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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113320
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】トナー用ワックス組成物
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/097 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
G03G9/097 365
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018209
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】森重 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】吉村 健司
(72)【発明者】
【氏名】清水 湧太郎
【テーマコード(参考)】
2H500
【Fターム(参考)】
2H500AA08
2H500CA30
2H500CA31
2H500CA40
2H500EA42C
2H500EA44C
(57)【要約】
【課題】高速印刷に適応可能であり、高速印刷時においても印刷物の光沢ムラを抑制し且つ光沢性を向上させることができ、トナーが高温高湿環境に晒された後でも光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果の悪化を抑制することができる、トナー用ワックス組成物を提供する。
【解決手段】特定の構造を有する3級アミド化合物Aと、特定の構造を有する脂肪族ケトン化合物Bとを含有し、前記3級アミド化合物Aと前記脂肪族ケトン化合物Bの合計含有量を100質量部としたときの前記3級アミド化合物Aの含有量が0.1~15質量部である、トナー用ワックス組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(A)で表される3級アミド化合物Aと、下記一般式(B)で表される脂肪族ケトン化合物Bとを含有し、前記3級アミド化合物Aと前記脂肪族ケトン化合物Bの合計含有量を100質量部としたときの前記3級アミド化合物Aの含有量が0.1~15質量部である、トナー用ワックス組成物。
【化1】
(一般式(A)中、Rは炭素数15~23の直鎖アルキル基を表し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1~3の直鎖アルキル基を表す。)
【化2】
(一般式(B)中、R及びRはそれぞれ独立に直鎖アルキル基を表し、R及びRの合計炭素数は30~48である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機、レーザープリンタなどの画像形成装置において、電子写真法や静電記録法などで記録される静電荷像の現像に使用されるトナーに対して好適に用いられるトナー用ワックス組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
複写機やプリンターなどの画像形成装置に使用されるトナーは、バインダー樹脂となる熱可塑性樹脂(以下、単に「樹脂」ともいう。)に、着色剤(カーボンブラック、磁性粉、顔料など)、荷電制御剤、ワックスを含み、必要に応じて、流動性付加剤、クリーニング助剤、転写助剤等を更に含む。この中で、ワックスは定着時にトナーが定着ロールに残存すること(フィルミング)を防止するとともに、樹脂の軟化を促進して定着性を向上させる機能を有する。
【0003】
近年、複合機や商業印刷機等の複写装置には、生産効率の向上と省エネルギー化の観点から、従来以上の超高速印刷に適応可能なトナーが求められている。例えば特許文献1には、連続通紙時における画像のブロッキングを抑止するのに優れるトナーとして、ケトン系ワックスを含むトナーが記載されており、このようなワックスの使用による、トナーの超高速印刷への適応が期待される。
【0004】
また、商業印刷分野では、超高速印刷条件下においても銀塩写真やグラビア印刷によって得られる写真やポスターと同等以上に、ムラのない高い光沢性が付与された高画質な印刷物を安定的に提供することが求められている。これに対し、トナーを用いた超高速印刷による印刷物では、印刷物表層で、トナーに含まれるワックスの結晶状態に差異が生じることにより、光沢ムラが発生する場合がある。そのため、超高速印刷への適応に加えて、印刷物に高い光沢性を付与することができ、且つ印刷物の光沢ムラを抑制可能なトナーが求められている。
【0005】
特許文献2には、広い定着温度の範囲に渡って写真光沢に近い高光沢を示すトナーとして、特定の重量平均分子量及び数平均分子量、及び特定の酸価を有し、結着樹脂としてポリエステル樹脂を含み、離型剤として合成モノエステルワックスを含むトナーが記載されている。
【0006】
特許文献3には、光沢ムラを抑制することができるトナーとして、結着樹脂としてポリエステル樹脂を含み、離型剤としてエステルワックスを含み、テトラヒドロフラン可溶分が特定の分子量を有し、テトラヒドロフラン不溶分の含有量が特定の範囲内であり、示差走査熱量測定(DSC)によるエステルワックス由来の昇温時の吸熱ピーク温度と降温時の発熱ピーク温度の差、すなわちエステルワックスの融点と凝固点の差が特定の範囲内であるトナーが記載されている。特許文献3には、当該トナーが、結着樹脂として低粘度な成分と高弾性な成分とを含有し、且つ、結晶化度の低いエステルワックスを含有することにより、結着樹脂材料の溶融混練時にエステルワックスが潤滑剤として作用し、高弾性成分を多く含有することで、画像光沢度を抑えた、光沢ムラの小さい画像を形成することが可能となり、ワックスがトナー層表面にブリードしにくいため、定着後の画像表面にワックスが少ないことで、光沢度のばらつきを抑えることができると記載されている。
