(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113047
(43)【公開日】2024-08-21
(54)【発明の名称】耐破壊性が改善されたガラス系物品
(51)【国際特許分類】
C03C 21/00 20060101AFI20240814BHJP
G09F 9/00 20060101ALI20240814BHJP
【FI】
C03C21/00 101
G09F9/00 302
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024090604
(22)【出願日】2024-06-04
(62)【分割の表示】P 2021513874の分割
【原出願日】2019-09-11
(31)【優先権主張番号】62/729,735
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100224775
【弁理士】
【氏名又は名称】南 毅
(72)【発明者】
【氏名】シアオジュー グオ
(72)【発明者】
【氏名】ジェニファー リン ハント
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ジョゼフ レッツィ
(72)【発明者】
【氏名】ロスチラフ ヴァチェフ ルセフ
(72)【発明者】
【氏名】シャーリーン マリー スミス
(72)【発明者】
【氏名】ロス ジョンソン スチュワート
(57)【要約】
【課題】 改善された耐破壊性を示すガラス系物品を提供する。
【解決手段】
改善された耐破壊性を示す、ガラス系物品のガラス組成に起因する特性と応力プロファイルとの関係を提供する。詳しくは、第1の表面、第2の表面、及び第1の表面から圧縮の第1の深さDOC
1まで延びる第1の圧縮領域、第2の表面から圧縮の第2の深さDOC
2まで延びる第2の圧縮領域、及びDOC
1からDOC
2まで延びる引張領域を有する応力プロファイルを含み、引張領域が、1.31MPa・√(m)以上かつ1.8・K
IC未満の引張応力係数K
Tを有しており、ここで、K
ICは、前記ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性である、ガラス系物品を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス系物品であって、
第1の表面;
第2の表面;及び
第1の表面から圧縮の第1の深さDOC1まで延びる第1の圧縮領域、第2の表面から圧縮の第2の深さDOC2まで延びる第2の圧縮領域、及びDOC1からDOC2まで延びる引張領域を有する応力プロファイル
を含み、
前記引張領域が、1.31MPa・√(m)以上かつ1.8・KIC未満の引張応力係数KTを有しており、ここで、KICは、前記ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性である、
ガラス系物品。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、その内容が依拠され、その全体がここに参照することによって本願に援用される、2018年9月11日出願の米国仮特許出願第62/729,735号の優先権の利益を主張する。また、本出願は、2019年9月11日に出願された特願2021-513874号の分割出願である。
【技術分野】
【0002】
本明細書は、概して、電子デバイスのカバーガラスとしての使用に適したガラス系物品に関する。
【背景技術】
【0003】
スマートフォン、タブレット、ポータブルメディアプレーヤー、パーソナルコンピュータ、及びカメラなどの携帯機器は、その携帯性に起因して、地面などの硬い表面への偶発的な落下に対して特に脆弱である。これらのデバイスには通常、硬い表面にぶつかると損傷する可能性があるカバーガラスが組み込まれている。これらのデバイスの多くでは、カバーガラスはディスプレイカバーとして機能し、タッチ機能が組み込まれている場合があることから、カバーガラスが損傷した場合にデバイスの使用に悪影響をもたらす可能性がある。
【0004】
関連する携帯機器を硬い表面に落下させた場合、カバーガラスには、2つの主要な故障モードが存在する。モードの1つは曲げ破壊であり、これは、デバイスが硬い表面との衝突による動的荷重を被った場合にガラスが曲がることによって引き起こされる。もう1つのモードは、ガラス表面への損傷の導入によって引き起こされる急激な接触不良である。ガラスとアスファルト、花崗岩などの粗い硬い表面との衝撃は、ガラス表面に鋭い凹部をもたらしうる。これらの凹部は、ガラス表面の破損箇所となり、そこから亀裂が発生し、伝播する可能性がある。
【0005】
ガラス表面に圧縮応力を誘発することを含むイオン交換技術によって、曲げ破壊に対するより大きい耐性をガラスにもたらすことができる。しかしながら、イオン交換したガラスは、急激な接触に起因するガラスの局所的な凹部によって引き起こされる高い応力集中の理由から、動的な鋭い接触に対しては依然として脆弱である。加えて、イオン交換したガラス物品は、ガラスに蓄積されたエネルギーに起因して、多数の破片及び/又はエネルギーを加えられた破片をもたらす、望ましくない破壊状態を示しうる。
【0006】
ガラス製造業者及びハンドヘルドデバイス製造業者は、急激な接触不良に対するハンドヘルドデバイスの耐性を向上させるための継続的な取り組みを行ってきた。解決法は、カバーガラスのコーティングに始まり、デバイスが硬い表面に落下したときにカバーガラスが硬い表面に直接衝突するのを防ぐベゼルまで、多岐にわたる。しかしながら、美的要件及び機能的要件には制約があることから、カバーガラスを硬い表面との衝突から完全に防ぐことは非常に困難である。
【0007】
携帯機器は可能な限り薄いことも望ましい。したがって、強度に加えて、携帯機器のカバーガラスとして用いられるガラスは、可能な限り薄くすることも所望される。したがって、カバーガラスの強度を高めることに加えて、ガラスは、薄いガラスシートなどの薄いガラス物品を製造することができるプロセスによってそれを形成可能にする機械的特性を有していることもまた望ましい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、イオン交換などによって強化することができ、破壊時に多数の破片を生じないガラスが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
態様(1)によれば、ガラス系物品が提供される。ガラス系物品は、第1の表面;第2の表面;並びに、第1の表面から圧縮の第1の深さDOC1まで延びる第1の圧縮領域、第2の表面から圧縮の第2の深さDOC2まで延びる第2の圧縮領域、及びDOC1からDOC2まで延びる引張領域を有する応力プロファイルを含む。引張領域は、1.31MPa・√(m)以上かつ1.8・KIC未満の引張応力係数KTを有しており、KICは、ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性である。
【0010】
態様(2)によれば、KTが1.41MPa・√(m)以上である、態様(1)に記載のガラス系物品が提供される。
【0011】
態様(3)によれば、KTが2.0MPa・√(m)以上である、態様(1)又は(2)に記載のガラス系物品が提供される。
【0012】
態様(4)によれば、KTが1.781KIC以下である、態様(1)から(3)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0013】
態様(5)によれば、KICが0.67MPa・√(m)以上である、態様(1)から(4)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0014】
態様(6)によれば、KICが1.3MPa・√(m)以上である、態様(1)から(5)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0015】
態様(7)によれば、アルカリアルミノケイ酸塩を含む、態様(1)から(6)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0016】
態様(8)によれば、それぞれ、第1及び第2の表面から測定して、DOC1=DOC2である、態様(1)から(7)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0017】
態様(9)によれば、ガラス系物品が非脆弱性である、態様(1)から(8)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0018】
態様(10)によれば、消費者向け電子製品が提供される。消費者向け電子製品は、前面、背面、及び側面を含む筐体;少なくとも部分的に筐体内にある電気部品であって、該電気部品が、少なくとも、コントローラ、メモリ、及びディスプレイを備えており、該ディスプレイが筐体の前面又はそれに隣接している、電気部品;並びに、ディスプレイの上に配置されたカバー基板を含む。筐体又はカバー基板のうちの少なくとも一方の一部は、態様(1)から(9)のいずれかに記載のガラス系物品を含む。
【0019】
態様(11)によれば、ガラス系物品が提供される。ガラス系物品は、表面;及び、該表面から圧縮の深さDOCまで延びる圧縮領域と引張領域とを有する応力プロファイルを含む。引張領域は、1.31MPa・√(m)以上かつKT
限界以下の引張応力係数KTを有しており、ここで、KT
限界は次式によって定義され:
【0020】
【0021】
式中、KICは、ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性であり 、tは、ガラス系物品の厚さである。
【0022】
態様(12)によれば、KTが1.41MPa・√(m)以上である、態様(11)に記載のガラス系物品が提供される。
【0023】
態様(13)によれば、KTが2.0MPa・√(m)以上である、態様(11)又は(12)に記載のガラス系物品が提供される。
【0024】
態様(14)によれば、DOC/tが0.12を超える、態様(11)から(13)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0025】
態様(15)によれば、DOC/tが0.18を超える、態様(11)から(14)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0026】
態様(16)によれば、KICが0.67MPa・√(m)以上である、態様(11)から(15)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0027】
態様(17)によれば、KICが1.3MPa・√(m)以上である、態様(11)から(16)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0028】
態様(18)によれば、アルカリアルミノケイ酸塩を含む、態様(11)から(17)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0029】
態様(19)によれば、ガラス系物品が非脆弱性である、態様(11)から(18)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0030】
態様(20)によれば、消費者向け電子製品が提供される。消費者向け電子製品は、前面、背面、及び側面を含む筐体;少なくとも部分的に筐体内にある電気部品であって、該電気部品が、少なくとも、コントローラ、メモリ、及びディスプレイを備えており、該ディスプレイが筐体の前面又はそれに隣接している、電気部品;並びに、ディスプレイの上に配置されたカバー基板を含む。筐体又はカバー基板のうちの少なくとも一方の一部は、態様(11)から(19)のいずれかに記載のガラス系物品を含む。
【0031】
態様(21)によれば、ガラス系物品が提供される。ガラス系物品は、第1の表面;第2の表面;並びに、第1の表面から圧縮の第1の深さDOC1まで延びる第1の圧縮領域、第2の表面から圧縮の第2の深さDOC2まで延びる第2の圧縮領域、及びDOC1からDOC2まで延びる引張領域を有する応力プロファイルを含む。引張領域は、1.31MPa・√(m)以上かつKT
限界以下の引張応力係数KTを有しており、ここで、KT
限界は、次式によって定義され:
【0032】
【0033】
式中、KICは、ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性であり、tはガラス系物品の厚さであり、DOC1及びDOC2は、第1の表面から測定される。
【0034】
態様(22)によれば、KTが1.41MPa・√(m)以上である、態様(21)に記載のガラス系物品が提供される。
【0035】
態様(23)によれば、KTが2.0MPa・√(m)以上である、態様(21)又は(22)に記載のガラス系物品が提供される。
【0036】
態様(24)によれば、KTが0.95KT
限界以下である、態様(21)から(23)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0037】
態様(25)によれば、KTが0.85KT
限界以下である、態様(21)から(24)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0038】
