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  • 特開-把持装置及びその制御方法 図1A
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113291
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】把持装置及びその制御方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
B25J15/08 S
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018172
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(71)【出願人】
【識別番号】000003263
【氏名又は名称】三菱電線工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼岩 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】西村 悠佑
(72)【発明者】
【氏名】山田 暢昭
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707ES03
3C707ES07
3C707ES10
3C707EV12
3C707MT05
3C707MT09
(57)【要約】
【課題】柔らかくて強く掴むことができない被把持物であっても移動時に滑ることなく搬送できるようにする。
【解決手段】駆動流体圧によって内部を加圧状態とすることにより伸長部位と非伸長部位とでひずみを発生させ、屈曲運動をすることにより、互いに協働して被把持物Pを掴む複数のソフトフィンガー4と、複数のソフトフィンガー4の少なくとも1つの先端に設けた6軸力覚センサ6と、6軸力覚センサ6の値から、被把持物Pの滑り動作の方向と同じ接線方向の力である剪断力Fと、被把持物Pの表面に直交する方向の力である把持力Fとの比よりなる滑り指標F/Fが所定閾値以上となったとき、滑りが発生したと判断して複数のソフトフィンガー4による把持力Fを高くするように駆動流体圧を高めるコントローラ20とを備える。
【選択図】図1C
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動流体圧によって内部を加圧状態とすることにより伸長部位と非伸長部位とでひずみを発生させ、屈曲運動をすることにより、互いに協働して被把持物を掴む複数のソフトフィンガーと、
前記複数のソフトフィンガーの少なくとも1つの先端に設けた力覚センサと、
前記力覚センサの値から、前記被把持物の滑り動作の方向と同じ接線方向の力である剪断力と、前記被把持物の表面に直交する方向の力である把持力との比よりなる滑り指標が所定閾値以上となったとき、滑りが発生したと判断して前記複数のソフトフィンガーによる把持力を高くする制御部とを備えている
ことを特徴とする把持装置。
【請求項2】
駆動流体圧によって内部を加圧状態とすることにより伸長部位と非伸長部位とでひずみを発生させ、屈曲運動をすることにより、互いに協働して被把持物を掴む複数のソフトフィンガーと、
前記複数のソフトフィンガーの少なくとも1つの先端に設けた力覚センサと、
前記ソフトフィンガーの伸長部位側に設けられ、伸長部位側にテンションを掛けることで、内部圧力増加による前記ソフトフィンガーの全体の剛性を向上させる弾性部材と、
前記力覚センサの値から、前記被把持物の表面に直交する方向の力である把持力を検出したとき、駆動流体圧を高めて内部圧力を増加させて前記複数のソフトフィンガーの剛性を高めるように前記駆動流体圧を高める制御部とを備えている
ことを特徴とする把持装置。
【請求項3】
前記ソフトフィンガーの先端に設けられ、被把持物への接触面積を変えることで前記被把持物を掴む把持角度変更機構をさらに有し、
前記力覚センサは、前記把持角度変更機構に設けられている
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の把持装置。
【請求項4】
複数のソフトフィンガーと、前記複数のソフトフィンガーの少なくとも1つの先端に設けた力覚センサと、制御部とを備えた、把持装置の制御方法であって、
前記制御部により、駆動流体圧によって内部を加圧状態とすることにより伸長部位と非伸長部位とでひずみを発生させ、屈曲運動をすることにより、互いに協働して被把持物を掴み、
