(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113339
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】無停電電源装置および無停電電源装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
H02J 9/06 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
H02J9/06 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018242
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】株式会社TMEIC
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 喜義
(72)【発明者】
【氏名】松岡 一正
【テーマコード(参考)】
5G015
【Fターム(参考)】
5G015FA13
5G015GA03
5G015HA13
5G015JA09
5G015JA23
5G015JA34
5G015JA52
(57)【要約】
【課題】無停電電源装置において、商用交流電源の過電圧発生に伴って商用給電からインバータ給電に切り換えたときの出力電圧の変動を抑制する。
【解決手段】無停電電源装置100は、商用交流電源1の正常時、交流入力電圧をスイッチ10を介して負荷2に供給する商用給電を実行し、商用交流電源1の停電又は過電圧の発生時には、スイッチ10をオフし、双方向コンバータ12が電力貯蔵装置3の直流電圧を交流出力電圧に変換して負荷2に供給するインバータ給電に移行する。商用交流電源1の停電又は過電圧の発生時には、制御装置16は、出力電圧指令値に対する交流出力電圧の偏差を補償するための制御演算により、双方向コンバータ12の制御指令を生成する。制御装置16は、商用交流電源1の過電圧が発生したときには、商用交流電源1の停電が発生したときに比べて、交流出力電圧の変化に対する制御指令の変化を小さくする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用交流電源と負荷との間に接続される無停電電源装置であって、
前記商用交流電源から交流入力電圧を受ける入力端子と、
前記負荷に接続される出力端子と、
前記入力端子と前記出力端子との間に接続されるスイッチと、
前記出力端子と電力貯蔵装置との間に接続される双方向コンバータと、
前記スイッチおよび前記双方向コンバータを制御する制御装置とを備え、
前記無停電電源装置は、前記商用交流電源の正常時には、前記スイッチをオンし、前記交流入力電圧を前記スイッチを介して前記負荷に供給する商用給電を実行し、前記商用交流電源の停電または過電圧が発生したことに応じて、前記スイッチをオフし、前記双方向コンバータが前記電力貯蔵装置の直流電圧を交流出力電圧に変換して前記負荷に供給するインバータ給電に移行するように構成され、
前記商用交流電源の停電または過電圧が発生したときには、前記制御装置は、出力電圧指令値に対する前記交流出力電圧の偏差を補償するための制御演算を実行することにより、前記双方向コンバータの制御指令を生成するように構成され、
前記制御装置は、前記商用交流電源の過電圧が発生したときには、前記商用交流電源の停電が発生したときに比べて、前記交流出力電圧の変化に対する前記制御指令の変化を小さくする、無停電電源装置。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記交流入力電圧が前記商用交流電源の定格電圧に基づく目標電圧よりも低いときには、前記出力電圧指令値を前記目標電圧に設定し、
前記交流入力電圧が前記目標電圧を超えたときには、前記出力電圧指令値を前記交流入力電圧に設定するとともに、前記商用交流電源の過電圧が発生して前記交流入力電圧が上限値を超えたことに応じて、前記出力電圧指令値を前記上限値に設定し、
前記商用交流電源の過電圧が発生したことに応じて前記スイッチがオフされたときには、前記出力電圧指令値を前記目標電圧まで低下させる、請求項1に記載の無停電電源装置。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記交流入力電圧が前記商用交流電源の定格電圧に基づく目標電圧よりも低いときには、前記出力電圧指令値を前記目標電圧に設定し、
前記交流入力電圧が前記目標電圧を超えたときには、前記出力電圧指令値を前記交流入力電圧に設定し、
前記商用交流電源の過電圧が発生したときには、前記スイッチをオフされるまでの切換時間の終了後に前記目標電圧に到達するように前記出力電圧指令値を低下させる、請求項1に記載の無停電電源装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記交流入力電圧に対して平均化処理を施すように構成され、
前記交流入力電圧が前記目標電圧を超えたときには、前記平均化処理後の前記交流入力電圧を前記交流入力電圧に設定する、請求項2または3に記載の無停電電源装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記無停電電源装置の電圧整定時間内に前記交流出力電圧が前記商用交流電源の許容電圧範囲内に収まるように、前記出力電圧指令値を低下させる、請求項2または3に記載の無停電電源装置。
【請求項6】
前記制御装置は、前記偏差を比例積分演算することによって前記制御指令を生成するように構成され、
前記制御装置は、前記商用交流電源の停電が発生したときには、第1の比例ゲインを用いて前記比例積分演算を実行し、
前記商用交流電源の過電圧が発生したときには、前記第1の比例ゲインよりも低い第2の比例ゲインを用いて前記比例積分演算を実行する、請求項1に記載の無停電電源装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記商用交流電源が過電圧状態から復電したときには、前記第2の比例ゲインを前記第1の比例ゲインに変更する、請求項6に記載の無停電電源装置。
【請求項8】
前記制御装置は、前記偏差を比例積分演算することによって前記制御指令を生成するように構成され、
前記商用交流電源の停電が発生したときには、第1の比例ゲインおよび第1の積分ゲインを用いて前記比例積分演算を実行し、
前記商用交流電源の過電圧が発生したときには、前記第1の比例ゲインよりも低い第2の比例ゲインと、前記第1の積分ゲインよりも低い第2の積分ゲインとを用いて前記比例積分演算を実行する、請求項1に記載の無停電電源装置。
【請求項9】
前記制御装置は、前記商用交流電源が過電圧状態から復電したときには、前記第2の比例ゲインを前記第1の比例ゲインに変更するとともに、前記第2の積分ゲインを前記第1の積分ゲインに変更する、請求項8に記載の無停電電源装置。
【請求項10】
商用交流電源と負荷との間に接続される無停電電源装置の制御方法であって、
前記無停電電源装置は、
前記商用交流電源から交流入力電圧を受ける入力端子と、
前記負荷に接続される出力端子と、
前記入力端子と前記出力端子との間に接続されるスイッチと、
前記出力端子と電力貯蔵装置との間に接続される双方向コンバータとを含み、
前記制御方法は、
前記商用交流電源の正常時には、前記スイッチをオンし、前記交流入力電圧を前記スイッチを介して前記負荷に供給する商用給電を実行するステップと、
前記商用交流電源の停電または過電圧が発生したことに応じて、前記スイッチをオフし、前記双方向コンバータが前記電力貯蔵装置の直流電圧を交流出力電圧に変換して前記負荷に供給するインバータ給電に移行するステップとを備え、
前記インバータ給電に移行するステップは、出力電圧指令値に対する前記交流出力電圧の偏差を補償するための制御演算を実行することにより、前記双方向コンバータの制御指令を生成するステップを含み、
前記制御指令を生成するステップでは、前記商用交流電源の過電圧が発生したときには、前記商用交流電源の停電が発生したときに比べて、前記交流出力電圧の変化に対する前記制御指令の変化を小さくする、無停電電源装置の制御方法。
【請求項11】
前記制御指令を生成するステップは、