【0007】
また近年では、複写機やプリンター等が新興国で急速に普及してきている。新興国に分類される国々は先進国に比べてはるかに高温高湿な環境であることが多く、カートリッジ内のトナーが水分を吸着しやすくなり、性能不良等が懸念されている。そのため、高温高湿な環境下においても保存安定性に優れ且つ性能を維持することができるトナーが求められている。特許文献4には、バインダー樹脂として、結晶性ポリエステル樹脂成分と、特定の非結晶性ポリエステル樹脂成分とを含有することにより、高温多湿環境に晒された後でも低温定着性に優れるトナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2022-134685号公報
【特許文献2】特開2019-53322号公報
【特許文献3】特開2021-170100号公報
【特許文献4】特開2022-43977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~3に記載されるトナーは、高温高湿環境に晒された後では、トナーの性能が損なわれる恐れがある。
また、特許文献1に記載されるようなケトン系ワックスを含むトナーは、高速印刷時において、印刷物に十分な光沢を付与できない恐れがある。また、高速印刷時には、印刷物表層のワックスの冷却速度にムラが生じやすく、その結晶状態に差異が生ることで、印刷物に光沢ムラが発生する恐れがある。
特許文献2に記載されるトナーは、超高速印刷に十分に適応できるものでなく、更に、印刷物に光沢ムラが発生するという問題がある。
特許文献3に記載されるトナーは、画像光沢度を抑えるものであるため、印刷物に高い光沢性を付与することが困難であり、また、ワックスの結晶状態の差異に起因する光沢ムラを抑制することは困難である。更に、ワックスの融点と凝固点の差が大きいため、高速印刷時においてはワックスの融解、凝固が不十分となる恐れがあり、超高速印刷により、高画質な印刷物を安定的に供給することは困難である。
特許文献4に記載されるトナーは、高温高湿環境に晒された後でも低温定着性を維持できるものの、超高速印刷に十分に適応することができず、超高速印刷により高画質な印刷物を安定的に供給することは困難である。
【0010】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、高速印刷に適応可能であり、高速印刷時においても印刷物の光沢ムラを抑制し且つ光沢性を向上させることができ、トナーが高温高湿環境に晒された後でも光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果の悪化を抑制することができる、トナー用ワックス組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定の3級アミド化合物及び特定の脂肪族ケトンの組み合わせを含むワックス組成物が、高速印刷に適応可能であり、高速印刷時においても印刷物の光沢ムラを抑制し且つ光沢性を向上させるとともに、トナーが高温高湿環境に晒された後でもこれらの機能を維持しやすいことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明のトナー用ワックス組成物は、後述する一般式(A)で表される3級アミド化合物Aと、後述する一般式(B)で表される脂肪族ケトン化合物Bとを含有し、前記3級アミド化合物Aと前記脂肪族ケトン化合物Bの合計含有量を100質量部としたときの前記3級アミド化合物Aの含有量が0.1~15質量部であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明のトナー用ワックス組成物は、高速印刷に適応可能であり、高速印刷時においても印刷物の光沢ムラを抑制し且つ光沢性を向上させることができ、トナーが高温高湿環境に晒された後でも光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果の悪化を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を説明する。なお、本明細書において記号「~」を用いて規定された数値範囲は「~」の両端(上限及び下限)の数値を含むものとする。例えば「2~10」は2以上10以下の範囲を表す。
【0015】
本発明のトナー用ワックス組成物は、下記に示す3級アミド化合物A及び脂肪族ケトン化合物Bを、後述する質量比で含有する。すなわち、本発明のトナー用ワックス組成物は、脂肪族ケトン化合物Bに、少量の3級アミド化合物Aを混合してなる。このような本発明のトナー用ワックス組成物は、脂肪族ケトン化合物Bによる超高速印刷への適応性を維持しながら、3級アミド化合物Aの添加により、高速印刷時の光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果が向上され、更に安定性が向上されたものであるため、トナーが高温高湿環境に晒された後でも、良好な光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果を発揮することができる。
以下、本発明のトナー用ワックス組成物が含有する各成分について説明する。
【0016】
〔3級アミド化合物A〕
本発明のトナー用ワックス組成物が含有する3級アミド化合物Aは、下記一般式(A)で表される3級アミド化合物である。
【0017】
【化1】
(一般式(A)中、Rは炭素数15~23の直鎖アルキル基を表し、R及びRはそれぞれ独立に炭素数1~3の直鎖アルキル基を表す。)
