(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113278
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】薄型キャビティ付アンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 11/04 20060101AFI20240815BHJP
H01Q 9/27 20060101ALI20240815BHJP
H01Q 19/13 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
H01Q11/04
H01Q9/27
H01Q19/13
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018140
(22)【出願日】2023-02-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年9月6日開催「2022年電子情報通信学会通信ソサイエティ大会」にて発表
(71)【出願人】
【識別番号】000227205
【氏名又は名称】NECプラットフォームズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】倉本 晶夫
(72)【発明者】
【氏名】平工 清雄
【テーマコード(参考)】
5J020
【Fターム(参考)】
5J020AA03
5J020BC09
5J020DA01
5J020DA02
5J020DA03
5J020DA04
(57)【要約】
【課題】アンテナ放射素子にキャビティを付加することにより、広い周波数帯域において単一指向性で高い利得を実現することが可能な薄型キャビティ付アンテナを提供すること。
【解決手段】本開示に係る薄型キャビティ付アンテナ11は、第1方向X1と垂直な第1面Ps1を有するプリント基板111と、プリント基板111の第1面Ps1上に設けられ、導体で構成され、第1方向X1に向かって電波を放射する放射素子112と、放射素子112の第1方向X1とは逆側に設けられ、導体で構成され、第1方向X1とは逆方向に凹型形状を有するキャビティ113と、放射素子112に給電を行う給電回路114と、を備え、キャビティ113の第1方向X1の第1長さL1は、キャビティ113の第1方向X1と直交する第2方向X2の第2長さL2の10分の1以下である。
【選択図】
図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向と垂直な第1面を有するプリント基板と、
前記プリント基板の第1面上に設けられ、導体で構成され、前記第1方向に向かって電波を放射する放射素子と、
前記放射素子の前記第1方向とは逆側に設けられ、導体で構成され、前記第1方向とは逆方向に凹型形状を有するキャビティと、
前記放射素子に給電を行う給電回路と、
を備え、
前記キャビティの前記第1方向の第1長さは、前記キャビティの前記第1方向と直交する第2方向の第2長さの10分の1以下である、
薄型キャビティ付アンテナ。
【請求項2】
前記放射素子は、
前記プリント基板の第1面上に導体パターンとして設けられ、前記第1方向から見て渦巻形状をしている第1素子と、
前記プリント基板の第1面上に別の導体パターンとして設けられ、前記第1方向から見て前記第1素子と1対の前記渦巻形状をしている第2素子と、
を有し、
前記第2素子の一部は、前記第1素子の一部と他部との間に配置される、
請求項1に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
【請求項3】
前記給電回路は、
誘電体で構成された誘電層と、
前記誘電層の第1面に設けられ、導体で構成された第1導体と、
前記誘電層の第2面に設けられ、導体で構成された第2導体と、
を有し、
前記第1導体の一端と前記第1素子の前記渦巻形状の中心に近い一端とが接続され、
前記第1導体の他端に高周波信号が接続され、
前記第2導体の一端と前記第2素子の前記渦巻形状の中心に近い一端とが接続され、
前記第2導体の他端にグランドが接続され、
前記第2導体の第3方向の長さは、前記第2導体の一端から前記第2導体の他端に向かうに従って大きくなり、
前記第3方向は、前記第1方向および前記第2方向と直交する方向である、
請求項2に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
【請求項4】
前記キャビティは、
前記第1方向と垂直な平面を有する底部と、
前記底部の周囲部分から前記第1方向に延びる側面部と、
を有する、
請求項3に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
【請求項5】
前記キャビティの前記底部に設けられた同軸コネクタをさらに備え、
前記第1導体の他端と前記同軸コネクタの芯線とが接続され、
前記第2導体の他端と前記同軸コネクタのグランドとが接続される、
請求項4に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
【請求項6】
前記キャビティは、
前記第2方向の長さが前記プリント基板の前記第2方向の長さよりも長い第1部分と、
前記第2方向の長さが前記プリント基板の前記第2方向の長さよりも短い第2部分と、
を有し、
前記給電回路の前記第1方向の長さは、前記第2部分の前記第1方向の長さよりも長い、
請求項3に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
【請求項7】
前記キャビティの前記側面部に設けられた同軸コネクタをさらに備え、
前記給電回路は、前記キャビティの前記底部の前記第1方向の逆側に設けられ、
前記第1導体の一端と前記第1素子の前記渦巻形状の中心に近い一端とは、第1給電導体を介して接続され、
前記第2導体の一端と前記第2素子の前記渦巻形状の中心に近い一端とは、第2給電導体を介して接続され、
前記第1導体の他端と前記同軸コネクタの芯線とが接続され、
前記第2導体の他端と前記同軸コネクタのグランドとが接続される、
請求項4に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
【請求項8】
前記第1方向から見た前記放射素子の形状は、渦巻形状または螺旋形状であり、
前記第1方向から見た前記キャビティの形状は、円形状、概円形状または多角形形状である、
請求項1に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
【請求項9】
前記放射素子は、
前記第2方向とは逆の方向に延びる第1素子と、
前記第2方向に延びる第2素子と、
を有する、
請求項1に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
【請求項10】
前記放射素子は、前記第1方向から見て、略円形のリング形状をしている、
請求項1に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薄型キャビティ付アンテナに関し、特に、アンテナ放射素子にキャビティを付加することにより、広い周波数帯域において単一指向性で高い利得を実現することが可能な薄型キャビティ付アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
