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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024112998
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】軽水炉用高温制御棒
(51)【国際特許分類】
   G21C 7/10 20060101AFI20240814BHJP
   G21C 7/24 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
G21C7/10 300
G21C7/24
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024088242
(22)【出願日】2024-05-30
(62)【分割の表示】P 2020512671の分割
【原出願日】2018-08-08
(31)【優先権主張番号】62/552,422
(32)【優先日】2017-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/051,712
(32)【優先日】2018-08-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】501010395
【氏名又は名称】ウエスチングハウス・エレクトリック・カンパニー・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091568
【弁理士】
【氏名又は名称】市位 嘉宏
(72)【発明者】
【氏名】ラホーダ、エドワード、ジェイ
(72)【発明者】
【氏名】ボイラン、フランク、エー
(72)【発明者】
【氏名】ラム、ホー、キュー
(72)【発明者】
【氏名】ニスリ、ミッチェル、イー
(72)【発明者】
【氏名】シュナイダー、レイモンド、イー
(72)【発明者】
【氏名】エルリッチ、ロバート、エル
(72)【発明者】
【氏名】レイ、スミト
(72)【発明者】
【氏名】ポミルリーヌ、ラドゥ
(72)【発明者】
【氏名】カラタス、ゼゼス
(72)【発明者】
【氏名】ホーン、マイケル、ジェイ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】原子炉に用いる制御棒の材料を提供する。
【解決手段】原子燃料集合体用高温制御棒(22)は融点が1500℃を超え、かつ融点が1500℃を下回る共融体を形成しない中性子吸収材(24)を含み、融点が1500℃を超える被覆材をさらに含むことができる。当該被覆材は、炭化ケイ素、ジルコニウム、ジルコニウム合金、タングステンおよびモリブデンから成る群より選択される。当該吸収材(24)は、Gd、Ir、BC、ReおよびHfから成る群より選択される。当該金属被覆または当該吸収材(24)にCrの耐酸化被膜(26)を施すことができ、Nbの中間層(28)をさらに設ける場合と設けない場合がある。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン、タングステン合金、モリブデンおよびモリブデン合金から成る群より選択した被覆材(30)と、
当該被覆材(30)を覆う耐酸化被膜(26)と、
当該耐酸化被膜(26)と当該被覆材(30)の間の、ニオブ、モリブデンおよびタンタルから成る群より選択した材料の層(28)と、
中性子吸収材(24)とを含み、
当該中性子吸収材(24)はGd、Ir、BC、ReおよびHfから成る群より選択され、かつ当該被覆材(30)は当該中性子吸収材(24)を受け入れる管体である
ことを特徴とする、制御棒(22)。
【請求項2】
前記耐酸化被膜(26)はクロムを含む、請求項1の制御棒(22)。
【請求項3】
前記中性子吸収材(24)はGdと酸化物の混合物である、請求項1の制御棒(22)。
【請求項4】
Gdは酸化物によって最大50倍に希釈されている、請求項3の制御棒(22)。
【請求項5】