態様(26)によれば、KICが0.67MPa・√(m)以上である、態様(21)から(25)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0039】
態様(27)によれば、KICが1.3MPa・√(m)以上である、態様(21)から(26)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0040】
態様(28)によれば、アルカリアルミノケイ酸塩を含む、態様(21)から(27)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0041】
態様(29)によれば、DOC1=t-DOC2である、態様(21)から(28)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0042】
態様(30)によれば、ガラス系物品が非脆弱性である、態様(21)から(29)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0043】
態様(31)によれば、消費者向け電子製品が提供される。消費者向け電子製品は、前面、背面、及び側面を含む筐体;少なくとも部分的に筐体内にある電気部品であって、該電気部品が、少なくとも、コントローラ、メモリ、及びディスプレイを備えており、該ディスプレイが筐体の前面又はそれに隣接している、電気部品;並びに、ディスプレイの上に配置されたカバー基板を含む。筐体又はカバー基板のうちの少なくとも一方の一部は、態様(21)から(30)のいずれかに記載のガラス系物品を含む。
【0044】
態様(32)によれば、ガラス系物品が提供される。ガラス系物品は、表面;及び、該表面から圧縮の深さDOCまで延びる圧縮領域と引張領域とを有する応力プロファイルを含む。圧縮領域は、圧縮応力係数KCSを有し、引張領域は、1.31MPa・√(m)以上の引張応力係数KTを有しており、かつ:
【0045】
【0046】
であり、式中、KICは、ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性である。
【0047】
態様(33)によれば、
【0048】
【0049】
である、態様(32)に記載のガラス系物品が提供される。
【0050】
態様(34)によれば、
【0051】
【0052】
である、態様(32)又は(33)に記載のガラス系物品が提供される。
【0053】
態様(35)によれば、KTが1.41MPa・√(m)以上である、態様(32)から(34)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0054】
態様(36)によれば、KTが2.0MPa・√(m)以上である、態様(32)から(35)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0055】
態様(37)によれば、アルカリアルミノケイ酸塩を含む、態様(32)から(36)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0056】
態様(38)によれば、ガラス系物品が非脆弱性である、態様(32)から(37)のいずれかに記載のガラス系物品が提供される。
【0057】
態様(39)によれば、消費者向け電子製品が提供される。消費者向け電子製品は、前面、背面、及び側面を含む筐体;少なくとも部分的に筐体内にある電気部品であって、該電気部品が、少なくとも、コントローラ、メモリ、及びディスプレイを備えており、該ディスプレイが筐体の前面又はそれに隣接している、電気部品;並びに、ディスプレイの上に配置されたカバー基板を含む。筐体又はカバー基板のうちの少なくとも一方の一部は、態様(32)から(38)のいずれかに記載のガラス系物品を含む。
【0058】
追加の特徴及び利点は、以下の詳細な説明に記載され、一部には、その説明から当業者に容易に明らかとなり、あるいは、以下の詳細な説明、特許請求の範囲、並びに添付の図面を含めた本明細書に記載される実施形態を実施することによって認識されよう。
【0059】
前述の概要及び以下の詳細な説明はいずれも、さまざまな実施形態を説明しており、特許請求される主題の性質及び特徴を理解するための概観又は枠組みを提供することを意図していることが理解されるべきである。添付の図面は、さまざまな実施形態のさらなる理解を提供するために含まれ、本明細書に組み込まれて、その一部を構成する。図面は、本明細書に記載されるさまざまな実施形態を例証しており、その説明とともに、特許請求の範囲の主題の原理及び動作を説明する役割を担う。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【
図3】破壊靭性K
ICの決定に利用した試料及びその断面の概略図
【
図4】本明細書に開示及び記載される実施形態による、表面に圧縮応力層を有するガラス系物品の断面の概略図
【
図5】さまざまな組成についての引張応力係数K
Tの関数としての1亀裂枝あたりの分岐のプロット
【
図6】破壊靭性K
ICの関数としての
図5の組成についてのK
Tの脆弱性限界値のプロット
【
図7】さまざまな厚さ及びイオン交換処理での組成2の試料についてのK
Tの関数としての破壊後の破片の数のプロット
【
図8】組成2の試料についてのDOC/tの関数としての最大の非脆弱性K
Tの2乗のプロット
【
図9】BTZ/tの関数としての
図8からのデータのプロット
【
図10】圧縮応力領域の二乗応力の積分に関するデータと組み合わせた後の
図7及び8に由来するデータのプロット(K
T及びK
CSはそれぞれ、引張応力係数及び圧縮応力係数である)
【
図11】圧縮応力領域の二乗応力の積分に関するデータと組み合わせた後の
図7及び8に由来するデータのプロット(K
Tn及びK
CSnは、それぞれ、破壊靭性に対して正規化した引張応力係数及び圧縮応力係数である)
【
図12A】本明細書に開示されるガラス系物品のいずれかを組み込んだ例示的な電子デバイスの平面図
【発明を実施するための形態】
【0061】
これより、さまざまな実施形態によるガラス系物品について詳細に参照する。本明細書で利用される場合、「ガラス系」とは、ガラス又はガラスセラミック組成物などのガラスを含む物品を示し、ガラスセラミックは、1つ以上の結晶相及び残留ガラス相を含む。概して、「ガラス系基板」とはイオン交換前の物品を指し、「ガラス系物品」とはイオン交換した物品を指す。
【0062】
ガラス系物品は、改善された落下性能を示し、同時に、多数の破片を生成する破壊状態を示さない。この品質により、ガラス系物品は、電子デバイス、特に、使用中にガラス系物品を破壊させる条件にさらされる可能性がある携帯電子デバイスでの使用に特に適するようになる。ガラス系物品は、該ガラス系物品の表面から圧縮の深さまで延びる圧縮応力層を含む。
【0063】
電子デバイスで使用するガラス系物品の選択の際には、ガラス組成に起因する特性とガラス系物品の応力プロファイルに起因する特性との特定の組合せの影響を全体として考慮することができる。別の言い方をすれば、イオン交換したガラス系物品の挙動は、該ガラス系物品を形成するためにイオン交換に供されるガラス系基板の組成に関連する要因と、イオン交換プロセスによって生成する応力プロファイルに起因する要因とに起因しうる。
【0064】
イオン交換などによってガラス系物品が化学的に強化される度合いが増すにつれて、これまで以上の耐破壊性を追求する中で、ガラス系物品が、脆弱性と呼ばれうる多数の破片を生成する望ましくない破壊状態を示すリスクが高まっている。以前は、強化ガラスの脆弱性を回避するための基準は、強化ガラス系物品の最大中央張力(CT)、蓄積歪みエネルギー(SSE)、又は引張応力係数(KT)を制限することに基づいていた。しかしながら、これらの制限は普遍的に適用できるわけではない。本明細書では、ガラス系物品、特に以前のガラス系物品よりも厚さに対して高い破壊靭性及び/又は圧縮の深さを有するガラス系物品の脆弱性を決定するための新しい基準について説明する。これらの基準は、破壊靭性及びヤング率などのガラス系物品の形成に利用されるガラス系基板の特性と、圧縮の深さ及び引張応力係数などの応力プロファイルの特性との関係に基づいている。加えて、これらの基準は、幾つかの実施形態ではガラス系物品を破壊することなく適用することができ、品質管理用途での使用を可能にする。
【0065】
本明細書で利用される場合、ガラス系物品は、脆弱性試験の結果として、試験領域において次のうちの少なくとも1つを示す場合に「非脆弱性」と見なされる:(1)最大寸法が少なくとも1mmである破片が4つ以下である、及び/又は(2)分岐の数が1亀裂枝あたり1.5分岐以下である。破片、分岐、及び亀裂枝は、衝撃点を中心とする5cm×5cmの正方形に基づいてカウントされる。したがって、ガラスは、以下に説明する手順に従って、破損が発生する衝撃点を中心とする5cm×5cmの正方形について試験(1)及び(2)の一方又は両方を満たしている場合に、非脆弱性と見なされる。脆弱性試験では、衝撃プローブをガラスと接触させ、衝撃プローブがガラス内に延びる深さは、連続する接触の反復で増加する。衝撃プローブの深さを段階的に増加させることにより、衝撃プローブによって生成させた欠陥を張力領域に到達させることができると同時に、ガラスの壊れやすい挙動の正確な決定を妨げる過度の外力の印加を防ぐ。ガラス系物品は、Newport Corporation社から入手可能なMVN精密垂直ステージなどの鋼表面上に配置される。衝撃プローブは、炭化タングステンチップを備えた、重量40gのスタイラスであり(Fisher Scientific Industries社から商標TOSCO(登録商標)及び製造業者識別番号#13-378の下、60度の円錐球チップで入手可能)、該スタイラスを上下に動かすギア駆動機構のクランプに接続されている。一実施形態では、ガラス内の衝撃プローブの深さは、各反復で約5μmだけ増加させることができ、衝撃プローブは、各反復の合間にガラスとの接触から解除される。試験領域は、衝撃点を中心とする5cm×5cmの正方形である。
図1は、非脆弱性試験の結果を示している。
図1に示されるように、試験領域は、衝撃点135を中心とする正方形であり、正方形の1辺の長さdは5cmである。
図1に示される非脆弱性試料は、3つの破片142、並びに2つの亀裂枝140及び単一の分岐150を含んでいる。したがって、
図1に示される非脆弱性試料は、最大寸法が少なくとも1mmである破片を4つ未満で含み、分岐の数が亀裂枝の数以下である(1亀裂枝あたり0.5分岐)。本明細書で利用されるように、亀裂枝は衝撃点で発生し、破片のいずれかの部分が試験領域内に延びている場合、破片は試験領域内にあると見なされる。コーティング、接着剤層などはを、本明細書に記載される強化されたガラス系物品と組み合わせて使用することができるが、このような外部拘束はガラス系物品の脆弱性又は脆弱挙動の決定には用いない。幾つかの実施形態では、ガラス系物品の破壊挙動に影響を及ぼさない膜を、脆弱性試験の前にガラス系物品に施して、ガラス系物品からの破片の放出を防ぎ、試験を実施する人の安全性を高めることができる。
【0066】
脆弱性試料が
図2に示されている。脆弱性試料は、最大寸法が少なくとも1mmの6つの破片142を含む。
図2に示される試料は、2つの亀裂枝140及び4つの分岐150(1亀裂枝あたり2つの分岐)を含み、亀裂枝より多くの分岐を生成する。したがって、
図2に示される試料は、4つ以下の破片、又は1亀裂枝あたり1.5以下の分岐を示さない。
図1及び2は、衝撃点135で発生する亀裂枝140を2つ含んでいるが、3つ以上の亀裂枝など、2つより多くの亀裂枝が衝撃点で発生する可能性があるものと理解されたい。
【0067】
本明細書に記載される脆弱性試験では、衝撃は、強化ガラス物品内に存在する内部に蓄積されたエネルギーを放出するのにちょうど十分な力でガラス物品の表面に伝達される。すなわち、点衝撃力は、強化ガラスシートの表面に少なくとも1つの新しい亀裂を生成し、該亀裂を、圧縮応力CS領域を通って(すなわち、圧縮の深さを通過して)中央の引張領域内へと延ばすのに十分である。
【0068】
したがって、本明細書に記載されるガラス系物品は「非脆弱性」である(すなわち、鋭利な物体によって衝撃を受けたときに、上記のような脆弱挙動を示さない)。
【0069】
以前は、化学的に強化されたガラス系物品に最も広く適用可能な経験的脆弱性限界は、強化されたガラス系物品の引張領域に蓄積された引張歪みエネルギーに基づいていた。本明細書で利用される場合、引張歪みエネルギー(TSE)という用語は、ガラス系物品のシートの単位面積(1平方メートル)の引張ゾーンに蓄積されたエネルギーを表す。TSEの限界は約18J/m2であることが観察されており、ガラス系物品の表面に平行な2つの相互に直交する次元x及びyの各々に、約9J/m2の割当量が許容される。次元(x及びy)あたりのTSEは、次式によって与えられる:
【0070】
【0071】
式中、Eはヤング率、νはポアソン比、DOC1は圧縮の第1の深さ、DOC2は圧縮の第2の深さ、zは厚さ方向の位置、並びにσx及びσyは、ガラス系物品の2次元空間を画成する、対応するx軸及びy軸の方向でガラス系物品の表面に平行な平面内の応力テンソルの成分である。ガラス系物品シートの領域の内部では、面内応力のこれら2つの成分はほぼ等しく、したがって、各々がほぼ同じ歪みエネルギーを担持し、引張歪みエネルギーの合計の脆弱性限界18J/m2は、面内応力の単一成分(例えばσx)について9J/m2の限界に置き換えることができる。
【0072】