外形が平面薄型で、広い周波数帯域で使用可能なアンテナとして、スパイラルアンテナやシニュアスアンテナが知られている。これらのアンテナを通信や電波監視等の目的で用いる場合、アンテナの放射特性は、単一指向性とする必要がある。
【0003】
例えば、スパイラルアンテナを用いて、単一指向性アンテナを実現する場合、平面状(平板状)のスパイラル素子を水平に設置し、スパイラル素子の下側に導体で構成された「たらい状のキャビティ」を設置する方法がある。この方法により、電波は上方にのみ放射するようになり、単一指向性を実現できる。なお、この方法は、特許文献1の第5図に記載されている。なお、スパイラル素子の下側に、たらい状のキャビティを設置したアンテナを、キャビティ付アンテナと称する。
【0004】
前記方法において、キャビティは放射素子の下側に設置され、スパイラル素子からキャビティ底面までの距離が使用波長の約(1/4)波長となるように設置する。このようにすることで、キャビティ底面で反射した電波は、スパイラル素子から上方に放射した電波と同位相となり、電波が強め合うことにより、単一指向性を実現する。
【0005】
しかしながら、使用帯域が広い場合、例えば、最低使用周波数の2倍の周波数では、波長の長さは(1/2)となり、スパイラル素子とキャビティ底面の距離は1/2波長となる。この場合、キャビティ底面で反射された電波は、スパイラル素子から上方に放射される電波と逆位相となるため、上方に放射される指向性は、大きなヌルを持つ指向性となり、問題がある。
【0006】
上記について、具体的な例を以下に示す。
周波数1~6GHz(ギガヘルツ)の広帯域アンテナを想定した場合、最低使用周波数は1GHzであり、波長は300mm(ミリメートル)となる。この場合、キャビティの深さを(1/4)波長である75mmとする。このような条件とすることで、キャビティ底面で反射された電波は、スパイラル素子から上方に放射される電波と同位相となり、単一指向性とすることができる。
【0007】
ここで、同位相となる理由を以下に説明する。
下方に放射される電波がキャビティ底面で反射され、元の放射位置まで戻る経路長は(1/4)波長の往復なので(1/2)波長となる。位相に換算すると180度だけ遅れる。また、電波がキャビティ底面の金属板で反射する場合、位相反転、すなわち、位相が180度回転し、結果として位相が反転する。これにより、合計して360度の位相回転となり、アンテナ上方向に放射する電波と、キャビティ底面で反射する電波と、が同位相となる。
【0008】
しかしながら、周波数を2GHzで使用する場合、波長は150mmとなり、これはキャビティの深さの(1/2)波長に相当する。この場合、キャビティ底面で反射した電波は、キャビティ底面からの反射の往復で1波長、すなわち、360度の位相遅延となる。また、反射の際に180度の位相反転を生じる。その結果、スパイラル素子から上方に放射する電波と、キャビティ底面で反射した電波と、は逆位相となり打ち消しあうので、主ビームにヌルが発生し、単一指向性とすることが難しい。
【0009】
周波数が4GHzの場合、波長が75mmとなり、キャビティ底面で反射した電波は、往復で2波長、すなわち、720度遅延し、また、反射の際に180度の位相反転を生じる。その結果、スパイラル素子から上方に放射する電波と、キャビティ底面で反射した電波と、は逆位相となり打ち消しあうので、主ビームにヌルが発生し、単一指向性とすることが難しい。
【0010】
周波数が6GHzの場合、波長が50mmとなり、キャビティ底面で反射した電波は、往復で3波長、すなわち、1080度遅延し、また、反射の際に180度の位相反転を生じる。その結果、スパイラル素子から上方に放射する電波と、キャビティ底面で反射した電波と、は逆位相となり打ち消しあうので、主ビームにヌルが発生し、単一指向性とすることが難しい。
【0011】
以上の説明から理解できるように、キャビティの深さが(1/2)波長の整数倍となる周波数では、主ビームにヌルが発生し、単一指向性とすることが難しい。
【0012】
このように、一般的に使用される「たらい状のキャビティ」では、広帯域で単一指向性を実現することが難しいという問題(課題)がある。この問題を解決する方法として、例えば、特許文献1および特許文献2に記載されているように、キャビティ内部に電波吸収体を配置し、スパイラルアンテナから下方に放射する電波を電波吸収体で吸収し、キャビティ底面で反射する電波を低減する方法がある。
【0013】
しかしながら、この方法は、下方に放射する電波を電波吸収体で吸収するので、大きな利得を得られないという課題がある。当該アンテナを送信で用いる場合、送信電力の約半分が損失し、受信で用いる場合、電波吸収体により雑音温度が劣化するという課題もある。
【0014】
よって、この課題(欠点)を解決するには、キャビティ内部に電波吸収体を配置せず、かつ、キャビティの形状を工夫することにより、広帯域で上方に単一指向性が得られるようにすることが必要となる。
【0015】
この課題を解決する方法の1つとして、例えば、非特許文献1に記載されているように、キャビティの断面形状をすり鉢状の曲面とすることで、広帯域で単一指向性を維持できる。しかしながら、この方法は、キャビティ断面の製造が複雑なので高価になるという課題がある。
【0016】
以上、キャビティ付アンテナの課題とその解決方法を説明した。これを総括すると、キャビティ付アンテナについて、たらい状のキャビティを使用した場合、高い周波数で主ビ-ムにヌルが発生する。また、キャビティン内部に電波吸収体を使用した場合、利得が低下し、送信では電力損失が増加し、受信では雑音温度が増加する。また、すり鉢状曲面のキャビティを使用した場合、広帯域で単一指向性を形成することができるが、価格が高価となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【非特許文献1】論文名 “すり鉢状のキャビティを有する2線式スパイラルアンテナの最適化” 発表学会名:電子情報通信学会2022年総合大会 論文掲載:電子情報通信学会2022年ソサエティ大会論文集 B-1-79
【特許文献1】特開昭63-208309号公報
【特許文献2】特開2002-94321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
上記のとおり、特許文献1、特許文献2および非特許文献1に記載の技術によっては、広い周波数帯域において単一指向性で高い利得を有する薄型キャビティ付アンテナを実現することが難しく、このようなアンテナが所望されていた。また、良好な整合特性を有し、安価なアンテナが所望されていた。
【0019】
本開示の目的は、上述した課題のいずれかを解決する薄型キャビティ付アンテナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本開示に係る薄型キャビティ付アンテナは、
第1方向と垂直な第1面を有するプリント基板と、
前記プリント基板の第1面上に設けられ、導体で構成され、前記第1方向に向かって電波を放射する放射素子と、
