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特開2024-113257電磁コイルを作成する方法及び電動モーターを作成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113257
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】電磁コイルを作成する方法及び電動モーターを作成する方法
(51)【国際特許分類】
   H02K 15/04 20060101AFI20240815BHJP
   H01F 5/00 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
H02K15/04 Z
H01F5/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018107
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】508264841
【氏名又は名称】有限会社 宮脇工房
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹内 啓佐敏
(72)【発明者】
【氏名】壬生 喬大
(72)【発明者】
【氏名】高柳 秀明
【テーマコード(参考)】
5H615
【Fターム(参考)】
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP12
5H615QQ02
5H615RR07
5H615SS33
5H615TT03
5H615TT14
(57)【要約】
【課題】過電流の少ない電磁コイルを提供する。
【解決手段】開示された方法は、(a)複数本の導線を一定の周期で編組みするか又は一定の周期で撚り合わせることによって導線束を形成する工程と、(b)導線束を成形して電磁コイルを形成する工程と、を含む。電磁コイルは、電磁コイルの有効コイル領域の長さが、編組み又は撚りの周期の整数倍になるように形成される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モーターに用いられる電磁コイルを作成する方法であって、
(a)複数本の導線を一定の周期で編組みするか又は前記一定の周期で撚り合わせることによって導線束を形成する工程と、
(b)前記導線束を成形して前記電磁コイルを形成する工程と、
を含み、
前記電磁コイルは、前記電磁コイルの有効コイル領域の長さが、前記周期の整数倍になるように形成される、方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法であって、
前記複数本の導線のうちの少なくとも1本の導線は、他の導線と異なる表面色を有する、方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法であって、
前記工程(b)は、前記導線束を前記有効コイル領域の長さ方向に伸縮することによって、前記有効コイル領域の前記長さを前記周期の前記整数倍にする工程を含む、方法。
【請求項4】
請求項1記載の方法であって、
前記工程(b)は、前記導線束を加圧しつつ成形する工程を含む、方法。
【請求項5】
請求項1記載の方法であって、
前記工程(b)は、前記導線束をα巻きすることによって2つのリング部を有する成形コイルを形成し、前記2つのリング部を合体することなく両開き状態にすることによって2極の前記電磁コイルとして成形する工程を含む、方法。
【請求項6】
請求項1記載の方法であって、
前記工程(b)は、前記導線束を、コイルエンドとなるバスバーの間に接続する工程を含む、方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法であって、
前記導線束に含まれる各導線は、1次絶縁被膜で被覆されており、
前記工程(b)は、
(b1)繊維を用いて形成された伸縮性の網目チューブを準備する工程と、
(b2)前記導線束を前記網目チューブの中に挿入することによって網目チューブ導線束を形成する工程と、
(b3)前記網目チューブ導線束に対して、少なくともカシュー又は漆を含む2次絶縁材料を前記網目チューブの網目に浸透させ、前記2次絶縁材料を予備乾燥させることによって予備乾燥導線束を形成する工程と、
(b4)前記予備乾燥導線束を巻線に成形することによって成形コイルを形成する工程と、
