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特開2024-113350通信装置、通信システムおよび通信方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113350
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】通信装置、通信システムおよび通信方法
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/7097 20110101AFI20240815BHJP
   H04J 13/10 20110101ALI20240815BHJP
【FI】
H04B1/7097
H04J13/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018270
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100181135
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 隆史
(72)【発明者】
【氏名】豊福 貴士
(57)【要約】
【課題】通信障害の影響を低減または回避することができる通信装置、通信システムおよび通信方法を提供する。
【解決手段】一次変調部は、一次変調方式を用いて送信信号を変調して一次変調信号を生成し、符号分割部は、拡散系列をそれぞれ異なる周波数帯域を有する複数の帯域成分系列に分割し、二次変調部は、前記複数の帯域成分系列のそれぞれを用いて前記一次変調信号を変調し、複数の拡散変調信号を生成し、周波数変換部は、前記複数の拡散変調信号をそれぞれ異なる変換周波数に基づいて変換周波数成分に変換し、高周波送信部は、前記変換周波数成分を含む高周波信号を送信する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次変調方式を用いて送信信号を変調して一次変調信号を生成する一次変調部と、
拡散系列をそれぞれ異なる周波数帯域を有する複数の帯域成分系列に分割する符号分割部と、
前記複数の帯域成分系列のそれぞれを用いて前記一次変調信号を変調し、複数の拡散変調信号を生成する二次変調部と、
前記複数の拡散変調信号をそれぞれ異なる変換周波数に基づいて変換周波数成分に変換する周波数変換部と、
前記変換周波数成分を含む高周波信号を送信する高周波送信部と、を備える
通信装置。
【請求項2】
前記符号分割部は、
前記拡散系列を周波数ごとの変換係数のセットに変換し、
前記周波数帯域に含まれる周波数ごとの前記変換係数のセットを前記帯域成分系列に変換する
請求項1に記載の通信装置。
【請求項3】
受信した高周波信号に基づいて通信可能な周波数帯域である通信可能帯域を検出し、
前記通信可能帯域に前記高周波信号の周波数帯域が含まれるように、前記変換周波数と前記帯域成分系列の数を定める制御部と、を備える
請求項1に記載の通信装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記通信可能帯域の周波数分布に基づいて
前記拡散変調信号に対応する帯域成分系列の帯域幅を定める
請求項3に記載の通信装置。
【請求項5】
前記制御部は、
高周波信号と通信障害が生じる周波数帯域である障害帯域との関連を示す数理モデルを用い、
受信される高周波信号に基づいて前記障害帯域を定め、
前記障害帯域を除外した周波数帯域を前記通信可能帯域として定める
請求項3に記載の通信装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記変換周波数と前記帯域成分系列の数を、時間経過に応じて更新する
請求項3に記載の通信装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記通信可能帯域と前記送信信号の送信に用いられる所要帯域との差である余剰帯域幅に基づいて、前記送信信号の送信データ量を定める
請求項3に記載の通信装置。
【請求項8】
前記送信信号を暗号化する暗号化部を備える
請求項1に記載の通信装置。
【請求項9】
請求項1に記載の通信装置と第2通信装置とを備える通信システムであって、
前記第2通信装置は、
前記高周波信号を受信する高周波受信部と、
前記高周波信号に含まれる複数の変換周波数成分をそれぞれ異なる前記変換周波数を用いて複数の拡散変調信号に復元する第2周波数変換部と、
前記拡散系列を用いて前記複数の拡散変調信号を合成した合成信号を復調して前記一次変調信号を復元する二次復調部と、
前記一次変調方式に対応する復調方式を用いて前記一次変調信号を復調して前記送信信号を復元する一次復調部と、を備える
通信システム。
【請求項10】
通信装置における通信方法であって、
前記通信装置は、変換周波数成分を含む高周波信号を送信する高周波送信部を備え、
一次変調方式を用いて送信信号を変調して一次変調信号を生成し、
拡散系列をそれぞれ異なる周波数帯域を有する複数の帯域成分系列に分割し、
前記複数の帯域成分系列のそれぞれを用いて前記一次変調信号を変調し、複数の拡散変調信号を生成し、
前記複数の拡散変調信号をそれぞれ異なる変換周波数に基づいて前記変換周波数成分に変換する
通信方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、通信装置、通信システムおよび通信方法、例えば、直接スペクトラム拡散方式に関する。
【背景技術】
【0002】
直接スペクトラム拡散(DSSS:Direct Sequence Spread Spectrum)方式は、信号の変調方式の一つであり、拡散符号系列を用いて送信信号の周波数成分をより広い周波数帯域に拡散する方式である。無線通信において直接スペクトラム拡散を適用することで、拡散符号系列の符号長に応じた処理利得が得られる。そのため、低被探知化が実現し、妨害波の影響が低減される。例えば、受信信号の信号成分の入力レベルが雑音レベルよりも低い場合でも通信可能なことがある。
【0003】
但し、一部または全部の周波数帯域において処理利得を超える強い妨害波を受ける場合には、受信信号を復調することができないため、通信不能となる。処理利得を向上させるためには、拡散符号系列の符号長を十分に長くする必要がある。通信帯域の帯域幅は符号長に比例するため、十分に広い周波数帯域を確保することが求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-287714号公報
【特許文献2】国際公開第2017/203569号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この点、特許文献1に記載の通信装置は、通信周波数帯域内の妨害波を検出して送信可能な周波数帯域を特定し、特定した周波数帯域の範囲内で送信周波数を変更する。そのため、妨害波を回避するために十分な周波数帯域が確保できないことがある。
