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特開2024-113355患者突合方法、装置、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113355
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】患者突合方法、装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G16H 10/60 20180101AFI20240815BHJP
【FI】
G16H10/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018280
(22)【出願日】2023-02-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 刊行物名 第26回日本医療情報学会春季学術大会プログラム・抄録集 発行日 2022年6月30日 発行所 一般社団法人日本医療情報学会
(71)【出願人】
【識別番号】507126487
【氏名又は名称】公立大学法人奈良県立医科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】竹下 沙希
(72)【発明者】
【氏名】西岡 祐一
(72)【発明者】
【氏名】明神 大也
(72)【発明者】
【氏名】野田 龍也
(72)【発明者】
【氏名】今村 知明
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA01
(57)【要約】
【課題】国保データベース(KDB)等のレセプト情報データベースにおける名寄せの効率及び正確性を向上させる患者突合方法、装置、及びプログラムを提供する。
【解決手段】レセプト情報データベースから、個人ID、生年月、性別、傷病名コード、診療開始日を抽出し、名寄せ用中間データを生成する。データベース内のレセプトから、名寄せに用いない個人IDを除外する。名寄せ用中間テーブルを生成する。特定の条件を満たす個人IDを名寄せ候補IDとして抽出する。使用期間が包含関係にある名寄せ候補IDの組を除外する。傷病名コードと診療開始日と性別と生年月が一致する個人IDどうしで一方の最終受診年月が他方の最初の受診年月以下であるとき名寄せ候補IDの組を統合し名寄せを行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レセプト情報データベースの患者突合方法において、
1)前記データベースから、個人ID、年齢情報、性別、傷病名、診療開始日が抽出され、名寄せ用中間データが生成されるステップと、
2)前記データベースのレセプトの内、最初の月に発生したレセプトと最後の月に発生したレセプトが参照され、両レセプトに存在する個人IDを含むデータが名寄せ用中間データから除外されるステップと、
3)上記除外後の名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別及び年齢情報が全て一致するデータが統合され、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルが生成されるステップと、
4)データ統合されない傷病名と診療開始日の組み合わせを1セット有するレコードから構成される基本テーブルと、前記名寄せ用中間テーブルのそれぞれにおいて、年齢情報、性別、傷病名及び診療開始日の組み合わせが全て一致する個人IDが名寄せ候補IDとして抽出されるステップと、
5)前記名寄せ候補IDの組において、一の個人IDの使用期間と他の個人IDの使用期間とが包含関係にある場合には、前記名寄せ候補IDの組が除外されるステップと、
6)上記除外後の前記名寄せ候補IDの組において、何れか一方の前記名寄せ候補IDの最終受診年月が、他方の前記名寄せ候補IDの最初の受診年月以前である場合には、名寄せIDの組として統合されるステップ、を備えることを特徴とする患者突合方法。
【請求項2】
前記名寄せ用中間データが生成されるステップは、前記データベースから、更に、診療年月が抽出され、
前記名寄せ用中間テーブルが生成されるステップは、前記名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別、診療年月及び年齢情報が全て一致するデータが統合され、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルが生成されることを特徴とする請求項1に記載の患者突合方法。
【請求項3】
前記名寄せ用中間データが生成されるステップは、前記データベースから、更に、医療機関情報が抽出され、
前記名寄せ用中間テーブルが生成されるステップは、前記名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別、医療機関情報及び年齢情報が全て一致するデータが統合され、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルが生成されることを特徴とする請求項1に記載の患者突合方法。
【請求項4】
前記名寄せ用中間データが生成されるステップは、前記データベースから、更に、診療年月及び医療機関情報が抽出され、
前記名寄せ用中間テーブルが生成されるステップは、前記名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別、診療年月、医療機関情報及び年齢情報が全て一致するデータが統合され、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルが生成されることを特徴とする請求項1に記載の患者突合方法。
【請求項5】
前記名寄せ用中間データが生成されるステップは、前記データベースから、更に、1つ以上のユニークIDが抽出され、
前記名寄せ用中間テーブルが生成されるステップは、前記名寄せ用中間データにおいて、個人IDと前記ユニークIDの少なくとも何れかと、性別、及び年齢情報が全て一致するデータが統合され、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルが生成されることを特徴とする請求項1に記載の患者突合方法。
【請求項6】
前記ユニークIDの少なくとも何れかが一致するデータが、名寄せIDの組として統合されることを特徴とする請求項5に記載の患者突合方法。
【請求項7】
前記名寄せ候補IDを抽出するステップにおいて、複数の個人IDについて傷病名と対応する診療開始日の1つ以上の組み合わせが、他の性別又は年齢階級で発生していない場合にのみ、名寄せ候補IDの組とすることを特徴とする請求項1に記載の患者突合方法。
【請求項8】
