(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113308
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】機械式時計
(51)【国際特許分類】
G04C 3/06 20060101AFI20240815BHJP
G04C 3/04 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
G04C3/06 B
G04C3/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018195
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【弁理士】
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【弁理士】
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 照彦
(57)【要約】
【課題】蓄電部の電圧が低下しても、指針が指示する時刻精度への影響を低減できる機械式時計を提供すること。
【解決手段】機械式時計は、ゼンマイと、ゼンマイからの動力により駆動されるテンプと、クロック信号を出力する発振回路と、テンプの振動を検出して振動検出信号を出力する振動検出手段と、永久磁石およびコイルを備える調速手段と、調速手段を制御してテンプを調速制御する調速制御手段と、調速制御手段に供給する電気エネルギーを蓄電する蓄電手段と電気エネルギーを発電する発電機と、を備え、永久磁石およびコイルの一方はテンプに保持され、調速制御手段は、クロック信号と振動検出信号とを比較し、コイルに電流を出力して発生させた電磁力を永久磁石に働かせてテンプを調速制御し、蓄電手段の蓄電量が所定値以下の場合に、テンプの調速制御を停止する停止状態に切り替えることを特徴とする。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゼンマイと、
前記ゼンマイからの動力により駆動されるテンプと、
クロック信号を出力する発振回路と、
前記テンプの振動を検出して振動検出信号を出力する振動検出手段と、
永久磁石およびコイルを備える調速手段と、
前記調速手段を制御して前記テンプを調速制御する調速制御手段と、
前記調速制御手段に供給する電気エネルギーを蓄電する蓄電手段と
前記電気エネルギーを発電する発電機と、を備え、
前記永久磁石および前記コイルの一方は前記テンプに保持され、
前記調速制御手段は、
前記クロック信号と前記振動検出信号とを比較し、前記コイルに電流を出力して発生させた電磁力を前記永久磁石に働かせて前記テンプを調速制御し、
前記蓄電手段の蓄電量が所定値以下の場合に、前記テンプの調速制御を停止する停止状態に切り替える
ことを特徴とする機械式時計。
【請求項2】
請求項1に記載の機械式時計において、
前記コイルと前記コイルに電流を供給する電源ラインとの間に接続された電源スイッチを備え、
前記調速制御手段は、前記電源スイッチをオフ状態にして前記停止状態に切り替える
ことを特徴とする機械式時計。
【請求項3】
請求項2に記載の機械式時計において、
前記電源ラインは、第1の電源ラインと、前記第1の電源ラインと異なる電位の第2の電源ラインとを備え、
前記電源スイッチは、
前記コイルの第1の端子と前記第1の電源ラインとの間に接続された第1のスイッチと、
前記コイルの第2の端子と前記第1の電源ラインとの間に接続された第2のスイッチと、
前記コイルの前記第1の端子と前記第2の電源ラインとの間に接続された第3のスイッチと、
前記コイルの前記第2の端子と前記第2の電源ラインとの間に接続された第4のスイッチと、
で構成され、
前記調速制御手段は、
前記第1のスイッチ、前記第2のスイッチ、前記第3のスイッチ、および前記第4のスイッチのオン状態およびオフ状態を制御し、前記コイルに流れる電流の向きを制御することで前記テンプを調速する調速状態と、
前記第1のスイッチ、前記第2のスイッチ、前記第3のスイッチ、および前記第4のスイッチをオフ状態に制御し、前記コイルに電流が流れない前記停止状態と、を切り替えて制御する
ことを特徴とする機械式時計。
【請求項4】
請求項3に記載の機械式時計において、
前記振動検出手段は、
前記コイルと、
前記コイルの前記第1の端子および前記第2の端子に接続され、前記テンプの振動に伴い前記コイルに対して相対的に移動する前記永久磁石によって前記コイルに流れる電流を検出する検出回路と、を備えて構成され、
前記調速制御手段は、
前記第1のスイッチおよび前記第2のスイッチの一方のスイッチをオン状態とし、前記第1のスイッチおよび前記第2のスイッチの他方のスイッチと、前記第3のスイッチおよび前記第4のスイッチとをオフ状態とする振動検出状態と、
前記第1のスイッチおよび前記第2のスイッチの一方のスイッチと、前記第3のスイッチおよび前記第4のスイッチの一方のスイッチとをオン状態とし、前記第1のスイッチおよび前記第2のスイッチの他方のスイッチと、前記第3のスイッチおよび前記第4のスイッチの他方のスイッチと、をオフ状態とする前記調速状態と、
前記第1のスイッチ、前記第2のスイッチ、前記第3のスイッチ、および前記第4のスイッチをオフ状態とする前記停止状態と、を切り替えて制御する
ことを特徴とする機械式時計。
【請求項5】
請求項1に記載の機械式時計において、
前記発電機は、前記永久磁石および前記コイルを備え、前記テンプの振動によって前記永久磁石および前記コイルが相対的に移動して発電する電磁発電機である
ことを特徴とする機械式時計。
【請求項6】
請求項1に記載の機械式時計において、
前記発電機は、ソーラーパネルを備えるソーラー発電機であることを特徴とする機械式時計。
【請求項7】
請求項6に記載の機械式時計において、
透光性の裏蓋を備え、
前記ソーラーパネルは、前記裏蓋を透過する光を受光して発電することを特徴とする機械式時計。
【請求項8】
請求項1に記載の機械式時計において、
前記発電機は、発電コイルと、ローターと、前記ローターを回転させる回転機構とを備えた電磁発電機であることを特徴とする機械式時計。
【請求項9】
請求項1に記載の機械式時計において、
