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特開2024-113336豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113336
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/02 20240101AFI20240815BHJP
【FI】
G06Q50/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018236
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000229519
【氏名又は名称】日本ハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】助川 慎
(72)【発明者】
【氏名】内田 大介
(72)【発明者】
【氏名】奥田 雅貴
(72)【発明者】
【氏名】森下 直樹
【テーマコード(参考)】
5L049
5L050
【Fターム(参考)】
5L049CC01
5L050CC01
(57)【要約】
【課題】それぞれのペンで飼育されている豚の健康状態に関する全体傾向の評価を、過度なコストや労力を要することなく適時に飼育員に知らせることのできる豚飼育支援装置を提供する。
【解決手段】豚飼育支援装置は、観察対象となる観察豚が集団飼育されている観察ペンに向けて設置されたカメラによって観察豚の就寝時間帯に撮像された観察画像の画像データを取得する取得部と、取得部が取得した画像データの観察画像に基づいて観察ペンに対する観察豚の分散状態を認識する認識部と、認識部が認識した分散状態に基づいて観察ペンで集団飼育されている観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する評価部とを備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象となる観察豚が集団飼育されている観察ペンに向けて設置されたカメラによって前記観察豚の就寝時間帯に撮像された観察画像の画像データを取得する取得部と、
前記取得部が取得した前記画像データの観察画像に基づいて前記観察ペンに対する前記観察豚の分散状態を認識する認識部と、
前記認識部が認識した前記分散状態に基づいて前記観察ペンで集団飼育されている前記観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する評価部と
を備える豚飼育支援装置。
【請求項2】
前記認識部は、豚の存在位置を検出する位置検出学習モデルへ前記取得部が取得した前記画像データを入力することにより、前記分散状態を認識する請求項1に記載の豚飼育支援装置。
【請求項3】
前記認識部は、前記観察ペンの床領域に対する前記位置検出学習モデルが出力した前記観察豚の存在領域に基づいて前記分散状態を認識し、
前記評価部は、前記分散状態を、ペンの床領域に対する豚の存在領域の割合を前記ペンにおける前記豚の健康状態に関する全体傾向と対応付けた参照データに照らし合わせることにより、前記観察ペンで飼育されている前記観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する請求項2に記載の豚飼育支援装置。
【請求項4】
前記認識部は、前記位置検出学習モデルが出力した前記観察豚の存在位置に基づいて前記分散状態を認識し、
前記評価部は、前記前記分散状態を、ペンの単位領域に対する豚の密集度合いを前記ペンにおける前記豚の健康状態に関する全体傾向と対応付けた参照データに照らし合わせることにより、前記観察ペンで飼育されている前記観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する請求項2に記載の豚飼育支援装置。
【請求項5】
前記評価部は、前記取得部が複数の時点において取得したそれぞれの前記画像データに基づいて前記認識部が認識した複数の前記分散状態に基づいて、前記観察ペンで飼育されている前記観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する請求項1に記載の豚飼育支援装置。
【請求項6】
前記評価部は、前記観察ペンに収容されている前記観察豚の頭数を考慮して、前記観察ペンで集団飼育されている前記観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する請求項1に記載の豚飼育支援装置。
【請求項7】
前記評価部は、前記観察ペンに収容されている前記観察豚の日齢を考慮して、前記観察ペンで集団飼育されている前記観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する請求項1に記載の豚飼育支援装置。
【請求項8】
前記評価部は、前記観察ペンの温度、湿度、空気流、二酸化炭素濃度、アンモニア濃度および照度の少なくともいずれかを考慮して、前記観察ペンで集団飼育されている前記観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する請求項1に記載の豚飼育支援装置。
【請求項9】
前記評価部は、前記観察ペンに収容されている前記観察豚のうち予め設定された特定姿勢を取る観察豚の前記観察ペン内における存在位置を考慮して、前記観察ペンで集団飼育されている前記観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する請求項1に記載の豚飼育支援装置。
【請求項10】
観察対象となる観察豚が集団飼育されている観察ペンに向けて設置されたカメラによって前記観察豚の就寝時間帯に撮像された観察画像の画像データを取得する取得部と、
豚が集団飼育されているペンを前記豚の就寝時間帯に撮像した教師画像に対して、前記教師画像に写る前記豚の分散状態に応じてスコアが付与された教師データによって学習された評価学習モデルへ前記取得部が取得した前記画像データを入力することにより、前記観察ペンで集団飼育されている前記観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する評価部と
を備える豚飼育支援装置。
【請求項11】
前記評価部は、前記取得部が複数の時点において取得したそれぞれの前記画像データを入力することにより前記評価学習モデルが出力した複数の前記スコアに基づいて、前記観察ペンで飼育されている前記観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する請求項10に記載の豚飼育支援装置。
【請求項12】
前記評価学習モデルは、前記ペンに収容されている前記豚の日齢情報を含む前記教師データによって学習されており、
前記評価部は、前記評価学習モデルへ前記取得部が取得した前記画像データと共に前記観察豚の日齢情報を入力することにより、前記観察ペンで集団飼育されている前記観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する請求項10に記載の豚飼育支援装置。
【請求項13】