【0018】
上記一般式(A)中のRは、高速印刷への適応の観点、及び高温高湿環境下での安定性の観点から、炭素数15~23の直鎖アルキル基である。Rの炭素数が15未満であると高温高湿環境下での安定性が悪化し、Rの炭素数が23より大きいと高速印刷への適応が不十分となる。Rは、炭素数17~21の直鎖アルキル基であることが好ましい。
上記一般式(A)中のR及びRは、高速印刷への適応の観点、光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果の観点、及び高温高湿環境下での安定性の観点から、それぞれ独立して、炭素数1~3の直鎖アルキル基である。R又はRが水素原子であると、光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果が不十分になる恐れがある。Rの炭素数又はRの炭素数が3よりも大きいと、高速印刷への適応が不十分となる恐れがあり、また、光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果が得られない恐れがある。R及びRは、それぞれ独立して、好ましくは炭素数2~3の直鎖アルキル基であり、より好ましくはエチル基である。また、高温高湿環境下での安定性の観点、及び光沢ムラ抑制効果の観点から、RとRは、同じ直鎖アルキル基であることが好ましい。
【0019】
上記一般式(A)で表される3級アミド化合物Aは、上記一般式(A)中のRを有するカルボン酸と、上記一般式(A)中のR及びRを有する2級アミン化合物とが脱水縮合した構造を有する。
上記一般式(A)中のRを有するカルボン酸としては、例えば、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、及びリグノセリン酸等が挙げられ、中でも、ステアリン酸、アラキジン酸、及びベヘニン酸が好ましく、ステアリン酸及びベヘニン酸が特に好ましい。
上記一般式(A)中のR及びRを有する2級アミン化合物としては、例えば、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、エチルメチルアミン、メチルプロピルアミン、エチルプロピルアミン等が挙げられ、中でも、ジメチルアミン、ジエチルアミン及びジプロピルアミンが好ましく、ジエチルアミン及びジプロピルアミンがより好ましく、ジエチルアミンが特に好ましい。
【0020】
上記一般式(A)で表される3級アミド化合物Aとしては、特に限定はされないが、例えば、N,N-ジメチルステアラミド、N,N-ジエチルステアラミド、N,N-ジプロピルステアラミド、N,N-ジメチルベヘナミド、N,N-ジエチルベヘナミド、及びN,N-ジプロピルベヘナミド等を好ましく用いることができ、中でも、N,N-ジエチルステアラミド、及びN,N-ジエチルベヘナミドが特に好ましい。
なお、本発明のトナー用ワックス組成物は、上記一般式(A)で表される3級アミド化合物Aを、1種単独で、または2種以上を組み合わせて含むことができる。
【0021】
上記3級アミド化合物Aは、高温高湿環境下での安定性の観点から、酸価が5mgKOH/g以下であることが好ましく、3mgKOH/g以下であることがより好ましく、特に1mgKOH/g以下であることが好ましい。
なお、上記酸価は、JOCS(日本油化学会)2.3.1-1996に準拠して測定することができる。
【0022】
〔脂肪族ケトン化合物B〕
本発明のトナー用ワックス組成物が含有する脂肪族ケトン化合物Bは、下記一般式(B)で表される脂肪族ケトン化合物であり、総炭素数が31~49である。
【0023】
【化2】
(一般式(B)中、R及びRはそれぞれ独立に直鎖アルキル基を表し、R及びRの合計炭素数は30~48である。)
【0024】
上記一般式(B)中のR及びRの合計炭素数は、高温高湿環境下での安定性の観点、及び高速印刷への適応の観点から、30~48である。R及びRの合計炭素数が30未満であると、トナー保管時に脂肪族ケトン化合物Bが染み出すことによるトナー同士のブロッキングが起きやすく、高温高湿環境下での安定性が不十分になる。一方、R及びRの合計炭素数が48を超えると、脂肪族ケトン化合物Bの融点が高くなりすぎて、高速印刷時に離型剤としての機能が不十分となるため、高速印刷への適応が困難になる。R及びRの合計炭素数は、下限としては、好ましくは32以上、より好ましくは34以上であり、上限としては、好ましくは42以下、より好ましくは38以下、更に好ましくは36以下である。
また、上記一般式(B)中のR及びRは、高温高湿環境下での安定性の観点、及び高速印刷への適応の観点から、それぞれ独立して、炭素数15~24の直鎖アルキル基であることが好ましく、16~23の直鎖アルキル基であることがより好ましく、17~21の直鎖アルキル基であることが更に好ましい。R及びRの各々の炭素数が上記下限値以上であると、トナー同士のブロッキングが抑制されやすいため、高温高湿環境下での安定性の低下が抑制される。一方、R及びRの各々の炭素数が上記上限値以下であると、脂肪族ケトン化合物Bの融点が十分に低くなるため、高速印刷時においても離型剤としての機能が十分に維持されやすい。
また、上記一般式(B)で表される脂肪族ケトン化合物Bにおいては、高温高湿環境下での安定性の観点、及び高速印刷への適応の観点から、Rの炭素数と及びRの炭素数との差が、6以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましく、1以下であることが更に好ましい。
【0025】
