(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113252
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】屋根覆いシート
(51)【国際特許分類】
E04G 21/28 20060101AFI20240815BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
E04G21/28 B
E04G23/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018099
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000234122
【氏名又は名称】萩原工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】523045984
【氏名又は名称】一般社団法人災害復旧職人派遣協会
(74)【代理人】
【識別番号】110003085
【氏名又は名称】弁理士法人森特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福島 竜彦
(72)【発明者】
【氏名】石岡 博実
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA23
2E176BB29
(57)【要約】
【課題】施工しやすく、施工後、風に煽られて飛ばされにくく、さらに破れや水漏れが生じにくい屋根覆いシートを提供する。
【解決手段】シート基材2と、シート基材2端部がシート基材2の内側に向かって折り返されてシート基材2に接合されることでチューブ状をなす外周袋部4、5と、シート基材2内で外周袋部4に対して平行に配置された少なくとも二条のスリーブ3を備え、スリーブ3は合成樹脂からなる長尺の帯状基材が長手方向に沿って折り返されてチューブ状をなし、スリーブ3とシート基材2は、スリーブ3の長手方向に沿って融着により接合され、帯状基材の折り返しで形成されるスリーブ折返部31と、スリーブ3とシート基材2の融着により形成される融着接合部23は、スリーブ3に平行するシート基材中央線22に対し、スリーブ折返部31よりも融着接合部23が近い位置関係で配置される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成樹脂からなる略矩形のシート基材と、
前記シート基材の四辺の内、少なくとも対向する二辺の周縁に形成され、シート基材端部がシート基材の内側に向かって折り返されて前記シート基材に接合されることでチューブ状をなす外周袋部と、
前記シート基材内で前記外周袋部に対して平行に配置された少なくとも二条のスリーブを備え、
前記スリーブは合成樹脂からなる長尺の帯状基材が長手方向に沿って折り返されてチューブ状をなし、
前記スリーブと前記シート基材は、前記スリーブの長手方向に沿って融着により接合され、
前記帯状基材の折り返しで形成されるスリーブ折返部と、前記スリーブと前記シート基材の融着により形成される融着接合部は、前記スリーブに平行するシート基材中央線に対し、前記スリーブ折返部よりも前記融着接合部が近い位置関係で配置されることを特徴とする屋根覆いシート。
【請求項2】
前記スリーブ折返部の長手方向の長さが、前記スリーブに平行する前記外周袋部の長さよりも短い請求項1に記載の屋根覆いシート。
【請求項3】
前記スリーブは、長手方向に沿って形成された帯状基材の非重なり部からなるスリーブ融着部を備え、前記スリーブ融着部は前記シート基材に融着されている請求項1に記載の屋根覆いシート。
【請求項4】
前記スリーブ融着部が、前記スリーブ融着部を長手方向に長く延設したスリーブ融着延設部を備える請求項3に記載する屋根覆いシート。
【請求項5】
前記シート基材が、四隅に切り欠き部を有する請求項1に記載の屋根覆いシート。
【請求項6】
前記外周袋部が前記シート基材の四辺に形成されている請求項1から5のいずれかに記載の屋根覆いシート。
【請求項7】
請求項6の屋根覆いシートにより屋根部を形成したことを特徴とする仮設テント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屋根の改修や補修等に使用する屋根覆いシートに関する。
【背景技術】
【0002】
