(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113208
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】経皮カテーテル
(51)【国際特許分類】
A61M 25/00 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
A61M25/00 624
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021104000
(22)【出願日】2021-06-23
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】岡村 遼
(72)【発明者】
【氏名】宮田 昌和
(72)【発明者】
【氏名】石井 慎悟
(72)【発明者】
【氏名】横山 研司
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA04
4C267AA16
4C267BB13
4C267BB15
4C267BB16
4C267BB52
4C267CC08
4C267GG04
4C267GG05
4C267GG07
4C267GG08
4C267GG09
4C267GG22
4C267GG24
4C267HH04
(57)【要約】
【課題】管状体のキンクのリスクを低減しつつ、補強体による不具合の発生も抑えることのできる経皮カテーテルを提供する。
【解決手段】全長に渡ってルーメン65を有する管状体40を備え、管状体40は、先端部60と、先端部60の基端から基端側に延び、外径が基端側に向かって大きくなる傾斜部61と、傾斜部61の基端から基端側に延び、先端部60より外径が大きい基端部62と、を有し、基端部62は補強体層63を有し、補強体層63は、先端側の終端位置が傾斜部61より基端側である経皮カテーテル20である。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
全長に渡ってルーメンを有する管状体を備え、
前記管状体は、
先端部と、
前記先端部の基端から基端側に延び、外径が基端側に向かって大きくなる傾斜部と、
前記傾斜部の基端から基端側に延び、前記先端部より外径が大きい基端部と、を有し、
前記基端部は補強体層を有し、前記補強体層は、先端側の終端位置が前記傾斜部より基端側である経皮カテーテル。
【請求項2】
前記補強体層は、ステンレス鋼またはニッケルチタン合金で形成された素線で構成されている請求項1に記載の経皮カテーテル。
【請求項3】
前記補強体層は、編組体で構成されている請求項1または2に記載の経皮カテーテル。
【請求項4】
前記補強体層は、コイル体で構成されている請求項1または2に記載の経皮カテーテル。
【請求項5】
前記補強体層は繰り返し構造を有し、
前記繰り返し構造は、少なくとも一部が先端側に向かってピッチが大きくなるピッチ変化部を有する請求項3または4に記載の経皮カテーテル。
【請求項6】
前記管状体は、前記ルーメンと外部とを連通させる側孔を有し、
前記側孔は、前記ピッチ変化部における前記繰り返し構造の隙間部に配置される請求項5に記載の経皮カテーテル。
【請求項7】
前記管状体のルーメンは、先端側から基端側に向かって内径が大きくなる拡径部を有する請求項1~6のいずれか1項に記載の経皮カテーテル。
【請求項8】
前記拡径部は、長さ方向において少なくとも一部が前記傾斜部の範囲に位置する請求項7に記載の経皮カテーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体内に対し経皮的に挿入される経皮カテーテルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工呼吸器や昇圧薬などでは救命困難な重症呼吸不全や循環不全に対して、生命維持のためにECMO(extracorporeal membrane oxygenation)が使用される場合がある。ECMOは、静脈から脱血し、人工肺で血液を酸素化し、ポンプで動脈又は静脈に送血する治療方法である。
【0003】
