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特開2024-113046反射防止フィルムおよびその製造方法、ならびに画像表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113046
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】反射防止フィルムおよびその製造方法、ならびに画像表示装置
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/115 20150101AFI20240814BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20240814BHJP
   G02B 1/18 20150101ALI20240814BHJP
【FI】
G02B1/115
G02B1/14
G02B1/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090587
(22)【出願日】2024-06-04
(62)【分割の表示】P 2022074697の分割
【原出願日】2022-04-28
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000154
【氏名又は名称】弁理士法人はるか国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 聖彦
(72)【発明者】
【氏名】宮本 幸大
(72)【発明者】
【氏名】角田 豊
(57)【要約】
【課題】折り畳み状態(屈曲状態)で高温に加熱した場合でも、反射防止層にクラックが生じ難く、耐屈曲性に優れる反射防止フィルムを提供する。
【解決手段】反射防止フィルム(101)は、透明フィルム基材(10)の一主面上にハードコート層(11)を備えるハードコートフィルム(1)と、ハードコート層上に設けられた反射防止層(5)とを備える。反射防止層は、高屈折率層および低屈折率層を、少なくとも1層ずつ含む。高屈折率層(51,53)は、酸化ニオブを主成分とする薄膜であり、ハードコート層から最も離れて配置されている高屈折率層(53)は、膜厚が40nm以下であり、かつ膜密度4.47g/cm未満である。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明フィルム基材の一主面上にハードコート層を備えるハードコートフィルム;および
前記ハードコートフィルムのハードコート層上に設けられた反射防止層を備える反射防止フィルムであって、
前記反射防止層は、高屈折率層および低屈折率層を、少なくとも1層ずつ含み、
前記高屈折率層は、酸化ニオブを主成分とする薄膜であり、
前記ハードコート層から最も離れて配置されている高屈折率層は、膜厚が40nm以下であり、かつ膜密度が4.47g/cm未満である、
反射防止フィルム。
【請求項2】
前記反射防止層は、前記高屈折率層を2層以上含む、請求項1に記載の反射防止フィルム。
【請求項3】
すべての高屈折率層が、酸化ニオブを主成分とする薄膜であり、膜厚が40nm以下、かつ膜密度が4.47g/cm未満である、請求項2に記載の反射防止フィルム。
【請求項4】
前記反射防止層の算術平均表面高さが、2.5nm以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項5】
前記ハードコート層と前記反射防止層との間に、無機酸化物からなるプライマー層を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項6】
前記ハードコート層は、バインダー樹脂および平均一次粒子径が10~100nmの微粒子を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項7】
前記反射防止層上に、防汚層を備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止フィルム。
【請求項8】
前記防汚層の算術平均表面高さが2.5nm以上である、請求項7に記載の反射防止フィルム。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止フィルムを製造する方法であって、
前記反射防止層をスパッタ法により成膜する、反射防止フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記反射防止層の高屈折率層をスパッタ成膜する際の圧力が0.5Pa以上である、請求項9に記載の反射防止フィルムの製造方法。
【請求項11】
画像表示媒体の視認側表面に、請求項1~3のいずれか1項に記載の反射防止フィルムが配置されている、画像表示装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードコートフィルムのハードコート層上に反射防止層を備える反射防止フィルムおよびその製造方法に関する。さらに、本発明は当該反射防止フィルムを備える画像表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の画像表示装置の視認側表面には、外光の反射による画質低下の防止、コントラスト向上等を目的として、反射防止フィルムが使用されている。反射防止フィルムは、透明フィルム上に、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体からなる反射防止層を備える。
【0003】