関連するアプローチでは、脆弱性限界は、応力拡大係数の単位(例えばMPa√m)を有する、KTとラベルが付された量に関して、以前に定義されていた。本明細書で利用される場合、量KTは、次式によって与えられる引張応力係数である:
【0073】
【0074】
式中、σは面内成分の1つによって表され(面内成分は等しいと推定されるため)、zは厚さ方向の位置である。MPa√m単位でのKTの値を取得するには、積分下の応力値はMPa単位である必要があり、厚さ位置スケールzはm単位である必要がある。
【0075】
米国特許第9,604,876号明細書(B2)には、表2に、KTが1.4MPa√m以上の試料は破壊時に多数の破片を生成するが、KTが1.3MPa√m以下の試料は過度の断片化を生じないことが開示されている。同時に、引張ゾーン内の最大中央張力(CT)は、高度に断片化された例では74MPa及び72MPaであり、他のすべての例では68MPaを超えていなかった。化学的強化に典型的なほとんどの場合、CTはガラスシートの厚さの中央にあることに留意すべきである。これらの例は、KTの値が増加すると、高度の断片化が報告され、KTが1.4MPa√m以上のすべての試料では多数の破片(5cm×5cmの正方形の領域に少なくとも5つ)が生成された、E.Bouyne及びO.Gaumeによる刊行物である“Fragmentation of thin chemically tempered glass plates”, Glass Technology 2002, 43C, pp. 300-302とほぼ一致している。
【0076】
本明細書で利用される場合、「脆弱性限界」は、ガラス系物品が過度の断片化を示す(脆弱性)条件とガラス系物品が過度の断片化を示さない(非脆弱性)条件との間の境界を表している。脆弱性限界での状態は、断片化の度合いと相関することが示されている引張歪みエネルギーTSE又は引張応力係数KTなどのパラメータの臨界(脆弱性限界)値で表すことができる。引張歪みエネルギーの合計(歪みのx次元及びy次元の両方を考慮)は、次式によって単一の応力成分(x又はy)について測定した引張ひずみ係数KTに関連している:
【0077】
【0078】
x及びyに沿った応力成分が大幅に異なり、かつ測定できる場合、各次元に保存されている引張歪みエネルギーは、次のように個別に計算することができる:
【0079】
【0080】
本明細書に記載されるTSE及びKTの脆弱性限界値は、少なくとも部分的には、ガラス系物品の形成に利用されるガラス系基板の破壊靭性などの材料特性と、ガラス系物品の厚さに対する圧縮の深さの比などの応力プロファイルのパラメータとに依存する。別の言い方をすれば、本明細書に記載される脆弱性限界は、以前の脆弱性の決定では考慮されていなかった破壊靭性を考慮に入れている。
【0081】
概して、ガラス系物品の中心の組成と同等の組成を有するガラスを指す本明細書に記載の特性は、ガラス系物品を形成するためにイオン交換されたガラス系基板の組成に依存する。実際には、ガラス系物品の中心の組成は、当技術分野で知られている技術によって測定することができ、測定された組成を有する製造されたガラス組成物の破壊靭性(KIC)及びヤング率(E)の値を測定することができる。加えて、ガラス系物品の中心は、イオン交換プロセスの影響を受けないか、又は最小限しか受けず、したがって、ガラス系物品の中心の組成は、ガラス系基板の組成と実質的に同じ又は同じである。このため、とりわけ、ガラス系物品の中心にこの組成を有するガラス組成物のKIC及びEの値は、イオン交換処理の前にガラス系基板のこれらの特性を測定することによって決定することができる。
【0082】
次に、ガラス系物品の特性について説明する。これらの特性は、ガラス系組成物の成分量又はガラス系物品の応力プロファイルを変更することによって達成することができる。
【0083】
実施形態によるガラス系物品の形成に利用される組成物は、高い破壊靭性(KIC)を有する。幾つかの実施形態では、ガラス系物品の形成に利用される組成物は、0.67MPa√m以上、例えば、0.68MPa√m以上、0.69MPa√m以上、0.70MPa√m以上、0.71MPa√m以上、0.72MPa√m以上、0.73MPa√m以上、0.74MPa√m以上、0.75MPa√m以上、0.76MPa√m以上、0.77MPa√m以上、0.78MPa√m以上、0.79MPa m0.5以上、0.80MPa m0.5以上、0.81MPa√m以上、0.82MPa√m以上、0.83MPa√m以上、0.84MPa√m以上、0.86MPa√m以上、0.87MPa√m以上、0.88MPa√m以上、0.89MPa√m以上、0.90MPa√m以上、0.91MPa√m以上、0.92MPa√m以上、0.93MPa√m以上、0.94MPa√m以上、0.95MPa√m以上、0.96MPa√m以上、0.97MPa√m以上、0.98MPa√m以上、0.99MPa√m以上、1.00MPa√m以上、1.01MPa√m以上、1.02MPa√m以上、1.03MPa√m以上、1.04MPa√m以上、1.05MPa√m以上、1.06MPa√m以上、1.07MPa√m以上、1.08MPa√m以上、1.09MPa√m以上、1.10MPa√m以上、1.11MPa√m以上、1.12MPa√m以上、1.13MPa√m以上、1.14MPa√m以上、1.15MPa√m以上、1.16MPa√m以上、1.17MPa√m以上、1.18MPa√m以上、1.19MPa√m以上、1.20MPa√m以上、1.21MPa√m以上、1.22MPa√m以上、1.23MPa√m以上、1.24MPa√m以上、1.25MPa√m以上、1.26MPa√m以上、1.27MPa√m以上、1.28MPa√m以上、1.29MPa√m以上、1.30MPa√m以上、1.31MPa√m以上、1.32MPa√m以上、1.33MPa√m以上、又は1.34MPa√m以上のKIC値を示す。実施形態では、ガラス系物品の形成に利用される組成物は、0.67MPa√m以上1.34MPa√m以下、例えば、0.68MPa√m以上1.33MPa√m以下、0.70MPa√m以上1.32MPa√m以下、0.72MPa√m以上1.31MPa√m以下、0.74MPa√m以上1.30MPa√m以下、0.76MPa√m以上1.29MPa√m以下、0.78MPa√m以上1.28MPa√m以下、0.80MPa√m以上1.27MPa√m以下、0.82MPa√m以上1.26MPa√m以下、0.8MPa√m以上1.25MPa√m以下、0.85MPa√m以上1.24MPa√m以下、0.86MPa√m以上1.23MPa√m以下、0.87MPa√m以上1.22MPa√m以下、0.88MPa√m以上1.21MPa√m以下、0.89MPa√m以上1.20MPa√m以下、0.90MPa√m以上1.19MPa√m以下、0.91MPa√m以上1.18MPa√m以下、0.92MPa√m以上1.17MPa√m以下、0.93MPa√m以上1.16MPa√m以下、0.94MPa√m以上1.15MPa√m以下、0.95MPa√m以上1.14MPa√m以下、0.96MPa√m以上1.13MPa√m以下、0.97MPa√m以上1.12MPa√m以下、0.98MPa√m以上1.11MPa√m以下、0.99MPa√m以上1.10MPa√m以下、1.00MPa√m以上1.09MPa√m以下、1.01MPa√m以上1.08MPa√m以下、1.02MPa√m以上1.07MPa√m以下、1.03MPa√m以上1.06MPa√m以下、1.04MPa√m以上1.05MPa√m以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲のKIC値を示す。幾つかの実施形態では、ガラス系物品の形成に利用される組成物は、0.90MPa√m以上のKIC値を示す。幾つかの実施形態では、ガラス系物品の形成に利用される組成物は、1.5MPa√m以下のKIC値を示す。
【0084】
本明細書で利用される場合、破壊靭性K
ICは、二重片持梁(DCB)法で測定される。K
IC値は、ガラス系物品を形成するためにイオン交換する前に、ガラス系基板上で測定した。DCB試験片の形状が
図3に示されており、重要なパラメータは、亀裂の長さa、印加された荷重P、断面寸法w及び2h、並びに亀裂誘導溝の厚さbである。試料を幅2h=1.25cm及び厚さw=0.3mm~1mmの範囲の長方形に切断し、重要な寸法ではないが、試料の全長を5cmから10cmまで変化させた。試料を試料ホルダ及び荷重に取り付けるための手段を提供するために、ダイヤモンドドリルで両端に穴を開けた。亀裂「誘導溝」は、ダイヤモンドブレードを備えたウェハダイシングソーを使用して、両方の平らな面の試料の長さを切り落とし、材料の「ウェブ」を、ブレードの厚さに対応する180μmの高さで、ブレートの全厚の約半分だけ残した(
図3の寸法b)。ダイシングソーの高精度の寸法公差により、試料間のばらつきを最小限に抑えることが可能である。ダイシングソーは、a=15mmの初期亀裂の切断にも使用した。この最終動作の結果として、(ブレードの曲率に起因して)亀裂先端の近くに材料の非常に薄いくさびが生成し、試料における亀裂の発生がより容易になった。試料の底の穴に鋼線が備わっている金属試料ホルダに試料を取り付けた。低荷重条件下で試料を水平に保つために、反対側でも試料を支持した。ロードセル(FUTEK、LSB200)と直列になっているばねを上部の穴に引っ掛け、これを延長し、ロープと高精度のスライドを使用して荷重を徐々に加えた。亀裂は、デジタルカメラ及びコンピュータに接続された、510μmの解像度の顕微鏡を使用して監視した。加えた応力度K
Pを、次式を使用して計算した:
【0085】
【0086】
各試料について、ウェブの先端で最初に亀裂が発生し、その後、寸法a/hの比率が1.5を超えるまで(これは、応力強度を正確に計算するために上記式に必要である)、スターター亀裂を慎重に亜臨界成長させた。この時点で、亀裂の長さaを、5μmの分解能を有する移動顕微鏡を使用して測定し、記録した。次に、トルエンの液滴を亀裂の溝に入れ、毛細管力によって溝の全長に沿って吸い上げ、破壊靭性に達するまで亀裂が動かないように固定した。次に、試料の破壊が発生するまで荷重を増加させ、破壊荷重と試料の寸法から臨界応力度KICを計算した。KPは、測定方法に起因して、KICと同等である。
【0087】
ガラス系物品の形成に利用されるガラス組成物のヤング率(E)は、ガラス系物品の落下性能との負の相関関係を有する。実施形態では、ガラス系物品の形成に利用される組成物は、60GPa以上120GPa以下、例えば、62GPa以上115GPa以下、64GPa以上113GPa以下、66GPa以上112GPa以下、68GPa以上111GPa以下、70GPa以上110GPa以下、72GPa以上109GPa以下、74GPa以上108GPa以下、76GPa以上107GPa以下、78GPa以上106GPa以下、80GPa以上105GPa以下、82GPa以上104GPa以下、84GPa以上103GPa以下、86GPa以上102GPa以下、88GPa以上101GPa以下、90GPa以上100GPa以下、91GPa以上99GPa以下、92GPa以上98GPa以下、93GPa以上97GPa以下、94GPa以上96GPa以下、又は95GPaに等しい、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲のヤング率(E)を示す。実施形態では、ガラス系物品の形成に利用される組成物は、80GPa以上120GPa以下のヤング率(E)を示す。幾つかの実施形態では、ガラス系物品の形成に利用される組成物は、120MPa以上のヤング率(E)を有しうる。この開示に列挙されるヤング率の値は、「金属および非金属部品の欠陥検出のための共鳴超音波分光法の標準ガイド(Standard Guide for Resonant Ultrasound Spectroscopy for Defect Detection in Both Metallic and Non-metallic Parts)」と題されたASTM E2001-13に記載されている一般的なタイプの共鳴超音波分光法技術によって測定された値を指す。
【0088】
ガラス系物品は、任意の適切な厚さを有しうる。実施形態では、ガラス系物品は、0.2mm以上2.0mm以下、例えば、0.3mm以上1.0mm以下、0.4mm以上0.9mm以下、0.5mm以上0.8mm以下、0.6mm以上0.7mm以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の厚さ(t)を有しうる。
【0089】
この開示に記載されるポアソン比の値は、「金属および非金属部品の欠陥検出のための共鳴超音波分光法の標準ガイド(Standard Guide for Resonant Ultrasound Spectroscopy for Defect Detection in Both Metallic and Non-metallic Parts)」と題されたASTM E2001-13に記載されている一般的なタイプの共鳴超音波分光法技術に準拠して測定した値を指す。
【0090】
上記のように、ガラス系物品は、イオン交換などによって強化され、限定はしないが、ディスプレイのカバー又は電子デバイスの筐体のための物品などの用途にとって耐損傷性のガラスを作る。
図4を参照すると、ガラス系物品は、該ガラス系物品の表面から圧縮深さ(DOC)まで延びる圧縮応力下の第1の領域(例えば、
図4の第1及び第2の圧縮層120、122)と、ガラス系物品のDOCから中央領域又は内部領域に延びる引張応力又は中央張力(CT)下の第2の領域(例えば、
