(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011329
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】予測装置、学習装置、予測プログラム、及び学習プログラム
(51)【国際特許分類】
C21D 11/00 20060101AFI20240118BHJP
B21B 37/00 20060101ALI20240118BHJP
B21B 19/04 20060101ALI20240118BHJP
B21B 19/10 20060101ALI20240118BHJP
C21D 9/08 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
C21D11/00 104
B21B37/00 221Z
B21B19/04
B21B19/10
C21D9/08 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113245
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富尾 悠索
(72)【発明者】
【氏名】田中 正博
【テーマコード(参考)】
4E124
4K038
4K042
【Fターム(参考)】
4E124AA13
4E124AA15
4E124BB07
4E124BB08
4E124EE22
4E124GG10
4K038AA04
4K038BA01
4K038CA01
4K038CA03
4K038DA01
4K038EA01
4K038FA02
4K042AA06
4K042BA01
4K042BA14
4K042DA01
4K042DA02
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD03
4K042DF01
4K042EA01
4K042EA02
(57)【要約】
【課題】焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼材の特性を精度よく予測する。
【解決手段】材質予測装置10は、焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される、鋼材の特性を予測する。材質予測装置10は、前記鋼材について、前記製造ラインにおけるセンサで測定される測定データと、前記焼入れ処理及び前記焼戻し処理に関する設定データとを取得する取得部32と、予め学習されたニューラルネットワークを用いて、前記取得部により取得された前記測定データ及び前記設定データから、前記鋼材の特性を予測する予測部40とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼材の特性を予測する予測装置であって、
前記鋼材について、前記製造ラインにおけるセンサで測定される測定データと、前記焼入れ処理及び前記焼戻し処理に関する設定データとを取得する取得部と、
予め学習されたニューラルネットワークを用いて、前記取得部により取得された前記測定データ及び前記設定データから、前記鋼材の特性を予測する予測部と、を含み、
前記ニューラルネットワークは、前記製造ラインで製造される前記鋼材についての前記測定データ及び前記設定データに基づいて、前記鋼材の特性を予測するためのニューラルネットワークである予測装置。
【請求項2】
焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼材の特性を予測するためのニューラルネットワークを学習する学習装置であって、
複数本の前記鋼材の各々について、前記製造ラインにおけるセンサで測定される測定データと、前記焼入れ処理及び前記焼戻し処理に関する設定データとを取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記測定データ及び前記設定データと、計測された前記鋼材の特性とに基づいて、ニューラルネットワークを学習する学習部と、を含み、
前記ニューラルネットワークは、前記製造ラインで製造される前記鋼材についての前記測定データ及び前記設定データに基づいて、前記鋼材の特性を予測するためのニューラルネットワークである学習装置。
【請求項3】
前記鋼材の特性は、前記鋼材の先端部及び後端部の少なくとも何れか一方から採取した試料について計測されたものである請求項2記載の学習装置。
【請求項4】
焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼材の特性を予測する予測装置であって、
前記鋼材について、前記製造ラインにおけるセンサで測定される測定データと、前記焼入れ処理及び前記焼戻し処理に関する設定データとを取得する取得部と、
請求項2記載の学習装置により予め学習された前記ニューラルネットワークを用いて、前記取得部により取得された前記鋼材についての前記測定データ及び前記設定データから、当該鋼材の特性を予測する予測部と、
を含む予測装置。
【請求項5】
前記製造ラインは、熱間圧延ライン及び熱処理ラインを含み、
前記鋼材は、鋼管である請求項1記載の予測装置。
【請求項6】
前記測定データは、前記製造ラインにおけるセンサで測定される、前記鋼材の温度及びサイズの少なくとも一方を含む請求項1記載の予測装置。
【請求項7】
前記特性は、降伏応力、引張り強さ、及び降伏比の少なくとも1つを含む請求項1記載の予測装置。
【請求項8】
前記焼入れ処理に関する設定データは、前記焼入れ処理の温度、処理時間、又は焼入れ方法を含み、
前記焼戻し処理に関する設定データは、前記焼戻し処理の温度、処理時間、又は焼戻し後の冷却方法を含む請求項1、4~7の何れか1項記載の予測装置。
【請求項9】
焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼材の特性を予測するための予測プログラムであって、
コンピュータを、
前記鋼材について、前記製造ラインにおけるセンサで測定される測定データと、前記焼入れ処理及び前記焼戻し処理に関する設定データとを取得する取得部、及び
予め学習されたニューラルネットワークを用いて、前記取得部により取得された前記測定データ及び前記設定データから、前記鋼材の特性を予測する予測部
として機能させるための予測プログラムであり、
前記ニューラルネットワークは、前記製造ラインで製造される前記鋼材についての前記測定データ及び前記設定データに基づいて、前記鋼材の特性を予測するためのニューラルネットワークである予測プログラム。
【請求項10】
焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼材の特性を予測するためのニューラルネットワークを学習するための学習プログラムであって、
コンピュータを、
複数本の前記鋼材の各々について、前記製造ラインにおけるセンサで測定される測定データと、前記焼入れ処理及び前記焼戻し処理に関する設定データとを取得する取得部、及び
前記取得部により取得された前記測定データ及び前記設定データと、計測された前記鋼材の特性とに基づいて、ニューラルネットワークを学習する学習部
として機能させるための学習プログラムであり、
前記ニューラルネットワークは、前記製造ラインで製造される前記鋼材についての前記測定データ及び前記設定データに基づいて、前記鋼材の特性を予測するためのニューラルネットワークである学習プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材の特性を予測するための予測装置、学習装置、予測プログラム、及び学習プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、連続焼鈍プロセスについて、階層型ニューラルネットワークを用いて高強度冷延鋼板の材質と複数の材質影響因子との間の非線形な関係式を構築して材質予測に利用する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼材の特性を予測することを考慮してない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼材の特性を精度よく予測することができる予測装置、学習装置、予測プログラム、及び学習プログラムを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の第1態様に係る予測装置は、焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼材の特性を予測する予測装置であって、前記鋼材について、前記製造ラインにおけるセンサで測定される測定データと、前記焼入れ処理及び前記焼戻し処理に関する設定データとを取得する取得部と、予め学習されたニューラルネットワークを用いて、前記取得部により取得された前記測定データ及び前記設定データから、前記鋼材の特性を予測する予測部と、を含み、前記ニューラルネットワークは、前記製造ラインで製造される前記鋼材についての前記測定データ及び前記設定データに基づいて、前記鋼材の特性を予測するためのニューラルネットワークである。