例えば、特許文献1では、ハードコートフィルム上にSiOプライマー層を備え、その上に、高屈折率層としての酸化ニオブ(Nb)層と低屈折率層としての酸化シリコン(SiO)層との交互積層体からなる反射防止層を備える反射防止フィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-47876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年では、樹脂フィルム等の折り曲げ可能な基板(フレキシブル基板)を用いた有機ELパネルを備える折り曲げ可能な画像表示装置(フォルダブルディスプレイ)が実用化されている。フォルダブルディスプレイのカバーウインドウとしては、可撓性のフィルム基板上に反射防止層を設けた反射防止フィルムが用いられる。
【0006】
フォルダブルディスプレイは、一般に折り畳んだ状態で保管される。折り畳み状態では、折り畳み箇所(屈曲箇所)の内側には圧縮応力、外側には引張応力が付与されている。表示面を内側としてディスプレイを折り畳むと、反射防止フィルムは、反射防止層形成面を内側として折り畳んだ状態となる。この状態で高温に加熱すると、反射防止層に微細なクラックが発生する場合があり、ディスプレイの視認性低下の原因となっている。
【0007】
上記に鑑み、本発明は、折り畳み状態(屈曲状態)で高温に加熱した場合でも、反射防止層にクラックが生じ難く、耐屈曲性に優れる反射防止フィルムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
反射防止フィルムは、透明フィルム基材の一主面上にハードコート層を備えるハードコートフィルムと、ハードコート層上に設けられた反射防止層とを備える。ハードコート層は、バインダー樹脂に加えて、平均一次粒子径が10~100nmの微粒子を含んでいてもよい。ハードコート層と反射防止層との間には、無機酸化物からなるプライマー層が設けられていてもよい。反射防止層上には、防汚層が設けられていてもよい。
【0009】
反射防止層は、少なくとも1層の高屈折率層および少なくとも1層の低屈折率層を含む。反射防止層は、高屈折率層を2層以上含んでいてもよく、低屈折率層を2層以上含んでいてもよい。反射防止層は、好ましくは、複数の高屈折率層と複数の低屈折率層の交互積層体である。
【0010】
反射防止層の高屈折率層は、酸化ニオブを主成分とする薄膜であり、ハードコート層から最も離れて配置されている高屈折率層は、膜厚が40nm以下であり、かつ膜密度が4.47g/cm未満である。反射防止層が複数の高屈折率層(酸化ニオブ薄膜)を含む場合は、それぞれの高屈折率層の膜厚が40nm以下、かつ膜密度が4.47g/cm未満であることが好ましい。
【0011】
反射防止層の算術平均表面高さは、2.5nm以上が好ましい。反射防止層上に防汚層が設けられている場合は、防汚層の算術平均表面高さが2.5nm以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の反射防止フィルムは、反射防止層形成面を内側として屈曲した状態で加熱しても反射防止層にクラックが発生し難く、フォルダブルディスプレイにも好適に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】反射防止フィルムの積層形態を示す断面図である。
図2】耐屈曲性試験に用いた試料の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1は、本発明の一実施形態の反射防止フィルムの積層構成例を示す断面図である。反射防止フィルム101は、ハードコートフィルム1のハードコート層11上に、反射防止層5を備える。ハードコートフィルム1は、透明フィルム基材10の一主面上にハードコート層11を備える。反射防止層5は、屈折率の異なる2層以上の薄膜の積層体であり、少なくとも1層の高屈折率層および少なくとも1層の低屈折率層を含む。ハードコート層11と反射防止層5との間には、プライマー層3が設けられていてもよい。反射防止層5上には、防汚層7が設けられていてもよい。
【0015】
[ハードコートフィルム]
ハードコートフィルム1は、透明フィルム基材10の一主面上に、ハードコート層11を備える。反射防止層5形成面側にハードコート層11が設けられることにより、反射防止フィルムの表面硬度や耐擦傷性等の機械特性を向上できる。
【0016】
<透明フィルム基材>
透明フィルム基材10の可視光透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。透明フィルム基材10を構成する樹脂材料としては、例えば、透明性、機械強度、および熱安定性に優れる樹脂材料が好ましい。樹脂材料の具体例としては、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂(ノルボルネン系樹脂)、ポリアリレート系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、およびこれらの混合物が挙げられる。
【0017】
透明フィルム基材の厚みは特に限定されないが、強度や取扱性等の作業性、薄層性等の観点から、5~300μm程度が好ましく、10~250μmがより好ましく、20~200μmがさらに好ましい。
【0018】
<ハードコート層>
透明フィルム基材10の主面上にハードコート層11を設けることによりハードコートフィルム1が形成される。ハードコート層は硬化樹脂層であり、硬化性樹脂を含む組成物を透明フィルム基材上に塗布し、樹脂成分を硬化することにより形成される。ハードコート層は、硬化樹脂に加えて微粒子を含んでいてもよい。
【0019】
(硬化性樹脂)