前記放射素子の前記第1方向とは逆側に設けられ、導体で構成され、前記第1方向とは逆方向に凹型形状を有するキャビティと、
前記放射素子に給電を行う給電回路と、
を備え、
前記キャビティの前記第1方向の第1長さは、前記キャビティの前記第1方向と直交する第2方向の第2長さの10分の1以下である。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、アンテナ放射素子にキャビティを付加することにより、広い周波数帯域において単一指向性で高い利得を実現することが可能な薄型キャビティ付アンテナを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1A】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する斜視図である。
【
図1B】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する断面図である。
【
図2A】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの給電回路を例示する側面図である。
【
図2B】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの給電回路を例示する斜視図である。
【
図2C】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの給電回路を例示する斜視図である。
【
図3】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する断面図である。
【
図4】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの動作原理を例示する模式図である。
【
図5A】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナのシミュレーションモデルを例示ずる斜視図である。
【
図5B】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナのシミュレーションモデルを例示ずる断面図である。
【
図6A】
図5Aに示すスパイラル素子を上方から観た上面図である。
【
図6B】
図6Aに示すスパイラル素子の中心部分の拡大図である。
【
図7A】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
【
図7B】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
【
図7C】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
【
図7D】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
【
図7E】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
【
図7F】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
【
図8A】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの試作品の電圧定在波比(VSWR)の周波数特性を例示するグラフである。
【
図8B】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの試作品の利得および軸比の周波数特性を例示するグラフである。
【
図9】実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの試作品の放射パターンを例示するグラフである。
【
図10】比較例に係る薄型キャビティ付アンテナの動作原理を例示する模式図である。
【
図11A】比較例に係る薄型キャビティ付アンテナのシミュレーションモデルを例示ずる斜視図である。
【
図11B】比較例に係る薄型キャビティ付アンテナのシミュレーションモデルを例示ずる断面図である。
【
図12A】比較例に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
【
図12B】比較例に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
【
図12C】比較例に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
【
図13A】実施の形態2に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する斜視図である。
【
図13B】実施の形態2に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する断面図である。
【
図14】実施の形態3に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する断面図である。
【
図15A】実施の形態4に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する平面図およびキャビティを例示する斜視図である。
【
図15B】実施の形態4に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する平面図およびキャビティを例示する斜視図である。
【
図16A】実施の形態4に係る放射素子を例示する斜視図および薄型キャビティ付アンテナを例示する斜視図である。
【
図16B】実施の形態4に係る放射素子を例示する斜視図および薄型キャビティ付アンテナを例示する斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。各図面において、同一又は対応する要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明を省略する。
【0024】
[実施の形態1]
<構成>
図1Aは、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する斜視図である。
図1Bは、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する断面図である。
図1A、
図1Bおよびこれ以降に出てくる図面では、必要に応じて、上方向を第1方向X1とし、第1方向X1に垂直な方向を第2方向X2とする。また、第1方向X1に垂直で、且つ、第2方向X2に垂直な方向を第3方向X3とする。
【0025】
図1Aおよび
図1Bに示すように、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナ11は、放射素子112とキャビティ113を備える。キャビティ113の深さL1は、キャビティ113の直径L2の約(1/10)以下である。
【0026】
