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特開2024-113325可変バルブタイミング機構の制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113325
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】可変バルブタイミング機構の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 13/02 20060101AFI20240815BHJP
   F01L 1/344 20060101ALI20240815BHJP
   F01L 9/22 20210101ALI20240815BHJP
【FI】
F02D13/02 G
F01L1/344
F01L9/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018217
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100168642
【弁理士】
【氏名又は名称】関谷 充司
(72)【発明者】
【氏名】ヌル アフィカ ビンティ アデナン
(72)【発明者】
【氏名】早乙女 博斗
【テーマコード(参考)】
3G018
3G092
【Fターム(参考)】
3G018AB08
3G018CA13
3G018DA34
3G018FA01
3G018FA07
3G018GA03
3G092AA11
3G092DA03
3G092DG08
3G092FA06
3G092GA01
3G092HA13Z
3G092HE03Z
(57)【要約】
【課題】VVT機構の制御装置において、エンジン始動時などエンジン回転速度が比較的低速であっても、VVT機構の目標角度に対する実角度の追従性を向上させる。
【解決手段】クランクシャフトに対する吸気カムシャフト36の相対回転角度を電動モータによって変更するVVTコントローラ250は、エンジンクランキング時に、VVT機構100のエンジン始動時の目標角度に対して設定されたエンジン始動性能に影響がない許容範囲内にVVT機構100の実角度が保持されるという条件下で、電動モータを電流制御してVVT機構100を遅角側に押し付ける。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランクシャフトに対するカムシャフトの相対回転角度を電動モータによって変更する可変バルブタイミング機構の制御装置であって、
エンジンクランキング時に、前記可変バルブタイミング機構のエンジン始動時の目標角度に対して設定されたエンジン始動性能に影響がない許容範囲内に前記可変バルブタイミング機構の実角度が保持されるという条件下で、前記電動モータを電流制御して前記可変バルブタイミング機構を遅角側に押し付ける、
可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項2】
前記許容範囲は、前記可変バルブタイミング機構の始動時の目標角度を下回るように設定されるか、又は前記可変バルブタイミング機構の動作範囲を規定するストッパに衝突しない範囲に設定される、
請求項1に記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項3】
前記可変バルブタイミング機構の実角度が前記許容範囲内に保持されるように前記電動モータを電流制御するか、又は前記可変バルブタイミング機構の実角度が前記許容範囲外になったときに前記電動モータを電流制御する、
請求項1に記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項4】
前記可変バルブタイミング機構の実角度と前記許容範囲との相関関係に応じて、前記カムシャフトのカムトルクに負けないモータ電流を設定して前記電動モータに供給する、
請求項1に記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項5】
エンジン回転速度、潤滑油温度、及びバッテリ電圧に応じて、前記電動モータに供給するモータ電流を補正する、
請求項4に記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【請求項6】
前記電動モータの電流制御は、エンジンストールが発生していないとき、前記可変バルブタイミング機構の実角度が求められたとき、及びエンジン回転速度が所定回転速度未満であるときの少なくとも1つの条件が成立したときに実行される、