ハードコート層11の硬化性樹脂(バインダー樹脂)としては、熱硬化性樹脂、光硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂等の硬化性樹脂が好ましく用いられる。硬化性樹脂の種類としてはポリエステル系、アクリル系、ウレタン系、アクリルウレタン系、アミド系、シリコーン系、シリケート系、エポキシ系、メラミン系、オキセタン系、アクリルウレタン系等が挙げられる。これらの中でも、硬度が高く、光硬化が可能であることから、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、およびエポキシ系樹脂が好ましく、中でもアクリルウレタン系樹脂が好ましい。
【0020】
光硬化性樹脂組成物は、2個以上の光重合性(好ましくは紫外線重合性)の官能基を有する多官能化合物を含む。多官能化合物はモノマーでもオリゴマーでもよい。光重合性の多官能化合物としては、1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を含む化合物が好ましく用いられる。
【0021】
1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能化合物の具体例としては、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジメチロールプロパントテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、イソシアヌル酸トリ(メタ)アクリレート、エトキシ化グリセリントリアクリレート、エトキシ化ペンタエリスリトールテトラアクリレートおよびこれらのオリゴマーまたはプレポリマー等が挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とはアクリルおよび/またはメタクリルを意味する。
【0022】
1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する多官能化合物は、水酸基を有していてもよい。水酸基を含む多官能化合物を用いることにより、透明フィルム基材とハードコート層との密着性が向上する傾向がある。1分子中に水酸基および2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する化合物としては、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0023】
アクリルウレタン樹脂は、多官能化合物として、ウレタン(メタ)アクリレートのモノマーまたはオリゴマーを含む。ウレタン(メタ)アクリレートが有する(メタ)アクリロイル基の数は、3以上が好ましく、4~15がより好ましく、6~12がさらに好ましい。ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーの分子量は、例えば3000以下であり、500~2500が好ましく、800~2000がより好ましい。ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルとポリオールとから得られるヒドロキシ(メタ)アクリレートを、ジイソシアネートと反応させることにより得られる。
【0024】
ハードコート層形成用組成物中の多官能化合物の含有量は、樹脂成分(硬化によりバインダー樹脂を形成するモノマー、オリゴマーおよびプレポリマー)の合計100重量部に対して、50重量部以上が好ましく、60重量部以上がより好ましく、70重量部以上がさらに好ましい。多官能モノマーの含有量が上記範囲であれば、ハードコート層の硬度が高められる傾向がある。
【0025】
(微粒子)
ハードコート層11が微粒子を含むことにより、表面に微細な凹凸が形成され、反射防止層の密着性や耐屈曲性が向上する傾向がある。
【0026】
微粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化カルシウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモン等の無機酸化物微粒子、ガラス微粒子、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、アクリル-スチレン共重合体、ベンゾグアナミン、メラミン、ポリカーボネート等の透明ポリマーからなる架橋又は未架橋の有機系微粒子を特に制限なく使用できる。
【0027】
微粒子の平均粒子径(平均一次粒子径)は、10nm~10μm程度が好ましい。平均一次粒子径は、コールターカウント法により測定される重量平均粒子径である。微粒子は、粒径に応じて、0.5μm~10μm程度のサブミクロンまたはμmオーダーの粒子径を有する微粒子(以下「マイクロ粒子」と記載する場合がある)、10nm~100nm程度の粒子径を有する微粒子(以下「ナノ粒子」と記載する場合がある)、およびマイクロ粒子とナノ粒子の中間の粒子径を有する微粒子に大別できる。
【0028】
ハードコート層11がナノ粒子を含むことにより、表面に微細な凹凸が形成され、ハードコート層11とプライマー層3および反射防止層5との密着性が向上する傾向がある。ナノ粒子としては、無機微粒子が好ましく、中でも無機酸化物微粒子が好ましい。中でも、屈折率が低く、バインダー樹脂との屈折率差を小さくできることから、シリカ粒子が好ましい。
【0029】
ハードコート層11の表面に、反射防止層との密着性に優れる凹凸形状を形成する観点から、ナノ粒子の平均一次粒子径は、20~80nmが好ましく、25~70nmがより好ましく、30~60nmがさらに好ましい。
【0030】