図4の中央領域130)とを有している。本明細書で用いられる場合、DOCとは、ガラス系物品内の応力が圧縮から引張に変化する深さを指す。DOCでは、応力は正の(圧縮)応力から負の(引張)応力へと移行し、したがって、ゼロの応力値を示す。
【0091】
当技術分野で通常用いられる慣例によれば、圧縮又は圧縮応力は負(<0)の応力として表わされ、張力又は引張応力は正(>0)の応力として表わされる。しかしながら、本明細書全体を通して、CSは正の値又は絶対値として表される。すなわち、本明細書に記載されているように、CS=|CS|である)。圧縮応力(CS)は、ガラス系物品の表面で最大値又はそれに近くなる場合があり、CSは関数に従って表面からの距離dとともに変化する。再び
図4を参照すると、第1のセグメント120は、第1の表面110から深さd
1まで延び、第2のセグメント122は、第2の表面112から深さd
2まで延びる。これらのセグメントは一緒に、ガラス系物品100の圧縮又はCSを画成する。両方の主面(
図4の110、112)の圧縮応力は、ガラスの中央領域(130)に蓄積された張力によってバランスがとられている。幾つかの実施形態では、それぞれ、第1の表面110及び第2の表面112から測定して、d
1=d
2である。便宜上、本明細書で単一のDOCが参照される場合、応力プロファイルは、それぞれ第1の表面110及び第2の表面112から測定して、DOC
1=DOC
2となるように対称であると推定される。
【0092】
ガラス系物品の応力プロファイルは、ガラス系物品の形成に利用されるガラス系基板の組成に基づいて異なる方法で測定した。アルミノケイ酸ナトリウムガラスに利用した方法は、アルミノケイ酸リチウムガラスに利用した方法とは異なっていた。
【0093】
カリウムのナトリウムに対するイオン交換によって強化されたアルミノケイ酸ナトリウム(SAS)ガラス系基板から形成したガラス系物品の応力プロファイルは、633nm又は595nmのいずれかで、プリズム結合技術を使用して、TM波及びTE波の導波モードの測定実効屈折率に適用した逆WKBプロファイル抽出を使用して取得したTM波及びTE波の屈折率プロファイルから測定した。応力プロファイルは、2つの屈折率プロファイルを減算し、応力-光学係数で除算することによって、Kの浸透の範囲で抽出した。次に、引張ゾーンでは、プロファイルは、DOCからプロファイルが平坦になる深さdcまでの放物線形状で始まり、その後、プロファイルCTに等しい一定の張力が、中間の厚さを通り、反対側の同じ深さdcまで延びると仮定した。ベースガラスにKが含まれていない組成2では1.15・DOLK、及びイオン交換前にベースガラスにかなりの量のKが含まれている組成物1及び4では1.4・DOLKに等しい深さdcを、経験的観察に基づいて選択した。ここで、DOLKとは、日本所在の折原製作所製造のプリズム結合応力計FSM-6000によって、一段階イオン交換プロファイルについて決定した、イオン交換プロセスの結果としての「層の深さ-カリウム」又はカリウム浸透の深さを指す。この仮定では、引張ゾーンの張力の厚さ方向の積分は、厚さt、DOC、及び深さdcが知得されている場合、CTの単純な関数となり、この積分を、(力のバランスを確保するために)引張ゾーンのいずれかの側で測定した圧縮応力の積分と等しくした後、中心張力CTが求められる。CT値が分かれば、引張ゾーンの想定される形状から、KT値及びTSE値が得られる。
【0094】
アルミノケイ酸リチウム(LAS)ガラスをベースとした基板から形成されたガラス系物品の応力プロファイルであって、該応力プロファイルは、NaがLiと交換することによって生成される深い成分を有しており、かつ、KがLi又はNa及びLiと交換することによって得られる浅い成分を有していてよく、TSE及びKTの値は、GlassStress社製の適切に較正された散乱光偏光計(SCALP)を使用したCTの測定と、折原製作所製の別の散乱光偏光計(SLP-1000)を使用したDOCの測定とを組み合わせることによって得られた。Kが豊富な高圧縮層が表面に存在する場合には、表面圧縮応力CS、層のスパイク深さDOLsp、及びプリズム結合応力測定を使用したDOLspにおけるニー応力CSKの測定も利用した。
【0095】
プリズム結合測定には、屈折近視野(RNF)法を利用した。SCALPによって提供される最大CT値がRNF法に用いられる。特に、RNFによって測定された応力プロファイルは、力のバランスが取れており、SCALP測定によって提供される最大CT値に較正される。RNF法は、その全体が参照することによって本明細書に組み込まれる、「ガラス試料のプロファイル特性を測定するためのシステム及び方法(Systems and methods for measuring a profile characteristic of a glass sample)」と題された米国特許第8,854,623号明細書に記載されている。特に、RNF法は、ガラス物品を基準ブロックに隣接して配置し、1Hz~50Hzの速度で、直交偏光間で切り替えられる偏波スイッチ光ビームを生成し、該偏波スイッチ光ビームのパワー量を測定し、かつ、偏波スイッチ基準信号を生成することを含み、ここで、直交偏光の各々において測定されたパワー量は互いに50%以内である。該方法は、偏波スイッチ光ビームをガラス試料及び基準ブロックを介してガラス試料にさまざまな深さで送信し、次に、リレー光学系を使用して、送信された偏波スイッチ光ビームを、偏波スイッチ検出器信号を生成する信号光検出器に中継することをさらに含む。該方法はまた、検出器信号を基準信号で除算して、正規化された検出器信号を形成し、正規化された検出器信号からガラス試料のプロファイル特性を決定することも含む。
【0096】
RNFによって測定された応力プロファイルを強制的に平衡化するために、圧縮領域の応力深さ面積の合計が引張領域の面積と等しくなるまで、応力プロファイルを垂直方向にシフトさせる。応力プロファイルが対称である場合には、参照ブロックに最も近い圧縮領域の面積を、参照ブロックにも最も近い引張領域の半分の面積と等しくすることにより、精度が向上する。力を平衡化した後、力平衡化RNFプロファイルのCTをSCALPのCTで除算して、較正(縮尺)係数を求める。次に、力が平衡化されたプロファイルを較正係数で除算して、力を平衡化し、較正された応力プロファイルを生成する。
【0097】
CTへのKの表面スパイクの寄与は次のように計算される:
【0098】
【0099】
式中、tは、ガラス系物品の厚さである。スパイクとは、カリウムが豊富で高い圧縮を示す、表面近くの応力プロファイルの急勾配部分を指す。実施形態では、DOLspは、リチウム含有ガラス系基板から形成され、カリウム含有塩浴でイオン交換されたガラス系物品のDOLKと同等でありうる。NaをLiでイオン交換することによって生成される応力プロファイルの深部成分の寄与は、次のように計算される:
CT深さ=CT-CTsp
LASガラスを使用した対象とする例についてのNa拡散深さは、ガラスシートの厚さの半分に匹敵し、引張ゾーンの応力プロファイルの形状は、べき法則に従う形状の絶対値として適切に近似することができ、電力係数pは1.5~3の範囲にある(p=2は放物線形状に対応する)。その仮定の下、p、CT深さ、及びSCALPで測定した合計CTを所与として、DOC/t比の正確な解は次のとおりである:
【0100】
【0101】
上述のようにCT及びDOCを測定し、マイクロメータで厚さを測定し、CT深さを計算した後、測定したDOC/t値が上記の式に基づいて計算した比と一致するまで、電力係数pを変化させた。この固定p値は、CT及びDOCとともに、引張領域を完全に決定可能にする。
【0102】
ガラス系物品の中間厚さから、圧縮が引張になる点までの距離に値z0を割り当てることにより、次のようになる:
z0=0.5t-DOC
次に、引張応力係数(KT)及びTSEが、電力係数pの関数として次のように計算される:
【0103】
【0104】
レーザスペックル及び他のノイズ源によって引き起こされる誤差を減らすために、各試料のCT値及びDOC値は、各々が機器の試料位置をわずかにずらして取得した個別のスキャンから得られた、少なくとも20回の測定にわたって平均化した。DOCがIWKBをベースとした応力プロファイル抽出法によって正確に決定されたSASガラスの試料を測定することによって、SLP-1000の試料表面の位置の特定を較正した。
【0105】
表面応力測定は、ガラスの複屈折に関連する応力光学係数(SOC)の正確な測定に依拠している。SOCは、その内容全体がここに参照することによって本明細書に組み込まれる、「ガラス応力-光学係数の測定のための標準試験方法(Standard Test Method for Measurement of Glass Stress-Optical Coefficient)」と題されたASTM規格C770-16に記載される手順C(ガラスディスク法)に準拠して測定される。
【0106】
幾つかの実施形態では、引張応力係数K
T及び引張歪みエネルギーTSEに関するガラス系物品の脆弱性限界は、一定ではなく、ガラスの破壊靭性K
ICに依存する。
図5は、異なる破壊靭性を有する3つの異なるSASガラス組成物についての引張応力係数K
Tの関数としての1亀裂枝あたりの平均分岐数を示している。亀裂枝の数は、通常2又は3であり、各々が5cm×5cmの正方形のガラス系物品の中心にある破壊起点位置から発生していた。
図5の実験では、ガラス系物品の厚さは0.8mmであった。
図5の組成は、下記表1に詳細が示されている。実際上は、脆弱性限界は、K
T又はTSEの臨界値として定義され、それを超えるとガラス系物品は脆弱になる。
図5に示される組成では、分枝あたり1.5分岐の臨界値は、組成1、2、及び3について、それぞれK
T値1.18、1.215、及び1.29で発生した。
【0107】
【0108】
組成8は透明なガラスセラミックである。この組成物は、前駆体ガラスをセラミック化することによって形成した。
【0109】
下記表2及び3に示されるように、
図5の例は、主にKNO
3と少量のNaNO
3で構成される浴を用いた一段階イオン交換を使用して生成した。イオン交換の期間を表2に記載されている範囲で変化させて、さまざまな引張応力係数及びDOC/tを有する試料を生成した。結果として生じる圧縮応力は、組成物2では約800MPa、組成物1及び3では750MPaから800MPaの間であった。DOCは、43~60μmの範囲であった。
図5に示される曲線の急勾配領域は、組成物1及び3については約53μmを超え、組成物2については約47μmを超えるDOCで始まった。
図5の曲線の急勾配領域の開始時のDOC/t比は、すべての組成物について0.058から0.070の間に入った。
【0110】
【0111】
IOX条件10及び11では、同じ塩濃度及び同じイオン交換時間を利用した。しかしながら、条件10では、高密度充填(塩1kgあたり0.01m2以上のガラス)のガラス試料を使用し、一方、条件11では、低密度充填(塩1kgあたり0.005m2未満のガラス)を使用した。
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
ここで、「L」は試料が脆弱性限界にあることを示し、「N」は試料が非脆弱性であることを示し、「Y」は試料が脆弱性であることを示し、「L/Y」は試料が限界にあるか、又は場合によってはわずかに脆弱性であることを示す。
【0116】
図5の組成1、2、及び3のK
Tの脆弱性限界値は、
図6に示されるように、破壊靭性K
ICの関数として示されている。原点を通る線形フィットの傾向線は、K
ICの測定における実験の標準偏差を考慮すると、
図6の実験結果にとって十分な一致を提供する。この線形フィットは、
図5の例の場合のように、K
Tに関する脆弱性限界が破壊靭性K
ICに比例し、DOC/tが約0.06の場合の比例係数が1.78であることを示している。このため、幾つかの実施形態では、引張応力係数K
Tが1.3MPa√mを超えるが、値1.78・K
ICを超えない、強化されたガラス系物品が提供される。このようなガラス系物品は、非脆弱性を依然として維持しつつ、K
Tが1.3MPa√m未満のガラス系物品よりも高い耐破壊性を有する。幾つかの実施形態では、引張応力係数K
Tは、1.4MPa√mを超え、かつ1.78・K
ICを超えない。
【0117】
幾つかの実施形態では、ガラス系物品は、1.4MPa√mを超える引張歪み係数KTによって特徴付けられ、引張歪みエネルギーは、次式によって与えられるTSEに関して脆弱性限界を超えない:
【0118】
【0119】
実例として、TSEに関する脆弱性限界は、組成2のポアソン比及びヤング率の値を方程式に代入すると、次式によって与えられる:
【0120】
【0121】
実施形態では、引張応力係数K
T又は引張歪みエネルギーTSEに関するガラス系物品の脆弱性限界は、DOC/t比に依存するか、あるいは、例えば、引張ゾーンの幅をシートの厚さで割った、BTZ/t比に依存する。BTZは、代替的に、DOC
2-DOC
1として示される場合がある。
図7は、450℃で約13時間から24.5時間の長期間、約35質量%又は37質量%のNaNO
3及び65質量%又は63質量%のKNO
3を含む浴での長いイオン交換によって化学的に強化された、ガラス組成2の5cm×5cmの正方形の6つの異なる厚さを使用した実験データを示している。
図7の横軸は、IWKB法による応力プロファイルの抽出から得られた引張応力係数K