請求項1~請求項5のいずれか1つに記載の可変バルブタイミング機構の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランクシャフトに対するカムシャフトの相対回転角度を電動モータによって変更する可変バルブタイミング(VVT:Variable Valve Timing)機構の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クランクシャフトに対するカムシャフトの相対回転角度を変更するために、特開2018-123716号公報(特許文献1)に記載されるような電動式のVVT機構が提案されている。特許文献1に記載されたVVT機構は、クランクシャフトと同期して回転する駆動回転体と、駆動回転体の内側に配置されてカムシャフトと一体的に回転する従動回転体と、駆動回転体に対する従動回転体の相対回転速度を変更する電動モータと、を有している。そして、このVVT機構では、駆動回転体に対する従動回転体の相対回転速度を同じにすると、クランクシャフトに対するカムシャフトの相対回転角度が保持され、駆動回転体に対する従動回転体の相対回転速度を異ならせると、クランクシャフトに対するカムシャフトの相対回転角度が進角側又は遅角側に変更される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-123716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的に、VVT機構の電動モータのフリクションは、カムシャフトのカムトルクより小さいという特性がある。このため、クランキング開始からエンジン回転速度がカムトルクの影響を受けない所定回転速度に達するまでなど、エンジン回転速度が比較的低速のときには、カムトルクの影響を受けて駆動回転体と従動回転体との相対角度が変化し、VVT機構の実際の角度(実角度)が目標角度からずれてしまい、VVT機構の目標角度に対する実角度の追従性が低下して応答遅れが発生するおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、エンジン回転速度が比較的低速であっても、VVT機構の目標角度に対する実角度の追従性を向上させた、VVT機構の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
クランクシャフトに対するカムシャフトの相対回転角度を電動モータによって変更するVVT機構の制御装置は、エンジンクランキング時に、VVT機構のエンジン始動時の目標角度に対して設定されたエンジン始動性能に影響がない許容範囲内にVVT機構の実角度が保持されるという条件下で、電動モータを電流制御してVVT機構を遅角側に押し付ける。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、VVT機構の制御装置において、エンジン回転速度が比較的低速であっても、VVT機構の目標角度に対する実角度の追従性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】車両に搭載されたエンジンシステムの一例を示す概略図である。
図2】VVT機構の一例を示す縦断面図である。
図3図2におけるA-A断面図である。
図4図2におけるB-B断面図である。
図5】従来技術の問題点の説明図である。
図6】本実施形態による作用及び効果の説明図である。
図7】VVT制御処理の一例を示すフローチャートである。
図8】VVT機構の制御方法の第1実施例の説明図である。
図9】VVT機構の制御方法の第2実施例の説明図である。
図10】VVT機構の制御方法の第3実施例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付された図面を参照し、本発明を実施するための実施形態について詳述する。
図1は、本実施形態に係るVVT機構の制御装置が適用され得る、自動車、建設機械などの車両に搭載されたエンジンシステムの一例を示している。なお、図1に示すエンジンシステムは、あくまで一例であって、その構成に限定されると解釈すべきではない。
【0010】
エンジン10は、例えば、直列3気筒、直列4気筒、V型6気筒などの周知のガソリンエンジンである。各気筒に吸気(吸入空気)を導入する吸気管12の所定箇所には、エンジン10の負荷の一例として挙げられる吸気流量Qを検出する吸気流量センサ14が取り付けられている。吸気流量センサ14としては、例えば、エアフローメータなどの熱線式流量計を使用することができる。なお、エンジン10の負荷としては、吸気流量Qに限らず、例えば、吸気負圧、過給圧力、スロットル開度、アクセル開度など、エンジン10のトルクと密接に関連する状態量を使用することができる。
【0011】
各気筒の燃焼室16に吸気を導入する吸気ポート18には、燃焼室16を臨む端部開口を開閉する吸気弁20が配置されている。吸気弁20の吸気上流に位置する吸気ポート18の所定箇所には、吸気弁20の傘部背面に向けて燃料を噴射する燃料噴射弁22が取り付けられている。燃料噴射弁22は、電磁コイルの通電によって磁気吸引力が発生すると、スプリングによって閉弁方向に付勢されている弁体がリフトし、先端の噴孔が開弁して燃料を噴射する。燃料噴射弁22には、噴孔の開弁時間に略比例した燃料が噴射されるように、所定圧力に調圧された燃料が供給されている。なお、燃料噴射弁22は、吸気弁20の傘部背面に向けて燃料を噴射する構成に限らず、燃焼室16に燃料を直接噴射する構成、又はこれらの両方を備えた構成であってもよい。
【0012】
燃料噴射弁22の噴孔から噴射された燃料は、吸気ポート18の端部開口と吸気弁20との間の隙間を通って燃焼室16に吸気と共に導入され、燃焼室16の上部中央に配置された点火プラグ24の火花点火によって着火燃焼する。その結果、燃焼圧力がピストン26をクランクシャフト(図示せず)に向けて押し下げることで、クランクシャフトを回転駆動させる。
【0013】