前記データベースは、DPCレセプトと医科レセプトと調剤レセプトと歯科レセプトとの少なくとも何れかであることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の患者突合方法。
【請求項9】
前記年齢情報は、生年月に関する情報であることを特徴とする請求項1~7の何れかに記載の患者突合方法。
【請求項10】
プログラムを格納するメモリ部と、前記プログラムを実行する演算処理部とを備えるレセプト情報データベースの患者突合装置であって、
前記演算処理部が前記プログラムを実行することにより、下記1)~6)を実現する患者突合装置:
1)前記データベースから、個人ID、年齢情報、性別、傷病名、診療開始日を抽出し、名寄せ用中間データを生成する中間データ生成部と、
2)前記データベースのレセプトの内、最初の月に発生したレセプトと最後の月に発生したレセプトを参照し、両レセプトに存在する個人IDを含むデータを名寄せ用中間データから除外する第1の除外部と、
3)上記除外後の名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別及び年齢情報が全て一致するデータを統合し、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルを生成する中間テーブル生成部と、
4)データ統合されない傷病名と診療開始日の組み合わせを1セット有するレコードから構成される基本テーブルと、前記名寄せ用中間テーブルのそれぞれにおいて、年齢情報、性別、傷病名及び診療開始日の組み合わせが全て一致する個人IDを名寄せ候補IDとして抽出する候補ID抽出部と、
5)前記名寄せ候補IDの組において、一の個人IDの使用期間と他の個人IDの使用期間とが包含関係にある場合には、前記名寄せ候補IDの組を除外する第2の除外部と、
6)上記除外後の前記名寄せ候補IDの組において、何れか一方の前記名寄せ候補IDの最終受診年月が、他方の前記名寄せ候補IDの最初の受診年月以前である場合には、名寄せIDの組として統合する名寄せデータ生成部。
【請求項11】
前記中間データ生成部は、前記データベースから、更に、診療年月を抽出し、
前記中間テーブル生成部は、前記名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別、診療年月及び年齢情報が全て一致するデータを統合し、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルを生成し、
前記データベースは、DPCレセプトと医科レセプトと調剤レセプトと歯科レセプトとの少なくとも何れかであり、
前記年齢情報は、生年月に関する情報である、
ことを特徴とする請求項10に記載の患者突合装置。
【請求項12】
前記中間データ生成部は、前記データベースから、更に、1つ以上のユニークIDを抽出し、
前記中間テーブル生成部は、前記名寄せ用中間データにおいて、個人IDと前記ユニークIDの少なくとも何れか1つと、性別及び年齢情報が全て一致するデータを統合し、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルを生成することを特徴とする請求項10に記載の患者突合装置。
【請求項13】
前記ユニークIDの少なくとも何れか1つが一致するデータを、名寄せIDの組として統合することを特徴とする請求項12に記載の患者突合装置。
【請求項14】
レセプト情報データベースの患者突合プログラムにおいて、
コンピュータに、以下の1)~6)を実行させるための患者突合プログラム:
1)前記データベースから、個人ID、年齢情報、性別、傷病名、診療開始日を抽出し、名寄せ用中間データを生成する中間データ生成ステップと、
2)前記データベースのレセプトの内、最初の月に発生したレセプトと最後の月に発生したレセプトを参照し、両レセプトに存在する個人IDを含むデータを名寄せ用中間データから除外するステップと、
3)上記除外後の名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別及び年齢情報が全て一致するデータを統合し、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルを生成する中間テーブル生成ステップと、
4)データ統合されない傷病名と診療開始日の組み合わせを1セット有するレコードから構成される基本テーブルと、前記名寄せ用中間テーブルのそれぞれにおいて、年齢情報、性別、傷病名及び診療開始日の組み合わせが全て一致する個人IDを名寄せ候補IDとして抽出するステップと、
5)前記名寄せ候補IDの組において、一の個人IDの使用期間と他の個人IDの使用期間とが包含関係にある場合には、前記名寄せ候補IDの組を除外するステップと、
6)上記除外後の前記名寄せ候補IDの組において、何れか一方の前記名寄せ候補IDの最終受診年月が、他方の前記名寄せ候補IDの最初の受診年月以前である場合には、名寄せIDの組として統合するステップ。
【請求項15】
レセプト情報データベースの患者突合プログラムにおいて、
コンピュータに、以下の1)~6)を実行させるための患者突合プログラム:
1)前記データベースから、個人ID、年齢情報、性別、傷病名、診療開始日を抽出し、名寄せ用中間データを生成する中間データ生成ステップと、
2)前記データベースのレセプトの内、最初の月に発生したレセプトと最後の月に発生したレセプトを参照し、両レセプトに存在する個人IDを含むデータを名寄せ用中間データから除外し、かつ、使用しない傷病名と診療開始日の組み合わせを抽出するステップと、
3)上記除外後の名寄せ用中間データにおいて、傷病名と診療開始日の組み合わせを1セット有する基本テーブル、及び、傷病名と診療開始日の組み合わせをN-1セット(N≧2)有する中間テーブルを用い、両テーブルで個人ID、性別及び年齢情報が全て一致した場合に、当該個人IDについて傷病名と診療開始日を追加して、傷病名と診療開始日の組み合わせがNセット有する中間テーブルNを生成する中間テーブル生成ステップと、
4)N≧2について、傷病名と診療開始日のNセットの組み合わせを有する年齢情報と性別とが一致し、かつ該当する個人IDが複数あった場合には、上記3)で生成された前記中間テーブルNについて、年齢情報、性別、傷病名及び診療開始日の組み合わせが全て一致する個人IDを名寄せ候補IDとして抽出し、N=2,3・・・について名寄せ候補IDが出力されなくなるまで、上記3)と4)を繰り返すステップと、
5)前記名寄せ候補IDの組において、一の個人IDの使用期間と他の個人IDの使用期間とが包含関係にある場合には、前記名寄せ候補IDの組を除外するステップと、
6)上記除外後の前記名寄せ候補IDの組において、何れか一方の前記名寄せ候補IDの最終受診年月が、他方の前記名寄せ候補IDの最初の受診年月以前である場合には、名寄せIDの組として統合するステップ。