ハードコート層11におけるナノ粒子の量は、バインダー樹脂100重量部に対して、1~150重量部程度であってもよい。ハードコート層11の表面に、反射防止層との密着性に優れた表面形状を形成する観点から、ハードコート層11におけるナノ粒子の含有量は、バインダー樹脂100重量部に対して、20~100重量部が好ましく、25~90重量部がより好ましく、30~80重量部がさらに好ましい。
【0031】
(ハードコート層の形成)
ハードコート層形成用組成物は、上記のバインダー樹脂成分を含み、必要に応じてバインダー樹脂成分を溶解可能な溶媒を含む。上記の通り、ハードコート層形成用組成物は微粒子を含んでいてもよい。バインダー樹脂成分が光硬化型樹脂である場合には、組成物中に光重合開始剤が含まれることが好ましい。ハードコート層形成用組成物は、上記の他に、レベリング剤、チクソトロピー剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、分散剤、分散安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、消泡剤、増粘剤、界面活性剤、滑剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0032】
透明フィルム基材上にハードコート層形成用組成物を塗布し、必要に応じて溶媒の除去および樹脂の硬化を行うことにより、ハードコート層が形成される。ハードコート層形成用組成物の塗布方法としては、バーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、スロットオリフィスコート法、カーテンコート法、ファウンテンコート法、コンマコート法等の任意の適切な方法を採用し得る。塗布後の加熱温度は、ハードコート層形成用組成物の組成等に応じて、適切な温度に設定すればよく、例えば、50℃~150℃程度である。バインダー樹脂成分が光硬化性樹脂である場合は、紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより光硬化が行われる。照射光の積算光量は、好ましくは100~500mJ/cm程度である。
【0033】
ハードコート層11の厚みは特に限定されないが、高い硬度を実現するとともに、表面形状を適切に制御する観点から、1~10μm程度が好ましく、2~9μmがより好ましく、3~8μmがさらに好ましい。
【0034】
(ハードコート層の表面処理)
ハードコート層11上に反射防止層5を形成する前に、ハードコート層11の表面処理が行われてもよい。表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理、オゾン処理、グロー処理、アルカリ処理、酸処理、カップリング剤による処理等の表面改質処理が挙げられる。表面処理として真空プラズマ処理を行ってもよい。真空プラズマ処理により、ハードコート層の表面粗さを調整することもできる。例えば、ハードコート層11が、バインダー樹脂成分(樹脂硬化物)に加えて無機微粒子を含む場合は、真空プラズマ処理によってハードコート層表面の樹脂成分が選択的にエッチングされやすく、無機粒子はほとんどエッチングされずに残存するため、ハードコート層表面およびその近傍における無機酸化物粒子の存在比率が高くなり、ハードコート層表面の算術平均高さSaが大きくなる傾向がある。
【0035】
真空プラズマ処理における雰囲気ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン等の不活性ガスが好ましく、中でもアルゴンが好ましい。真空プラズマ処理における実効パワー密度は、0.01W・min/m・cm以上が好ましく、0.03W・min/m・cm以上、0.05W・min/m・cm以上、0.07W・min/m・cm以上または0.1W・min/m・cm以上であってもよい。実効パワー密度とは、プラズマ出力のパワー密度(W/cm)を搬送速度(m/min)で割った値である。実効パワー密度が大きいほど、ハードコート層表面の算術平均高さSaが大きくなり、これに伴って、ハードコート層上に形成される反射防止層の密着性および耐屈曲性が向上する傾向がある。
【0036】
一方、実効パワー密度が過度に高いと、バインダー樹脂のエッチングが過度に進行して、ハードコート層表面の凹凸の粗大化や、微粒子の脱落による密着性の低下を招く場合がある。そのため、実効パワー密度は、0.6W・min/m・cm以下が好ましく、0.43W・min/m・cm以下または0.22W・min/m・cm以下であってもよい。
【0037】
(ハードコート層の表面形状)
上記の様に、ハードコート層11が微粒子(ナノ粒子)を含むことにより、表面に微細な凹凸が形成される。また、微粒子を含むハードコート層に、プラズマ処理等の表面処理を実施することにより、凹凸が大きくなり、算術平均高さSaが大きくなる傾向がある。算術平均高さSaは、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた1μm四方の観察像から、ISO 25178に準じて算出される。
【0038】
ハードコート層11の表面の算術平均高さSaは、2.5nm以上が好ましく、3.0nm以上がより好ましく、3.5nm以上、4.0nm以上、4.5nm以上、5.0nm以上、5.3nm以上または5.5nm以上であってもよい。ハードコート層11の算術平均高さSaが大きいほど、反射防止層の密着性が向上する傾向がある。また、反射防止層5の成膜下地となるハードコート層の算術平均高さSaが大きい場合、反射防止層5のスパッタ成膜時に柱状成長しやすく、耐屈曲性が向上する傾向がある。
【0039】