詳細には、薄型キャビティ付アンテナ11は、プリント基板111と放射素子112とキャビティ113と給電回路114とを備える。プリント基板111は、第1方向X1と垂直な第1面Ps1を有する。放射素子112は、プリント基板111の第1面Ps1上に設けられ、導体で構成され、第1方向X1に向かって電波を放射する。キャビティ113は、放射素子112の第1方向X1とは逆側に設けられ、導体で構成され、第1方向X1とは逆方向に凹型形状を有する。給電回路114は、放射素子112に給電を行う。キャビティ113の第1方向X1の第1長さL1は、キャビティ113の第1方向X1と直交する第2方向X2の第2長さL2の10分の1以下である。
【0027】
なお、キャビティ113の深さを、キャビティ113の第1方向X1の第1長さと称することもある。また、キャビティ113の直径を、キャビティ113の第2方向X2の第2長さと称することもある。凹型形状のキャビティを、「たらい状のキャビティ」と称することもある。
【0028】
放射素子112は、第1素子1121と第2素子1122とを有する。第1素子1121は、プリント基板111の第1面Ps1上に導体パターンとして設けられ、第1方向X1から見て渦巻形状をしている。第2素子1122は、プリント基板111の第1面Ps1上に別の導体パターンとして設けられ、第1方向X1から見て第1素子1121と1対の渦巻形状をしている。第2素子1122の一部は、第1素子1121の一部と1第1素子1121の他部との間に配置される。
【0029】
導体パターンは、例えば、銅箔で形成された銅箔パターンでもよい。よって、放射素子112は、プリント基板111の上面(第1面Ps1)に銅箔をエッチングして形成した1対の渦巻形状の銅箔パタ-ンにより構成してもよい。放射素子112の渦巻の曲率半径は、渦巻の始点(中心)から終点に向かう従って大きくなる。
【0030】
なお、1対の渦巻形状の導体パターンは、プリント基板111の裏面(第2面Ps2)に配置してもよい。あるいは、1対のうち、一方(例えば第1素子1121)を上面に配置し、他方(例えば第2素子1122)を下面に配置してもよい。また、実施の形態1では、渦巻形状の導体パターンを保持するために、プリント基板を用いているが、これには限定されない。放射素子112の渦巻形状を保持できる構造、例えば、プラスチックなどで保持する構造でもよい。
【0031】
放射素子112の他の形態としては、1本の渦巻形状であって導体で構成される単線スパイラルアンテナや4本の渦巻形状であって導体で構成される4線式スパイラルアンテナ等が挙げられる。
【0032】
図2Aは、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの給電回路を例示する側面図である。
図2Bは、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの給電回路を例示する斜視図である。
図2Cは、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの給電回路を例示する斜視図である。
【0033】
図2Aから
図2Cに示すように、給電回路114は、第1導体1141と第2導体1142と誘電層1143とを有する。誘電層1143は、誘電体で構成されている。第1導体1141は、誘電層1143の第1面Ds1に設けられ、導体で構成される。第2導体1142は、誘電層1143の第2面Ds2に設けられ、導体で構成される。
【0034】
第1導体1141の一端と第1素子1121の渦巻形状の中心に近い一端とが接続される。第1導体1141の他端に高周波信号が接続される。第2導体1142の一端と第2素子1122の渦巻形状の中心に近い一端とが接続される。第2導体1142の他端にグランドが接続される。
【0035】
第2導体1142の第3方向X3の長さ、すなわち、第2導体1142の幅は、第2導体1142の一端から第2導体1142の他端に向かうに従って大きくなる。なお、第3方向X3は、第1方向X1および第2方向X2と直交する方向である。
【0036】
給電回路114は、表面である第1面Ds1と裏面である第2面Ds2に、例えば、銅箔を有するプリント基板に対してエッチングを施して作成する。第1導体1141の銅箔パタ-ンは、通常のマイクロストリップ線路の形状である。第2導体1142の銅箔パタ-ンは、テーパ状の銅箔パタ-ンとなっており、平衡-不平衡変換と、インピ-ダンス変換(整合)を同時に行うことができる。
【0037】
なお、平衡-不平衡変換を不要とする場合、またはインピ-ダンス整合を不要とする場合、給電回路114に代えて、同軸ケ-ブル(図示せず)を用いて放射素子112に接続してもよい。
【0038】
図3は、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する断面図である。
図3は、
図1Bに示す薄型キャビティ付アンテナの一例を示す。
【0039】
図3に示すように、薄型キャビティ付アンテナ11は、渦巻形状の銅箔パタ-ン(放射素子112)の中心で、給電回路114により、第1導体1141および第2導体1142を介して給電される。
【0040】
キャビティ113は、第1方向X1と垂直な平面を有する底部1131と、底部1131の周囲部分から第1方向X1に延びる側面部1132と、を有する。
【0041】
薄型キャビティ付アンテナ11は、キャビティ113の底部1131に設けられた同軸コネクタ115をさらに備える。第1導体1141の他端と同軸コネクタ115の芯線とが接続される。第2導体1142の他端と同軸コネクタ115のグランドとが接続される。
【0042】
<動作原理>
薄型キャビティ付アンテナ11の動作原理を説明する。
図4は、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの動作原理を例示する模式図である。
図4は、断面図を示す。
【0043】
図4に示すように、薄型キャビティ付アンテナ11は、キャビティ113の第1方向X1の長さ(深さ)L1が、非常に薄く(短く)、キャビティ113の第2方向X2の長さ(直径)L2の(1/10)以下である。
【0044】
薄型キャビティ付アンテナ11の放射素子112から電波を放射する場合、上方(第1方向X1)に放射する上方放射成分と下方に放射する下方放射成分とがある。下方放射成分は、キャビティ113の底面で反射して上方に放射する。下方放射成分は、底面反射した際に逆位相となる。その結果、上方放射成分と、逆位相の底面反射成分(下方放射成分)とが合成される。
【0045】
実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナ11の場合、キャビティ113の深さL1が、キャビティ113の直径L2の(1/10)以下であり非常に薄いが、この薄い部分の位相差により、上方放射成分と下方放射成分とが打ち消しあうことはなく、主ビ-ムにヌルが発生しない。
【0046】
図5Aは、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナのシミュレーションモデルを例示ずる斜視図である。
図5Bは、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナのシミュレーションモデルを例示ずる断面図である。
【0047】
図5A及び
