(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113247
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】パワーアシストシステム及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
B25J 11/00 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
B25J11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018087
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】592032636
【氏名又は名称】学校法人トヨタ学園
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】山下 勝司
(72)【発明者】
【氏名】山口 雄平
(72)【発明者】
【氏名】山田 整
(72)【発明者】
【氏名】成清 辰生
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS38
3C707KS15
3C707LU01
3C707LU09
3C707LW04
3C707LW05
3C707LW12
3C707LW15
3C707MS27
3C707XK06
3C707XK20
3C707XK42
3C707XK52
3C707XK82
(57)【要約】
【課題】ユーザの意図に沿ったパワーアシストを行うことが可能なパワーアシストシステムを提供すること。
【解決手段】本開示にかかるパワーアシストシステムは、ユーザに装着され、ユーザの動作をアシストする駆動源を有するロボットと、ユーザからロボットに付与された干渉力を推定する干渉力推定部と、所定の動特性を持つ仮想物体における、干渉力推定部によって推定された干渉力に対する目標速度を生成する、アドミッタンスモデルと、ロボットの速度が目標速度に追従するような制御トルクで駆動源を駆動させる制御部と、を備えた、パワーアシストシステムであって、干渉力推定部は、ロボットの運動量に基づいて外乱を検出する外乱オブザーバと、リザバー層の重み付けを確率的に割り振りながら外乱に応じた干渉力についての学習が行われたESN学習モデルを用いて、外乱オブザーバによって検出された外乱に応じた干渉力を推定する推定部と、を有する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザに装着され、前記ユーザの動作をアシストする駆動源を有する、ロボットと、
前記ユーザから前記ロボットに付与された干渉力を推定する干渉力推定部と、
所定の動特性を持つ仮想物体における、前記干渉力推定部によって推定された前記干渉力に対する目標速度を生成する、アドミッタンスモデルと、
前記ロボットの速度が前記目標速度に追従するような制御トルクで前記駆動源を駆動させる制御部と、
を備えた、パワーアシストシステムであって、
前記干渉力推定部は、
前記ロボットの運動量に基づいて外乱を検出する外乱オブザーバと、
リザバー層の重み付けを確率的に割り振りながら前記外乱に応じた前記干渉力についての学習が行われたESN学習モデルを用いて、前記外乱オブザーバによって検出された前記外乱に応じた前記干渉力を推定する推定部と、
を有する、パワーアシストシステム。
【請求項2】
前記ESN学習モデルは、動作モードが学習モードの場合に、前記干渉力の教師データに基づいて、前記外乱に応じた前記干渉力に関する学習を行うように構成され、
前記推定部は、動作モードが推定モードの場合に、前記ESN学習モデルを用いて、前記外乱オブザーバによって検出された前記外乱に応じた前記干渉力を推定する、
請求項1に記載のパワーアシストシステム。
【請求項3】
前記ESN学習モデルは、動作モードが学習モードの場合に、前記干渉力と前記外乱との差分を教師データとして学習を行うように構成され、
前記推定部は、動作モードが推定モードの場合に、前記ESN学習モデルを用いて推定された前記干渉力と、前記外乱オブザーバによって検出された前記外乱と、を加算した値を、前記干渉力として推定する、
請求項1に記載のパワーアシストシステム。
【請求項4】
前記外乱オブザーバは、MBO(Momentum Based Observer)であって、
前記ESN学習モデルは、ESN(Echo State Network)である、
請求項1に記載のパワーアシストシステム。
【請求項5】
ユーザに装着され、前記ユーザの動作をアシストする駆動源を有する、ロボット、を備えたパワーアシストシステムによるアシスト処理をコンピュータに実行させる制御プログラムであって、
前記ユーザから前記ロボットに付与された干渉力を推定する処理と、
所定の動特性を持つ仮想物体における前記干渉力に対する目標速度を生成する処理と、
前記ロボットの速度が前記目標速度に追従するような制御トルクで前記駆動源を駆動させる処理と、
をコンピュータに実行させ、
前記干渉力を推定する処理では、
外乱オブザーバによって、前記ロボットの運動量に基づいて外乱を検出する処理と、
リザバー層の重み付けを確率的に割り振りながら前記外乱に応じた前記干渉力についての学習が行われたESN学習モデルを用いて、前記外乱オブザーバによって検出された前記外乱に応じた前記干渉力を推定する処理と、
をコンピュータに実行させる制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パワーアシストシステム及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年では、装着者の動作をアシストするパワーアシスト装置の開発が進められている。関連する技術は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