また、特許文献2に記載の送信局は、通信路の秘匿性を向上させることを目的とし、送信データを2つ以上の信号に分割し、分割された信号に対してスペクトル拡散を行い、得られた信号を異なる周波数帯域で合波して送信する。しかしながら、少なくとも一部の周波数帯域において妨害波の影響を受ける場合、もとの分割された信号を復調できない。そのため、送信データ全体として完全に復元できない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願は、上述の課題を解決すべくなされたものであり、より通信障害の影響を低減することができる通信装置、通信システムおよび通信方法を提供することを目的としている。
【0007】
上記目的を達成するために、本願の第1の態様に係る通信装置は、一次変調方式を用いて送信信号を変調して一次変調信号を生成する一次変調部と、拡散系列をそれぞれ異なる周波数帯域を有する複数の帯域成分系列に分割する符号分割部と、前記複数の帯域成分系列のそれぞれを用いて前記一次変調信号を変調し、複数の拡散変調信号を生成する二次変調部と、前記複数の拡散変調信号をそれぞれ異なる変換周波数に基づいて変換周波数成分に変換する周波数変換部と、前記変換周波数成分を含む高周波信号を送信する高周波送信部と、を備える。
【0008】
また、本願の第2の態様に係る通信方法は、通信装置における通信方法であって、前記通信装置は、変換周波数成分を含む高周波信号を送信する高周波送信部を備え、一次変調方式を用いて送信信号を変調して一次変調信号を生成し、拡散系列をそれぞれ異なる周波数帯域を有する複数の帯域成分系列に分割し、前記複数の帯域成分系列のそれぞれを用いて前記一次変調信号を変調し、複数の拡散変調信号を生成し、前記複数の拡散変調信号をそれぞれ異なる変換周波数に基づいて前記変換周波数成分に変換する。
【発明の効果】
【0009】
本願の一態様によれば、通信障害の影響を低減または回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態に係る通信装置の構成例を示す概略ブロック図である。
図2】第1実施形態に係る送信部の構成例を示す概略ブロック図である。
図3】第1実施形態に係る受信部の構成例を示す概略ブロック図である。
図4】第1実施形態に係る送信部の実装例を示す概略ブロック図である。
図5】第1実施形態に係る符号分割部の機能構成例を示す。
図6】第1実施形態に係る受信部の実装例を示す概略ブロック図である。
図7】送信信号に関するスペクトラム変化を例示する図である。
図8】第1実施形態に係る通信開始処理の例を示すフローチャートである。
図9】第1実施形態に係る通信制御の例を示すフローチャートである。
図10】第1実施形態に係る通信システムの構成例を示す概略ブロック図である。
図11】受信信号に関するスペクトラム変化を例示する図である。
図12】第2実施形態に係る通信制御の例を示すフローチャートである。
図13】第3実施形態に係る送信部の構成例を示す概略ブロック図である。
図14】第3実施形態に係る受信部の構成例を示す概略ブロック図である。
図15】本願の通信装置の最小構成例を示す概略ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本願の実施形態について、図面を参照して説明する。
<第1実施形態>
まず、第1実施形態に係る通信装置1について説明する。本実施形態に係る通信装置1は、スペクトラム拡散方式を用いて他の機器と各種のデータを送受信可能とする機器である。図1は、本実施形態に係る通信装置1の構成例を示す概略ブロック図である。
通信装置1は、送信部12、受信部14および空中線部16を含んで構成される。
【0012】
次に、本実施形態に係る送信部12の構成例について説明する。
図2は、本実施形態に係る送信部12の構成例を示す概略ブロック図である。図4は、本実施形態に係る送信部12の実装例を示す概略ブロック図である。
送信部12は、送信バッファ122、一次変調部124、符号分割部126、二次変調部128、周波数変換部130、制御部132および高周波送信部134を備える。図4では、送信バッファ122の図示が省略されている。以下の説明では、制御対象となる送信バッファ122、一次変調部124、符号分割部126、二次変調部128、周波数変換部130、制御部132および高周波送信部134を「送信処理部」と総称することがある。
【0013】
送信バッファ122は、各種のデータを記憶可能とする記憶領域を備える。送信バッファ122は、制御部132による制御に従い、送信対象とする送信信号が入力され、入力される送信信号を一時的に保持する。送信バッファ122は、所定の伝送速度に対応する頻度で所定のデータ量(本願では、「送信データ量」と呼ぶことがある)の送信信号をその順に一次変調部124に出力する。送信データ量は、送信バッファ122における送信信号の記憶容量以下であればよい。送信バッファ122は、出力済の送信信号を保持していた記憶領域に新たな送信信号を記憶する。送信バッファ122には、予め所定の送信データ量が設定されてもよいし、制御部132により指示される送信データ量の送信信号を一次変調部124に出力してもよい。
【0014】
一次変調部124は、送信バッファ122から入力される送信信号に対して所定の一次変調方式を用いて変調(一次変調)し、変調により得られる一次変調信号を二次変調部128に出力する。一次変調方式は、例えば、PSK(Phase Shift Keying、位相偏移変調)、FSK(Frequency Shift Keying、周波数偏移変調)などのいずれかの方式であってもよい。一次変調部124には、一次変調方式が予め設定されていてもよいし、制御部132から指示される変調方式を一次変調に用いてもよい。
【0015】
符号分割部126には、制御部132から複数の拡散符号を有する拡散系列が入力される。符号分割部126は、生成した拡散系列の周波数帯域を分割し、分割後の複数の周波数帯域の成分をそれぞれ有する符号系列(本願では、「帯域成分系列」と呼ぶことがある)を生成する。符号分割部126は、生成した複数個の帯域成分系列を二次変調部128に出力する。
【0016】
符号分割部126には、周波数帯域の分割数および周波数帯域ごとの帯域幅の比率が予め設定されてもよいし、制御部132から指示される帯域成分系列の分割数および周波数帯域ごとの帯域幅の比率を用いてもよい。帯域成分系列の分割数は、周波数帯域の分割により生ずる帯域成分系列の数ならびに拡散系列の分割数に相当する。帯域成分系列の分割後の複数の周波数帯域が均等であってもよい。その場合には、帯域幅の比率の設定ならびに制御部132からの指示を要しない。拡散系列の周波数帯域の全帯域幅は、拡散系列長と拡散系列のサンプリング周波数により定まる。
【0017】