(b5)前記成形コイルを加熱して前記2次絶縁材料を本乾燥させることによって、前記導線束の周囲に密着した2次絶縁被膜を形成する工程と、
を含む、方法。
【請求項8】
電動モーターを作成する方法であって、
請求項1に記載の方法で電磁コイルを作成する工程と、
モーターケース内に前記電磁コイルとバックヨークを組み付ける工程と、
前記モーターケースの軸受にローターを組み付ける工程と、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁コイルを作成する方法及び電動モーターを作成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、複数本のエナメル素線で形成された平編組線を用いて巻線用電線を形成し、この巻線用電線を用いて電磁コイルを作成する技術が開示されている。この技術によれば、高占積率で渦電流の少ない電磁コイルを得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-093577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来から、電磁コイルの渦電流を更に低減したいという課題があった。また、電磁コイルの耐電圧特性を向上させたいという課題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、上述した課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本開示の一形態によれば、電動モーターに用いられる電磁コイルを作成する方法が提供される。この方法は、(a)複数本の導線を一定の周期で編組みするか又は前記一定の周期で撚り合わせることによって導線束を形成する工程と、(b)前記導線束を成形して前記電磁コイルを形成する工程と、を含み、前記電磁コイルは、前記電磁コイルの有効コイル領域の長さが、前記周期の整数倍になるように形成される。
【0007】
この方法によれば、電磁コイルの有効コイル領域の長さが編組み又は撚りの周期の整数倍になるように形成されるので、渦電流を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】電動モーターの構造例を示す説明図。
図2】磁石の動きに伴って電磁コイルに誘起電圧が発生する様子を示す説明図。
図3】電磁コイルの導線と磁石の関係を示す説明図。
図4】渦電流の少ない電磁コイル用の導線束の第1実施例を示す説明図。
図5】渦電流の少ない電磁コイル用の導線束の第2実施例を示す説明図。
図6】渦電流の少ない電磁コイル用の導線束の第3実施例を示す説明図。
図7】電磁コイルの巻き方の例を示す説明図。
図8】電磁コイルの他の構成例を示す説明図。
図9】電動モーターの作成手順を示すフローチャート。
図10】第1実施形態における電磁コイルの作成手順を示すフローチャート。
図11】第1実施形態における電磁コイルの作成手順を示す説明図。
図12】第2実施形態における電磁コイルの作成手順を示すフローチャート。
図13】第3実施形態における電磁コイルの作成手順を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.第1実施形態:
図1は、実施形態における電動モーター400の構造例を示す説明図である。この電動モーター400は、モーターケース410と、回転軸420と永久磁石430を有するローター440と、回転軸420を支持する軸受411,412と、ローター440の永久磁石430と対向して設けられた電磁コイル450と、電磁コイル450の外周側に設けられた電磁鋼板製のバックヨーク460と、モールド材470とを備える。ローター440は、中心軸Crを中心に回転する。
【0010】
電磁コイル450は、コアレスコイルであることが好ましい。後述するように、電磁コイル450は、複数本の導線で構成される導線束を用いて形成される。導線束としては、例えば、複数本の導線を一定の周期で編組みした編組線や、一定の周期で撚り合わせた撚り線(リッツ線)を用いることが好ましい。好ましい導線束については更に後述する。
【0011】