前記交流入力電圧が前記商用交流電源の定格電圧に基づく目標電圧よりも低いときには、前記出力電圧指令値を前記目標電圧に設定するステップと、
前記交流入力電圧が前記目標電圧を超えたときには、前記出力電圧指令値を前記交流入力電圧に設定するとともに、前記商用交流電源の過電圧が発生して前記交流入力電圧が上限値を超えたことに応じて、前記出力電圧指令値を前記上限値に設定するステップと、
前記商用交流電源の過電圧が発生したことに応じて前記スイッチがオフされたときには、前記出力電圧指令値を前記目標電圧まで低下させるステップとを含む、請求項10に記載の無停電電源装置の制御方法。
【請求項12】
前記制御指令を生成するステップは、
前記交流入力電圧が前記商用交流電源の定格電圧に基づく目標電圧よりも低いときには、前記出力電圧指令値を前記目標電圧に設定するステップと、
前記交流入力電圧が前記目標電圧を超えたときには、前記出力電圧指令値を前記交流入力電圧に設定するステップと、
前記商用交流電源の過電圧が発生したときには、前記スイッチがオフされるまでの切換時間の終了後に前記目標電圧に到達するように前記出力電圧指令値を低下させるステップとを含む、請求項10に記載の無停電電源装置の制御方法。
【請求項13】
前記制御指令を生成するステップは、前記偏差を比例積分演算するステップを含み、
前記比例積分演算するステップは、前記商用交流電源の停電が発生したときには、第1の比例ゲインを用いて前記比例積分演算を実行し、前記商用交流電源の過電圧が発生したときには、前記第1の比例ゲインよりも低い第2の比例ゲインを用いて前記比例積分演算を実行する、請求項10に記載の無停電電源装置の制御方法。
【請求項14】
前記制御指令を生成するステップは、前記偏差を比例積分演算するステップを含み、
前記比例積分演算するステップは、前記商用交流電源の停電が発生したときには、第1の比例ゲインおよび第1の積分ゲインを用いて前記比例積分演算を実行し、前記商用交流電源の過電圧が発生したときには、前記第1の比例ゲインよりも低い第2の比例ゲインと、前記第1の積分ゲインよりも低い第2の積分ゲインとを用いて前記比例積分演算を実行する、請求項10に記載の無停電電源装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、無停電電源装置および無停電電源装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特開2006-187089号公報(特許文献1)には、パラレルプロセッシング方式による無停電電源装置が開示されている。この無停電電源装置は、商用交流電源の正常時には、商用交流電源から高速スイッチを介して負荷に交流電力を供給する商用給電を行うとともに、双方向コンバータを制御して、商用交流電源から供給される交流電力を直流電力に変換して蓄電池に充電するように構成されている。そして、この状態で商用交流電源の停電が発生した場合には、高速スイッチをオフして瞬時に商用交流電源を切り離すとともに、双方向コンバータが蓄電池に蓄えられた電力を交流電力に変換して負荷に供給するインバータ給電に切り換えることにより、負荷への給電を継続する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したパラレルプロセッシング方式の無停電電源装置においては、商用交流電源の停電を補償するために、双方向コンバータの出力電圧と予め定められた電圧指令値との偏差が求められ、この偏差をなくすように双方向コンバータが制御される。
【0005】
したがって、商用交流電源の過電圧が発生した場合においても、停電発生時と同様に、電圧指令値と出力電圧との偏差をなくすように双方向コンバータを制御することによって、過電圧を補償することができる。
【0006】
しかしながら、過電圧を補償するための出力電圧の制御に、停電を補償するための出力電圧の制御を適用した場合には、偏差に対する制御量が過剰となり、インバータ給電への移行するときに出力電圧にアンダーシュートが発生してしまう場合がある。この場合、出力電圧の変動に起因して負荷の動作が不安定になることが懸念される。
【0007】
本開示は、かかる課題を解決するためになされたものであり、本開示の目的は、商用給電およびインバータ給電を切り換え可能に構成された無停電電源装置において、商用交流電源の過電圧発生に伴って商用給電からインバータ給電に切り換えたときの出力電圧の変動を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のある局面に従う無停電電源装置は、商用交流電源と負荷との間に接続される。無停電電源装置は、商用交流電源から交流入力電圧を受ける入力端子と、負荷に接続される出力端子と、入力端子と出力端子との間に接続されるスイッチと、出力端子と電力貯蔵装置との間に接続される双方向コンバータと、スイッチおよび双方向コンバータを制御する制御装置とを備える。無停電電源装置は、商用交流電源の正常時には、スイッチをオンし、交流入力電圧をスイッチを介して負荷に供給する商用給電を実行する。無停電電源装置は、商用交流電源の停電または過電圧が発生したことに応じて、スイッチをオフし、双方向コンバータが電力貯蔵装置の直流電圧を交流出力電圧に変換して負荷に供給するインバータ給電に移行するように構成される。商用交流電源の停電または過電圧が発生したときには、制御装置は、出力電圧指令値に対する前記交流出力電圧の偏差を補償するための制御演算を実行することにより、双方向コンバータの制御指令を生成するように構成される。制御装置は、商用交流電源の過電圧が発生したときには、商用交流電源の停電が発生したときに比べて、交流出力電圧の変化に対する前記制御指令の変化を小さくする。
【0009】
本開示の他の局面に従う無停電電源装置の制御方法は、商用交流電源と負荷との間に接続される無停電電源装置の制御方法である。無停電電源装置は、商用交流電源から交流入力電圧を受ける入力端子と、負荷に接続される出力端子と、入力端子と出力端子との間に接続されるスイッチと、出力端子と電力貯蔵装置との間に接続される双方向コンバータとを含む。制御方法は、商用交流電源の正常時には、スイッチをオンし、交流入力電圧をスイッチを介して負荷に供給する商用給電を実行するステップと、商用交流電源の停電または過電圧が発生したことに応じて、スイッチをオフし、双方向コンバータが電力貯蔵装置の直流電圧を交流出力電圧に変換して負荷に供給するインバータ給電に移行するステップとを備える。インバータ給電に移行するステップは、出力電圧指令値に対する交流出力電圧の偏差を補償するための制御演算を実行することにより、双方向コンバータの制御指令を生成するステップを含む。制御指令を生成するステップでは、商用交流電源の過電圧が発生したときには、商用交流電源の停電が発生したときに比べて、交流出力電圧の変化に対する制御指令の変化を小さくする。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、商用交流電源の過電圧発生に伴って商用給電からインバータ給電に切り換えたときの無停電電源装置の出力電圧の変動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の基礎となる無停電電源装置の構成を示す回路ブロック図である。
【
図2】無停電電源装置の通常運転時の動作を説明する図である。
【
図3】比較例に従うコンバータ制御部の構成を示すブロック図である。
【
図4】商用交流電源の停電が発生したときの交流出力電圧の時間的変化を示す波形図である。
【
図5】商用交流電源の過電圧が発生したときの交流出力電圧の時間的変化を示す波形図である。
【
図6】実施の形態1に従う無停電電源装置の制御装置に含まれるコンバータ制御部の構成を示すブロック図である。
【
図7】出力電圧指令生成部における出力電圧指令値の生成処理を説明するための図である。
【
図8】出力電圧指令生成部において実行される出力電圧指令値の生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図9】実施の形態1に従う無停電電源装置から負荷に供給される交流出力電圧の時間的変化を示す波形図である。
【
図10】出力電圧指令生成部における出力電圧指令値の生成処理の変形例を説明するための図である。
【
