(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113224
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】エアバッグ用織物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
D03D 1/02 20060101AFI20240815BHJP
D03D 49/18 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
D03D1/02
D03D49/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018044
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】本村 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 陸
【テーマコード(参考)】
4L048
4L050
【Fターム(参考)】
4L048AA24
4L048AA34
4L048AA48
4L048AA49
4L048AB07
4L048AB11
4L048AB13
4L048CA15
4L048DA25
4L048EA00
4L048EA01
4L048EA03
4L048EB00
4L048EB05
4L050CA12
(57)【要約】
【課題】製織工程におけるタテ糸の伸長割合を1%以下とすることで、織物を構成するタテ糸の残留歪みを小さくし、低通気かつ内圧保持性に優れたエアバッグ用織物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】合成繊維からなるエアバッグ用織物であって、ASTM D6476に基づき最大圧力が100±5kPaで測定される平均動的通気度が360以下、70-30kPa圧力下の保持時間が200ms以上であるエアバッグ用織物。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成繊維からなるエアバッグ用織物であって、ASTM D6476に基づき最大圧力が100±5kPaで測定される平均動的通気度が360以下、70-30kPa圧力下の保持時間が200ms以上であるエアバッグ用織物。
【請求項2】
請求項1に記載の織物であって、ASTM D6476に基づき最大圧力が80±5kPaで測定される平均動的通気度が400以下であり、70-30kPa圧力下の保持時間が180ms以上であるエアバッグ用織物。
【請求項3】
請求項1に記載の織物であって、ASTM D6476に基づき最大圧力が100±5kPaで測定される平均動的通気度の動的通気度曲線定数(m)が2.3以下であるエアバッグ用織物。
【請求項4】
請求項1に記載の織物であって、積極イージング機構を有する織機を用いて、タテ糸の伸長割合が1%以下となるよう製織するエアバッグ用織物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアバッグ用織物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では自動車等の事故における衝突緩和のためにエアバッグの装着がなされている。エアバッグは外的要因によって自動車に急激な衝撃が加わった際に乗員や車外の歩行者を保護するために膨張する袋状の装置であって、用途に応じて各種のエアバッグの装着が検討されている。
【0003】
エアバッグは、車両が衝突してから極めて短時間に車内で膨張展開することで、衝突の反動で移動する乗員を受け止め、その衝撃を吸収して乗員を保護するものである。この作用上、袋を構成する布帛の通気量は小さいことが求められている。また、近年、更なる乗員拘束性向上を目的にエアバッグが膨張展開し、乗員を受け止める際にバッグ内圧を一定以上に保つために、布帛に対してガスが当たったときの布帛からのガス漏れ防止の要求も高まっている。
【0004】
従来、布帛の通気量を小さくする手段として、エアバッグ用織物に樹脂を塗布したり、フィルムを貼り付けた、コート布が提案されている。
【0005】
しかし、樹脂を塗布したり、フィルムを貼り付けると、布帛の厚みが増し、収納時のコンパクト性が悪化し、エアバッグ用織物としては不適当であった。また、このような樹脂塗布工程やフィルムの貼り付け工程が増えることによって、製造コストが上がるという問題があった。
【0006】