特許文献1には、装着者の身体の軌道と目標軌道との追従誤差が小さい場合には装着者に対するアシストが小さくなり、追従誤差が大きいほど装着者に対するアシストが大きくなるANN(Assist-as-Needed)制御手法を用いたパワーアシスト装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されたANN制御は、事前に指定された目標軌道に追従する制御であるため、装着者は自らの意図に沿ってロボットを自在に操ることはできない。装着者がロボットを自らの意図に沿って自在に操るためには、意図を表す装着者とロボットの間に働く干渉力の計測が必要である。しかし、センサによる干渉力の計測は装着型のパワーアシストシステムでは、力覚センサの信号を装着者自身が正確に操作できるような場合を除き一般には困難である。
【0006】
本開示は、以上の背景に鑑みなされたものであり、力覚センサでの計測が難しいロボットを装着したユーザから当該ロボットに付与される干渉力を精度良く推定することにより、ユーザの意図に沿ったパワーアシストを行うことが可能なパワーアシストシステム及び制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示にかかるパワーアシストシステムは、ユーザに装着され、前記ユーザの動作をアシストする駆動源を有する、ロボットと、前記ユーザから前記ロボットに付与された干渉力を推定する干渉力推定部と、所定の動特性を持つ仮想物体における、前記干渉力推定部によって推定された前記干渉力に対する目標速度を生成する、アドミッタンスモデルと、前記ロボットの速度が前記目標速度に追従するような制御トルクで前記駆動源を駆動させる制御部と、を備えた、パワーアシストシステムであって、前記干渉力推定部は、前記ロボットの運動量に基づいて外乱を検出する外乱オブザーバと、リザバー層の重み付けを確率的に割り振りながら前記外乱に応じた前記干渉力についての学習が行われたESN学習モデルを用いて、前記外乱オブザーバによって検出された前記外乱に応じた前記干渉力を推定する推定部と、を有する。このパワーアシストシステムは、ロボットを装着したユーザから当該ロボットに付与される干渉力を精度良く推定することにより、高精度なアドミッタンス制御を実現することができるため、ユーザの意図に沿ったパワーアシストを行うことができる。
【0008】
本開示にかかる制御プログラムは、ユーザに装着され、前記ユーザの動作をアシストする駆動源を有する、ロボット、を備えたパワーアシストシステムによるアシスト処理をコンピュータに実行させる制御プログラムであって、前記ユーザから前記ロボットに付与された干渉力を推定する処理と、所定の動特性を持つ仮想物体における前記干渉力に対する目標速度を生成する処理と、前記ロボットの速度が前記目標速度に追従するような制御トルクで前記駆動源を駆動させる処理と、をコンピュータに実行させ、前記干渉力を推定する処理では、外乱オブザーバによって、前記ロボットの運動量に基づいて外乱を検出する処理と、リザバー層の重み付けを確率的に割り振りながら前記外乱に応じた前記干渉力についての学習が行われたESN学習モデルを用いて、前記外乱オブザーバによって検出された前記外乱に応じた前記干渉力を推定する処理と、をコンピュータに実行させる。この制御プログラムは、ロボットを装着したユーザから当該ロボットに付与される干渉力を精度良く推定することにより、高精度なアドミッタンス制御を実現することができるため、ユーザの意図に沿ったパワーアシストを行うことができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示により、力覚センサでの計測が難しいロボットを装着したユーザから当該ロボットに付与される干渉力を精度良く推定することにより、ユーザの意図に沿ったパワーアシストを行うことが可能なパワーアシストシステム及び制御プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態1に係るパワーアシストシステムの構成を示すブロック図である。
【
図2】実施の形態1に係るパワーアシストシステムに設けられたエコステートネットワークモデルの概念図である。
【
図3】実施の形態1に係るパワーアシストシステムの干渉力直列推定法の各動作モードでの動作を説明するためのブロック図である。
【
図4】実施の形態1に係るパワーアシストシステムの干渉力直列推定法の各動作モードでの実験結果を示す図である。
【
図5】エコステートネットワークが用いられていない場合、即ち、外乱オブザーバのみで干渉力を推定した場合のパワーアシストシステムの推定モードでの実験結果を示す図である。
【
図6】実施の形態1に係るパワーアシストシステムの干渉力並列推定法の各動作モードでの動作を説明するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、発明の実施形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。説明の明確化のため、以下の記載及び図面は、適宜、省略、及び簡略化がなされている。各図面において、同一の要素には同一の符号が付されており、必要に応じて重複説明は省略されている。
【0012】
<実施の形態1>
図1は、実施の形態1にかかるパワーアシストシステム1の構成を示すブロック図である。本実施の形態にかかるパワーアシストシステム1は、ロボットを装着したユーザから当該ロボットに付与される干渉力を精度良く推定することにより、高精度なアドミッタンス制御を実現することができるため、ユーザの意図に沿ったパワーアシストを行うことができる。以下、具体的に説明する。
【0013】
図1に示すように、パワーアシストシステム1は、ロボット11と、干渉力推定部12と、アドミッタンスモデル13と、演算器14と、減算器15と、NNベース適応制御部16と、を備える。
【0014】
ロボット11は、動作支援の必要なユーザU1に装着され、ユーザU1の動きをアシストする。例えば、ロボット11は、ユーザU1の下肢の各部位を支持する支持部材と、ユーザU1の下肢の各関節に対応して設けられた回転部材と、を備える。各回転部材は、複数の支持部材のうち2つの支持部材を回転自在に接続し、且つ、当該2つの支持部材を回転駆動させるサーボモータ等のアクチュエータ(駆動源)と、ロータリエンコーダ等の角度センサと、を有する。なお、ロボット11は、ユーザU1の下肢に取り付けられる場合に限られず、ユーザU1の上肢、又は、ユーザU1の上肢及び下肢、に取り付けられてもよい。