また、燃焼室16から排気を導出する排気ポート28には、燃焼室16を臨む端部開口を開閉する排気弁30が配置されている。そして、排気弁30によって排気ポート28の端部開口が開弁すると、排気ポート28の端部開口と排気弁30との間の隙間を通って、排気が排気管32へと排出される。排気管32の所定箇所には、触媒コンバータ34が配置されている。排気に含まれる有害物質は、触媒コンバータ34によって無害成分に浄化された後、排気管32の終端開口から大気中に放出される。ここで、触媒コンバータ34としては、例えば、排気に含まれるCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)、及びNOx(窒素酸化物)を同時に浄化する三元触媒を使用することができる。
【0014】
吸気弁20を開閉駆動する吸気カムシャフト36の端部には、クランクシャフトに対する吸気カムシャフト36の相対回転角度を変化させることで、吸気弁20のバルブタイミングを変更する電動式のVVT機構100が取り付けられている。ここで、VVT機構100は、吸気弁20に限らず、吸気弁20及び排気弁30の少なくとも一方に取り付けられていればよい。なお、VVT機構100の詳細については後述する。
【0015】
エンジンシステムの所定箇所には、上述した吸気流量センサ14に加えて、水温センサ38、エンジン回転速度センサ40、クランク角センサ42、カム角センサ44、及びモータ回転速度センサ46が夫々取り付けられている。水温センサ38は、エンジン10の冷却水温度(水温)Twを検出する。エンジン回転速度センサ40は、エンジン10の回転速度Neを検出する。クランク角センサ42は、クランクシャフトの基準位置からの回転角度θCRKを検出する。カム角センサ44は、吸気カムシャフト36の基準位置からの回転角度θCAMを検出する。モータ回転速度センサ46は、VVT機構100の電動モータ(詳細については後述する)の出力軸の回転速度Nmを検出する。なお、以下の説明においては、電動モータの出力軸の回転速度を、電動モータの回転速度と略記する。
【0016】
吸気流量センサ14、水温センサ38、エンジン回転速度センサ40、クランク角センサ42、カム角センサ44、及びモータ回転速度センサ46の各出力信号は、マイクロコンピュータ(図示せず)を内蔵したエンジン制御モジュール(ECM)200に入力されている。エンジン制御モジュール200は、吸気流量センサ14及びエンジン回転速度センサ40から吸気流量Q及び回転速度Neを夫々読み込み、これらに基づいてエンジン運転状態に応じた基本燃料噴射量を演算する。また、エンジン制御モジュール200は、水温センサ38から水温Twを読み込み、基本燃料噴射量を水温Twで補正した燃料噴射量を演算する。そして、エンジン制御モジュール200は、エンジン運転状態に応じたタイミングで燃料噴射弁22及び点火プラグ24に作動信号を夫々出力し、燃料噴射量に応じた燃料を燃料噴射弁22から噴射させるとともに、点火プラグ24によって燃料と吸気との混合気を着火燃焼させる。このとき、エンジン制御モジュール200は、図示しない空燃比センサから空燃比を読み込み、排気中の空燃比が目標空燃比に近づくように、燃料噴射弁22をフィードバック制御する。
【0017】
エンジン制御モジュール200は、燃料噴射弁22及び点火プラグ24の制御に加えて、吸気流量センサ14及びエンジン回転速度センサ40から吸気流量Q及び回転速度Neを夫々読み込み、エンジン運転状態に応じたVVT機構100の目標角度を演算する。また、エンジン制御モジュール200は、回転速度Neに1/2を乗算して吸気カムシャフト36の回転速度Nc(Nc=Ne×1/2)を演算するとともに、モータ回転速度センサ46から回転速度Nmを読み込む。さらに、エンジン制御モジュール200は、VVT機構100が目標角度に近づくように、吸気カムシャフト36の回転速度Nc、電動モータの回転速度Nm、及びVVT機構100の減速比に応じた電動モータの目標回転速度Ntを演算する。そして、エンジン制御モジュール200は、CAN(Controller Area Network)などの周知の車載ネットワークを介して、マイクロコンピュータ(図示せず)を内蔵したVVTコントローラ250に電動モータの目標回転速度Ntを送信する。ここで、VVTコントローラ250には、エンジン制御モジュール200と同様に、電動モータの回転速度Nmを検出するモータ回転速度センサ46の出力信号が入力されている。なお、VVTコントローラ250が、VVT機構100の制御装置の一例として挙げられる。
【0018】
電動モータの目標回転速度Ntを受信したVVTコントローラ250は、モータ回転速度センサ46から電動モータの実際の回転速度(実回転速度)Nmを読み込み、実回転速度Nmが目標回転速度Ntに近づくように、電動モータに供給する電流をフィードバック制御する。要するに、VVTコントローラ250は、速度フィードバック制御によってVVT機構100の電動モータに供給する電流を制御する。
【0019】
図2図4は、VVT機構100の一例を示している。なお、図2図4に示すVVT機構100はあくまで一例であって、電動モータによってクランクシャフトに対する吸気カムシャフト36の相対回転角度を変更可能であれば、当業者にとって周知のVVT機構であってもよい。
【0020】