図11】実施の形態2に従う無停電電源装置の制御装置に含まれるコンバータ制御部の構成を示すブロック図である。
【
図12】
図11に示した電圧制御部において実行される処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【
図13】実施の形態2の変形例に従う無停電電源装置の制御装置に含まれるコンバータ制御部の構成を示すブロック図である。
【
図14】電圧制御部において実行される処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中の同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0013】
[無停電電源装置の構成]
最初に、本開示の基礎となる無停電電源装置について説明する。
図1は、本開示の基礎となる無停電電源装置の構成を示す回路ブロック図である。無停電電源装置100は、商用交流電源1または双方向コンバータ12から供給される三相交流電圧を負荷2に供給するものであるが、図面および説明の簡単化のため、
図1では一相に関連する部分のみが示されている。
【0014】
図1に示すように、無停電電源装置100は、入力端子T1、出力端子T2、直流端子T3、VCB(Vacuum Circuit Breaker)4,6,8、高速スイッチ(HSS;High Speed Switch)10、双方向コンバータ12、双方向チョッパ14、リアクトルL1、コンデンサC1,C2、電流検出器CD1,CD2、および制御装置16を備える。
【0015】
入力端子T1は、商用交流電源1から供給される商用周波数の交流入力電圧VIを受ける。交流入力電圧VIの瞬時値は、制御装置16によって検出される。制御装置16は、交流入力電圧VIが予め定められた下限値VLよりも低下した場合に、商用交流電源1の停電が発生したと判定する。また、制御装置16は、交流入力電圧VIが予め定められた上限値VHを超えた場合に、商用交流電源1の過電圧が発生したと判定する。
【0016】
出力端子T2は、負荷2に接続される。負荷2は、出力端子T2から供給される交流出力電圧VOによって駆動される。交流出力電圧VOの瞬時値は、制御装置16によって検出される。
【0017】
直流端子T3は、バッテリ3に接続される。バッテリ3は直流電力を蓄える。バッテリ3は「電力貯蔵装置」の一実施例に対応する。電力貯蔵装置は、バッテリ3に代えて、コンデンサであってもよい。直流端子T3の直流電圧VB(バッテリ3の端子間電圧に相当)は、制御装置16によって検出される。
【0018】
VCB4、HSS10、およびVCB6は、入力端子T1と出力端子T2との間に直列に接続される。VCB4およびVCB6は、無停電電源装置100の通常運転時にオンされ、例えば、HSS10のメンテナンス時(保守バイパス給電時)にオフされる。
【0019】
HSS10は、例えば半導体スイッチング素子によって構成され、制御装置16によって制御される。HSS10は、商用交流電源1が正常である場合にはオンされ、商用交流電源1が正常でない場合(停電時または過電圧時)にはオフされる。HSS10は「スイッチ」の一実施例に対応する。
【0020】
VCB8は、入力端子T1と出力端子T2との間に接続される。VCB8は、無停電電源装置100の通常運転時にオフされ、例えば保守バイパス給電時にオンされる。VCB8がオンされると、商用交流電源1からVCB8を介して負荷2に交流入力電圧VIが供給され、負荷2が運転される。
【0021】
双方向コンバータ12の交流端子12aは、リアクトルL1を介して、HSS10およびVCB6間のノードN1に接続される。双方向コンバータ12の直流端子12bは、直流ライン13に接続される。双方向コンバータ12は、複数の半導体スイッチング素子および複数のダイオードを含む周知のものであり、制御装置16により、例えばPWM(Pulse Width Modulation)制御される。双方向コンバータ12に含まれる各半導体スイッチング素子を所定のスイッチング周波数でオンおよびオフさせることにより、交流電力を直流電力に変換したり、逆に、直流電力を交流電力に変換することが可能となっている。
【0022】
リアクトルL1およびコンデンサC1は、交流フィルタを構成する。交流フィルタは、低域通過フィルタであり、商用周波数の電流を通過させ、双方向コンバータ12で発生するスイッチング周波数の電流を遮断する。換言すると、交流フィルタは、双方向コンバータ12の出力電圧を正弦波状の交流電圧に変換する。
【0023】
コンデンサC2は、直流ライン13に接続され、直流ライン13の直流電圧VDを平滑化および安定化させる。直流ライン13の直流電圧VDの瞬時値は、制御装置16によって検出される。
【0024】
双方向チョッパ14は、直流ライン13と直流端子T3との間に接続される。双方向チョッパ14は、制御装置16によって制御され、直流ライン13とバッテリ3との間で直流電力を授受する。双方向チョッパ14は、複数の半導体スイッチング素子および複数のダイオードを含む周知のものである。
【0025】
電流検出器CD1は、HSS10に流れる交流電流Iiを検出し、その検出値を示す信号Iifを制御装置16に与える。電流検出器CD2は、リアクトルL1に流れる交流電流ILを検出し、その検出値を示す信号ILfを制御装置16に与える。
【0026】
制御装置16は、交流電圧VI,VO、直流電圧VD,VB、電流検出器CD1の出力信号Iif、および電流検出器CD2の出力信号ILfなどに基づいて、無停電電源装置100全体を制御する。制御装置16は、代表的には、所定のプログラムが予め記憶されたマイクロコンピュータによって構成することができる。例えば、制御装置16は、CPU(Central Processing Unit)、メモリおよび入出力回路を含むように構成される。メモリの一部領域にはプログラムが予め格納されており、CPUが当該プログラムを実行することで、
図1に示される機構を実現することができる。なお、制御装置16の少なくとも一部をFPGA(Field Programmable Gate Array)およびASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの回路を用いて構成してもよい。
【0027】
制御装置16は、停電/過電圧検出部20、スイッチ制御部22、コンバータ制御部24、およびチョッパ制御部26を含む。
【0028】
停電/過電圧検出部20は、商用交流電源1から供給される交流入力電圧VIに基づいて、商用交流電源1の停電または過電圧が発生しているか否かを検出し、その検出結果を示す停電検出信号DUおよび過電圧検出信号DOをスイッチ制御部22、コンバータ制御部24およびチョッパ制御部26に出力する。
【0029】
具体的には、停電/過電圧検出部20は、交流入力電圧VIが下限値VLよりも高く、かつ上限値VHよりも低い場合には、商用交流電源1が正常であると判定し、停電検出信号DUおよび過電圧検出信号DOを非活性化レベルのH(論理ハイ)レベルにする。一方、停電/過電圧検出部20は、交流入力電圧VIが下限値VLよりも低い場合には、商用交流電源1の停電が発生したと判定し、停電検出信号DUを活性化レベルのL(論理ロー)レベルにする。また、停電/過電圧検出部20は、交流入力電圧VIが上限値VHよりも高い場合には、商用交流電源1の過電圧が発生したと判定し、過電圧検出信号DOを活性化レベルの「L」レベルにする。
【0030】
スイッチ制御部22は、停電検出信号DUおよび過電圧検出信号DOに基づいて、HSS10のオンオフを制御する。具体的には、スイッチ制御部22は、商用交流電源1が正常である場合(DU=DO=H)には、HSS10をオンさせることにより、商用給電を実行させる。商用給電では、商用交流電源1からVCB4、HSS10、およびVCB6を介して負荷2に交流電力が供給され、負荷2が運転される。
【0031】
また、スイッチ制御部22は、商用交流電源1の停電が発生した場合(DU=L)、または商用交流電源1の過電圧が発生した場合(DO=L)には、HSS10をオフさせることにより、商用交流電源1と負荷2とを電気的に切り離す。この場合、インバータ給電が実行される。インバータ給電時には、バッテリ3から双方向チョッパ14および双方向コンバータ12を介して負荷2に交流電力が供給される。したがって、バッテリ3に直流電力が蓄えられている限り、負荷2の運転を継続することができる。