【0007】
本発明の第1態様に係る予測装置によれば、鋼材について、前記製造ラインにおけるセンサで測定される測定データと、前記焼入れ処理及び前記焼戻し処理に関する設定データとを取得し、ニューラルネットワークを用いて、鋼材の特性を予測することにより、焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼材の特性を精度よく予測することができる。
【0008】
ここで、設定データとは、焼入れ処理及び焼戻し処理の各々に関して設定したデータである。測定データとは、製造ラインにおいて製造中の鋼材についてセンサによって測定されるデータである。
【0009】
本発明の第2態様に係る予測装置は、第1態様に係る予測装置において、前記製造ラインは、熱間圧延ライン及び熱処理ラインを含み、前記鋼材は、鋼管である。焼入れ処理及び焼戻し処理は熱処理ラインによって行われる。
【0010】
本発明の第3態様に係る予測装置は、第1態様又は第2態様に係る予測装置において、前記測定データは、前記製造ラインにおけるセンサで測定される、前記鋼材の温度及びサイズの少なくとも一方を含む。
【0011】
本発明の第4態様に係る予測装置は、第1態様~第3態様の何れか1の態様に係る予測装置において、前記特性は、降伏応力、引張り強さ、及び降伏比の少なくとも1つを含む。
【0012】
本発明の第5態様に係る予測装置は、第1態様~第4態様の何れか1の態様に係る予測装置において、前記焼入れ処理に関する設定データは、前記焼入れ処理の温度、処理時間、又は焼入れ方法を含み、前記焼戻し処理に関する設定データは、前記焼戻し処理の温度、処理時間、又は焼戻し後の冷却方法を含む。
【0013】
本発明の第6態様に係る学習装置は、焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼材の特性を予測するためのニューラルネットワークを学習する学習装置であって、複数本の前記鋼材の各々について、前記製造ラインにおけるセンサで測定される測定データと、前記焼入れ処理及び前記焼戻し処理に関する設定データとを取得する取得部と、前記取得部により取得された前記測定データ及び前記設定データと、計測された前記鋼材の特性とに基づいて、ニューラルネットワークを学習する学習部と、を含み、前記ニューラルネットワークは、前記製造ラインで製造される前記鋼材についての前記測定データ及び前記設定データに基づいて、前記鋼材の特性を予測するためのニューラルネットワークである。
【0014】
本発明の第6態様に係る学習装置によれば、複数本の前記鋼材の各々について、前記製造ラインにおけるセンサで測定される測定データと、前記焼入れ処理及び前記焼戻し処理に関する設定データとを取得し、前記測定データ及び前記設定データと、計測された前記鋼材の特性とに基づいて、鋼材の特性を予測するためのニューラルネットワークを学習することにより、焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼材の特性を精度よく予測することができる。
【0015】
本発明の第7態様に係る学習装置は、第6態様に係る学習装置において、前記鋼材の特性は、前記鋼材の先端部及び後端部の少なくとも何れか一方から採取した試料について計測されたものである。
【0016】
本発明の第8態様に係る予測プログラムは、焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼材の特性を予測するための予測プログラムであって、コンピュータを、前記鋼材について、前記製造ラインにおけるセンサで測定される測定データと、前記焼入れ処理及び前記焼戻し処理に関する設定データとを取得する取得部、及び予め学習されたニューラルネットワークを用いて、前記取得部により取得された前記測定データ及び前記設定データから、前記鋼材の特性を予測する予測部として機能させるための予測プログラムであり、前記ニューラルネットワークは、前記製造ラインで製造される前記鋼材についての前記測定データ及び前記設定データに基づいて、前記鋼材の特性を予測するためのニューラルネットワークである。
【0017】