前記把持装置が接続された搬送手段により、前記被把持物を掴んだ状態で前記被把持物を搬送しながら前記制御部が、前記力覚センサの検出値から、前記被把持物の滑り動作の方向と同じ接線方向の力である剪断力と、前記被把持物の表面に直交する方向の力である把持力との比よりなる滑り指標を計算し、
前記制御部が、前記滑り指標が所定の閾値以上となったのを検出したときに、滑りが発生したと判定し、
前記制御部が、前記駆動流体圧を増加させ、前記被把持物が滑るのを防止する
ことを特徴とする把持装置の制御方法。
【請求項5】
複数のソフトフィンガーと、前記複数のソフトフィンガーの少なくとも1つの先端に設けた力覚センサと、前記ソフトフィンガーの伸長部位側に設けられ、伸長部位側にテンションを掛けることで、内部圧力増加による前記ソフトフィンガーの全体の剛性を向上させる弾性部材と、制御部とを備えた、把持装置の制御方法であって、
前記制御部により、駆動流体圧によって内部を加圧状態とすることにより伸長部位と非伸長部位とでひずみを発生させ、屈曲運動をすることにより、互いに協働して被把持物を掴み、
前記被把持物を掴んだ状態で、前記力覚センサの検出値から、前記被把持物の表面に直交する方向の力である把持力を検出し、
前記制御部が、前記把持力が0よりも大きくなったのを検出したときに、前記駆動流体圧を増加させて前記ソフトフィンガーの全体の剛性を向上させる前記把持装置が接続された搬送手段により前記被把持物を搬送する
ことを特徴とする把持装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、駆動流体圧によって屈曲運動をすることにより、互いに協働して被把持物を掴む複数のソフトフィンガーと、これら複数のソフトフィンガーの先端に設けた力覚センサとを有する把持装置及びその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば、特許文献1のように、ロボットの手首部とハンドとの間に6軸力覚センサを設け、この6軸力覚センサによって直交3軸に平行な力と各軸周りのモーメントとを検出し、力制御によって組付部品と被組付部品の相対的な並進位置ズレ及び角度ズレを能動的に修正する、多関節形のロボットが知られている。
【0003】
また、特許文献2のように、少なくとも一指の指先における正圧力と摩擦力を検出する手段を備え、対象物体を把持する前に検出手段に対応する指先を把持対象物体の表面で滑らせて、その際の摩擦力と正圧力から対象物体表面における摩擦係数を推定し、この推定摩擦係数を用いて物体の滑りを予想して把持力を適正に制御するロボットハンドの把持力制御方法が知られている。この正圧力と摩擦力を検出する手段は、指の根元に配置される6軸力センサと、この6軸力センサの出力、指先の位置、姿勢から正圧力及び摩擦力を求める変換手段とを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平3-19683号公報
【特許文献2】特開2005-144573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1及び2に示されるような、電動モータや油圧アクチュエータにより駆動されるロボットハンドは、主として工場で用いられる高剛性且つ高把持力なロボットハンドであり、食品や小部品などの比較的小さな、定型でなくて壊れやすい軽量の被把持物のハンドリングには適していない。また、このようなロボットハンドは、重量のあるアームを高速で動かすため、その作業範囲内に作業者が入ると危険であり、協働ロボットとしての使用については制約を受ける。
【0006】
一方、流体を駆動源としてフィンガー部を屈曲させて被把持物を把持するソフトフィンガーを有するロボットハンドも知られている。このソフトフィンガーによれば、壊れやすい被把持物のハンドリングも可能であるが、電動モータや油圧アクチュエータによって駆動されるロボットハンドに比べて把持力が弱いため、把持中の搬送時に移動の加減速に対応できず、柔らかく掴んだ被把持物が意図せず滑って飛んでしまうという問題がある。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、柔らかくて強く掴むことができない被把持物であっても移動時に滑ることなく搬送できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、第1の発明では、
駆動流体圧によって内部を加圧状態とすることにより伸長部位と非伸長部位とでひずみを発生させ、屈曲運動をすることにより、互いに協働して被把持物を掴む複数のソフトフィンガーと、