前記発電機は、外部から印加された磁界により電磁誘導で発電する発電コイルを備えることを特徴とする機械式時計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、テンプを有する機械式時計に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ゼンマイを内蔵するバレルによって加えられる機械的エネルギーで駆動される輪列を備え、輪列の速度を調速するテンプを有する機械式時計において、テンプの運動をセンサーで検出し、水晶共振器およびクロック回路を有する補助発振器から出力されるデジタル基準信号に対するセンサーの検出信号の時間ドラフトを測定し、この時間ドラフトに応じて制動デバイスを作動させる制御回路を有する機械式時計が開示されている。
特許文献1では、エネルギー源である光起電力セルや熱電素子で生成された電気エネルギーを貯蔵デバイスに貯蔵し、貯蔵された電気エネルギーで制御回路を駆動している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の機械式時計では、貯蔵デバイスに貯蔵された電気エネルギーの電圧が低下した場合、制御回路による調速制御が正しく実行されず、機械式共振器であるテンプの動作に影響を与えてしまい、指針が指示する時刻精度に影響を与えてしまうという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の機械式時計は、ゼンマイと、前記ゼンマイからの動力により駆動されるテンプと、クロック信号を出力する発振回路と、前記テンプの振動を検出して振動検出信号を出力する振動検出手段と、永久磁石およびコイルを備える調速手段と、前記調速手段を制御して前記テンプを調速制御する調速制御手段と、前記調速制御手段に供給する電気エネルギーを蓄電する蓄電手段と前記電気エネルギーを発電する発電機と、を備え、前記永久磁石および前記コイルの一方は前記テンプに保持され、前記調速制御手段は、前記クロック信号と前記振動検出信号とを比較し、前記コイルに電流を出力して発生させた電磁力を前記永久磁石に働かせて前記テンプを調速制御し、前記蓄電手段の蓄電量が所定値以下の場合に、前記テンプの調速制御を停止する停止状態に切り替えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図3】機械式時計の要部の構成を示す概略斜視図である。
【
図4】機械式時計のテンプ、アンクル、ガンギ車を示す分解斜視図である。
【
図5】機械式時計のテンプの永久磁石およびコイルを示す側面図である。
【
図6】機械式時計のテン輪、永久磁石およびコイルを示す平面図である。
【
図7】機械式時計のテンプの動作を説明する図である。
【
図8】機械式時計の電子調速装置の構成を示す回路ブロック図である。
【
図9】機械式時計の調速部の構成を示す回路図である。
【
図10】機械式時計の振動検出波形を示す波形図である。
【
図11】機械式時計の調速制御を示すフローチャートである。
【
図12】機械式時計のテンプ調速制御を示すフローチャートである。
【
図13】機械式時計のテンプ調速制御用の調速制御信号を示すタイミングチャートである。
【
図14】機械式時計の香箱トルクカーブを示すグラフである。
【
図15】変形例の機械式時計を示す概略断面図である。
【
図16】他の変形例の電磁発電機を示す斜視図である。
【
図17】他の変形例の発電機を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の機械式時計1を図面に基づいて説明する。
機械式時計1は、
図1に示すように、ケース2と、文字板3と、時針4、分針5、秒針6と、りゅうず7と、日車8とを備える。
機械式時計1は、
図2に示すように、機械式ムーブメント10と、機械式ムーブメント10の精度を向上させる電子調速装置40とを備える。
機械式ムーブメント10は、一般的な機械式時計の機械式ムーブメントに対して、主にテンプ30の構成を変更したものである。機械式ムーブメント10は、
図3にも示すように、動力用のゼンマイ12、香箱歯車13、香箱真14および香箱蓋からなる香箱車11を備えている。ゼンマイ12は、外端が香箱歯車13、内端が香箱真14に固定される。香箱真14は、地板に設けられた支持部材に挿通されて角穴ネジによって固定され、角穴車15と一体で回転する。角穴車15は、りゅうず7により丸穴車16等を介して回転され、ゼンマイ12が巻き上げられる。
【0008】
香箱歯車13の回転は、増速輪列となる二番車17、三番車18、四番車19の各歯車を介して増速される。これらの各歯車17~19は、地板および輪列受け等で軸支されている。各歯車17~19によって、ゼンマイ12からの機械的エネルギーを伝達する輪列20が構成されている。なお、
図3では、三番車18に噛み合う秒かなに固定された秒針6のみが表示されているが、実際には、図示しない筒かなや筒車を介して駆動される分針5や時針4も設けられている。
機械式ムーブメント10は、ガンギ車21およびアンクル22を備えた脱進機と、テンプ30を備えた調速機とを備えている。脱進機は、四番車19を介してゼンマイ12から供給される機械的エネルギーを調速機に少しずつ供給して調速機の振動を維持させるとともに、調速機の振動周期に応じて輪列20の回転速度を制御している。
【0009】
テンプ30は、
図4~
図6にも示すように、上下2枚のテン輪31、32と、テン真33と、ヒゲゼンマイ34とを備えている。テンプ30は、テン輪31、32の中に細いヒゲゼンマイ34を仕込んだものであり、ヒゲゼンマイ34は一端がテン輪31、32の軸であるテン真33に固定され、反対の端がヒゲ持39を介して時計本体に固定されている。テンプ30のテン輪31、32は、等時性のあるヒゲゼンマイ34の伸縮で規則正しい往復回転運動を繰り返すことで振動する。
【0010】
テン輪31、32の互いに対向する対向面には、
図5にも示すように、永久磁石36が取り付けられている。永久磁石36は、ボタン型のネオジム磁石などで構成され、テン輪31に取り付けられた永久磁石361、362と、テン輪32に取り付けられた永久磁石363、364とを備える。
上下のテン輪31、32間には、コイル35が配置されている。コイル35は、後述するように、テンプ30に制動力や駆動力を与えてテンプ30の振動速度を調速する駆動コイルと、テンプ30の振動状態を検出する検出コイルと、永久磁石36およびコイル35が相対的に移動することで発電する発電コイルとを兼用している。
【0011】
永久磁石361および永久磁石363は、コイル35を挟んでテン真33の軸方向に互いに対向する位置に取り付けられ、永久磁石361はコイル35側がN極となり、永久磁石363はコイル35側がS極となる向きでテン輪31、32に固定されている。
永久磁石362および永久磁石364は、コイル35を挟んでテン真33の軸方向に互いに対向する位置に取り付けられ、永久磁石362はコイル35側がS極となり、永久磁石364はコイル35側がN極となる向きでテン輪31、32に固定されている。