電磁コイル450の内周面は、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)製の補強リング454で補強されている。補強リング454は、カシューを主成分とした接着剤で電磁コイル450に接着することが好ましい。補強リング454を設けるようにすれば、電磁コイル450の発熱による体積膨張を抑制して電磁コイル450がローター440に接触することを防止できる。また、補強リング454によって電磁コイル450の耐熱性と熱伝導性が向上するので、電磁コイル450の熱によってローター440の温度が過度に高まることを防止できる。但し、補強リング454は省略可能である。
【0012】
バックヨーク460の外周は、例えば、カシューを主成分とした絶縁膜462で被覆されている。バックヨーク460を絶縁膜462で被覆すれば、バックヨーク460とモーターケース410の短絡によって生じる渦電流損を防止できる。また、電磁コイル450とバックヨーク460が物理的に干渉して電磁コイル450の絶縁被覆が破損することを防止できる。但し、絶縁膜462は省略してもよい。
【0013】
モールド材470は、モーターケース410内に収容された電磁コイル450及びバックヨーク460を固定する絶縁材である。モールド材470は、例えば、カシュー又は漆を含む混合物を使用して形成される。この混合物は、耐熱性、電気的絶縁性、耐電圧性、熱伝導性、軽量性、及び、難燃性のすべての点において優れた材料である。
【0014】
図2は、本開示の課題となる渦電流の原理を要約するため、永久磁石430の動きに伴って電磁コイル450に誘起電圧Egが発生する様子を示す説明図である。この図では、ローター440の中心軸Crに並行な方向をY方向とし、中心軸Crから電磁コイル450に向かう方向をZ方向とし、Y方向とZ方向に垂直な方向をX方向としている。
【0015】
電磁コイル450は、Y方向において、有効コイル領域ECRとコイルエンド領域CERとに区分される。有効コイル領域ECRは、永久磁石430の磁束密度Btに応じて有効な駆動力を発生する領域である。コイルエンド領域CERは、駆動力の発生にほとんど寄与しない領域である。バックヨーク460がある場合には、有効コイル領域ECRはバックヨーク460が存在する領域にほぼ等しい。ローター440の回転に伴って永久磁石430が移動すると、有効コイル領域ECRに誘起電圧Egが発生する。電磁コイル450は、複数本の導線が編み込まれることによって形成され、複数本の導線の両端部は結合されている。このため、個々の導線毎に生じる誘起電圧Egの間に電位差が生じることにより、導線間に電流が流れて渦電流損失となる。
【0016】
図3は、電磁コイル450の導線と永久磁石430の関係を示す説明図である。電磁コイル450は、複数本の導線Wrを含む編組線又は撚り線として構成された導線束を含んでいる。この例では、電磁コイル450は、永久磁石430に最も近い順に、第1層L1から第5層L5までの5層構造を有する編組線として構成されている。図3では、更に、ローター440の中心軸Crから永久磁石430の中心に向かう線CL0と、ローター440の中心軸Crから1本の導線Wrに向かう線CL1とが描かれている。また、これらの2つの線CL0,CL1の間の角度θと、ローター440の中心軸Crから導線Wrまでの距離rと、永久磁石430による磁束密度Btの分布と、永久磁石430と導線Wrの相対速度vが示されている。
【0017】
導線Wrの微小部分に発生する起電力δEgは、その部分における磁束密度Btと、永久磁石430と導線Wrの相対速度vのベクトル積(Bt×v)に比例する。磁束密度Btと相対速度vは、導線Wrの位置に依存するので、角度θと距離rの関数Bt(θ,r),v(θ,r)である。従って、1本の導線Wrについて、有効コイル領域ECRの区間に発生する誘起電圧Egは、次式で与えられる。
【数1】
ここで、kは係数、∫dlは有効コイル領域ECRの区間に亘って導線Wrの経路を辿る積分である。磁束密度Bt(θ,r)と相対速度v(θ,r)は、導線Wrの位置に応じて変わるので、誘起電圧Egも導線Wr毎に異なることが測定実験から得られている。
【0018】
個々の導線Wrに発生する誘起電圧Egの大きな方から小さな方へ、電位差に応じて導線間に渦電流が発生する。一方、個々の導線Wrに発生する誘起電圧Egによる電位差を小さくすれば、導線間の渦電流を小さくすることができる。
【0019】