前記酸化物はAlおよびCaOから成る群より選択される、請求項4の制御棒(22)。
【請求項6】
前記中性子吸収材(24)は前記管体(30)内に収容されたセラミックペレット(32)または金属スラグ(32)のうちの1つの形状である、請求項1の制御棒(22)。
【請求項7】
タングステン、タングステン合金、モリブデンおよびモリブデン合金から成る群より選択した被覆材(30)と、
当該被覆材(30)を覆う耐酸化被膜(26)と、
当該耐酸化被膜(26)と当該被覆材(30)の間の、ニオブ、モリブデンおよびタンタルから成る群より選択した材料の層(28)と、
中性子吸収材(24)とを含み、
当該被覆材(30)は当該中性子吸収材(24)を受け入れる管体であり、かつ当該中性子吸収材(24)は当該管体(30)内に収容されたセラミックペレット(32)または金属スラグ(32)のうちの1つの形状である、
ことを特徴とする、制御棒(22)。
【請求項8】
前記耐酸化被膜(26)はクロムを含む、請求項7の制御棒(22)。
【請求項9】
前記中性子吸収材(24)はGd、Ir、BC、ReおよびHfから成る群より選択される、請求項8記載の制御棒(22)。
【請求項10】
前記中性子吸収材(24)はGdと酸化物の混合物である、請求項9の制御棒(22)。
【請求項11】
Gdは酸化物によって最大50倍に希釈されている、請求項10の制御棒(22)。
【請求項12】
前記酸化物はAlおよびCaOから成る群より選択される、請求項10の制御棒(22)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
政府の権利に関する陳述
本発明は、エネルギー省との契約第DE-NE0008222号に基づく政府支援の下でなされたものである。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有している。
【0002】
本発明は原子炉に関し、具体的には、制御棒の製造に用いる材料に関する。
【背景技術】
【0003】
典型的な原子炉の炉心には、各々が複数の細長い燃料棒または同様の要素から成る多数の燃料集合体が含まれている。燃料棒のアレイには制御棒を受け入れる案内管が入っている。燃料棒アセンブリの上には多数の制御棒を含む制御棒アセンブリがあり、当該制御棒アセンブリは複数の設計例において、いくつかの燃料棒クラスタの間に配置された案内管と整列する位置へ、また、その位置から移動させることができる。図1は、制御棒案内管および制御棒アセンブリを含む例示的な原子燃料集合体を示す。
【0004】
使用時に、制御棒アセンブリは、必要に応じて、制御棒を所与の時点での燃料集合体の運転要件により異なる案内管中の戦略的位置に下降させる。
【0005】
例えば、ステンレス鋼の被覆管にAg-In-Cd合金の棒が入っている現用の制御棒は、最高1168℃の環境に耐える機能持続性を有する。制御棒の温度は燃料棒より約200℃低く、燃料棒は現行の設計基準事故の限度である1200℃未満に保たれるから、現用の制御棒材料は通常運転条件を適切に満たす。しかし、原子炉の設計温度を超える事故(すなわち設計基準外事故)が起きると、制御棒の温度は約1700℃に達する可能性がある。そのような温度になると、現用の制御棒材料は溶融して燃料棒を腐食させる。
【0006】
日本の福島の原子力発電所に損傷を与えた津波のような事象は、稀ではあるが設計基準外事故が起こりうること、そして原子力発電所の機器を設計するにあたりかかる事象の発生を勘案する必要があることを示している。したがって、制御棒がメルトダウンする可能性に対処する必要がある。
【発明の概要】
【0007】
以下に記す概要は、本願に開示する実施態様に特有のいくつかの革新的な特徴を理解しやすくするために提供するものであり、完全な記述を意図するものではない。これらの実施態様のさまざまな局面を完全に理解するには、本願の明細書、請求項、図面および要約書の全体を一体的にとらえる必要がある。
【0008】
制御棒の事故耐性の問題に対処するために、制御棒を構成する材料に改良が加えられてきた。
【0009】