このため、N極からS極に向かう磁力線は、
図5に示すように、永久磁石361から永久磁石363に向かう方向となり、永久磁石364から永久磁石362に向かう方向となり、これらの磁力線に直交するようにコイル35が設けられている。
【0012】
テン輪31、32は、ヒゲゼンマイ34によってテン真33を中心にして、一体で左右に往復回転運動し、永久磁石36はテン輪31、32に固定されているので、一体で左右に往復回転運動する。コイル35は、機械式ムーブメント10の図示しない支持板に固定されている。コイル35は、
図6に示すように、テン真33の軸方向から見た平面視で、左右に往復回転運動する永久磁石36が、往路および復路の中間位置を通過する際に、永久磁石36と重なる位置に配置されている。
また、テン輪31、32は、永久磁石361、362、363、364を取り付けることで、重量バランスに偏りが生じる。このため、テン輪31、32には、テン真33を挟んで永久磁石36とは反対側に、重量バランス調整用の重り38が取り付けられている。
【0013】
図7は、ガンギ車21、アンクル22、テンプ30の動きを説明する図である。
ゼンマイ12に蓄積された機械的エネルギーで輪列20を介してガンギ車21が回転すると、ガンギ車21の歯211によってアンクル22の爪石221、222が押され、アンクル22の爪石221、222とは反対側のクワガタ223が左右に移動してテンプ30の降り石37を押し、テン輪31、32を回転させる。振り石37は摩擦に強い人工ルビー製であり、クワガタ223の中央に留まろうとする性質を持っているが、アンクル22の爪石221、222がガンギ車21の歯211で押されてクワガタ223が左右に移動することで左右に振られ、これによりテン輪31、32が左右に回転し、左右に回りきった状態からヒゲゼンマイ34によってテン輪31、32は逆方向に回転する。
ここで、テン輪31、32の回転角度が270度であった場合、
図7(A)は、テン輪31、32が右方向(反時計回り)に回った後、ヒゲゼンマイ34によって左方向(時計回り)に回転し始めた状態である。
図7(B)は、テン輪31、32が左方向に135度回転した状態つまり左方向への回転の中間位置である。
図7(C)は、テン輪31、32が左方向に回った状態、つまりヒゲゼンマイ34によって右方向に回転し始める状態である。また、
図7(D)は、テン輪31、32が右方向に135度回転した状態つまり右方向への回転の中間位置であり、
図7(E)は、テン輪31、32が右方向に回った状態である。このため、
図7(A)の状態に戻り、以下、
図7(A)~(E)の動作が繰り返される。
本実施形態では、コイル35は、テン輪31、32が右方向および左方向に回転する中間位置に配置され、永久磁石36は、この中間位置においてコイル35と平面視で重なる位置に配置されている。
【0014】
電子調速装置40は、テンプ30の往復回転運動の周期を精度よく調整するものである。
図8は、電子調速装置40の回路ブロック図である。
図8に示すように、電子調速装置40は、発電部41、整流部42、調速部43、蓄電部44、電圧検出部45、振動子46、振動検出部47、制御部50を備えて構成される。
発電部41は、テンプ30に保持された永久磁石36と、コイル35とを備えて構成されて電気エネルギーを発電する発電機である。すなわち、発電部41は、テンプ30の往復回転運動に伴い、永久磁石36およびコイル35が相対的に移動することで発電する電磁発電機である。
整流部42は、昇圧整流、全波整流、半波整流、トランジスター整流等からなり、発電部41からの交流出力を整流して、蓄電部44に充電供給する。なお、発電部41がソーラーセルなどの直流発電機の場合は、整流部42は設けられない。
【0015】
調速部43は、テンプ30の往復回転運動の速度を調速する調速手段であり、コイル35と永久磁石36と、
図9に示す電源スイッチ430とを備えて構成される。
電源スイッチ430は、制御回路53で制御され、コイル35とコイル35に電流を供給する電源ラインVDD、VSSとの間に設けられた第1のスイッチ431と、第2のスイッチ432と、第3のスイッチ433と、第4のスイッチ434とを備える。すなわち、各スイッチ431~434は、制御回路53から出力される制御信号P1、P2、N1、N2によってオン状態およびオフ状態が制御される。
第1のスイッチ431は、コイル35の第1の端子351と、第1の電源ラインVDDとの間に接続されたPチャネルの電界効果型トランジスターである。第2のスイッチ432は、コイル35の第2の端子352と、第1の電源ラインVDDとの間に接続されたPチャネルの電界効果型トランジスターである。
第3のスイッチ433は、コイル35の第1の端子351と、第2の電源ラインVSSとの間に接続されたNチャネルの電界効果型トランジスターである。第4のスイッチ434は、コイル35の第2の端子352と、第2の電源ラインVSSとの間に接続されたNチャネルの電界効果型トランジスターである。
【0016】
蓄電部44は、二次電池やコンデンサーなどで構成される。蓄電部44は、第1の電源ラインVDD、第2の電源ラインVSSを介して、整流部42、調速部43、電圧検出部45、制御部50に接続されている。このため、発電部41で発電された電気エネルギーは、整流部42を介して蓄電部44に蓄えられる。また、蓄電部44に蓄積された電気エネルギーは、制御部50や調速部43に供給される。蓄電部44が設けられることで、発電部41の発電が停止している間も、蓄電部44に蓄えた電気エネルギーで制御部50を作動できるので、電子調速装置40によるテンプ30の調速制御も継続できる。したがって、蓄電部44は、後述する調速制御手段である制御回路53に供給する電気エネルギーを蓄積する蓄電手段である。
蓄電部44は、全固体電池を用いることが好ましい。全固体電池は、電池容量は少ないが、経時性能劣化は殆ど無い特徴があり、長く使い続けることができる機械式時計1の蓄電部44として適している。機械式時計1は、ゼンマイ12によって時針4、分針5、秒針6等の指針を駆動しており、発電部41および蓄電部44は、制御部50を構成するICを駆動させるために必要な僅かな電力を発電、蓄電できればよい。例えば、ステップモーターによって指針を運針するアナログクオーツ時計の消費電力に対し、本実施形態のような電子調速を行う機械式時計1の消費電力は1/20程度である。したがって、発電部41は、発電電力が小さい小型の発電機を利用でき、テンプ30の往復回転運動による永久磁石36およびコイル35の電磁誘導による発電機を利用できる。また、蓄電部44は、電池容量が少ない二次電池、例えば全個体電池を利用できる。
【0017】