図5は、本実施形態に係る符号分割部126の機能構成例を示す。図5の例では、符号分割部126は、制御部132から入力される拡散系列PNに対して離散フーリエ変換(DFT:Discrete Fourier Transform)を実行し、周波数領域における周波数ごとの変換係数のセットに変換する。符号分割部126は、全周波数にわたる周波数ごとの変換係数のセットを、分割後の複数の周波数帯域それぞれに属する周波数ごとの変換係数のセットに分類する(周波数分割、「帯域分割」とも呼ばれる)。図4、5の例では、分割数は2個であり、2個の周波数帯域の帯域幅が等しい。符号分割部126は、分割後の個々の周波数帯域について、その周波数帯域に含まれる周波数ごとの変換係数のセットに対して逆離散フーリエ変換(IDFT:Inverse Discrete Fourier Transform)を実行する。逆離散フーリエ変換により、時間領域におけるサンプル時刻ごとの信号値の時系列をなす帯域成分系列PN、PNが生成される。
【0018】
なお、符号分割部126は、拡散系列PNを周波数分割し、複数の帯域成分系列を取得することができれば、他の手法、例えば、分割後の周波数帯域を通過帯域とする帯域通過フィルタなどを用いる手法であってもよい。
【0019】
拡散系列は、拡散符号とも呼ばれる。拡散系列として、自己相関が鋭いピーク値を有し、シフト時間が0以外の自己相関値がピーク値よりも格段に小さい符号系列、即ち、疑似ランダム雑音(PN:Pseudo random Noise)が用いられる。拡散系列は、その周期が長くランダム性が高いものが望ましい。拡散系列は、例えば、M系列(M-sequence, MLS:Maximum Length Sequenceとも呼ばれる)、Gold系列などのいずれでもよい。
【0020】
図2、4に戻り、二次変調部128は、一次変調部124から入力される一次変調信号に対して、符号分割部126から入力される複数の帯域成分系列のそれぞれに対し、二次変調方式を用いて変調する(二次変調)。二次変調部128は、二次変調により得られる複数の信号(本願では、「拡散変調信号」と呼ぶことがある)を周波数変換部130に出力する。本願では、二次変調方式は、直接スペクトラム拡散方式である。二次変調部128は、二次変調を実行する際、符号分割部126から入力される個々の帯域成分系列をなすサンプル値と一次変調信号のサンプル値との積をサンプル値として有する拡散変調信号を生成する。拡散変調信号の周波数帯域の帯域幅は、対応する帯域成分系列の周波数帯域の帯域幅に相当する。
【0021】
二次変調部128は、図4に例示されるように公知のロールオフフィルタを備えてもよい。ロールオフフィルタは、帯域成分系列ごとの拡散変調信号に対してスペクトル整形を行い、処理済みの拡散変調信号を周波数変換部130に出力する。スペクトル整形後の拡散変調信号において符号間干渉が低減し、個々の拡散変調信号の周波数帯域の広がりが抑制されるので、複数の拡散変調信号間の干渉が低減する。
【0022】
周波数変換部130は、二次変調部128から入力される基底周波数帯域(ベースバンド)の複数の拡散変調信号に対して、それぞれ異なる中間周波数に基づく周波数変換を行うことで、個々の周波数帯域の周波数を変移(シフト、アップコンバート、などと呼ばれる)し、中間周波数成分を有する中間周波数信号に変換する。周波数変換部130は、個々の拡散変調信号をなすサンプル値に、中間周波数の搬送波信号をなすサンプル値との積をサンプル値として有する信号を中間周波数信号として生成する。
周波数変換部130は、変換して得られる複数の中間周波数信号を合成し、合成により得られた合成信号を高周波送信部134に出力する。
なお、周波数変換部130には、中間周波数および中間周波数の数が予め設定されてもよいし、制御部132から指示される中間周波数および中間周波数の数を用いてもよい。合成される中間周波数の数は、帯域成分系列の分割数に相当する。
【0023】
図4に例示されるように、周波数変換部130は、帯域通過フィルタ(BPF:Band-pass Filter)を備えてもよい。帯域通過フィルタは、帯域成分系列ごとの中間周波数信号に対して所定の通過帯域内の周波数成分を通過させ、通過帯域外の周波数成分を除去し、通過帯域内の周波数成分を有する中間周波数成分を出力する。帯域通過フィルタには、帯域成分系列ごとの通過帯域の中心周波数、帯域幅として、その帯域成分系列の中心周波数、その帯域成分系列の帯域幅がそれぞれ設定される。これにより、周波数変換により生じうる不要成分(例えば、高調波成分など)が除去される。
【0024】
制御部132は、送信信号の送信処理を制御する。制御部132は、送信処理に係るパラメータ(本願では、「送信パラメータ」と総称することがある)を定める。制御対象となりうるパラメータは、上記の送信データ量、一次変調方式、拡散系列の種類、帯域成分系列の分割数、帯域成分系列の周波数帯域の帯域幅の比率、中間周波数の個数、個々の中間周波数、搬送周波数などの一部または全部である。送信処理部において予め設定されたパラメータが用いられる場合には、制御部132は、そのパラメータを指示しなくてもよい。
【0025】
なお、一部の種類の送信パラメータは、他の種類のパラメータに依存して定まる。例えば、中間周波数の数は、帯域成分系列の分割数に相当する。また、複数の周波数帯域間で帯域幅が等しい場合には、帯域幅の比率は設定ならびに指示されなくてもよい。
制御部132は、通信装置1の周囲環境、相手先機器との通信状態、相手先機器からの設定要求などのいずれか1項目もしくは複数項目に基づいて送信パラメータの一部または全部を変更し、変更後の送信パラメータを送信処理部に設定してもよい。送信パラメータの設定例については、後述する。
【0026】
高周波送信部134は、周波数変換部130から入力される合成信号に含まれる中間周波数成分の周波数を所定の搬送周波数に基づいて変移し、高周波成分を有する高周波信号に変換する。中間周波数成分とは、合成信号に含まれる中間周波数信号の周波数成分に相当する。搬送周波数は、例えば、合成信号に対して1個設定される。その場合、合成信号に含まれる中間周波数信号の周波数成分の周波数領域における周波数分布が搬送周波数に基づいて平行移動する。高周波成分は、無線周波数帯域の成分に相当する。高周波送信部134は、変換した高周波信号を空中線部16に出力する。
【0027】
高周波送信部134は、帯域通過フィルタと増幅器(アンプ)を有してもよい。帯域通過フィルタは、高周波信号に含まれるべき所定の高周波成分の周波数帯域を通過帯域とし、通過帯域外の不要成分を除去する。増幅器は、不要成分が除去した高周波信号の電力を増幅する。高周波送信部134は、増幅した高周波信号を空中線部16に出力し、高周波信号を搬送する電波を送出させる。
【0028】
なお、高周波送信部134には、搬送周波数が予め設定されてもよいし、制御部132から指示された搬送周波数を用いてもよい。
周波数変換部130は、基底周波数帯域(ベースバンド)の拡散変調信号から中間周波数信号への変換に代え、拡散変調信号から高周波信号に直接変換してもよい。その場合、周波数変換部130は、中間周波数に代え拡散変調信号ごとに設定または指示される搬送周波数を用いて、当該拡散変調信号に対して周波数変換を行って帯域別高周波信号に変換する。高周波送信部134は、帯域別高周波信号を合成して得られる高周波信号を空中線部16に出力する。
【0029】
拡散変調信号から高周波信号への直接変換の場合、高周波送信部134において、中間周波数成分から高周波信号への変換が省略される。制御部132は、拡散変調信号ごとに中間周波数に代え、搬送周波数を定め、周波数変換部130に指示する。拡散変調信号ごとの搬送周波数は、拡散変調信号ごとの中間周波数と1個の搬送周波数に基づいて定まる。本願では、中間周波数と搬送周波数を「変換周波数」と総称することがある。