本願では、設計基準事故条件を超えて少なくとも1668℃になるまで安定性を維持し、事故耐性原子燃料の条件を満たす原子炉制御棒用の材料について説明する。被覆および中性子吸収材のいくつかの組み合わせによる構成の制御棒について記述する。また、中性子吸収材に被膜が施された構成の制御棒について記述する。
【0010】
制御棒の実施例には、融点が1500℃を超える被覆材と、融点が1500℃を超える中性子吸収材を具備し、当該被覆材と当該中性子吸収材のいずれも、互いにまたは燃料集合体の他の材料との間で融点が1500℃を下回る共融体を形成しない原子燃料集合体用高温制御棒が含まれる。
【0011】
制御棒の実施例には、被膜を施された中実で棒状の金属製中性子吸収材であって、融点が1500℃を超え、かつ被膜材や燃料集合体の他の材料との間で融点が1500℃を下回る共融体を形成しない中性子吸収材を具備する原子燃料集合体用高温制御棒が含まれる。この金属棒は、耐酸化被膜を具備する場合がある。
【0012】
原子燃料集合体の中で使用される制御棒の一例は、Ir、ReおよびHfから成る群より選択した中実な中性子吸収材と、当該吸収材を覆う耐酸化被膜とを含んでよい。
【0013】
さまざまな局面において、原子炉内の制御棒の事故耐性を高めるために提供される組み合わせは、炭化ケイ素、ジルコニウム、ジルコニウム合金、タングステン、タングステン合金、モリブデンおよびモリブデン合金から成る群より選択した被覆材と、中性子吸収材とを含む。
【0014】
さまざまな局面において、当該吸収材は実効中性子吸収断面積が8バーン以上である。
【0015】
当該被覆材は、或る特定の局面において、融点が1500℃を下回る共融体を形成しない耐酸化被膜に覆われた金属でよい。当該金属被覆材は、ジルコニウム、ジルコニウム合金、タングステン、タングステン合金、モリブデン、およびモリブデン合金から成る群より選択することができる。
【0016】
さまざまな局面において、当該耐酸化被膜はクロムの外層被膜である。或る特定の局面において、ニオブの中間層は、当該外層と当該被覆材の間に、または当該外層と当該中実な中性子吸収材の間に位置する。モリブデンとタンタルも中間層として使用できる。
【0017】
非金属の被覆材はSiCでよい。
【0018】
或る特定の局面において、当該吸収材はBC、Re、IrおよびHfから成る群より選択される。
【0019】
当該被覆材は、当該吸収材を受け入れる管体でよい。当該吸収材は、当該管体内に収容されるセラミックペレットかまたは金属スラグのうちの一方の形状でよい。
【図面の簡単な説明】
【0020】
添付の図面を参照することにより、本発明の特徴と利点の理解が深まるであろう。
【0021】
図1】制御棒アセンブリを有する従来型燃料集合体を例示する図である。
【0022】
図2図1に示すような制御棒アセンブリに用いる制御棒の一実施態様を略示する断面図である。
【0023】
図3図1に示すような制御棒アセンブリに用いる制御棒の別の実施態様を略示する断面図である。
【0024】
図4図2、3に示す制御棒の中性子吸収材の一実施態様を略示する断面図である。
【0025】
図5図2、3に示す制御棒の中性子吸収材の別の実施態様を略示する断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本願で使用する「a」、「an」および「the」に先導される単数形は、文脈からそうでないことが明らかでない限り、複数形をも包含する。したがって、本願に使用する冠詞「a」および「an」は、冠詞の文法上の指示対象が1つまたは複数(すなわち、少なくとも1つ)あることを指すものである。例として、「anelement」は1つの要素または複数の要素を意味する。
【0027】
非限定的な例として、本願で使用する最上部、最下部、左、右、下方、上方、前、後ろ、およびそれらの変形例などの方向性を示唆する語句は、添付の図面に示す要素の幾何学的配置に関連し、特段の記載がない限り、本願の特許請求の範囲を限定するものではない。
【0028】