図4は、渦電流の少ない電磁コイルの第1実施例を示す説明図である。図4の上から2番目の図は、一番上の図の電磁コイル450aの一辺をモデル化したものである。電磁コイル450aは、複数本の導線を一定の周期Peで編組みした編組線として構成されている。電磁コイル450aの有効コイル領域ECRの長さLeは、導線の編組み周期Peに等しく設定されている。図4の上から3番目の図は、電磁コイル450aを構成する代表的な2本の導線Wr1,Wr2の配置を示している。導線Wr1,Wr2は、それぞれ周期的に折れ曲げられた形状を有する。図4の上から4番目の図は導線Wr1の配置と位相Φを示しており、上から5番目の図は導線Wr2の配置と位相Φを示している。導線Wr1,Wr2の位相Φ1,Φ2は、編組みの1周期Peを2πとしたときの位相である。図4の例では、有効コイル領域ECRの長さLeが編組みの周期Peと等しいので、有効コイル領域ECRの長さLeに相当する区間における導線Wr1の位相Φ1が0~2πの範囲に亘っている。導線Wr2の位相Φ2も同様である。位相Φ1,Φ2の値が同じ位置では、磁束密度Bt(θ,r)と相対速度v(θ,r)もほぼ等しいと考えることができる。2本の導線Wr1,Wr2は、有効コイル領域ECRの長さLeに相当する区間における位相Φ1,Φ2がいずれも0~2πの範囲に亘っているので、それぞれに対する誘起電圧Egがほぼ等しい値となる。電磁コイル450aに含まれる他の導線も同様である。従って、電磁コイル450aは、渦電流が少ないコイルである。
【0020】
図5は、渦電流の少ない電磁コイルの第2実施例を示す説明図である。この第2実施例では、電磁コイル450bの有効コイル領域ECRの長さLeが、導線の編組み周期Peの2倍に設定されている。
【0021】
図6は、渦電流の少ない電磁コイルの第3実施例を示す説明図である。この第3実施例では、電磁コイル450cは複数本の導線を一定の周期Peで撚り合わせた撚り線として構成されている。電磁コイル450cの有効コイル領域ECRの長さLeは、導線の撚り周期Peの2倍に設定されている。
【0022】
図4図6から理解できるように、Nを1以上の整数としたとき、電磁コイル450の有効コイル領域ECRの長さLeが、編組み又は撚りの周期PeのN倍に等しいことが好ましい。本開示において、「長さLeが周期PeのN倍に等しい」又は「長さLeが周期Peの整数倍である」という語句は、LeとN×Peの差分|Le-N×Pe|が、周期Peの10%以下であることを意味する。この差分|Le-N×Pe|が小さいほど渦電流が小さくなるので、差分|Le-N×Pe|を周期Peの5%以下とすることが好ましい。
【0023】
図7は、電磁コイル450の巻き方の例を示す説明図である。ここでは、以下の4種類の巻き方の異なる電磁コイル450が描かれている。個々の電磁コイル450の両端には、接続端子451,452がそれぞれ設けられている。接続端子451,452の間は、導線束で形成されている。図中の矢印は、導電束が巻かれる方向を示している。
(1)単巻単極コイル450_1
単巻単極コイル450_1は、1相分の電磁コイルに含まれる複数極のうちの1極分を1ターンで形成した電磁コイルである。
(2)複巻単極コイル450_2
複巻単極コイル450_2は、1相分の電磁コイルに含まれる複数極のうちの1極分を複数ターンで形成した電磁コイルである。
(3)複巻2極コイル450_3
複巻2極コイル450_3は、1相分の電磁コイルに含まれる複数極のうちの2極分を複数ターンでそれぞれ形成した電磁コイルである。この複巻2極コイル450_3は、導線束をα巻きすることによって2つのリング部R1,R2を有する成形コイルを形成し、2つのリング部R1,R2を合体することなく両開き状態にすることによって2極の電磁コイルとして成形したものである。この方法では、α巻きを行うことによって2極分のリング部R1,R2を有する電磁コイルを得ることができる。
(4)1相分の複巻複極コイル450_4
1相分の複巻複極コイル450_4は、1相分の電磁コイルに含まれる複数極のすべての極を複数ターンでそれぞれ形成した電磁コイルである。即ち、この複巻複極コイル450_4は、1本の導線束から形成された1相分の電磁コイルである。
【0024】
図8は、電磁コイル450の他の構成例を示す説明図である。この電磁コイル450_5において、有効コイル領域ECRは、複数本の導線を一定の周期Peで編み組みした編組線又は一定の周期Peで撚り合わせた撚り線で構成されているが、コイルエンド領域CERはバスバー(bus bar)で構成されている。即ち、導線束が、コイルエンドとなるバスバーの間に接続されている。両者の接続方法としては、加締めや半田付けなどを利用できる。バスバーは、銅などの電気伝導性の高い金属で形成されている。バスバーには、接続端子451,452が設けられている。電磁コイルのうちで接続端子451,452を除く部分を「コイル用導線」とも呼ぶ。前述した図7の例では、コイル用導線は導線束のみで形成されている。この例から理解できるように、電磁コイル450は、複数本の導線を一定の周期で編組みするか又は一定の周期で撚り合わせた導線束を含むコイル用導線で形成することができる。コイルエンド領域CERをバスバーとする構成は、図7に示した各種の電磁コイルに適用することが可能である。