Tを示し、縦軸は、各破壊した試料の破片の数の2を底とする対数を示している。割れて5以上の破片となった試料は、2より大きい対数を有し、脆弱性であると見なされた。すべての厚さのデータは、幾つかの外れ値を除いて、一般的に同じ傾向に沿っている。これらの外れ値は、例えば、破砕ツールの先端が鈍い場合又は試料にわずかな反りがある場合など、誤検知が原因である可能性があり、それぞれ、破砕ツールによって外部から試料にもたらされるエネルギー(位置エネルギー又は運動エネルギー)の導入を促進する可能性がある。
図7に示されるデータは、係数K
T(及び対応してTSE)の臨界値が厚さに実質的に依存しないことを示唆している。さらには、
図7に示されている強化条件についてのK
Tの臨界値は、
図5に示されている同じ組成2の臨界値よりも大幅に高くなっている。
図7に示されている試料と
図5に示されている試料との大きな違いの1つは、DOC/t比の値である。
図5の試料は、主にKNO
3での比較的浅いイオン交換によって得られたものであり、その結果、約800MPaの高い表面CS及び中程度のDOCを有する応力プロファイルが得られ、脆弱性限界又はその近くにある組成物2の部品のDOC/t比は約0.058であった。一方、
図7に示す試料は、240~320MPaの範囲の下面CS及び約0.13~0.21の大幅に高いDOC/t比を伴った非常に深いイオン交換によって強化されており、より薄い厚さでより高い比率が得られ、逆もまた同様であった。
【0122】
図7に示されている各厚さでは、イオン交換時間及びDOC/t比を増加させることにより、引張歪みエネルギーTSE及び係数K
Tが増加する。報告されたK
Tの範囲では、DOC/t比は、厚さごとに比較的狭い範囲で変化し、t=0.4mmでは0.193~0.206、t=0.5mmでは0.161~0.179、t=0.55mmでは0.164~0.177、t=0.6mmでは0.143~0.161、t=0.7mmでは0.138~0.167、及びt=0.8mmでは0.134~0.145であった。非脆弱性試料は、次の最高レベルのK
Tで観察された:t=0.4mmでは1.379MPa√m、t=0.5mmでは1.37MPa√m、t=0.55mmでは1.375MPa√m、t=0.6mmでは1.36MPa√m、t=0.7mmでは1.37MPa√m、及びt=0.8mmでは1.344MPa√m。脆弱性試料は、次の最低レベルのK
Tで各厚さについて生成された:t=0.4mmでは1.313MPa√m、t=0.5mmでは1.24MPa√m、t=0.55mmでは1.368MPa√m、t=0.6mmでは1.376MPa√m、t=0.7mmでは1.334MPa√m、及びt=0.8mmでは1.296MPa√m。一般的な傾向を上回るデータ点を誤検知として割り当て、無視する場合、8つ以上の破片を有する脆弱な部分のK
Tの最低レベルは次のとおりである:t=0.4mmでは1.366MPa√m、t=0.5mmでは1.355MPa√m、t=0.55mmでは1.368MPa√m、t=0.6mmでは1.376MPa√m、t=0.7mmでは1.357MPa√m、及びt=0.8mmでは1.343MPa√m。
【0123】
図5及び7のK
T値は、二乗し、0.4mmの厚さで得られた同じガラス組成2の追加データと組み合わせて、
図8にプロットした。追加のデータには、0.2を超える大きいDOC/t比を有する脆弱性試料を、脆弱な挙動が観察されなくなるまで熱処理することによって、非常に大きいDOC/t比で得られた脆弱性限界の推定値が含まれている。このような試料は、35%のNaNO
3及び65%のKNO
3を含む浴で、450℃で14.4~16.5時間、又は17%のNaNO3及び83%のKNO3を含む浴で、430℃で11.5時間、続いて450℃で1.25時間、イオン交換することによって調製した。後者の試料は非常に脆弱性であったが、400℃で12時間の熱処理後には、脆弱性限界に近づいた。熱処理後、DOCは約0.23tに増加した。Na含有量の高い浴で交換された試料は、イオン交換後のK
T値が低かったため、イオン交換後の脆弱状態から非脆弱状態に戻すために、より短い熱処理を必要とした。DOC/tに対するK
T
2についての
図8のデータは、経験的線形モデルによく適合しており、K
T(及びTSE)の脆弱性限界値のDOC/t比への正確な経験的依存性を明らかにすることができた。特に、組成物2では、モデルは次式を与える:
【0124】
【0125】
及び:
【0126】
【0127】
これらの関係に基づいて、組成2の破壊靭性KICが0.767MPa√mであることを考慮すると、KTの脆弱性限界、破壊靭性KIC、及びDOC/t比の間に、次の経験的一般的関係が生成される:
【0128】
【0129】
幾つかの実施形態では、脆弱性限界KTについてのこの経験的な一般的関係は、次の信頼係数(CF)によって修正することができる:
【0130】
【0131】
ここで、信頼係数(CF)には、0.9から0.95の範囲など、1未満の値を指定することができ、断片化による故障を回避することが非常に重要であり、機器の精度が限られている場合に、わずか数パーセントの精度でKTを決定することができる。応力プロファイルの重要なパラメータを高精度で測定することにより、KTの値を1%以下の精度で取得できる場合には、0.95から1の範囲など、1に近い値の信頼係数(CF)が適切であろう。
【0132】
TSEとKTとの関係に基づいて、次の限界値をTSEに同等に適用することができる:
【0133】
【0134】
組成物2では、ポアソン比及びヤング率は、それぞれ、0.22及び66GPaの値を有する。これらの値を使用して、次式で与えられる一般的なTSE限界を生成することができる:
【0135】
【0136】
図9は、DOC/tの代わりにBTZ/tの関数としての
図8のデータを示している。組成物2のデータのBTZ/tの関数としてのK
T
2の脆弱性限界値の線形フィットを次式から求めた:
【0137】
【0138】
及び:
【0139】
【0140】
BTZを使用すると、この関係は、例えば、それぞれ第1表面及び第2表面から測定したときにDOC1がDOC2と等しくない応力プロファイルなど、非対称の応力プロファイルを有するガラス系物品に適用することができる。破壊靭性の観点から表すと、関係は次のようになる:
【0141】
【0142】
信頼係数(CF)は0.85から1の範囲とすることができ、上記と同じ方法で適用することができる。
【0143】
関連するTSE限界は、次式によって与えられる:
【0144】
【0145】
加えて、圧縮応力係数KCSは、次のように、応力の単一成分x又はyについて、引張応力領域の両側の圧縮応力領域にわたる統合した圧縮応力の平方根に等しくなる:
【0146】
【0147】
あるいは、概して、いずれかの成分の場合には、次のようになる:
【0148】
【0149】
中央の引張領域の両側に、z=0の第1の表面から第1の圧縮深さDOC1まで、及び第2の表面z=tからDOC2までの第2の側にそれぞれ延びる、2つの圧縮領域を有する応力プロファイルの場合には、圧縮応力係数は次の形式を取る:
【0150】
【0151】
それぞれ第1の表面及び第2の表面から測定したときにDOC1=DOC2であり、対称応力分布を有する、対称応力プロファイルでは、圧縮応力係数は次式によって与えられる:
【0152】
【0153】
ガラス系物品の圧縮応力エネルギー値は、次のように説明することができる:
【0154】
【0155】
これは、KCS,x=KCS,y=KCSの場合に、次のように簡略化できる:
【0156】
【0157】
KTに関する脆弱性限界の明らかな増加は、DOC/t比だけでなく、TSE及びCSEの相対的な大きさにも相関していた。特に、DOC/t比の増加に伴い、TSEは、化学的強化の結果としてガラス系物品に蓄積された歪みエネルギーの合計(TSE+CSE)の大部分を構成していた。表4及び5は、組成物2、並びにさまざまな厚さ及び応力プロファイルで生成された試料のデータの概要を含んでいる。
【0158】
【0159】
【0160】
TSEはK
T
2に比例し、一方、CSEはK
CS
2に比例する。組成2を用いた実験では、脆弱性限界条件において、破壊靭性に対して正規化された二乗係数K
T及びK
CSの特定の合計は、DOC/t比に関係なく、実質的に変化しないことが決定された。
図10は、ガラス組成2では、K
T
2とK
CS
2の合計/28.5が、DOC/t比の試験した範囲の脆弱性限界で一定であることを示している。
【0161】
【0162】
これには、1.215MPa√mから1.418MPa√mまでのKTを有する非脆弱性の例と、1.244MPa√m、1.344MPa√m、1.35MPa√m、1.37MPa√m、1.375MPa√m、及び1.379MPa√mの追加の例が含まれる。したがって、実施形態では、1.2MPa√m以上のKTを有するガラス物品もまた、次の条件を満たす:
【0163】
【0164】
実施形態では、ガラス系物品は、1.24MPa√m以上、1.3MPa√m以上、1.34MPa√m以上、1.36MPa√m以上、1.37MPa√m以上、1.4MPa√m以上、又は1.41MPa√m以上のKTを有する。さらには、幾つかの実施形態では、KTは、2.2KIC、2.1KIC、2.0KIC、1.9KIC、1.8KIC、又は1.78KICを超えず、ここで、KICは、ガラス、又は張力が最も高い箇所(通常はガラスシートの中央の平面)の局所的なガラス組成物の破壊靭性である。
【0165】
組成2の破壊靭性が0.676MPa√mであることを考慮して、
図10のデータが
図11に示されており、ここで、K
T
2及びK
CS
2の重み付き寄与は、破壊靭性の2乗に正規化されている。次に、脆弱性を避けるために:
【0166】
【0167】
又は:
【0168】
【0169】
図11に示されているK
Tn=K
T/K
IC及びK
CSn=K
CS/K
ICである正規化された値に関して、条件は、次のようにさらに単純化することができる:
【0170】
【0171】
実施形態では、1.31MPa√m以上のKTを有するガラス系物品もまた、次の条件を満たす:
【0172】
【0173】
次のような、より保守的な基準を使用することもできる:
【0174】
【0175】
又は:
【0176】
【0177】
実施形態では、KTは、1.2MPa√m以上、例えば、1.24MPa√m以上、1.3MPa√m以上、1.31MPa√m以上、1.34MPa√m以上、1.36MPa√m以上、1.37MPa√m以上、1.4MPa√m以上、1.41MPa√m以上、1.43MPa√m以上、1.44MPa√m以上、1.45MPa√m以上、1.46MPa√m以上、1.47MPa√m以上、1.48MPa√m以上、1.49MPa√m以上、1.50MPa√m以上、1.51MPa√m以上、1.52MPa√m以上、1.53MPa√m以上、1.54MPa√m以上、1.55MPa√m以上、1.56MPa√m以上、1.57MPa√m以上、1.58MPa√m以上、1.59MPa√m以上、1.60MPa√m以上、1.7MPa√m以上、1.8MPa√m以上、1.9MPa√m、又は2MPa√m以上である。幾つかの実施形態では KTは、2.1KIC以下、2.0KIC以下、1.9KIC以下、1.8KIC以下、1.78KIC以下、1.75KIC以下、1.7KIC以下、1.65KIC以下、又はそれを下回るなど、2.2KICを超えない。
【0178】
幾つかの実施形態では、ガラス系物品のCSは、300MPa以上1300MPa以下、例えば、325MPa以上1250MPa以下、350MPa以上1200MPa以下、375MPa以上1150MPa以下、400MPa以上1100MPa以下、425MPa以上1050MPa以下、450MPa以上1000MPa以下、475MPa以上975MPa以下、500MPa以上950MPa以下、525MPa以上925MPa以下、550MPa以上900MPa以下、575MPa以上875MPa以下、600MPa以上850MPa以下、625MPa以上825MPa以下、650MPa以上800MPa以下、675MPa以上775MPa以下、又は700MPa以上750MPa以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲である。幾つかの実施形態では、ガラス系物品のCSは、100MPa以上である。
【0179】
DOLKは、通常、本明細書に記載される物品のDOCより小さい。第1及び第2の圧縮層120、122の各々のDOLKは、5μm以上30μm以下、例えば、6μm以上25μm以下、7μm以上20μm以下、8μm以上15μm以下、又は9μm以上10μm以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲である。他の実施形態では、第1及び第2の圧縮層120、122の各々のDOLKは、6μm以上30μm以下、例えば、10μm以上30μm以下、15μm以上30μm以下、20μm以上30μm以下、又は25μm以上30μm以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲である。さらに他の実施形態では、第1及び第2の圧縮層120、122の各々のDOLKは、5μm以上25μm以下、例えば、5μm以上20μm以下、5μm以上15μm以下、又は5μm以上10μm以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲である。
【0180】