特許請求の範囲を含み、本願では、特段の指示がない限り、量、値または特性を表すあらゆる数字は、すべての場合において「約」という用語により修飾されると理解されたい。したがって、数字と一緒に「約」という用語が明示されていない場合でも、数字の前に「約」という語があるものと読み替えることができる。したがって、別段の指示がない限り、以下の説明で記載されるすべての数値パラメータは、本発明に基づく組成物および方法が指向する所望の特性に応じて変わる可能性がある。最低限のこととして、また均等論の適用を特許請求の範囲に限定する意図はないが、本願に記載された各数値パラメータは、少なくとも、報告された有効数字の数を勘案し、通常の丸め手法を適用して解釈するべきである。
【0029】
また、本願で述べるあらゆる数値範囲は、そこに内包されるすべての断片的部分を含むものとする。例えば、「1~10」という範囲は、記述された最小値1と最大値10との間(最小値と最大値を含む)のあらゆる断片的部分を含むことを意図している。すなわち、最小値は1以上、最大値は10以下である。
【0030】
事故耐性原子燃料は、被覆が現在使用されているジルコニウム(Zr)合金よりはるかに高温に耐えられるところに特徴がある。例えば、SiCが耐えられる最高温度は2545℃であり、Zrの被覆にCrおよびNbの被膜を施したような被膜付き被覆は最高1668℃の温度に耐えられる。しかし、事故耐性を得るための原子燃料構成部品の設計は、燃料温度が約1700℃となる設計基準外事故に即して、最小の注水量を想定して行われる。制御棒は、設計基準外事故に対する耐性を獲得するためには、最低でも1668℃、好ましくはそれを超える温度で安定性を維持しなければならない。
【0031】
さまざまな局面において、事故耐性のある原子炉制御棒を提供する材料は、8バーン(1バーン=10-28)に等しいか、好ましくはそれを超える実効断面積を有する。実効核反応断面積は、吸収材の重量百分率、核反応断面積および密度(g/cm)の積を、当該吸収材の分子量(g/mol)で除すことによって計算される。現在使用されているAg80%/In15%/Cd5%の制御棒の実効断面積は約16である。吸収材として使用する場合のGdの実効断面積は、酸素は中性子を吸収する役目を果たさないため、ガドリニウムのみに基づく867である。
【0032】
本願の図面を参照して、図1は、制御棒アセンブリ12、上部ノズル14、下部ノズル16およびグリッドアセンブリ18を具備する従来型燃料集合体10を示す。ノズル12、14とグリッドアセンブリ18は、燃料棒20と制御棒22を整列させる。
【0033】
図2に示すように、本願に記述する制御棒22は、中性子吸収材24に抗酸化被膜26を施したものである。図3に示すように、或る特定の局面において、制御棒22の中性子吸収材24と耐酸化層26の間には中間層28が存在する。
【0034】
或る特定の局面において、中性子吸収材24は、図4に示すように被覆層30を有する。中性子吸収材24は、図2~4に示すように中実な管体の形状か図5に示すようにペレットまたはスラグ32の形状である。
【0035】
さまざまな局面において、事故耐性のある原子炉制御棒を提供する被覆の材料は、融点が1500℃を超えるものである。注水量が最小の場合の現行の原子燃料炉心モデルは、約1700℃の温度を無期限に維持できることを示唆している。制御棒の温度はそれより約200℃低いので、1500℃を超える温度に耐えられる被覆があれば制御棒の幾何学形状を維持できる。
【0036】
さまざまな局面において、制御棒の中性子吸収材の融点は1500℃を超えるのが好ましい。融点が1500℃より高いと、吸収材は制御棒の被覆が破損しても溶融しないので、別の溶融物質によって希釈されたり押しのけられたりしない。
【0037】
事故耐性原子炉制御棒を提供するためには、制御棒の被覆材と吸収材は、互いにまたは燃料集合体の他の材料と共融して、共融点(複合材料が達しうる最も低い融点)が1500℃を下回る共融体を形成するものであってはならない。
【0038】