前記評価部は、前記観察ペンの温度、湿度、空気流、二酸化炭素濃度、アンモニア濃度および照度の少なくともいずれかを考慮して、前記観察ペンで集団飼育されている前記観察豚の全体の健康状態傾向を評価する請求項10に記載の豚飼育支援装置。
【請求項14】
観察対象となる観察豚が集団飼育されている観察ペンに向けて設置されたカメラによって前記観察豚の就寝時間帯に撮像された観察画像の画像データを取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得した前記画像データの観察画像に基づいて前記観察ペンに対する前記観察豚の分散状態を認識する認識ステップと、
前記認識ステップで認識した前記分散状態に基づいて前記観察ペンで集団飼育されている前記観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する評価ステップと
を有する豚飼育支援方法。
【請求項15】
観察対象となる観察豚が集団飼育されている観察ペンに向けて設置されたカメラによって前記観察豚の就寝時間帯に撮像された観察画像の画像データを取得する取得ステップと、
豚が集団飼育されているペンを前記豚の就寝時間帯に撮像した教師画像に対して、前記教師画像に写る前記豚の分散状態に応じてスコアが付与された教師データによって学習された評価学習モデルへ前記取得ステップで取得した前記画像データを入力することにより、前記観察ペンで集団飼育されている前記観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する評価ステップと
を有する豚飼育支援方法。
【請求項16】
観察対象となる観察豚が集団飼育されている観察ペンに向けて設置されたカメラによって前記観察豚の就寝時間帯に撮像された観察画像の画像データを取得する取得ステップと、
前記取得ステップで取得した前記画像データの観察画像に基づいて前記観察ペンに対する前記観察豚の分散状態を認識する認識ステップと、
前記認識ステップで認識した前記分散状態に基づいて前記観察ペンで集団飼育されている前記観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する評価ステップと
をコンピュータに実行させる豚飼育支援プログラム。
【請求項17】
観察対象となる観察豚が集団飼育されている観察ペンに向けて設置されたカメラによって前記観察豚の就寝時間帯に撮像された観察画像の画像データを取得する取得ステップと、
豚が集団飼育されているペンを前記豚の就寝時間帯に撮像した教師画像に対して、前記教師画像に写る前記豚の分散状態に応じてスコアが付与された教師データによって学習された評価学習モデルへ前記取得ステップで取得した前記画像データを入力することにより、前記観察ペンで集団飼育されている前記観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する評価ステップと
をコンピュータに実行させる豚飼育支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、豚飼育支援装置、豚飼育支援方法、および豚飼育支援プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
家畜の異常を検知するシステムが知られている。例えば、個々の家畜に各種センサを装着し、その出力が健康状態ではあり得ない値である場合に、当該個体を異常であると判断する(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-201930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
豚を飼育する場合には、一般的にペンと呼ばれる檻や区切られた区画において集団で飼育する手法が採用されることが多い。さらに、養豚場の豚舎内には複数のペンが設置されることが多く、一つの豚舎内で非常に多くの豚が飼育されるのが一般的である。したがって、体調不良を検出するためのセンサをそれぞれの豚に取り付けることはあまり現実的ではない。
【0005】
ペンによる集団飼育においては、体調不良が豚間で連鎖的に拡散する場合があり、そのような体調不良の原因除去や飼育環境の最適調整のためにも、飼育員がそれぞれのペン内で飼育されている豚の健康状態に関する全体傾向を把握することは大変重要である。しかしながら、少ない飼育員で多くのペンの様子を万遍なく観察し続けることは困難である。特に、豚が健康状態に関して特徴的な生態を示す就寝時間に飼育員がペンを監視することは、労力やコストの観点からも難しかった。更に、就寝中に飼育員がペンに近づくと起きてしまう豚もおり、就寝中のペン内の全体傾向を正確に観察することも困難であった。
【0006】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、それぞれのペンで飼育されている豚の健康状態に関する全体傾向の評価を、過度なコストや労力を要することなく適時に飼育員に知らせることのできる豚飼育支援装置等を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様における豚飼育支援装置は、観察対象となる観察豚が集団飼育されている観察ペンに向けて設置されたカメラによって観察豚の就寝時間帯に撮像された観察画像の画像データを取得する取得部と、取得部が取得した画像データの観察画像に基づいて観察ペンに対する観察豚の分散状態を認識する認識部と、認識部が認識した分散状態に基づいて観察ペンで集団飼育されている観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する評価部とを備える。
【0008】
また、本発明の第2の態様における豚飼育支援装置は、観察対象となる観察豚が集団飼育されている観察ペンに向けて設置されたカメラによって観察豚の就寝時間帯に撮像された観察画像の画像データを取得する取得部と、豚が集団飼育されているペンを豚の就寝時間帯に撮像した教師画像に対して、教師画像に写る豚の分散状態に応じてスコアが付与された教師データによって学習された評価学習モデルへ取得部が取得した画像データを入力することにより、観察ペンで集団飼育されている観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する評価部とを備える。
【0009】
また、本発明の第3の態様における豚飼育支援方法は、観察対象となる観察豚が集団飼育されている観察ペンに向けて設置されたカメラによって観察豚の就寝時間帯に撮像された観察画像の画像データを取得する取得ステップと、取得ステップで取得した画像データの観察画像に基づいて観察ペンに対する観察豚の分散状態を認識する認識ステップと、認識ステップで認識した分散状態に基づいて観察ペンで集団飼育されている観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する評価ステップとを有する。
【0010】
また、本発明の第4の態様における豚飼育支援方法は、観察対象となる観察豚が集団飼育されている観察ペンに向けて設置されたカメラによって観察豚の就寝時間帯に撮像された観察画像の画像データを取得する取得ステップと、豚が集団飼育されているペンを豚の就寝時間帯に撮像した教師画像に対して、教師画像に写る豚の分散状態に応じてスコアが付与された教師データによって学習された評価学習モデルへ取得ステップで取得した画像データを入力することにより、観察ペンで集団飼育されている観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する評価ステップとを有する。