ECMOにおいて使用される脱血カニューレは、生体内に対し経皮的に挿入される長尺管状の経皮カテーテルである。ECMOで使用される経皮カテーテルは、比較的口径が大きい。このような大口径の経皮カテーテルは、主に大腿静脈に穿刺、挿入され、腸骨静脈を経て大静脈に留置される。大腿静脈から挿入される大口径の経皮カテーテルとしては、例えば特許文献1に挙げるものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大腿静脈から腸骨静脈を経て大静脈に挿入される経皮カテーテルにおいては、大口径であることから、大腿静脈の穿刺部や、蛇行の多い腸骨静脈で、経皮カテーテルの管状体がキンクするリスクを有する。また、ECMOでは、患者が装着したまま上体部を起こして屈曲した状態となることがあり、大腿静脈の穿刺部や腸骨静脈において管状体がキンクするリスクが大きくなる。管状体がキンクすると、血液循環不良や、キンク部分による血管内壁の損傷、血液漏れといった不具合が発生する可能性があるため、管状体のキンクのリスクを低減することが求められる。一方で、血液循環流量を十分に確保するためには、圧力損失を低くする必要があり、内腔をできるだけ大きくすることも求められる。
【0006】
このため、管状体の内部に金属などで形成された編組体などの補強体を設けて、キンクが生じにくいようにすることが考えられる。しかし、補強体は、穿刺部や蛇行部で管状体に一旦キンクが生じると、塑性変形により折れグセが付き、内腔の確保ができなくなる。また、折れた補強体のエッジが管状体の外層樹脂を突き破り、小孔を形成することがある。これにより、循環流量の低減や血管内壁に対する侵襲を生じる可能性がある。
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、管状体のキンクのリスクを低減しつつ、補強体による不具合の発生も抑えることのできる経皮カテーテルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成する本発明に係る経皮カテーテルは、全長に渡ってルーメンを有する管状体を備え、前記管状体は、先端部と、前記先端部の基端から基端側に延び、外径が基端側に向かって大きくなる傾斜部と、前記傾斜部の基端から基端側に延び、前記先端部より外径が大きい基端部と、を有し、前記基端部は補強体層を有し、前記補強体層は、先端側の終端位置が前記傾斜部より基端側である。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成した経皮カテーテルは、補強体層により管状体のキンクのリスクを低減しつつ、仮に管状体の先端側でキンクが生じたとしても、補強体層が管状体を突き破ることを防止できる。また、先端部の外径が基端部より小さいので、生体内に挿入する際において、血管壁への接触面積を小さくすることができ、血管壁に対する炎症機会を減少させることによって血栓発生のリスクを低減することができる。
【0010】
前記補強体層は、ステンレス鋼またはニッケルチタン合金で形成された素線で構成されているようにしてもよい。これにより、管状体の剛性を十分に確保できる。
【0011】
前記補強体層は、編組体で構成されているようにしてもよい。これにより、管状体のキンクを効果的に防止できる。
【0012】
前記補強体層は、コイル体で構成されているようにしてもよい。これにより、管状体のキンクを効果的に防止できる。
【0013】
前記補強体層は繰り返し構造を有し、前記繰り返し構造は、少なくとも一部が先端側に向かってピッチが大きくなるピッチ変化部を有するようにしてもよい。これにより、管状体の物性の急激な変化を緩和でき、キンクをより確実に防止できる。
【0014】
前記管状体は、前記ルーメンと外部とを連通させる側孔を有し、前記側孔は、前記ピッチ変化部における前記繰り返し構造の隙間部に配置されるようにしてもよい。これにより、補強体層と干渉することなく側孔を基端部に配置することができる。
【0015】
前記管状体のルーメンは、先端側から基端側に向かって内径が大きくなる拡径部を有するようにしてもよい。これにより、管状体の内径が不連続に変化しないようにすることができ、先端側から基端側に向かって血液が流れる際に乱流を抑えて圧力損失を低減できる。
【0016】
前記拡径部は、長さ方向において少なくとも一部が前記傾斜部の範囲に位置するようにしてもよい。これにより、先端部から基端部にかけて管状体の肉厚が薄くなり過ぎないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る医療デバイスシステムの正面図である。
【
図2】経皮カテーテルのうち管状体の拡大図である。
【
図5】ピッチ変化部を有する編組体が設けられた管状体の部分拡大図である。
【