【0030】
次に、本実施形態に係る受信部14の構成例について説明する。図3は、本実施形態に係る受信部14の構成例を示す概略ブロック図である。図6は、本実施形態に係る受信部14の実装例を示す概略ブロック図である。受信部14は、高周波受信部142、周波数変換部144、二次復調部146、一次復調部148、受信バッファ150および制御部152を備える。以下の説明では、制御対象となる高周波受信部142、周波数変換部144、二次復調部146、一次復調部148、受信バッファ150を「受信処理部」と総称することがある。
【0031】
高周波受信部142には、空中線部16に到来する電波で搬送される高周波信号が入力される。高周波受信部142は、入力される高周波信号の周波数を所定の搬送周波数に基づいて変移(シフト、ダウンコンバート、などとも呼ばれる)し、中間周波数成分を有する合成信号を復元する。高周波受信部142は、復元した合成信号を周波数変換部144に出力する。
【0032】
高周波受信部142は、増幅器と帯域通過フィルタを備えてもよい。増幅器は、入力される高周波信号を増幅する。帯域通過フィルタは、復元した合成信号に所定の周波数帯域を通過帯域として有し、合成信号から所定の通過帯域外の不要成分を除去する。高周波受信部142は、通過した合成信号を周波数変換部144に出力する。通過帯域は、合成信号に含まれる複数の中間周波数成分の周波数帯域を含み、それ以外の周波数帯域を含まないように設定される。
なお、高周波受信部142には、搬送周波数が予め設定されてもよいし、制御部152から指示された搬送周波数を用いてもよい。高周波受信部142には、送信信号の送信元となる送信元機器において用いられた搬送周波数と共通の搬送周波数が設定される。
【0033】
周波数変換部144は、高周波受信部142から入力される合成信号に対して、複数の異なる中間周波数に基づく周波数変換をそれぞれ行うことで、合成信号に含まれる複数の中間周波数成分それぞれの周波数を変移する。周波数変換により、基底周波数帯域における複数の周波数成分を有する拡散変調信号が復元される。周波数変換部144は、復元した複数の拡散変調信号を加算することにより合成された合成信号を生成する。周波数変換部144は、生成した合成信号を二次復調部146に出力する。
【0034】
周波数変換部144は、図6に例示されるように、帯域通過フィルタを備えてもよい。帯域通過フィルタは、高周波受信部142から入力される合成信号に対して、それぞれ所定の通過帯域内の周波数成分を通過させ、通過帯域外の周波数成分を除去し、通過帯域内の周波数成分を有する中間周波数成分を出力する。帯域通過フィルタには、中間周波数成分ごとに所定の周波数帯域が通過帯域として設定される。中間周波数成分の周波数帯域は、その中心周波数と帯域幅により特定される。中間周波数成分の帯域幅は、対応する帯域成分系列の帯域幅に相当する。これにより、周波数変換により生じうる不要成分が除去される。
【0035】
また、周波数変換部144は、図6に例示されるように、ロールオフフィルタと合成部を備えてもよい。ロールオフフィルタは、生成した拡散変調信号ごとにスペクトル整形を行い、処理済みの拡散変調信号を合成部に出力する。合成部は、処理済みの拡散変調信号を合成し、合成により合成信号を生成する。
【0036】
なお、周波数変換部144には、中間周波数および中間周波数の数が予め設定されてもよいし、制御部152から指示された中間周波数および中間周波数の数を用いてもよい。周波数変換部144には、送信信号の送信元となる送信元機器において用いられた中間周波数と共通の中間周波数が設定される。
【0037】
周波数変換部144は、中間周波数信号から拡散変調信号への変換に代え、高周波信号から拡散変調信号に直接変換してもよい。その場合、搬送周波数および搬送周波数の数が、予め周波数変換部144に設定されてもよいし、制御部152から指示された搬送周波数および搬送周波数の数が用いられてもよい。高周波信号から拡散変調信号への直接変換の場合には、高周波受信部142において、高周波信号から中間周波数信号への変換が省略され、取得された高周波信号を周波数変換部144に出力する。
【0038】
二次復調部146は、周波数変換部144から入力される合成信号に対し、制御部152から入力される拡散系列に基づいて所定の二次復調方式を用いて復調(二次復調、逆拡散に相当)する。所定の二次復調方式は、直接スペクトラム逆拡散方式である。二次復調に用いられる拡散系列は、送信元機器における二次変調に用いられる拡散系列と共通の拡散系列PNである。二次復調部146は、二次復調により得られる二次復調信号を一次復調部148に出力する。二次復調信号は、送信元機器における一次変調により得られた変調信号を復元した信号に相当する。
【0039】
二次復調部146は、図6に例示されるように、ビット判定部を備えてもよい。ビット判定部は、二次復調により得られる二次復調信号に対してビット判定処理を行い、処理済みの二次復調信号を一次復調部148に出力する。ビット判定処理は、公知のビット誤り検出処理と、誤り訂正処理を含む。
【0040】
一次復調部148は、二次復調部146から入力される二次復調信号に対し、所定の一次復調方式を用いて復調(一次復調)し、受信信号を再構成する。一次復調部148は、再構成した受信信号を受信バッファ150に出力する。
一次復調部148には、一次復調方式が予め設定されてもよいし、制御部152から指示された一次復調方式を用いてもよい。
【0041】
受信バッファ150は、各種のデータを記憶可能とする記憶領域を備える。受信バッファ150は、制御部152による制御に従い、一次復調部148から入力される受信信号を一時的に保持する。受信バッファ150は、受信信号を所定の伝送速度に対応する頻度で所定のデータ量(本願では、「受信データ量」と呼ぶことがある)ごとに受信部14の外部に出力する。受信データ量は、受信バッファ150における受信信号の記憶容量以下であればよい。受信バッファ150は、出力済の受信信号を保持していた記憶領域に新たな受信信号を記憶する。
受信バッファ150には、予め所定の受信データ量が設定されてもよいし、制御部152により指示される受信データ量の送信信号を出力してもよい。
【0042】
制御部152は、受信信号の受信処理を制御する。制御部152は、受信処理に係るパラメータ(本願では、「受信パラメータ」と総称することがある)を定める。制御対象となるパラメータは、上記の受信データ量、一次復調方式、拡散系列の種類、中間周波数の個数、個々の中間周波数、搬送周波数などの一部または全部 となりうる。受信処理部において予め設定されたパラメータが用いられる場合には、制御部152は、そのパラメータを指示しなくてもよい。
制御部152は、通信装置1の周囲環境、相手先機器との通信状態、相手先機器からの設定要求などのいずれか1項目もしくは複数項目に基づいて受信パラメータの一部または全部を変更し、変更後の受信パラメータを受信処理部に設定してもよい。
【0043】