電圧検出部45は、蓄電部44の電圧を検出し、検出結果を制御部50に出力する。したがって、電圧検出部45は、蓄電部44の蓄電量を検出する。
振動子46は、水晶振動子やシリコン製のMEMS振動子である。MEMSは、Micro Electro Mechanical Systemsの略語であり、MEMS振動子を用いた場合、水晶振動子に比べて精度は劣るが小型化が可能である。振動子46は、所定周波数のクロック信号を制御部50に出力する。
【0018】
振動検出部47は、テンプ30の振動を検出し、検出回路52に振動波形を出力するものであり、部品の共通化のために、駆動コイルおよび発電コイルと兼用されるコイル35と、テン輪31、32に保持された永久磁石36とを備えて構成される。駆動用および発電用のコイル35を振動検出用に兼用すれば、別途、専用の振動検出部47を設ける場合に比べて、機械式時計1の小型化や低コスト化のメリットがある。
なお、振動検出部47は、テン輪31、32の往復回転運動を検出できればよいため、LEDおよびフォトトランジスターを用いた光検出方式でもよい。この光検出方式は、コイル35を用いた磁気検出方式に比べて検出時の消費電力は大きいが、外部磁界ノイズの影響を受けないメリットがある。また、振動検出部47は、機械接点方式でもよく、この場合、摩擦損失が大きくなるがコストが安く外部磁界ノイズの影響を受けないメリットがある。
本実施形態では、テンプ30が振動すると、コイル35に対して永久磁石36が相対的に移動するため、コイル35に誘起電圧が生じる。コイル35に生じる誘起電圧波形は、
図10(A)に示すテンプ30の往路の波形と、
図10(B)に示すテンプ30の復路の波形とで逆向きとなり、誘起電圧の振幅が最も大きなピーク値を検出することで、テンプ30の振動位相を検出することができる。例えば、テンプ30の半周期を1つの振動とした場合、1秒間に6振動に設定されている場合は、後述する検出回路52は、1秒間に往路で3回、復路で3回の計6回、検出信号を検出する。
【0019】
図8に示すように、制御部50は、発振回路51、検出回路52、制御回路53を備えている。
発振回路51は、振動子46を発振させ、発振信号を分周して所定周波数の基準クロックを制御回路53に出力する。基準クロックの周波数は、テンプ30の振動周期に応じて設定される。例えば、テンプ30が1秒間に6振動に設定されている場合は、基準クロックの周波数を6Hzに設定すればよい。
【0020】
検出回路52は、
図9にも示すように、コイル35の第1の端子351、第2の端子352に接続され、テンプ30の振動に伴いコイル35に対して相対的に移動する永久磁石36によってコイル35に流れる電流を検出する。すなわち、検出回路52は、テンプ30の1振動毎に振動検出部47であるコイル35から出力される誘起電圧波形を検出し、振動検出信号を制御回路53に出力する。
したがって、本実施形態では、コイル35と永久磁石36とで振動検出部47が構成され、この振動検出部47および検出回路52を備えて振動検出手段が構成されている。
【0021】
制御回路53は、テンプ30の振動位相の適切なタイミングで電源スイッチ430を制御し、コイル35に流れる電流の向きを切り替え、コイル35に電流を流すことで生じる電磁力を永久磁石36に影響させることで、テンプ30を加速させる駆動力または減速させる制動力を与えることができる。したがって、制御回路53は、調速手段を制御してテンプ30を調速する調速制御手段である。
すなわち、制御回路53は、発振回路51から入力される基準クロックの入力タイミングと、検出回路52から入力される振動検出信号の入力タイミングとを比較する。そして、振動検出信号が基準クロックよりも進んでいる場合は、テンプ30に制動力を与えるタイミングでコイル35に制動力が生じる向きに電流が流れるように各スイッチ431~434を制御する。また、振動検出信号が基準クロックよりも遅れている場合は、テンプ30に駆動力を与えるタイミングでコイル35に駆動力が生じる向きに電流が流れるように各スイッチ431~434を制御する。
また、制御回路53は、電圧検出部45で検出した蓄電部44の電圧が調速停止電圧以下、つまり蓄電部44の蓄電量が所定値以下の場合は、テンプ30の調速制御を停止する停止状態に切り替え、各スイッチ431~434をオフ状態にして各電源ラインVDD、VSSとコイル35との接続を切り離す。これにより、コイル35には電流が流れないため電磁力が発生せず、テンプ30の永久磁石36にも影響しなくなるため、テンプ30の振動周期は、ヒゲゼンマイ34によって設定される通常の機械式時計の精度となる。
【0022】
次に、テンプ30の調速制御に関して、
図11および
図12のフローチャートと、
図13のタイミングチャートとを用いて説明する。
機械式時計1では、りゅうず7によってゼンマイ12を巻き上げることで起動を開始する。すなわち、ゼンマイ12に蓄積された機械的エネルギーで輪列20を介してガンギ車21が回転すると、アンクル22が左右に揺動し、テンプ30のテン輪31、32が左右方向に振動する。テン輪31、32の振動により、永久磁石36とコイル35とが相対的に移動し、コイル35に起電力が発生し、発電した電気エネルギーが蓄電部44に蓄えられることで蓄電部44の電圧が上昇して制御部50等のシステムが起動し、発振回路51により振動子46が作動する。このため、制御部50の制御回路53は、起動開始時に、ステップS1を実行し、振動子46の発振を検出したか否かを判定する。
制御回路53は、ステップS1で発振検出がNOと判定した場合は、発振検出を継続する。制御回路53は、ステップS1で発振検出がYESと判定した場合は、ステップS2を実行し、電圧検出部45によって蓄電部44の電圧を検出する。
次に、制御回路53は、ステップS3を実行し、蓄電部44の電圧が予め設定された所定の電圧値以上となったか、つまり調速開始電圧以上となったことを検出したか否かを判定する。制御回路53は、ステップS3でNOと判定した場合は、ステップS2、S3の処理を繰り返す。
【0023】
制御回路53は、ステップS3でYESと判定した場合は、ステップS10を実行し、テンプ調速制御を開始する。
制御回路53は、ステップS10のテンプ調速制御を開始すると、
図12に示すように、ステップS11を実行してテンプ振動を検出する。すなわち、制御回路53は、電源スイッチ430を制御して、コイル35でテンプ30の振動を検出できる振動検出状態とする。例えば、
図13に示すように、テンプ30の振動を検出する検出期間は、電源ラインVDDに接続される第1のスイッチ431または第2のスイッチ432のみをオン状態にし、残りのスイッチをオフ状態にし、駆動コイルを兼ねる検出用のコイル35を基準電位と接続させる。テン輪31、32が回転し、永久磁石36がコイル35に近づくと、