実施形態では、ガラス系物品は、70MPa以上、例えば、75MPa以上、80MPa以上、85MPa以上、90MPa以上、95MPa以上、100MPa以上、105MPa以上、110MPa以上、110MPa以上、120MPa以上、130MPa以上、140MPa以上、150MPa以上、155MPa以上、又それより大きい最大CTを有しうる。幾つかの実施形態では、ガラス系物品は、400MPa以下、例えば、350MPa以下、300MPa以下、250MPa以下、190MPa以下、180MPa以下、170MPa以下、160MPa以下、150MPa以下、140MPa以下、130MPa以下、120MPa以下、110MPa、又は100MPa以下の最大CTを有しうる。実施形態では、上記の範囲のいずれかを他の任意の範囲と組み合わせることができることを理解されたい。しかしながら、他の実施形態では、ガラス物品は、70MPa以上400MPa以下、例えば、90MPa以上350MPa以下、110MPa以上200MPa以下、120MPa以上180MPa以下、130MPa以上160MPa、又は140MPa以上150MPa以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の最大CTを有しうる。
【0181】
実施形態では、最大中央張力(CT)についても、ガラス系物品の厚さを参照して説明することができる。実施形態では、ガラス系物品は、360/√(t)MPa以下(tはmm単位である)、例えば、350/√(t)MPa以下、330/√(t)MPa以下、310/√(t)MPa以下、300/√(t)MPa以下、280/√(t)MPa以下、260/√(t)MPa以下、240/√(t)MPa以下、220/√(t)MPa以下、200/√(t)MPa以下、190/√(t)MPa以下、180/√(t)MPa以下、170/√(t)MPa以下、160/√(t)MPa以下、150/√(t)MPa以下、140/√(t)MPa以下、130/√(t)MPa以下、120/√(t)MPa以下、110/√(t)MPa以下、100/√(t)MPa以下、90/√(t)MPa以下、80/√(t)MPa以下、70/√(t)MPa以下、又はそれより小さい最大CTを有しうる。実施形態では、ガラス系物品は、60/√(t)MPa以上(tはmm単位である)、例えば、70/√(t)MPa以上、80/√(t)MPa以上、90/√(t)MPa以上、100/√(t)MPa以上、110/√(t)MPa以上、120/√(t)MPa以上、130/√(t)MPa以上、140/√(t)MPa以上、150/√(t)MPa以上、160/√(t)MPa以上、170/√(t)MPa以上、180/√(t)MPa以上、190/√(t)MPa以上、200/√(t)MPa以上、220/√(t)MPa以上、240/√(t)MPa以上、260/√(t)MPa以上、280/√(t)MPa以上、300/√(t)MPa以上、320/√(t)MPa以上、340/√(t)MPa以上、350/√(t)MPa以上、又それより大きい最大CTを有しうる。実施形態では、ガラス系物品は、60/√(t)MPa以上360/√(t)MPa以下(tはmm単位である)、例えば、70/√(t)MPa以上350/√(t)MPa以下、80/√(t)MPa以上340/√(t)MPa以下、90/√(t)MPa以上320/√(t)MPa以下、90/√(t)MPa以上300/√(t)MPa以下、100/√(t)MPa以上280/√(t)MPa以下、120/√(t)MPa以上260/√(t)MPa以下、140/√(t)MPa以上240/√(t)MPa以下、160/√(t)MPa以上220/√(t)MPa以下、180/√(t)MPa以上200/√(t)MPa以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の最大CT値を有しうる。
【0182】
ガラス系物品は、任意の適切な圧縮の深さ(DOC)を有しうる。実施形態では、DOCは、75μm以上300μm以下、例えば、85μm以上290μm以下、95μm以上280μm以下、100μm以上270μm以下、110μm以上260μm以下、120μm以上250μm以下、130μm以上240μm以下、140μm以上230μm以下、150μm以上220μm以下、160μm以上210μm以下、170μm以上200μm以下、180μm以上190μm以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲である。
【0183】
DOCは、本明細書の幾つかの実施形態では、ガラス系物品の厚さ(t)の一部として提供される。実施形態では、ガラス物品は、0.15t以上0.40t以下、例えば、0.18t以上0.38t以下、又は0.19t以上0.36t以下、0.20t以上0.34t以下、0.18t以上0.32t以下、0.19t以上0.30t以下、0.20t以上0.29t以下、0.21t以上0.28t以下、0.22t以上0.27t以下、0.23t以上0.26t以下、又は0.24t以上0.25t以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の圧縮の深さ(DOC)を有しうる。
【0184】
実施形態では、ガラス系物品は、任意の適切なDOC/t値によって特徴付けることができる。例えば、DOC/tは、0.12以上、例えば、0.13以上、0.14以上、0.15以上、0.16以上、0.17以上、0.18以上、0.19以上、0.20以上、0.21以上、0.22以上、0.23以上、又はそれより大きくなりうる。
【0185】
ガラス系物品は、ガラス系基板をイオン交換溶液に曝露して、ガラス系物品のから圧縮の深さまで延びる圧縮応力層を有するガラス系物品を形成することによって形成することができる。イオン交換プロセスは、本明細書に記載される脆弱性限界のいずれかを満たすガラス系物品の製造に十分な条件下で実施することができる。実施形態では、イオン交換溶液は、溶融硝酸塩でありうる。幾つかの実施形態では、イオン交換溶液は、溶融KNO3、溶融NaNO3、又はそれらの組合せでありうる。ある特定の実施形態では、イオン交換溶液は、約95%未満の溶融KNO3、例えば、約90%未満の溶融KNO3、約80%未満の溶融KNO3、約70%未満の溶融KNO3、約60%未満の溶融KNO3、又は約50%未満の溶融KNO3を含むことができる。ある特定の実施形態では、イオン交換溶液は、少なくとも約5%の溶融NaNO3、例えば、少なくとも約10%の溶融NaNO3、少なくとも約20%の溶融NaNO3、少なくとも約30%の溶融NaNO3、又は少なくとも約40%の溶融NaNO3を含むことができる。他の実施形態では、イオン交換溶液は、約95%の溶融KNO3及び約5%の溶融NaNO3、約94%の溶融KNO3及び約6%の溶融NaNO3、約93%の溶融KNO3及び約7%の溶融NaNO3、約80%の溶融KNO3及び約20%の溶融NaNO3、約75%の溶融KNO3及び約25%の溶融NaNO3、約70%の溶融KNO3及び約30%の溶融NaNO3、約65%の溶融KNO3及び約35%の溶融NaNO3、又は約60%の溶融KNO3及び約40%の溶融NaNO3、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲を含むことができる。実施形態では、他のナトリウム塩及びカリウム塩は、例えば、亜硝酸、リン酸、若しくは硫酸のナトリウム塩又はカリウム塩などのイオン交換溶液中で使用することができる。幾つかの実施形態では、イオン交換溶液は、LiNO3のどのリチウム塩を含むことができる。
【0186】
ガラス系基板をイオン交換溶液の浴に浸すか、イオン交換溶液をガラス系基板に噴霧するか、さもなければイオン交換溶液をガラス系基板に物理的に塗布することにより、ガラス系基板をイオン交換溶液に曝すことができる。ガラス系基板に曝されるとき、イオン交換溶液は、実施形態によれば、340℃以上500℃以下、例えば、350℃以上490℃以下、360℃以上480℃以下、370℃以上470℃以下、380℃以上460℃以下、390℃以上450℃以下、400℃以上440℃以下、410℃以上430℃以下、420℃に等しい、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の温度でありうる。実施形態では、ガラス組成物は、2時間以上48時間以下、例えば、4時間以上44時間以下、8時間以上40時間以下、12時間以上36時間以下、16時間以上32時間以下、20時間以上28時間以下、24時間に等しい、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の期間、イオン交換溶液に曝されうる。
【0187】
イオン交換プロセスは、例えば、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2016/0102011号明細書に開示されているように、改善された圧縮応力プロファイルをもたらす処理条件下、イオン交換溶液中で行うことができる。幾つかの実施形態では、イオン交換プロセスは、参照することによってその全体が本明細書に組み込まれる、米国特許出願公開第2016/0102014号明細書に記載される応力プロファイルなど、ガラス物品に放物線状の応力プロファイルを形成するように選択されうる。
【0188】
イオン交換プロセスの実施後、ガラス系基板の表面の組成は、ガラス系基板がイオン交換プロセスに供される前のガラス系基板の組成とは異なっているものと理解されたい。これは、例えばLi+又はNa+などの形成されたままのガラス内の1種類のアルカリ金属イオンが、例えば、それぞれNa+又はK+などのより大きいアルカリ金属イオンに置き換えられることに起因する。しかしながら、ガラス物品の深さの中心又はその近くのガラス組成物は、実施形態では、依然としてガラス系基板の組成を有する。
【0189】
イオン交換されてガラス系物品を形成するガラス系基板は、アルカリアルミノケイ酸塩組成物などの任意の適切な組成物を有しうる。実施形態では、ガラス系基板は、SiO2、Al2O3、B2O3、及び少なくとも1つのアルカリ金属酸化物を含む。少なくとも1つのアルカリ金属酸化物は、ガラス系基板のイオン交換を容易にする。例えば、ガラス系基板は、Li2O及び/又はNa2Oを含むことができ、これらは、Na+及びK+イオンのガラス系基板への交換を容易にし、ガラス系物品を形成する。上で論じたように、ガラス系基板の組成は、ガラス系物品の中心の組成と同等でありうる。
【0190】
本明細書に記載されるガラス系基板の実施形態では、構成成分(例えば、SiO2、Al2O3、Li2Oなど)の濃度は、特に明記しない限り、酸化物基準のモルパーセント(モル%)で与えられる。実施形態によるガラス系基板の構成成分は、以下に個別に論じられる。一の構成成分のさまざまに記載された範囲のいずれかは、他の任意の構成成分についてさまざまに記載された範囲のいずれかと個別に組み合わせることができることを理解されたい。
【0191】
本明細書に開示されるガラス系基板の実施形態では、SiO2は最大の構成成分であり、したがって、SiO2は、ガラス組成物から形成されるガラスネットワークの主な構成成分である。純粋なSiO2は、比較的低いCTEを有し、アルカリを含まない。しかしながら、純粋なSiO2は高い融点を有する。したがって、高濃度のSiO2はガラスの溶融の困難さを増大させ、これが次にガラスの成形性に悪影響を与えることから、ガラス系基板中のSiO2の濃度が高すぎると、ガラス組成物の成形性は低下する可能性がある。実施形態では、ガラス系基板は、概して、SiO2を、50.0モル%以上75.0モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で含む。実施形態では、ガラス系基板は、SiO2を、51.0モル%以上74.0モル%以下、例えば、52.0モル%以上73.0モル%以下、53.0モル%以上72.0モル%以下、54.0モル%以上71.0モル%以下、55.0モル%以上70.0モル%以下、56.0モル%以上69.0モル%以下、57.0モル%以上68.0モル%以下、58.0モル%以上67.0モル%以下、60.0モル%以上66.0モル%以下、61.0モル%以上65.0モル%以下、62.0モル%以上64.0モル%以下、63.0モル%以上64.0モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で含む。
【0192】
実施形態のガラス系基板はさらに、Al2O3を含むことができる。Al2O3は、SiO2と同様に、ガラスネットワーク形成剤として機能することができる。Al2O3は、ガラス組成物から形成されたガラス溶融物中のその四面体配位に起因して、ガラス組成物の粘度を増加させることができ、Al2O3の量が多すぎるとガラス組成物の成形性を低下させる。しかしながら、Al2O3の濃度がガラス系基板中のSiO2の濃度及びアルカリ酸化物の濃度に対してバランスをとっている場合、Al2O3は、ガラス溶融物の液相温度を低下させることができ、それによって、液相粘度を高め、溶融成形プロセスなどのある特定の成形プロセスとのガラス組成物の適合性を改善することができる。実施形態では、ガラス系基板は、概して、Al2O3を、4モル%以上25.0モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の濃度で含む。実施形態では、ガラス系基板は、Al2O3を、5.0モル%以上24.5モル%以下、例えば、6モル%以上24.0モル%以下、7モル%以上23.5モル%以下、8モル%以上23.0モル%以下、9モル%以上22.5モル%以下、10モル%以上22.0モル%以下、11モル%以上21.5モル%以下、12モル%以上21.0モル%以下、13モル%以上20.5モル%以下、14モル%以上20.0モル%以下、15モル%以上19.5モル%以下、又は16モル%以上19.0モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で含む。