上記一般式(B)で表される脂肪族ケトン化合物Bとしては、特に限定はされないが、例えば、ジペンタデシルケトン、ジヘキサデシルケトン、ジヘプタデシルケトン、ヘプタペンタデシルケトン、ジオクタデシルケトン、ジノナンデシルケトン、ジエイコシルケトン、ジヘンエイコシルケトン、ジドコシルケトン、ジトリコシルケトン、及びジテトラコシルケトン等を好ましく用いることができ、中でも、ジペンタデシルケトン、ジヘキサデシルケトン、ジヘプタデシルケトン、ヘプタペンタデシルケトン、ジオクタデシルケトン、ジノナンデシルケトン、ジエイコシルケトン、ジヘンエイコシルケトンからなる群から選ばれる少なくとも1種を特に好ましく用いることができる。
【0026】
本発明のトナー用ワックス組成物は、上記一般式(B)で表される脂肪族ケトン化合物Bを、1種単独で、または2種以上を組み合わせて含むことができる。
本発明のトナー用ワックス組成物が、上記一般式(B)で表される脂肪族ケトン化合物Bを2種以上含む場合は、高温高湿環境下での安定性の観点、及び高速印刷への適応の観点から、脂肪族ケトン化合物Bの総量100質量%中の50質量%以上が、上記一般式(B)中のR及びRの合計炭素数が30~42である脂肪族ケトン化合物Bであることが好ましく、R及びRの合計炭素数が32~38である脂肪族ケトン化合物Bであることがより好ましく、R及びRの合計炭素数が32~36である脂肪族ケトン化合物Bであることが更に好ましい。更に、上述した好ましい脂肪族ケトン化合物Bの含有量は、脂肪族ケトン化合物Bの総量100質量%に対し、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましい。
【0027】
上記脂肪族ケトン化合物Bは、例えば、金属酸化物触媒の存在下、一般式(B)中のRを有するカルボン酸と一般式(B)中のRを有するカルボン酸とを、高温(好ましくは300~350℃の温度)、高圧(好ましくは0.1~5MPa)で反応し、脱炭酸して得ることができる。
上記金属酸化物触媒としては、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛等が挙げられる。
一般式(B)中のRを有するカルボン酸、及び一般式(B)中のRを有するカルボン酸としては、例えば、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘニン酸、リグノセリン酸等が挙げられる。
或いは、上述したカルボン酸と金属酸化物触媒の代わりに、当該カルボン酸のマグネシウム塩、カルシウム塩、亜鉛塩などのカルボン酸金属塩を用いてもよい。カルボン酸金属塩の代表例としては、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ベヘニン酸マグネシウム、ベヘニン酸カルシウム、ベヘニン酸亜鉛などが挙げられる。
【0028】
上記脂肪族ケトン化合物Bは、高温高湿環境下での安定性の観点から、酸価が5mgKOH/g以下であることが好ましく、3mgKOH/g以下であることがより好ましく、1mgKOH/g以下であることが更に好ましく、特に0.5mgKOH/g以下であることが好ましい。
なお、上記酸価は、JOCS(日本油化学会)2.3.1-1996に準拠して測定することができる。
【0029】
上記脂肪族ケトン化合物Bは、融点が、70~100℃であることが好ましく、75~95℃であることがより好ましい。融点が上記下限値以上であると、トナーの高温高湿環境下での安定性の悪化が抑制されやすく、上記上限値以下であると、高速印刷時においても離型剤としての機能が十分に維持されやすい。
脂肪族ケトン化合物Bの融点は、昇温速度毎分10℃の示差走査熱量測定(DSC)により測定することができ、DSCにより測定される昇温時の吸熱ピークのトップピークの温度を融点とすることができる。
【0030】
〔トナー用ワックス組成物〕
本発明のトナー用ワックス組成物は、上述の3級アミド化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bとを含有し、3級アミド化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bの合計含有量を100質量部としたときの3級アミド化合物Aの含有量が0.1~15質量部である。上記3級アミド化合物Aの含有量が上記下限値以上であることにより、高速印刷時においても印刷物の光沢ムラを抑制し且つ印刷物の光沢性を向上させることができ、トナーが高温高湿環境に晒された後においても、光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果の悪化が抑制される。上記3級アミド化合物Aの含有量は、0.3質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。一方、上記3級アミド化合物Aの含有量が上記上限値以下であることにより、高速印刷時においても離型剤としての機能を十分に維持することができ、更に、高温高湿環境に晒された後での光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果の悪化が抑制される。上記3級アミド化合物Aの含有量は、10質量部以下であることが好ましく、5質量部以下であることがより好ましい。
【0031】
本発明のトナー用ワックス組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、3級アミド化合物A及び脂肪族ケトン化合物Bとは異なるその他の成分を更に含有していてもよい。本発明のトナー用ワックス組成物が当該その他の成分を含有する場合、本発明のトナー用ワックス組成物に含まれる3級アミド化合物A及び脂肪族ケトン化合物Bの合計含有量は、特に限定はされないが、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは99質量%以上である。
【0032】