VVT機構100は、図2に示すように、タイミングスプロケット(カムスプロケット)102と、カバー部材104と、位相変更機構106と、を有している。タイミングスプロケット102は、タイミングチェーン108を介して、エンジン10のクランクシャフトによって回転駆動される。そして、タイミングスプロケット102は、これと一体化された吸気カムシャフト36を回転駆動させる。カバー部材104は、吸気カムシャフト36を基準としたタイミングスプロケット102よりも遠位側において、エンジン10の固定構造物であるチェーンカバー110に対してボルト112で締結されている。位相変更機構106は、タイミングスプロケット102と吸気カムシャフト36との間に配置され、吸気カムシャフト36に対するタイミングスプロケット102の相対回転角度を変更する。
【0021】
タイミングスプロケット102は、吸気カムシャフト36の端部の外周面に対して、ボールベアリング114を介して相対回転可能に配置されている。タイミングスプロケット102の外周部の側面であって、吸気カムシャフト36より遠位側に位置する側面には、内周に波形状の内歯116A(図3参照)が形成された環状部材116、及び円環形状のプレート118が、ボルト120によって締結されている。また、タイミングスプロケット102の内周面の一部には、図4に示すように、円弧形状のストッパ凸部102Aが周方向に沿って所定長さに亘って形成されている。
【0022】
プレート118の遠位側の外周部には、位相変更機構106の減速機122、及び電動モータ124の各構成部材を覆うように、吸気カムシャフト36から遠位方向に向かって延びる円筒形状のハウジング126が、ボルト128によって締結されている。ハウジング126は、非鉄金属によって形成されて、ヨークとして機能する。ハウジング126の遠位側に位置する先端面には、円環プレート形状の保持部126Aが一体的に連結されている。そして、ハウジング126は、これよりも遠位側に配置されたカバー部材104によって、カバー部材104と少なくとも所定間隔を隔てつつ覆われている。
【0023】
吸気カムシャフト36の端部には、従動回転体である従動部材130が、カムボルト132によって締結されている。また、吸気カムシャフト36の先端部の外周面の一部には、図4に示すように、タイミングスプロケット102のストッパ凸部102Aが相対回転可能に嵌合する、円弧形状のストッパ凹溝36Aが周方向に沿って所定長さに亘って形成されている。ここで、タイミングスプロケット102のストッパ凸部102A、及び吸気カムシャフト36のストッパ凹溝36Aによって、VVT機構100の動作範囲を機械的に規定するストッパが構成されている。
【0024】
そして、吸気カムシャフト36に対してタイミングスプロケット102が相対回転し、ストッパ凸部102Aがストッパ凹溝36Aの内面に当接すると、吸気カムシャフト36に対するタイミングスプロケット102の相対回転が阻止される。このため、吸気カムシャフト36に対するタイミングスプロケット102の最進角位置及び最遅角位置が夫々規定され、吸気弁20のバルブタイミングの可変範囲が制限されることとなる。
【0025】
従動部材130は、鉄系金属によって形成され、図2及び図3に示すように、吸気カムシャフト36の近位側に配置された円板部130Aと、吸気カムシャフト36の遠位側に配置された円筒部130Bと、を含んで構成されている。円板部130Aには、吸気カムシャフト36と略同径を有する円環形状の凸部130Cが一体的に形成され、ここにボールベアリング114の内輪の一部が嵌合されている。また、円板部130Aの外周部には、複数のローラ134を保持する保持器136が一体的に形成されている。
【0026】
位相変更機構106は、吸気カムシャフト36と同心に配置された電動モータ124と、電動モータ124の回転速度を減速しつつ吸気カムシャフト36に伝達する減速機122と、を含んで構成されている。
【0027】
電動モータ124は、タイミングスプロケット102と一体的に回転するハウジング126と、ハウジング126の内部に回転自由に配置されたモータ軸138と、ハウジング126の内周面に固定された一対の永久磁石140,142と、ハウジング126の保持部126Aに固定された固定子144と、を含んで構成されている。モータ軸138は、円筒形状に形成されて、アーマチュアとして機能する。モータ軸138の略中央位置の外周には、複数の極を有する鉄心ロータ146が固定されている。鉄心ロータ146には、電磁コイル148が巻き回されている。
【0028】
モータ軸138は、カムボルト132の外周、及び従動部材130の円筒部130Bの外周に対して、ボールベアリング150及びニードルベアリング152を介して、相対回転可能に配置されている。また、モータ軸138の近位側の端部には、減速機122の一部を構成する、円筒形状の偏心軸部154が一体的に形成されている。
【0029】
減速機122は、偏心回転運動をする偏心軸部154と、偏心軸部154の外周に配置されたボールベアリング156と、ボールベアリング156の外周に配置されたローラ134と、ローラ134を転動方向に保持しつつ径方向への移動を許容する保持器136と、保持器136と一体化された従動部材130と、を含んで構成されている。偏心軸部154の外周面に形成されたカム面の軸心は、モータ軸138の軸心Xから径方向へと僅かに偏心している。ここで、ボールベアリング156及びローラ134などは、遊星噛み合い部として機構する。
【0030】