送信バッファ122、一次変調部124、符号分割部126、二次変調部128、周波数変換部130、制御部132、周波数変換部144、二次復調部146、一次復調部148、受信バッファ150および制御部152の機能は、それぞれ集積回路を用いて実現されてもよい。集積回路の種別は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサ、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などの、いずれであってもよいし、それらの複数の組であってもよい。これらは、SoC(System-on Chip)、エンベデッドコントローラなどとして実装されてもよい。各部の機能の一部または全部は、共通の集積回路を用いて実現されてもよい。これにより、回路規模が低減される。符号分割部126、制御部132および制御部152の一部は、不揮発性メモリを用いて実現されてもよい、これにより、符号分割等の演算処理時間の短縮、各種設定の初期値の更新が可能となる。
【0044】
高周波送信部134および高周波受信部142は、それぞれフィルタ素子、増幅器などの高周波部品を有する高周波回路を含んで構成される。
空中線部16は、送信専用の送信アンテナと受信専用の受信アンテナを備えてもよいし、単一のアンテナを備え、送受信で共用されてもよい。
【0045】
次に、本実施形態に係る通信装置1における送信信号に対する各処理過程に応じたスペクトラムの変化について説明する。図7は、送信信号に関するスペクトラム変化を例示する図である。図7(a)は、一次変調部124から得られる一次変調信号のスペクトラムS0を例示する。図7(b)は、二次変調部128から得られた拡散変調信号のスペクトラムS1を例示する。但し、図7(b)の例では、拡散系列に対する帯域分割がなされていない(即ち、分割数が1)であることを前提とする。図7(c)は、周波数変換部130および高周波送信部134による周波数変換により得られた高周波信号のスペクトラムS1と、妨害波のスペクトラムN1、N2を示す。図示の例では、妨害波の周波数帯域の一部が、高周波信号の周波数帯域と重複している。そのため、送信先となる送信先機器において、妨害波の高周波信号との受信レベル差が処理利得を超える場合、妨害波の影響を除去できず、通信不能となることがある。処理利得とは、受信などの処理過程において逆拡散、フィルタリングなどにより、伝送路で混入した妨害波成分が除去されることによる信号対雑音比(SN比、Signal-to-Noise)の向上レベルに相当する。
【0046】
図7(b’)は、拡散変調信号のスペクトラムの他の例として、3個のスペクトラムS1-1、S1-2、S1-3を例示する。即ち、図7(b’)の例では、帯域成分系列の分割数は、3である。図7(b’)に例示される拡散変調信号を合成して得られる信号のスペクトラムは、図7(b)に例示される拡散変調信号のスペクトラムS1と等しくなる。個々の拡散変調信号の帯域幅は、対応する帯域成分系列の帯域幅に比例する。
【0047】
図7(c’)は、高周波信号と妨害波のスペクトラムの他の例として、高周波信号に係る3個のスペクトラムS1-1、S1-2、S1-3と妨害波に係る2個のスペクトラムN1、N2を示す。この例では、制御部132によりスペクトラムN1、N2とスペクトラムS1-1、S1-2、S1-3との重複を避け、通信可能とする通信可能領域に高周波信号の周波数帯域が含まれるように、拡散系列の分割数と帯域成分系列の帯域幅の比率が設定される。制御部132は、受信部14の高周波受信部142により受信される高周波信号のうち、相手先機器との送受信が行われていない所定期間(例えば、通信開始前、通信中における測定ギャップ、など)における高周波信号の受信レベルが所定の検出レベルを超える周波数成分を妨害波として検出することができる。
【0048】
相手先機器の制御部152は、通信装置1において用いられる拡散系列の分割数、中間周波数および搬送周波数(該当する場合には、さらに帯域成分系列の帯域幅)を用いることで、受信した高周波信号から個々の拡散変調信号が割り当てられる周波数帯域を特定することができる。相手先機器の二次復調部146は、高周波信号から復元された拡散変調信号を合成して得られる合成信号に対して逆拡散することで送信信号を一次変調した変調信号を再構成することができる。
【0049】
次に、本実施形態に係る通信方法の例について説明する。まず、本実施形態に係る通信を開始するための通信開始処理について説明する。図8は、本実施形態に係る通信開始処理の例を示すフローチャートである。
(ステップS102)受信部14は、パワーメータ(図示せず)を備え、受信可能な周波数帯域における周波数ごとに受信レベルを測定する。送信部12は、測定された受信レベルに基づいて通信可能な通信可能帯域を調査する。より具体的には、制御部132は、パワーメータにより測定された受信レベルが所定の検出レベルを超える周波数を障害周波数と判定する。障害周波数は、例えば、妨害波、干渉波などにより通信障害を生じうる周波数である。障害周波数を含む周波数帯域を障害帯域と呼ぶことがある。測定した受信レベルが所定の検出レベルを超えない周波数を含む周波数帯域を、送信信号を送信可能な通信可能帯域として定める。
【0050】
(ステップS104)制御部132は、調査により得られた通信可能帯域から、送信に用いられる所要帯域が確保されるように、拡散系列の分割数と帯域成分系列それぞれの帯域幅の比率を定める。所要帯域は、送信データ量、変調方式、符号化率およびロールオフフィルタのロールオフ率に基づいて定まる。
【0051】
(ステップS106)制御部132は、調査により得られた通信可能帯域に割り当てることができるように、分割数に相当する数の高周波成分の周波数帯域を定め、定めた周波数帯域ごとの中心周波数を送信周波数として特定する。周波数帯域ごとの帯域幅は、帯域成分系列の帯域幅に比例する。制御部132は、特定した送信周波数に基づいて搬送周波数と帯域成分系列ごとの中心周波数を設定する。
【0052】
ステップS104、S106において、制御部132は、通信可能帯域の周波数分布から一連の隣接した周波数を含む周波数帯域を特定し、特定した周波数帯域の帯域幅に個々の拡散変調信号の周波数帯域の帯域幅が含まれ、かつ、その周波数帯域の帯域幅の総和が所要帯域以上となるように、帯域成分系列の分割数、帯域成分系列それぞれの帯域幅、を定めればよい。
【0053】
(ステップS108)制御部132は、所定の通信方式で規定されたプリアンブル信号を生成し、送信信号として、送信処理部を用いて相手先機器に送信させる。プリアンブル信号は、特定した相手先機器と自装置との通信開始を示す信号である。制御部132は、プリアンブル信号に送信処理部に設定される送信パラメータの一部または全部を含む設定情報を含め、相手先機器に通知してもよい。
【0054】