本発明のトナー用ワックス組成物は、高速印刷への適応の観点、及び光沢ムラ抑制の観点から、結晶性が特定の範囲にあることが好ましい。
本発明のトナー用ワックス組成物の結晶性の指標として、例えば、発熱ピークの半値幅(ΔTh)が、3.0℃~6.0℃であることが好ましく、3.5℃~5.5℃であることがより好ましく、4.0℃~5.0℃であることが更に好ましい。なお、発熱ピークの半値幅(ΔTh)は、示差走査熱量測定(DSC)において、降温速度毎分2℃で180℃から30℃に冷却した際に得られるDSC曲線の発熱ピークの半値幅(ΔTh)である。
また、本発明のトナー用ワックス組成物の結晶性の別の指標として、補外結晶化開始温度と補外結晶化終了温度との差(ΔTc)が、4.0℃~7.0℃であることが好ましく、4.5℃~6.5℃であることがより好ましく、5.0℃~6.0℃であることが更に好ましい。なお、補外結晶化開始温度及び補外結晶化終了温度は、示差走査熱量測定(DSC)において、降温速度毎分2℃で180℃から30℃に冷却した際に得られるDSC曲線から、下記の通りにして特定できる。DSC曲線からの補外結晶化開始温度及び補外結晶化終了温度の特定方法は、JIS K 7121を参照してもよい。
補外結晶化開始温度:高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、結晶化ピークの高温側の曲線にこう配が最大になる点で引いた接線の交点の温度とする。
補外結晶化終了温度:低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、結晶化ピークの低温側の曲線にこう配が最大となる点で引いた接線の交点の温度とする。
【0033】
トナー用ワックス組成物の結晶性の指標となる上記ΔTh及びΔTcがそれぞれ上記範囲内にあることで、高速印刷への適用が可能であり、更に、ワックスの結晶状態に冷却速度による差異が生じにくく、高速印刷時においても印刷物の光沢ムラ発生を抑制することが可能である。
【0034】
また、本発明のトナー用ワックス組成物は、高速印刷への適応の観点から、印刷時に素早く溶融し且つ素早く凝固できることが好ましい。そのため、本発明のトナー用ワックス組成物は、融解温度(Tpm)と凝固温度(Tec)との差(ΔT)が、15℃以下であることが好ましく、12℃以下であることがより好ましい。
なお、ワックス組成物の融解温度(Tpm)は、示差走査熱量測定(DSC)において、昇温速度毎分10℃で昇温した際に得られるDSC曲線の吸熱ピークのトップピークの温度であり、ワックス組成物の凝固温度(Tec)は、示差走査熱量測定(DSC)において、降温速度毎分10℃で冷却した際に得られるDSC曲線の発熱ピークのトップピークの温度である。
【0035】
本発明のトナー用ワックス組成物は、公知の方法により製造することができる。例えば、上述した3級アミド化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bをそれぞれ合成した後に混合することにより、本発明のトナー用ワックス組成物としてもよい。または、3級アミド化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bの質量比が上述した範囲内となるように、原料化合物の量を調節し、一括合成で製造してもよい。
3級アミド化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bをそれぞれ合成した後に混合して本発明のトナー用ワックス組成物を製造する方法については、3級アミド化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bを、それぞれ融点以上に加熱した上で、均一に混合した後に、冷却、微粒子化等を行うことが、品質のばらつきを抑制する観点から好ましい。
【0036】
本発明のトナー用ワックス組成物は、バインダー樹脂、着色剤、荷電制御剤等と共にトナーに含有される。本発明のトナー用ワックス組成物を含有するトナーは、通常の製法によって製造される。
トナーに含まれる本発明のトナー用ワックス組成物の含有量は、特に限定はされないが、バインダー樹脂100質量部に対して、通常、1~10質量部である。
本発明のトナー用ワックス組成物は、1種単独で、あるいは2種類以上を組み合わせてトナーに含有される。
【0037】
バインダー樹脂は特に限定されず、トナーのバインダー樹脂として従来用いられているもの、例えば、スチレン樹脂、アクリル酸エステル樹脂、スチレン-アクリル酸エステル共重合体樹脂、ポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等を用いることができる。
着色剤も特に限定されず、トナーの着色剤として従来用いられているもの、例えば、カーボンブラック、磁性粉、様々な色の顔料等を用いることができる。
【実施例0038】
以下に、本発明のトナー用ワックス組成物の製造例、及びその評価方法を示すことで、本発明を更に具体的に説明する。
【0039】
[製造例A1:3級アミド化合物A-1の調製]
耐圧ガラス容器に、ステアリン酸(製品名:NAA(登録商標)-180、日油(株)製、酸価:196.7mgKOH/g)を10.0g(35mmol)と、ジエチルアミン10.2g(140mmol)を加え、90℃に設定したシェイキングバスにて10分間振とうさせた。次いで、内容物を冷却した後、水100gを加えることにより析出物を得た。得られた析出物を更に水で洗浄し、真空乾燥することで、3級アミド化合物A-1(N,N-ジエチルステアラミド)を8g得た。
【0040】
[製造例A2:3級アミド化合物A-2の調製]
ジエチルアミンの代わりに、同モル量のジプロピルアミンを用いた以外は、製造例A1と同様にして、3級アミド化合物A-2(N,N-ジプロピルステアラミド)を得た。