【0011】
また、本発明の第5の態様における豚飼育支援プログラムは、観察対象となる観察豚が集団飼育されている観察ペンに向けて設置されたカメラによって観察豚の就寝時間帯に撮像された観察画像の画像データを取得する取得ステップと、取得ステップで取得した画像データの観察画像に基づいて観察ペンに対する観察豚の分散状態を認識する認識ステップと、認識ステップで認識した分散状態に基づいて観察ペンで集団飼育されている観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する評価ステップとをコンピュータに実行させる。
【0012】
また、本発明の第6の態様における豚飼育支援プログラムは、観察対象となる観察豚が集団飼育されている観察ペンに向けて設置されたカメラによって観察豚の就寝時間帯に撮像された観察画像の画像データを取得する取得ステップと、豚が集団飼育されているペンを豚の就寝時間帯に撮像した教師画像に対して、教師画像に写る豚の分散状態に応じてスコアが付与された教師データによって学習された評価学習モデルへ取得ステップで取得した画像データを入力することにより、観察ペンで集団飼育されている観察豚の健康状態に関する全体傾向を評価する評価ステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、それぞれのペンで飼育されている豚の健康状態に関する全体傾向の評価を、過度なコストや労力を要することなく適時に飼育員に知らせることのできる豚飼育支援装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係る豚飼育支援装置を採用した養豚環境の全体像を説明するための図である。
図2】本実施形態における豚飼育支援装置と周辺装置のハードウェア構成を示す図である。
図3】ペンの床領域に対する観察豚の存在領域の割合を算出する手順を説明する図である。
図4】観察豚の様々な分散状態における床領域の占有割合を示す図である。
図5】参照データのうち占有割合のスコアテーブルの概念を説明するための図である。
図6】参照データのうち評価テーブルの一例を示す図である。
図7】評価通知を受けた飼育員端末の表示例を示す図である。
図8】演算部の処理手順を説明するフロー図である。
図9】就寝中の豚が取り得る姿勢の例を説明するための図である。
図10】参照データのうち調整テーブルの一例を示す図である。
図11】伏臥姿勢を取る観察豚を考慮する場合の健康スコアを算出する手順を説明する図である。
図12】ペンの環境を考慮する場合の占有割合を算出する手順を説明する図である。
図13】ペンの単位領域に対する観察豚の密集度合い算出する手順を説明する図である。
図14】参照データのうち分散値のスコアテーブルの概念を説明するための図である。
図15】別実施形態における豚飼育支援装置と周辺装置のハードウェア構成を示す図である。
図16】評価ニューラルネットワークの学習手法を説明する図である。
図17】評価ニューラルネットワークを用いた健康スコアの取得を説明する図である。
図18】演算部の処理手順を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
【0016】
図1は、本実施形態に係る豚飼育支援装置を採用した養豚環境の全体像を説明するための図である。養豚場は、壁や柵によって区分された複数のペン300を備える。それぞれのペン300には複数(例えば10頭~60頭程度)の豚310が収容され、集団で飼育されている。ペン300は、豚310の飼育に必要な様々な設備を備える。例えば、換気扇301は、ペン300の壁面に設けられ、外気と内気を適宜入れ替える。本実施形態においては、ペン300に収容されたこれらの豚310が観察対象の観察豚であり、豚310が収容されたペン300が観察ペンである。なお、それぞれのペン300で飼育される豚310の頭数は、豚310の品種や飼育環境等に応じて調整され得る。
【0017】
収容された豚310を観察するためのカメラユニット210が、ペン300ごとに設置されている。カメラユニット210は、観察対象であるペン300の全体を俯瞰して撮像できるように当該ペン300に向けて、例えば天井から吊り下げられて設置されている。カメラユニット210は、撮像した観察画像を画像データに変換し、ネットワーク200を介してサーバ100へ送信する。カメラユニット210とサーバ100を接続するネットワーク200は、インターネットやイントラネットを用いてもよいし、サーバ100が設置される管理施設が養豚場内に設けられるような場合には、近距離無線通信を採用してもよい。
【0018】
ペン300の環境情報を取得するための環境センサ220が、ペン300ごとに設置されている。環境センサ220は、例えば、温度計、湿度計、風量計、二酸化炭素濃度計、アンモニア濃度計、照度計であり、豚飼育支援装置が必要とする情報に応じて設置される。環境センサ220は、図1ではセンサユニットとして天井から吊り下げられている例を示すが、各センサは、それぞれの計測対象の性質に応じて適切な位置に設置される。環境センサ220は、計測対象を計測した計測データを、ネットワーク200を介してサーバ100へ送信する。
【0019】
豚310を世話する飼育員は、飼育員端末230を所持し得る。飼育員端末230は、例えば、タブレット端末やスマートフォンであり、ネットワーク200を介してサーバ100との間で各種情報の授受を行うことができる。飼育員は、例えば飼育記録を飼育員端末230へ入力してサーバ100へ転送することもできるし、サーバ100に蓄積された飼育記録を呼び出すこともできる。また、飼育員端末230は、後述する評価通知を受け取った場合には、その旨を表示する。
【0020】
管理施設には、豚飼育支援装置としてのサーバ100が設置されている。サーバ100は、ネットワーク200と接続されている。サーバ100は、豚310の就寝時間帯に、カメラユニット210から画像データを取得し、当該画像データが表す観察画像に基づいてペン300に対する豚310の分散状態を認識する。そして、その分散状態に基づいて、撮像対象であるペン300に集団で収容されている豚310の健康状態に関する全体傾向を評価する。サーバ100は、管理者や飼育員の要求に応じてその評価結果を表示モニタ150に表示させたり、飼育員端末230に送信したりすることができる。表示モニタ150は、例えば液晶パネルを備えるモニタである。また、サーバ100は、管理者や飼育員の操作を受け付ける入力デバイス160と接続される。入力デバイス160は、キーボード、マウス、表示モニタ150の表示面に重畳されたタッチパネル等によって構成される。
【0021】
図2は、本実施形態における豚飼育支援装置としてのサーバ100と周辺装置のハードウェア構成を示す図である。サーバ100は、上述のように、表示モニタ150、入力デバイス160、カメラユニット210、環境センサ220、飼育員端末230と接続可能である。
【0022】