そこで、このような問題を解決するために、近年、樹脂加工を施さず、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維等の合成フィラメント糸の繊度を細くしなやかにすることで布帛の通気量を小さくするノンコート基布が提案されており、例えば、低通気性を実現する手段として単繊維繊度が2dtex以下の合成繊維マルチフィラメントを用い、織物の製織時にタテ糸の張力を0.11~0.34cN/本・dtexとした織物を使用する手段が開示されている(特許文献1参照)。この手段によれば、テストヘッド200cm3、試験圧力100±5kPaで500mm/s以下の通気量を達成している。
【0007】
また、タテ糸の張力をより詳細に制御する手法を採用したエアバッグ用基布も開示されている(特許文献2および3参照)。これらの手段によれば、タテ糸に過剰な張力が加わることを抑制することができ、繊維間空隙(目ずれ)が減少することを達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009-256860号公報(請求項1)
【特許文献2】WO2016/158287(請求項6、段落0030および0036)
【特許文献3】WO2019/167820(段落0065)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、布帛の通気量の測定方法としてはJIS L1096の通気性に示される入力圧力と測定圧力の関係から均衡状態におけるいわば静的な通気特性であるが、エアバッグが機能する際の実際の布帛の膨張・通気挙動は瞬時に当てられる高圧ガスや乗員の接触により決定され、あるいは大きく影響を受け、内圧保持性等、静的な通気特性では十分に評価しきれない特性もあると考えられる。内圧保持性は、乗員がエアバッグに接触後も衝突のエネルギーを吸収して乗員を保護する上で重要である。経時変化対応した動的な通気量測定としてはASTM D6476の平均動的通気度(ADAP)が評価方法として用いられている。ASTM D6476におけるADAPの測定値は30~70kPaの間で比例平均とした通気量であるが、特許文献1に開示されたエアバッグ用基布については、このような動的な通気特性としては未だ不十分であった。
【0010】
動的な通気特性が悪化する要因として、エアバッグの展開における基布の部分的な過伸長が挙げられ、主に織り込まれている糸の残留歪みが原因である。通気の起点となる基布の残留歪みを減らすには、製織時において均一な張力で製織を行うことがよいとされており、その中でもタテ糸の過張力を防止するイージング機構にて、タテ糸の張力緩和のためイージング量を一定値に設定することが特許文献2、3に開示される。しかし、単にイージング量を規定する製造方法では、イージングのタイミングやタテ糸の仕掛り長さによってタテ糸の過張力が発生する場合があり、基布の残留歪みを減らすには不十分であった。
【0011】
本発明の目的は、動的な低通気特性に優れ、ひいては内圧保持特性に優れたエアバッグ用織物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち本発明は、合成繊維マルチフィラメント糸からなるエアバッグ用織物であって、ASTM D6476に基づいて最大圧力が100±5kPaで測定されるADAPが360mm/s以下であり、かつ同規定に基づいて測定される30~70kPaにおける内圧の保持時間が200ms以上であることを特徴とするエアバッグ用織物である。
【0013】
また、成繊維マルチフィラメント糸からなるエアバッグ用織物であって、ASTM D6476に基づいて最大圧力80±5kPaで測定されるADAPが400mm/s以下であり、かつ同規定に基づいて測定される30~70kPaにおける内圧の保持時間が180ms以上であることを特徴とするエアバッグ用織物である。
【0014】
また、成繊維マルチフィラメント糸からなるエアバッグ用織物であって、ASTM D6476に基づいて最大圧力が100±5kPaで測定される平均動的通気度の動的通気度曲線定数(m)が2.3以下であるエアバッグ用織物である。
【0015】