図7】傾斜部と拡径部との長さ方向位置がずれている場合の傾斜部付近拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。また、本明細書では、医療デバイスシステム10の生体内腔に挿入する側を「先端」若しくは「先端側」、操作する手元側を「基端」若しくは「基端側」と称することとする。
【0019】
以下の実施形態における医療デバイスシステム10は、ECMOにおいて用いられる脱血カニューレであり、経皮カテーテル20とダイレータ30とで構成される。ダイレータ30は、生体への挿入時に経皮カテーテル20に挿通されて、経皮カテーテル20に剛性を付与する芯材として用いられる。医療デバイスシステム10は、患者の大腿静脈から挿入され、腸骨静脈を経て先端部が大静脈に留置される。
【0020】
図1に示すように、医療デバイスシステム10の経皮カテーテル20は、全長に渡ってルーメンを有する長尺な管状体40を有している。経皮カテーテル20は、管状体40の基端側に基部42を有し、基部42の基端部にはコネクタ部44が設けられる。
【0021】
ダイレータ30は、長尺管状の本体部50と、本体部50の基端部に設けられるダイレータハブ52とを有している。本体部50は、経皮カテーテル20のルーメンに挿通可能な外径を有している。また、本体部50の内径は、ガイドワイヤを挿通できる内径を有している。ダイレータハブ52は、経皮カテーテル20のコネクタ部44に係合できるように形成されている。
【0022】
図2に示すように、経皮カテーテル20の管状体40は、外径の小さい先端部60と、先端部60の基端から基端側に延び、外径が基端側に向かって大きくなる傾斜部61と、傾斜部61の基端から基端側に延び、先端部60より外径が大きい基端部62と、を有している。先端部60には、内部のルーメンと外部とを連通させる側孔64が複数設けられている。
【0023】
図3に示すように、管状体40は、基端部62に補強体層63を有している。補強体層63は、先端側の終端位置が傾斜部61より基端側に位置しており、傾斜部61および先端部60には存在しない。補強体層63は、ステンレス鋼またはニッケルチタン合金で形成された素線72で構成されている。ニッケルチタン合金は、超弾性特性を示すものが用いられる。
【0024】
図4に示すように、補強体層63は、素線72を編んで形成した編組体70で構成されている。編組体70は、同じ形状を軸方向に沿って繰り返す繰り返し構造を有している。管状体40が編組体70からなる補強体層63を有していることで、管状体40の剛性を高くし、生体内に挿入した際におけるキンクのリスクを低減できる。
【0025】
管状体40のルーメン65は、先端部60と基端部62との間に、先端側から基端側に向かって内径が大きくなる拡径部66を有している。拡径部66は、長さ方向において少なくとも一部が傾斜部61の範囲に位置している。ルーメン65は、拡径部66より先端側の内径が小さく、拡径部66より基端側の内径が大きい。ルーメン65が拡径部66を有していることで、内径が不連続に変化しないようにすることができ、先端側から基端側に向かって血液が流れる際に乱流を抑えて圧力損失を低減できる。
【0026】
側孔64は、管状体40の外部からルーメン65内への血液の流動性を良好にするために設けられる。側孔64は、補強体層63を有しない先端部60に配置されるので、側孔64と補強体層63とが干渉しないようにすることができる。
【0027】
管状体40は、先端部60の外径が基端部62より小さいので、生体内に挿入する際において、血管壁への接触面積を小さくすることができ、血管壁に対する炎症機会を減少させることによって血栓発生のリスクを低減することができる。また、補強体層63の先端側終端位置が傾斜部61より基端側に位置しているので、仮に管状体40の先端側でキンクが生じたとしても、補強体層63の素線72が管状体40を突き破ることを防止できる。
【0028】
管状体40は、柔軟性を有する樹脂材料で形成できる。例えば、ポリエステルエラストマー、ポリエチレン、ナイロン、ナイロンエラストマー、ポリウレタン、PTFEやETFEなどのフッ素樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリイミドなどを用いることができる。
【0029】
補強体層63を有する管状体40は、以下のように製造することができる。ルーメン65を有する内層部材の外周に、予め編まれてヒートセットされた補強体層63を配置し、その外側に外層部材を配置して、外層部材の外側から収縮チューブでシュリンクすることにより、内部に補強体層63を有する管状体40を形成できる。