本発明の第9態様に係る学習プログラムは、焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼材の特性を予測するためのニューラルネットワークを学習するための学習プログラムであって、コンピュータを、複数本の前記鋼材の各々について、前記製造ラインにおけるセンサで測定される測定データと、前記焼入れ処理及び前記焼戻し処理に関する設定データとを取得する取得部、及び前記取得部により取得された前記測定データ及び前記設定データと、計測された前記鋼材の特性とに基づいて、ニューラルネットワークを学習する学習部として機能させるための学習プログラムであり、前記ニューラルネットワークは、前記製造ラインで製造される前記鋼材についての前記測定データ及び前記設定データに基づいて、前記鋼材の特性を予測するためのニューラルネットワークである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼材の特性を精度よく予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】熱間圧延ライン及び熱処理ラインの概略構成の一例を示す図である。
【
図5】降伏応力(YS)、引張り強さ(TS)、及び降伏比(YR)についての実測値と予測モデルによる予測値との相関を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明の実施形態では、予測装置及び学習装置を、鋼材の材質を予測する材質予測装置に適用した場合を例に説明する。
【0021】
<本発明の実施の形態の概要>
これまで製造現場におけるシームレス鋼管の製造における機械特性の予測および制御では、原理原則をもとにした物理冶金モデルも参考にはされるが、主としてプロセスデータの挙動をみて、製造現場の経験と実績を簡単な回帰式に置き換えたものにより行われてきた。しかし、様々な外径、肉厚への対応、さらには化学成分の製造許容内で不可避の変動を考えた際には既存の経験式による予測精度が十分ではなく、より高精度な材質予測モデルが要求されている。
【0022】
シームレス鋼管の材質予測の高精度化には、以下の(1)~(6)のような課題がある。
【0023】
(1)原理原則に基づく物理モデルの高精度化が必要である。
【0024】
(2)工場での各部位の冷却挙動などを予測するプロセスモデルの高精度化が必要である。
【0025】
(3)各部位の温度、厚さなどを随時計測できる装置の設置が必要である。
【0026】
(4)プロセス温度などのプロセス状態の測定誤差の同定が必要である。
【0027】
(5)各工場における隠れた変数の明確化が必要である。
【0028】
(6)外乱による確率因子の同定が必要である。
【0029】
これまで原理原則に基づく物理モデルによる材質予測を中心に行われてきたが、これのみでは実際の製品の材質予測には限界がある。なぜならば、予測精度には上記物理モデル以外の要因が大きく影響するからである。
【0030】
近年、物理モデルにかわり、ニューラルネットワーク(NN)モデルによる材質予測が注目されてきている。実際の製造現場においては、ある範囲のばらつきは存在するものの、製造条件に対して一定の特性が得られている。このことから、製造条件と材質との間に相関関係が存在しているはずである。そこで工場の材質に紐づけられた製造条件に関するビッグデータを教師データに用いて、NNにより相関関係をモデル化できれば、物理モデルに比較して高精度な材質予測モデルを構築できる可能性があり、これまでにもいくつかの先行文献が存在する。例えば、上記特許文献1には、NNを用いて冷延鋼板の材質と複数の材質影響因子との間の非線形な関係式を求め、この非線形な関係式に、冷延鋼板の目標材質と、材質影響因子のうちの1つである意図的制御因子を除く残りの材質影響因子を代入して上記目標材質が得られる意図的制御因子の目標値を求め、この目標値に上記意図的制御因子を制御して冷延鋼板間の材質バラツキが極めて小さい製造方法が記述されている。
【0031】
しかし、従来技術は、薄板での特性と予測に関するものが主であり、シームレス鋼管の製造プロセスで一般的な焼入れ処理、焼戻し処理を伴うプロセスで製造される製品の性能予測に関する技術はまだない。
【0032】
また、NNモデルには問題がある。製造現場では、様々な外乱が存在しており、プロセス条件に関する測定データと材質との関係は決定論的ではない。そのため、通常のNNでは、過学習により、汎化誤差を小さくできない可能性が有る。その対策として、NNにベイズ推定を組み合わせたベイジアンニューラルネットワーク(BNN)が有効であり、本実施形態では、予測モデルとしてBNNを用いる。