さまざまな局面において、この制御棒の被覆材および吸収材は、多様な使い方(ベース負荷/負荷追従/負荷レギュレーション)による20年間の運転に相当するフルエンスに合わせて設計される。この制御棒の作用、すなわち改良型制御棒設計の長所であるこの能力は、この20年間の腐食および中性子吸収によって損なわれない。
【0039】
この吸収材は手ごろな価格であり、制御棒の製造コストは法外に高くないことが好ましい。材料費および制御棒加工の労務費は時間と共に変わりうることを理解すれば、本発明の目的に沿って材料を選ぶ際のコスト要因は制限要因とはならない。ただし、任意所与の時点における市場動向によって、任意所与の材料の選択/非選択の傾向が変わることがある。
【0040】
所望の仕様を満たすさまざまな材料および各材料の関連する性質を表1に記載する。上述の仕様を適用した結果、さまざまな局面において、表1に掲げる被覆/吸収材の組み合わせおよび被膜付き吸収材は事故耐性のある原子燃料集合体制御棒の要件を満たすと判断された。
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】
【0041】
さまざまな局面で、制御棒に使用される材料の組み合わせにおける被覆材の例には以下が含まれる。
1.クロム(Cr)の外層被膜と、Cr層とZr層の間のニオブ(Nb)の中間層とを有するジルコニウム(Zr)合金被覆。この被覆の最低共融点は、CrとNbの間での1668℃である。
2.Crの外層被膜が施されたタングステン(W)合金被覆。この被覆の最低共融点は1863℃である。
3.Crの外層被膜が施されたモリブデン(Mo)合金被覆。この被覆の最低共融点は1858℃である。
4.炭化ケイ素(SiC)被覆。分解温度は約2545℃である。
【0042】
さまざまな局面において、ジルコニウム合金は、参照により関連部分が本願に組み込まれている米国特許第4,649,023号に開示された手順に従って製造された被膜付きZIRLO(登録商標)である。ZIRLO(登録商標)は、重量比でニオブが0.5~2.0%、スズが0.7~1.5%、鉄が0.07~0.14%、ニッケルおよびクロムのうち少なくとも1つが0.03~0.14%、鉄、ニッケルおよびクロムの合計が少なくとも0.12%、炭素が最大220ppm、残りが本質的にジルコニウムから成る合金である。この合金は、0.03~0.08%のクロムと0.03~0.08%のニッケルを含むのが好ましい。当業者であれば、所望の用途に適した他のジルコニウム合金を使用できることを理解するであろう。
【0043】
さまざまな局面で、制御棒に使用される吸収材の例には以下が含まれる。
1.Gdは融点が2420℃で、中性子吸収率が非常に高い。Gdは比較的コストが高いため、この材料を単独で使用するのは現時点では理想的とはいえない。しかし、この材料は熱中性子断面積が非常に大きいので、Al(融点2072℃)やCaO(融点2575℃)のような融点が高く廉価な他の酸化物によって最大約50倍に希釈し、最終コストを引き下げることができる。
2.BCは融点が2763℃と高く、中性子吸収率も適度に高い。Gdとは異なり、法外なコストはかからない。或る特定の局面で、BCは有用な吸収材である。
3.レニウム(Re)は融点が3180℃で、中性子吸収率は中程度である。この材料も比較的高価である。或る特定の局面で、Reは有用な吸収材である。
4.ハフニウム(Hf)は融点が2222℃で、中性子吸収率は中程度である。この材料も比較的高価である。しかし、或る特定の局面で、Hfは有用な吸収材である。
表1に示す他の金属吸収材には、オスミウム(Os)、タンタル(Ta)、ニオブ(Nb)が含まれるが、これらの材料の実効断面積は8バーン未満であるため、設計基準外事故に耐えられる仕様を満たす原子燃料集合体への使用は好ましくない。
【0044】