サーバ100は、主に、演算部110、記憶部120、通信ユニット130によって構成される。演算部110は、サーバ100の制御とプログラムの実行処理を行うプロセッサ(CPU:Central Processing Unit)である。プロセッサは、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やGPU(Graphics Processing Unit)等の演算処理チップと連携する構成であってもよい。演算部110は、記憶部120に記憶された豚飼育支援プログラムを読み出して、豚飼育の支援に関する様々な処理を実行する。
【0023】
記憶部120は、不揮発性の記憶媒体であり、例えばHDD(Hard Disk Drive)によって構成されている。記憶部120は、サーバ100の制御や処理を実行するプログラムの他にも、制御や演算に用いられる様々なパラメータ値、関数、表示要素データ、ルックアップテーブル等を記憶し得る。記憶部120は、特に、位置検出ニューラルネットワーク121(以下、「位置検出NN121」と称する)、参照データ122、観察豚DB123を記憶している。位置検出NN121は、カメラユニット210が撮像したペン300の観察画像を入力すると、豚310の存在位置を検出する学習モデルである。参照データ122は、ペンの床領域に対する豚の存在領域の割合をペンにおける豚の健康状態に関する全体傾向と対応付けたルックアップテーブルを含む。観察豚DB123は、それぞれのペン300で飼育する豚310の頭数や日齢、過去の評価結果などの、飼育されている豚310に関する情報が記録されたデータベースである。これらについては、後にそれぞれ具体的に説明する。なお、記憶部120は、複数のハードウェアで構成されていても良く、例えば、プログラムを記憶する記憶媒体と位置検出NN121を記憶する記憶媒体が別々のハードウェアで構成されてもよい。
【0024】
通信ユニット130は、例えばLANユニットを含み、ネットワーク200を介して、演算部110が生成する撮像制御信号をカメラユニット210へ送信したり、カメラユニット210から送られてくる画像データを演算部110へ引き渡したりする。同様に、演算部110が生成する環境センサ制御信号を環境センサ220へ送信したり、環境センサ220から送られてくる計測データを演算部110へ引き渡したりする。また、通信ユニット130は、飼育員端末230と演算部110の間で実行されるデータの授受を中継する。なお、通信ユニット130は、他の外部装置との間でデータや制御信号の授受を中継することもできる。例えば、豚飼育支援プログラムや位置検出NN121の更新データを外部サーバから取り込む場合にも利用され得る。
【0025】
演算部110は、豚飼育支援プログラムが指示する処理に応じて様々な演算を実行する機能演算部としての役割も担う。演算部110は、取得部111、認識部112、評価部113、通知部114として機能し得る。取得部111は、主に、カメラユニット210によって撮像された画像の画像データを、通信ユニット130を介して取得して認識部112へ引き渡す。また、環境センサ220が出力する計測データを、通信ユニット130を介して取得して評価部113へ引き渡す。認識部112は、主に、取得部111から受け取った画像データの観察画像に基づいてペン300に対する豚310の分散状態を認識し、評価部113へ引き渡す。より具体的には、認識部112は、位置検出NN121を利用して豚310の存在位置を検出させ、その検出結果からペン300に対する豚310の分散状態を認識する。
【0026】
評価部113は、認識部112から受け取った分散状態と取得部から受け取った計測データを、参照データ122に照らし合わせることにより、ペン300で飼育されている豚310の健康状態に関する全体傾向を評価してその評価結果を通知部114へ引き渡す。通知部114は、評価部113から受け取った評価結果を、出力先の要求フォーマットに合致する評価通知に調整して、出力先としての表示モニタ150や飼育員端末230へ出力する。これらの具体的な処理については後に詳述する。
【0027】
さて、ペンで集団飼育される養豚においては、体調不良が豚間で連鎖的に拡散する場合がある。そのような体調不良の原因をいち早く究明して除去したり、体調に合わせて薬剤を投与し環境を調整したりするためにも、それぞれのペン内で飼育されている豚の健康状態に関する全体傾向を継続的に把握することは見極めて重要である。しかし、このように集団飼育されているペンが豚舎内に複数設置されているような比較的規模の大きな養豚においては、飼育員が多数の豚を定常的に観察して健康状態に関する全体傾向を見極めることは、飼育員の多大な労力や熟練を要する作業であった。そこで、本実施形態における豚飼育支援装置は、ペン300に収容された豚310の健康状態に関する全体傾向を評価し、その評価結果を飼育員等へ知らせることにより飼育作業を支援する。
【0028】
本出願人は、ペン300に収容された豚310が、個々の健康状態に応じて就寝時に特徴的な生態を示すとの知見を得た。具体的には、健康状態が良好な豚310は互いに離間して就寝するのに対し、健康状態があまり良くない豚310は他の豚310に寄り添って就寝しようとする生態である。ペン300の全体として観察すると、健康状態があまりよくない豚310の数が増えるほど、複数の豚310がより密集して就寝する。すなわち、ペン300に対する豚310の分散状態を観察すれば、当該ペン300に収容された豚310の健康状態に関する全体傾向を把握できる。より具体的には、収容された豚310がペン300内で互いに散らばって存在していれば、それらの豚310は全体的に良好な健康状態であり、逆に特定箇所にかたまって存在していれば、それらの豚310は全体的に良好でない健康状態であると把握できる。
【0029】
なお、収容された豚310が互いに離間して就寝するか寄り添って就寝するかは、その健康状態のみに限らず、ペン300の温度や湿度といった飼育環境等にも原因を求めることができる。例えば温度が一定範囲に保たれているようなペン300であれば、そのことを前提として、温度の影響を考慮せず健康状態の全体傾向を評価してもよいが、温度が一定範囲を超えて上下する環境では、健康であるにもかかわらず寒さに起因して互いに寄り添うこともある。そこで、本実施形態においては、環境センサ220で計測される計測データを参照して健康状態の全体傾向を評価する場合について説明する。
【0030】
本実施形態においては、ペン300に対する豚310の分散状態をペン300の床領域に対する豚310の存在領域の割合として算出する。図3は、ペン300の床領域に対する豚310の存在領域の割合を算出する手順を説明する図である。図3の上図は、カメラユニット210が撮像した観察画像を位置検出NN121へ入力した場合に出力される個々の豚310の推定された存在位置を視覚的に表現した模式図であり、観察画像に推定された存在位置のドットと、床領域を複数の領域に区分する区分線を重ねた図である。ただし、位置検出NN121の出力は、このような形式の限られるものではなく、推定した豚310の存在位置と認識した床領域の範囲を出力すればよい。また、豚310の推定された存在位置は、例えば認識された個々の豚310の輪郭からその重心座標として算出することができる。
【0031】