また本発明は、本発明のエアバッグ用織物を製造する方法であって、積極イージング機構を有する織機を用いて第1枠開口量からバックローラーの中央部の間のタテ糸の伸長率が1.0%以下となるよう製織するエアバッグ用織物の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、動的な低通気特性に優れ、ひいては内圧保持特性に優れたエアバッグ用織物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】積極イージング機構を備える織機の概略的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のエアバック用織物は合成繊維マルチフィラメント糸からなる。合成繊維マルチフィラメント糸を構成する合成繊維としては例えば、ポリアミド系繊維、ポリエステル系繊維、アラミド系繊維、レーヨン系繊維、ポリサルホン系繊維、超高分子量ポリエチレン系繊維等を用いることができる。なかでも、大量生産性や経済性に優れたポリアミド系繊維やポリエステル系繊維が好ましい。
【0019】
ポリアミド系繊維としては例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン610、ナイロン12、ナイロン46、ナイロン410や、ナイロン6とナイロン66との共重合ポリアミド、ナイロン6にポリアルキレングリコール、ジカルボン酸、アミン等を共重合させた共重合ポリアミド等からなる繊維を挙げることができる。ナイロン6繊維、ナイロン66繊維は耐衝撃性に特に優れており、好ましい。
【0020】
また、ポリエステル系繊維としては例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等からなる繊維を挙げることができる。ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレートに酸成分としてイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸や、アジピン酸等の 脂肪族ジカルボン酸を共重合させた共重合ポリエステルからなる繊維であってもよい。
【0021】
また、合成繊維には、紡糸・延伸工程や加工工程での生産性、あるいは特性改善のために、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、平滑剤、帯電防止剤、可塑剤、増粘剤、顔料、難燃剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0022】
本発明の実施形態において、合成繊維マルチフィラメント糸の総繊度は、250dtex以上であることが好ましく、350dtex以上であることがより好ましい。総繊度が上記範囲内である場合、基布は、柔軟であり、得られるエアバッグ用織物は、通気度特性が向上し得る。総繊度が250dtex未満の場合、得られるエアバッグ用織物は、充分な通気度が得られにくい。一方、総繊度が600dtexを超える場合、基布は、繊維間空隙により通気度が増加しやすい。なお、合成繊維マルチフィラメント糸の総繊度は、JIS L1013:2010 8.3.1 A法に基づいて算出し得る。
【0023】
合成繊維マルチフィラメント糸を構成するフィラメントの単繊維繊度は、タテ糸の伸び歪みによる変形が抑えられる2.5dtex以上であることが好ましく、2.8dtex以上であることがより好ましく、3dtex以上であることがさらに好ましい。単繊維繊度がこのような範囲である場合、合成繊維フィラメントの単糸の製織張力の伸長による歪み量が低下し得る。そのため、基布の残留歪みが抑制され、エアバッグの展開における通気の起点を減らすことができる。また、コーティングを施していない基布はインフレーターから放出される高温ガスの熱による合成繊維フィラメントの溶融起きやすいが、単繊維繊度がこのような範囲である場合、単繊維が溶融するまでに受けられる受熱量が多くなり、エアバッグ展開時における繊維の溶融による破裂が防がれやすい。なお、合成繊維の単繊維繊度は、総繊度をフィラメント数で除することにより算出し得る。また、フィラメント数は、JIS L1013:2010 8.4の方法に基づいて算出し得る。
【0024】
本発明の実施形態のエアバッグ用織物の地部糸を構成する合成繊維マルチフィラメント糸の引張強度は、エアバッグ用織物として要求される機械的特性を満足する点と、製糸操業面から、タテ糸およびヨコ糸ともに8.0cN/dtex以上であることが好ましく、8.3cN/dex以上であることがより好ましい。また、引張強度は、9.0cN/dtex以下であることが好ましく、8.7cN/dtex以下であることがより好ましい。
【0025】
本発明の実施形態のエアバッグ用織物の織組織は特に限定されない。一例を挙げると、織組織は、平組織、綾組織、朱子組織及びこれらの変形組織等である。