台風や地震等の災害で建物の屋根が破損した場合、破損部分の改修や補修等が行われるまでブルーシートなどで破損部分を覆って養生することがある。ブルーシートは、合成樹脂フィルムを細断して延伸することで強度を高めたフラットヤーンと呼ばれる糸を製織し、その織物に合成樹脂フィルムを積層して得られるシートからなり、シートの外周の縁部分には紐やロープ等を通して固定するためのハトメが取り付けられている。主に青色に着色されていることから、ブルーシートと呼ばれている。
【0003】
ブルーシートで屋根を覆う場合、強風で煽られて飛ばされる可能性があるため、屋根に固定する必要があり、その固定には土嚢などの重しが使われる。ところが、高所作業であることに加え、切妻造の屋根などでは傾斜により足元が滑りやすく、土を詰めて重くなった土嚢を屋根の上に持って上がるだけでも危険を伴う。また、土嚢を重しにするにはある程度の数を用意する必要がある。土を手配し袋に詰める時間、ハトメと土嚢を紐で括り付けていく時間等を踏まえると、覆うまでにかなりの時間と労力を要する。
【0004】
その改善のため、例えば特許文献1では、内部に液体を封入可能な液体重し部が装着された屋根補修シートが記載されている。特許文献1の屋根補修シートは、液体重し部が細長い形状の容器で、その注入口に水道栓から延びるホースを接続し、液体重し部に水を供給することで、水の重さを利用して重しにしている。
【0005】
また、特許文献2では、防水シート本体部の外縁に沿った箇所に防水シート筒状部を設け、引っ張り用棒材を通して、外方に引っ張って施工する防水シートが記載されている。特許文献2の防水シートは、防水シート筒状部に通した引っ張り用棒材に引っ張り用紐を結び、防水シートを引っ張って弛みがないように張った状態にして使用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2021-55518号公報
【特許文献2】特開2021-92135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら特許文献1に記載された屋根補修シートのように水を重しに利用する場合、液体重し部になる容器に破れがあると水漏れが生じてしまい重しとしての機能を満たさなくなるおそれがあった。また、破れがなくても気密を保たれなければ水が蒸発してしまうため、長期に使うことも難しかった。さらには、水を注入するためには流路をしっかりと保たなければならないが、容器が折れたり、捩れたり、容器内部同士がへばりついていたりする可能性があり、容器に水が行き渡らないおそれもあった。これらを考慮して、液体重し部の容器の厚みを大きくするとシートが折り畳みにくくなり、保管や持ち運びが困難になってしまうおそれがあった。
【0008】
特許文献2に記載された防水シートは、引っ張り用紐を外方に引っ張って施工するものであるが、この引っ張り用紐の先を構造物や固定物に結び付けた場合、構造物や固定物自体は紐を引っ張らないため、風などの応力を受けると紐や防水シート本体が伸び、これを繰り返すうちに次第に弛んでしまうおそれがあった。その結果、風が屋根と防水シート本体の間に入り込んで浮き上がり、バタつきが生じてしまうおそれがあった。紐を引っ張り続けるために、紐の先に土嚢などの重りをぶら下げると、クリープ変形が生じることになり、それに耐えられず紐や防水シート本体が破れるおそれがあった。
【0009】
中途部分の浮き上がりを防ぐ方法として、特許文献2には、中途部分の防水シート本体部をループ状にたくり、そのループ状の部分の付根を縫着することによって、棒通し部を形成する例が提案されている。しかしながら、防水シート本体の中途部分を縫うとその縫い目によってキズや穴ができてしまう。この縫い目による穴は小さいものであるが、雨が大量に降ったり、防水シート本体が引っ張られて穴が広がったりするため、水漏れの原因になっていた。特に、中途部分は屋根の損傷個所を覆っている部分であり、防水シートの中途部分の強度や防水性は十分に確保される必要があった。
【0010】
そこで、本発明はこのような事情に鑑み、施工しやすく、施工後、風に煽られて飛ばされにくく、さらに破れや水漏れが生じにくい屋根覆いシートを提供することを目的する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明の屋根覆いシートは、合成樹脂からなる略矩形のシート基材と、前記シート基材の四辺の内、少なくとも対向する二辺の周縁に形成され、シート基材端部がシート基材の内側に向かって折り返されて前記シート基材に接合されることでチューブ状をなす外周袋部と、前記シート基材内で前記外周袋部に対して平行に配置された少なくとも二条のスリーブを備え、