また、ボールベアリング156の外輪の外周面には、ローラ134が常時当接している。さらに、ボールベアリング156の外周には円環形状の隙間158が形成され、この隙間158によってボールベアリング156の全体が、偏心軸部154の偏心回転に伴って径方向へと移動可能、要するに、偏心可能になっている。各ローラ134は、ボールベアリング156の偏心動作に伴って径方向へと移動しつつ環状部材116の内歯116Aに嵌まり込むとともに、保持器136によって周方向にガイドされつつ径方向に揺動運動するように構成されている。
【0031】
次に、このようなVVT機構100の動作について説明する。
エンジン10のクランクシャフトが回転すると、タイミングチェーン108を介してタイミングスプロケット102が回転し、その回転力によって環状部材116、プレート118及びハウジング126を介して電動モータ124が同期回転する。一方、環状部材116の回転力は、ローラ134、保持器136及び従動部材130を介して、吸気カムシャフト36に伝達される。これによって、吸気カムシャフト36が回転し、そこに形成されたカムが吸気弁20を開閉させる。
【0032】
クランクシャフトに対する吸気カムシャフト36の相対回転角度、要するに、吸気弁20のバルブタイミングを変更するときには、電磁コイル148に通電して電動モータ124を作動させる。電動モータ124が作動すると、そのモータ回転力が減速機122を介して吸気カムシャフト36に伝達される。即ち、モータ軸138の回転に伴い偏心軸部154が偏心回転すると、各ローラ134がモータ軸138の1回転ごとに、保持器136により径方向にガイドされつつ、環状部材116の1つの内歯116Aを乗り越えて隣接する他の内歯116Aに転動しながら移動する。そして、各ローラ134が、これを順次繰り返しながら円周方向へと転接する。各ローラ134の転接によって、モータ軸138の回転が、減速されつつ従動部材130に伝達される。なお、モータ軸138の回転が従動部材130に伝達されるときの減速比は、ローラ134の個数などによって任意に設定することができる。
【0033】
よって、タイミングスプロケット102に対して吸気カムシャフト36が正逆相対回転して、その相対回転角度が変更される。これによって、吸気弁20の開閉タイミングが、進角側又は遅角側に変更される。
【0034】
このとき、タイミングスプロケット102に対する吸気カムシャフト36の正逆相対回転は、ストッパ凸部102Aがストッパ凹溝36Aの内面に当接することで規制される。即ち、従動部材130が偏心軸部154の偏心回転に伴ってタイミングスプロケット102の回転方向と同方向に相対回転することによって、ストッパ凸部102Aがストッパ凹溝36Aの一方の側面に当接して、それ以上の回転が規制される。これによって、吸気カムシャフト36は、タイミングスプロケット102に対する相対回転角度が最進角位置へと変更される。一方、従動部材130がタイミングスプロケット102の回転方向と逆方向に相対回転することによって、ストッパ凸部102Aがストッパ凹溝36Aの他の側面に当接して、それ以上の回転が規制される。これによって、吸気カムシャフト36は、タイミングスプロケット102に対する相対回転角度が最遅角位置へと変更される。なお、電動モータ124を停止させると、タイミングスプロケット102の回転に伴って従動部材130がタイミングスプロケット102の回転方向と逆方向に回転し、これによって、吸気カムシャフト36は、タイミングスプロケット102に対する相対回転角度が最進角位置へと変更される。
【0035】
ところで、一般的に、VVT機構100の電動モータ124のフリクションが吸気カムシャフト36のカムトルクより小さいため、図5に示すように、クランキング開始からエンジン回転速度がカムトルクの影響を受けなくなる所定回転速度に達するまでなど、エンジン回転速度が比較的低速であるときには、カムトルクの影響を受けてVVT機構100の実角度がエンジン始動時の目標角度からずれてしまうおそれがあった。この状態で目標角度が変化すると、VVT機構100の始動時の目標角度と実角度との偏差に応じて電動モータ124のモータ電流のフィードバック制御が開始されるが、VVT機構100の実角度が始動時の目標角度からずれたことによって変化した目標角度に追従できず、応答遅れが発生する可能性があった。
【0036】
そこで、本実施形態では、VVTコントローラ250は、エンジンクランキング時に、VVT機構100のエンジン始動時の目標角度に対して設定されたエンジン始動性能に影響がない許容範囲内にVVT機構100の実角度が保持されるという条件下で、電動モータ124を電流制御してVVT機構100を遅角側に押し付けるようにする。このようにすれば、図6に示すように、VVTコントローラ250は、クランキング開始からエンジン回転速度が所定回転速度に達するまでの間、エンジン始動性能に影響がない限度において、VVT機構100の電動モータ124を電流制御して遅角側に押し付けることができる。
【0037】
このため、電動モータ124に供給するモータ電流を適切に制御することで、カムトルクによってVVT機構100の実角度が進角側にずれることが抑制されて、VVT機構100の目標角度と実角度との偏差が小さくなる。従って、電動モータ124の制御方法が電流制御からフィードバック制御へと切り替えられた直後であっても、VVT機構100の目標角度の変化に追従できるようになる。また、VVT機構100の目標角度に対する実角度の追従性が向上することから、ストッパへの衝突による振動発生及び異音発生なども抑制することができる。なお、VVTコントローラ250は、エンジン停止時に、エンジン再始動に備えてVVT角度をエンジン始動に適した目標角度に変更することに留意されたい。