吸収材は、中空な被覆管に挿入されたペレットまたはスラグの形状でよい。ここで使用するスラグという用語は金属吸収材を指し、ペレットという用語は加圧焼結されたセラミック吸収材を指す。表1に掲載したペレット状の吸収材は、GdおよびBCを含むことがある。表1に掲載したスラグ状の吸収材は、イリジウム(Ir)、レニウム(Re)、ハフニウム(Hf)を含むことがある。スラグ状であれペレット状であれ使用する吸収材はいずれも幾何学形状が概して同じであり、被覆管の中空内部にすっぽり収まることになる。吸収材は、被覆管の中空キャビティの形状に応じて、円柱形または他の適当な形状(例えば立方体や直方体)にすることができる。吸収材は単体でも、積層した円柱体または積層したブロックといった形状の複数の吸収材でもよい。
【0045】
吸収材は、被膜材に覆われた中実な金属棒でよい。例えば、表1を参照して、Ir、Re、Hfのような金属の吸収材は中実な棒のような構成でよい。通常運転時および事故条件下で下層の金属棒の酸化を防ぐ当該棒上の被膜材として、Crの外層被膜があるが、さらにNbの中間層被膜を施す場合とそうしない場合がある。モリブデンとタンタルも中間層として使用できる。この実施態様では被覆材を使用しない。
【0046】
高温制御棒は、例えば、融点が1500℃を超える金属または金属合金の被覆材と、そのような金属を覆うが共融せず、融点が1500℃を下回る耐酸化被膜を含んでよい。この制御棒の中性子吸収断面積は大きい。高温制御棒の別例は、SiCと、融点が1500℃を超え、当該SiCと融点が1500℃を下回る共融体を形成しない中性子吸収材とを含む。この制御棒の実施態様も中性子吸収断面積が大きい。
【0047】
金属被覆材は、ジルコニウム(Zr)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、およびそれらの合金から選択することができる。これらの合金は、原子炉の高温環境で使用される、当業者に知られた適当な合金から選ぶことができる。さまざまな局面において、被覆材は、吸収材ペレットまたはスラグを保持するように構成された管体の形状でよい。
【0048】
さまざまな局面において、被覆管は耐酸化材の被膜を有する。この被膜はクロム(Cr)の外層被膜より成るが、さらにニオブ(Nb)の内層被膜を含む場合とそうでない場合がある。その他の被膜の組み合わせを用いることもできる。例えば、Crの外層とMoまたはTaの中間層の選択がある。
【0049】
制御棒のこれらの被覆と中性子吸収材の組み合わせは、原子燃料集合体の事故耐性を高めるための、費用対効果が高く、比較的製造しやすい組み合わせである。
【0050】
本願に記述する管体、棒および金属スラグは、当業者に知られた任意の方法で機械加工することができる。サイズ、構成、分子量、および例えば表1に記した他の特性、さらには原子力産業で関連性がわかっているその他の特性は許容差が小さいため、精密な製造法を使用すべきである。
【0051】
ペレットは、他の商業分野で既知のペレット製造法によって形成できる。例えば、粉末状または粒子状のセラミック吸収材のペレットは、粒径分布と表面積が比較的均一になるように、まず粒子を均質化することにより形成できる。或る特定の局面において、潤滑剤、可燃性吸収剤および細孔形成剤などの添加剤を加えることができる。粒子からのペレットの形成は、所望の「未焼」密度および強度が得られるように、市販の適当な機械式または液圧式プレスで粒子混合物を圧縮して行うことができる。
【0052】
基本的なプレスは、単動式のダイプラテンが組み込まれているが、最も複雑な様式のプレスは、「複数レベルの」部品を形成できるように複動式のプラテンを有することがある。広い範囲の加圧能力にわたって種々のプレスがある。粉末を所望のコンパクトなペレットの形状に圧縮するために必要な加圧能力は、部品の投影表面積と、粉末の圧縮特性によって決まる荷重係数の積によって求められる。
【0053】
プロセスを開始するに当たって、ダイに粒子混合物を充填する。ダイ充填速度は、主に粒子の流動性に基づく。
【0054】
ダイを充填したら、パンチを粒子の方へ移動させる。パンチが粒子に圧力をかけて圧縮し、ダイの幾何学形状にする。或る特定のペレット形成プロセスでは、ダイに供給した粒子に数百MPaの荷重をかけて二軸圧縮し、円柱形ペレットを形成する。
【0055】