図示する例においては、50頭の豚310がペン300に収容されており、その床領域は仮想的に32の区分領域(縦4×横8)に区分されている。図3の下図は、認識部112が、それぞれの区分領域に豚310が存在するか否かを、推定された豚310の存在位置(上図に示されるドット)がその区分領域に含まれるか否かにより判別した様子を示す模式図である。具体的には、豚310が存在すると判別した存在領域を斜線で示し、存在しないと判別した不在領域を無地で示している。
【0032】
認識部112は、そのように判別した存在領域をカウントし全区分領域数で除することにより、床領域に対する豚310の占有割合を観察対象であるペン300の分散状態として算出する。図の例では66%であり、収容された豚310はペン300内において比較的散らばって就寝しているといえる。
【0033】
図4の各図は、豚310の様々な分散状態における床領域の占有割合を示す図である。いずれも図3と同様に、上図は個々の豚310の推定された存在位置を表現した模式図であり、下図は認識部112が存在領域と不在領域を判別した様子を示す模式図である。
【0034】
図4(A)に示す例では、豚310はペン300の中央付近と両サイド付近に分散しており、床領域に対する占有割合は50%である。図4(B)に示す例では、豚310はペン300の両サイド付近に分かれてかたまっており、床領域に対する占有割合は40%である。図4(C)に示す例では、豚310はペン300の右奥付近に一纏まりにかたまっており、床領域に対する占有割合は31%である。なお、本実施形態においては、床領域を32の区分領域に区分するが、区分領域数は、床領域の広さや収容される豚310の数等に応じて、豚310の分散状態を適切に表現できるように適宜設定される。例えば、床領域に対して少なすぎる区分領域数や収容された豚310の数に対して多すぎる区分領域数は、豚310の分散状態を適切に表現し得ない。
【0035】
図5は、参照データ122のうち占有割合のスコアテーブルの概念を説明するための図である。参照データ122は、算出された占有割合を健康スコアに変換するルックアップテーブルであるスコアテーブルを含む。健康スコアは、ペン300に収容された豚310の健康状態に関する全体傾向を示す点数であり、本実施形態においては、悪い状態から良い状態へ順に「0」、「1」、「2」、「3」の4段階で表す。
【0036】
上述のように算出される占有割合は、例えば、そもそも一定の大きさのペン300に対して収容される豚310の数が多ければ大きくなり、また、ペン300の温度が低ければ互いに寄り添って小さくなる。すなわち、占有割合は、飼育環境等の影響を受ける。別言すれば、占有割合と健康スコアの対応関係は、飼育環境等の影響によって変化し得る。スコアテーブルは、そのような影響を与え得るパラメータが取り得る値に応じて予め作成されている。
【0037】
図示する例は、占有割合と健康スコアの対応関係に影響を与え得るパラメータとして、ペン300に収容される豚310の頭数とペン300で計測されるペン温度を考慮して作成されたスコアテーブルである。具体的には、ペン300に収容されている豚310の頭数が50頭以上60頭未満であって、ペン温度が17℃以上20℃未満である場合に参照されるスコアテーブルの例を示す。豚310の頭数とペン温度がこの条件を満たす場合には、占有割合が65%以上であれば健康スコアは3であり、占有割合が45%以上65%未満であれば健康スコアは2であり、占有割合が35%以上45%未満であれば健康スコアは1であり、占有割合が35%未満であれば健康スコアは0であると規定されている。スコアテーブルは、検出され得るペン温度の温度帯ごとに作成されており、各健康スコアに対する占有割合は、その温度帯に適した値に調整されている。同様に、スコアテーブルは、収容され得る豚310の頭数の頭数帯ごとにも作成されており、各健康スコアに対する占有割合は、その頭数帯に適した値に調整されている。例えば、ペン300に収容されている豚310の頭数が40頭以上50頭未満の頭数帯に対しても、検出され得るペン温度の温度帯ごとにスコアテーブルがそれぞれ作成されている。
【0038】
図3の例においては、ペン300に収容されている豚310の頭数は50頭であり、また計測されたペン温度が18℃だとすれば、占有割合が66%なので、このペン300に収容されている豚310全体の健康スコアは「3」となる。同様に、図4(A)の例においては、占有割合が50%なので健康スコアは「2」、図4(B)の例においては、占有割合が40%なので健康スコアは「1」、図4(C)の例においては、占有割合が31%なので健康スコアは「0」となる。
【0039】
占有割合と健康スコアの対応関係に影響を与え得るパラメータとしては、ペン300に収容される豚310の頭数とペン300で計測されるペン温度以外にも、様々なパラメータが対象となり得る。例えば、ペン300の飼育環境としては、湿度、二酸化炭素濃度、アンモニア濃度、照度が対象となり得る。具体的には、例えば二酸化炭素濃度の場合、一般的には350~1000ppmの場合には影響はないが、1000ppm以上の場合には豚の体調に悪影響を与えることが知られている。同様に、アンモニア濃度の場合、一般的には10ppm未満の場合には影響はないが、10ppm以上の場合には豚の体調に悪影響を与えることが知られている。このような事実に基づいて、同じ占有割合であっても、例えば二酸化炭素濃度が高ければ健康スコアが低くなるように調整すればよい。
【0040】
また、飼育される豚の日齢も、占有割合と健康スコアの対応関係に影響を与え得るパラメータである。具体的には、日齢が25日~60日の離乳子豚にとって最適環境温度は27℃であり、日齢が60日~110日の育成豚にとって最適環境温度は21℃であり、日齢が110日~180日の肥育豚にとって最適環境温度は18℃であると知られている。したがって、温度の影響を飼育されている豚の日齢に応じて調整してもよい。
【0041】
豚310の就寝時間中のある一時点(例えば午前3時)において観察画像を取得し、その観察画像に基づいて得られる健康スコアから、健康状態の全体傾向を評価してもよいが、本実施形態においては、就寝時間中の複数時点において観察画像を取得して健康状態の全体傾向を評価する。具体的には、就寝時間において一定時間の間隔でそれぞれ観察画像を取得し、それぞれの観察画像から得られた健康スコアを平均化して健康状態の全体傾向を評価する。
【0042】
図6は、参照データ122のうち評価テーブルの一例を示す図である。参照データ122は、平均健康スコアを評価に変換するルックアップテーブルである評価テーブルを含む。評価は、ペン300に収容された豚310の健康状態に関する全体傾向を示すものであり、本実施形態においては、悪い状態から良い状態へ順に「不良」、「要注意」、「良」、「優良」の4段階で表す。
【0043】
例えば、就寝時間中である午前0時から午前5時まで毎時0分に観察画像を取得する場合には、6回分の健康スコアが得られる。そこで、6回分の健康スコアの平均値(平均健康スコア)を算出し、その値を評価テーブルに当てはめて評価に変換する。図の例では、平均健康スコアが、2.5以上であれば「優良」であり、1.5以上2.5未満であれば「良」であり、0.5以上1.5未満であれば「要注意」であり、0.5未満であれば「不良」であると規定されている。例えば、平均健康スコアが1.27と算出された場合には、評価テーブルにより「要注意」の評価に変換される。