【0041】
[製造例A3:3級アミド化合物A-3の調製]
ステアリン酸の代わりに、同モル量のベヘニン酸(日油(株)製、ベヘニン酸含有量:97質量%、酸価:164.9mgKOH/g)を用いた以外は、製造例A1と同様にして、3級アミド化合物A-3(N,N-ジエチルベヘナミド)を得た。
【0042】
[製造例A4:3級アミド化合物A-4の調製]
ジエチルアミンの代わりに、同モル量のジヘキシルアミンを用いた以外は、製造例A1と同様にして、3級アミド化合物A-4(N,N-ジヘキシルステアラアミド)を得た。
【0043】
1級アミド化合物A-5として、ステアリン酸モノアミド(製品名:アルフローS-10、日油(株)製)を準備した。
【0044】
3級アミド化合物A-1~A-4及び1級アミド化合物A-5について、JOCS(日本油化学会)2.3.1-1996に準拠し、酸価を測定した。測定結果を表1に示す。
また、表1に示すR、R及びRは、上記一般式(A)のR、R及びRに対応する。
【0045】
【表1】
【0046】
[製造例B1:脂肪族ケトン化合物B-1の調製]
1LのSUS製セパラブルフラスコに、ステアリン酸マグネシウム(製品名:ニッサンエレクトールMM-2、日油(株)製、ステアリン酸含有量:98質量%)を700.0g秤取り、窒素吹き込み下、250℃まで昇温した。この時、材料に含有される水分は系外に留出させた。その後、窒素を2MPa圧入し、温度を340~350℃に昇温し、8時間反応を続けた後、100℃まで冷却して、粗脂肪族ケトン化合物を得た。窒素吹き込み下、100℃で、100メッシュの金属ストレーナを用い、得られた粗脂肪族ケトン化合物をろ過し、副生成物として生成した酸化マグネシウムを除去した。また、ろ過して得られた脂肪族ケトン化合物をステンレス製バットに排出し、室温で固化させて、ミキサーで粉砕することにより、脂肪族ケトン化合物B-1(ジヘプタデシルケトン)を得た。
【0047】
[製造例B2:脂肪族ケトン化合物B-2の調製]
1LのSUS製セパラブルフラスコに、ベヘニン酸(日油(株)製、ベヘニン酸含有量:97質量%、酸価:164.9mgKOH/g)を600.0g(1.8モル)と酸化マグネシウム35.6g(0.9モル)を秤取り、窒素吹き込み下、250℃まで昇温した。この時、材料に含有される水分は系外に留出させた。その後、窒素を2MPa圧入し、温度を340~350℃に昇温し、8時間反応を続けた後、100℃まで冷却して、粗脂肪族ケトン化合物を得た。窒素吹き込み下。100℃で、100メッシュの金属ストレーナを用い、得られた粗脂肪族ケトン化合物をろ過し、過剰の酸化マグネシウムを除去した。また、ろ過して得られた脂肪族ケトン化合物をステンレス製バットに排出し、室温で固化させて、ミキサーで粉砕することにより、脂肪族ケトン化合物B-2(ジヘンエイコシルケトン)を得た。
【0048】
[製造例B3:脂肪族ケトン化合物B-3の調製]
1LのSUS製セパラブルフラスコに、ステアリン酸(製品名:ビーズステアリン酸さくら、日油(株)製、ステアリン酸/パルミチン酸の混合物(質量比65/35)、酸価:207.8mgKOH/g)を600.0g(2.2モル)と酸化マグネシウム44.4g(1.01モル)を秤取り、窒素吹き込み下、250℃まで昇温した。この時、材料に含有される水分は系外に留出させた。その後、窒素を2MPa圧入し、更に温度を340~350℃に昇温し、8時間反応を続けた後、100℃まで冷却して、粗脂肪族ケトン化合物を得た。窒素吹き込み下、100℃で、100メッシュの金属ストレーナを用い、得られた粗脂肪族ケトン化合物をろ過し、過剰の酸化マグネシウムを除去した。また、ろ過して得られた脂肪族ケトン化合物をステンレス製バットに排出し、室温で固化させて、ミキサーで粉砕することにより、脂肪族ケトン化合物B-3(ジヘプタデシルケトン、ジペンタデシルケトン及びペンタデシルヘプタデシルケトンの混合物)を得た。GC(ガスクロマトグラフ)による分析の結果、脂肪族ケトン化合物B-3は、ジヘプタデシルケトン/ジペンタデシルケトン/ペンタデシルヘプタデシルケトン=42/13/45(質量比)の混合物であった。
【0049】
脂肪族ケトン化合物B-1~B-3について、上述したアミド化合物A-1~A-5と同様にして、酸価を測定した。
また、脂肪族ケトン化合物B-1~B-3について、下記手順に従い、示差走査熱量測定(DSC)により融点を測定した。示差走査熱量分析計としては、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の「DSC-7000X」を使用した。測定(DSC)は、約10mgの脂肪族ケトン化合物を試料ホルダーに入れ、レファレンス材料としてアルミナ10mgを用いて行い、昇温速度を毎分10℃として、30℃から180℃まで昇温した。なお、測定の前に、30℃から180℃までの昇温工程(昇温速度毎分10℃)と、180℃から30℃までの冷却工程(降昇温速度毎分10℃)を経たサンプルを測定試料として用いた。上記DSCにより測定された昇温時の吸熱ピークのトップピークの温度を融点とした。
また、表2に示すR及びRは、上記一般式(B)のR及びRに対応する。
【0050】
【表2】
【0051】
[実施例1~8、比較例1~5:トナー用ワックス組成物の調製]
撹拌羽、窒素導入管を取り付けた0.3L容のセパラブルフラスコに、表3に示すアミド化合物Aと脂肪族ケトン化合物Bを、表3に示す質量比で溶融混合させ、窒素気流下、150℃で1時間撹拌した。その後、冷却、固化、粉砕を経て、トナー用ワックス組成物W1~W13を得た。
【0052】
[ΔTh及びΔTcの測定]
トナー用ワックス組成物について、下記手順に従い、示差走査熱量測定(DSC)により、発熱ピークの半値幅(ΔTh)、及び結晶化開始温度と結晶化終了温度との差(ΔTc)を測定した。