【0026】
また、本発明の織物のカバーファクターは、1800~2300とすることが好ましい。カバーファクターを1800以上とすることで、低通気性を得ることができる。また、2300以下とすることで、コンパクト収納性を向上させることができる。
【0027】
ここでカバーファクターとは、タテ糸総繊度をD1(dtex)、タテ密度をN1(本/2.54cm)とし、ヨコ糸総繊度をD2(dtex)、緯密度をN2(本/2.54cm)としたとき、次の式であらわされる。
カバーファクター=(D1×0.9)1/2×N1+(D2×0.9)1/2×N2
【0028】
本発明のエアバッグ用織物は、ASTM D6476に基づき、圧縮空気の最大圧力を100±5kPaとしたときに測定される平均動的通気度(ADAP)が400mm/s以下であることが重要であり、好ましくは360mm/s以下、より好ましくは320mm/s以下である。また、ASTM D6476に基づき、圧縮空気の最大圧力を80±5kPaとしたときに測定される平均動的通気度(ADAP)が450mm/s以下であることが好ましく、より好ましくは400mm/s以下、さらにより好ましくは360mm/s以下である。そうすることで、エアバッグが膨張展開して乗員を受け止める際に、織物からのガス漏れを極力抑え、エアバッグの内圧を保持することができる。当該測定は、テストヘッドに充填した圧縮空気を瞬時に解放して布帛の試料に当て、刻々変化する圧力に応じた通気度(動的通気度)を測定し、最大圧力に達した後の上限圧力(UPPER LIMIT)~下限圧力(LOWER LIMIT)の範囲内の動的通気度の平均通気量を算出するものである。最大圧力達成後の空気の漏れを測定するこの方法は、エアバッグ展開後から、乗員を拘束し、乗員拘束を終えるまでの内圧保持性を表しており、ある一点の圧力下における通気度を測定する、静的な通気度とは全く異なるものである。
【0029】
本発明のエアバッグ用織物の平均動的通気度(ADAP)の測定条件は圧縮空気の圧力を、最大圧力が100±5kPaもしくは80±5kPaになるように調整し、平均動的通気度を算出する下限圧力を30kPa、上限圧力を70kPaと、実際の乗員拘束時のエアバッグの内圧の領域に設定した。
【0030】
また、本発明のエアバッグ用織物は、ASTM D6476に基づき、圧縮空気の最大圧力を100±5kPaとしたときに測定される動的通気度曲線指数(Exponent)は、上記平均動的通気度の測定で得られる圧力-動的通気度曲線のうち0、30、70kPaの3点から指数近似した関数の指数に当たる数値であり、例えばTEXTEST社のエアバッグ専用通気性試験機FX3350により算出される。
【0031】
本発明者らは、動的通気度曲線指数(Exponent)とエアバッグの膨張展開後に乗員を受け止めた際のバッグ内圧保持性との関係を鋭意検討したところ、エアバッグの内圧保持性に鑑みて、ADAPとExponetから求められる動的通気度曲線定数(m)が2.3以下であることが好ましいことを見出した。
動的通気度曲線定数(m)について詳細に説明する。動的通気度曲線定数(m)は次の式であらわされる。
動的通気度曲線定数(m)=(ADAP)/(50(Exponent))
【0032】
ここで、動的通気度曲線定数(m)が1.0より大きいと、バッグ内圧の増加に伴い、通気度が増加することを示す。動的通気度曲線定数(m)が1.0より小さいと、バッグ内圧の増加に伴い、通気度が増加しなくなることを示す。すなわち、動的通気度曲線を比例的に変化させる数値である。つまり、動的通気度曲線定数(m)が高い織物を用いたエアバッグは圧力変化に比例して通気度が増加することから、布帛表面に空気が通過できる流路があると、その流路がバッグ内圧の増加に伴い、拡大し通気度が上昇することを意味する。エアバッグの展開においては、乗員が膨らんだエアバッグに当たると、バッグ内部の圧力に増加が生じ、圧力増加が通気度の増加を引き起こすことから、動的通気度曲線定数(m)が高い織物は、低い織物に比べて、インフレーターガスのロスが大きくなる。
【0033】
本発明のエアバッグ用織物は、平均動的通気度(ADAP)の計算範囲である30~70kPaにおける内圧の保持時間は最大圧力100±5kPaで200msec以上であり、更に好ましくは160msec以上である。最大圧力80±5kPaで180msec以上であり、更に好ましくは140msec以上である。そうすることで、織物からのガス漏れを極力抑え、エアバッグの内圧を保持することができる。
【0034】
