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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113357
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】濁水処理装置および濁水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/52 20230101AFI20240815BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 21/18 20060101ALI20240815BHJP
   B01D 21/24 20060101ALI20240815BHJP
   B03C 1/00 20060101ALI20240815BHJP
   B03C 1/01 20060101ALI20240815BHJP
   B03C 1/10 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
C02F1/52 B
B01D21/01 108
B01D21/01 B
B01D21/18 Q
B01D21/24 H
B03C1/00 A
B03C1/01
B03C1/10 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018287
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】海野 円
(72)【発明者】
【氏名】高畑 陽
【テーマコード(参考)】
4D015
【Fターム(参考)】
4D015BA19
4D015BA21
4D015BA22
4D015BA29
4D015BB12
4D015CA10
4D015CA14
4D015CA20
4D015DA04
4D015DA06
4D015DA13
4D015DA15
4D015DA16
4D015DA24
4D015DA37
4D015DB01
4D015DB02
4D015DB12
4D015DB14
4D015DB23
4D015DC06
4D015DC07
4D015DC08
4D015EA12
4D015EA32
4D015FA01
4D015FA17
(57)【要約】
【課題】磁性粒子を用いる最適な処理方法(pH範囲)と、濁水がセメント混じりでアルカリ性の場合に中和剤使用量の抑制方法とを実現できる濁水処理装置および濁水処理方法を提供する。
【解決手段】本発明に係る濁水処理装置1は、濁水貯留槽2と、pH調整槽3と、磁性粒子添加手段42を備える反応槽4と、凝集槽5と、沈殿槽6と、中和処理槽7と、回収手段8と、供給手段9と、を備え、前記濁水がセメント濁水であり、かつ、前記濁水貯留槽2で測定される濁水のpHが9以上である場合は、前記pH調整槽3を停止させて、前記磁性粒子添加手段42、前記回収手段8、前記供給手段9を稼働させ、前記濁水貯留槽2で測定される濁水のpHが9以上でない場合および前記濁水がセメント濁水でない場合のうちの少なくとも一方である場合は、前記磁性粒子添加手段42、前記回収手段8、前記供給手段9を停止させる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
濁水を取り込んで貯留するとともに、前記濁水のpHを測定するpH測定器を備える濁水貯留槽と、
前記濁水貯留槽の下流に設けられ、前記濁水のpHが6未満の場合および前記濁水のpHが9以上であるがセメント濁水ではない場合に前記濁水のpHを6以上9未満に調整するpH調整槽と、
前記濁水貯留槽または前記pH調整槽の下流に設けられ、前記濁水に無機凝集剤を添加する無機凝集剤添加手段および前記濁水に磁性粒子を添加する磁性粒子添加手段を備えるとともに、前記無機凝集剤と前記磁性粒子とにより、前記濁水中の懸濁物質を凝集させる反応槽と、
前記反応槽の下流に設けられ、高分子凝集剤が添加されることにより前記懸濁物質を凝集させて磁性フロックとする凝集槽と、
前記凝集槽の下流に設けられ、凝集させた前記磁性フロックを沈殿させて、上澄み水と前記磁性粒子を含む汚泥とを得る沈殿槽と、
前記沈殿槽の下流に設けられ、前記上澄み水のpHが排出規制値を外れる場合に、前記上澄み水に中和剤を供給して中和処理を行う中和処理槽と、
前記汚泥から前記磁性粒子を回収する回収手段と、
回収された前記磁性粒子を前記磁性粒子添加手段に供給する供給手段と、
を備え、
前記濁水がセメント濁水であり、かつ、前記濁水貯留槽で測定される濁水のpHが9以上である場合は、前記pH調整槽を停止させて、前記磁性粒子添加手段、前記回収手段および前記供給手段を稼働させるとともに、前記無機凝集剤添加手段、前記反応槽、前記凝集槽、前記沈殿槽および前記中和処理槽を稼働させ、