【0032】
コンバータ制御部24は、停電検出信号DU、過電圧検出信号DO、交流出力電圧VO、直流電圧VD、および電流検出器CD1,CD2の出力信号Iif,ILfなどに基づいて、双方向コンバータ12を制御する。具体的には、商用給電時には、商用交流電源1からの交流電力がVCB4、HSS10およびVCB6を介して双方向コンバータ12に供給される。双方向コンバータ12は、交流出力電圧VOを直流電圧VDに変換して直流ライン13に出力する。コンバータ制御部24は、直流ライン13の直流電圧VDが直流電圧指令値VDRになるように、交流出力電圧VOに同期して双方向コンバータ12を制御する。
【0033】
また、インバータ給電時には、双方向コンバータ12は、バッテリ3から双方向チョッパ14および直流ライン13を介して供給される直流電圧VDを交流出力電圧VOに変換して負荷2に供給する。コンバータ制御部24は、交流出力電圧VOが出力電圧指令値VREFになるように双方向コンバータ12を制御する。
【0034】
チョッパ制御部26は、停電検出信号DU、過電圧検出信号DO、および直流電圧VD,VBなどに基づいて、双方向チョッパ14を制御する。具体的には、商用給電時には、双方向チョッパ14は、双方向コンバータ12から直流ライン13を介して供給される直流電力をバッテリ3に蓄える。チョッパ制御部26は、直流端子T3の直流電圧VBがバッテリ電圧指令値VBRになるように双方向チョッパ14を制御する。
【0035】
また、インバータ給電時には、双方向チョッパ14は、バッテリ3の直流電圧VBを直流電圧VDに変換して直流ライン13に出力する。チョッパ制御部26は、直流ライン13の直流電圧VDが直流電圧指令値VDRになるように双方向チョッパ14を制御する。
【0036】
[無停電電源装置の動作]
次に、
図2を参照して、無停電電源装置100の通常運転時の動作について説明する。通常運転時には、VCB4,6はオンされ、VCB8はオフされている。
図2には、無停電電源装置100から負荷2に供給される電力の流れが矢印で示されている。
【0037】
商用交流電源1が正常である場合(DU=DO=H)には、商用給電が実行される。商用給電時には、
図2(A)に示すように、HSS10がオンされ、商用交流電源1からVCB4、HSS10およびVCB6を介して負荷2に交流電力が供給され、負荷2が運転される。
【0038】
また、商用交流電源1からVCB4およびHSS10を介して双方向コンバータ12に交流電力が供給され、その交流電力が双方向コンバータ12によって直流電力に変換されて直流ライン13に供給される。この直流電力は双方向チョッパ14によってバッテリ3に蓄えられる。このとき、直流ライン13の直流電圧VDは直流電圧指令値VDRに維持される。
【0039】
商用給電中に商用交流電源1の停電または過電圧が発生した場合(DUまたはDO=L)には、インバータ給電に移行する。インバータ給電時には、
図2(B)に示すように、HSS10が瞬時にオフされ、商用交流電源1と負荷2とが電気的に切り離される。
【0040】
同時に、バッテリ3の直流電力が双方向チョッパ14によって直流ライン13に供給される。そして、その直流電力が双方向コンバータ12によって交流電力に変換されて負荷2に供給され、負荷2の運転が継続される。このとき、出力端子T2の交流出力電圧VOは、商用周波数の出力電圧指令値VREFに維持される。
【0041】
インバータ給電中に商用交流電源1が復電した場合には、再びHSS10がオンされ、商用給電が実行される。この場合、制御装置16は、双方向コンバータ12を制御して、交流出力電圧VOの位相及び周波数を交流入力電圧VIの位相および周波数にそれぞれ一致させた後に、HSS10をオンさせる。これにより、交流出力電圧VOが変動して負荷2の動作が不安定になることを防止することができる。
【0042】
また、商用交流電源1からの交流電力が、双方向コンバータ12および双方向チョッパ14によって直流電力に変換されてバッテリ3に蓄えられる。したがって、無停電電源装置100によれば、商用交流電源1の停電や過電圧が発生した場合でも負荷2の運転を継続することができる。
【0043】
[無停電電源装置の問題点]
次に、無停電電源装置100の問題点について説明する。
【0044】
上述したように、商用交流電源1の停電または過電圧が発生した場合には、HSS10を瞬時にオフするとともに、バッテリ3の直流電力を交流電力に変換するように、双方向チョッパ14および双方向コンバータ12を制御することによって、無停電電源装置100が商用給電からインバータ給電に移行する。
【0045】
このとき、コンバータ制御部24は、交流出力電圧VOが出力電圧指令値VREFになるように双方向コンバータ12を制御する。この出力電圧指令値VREFは、商用交流電源1の定格電圧VRに基づいて予め設定された、交流出力電圧VOの目標電圧に対応する。なお、停電/過電圧検出部20における上限値VHおよび下限値VLは、この定格電圧VR(目標電圧)に対して±10%程度となるように定められた許容電圧範囲の上限値および下限値にそれぞれ対応している。
【0046】
具体的には、コンバータ制御部24は、出力電圧指令値VREFに対する交流出力電圧VOの偏差ΔVO=VREF-VOを求め、求めた偏差ΔVOを制御演算(例えば、比例積分演算)することにより、双方向コンバータ12の制御指令である電圧指令値を生成する。そして、コンバータ制御部24は、生成した電圧指令値を用いて双方向コンバータ12を制御する。
【0047】
図3は、比較例に従うコンバータ制御部24の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、比較例に従うコンバータ制御部24は、直流ライン13の直流電圧VDを制御するための直流電圧制御部240と、交流出力電圧VOを制御するための交流電圧制御部242とを含んで構成される。
【0048】
直流電圧制御部240は、直流電圧指令生成部30と、減算器32,36と、電圧制御部34と、電流制御部38とを含む。直流電圧指令生成部30は、直流電圧VDの目標電圧である直流電圧指令値VDRを生成する。減算器32は、直流電圧指令値VDRと直流電圧VDとの偏差ΔVD=VDR-VDを求める。
【0049】
電圧制御部34は、減算器32によって求められる偏差ΔVDがなくなるように電流指令値Ic1を生成する。減算器36は、電流指令値Ic1と、電流検出器CD2の出力信号ILfによって示される交流電流ILとの偏差ΔIL=Ic1-ILfを求める。電流制御部38は、減算器36によって求められる偏差ΔILがなくなるように電圧指令値Vc1を生成する。
【0050】
交流電圧制御部242は、出力電圧指令生成部40と、減算器42,46と、電圧制御部44と、電流制御部48とを含む。
【0051】
出力電圧指令生成部40は、交流出力電圧VOの目標値である出力電圧指令値VREFを生成する。出力電圧指令値VREFは、商用交流電源1の定格電圧VRに基づいて設定される。減算器42は、出力電圧指令値VREFと交流出力電圧VOとの偏差ΔVO=VREF-VOを求める。
【0052】
電圧制御部44は、減算器42によって求められる偏差ΔVOがなくなるように電流指令値Ic2を生成する。電圧制御部44は、偏差ΔOに対して比例積分演算を行うPI制御器として構成することができる。具体的には、電圧制御部44は、比例演算部50と、積分演算部52と、加算器54とを含む。比例演算部50は、偏差ΔVOに対して比例演算を行う。積分演算部52は、偏差ΔVOに対して積分演算を行う。加算器54は、比例演算結果と積分演算結果とを加算することにより電流指令値Ic2を生成する。なお、電圧制御部44は、さらに微分演算を行うPID制御器として構成されていてもよい。これにより、出力電圧指令値VREFに等しくなるように交流出力電圧VOがフィードバック制御される。
【0053】
減算器46は、電流指令値Ic2と、電流検出器CD2の出力信号ILfによって示される交流電流ILとの偏差ΔIL=Ic2-ILfを求める。電流制御部48は、減算器46によって求められる偏差ΔILがなくなるように電圧指令値Vc2を生成する。
【0054】