図5Bに示すように、放射素子112として、例えば、スパイラル素子を用いる。スパイラル素子の最外形の直径Sdは、最低使用周波数の波長λ
Lの0.6倍であり、0.60λ
Lとする。キャビティ113の直径L2は、放射素子112への影響を小さくするために、直径Sdよりも10%程度大きなものとし、0.67λ
Lとする。薄型キャビティ付アンテナ11の特徴は、キャビティ113の深さL1が、キャビティ113の直径L2の(1/10)以下という点である。よって、キャビティ113の深さL1は、0.067λ
Lとする。
【0048】
これらの寸法を条件として、薄型キャビティ付アンテナ11の動作を考える。上方放射成分と、底面反射した下方放射成分は、上方に放射される主ビーム方向で合成される。このとき、上方放射成分と下方放射成分の通路差(伝搬路差)は、最低使用周波数では、0.067λL×2倍(往復)=0.134λLであり、位相差に換算すると約48度である。そして、底面で反射の際、位相反転するので、その分である180度を考慮すると、上方放射成分と下方放射成分との位相差は、48度+180度=228度となり、逆位相とはならない。よって、上方向の放射パタ-ンにおいて、ヌルが発生することは無い。
【0049】
最低使用周波数が1GHzの場合について考えてみる。最低使用周波数を1GHzとすると、キャビティ113の直径L2は200mm、スパイラル素子の最外形の直径Sdは180mm、キャビティ113の深さL1は20mmとなる。
【0050】
最低使用周波数が2GHzの場合について考えてみる。周波数2GHzの波長λ2は周波数1GHzの波長λ1の(1/2)である。つまり、2×λ2=λLである。よって、上方放射成分と下方放射成分との通路差は、0.134λL=0.268λ2であり、位相差に換算すると約96度である。そして、底面で反射の際、位相反転するので、その分の180度を考慮すると、上方放射成分と下方放射成分の位相差は、96度+180度=276度となり、逆位相とはならない。よって、上方向の放射パタ-ンにおいて、ヌルが発生することは無い。
【0051】
最低使用周波数が3GHzの場合について考えてみる。周波数3GHzの波長λ3は周波数1GHzの波長λ1の(1/3)である。つまり、3×λ3=λLである。よって、上方放射成分と下方放射成分との通路差は、0.134λL=0.402λ3であり、位相差に換算すると約144度である。そして、底面で反射の際、位相反転するので、その分の180度を考慮すると、上方放射成分と下方放射成分の位相差は、144度+180度=324度となり、逆位相とはならず、同位相に近くなる。よって、上方向の放射パタ-ンにおいて、ヌルが発生することは無い。
【0052】
最低使用周波数が6GHzの場合について考えてみる。周波数6GHzの波長λ6は周波数1GHzの波長λ1の(1/6)である。つまり、6×λ6=λLである。よって、上方放射成分と下方放射成分との通路差は、0.134λL=0.804λ6であり、位相差に換算すると約289度である。そして、底面で反射の際、位相反転するので、その分の180度を考慮すると、上方放射成分と下方放射成分の位相差は、289度+180度=469度となる。360度を引くと、109度となり、逆位相とはならない。よって、上方向の放射パタ-ンにおいて、ヌルが発生することは無い。
【0053】
最低使用周波数とキャビティの深さとの関係において、上方放射成分と下方放射成分とが逆位相の関係となるのは、キャビティ113の深さL1が約(1/2)波長となる周波数関係の場合である。すなわち、深さL1が20mmの場合、20mm×2=40mmが1波長となる周波数なので、7.5GHzでヌルが発生する。ただし、実際には、完全な逆位相となるよりも少し低い周波数から、上方向の放射パターンにおいて、ビーム形状が劣化する。
【0054】
以上の説明により、
図5Aおよび
図5Bに示すような薄型キャビティ付アンテナ11は、1GHz~7GHz、比帯域150%で、上方向(正面方向)においてヌルの無いビームを有する広帯域なアンテナであることが理解できる。なお、
図5Aおよび
図5Bは、一例であり、そこに示した周波数や寸法に限定されない。
【0055】
<シミュレーション>
薄型キャビティ付アンテナ11の効果を示すために、シミュレ-ション結果について説明する。
【0056】
(シミュレーション条件)
図5Aに示すように、最低使用周波数を1GHzとする。この場合、1GHzの波長λ
Lは300mmとなる。キャビティ113は、導体により構成され、キャビティ113の直径L2は、200mm(0.67λ
L)である。放射素子112であるスパイラル素子の最外形の直径Sdは180mm(0.60λ
L)である。
【0057】
図5Bに示すように、キャビティ113の深さL1は20mm(0.067λ
L)であり、キャビティ113の直径L2の(1/10)となる。なお、スパイラル素子は2線式のスパイラルとし、そのパラメ-タは、スパイラル係数:1.78、ターン数(巻き数):8回、初期半径:1mm、素子線径太さ:1mmとする。
【0058】
図6Aは、
図5Aに示すスパイラル素子を上方から観た上面図である。
図6Bは、
図6Aに示すスパイラル素子の中心部分の拡大図である。
図6Aおよび
図6Bにおいては、スパイラル素子の具体的な寸法関係を理解しやすくするため、XY座標上に記載した形で示す。第2方向X2とX軸方向とが同一方向である。また、第3方向X3と-Y軸方向とが同一の方向である。なお、-Y軸方向は、Y軸方向の逆方向のことである。
【0059】
図6Aおよび
図6Bに示すように、この例では、スパイラル素子として、2線式スパイラルアンテナを用いる。2線式スパイラルアンテナでは、2つの螺旋(渦巻)が同じ方向に回転して配置される。この螺旋は、アルキメデススパイラルと呼ばれ、螺旋の中心からの半径Rは、以下の式で定義される。なお、説明の便宜上、螺旋を渦巻と称することもある。
【0060】
R=Ro+a×θ (1)
ただし、RО:初期半径、a:スパイラル係数、θ:X軸からの回転角度。
【0061】
初期半径R
Оは、中心と、螺旋の起点となる座標と、の間の距離である。
図6Aおよび
図6Bでは、螺旋の起点はY=0のX軸上の点から始まるので、X軸の0~1の距離、すなわち1が初期半径R
Оとなる。式(1)から理解できるように、スパイラル素子の曲線は、X軸からの回転角度θが大きくなるに従い半径Rが大きくなり、その結果、螺旋形状となる。スパイラル係数aは、螺旋の広がる度合いを示す係数である。
図6Aおよび
図6Bは、タ-ン数、すなわち螺旋の巻き数が8回の場合のスパイラル素子を示す。回転角度θ=2πで1回転を示すので、θ=2π×8=16πで終点となる。この例では、座標(1,0)から始まる螺旋を180度、点対称に回転させることにより、2線式のスパイラルアンテナを構成する。素子線径の太さは、螺旋の太さである。
【0062】
(シミュレーション結果)
図7Aは、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
図7Bは、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
図7Cは、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