前記複数のソフトフィンガーの少なくとも1つの先端に設けた力覚センサと、
前記力覚センサの値から、前記被把持物の滑り動作の方向と同じ接線方向の力である剪断力と、前記被把持物の表面に直交する方向の力である把持力との比よりなる滑り指標が所定閾値以上となったとき、滑りが発生したと判断して前記複数のソフトフィンガーによる把持力を高くする制御部とを備えている。
【0009】
通常、摩擦係数は基本的に互いに接触している物体表面の特性で決まる値であることから、把持力の大きさに無関係である。このため、質量や圧壊度が異なる種々の被把持物を把持対象とした場合であっても、上記の構成のような滑り指標を設定して閾値を超えた場合に、把持力を大きくすることで、効果的に被把持物の滑りを防止できる。
【0010】
第2の発明では、駆動流体圧によって内部を加圧状態とすることにより伸長部位と非伸長部位とでひずみを発生させ、屈曲運動をすることにより、互いに協働して被把持物を掴む複数のソフトフィンガーと、
前記複数のソフトフィンガーの少なくとも1つの先端に設けた力覚センサと、
前記ソフトフィンガーの伸長部位側に設けられ、伸長部位側にテンションを掛けることで、内部圧力増加による前記ソフトフィンガーの全体の剛性を向上させる弾性部材と、
前記力覚センサの値から、前記被把持物の表面に直交する方向の力である把持力を検出したとき、駆動流体圧を高めて内部圧力を増加させて前記複数のソフトフィンガーの剛性を高めるように前記駆動流体圧を高める制御部とを備えている。
【0011】
上記の構成によると、さらに、弾性部材を伸長部位側に設けることにより、弾性部材が設けられていない場合と同じ湾曲角度を得るためには、より高い内部圧力が必要となり、結果としてソフトフィンガーの剛性を高めることが可能となる。このような拮抗状態にすることで、湾曲角度や把持力を不変のままソフトフィンガーの剛性のみを可変にできる。つまり、被把持物に最適な把持力を維持したまま、搬送の加減速時に剛性を高めることで指先部に作用する慣性力の影響を低減することができ、また、ソフトフィンガーの剛性を高く設定しておけば、搬送用のマニピュレータ加速度=ソフトフィンガーの加速度とみなすことができ、どの程度の加速度であれば指先で滑りが生じないというような計画ができる。
【0012】
第3の発明では、第1又は第2の発明において、
前記ソフトフィンガーの先端に設けられ、被把持物への接触面積を変えることで前記被把持物を掴む把持角度変更機構をさらに有し、
前記力覚センサは、前記把持角度変更機構に設けられている。
【0013】
上記の構成によると、把持角度変更機構を設けているので、適切な角度とすることで、大きさの異なる被把持物に把持力を加えることができる。また、その先端に力覚センサを設けているので、適切に把持力を検出できる。
【0014】
第4の発明では、
複数のソフトフィンガーと、前記複数のソフトフィンガーの少なくとも1つの先端に設けた力覚センサと、制御部とを備えた、把持装置の制御方法であって、
前記制御部により、駆動流体圧によって内部を加圧状態とすることにより伸長部位と非伸長部位とでひずみを発生させ、屈曲運動をすることにより、互いに協働して被把持物を掴み、
前記把持装置が接続された搬送手段により、前記被把持物を掴んだ状態で前記被把持物を搬送しながら前記制御部が、前記力覚センサの検出値から、前記被把持物の滑り動作の方向と同じ接線方向の力である剪断力と、前記被把持物の表面に直交する方向の力である把持力との比よりなる滑り指標を計算し、
前記制御部が、前記滑り指標が所定の閾値以上となったのを検出したときに、滑りが発生したと判定し、
前記制御部が、前記駆動流体圧を増加させ、前記被把持物が滑るのを防止する構成とする。
【0015】
摩擦係数は基本的に互いに接触している物体表面の特性で決まる値であることから、把持力の大きさに無関係である。このため、質量や圧壊度が異なる種々の被把持物を把持対象とした場合であっても、上記の構成のような滑り指標を設定して閾値を超えた場合に、駆動流体圧を増加させることで、把持力を向上させるなどにより、効果的に被把持物の滑りを防止できる。
【0016】
第5の発明では、
複数のソフトフィンガーと、前記複数のソフトフィンガーの少なくとも1つの先端に設けた力覚センサと、前記ソフトフィンガーの伸長部位側に設けられ、伸長部位側にテンションを掛けることで、内部圧力増加による前記ソフトフィンガーの全体の剛性を向上させる弾性部材と、制御部とを備えた、把持装置の制御方法であって、
前記制御部により、駆動流体圧によって内部を加圧状態とすることにより伸長部位と非伸長部位とでひずみを発生させ、屈曲運動をすることにより、互いに協働して被把持物を掴み、