【0044】
評価部113は、平均健康スコアを評価に変換したら、当該評価を評価結果として通知部114へ引き渡す。通知部114は、評価部113から受け取った評価結果を、出力先の要求フォーマットに合致する評価通知に調整する。具体的には、入力デバイス160の操作により評価通知の表示を要求された場合には、表示モニタ150に表示するのに相応しい表示フォーマットに調整し、飼育員端末230からの要求により評価通知の送信を要求された場合には、飼育員端末230に表示するのに相応しい表示フォーマットに調整する。
【0045】
図7は、評価通知を受けた飼育員端末230の表示例を示す図である。飼育員端末230は、サーバ100から評価通知を受け取ると、観察対象である観察ペンの名称と評価結果を表示する。具体的には、対象表示欄231に観察ペンの名称(図の例では「第2ペン」)を示し、結果表示欄232に評価結果(図の例では「要注意」)と付随情報を示す。付随情報は、平均スコア、観察期間等を含む。また、表示画面下部にはリンクボタン233が設けられている。例えば、「履歴情報」のリンクボタン233をタップすれば、過去の観察期間における評価結果を確認することができ、「ペン情報」のリンクボタン233をタップすれば、飼育されている豚310の頭数や日齢などを確認することができる。
【0046】
次に、演算部110が実行する豚飼育支援の主な処理についての処理手順の一例を、フロー図を用いて説明する。図8は、演算部110の処理手順を説明するフロー図である。フローは、豚310の就寝時間帯に設定された開始時点から開始される。なお、本フローにおいては、ペン300に環境センサ220としての温度計が設置されている場合について説明する。
【0047】
取得部111は、ステップS101で、記憶部120の観察豚DB123から、観察対象となる観察ペンに収容された豚310に関する観察豚情報を取得する。観察豚情報は、例えば、収容された豚310の頭数、日齢等を含む。
【0048】
取得部111は、予め設定された時刻(例えば、上述の例における午前0時から午前5時まで毎時0分)であることを認識したら、ステップS102へ進み、カメラユニット210から画像データを取得し、認識部112へ引き渡す。認識部112は、記憶部120から読み出した位置検出NN121へ受け取った画像データの観察画像を入力して、観察ペンに収容された豚310の存在位置と床領域の範囲を検出する。認識部112は、さらにステップS104で、床領域に対する豚310の占有割合を算出する。認識部112は、算出した占有割合を評価部113へ引き渡す。
【0049】
取得部111は、ステップS105で、温度計から計測データを取得し、評価部113へ引き渡す。なお、ステップS105の処理は、ステップS102の処理に先立って、または、ステップS102からステップS104の処理に並行して実行してもよい。
【0050】
ステップS106へ進むと、評価部113は、ステップS101で取得された観察豚情報、ステップS105で取得された計測データに合致するスコアテーブルを記憶部120の参照データ122から抽出し、当該スコアテーブルを参照してステップS103で算出された占有割合を健康スコアに変換する。変換した健康スコアは、記憶部120へ一時的に記憶する。
【0051】
評価部113は、ステップS107で、予定された回数分の健康スコアが得られたか否かを確認する。まだ予定された回数分の健康スコアが得られていない場合には、次に設定された時刻に至るまで待って、ステップS102へ戻る。すでに予定された回数分の健康スコアが得られた場合には、ステップS108へ進む。
【0052】
評価部113は、ステップS108へ進むと、それまでに得られた予定回数分の健康スコアを記憶部120から読み出して、平均健康スコアを算出する。そして、ステップS109へ進み、記憶部120の参照データ122から読み出した評価テーブルを参照して、算出した平均健康スコアを評価に変換する。評価部113は、平均健康スコアを評価に変換したら、当該評価を評価結果として通知部114へ引き渡す。通知部114は、ステップS110で、受け取った評価結果を、出力先の要求フォーマットに合致する評価通知に調整して出力先へ出力し、一連の処理を終了する。なお、評価通知の出力先は記憶部120であってもよく、その場合、評価結果は観察豚DB123の一項目として記憶される。
【0053】
次に、本実施形態のいくつかの変形例について説明する。図9は、就寝中の豚310が取り得る姿勢の例を説明するための図である。
【0054】
図9(A)に示す姿勢は、横臥位姿勢であり、具体的には側腹部を設置して脚を投げ出す姿勢である。横臥位は、一般的には健常な豚に見られる就寝姿勢である。図9(B)に示す姿勢は、伏臥姿勢であり、具体的にはうつ伏せに小さく縮こまる姿勢である。伏臥姿勢は、体調が悪い場合に示す就寝姿勢である。図9(C)に示す姿勢は、庇寝姿勢であり、伏臥姿勢の一つである。庇寝姿勢は、具体的には伏臥した胴部の下に前脚を収める姿勢である。庇寝姿勢も、伏臥姿勢と同様に体調が悪い場合に示す就寝姿勢である。
【0055】
本出願人は、体調不良の豚310はペン300の周辺領域に寄って伏臥姿勢で就寝する傾向があるとの知見を得た。そこで、本変形例においては、認識部112がペン300の周辺領域に位置する伏臥姿勢の豚310を検出し、評価部113がその割合に応じて健康スコアを調整する。
【0056】
図10は、参照データ122のうち調整テーブルの一例を示す図である。参照データ12は、伏臥姿勢割合を調整係数に変換するルックアップテーブルである調整テーブルを含む。伏臥姿勢割合は、仮想的に区分されたペン300の床領域のうちペン300の境界に接する周辺区分領域に位置する伏臥姿勢の豚310の割合である。調整係数は、スコアテーブルで変換された健康スコアに乗じる係数である。図の例では、伏臥姿勢割合が、25%以上であれば調整係数は0.55であり、15%以上25%未満であれば調整係数は0.70であり、5%以上15%未満であれば調整係数は0.85であり、5%未満であれば調整係数は1.00であると規定されている。
【0057】
図11は、豚310の伏臥姿勢を考慮する場合の健康スコアを算出する手順を説明する図である。図11の上図は、図3の上図と同様に、カメラユニット210が撮像した観察画像を位置検出NN121へ入力した場合に出力される個々の豚310の推定された存在位置を視覚的に表現した模式図であり、観察画像に推定された存在位置のドットと、床領域を複数の領域に区分する区分線を重ねた図である。本変形例において位置検出NN121は検出した豚310が伏臥姿勢であるか否かを併せて検出可能であり、図11の上図においては、周辺区分領域で伏臥姿勢であると検出された豚310の存在位置については、白抜きのドットで表されている。周辺区分領域で伏臥姿勢でないと検出された豚310は、他の区分領域で検出された豚310(姿勢を問わない)と同様に黒塗りのドットで表されている。なお、豚310の位置検出を実行する位置検出NN121とは別に、豚310の姿勢を検出する姿勢検出ニューラルネットワークを用意し、認識部112は、これらを共に用いてもよい。
【0058】