【請求項16】
前記中間データ生成ステップは、前記データベースから、更に、診療年月を抽出し、
前記中間テーブル生成ステップは、前記名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別、診療年月及び年齢情報が全て一致するデータを統合し、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルを生成し、
前記データベースは、DPCレセプトと医科レセプトと調剤レセプトと歯科レセプトとの少なくとも何れかであり、
前記年齢情報は、生年月に関する情報である、
ことを特徴とする請求項14又は15に記載の患者突合プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、国保データベース(KDB)等の匿名化レセプトデータを突合して患者の名寄せを行う技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
日本における医療レセプトは月単位・医療機関単位・レセプト種別単位・患者単位に発行される一方、医療におけるマイナンバーが確立していないことから、レセプトにおける「名寄せ」が重要である。名寄せにおいては保険者番号・被保険者証の記号番号、氏名、性別、生年月日などから生成された個人IDが用いられることが多い。
【0003】
しかし、現在、提供されている個人IDの生成に用いる被保険者番号、氏名、生年月などのデータでは、名寄せに不十分である。ここで、名寄せとは、データベースにある重複したデータを一つにまとめることであり、具体的には、被保険者番号、氏名、生年月などから、同一と判断した個人を一つに統合し、データを管理しやすくすることをいう。被保険者番号、氏名、生年月の中では、被保険者番号が最も正確であるが、被保険者番号は一年で総人口の約一割で変化し、これらはそれぞれハッシュ化すると別の個人IDとなってしまう。このように、被保険者番号などの情報が変更になると当然ハッシュ化後のIDも変化するため、名寄せが必要となってくる。本明細書における名寄せとは、同一人物であるかどうかを判別して、同一人物には共通の個人IDを、別人には別の個人IDを付与することである(非特許文献1参照)。
【0004】
KDBにおける個人IDは、被保険者番号由来のものであり、氏名の情報は削除されている。しかし、個人IDは、75歳の誕生日に国保から後期高齢者医療制度に移行する際に全員変化してしまうため、必ず名寄せが必要となる。
本発明者らは、奈良県国保団体連合会が有する保険者台帳をもとに作成した個人ID(以下、「台帳ID」ともいう)で、名寄せを行うロジック(非特許文献2,3を参照)を別途提案しているが、KDBのすべての利用者がそれぞれ台帳IDを実装するのは時間の面や費用の面から現実的ではないと考えられる。
【0005】
また、医療介護総合確保推進法(地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律)の改正で、個人統一IDができる可能性はあるが、実際には確立するまで相当の時間を要することが予測される。さらに、個人統一IDが確立・付与されたとしても、過去のレセプトについて名寄せの問題は残存する。そこで、現手法の補完手段として、今あるレセプト情報の中で個人の診療継続を前提にした名寄せ手法が模索されている。
【0006】
本発明者らは、既に、保険者番号に基づく第1のハッシュ値と氏名に基づく第2のハッシュ値を有するレセプト情報データベースにおけるデータを突合して患者の名寄せを行う患者突合方法を既に提案している(特許文献1を参照)。特許文献1の患者突合方法によれば、KDB等のレセプト情報データベースにおいて、名寄せの効率及び正確性を向上させることができる。しかしながら、名寄せの効率及び正確性をより向上させるニーズは依然として存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-185403号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】谷口学,“JSTの人名名寄せとJDreamIIでの活用方法”, 薬学図書館. 56(4), pp.292-262, 2011.
【非特許文献2】今村知明, 他, “奈良県のKDB7年間データを用いた時系列分析と医療内容の変化”, 第80回日本公衆衛生学会総会.
【非特許文献3】竹下沙希, 他, “レセプト情報における病名・病名開始日を用いた名寄せロジック”, 医療情報学連合大会論文集, pp.494-497, 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
かかる状況に鑑みて、本発明は、KDB等のレセプト情報データベースにおける名寄せの効率及び正確性を向上させる患者突合方法、装置、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決すべく、本発明の患者突合方法は、レセプト情報データベースの患者突合方法において、下記各ステップを備える。
1)データベースから、個人ID、年齢情報、性別、傷病名、診療開始日が抽出され、名寄せ用中間データ(以下、「中間データ」ともいう。)が生成されるステップ。
2)データベースのレセプトの内、最初の月に発生したレセプトと最後の月に発生したレセプトが参照され、両レセプトに存在する個人IDを含むデータが名寄せ用中間データから除外されるステップ。
3)上記除外後の名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別及び年齢情報が全て一致するデータが統合され、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルが生成されるステップ。
4)データ統合されない傷病名と診療開始日の組み合わせを1セット有するレコードから構成される基本テーブルと、名寄せ用中間テーブルのそれぞれにおいて、年齢情報、性別、傷病名及び診療開始日の組み合わせが全て一致する個人IDが名寄せ候補IDとして抽出されるステップ。
5)名寄せ候補IDの組において、一の個人IDの使用期間と他の個人IDの使用期間とが包含関係にある場合には、名寄せ候補IDの組が除外されるステップ。
6)上記除外後の名寄せ候補IDの組において、何れか一方の名寄せ候補IDの最終受診年月が、他方の名寄せ候補IDの最初の受診年月以前である場合には、名寄せIDの組として統合されるステップ。
【0011】
かかる各ステップを備えることにより、効果的に名寄せを行うことができる。レセプト情報データベースは、保険者番号に基づくハッシュ値等少なくとも1つの個人検索キーを有するものである。