前記被把持物を掴んだ状態で、前記力覚センサの検出値から、前記被把持物の表面に直交する方向の力である把持力を検出し、
前記制御部が、前記把持力が0よりも大きくなったのを検出したときに、前記駆動流体圧を増加させて前記ソフトフィンガーの全体の剛性を向上させる前記把持装置が接続された搬送手段により前記被把持物を搬送する構成とする。
【0017】
上記の構成によると、弾性部材を伸長部位側に設けることにより、弾性部材が設けられていない場合と同じ湾曲角度を得るためには、より高い内部圧力が必要となり、結果としてソフトフィンガーの剛性を高めることが可能となる。このような拮抗状態にすることで、湾曲角度や把持力を不変のままソフトフィンガーの剛性のみを可変にできる。つまり、把持力を検出したときに、その被把持物に最適な把持力を維持したまま、搬送の加減速時に剛性を高めることで指先部に作用する慣性力の影響を低減することができ、また、ソフトフィンガーの剛性を高く設定しておけば、搬送用のマニピュレータ加速度=指先の加速度とみなすことができ、どの程度の加速度であれば指先で滑りが生じないというような計画ができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、滑り指標が所定閾値以上となったとき、滑りが発生したと判断してソフトフィンガーによる把持力を高くするか、又は把持力を検出したときに複数のソフトフィンガーの剛性を高めるように、駆動流体圧を高めるようにしたことにより、柔らかくて強く掴むことができない被把持物であっても移動時に滑ることなく搬送できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1A】本願発明の実施形態1に係る把持装置の一対のソフトフィンガーが伸長した非把持状態を示す斜視図である。
図1B】本願発明の実施形態1に係る把持装置の一対のソフトフィンガーが屈曲した把持状態を示す斜視図である。
図1C】本願発明の実施形態1に係る把持装置の一対のソフトフィンガーが屈曲して被把持物を掴んだ状態を示す正面図である。
図2A】非把持状態での圧力室の様子を示す断面図である。
図2B】把持状態での圧力室の様子を示す断面図である。
図3】6軸力覚センサ測定部の検知要素を示す斜視図である。
図4】摩擦力の式及びそれを説明するための図である。
図5】本願発明の実施形態1に係る把持装置のブロック図である。
図6】本願発明の実施形態2に係る把持装置の背面ベルトを有するソフトフィンガーを示す側面図である。
図7】本願発明の実施形態2に係る把持装置の制御フローを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
(実施形態1)
図1A図2Bは、本発明の実施形態の把持装置1を示し、この把持装置1は、第1指部2と第2指部3の2本のソフトフィンガー4を有する。各ソフトフィンガー4は、駆動流体圧によって内部を加圧状態とすることにより伸長部位と非伸長部位とでひずみを発生させ、屈曲運動をすることにより、互いに協働して被把持物P(図1Cにのみ示す)を掴むように構成されている。ソフトフィンガー4は、被把持物Pの構成に合わせて3本以上設けられていてもよい。把持装置1は、例えば、電動モータ等で駆動される、搬送手段としての搬送用多軸ロボットの先端に、エンドエフェクタ部として接続されている。
【0022】
図2A及び図2Bに示すように、ソフトフィンガー4は、例えば、主にエラストマやゴム部材等の弾性部材で構成され、内部に駆動流体が流れ込む流体室4a,4bを有する。流体室4aには、エアチューブ7を介してコンプレッサなどの圧力源8(図5にのみ示す)から所定圧力のエアが供給され、非伸長部位で被把持物Pに向かって内側に屈曲する。なお、図2A図2Bは、第2指部3のソフトフィンガー4について描いているが、基本的に第1指部2と第2指部3の2本のソフトフィンガー4は、互いに左右対称形状である。
【0023】
それぞれのソフトフィンガー4の先端には、被把持物Pへの接触面積を変えることで被把持物Pを掴む把持角度変更機構5が設けられている。この把持角度変更機構5は、後述するコントローラ20の指示により駆動される揺動手段(サーボモータなど)5aにより揺動軸5bを中心に揺動されるようになっている。例えば、小さい被把持物Pをつまむような場合、図1Cで上方に向かって、つまり、サーボモータ5aを微調整し、より屈曲させる方向に把持角度変更機構5を回動させることで、把持角度変更機構5の先端部分を互いに近付けるようにして小さめの被把持物Pを掴む。逆に大きめの被把持物Pを掴む場合は、図1Bで下方に向かって、つまり、サーボモータ5aを微調整し、拡げる方向に把持角度変更機構5を回動させることで、把持角度変更機構5の先端部分を互いに少し離すようにして、先端の腹部分で大きめの被把持物Pを掴むように構成されている。