【0025】
なお、電磁コイル450を構成する複数本の導線のうち、1本又は複数本の導線を、他の導線と異なる表面色を有するものとしてもよい。また、編組線を用いて電磁コイル450を形成する場合には、同じ編み経路を辿る複数本の導線に同じ表面色を付して、他の導線と異なる色としてもよい。このように、電磁コイル450を構成する複数本の導線のうち、少なくとも1本の導線は、他の導線と異なる表面色を有するものとすることが好ましい。こうすれば、導線の周期Peを容易に観察できる。
【0026】
図9は、電動モーター400の作成手順を示すフローチャートである。ステップS10では、電磁コイル450を作成する。ステップS10の詳細は後述する。ステップS20では、モーターケース410内に電磁コイル450とバックヨーク460を組み付ける。ステップS30では、モーターケース410内にモールド材470を充填して、モーターケース410内に収容された電磁コイル450とバックヨーク460をモールド材470で固定する。このステップS30は省略可能である。ステップS40では、モーターケース410の軸受411,412にローター440を組み付ける。
【0027】
図10は、第1実施形態における電磁コイルの作成手順を示すフローチャートであり、図11は、その作成手順を示す説明図である。ステップS11では、複数本の導線100を編組み又は撚り合わせることによって導線束210を形成する束線処理を実行する。図11の例では、導線100は、芯線101と、芯線101の周囲に形成された1次絶縁被膜110とを有する。図11の例では、導線束210は、編組線として形成されている。
【0028】
芯線101としては、表面に酸化膜が全く形成されていないか、又は、自然酸化による薄い酸化膜のみが形成されており、被覆材で被覆されていない銅線を使用することができる。また、銅以外の金属製の芯線101を用いてもよい。1次絶縁被膜110は、酸化被膜としてもよく、エポキシやエナメルなどの他の絶縁材を用いて形成されていてもよい。
【0029】
銅製の芯線101を用いる場合には、芯線101を酸化させることによって、酸化被膜(CuO)で構成された1次絶縁被膜110を形成できる。酸化被膜の厚みは、導線束の用途に応じて任意に設定可能であるが、40nm以上90nm以下とすることが好ましい。また、酸化処理の後に、ワニスの焼入乾燥を行うようにしてもよい。ワニスの焼入乾燥を行えば、曲げ強度を高くすることができ、取り扱い易くすることが可能である。また、酸化被膜の厚みを40nm以上とすれば、ワニスの焼入乾燥を行う際に、ワニスの溶剤により酸化被膜が破壊されて渦電流損が増大する可能性を低減することができる。また、酸化被膜の厚みを90nm以下とする理由は、導線100の断面における芯線101の面積比率を大きくするためである。
【0030】
導線束210の断面は台形又は矩形であるが、台形や矩形以外の断面としてもよい。但し、導線束210の断面を台形とすれば、電磁コイルを作成する際に導線束210同士の隙間を小さくでき、電磁コイルの断面における芯線101の面積比率を大きくできる点で好ましい。
【0031】
導線束210は複数本の導線100で構成されているので、渦電流損を小さくすることができる。また、導線束210は、図4図6で説明したように、有効コイル領域ECRの長さLeが、編組み又は撚りの周期Peの整数倍になるように形成される。
【0032】
渦電流損を小さくするという観点では、芯線101の外径が小さいほど好ましい。具体的には、芯線101の外径は、0.05mm以上1.0mm以下とすることが好ましく、0.05mm以上0.2mm以下とすることが更に好ましいが、この限りではない。
【0033】
導線束210を構成する複数本の導線100のうち、少なくとも1本の導線は、他の導線と異なる表面色を有するものとすることが好ましい。導線100の表面色は、例えば、塗料を塗布することによって任意に変更できる。
【0034】