上記1)のステップにおいて、個人IDとは、各々の患者個人の検索キーのことである。例えば、被保険者番号、被保険者番号を正規化したもの、一番古い被保険者番号や、漢字表記の氏名、ひらがな表記の氏名などであり、1つ又は複数を用いてハッシュ化されたものを個人IDとしてもよい。或いは、個人IDは、データベースシステムに固有IDや、データベースに最初に登録される際の暫定的なIDや、各保険者が持っている固有IDなどがハッシュ化されたものを用いてもよい。なお、個人IDに被保険者番号と漢字表記の氏名など複数の情報がそれぞれハッシュ化されたものが含まれる場合、上記2)~5)のステップにおいて、個人IDの同一性の有無については、全ての情報の一致がある場合のみ同一の個人IDとしてもよいし、一部の情報に矛盾があったとしても、複数の情報の内、少なくとも何れかの情報が一致していれば、同一の個人IDとして扱うことでもよい。
傷病名とは、傷病名称だけでなく、傷病名コードなど、傷病名を特定する情報が幅広く含まれる趣旨である。
上記2)のステップにおいて、データベースに収録されたレセプト全体における最初の月に発生したレセプトと最後の月に発生したレセプトの両方に存在する個人IDを含むデータは、データベースのレセプト収録期間で個人IDの変化がなかった被保険者と判断され、名寄せ対象から除外される(以下、名寄せ除外対象ID)。ただし、最初の月または最後の月に75歳を迎えた被保険者は国保から後期高齢者医療制度に原則移動するため名寄せ対象とする。
なお、名寄せ除外対象IDに発生した傷病名と診療開始日の組み合わせは、上記3)以降のステップにおいて名寄せに使用しない。これは、たとえば冬のインフルエンザ感染症など多くの人が、同時期に罹患・受診する傷病によって他人と誤って名寄せされる可能性を減らすためである。
【0012】
上記3)のステップにおいて、データ統合の処理回数は、特に限定されず、一度の処理で行われることでもよいし、複数回に分けて処理されることでもよい。例えば、まず1回目の処理で傷病名と診療開始日の組み合わせを2セット有するレコードで構成されるテーブルが生成され、次に、2回目の処理で傷病名と診療開始日の組み合わせを3セット有するレコードで構成されるテーブルが生成され、より多くの傷病名と診療開始日の組み合わせのセットを有するレコードで構成されるテーブルが生成されなくなるまで、同様の処理が繰り返されることで、名寄せ用中間テーブルが生成されることでもよい。また、データ統合処理順についても、特に限定されるものではない。
上記4)のステップにおいて、基本テーブルとは、上記1)のステップにより生成された名寄せ用中間データから、上記2)のステップによる除外や、上記3)のステップによるデータの統合が行われないデータのことである。
上記5)のステップにおいて、使用期間とは、当該被保険者のレセプト発生期間を指す。レセプト発生期間は、レセプト情報データベースを参照して取得する。
上記6)のステップにおいて、最終受診年月や最初の受診年月に関する情報は、レセプト情報データベースを参照して取得する。
【0013】
本発明の患者突合方法において、名寄せ用中間データが生成されるステップは、データベースから、更に、診療年月が抽出され、名寄せ用中間テーブルが生成されるステップは、名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別、診療年月及び年齢情報が全て一致するデータが統合され、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルが生成されることが好ましい。診療年月が抽出されることにより、上記2),5),6)のステップにおいて、診療年月からレセプト発生月が特定でき、より迅速かつ高精度での名寄せが実現する。
【0014】
本発明の患者突合方法において、名寄せ用中間データが生成されるステップは、データベースから、更に、医療機関情報が抽出され、名寄せ用中間テーブルが生成されるステップは、名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別、医療機関情報及び年齢情報が全て一致するデータが統合され、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルが生成されることでもよい。
データベースから医療機関情報が抽出され、名寄せ用中間テーブルの生成に用いられることにより、より精度の高い名寄せが可能となる。例えば、個人IDに被保険者番号と漢字表記の氏名などがハッシュ化された複数の情報が含まれる場合において、個人IDの同一性の有無につき、全ての情報の一致ではなく、少なくとも何れかの情報が一致していれば同一の個人IDとして扱うとした場合でも、医療機関情報を用いることにより、名寄せの正確性を担保できる。ここで、医療機関情報には、当該医療機関の名称や、医療機関を識別するコード、所在地など、医療機関を特定するために使用される情報が幅広く含まれる。
【0015】
また、本発明の患者突合方法において、名寄せ用中間データが生成されるステップは、データベースから、更に、診療年月及び医療機関情報が抽出され、名寄せ用中間テーブルが生成されるステップは、名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別、診療年月、医療機関情報及び年齢情報が全て一致するデータが統合され、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルが生成されることでもよい。
データベースから診療年月と医療機関情報が抽出され、名寄せ用中間テーブルの生成に用いられることにより、より迅速かつ精度の高い名寄せが可能となる。
【0016】
本発明の患者突合方法において、名寄せ用中間データが生成されるステップは、データベースから、更に、1つ以上のユニークIDが抽出され、名寄せ用中間テーブルが生成されるステップは、名寄せ用中間データにおいて、個人IDとユニークIDの少なくとも何れか1つと、性別、及び年齢情報が全て一致するデータが統合され、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルが生成されることでもよい。
また、かかる場合、本発明の患者突合方法は、ユニークIDの少なくとも何れか1つが一致するデータが、名寄せIDの組として統合されることでもよい。
ここでのユニークIDとは、患者個人を特定できる情報がハッシュ化された情報の内、本明細書における個人ID以外のものが広く含まれる趣旨であり、例えば、被保険者番号、被保険者番号を正規化したもの、一番古い被保険者番号や、漢字表記の氏名、ひらがな表記の氏名、データベースシステムに固有ID、データベースに最初に登録される際の暫定的なID、又は各保険者が持っている固有IDなどに基づきハッシュ化された個人IDの少なくとも何れかを用いて、KDB等の匿名化レセプトデータを突合して得られたユニークなハッシュ値のことである。また、特許文献1に開示された患者突合方法を用いて得られたユニークなハッシュ値を、ここでのユニークIDとして利用することも可能である。
