実施例0086】
実施例は、本発明を例示する。
追加の試験は、1つの巻線を有するコイルの性能が、2つの巻線、4つの巻線、8つの巻線、16個の巻線、または26個の巻線を有するコイルの性能に匹敵することを示した。試験プラットフォームを用いて、草葉および心筋の高度な均質化を観察した。