ステップS12では、導線束210を加圧しつつ成形する加圧成形処理を実行する。図11の例では、圧縮成形装置310を用いて導線束を圧縮成形することによって、予め定められたコイル形状に成形された成形コイル220が作成されている。この例では、成形コイル220のコイルターン数は1としているが、コイルターン数を2以上としてもよい。また、この成形コイル220は長円形状を有しているが、電磁コイルの用途に応じて任意のコイル形状に成形することが可能である。この加圧成形処理を行うことによって、導線100間の隙間を低減することができ、電磁コイルの断面における芯線101の面積比率を更に増大することができる。
【0035】
ステップS13では、成形コイル220を伸縮する伸縮処理を必要に応じて実行する。図11の例では、延伸装置320を用いて成形コイル220を引き延ばす処理が行われている。伸縮処理は、導線束で形成されている有効コイル領域ECRの長さLeを、導線束の編組み又は撚りの周期Peの整数倍になるように調整するためである。前述したように、成形コイル220を構成する複数本の導線100のうち、少なくとも1本の導線の表面色を他の導線と異なる色とすれば、有効コイル領域ECRの長さLeが導線の周期Peの整数倍になっているか否かを容易に観察できる。従って、ステップS13の伸縮処理の必要性や伸縮の程度を容易に判断できる。ステップS13の処理は、導線束を伸縮する処理に相当する。なお、成形コイル220を伸縮する代わりに、成形前の導線束210を伸縮することによって、有効コイル領域ECRの長さLeが導線の周期Peの整数倍になるようにしてもよい。但し、導線束を伸縮する処理は省略可能である。
【0036】
ステップS14では、成形コイル220の全体を2次絶縁被膜で被覆する被膜形成処理を実行する。2次絶縁被膜は、例えば、カシュー又は漆を主成分とする絶縁材料で形成することができる。「カシュー」は、カシューナッツの殻から抽出されるカシューナッツシェルオイルを主成分して製造される天然由来の塗料である。図11の例では、被膜形成処理後の成形コイル230は、元の成形コイル220の全体を覆うように2次絶縁被膜120が形成されたものである。この2次絶縁被膜120は、例えば、カシュー又は漆を主成分とする天然由来の絶縁性樹脂を焼付乾燥することによって形成することができる。成形コイル220のコイルターン数が2以上の場合には、隣接する導線束同士の間には2次絶縁被膜120は形成されず、成形コイル220の全体の周囲にのみ2次絶縁被膜120が形成される。ステップS14で形成された成形コイル220の交流耐電圧特性は、数10V程度であるが、2次絶縁被膜120を形成することによって、5KVを超える交流耐電圧特性を得ることができる。また、本実施形態では、カシュー又は漆を主成分とする2次絶縁被膜120を形成するので、エポキシ系の絶縁被膜よりも薄い被膜で電磁コイルの耐電圧特性を向上させることができる。更に、耐熱性と熱伝導性に優れているためモーターの基本特性で重要なトルクを向上することに繋がる。
【0037】
ステップS15では、2次絶縁被膜120付きの成形コイル230に接続端子を設けることによって、電磁コイルを生成する。前述した図8の例のように、コイルエンド領域CERをバスバーで構成する場合には、成形コイル230にバスバーが接続され、バスバーに接続端子が接続される。こうして作成された電磁コイルは、図1における電磁コイル450として使用される。
【0038】
上述した第1実施形態によれば、電磁コイルの有効コイル領域の長さLeが編組み又は撚りの周期Peの整数倍になるように形成されるので、渦電流を低減できる。
【0039】
B.第2実施形態:
図12は、第2実施形態における電磁コイルの作成手順を示すフローチャートであり、図13は、その作成手順を示す説明図である。図1に示した電動モーターの構成や、図9に示した電動モーターの作成手順は、第2実施形態にも同様に適用することができる。
【0040】
図12のステップS110では、1次絶縁被膜付きの複数本の導線で形成された導線束610を準備する。図13に示す導線束610は、複数の導線を編み組み又は撚り合わせることによって作成される。また、各導線の表面は、1次絶縁被膜で覆われている。1次絶縁被膜としては、第1実施形態でも説明したように、銅の酸化被膜や、エポキシやエナメルなどで形成された絶縁被膜を使用することができる。酸化被膜を1次絶縁被膜とする場合には、酸化被膜の厚みは、40nm以上90nm以下とすることが好ましい。このステップS110は、図10のステップS11と同じものとしてもよい。
【0041】