セレクタ244は、停電/過電圧検出部20から出力される停電検出信号DUおよび過電圧検出信号DOに基づいて、電圧指令値Vc1および電圧指令値Vc2の何れかを選択する。具体的には、停電検出信号DUおよび過電圧検出信号DOがともにHレベルである場合、すなわち、商用交流電源1が正常である場合には、セレクタ244は、電圧指令値Vc1を選択し、選択した電圧指令値Vc1をPWM制御部246に与える。一方、停電検出信号DUまたは過電圧検出信号DOがLレベルである場合、すなわち、商用交流電源1の停電または過電圧が発生した場合には、セレクタ244は、電圧指令値Vc2を選択し、選択した電圧指令値Vc2をPWM制御部246に与える。
【0055】
PWM制御部246は、セレクタ244から与えられる電圧指令値Vc1またはVc2と、所定周波数の搬送波信号(例えば、三角波信号)との高低を比較し、その比較結果に基づいて双方向コンバータ12のゲート信号を生成する。このゲート信号によって双方向コンバータ12を構成する複数の半導体スイッチング素子がオンおよびオフされる。
【0056】
すなわち、商用交流電源1が正常である場合には、双方向コンバータ12は、電圧指令値Vc1に基づいて制御されることにより、直流電圧指令値VDRに等しい直流電圧VDを直流ライン13に出力することができる。
【0057】
また、商用交流電源1の停電または過電圧が発生した場合には、双方向コンバータ12は、電圧指令値Vc2に基づいて制御されることにより、出力電圧指令値VREFに等しい交流出力電圧VOを負荷2に供給することができる。
【0058】
図4は、商用交流電源1の停電が発生したときの交流出力電圧VOの時間的変化を示す波形図である。
図4には、商用交流電源1または双方向コンバータ12から供給される三相の線間電圧の瞬時値が一括して示されている。
【0059】
図4では、時刻t0にて商用交流電源1が正常であり、時刻t0より後の時刻t1にて商用交流電源1の停電が発生している。時刻t0から時刻t1までの期間は、商用給電(
図2(A)参照)が実行される。そのため、交流出力電圧VOは、商用交流電源1から供給される交流入力電圧VIに等しくなる。
【0060】
時刻t1にて、交流入力電圧VIが下限値VLよりも低下したことにより商用交流電源1の停電が発生したことが検出されると、制御装置16は、HSS10をオフして無停電電源装置100を商用給電からインバータ給電(
図2(B)参照)に切り換える。
【0061】
このとき、HSS10にオフ指令が与えられてからHSS10がオフされるまでの時間である切換時間が発生する。この切換時間は
図4中の時刻t1から時刻t2までの時間であり、通常、数msから数十ms程度の長さを有している。切換時間では、商用給電とインバータ給電が並行して実行されるため、商用交流電源1および双方向コンバータ12の双方から負荷2に交流電圧が供給されることになる。
【0062】
双方向コンバータ12は、上述したように、商用交流電源1の定格電圧VRに基づいて設定された出力電圧指令値VREFと交流出力電圧VOとの偏差ΔVO=VREF-VOを比例積分演算することによって生成された電圧指令値Vu2に従って制御される。制御開始直後は偏差ΔVOが正の値であるため、電圧指令値Vu2の変化量も正の値となる。
【0063】
そのため、下限値VLよりも低下した交流出力電圧VOは、出力電圧指令値VREFを超えて上昇した後に変動しつつ定格電圧VRに向かって収束する。
図4に示すように、切換時間が終了する時刻t2にて交流出力電圧VOが許容電圧範囲内に収まるように双方向コンバータ12を制御することによって、HSS10がオフされた後の交流出力電圧VOの低下を抑制することができる。これは、切換期間の長さに応じて、交流電圧制御部242(
図3参照)の電圧制御部44における比例積分制御の応答速度を決定することで実現することができる。一例として、比例演算部50の比例ゲインKpおよび積分演算部52の積分ゲインKiを大きくすることによって、交流出力電圧VOを迅速に定格電圧VRに近づけることができる。
【0064】
図5は、商用交流電源1の過電圧が発生したときの交流出力電圧VOの時間的変化を示す波形図である。
図4と同様に、
図5には、商用交流電源1または双方向コンバータ12から供給される三相の線間電圧の瞬時値が一括して示されている。
【0065】
図5では、時刻t0にて商用交流電源1が正常であり、時刻t0より後の時刻t1にて商用交流電源1の過電圧が発生している。時刻t0から時刻t1までの期間は、商用給電(
図2(A)参照)が実行されるため、交流出力電圧VOは、商用交流電源1から供給される交流入力電圧VIに等しくなる。
【0066】
時刻t1にて、交流入力電圧VIが上限値VHを超えたことにより商用交流電源1の過電圧が検出されると、制御装置16は、HSS10をオフして無停電電源装置100を商用給電からインバータ給電(
図2(B)参照)に切り換える。
【0067】
図4と同様に、時刻t1から時刻t2までの切換期間では、商用給電とインバータ給電とが並行して実行される。双方向コンバータ12は、出力電圧指令値VREFと交流出力電圧VOとの偏差ΔVO=VREF-VOを比例積分演算することによって生成された電圧指令値Vu2に従って制御される。このとき、
図4とは対照的に、制御開始直後は偏差ΔVOが負の値であるため、電圧指令値Vu2の変化量は負の値となる。
【0068】
切換時間では、商用交流電源1から供給される交流入力電圧VIが双方向コンバータ12から出力される交流電圧よりも高いため、交流出力電圧VOは交流入力電圧VIと等しくなる。そして、時刻t2にてHSS10がオフされると、交流出力電圧VOは双方向コンバータ12から出力される交流電圧と等しくなる。すなわち、交流出力電圧VOは、交流入力電圧VIから双方向コンバータ12の出力電圧に瞬時に切り替わる。
【0069】
図5では、切換時間が終了する時刻t2以降において、交流出力電圧VOには、出力電圧指令値VREFに対するアンダーシュートが発生している。このアンダーシュートの大きさは、偏差ΔVOに対する電圧指令値Vu2の変化量の大きさが大きくなるほど大きくなる。このアンダーシュートの発生によって、切換時間の終了直後に交流出力電圧VOが許容電圧範囲から外れてしまう可能性がある。その結果、負荷2の動作が不安定になることが懸念される。
【0070】
このような交流出力電圧VOのアンダーシュートが生じる原因としては、商用交流電源1の停電を補償する観点から、交流電圧制御部242における比例積分制御の応答速度を決定していることが考えられる。すなわち、低下した交流出力電圧VOを切換時間内に定格電圧VRまで速やかに回復させるために、電圧制御部44における比例積分制御の応答速度を決定したことで、商用交流電源1の過電圧を補償する場合には、却って電圧指令値Vu2の操作量が過剰となってしまい、交流出力電圧VOのアンダーシュートを生じさせていると考えられる。
【0071】
本開示は、このような商用交流電源1の過電圧を補償するときに発生する交流出力電圧VOのアンダーシュートを抑制することを課題とする。以下の実施の形態1および2では、この課題の解決手段について詳細に説明する。
【0072】
[実施の形態1]
図6は、実施の形態1に従う無停電電源装置100の制御装置16に含まれるコンバータ制御部24Aの構成を示すブロック図である。実施の形態1に従う無停電電源装置100は、制御装置16におけるコンバータ制御部24Aの構成を除いて、
図1および
図3に示した無停電電源装置100と構成が同じであるため、その図示および説明を省略する。
【0073】
図6に示すように、コンバータ制御部24Aは、直流電圧制御部240と、交流電圧制御部242Aと、セレクタ244と、PWM制御部246とを含む。コンバータ制御部24Aは、
図3に示したコンバータ制御部24に含まれる交流電圧制御部242を、交流電圧制御部242Aに置き換えたものである。
【0074】
交流電圧制御部242Aは、出力電圧指令生成部40Aと、減算器42,46と、電圧制御部44と、電流制御部48とを含んで構成される。交流電圧制御部242Aは、
図3に示した交流電圧制御部242とは、出力電圧指令生成部40に代えて、出力電圧指令生成部40Aを含む点が異なる。
【0075】