【0038】
図7は、VVTコントローラ250が起動されたことを契機として、VVTコントローラ250のマイクロコンピュータが所定時間ごとに繰り返し実行するVVT制御処理の一例を示している。ここで、VVTコントローラ250のマイクロコンピュータは、不揮発性メモリに予め格納されたアプリケーションプログラムに従って、VVT制御処理を実行する。なお、以下の説明においては、説明を簡略化するために、VVTコントローラ250のマイクロコンピュータを「VVTコントローラ250」と略記する。
【0039】
ステップ10(図7では「S10」と略記する。以下同様。)では、VVTコントローラ250が、VVT機構100の駆動許可条件が成立しているか否かを判定する。駆動許可条件としては、例えば、バッテリ電圧が正常範囲にある第1の条件、VVT機構100の電動モータ124の電流検出ができている第2の条件、上位のエンジン制御モジュール200から駆動許可が得られている第3の条件、及びVVT機構100に故障が発生していない第4の条件のすべてが成立したことを適用することができる。そして、VVTコントローラ250は、VVT機構100の駆動許可条件が成立していると判定すれば(Yes)、処理をステップ11へと進める。一方、VVTコントローラ250は、VVT機構100の駆動許可条件が成立していないと判定すれば(No)、VVT機構100の制御が禁止されているので今回の制御サイクルにおけるVVT制御処理を終了させる。
【0040】
ステップ11では、VVTコントローラ250が、例えば、上位のエンジン制御モジュール200から送信されたエンジン作動情報に基づいて、エンジンストール判定なしであるか否か、要するに、エンジン10が作動中であるか否かを判定する。そして、VVTコントローラ250は、エンジンストール判定なし、即ち、エンジン10が作動中であると判定すれば(Yes)、処理をステップ12へと進める。一方、VVTコントローラ250は、エンジンストール判定あり、即ち、エンジン10が停止していると判定すれば(No)、VVT機構100を制御する必要性がないので今回の制御サイクルにおけるVVT制御処理を終了させる。
【0041】
ステップ12では、VVTコントローラ250が、クランキング開始後において初回のVVT角度が算出できたか否か、即ち、クランク角センサ42及びカム角センサ44の各出力信号などからVVT機構100の実角度が算出できたか否かを判定する。そして、VVTコントローラ250は、初回のVVT機構100の実角度が算出できたと判定すれば(Yes)、処理をステップ13へと進める。一方、VVTコントローラ250は、初回のVVT機構100の実角度が算出できない、要するに、VVT機構100の実角度を使用した制御が実行できないと判定すれば(No)、今回の制御サイクルにおけるVVT制御処理を終了させる。
【0042】
ステップ13では、VVTコントローラ250が、エンジン回転速度センサ40から回転速度Neを読み込み、エンジン10の回転速度Neが所定回転速度未満であるか否かを判定する。ここで、所定回転速度は、吸気カムシャフト36のカムトルクによりVVT機構100が影響を受ける範囲の上限を規定する閾値であって、例えば、500[rpm]とすることができる。そして、VVTコントローラ250は、エンジン10の回転速度Neが所定回転速度未満である、即ち、エンジン10の回転速度Neが比較的低速であることからカムトルクの影響を受ける可能性があると判定すれば(Yes)、処理をステップ14へと進める。一方、VVTコントローラ250は、エンジン10の回転速度Neが所定回転速度以上である、即ち、エンジン10の回転速度Neが比較的低速でないことからカムトルクの影響を受ける可能性がないと判定すれば(No)、処理をステップ16へと進める。
【0043】
ステップ14では、VVTコントローラ250が、VVT機構100のエンジン始動時の目標角度に対してエンジン始動性能に影響がない許容範囲を設定する。具体的には、VVTコントローラ250は、エンジン始動性能に影響がない限度において、始動時の目標角度を下回る許容範囲を設定(図8及び図9参照)、又はVVT機構100の動作範囲を規定するストッパに衝突しない許容範囲を設定(図10参照)することができる。ここで、図9に示す許容範囲では、VVT機構100の実角度が最遅角位置にあってもエンジン始動性能に影響がないことを踏まえ、許容範囲の下限値が最遅角位置に設定されている。また、図10に示す許容範囲では、始動時の目標角度を挟んで上限値及び下限値が設定されている。なお、このような許容範囲は、例えば、実機のテスト、シミュレーションなどによって事前に求められてマイクロコンピュータの不揮発性メモリに格納され、VVTコントローラ250が不揮発性メモリを参照して許容範囲を設定することができる。
【0044】
ステップ15では、VVTコントローラ250が、VVT機構100の電動モータ124を電流制御する。具体的には、図8及び図9に示すような許容範囲が設定された場合、VVTコントローラ250は、例えば、マイクロコンピュータの不揮発性メモリに予め格納された、VVT角度と許容範囲の下限値との偏差に反比例するモータ電流が定義されたマップを参照し、制御時におけるVVT機構100の実角度と許容範囲の下限値との偏差に応じたモータ電流を設定する。
【0045】