前記スリーブは合成樹脂からなる長尺の帯状基材が長手方向に沿って折り返されてチューブ状をなし、前記スリーブと前記シート基材は、前記スリーブの長手方向に沿って融着により接合され、前記帯状基材の折り返しで形成されるスリーブ折返部と、前記スリーブと前記シート基材の融着により形成される融着接合部は、前記スリーブに平行するシート基材中央線に対し、前記スリーブ折返部よりも前記融着接合部が近い位置関係で配置されることを特徴とする。
【0012】
上記屋根覆いシートは、前記スリーブ折返部の長手方向の長さが、前記スリーブに平行する前記外周袋部の長さよりも短いことが好ましい。また、上記屋根覆いシートは、前記スリーブは、長手方向に沿って形成された帯状基材の非重なり部からなるスリーブ融着部を備え、前記スリーブ融着部は前記シート基材に融着されていることが好ましい。さらに、そのスリーブ融着部は、前記スリーブ融着部を長手方向に長く延設したスリーブ融着延設部を備えることが好ましい。
【0013】
上記屋根覆いシートは、前記シート基材が、四隅に切り欠き部を有することが好ましい。また、上記屋根覆いシートは、前記外周袋部が前記シート基材の四辺に形成されていることが好ましく、これにより、仮設テントの屋根部を形成することもできる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の屋根覆いシートは、スリーブに平行するシート基材中央線に対し、スリーブ折返部よりも融着接合部が近い位置関係でスリーブが配置されるので、スリーブは剥がれにくく破れにくい。このことにより、スリーブに棒を挿して屋根覆いシートをしっかりと固定することができるため、施工後、風に煽られて飛ばされにくい。また、棒を挿したスリーブを足場代わりに利用しても、破れや水漏れが生じにくく、屋根覆いシートを安全に施工することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の屋根覆いシートの一例を示す模式図。
【
図2】
図1の屋根覆いシートのスリーブの長手方向端部付近を示す斜視図。
【
図3】二枚のシートが融着固定された状態を示す模式図。
【
図4】
図1の屋根覆いシートを屋根に施工した状態を示す模式図。
【
図5】
図1の屋根覆いシートで仮設テントの屋根部を形成した状態を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な実施形態について説明する。本発明は、以下の実施形態にのみ限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施できる。
【0017】
本実施形態の屋根覆いシート1は
図1に示すように、おおよそ長方形(略矩形)のシート基材2と、その一面に二条のスリーブ3を備えてなる。また、本実施形態のシート基材2では、四隅を切り抜いた切り欠き部21が設けられている。
【0018】
本発明のシート基材2は、合成樹脂からなるもので、フィルム、不織布、織物、編物、これらの積層シートなど、シート状をなすものであれば、適宜選択できる。本発明のシート基材2は、強度や防水性が高く、屋根覆いシート1施工時の作業性を考慮するとシート自身が軽量であることが好ましい。本実施形態のシート基材2には、高密度ポリエチレンからなるフラットヤーン織物の両面に防水層として低密度ポリエチレンを積層したものを用いた。ポリエチレンを用いることで比重が軽くなり、フラットヤーン織物を含むことで強度を高くすることができ、防水層があることで防水性を確保することができる。また、フラットヤーン織物が高密度ポリエチレン、防水層が低密度ポリエチレンであれば、防水層の方がフラットヤーン織物より融点が低いため、フラットヤーン織物を溶かさず、防水層のみを溶かして加工できるため、加工によるフラットヤーンの強度低下が少ない。
【0019】
本実施形態のシート基材2の四辺の周縁には、シート基材端部をシート基材2の内側に向かって折り返すことで、チューブ状の外周袋部4、5が形成されている。外周袋部4、5は、屋根7(
図4)を覆う際、シート位置を固定するために使用する角材や鉄パイプなどの棒6(
図4)を挿すことができる部分になる。外周袋部4、5は、シート基材2の折り返しにより形成される周縁折返部41、51と、シート基材端部とシート基材2の接合により形成された周縁接合部42、52を備えている。周縁接合部42、52の接合方法は、特に制限されるものではなく、融着、縫製、糊付け等、いずれであってもよく、目的やコストに応じて適宜選択すればよい。