一方、ハードコート層の表面凹凸が粗大になると、十分な密着性を実現できない場合がある。そのため、ハードコート層表面の算術平均高さSaは、10nm以下が好ましく、8.0nm以下がより好ましく、7.5nm以下がさらに好ましく、7.0nm以下または6.5nm以下であってもよい。
【0040】
[反射防止フィルム]
ハードコートフィルム1のハードコート層11上に、必要に応じてプライマー層3を介して、反射防止層5を形成することにより、反射防止フィルムが形成される。
【0041】
<プライマー層>
ハードコートフィルム1のハードコート層11と反射防止層5との間には、プライマー層3が設けられることが好ましい。プライマー層3の材料としては、シリコン、ニッケル、クロム、スズ、金、銀、白金、亜鉛、チタン、インジウム、タングステン、アルミニウム、ジルコニウム、パラジウム等の金属;これらの金属の合金;これらの金属の酸化物、フッ化物、硫化物または窒化物;等が挙げられる。中でも、プライマー層の材料は無機酸化物が好ましく、酸化シリコンまたは酸化インジウムが特に好ましい。プライマー層3を構成する無機酸化物は、酸化インジウム錫(ITO)等の複合酸化物でもよい。
【0042】
プライマー層3の膜厚は、例えば、1~20nm程度であり、好ましくは3~15nmである。プライマー層の膜厚が上記範囲であれば、ハードコート層11との密着性と高い光透過性とを両立できる。
【0043】
<反射防止層>
反射防止層5は、屈折率の異なる複数の薄膜の積層体であり、少なくとも1層の高屈折率層と少なくとも1層の低屈折率層を含む。一般に、反射防止層は、入射光と反射光の逆転した位相が互いに打ち消し合うように、薄膜の光学膜厚(屈折率と膜厚の積)が調整される。屈折率の異なる複数の薄膜の多層積層体により、可視光の広帯域の波長範囲において、反射率を小さくできる。
【0044】
図1に示す反射防止フィルム101において、反射防止層5は、ハードコートフィルム1側から、高屈折率層51,低屈折率層52,高屈折率層53および低屈折率層54の4層を順に備える。反射防止層は4層構成に限定されず、2層構成、3層構成、5層構成、または6層以上の積層構成であってもよい。反射防止層5は、好ましくは、2層以上の高屈折率層と2層以上の低屈折率層の交互積層体である。空気界面での反射を低減するために、反射防止層5の最外層(ハードコートフィルム1から最も離れた層)として設けられる薄膜54は、低屈折率層であることが好ましい。
【0045】
高屈折率層51,53は、酸化ニオブを主成分とする薄膜である。酸化ニオブは屈折率が高いため、低屈折率層との積層によって、効率的に反射光を低減可能である。高屈折率層の屈折率は2.0以上であり、好ましくは、2.2以上である。高屈折率層は、酸化ニオブ以外の金属酸化物を含んでいてもよいが、酸化ニオブの含有量が90重量%以上であり、好ましくは99重量%以上である。
【0046】
高屈折率層としての酸化ニオブ薄膜の膜厚は40nm以下が好ましい。反射防止層が複数の酸化ニオブ薄膜51,53を含む場合は、少なくとも、ハードコート層から最も離れて配置されている高屈折率層53としての酸化ニオブ薄膜の膜厚が40nm以下であり、全ての高屈折率層(酸化ニオブ薄膜)の膜厚が40nm以下であることが好ましい。酸化ニオブ薄膜の膜厚が小さいことにより、反射防止層は耐屈曲性に優れ、反射防止フィルムを屈曲した状態で加熱しても、反射防止層へのクラックが発生し難い。酸化ニオブ薄膜の膜厚は、35nm以下がより好ましく、32nm以下または30nm以下であってもよい。
【0047】
酸化ニオブ薄膜の密度は、4.47g/cm以下が好ましく、4.40g/cm以下がより好ましく、4.35g/cm以下または4.33g/cm以下であってもよい。反射防止層が複数の酸化ニオブ薄膜51,53を含む場合は、少なくとも、ハードコート層11から最も離れて配置されている高屈折率層53としての酸化ニオブ薄膜は、膜密度が上記範囲であることが好ましく、複数の酸化ニオブ薄膜51,53の全ての膜密度が上記範囲であることが特に好ましい。酸化ニオブ薄膜の膜密度は、一般に、4.0g/cm以上であり、4.1g/cm以上または4.2g/cm以上であってもよい。膜密度は、ラザフォード後方散乱(RBS)法による測定値であり、断面観察から求めた膜厚を用いて、密度を算出する。
【0048】
酸化ニオブ薄膜の膜厚が大きいほど膜密度が大きくなる傾向がある。上記のように、酸化ニオブ薄膜の膜厚が40nm以下であることにより、酸化ニオブ薄膜の膜密度が過度に大きくならず、屈曲時のクラックの発生が抑制される傾向がある。また、酸化ニオブ薄膜の下地の表面凹凸が大きい(Saが大きい)ほど、酸化ニオブ薄膜の膜密度が小さく、クラックの発生が抑制される傾向がある。
【0049】
低屈折率層52,54は、屈折率が1.6以下、好ましくは1.5以下である。低屈折率材料としては、酸化シリコン、窒化チタン、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化カルシウム、フッ化ハフニウム、フッ化ランタン等が挙げられる。中でも、屈折率が低く、硬度が高く、酸化ニオブ高屈折率層との積層によって、効率的に反射率を低減可能であることから、酸化シリコンが好ましい。低屈折率層52,54は、好ましくは、酸化シリコンの含有量が90重量%以上であり、より好ましくは99重量%以上である。酸化シリコン薄膜の膜密度は、2.20g/cm以下が好ましく、2.15g/cm以下または2.10g/cm以下であってもよい。
【0050】
反射防止層の最外層である低屈折率層54が酸化シリコン層である場合、その膜厚は、85nmよりも大きいことが好ましい。反射防止層5の最外層としての低屈折率層54が、85nmよりも大きい膜厚を有する酸化シリコン層であることにより、反射防止層5の表面硬度が高められ、反射防止層の耐擦傷性が高められるとともに、その上に形成される防汚層7の耐摩耗性が向上する傾向がある。