【0033】
また、このBNNによる材質予測モデルを用いて、焼入れ処理、焼戻し処理を伴うシームレス鋼管の機械的性質を予測する。しかしながら、従来技術で考慮されている熱延プロセスとは異なり、シームレス鋼管の特性は主に焼入処理、焼戻し処理のプロセスで決定され、それぞれのプロセス実施温度、実施時間のみならず、その際に鋼管の断面形状(外径、肉厚)、およびそれぞれのプロセス後の冷却速度からも大きく影響を受ける。
【0034】
これに対応するため、既存のモデルで採用されていた、焼入れ処理、焼戻し処理の温度、時間情報に加え、鋼管形状の情報(外径、肉厚)、それぞれのプロセス後の冷却の実施方法(空冷、強制空冷、鋼管外面水冷、鋼管内外面水冷、全浸漬水冷)といった実施方法を取り入れることにより、鋼管の特性を精度よく予測する。
【0035】
<熱間圧延ライン及び熱処理ラインの構成の概略>
図1は、材質予測装置10の適用先の一例である熱間圧延ライン及び熱処理ラインの概略構成の一例を示す図である。
【0036】
図1において、熱間圧延ラインは、加熱炉11と、穿孔機13と、第1鋼管圧延機14と、第2鋼管圧延機15と、を有し、熱処理ラインは、焼入れ炉16と、冷却装置17と、焼戻し炉18と、冷却装置19と、を有する。焼入れ処理及び焼戻し処理は熱処理ラインによって行われる。
【0037】
加熱炉11は、断面が丸形状で中実のビレットを加熱する。
【0038】
穿孔機13は、穿孔または熱間押出しにより、ビレットの中心部に孔をあけ、孔の開いた素管を製造する。
【0039】
第1鋼管圧延機14は、孔の開いた素管の中にバーを挿入した上で圧延により肉厚を調整するマンドレルミルである。
【0040】
第2鋼管圧延機15は、鋼管を、中空のまま圧延するサイザもしくはレデューサであり、鋼管の形状を熱間で作り上げる。鋼管の形状が完成された後、そのまま保熱される、または一旦室温に冷却される。
【0041】
焼入れ炉16は、鋼管を再度加熱し、焼入れ温度(オーステナイト化温度)まで熱する。
【0042】
冷却装置17は、水冷により鋼管を焼入れする。
【0043】
焼戻し炉18は、鋼管の焼戻しを実施する。
【0044】
冷却装置19は、必要に応じて、焼戻し後の冷却速度を制御することにより、最終的な機械的特性を調整する。
【0045】
ここで、主な性能の決定プロセスは、熱処理ラインにおいて実施される焼入れ及び焼戻しのプロセスである。焼入れ処理では添加合金元素の固溶、旧オーステナイト粒径の微細化、および焼入れ時のマルテンサイト組織の形成が図られ、焼戻し処理では強度を調整するとともに、厚肉材では肉厚中央部においても望ましい性能が発揮される組織が形成されるよう調整される。
【0046】
尚、熱間圧延ライン及び熱処理ラインは、公知の技術で実現することができ、
図1に示す構成に限定されるものではない。例えば、熱間圧延ラインが熱処理ラインと連続していない場合もある。
【0047】
また、焼入れ炉16の前段箇所において、鋼管の温度及びサイズを計測するセンサ20が設けられている。これにより、センサ20は、鋼管の温度及びサイズを計測して出力する。ここで、鋼管のサイズとは、鋼管の外径及び肉厚を意味する。
【0048】
焼入れ炉16の後段箇所、冷却装置17の後段箇所において、鋼管の温度を計測するセンサ21、22が設けられている。これにより、センサ21、22は、鋼管の温度を計測して出力する。焼戻し炉18の後段箇所、冷却装置19の後段箇所においては、鋼管の温度及びサイズを計測するセンサ23、24が設けられている。センサ23、24は、鋼管の温度を計測するセンサであってもよい。
【0049】
センサ20、21、22、23、24は、例えば、温度を計測するための赤外線センサ、画像を撮像し、撮像画像を解析して、サイズを計測するセンサを用いて構成されている。
【0050】
<材質予測装置の構成>
次に、材質予測装置の構成について説明する。
図2には、材質予測装置10の機能的な構成を示した。
【0051】
図2に示すように、材質予測装置10は、設定データ取得部30、測定データ取得部32、材質データ取得部34、学習部36、予測モデル記憶部38、予測部40、及び表示部42を備える。
【0052】
設定データ取得部30は、学習時に、複数本の鋼管について、焼入れ処理及び焼戻し処理に関する設定データを取得する。
【0053】
具体的には、設定データ取得部30は、学習時に、入力部(図示省略)により入力された、焼入れ処理の温度、処理時間、及び焼入れ方法を含む焼入れ処理に関する設定データと、焼戻し処理の温度、処理時間、及び焼戻し後の冷却方法を含む焼戻し処理に関する設定データとを取得する。