前記濁水貯留槽で測定される濁水のpHが9以上でない場合および前記濁水がセメント濁水でない場合のうちの少なくとも一方である場合は、前記磁性粒子添加手段、前記回収手段および前記供給手段を停止させて、前記pH調整槽、前記無機凝集剤添加手段、前記反応槽、前記凝集槽、前記沈殿槽および前記中和処理槽を稼働させる
ことを特徴とする濁水処理装置。
【請求項2】
セメント濁水を取り込んで貯留する濁水貯留槽と、
前記濁水貯留槽の下流に設けられ、前記セメント濁水に無機凝集剤を添加する無機凝集剤添加手段および前記セメント濁水に磁性粒子を添加する磁性粒子添加手段を備えるとともに、前記無機凝集剤と前記磁性粒子とにより、前記セメント濁水中の懸濁物質を凝集させる反応槽と、
前記反応槽の下流に設けられ、高分子凝集剤が添加されることにより前記懸濁物質を凝集させて磁性フロックとする凝集槽と、
前記凝集槽の下流に設けられ、凝集させた前記磁性フロックを沈殿させて、上澄み水と前記磁性粒子を含む汚泥とを得る沈殿槽と、
前記沈殿槽の下流に設けられ、前記上澄み水に中和剤を供給して中和処理を行う中和処理槽と、
前記汚泥から前記磁性粒子を回収する回収手段と、
回収された前記磁性粒子を前記磁性粒子添加手段に供給する供給手段と、
を備えることを特徴とする濁水処理装置。
【請求項3】
前記磁性粒子の粒径が、106μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の濁水処理装置。
【請求項4】
濁水を取り込んで貯留するとともに、pH測定器により前記濁水のpHを測定する濁水貯留ステップと、
前記濁水がセメント濁水であり、かつ、pHが9以上であるか否かを判断する判断ステップと、
前記濁水のpHが6未満の場合および前記濁水のpHが9以上であるがセメント濁水ではない場合に前記濁水のpHを6以上9未満に調整するpH調整ステップと、
前記濁水に無機凝集剤を添加する無機凝集剤添加ステップと、
前記濁水に磁性粒子を添加する磁性粒子添加ステップと、
前記無機凝集剤と前記磁性粒子とにより、前記濁水中の懸濁物質を凝集させる反応ステップと、
高分子凝集剤を添加することにより、凝集させた前記懸濁物質をさらに凝集させて磁性フロックとする凝集ステップと、
凝集させた前記磁性フロックを沈殿させて、上澄み水と前記磁性粒子を含む汚泥とを得る沈殿ステップと、
前記上澄み水のpHが排出規制値を外れる場合に、前記上澄み水に中和剤を供給して中和処理を行う中和処理ステップと、
前記汚泥から前記磁性粒子を回収する回収ステップと、
回収された前記磁性粒子を前記磁性粒子添加ステップに供給する供給ステップと、
を有し、
前記判断ステップで前記濁水がセメント濁水であり、かつ、pHが9以上であると判断した場合は、前記pH調整ステップを行わずに、前記磁性粒子添加ステップ、前記回収ステップおよび前記供給ステップを行うとともに、前記無機凝集剤添加ステップ、前記反応ステップ、前記凝集ステップ、前記沈殿ステップおよび前記中和処理ステップを行い、
前記判断ステップで前記濁水のpHが9以上でないと判断した場合および前記濁水がセメント濁水でないと判断した場合のうちの少なくとも一方である場合は、前記磁性粒子添加ステップ、前記回収ステップおよび前記供給ステップを行わずに、前記pH調整ステップ、前記無機凝集剤添加ステップ、前記反応ステップ、前記凝集ステップ、前記沈殿ステップおよび前記中和処理ステップを行う
ことを特徴とする濁水処理方法。
【請求項5】
セメント濁水を取り込んで貯留する濁水貯留ステップと、
前記セメント濁水に無機凝集剤を添加する無機凝集剤添加ステップと、
前記セメント濁水に磁性粒子を添加する磁性粒子添加ステップと、
前記無機凝集剤と前記磁性粒子とにより、前記セメント濁水中の懸濁物質を凝集させる反応ステップと、
高分子凝集剤を添加することにより、凝集させた前記懸濁物質をさらに凝集させて磁性フロックとする凝集ステップと、
凝集させた前記磁性フロックを沈殿させて、上澄み水と前記磁性粒子を含む汚泥とを得る沈殿ステップと、
前記上澄み水に中和剤を供給して中和処理を行う中和処理ステップと、
前記汚泥から前記磁性粒子を回収する回収ステップと、
回収された前記磁性粒子を前記磁性粒子添加ステップに供給する供給ステップと、
を有することを特徴とする濁水処理方法。
【請求項6】
前記磁性粒子の粒径が、106μm以下であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の濁水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、濁水処理装置および濁水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