図7Dは、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
図7Eは、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
図7Fは、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
【0063】
【0064】
図7A~
図7Fに示すように、周波数1GHz~6GHzのいずれの周波数においても、放射パタ-ンはサイドロ-ブのないブロ-ド(広帯域)な指向性を示しており、正面方向(Z方向)にヌルがないことが理解できる。このように、薄型キャビティ付アンテナ11を用いることで、広帯域にわたり、正面方向にヌルの無い広帯域な放射パタ-ンを得ることができる。その結果、広い周波数帯域において単一指向性で高い利得を実現することが可能な薄型キャビティ付アンテナを提供することができる。
【0065】
また、薄型キャビティ付アンテナ11は、特許文献1および特許文献2に記載の技術で使用するような吸収隊を使用しない。これにより、電波吸収体による損失が少なくなるので、広帯域で、損失が少なく、良好な雑音温度特性を実現することができる。
【0066】
また、薄型キャビティ付アンテナ11は、非特許文献1に記載のようなキャビティの断面形状をすり鉢状の曲面とすることなく、広帯域な単一指向性で高い利得を実現することができる。キャビティの断面形状をすり鉢状の曲面とすることは、キャビティ断面の製造が複雑なので高価となる。よって、薄型キャビティ付アンテナ11は、簡易な構造で、安価に製造できる。
【0067】
<試作品の測定結果>
薄型キャビティ付アンテナ11の効果を示すために、試作品の測定結果を以下に示す。
【0068】
薄型キャビティ付アンテナ11の試作品の寸法は、
図5Aおよび
図5Bに示すもの(シミュレ-ションモデル)を採用した。すなわち、試作品の寸法は、キャビティ113の直径L2=200mm、スパイラル素子の最外形の直径Sd=180mm、キャビティ113の深さL1=20mmとした。また、スパイラル素子のパラメ-タも
図5Aおよび
図5Bに示すものと同一のものとした。また、スパイラル素子の中心部分に給電回路を設けた。
【0069】
図8Aは、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの試作品の電圧定在波比(VSWR)の周波数特性を例示するグラフである。
図8Aは、試作品の測定結果を示す。
図8Aの横軸は周波数(GHz)を示し、縦軸はVSWRを示す。
【0070】
図8Aに示すように、周波数0.7GHz~12.5GHzでVSWR<3.5、周波数1.9GHz~6.2GHzでVSWR<2.0を得ることができる。また、VSWR<2.0の比帯域は、106%である。薄型キャビティ付アンテナ11は、広帯域で、良好な入力インピ-ダンス特性を得られる。
【0071】
図8Bは、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの試作品の利得および軸比の周波数特性を例示するグラフである。
図8Bは、試作品の測定結果を示す。
図8Bの横軸は周波数(GHz)を示し、縦軸は利得(dBic)および軸比(dB)を示す。
【0072】
図8Bに示すように、アンテナ利得は、周波数1GHz~8.1GHzで0dBic以上、周波数1.2GHz~6.8GHzで6dBic以上を得ることができる。特に、周波数1.2GHz~6.8GHzでは、概ねフラットなアンテナ利得を得ることができる。軸比は、周波数2.1GHz~7GHzで3dB以下であり、良好な円偏波特性を得ることができる。
【0073】
図9は、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナの試作品の放射パターンを例示するグラフである。
図9は、試作品の測定結果を示す。
図9の横軸は角度(度)を示し、縦軸は利得(dBic)を示す。
【0074】
図9に示すように、周波数1.5GHz、3GH、4.5GHz、6GHzのいずれにおいても正面方向(
図5Aにおける第1方向X1)にヌルの無い広帯域(ブロ-ド)な放射パタ-ンを得ることができる。
【0075】
図8A、
図8Bおよび
図9を用いて説明したように、薄型キャビティ付アンテナ11によれば、以下に示す効果を(特徴)得ることができる。
・広帯域で薄型なアンテナである。
・広帯域で単一指向性を維持する。
・広帯域で高い利得を維持する。
・広帯域で、良好な入力インピ-ダンス特性を維持する。
・広帯域で、損失が少なく、良好な雑音温度特性を維持する。
・簡易な構造で、安価にアンテナを製造できる。
【0076】
[比較例]
実施の形態1の比較例に係る薄型キャビティ付アンテナについて説明する。
<動作原理>
図10は、実施の形態1の比較例に係る薄型キャビティ付アンテナの動作原理を例示する模式図である。
【0077】
図10に示すように、比較例に係る薄型キャビティ付アンテナ51は、実施の形態1の比較例に係る薄型キャビティ付アンテナ11と比べて、キャビティ513の深さL1が長い点が異なる。
【0078】
比較例に係る薄型キャビティ付アンテナ51の放射素子512から電波を放射する場合、上方に放射する上方放射成分と下方に放射する下方放射成分とがある。下方放射成分は、キャビティ513の底面で反射して上方に放射する。下方放射成分は、底面反射した際に逆位相となる。その結果、上方放射成分と、逆位相の底面反射成分(下方放射成分)とが合成されるので、これらが打ち消しあい、主ビ-ムにヌルが発生する。なお、上方放射成分と下方放射成分とが逆位相となるのは、キャビティ513の深さL1が(1/2)波長の整数倍となる周波数においてである。
【0079】
<シミュレーション結果>
図11Aは、比較例に係る薄型キャビティ付アンテナのシミュレーションモデルを例示ずる斜視図である。
図11Bは、比較例に係る薄型キャビティ付アンテナのシミュレーションモデルを例示ずる断面図である。
【0080】
図11Aおよび
図11Bに示すように、放射素子512は、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナ11と同様なものを使用する(
図5Aおよび
図5B参照)。また、パラメ-タは、
図5Aおよび
図5Bに示すパラメータを使用する。キャビティ513の直径L2は、200mmであり、キャビティ513の深さL1は、75mmである。この値は、最低使用周波数1GHzの(1/4)波長に相当する。
【0081】
キャビティ513の深さL1が、最低使用周波数1GHzの(1/4)波長に相当する場合、2GHz、4GHz、6GHzの近傍周波数で、放射パタ-ンの正面方向(上方方向)にヌルが発生することは既に悦明した。
【0082】
図12Aは、比較例に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
図12Bは、比較例に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
図12Cは、比較例に係る薄型キャビティ付アンテナの3次元放射パタ-ンのシミュレ-ション結果である。
図12A~
図12Cは、周波数1GHz、4GHz、6GHzのシミュレ-ション結果である。
【0083】