(ステップS110)制御部152は、プリアンブル信号の送信後、所定の期間内に相手先機器からプリアンブル信号に対する応答信号を受信したか否かを判定する。受信した場合(ステップS110 YES)、ステップS112の処理に進む。受信しない場合(ステップS110 NO)、ステップS102の処理に戻る。このとき、制御部152は、定めた周波数帯域が相手先機器において使用不可能な帯域である通信不能帯域であると判定し、通信可能帯域から通信不能帯域を除外してもよい。これにより、異なる送信周波数のセットの探索、ひいては、異なる分割数と帯域幅のパターンの生成が促される。
また、応答信号には、相手先機器における設定情報が含まれ、設定情報に相手先機器における送信パラメータの一部または全部が含まれてもよい。
【0055】
(ステップS112)制御部132は、帯域成分系列の分割数、帯域幅および送信周波数を確定し、確定した分割数、帯域幅および送信周波数を含む送信パラメータを送信処理部に設定する。
(ステップS114)送信部12は、設定された送信パラメータを用いて相手先機器への送信信号の送信を開始する(通信開始)。その後、図8の処理を終了する。
【0056】
次に、本実施形態に係る通信中における通信制御の例について説明する。図9は、本実施形態に係る通信制御の例を示すフローチャートである。
(ステップS202)制御部132は、所定の通信方式に従って相手先機器との通信状態を監視する。制御部132は、例えば、一定周期ごとに相手先機器と接続確認通信を行う。接続確認通信は、生存確認、死活監視などと呼ばれる。制御部132は、例えば、送信処理部に対して接続確認信号を送信信号として、その時点において設定されている送信パラメータを用いて相手先機器に送信させる。制御部132は、接続確認信号の送信から所定の待機時間内に相手先機器から応答信号を受信できるか否かにより、通信可能な状態が継続しているか否かを判定することができる。制御部132は、相手先機器への送信信号の送信ならびに受信信号の受信がなされない期間において、上記の手順に従って障害帯域または通信可能帯域を検出する。制御部132は、相手先機器からの設定変更要求の受信の有無を判定する。設定変更要求により、送信パラメータの一部または全部、その他の設定情報の変更が通知されることがある。その場合、相手先機器において次の通信フレームにおいて設定される送信パラメータが設定変更要求に含まれることがある。
【0057】
相手先機器からの応答信号を受信し、通信可能帯域の状況が変化せず、および、相手先機器からの設定変更要求を受信しないとき(ステップS202 NO)、制御部132は、その時点における送信パラメータを変更せずに用いて相手先機器への送信信号の送信を継続する。そして、ステップS202の処理を繰り返す。通信可能帯域の状況が変化しないとは、その時点において相手先機器への送信に用いられる高周波成分の周波数帯域が障害周波数を含まず、通信可能帯域の状況が継続することを示す。
相手先機器からの応答信号を受信しない、通信可能帯域の状況が変化する、または、相手先機器からの設定変更要求を受信するとき(ステップS202 YES)、ステップS204の処理に進む。通信可能帯域の状況の変化には、例えば、通信に用いられる周波数帯域に妨害波の周波数が含まれるなどの事象がある。
【0058】
(ステップS204)制御部132は、送信処理部に対し、送信信号の送信を一時的に停止させる(通信一時停止)。
(ステップS206)制御部132は、送信に用いられる高周波成分の周波数帯域が通信可能帯域に含まれ、障害周波数を含まないように拡散符号系列の分割数、帯域幅および中間周波数を含む送信パラメータを再設定する。制御部132は、送信パラメータの再設定において、ステップS102、S104と同様の処理を実行してもよいし、過去に設定した送信パラメータを記憶しておき、その中から通信可能帯域に含まれ、障害周波数を含まない高周波成分の周波数帯域を与える送信パラメータを採用してもよい。制御部132は、未使用、または、使用実績がない高周波数成分の周波数帯域を与える送信パラメータの探索を試行してもよい。相手先機器からの設定変更要求に送信パラメータが含まれるとき、制御部152は、取得される送信パラメータに対応する高周波成分の周波数帯域を与える受信パラメータを採用してもよい。その高周波成分の周波数帯域が制御部132により定められた通信可能帯域に含まれる場合、制御部152は、定めた受信パラメータを受信処理部に設定してもよい。
【0059】
その後、制御部132は、ステップS208、S210およびS212の処理を実行する。ステップS208、S210およびS212の処理は、それぞれ上記のステップS108、S110およびS112の処理と同様であるため、その説明を援用する。但し、ステップS210において、プリアンブル信号に対する応答信号を相手先機器から受信しない場合(ステップS210 NO)、ステップS206の処理に戻る。ステップS212の処理が終了した後、ステップS214の処理に進む。
(ステップS214)制御部132は、送信処理部に対し、再設定した送信パラメータを用いて送信信号の相手先機器への送信処理を再開させる(通信再開)。その後、図9の処理を終了する。
【0060】
次に、本実施形態に係る通信システムCS1における受信信号に対する各処理過程におけるスペクトラムの変化について説明する。図10に例示されるように、通信システムCS1は、2個の通信装置1を含んで構成される。個々の通信装置1、および、それぞれの構成要素は、通信装置1-1、1-2などと、子番号を付して区別されている。次の説明は、通信装置1-1において通信装置1-2から無線で送信される送信信号を受信する場合を主とする。
【0061】
図11は、受信信号に関するスペクトラム変化を例示する図である。図11(a)は、通信装置1-1の受信部14-1が通信装置1-2から搬送される高周波信号のスペクトラムを示す。高周波信号は、3個の帯域分割されたスペクトラムS1-1、S1-2およびS1-3を含む。N1、N2は、それぞれ妨害波のスペクトルを示す。妨害波のスペクトラムN1はスペクトラムS1-1、S1-2間において重複せずに挟まれ、妨害波のスペクトラムN2はスペクトラムS1-2、S1-3間において重複せずに挟まれる。
【0062】
図11(b)は、周波数変換部144により中間周波数成分の周波数を基底周波数帯域内に変移して得られる拡散変調信号のスペクトラムS1-1、S1-2、S1-3を示す。スペクトラムの変換において、受信パラメータの一部をなす搬送周波数、中間周波数成分ごとの中間周波数ならびに帯域幅が用いられる。制御部152-1、132-2には、それぞれ受信パラメータと送信パラメータを予め設定しておき、通信開始時において、設定された受信パラメータ、送信パラメータを、それぞれ受信信号の受信、送信信号の送信に用いてもよい。また、制御部132-2、152-1は、それぞれの送信パラメータを相手先機器である通信装置1-1、1-2に設定変更要求に含めて送信してもよい。
【0063】
図11(b’)は、周波数変換部144において拡散変調信号を合成して得られる合成信号のスペクトラムS1を示す。合成信号のスペクトラムS1は、個々の拡散変調信号のスペクトラムS1-1、S1-2、S1-3を加算して得られる総和に相当する。
図11(c)は、二次復調部146において得られる二次復調信号のスペクトラムS0を示す。二次復調信号は、合成信号に対して拡散系列を用いた逆拡散を行って得られる。受信信号は、一次復調部148において二次復調信号に対して一次復調を行って得られる。受信信号は、送信信号を再構成した信号に相当する。