【0193】
SiO2及びAl2O3と同様に、B2O3をネットワーク形成剤としてガラス系基板に添加することができ、それによって、ガラス組成物の溶融性及び成形性が低下する。したがって、B2O3は、これらの特性を過度に低下させない量で添加することができる。実施形態では、ガラス系基板は、B2O3を、0モル%以上のB2O3から8.0モル%以下のB2O3、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で含むことができる。実施形態では、ガラス系基板は、B2O3を、0.5モル%以上7.5モル%以下、例えば、1.0モル%以上7.0モル%以下、1.5モル%以上6.5モル%以下、2.0モル%以上6.0モル%以下、2.5モル%以上5.5モル%以下、3.0モル%以上5.0モル%、又は3.5モル%以上4.5モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で含む。
【0194】
ガラス系基板にLi2Oを含めると、イオン交換プロセスをより良好に制御することができ、さらにガラスの軟化点を低下させ、それによってガラスの製造可能性が向上する。実施形態では、ガラス系基板は、概して、Li2Oを、8.0モル%超18.0モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で含む。実施形態では、ガラス系基板は、Li2Oを、8.5モル%以上17.5モル%以下、例えば、9.0モル%以上17.0モル%以下、9.5モル%以上16.5モル%以下、10.0モル%以上16.0モル%以下、10.5モル%以上15.5モル%以下、11.0モル%以上15.0モル%以下、11.5モル%以上14.5モル%以下、12.0モル%以上14.0モル%以下、又は12.5モル%以上13.5モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で含む。幾つかの実施形態では、ガラス系基板は、Li2Oを実質的に含まない、又は含まない場合がある。
【0195】
実施形態によれば、ガラス系基板は、Li2O以外又はLi2Oに加えて、Na2Oなどのアルカリ金属酸化物を含むことができる。Na2Oは、ガラス組成物のイオン交換能を助け、ガラス組成物の成形性、ひいては製造可能性も向上させる。しかしながら、ガラス系基板に添加するNa2Oが多すぎると、CTEが高くなりすぎる場合があり、また融点が高くなりすぎる場合がある。実施形態では、ガラス系基板は、概して、Na2Oを、0.5モル%以上のNa2Oから20.0モル%以下のNa2O、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で含む。実施形態では、ガラス系基板は、Na2Oを、1.0モル%以上18モル%以下、例えば、1.5モル%以上16モル%以下、2.0モル%以上14モル%以下、2.5モル%以上12モル%以下、3.0モル%以上10モル%以下、3.5モル%以上8モル%以下、又は4.0モル%以上6モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で含む。幾つかの実施形態では、ガラス系基板は、Na2Oを実質的に含まない、又は含まない場合がある。
【0196】
Na2Oと同様に、K2Oもイオン交換を促進し、圧縮応力層のDOCを増加させる。しかしながら、K2Oを添加すると、CTEが低くなりすぎる場合があり、また融点が高くなりすぎる場合がある。幾つかの実施形態では、ガラス系基板は、K2Oを含むことができる。実施形態では、ガラス組成物は、実質的にカリウムを含まない。本明細書で用いられる場合、「実質的に含まない」という用語は、成分が汚染物質として非常に少量、例えば0.01モル%未満で最終ガラス中に存在しうるとしても、その成分がバッチ材料の成分として添加されていないことを意味する。他の実施形態では、K2Oは、ガラス系基板中に1モル%未満の量で存在しうる。
【0197】
MgOはガラスの粘度を下げ、ガラスの成形性及び製造可能性を高める。ガラス系基板にMgOを含めると、ガラス組成物の歪み点及びヤング率も向上し、ガラスのイオン交換能力もまた向上しうる。しかしながら、ガラス組成物に添加するMgOが多すぎると、ガラス組成物の密度及びCTEの望ましくない増加を生じる。実施形態では、ガラス系基板は、概して、MgOを、0モル%以上17.5モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の濃度で含む。実施形態では、ガラス系基板は、MgOを、0.5モル%以上17.0モル%以下、例えば、1.0モル%以上16.5モル%以下、1.5モル%以上16.0モル%以下、2.0モル%以上15.5モル%以下、2.5モル%以上15.0モル%以下、3.0モル%以上14.5モル%以下、3.5モル%以上14.0モル%以下、4.0モル%以上13.5モル%以下、4.5モル%以上13.0モル%以下、5.0モル%以上12.5モル%以下、5.5モル%以上12.0モル%以下、6.0モル%以上11.5モル%以下、6.5モル%以上11.0モル%以下、7.0モル%以上10.5モル%以下、7.5モル%以上10.0モル%以下、8.0モル%以上9.5モル%、又は8.5モル%以上9.0モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で含む。
【0198】
CaOは、ガラスの粘度を下げ、成形性、歪み点、及びヤング率を高め、イオン交換能を改善することができる。しかしながら、ガラス系基板に添加するCaOが多すぎると、ガラス組成物の密度及びCTEが増加する。実施形態では、ガラス系基板は、概して、CaOを、0モル%以上4.0モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の濃度で含む。実施形態では、ガラス系基板は、CaOを、0.5モル%以上3.5モル%以下、例えば、1.0モル%以上3.0モル%以下、又は1.5モル%以上2.5モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で含む。
【0199】
TiO2も、ガラスの靭性の向上に貢献すると同時に、ガラスを軟化させる。しかしながら、ガラス組成物に添加するTiO2が多すぎると、ガラスは失透しやすくなり、望ましくない着色を示す。実施形態では、ガラス系基板は、TiO2を、例えば、0モル%以上2.0モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の濃度で含む。実施形態では、ガラス系基板は、TiO2を、0.5モル%以上1.5モル%以下の量で含む。幾つかの実施形態では、ガラス系基板は、TiO2を含まない、又は実質的に含まない。
【0200】
ZrO2は、ガラスの靭性に寄与する。しかしながら、ガラス組成物に添加するZrO2が多すぎると、少なくとも部分的にはガラス中のZrO2の溶解度が低いことに起因して、望ましくないジルコニア包有物がガラス中に形成される可能性がある。実施形態では、ガラス系基板は、ZrO2を、0モル%以上2.5モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の濃度などで含む。実施形態では、ガラス系基板は、ZrO2を、0.5モル%以上2.0モル%以下、例えば、1.0モル%以上1.5モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で含む。幾つかの実施形態では、ガラス系基板は、ZrO2を含まない、又は実質的に含まない。
【0201】
SrOは、本明細書に開示されるガラス組成物の液相温度を低下させる。実施形態では、ガラス系基板は、SrOを、0モル%以上2.0モル%以下、例えば、0.2モル%以上1.5モル%以下、又は0.4モル%以上1.0モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で含むことができる。幾つかの実施形態では、ガラス系基板は、SrOを実質的に含まない、又は含まない場合がある。
【0202】
実施形態では、ガラス系基板は、任意選択的に、1つ以上の清澄剤を含みうる。幾つかの実施形態では、清澄剤は、例えば、SnO2を含みうる。このような実施形態では、SnO2は、ガラス系基板中に、0.2モル%以下、例えば、0モル%以上0.1モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で存在しうる。他の実施形態では、SnO2は、ガラス系基板中に、0モル%以上0.2モル%以下、又は0.1モル%以上0.2モル%以下、並びに前述の値の間のすべての範囲及び部分範囲の量で存在しうる。幾つかの実施形態では、ガラス系基板は、SnO2を実質的に含まない、又は含まない場合がある。
【0203】
実施形態では、ガラス系基板は、ヒ素及びアンチモンの一方又は両方を実質的に含まない場合がある。他の実施形態では、ガラス系基板は、ヒ素及びアンチモンの一方又は両方を含まない場合がある。
【0204】
1つ以上の実施形態では、本明細書に記載されるガラス系物品は、非晶質微細構造を示すことができ、結晶又は微結晶を実質的に含まない場合がある。言い換えれば、ガラス系物品は、幾つかの実施形態では、ガラスセラミック材料を除外することができる。
【0205】
ガラス系基板は、ガラスセラミックを含むことができる。ガラスセラミックは、ケイ酸リチウム、ベータスポジュメン、又はスピネル結晶構造などの任意の適切な結晶構造を含むことができる。ガラス系基板を含むガラスセラミックは、前駆体ガラスをセラミック化するなど、任意の適切な方法によって形成することができる。
【0206】
ガラス系基板は、任意の適切な方法によって製造することができる。実施形態では、ガラス系基板は、スロット成形、フロート成形、圧延プロセス、及び溶融成形プロセスを含むプロセスによって成形することができる。ガラス系基板を形成するための延伸プロセスは、ほとんど欠陥のない薄いガラス物品を形成可能であることから、望ましい。
【0207】
ガラス系基板は、それが形成されうる方法によって特徴付けることができる。例えば、ガラス系基板を、フロート成形可能(すなわち、フロート法によって成形される)、下方延伸可能、及び特に溶融成形可能又はスロット延伸可能(すなわち、フュージョンドロー法又はスロットドロー法などのダウンドロー法によって成形される)として特徴付けることができる。
【0208】
本明細書に記載されるガラス系物品の幾つかの実施形態は、ダウンドロー法によって成形することができる。ダウンドロー法は、比較的無傷な表面を有する、均一な厚さのガラス系基板を生成する。ガラス系基板及び結果的に得られるガラス系物品の平均曲げ強度は表面の傷の量及び大きさによって制御されることから、最小限に接触している無傷の表面は、より高い初期強度を有する。加えて、下方に延伸されたガラス系基板は、非常に平坦で滑らかな表面を有しており、高価な研削及び研磨をすることなく、その最終用途に使用することができる。
【0209】
ガラス系基板の幾つかの実施形態は、溶融成形可能(すなわち、フュージョンドロー法を使用して成形可能)として説明することができる。フュージョン法は、溶融ガラス原料を受け入れるためのチャネルを有する延伸タンクを使用する。チャネルは、該チャネルの両側に、チャネルの長さに沿って上部が開放されている堰を有する。チャネルが溶融材料で満たされると、溶融ガラスは堰から溢れ出る。重力に起因して、溶融ガラスは、2つの流れるガラスフィルムとして延伸タンクの外面を流下する。延伸タンクのこれらの外面は、該延伸タンクの下方の縁部で接合するように、下方かつ内側へと延びている。2つの流れるガラスフィルムは、この縁部で接合し、融着して、単一の流れるガラス物品を形成する。フュージョンドロー法は、チャネル上を流れる2つのガラスフィルムが互いに融着することから、得られるガラスベース基板の外面はどちらも、装置のいずれの部分とも接触しないという利点をもたらす。よって、溶融延伸されたガラスベース基板の表面特性は、このような接触による影響を受けない。
【0210】
本明細書に記載されるガラス系基板の幾つかの実施形態は、スロットドロー法によって形成することができる。スロットドロー法は、フュージョンドロー法とは異なる。スロットドロー法では、溶融原料ガラスは延伸タンクに供給される。延伸タンクの底部は、スロットの長さにわたって延在する、ノズルを備えた開口スロットを有している。溶融ガラスは、スロット/ノズルを通って流れ、連続的なガラス系基板として、アニーリング領域内へと下方に延伸される。
【0211】
本明細書に開示されるガラス系物品は、ディスプレイを備えた(一又は複数の)物品(例えば、携帯電話、タブレット、コンピュータ、ナビゲーションシステムなどを含む消費者向け電化製品)、建築用品、輸送用品(例えば、自動車、列車、航空機、船舶など)、家電機器用品、若しくはある程度の透明性、耐スクラッチ性、耐摩耗性、又はそれらの組合せを必要とする任意の物品などの別の物品に組み込むことができる。本明細書に開示されるガラス系物品のいずれかを組み込む例示的な物品が
図12A及び12Bに示されている。具体的には、