出力電圧指令生成部40Aは、交流入力電圧VI、電流検出器CD1の出力信号Iif、および過電圧検出信号DOを受ける。出力電圧指令生成部40Aは、これらの信号に基づいて、出力電圧指令値VREFを生成する。
【0076】
図7は、出力電圧指令生成部40Aにおける出力電圧指令値VREFの生成処理を説明するための図である。
図7には、商用交流電源1から供給される交流入力電圧VIの時間波形(図中破線に相当)、および出力電圧指令値VREFの時間波形(図中実線に相当)が示されている。VIおよびVREFの何れも三相の線間電圧の瞬時値が一括して示されている。
【0077】
図7に示すように、商用交流電源1からの交流入力電圧VIは、時刻taから時刻tcまでの期間、上限値VHよりも低く、時刻tc以降において上限値VHを超えている。時刻taから時刻tcまでの期間、無停電電源装置100では、HSS10がオンされて、商用給電(
図2(A)参照)が実行される。したがって、交流出力電圧VOは交流入力電圧VIに等しくなる。
【0078】
時刻tcにて、交流入力電圧VIが上限値VHを超えたことにより商用交流電源1の過電圧の発生が検出されると、HSS10がオフされて、無停電電源装置100は、商用給電からインバータ給電(
図2(B)参照)に切り換えられる。時刻tcから切換時間が経過した時刻tdにてHSS10がオフされる。
【0079】
出力電圧指令生成部40Aは、交流入力電圧VIに応じて、出力電圧指令値VREFを可変に設定するように構成される。具体的には、出力電圧指令生成部40Aは、交流入力電圧VIと商用交流電源1の定格電圧VR(目標電圧)とを比較する。交流入力電圧VIが定格電圧VRよりも低い場合には、出力電圧指令生成部40Aは、出力電圧指令値VREFを定格電圧VRに設定する。
【0080】
一方、交流入力電圧VIが定格電圧VR以上かつ上限値VH以下である場合には、出力電圧指令生成部40Aは、出力電圧指令値VREFを交流入力電圧VIに等しい電圧に設定する。さらに、交流入力電圧VIが上限値VHを超えた場合、すなわち商用交流電源1の過電圧が発生した場合には、出力電圧指令生成部40Aは、出力電圧指令値VREFを上限値VHに設定する。
【0081】
図7の例では、時刻taから時刻tbまでの期間、VI<VRであるため、出力電圧指令値VREFは定格電圧VRに設定されている。時刻tbから時刻tcまでの期間はVR≦VI≦VHであるため、出力電圧指令値VREFは、交流入力電圧VIに一致している。よって、交流入力電圧VIに追従して出力電圧指令値VREFも上昇している。ただし、時刻tc以降はVI>VHであるため、出力電圧指令値VREFは上限値VHに設定されている。
【0082】
なお、時刻tb以降において、交流入力電圧VIが脈動する場合には、交流入力電圧VIに追従して出力電圧指令値VREFも脈動することになり、交流電圧制御部242Aにおける電圧制御が不安定になるおそれがある。したがって、出力電圧指令生成部40Aは、交流入力電圧VIに対して平均化処理(例えば、移動平均処理)を施し、平均化処理後の交流入力電圧VIに基づいて出力電圧指令値VREFを生成する構成とすることができる。これによると、電圧制御の安定性を高めることができる。
【0083】
図7に示すように、時刻tdにてHSS10がオフされると、出力電圧指令生成部40Aは、出力電圧指令値VREFを定格電圧VRまで徐々に低下させる。このときの出力電圧指令値VREFを低下させる速度は、無停電電源装置100において予め規定されている電圧整定時間を満たすように設定することができる。電圧整定時間とは、交流出力電圧VOが許容電圧範囲を超えてから再び許容電圧範囲内に安定するまでの時間をいう。
【0084】
このような構成とすることにより、出力電圧指令値VREFは、交流入力電圧VIが定格電圧VR以上となる時刻tbからHSS10がオフされる時刻tdまでの期間において、交流入力電圧VIに応じて、定格電圧VRよりも高くかつ上限値VH以下の電圧となる。
【0085】
減算器42は、出力電圧指令値VREFと交流出力電圧VOとの偏差ΔVO=VREF-VOを求める。出力電圧指令値VREFを交流入力電圧VIに応じて定格電圧VRよりも高くかつ上限値VH以下としたことにより、
図3に示した比較例に比べて、切換時間における偏差ΔVOが小さくなる。
【0086】
電圧制御部44は、減算器42によって求められる偏差ΔVOに対して比例積分演算を行うことにより、電流指令値Ic2を生成する。減算器46は、電流指令値Ic2と、電流検出器CD2の出力信号ILfによって示される交流電流ILとの偏差ΔIL=Ic2-ILfを求める。電流制御部48は、減算器46によって求められる偏差ΔILがなくなるように電圧指令値Vc2を生成する。
【0087】
図8は、出力電圧指令生成部40Aにおいて実行される出力電圧指令値VREFの生成処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図8に示すように、ステップ(以下、単に「S」と表記する)01により、出力電圧指令生成部40Aは、交流入力電圧VIの瞬時値を検出する。S02により、出力電圧指令生成部40Aは、交流入力電圧VIが商用交流電源1の定格電圧VR以上であるか否かを判定する。VI<VRである場合(S02のNO判定時)には、出力電圧指令生成部40Aは、S08により、出力電圧指令値VREFを定格電圧VRに設定する。
【0088】
一方、VI≧VRである場合(S02のYES判定時)には、S03により、出力電圧指令生成部40Aは、出力電圧指令値VREFを交流入力電圧VIに設定する。次に、S04により、出力電圧指令生成部40Aは、停電/過電圧検出部20からの過電圧検出信号DOに基づいて、商用交流電源1の過電圧が発生しているか否かを検出する。商用交流電源1の過電圧が発生していない場合(S04のNO判定時)、すなわち、商用交流電源1の交流入力電圧VIが上限値VHを超えていない場合には、出力電圧指令生成部40Aは、S02に戻り、交流入力電圧VIと定格電圧VRとの比較結果に応じて、出力電圧指令値VREFを交流入力電圧VIまたは定格電圧VRに設定する。
【0089】
これに対して、商用交流電源1の過電圧が発生している場合(S04のYES判定時)、すなわち、商用交流電源1の交流入力電圧VIが上限値VHを超えている場合には、出力電圧指令生成部40Aは、S05により、出力電圧指令値VREFを上限値VHに設定する。次いで、出力電圧指令生成部40Aは、S06により、スイッチ制御部22によってHSS10がオフされているか否かを判定する。S06では、例えば、電流検出器CD1の出力信号Iifに基づいて、交流電流Iiが流れているか否か判定される。交流電流Iiが流れている場合にS06がNO判定とされ、交流電流Iiが流れていない場合にS06がYES判定とされる。
【0090】
HSS10がオフされていないと判定された場合(S06のNO判定時)には、出力電圧指令生成部40Aは、S02に戻り、出力電圧指令値VREFを交流入力電圧VIまたは定格電圧VRに設定する。一方、HSS10がオフされていると判定された場合(S06のYES判定時)には、出力電圧指令生成部40Aは、S07により、出力電圧指令値VREFを低下させる。
図7で示したように、出力電圧指令値VREFを低下させる速度は、無停電電源装置100の電圧整定時間に応じて設定される。
【0091】
S08により、出力電圧指令生成部40Aは、出力電圧指令値VREFが定格電圧VRに一致しているか否かを判定する。VREF>VRとなる場合(S08のNO判定時)には、出力電圧指令生成部40Aは、S07に戻る。VREF=VRとなったことに応じて(S08のYES判定時)には、出力電圧指令生成部40AはS07の処理を停止する。
【0092】
図9は、実施の形態1に従う無停電電源装置100から負荷2に供給される交流出力電圧VOの時間的変化を示す波形図であって、
図5と対比される図である。
図5と同様に、
図9には、商用交流電源1または双方向コンバータ12から供給される三相の線間電圧の瞬時値が一括して示されている。
【0093】
図9と