【0051】
低屈折率層54の膜厚は、87nm以上が好ましく、90nm以上がより好ましく、92nm以上、94nm以上または95nm以上であってもよい。低屈折率層54の膜厚が過度に大きいと、クラック発生の原因となったり、反射防止性特性に優れる低反射率の光学設計が困難となる場合がある。そのため、低屈折率層54の膜厚は、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、130nm以下、120nm以下、115nm以下、110nm以下または105nm以下であってもよい。
【0052】
一実施形態において、反射防止層5は、ハードコートフィルム1側から、第1層:高屈折率層51としての酸化ニオブ薄膜、第2層:低屈折率層52としての酸化シリコン薄膜、第3層:高屈折率層53としての酸化ニオブ薄膜、および第4層:低屈折率層54としての酸化シリコン薄膜の計4層の交互積層体である。他の実施形態において、反射防止層は、高屈折率層としての酸化ニオブ薄膜と低屈折率層としての酸化シリコン薄膜を3層ずつ含む計6層の交互積層体である。
【0053】
反射防止層5が、2層の高屈折率層51,53および2層の低屈折率層52,54からなる合計4層の交互積層体である場合、ハードコートフィルム1側から、膜厚10~20nmの酸化ニオブ薄膜51,膜厚35~45nmの酸化シリコン薄膜52,膜厚25~35nmの酸化ニオブ薄膜53、および膜厚90~105nmの酸化シリコン薄膜54を順に備える構成が挙げられる。
【0054】
(プライマー層および反射防止層の成膜)
プライマー層3および反射防止層5を構成する薄膜の成膜方法は特に限定されず、ウェットコーティング法、ドライコーティング法のいずれでもよい。膜厚が均一な薄膜を形成できることから、真空蒸着、CVD,スパッタ、電子線蒸等のドライコーティング法が好ましい。中でも、膜厚の均一性に優れ、かつ緻密な膜を形成しやすいことから、スパッタ法が好ましい。
【0055】
スパッタ法では、ロールトゥーロール方式により、長尺のハードコートフィルムを一方向(長手方向)に搬送しながら、薄膜を連続成膜できるため、反射防止フィルムの生産性を向上できる。反射防止フィルムの生産性を向上するためには、反射防止層5を構成する全ての薄膜をスパッタ法により成膜することが好ましい。
【0056】
スパッタ法では、アルゴン等の不活性ガス、および必要に応じて酸素等の反応性ガスをチャンバー内に導入しながら成膜が行われる。スパッタ法による酸化物層の成膜は、酸化物ターゲットを用いる方法、および金属ターゲットを用いた反応性スパッタのいずれでも実施できる。高レートで金属酸化物を成膜するためには、金属ターゲットを用いた反応性スパッタが好ましい。
【0057】
スパッタ成膜条件を調整することにより、反射防止層の膜密度を調整できる。例えば、スパッタ成膜時の放電電圧が小さい場合は、スパッタ粒子の運動エネルギーが小さく、基板表面での拡散が抑制されるため、柱状成長が促進され、膜密度が小さくなりやすい。
【0058】
また、成膜時の圧力が高いと、スパッタ粒子の平均自由行程が小さくなり、スパッタ粒子の指向性が低下して拡散されやすくなるため、膜密度が小さくなる傾向がある。膜密度の小さい酸化ニオブ薄膜を形成するためには、スパッタ成膜時の圧力は、0.5Pa以上が好ましく、0.55Pa以上または0.6Pa以上であってもよい。一方、成膜圧力が過度に高い場合は、成膜レートが低く生産性に劣るため、成膜圧力は1.5Pa以下が好ましく、1Pa以下または0.9Pa以下であってもよい。
【0059】
スパッタ法等のドライプロセスにより薄膜を形成する場合、膜厚が小さいもの(成膜初期)は下地の影響を強く受け、膜厚が大きくなるにつれてバルク的な特性を有する傾向がある。特に、ハードコート層11が表面凹凸を有し、Saが大きい場合、成膜初期は下地の凹凸の影響を受けて膜密度が小さくなりやすいが、膜厚が大きくなるにつれて、バルクの特性に近付き、膜密度が大きくなる傾向がある。
【0060】
高屈折率層として膜厚の大きい酸化ニオブ薄膜を含む反射防止フィルムを、反射防止層形成面側を内側として屈曲させた状態で加熱すると、反射防止層にクラックが生じる場合がある。酸化シリコン等の低屈折率層の膜厚が大きい場合でも、酸化ニオブ薄膜の膜厚が小さい場合はクラックの発生が抑制されることから、クラックの発生は膜厚の大きい酸化ニオブ薄膜に起因すると考えられる。
【0061】
反射防止層形成面側を内側として反射防止フィルムを屈曲させると、反射防止層には圧縮方向の歪が生じる。この状態で加熱すると、フィルム基材は熱膨張するため、薄膜のハードコート層側の面には引張方向の歪(膜を伸ばそうとする力)が生じる。酸化ニオブ薄膜の膜厚が大きい場合は、薄膜の表裏の歪の差が大きくなる上に、膜密度が高いために膜内で歪が緩和され難いことが、反射防止層へのクラック発生の一因であると考えられる。
【0062】
特に、反射防止層5の表面側の酸化ニオブ薄膜53は、ハードコート層11に近い側に位置する酸化ニオブ薄膜51よりも、屈曲時の歪が大きいため、クラック発生の原因となりやすい。高屈折率層としての酸化ニオブ薄膜と低屈折率層としての酸化シリコン薄膜を交互積層した反射防止フィルムでは、反射率を低下させるための光学設計として、反射防止層の表面側の酸化ニオブ薄膜の膜厚が大きい構成が採用されている。
【0063】