【0020】
本実施形態の周縁接合部42、52は、ミシン糸を使い、2本針で縫製することにより接合している。防水性を重視すれば、周縁接合部42、52は融着で接合されることが好ましい。他方、周縁接合部42、52は、シート基材2の周縁に位置し、屋根7の損傷個所から離れた箇所になるため、周縁接合部42、52の防水性は重要度として高いとはいえない。このため、通常は縁接合部42、52を縫製により接合しても、特別不都合は生じない。
【0021】
外周袋部4、5には棒6を挿し込む過程で外周袋部4、5が膨らんで周縁接合部42、52が広がる力が掛かり、接合部が剥げたり、破れ易くなるため、剥がdれや破れの防止を重視する場合は、縫製で接合する方が好ましい。また、周縁接合部42、52を縫製で接合すれば、融着したときに比べ、接合箇所が柔らかくなるため、屋根7などの構造物に沿って覆いやすくなり、シート基材2と構造物の間の隙間が生じにくくなる。本実施形態の周縁接合部42、52は四辺すべて縫製で接合したが、短辺の二辺を融着、長辺の二辺を縫製といったように各辺で接合方法を変えてもよい。
【0022】
本実施形態のシート基材2の内側には、
図1に示すように短辺の二辺に形成された外周袋部4に対して平行に二条のスリーブ3が配置されている。スリーブ3は、外周袋部4同様、屋根7を覆う際、シート位置を固定するために使用する角材や鉄パイプなどの棒6を挿すことができる部分になる。
図2に示すように、本実施形態のスリーブ3は、長尺の帯状基材が長手方向に沿って折り返されて帯状基材同士が接合されることでチューブ状をなしている。
【0023】
本実施形態のスリーブ3をなす帯状基材は、合成樹脂からなるフィルム、不織布、織物、編物、又はこれらの積層シートなど、シート状をなすものから適宜選択できる。本実施形態でスリーブ3をなす帯状基材は、シート基材2同様、高密度ポリエチレンからなるフラットヤーン織物の両面に防水層として低密度ポリエチレンを積層したものを用いた。本発明では帯状基材からなるスリーブ3はシート基材2と融着するため、融着において十分な接着性が得られ、かつ強度が保たれるものが好ましい。十分な接着性を得る上では、シート基材2と同種の材料を用いることが好ましく、強度の面では織物を含むことが好ましく、織物の強度を損ねないようにする観点では、織物の表面を低融点の樹脂で覆ったものが好ましい。
【0024】
本実施形態のスリーブ3には、
図2に示すようにスリーブ3をなす帯状基材の折り返しによりスリーブ折返部31が形成されている。折り返された帯状基材の長手方向の端部を、折り返されていない帯状基材に接合することで、帯状基材同士が接合されたスリーブ接合部32が形成されている。
【0025】
本発明では、スリーブ接合部32の接合方法は、特に制限されるものではなく、融着、縫製、糊付け等、いずれであってもよい。本実施形態のスリーブ接合部32は、ミシン糸を使い、帯状基材同士を2本針で縫製することにより接合することにより形成している。この場合は、スリーブ接合部32を形成した後に、スリーブ3をシート基材2に融着することになる。本発明では、スリーブ3とシート基材2が融着により接合されるため、スリーブ接合部32を形成する際、同時にスリーブ3をシート基材2に接合してしまう方が、作業効率がよい。このため作業効率を重視する観点ではスリーブ接合部32は融着で形成するのが好ましいといえる。しかしながら、スリーブ接合部32は、周縁接合部42、52と同様に、棒6を通すものであり、棒6を挿し込んでスリーブ3が膨らんだ際の破れや剥がれの防止を重視する観点では、スリーブ接合部32は縫製で形成するのが好ましい。
【0026】
図2に示すように、本実施形態のスリーブ3では、スリーブ接合部32の形成にあたり、帯状基材の一方の長辺の端部(折り返す側)が帯状基材の他方の長辺の端部(折り返されていない側)よりも内側で接合することで長手方向に沿って帯状基材同士が重なっていない非重なり部を形成している。この非重なり部は、帯状基材をシート基材2と融着で接合するためのスリーブ融着部33としている。スリーブ融着部33の形成は任意であり、スリーブ接合部32形成の際、帯状基材の長辺の端部同士を接合してスリーブ融着部33を形成しないようにしてもよい。スリーブ3とシート基材2を融着し同時にスリーブ接合部32を形成する場合には、スリーブ融着部33を形成しない仕様にすると、スリーブ3は帯状基材が二枚重なった厚みで、シート基材2と融着することになる。この融着では、融着温度が低すぎると十分な接着強度が得られず、融着温度が高すぎると帯状基材が溶けすぎて強度を損なう。また、帯状基材が重なり、厚みが大きくなればなるほど、融着の際、熱の伝わりにムラが生じやすくなり、融着温度の過不足が生じやすくなる。このため、融着部分の破れや剥がれの防止を重視する観点では、スリーブ融着部33を設け、スリーブ融着部33において、帯状基材一枚分をシート基材2に融着する方が好ましい。この場合は、スリーブ接合部32は、予め帯状基材同士を縫製して形成しておくことになる。