【0064】
<第2実施形態>
次に、第2実施形態に係る通信装置1について、第1実施形態との差異点を主として説明する。第1実施形態との共通点については、特に断らない限り、第1実施形態の説明を援用する。
制御部132は、一定周期ごとに上記のように測定された測定された受信レベルに基づいて通信可能な通信可能帯域を調査する。制御部132は、通信可能帯域と所要帯域の差を余剰帯域幅として算出し、余剰帯域幅が広いほど多くなるように一回の送信に係る送信データ量を定めてもよい。余剰帯域幅は、通信に用いられずに空いている帯域である。制御部132は、定めた送信データ量を送信バッファ122に設定する。より具体的には、制御部132は、余剰帯域幅が所定の下限未満となるとき、送信信号の送信データ量をその時点における設定値よりも減少させる。制御部132は、余剰帯域幅が所定の下限から上限の間であるとき送信データ量を維持する。制御部132は、余剰帯域幅が所定の上限を超えるとき、送信信号の送信データ量をその時点における設定値よりも増加させる。これにより、有限な周波数帯域の有効活用が図られる。
【0065】
次に、本実施形態に係る通信制御の例について説明する。図12は、本実施形態に係る通信制御の例を示すフローチャートである。図12の処理は、ステップS202~S214の処理と、ステップS316~S324の処理を有する。ステップS202~S214の処理については、特に断らない限り第1実施形態における説明を援用する。但し、ステップS202において、相手先機器からの応答信号を受信し、通信可能帯域の状況が変化せず、および、相手先機器からの設定変更要求を受信しないとき(ステップS202 NO)、ステップS316の処理に進む。
【0066】
(ステップS316)制御部132は、通信可能帯域と所要帯域の差を余剰帯域幅として算出し、余剰帯域幅(空き帯域)が下限B1未満となるか否かを判定する。余剰帯域幅が下限B1未満となるとき(ステップS316 YES)、ステップS320の処理に進む。余剰帯域幅が下限B1以上となるとき、ステップS318の処理に進む。
(ステップS318)制御部132は、余剰帯域幅が下限B1以上、上限B2以下となるか否かを判定する。余剰帯域幅が下限B1以上、上限B2以下となるとき(ステップS318 YES)、ステップS322の処理に進む。余剰帯域幅が上限B2を超えるとき(ステップS318 NO)、ステップS324の処理に進む。ここで、B2は、B1よりも大きい予め設定された正の実数値である。
【0067】
(ステップS320)制御部132は、送信データ量を制限し、その時点における設定値よりも減少させる。その後、ステップS202の処理に戻る。
(ステップS322)制御部132は、送信データ量を変更せずに維持する。その後、ステップS202の処理に戻る。
(ステップS324)制御部132は、送信データ量をその時点における設定値よりも増加させる。その後、ステップS202の処理に戻る。
【0068】
<第3実施形態>
次に、第3実施形態に係る通信装置1について、上記の実施形態との差異点を主として説明する。上記の実施形態との共通点については、特に断らない限り、上記の実施形態の説明を援用する。本実施形態に係る通信装置1は、送信部12、受信部14に代え、送信部22、受信部24を備える。
【0069】
図13は、本実施形態に係る送信部22の構成例を示す概略ブロック図である。本実施形態に係る送信部22は、図13に例示されるように、送信バッファ122、一次変調部124、符号分割部126、二次変調部128、周波数変換部130および高周波送信部134に加え、暗号化部236を備え、制御部132に代えて制御部232を備える。制御部232は、制御部132と同様の処理を実行する他、暗号化部236に対する各種の設定および制御を実行する。制御部232は、例えば、相手先機器の制御部252との間で鍵交換を実行する。
暗号化部236は、送信バッファ122から入力される平文の送信信号に対して所定の暗号化方式を用いて暗号化する。所定の暗号化方式は、公開鍵暗号方式、秘密鍵暗号方式のいずれでもよい。暗号化部236は、暗号化した送信信号を一次変調部124に出力する。なお、相手先機器において、暗号化された送信信号が受信信号として、暗号化に用いられた暗号化方式に対応する復号方式を用いて復号され、平文の受信信号に変換される。
【0070】
図14は、本実施形態に係る受信部24の構成例を示す概略ブロック図である。本実施形態に係る受信部24は、図14に例示されるように、高周波受信部142、周波数変換部144、二次復調部146、一次復調部148および受信バッファ150に加え、復号部256を備え、制御部152に代えて制御部252を備える。制御部252は、制御部152と同様の処理を実行する他、復号部256に対する各種の設定および制御を実行する。制御部252は、例えば、相手先機器の制御部232との間で鍵交換を実行する。
復号部256は、一次復調部148から入力される暗号化された受信信号に対して、暗号化に用いられた暗号化方式に対応する復号方式を用いて復号し、平文の受信信号に変換する。復号部256は、変換した受信信号を受信バッファ150に出力する。
なお、相手先機器において、送信信号が暗号化された送信信号に変換して送信され、通信装置1において暗号化された受信信号として受信される。
【0071】
従って、一部の帯域成分系列に対応する拡散変調信号が傍受された場合でも、暗号化により秘匿性が確保される。また、復号に用いられる鍵情報が漏洩しても、他の帯域成分系列を取得しない限り暗号化された送信信号の完全性を実現できない。この点も、秘匿性の強化に貢献する。
【0072】
<第4実施形態>
次に、第4実施形態に係る通信装置1について、上記の実施形態との差異点を主として説明する。上記の実施形態との共通点については、特に断らない限り、上記の実施形態の説明を援用する。上記の実施形態では、制御部132により送信信号の所要帯域が通信可能な通信可能帯域に含まれるように、拡散系列の分割数(拡散変調信号の数に相当)および中間周波数を定める場合を例にした。
【0073】
本実施形態に係る制御部132は、拡散系列の分割数および中間周波数のセットを、時間経過に従って切り替え、切り替えたセットを周波数変換部130に設定してもよい。制御部132は、予め定めた拡散系列の分割数および中間周波数を含む複数のセットから、一定周期もしくは時間帯ごとにいずれか1セットを巡回的またはランダムに選択してもよい。また、制御部132は、通信可能帯域に含まれる高周波成分の周波数帯域を与える拡散系列の分割数および中間周波数のセットを巡回的またはランダムに選択してもよい。相手先機器の制御部152は、通信装置1の制御部132により設定される拡散系列の分割数および中間周波数のセットと同じセットを、制御部132と同期して設定する。通信装置1と相手先機器において、セットごとに選択される共通の周期、時間帯などが予め設定されてもよい。
従って、送信パラメータの時間変化により、送信信号の伝送に用いられる高周波信号の周波数帯域が変化するため、通信が探知される可能性が低減する。そのため、耐妨害性が向上する。