図10に示すように、コイル35に誘起電圧波形が生じる。このため、検出回路52は、テン輪31、32の回転方向と、振動位相つまりテン輪31、32に保持された永久磁石36とコイル35との位置関係で設定される振動検出位置まで回転したことを検出できる。
【0024】
制御回路53は、ステップS12を実行し、発振回路51から入力される基準クロックと、検出回路52から入力される振動検出信号とを比較し、テン輪31、32の振動が設定値、例えば1秒間に6振動よりも進んでいるか、遅れているか、あるいは設定値と一致するかを判定する。
制御回路53は、テン輪31、32の振動が設定値よりも進んでいると判定した場合は、ステップS13を実行し、テン輪31、32に制動力を加えるために遅れパルスを出力する。制御回路53は、テン輪31、32の振動が設定値よりも遅れていると判定した場合は、ステップS14を実行し、テン輪31、32に駆動力を加えるために進みパルスを出力する。また、制御回路53は、テン輪31、32の振動が設定値に一致し、調速が不要と判定した場合は、調速用のパルス出力は行わない。
遅れパルス、進みパルスは、対となる第1のスイッチ431および第4のスイッチ434をオン状態にする、あるいは、第2のスイッチ432および第3のスイッチ433をオン状態にする調速制御信号であり、本実施形態では予め設定された固定幅のパルスである。
制御回路53は、テンプ30を調速する調速状態では、テン輪31、32の永久磁石36がコイル35と重なる適切なタイミングで、遅れパルスまたは進みパルスを電源スイッチ430に出力し、第1のスイッチ431および第4のスイッチ434をオン状態にする、あるいは、第2のスイッチ432および第3のスイッチ433をオン状態にして、コイル35に電流を流して電磁力を発生させる。コイル35に流れる電流の向きを変えることで、テン輪31、32に取り付けた永久磁石36に対して、電磁力によって吸引あるいは反発の力を切り替えて制御することができる。
このため、テンプ30に制動力を加えて減速したり、駆動力を加えて加速することができる。例えば、テン輪31、32の振動により、永久磁石36がコイル35から離れ始めるタイミングで永久磁石36に対して吸引する電磁力を発生させれば、テン輪31、32の振動を減速できる。逆に、永久磁石36がコイル35から離れ始めるタイミングで永久磁石36に対して反発する電磁力を発生させれば、テン輪31、32の振動を加速できる。
図13に示すタイミングチャートでは、最初の検出期間の検出結果により、第1のスイッチ431、第4のスイッチ434をオン状態にして調速制御を行っている。次の検出期間の検出結果により、前回と異なる第2のスイッチ432、第3のスイッチ433をオン状態にして調速制御を行っている。ただし、各検出期間の検出結果によっては、前回と同じスイッチがオン状態に制御される場合もある。すなわち、制御回路53は、テン輪31、32の回転方向と、制御回路53から出力されるパルスの種類、つまり遅れパルスまたは進みパルスのいずれであるかとによって、どのスイッチをオン状態にするかを制御する。また、制御回路53は、遅れパルスまたは進みパルスの出力後、次の検出期間までの間は、すべてのスイッチ431~434をオフ状態に切り替えて、コイル35の第1の端子351、第2の端子352を、第1の電源ラインVDDおよび第2の電源ラインVSSから電気的に切り離してオープン状態に制御する。
【0025】
次に、制御回路53は、ステップS15を実行し、振動検出タイミングとなったか否かを判定する。例えば、テン輪31、32が1秒間に6振動する設定の場合は、1/6秒毎に振動検出タイミングが設定される。このため、前回の振動検出タイミングからの経過時間が1/6秒となれば、制御回路53はステップS15でYESと判定し、ステップS11のテンプ振動検出処理に戻ってテンプ調速制御を継続する。
一方、制御回路53は、ステップS15でNOと判定した場合は、ステップS16を実行し、電圧検出タイミングとなったか否かを判定する。電圧検出タイミングは、所定時間間隔、たとえば60秒間隔に設定され、制御回路53は、前回の電圧検出から所定時間経過していない場合は、ステップS16でNOと判定し、ステップS15に戻って処理を継続する。
【0026】
一方、制御回路53は、ステップS16でYESと判定すると、ステップS10のテンプ調速制御を一旦終了し、
図11に示すように、ステップS4を実行し、電圧検出部45によって蓄電部44の電圧を検出する。
次に、制御回路53は、ステップS5を実行し、蓄電部44の電圧が予め設定された調速停止電圧以下であるかを判定する。調速停止電圧は、ICである制御部50の動作電圧よりも高い電圧である。また、調速停止電圧は、振動子46の発振停止電圧よりも高い電圧である。さらに、調速停止電圧と調速開始電圧とは、同じ電圧でもよいが、調速制御を開始してから短時間で調速停止状態に移行することを防止するため、調速開始電圧を調速停止電圧よりも高い電圧に設定することが好ましい。
制御回路53は、ステップS5でNOと判定した場合は、ステップS10のテンプ調速制御を再開する。
【0027】
制御回路53は、ステップS5でYESと判定した場合は、ステップS6を実行し、調速制御を停止し、
図13に示すように、すべてのスイッチ431~434をオフ状態に切り替えて、コイル35の第1の端子351、第2の端子352を、第1の電源ラインVDDおよび第2の電源ラインVSSから電気的に切り離してオープン状態にして、電子調速装置40による調速制御を停止状態に切り替える。
コイル35がオープン状態となると、コイル35に電磁力が発生せず、テンプ30は一般的な機械式時計と同じく、ヒゲゼンマイ34による機械的な調速制御のみとなる。このため、機械式時計1の精度は、クオーツ時計の月差精度、例えば月差±15秒を維持することはできないが、一般的な機械式時計と同様の日差精度は維持することができる。
【0028】
次に、制御回路53は、ステップS7を実行し、ステップS6の調速制御を停止してから所定時間、例えば、24時間が経過したか否かを判定する。制御回路53は、ステップS7でNOと判定した場合は、ステップS4に戻り、制御を継続する。このため、蓄電部44の電圧が一時的に低下しても、その後、調速停止電圧よりも大きくなれば、テンプ調速制御を再開できる。例えば、蓄電部44の電圧低下の要因が、ゼンマイ12が解けて輪列20に加わる機械的エネルギーが低下した場合であれば、ユーザーがゼンマイ12を巻き上げることで蓄電部44の電圧を上昇させることで、テンプ調速制御を再開することができる。
【0029】