【0027】
図2に示すように、本実施形態のスリーブ3のスリーブ融着部33は、スリーブ融着部33を長手方向に長く延設したスリーブ融着延設部33aを備えている。
図2のスリーブ融着延設部33aは、スリーブ融着部33がシート基材2の端(一方の長辺側)から端(他方の長辺側)まで至るように延設している。スリーブ融着部33とシート基材2を融着した後、シート基材2端部を折り返してシート基材2同士を縫製し外周袋部5を形成している。そのため、
図2のスリーブ融着延設部33aは、外周袋部5の内周に沿って融着されており、周縁接合部52と交差していることで交差部分が縫製によっても接合されている。スリーブ融着延設部33aの形成は任意であるが、スリーブ融着延設部33aを設けることで、スリーブ融着部33の面積が広くなる。このことに加えて、スリーブ融着延設部33aをこれに直交する外周袋部4、5に至るまで延設することで、スリーブ融着延設部33aは、周縁接合部42、52と共にシート基材2に接合できる。本発明の屋根覆いシート1は、スリーブ3の長手方向の端部は、棒6の抜き差しや棒6の固定により応力が大きくなりやすく、特に剥がれやすい箇所といえる。スリーブ融着延設部33aを設けて、スリーブ融着延設部33aとこれに直交する周縁接合部42、52の両方でシート基材2に接合することで、スリーブ融着部33の長手方向の端部からの剥がれを効果的に防ぐことができる。
【0028】
本発明ではシート基材2とスリーブ3は、屋根覆いシート1として使用する上で防水性を確保するため融着されて接合され、シート基材2とスリーブ3の融着により融着接合部23が形成される。
図1に示す本実施形態の屋根覆いシート1では、非重なり部であるスリーブ融着部33を設けており、スリーブ融着部33は全面的にシート基材2と融着しているため、スリーブ融着部33の位置と融着接合部23の位置はほぼ重なっている。
【0029】
本発明では、スリーブ3がより剥がれにくく、破れにくくするため、スリーブ3における融着接合部23とスリーブ折返部31との位置関係は、
図1に示すように、スリーブ3に平行するシート基材中央線22に対し、スリーブ折返部31よりも融着接合部23が近くなるような位置関係でシート基材2に接合される。
【0030】
本実施形態の屋根覆いシート1では、後述の通り、シート基材中央線22が屋根7の棟に沿うようにして屋根を覆う。そのため、屋根覆いシート1として使用した際、屋根7の棟に対してスリーブ折返部31よりも融着接合部23が近くなる。別の言い方をすれば、屋根7の傾斜において、高い位置に融着接合部23、それよりも低い位置にスリーブ折返部31が位置するようになる。シート基材2に対し、スリーブ3がこのような位置関係で接合していることで、スリーブ3が剥がれにくく、融着接合部23の周囲も破れにくくなる。
【0031】
この理由について、
図3の模式図を参照しながら説明する。シート同士を融着したときの融着箇所の剥がれやすさは、シートの引っ張られ方の影響を大きく受ける。例えば、
図3のように、第1シートと第2シートが融着されており、第1シートが固定されている状態で第2シートを引っ張る場合、融着箇所をなす第2シートと、引っ張られる第2シートによって形成された角度θが、
図3(a)のように大きい場合と
図3(b)のように小さい場合とでは、
図3(a)の方が明らかに剥がれにくい。特に第2シートが積層シートである場合には、
図3(b)では積層シート内の層間剥離の影響が大きく出るため、非常に剥がれやすくなる。一方で、
図3(a)のように角度θが大きければ、層間剥離の影響は低く、第2シートの引張強度に近い引張強度を得ることもできる。本実施形態のスリーブ3は、融着接合部23からスリーブ折返部31の角度が、