図12Aに示すように、周波数1GHzでは、広帯域な3次元放射パタ-ンとなっている。しかしながら、
図12Bに示す周波数4GHzや
図12Cに示す周波数6GHzでは、上方向(Z方向)にヌルが発生している。
【0084】
比較例に係る薄型キャビティ付アンテナ51は、周波数4GHzや周波数6GHzでは、Z方向にヌルが発生している。その結果、比較例では、広い周波数帯域において単一指向性で高い利得を実現することが可能な薄型キャビティ付アンテナを提供することが難しい。
【0085】
[実施の形態2]
図13Aは、実施の形態2に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する斜視図である。
図13Bは、実施の形態2に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する断面図である。
【0086】
図13Aおよび
図13Bに示すように、実施の形態2に係る薄型キャビティ付アンテナ21は、実施の形態1と比べて、給電回路214の長さH1が、実施の形態1に係る給電回路114の長さよりも長い点が異なる。これを実現するために、給電回路214の第1方向X1の長さH1を、所定の長さよりも長くしてもよい。
【0087】
また、キャビティ213は、第1部分と第2部分とを有する。第1部分は、キャビティ213の第2方向X2の長さがプリント基板211の第2方向X2の長さPdよりも長い部分である。第2部分は、キャビティ213の第2方向X2の長さがプリント基板211の第2方向X2の長さPdよりも短い部分である。そして、給電回路214の第1方向X1の長さH1は、キャビティ213の第2部分の第1方向X1の長さHfeedよりも長くしてもよい。
【0088】
具体的には、薄型キャビティ付アンテナ21は、実施の形態1に比べて、より長くした給電回路214を収納するために、キャビティ213の底面の中央部を、給電回路用凸部(第2部分)として、下方(第1方向X1の逆方向)に凸の構造を有する。給電回路用凸部の直径Dfeedは、給電回路214が収納できる最小寸法でよく、キャビティ213の第1部分の第2方向X2の長さL2の(1/10)程度でよい。給電回路214は長いほど整合特性が良くなるので、用途に応じて深さHfeedを適切な長さにする。キャビティ213の第1部分の深さL1と給電回路用凸部の深さHfeedの合計は、例えば、最低使用周波数の波長の(1/4)程度以上あることが望ましい。
【0089】
なお、キャビティ213の給電回路用凸部を、キャビティ213の第2部分と称することもある。キャビティ213の第1部分の第2方向X2の長さを、キャビティの直径と称することもある。また、キャビティ213の第2部分の第1方向X1の長さを、キャビティ213の給電回路用凸部の深さと称することもある。
【0090】
実施の形態2では、給電回路用凸部の深さを調整することにより、整合特性を最適にすることができる。
【0091】
[実施の形態3]
図14は、実施の形態3に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する断面図である。
【0092】
図14に示すように、実施の形態3に係る薄型キャビティ付アンテナ31は、実施の形態2と比べて、給電回路314をキャビティ313の底部の下(第1方向X1の逆方向)に配置した点が異なる。
【0093】
放射素子312への給電は、給電導体316を介して給電回路314に接続される。給電導体316は、例えば、第1給電導体3161と第2給電導体3162を有する平衡2線の給電線である。同軸コネクタ315はキャビティ313の側面部に設けられ、同軸コネクタ315は給電回路314に接続する。
【0094】
詳細は、以下のように接続する。
薄型キャビティ付アンテナ31は、キャビティ313の側面部に設けられた同軸コネクタ315をさらに備える。給電回路314は、キャビティ313の底部の第1方向X1の逆側に設けられる。第1導体3141の一端と放射素子312の第1素子3121の渦巻形状の中心に近い一端とが、第1給電導体3161を介して接続される。第2導体3142の一端と第2素子3122の渦巻形状の中心に近い一端とは、第2給電導体3162を介して接続される。第1導体3141の他端と同軸コネクタ315の芯線とが接続される。第2導体3142の他端と同軸コネクタ315のグランドとが接続される。
【0095】
このようなキャビティ313の構成は、キャビティ213の構成(
図13B参照)と比べて、第1方向X1の長さ(高さ)を短く抑えることができ、また、構造が簡素なので製造が複雑にならない。その結果、薄型キャビティ付アンテナ31は、薄型キャビティ付アンテナ21と比べて、コストを低くすることができる。
【0096】
[実施の形態4]
図15Aは、実施の形態4に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する平面図およびキャビティを例示する斜視図である。
図15Aは、第1方向X1から見たキャビティの形状が正方形の場合の例を示す。
図15Bは、実施の形態4に係る薄型キャビティ付アンテナを例示する平面図およびキャビティを例示する斜視図である。
図15Bは、第1方向X1から見たキャビティの形状が正六角形の場合の例を示す。
【0097】
図15Aおよび
図15Bに示すように、実施の形態4に係る薄型キャビティ付アンテナ41は、第1方向X1から見た放射素子412の形状は、渦巻形状または螺旋形状である。また、第1方向X1から見たキャビティ413の形状は、多角形形状である。なお、第1方向X1から見たキャビティ413の形状は、
図1に示したように、円形状、概円形状でもよい。
【0098】
実施の形態に係るキャビティ付アンテナの優位性は、薄型のキャビティを有する点である。薄型キャビティ付アンテナ41は、そのような形状を有しているので、実施の形態1に係る薄型キャビティ付アンテナ11と同様な効果を得ることができる。
【0099】
<放射素子>
図16Aは、実施の形態4に係る放射素子を例示する斜視図および薄型キャビティ付アンテナを例示する斜視図である。
図16Bは、実施の形態4に係る放射素子を例示する斜視図および薄型キャビティ付アンテナを例示する斜視図である。
【0100】
図16Aおよび
図16Bは、使用する放射素子の複数の種類を示す。放射素子は、
図1に示す螺旋形状(渦巻形状)の銅箔パタ-ンを有するスパイラルアンテナの他、概ね平板形状の放射素子であれば、多種多様な形状のものが使用可能である。
【0101】
図16Aの(a)は、シニュアスアンテナを用いた例である。
図16Aの(b)は、シニュアスアンテナをキャビティに配置した例である。実施の形態4に係る放射素子は、スパイラルアンテナに限定されない。
【0102】
図16Aの(c)は、ダイポ-ルアンテナを用いた例である。
図16Aの(d)は、ダイポ-ルアンテナをキャビティに配置した例である。すなわち、放射素子412は、第2方向X2とは逆の方向に延びる第1素子と、第2方向X2に延びる第2素子と、を有するダイポールアンテナでもよい。
【0103】
ダイポ-ルアンテナは、広帯域なアンテナではない。ダイポールアンテナは、その長さが(1/2)波長の整数倍で使用できるアンテナである。ダイポールアンテナをマルチバンドのうちの単一指向性アンテナとして用いる場合、本開示のキャビティ付の形状は有効である。