図5とを対比すると、実施の形態1では、切換時間が終了した時刻t2以降、交流出力電圧VOは定格電圧VRに向かって徐々に低下しており、アンダーシュートの発生が抑えられていることが分かる。これは、切換時間の間、出力電圧指令値VREFを上限値VHを超えない範囲で交流入力電圧VIに追従して変化させたこと、および、HSS10のオフに応じて出力電圧指令値VREFを徐々に低下させたことによる。これによると、出力電圧指令値VREFを定格電圧VRに固定させる比較例に比べて、切換時間における出力電圧指令値VREFと交流出力電圧VOとの偏差ΔVOが小さくなるため、電圧指令値Vu1の変化量も低減することができる。その結果、交流出力電圧VOの変動を抑制して緩やかに定格電圧VRに戻すことができる。
【0094】
なお、実施の形態1によれば、商用交流電源1の停電が発生した場合には、VI<VRとなるため、出力電圧指令生成部40Aは、出力電圧指令値VREFを定格電圧VRに設定する。したがって、交流出力電圧VOは、
図4に示したように、切換時間が終了する時刻t2にて交流出力電圧VOが許容電圧範囲内に収まるように制御することができる。
【0095】
(変形例)
上述した実施の形態1では、HSS10がオフされたことに応じて、出力電圧指令値VREFを定格電圧VRまで低下させる構成について説明したが、商用交流電源1の過電圧が発生したことに応じて、出力電圧指令値VREFを低下させる構成としてよい。
【0096】
図10は、出力電圧指令生成部40Aにおける出力電圧指令値VREFの生成処理の変形例を説明するための図である。
図10には、
図7と同様に、商用交流電源1から供給される交流入力電圧VIの時間波形(図中破線に相当)、および出力電圧指令値VREFの時間波形(図中実線に相当)が示されている。
【0097】
図10では、時刻taから時刻tbまでの期間、VI<VRであるため、出力電圧指令値VREFは定格電圧VRに設定されている。時刻tb以降はVI≧VRとなるため、出力電圧指令値VREFは、交流入力電圧VIに一致している。
【0098】
時刻tcにて商用交流電源1の過電圧が発生すると、出力電圧指令生成部40Aは、出力電圧指令値VREFを定格電圧VRまで徐々に低下させる。
図10の例では、時刻tcから出力電圧指令値VREFを低下させているが、切換時間中に出力電圧指令値VREFの低下を開始してもよい。ただし、
図10に示すように、切換時間の終了後に、出力電圧指令値VREFが定格電圧VRに到達するように、出力電圧指令値VREFを低下させることが好ましい。出力電圧指令値VREFを低下させる速度は、無停電電源装置100の電圧整定時間を満たすように設定することができる。
【0099】
本変形例では、実施の形態1に比べて、切換時間における出力電圧指令値VREFと交流出力電圧VOとの偏差ΔVOが大きくなるものの、出力電圧指令値VREFを定格電圧VRとする比較例よりも偏差ΔVOを小さくすることができる。したがって、本変形例においても実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0100】
また、本変形例では、実施の形態1に比べて、HSS10がオフされる時刻tdでの偏差ΔVOを小さくすることができる。そのため、より速く交流出力電圧VOが定格電圧VRに戻すことができる。
【0101】
[実施の形態2]
図11は、実施の形態2に従う無停電電源装置100の制御装置16に含まれるコンバータ制御部24Bの構成を示すブロック図である。実施の形態2に従う無停電電源装置100は、制御装置16におけるコンバータ制御部24Bの構成を除いて、
図1および
図3に示した無停電電源装置100と構成が同じであるため、その図示および説明を省略する。
【0102】
図11に示すように、コンバータ制御部24Bは、直流電圧制御部240と、交流電圧制御部242Bと、セレクタ244と、PWM制御部246とを含む。コンバータ制御部24Bは、
図3に示したコンバータ制御部24に含まれる交流電圧制御部242を、交流電圧制御部242Bに置き換えたものである。
【0103】
交流電圧制御部242Bは、出力電圧指令生成部40と、減算器42,46と、電圧制御部44Bと、電流制御部48とを含んで構成される。交流電圧制御部242Bは、
図3に示した交流電圧制御部242とは、電圧制御部44に代えて、電圧制御部44Bを含む点が異なる。
【0104】
電圧制御部44Bは、比例演算部50Lと、比例演算部50Hと、積分演算部52と、加算器54と、切換回路56とを含む。比例演算部50L,50Hは、偏差ΔVO=VREF-VOに対して比例演算を行う。ただし、比例演算部50Lにおける比例ゲインKpLは、比例演算部50Hにおける比例ゲインKpHよりも小さい(KpL<KpH)。
【0105】
積分演算部52は、偏差ΔVOに対して積分演算を行う。加算器54は、比例演算結果と積分演算結果とを加算することにより電流指令値Ic2を生成する。
【0106】
切換回路56は、減算器42と比例演算部50L,50Hとの間に設けられる。切換回路56は、停電/過電圧検出部20からの過電圧検出信号DOに基づいて、減算器42により求められた偏差ΔVOを、比例演算部50L,50Hの何れか一方に選択的に入力するように構成される。具体的には、過電圧検出信号DOがHレベルの場合、すなわち、商用交流電源1の過電圧が発生していない場合には、切換回路56は、偏差ΔVOを比例演算部50Hに入力する。過電圧検出信号DOがLレベルの場合、すなわち、商用交流電源1の過電圧が発生している場合には、切換回路56は、偏差ΔVOを比例演算部50Lに入力する。
【0107】
これによると、商用交流電源1が正常である場合、または、商用交流電源1の停電が発生している場合には、比例演算部50Hにて偏差ΔVOに対する比例演算が実行され、この比例演算結果と積分演算部52による積分演算結果とに基づいて、電流指令値Ic2が生成される。比例ゲインKpHは、切換期間内に交流出力電圧VOが許容電圧範囲内に収まるように設定することができる。
【0108】
一方、商用交流電源1の過電圧が発生している場合には、比例演算部50Lにて偏差ΔVOに対する比例演算が実行され、この比例演算結果と積分演算部52による積分演算結果とに基づいて、電流指令値Ic2が生成される。比例ゲインKpLは、例えば、比例ゲインKpHの1/2~1/4程度の大きさに設定することができる。
【0109】
このように実施の形態2では、交流電圧制御部242Bは、出力電圧指令値VREFを定格電圧VRに固定する一方で、偏差ΔVOの比例演算に用いる比例ゲインKpを、商用交流電源1の過電圧状態において一時的にKpHからKpLに低下させるように構成されている。
【0110】
これによると、商用交流電源1の過電圧が発生しているときには、過電圧が発生していないときに比べて、偏差ΔVOに対する電圧指令値Vu2の変化量が小さくなるため、切換時間の終了直後における交流出力電圧VOのアンダーシュートを抑制することが可能となる。また、商用交流電源1の停電が発生しているときには、高い比例ゲインKpHを用いて比例演算が行われるため、偏差ΔVOに対する電圧指令値Vu2の変化量を大きくして、速やかに交流出力電圧VOを定格電圧VRまで回復させることができる。
【0111】
図12は、
図11に示した電圧制御部44Bにおいて実行される処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図12に示すように、S11により、電圧制御部44Bは、停電/過電圧検出部20からの過電圧検出信号DUに基づいて、商用交流電源1の過電圧が発生しているか否かを検出する。商用交流電源1の過電圧が発生していない場合(S11のNO判定時)、すなわち、商用交流電源1の交流入力電圧VIが上限値VHを超えていない場合には、電圧制御部44Bは、S14により、比例ゲインKpHを選択する。電圧制御部44Bは、選択した比例ゲインKpHを用いて比例演算を行い、この比例演算結果と積分演算結果とに基づいて、電流指令値Ic2を生成する。
【0112】
これに対して、商用交流電源1の過電圧が発生している場合(S11のYES判定時)、すなわち、商用交流電源1の交流入力電圧VIが上限値VHを超えている場合には、電圧制御部44Bは、S12により、比例ゲインKpHよりも低い比例ゲインKpLを選択する。電圧制御部44Bは、選択した比例ゲインKpLを用いて比例演算を行い、この比例演算結果と積分演算結果とに基づいて、電流指令値Ic2を生成する。
【0113】
電圧制御部44Bは、S13により、商用交流電源1が過電圧状態から正常状態に復旧(復電)したか否かを判定する。過電圧検出信号DUがLレベルからHレベルに遷移した場合にはS13がYES判定とされる。