【0024】
2本のソフトフィンガー4の先端(すなわち、把持角度変更機構5の先端)には、それぞれ6軸力覚センサ6が設けられている。図3に示すように、6軸力覚センサ6は、公知のものであり、その6軸センサ測定部6aは、X軸、Y軸、Z軸並びにこれらのX,Y,Z軸周りのモーメントの6つの情報を入手するように構成されている。
【0025】
また、図1では、2本のソフトフィンガーの先端のそれぞれに6軸力覚センサが設けられているが、どちらか1本のソフトフィンガーの先端に6軸力覚センサが設けられていればよい。
【0026】
詳細は後述するが、図5に示すように、本実施形態の把持装置1は、制御部としてのコントローラ20を備えている。このコントローラ20は、マイクロコンピュータ等よりなり、6軸力覚センサ6の値から、被把持物Pの滑り動作の方向と同じ接線方向の力である剪断力Fと、被把持物Pの表面に直交する方向の力である把持力Fとの比よりなる滑り指標F/Fが所定閾値以上となったとき、滑りが発生したと判断して複数のソフトフィンガー4による把持力Fを高くするように構成されている。
【0027】
(滑り検知と把持力制御)
図5に示すように、本実施形態の把持力制御では、コントローラ20がソフトフィンガー4の駆動流体圧力を制御することにより、ソフトフィンガー4の屈曲動作及び把持力Fの制御を行う。
【0028】
まず、コントローラ20により、搬送手段としての搬送用多軸ロボットを駆動して被把持物Pの近傍まで、図1Aで示す非把持状態の一対のソフトフィンガー4を近付ける。
【0029】
次いで、圧力源8からの圧縮エアの駆動流体圧によってソフトフィンガー4の内部を加圧状態とすることにより伸長部位と非伸長部位とでひずみを発生させ、屈曲運動をすることにより、図1Cに示すように、互いに協働して被把持物Pを掴む。このとき、コントローラ20は、曲げセンサ21の角度θを見ながらサーボモータ5aも調整して一対のソフトフィンガー4の先端で被把持物Pを掴む。つまり、被把持物Pの把持を行うため目標とする角度θまでの指部屈曲し、又は被把持物Pにソフトフィンガー4が接触し一定の把持力Fを得るまでソフトフィンガー4が屈曲し、初期の把持状態を得る。
【0030】
本実施形態では、把持角度変更機構5を設けているので、適切な角度とすることで、大きさの異なる被把持物Pに把持力Fを加えることができ、その先端に6軸力覚センサ6を設けているので、適切に把持力Fを検出できる。また、被把持物Pが比較的柔らかい食品等であれば、先端に6軸力覚センサ6を設けても耐久性の面で問題は生じ難い。
【0031】
ここで、図4を用いて基本的な摩擦力の式について説明する。物体に外力が加わった場合、摩擦力Fは、物体に加わる垂直抗力Nに対して摩擦係数がμとすると、F=μ×垂直抗力Nとなる。
【0032】
本実施形態において、把持した被把持物Pが滑り始めるのは、指先の6軸力覚センサ6の表面と被把持物P表面との間に作用する最大静止摩擦力が被把持物Pに作用する重力を下回った瞬間に生じる。この最大静止摩擦力は、静止摩擦係数をμ、被把持物P表面に直交する方向の力(以下、把持力という)をFとすると、μFと表される。
【0033】
μは定数であるため、Fに対して閾値を設ける等により、滑り検出を行うという考えもあるが、質量や圧壊の度合いが異なる種々の被把持物Pの把持を想定すると、最大静止摩擦力の大きさにも大小の幅が存在し、Fに対する閾値の設定は容易ではない。
【0034】
そのため、被把持物Pの表面において、滑り動作方向と同じ接線方向の力(以下、剪断力という)Fとの比である滑り指標F/Fを考える。
【0035】
被把持物Pが安定して保持されている状態では、F/Fの値は、物理的な意味を持たないが、滑り出す瞬間及び滑っている状態では、F/Fはそれぞれ静摩擦係数、動摩擦係数に相当する。
【0036】
これらの摩擦係数は、基本的に互いに接触している物体表面の特性で決まる値であり、把持力Fの大きさに無関係である。
【0037】
このため、本実施形態は、質量や圧壊度が異なる種々の被把持物Pを把持対象とした場合であっても、F/Fを滑り指標とし、これに閾値を設けることで、滑り検出が可能になるという考えに基づく。
【0038】