【0054】
設定データ取得部30は、予測時に、鋼管について、焼入れ処理及び焼戻し処理に関する設定データを取得する。
【0055】
具体的には、設定データ取得部30は、予測時に、入力部(図示省略)により入力された、焼入れ処理の温度、処理時間、及び焼入れ方法を含む焼入れ処理に関する設定データと、焼戻し処理の温度、処理時間、及び焼戻し後の冷却方法を含む焼戻し処理に関する設定データとを取得する。
【0056】
測定データ取得部32は、学習時に、複数本の鋼管について、熱間圧延ライン及び熱処理ラインにおけるセンサ20、21、22、23、24で測定される温度及びサイズの少なくとも一方を取得する。
【0057】
具体的には、測定データ取得部32は、学習時に、入力部(図示省略)により入力された化学組成を取得する。また、測定データ取得部32は、焼入れ処理時の鋼管について、センサ20の出力(温度及びサイズ)を取得し、焼入れ処理後の鋼管について、センサ21、22の出力(温度)を取得し、焼戻し処理後の鋼管について、センサ23、24の出力(温度)を取得する。センサ23、24の少なくとも一方のサイズの出力を取得してもよい。
【0058】
測定データ取得部32は、予測時に、鋼材について、熱間圧延ライン及び熱処理ラインにおけるセンサ20、21、22、23、24で測定される温度及びサイズの少なくとも一方を取得する。
【0059】
具体的には、測定データ取得部32は、予測時に、入力部(図示省略)により入力された化学組成を取得する。また、測定データ取得部32は、焼入れ処理時の鋼管について、センサ20の出力(温度及びサイズ)を取得し、焼入れ処理後の鋼管について、センサ21、22の出力(温度)を取得し、焼戻し処理後の鋼管について、センサ23、24の出力(温度)を取得する。センサ23、24の少なくとも一方のサイズの出力を取得してもよい。
【0060】
材質データ取得部34は、学習時に、入力部(図示省略)により入力された、複数本の鋼管の各々の先端部及び後端部の少なくとも何れか一方の各位置から採取した試料について計測された材質データを取得する。材質データは、例えば、降伏応力(Yield Stress:YS)、引張り強さ(Tensile Strength:TS)、及び降伏比(Yield Ratio:YR)の少なくとも1つを含む。
【0061】
学習部36は、複数本の鋼管の各々について、当該鋼管に対する、設定データ取得部30によって取得した設定データ、測定データ取得部32によって取得した測定データ、及び材質データ取得部34によって取得した材質データからなる教師データを作成する。
【0062】
学習部36は、熱間圧延ライン及び熱処理ラインで製造される鋼管についての設定データ及び測定データに基づいて鋼管の特性を予測するためのニューラルネットワークである予測モデルを、作成した教師データに基づいて学習し、予測モデル記憶部38に格納する。本実施形態では、ニューラルネットワークとして、ベイジアンニューラルネットワークを用いる。また、化学組成と、焼入れ炉16の前段箇所における鋼管のサイズと、焼入れ処理の温度、処理時間、及び焼入れ方法と、焼戻し処理の温度、処理時間、及び焼戻し後の冷却方法と、をニューラルネットワークの入力とする。さらに必要に応じて、焼戻し炉18の後段箇所における鋼管のサイズをニューラルネットワークの入力とすることができる。また、鋼管の降伏応力、引張り強さ、及び降伏比をニューラルネットワークの出力とする。
【0063】
また、学習部36は、各教師データについて、当該教師データの設定データ及び測定データをニューラルネットワークに入力したときの出力と、当該教師データの材質データ(降伏応力、引張り強さ、及び降伏比)との差分を表す損失関数が最小となるように、ニューラルネットワークを学習する。
【0064】
予測部40は、予測モデル記憶部38に格納された予測モデルを用いて、設定データ取得部30によって取得された設定データ及び測定データ取得部32によって取得された測定データから、鋼管の材質データとして、降伏応力、引張り強さ、及び降伏比を予測する。
【0065】
表示部42は、予測部40による予測結果を表示する。
【0066】
次に、材質予測装置10で実行される学習処理について、
図3に示すフローチャートを参照して説明する。なお、