制御回路53は、ステップS7でYESと判定した場合、つまり蓄電部44の電圧が調速停止電圧以下に低下したまま、所定時間が経過すると、ステップS8を実行し、発振回路51への電源供給を強制的に停止して振動子46の発振を止め、エネルギー消費を抑えて蓄電エネルギーを保持し、制御部50つまりICが作動できる電圧を維持して次回の発電後の起動に備える待機モードに移行する。
待機モードにおいて、ユーザーがゼンマイ12を巻き上げて起動を開始すると、
図11のステップS1からの制御を実行する。
以上のとおり、調速制御手段である制御回路53は、各スイッチ431~434のオン状態およびオフ状態を制御することで、テンプ30の振動を検出する振動検出状態と、コイル35に流れる電流の向きを制御することでテンプ30を調速する調速状態と、各スイッチ431~434をオフ状態に制御し、コイル35に電流が流れない停止状態と、を切り替えて制御する。
【0030】
[実施形態の効果]
本実施形態によれば、ゼンマイ12で輪列20を作動して運針し、ガンギ車21、アンクル22、テンプ30によって調速する機械式時計1において、調速機であるテンプ30の振動を検出した振動検出信号と、振動子46からのクロック信号とを比較した結果に基づいてテンプ30の振動を調速できるため、機械式時計1の時刻精度をクオーツ時計レベルに向上できる。
蓄電部44の電気エネルギーが減少し、調速停止電圧以下に電圧が低下して電子調速ができなくなった場合は、電源スイッチ430をオフ状態にしてコイル35を電源ラインVDD、VSSから切り離す停止状態に切り替えているので、コイル35がテンプ30の機械的な調速に影響を与えることを確実に防止できる。このため、調速制御の停止状態では、指針が指示する時刻精度を一般的な機械式時計の精度に維持でき、時刻精度が著しく低下することを防止できる。
また、制御回路53は、遅れパルスまたは進みパルスの出力後、次の検出期間までの間も、電源スイッチ430をオフ状態とすることで、コイル35がテンプ30の機械的な調速に影響を与えることを防止できる。
【0031】
テンプ30の調速を、テン輪31、32に設けた永久磁石36と、電流を流すことによって電磁力を発生させるコイル35とを用いて行っているので、テンプ30に制動力を加えて減速する調速と、テンプ30に駆動力を加えて加速する調速とを実行することができる。特に、テンプ30を加速することができるため、ゼンマイ12のトルクが小さい領域、つまり巻き戻し速度が遅い期間も調速することができる。
このため、
図14に示すように、ゼンマイ12で機械式時計1を調速できる持続時間を延ばすことができる。すなわち、テンプ30を制動力のみで調速制御する場合、巻き戻しトルクがT1に低下すると調速制御することができないため、テンプ30を電子調速装置40で調速できるのは、ゼンマイ12の巻解け数で10.5巻までであり、それ以降のゼンマイ12のトルクが小さい領域は、テンプ30の電子調速制御が停止されるため、一般的な機械式時計の精度になる。
一方、本実施形態のように、テンプ30を制動力および駆動力で調速制御する場合、巻き戻しトルクがT1よりも小さいT2まで調速制御することができ、ゼンマイ12の巻解け数で13巻まで調速制御できる。このため、機械式時計1は、クオーツ時計の精度で駆動できる持続時間を、ゼンマイ12の13巻まで延ばすことができる。
【0032】
電源スイッチ430を、4つのスイッチ431~434からなるブリッジ回路で構成しているので、制御回路53は、コイル35に流れる電流の方向を容易に変更でき、永久磁石36に対して制動力および駆動力を簡単な制御で選択して加えることができ、テンプ30の進みや遅れの調速制御を簡単な回路構成で実現できる。
さらに、制御回路53は、各スイッチ431~434のオン状態およびオフ状態を適宜設定することで、振動検出状態、調速状態、停止状態を容易に切り替えて制御することができる。
調速手段である永久磁石36およびコイル35を発電機として兼用するため、別途、発電機を設ける必要が無い。このため、調速手段とは独立した発電機を設ける場合に比べて、部品数を少なくできてコストを低減でき、機械式時計1を小型化、薄型化できる。
【0033】
[変形例]
なお、本発明は前記各実施形態に限定されず、本発明の要旨の範囲内で種々の変形実施が可能である。
例えば、
図15に示す機械式時計1Bのように、発電機としてソーラーパネル65を用いてもよい。機械式時計1Bは、ケース2Bの裏蓋60として、ガラス裏蓋61と、ガラス裏蓋61の外周を保持する保持リング62とを備える。そして、機械式ムーブメント10Bの裏蓋60側に、ソーラーパネル65が取り付けられている。ソーラーパネル65は、ガラス裏蓋61を透過した光を受光して発電する。
機械式時計1Bの機械式ムーブメント10Bには、機械式時計1と同様に、ゼンマイ12を内蔵する香箱車11や、全固体電池で構成される蓄電部44、水晶振動子で構成される振動子46が配置されている。なお、機械式ムーブメント10Bには、輪列20、ガンギ車21、アンクル22、テンプ30等も設けられているが、図示を省略する。
【0034】
機械式時計1Bによれば、前記実施形態と同様の作用効果を奏することができる。また、ソーラーパネル65は独立した発電機であるため、ゼンマイ12のトルク変動に影響されずに発電できる。さらに、テンプ30に設けられる永久磁石36やコイル35を発電機として兼用する必要が無いため、テンプ30の振動検出や調速に適した永久磁石36やコイル35を用いることができる。
ソーラーパネル65は、ガラス裏蓋61から受光するため、一般的な文字板側に配置したソーラーパネルに比べて発電量は少ないが、機械式時計1Bでは指針運針用のモーターを駆動する必要が無く、調速制御用の制御部50を駆動するだけでよいため、発電量が少なくても充分にエネルギーを賄うことができる。その上、文字板側にソーラーパネルを配置する場合は、光を透過させるプラスチック文字板を使う必要があるが、裏蓋60側にソーラーパネル65を設けた場合は、光を透過しない金属製の文字板等も利用でき、時計外観の制約がないため、質感を高めることができる。
【0035】
また、
図16に示すように、発電機としてゼンマイ12とは連結していない電磁発電機70を用いてもよい。電磁発電機70は、回転錘71と、動力伝達機構72と、発電機73とを備える。回転錘71は、回転軸71Aを回転中心として外部からの運動エネルギーにより回転自在に構成される。動力伝達機構72は、複数の歯車を組み合わせた増速輪列であり、回転錘71の回転をローター731に伝達する。したがって、回転錘71および動力伝達機構72は、ローター731を回転する回転機構である。