圧縮したペレットを、加熱炉内で制御された雰囲気(通常はアルゴンを含む)の下で加熱して焼結する。加熱温度は、焼結中の材料によって異なる。焼結は、圧縮時粒子に形成された機械的結合をより強固な結合に変換してペレットの強度を大幅に高めることにより、未熱ペレットを緻密化する熱的プロセスである。圧縮および焼結済みペレットを冷却し、所望の寸法に機械加工する。例示的なペレットの直径は約1センチメートルまたはそれより若干小さく、長さは1センチメートルまたはそれより若干大きい。
【0056】
耐酸化被膜は、コールドスプレー法などの熱的付着法を用いて施すことができる。2つの層がある場合、最初に内層を付着させ、研削・研磨したあと外層を付着させ、研削・研磨することができる。
【0057】
コールドスプレー法では、キャリアガスを加熱器に送って、ノズル内で膨張させた後の温度が所望の値(例えば100~500℃)に保たれるように、キャリアガスを十分な温度に加熱する。さまざまな局面において、キャリアガスは、例えば5.0MPaの圧力で200~1200℃の温度に予熱する。或る特定の局面において、キャリアガスは200~1000℃の温度に予熱する。また、或る特定の局面で300~900℃の温度に、他の局面では500~800℃の温度に予熱する。この温度は、キャリアとして使用する特定のガスのジュール・トムソン冷却係数によって変わる。ガスの圧力が変化して膨張または圧縮する際にガスが冷却するかどうかは、ジュール・トムソン係数の値による。ジュール・トムソン係数が正の値の場合、キャリアガスは冷却するので、コールドスプレー法の性能に影響を及ぼす可能性のある過度な冷却を防止するために、キャリアガスを予熱する必要がある。当業者は、過度に冷却しないように加熱する度合いを周知の計算法を用いて求めることができる。例えば、キャリアガスがNの場合、入口温度が130℃であれば、ジュール・トムソン係数は0.1℃/バールである。初期圧力が10バール(約146.9psia)、最終圧力が1バール(約14.69psia)のガスを130℃で管体に衝突させる場合は、約9バール×0.1℃/バール(すなわち約0.9℃)高い約130.9℃にガスを予熱する必要がある。
【0058】
例えば、キャリアガスとしてヘリウムガスを用いる場合のガス温度は、圧力3.0~4.0MPaにおいて450℃であるのが好ましい。また、窒素のキャリアガスの温度は、圧力5.0MPaで1100℃であるが、圧力が3.0~4.0MPaであれば600~800℃でもよい。当業者であれば、使用する機器の種類によって温度および圧力の変数が変わり、機器を改造することによって温度、圧力および体積のパラメータを調節できることを理解するであろう。
【0059】
適当なキャリアガスとして、不活性ガスまたは非反応性ガス、そして、特に、CrまたはNb粒子や、被膜される管状や棒状の基材と反応しないガスがある。キャリアガスの例として、窒素(N)、水素(H)、アルゴン(Ar)、二酸化炭素(CO)、ヘリウム(He)が挙げられる。
【0060】
キャリアガスの選択にはかなりの自由度がある。混合ガスを使用してもよい。ガスの選択は物理的特性と経済性の双方で決まる。例えば、分子量の小さいガスは速度を大きくできるが、速度を最大にすることは、粒子の跳ね返りによって付着する粒子数が少なくなるので避けるべきである。
【0061】
例示的なコールドスプレー法において、導管を介して加熱器に送り込まれた高圧ガスは、そこで急速に、実質的に瞬時に加熱される。所望の温度に加熱されたガスは、ガンのような器具へ差し向けられる。ホッパーに保持された所望の被膜材の粒子(ここではCrまたはNb)は放出後、ガンに差し向けられ、圧縮ガス噴流により強制的にノズルを通過し、棒状または管状の基材へ差し向けられる。スプレーされたCrまたはNb粒子は棒または管体の表面に付着し、粒子より成る被膜を形成する。
【0062】
コールドスプレー法は、加熱されたキャリアガスを制御下で膨張させて粒子を推進し、棒状または管状の基材上に付着させるのをベースとする。粒子は、基材または付着済みの層に衝突し、断熱せん断による塑性変形を受ける。次々に衝突する粒子が積み重なって被膜が形成される。変形を促進するには、粒子を、キャリアガスに流入させる前に、ケルビン絶対温度スケールで粉末の融点の3分の1から2分の1の温度に温めるとよい。被膜を施す領域または材料の積み重なりが必要な領域全体をノズルによって走査する(すなわち、ある領域の端から端まで、最上部から最下部まで線状にスプレーする)。