示差走査熱量分析計としては、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の「DSC-7000X」を使用した。測定(DSC)は、約10mgのトナー用ワックス組成物を試料ホルダーに入れ、レファレンス材料としてアルミナ10mgを用いて行い、降温温速度毎分2℃として180℃から30℃まで降温した。なお、測定の前に、30℃から180℃までの昇温工程(昇温速度毎分2℃)を経たサンプルを測定試料として用いた。上記DSCにより測定された降温時の発熱ピークの半値幅(ΔTh)を測定した。
更に、上記測定(DSC)で得られたDSC曲線から、上述した方法により補外結晶化開始温度と補外結晶化終了温度を求め、これらの差(ΔTc=結晶化開始温度-結晶化終了温度)を算出した。
【0053】
表3に、実施例及び比較例で得たトナー用ワックス組成物の組成と、DSCにより求めたΔTh及びΔTcを示す。
【0054】
【表3】
【0055】
[評価]
トナー用ワックス組成物W1~W13について、以下の評価を行った。評価結果を表4及び表5に示す。
【0056】
(1)高速印刷適応性
高速印刷への適応性の指標として、示差走査熱量測定(DSC)により測定したワックス組成物の融解温度(Tpm)と凝固温度(Tec)の差(ΔT)を算出した。示差走査熱量分析計としては、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の「DSC-7000X」を使用した。測定(DSC)は、約10mgのワックス組成物を試料ホルダーに入れ、レファレンス材料としてアルミナ10mgを用いて行い、昇温速度を毎分10℃として30℃から180℃まで昇温した後、降温速度を毎分10℃として180℃から30℃まで冷却した。なお、測定の前に、30℃から180℃までの昇温工程(昇温速度毎分10℃)と、180℃から30℃までの冷却工程(降温速度毎分10℃)を経たサンプルを測定試料として用いた。上記DSCにより測定された昇温時の吸熱ピークのトップピークの温度を融解温度(Tpm)とし、降温時の発熱ピークのトップピークの温度を凝固温度(Tec)とした。
上記で測定されたワックス組成物の融解温度(Tpm)及び凝固温度(Tec)を用いて、以下の計算式(I)によってΔTを算出した。
計算式(I):ΔT(℃)=Tpm-Tec
算出されたΔTの値に基づいて、以下の基準でワックス組成物の高速印刷への適応性を評価した。
<評価基準>
◎(高速印刷に高い適応性を示す):12.0℃≧ΔT
〇(高速印刷に適応性を示す):12.0℃<ΔT≦15.0℃
×(高速印刷に適応しない):15.0℃<ΔT
【0057】
(2)高速印刷時の光沢ムラ抑制効果
ポリエステル樹脂(製品名:ダイヤクロンER-508、三菱レイヨン社製)を94質量部、トナー用ワックス組成物を5質量部、着色剤(製品名:PV-FAST BLUE BG、クラリアント社製)を1質量部の割合で混合し、二軸混錬機(製品名:ラボプラストミル、東洋精機社製)を用いて溶融混錬を行い、樹脂混練物を得た。溶融混錬は120℃、80rpmで約5分間行った。
得られた樹脂混練物を粉砕することで樹脂粉末を得た。
得られた樹脂粉末を錠剤成型機(品名:卓上油圧成形機MP250、マーセン社製)を用いて、ペレット化することで、サンプルを得た。なお、当該サンプル(樹脂ペレット)は、ワックス組成物を含むトナーの性能について簡易的に評価するための評価用サンプルである。
それぞれのサンプルについて、ホットプレ-トで表面を均一に170℃に加熱した後、25℃に設定した恒温槽内で急冷、もしくは100℃に設定した恒温槽内で毎分10℃の降温速度で徐冷した後に、10箇所の測定領域について、株式会社堀場製作所製の「グロスチェッカIG-320」を用いて、入射角60℃の条件で測定し、その平均値を光沢値とした。
上記で測定された徐冷後の光沢値(GS)と急冷後の光沢値(GR)を用いて、以下の計算式(II)によって、徐冷後の光沢値(GS)と急冷後の光沢値(GR)の差の絶対値(ΔG)を算出した。
計算式(II):ΔG=|GR-GS|
算出されたΔGの値に基づいて、以下の基準で、冷却速度の差による光沢ムラの抑制効果を評価した。ΔGの値が小さいほど、高速印刷時の光沢ムラ抑制効果に優れていると評価される。
<評価基準>
◎(冷却速度の差による光沢ムラが非常に抑制される):1.0≧ΔG
〇(冷却速度の差による光沢ムラが抑制される):1.0<ΔG≦2.0
×(冷却速度の差による光沢ムラが抑制されない):2.0<ΔG
【0058】
(3)高速印刷時の光沢性向上効果
上記「(2)高速印刷時の光沢ムラ抑制効果」で測定した急冷後の光沢値(GR)と、トナー用ワックス組成物を添加せずに作製したサンプルの急冷後の光沢値(GRblk)を用いて、以下の計算式(III)によって、光沢値の向上率(Kg)を算出した。
計算式(III):Kg=GR/GRblk
算出されたKgの値に基づいて、以下の基準で急冷時の光沢性向上効果を評価した。Kgの値が大きいほど、高速印刷時の光沢性の向上効果が高いと評価される。
<評価基準>
◎(光沢性を著しく向上させる):1.20<Kg
〇(光沢性を向上させる):1.00<Kg≦1.20
×(光沢性が向上しない):Kg≦1.00
【0059】
(4)高温高湿環境下に晒された後での光沢ムラ抑制効果
上記「(2)高速印刷時の光沢ムラ抑制効果」と同様の手順で得た樹脂粉末を、40℃、90%RHの高温高湿条件下で72時間放置した後、上記「(2)高速印刷時の光沢ムラ抑制効果」と同様にして、樹脂ペレットを作製し、徐冷後の光沢値(GS’)と急冷後の光沢値(GR’)を求めた。
測定された徐冷後の光沢値(GS’)と急冷後の光沢値(GR’)を用いて、以下の計算式(IV)によって、徐冷後の光沢値(GS’)と急冷後の光沢値(GR’)の差の絶対値(ΔG’)を算出した。