【0104】
図16Bの(a)は、クロスダイポ-ルアンテナを用いた例である。
図16Bの(b)は、クロスダイポ-ルアンテナをキャビティに配置した例である。すなわち、放射素子412は、
図16Aの(c)に示す第1素子と第2素子に加えて、第1方向X1と直交し第2方向X2と直交する第3方向X3に延びる第3素子と、第3方向X3とは逆の方向に延びる第4素子と、をさらに有するクロスダイポ-ルアンテナである。
【0105】
図16Bの(c)は、ループアンテナを用いた例である。
図16Bの(d)は、ループアンテナをキャビティに配置した例である。すなわち、放射素子412は、第1方向X1から見て、略円形のリング形状をしたループアンテナである。いずれのアンテナも平板形状(平面状)であり、マルチバンドで使用が可能なアンテナである。
【0106】
以上、説明したアンテナ以外に使用可能な放射素子としては、ボウタイアンテナ、スロットアンテナ、クロススロットアンテナ、スロットループアンテナ、スパイラルスロットアンテナが挙げられる。なお、スパイラルアンテナとしては、アルキメデススパイラルアンテナや等角スパイラルアンテナが挙げられる。
【0107】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【0108】
上記の実施形態の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載されうるが、以下には限られない。
(付記1)
第1方向と垂直な第1面を有するプリント基板と、
前記プリント基板の第1面上に設けられ、導体で構成され、前記第1方向に向かって電波を放射する放射素子と、
前記放射素子の前記第1方向とは逆側に設けられ、導体で構成され、前記第1方向とは逆方向に凹型形状を有するキャビティと、
前記放射素子に給電を行う給電回路と、
を備え、
前記キャビティの前記第1方向の第1長さは、前記キャビティの前記第1方向と直交する第2方向の第2長さの10分の1以下である、
薄型キャビティ付アンテナ。
(付記2)
前記放射素子は、
前記プリント基板の第1面上に導体パターンとして設けられ、前記第1方向から見て渦巻形状をしている第1素子と、
前記プリント基板の第1面上に別の導体パターンとして設けられ、前記第1方向から見て前記第1素子と1対の前記渦巻形状をしている第2素子と、
を有し、
前記第2素子の一部は、前記第1素子の一部と他部との間に配置される、
付記1に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
(付記3)
前記給電回路は、
誘電体で構成された誘電層と、
前記誘電層の第1面に設けられ、導体で構成された第1導体と、
前記誘電層の第2面に設けられ、導体で構成された第2導体と、
を有し、
前記第1導体の一端と前記第1素子の前記渦巻形状の中心に近い一端とが接続され、
前記第1導体の他端に高周波信号が接続され、
前記第2導体の一端と前記第2素子の前記渦巻形状の中心に近い一端とが接続され、
前記第2導体の他端にグランドが接続され、
前記第2導体の第3方向の長さは、前記第2導体の一端から前記第2導体の他端に向かうに従って大きくなり、
前記第3方向は、前記第1方向および前記第2方向と直交する方向である、
付記2に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
(付記4)
前記キャビティは、
前記第1方向と垂直な平面を有する底部と、
前記底部の周囲部分から前記第1方向に延びる側面部と、
を有する、
付記3に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
(付記5)
前記キャビティの前記底部に設けられた同軸コネクタをさらに備え、
前記第1導体の他端と前記同軸コネクタの芯線とが接続され、
前記第2導体の他端と前記同軸コネクタのグランドとが接続される、
付記4に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
(付記6)
前記給電回路の前記第1方向の長さは、所定の長さよりも長い、
付記3に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
(付記7)
前記キャビティは、
前記第2方向の長さが前記プリント基板の前記第2方向の長さよりも長い第1部分と、
前記第2方向の長さが前記プリント基板の前記第2方向の長さよりも短い第2部分と、
を有し、
前記給電回路の前記第1方向の長さは、前記第2部分の前記第1方向の長さよりも長い、
付記3に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
(付記8)
前記キャビティの前記側面部に設けられた同軸コネクタをさらに備え、
前記給電回路は、前記キャビティの前記底部の前記第1方向の逆側に設けられ、
前記第1導体の一端と前記第1素子の前記渦巻形状の中心に近い一端とは、第1給電導体を介して接続され、
前記第2導体の一端と前記第2素子の前記渦巻形状の中心に近い一端とは、第2給電導体を介して接続され、
前記第1導体の他端と前記同軸コネクタの芯線とが接続され、
前記第2導体の他端と前記同軸コネクタのグランドとが接続される、
付記4に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
(付記9)
前記第1方向から見た前記放射素子の形状は、渦巻形状または螺旋形状であり、
前記第1方向から見た前記キャビティの形状は、円形状、概円形状または多角形形状である、
付記1に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
(付記10)
前記放射素子は、
前記第2方向とは逆の方向に延びる第1素子と、
前記第2方向に延びる第2素子と、
を有する、
付記1に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
(付記11)
前記放射素子は、
前記第1方向と直交し前記第2方向と直交する第3方向に延びる第3素子と、
前記第3方向とは逆の方向に延びる第4素子と、
をさらに有する、
付記10に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
(付記12)
前記放射素子は、前記第1方向から見て、略円形のリング形状をしている、
付記1に記載の薄型キャビティ付アンテナ。
【符号の説明】
【0109】
11…薄型キャビティ付アンテナ
111…プリント基板
112…放射素子
1121…第1素子
1122…第2素子
113…キャビティ
1131…底部
1132…側面部
114…給電回路
1141…第1導体
1142…第2導体
1143…誘電層
115…同軸コネクタ
Ps1…プリント基板の第1面
Ps2…プリント基板の第2面
Ds1…誘電層の第1面
Ds2…誘電層の第2面
Pd…プリント基板の第2方向の長さ
Sd…スパイラル素子の最外形の直径
L1…第1長さ
L2…第2長さ
X1…第1方向
X2…第2方向
X3…第3方向
R…半径
RО…初期半径
θ…回転角度
λ1、λ2、λ3、λ6、λL…波長