そして、指部先端に設けた6軸力覚センサ6により、6軸力及びモーメントの検知を行い、滑り指標F/Fを用いて滑りの検出を行う。滑り指標F/Fが所定の閾値Th以上となった場合、すなわち、ハイパスフィルタ22により、閾値Th以下のときは0とし、それ以外は通過させることで、閾値Thを超えたときには滑りが発生したと判断し、コントローラ20は、通常の圧力制御弁への入力情報に追加の値μ0を追加し、駆動流体の制御圧力pを増加させるように制御する。
【0039】
つまり、安定して把持している状態から滑り検出を行うことを想定すると、F/Fにハイパスフィルタ22をかけるとより効果的になる。これは、安定把持時には、F/Fは一定値をとるが、ハイパスフィルタ22の作用により、このような直流成分が除去され、安定把持時には、F/Fは0となるので、滑り発生時におけるF/Fの動的な変化に閾値Thを設定するのが容易となる。
【0040】
そこで、本実施形態では、搬送用多軸ロボットにより、被把持物Pを掴んだ状態で上下方向及び水平方向に加減速運動又は等速度運動をして被把持物Pを搬送しながら、コントローラ20が、6軸力覚センサ6の検出値から、被把持物Pの滑り動作の方向と同じ接線方向の力である剪断力Fと、被把持物Pの表面に直交する方向の力である把持力Fとの比よりなる滑り指標F/Fを計算する。
【0041】
次いで、コントローラ20が、滑り指標F/Fが所定の閾値Th以上となったのを検出したときに、滑りが発生したと判定する。具体的には、コントローラ20は、上述したハイパスフィルタ22を有しており、滑り指標F/Fが閾値Th以上となったときには(F/F≧閾値Th)、コントローラ20が、圧力制御弁9に新たな制御入力μ0を追加して制御入力uを送信し、駆動流体圧を増加させ、被把持物Pが滑るのを防止する。
【0042】
したがって、本実施形態に係る把持装置1によると、滑り指標F/Fが所定閾値Th以上となったとき、滑りが発生したと判断してソフトフィンガー4による把持力Fを高くすることにより、滑ることなく搬送できる。
【0043】
(実施形態2)
図6及び図7は本発明の実施形態2に係る把持装置1’を示し、弾性ベルト10を有する点が異なる点で上記実施形態1と異なる。なお、本実施形態では、図1A図5と同じ部分については同じ符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0044】
-弾性ベルトの構成-
本実施形態では、上記実施形態1の構成に加え、図6に示すように、ソフトフィンガー4の伸長部位側に、この伸長部位側にテンションを掛けることで、内部圧力増加によるソフトフィンガー4の全体の剛性を向上させる、弾性部材としての弾性ベルト10が設けられている。この弾性ベルト10の材質は特に限定されないが、例えば帯状のゴム製ベルトとする。
【0045】
弾性ベルトの張力付与及び張力解放については、ロボットハンドに設置した駆動装置にて行う。この駆動装置については、揺動駆動するサーボモータやエアロータリーシリンダ等を用いた巻取による方法、小サイズの直動シリンダ、マッキベン型のソフトアクチュエータ等といった、小ストロークでの一方向への引張と解放による方法などが挙げられる。ベルト部に張力を付与し、張力を解放することができればよいため、特にその駆動機構、駆動手法について制限を受けるものではない。
【0046】
-指部の可変剛性制御-
次に、弾性ベルト10が設けられている場合の指部の可変剛性制御フローについて図7を用いて説明する。
【0047】
まず、上述したように、把持装置1’に、上述した弾性ベルト10を設けておく。そして、制御部としてのコントローラ20が、把持力が発生したと判定して駆動流体圧を増加させたときに、ソフトフィンガー4の全体の剛性を向上させることで、搬送の加減速時に指先部に作用する慣性力の影響を低減する。この指部の剛性増加は、指部の屈曲及び把持動作を阻害しないように把持状態をとった後に行われる。
【0048】
具体的には、まず、ステップS01において、コントローラ20の指示により、把持装置1’による把持が開始される。詳しい説明は省略するが、コントローラ20の指示により、搬送用多軸ロボットがソフトフィンガー4を被把持物Pのある位置まで移動させる。
【0049】
次いで、ステップS02において、コントローラ20によって圧力制御弁9(図5にのみ示す)に対して制御入力が行われ、ソフトフィンガー4に圧力pのエアが送り込まれる。すると、ソフトフィンガー4の屈曲が開始され、図1Cに示すように、食品などの被把持物Pが掴まれる把持状態となる。
【0050】
次いで、ステップS03において、コントローラ20は、6軸力覚センサ6によって得られた情報を元に把持力Fが所定値α以上であるかどうかを判定する。Fがα以上であれば(F≧α)、ステップS04に進み、Fがαよりも小さいときには(F<α)、ステップS02に戻る。