計算式(IV):ΔG’=|GR’-GS’|
算出されたΔG’の値に基づいて、以下の基準で、高温高湿環境下に晒された後の冷却速度の差による光沢ムラの抑制効果を評価した。ΔG’の値が小さいほど、高温高湿環境下に晒された後においても高速印刷時の光沢ムラ抑制効果に優れていると評価される。
<評価基準>
◎(冷却速度の差による光沢ムラが非常に抑制される):1.0≧ΔG’
〇(冷却速度の差による光沢ムラが抑制される):1.0<ΔG’≦2.0
×(冷却速度の差による光沢ムラが抑制されない):2.0<ΔG’
【0060】
(5)高温高湿環境下に晒された後での光沢性向上効果
上記「(2)高速印刷時の光沢ムラ抑制効果」と同様の手順で得た樹脂粉末を、40℃、90%RHの高温高湿条件下で72時間放置した後、上記「(2)高速印刷時の光沢ムラ抑制効果」と同様にして、樹脂ペレットを作製し、急冷後の光沢値(GR’)を求め、当該急冷後の光沢値(GR’)と、上記「(3)トナー用ワックス組成物の光沢性向上効果」と同じ「トナー用ワックス組成物を添加せずに作製したサンプルの急冷後の光沢値(GRblk)」を用いて、以下の計算式(V)によって、高温高湿環境下に晒された後の光沢値の向上率(Kg’)を算出した。
計算式(V):Kg’=GR’/GRblk
算出されたKg’の値に基づいて、以下の基準で、高温高湿環境下に晒された後の急冷時の光沢性向上効果を評価した。Kg’の値が大きいほど、高温高湿環境下に晒された後においても高速印刷時の光沢性の向上効果が高いと評価される。
<評価基準>
◎(光沢性を著しく向上させる):1.20<Kg’
〇(光沢性を向上させる):1.00<Kg’≦1.20
×(光沢性が向上しない):Kg’≦1.00
【0061】
【表4】
【0062】
【表5】
【0063】
実施例1~8のワックス組成物W1~8は、融解温度と凝固温度の差(ΔT)が十分に小さいため、高速印刷に適応可能であった。また、ワックス組成物W1~8を含む樹脂ペレットにおいては、徐冷後の光沢値(GS)と急冷後の光沢値(GR)の差の絶対値(ΔG)がΔG≦2.0を満たすことから、高速印刷時においても印刷物の光沢ムラを抑制可能であることが示された。また、急冷後の光沢値(GR)を用いて求められる光沢値の向上率(Kg)がKg>1.00を満たすことから、高速印刷時においても印刷物の光沢性を向上可能であることが示された。さらに、ワックス組成物W1~W8を含む樹脂ペレットにおいては、高温高湿環境下に晒された後の徐冷後の光沢値(GS’)と急冷後の光沢値(GR’)の差の絶対値(ΔG’)もΔG’≦2.0を満たし、高温高湿環境下に晒された後の光沢値の向上率(Kg’)もKg’>1.00を満たすことから、高温高湿環境下に晒された後においても、良好な光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果を発揮することが示された。
【0064】
一方、比較例1のワックス組成物W9は、上記一般式(A)で表される3級アミド化合物Aの代わりに、一般式(A)中のR及びRの各炭素数が4以上である3級アミド化合物を用いたため、ΔTが大きく、高速印刷に適さないものであった。また、ワックス組成物W9を含む樹脂ペレットは、高速印刷時の光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果が劣っており、高温高湿環境下に晒された後においても、光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果が劣っていた。
【0065】
比較例2のワックス組成物W10は、上記一般式(A)で表される3級アミド化合物Aの代わりに、1級アミド化合物を用いたため、ワックス組成物W10を含む樹脂ペレットは、高速印刷時の光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果が劣っており、高温高湿環境下に晒された後においても、光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果が劣っていた。
【0066】
比較例3のワックス組成物W11は、上記一般式(A)で表される3級アミド化合物Aを含まず、脂肪族ケトン化合物Bを単独で含むものであったため、ワックス組成物W11を含む樹脂ペレットは、高速印刷時の光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果が劣っており、高温高湿環境下に晒された後においても、光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果が劣っていた。
【0067】
比較例4のワックス組成物W12は、3級アミド化合物Aの含有量が多すぎたため、ΔTが大きく、高速印刷に適さないものであった。また、ワックス組成物W12を含む樹脂ペレットは、高温高湿環境下に晒す前では、高速印刷時の光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果が良好であったものの、高温高湿環境下に晒された後では、光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果が劣っていた。
【0068】
比較例5のワックス組成物W13は、脂肪族ケトン化合物Bを含まず、上記一般式(A)で表される3級アミド化合物Aを単独で含むものであったため、ΔTが大きく、高速印刷に適さないものであった。また、ワックス組成物W13を含む樹脂ペレットは、高速印刷時の光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果が劣っており、高温高湿環境下に晒された後においても、光沢ムラ抑制効果及び光沢性向上効果が劣っていた。