【0030】
図5に示すように、補強体層63は、繰り返し構造の一部が、先端側に向かってピッチが大きくなるピッチ変化部74を有するようにしてもよい。補強体層63を構成する編組体70は、傾斜部61に近い部分において、先端側ほど網目の間隔が大きくなっている。このため、補強体層63の先端部付近には大きな隙間部77が形成される。
図5に示されているように、この隙間部77に側孔64を設けてもよい。
【0031】
補強体層63は、編組体70以外の構造を有していてもよい。
図6に示すように、補強体層63は、コイル体80で構成されていてもよい。コイル体80は、素線82をコイル状に巻いて形成されている。補強体層63がコイル体80で構成される場合も、補強体層63は基端部62に設けられ、補強体層63の先端側の終端位置は、傾斜部61より基端側に配置される。これにより、基端部62の剛性を高くすることができる。
【0032】
管状体40のルーメン65に形成される拡径部66は、管状体40の長さ方向において一部が傾斜部61の範囲に位置していればよいので、
図7に示すように、拡径部66の長さ方向の位置が、傾斜部61と一部重なっていなくてもよい。
【0033】
以上のように、本実施形態に係る経皮カテーテル20は、全長に渡ってルーメン65を有する管状体40を備え、管状体40は、先端部60と、先端部60の基端から基端側に延び、外径が基端側に向かって大きくなる傾斜部61と、傾斜部61の基端から基端側に延び、先端部60より外径が大きい基端部62と、を有し、基端部62は補強体層63を有し、補強体層63は、先端側の終端位置が傾斜部61より基端側である。このように構成した経皮カテーテル20は、補強体層63により管状体40のキンクのリスクを低減しつつ、仮に管状体40の先端側でキンクが生じたとしても、補強体層63が管状体40を突き破ることを防止できる。また、先端部60の外径が基端部62より小さいので、生体内に挿入する際において、血管壁への接触面積を小さくすることができ、血管壁に対する炎症機会を減少させることによって血栓発生のリスクを低減することができる。
【0034】
補強体層63は、ステンレス鋼またはニッケルチタン合金で形成された素線72で構成されているようにしてもよい。これにより、管状体40の剛性を十分に確保できる。
【0035】
補強体層63は、編組体70で構成されているようにしてもよい。これにより、管状体40のキンクを効果的に防止できる。
【0036】
補強体層63は、コイル体80で構成されているようにしてもよい。これにより、管状体40のキンクを効果的に防止できる。
【0037】
補強体層63は繰り返し構造を有し、繰り返し構造は、少なくとも一部が先端側に向かってピッチが大きくなるピッチ変化部74を有するようにしてもよい。これにより、管状体40の物性の急激な変化を緩和でき、キンクをより確実に防止できる。
【0038】
管状体40は、ルーメン65と外部とを連通させる側孔64を有し、側孔64は、ピッチ変化部における繰り返し構造の隙間部に配置されるようにしてもよい。これにより、補強体層63と干渉することなく側孔64を基端部62に配置することができる。
【0039】
管状体40のルーメン65は、先端側から基端側に向かって内径が大きくなる拡径部66を有するようにしてもよい。これにより、管状体40の内径が不連続に変化しないようにすることができ、先端側から基端側に向かって血液が流れる際に乱流を抑えて圧力損失を低減できる。
【0040】
拡径部66は、長さ方向において少なくとも一部が傾斜部61の範囲に位置するようにしてもよい。これにより、先端部60から基端部62にかけて管状体40の肉厚が薄くなり過ぎないようにすることができる。
【0041】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。上述の経皮カテーテル20は、ECMOにおいて用いられる脱血カニューレであるが、それ以外の種類の医療デバイスにも本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0042】
10 医療デバイスシステム
20 経皮カテーテル
30 ダイレータ
40 管状体
42 基部
44 コネクタ部
50 本体部
52 ダイレータハブ
60 先端部
61 傾斜部
62 基端部
63 補強体層
64 側孔
65 ルーメン
66 拡径部
70 編組体
72 素線
74 ピッチ変化部
77 隙間部
80 コイル体
82 素線