次に、本発明のエアバッグ用織物を製造する方法について説明する。
【0035】
本発明のエアバッグ用織物は、まず、前述した素材および繊度のタテ糸を整経して織機にかけ、同様にヨコ糸の準備をする。かかる織機としては例えば、ウォータージェットルーム、エアージェットルームおよびレピアルームなどが使用可能である。中でも生産性を高めるためには、高速製織が比較的容易なウォータージェットルームを用いるのが好ましい。
【0036】
タテ糸張力を上記範囲内に調整する具体的方法としては、織機のタテ糸送り出し速度を調整する他、ヨコ糸の打ち込み速度を調整する方法が挙げられる。タテ糸張力が製織中に実際に上記範囲内となっているかどうかは、例えば織機稼動中にタテ糸ビームとバックローラーとの中間において、タテ糸一本当たりに加わる張力を張力測定器で測り、その値をタテ糸の繊度(dtex)で割ることで確認することができる。
【0037】
本発明の織物の製造方法において、織機は、送り出しに積極イージング機構が設けられる。
図1は、積極イージング機構を備える織機1の概略的な側面図である。なお、
図1には、織機1の一部の構成のみが例示されており、他の構成(たとえば筬やテンプル装置等)は省略されている。織機1は、タテ糸Lと、タテ糸Lの張力変化を抑えるための積極イージング機構(バックローラー3)と、タテ糸ビーム(図示せず)から送り出されるタテ糸Lを開口するための複数の枠体(
図1では第1枠2a、第2枠2b、第3枠2c、第4枠2dの4枠である場合が例示されている)を備える。枠体は、綜絖(ヘルド)枠とも呼ばれる。第1枠2aは、枠体のうち、最も織り前側(すなわち下流側)に配置された枠体である。枠体は、製織の際、隣り合う枠体と適宜協働して上下に移動する。
図1には、第1枠2aが最も高く上がった状態の織機1が例示されている。なお、
図1には、第1枠2aおよび第2枠2bを通るタテ糸のみが示されており、第3枠2cおよび第4枠2dを通るタテ糸は省略されている。
【0038】
本発明の製造方法の実施形態において、枠の上下運動によって長さが変わるタテ糸に対して伸長の変化を小さくする。基布は、バックローラーと織口を直線で結んだ時のタテ糸長さ(L1)と、第1枠の開口変位(H)におけるタテ糸の長さ(L2a1+L2a2)との割合((L2a1+L2a2)/L1)において、第1枠の開口変位(H)がいずれの位置にあっても1%以下となるように製織される。基布は、タテ糸の伸長割合((L2a1+L2a2)/L1)が上記範囲内である場合、製織時のタテ糸が伸長によって弾性変形が抑制され得る。そのため、基布は、タテ糸の残留歪みを小さくし得る。その結果、動的通気度曲線定数(m)を下げることができる。タテ糸の伸長割合((L2a1+L2a2)/L1)が1%より大きい場合、製織時に反給糸側のタテ糸Lに緩みが発生し、製織性が悪くなる傾向がある上、残留歪みが大きくなりやすい。その結果、動的通気度曲線定数(m)が増加しやすい。したがって、得られるエアバッグは、展開時に通気によるガス漏れが発生しやすい。
【0039】
本発明の製造方法の実施形態において、タテ糸の伸長割合((L2a
1+L2a
2)/L1)を調整する手段としては積極イージング機構のイージング量を調節することが挙げられる。イージング量はタテ糸の張力が増加する要因である第1枠開口変位(H)に対し、タテ糸の張力緩和を目的としてバックローラーを前後させるが、枠の開口変位に合わせて数値とタイミングを設定する必要がある。「イージング量」とは、
図1に示されるように、タテ糸Lの最大開口時のバックローラー3の位置(織り前方向への最前進位置)からタテLの閉口時のバックローラー3の位置(織り前とは反対方向への最後進位置)までのバックローラーの移動距離をいう。「第1枠開口変位(H)」とは、第1枠2aがL1(バックローラー3と織口4(最後にヨコ糸が織り込まれた位置))上にある位置から第1枠2aが上下いずれかの位置に移動したときの距離をいう。「タテ糸の長さ(L2a
1+L2a
2)」とはバックローラー3と織口4を底辺、第1枠2aの開口高さを頂点とした三角形のうち、斜辺の合計であり三平方の定理を用いて算出することができる。
【0040】
つまり、タテ糸の伸長割合((L2a1+L2a2)/L1)は製織時の第1枠開口変位(H)の変化によって絶えず変化するため、タテ糸長さ(L2a1+L2a2)をいずれの第1枠開口変位(H)においても制御しうるイージング量およびタイミングに設定する必要がある。
【0041】
製織工程に次いで、必要に応じて、精練、熱セット等の加工を施す。
【0042】