図3に示す学習処理は、複数本の鋼管について、焼入れ処理の温度、処理時間、及び焼入れ方法を含む焼入れ処理に関する設定データと、焼戻し処理の温度、処理時間、及び焼戻し後の冷却方法を含む焼戻し処理に関する設定データと、熱間圧延ライン及び熱処理ラインにおけるセンサ20で測定されたサイズとが入力されるとともに、複数本の鋼管から採取した試料について計測された材質データとして、鋼管の降伏応力、引張り強さ、及び降伏比が入力されたときに実行される。
【0067】
ステップS100では、設定データ取得部30は、複数本の鋼管について、焼入れ処理及び焼戻し処理に関する設定データを取得する。
【0068】
ステップS101では、測定データ取得部32は、複数本の鋼管について、熱間圧延ライン及び熱処理ラインにおけるセンサ20、21、22、23、24で測定された温度及びサイズの少なくとも一方を取得する。また、測定データ取得部32は、複数本の鋼管の各々について、入力部(図示省略)により入力された化学組成を取得する。
【0069】
ステップS102では、材質データ取得部34は、入力された、複数本の鋼管から採取した試料について材質データとして計測された、鋼管の降伏応力、引張り強さ、及び降伏比を取得する。
【0070】
ステップS104では、学習部36は、複数本の鋼管の各々について、設定データ取得部30によって取得した設定データ、測定データ取得部32によって取得した測定データ、及び材質データ取得部34によって取得した材質データからなる教師データを作成する。
【0071】
ステップS106では、学習部36は、熱間圧延ライン及び熱処理ラインで製造される鋼管についての設定データ及び測定データに基づいて鋼管の材質を予測するためのニューラルネットワークである予測モデルを、作成した教師データに基づいて学習し、予測モデル記憶部38に格納する。
【0072】
次に、材質予測装置10で実行される材質予測処理について、
図4に示すフローチャートを参照して説明する。なお、
図4に示す材質予測処理は、鋼管について、焼入れ処理及び焼戻し処理に関する設定データと、熱間圧延ライン及び熱処理ラインにおけるセンサ20、21、22、23、24で測定された温度及びサイズの少なくとも一方とが入力されたときに実行される。
【0073】
ステップS110では、設定データ取得部30は、鋼管について、焼入れ処理及び焼戻し処理に関する設定データを取得する。
【0074】
ステップS111では、測定データ取得部32は、鋼管について、熱間圧延ライン及び熱処理ラインにおけるセンサ20、21、22、23、24で測定される温度及びサイズの少なくとも一方を取得する。また、測定データ取得部32は、入力部(図示省略)により入力された化学組成を取得する。
【0075】
ステップS112では、予測部40は、予測モデル記憶部38に格納された予測モデルを用いて、設定データ取得部30によって取得された設定データ及び測定データ取得部32によって取得された測定データから、鋼管の材質データとして、降伏応力、引張り強さ、及び降伏比を予測する。
【0076】
ステップS114では、表示部42は、予測部40による予測結果を表示して、材質予測処理を終了する。
【0077】
<実施例>
まず、予測モデルの構築の際の学習では、教師データとして、複数本の鋼管の設定データ及び測定データと、先端部又は後端部から採取した試料から測定した材質データとを利用する。
【0078】
学習で構築された予測モデルに、特定の鋼管の設定データ及び測定データを入力することで、鋼管の材質を予測する。
【0079】
学習に使用する教師データの例としては、設定データ、測定データ、及び材質データとして下記のものを使用する。
【0080】
設定データは、焼入れ処理の温度、処理時間、及び焼入れ方法(水槽浸漬冷却、外面のみ水冷)と、焼戻し処理の温度、処理時間、及び焼戻し後の冷却方法とを含む。
【0081】
測定データは、形状データ(焼入れ炉16の前段箇所における鋼管のサイズ(外径、肉厚))を含む。
【0082】
入力として、測定データの他に、化学組成(C、Si、Mn、Cu、Ni、Cr、Mo、V、Nb、Ti、B、N)と、組成式(焼入れ性(Vc90)、有効B量)とを含む。Vc90は、90%マルテンサイト組織が得られる臨界冷却速度である(参考文献1を参照)。有効B量は、焼入時にNと結合することなく母相中に固溶状態で存在しているB量であり、以下の式で表される。
有効B量(mass%)=含有B量-(含有N量-含有Ti量/47.87*14.01)*10.81/14.01
[参考文献1]:上野、伊藤、鉄と鋼 74 (1988) pp.1073-1080
【0083】
材質データは、降伏応力と、引張り強さと、降伏比とを含む。
【0084】