図11の下図は、図3の下図と同様に、認識部112が、それぞれの区分領域に豚310が存在するか否かを、推定された豚310の存在位置がその区分領域に含まれるか否かにより判別した様子を示す模式図である。ただし、図11の下図においては、周辺区分領域で伏臥姿勢であると検出された豚310の存在位置を示す白抜きのドットを重ねて表している。
【0059】
認識部112は、このように判別した場合に、占有割合を69%(存在領域数=22、全区分領域数=32)と算出し、伏臥割合を6%(周辺区分領域に位置する伏臥姿勢の頭数=3、全頭数=50)と算出する。評価部113は、認識部112のこれらの算出結果を受けて、まず、スコアテーブルを参照して占有割合から健康スコア「3」を得る。そして、調整テーブルを参照して伏臥割合から調整係数「0.85」を得る。評価部113は、このようにして得た健康スコアに調整係数を乗じて、調整後の健康スコア「2.55」を算出する。このように、周辺領域に寄って伏臥姿勢で就寝する豚310を考慮することにより、ペン300で集団飼育されている豚310の健康状態に関する全体傾向をより現実に即して評価することができる。
【0060】
なお、本変形例においては、体調不良の姿勢として伏臥姿勢に着目したが、例えば背中を丸めて前屈みとなる姿勢である背湾姿勢も体調不良時に見られる姿勢の一つであり、このような姿勢を含めて体調不良を示す特定姿勢として考慮してもよい。それぞれの姿勢によって体調不良の度合いが異なる場合には、検出された特定姿勢に応じて調整係数を異ならせてもよい。また、本変形例においては、ペン300の床領域のうちペン300の境界に接する区分領域を周辺区分領域と定めたが、例えば飼育員が往来する通路に接する区分領域は除外するなど、豚の生態に即して周辺区分領域を定めるとよい。
【0061】
図12は、更に別の変形例に係る、ペン300の環境を考慮する場合の占有割合を算出する手順を説明する図である。図12の上図は、図3の上図と同様に、カメラユニット210が撮像した観察画像を位置検出NN121へ入力した場合に出力される個々の豚310の推定された存在位置を視覚的に表現した模式図であり、観察画像に推定された存在位置のドットと、床領域を複数の領域に区分する区分線を重ねた図である。
【0062】
ここで、ペン300の壁面には外気と内気を適宜入れ替える換気扇301が設けられている。換気扇301は、例えばペン300内の強制換気のために強力に運転される期間があり、その期間には、図中の網点で示される床領域は、強風に晒される。このような状態においては、豚310は、健康状態の如何にかかわらず当該床領域から逃れようとする。
【0063】
そこで、本変形例においては、そのような床領域を除外領域として扱い、占有割合を算出する対象から除外する。認識部112は、例えば、換気扇301の運転期間を取得できれば、その運転期間に限って予め設定された除外領域を除外して占有割合を算出できる。また、環境センサ220として床領域の近傍に風量計が設置されているのであれば、例えば閾値以上の風量が計測された場合に、その近傍の区分領域を除外領域として定め、当該除外領域を除外して占有割合を算出できる。
【0064】
図12の下図は、図3の下図と同様に、認識部112が、それぞれの区分領域に豚310が存在するか否かを、推定された豚310の存在位置がその区分領域に含まれるか否かにより判別した様子を示す模式図である。認識部は、図示するように強風に晒されている除外領域を除外して占有割合を43%(存在領域数=12、全区分領域数=28)と算出する。このように、ペン300の環境を考慮して床領域を定めることにより、ペン300で集団飼育されている豚310の健康状態に関する全体傾向をより現実に即して評価することができる。
【0065】
図13は、更に別の変形例に係る、ペン300の単位領域に対する観察豚の密集度合い算出する手順を説明する図である。上述の実施形態においては、ペン300に対する豚310の分散状態をペン300の床領域に対する豚310の存在領域の割合として算出したが、本変形例においては、当該分散状態をペン300の単位領域に対する豚の密集度合いとして算出する。
【0066】
図13の上図は、図3の上図と同一であり、カメラユニット210が撮像した観察画像を位置検出NN121へ入力した場合に出力される個々の豚310の推定された存在位置を視覚的に表現した模式図である。本変形例においても、図3の例と同様に床領域を複数の領域に区分し、それぞれの区分領域をペン300の単位領域とする。
【0067】
図3の下図は、認識部112が、それぞれの区分領域に豚310が何頭存在するかを、推定された豚310の存在位置(上図に示されるドット)がその区分領域にいくつ含まれるかをカウントすることにより判別した様子を示す模式図である。具体的には、認識部112が判別した頭数を、それぞれの区分領域上に示している。
【0068】
図示する例においては、50頭の豚310がペン300に収容されており、その床領域は仮想的に32の区分領域(縦4×横8)に区分されている。この場合、全ての豚310が均等に分散していれば、一つの区分領域の平均頭数xaveは1.56となる。したがって、それぞれの区分領域に存在する豚310の数がこの平均頭数に対してどれだけ離れているかを表す分散値を計算すれば、豚の密集度合いを表現することができる。すなわち、z(図の例では32)に区分された区分領域のうちi番目の区分領域に存在する豚310の頭数をxiとすると、
【数1】
を計算すれば、ペン300の単位領域に対する豚の密集度合いと定義することができる。図の例では、分散値V=1.62と計算される。
【0069】
図14は、参照データ122のうち分散値のスコアテーブルの概念を説明するための図である。図5で示したスコアテーブルは、算出された占有割合を健康スコアに変換するルックアップテーブルであったが、図14に示すスコアテーブルは、算出された分散値を健康スコアに変換するルックアップテーブルである。図示する例は、分散値と健康スコアの対応関係に影響を与え得るパラメータとして、図3の例と同様に、ペン300に収容される豚310の頭数とペン300で計測されるペン温度を考慮して作成されたスコアテーブルである。
【0070】
具体的には、ペン300に収容されている豚310の頭数が50頭以上60頭未満であって、ペン温度が17℃以上20℃未満である場合に参照されるスコアテーブルの例を示す。豚310の頭数とペン温度がこの条件を満たす場合には、分散値が5.0以上であれば健康スコアは3であり、分散値が3.5以上5.0未満であれば健康スコアは2であり、分散値が2.0以上3.5未満であれば健康スコアは1であり、分散値が2.0未満であれば健康スコアは0であると規定されている。
【0071】
図13の例において認識部112が分散値V=1.62と算出した場合、評価部113は、スコアテーブルを参照して、健康スコア=0を得る。なお、密集度合いを健康スコアに変換するスコアテーブルも、占有割合を健康スコアに変換するスコアテーブルと同様に、豚310の分散状態に影響を与え得るパラメータが取り得る値に応じて予め作成されている。このように密集度合いを定義して健康スコアを算出する場合にも、ペン300で集団飼育されている豚310の健康状態に関する全体傾向をより現実に即して評価することができる。なお、密集度合いは、分散値を用いて定義する場合に限らず、例えば周囲に存在する豚との距離を用いて定義することもできる。