これに対して、本発明では、酸化ニオブ薄膜53の膜厚が40nm以下であるため、反射防止フィルムを屈曲させた状態で加熱しても、酸化ニオブ薄膜の歪が小さく、クラックの発生が抑制されると考えられる。また、ハードコート層が微粒子を含み、ハードコート層の表面に微細な凹凸が形成されているため、その上に薄膜を形成する際に、柱状成長が促進され、酸化ニオブ薄膜の膜密度が小さくなることも、耐屈曲性の向上(クラックの抑制)に寄与していると考えられる。
【0064】
反射防止層5の表面の算術平均高さSaは、2.5nm以上が好ましく、2.8nm以上がより好ましく、3.0nm以上がさらに好ましく、3.5nm以上または4.0nm以上であってもよい。反射防止層5の算術平均高さSaは、8nm以下が好ましく、7.5nm以下がより好ましく、7nm以下がさらに好ましく、6nm以下または5.5nm以下であってもよい。
【0065】
<防汚層>
反射防止フィルムは、反射防止層5上に、最表面層(トップコート層)として防汚層7を備えることが好ましい。最表面に防汚層が設けられることにより、外部環境からの汚染(指紋、手垢、埃等)の影響を低減できるとともに、表面に付着した汚染物質の除去が容易となる。
【0066】
反射防止層5の反射防止特性を維持するために、防汚層7は、反射防止層5の最外層である低屈折率層54との屈折率差が小さいことが好ましい。防汚層7の屈折率は、1.6以下が好ましく、1.55以下がより好ましい。
【0067】
防汚層7の材料としては、フッ素含有化合物が好ましい。フッ素含有化合物は、防汚性を付与するとともに、低屈折率化にも寄与し得る。中でも、撥水性に優れ、高い防汚性を発揮できることから、パーフルオロポリエーテル骨格を含有するフッ素系ポリマーが好ましい。防汚性を高める観点から、剛直に並列可能な主鎖構造を有するパーフルオロポリエーテルが特に好ましい。パーフルオロポリエーテルの主鎖骨格の構造単位としては、炭素数1~4の分枝を有していてもよいパーフルオロアルキレンオキシドが好ましく、例えば、パーフルオロメチレンオキシド、(-CFO-)、パーフルオロエチレンオキシド(-CFCFO-)、パーフルオロプロピレンオキシド(-CFCFCFO-)、パーフルオロイソプロピレンオキシド(-CF(CF)CFO-)等が挙げられる。
【0068】
防汚層7は、リバースコート法、ダイコート法、グラビアコート法等のウエット法や、CVD法等のドライ法等により形成できる。防汚層の膜厚は、通常、2~50nm程度である。防汚層7の膜厚が大きいほど、防汚性が向上する傾向がある。また、防汚層7の膜厚が大きいほど摩耗による防汚特定の低下が抑制される傾向がある。防汚層の膜厚は、5nm以上が好ましく、7nm以上がより好ましく、8nm以上がさらに好ましい。一方、防汚層の表面に、ハードコート層表面の凹凸形状を反映した表面形状を形成し、滑り性を付与する観点から、防汚層の膜厚は30nm以下が好ましく、20nm以下がより好ましい。
【0069】
防汚層7の表面の算術平均高さSaは、2.5nm以上が好ましく、2.8nm以上がより好ましく、3.0nm以上がさらに好ましく、3.5nm以上、3.7nm以上、3.9nm以上または4.0nm以上であってもよい。防汚層7の算術平均高さSaは、8nm以下が好ましく、7.5nm以下がより好ましく、7nm以下がさらに好ましく、6.5nm以下、6nm以下または5.5nm以下であってもよい。
【0070】
防汚層7の表面形状は、ハードコート層11およびその上に設けられた反射防止層5の表面形状を反映するため、ハードコート層11の算術平均高さSaが大きいほど、防汚層7の算術平均高さSaが大きくなる傾向がある。また、反射防止層5の成膜時に膜が柱状成長すると、凹凸が大きくなるため、防汚層7の算術平均高さSaが大きくなる傾向がある。
【0071】
[反射防止フィルムの使用形態]
反射防止フィルムは、例えば液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等の画像表示装置の表面に配置して用いられる。例えば、液晶セルや有機ELセル等の画像表示媒体を含むパネルの視認側表面に反射防止フィルムを配置することにより、外光の反射を低減して、画像表示装置の視認性を向上できる。
【0072】
本発明の反射防止フィルムは耐屈曲性に優れ、反射防止層形成面側を内側として屈曲させた状態で保持しても、屈曲箇所での反射防止層のクラックが発生し難いため、フォルダブルディスプレイにも好適に使用できる。
【実施例0073】
以下に実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の具体例に限定されるものではない。
【0074】
[ハードコートフィルムの作製]
紫外線硬化性アクリル系樹脂組成物(DIC製、商品名「GRANDIC PC-1070」)に、樹脂成分100重量部に対するシリカ粒子の量が40重量部となるように、オルガノシリカゾル(日産化学社製「MEK-ST-L」、シリカ粒子の平均一次粒子径:50nm、シリカ粒子の粒子径分布:30nm~130nm、固形分30重量%)を添加して混合し、ハードコート層形成用組成物を調製した。
【0075】
厚み80μmのトリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム製「フジタック」)の片面に、上記の組成物を、乾燥後の厚みが4μmとなるように塗布し、80℃で3分間乾燥した。その後、高圧水銀ランプを用いて、積算光量200mJ/cmの紫外線を照射し、塗布層を硬化させハードコート層を形成した。
【0076】
[実施例1]
(ハードコート層の表面処理)
0.5Paの真空雰囲気下でハードコートフィルムを搬送しながら、実効パワー密度0.014W・min/m・cmにてハードコート層の表面にアルゴンプラズマ処理を行った。アルゴンプラズマ処理後のハードコート層の算術平均高さSaは4.9nmであった。
【0077】
(プライマー層の形成)