また、図10に示すような許容範囲が設定された場合、VVTコントローラ250は、目標角度<VVT機構100の実角度≦許容範囲の上限値であれば、許容範囲の上限値とVVT角度との偏差に反比例するモータ電流が定義されたマップを参照し、制御時における許容範囲の上限値とVVT機構100の実角度との偏差に応じたモータ電流を設定する。一方、VVTコントローラ250は、許容範囲の下限値≦VVT機構100の実角度≦目標角度であれば、VVT角度と許容範囲の下限値との偏差に反比例するモータ電流が定義されたマップを参照し、制御時におけるVVT機構100の実角度と許容範囲の下限値との偏差に応じたモータ電流を設定する。
【0046】
そして、VVTコントローラ250は、このように設定されたモータ電流をVVT機構100の電動モータ124に供給し、VVT機構100を遅角側に押し付ける。その後、VVTコントローラ250は、今回の制御サイクルにおけるVVT制御処理を終了させる。ここで、上記のマップに定義されるモータ電流は、例えば、実機のテスト、シミュレーションなどによって予め求めることができる。
【0047】
ステップ16では、エンジン10の回転速度Neが所定回転速度以上であるため、VVTコントローラ250は、VVT機構100の実角度が目標角度に近づくように、VVT機構100の電動モータ124に供給するモータ電流をフィードバック制御する。その後、VVTコントローラ250は、今回の制御サイクルにおけるVVT機構制御処理を終了させる。
【0048】
かかるVVT制御処理によれば、VVT機構100の駆動許可条件が成立し、エンジンストール判定がなく、クランキング開始後の初回のVVT機構100の実角度が算出でき、かつエンジン10の回転速度Neが所定回転速度未満であれば、VVT機構100の始動時の目標角度に対してエンジン始動性能に影響がない許容範囲が設定される。その後、許容範囲とVVT機構100の実角度との相関関係によって、VVT機構100の電動モータ124に供給するモータ電流が設定され、これが電動モータ124に供給されてVVT機構100が遅角側に押し付けられる。従って、吸気カムシャフト36のカムトルクによってVVT機構100が進角側にずれようとしても、電動モータ124によりVVT機構100が遅角側に押し付けられていることから、これを抑制することができる。このような理由から、エンジン始動時など、エンジン10の回転速度が比較的低速であるときであっても、VVT機構100の目標角度に対する実角度のずれを抑制することができる。
【0049】
また、VVT機構100の駆動許可条件が成立し、かつエンジンストール判定がない状態においてVVT機構100の実角度が算出できなければ、そもそも、VVT機構100を制御できないことから、今回の制御サイクルにおけるVVT機構制御処理が終了される。また、VVT機構100の目標角度が変化した後には、VVT機構100が目標角度と実角度との偏差に応じてフィードバック制御されるため、VVT機構100の目標角度に対する実角度の追従性を向上させることができる。
【0050】
なお、駆動許可条件が成立していないか、又はエンジンストール判定があれば、VVT機構100の作動が禁止されているか、又はエンジン10が停止していてVVT機構100を制御する必要がないため、VVT機構100の制御がスキップされる。
【0051】
VVT機構100の電動モータ124に供給するモータ電流は、例えば、エンジン回転速度、潤滑油温度及びバッテリ電圧を加味して補正するようにしてもよい。具体的には、例えば、エンジン回転速度、潤滑油温度及びバッテリ電圧に夫々適合する補正値が予め設定されたマップを参照し、制御時におけるエンジン回転速度、潤滑油温度及びバッテリ電圧に夫々応じた補正値を求め、モータ電流を補正値によって補正することができる。また、モータ電流は、吸気カムシャフト36のカムトルクに負けず、かつVVT機構100の実角度を許容範囲内に保持可能な、予め決められた適合値(所定値)としてもよい。
【0052】
さらに、電動モータ124へのモータ電流の供給は、図8及び図9に示す許容範囲の場合、上述した偏差が所定値より大きいときに行い、図10に示す許容範囲の場合、始動時の目標角度よりもVVT機構100の実角度が大きいとき、上述した偏差が所定値より小さければ行い、始動時の目標角度よりもVVT機構100の実角度が小さいとき、上述した偏差が所定値より大きければ行うようにしてもよい。このようにすれば、電動モータ124にモータ電流を供給するシーンが少なくなり、例えば、VVTコントローラ250の制御負荷及び消費電力を低減することができる。
【0053】
ここで、本実施形態で提案するVVT機構100の制御方法の理解を容易ならしめることを目的として、以下、具体的な実例を挙げて、VVT機構100の動作を説明する。
【0054】
<<第1実施例、第2実施例>>
図8及び図9は、VVT機構100の制御方法の第1実施例及び第2実施例を夫々示している。第1実施例においては、図8から明確に把握できるように、許容範囲は、その上限値を始動時の目標角度とし、その下限値を最遅角位置よりも大きい角度に設定されている。この場合、許容範囲の上方に位置する斜線を付した領域には、VVT機構100の実角度が絶対入らないように制御され、許容範囲の下方に位置する領域は、エンジン始動性能に影響がないため、VVT機構100を制御しても制御しなくてもよい。一方、第2実施例においては、図9から容易に把握できるように、許容範囲は、その上限値を始動時の目標値とし、その下限値をストッパにより規定される最遅角位置に設定されている。この場合、第1実施例と同様に、許容範囲の上方に位置する斜線を付した領域には、VVT機構100の実角度が絶対入らないように制御される。