【0072】
上述の実施形態においては、変形例も含めて、認識部112が豚310の存在位置を検出し、ペン300内における豚310の分散状態を認識してから、評価部113が当該分散情報を参照データ122に照らし合わせることにより、当該ペン300で飼育されている豚310の健康状態に関する全体傾向を評価した。認識部112は、位置検出NN121を用いて豚310の存在位置を検出したが、位置検出NN121を用いず、例えば観察画像にエッジ処理を施し豚の輪郭を抽出するなどの画像処理を施してその存在位置を検出してもよい。
【0073】
あるいは、そもそもペン300内における豚310の分散状態を認識することなく、観察画像から直接的に健康スコアを得るように豚飼育支援装置を構成することも可能である。そのような豚飼育支援装置を別実施形態として説明する。なお、図1を用いて説明した養豚環境の全体像は別実施形態においても共通であり、別実施形態における豚支援装置のうち上述の豚支援装置と共通する構成については特に言及しない限りその説明を省略する。
【0074】
図15は、別実施形態における豚飼育支援装置と周辺装置のハードウェア構成を示す図である。別実施形態における豚支援装置としてのサーバ100’は、図2を用いて説明したサーバ100に対して、演算部110’が認識部112として機能することなく、また、評価部113に代わる評価部113’を備える点で相違する。また、記憶部120’が、位置検出NN121に代わる評価ニューラルネットワーク124(以下、「評価NN124」と称する)を記憶している点で相違する。
【0075】
評価NN124は、カメラユニット210が撮像したペン300の観察画像を入力すると、当該ペン300で集団飼育されている豚310の健康状態に関する全体傾向を示す点数である健康スコアを出力する。評価部113’は、取得部111から受け取った画像データの観察画像を評価NN124へ入力し、その出力として得た健康スコアに基づいて全体傾向の評価を確定させる。
【0076】
評価NN124は、豚が集団飼育されているペンを当該豚の就寝時間帯に撮像した教師画像に対して、当該教師画像に写る豚の分散状態に応じてスコアが付与された教師データによって学習された評価学習モデルである。図16は、評価NN124の学習手法を説明する図である。具体的には、評価NN124の学習に用いる学習データを模式的に表す図である。
【0077】
図示するように、教師データは、入力データとしての学習画像および学習パラメータと、その入力データに対する正解とする出力データとしての正解健康スコアを組み合わせたものである。この教師データを多数用いて教師あり学習によって機械学習させることにより、評価学習モデルを得る。学習画像は、収容された豚の就寝時間帯にペンを撮像した観察画像である。学習画像は、ペンに収容された豚の頭数や日齢、ペン内で散らばる分散状態、ペンの環境など様々な条件において撮像されたものが多数用意される。そして、それぞれの学習画像に対応させて、その対応する学習画像が撮像されたときのペンの環境情報や豚の情報が学習パラメータとして用意される。図示する例では、ペンの温度と豚の日齢が学習パラメータとして用意されている。なお、学習パラメータは、例えばペン300の飼育環境であれば温度の他に、湿度、二酸化炭素濃度、アンモニア濃度、照度が対象となり得る。
【0078】
そして、学習画像と学習パラメータの組のそれぞれに対して、例えば経験豊富な飼育員が学習画像に写る豚の健康状態に関する全体傾向を評価して正解健康スコアを付与する。評価NN124は、このように用意された教師データを用いて学習され、信頼に足る出力が得られるようになった後に運用に供される。
【0079】
図17は、評価NN124を用いた健康スコアの取得を説明する図である。評価部113’は、取得部111から受け取った画像データの観察画像を入力画像とし、また、同じく取得部111から受け取った豚310に関する観察豚情報を入力パラメータとして、記憶部120から読み出した評価NN124へ入力する。そして、評価NN124の出力から健康スコアを得ると、記憶部120へ一時的に記憶する。
【0080】
図18は、演算部110’の処理手順を説明するフロー図である。図8に示すフロー図と同様の処理ステップについては、特に言及する場合を除き、同一のステップ番号を付すことによりその説明を省略する。なお、本フローにおいても、ペン300に環境センサ220としての温度計が設置されている場合について説明する。
【0081】
取得部111は、ステップS102で、カメラユニット210から画像データを取得し、評価部113’へ引き渡す。続くステップS105で、取得部111は、温度計から計測データを取得し、評価部113’へ引き渡す。なお、ステップS105の処理は、ステップS102の処理に先立って、または、ステップS102の処理に並行して実行してもよい。次にステップS106’へ進むと、評価部113’は、図17を用いて説明したように、評価NN124を用いて健康スコアを得る。得られた健康スコアは、記憶部120へ一時的に記憶する。ステップS106’からステップS107へ進んだ後は、図8に示すフローと同様である。
【0082】
このように、収容された豚が様々な分散状態を示すペンの学習画像を用いて学習された評価NN124を利用すれば、分散状態を予め設定された算出手順によって算出する処理を省くことができる。また、例えば床領域の占有割合や単位領域に対する観察豚の密集度合いといった観点とは異なる機械学習特有の分散状態の認識により、より精度の高い健康スコアを得ることも期待できる。
【0083】
以上説明した別実施形態を含む本実施形態においては、環境センサ220で計測された計測データは、健康スコアを得るために用いられたが、健康スコアの出力を禁止するために用いてもよい。例えば、閾値よりも低い温度が計測された場合には、豚は健康状態によらず互いに寄り添って就寝しようとするので、健康状態に関する全体傾向の評価を行えない。また、閾値よりも高いアンモニア濃度が計測された場合には、健康な豚にも危険が及ぶので、健康スコアを出力するのではなく、直ちに警告を発するなどの処理を行うとよい。
【0084】
また、以上説明した別実施形態を含む本実施形態においては、サーバが豚飼育支援装置として機能する場合を説明したが、ハードウェア構成はこれに限らない。飼育員端末として説明した携帯端末がサーバと同様の処理を行えば、当該携帯端末が豚飼育支援装置として機能し得る。また、例えば、サーバの処理の一部を飼育員端末が担うように構成すれば、サーバと飼育員端末が連携するシステムが、豚飼育支援装置となり得る。
【符号の説明】
【0085】
100、100’…サーバ、110、110’…演算部、111…取得部、112…認識部、113、113’…評価部、114…通知部、120…記憶部、121…位置検出ニューラルネットワーク、122…参照データ、123…観察豚データベース、124…評価ニューラルネットワーク、130…通信ユニット、150…表示モニタ、160…入力デバイス、200…ネットワーク、210…カメラユニット、220…環境センサ、230…飼育員端末、231…対象表示欄、232…結果表示欄、233…リンクボタン、300…ペン、301…換気扇、310…豚
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