図12A及び12Bは、前面204、背面206、及び側面208を有する筐体202;筐体内部に少なくとも部分的に、又は筐体内に全体的にあり、少なくともコントローラと、メモリと、筐体の前面にあるか又はそれに隣接するディスプレイ210とを含む電気部品(図示せず);並びに、ディスプレイの上方になるように、筐体の前面又はその上にあるカバー基板212を含む、消費者向け電子機器200を示している。カバー基板212及び/又は筐体は、本明細書に開示されるガラス系物品のいずれかを含みうる。
【0212】
本明細書に開示されるすべての範囲は、範囲が開示される前又は後に明示的に述べられているかどうかにかかわらず、広く開示されている範囲によって包含されるありとあらゆる範囲及び部分範囲を含む。
【0213】
特許請求の範囲に記載の主題の精神及び範囲から逸脱することなく、本明細書に記載される実施形態にさまざまな修正及び変更を加えることができることは、当業者にとって明らかであろう。したがって、本明細書は、このような修正及び変更が添付の特許請求の範囲及びそれらの等価物の範囲内に入る限り、本明細書、に記載されるさまざまな実施形態の修正及び変更に及ぶことが意図されている。
【0214】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0215】
実施形態1
ガラス系物品であって、
第1の表面;
第2の表面;及び
第1の表面から圧縮の第1の深さDOC1まで延びる第1の圧縮領域、第2の表面から圧縮の第2の深さDOC2まで延びる第2の圧縮領域、及びDOC1からDOC2まで延びる引張領域を有する応力プロファイル
を含み、
前記引張領域が、1.31MPa・√(m)以上かつ1.8・KIC未満の引張応力係数KTを有しており、ここで、KICは、前記ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性である、
ガラス系物品。
【0216】
実施形態2
KTが1.41MPa・√(m)以上である、実施形態1に記載のガラス系物品。
【0217】
実施形態3
KTが2.0MPa・√(m)以上である、実施形態1に記載のガラス系物品。
【0218】
実施形態4
KTが1.781・KIC以下である、実施形態1に記載のガラス系物品。
【0219】
実施形態5
KICが0.67MPa・√(m)以上である、実施形態1に記載のガラス系物品。
【0220】
実施形態6
KICが1.3MPa・√(m)以上である、実施形態1に記載のガラス系物品。
【0221】
実施形態7
アルカリアルミノケイ酸塩を含む、実施形態1に記載のガラス系物品。
【0222】
実施形態8
それぞれ、前記第1及び第2の表面から測定して、DOC1=DOC2である、実施形態1に記載のガラス系物品。
【0223】
実施形態9
前記ガラス系物品が非脆弱性である、実施形態1に記載のガラス系物品。
【0224】
実施形態10
消費者向け電子製品において、
前面、背面、及び側面を含む筐体;
少なくとも部分的に前記筐体内にある電気部品であって、前記電気部品が少なくともコントローラ、メモリ、及びディスプレイを備えており、前記ディスプレイが前記筐体の前記前面又はそれに隣接している、電気部品;並びに
前記ディスプレイの上に配置されたカバー基板
を備えており、
前記筐体又は前記カバー基板のうちの少なくとも一方の一部が、実施形態1に記載のガラス系物品を含む、
消費者向け電子製品。
【0225】
実施形態11
ガラス系物品であって、
表面;及び
表面から圧縮の深さDOCまで延びる圧縮領域と、引張領域とを有する応力プロファイル
を含み、
前記引張領域が、1.31MPa・√(m)以上かつKT
限界以下の引張応力係数KTを有しており、ここで、KT
限界は、次によって定義され:
【0226】
【0227】
式中、KICは、前記ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性であり、tは、前記ガラス系物品の厚さである、
ガラス系物品。
【0228】
実施形態12
KTが1.41MPa・√(m)以上である、実施形態11に記載のガラス系物品。
【0229】
実施形態13
KTが2.0MPa・√(m)以上である、実施形態11に記載のガラス系物品。
【0230】
実施形態14
DOC/tが0.12を超える、実施形態11に記載のガラス系物品。
【0231】
実施形態15
DOC/tが0.18を超える、実施形態11に記載のガラス系物品。
【0232】
実施形態16
KICが0.67MPa・√(m)以上である、実施形態11に記載のガラス系物品。
【0233】
実施形態17
KICが1.3MPa・√(m)以上である、実施形態11に記載のガラス系物品。
【0234】
実施形態18
アルカリアルミノケイ酸塩を含む、実施形態11に記載のガラス系物品。
【0235】
実施形態19
前記ガラス系物品が非脆弱性である、実施形態11に記載のガラス系物品。
【0236】
実施形態20
消費者向け電子製品において、
前面、背面、及び側面を含む筐体;
少なくとも部分的に前記筐体内にある電気部品であって、前記電気部品が少なくともコントローラ、メモリ、及びディスプレイを備えており、前記ディスプレイが前記筐体の前記前面又はそれに隣接している、電気部品;並びに
前記ディスプレイの上に配置されたカバー基板
を備えており、
前記筐体又は前記カバー基板のうちの少なくとも一方の一部が、実施形態11に記載のガラス系物品を含む、
消費者向け電子製品。
【0237】
実施形態21
ガラス系物品であって、
第1の表面;
第2の表面;及び
第1の表面から圧縮の第1の深さDOC1まで延びる第1の圧縮領域、第2の表面から圧縮の第2の深さDOC2まで延びる第2の圧縮領域、及びDOC1からDOC2まで延びる引張領域を有する応力プロファイル
を含み、
前記引張領域が、1.31MPa・√(m)以上かつKT
限界以下の引張応力係数KTを有しており、ここで、KT
限界は、次によって定義され:
【0238】
【0239】
式中、KICは、前記ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性であり、tは前記ガラス系物品の厚さであり、前記DOC1及び前記DOC2は、前記第1の表面から測定される、
ガラス系物品。
【0240】
実施形態22
KTが1.41MPa・√(m)以上である、実施形態21に記載のガラス系物品。
【0241】
実施形態23
KTが2.0MPa・√(m)以上である、実施形態21に記載のガラス系物品。
【0242】
実施形態24
KTが0.95KT
限界以下である、実施形態21に記載のガラス系物品。
【0243】
実施形態25
KTが0.85KT
限界以下である、実施形態21に記載のガラス系物品。
【0244】
実施形態26
KICが0.67MPa・√(m)以上である、実施形態21に記載のガラス系物品。
【0245】
実施形態27
KICが1.3MPa・√(m)以上である、実施形態21に記載のガラス系物品。
【0246】
実施形態28
アルカリアルミノケイ酸塩を含む、実施形態21に記載のガラス系物品。
【0247】
実施形態29
DOC1=t-DOC2である、実施形態21に記載のガラス系物品。
【0248】
実施形態30
前記ガラス系物品が非脆弱性である、実施形態21に記載のガラス系物品。
【0249】
実施形態31
消費者向け電子製品において、
前面、背面、及び側面を含む筐体;
少なくとも部分的に前記筐体内にある電気部品であって、前記電気部品が少なくともコントローラ、メモリ、及びディスプレイを備えており、前記ディスプレイが前記筐体の前記前面又はそれに隣接している、電気部品;並びに
前記ディスプレイの上に配置されたカバー基板
を備えており、
前記筐体又は前記カバー基板のうちの少なくとも一方の一部が、実施形態21に記載のガラス系物品を含む、
消費者向け電子製品。
【0250】
実施形態32
ガラス系物品であって、
表面;及び
表面から圧縮の深さDOCまで延びる圧縮領域と引張領域とを有する応力プロファイル
を含み、
前記圧縮領域が圧縮応力係数KCSを有し、前記引張領域が1.31MPa・√(m)以上の引張応力係数KTを有しており、かつ:
【0251】
【0252】
であり、ここで、KICは、前記ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性である、
ガラス系物品。
【0253】
実施形態33
【0254】
【0255】
である、実施形態32に記載のガラス系物品。
【0256】
実施形態34
【0257】
【0258】
である、実施形態32に記載のガラス系物品。
【0259】
実施形態35
KTが1.41MPa・√(m)以上である、実施形態32に記載のガラス系物品。
【0260】
実施形態36
KTが2.0MPa・√(m)以上である、実施形態32に記載のガラス系物品。
【0261】
実施形態37
アルカリアルミノケイ酸塩を含む、実施形態32に記載のガラス系物品。
【0262】
実施形態38
前記ガラス系物品が非脆弱性である、実施形態32に記載のガラス系物品。
【0263】
実施形態39
消費者向け電子製品において、
前面、背面、及び側面を含む筐体;
少なくとも部分的に前記筐体内にある電気部品であって、前記電気部品が少なくともコントローラ、メモリ、及びディスプレイを備えており、前記ディスプレイが前記筐体の前記前面又はそれに隣接している、電気部品;並びに
前記ディスプレイの上に配置されたカバー基板
を備えており、
前記筐体又は前記カバー基板のうちの少なくとも一方の一部が、実施形態32に記載のガラス系物品を含む、
消費者向け電子製品。
【0264】
実施形態40
ガラス系物品であって、
第1の表面;
第2の表面;及び
第1の表面から圧縮の第1の深さDOC1まで延びる第1の圧縮領域、第2の表面から圧縮の第2の深さDOC2まで延びる第2の圧縮領域、及びDOC1からDOC2まで延びる引張領域を有する応力プロファイル
を含み、
前記引張領域が、1.31MPa・√(m)以上かつ1.8・KIC未満の引張応力係数KTを有しており、ここで、KICは、前記ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性である、
ガラス系物品。
【0265】
実施形態41
ガラス系物品であって、
表面;及び
表面から圧縮の深さDOCまで延びる圧縮領域と、引張領域とを有する応力プロファイル
を含み、
前記引張領域が、1.31MPa・√(m)以上かつKT
限界以下の引張応力係数KTを有しており、ここで、KT
限界は、次によって定義され:
【0266】
【0267】
式中、KICは、前記ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性であり、tは、前記ガラス系物品の厚さである、
ガラス系物品。
【0268】
実施形態42
DOC/tが0.12を超える、実施形態41に記載のガラス系物品。
【0269】
実施形態43
ガラス系物品であって、
第1の表面;
第2の表面;及び
第1の表面から圧縮の第1の深さDOC1まで延びる第1の圧縮領域、第2の表面から圧縮の第2の深さDOC2まで延びる第2の圧縮領域、及びDOC1からDOC2まで延びる引張領域を有する応力プロファイル
を含み、
前記引張領域が、1.31MPa・√(m)以上かつKT
限界以下の引張応力係数KTを有しており、ここで、KT
限界は、次によって定義され:
【0270】
【0271】
式中、KICは、前記ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性であり、tは前記ガラス系物品の厚さであり、前記DOC1及び前記DOC2は、前記第1の表面から測定される、
ガラス系物品。
【0272】
実施形態44
KICが0.67MPa・√(m)以上である、実施形態40、41、及び43のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0273】
実施形態45
ガラス系物品であって、
表面;及び
表面から圧縮の深さDOCまで延びる圧縮領域と、引張領域とを有する応力プロファイル
を含み、
前記圧縮領域が、圧縮応力係数KCSを有し、前記引張領域が、1.31MPa・√(m)以上の引張応力係数KTを有しており、かつ:
【0274】
【0275】
であり、ここで、KICは、前記ガラス系物品の中心と同じ組成を有するガラス系基板の破壊靭性である、
ガラス系物品。
【0276】
実施形態46
【0277】
【0278】
である、実施形態45に記載のガラス系物品
実施形態47
KTが1.41MPa・√(m)以上である、実施形態40、41、43、及び45のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0279】
実施形態48
前記ガラス系物品が非脆弱性である、実施形態40、41、43、及び45のいずれか1つに記載のガラス系物品。
【0280】
実施形態49
消費者向け電子製品において、
前面、背面、及び側面を含む筐体;
少なくとも部分的に前記筐体内にある電気部品であって、該電気部品が少なくともコントローラ、メモリ、及びディスプレイを備えており、前記ディスプレイが前記筐体の前記前面又はそれに隣接している、電気部品;並びに
前記ディスプレイの上に配置されたカバー基板
を備えており、
前記筐体又は前記カバー基板のうちの少なくとも一方の一部が、実施形態40、41、43、及び45のいずれか1つに記載のガラス系物品を含む、
消費者向け電子製品。
【符号の説明】
【0281】
100 ガラス系物品
110 第1の表面
112 第2の表面
120 第1のセグメント
122 第2のセグメント
130 中央領域
135 衝撃点
140 亀裂枝
142 破片
150 分岐
200 消費者向け電子機器
202 筐体
204 前面
206 206
208 側面
210 ディスプレイ
212 カバー基板