【0055】
エンジン始動により制御が開始された後、エンジン10のクランキングが開始されると、VVT機構100を制御する必要があるため、駆動許可条件が成立するとともに、クランキング開始に伴ってエンジンストール判定が「無」になる。また、クランキング開始からの時間経過に伴って、エンジン回転速度が0から徐々に上昇する。このとき、駆動許可条件の成立、及びエンジンストール判定が「無」になることにより、VVT機構100の電動モータ124に所定のモータ電流が供給され、その結果、VVT機構100が遅角側に押し付けられる。モータ電流は、VVT機構100の実角度と許容範囲の下限値との偏差に反比例するため、VVT機構100の実角度を効率的に許容範囲内に保持することができる。従って、吸気カムシャフト36のカムトルクによってVVT機構100が進角側にずれようとしても、このカムトルクに抗してVVT機構100が遅角側に押し付けられているため、VVT機構100のずれを抑制することができる。
【0056】
時間経過に伴ってエンジン回転速度が所定回転速度に達すると、VVT機構100をフィードバック制御する準備ができたと見做すことができるため、エンジン始動に適した目標角度がエンジン運転状態に応じた目標角度へと変化するとともに、電動モータ124の制御方法が電流制御からフィードバック制御へと切り替えられる。電動モータ124の制御がフィードバック制御に切り替えられた直後であっても、VVT機構100のずれが抑制されていることから、図示するように、VVT機構100の目標角度に対する実角度の追従性を向上させることができる。
【0057】
<<第3実施例>>
図10は、VVT機構100の制御方法の第3実施例を示している。第3実施例においては、図10から明確に把握できるように、許容範囲は、その上限値が始動時の目標角度よりも大きな値に設定され、その下限値が始動時の目標角度よりも小さな値に設定されている。従って、第3実施例における許容範囲は、始動時の目標角度を挟んだ範囲として設定されている。この場合、第1実施例と同様に、許容範囲の上方に位置する斜線を付した領域には、VVT機構100の実角度が絶対入らないように制御され、許容範囲の下方に位置する領域は、エンジン始動性能に影響がないため、VVT機構100を制御しても制御しなくてもよい。
【0058】
エンジン始動により制御が開始された後、エンジン10のクランキングが開始されると、VVT機構100を制御する必要があるため、駆動許可条件が成立するとともに、クランキング開始に伴ってエンジンストール判定が「無」になる。また、クランキング開始からの時間経過に伴って、エンジン回転速度が0から徐々に上昇する。このとき、駆動許可条件の成立、及びエンジンストール判定が「無」になることにより、VVT機構100の電動モータ124に所定のモータ電流が供給され、その結果、VVT機構100が遅角側に押し付けられる。VVT機構100の実角度が始動時の目標角度よりも大きい許容範囲内にあれば、モータ電流は、許容範囲の上限値と実角度との偏差に反比例する値に設定されるため、VVT機構100の実角度を始動時の目標角度よりも大きい許容範囲内に維持することができる。また、VVT機構100の実角度が始動時の目標角度よりも小さい許容範囲内にあれば、モータ電流は、実角度と許容範囲の下限値との偏差に反比例する値に設定されるため、VVT機構100の実角度を始動時の目標角度よりも小さい許容範囲内に維持することができる。従って、吸気カムシャフト36のカムトルクによってVVT機構100が進角側にずれようとしても、このカムトルクに抗してVVT機構100が遅角側に押し付けられているため、VVT機構100のずれを抑制することができる。
【0059】
これ以降の動作は、先の第1実施例及び第2実施例と同様であるため、重複説明を避ける目的で、その説明を省略する。必要であれば、先の第1実施例及び第2実施例の説明を参照されたい。
【0060】
なお、当業者であれば、様々な上記実施形態の技術的思想について、その一部を省略したり、その一部を適宜組み合わせたり、その一部を置換したりすることで、新たな実施形態を生み出せることを容易に理解できるであろう。
【0061】
その一例を挙げると、車両に搭載されたエンジン10は、ガソリンエンジンに限らず、ディーゼルエンジンであってもよい。また、VVT機構100のストッパは、上述した構成に限らず、VVT機構100の動作範囲を規定可能な周知の構成を有するストッパであってもよい。さらに、VVT機構100の制御は、VVTコントローラ250に限らず、エンジン制御モジュール200によって行うようにしてもよい。この場合、エンジン制御モジュール200が、VVT機構100の制御装置の一例として挙げられる。
【符号の説明】
【0062】
10…エンジン、36…吸気カムシャフト(カムシャフト)、36A…ストッパ凹溝(ストッパ)、100…VVT機構(可変バルブタイミング機構)、102…タイミングスプロケット(ストッパ)、102A…ストッパ凸部(ストッパ)、124…電動モータ、200…エンジン制御モジュール(制御装置)、250…VVTコントローラ(制御装置)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10