予測モデルであるベイジアンニューラルネットワークの構造として、入力層と出力層の間に隠れ層として3層設ける。隠れ層の各層のニューロン数は、第1層から順に、128、64、32とした。また、活性化関数はすべて双曲線正接関数(ハイパボリックタンジェント関数)とした。
【0085】
学習したニューラルネットワークを用いて材質データを予測した例が
図5である。
図5では、降伏応力(YS)の実測値と、予測モデルによる予測値との相関、引張り強さ(TS)の実測値と、予測モデルによる予測値との相関、及び降伏比(YR)の実測値と、予測モデルによる予測値との相関を示している。上記
図5に示したように、良い相関が得られており、精度よく予測できていることが分かる。
【0086】
このように、本実施形態では、鋼管について、焼入れ処理及び前記焼戻し処理に関する設定データと、熱間圧延ライン及び熱処理ラインにおけるセンサで測定される測定データを取得し、鋼管の特性を予測するためのニューラルネットワークを用いて、鋼管の特性を予測することにより、焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼管の特性を精度よく予測することができる。
【0087】
また、複数本の鋼管について、焼入れ処理及び前記焼戻し処理に関する設定データと、熱間圧延ライン及び熱処理ラインにおけるセンサで測定される測定データを取得し、設定データと測定データと計測された鋼管の特性とに基づいて、鋼管の特性を予測するためのニューラルネットワークを学習することにより、焼入れ処理及び焼戻し処理を含む製造ラインで製造される鋼管の特性を精度よく予測することができる。
【0088】
また、精度よく鋼材の特性を予測することができるため、最適な製造条件を決定することができる。
【0089】
また、事前に計測された化学成分から好ましい製造条件を決定することができるため、製品歩留まり向上を実現することができる。
【0090】
そこで、本実施形態では、ベイジアンニューラルネットワークによる鋼材の特性の予測を行う。
【0091】
また、ニューラルネットワークの学習では、鋼材の測定データ及び材質データからなる教師データを用いる。また、材質検査において不合格と判断された鋼材についての教師データも用いる。このとき、データ洗浄により、材質検査において合格と判断された鋼材についての教師データを減らすことにより、不合格と判断された鋼材についての教師データの割合を高くする。
【0092】
これにより、鋼材の材質予測を高精度化することができる。また、鋼管の長手方向の端部について採取した試料に対して計測した材質データを用いるため、教師データを簡易に生成することができる。
【0093】
<変形例>
上記の実施の形態では、材質予測処理と学習処理とを1つの装置で実現する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、材質予測処理を行う予測装置と学習処理を行う学習装置とに分けて構成してもよい。この場合には、学習装置は、設定データ取得部30、測定データ取得部32、材質データ取得部34、学習部36、及び予測モデル記憶部38を備える。予測装置は、設定データ取得部30、測定データ取得部32、予測部40、及び表示部42を備える。
【0094】
また、本実施形態では、焼入れ炉16の前段箇所、焼入れ炉16の後段箇所、冷却装置17の後段箇所、焼戻し炉18の後段箇所、冷却装置19の後段箇所にセンサを設置した場合について説明したが、設置箇所はこれに限られるものではない。他の箇所にセンサを設置してもよい。
【0095】
また、ニューラルネットワークの入力となる設定データ及び測定データは、上記で説明した例に限定されるものではない。また、ニューラルネットワークの出力となる材質データは、上記で説明した例に限定されるものではない。
【0096】
以上説明した本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現することができる。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
【符号の説明】
【0097】
10 材質予測装置
11 加熱炉
13 穿孔機
14 第1鋼管圧延機
15 第2鋼管圧延機
16 焼入れ炉
17 冷却装置
18 焼戻し炉
20、21、22、23、24 センサ
30 設定データ取得部
32 測定データ取得部
34 材質データ取得部
36 学習部
38 予測モデル記憶部
40 予測部
42 表示部