図11は、一般的な凝集沈殿装置の構成を説明する概略構成図である。図11に示すように、一般的な凝集沈殿装置111は、pH調整槽112と、反応槽113と、凝集槽114と、沈殿槽115と、を備えている。pH調整槽112では、原水(濁水)にpH調整剤を添加して濁水のpHを調整する。反応槽113では、pHを調整した濁水に無機凝集剤を投入して、濁水中の懸濁物質と十分に混合させて基礎フロックを形成させる。凝集槽114では、高分子凝集剤を投入し、高分子凝集剤の架橋作用により粗大なフロックを形成させる。沈殿槽115では、フロックを沈降させて沈殿物(懸濁物質)とし、上澄み水と分離させる。そして、上澄み水は処理水として放流され、沈殿物は汚泥として排出される。上澄み水のpHが排出規制値を満たさないとき、図示しない中和処理槽で上澄み水のpHを中和処理して放流する。
【0003】
上記一般的な凝集沈殿装置には、フロックの沈降に時間を要し、処理量が多くなるほど装置が大きくなるという問題点があった。また、一般的に利用される無機凝集剤(例えば、ポリ塩化アルミニウム(PAC))の適用範囲はpH6~9であるため、凝集沈殿は中性域の原水に対して行われることが一般的である。そのため、トンネル排水で良く生じるセメント混じりの濁水(セメント濁水)などのアルカリ性(例、pH9以上)の濁水に対しては、初めに希硫酸等のpH調整剤で中和処理を実施してから凝集沈殿を行っている。しかし、その処理に多量の希硫酸を要し、コストが嵩む要因となっていた。
【0004】
前記問題点のうち、フロックの沈降については、例えば、特許文献1~3に記載されているように、粒状物(砂等)を添加し、フロックを粗大化させる方法により沈降時間の短縮が図られている。これらに記載の技術は、添加した粒状物を核としてフロックを粗大化し、沈降を促進させるものである。
【0005】
また、近年、フロックの沈降に関して、例えば、特許文献4に記載の技術が提案された。特許文献4には、原水に凝集剤および磁性粉(磁性粒子・磁性体)を添加して凝集処理する凝集槽と、前記凝集槽の流出水が導入されるスラッジブランケット型沈殿槽と、前記沈殿槽内のスラッジブランケット下部の汚泥を引き抜いて汚泥分解装置に搬送する手段を有してなることを特徴とする浄化装置が記載されている。特許文献4によれば、この浄化装置について、磁性粉をシード剤として利用する凝集沈殿の方法を採用すると、沈降速度が速くなることで除去速度が速くなり、磁性粉の再利用が容易になることで連続運転の効率が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3866054号公報
【特許文献2】特許第4073116号公報
【特許文献3】特許第6725316号公報
【特許文献4】特開2001-170404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献4に記載の技術には、磁性粒子を用いる最適な処理方法(pH範囲)について改善の余地があった。また、特許文献4に記載の技術では、濁水がセメント混じりでアルカリ性の場合に中和剤使用量の抑制をすることができなかった。なぜなら、特許文献4に記載の技術には、濁水がセメント混じりでアルカリ性の場合に、pH調整をせずに凝集沈殿処理を行い、当該処理後の上澄み水について中和処理するという発想がなかったからである。
【0008】
本発明は前記状況に鑑みてなされたものである。本発明の課題は、磁性粒子を用いる最適な処理方法(pH範囲)と、濁水がセメント混じりでアルカリ性の場合に中和剤使用量の抑制方法とを実現できる濁水処理装置および濁水処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は以下の手段を有する。
本発明は、濁水を取り込んで貯留するとともに、前記濁水のpHを測定するpH測定器を備える濁水貯留槽と、前記濁水貯留槽の下流に設けられ、前記濁水のpHが6未満の場合および前記濁水のpHが9以上であるがセメント濁水ではない場合に前記濁水のpHを6以上9未満に調整するpH調整槽と、前記濁水貯留槽または前記pH調整槽の下流に設けられ、前記濁水に無機凝集剤を添加する無機凝集剤添加手段および前記濁水に磁性粒子を添加する磁性粒子添加手段を備えるとともに、前記無機凝集剤と前記磁性粒子とにより、前記濁水中の懸濁物質を凝集させる反応槽と、前記反応槽の下流に設けられ、高分子凝集剤が添加されることにより前記懸濁物質を凝集させて磁性フロックとする凝集槽と、前記凝集槽の下流に設けられ、凝集させた前記磁性フロックを沈殿させて、上澄み水と前記磁性粒子を含む汚泥とを得る沈殿槽と、前記沈殿槽の下流に設けられ、前記上澄み水のpHが排出規制値を外れる場合に、前記上澄み水に中和剤