【0114】
商用交流電源1が過電圧状態である場合(S13のNO判定時)には、電圧制御部44Bは、S12に戻り、比例ゲインKpLを選択する。商用交流電源1が復電した場合(S13のYES判定時)には、電圧制御部44Bは、S14により、比例ゲインKpHを選択する。電圧制御部44Bは、選択した比例ゲインKpHを用いて比例演算を行い、この比例演算結果と積分演算結果とに基づいて、電流指令値Ic2を生成する。
【0115】
(変形例)
上述した実施の形態2では、商用交流電源1が過電圧状態である場合には、出力電圧指令値VREFと交流出力電圧VOとの偏差ΔVOに対する比例演算に用いる比例ゲインKpを一時的に低下させる構成について説明したが、比例ゲインKpの低下に合わせて、積分演算に用いる積分ゲインKiを低下させる構成としてもよい。
【0116】
図13は、実施の形態2の変形例に従う無停電電源装置100の制御装置16に含まれるコンバータ制御部24Cの構成を示すブロック図である。
図13に示すように、コンバータ制御部24Cは、直流電圧制御部240と、交流電圧制御部242Cと、セレクタ244と、PWM制御部246とを含む。コンバータ制御部24Cは、
図11に示したコンバータ制御部24Bに含まれる交流電圧制御部242Bを、交流電圧制御部242Cに置き換えたものである。
【0117】
交流電圧制御部242Cは、出力電圧指令生成部40と、減算器42,46と、電圧制御部44Cと、電流制御部48とを含んで構成される。交流電圧制御部242Cは、
図11に示した交流電圧制御部242Bとは、電圧制御部44Bに代えて、電圧制御部44Cを含む点が異なる。
【0118】
電圧制御部44Cは、比例演算部50Lと、比例演算部50Hと、積分演算部52Lと、積分演算部52Hと、加算器54と、切換回路56,58とを含む。電圧制御部44Cは、電圧制御部44Bとは、積分演算部52に代えて、積分演算部52L,52Hおよび切換回路58を有する点が異なる。
【0119】
積分演算部52L,52Hは、偏差ΔVO=VREF-VOに対して積分演算を行う。ただし、積分演算部52LにおけるゲインKiLは、積分演算部52HにおけるゲインKiHよりも小さい(KiL<KiH)。
【0120】
切換回路58は、減算器42と積分演算部52L,52Hとの間に設けられる。切換回路58は、停電/過電圧検出部20からの過電圧検出信号DOに基づいて、減算器42により求められた偏差ΔVOを、積分演算部52L,52Hの何れか一方に選択的に入力する。具体的には、過電圧検出信号DOがHレベルの場合、すなわち、商用交流電源1の過電圧が発生していない場合には、切換回路58は、偏差ΔVOを積分演算部52Hに入力する。過電圧検出信号DOがLレベルの場合、すなわち、商用交流電源1の過電圧が発生している場合には、切換回路58は、偏差ΔVOを積分演算部52Lに入力する。
【0121】
これによると、商用交流電源1が正常である場合、または、商用交流電源1の停電が発生している場合には、比例演算部50Hにて偏差ΔVOに対する比例演算が実行されるとともに、積分演算部52Hにて偏差ΔVOに対する積分演算が実行されるる。そして、この比例演算結果と積分演算結果とに基づいて、電流指令値Ic2が生成される。
【0122】
一方、商用交流電源1の過電圧が発生している場合には、比例演算部50Lにて偏差ΔVOに対する比例演算が実行されるとともに、積分演算部52Lにて偏差ΔVOに対する積分演算が実行される。そして、この比例演算結果と積分演算結果とに基づいて、電流指令値Ic2が生成される。
【0123】
このように本変形例では、交流電圧制御部242Cは、出力電圧指令値VREFを定格電圧VRに固定する一方で、偏差ΔVOの比例演算に用いる比例ゲインKpおよび積分演算に用いる積分ゲインKiを、商用交流電源1の過電圧状態において一時的に低下させるように構成されている。
【0124】
図11に示した電圧制御部44Bでは、積分演算部52における積分ゲインKiを大きくするに従って、交流出力電圧VOを短時間で出力電圧指令値VREFに一致させることができる一方で、交流出力電圧VOの振動を増大させる場合がある。そのため、比例ゲインKpを低下させたことによるオーバーシュートの抑制効果が薄められてしまうことが懸念される。本変形例では、比例ゲインKpの低下に合わせて積分ゲインKiも低下させることにより、交流出力電圧VOの振動を抑えて、より確実にオーバーシュートを抑制することができる。
【0125】
図14は、電圧制御部44Cにおいて実行される処理の手順の一例を示すフローチャートである。
図14のフローチャートは、
図12のフローチャートにS121,S141の処理を追加したものである。
【0126】
図14に示すように、
図12と同じS11にて、商用交流電源1の過電圧が発生していない場合(S11のNO判定時)、電圧制御部44Cは、S14により、比例ゲインKpHを選択するとともに、S141により、積分ゲインKiHを選択する。電圧制御部44Cは、選択したゲインKpH,KiHを用いて比例積分演算を行い、この比例積分演算結果に基づいて、電流指令値Ic2を生成する。
【0127】
これに対して、商用交流電源1の過電圧が発生している場合(S11のYES判定時)には、電圧制御部44Cは、S12により、比例ゲインKpHよりも低い比例ゲインKpLを選択するとともに、S121により、積分ゲインKiHよりも低い積分ゲインKiLを選択する。電圧制御部44Cは、選択したゲインKpL,KiLを用いて比例積分演算を行い、この比例積分演算結果に基づいて、電流指令値Ic2を生成する。
【0128】
図12と同じS13にて商用交流電源1が過電圧状態である場合(S13のNO判定時)には、電圧制御部44Cは、S12,S121に戻り、ゲインKpL,KiLを選択する。そして、商用交流電源1が復電した場合(S13のYES判定時)には、電圧制御部44Cは、S14,S141により、ゲインKpH,KiHを選択する。電圧制御部44Cは、選択したゲインKpH,KiHを用いて比例積分演算を行い、この比例積分演算結果に基づいて、電流指令値Ic2を生成する。
【0129】
以上説明したように、実施の形態1および2に従う無停電電源装置100では、商用交流電源1の停電が発生したときには、HSS10の切換時間内に交流出力電圧VOが許容電圧範囲内に収まるように、出力電圧指令値VREFに対する交流出力電圧VOの偏差を制御演算して双方向コンバータ12の制御指令(電圧指令値Vu2)が生成される。これにより、切換時間直後の交流出力電圧VOの低下を抑制することができる。一方で、商用交流電源1の過電圧が発生したときには、商用交流電源1の停電が発生したときに比べて、交流出力電圧VOの変化に対する制御指令(電圧指令値Vu2)の変化を小さくする。これによると、交流出力電圧VOの変動(アンダーシュート)を抑制しつつ定格電圧VRに収束させることができる。
【0130】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示により示される技術的範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0131】
1 商用交流電源、2 負荷、3 バッテリ、10 HSS、12 双方向コンバータ、13 直流ライン、14 双方向チョッパ、16 制御装置、20 停電/過電圧検出部、22 スイッチ制御部、24,24A~24C コンバータ制御部、26 チョッパ制御部、30 直流電圧指令生成部、32,36,42,46 減算器、34,44,44B,44C 電圧制御部、38,48 電流制御部、40,40A 出力電圧指令生成部、50,50L,50H 比例演算部、52,52L,52H 積分演算部、54 加算器、56,58 切換回路、100 無停電電源装置、240 直流電圧制御部、242,242A~242C 交流電圧制御部、244 セレクタ、246 PWM制御部、T1 入力端子、T2 出力端子、T3 直流端子、C1,C2 コンデンサ、CD1,CD2 電流検出器、L1 リアクトル、Kp,KpH,KpL 比例ゲイン、Ki,KiH,KiL 積分ゲイン、VREF 出力電圧指令値、VI 交流入力電圧、VO 交流出力電圧、DU 停電検出信号、DO 過電圧検出信号。