【0017】
本発明の患者突合方法は、名寄せ候補IDを抽出するステップにおいて、複数の個人IDについて傷病名と対応する診療開始日の1つ以上の組み合わせが、他の性別又は年齢階級で発生していない場合にのみ、名寄せ候補IDの組とすることでもよい。
他の性別又は年齢階級での発生の有無を考慮して、名寄せ候補IDを抽出することにより、より精度の高い名寄せが実現する。
【0018】
本発明の患者突合方法において、データベースは、DPCレセプトと医科レセプトと調剤レセプトと歯科レセプトとの少なくとも何れかであることが好ましい。
【0019】
本発明の患者突合方法において、年齢情報は、生年月に関する情報であることが好ましい。すなわち、年齢情報としては、生年、生年月、生年月日、満年齢、年代などが含まれるが、生年月に関する情報が各データベースから抽出しやすく、名寄せに用いるために好適であるからである。なお、ここで年代とは、10歳毎に区切られた年齢区分などのことであり、例えば、満10歳から満19歳を10代、満20歳から満29歳を20代としたものである。
【0020】
本発明の患者突合装置は、プログラムを格納するメモリ部と、プログラムを実行する演算処理部とを備えるレセプト情報データベースの患者突合装置であって、演算処理部がプログラムを実行することにより、下記1)~6)を実現する。
1)データベースから、個人ID、年齢情報、性別、傷病名、診療開始日を抽出し、名寄せ用中間データを生成する中間データ生成部。
2)データベースのレセプトの内、最初の月に発生したレセプトと最後の月に発生したレセプトを参照し、両レセプトに存在する個人IDを含むデータを名寄せ用中間データから除外する第1の除外部。
3)上記除外後の名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別及び年齢情報が全て一致するデータを統合し、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルを生成する中間テーブル生成部。
4)データ統合されない傷病名と診療開始日の組み合わせを1セット有するレコードから構成される基本テーブルと、名寄せ用中間テーブルのそれぞれにおいて、年齢情報、性別、傷病名及び診療開始日の組み合わせが全て一致する個人IDを名寄せ候補IDとして抽出する候補ID抽出部。
5)名寄せ候補IDの組において、一の個人IDの使用期間と他の個人IDの使用期間とが包含関係にある場合には、名寄せ候補IDの組を除外する第2の除外部。
6)上記除外後の名寄せ候補IDの組において、何れか一方の名寄せ候補IDの最終受診年月が、他方の名寄せ候補IDの最初の受診年月以前である場合には、名寄せIDの組として統合する名寄せデータ生成部。
【0021】
本発明の患者突合装置において、中間データ生成部は、データベースから、更に、診療年月を抽出し、中間テーブル生成部は、名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別、診療年月及び年齢情報が全て一致するデータを統合し、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルを生成し、データベースは、DPCレセプトと医科レセプトと調剤レセプトと歯科レセプトとの少なくとも何れかであり、年齢情報は、生年月に関する情報であることが好ましい。
【0022】
本発明の患者突合装置において、中間データ生成部は、データベースから、更に、1つ以上のユニークIDを抽出し、中間テーブル生成部は、名寄せ用中間データにおいて、個人IDとユニークIDの少なくとも何れか1つと、性別及び年齢情報が全て一致するデータを統合し、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルを生成することでもよい。
また、かかる場合、本発明の患者突合装置は、ユニークIDの少なくとも何れか1つが一致するデータを、名寄せIDの組として統合することでもよい。
【0023】
本発明の第1の観点の患者突合プログラムは、レセプト情報データベースの患者突合プログラムにおいて、コンピュータに、下記各ステップを実行させるものである。
1)データベースから、個人ID、年齢情報、性別、傷病名、診療開始日を抽出し、名寄せ用中間データを生成する中間データ生成ステップ。
2)データベースのレセプトの内、最初の月に発生したレセプトと最後の月に発生したレセプトを参照し、両レセプトに存在する個人IDを含むデータを名寄せ用中間データから除外するステップ。
3)上記除外後の名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別及び年齢情報が全て一致するデータを統合し、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルを生成する中間テーブル生成ステップ。
4)データ統合されない傷病名と診療開始日の組み合わせを1セット有するレコードから構成される基本テーブルと、名寄せ用中間テーブルのそれぞれにおいて、年齢情報、性別、傷病名及び診療開始日の組み合わせが全て一致する個人IDを名寄せ候補IDとして抽出するステップ。
5)名寄せ候補IDの組において、一の個人IDの使用期間と他の個人IDの使用期間とが包含関係にある場合には、名寄せ候補IDの組を除外するステップ。
6)上記除外後の名寄せ候補IDの組において、何れか一方の名寄せ候補IDの最終受診年月が、他方の名寄せ候補IDの最初の受診年月以前である場合には、名寄せIDの組として統合するステップ。
【0024】
本発明の第2の観点の患者突合プログラムは、レセプト情報データベースの患者突合プログラムにおいて、コンピュータに、下記各ステップを実行させるものである。
1)データベースから、個人ID、年齢情報、性別、傷病名、診療開始日を抽出し、名寄せ用中間データを生成する中間データ生成ステップ。
2)データベースのレセプトの内、最初の月に発生したレセプトと最後の月に発生したレセプトを参照し、両レセプトに存在する個人IDを含むデータを名寄せ用中間データから除外し、かつ、使用しない傷病名と診療開始日の組み合わせを抽出するステップ。
3)上記除外後の名寄せ用中間データにおいて、傷病名と診療開始日の組み合わせを1セット有する基本テーブル、及び、傷病名と診療開始日の組み合わせをN-1セット(N≧2)有する中間テーブルを用い、両テーブルで個人ID、性別及び年齢情報が全て一致した場合に、当該個人IDについて傷病名と診療開始日を追加して、傷病名と診療開始日の組み合わせがNセット有する中間テーブルNを生成する中間テーブル生成ステップ。