図3(a)のように鈍角の状態に保たれるため、スリーブ3が剥がれにくく、これに伴う破れも生じにくい。特に、本実施形態ではスリーブ融着部33を設けているため、融着接合部23からスリーブ折返部31の角度は180度に近い状態を保つことができる。そのため、スリーブ3に負荷が掛かりやすい使い方をしても、より破れにくくなる。
【0032】
本実施形態の屋根覆いシート1は、
図1に示すように、二条のスリーブ3が短辺に形成された外周袋部4と平行に配置されている。これらのスリーブ3におけるスリーブ折返部31の長手方向の長さは、短辺に形成された外周袋部4の長手方向の長さよりも短い。本実施形態の屋根覆いシート1は、シート基材2の四隅に形成された切り欠き部21を有しており、短辺の外周袋部4の長さは、長辺の外周袋部5間の距離よりも短いが、スリーブ折返部31の長さはそれよりも短い。本発明の屋根覆いシート1では、スリーブ折返部31がシート基材2の周縁から周縁までの長さで配置されるようにしてもよいが、下記の理由でスリーブ折返部31の長手方向の長さは、シート基材2の周縁から周縁までの長さよりも短くなるように配置する方が好ましい。スリーブ3がチューブ状のままシート基材2の周縁から周縁まで配置されると、スリーブ3が外周袋部5と干渉し、外周袋部5に棒6やロープなどが挿しにくくなる可能性がある。例えば、屋根覆いシート1を後述の仮設テント8の屋根部として使う場合に支障が生じる。また、特に屋根7の上で棒6を挿し込む場合、足場が十分確保できているといえず、シート基材2の上に載って挿し込むことになるため、ある程度、シート基材2の内側に挿込口が配置されている方が扱いやすい。一方で、スリーブ折返部31の長手方向の長さが短すぎると、スリーブ3に掛かる負荷が短い区間で集中し、剥がれや破れやすさにつながるため、スリーブ折返部31の長手方向の長さは、平行する外周袋部4の長さの半分以上の長さを確保しておくことが好ましい。
【0033】
本実施形態の屋根覆いシート1は、
図1に示すようにシート基材2の四隅に切り欠き部21を有している。この切り欠き部21を有することにより、屋根7の上で外周袋部4に棒6を挿す際、シート基材2の上から棒6を挿し込むことが容易になる。また、この切り欠き部21は、後述の仮設テント8を形成する際に、有利な構造となる。
【0034】
本実施形態の屋根覆いシート1は、損傷した屋根7の補修部分を覆う目的で用いることができる。
図4は、本実施形態の屋根覆いシート1を切妻造の屋根7に施工した場合の模式図である。
図4の例では、屋根覆いシート1を、スリーブ3が取り付けられた面を外側面にして、シート基材中央線22が屋根7の棟に沿うように覆っている。これに加えて、スリーブ3及びこれに平行する短辺の二辺に形成された外周袋部4に、それぞれ角材6が挿入されている。角材6は屋根7の上に屋根覆いシート1を広げた後、外周袋部4やスリーブ3に挿入している。スリーブ3に挿入された角材6は、スリーブ折返部31の延長線にあるシート基材2及び外周袋部5の上ではむき出しになっている。このことにより、角材6がシート基材2及び外周袋部5を上から抑えることで浮き上がりを抑えている。また、角材6はそれぞれ屋根7からはみ出る長さで配置されている。このことにより、角材6の自重で浮き上がりを抑えるだけでなく、角材6の端にロープやワイヤーなどを結び付け、家屋の構造物、土嚢、地上に設置した杭などと連結して固定することもできる。
【0035】
図4に示した使用例の通り、本実施形態の屋根覆いシート1で屋根7を覆う場合、スリーブ3が取り付けられた面を外側面にして覆うことが好ましい。スリーブ3が取り付けられた面を屋根側面にすると、棒6によってシート基材2と屋根7の間に隙間ができてしまうため、風によって浮き上がりやすくなる。また、棒6を伝って水がシート基材2の下に入り込み、水漏れにつながるおそれもある。
【0036】
本実施形態の屋根覆いシート1のスリーブ3やこれに平行する外周袋部4に挿入するものは棒状であれば、特に制限されず、その長さも棒6の重さや丈夫さ等を考慮し、適宜選択することができる。屋根覆いシート1が風に煽られた場合により浮き上がりにくくする観点では、両端がシート基材2からはみ出る長さのものを選択することが好ましい。本実施形態の屋根覆いシート1の固定は、棒6の自重により固定してもよく、上記の通り、棒6の先端を利用して固定してもよい。また、スリーブ3やこれに平行する外周袋部4の上に、土嚢などの重しを配置して固定してもよく、これらを併用して固定してもよい。角材などの棒6が挿入されていれば、それが滑り止めになるため、土嚢なども滑り落ちにくい。
【0037】