プラズマ処理後のハードコートフィルムをロールトゥートール方式のスパッタ成膜装置に導入し、槽内を1×10-4Paまで減圧した後、フィルムを走行させながら、圧力が0.5Paとなるように、アルゴンガスと酸素ガスを98:2の体積比で導入し、電源:MFAC、投入電力:6kWの条件で、スパッタ法により膜厚2nmのITOプライマー層を形成した。ITOプライマー層の形成には、ターゲット材料として、酸化インジウムと酸化スズとを90:10の重量比で含有する焼結ターゲットを用いた。
【0078】
(反射防止層の形成)
ITOプライマー層の形成に続いて、反応性スパッタにより、第1層:14nmのNb層(屈折率:2.32)、第2層:40nmのSiO層(屈折率:1.46)、第3層:29nmのNb層、および第4層:94nmのSiO層を順に成膜して、反射防止層を形成した。Nb層(第1層および第3層)の成膜には、Nbターゲットを用い、圧力が0.6Paとなるように、アルゴンガスと酸素ガスを90:10の体積比で導入し、投入電力:30kWでスパッタを実施した。SiO層(第2層および第4層)の成膜には、Siターゲットを用い、圧力が0.5Paとなるように、アルゴンガスと酸素ガスを70:30の体積比で導入し、投入電力:20kWでスパッタを実施した。
【0079】
(防汚層の形成)
フッ素系防汚コーティング剤(信越化学工業製「SHIN-ETSU SUBELYN KY1903―1」)を乾燥して固化したものを蒸着源として、加熱温度260℃で、真空蒸着法により、反射防止層上に膜厚7nmの防汚層を形成した。
【0080】
[実施例2]
プラズマ処理時の放電電力を変更し、実効パワー密度を0.14W・min/m・cmとした。それ以外は実施例1と同様にして、ハードコート層のプラズマ処理、反射防止層の形成および防汚層の形成を行い、反射防止フィルムを作製した。アルゴンプラズマ処理後のハードコート層の算術平均高さSaは、5.7nmであった。
【0081】
[比較例1]
反射防止層の形成において、各層の膜厚を表1に示す様に変更した。それ以外は実施例1と同様にして、ハードコート層のプラズマ処理、反射防止層の形成および防汚層の形成を行い、反射防止フィルムを作製した。
【0082】
[比較例2]
反射防止層の形成において、第1層および第3層のNb層の成膜時の圧力を0.4Paに変更した。それ以外は実施例1と同様にして、ハードコート層のプラズマ処理、反射防止層の形成および防汚層の形成を行い、反射防止フィルムを作製した。
【0083】
[評価]
<表面形状>
原子間力顕微鏡(AFM)を用い、下記の条件によりハードコート層および反射防止フィルム(防汚層)の表面形状を測定し、ISO 25178に準じて算術平均表面高さSaを測定した。
装置:Bruker製Dimemsion3100、コントローラ:NanoscopeV
測定モード:タッピングモード
カンチレバー:Si単結晶
測定視野:1μm×1μm
【0084】
<薄膜の膜厚および膜密度>
集束イオンビーム加工装置(日立ハイテク製「FB2200」)により反射防止フィルムを加工して断面観察用試料を作製し、電界放射型透過電子顕微鏡(日本電子製「JEM-2800)により断面を観察して、反射防止層を構成する薄膜の膜厚を測定した。反射防止層を構成する薄膜の膜密度は、ラザフォード後方散乱(RBS)法により測定した。膜密度の算出においては、断面観察から求めた膜厚を用いた。
【0085】
<耐屈曲試験>
反射防止フィルムを、幅10mm×長さ100mmのサイズに切り出し、反射防止層側の面が内側となるように180°湾曲させ、図2に示す様に、屈曲半径がD/2で一定となるように、長さ方向の両端を厚みDのスペーサに貼り合わせた。この試料を100℃のオーブン中で30分加熱した後に取り出し、目視にて湾曲部分のクラック(反射防止層の白濁)の有無を確認した。スペーサの厚みDが、9.2mm、7.8mm、5.2mm(屈曲半径D/2が、4.6mm、3.9mm、2.6mm)の場合で評価を行い、クラックが発生していなかった屈曲半径の最小値を耐屈曲半径とした。
【0086】
実施例および比較例の反射防止フィルムのハードコート層のプラズマ処理の実効パワー密度、およびプラズマ処理後の算術平均高さSa、反射防止層を構成する各層の膜厚、第1層および第3層のNb層の膜密度、防汚層表面の算術平均高さSa、ならびに反射防止フィルムの耐屈曲半径を、表1に示す。
【0087】
【表1】
【0088】
第3層の膜厚が95nmである比較例1では、耐屈曲半径が4.6mmであったのに対して、Nb層(第1層および第3層)の膜厚がいずれも40nm以下である実施例1,2は、比較例1よりも耐屈曲半径が小さく、耐屈曲性に優れていた。実施例1,2では、比較例1に比べて、第3層の膜密度が小さく、膜密度の低下が耐屈曲性向上に寄与していると考えられる。
【0089】
比較例2では、第3層の膜厚が、実施例1,2と同等であるにも関わらず、耐屈曲性が劣っていた。比較例2では、Nb層成膜時の圧力が低く、膜密度が高いために、実施例1,2に比べて耐屈曲性が低下したと考えられる。
【0090】
実施例1と実施例2との対比では、ハードコート層のプラズマ処理時の電力が大きい実施例2の方が耐屈曲半径が小さく、耐屈曲性に優れていた。放電電力が大きい実施例2では、ハードコート層の表面凹凸(算術平均高さSa)が大きいために柱状成長が促進され、膜密度が上昇し難いことが、耐屈曲性向上に寄与していると考えられる。
【符号の説明】
【0091】
1 ハードコートフィルム
10 透明フィルム基材
11 ハードコート層
3 プライマー層
5 反射防止層
51,53 高屈折率層(酸化ニオブ層)
52,54 低屈折率層(酸化シリコン層)
7 防汚層
101 反射防止フィルム

図1
図2