4)N≧2について、傷病名と診療開始日のNセットの組み合わせを有する年齢情報と性別とが一致し、かつ該当する個人IDが複数あった場合には、上記3)で生成された中間テーブルNについて、年齢情報、性別、傷病名及び診療開始日の組み合わせが全て一致する個人IDを名寄せ候補IDとして抽出し、N=2,3・・・について名寄せ候補IDが出力されなくなるまで、上記3)と4)を繰り返すステップ。
5)名寄せ候補IDの組において、一の個人IDの使用期間と他の個人IDの使用期間とが包含関係にある場合には、名寄せ候補IDの組を除外するステップ。
6)上記除外後の名寄せ候補IDの組において、何れか一方の名寄せ候補IDの最終受診年月が、他方の名寄せ候補IDの最初の受診年月以前である場合には、名寄せIDの組として統合するステップ。
【0025】
本発明の第1又は第2の観点の患者突合プログラムにおいて、中間データ生成ステップは、データベースから、更に、診療年月を抽出し、中間テーブル生成ステップは、名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別、診療年月及び年齢情報が全て一致するデータを統合し、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルを生成し、データベースは、DPCレセプトと医科レセプトと調剤レセプトと歯科レセプトとの少なくとも何れかであり、年齢情報は、生年月に関する情報である、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の患者突合装置及び患者突合方法によれば、KDB等のレセプト情報データベースにおける名寄せの効率及び正確性が向上するといった効果がある。KDB等のレセプト情報データベースにおける名寄せの質を向上させることで個人の長期追跡性がさらに向上すると期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】実施例1の患者突合方法のフロー
図2】使用期間が包含関係にある名寄せ候補IDの組の例
図3】実施例1の患者突合装置の機能ブロック図
図4】実施例2の患者突合方法のフロー
図5】実施例3の患者突合方法のフロー
図6】実施例4の患者突合方法のフロー
図7】実施例5の患者突合方法のフロー
図8】実施例6の患者突合方法のフロー
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例0029】
本発明の一実施形態である患者突合方法について説明する。本実施例では、利用するデータベースとして、奈良県KDBの2013年4月~2020年3月の計7年間分の医科レセプト、DPCレセプトのレセプト情報データベースを対象としている。
DPCとは、2003年に導入された診断群分類に基づく入院医療費の1日あたり包括支払い制度であり、DPC対象の入院で発生するレセプトの内、包括支払いに関連するレセプトがDPCレセプトとなる。したがって、包括支払いに関連のない入院レセプトは医科入院レセプトとなる。本実施例では、これらのレセプト情報データを使用して、個人ID、診療年月、生年月、性別、傷病名コード、診療開始日を抽出し、名寄せに用いた患者突合方法について説明する。
【0030】
図1は実施例1の患者突合方法のフローを示している。まず、データベースから、個人ID、診療年月(レセプト年月)、生年月、性別、傷病名コード、診療開始日が抽出され、名寄せ用中間データが生成される(ステップS01:中間データ生成ステップ)。個人IDは、KDBに付与されている被保険者番号から生成されたIDである。本実施例では説明の便宜上、1種類の情報のみから生成されたものを個人IDとしてアルファベットで示し、当該情報が一致するものを同一の個人IDとしているが、複数の情報から生成され、その結果複数の情報が含まれるものを個人IDとし、当該複数の情報が全て一致するもの、又は、少なくとも何れかの情報が一致するものを同一の個人IDとしてもよい。年齢情報としては本実施例では、生年月がデータベースから抽出される。傷病名は、具体的な傷病の名称ではなく、傷病名コードの形式で抽出される。
【0031】
下記表1は、名寄せ用中間データの例を表している。下記表1に表されるように、名寄せ用中間データには、個人ID、台帳ID、診療年月、生年月、性別、傷病名コード、診療開始日が抽出されている。なお、台帳IDは、台帳情報により被保険者の移動を紐づけたIDであり、実施例1の患者突合方法を用いた名寄せには必要ではないが、名寄せ後の検証に用いるために抽出した。
例えば、個人IDが「V」のレコードについては、台帳IDは「A」、診療年月は「201308」、生年月は「198403」、性別は「M」、傷病名コードは「1234567」、診療開始日は「20130630」となっている。ここで、個人IDは、説明の便宜上、「V」などアルファベット1文字で表記されているが、実際には、被保険者番号がハッシュ化されたものが抽出される。診療年月について、「201308」とは、レセプト発生月が「2013年8月」であることを表している。同様に、生年月について、「198403」とは、生年月が「1984年3月」であることを表し、診療開始日について、「20130630」とは、診療開始日が「2013年6月30日」であることを表している。なお、性別について、「M」は男性、「F」は女性を表す。
【0032】
【表1】
【0033】
次に、データベースのレセプトの内、最初の月に発生したレセプトと最後の月に発生したレセプトが参照され、両レセプトに存在する個人IDを含むデータが名寄せ用中間データから除外される(ステップS02:第1の除外ステップ)。本実施例では、2013年4月のレセプトと2020年3月のレセプトの両方に存在する個人IDを含むデータが除外される。これは、2013年4月のレセプトと2020年3月のレセプトの両方に存在する個人IDについては、被保険者番号の変更がないものと考えられるからである。
【0034】
上記除外後の名寄せ用中間データにおいて、個人ID、診療年月、性別及び生年月が全て一致するデータが統合され、傷病名コードと診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルが生成される(ステップS03:中間テーブル生成ステップ)。
下記表2,3は傷病名コードと診療開始日の組み合わせが2組記載された中間テーブルの作成過程を示している。具体的には、下記表2は、名寄せ用中間データの例、また、下記表3は、傷病名コードと診療開始日の組み合わせが2組記載された中間テーブルの例を表している。
下記表2に示すように、個人IDが「V」の1行目のレコードでは、診療年月は「201308」、生年月は「198403」、性別は「M」、傷病名コードは「1234567」、診療開始日は「20130630」となっている。また、個人IDが「V」の4行目のレコードでは、診療年月は「201308」、生年月は「198403」、性別は「M」、傷病名コードは「5678901」、診療開始日は「20130115」となっている。