発電機73は、ローター731、ステーター732、発電コイル733を備え、回転錘71の回転が動力伝達機構72を介してローター731に伝達することで、ローター731の回転による起電力によって発電する。
【0036】
電磁発電機70を用いた場合も、前記実施形態と同様の作用効果を奏することができる上、電磁発電機70は独立した発電機であるため、機械式時計1Bと同様の効果を奏することができる。また、電磁発電機70は、前述のとおり、モーターを駆動しないため発電量は少なくてよく、そのため、一般的な自動巻きのクオーツ時計よりも回転錘71や発電機73を小さくでき、機械式時計を小型化、薄型化できる。
なお、回転錘71の回転運動は、発電に使うだけでなく、ゼンマイ12の巻き上げに利用してもよい。また手巻きの機械式時計をベースに組み合わせて、ゼンマイ12の巻上げは手巻きで行い、発電は回転錘71によるものとしてもよい。
【0037】
図17に示すように、機械式時計1Dに設ける発電機としては、外部充電器85からの電磁誘導によるワイヤレス充電機構を用いてもよい。機械式時計1Dは、ガラス裏蓋61Dおよび保持リング62Dを有する裏蓋60Dと、ムーブメントの裏蓋60D側に配置した受電用コイル81とを備える。ガラス裏蓋61Dを用いているのは、充電用の高周波信号を効率良く通過させるためである。
外部充電器85は、充電ユニット本体86と、送電用コイル87とを備える。充電ユニット本体86から送電用コイル87に120kHz程度の送電用信号を出力すると、送電用コイル87に電流が流れ、磁界が発生する。この磁界を受けた受電用コイル81には誘導電流が流れ、蓄電部44を充電することができる。したがって、受電用コイル81は、外部から印加された磁界により電磁誘導で発電する発電コイルである。
【0038】
このような外部充電器85および受電用コイル81を用いた場合も、前記実施形態と同様の作用効果を奏することができる上、外部充電器85、受電用コイル81はゼンマイ12の機械的エネルギーを利用しない発電機であるため、機械式時計1Bと同様の効果を奏することができる。また、外部充電器85からの磁界を受けて電流を発生するコイルとして、専用の受電用コイル81を用いているので伝達効率を向上できる。
なお、電磁発電機70の発電コイル733を受電用コイルとして用いてもよい。すなわち、発電コイル733を用いた場合でも、磁束の向きを外部充電器85の送電用コイル87と適切な位置関係で合わすことで、ワイヤレス充電を行うことができる。この場合、機械式時計をユーザーが手首に装着して利用している間は、回転錘71の回転運動による電磁誘導により蓄電部44を充電し、機械式時計を外部充電器85の送電用コイル87上に載置することで、外部充電器85を用いたワイヤレス充電で蓄電部44を充電することができる。
【0039】
テンプ30は、2枚のテン輪31、32を備えるものに限定されず、1枚のテン輪を備えるものでもよい。
また、コイル35をテン輪に取り付け、永久磁石36はムーブメント側に固定してもよい。例えば、1枚のテン輪にコイル35を取り付け、テン輪を挟んで対となる永久磁石361~364を配置してもよい。
永久磁石36の数は4つに限定されない。特に発電機を別途設け、コイル35を発電用には用いずにテンプ30の調速や振動検出に用いる場合は、永久磁石は少なくとも1つ設けられていればよい。この場合、コイル35はテン輪31、32間に配置されるものに限定されず、テンプ30の外周側や、テンプ30の文字板側あるいは裏蓋側に配置してもよい。
【0040】
前記実施形態では、コイル35は、振動検出用コイルと調速制御用コイルとを兼用していたが、振動検出用のコイルと、調速制御用のコイルとを別々に設けてもよい。
さらに、調速制御用コイルを複数設けてもよい。例えば、テン輪31、32の振動の中間位置に振動検出用コイルを配置し、この振動検出用コイルを挟んで左右に調速制御用コイルをそれぞれ配置してもよい。
【0041】
制御回路53は、調速制御信号として、パルス幅が一定の遅れパルス、進みパルスを出力していたが、クロック信号に対する振動検出信号の進み量、遅れ量に応じて、遅れパルス、進みパルスのパルス幅を調整し、制動力や駆動力を調整してもよい。
【0042】
前記実施形態では、蓄電部44の電圧が調速停止電圧以下になった場合、コイル35を第1の電源ラインVDD、第2の電源ラインVSSに接続するスイッチ431~434をすべてオフ状態にして調速制御を停止状態に切り替えていたが、例えば、コイル35と第1の電源ラインVDD、第2の電源ラインVSSとの間に高抵抗を配置することで停止状態としてもよい。すなわち、停止状態は、コイル35に電流が流れない、あるいは、電流が流れても極力小さな電流しか流れないようにして、コイル35で電磁力が発生しない、あるいは、調速制御に影響を与えない僅かな電磁力しか発生しないようにすることで、テンプ30の動作に影響を与えないものであればよい。
【0043】
[本開示のまとめ]
本開示の機械式時計は、ゼンマイと、前記ゼンマイからの動力により駆動されるテンプと、クロック信号を出力する発振回路と、前記テンプの振動を検出して振動検出信号を出力する振動検出手段と、永久磁石およびコイルを備える調速手段と、前記調速手段を制御して前記テンプを調速制御する調速制御手段と、前記調速制御手段に供給する電気エネルギーを蓄電する蓄電手段と前記電気エネルギーを発電する発電機と、を備え、前記永久磁石および前記コイルの一方は前記テンプに保持され、前記調速制御手段は、前記クロック信号と前記振動検出信号とを比較し、前記コイルに電流を出力して発生させた電磁力を前記永久磁石に働かせて前記テンプを調速制御し、前記蓄電手段の蓄電量が所定値以下の場合に、前記テンプの調速制御を停止する停止状態に切り替えることを特徴とする。
本開示の機械式時計によれば、テンプの振動を検出した振動検出信号と、クロック信号とを比較した結果に基づいてテンプの振動を調速できるため、機械式時計の時刻精度をクオーツ時計レベルに向上できる。また、蓄電手段の蓄電量が所定値以下に低下した場合、調速制御を停止する停止状態に切り替えているので、コイルがテンプの動作に影響を与えないようにできる。このため、調速制御の停止状態では、指針が指示する時刻精度を一般的な機械式時計の精度に維持でき、時刻精度が著しく低下することを防止できる。
さらに、テンプの調速を、永久磁石と、電流を流すことによって電磁力を発生させるコイルとを用いて行っているので、テンプに制動力を加えて減速する調速と、テンプに駆動力を加えて加速する調速とを実行することができる。特に、テンプを加速できるため、ゼンマイのトルクが小さい領域、つまり巻き戻し速度が遅い期間も調速することができる。このため、ゼンマイで機械式時計を調速できる持続時間を延ばすことができる。
【0044】