精練加工における精練温度としては、20~65℃が好ましく、より好ましくは30~55℃である。20℃以上とすることで、製織後の織物に残留した歪みを除去し、マルチフィラメント糸内のフィラメント同士を動き易くさせ、マルチフィラメント糸が織物面に対し扁平に広がることができるため、低通気度の織物を得ることができる。一方、65℃以下とすることで、マルフィラメントの大きな収縮を抑制し、動的通気度曲線定数(m)を下げることができる。製織された織物を構成するマルチフィラメント糸は互いに交差するマルチフィラメント糸に拘束されているため、自由に収縮することができない。65℃以上の高温で精練加工した場合、マルチフィラメント糸は自由に収縮できないため、単繊維繊度が小さくなると共に、単繊維が整列するように再配列する場合がある。その場合、平均動的通気度が大きくなるだけでなく、マルチフィラメント糸が織物面に対し扁平に広がる遊びがなくなるため、動的通気度曲線定数(m)が上昇する。
【0043】
熱セット加工においても、精練工程と同じく、製織後の織物に残留した歪みを除去させ、マルチフィラメント糸の大きな収縮を抑制できる熱セット温度に設定することが好ましい。具体的には、80~150℃が好ましく、より好ましくは100~120℃である。80℃以上とすることで、動的通気度曲線定数(m)を下げることができる。一方、150℃以下とすることで、平均動的通気度を下げることができる。
【0044】
本発明のエアバッグ用織物は、袋状に縫製してエアバッグとし、さらにインフレーターなどの付属機器を取り付けてエアバッグモジュールとすることができ、運転席用、助手席用および後部座席用、側面用エアバッグなどに使用することができる。
【実施例0045】
[測定方法]
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。本発明における各特性の定義および測定法は以下の通りである。
【0046】
(1)総繊度:JIS L1013(1999) 8.3.1 A法により、所定荷重0.045cN/dtexで正量繊度を測定して総繊度とした。
【0047】
(2)単繊維数(フィラメント数):JIS L1013(1999) 8.4の方法で算出した。
【0048】
(3)単繊維繊度:総繊度を単繊維数で除することで算出した。
【0049】
(4)織密度:タテ糸およびヨコ糸のそれぞれの織密度は、JIS L1096:2010 8.6.1に基づいて算出した。具体的には、試料を平らな台上に置き、不自然なしわや張力を除いて、異なる5箇所について2.54cmの区間のタテ糸およびヨコ糸の本数を数え、それぞれの平均値を算出した。
【0050】
(5)平均動的通気度・動的通気度曲線指数:
ASTM D6476に基づいて測定した。TEXTEST社のエアバッグ専用通気性試験機FX3350を用い、テストヘッドは400cm3を用いた。また、テストヘッドに充填する圧縮空気の圧力(START PRESSURE)は、織物にかかる最大圧力が100±5kPaと80±5kPaになるようにそれぞれ調整した。
【0051】
テストヘッドに充填した圧縮空気を解放して布帛の試料に当て、経時的に圧力および通気度を測定し、得られた圧力-動的通気度曲線において最大圧力到達後の上限圧力(UPPER LIMIT:70kPa)~下限圧力(LOWER LIMIT:30kPa)の範囲内の動的通気度の平均値を平均動的通気度(ADAP)として求めた。
また、得られた圧力-動的通気度曲線から、FX3350より動的通気度曲線指数(Exponent)を算出した。さらに、得られた平均動的通気度(ADAP)と動的通気度曲線指数(Exponet)から動的通気度曲線定数(m)を算出した。
【0052】
測定した圧力と通気速度との関係を、TEXTEST社のエアバッグ専用通気性試験機FX3350の評価ソフトウェアL5110 LABODATA IIIを用いてコンピューターに取り込み、圧力-通気度のグラフから生データを取り込み、圧力が70kPaから30kPaまで変化する時間から内圧の保持時間を算出した。
【0053】
<実施例1>
(タテ糸・ヨコ糸)
タテ糸およびヨコ糸として、ナイロン66からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度3.5dtex、フィラメント数136、総繊度470dtex、無撚りで、強度8.5cN/dtex、伸度23%の無撚りの合成繊維フィラメントを用いた。
【0054】
(製織工程)