一方、個人IDが「W」の2行目のレコードでは、診療年月は「201505」、生年月は「193006」、性別は「F」、傷病名コードは「2345678」、診療開始日は「20141208」となっている。また、個人IDが「W」の5行目のレコードでは、診療年月は「201505」、生年月は「193006」、性別は「F」、傷病名コードは「6789012」、診療開始日は「20130808」となっている。
したがって、個人IDが「V」の2つのレコードと、個人IDが「W」の2つのレコードは、何れも個人ID、診療年月、性別及び生年月が全て一致するデータであるため統合され、下記表3に示すように、傷病名コードと診療開始日の組み合わせを2セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルが生成される。
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
次に、データ統合されない傷病名コードと診療開始日の組み合わせを1セット有するレコードから構成される基本テーブルと、名寄せ用中間テーブルのそれぞれにおいて、生年月、性別、傷病名コード及び診療開始日の組み合わせが全て一致する個人IDが名寄せ候補IDとして抽出される(ステップS04:候補ID抽出ステップ)。
【0038】
下記表4は傷病名コードと診療開始日の組み合わせが3セットの名寄せ候補IDの例を示している。表4では傷病名コード「1234567」の診療開始日が2013年5月7日かつ傷病名コード「2345678」の診療開始日が2016年10月1日かつ傷病名コード「3456789」の診療開始日が2016年12月22日という組み合わせが生年月1980年5月の性別「F」以外の階級では発生せず、かつこの階級では該当する個人IDが「A」と「B」の2つある。このとき「A」と「B」は名寄せ候補IDの組となる。「D」と「E」についても傷病名コードと対応する診療開始日の3つの組み合わせが他の性別・年齢階級で発生していないのであれば名寄せ候補IDの組となる。なお、階級とは、データを区分けするためのグループのことである。
【0039】
【表4】
【0040】
名寄せ候補IDの組において、一の個人IDの使用期間と他の個人IDの使用期間とが包含関係にある場合には、名寄せ候補IDの組が除外される(ステップS05:第2の除外ステップ)。ここで、使用期間とは、当該被保険者のレセプト発生期間のことである。
図2は、使用期間が包含関係の例を示している。図2に示すように、名寄せ候補IDの組(個人ID-A,個人ID-B)について、一方のレセプト発生年月の最小値が他方の最小値以下で、かつ、一方のレセプト発生年月の最大値が他方の最大値以上である場合には、その名寄せ候補IDの組を除外する。
例えば、名寄せ候補IDの組の使用期間について、個人ID-Aが2013年5月~2020年6月、個人ID-Bが2014年6月~2019年3月の場合、個人ID-Aの使用開始月が個人ID-Bの使用開始月以前であり、かつ、個人ID-Aの使用最終月が個人ID-Bの使用最終月以降であるため包含関係とする。包含関係にある場合、レセプト発生期間が被っているため同一人の個人IDとは考え難く、名寄せの精度向上のため除外する。
【0041】
上記除外後の名寄せ候補IDの組において、何れか一方の名寄せ候補IDの最終受診年月が、他方の名寄せ候補IDの最初の受診年月以前である場合には、名寄せIDの組として統合される(ステップS06:名寄せデータ生成ステップ)。
【0042】
下記表5は実施例1における名寄せの結果を示している。台帳IDは奈良県国保団体連合会が有する保険者台帳をもとに作成した個人ID、名寄せIDは本発明による名寄せによって生成した個人IDである。
下記表5に示すように、計9,796,570,300件の内、台帳IDで紐づく件数が、69,988件であるのに対して、名寄せIDで紐づく件数は、63,099件であり、実施例1の患者突合方法による名寄せが、台帳IDを用いた名寄せと略同等の性能を有することがわかる。そればかりか、台帳IDを用いた名寄せでは紐づけできなかったが、本実施例の患者突合方法による名寄せを行うことで紐づけが可能となった件数が、456件存在することも分かった。
【0043】
【表5】
【0044】
下記表6は、実施例1の患者突合方法を用いた名寄せ結果についての各指標を示している。なお、陽性的中度(PPV:Positive Predictive Value)とは、陽性と判断された場合に、真の陽性である確率のことであり、陰性的中度(NPV:Negative Predictive Value)とは、陰性と判断された場合に、真の陰性である確率のことである。
下記表6に示すように、感度は0.895、特異度は1.000、陽性的中度は0.993、陰性的中度は1.000であり、何れも高い値が得られた。
【0045】
【表6】
【0046】
下記表7は実施例1の患者突合方法を用いた名寄せにおける合計処理時間の測定結果を示している。HP Zbook 17 G6 Mobile Workstation (プロセッサ: Intel(登録商標)CoreTMi9-9880H
CPU@2.30、実装RAM: 64.0GB、ディスク
SSD: 2TB×2、GPU: NVIDIA Quadro
RTX 5000)を用いた処理について合計時間を測定した。表7に示すように、処理項目毎の処理時間について、名寄せ用中間データの生成処理は16分23秒、第1の除外処理は9分36秒、名寄せ用中間テーブルの生成処理は3分50秒、名寄せ候補IDの抽出処理は4分39秒、第2の除外処理は4分38秒、名寄せデータ生成処理は19分17秒であり、また合計処理時間は58分23秒であった。以上から、合計約1時間で名寄せに関する全ての処理を行えることが分かった。
【0047】
【表7】
【0048】
次に、本実施例の患者突合装置について説明する。図3は、本実施例の患者突合装置の機能ブロック図を示している。図3に示すように、患者突合装置1は、プログラムを格納するメモリ部2と、プログラムを実行する演算処理部3とを備えるレセプト情報データベースの患者突合装置であって、演算処理部3がプログラム4を実行することにより、中間データ生成部5、第1の除外部6、中間テーブル生成部7、候補ID抽出部8、第2の除外部9及び名寄せデータ生成部10を実現する。
中間データ生成部5は、データベースから、個人ID、生年月、性別、傷病名コード、診療開始日を抽出し、名寄せ用中間データを生成するものである。第1の除外部6は、データベースのレセプトの内、最初の月に発生したレセプトと最後の月に発生したレセプトを参照し、両レセプトに存在する個人IDを含むデータを名寄せ用中間データから除外するものである。
【0049】