【0015】
干渉力推定部12は、ロボット11を装着したユーザU1から当該ロボット11に直接的に付与される力である干渉力を推定する。したがって、干渉力は、ユーザU1の動作の意図を表しているとも言える。具体的には、干渉力推定部12は、MBO121と、ESN122と、推定部123と、を備える。
【0016】
【0017】
本実施の形態では、外乱オブザーバの一種であるMBOが用いられた場合を例に説明しているが、それには限定されず、MBO以外の種類の外乱オブザーバが用いられてもよい。また、本実施の形態では、リザバーコンピューティング手法の一種であるESNが用いられた場合を例に説明しているが、それには限定されず、ESN以外の種類のリザバーコンピューティング手法が用いられてもよい。
【0018】
【0019】
NNベース適応制御部16は、ニューラルネットワークを用いて構成された適応制御系である。具体的には、NNベース適応制御部16は、ニューラルネットワークにおける適応則(適応項)により、ユーザU1とロボット11の間のダイナミクスの物理パラメータが未知な場合でも速度誤差
がある範囲にとどまる一様終局有界性を保証する。
【0020】
ここで、
を、それぞれユーザU1とロボット11とが一体化したn個の関節からなる人間機械システムの関節角、角速度、及び、角加速度とすると、システムの運動方程式は、以下の式(1)のように表される。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
は、オブザーバゲインを表す。
なお、オブザーバゲインは正定行列であるものとする。
【0027】
【0028】
【0029】
続いて、推定部123におけるESNと呼ばれる学習モデルを説明する。
【0030】
【0031】
は、入力結合重み、を表す。
は、リカレント結合重み、を表す。
は、出力結合重み、を表す。
【0032】
【0033】
【0034】
【0035】
【0036】
また、
を漏れ率とすると、以下の式(8)が成り立つ。
【数8】
【0037】
なお、漏れ率αが大きいほど、新たな入力情報の寄与率が小さくなり、漏れ率αが小さいほど、新たな入力情報の寄与率が大きくなる。
【0038】
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
なお、本実施の形態の
図3の例では、干渉力推定部12において、MBO121の出力がESN122に入力される直列推定方法が採用されている。以下、
図3を用いて簡単に説明する。
【0046】
【0047】
【0048】
それに対し、
図5に示すように、MBOのみによる干渉力推定では、干渉トルクの検証データ(点線)と、推定結果である推定干渉トルクと、の誤差が大きい。したがって、MBOのみによる干渉力推定では、干渉トルクの推定精度は低い。
【0049】
このように、本実施の形態にかかるパワーアシストシステム1は、力覚センサを用いる代わりに、MBO121とESN122とを組み合わせて用いることにより、ロボットを装着したユーザユーザから当該ロボットに付与される干渉力を精度良く推定することができる。それにより、本実施の形態にかかるパワーアシストシステム1は、高精度なアドミッタンス制御を実現することができるため、ユーザの意図に沿ったパワーアシストを行うことができる。
【0050】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0051】
本実施の形態では、干渉力推定部12において、MBO121の出力がESN122に入力される直列推定方法が採用されている場合を例に説明したが、それには限定されない。干渉力推定部12は、MBO121とESN122とが並列に用いられる並列推定方法が採用されてもよい。以下、
図6を用いて簡単に説明する。
【0052】
【0053】
図6に示すような並列推定方法が採用されたパワーアシストシステム1でも、直列推定方法が採用されたパワーアシストシステム1と同等の効果を奏することができる。
【0054】
さらに、本開示は、パワーアシストシステム1によるアシスト処理の一部又は全部を、CPU(Central Processing Unit)にコンピュータプログラムを実行させることにより実現することが可能である。
【0055】
上述したプログラムは、コンピュータに読み込まれた場合に、実施形態で説明された1又はそれ以上の機能をコンピュータに行わせるための命令群(又はソフトウェアコード)を含む。プログラムは、非一時的なコンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体に格納されてもよい。限定ではなく例として、コンピュータ可読媒体又は実体のある記憶媒体は、RAM(Random-Access Memory)、ROM(Read-Only Memory)、フラッシュメモリ、SSD(Solid-State Drive)又はその他のメモリ技術、CD-ROM、DVD(Digital Versatile Disc)、Blu-ray(登録商標)ディスク又はその他の光ディスクストレージ、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスクストレージ又はその他の磁気ストレージデバイスを含む。プログラムは、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体上で送信されてもよい。限定ではなく例として、一時的なコンピュータ可読媒体又は通信媒体は、電気的、光学的、音響的、またはその他の形式の伝搬信号を含む。
【0056】
上記の実施の形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
【符号の説明】
【0057】
1 パワーアシストシステム
11 ロボット
12 干渉力推定部
13 アドミッタンスモデル
14 演算器
15 減算器
16 NNベース適応制御部
121 MBO
122 ESN
123 推定部