第1実施形態で説明したように、導線束610は、導線束610で形成される電磁コイルの有効コイル領域の長さLeが、編組み又は撚りの周期Peの整数倍になるように形成されることが好ましい。但し、このような構成を採用しなくてもよい。
【0042】
ステップS120では、繊維を用いて形成された伸縮性の網目チューブ620を準備する。繊維としては、麻,絹,綿などの天然繊維や、ナイロン,テフロン(登録商標),ポリエチレン,アクリル,ポリイミドなどの化学繊維や、カーボン繊維、ガラス繊維などを使用することができる。網目チューブ620は、例えば、繊維を幅と長さ方向に伸縮性を有するよう円筒状に織ることによって作成される。なお、ステップS110とステップS120の順序は逆にしてもよい。
【0043】
ステップS130では、導線束610を網目チューブ620の中に挿入することによって、網目チューブ導線束630を形成する。なお、網目チューブ620の内寸法は、導線束610の外寸法よりもやや小さいことが好ましい。こうすれば、導線束610の外側に伸縮性の網目チューブ620で密着させることができる。
【0044】
ステップS140では、網目チューブ導線束630に対して、2次絶縁材料を網目チューブ620の網目に浸透させ、2次絶縁材料を予備乾燥させることによって、予備乾燥導線束640を形成する。2次絶縁材料としては、少なくともカシュー又は漆を含むものを使用することが好ましく、カシュー又は漆を主成分とし添加剤を含むものを使用することが更に好ましい。カシュー又は漆を含む絶縁材料は、エポキシ系の絶縁材料よりも薄い被膜で耐電圧特性を向上させることができる。また、2次絶縁材料は、カシューや漆の他に、添加剤を含むものとしてもよい。添加剤としては、カシューや漆を乾燥させるための乾燥剤を使用することができ、また、乾燥剤以外にも、桐油,クルミ油,亜麻仁油等の天然油や、モリブデン潤滑油等を使用することができる。予備乾燥は、例えば、自然乾燥、又は、100℃未満の乾燥温度下での加熱処理によって実行することができる。この予備乾燥によって、2次絶縁材料は硬化が進むが、完全には硬化しない半硬化状態となる。
【0045】
ステップS150では、予備乾燥導線束640を巻線に成形することによって成形コイル650を形成する。具体的には、例えば、予備乾燥導線束640を巻線成形型に収め、加圧しつつ熱を加えることによるフォーミングを実行する。
【0046】
ステップS160では、成形コイル650を加熱して2次絶縁材料を本乾燥させることによって、導線束610の周囲に密着した2次絶縁被膜622を形成する。この本乾燥は、例えば、加圧しながら100℃を超える温度まで加熱する処理によって実行することができる。この本乾燥によって、2次絶縁材料は完全に硬化した硬化状態となる。
【0047】
ステップS170では、ステップS160で得られた成形コイルに接続端子661,662を設けることによって電磁コイル660を作成する。
【0048】
以上のように、第2実施形態では、カシュー又は漆を含む2次絶縁材料で形成された2次絶縁被膜を導線束610の周囲に密着させるので、電磁コイル660の耐電圧特性を向上できる。
【0049】
以上の実施形態では回転式の電動モーターを説明したが、本開示は直動式の電動モーターにも適応できる。更に、本開示を電動発電機などの他の種類の電気機械に適応させることで、その出力特性を向上できる。
【0050】
本開示は、上述の実施形態や実施形態、変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、開示の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【0051】
(1)本開示の一形態によれば、電動モーターに用いられる電磁コイルを作成する方法が提供される。この方法は、(a)複数本の導線を一定の周期で編組みするか又は前記一定の周期で撚り合わせることによって導線束を形成する工程と、(b)前記導線束を成形して前記電磁コイルを形成する工程と、を含み、前記電磁コイルは、前記電磁コイルの有効コイル領域の長さが、前記周期の整数倍になるように形成される。
この方法によれば、電磁コイルの有効コイル領域の長さが編組み又は撚りの周期の整数倍になるように形成されるので、渦電流を低減できる。
【0052】
(2)上記方法において、前記複数本の導線のうちの少なくとも1本の導線は、他の導線と異なる表面色を有するものとしてもよい。
この方法によれば、導線の周期を容易に観察できる。
【0053】
(3)上記方法において、前記工程(b)は、前記導線束を前記有効コイル領域の長さ方向に伸縮することによって、前記有効コイル領域の前記長さを前記周期の前記整数倍にする工程を含む、方法。