【0074】
<第5実施形態>
次に、第5実施形態に係る通信装置1について、上記の実施形態との差異点を主として説明する。上記の実施形態との共通点については、特に断らない限り、上記の実施形態の説明を援用する。
上記の実施形態に係る制御部132は、周波数ごとの受信レベルに基づいて通信障害を生じうる障害周波数を含む障害帯域を定める場合を例にした。
これに対し、本実施形態に係る制御部132には、高周波信号と障害帯域との関連を示す数理モデルを予め設定しておく。数理モデルは、複数個のデータセットを含む訓練データが用いた機械学習により設定される。データセットは、説明変数と目的変数と対応付けて構成される。本実施形態では、個々のデータセットは、高周波信号、もしくは、その特徴量(例えば、DFT)を説明変数とし、障害帯域を目的変数として含む。高周波信号として、例えば、妨害波もしくは干渉波の混入による障害発生時における信号が用いられる。目的変数として、妨害波もしくは干渉波の主成分をなす周波数帯域が障害帯域として用いられる。
【0075】
機械学習において、説明変数に対して数理モデルを用いて算出される推定値が対応する目的変数に近似するように数理モデルのパラメータが定められる。数理モデルとして、例えば、ニューラルネットワーク、ランダムフォーレストなどが用いられる。近似の度合いを示す損失関数として、例えば、二乗誤差、交差エントロピーなどが利用可能である。機械学習において、例えば、勾配法などの公知の最適解の探索法が適用される。制御部132は、障害発生時に取得した高周波信号と障害帯域を訓練データとして取得し、数理モデルの学習を実行してもよい。これにより、制御部132は、受信部14が受信した高周波信号に基づいて障害帯域を推定することができる。そして、制御部132は、推定した障害帯域を除外した処理可能な周波数帯域を通信可能帯域とみなし、上記の手法に基づいて、拡散系列の分割数および中間周波数のセットを定めてもよい。
従って、通信障害を予見し、受信レベル等を測定する機会を確保せずに、送信パラメータの設定に係る時間を短縮することで、より安定な通信を実現することができる。
【0076】
<最小構成>
次に、上記の実施形態の最小構成について説明する。図15は、本願の通信装置1の最小構成例を示す概略ブロック図である。図15に例示されるように、最小構成例に係る通信装置1は、一次変調方式を用いて送信信号を変調して一次変調信号を生成する一次変調部124と、拡散系列をそれぞれ異なる周波数帯域を有する複数の帯域成分系列に分割する符号分割部126と、複数の帯域成分系列のそれぞれを用いて前記一次変調信号を変調し、複数の拡散変調信号を生成する二次変調部128と、複数の拡散変調信号をそれぞれ異なる変換周波数に基づいて変換周波数成分に変換する周波数変換部130と、変換周波数成分を含む高周波信号を送信する高周波送信部134と、を備える。
この構成によれば、広い帯域に拡散された一次変調信号の周波数帯域が分割されるため、通信障害の原因となりうる妨害波や干渉波の影響をより容易に回避または低減することができる。また、個々の拡散変調信号には周波数帯域の分割前の一次変調信号の時間変化特性が含まれるので、一部が損傷しても誤り訂正による抗堪性を確保することができる。また、周波数帯域の拡散による処理利得が得られるため、送信電力を過大にせずに、通信を低被探知化することができる。周波数帯域の分割が拡散系列に対してなされるため、拡散符号長を維持しながら拡散系列を構成する個々の拡散符号の単位で設定することができる。多様な分割パターンによる、柔軟な周波数帯域の分割を実現でき、ひいては動的な周波数割り当てが容易になる。
【0077】
<他構成例>
次に、上記の実施形態の他構成例について説明する。
通信装置1に備わる符号分割部126は、拡散系列を周波数ごとの変換係数のセットに変換し、周波数帯域に含まれる周波数ごとの変換係数のセットを帯域成分系列に変換してもよい。
この構成により、周波数領域における変換係数のセットに対応する周波数帯域ごとに帯域成分系列が効率的に得られる。
【0078】
また、通信装置1は、受信した高周波信号に基づいて通信可能な周波数帯域である通信可能帯域を検出し、通信可能帯域に高周波信号の周波数帯域が含まれるように、変換周波数と前記帯域成分系列の数(即ち、分割数)を定める制御部132と、を備えてもよい。
この構成により、通信可能帯域に高周波信号の周波数帯域が含まれるように、周波数帯域の分割パターンが定まるので、通信不能とするリスクを低減または解消することができる。
【0079】
また、制御部132は、通信可能帯域の周波数分布に基づいて拡散変調信号に対応する帯域成分系列の帯域幅を定めてもよい。
この構成により、通信可能帯域の周波数分布に含まれるように帯域成分系列ごとに帯域幅が定まる。そのため、周波数帯域の分割パターンをより柔軟に定めることができる。
【0080】
また、制御部132は、高周波信号と通信障害が生じる周波数帯域である障害帯域との関連を示す数理モデルを用い、受信される高周波信号に基づいて障害帯域を定め、障害帯域を除外した周波数帯域を通信可能帯域として定めてもよい。
この構成により、通信障害が生じる可能性がある障害帯域を予測することができる。受信レベル等の測定する機会を確保せずに、送信パラメータの設定に係る時間を短縮することで、より安定な通信を実現することができる。
【0081】
制御部132は、変換周波数と帯域成分系列の数を、時間経過に応じて更新してもよい。
この構成により、送信信号の伝送に用いられる高周波信号の周波数帯域が変化するため、通信が探知される可能性が低減する。そのため、耐妨害性が向上する。
【0082】
制御部132は、通信可能帯域と送信信号の送信に用いられる所要帯域との差である余剰帯域幅に基づいて送信信号の送信データ量を定めてもよい。
この構成により、通信に用いられない周波数帯域の帯域幅である余剰帯域幅に応じて送信データ量が定まるため、有限な周波数帯域の有効活用が図られる。
【0083】
通信装置1は、送信信号を暗号化する暗号化部236を備えてもよい。
この構成によれば、一部の帯域成分系列に対応する拡散変調信号が傍受された場合でも、暗号化により秘匿性が確保される。また、復号に用いられる鍵情報が漏洩しても、他の帯域成分系列を取得しない限り暗号化された送信信号の完全性を実現できない。そのため、送信信号の秘匿性が強化される。
【0084】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0085】
CS1…通信システム、1…通信装置、12(12-1、12-2)、22…送信部、14(14-1、14-2)、24…受信部、16(16-1、16-2)…空中線部、122…送信バッファ、124…一次変調部、126…符号分割部、128…二次変調部、130…周波数変換部、132、152、232、252…制御部、134…高周波送信部、142…高周波受信部、144…周波数変換部、146…二次復調部、148…一次復調部、150…受信バッファ、236…暗号化部、256…復号部
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