本開示の機械式時計において、前記コイルと前記コイルに電流を供給する電源ラインとの間に接続された電源スイッチを備え、前記調速制御手段は、前記電源スイッチをオフ状態にして前記停止状態に切り替えることが好ましい。
調速制御手段は、停止状態では、電源スイッチをオフ状態にしているので、コイルを電源ラインから確実に切り離すことができ、コイルがテンプの動作に影響することを確実に防止できる。
【0045】
本開示の機械式時計において、前記電源ラインは、第1の電源ラインと、前記第1の電源ラインと異なる電位の第2の電源ラインとを備え、前記電源スイッチは、前記コイルの第1の端子と前記第1の電源ラインとの間に接続された第1のスイッチと、前記コイルの第2の端子と前記第1の電源ラインとの間に接続された第2のスイッチと、前記コイルの前記第1の端子と前記第2の電源ラインとの間に接続された第3のスイッチと、前記コイルの前記第2の端子と前記第2の電源ラインとの間に接続された第4のスイッチと、で構成され、前記調速制御手段は、前記第1のスイッチ、前記第2のスイッチ、前記第3のスイッチ、および前記第4のスイッチのオン状態およびオフ状態を制御し、前記コイルに流れる電流の向きを制御することで前記テンプを調速する調速状態と、前記第1のスイッチ、前記第2のスイッチ、前記第3のスイッチ、および前記第4のスイッチをオフ状態に制御し、前記コイルに電流が流れない前記停止状態と、を切り替えて制御することが好ましい。
電源スイッチは、4つのスイッチからなるブリッジ回路を構成するため、コイルに対して電流が流れる方向を簡単な制御で変更でき、永久磁石に対して制動力および駆動力を選択して加えることができ、テンプの進みや遅れの調速制御を簡単な回路構成で実現できる。
【0046】
本開示の機械式時計において、前記振動検出手段は、前記コイルと、前記コイルの前記第1の端子および前記第2の端子に接続され、前記テンプの振動に伴い前記コイルに対して相対的に移動する前記永久磁石によって前記コイルに流れる電流を検出する検出回路と、を備えて構成され、前記調速制御手段は、前記第1のスイッチおよび前記第2のスイッチの一方のスイッチをオン状態とし、前記第1のスイッチおよび前記第2のスイッチの他方のスイッチと、前記第3のスイッチおよび前記第4のスイッチとをオフ状態とする振動検出状態と、前記第1のスイッチおよび前記第2のスイッチの一方のスイッチと、前記第3のスイッチおよび前記第4のスイッチの一方のスイッチとをオン状態とし、前記第1のスイッチおよび前記第2のスイッチの他方のスイッチと、前記第3のスイッチおよび前記第4のスイッチの他方のスイッチと、をオフ状態とする前記調速状態と、前記第1のスイッチ、前記第2のスイッチ、前記第3のスイッチ、および前記第4のスイッチをオフ状態とする前記停止状態と、を切り替えて制御することが好ましい。
調速制御手段は、各スイッチのオン状態およびオフ状態を適宜設定することで、振動検出状態、調速状態、停止状態を、容易に切り替えて制御することができる。
【0047】
本開示の機械式時計において、前記発電機は、前記永久磁石および前記コイルを備え、前記テンプの振動によって前記永久磁石および前記コイルが相対的に移動して発電する電磁発電機であることが好ましい。
調速手段である永久磁石およびコイルを発電機として兼用するため、別途、発電機を設ける必要が無い。このため、調速手段とは独立した発電機を設ける場合に比べて、部品数を少なくできてコストを低減でき、機械式時計を小型化、薄型化できる。
【0048】
本開示の機械式時計において、前記発電機は、ソーラーパネルを備えるソーラー発電機であることが好ましい。
発電機としてソーラーパネルを設ければ、機械式時計を使用していない非携帯時にもソーラーパネルに受光させることで発電させることができ、蓄電手段の蓄電量の低下を防止してテンプの調速制御を継続できるため、クオーツ時計レベルの精度を維持できる。
また、調速手段である永久磁石およびコイルで発電する必要が無いため、永久磁石やコイルを発電用に設定する必要が無い。このため、永久磁石の数を減少でき、コイルを小型化することができる。
【0049】
本開示の機械式時計において、透光性の裏蓋を備え、前記ソーラーパネルは、前記裏蓋を透過する光を受光して発電することが好ましい。
ソーラーパネルが裏蓋から受光するため、文字板を透光性のプラスチックなどで構成する必要が無い。このため、文字板の材質やデザインの制約が少なく、意匠性を向上できる。
【0050】
本開示の機械式時計において、前記発電機は、発電コイルと、ローターと、前記ローターを回転させる回転機構とを備えた電磁発電機であることが好ましい。
回転錘等の回転機構でローターを回転させているので、ゼンマイの機械的エネルギーを用いずに発電することができる。このため、機械式時計を携帯することなどで回転錘を回転させることで、効率的に発電することができる。また、電磁発電機は時計のケース内部に配置できるので、ソーラーパネルを用いた場合のように透光部を設ける必要が無く、時計の外観に制約が無くなるため、意匠性を向上できる。
また、回転機構を、ゼンマイの巻上げ機構と兼用すれば、ゼンマイを自動で巻き上げつつ、発電することができ、機械式時計を携帯するだけで、継続的にクオーツ時計の精度で駆動できる。
【0051】
本開示の機械式時計において、前記発電機は、外部から印加された磁界により電磁誘導で発電する発電コイルを備えることが好ましい。
外部の専用充電器に機械式時計を置いて充電するワイヤレス充電を実現できる。このため、機械式時計を専用充電器に置く必要があるが、蓄電手段を短時間で充電することができる。また、機械式時計には発電コイルのみを設ければよいため、ソーラーパネルや電磁発電機を内蔵する場合に比べて、機械式時計を小型化、薄型化できる。
【符号の説明】
【0052】
1…機械式時計、1B…機械式時計、1D…機械式時計、10…機械式ムーブメント、10B…機械式ムーブメント、11…香箱車、12…ゼンマイ、21…ガンギ車、22…アンクル、30…テンプ、31…テン輪、32…テン輪、34…ヒゲゼンマイ、35…コイル、36…永久磁石、37…振り石、40…電子調速装置、41…発電部、42…整流部、43…調速部、44…蓄電部、45…電圧検出部、46…振動子、47…振動検出部、50…制御部、51…発振回路、52…検出回路、53…制御回路、65…ソーラーパネル、70…電磁発電機、73…発電機、81…受電用コイル、85…外部充電器、361…永久磁石、362…永久磁石、363…永久磁石、364…永久磁石、430…電源スイッチ、431…第1のスイッチ、432…第2のスイッチ、433…第3のスイッチ、434…第4のスイッチ、VDD…第1の電源ライン、VSS…第2の電源ライン。