この方法によれば、有効コイル領域の長さを容易に調整できる。
【0054】
(4)上記方法において、前記工程(b)は、前記導線束を加圧しつつ成形する工程を含むものとしてもよい。
この方法によれば、電磁コイルに含まれる空間を減少させることができ、電磁コイルの断面に占める導線の割合を増加させることができる。
【0055】
(5)上記方法において、前記工程(b)は、前記導線束をα巻きすることによって2つのリング部を有する成形コイルを形成し、前記2つのリング部を合体することなく両開き状態にすることによって2極の前記電磁コイルとして成形する工程を含むものとしてもよい。
この方法によれば、α巻きを行うことによって2極分のリング部を有する電磁コイルを成形できる。
【0056】
(6)上記方法において、前記工程(b)は、前記導線束を、コイルエンドとなるバスバーの間に接続する工程を含むものとしてもよい。
この方法によれば、有効コイル領域における渦電流が少なく、コイルエンドにおける抵抗が少ない電磁コイルを得ることができる。
【0057】
(7)上記方法において、前記導線束に含まれる各導線は、1次絶縁被膜で被覆されており、前記工程(b)は、(b1)繊維を用いて形成された伸縮性の網目チューブを準備する工程と、(b2)前記導線束を前記網目チューブの中に挿入することによって網目チューブ導線束を形成する工程と、(b3)前記網目チューブ導線束に対して、少なくともカシュー又は漆を含む2次絶縁材料を前記網目チューブの網目に浸透させ、前記2次絶縁材料を予備乾燥させることによって予備乾燥導線束を形成する工程と、(b4)前記予備乾燥導線束を巻線に成形することによって成形コイルを形成する工程と、(b5)前記成形コイルを加熱して前記2次絶縁材料を本乾燥させることによって、前記導線束の周囲に密着した2次絶縁被膜を形成する工程と、を含むものとしてもよい。
この方法によれば、カシュー又は漆を含む2次絶縁材料で形成された2次絶縁被膜を導線束の周囲に密着させるので、電磁コイルの耐電圧特性を向上できる。
【0058】
(8)本開示の他の形態によれば、電動モーターを作成する方法が提供される。この方法は、上記方法で電磁コイルを作成する工程と、モーターケース内に前記電磁コイルとバックヨークを組み付ける工程と、前記モーターケースの軸受にローターを組み付ける工程と、を含む。
【0059】
(9)本開示の更に他の形態によれば、電磁コイルを作成する方法が提供される。この方法は、(a)1次絶縁被膜付きの複数本の導線で形成された導線束を準備する工程と、(b)繊維を用いて形成された伸縮性の網目チューブを準備する工程と、(c)前記導線束を前記網目チューブの中に挿入することによって網目チューブ導線束を形成する工程と、(d)前記網目チューブ導線束に対して、少なくともカシュー又は漆を含む2次絶縁材料を前記網目チューブの網目に浸透させ、前記2次絶縁材料を予備乾燥させることによって予備乾燥導線束を形成する工程と、(e)前記予備乾燥導線束を巻線に成形することによって成形コイルを形成する工程と、(f)前記成形コイルを加熱して前記2次絶縁材料を本乾燥させることによって、前記導線束の周囲に密着した2次絶縁被膜を形成する工程と、を含む。
この方法によれば、カシュー又は漆を含む2次絶縁材料で形成された2次絶縁被膜を導線束の周囲に密着させるので、電磁コイルの耐電圧特性を向上できる。
【符号の説明】
【0060】
100…導線、101…芯線、110…1次絶縁被膜、120…2次絶縁被膜、210…導線束、220…成形コイル、230…成形コイル、310…圧縮成形装置、320…延伸装置、400…電動モーター、410…モーターケース、411,412…軸受、420…回転軸、430…永久磁石、440…ローター、450…電磁コイル、450_1…単巻単極コイル、450_2…複巻単極コイル、450_3…複巻2極コイル、450_4…複巻複極コイル、450_5…電磁コイル、450a…電磁コイル、450b…電磁コイル、450c…電磁コイル、451,452…接続端子、454…補強リング、460…バックヨーク、462…絶縁膜、470…モールド材、610…導線束、620…網目チューブ、622…2次絶縁被膜、630…網目チューブ導線束、640…予備乾燥導線束、650…成形コイル、660…電磁コイル、661,662…接続端子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13