図4のように施工した場合、本実施形態の屋根覆いシート1は、二条のスリーブ3はいずれも棟に近い方に、融着接合部23が配置され、その下部にスリーブ折返部31が配置される。これにより、
図3を用いて説明したとおり、スリーブ3が剥がれ落ちにくく、スリーブ3に荷重が掛かっても、容易には破れない。スリーブ3が剥がれにくく、シート基材2が破れにくければ、上記の通りスリーブ3を、土嚢などの滑り防止としても利用できる。また、屋根7を屋根覆いシート1で覆った後、その上で作業員が作業する場合の足場の代わりにもなり、安全かつ効率よく作業を行うことができる。
【0038】
図4の例において、
図1の長辺の二辺に形成された外周袋部5には特段何も挿入していないが、ロープやワイヤーなどを挿入して固定に利用してもよい。
【0039】
本実施形態の屋根覆いシート1は、長辺の二辺に形成された外周袋部5を利用することで、
図5に示すような仮設テント8の屋根部にすることができる。
図5は、
図1の屋根覆いシート1を用いて屋根部を形成した場合の例である。屋根部は、大規模災害が生じ、急遽、非常用仮設テントが必要になった場合に利用することができる。図示しないその他の床部や壁部は別のシート材で形成する。
【0040】
図5に示す仮設テント8の屋根部の組立工程を以下説明する。二条のスリーブ3にそれぞれに棒6a、a’を通し、これに平行する短辺の二辺に形成された外周袋部4にそれぞれ棒6b、b’を通す。長辺の2辺に形成された外周袋部5にシート基材中央線22でそれぞれの一端同士が当接するように外周袋部5の両端から1本ずつ棒6c、c’、d、d’(6d’は図示せず。以下同じ。)を入れる。シート基材2の下にシート基材中央線22に沿って棒6eを配置する。棒6eの両端付近に棒6f、f’を立てる。シート基材中央線22に沿って配置した棒6eを持ち上げて棒6f、f’で固定する。その後、棒6bと棒6cの交点と棒6b’と棒6dの交点に交わるように棒6gを配置して棒6gを固定する。同様に、棒6bと棒6c’の交点と棒6b’と棒6d’の交点に交わるように棒6g’を配置して棒6g’を固定する。続いて、棒6gの中央で棒6fを固定し、棒6g’の中央で棒6f’を固定することで屋根部の組立が完了する。すなわち、棒6b、b’が桁、棒6c、c’、d、d’が合掌、棒6eが棟、棒6g、g’が梁のような役目で配置されているため、仮設テント8の屋根部として十分な構造になる。
【0041】
図5の例においては、スリーブ3が融着接合部23を備えることで、シート基材2はある程度硬く、弛みにくくなっている関係で、スリーブ3に棒6a、a’が挿入されていなくても仮設テント8は屋根部として成り立つ。本実施形態では、スリーブ3に棒6a、a’が挿入されていることで、よりシート基材2の弛みが抑えられ、強風においてもバタつきが少なく、内部の空間をしっかりと保つことができる。スリーブ3に棒6a、a’を挿入する場合、スリーブ3の長手方向の長さが、短辺に形成された外周袋部4の長手方向の長さよりも短く形成されていれば、棒6c、c’、d、d’と棒6a、a’は干渉することなく各部に通すことができる。
【0042】
図5の例では、棒6b、棒6c、棒6gの交点、棒6b’、棒6d、棒6gの交点、棒6b、棒6c’、棒6g’の交点、棒6b’、棒6d’、棒6g’の交点は、それぞれ3本の棒6が交差する。これらが交差するところは、
図1に示す屋根覆いシート1の四隅にあたり、本実施形態では、切り欠き部21にて交差させるようになっている。切り欠き部21があることで、交差する3本の棒6の固定が容易に行え、安定した構造の仮設テント8が手早く設置できる。
【0043】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、前記実施形態は一例であり、冒頭で述べたとおり、適宜変更したものであってもよい。例えば、
図1ではシート基材2の四辺の内、対向する短辺二辺に外周袋部4が形成され、対向する長辺二辺に外周袋部5が形成されているが、外周袋部は少なくとも一方の対向する二辺の周縁に形成されていればよい。
【符号の説明】
【0044】
1 屋根覆いシート
2 シート基材
21 切り欠き部
22 シート基材中央線
23 融着接合部
3 スリーブ
31 スリーブ折返部
32 スリーブ接合部
33 スリーブ融着部
33a スリーブ融着延設部
4 外周袋部(短辺)
41 周縁折返部(短辺)
42 周縁接合部(短辺)
5 外周袋部(長辺)
51 周縁折返部(長辺)
52 周縁接合部(長辺)
6 棒(角材)
7 屋根
8 仮設テント