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、積極イージング機構を備える織機((株)豊田自動織機製 ウォータージェットルームLWT710)により製織して、タテ糸の織密度50本/2.54cm、ヨコ糸の織密度50本/2.54cmの織物を得た。その際、タテ糸の最大伸長割合が0.2%となるようにイージング量とタイミングを調整した。
【0055】
(精練および熱セット)
次いで、得られた織物を、65℃で精練し、ピンテンター乾燥機を用いて幅入れ率0%、オーバーフィード率0%の寸法規制の下で、120℃にて1分間の熱セット加工を施しエアバッグ用織物を得た。
【0056】
<実施例2>
実施例1で用いたのと同様のものをタテ糸・ヨコ糸とした。
【0057】
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、タテ糸の織密度53本/2.54cm、ヨコ糸の織密度53本/2.54cmとした以外は実施例1と同様の精練および熱セットを施したエアバッグ用織物を得た。
【0058】
<実施例3>
タテ糸およびヨコ糸として、ナイロン66からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度6.5dtex、フィラメント数72、総繊度470dtex、無撚りで、強度8.5cN/dtex、伸度23.5%の無撚りの合成繊維フィラメントを用いてタテ糸・ヨコ糸とした。
【0059】
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、タテ糸の織密度55本/2.54cm、ヨコ糸の織密度55本/2.54cmとした以外は実施例1と同様の精練および熱セットを施したエアバッグ用織物を得た。
【0060】
<実施例4>
タテ糸およびヨコ糸として、ナイロン66からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度2.6dtex、フィラメント数136、総繊度350dtex、無撚りで、強度8.5cN/dtex、伸度24.5%の無撚りの合成繊維フィラメントを用いてタテ糸・ヨコ糸とした。
【0061】
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、タテ糸の織密度60本/2.54cm、ヨコ糸の織密度60本/2.54cmとした以外は実施例1と同様の精練および熱セットを施したエアバッグ用織物を得た。
【0062】
<比較例1>
ナイロン66からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度6.5dtex、フィラメント数108、総繊度700dtex、無撚りで、強度8.4cN/dtex、伸度24%の合成繊維マルチフィラメント糸をタテ糸およびヨコ糸として用いた。
【0063】
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、タテ糸の織密度41本/2.54cm、ヨコ糸の織密度41本/2.54cmとした以外は実施例1と同様の精練および熱セットを施したエアバッグ用織物を得た。
【0064】
<比較例2>
ナイロン66からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度3.3dtex、フィラメント数108、総繊度235dtex、無撚りで、強度8.5cN/dtex、伸度24%の合成繊維マルチフィラメント糸をタテ糸およびヨコ糸として用いた。
【0065】
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、タテ糸の織密度72本/2.54cm、ヨコ糸の織密度72本/2.54cmとした以外は実施例1と同様の精練および熱セットを施したエアバッグ用織物を得た。
【0066】
<比較例3>
タテ糸およびヨコ糸として、ナイロン66からなり、円形の断面形状を有し、単繊維繊度3.5dtex、フィラメント数136、総繊度470dtex、無撚りで、強度8.5cN/dtex、伸度23%の無撚りの合成繊維フィラメントを用いた。
【0067】
上記タテ糸・ヨコ糸を用い、タテ糸の織密度50本/2.54cm、ヨコ糸の織密度50本/2.54cmとし、タテ糸の最大伸長割合が1.2%となるように製織した以外は実施例1と同様の精練および熱セットを施したエアバッグ用織物を得た。
【0068】
本発明のエアバッグ用織物は、自動車用エアバッグ、特に運転席用、助手席用、側面衝突用サイドエアバッグなどに好適に用いることができる。ただし、その適用範囲がこれらに限られるものではない。