【0063】
表面の汚染物を除去して被膜の付着性と分布を改善するために、管体または棒の表面の研削や化学洗浄のような何らかの表面処理が必要なことがある。
【0064】
粒子は、緻密で不浸透性または実質的に不浸透性の被膜層を形成させるに十分な速度でスプレーされる。さまざまな局面において、ジェットスプレー速度は800~4000フィート/秒(約243.84~1219.20メートル/秒)である。CrまたはNb粒子は、商業または研究レベルにおいて、所望の生産速度を得るのに十分な速度で管体または棒の表面に付着される。
【0065】
当業者は、このプロセスに使用する装置に基づいて付着速度を容易に計算することが可能であり、付着速度の決定因子である装置の構成要素を変えることによって付着速度を調節できる。この方法の或る特定の局面において、粒子の付着速度は最大1000kg/時間であろう。許容できる付着速度は1~100kg/時間の範囲であり、さまざまな局面において10~100kg/時間の範囲であるが、これより高い速度や低い速度(例えば1.5kg/時間)も使用され、良い結果が得られている。
【0066】
この方法は、被膜の付着後にさらに当該被膜を焼鈍するステップを含むことができる。焼鈍によって、被膜を施された管体の機械的性質と微細構造が改変される。焼鈍では、被膜を200~800℃の範囲で、好ましくは350~550℃の範囲で加熱する。
【0067】
被膜を施された基材は、被膜形成または焼鈍ステップの後、より平滑な表面に仕上げるために、研削、もみ革磨き、研磨、または他の任意公知の手法で処理してもよい。
【0068】
本発明をいくつかの例に基づいて説明してきたが、いずれの例も、すべての点において限定的ではなく例示的なものである。したがって、本発明は、詳細な実施態様において、通常の技量を有する当業者が本願の説明から導くことができる多くの変形例が可能である。
【0069】
本願で言及したすべての特許、特許出願、刊行物または他の開示資料は、各々の参考文献が参照により明示的に本願に組み込まれるように、その全体が参照により本願に組み込まれる。本願で参照により組み込まれると言及されたすべての参考文献およびあらゆる資料またはそれらの一部分は、本願に記載された既存の定義、言明または他の開示資料と矛盾しない範囲でのみ本願に組み込まれる。したがって、本願に記載の開示事項は、必要な範囲において、それと矛盾する、参照により本願に組み込まれた資料に取って代わり、本願に明示的に記載された開示事項が決定権をもつ。
【0070】
本発明を、さまざまな例示的な実施態様を参照して説明してきた。本願に記載の実施態様は、開示された発明のさまざまな実施態様のさまざまな詳細度の例示的な特徴を示すものとして理解されたい。したがって、特に断らない限り、可能な範囲において、開示した実施態様における1つ以上の特徴、要素、構成部品、成分、構造物、モジュールおよび/または局面は、本発明の範囲から逸脱することなく、当該開示した実施態様における他の1つ以上の特徴、要素、構成部品、成分、構造物、モジュールおよび/または局面との間で、複合、分割、置換えおよび/または再構成が可能であることを理解されたい。したがって、通常の技量を有する当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、例示的な実施態様のいずれにおいてもさまざまな置換え、変更または組み合わせが可能であることを理解するであろう。当業者はまた、本願を検討すれば、本願に記載された本発明のさまざまな実施態様に対する多くの均等物に気付くか、あるいは単に定常的な実験を用いてかかる均等物を確認できるであろう。したがって、本発明は、さまざまな実施態様の説明によってではなく、特許請求の範囲によって限定される。
図1
図2
図3
図4
図5