中間テーブル生成部7は、上記除外後の名寄せ用中間データにおいて、個人ID、性別及び生年月が全て一致するデータを統合し、傷病名コードと診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルを生成するものである。
候補ID抽出部8は、データ統合されない傷病名コードと診療開始日の組み合わせを1セット有するレコードから構成される基本テーブルと、名寄せ用中間テーブルのそれぞれにおいて、生年月、性別、傷病名コード及び診療開始日の組み合わせが全て一致する個人IDを名寄せ候補IDとして抽出するものである。
第2の除外部9は、名寄せ候補IDの組において、一の個人IDの使用期間と他の個人IDの使用期間とが包含関係にある場合には、名寄せ候補IDの組を除外するものである。
名寄せデータ生成部10は、上記除外後の名寄せ候補IDの組において、何れか一方の名寄せ候補IDの最終受診年月が、他方の名寄せ候補IDの最初の受診年月以前である場合には、名寄せIDの組として統合するものである。
【実施例0050】
本発明の患者突合方法のフローについて、図4を参照して説明する。本実施例の患者突合方法のフローは、実施例1のフローにおいて、中間テーブルの生成(S03)及び名寄せ候補IDの抽出(S04)の部分の処理の具体例を示しており、他の処理(S01,S02,S05,S06)は実施例1と同じである。
まず、Nに2を入れ、個人ID、診療年月、性別及び生年月が全て一致する中間データを統合し、2セットの傷病名と診療開始日との組み合わせを有するレコードの中間テーブル(N=2)を生成する。その後、傷病名と診療開始日の組み合わせを1セット有するレコードの基本テーブルと、中間テーブル(N=2)のそれぞれにおいて、生年月、性別、傷病名及び診療開始日の組み合わせが全て一致する個人IDを、名寄せ候補IDとして抽出する。名寄せ候補IDが抽出できる場合には、Nを1だけ増やして、個人ID、診療年月、性別及び生年月が全て一致する中間データを統合し、3セットの傷病名と診療開始日との組み合わせを有するレコードの中間テーブル(N=3)を生成した後、傷病名と診療開始日の組み合わせを1セット有するレコードの基本テーブルと、中間テーブル(N=2)のそれぞれにおいて、生年月、性別、傷病名及び診療開始日の組み合わせが全て一致する個人IDを、名寄せ候補IDとして抽出する。これらを繰り返し、名寄せ候補IDが抽出できなくなるまで行い、その後の処理(S05,S06)を行う。
【実施例0051】
本発明の他の実施形態である患者突合方法のフローについて、図5を参照して説明する。本実施例の患者突合方法のフローは、実施例1のフローと異なり、中間データの生成(S11)において、データベースから診療年月の抽出を行っておらず、そして、中間テーブルの生成(S13)においても、診療年月の一致を考慮していない。すなわち、実施例1の中間データの生成(S01)に相当するものは、「データベースから、個人ID、性別、年月日、傷病名、診療開始日を抽出し、名寄せ用中間データを生成」(S11)であり、実施例1の中間テーブルの生成(S03)に相当するものは、上記除外後の名寄せ用中間データにおいて、「個人ID、性別及び年月日が全て一致するデータを統合し、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルを生成」(S13)である。その他の処理は実施例1と同じである。
実施例1のように診療年月を抽出することにより、名寄せの正確性を向上することができるが、本実施例の如く、診療年月を抽出しないとしても、名寄せの正確性を損なわず、効率よく名寄せを行うことができる。
【実施例0052】
本発明の他の実施形態である患者突合方法のフローについて、図6を参照して説明する。本実施例の患者突合方法のフローは、実施例1のフローと異なり、中間データの生成(S21)において、データベースから診療年月の抽出を行っておらず、そして、中間テーブルの生成(S23)においても、診療年月の一致を考慮していない。しかしながら、本実施例の患者突合方法のフローでは、中間データの生成(S21)において、データベースから医療機関名の抽出を行い、そして、中間テーブルの生成(S23)において、医療機関名の一致を考慮している。すなわち、実施例1の中間データの生成(S01)に相当するものは、「データベースから、個人ID、医療機関名、性別、年月日、傷病名、診療開始日を抽出し、名寄せ用中間データを生成」(S21)であり、実施例1の中間テーブルの生成(S03)に相当するものは、上記除外後の名寄せ用中間データにおいて、「個人ID、医療機関名、性別及び年月日が全て一致するデータを統合し、傷病名と診療開始日の組み合わせを複数セット有するレコードで構成される名寄せ用中間テーブルを生成」(S23)である。その他の処理は実施例1と同じである。
本実施例の如く、診療年月を抽出しないとしても、医療機関名を抽出することにより、名寄せの正確性を損なわず、効率よく名寄せを行うことができる。
【実施例0053】
本発明の他の実施形態である患者突合方法のフローについて、図7を参照して説明する。本実施例の患者突合方法のフローは、実施例4のフローと異なり、中間データの生成(S31)において、データベースから診療年月の抽出を行い、そして、中間テーブルの生成(S33)において、診療年月の一致を考慮している。その他の処理は実施例4と同じである。
本実施例の如く、診療年月及び医療機関名を抽出することにより、名寄せの正確性をより向上することができる。
【実施例0054】
本発明の他の実施形態である患者突合方法のフローについて、図8を参照して説明する。本実施例の患者突合方法のフローは、実施例1のフローと異なり、中間データの生成(S41)において、データベースから個人ID以外のユニークIDの抽出を行っており、そして、中間テーブルの生成(S43)においても、ユニークIDの一致を考慮している。また、名寄せ候補IDの抽出(S44)においても、傷病名と診療開始日の組み合わせを1セット有するレコードの基本テーブルと、名寄せ用中間テーブルのそれぞれにおいて、生年月、性別、傷病名及び診療開始日の組み合わせが全て一致する個人ID又はユニークIDを名寄せ候補IDとして抽出している。その他の処理は実施例1と同じである。
本実施例の如く、データベースから個人ID以外のユニークIDの抽出を行い、名寄せに用いることで、名寄せの正確性をより向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、国保データベース(KDB)等の匿名化レセプトデータを突合して患者の名寄せを行う技術として有用である。
【符号の説明】
【0056】
1 患者突合装置
2 メモリ部
3 演算処理部
4 プログラム
5 中間データ生成部
6 第1の除外部
7 中間テーブル生成部
8 候補ID抽出部
9 第2の除外部
10 名寄せデータ生成部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8