【0051】
ステップS04では、コントローラ20は、ソフトフィンガー4が把持状態にあると判断し、弾性ベルトに張力を与え、内部流体圧力を増加させ指剛性を向上させる処理を開始する。具体的には、ソフトフィンガー4の強度から設定されるソフトフィンガー4の内部流体圧力まで流体圧を増加させる。このとき、弾性ベルト10がソフトフィンガー4の伸長部位側に設けられて屈曲駆動が制限されているので、流体圧が増加してもソフトフィンガー4の内部圧力のみが上昇し、被把持物Pに加わる把持力F自体は上昇せず、被把持物Pが潰れてしまうことはない。
【0052】
そのソフトフィンガー4の剛性が向上して被把持物Pが加減速時の慣性力の影響を受け難くなった状態で、ステップS05に進み、コントローラ20は搬送用多軸ロボットに指示を出して、加減速を伴う搬送動作を行う。このとき、ソフトフィンガー4の剛性が向上して指先部が加減速時の慣性力の影響を受け難くなった状態なので、慣性力の影響による把持力の変動を抑えられる。この結果、把持姿勢が崩れて被把持物が落下することを抑えられる。
【0053】
ステップS06で被把持物Pが目標位置に移動させられると、把持終了動作が行われる。具体的には、把持力Fが0となるように、コントローラ20は、指示を出す。本実施形態では、圧力制御弁9に制御信号を送り、流体圧を低下させ、ソフトフィンガー4の屈曲度を低減し、被把持物Pを離す。
【0054】
次いで、ステップS07において、FA=0になったかどうかが判定され、0になるとステップS08に進み、0になるまでステップS06に戻って把持終了動作が行われる。なお、本実施形態では、指剛性をある程度保ったまま、FAを0にすることができる。
【0055】
その後、ステップS08で、流体圧が低下され、さらに弾性ベルトの張力が解放されることにより指剛性が低下する。
【0056】
次いで、ステップS09に進んで、コントローラ20は、搬送用多軸ロボットに指示を出して次の被把持物P’の位置へ復帰移動が行われる。その後、ステップS02に戻る。
【0057】
このように、本実施形態では、弾性ベルト10を伸長部位側に設けたが、弾性ベルト10が設けられていない場合と同じ指部の屈曲角度を得るためには、より高い内部圧力が必要となり、結果としてソフトフィンガー4の剛性を高めることが可能となる。
【0058】
このような拮抗状態にすることで、屈曲角度や把持力Fを不変のままソフトフィンガー4の剛性のみを可変にできる。
【0059】
つまり、被把持物Pに最適な把持力Fを維持したまま、搬送の加減速時に剛性を高めることで指先部に作用する慣性力の影響を低減することができる。
【0060】
したがって、本実施形態に係る把持装置1’によると、6軸力覚センサ6によって把持力Fを検出したときに、複数のソフトフィンガー4の剛性を高めるように駆動流体圧を高めるようにしたことにより、柔らかくて強く掴むことができない被把持物Pであっても移動時に滑ることなく搬送できる。
【0061】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0062】
すなわち、上記実施形態では、力覚センサは、6軸力覚センサ6としたが、これに限定されず、例えば、複数のひずみゲージを適切な位置に設けてもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、制御部としてもコントローラ20の一例として、マイクロコンピュータを説明した。ただし、コントローラ20は、「把持装置1」を制御するものであれば、物理的にどのように構成してもよい。例えば、コントローラ20は、マイクロコンピュータやプログラマブルロジックコントローラ(PLC)等のように、ソフトウェア(プログラム)を利用するものであってもよい。あるいは、コントローラ20は、ハードウェア(回路部品)を組み合わせて実現してもよい。
【0064】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0065】
1,1’ 把持装置
2 第1指部
3 第2指部
4 ソフトフィンガー
4a 流体室
4c 被把持物側壁部
4d 側壁部
4e 伸長部位側壁部
5 把持角度変更機構
5a サーボモータ
5b 揺動軸
6 6軸力覚センサ(力覚センサ)
6a 6軸センサ測定部
7 エアチューブ
8 圧力源
9 圧力制御弁
10 弾性ベルト(弾性部材)
20 コントローラ(制御部)
21 曲げセンサ
22 ハイパスフィルタ
図1A
図1B
図1C
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7