を供給して中和処理を行う中和処理槽と、前記汚泥から前記磁性粒子を回収する回収手段と、回収された前記磁性粒子を前記磁性粒子添加手段に供給する供給手段と、を備え、前記濁水がセメント濁水であり、かつ、前記濁水貯留槽で測定される濁水のpHが9以上である場合は、前記pH調整槽を停止させて、前記磁性粒子添加手段、前記回収手段および前記供給手段を稼働させるとともに、前記無機凝集剤添加手段、前記反応槽、前記凝集槽、前記沈殿槽および前記中和処理槽を稼働させ、前記濁水貯留槽で測定される濁水のpHが9以上でない場合および前記濁水がセメント濁水でない場合のうちの少なくとも一方である場合は、前記磁性粒子添加手段、前記回収手段および前記供給手段を停止させて、前記pH調整槽、前記無機凝集剤添加手段、前記反応槽、前記凝集槽、前記沈殿槽および前記中和処理槽を稼働させることを特徴とする濁水処理装置である。
【0010】
また、本発明は、濁水を取り込んで貯留するとともに、pH測定器により前記濁水のpHを測定する濁水貯留ステップと、前記濁水がセメント濁水であり、かつ、pHが9以上であるか否かを判断する判断ステップと、前記濁水のpHが6未満の場合および前記濁水のpHが9以上であるがセメント濁水ではない場合に前記濁水のpHを6以上9未満に調整するpH調整ステップと、前記濁水に無機凝集剤を添加する無機凝集剤添加ステップと、前記濁水に磁性粒子を添加する磁性粒子添加ステップと、前記無機凝集剤と前記磁性粒子とにより、前記濁水中の懸濁物質を凝集させる反応ステップと、高分子凝集剤を添加することにより、凝集させた前記懸濁物質をさらに凝集させて磁性フロックとする凝集ステップと、凝集させた前記磁性フロックを沈殿させて、上澄み水と前記磁性粒子を含む汚泥とを得る沈殿ステップと、前記上澄み水のpHが排出規制値を外れる場合に、前記上澄み水に中和剤を供給して中和処理を行う中和処理ステップと、前記汚泥から前記磁性粒子を回収する回収ステップと、回収された前記磁性粒子を前記磁性粒子添加ステップに供給する供給ステップと、を有し、前記判断ステップで前記濁水がセメント濁水であり、かつ、pHが9以上であると判断した場合は、前記pH調整ステップを行わずに、前記磁性粒子添加ステップ、前記回収ステップおよび前記供給ステップを行うとともに、前記無機凝集剤添加ステップ、前記反応ステップ、前記凝集ステップ、前記沈殿ステップおよび前記中和処理ステップを行い、前記判断ステップで前記濁水のpHが9以上でないと判断した場合および前記濁水がセメント濁水でないと判断した場合のうちの少なくとも一方である場合は、前記磁性粒子添加ステップ、前記回収ステップおよび前記供給ステップを行わずに、前記pH調整ステップ、前記無機凝集剤添加ステップ、前記反応ステップ、前記凝集ステップ、前記沈殿ステップおよび前記中和処理ステップを行うことを特徴とする濁水処理方法である。
【0011】
従来は、濁水がセメント濁水であり、かつ、pHが9以上の場合であって、通常の凝集沈殿処理(PAC+高分子凝集剤)を用いる場合には、濁水の中和処理を行ってから凝集沈殿処理を実施する必要があり、多くの中和剤を必要とした。一方、本発明に係る濁水処理装置および濁水処理方法は、通常の凝集沈殿処理に加えて磁性粒子を添加することで、濁水の中和処理を行わずに、アルカリ性のまま凝集沈殿処理(フロックの形成と沈殿)を行うことができる。これにより、フロック形成前の濁水のpH調整が不要となる。そのため、本発明に係る濁水処理装置および濁水処理方法は、処理後の上澄み水(すなわち、土粒子などのpH緩衝作用を有する懸濁物質の少ない上澄み水)に加える中和剤の使用量が、懸濁物質の多い濁水に中和剤を加える場合と比較して大幅に削減できるため、効率的かつコストを低減できる。また、濁水がセメント濁水でない場合やセメント濁水であるがpHが9以上でない場合は、汚泥からの磁性粒子の回収と、回収した磁性粒子の濁水への添加を停止し、通常の凝集沈殿処理を行うことができる。本発明に係る濁水処理装置および濁水処理方法は、濁水の種類やpHに変化が生じた場合でも運転の切り替えが簡単で、効率的な処理ができる。
【0012】
また、本発明は、セメント濁水を取り込んで貯留する濁水貯留槽と、前記濁水貯留槽の下流に設けられ、前記セメント濁水に無機凝集剤を添加する無機凝集剤添加手段および前記セメント濁水に磁性粒子を添加する磁性粒子添加手段を備えるとともに、前記無機凝集剤と前記磁性粒子とにより、前記セメント濁水中の懸濁物質を凝集させる反応槽と、前記反応槽の下流に設けられ、高分子凝集剤が添加されることにより前記懸濁物質を凝集させて磁性フロックとする凝集槽と、前記凝集槽の下流に設けられ、凝集させた前記磁性フロックを沈殿させて、上澄み水と前記磁性粒子を含む汚泥とを得る沈殿槽と、前記沈殿槽の下流に設けられ、前記上澄み水に中和剤を供給して中和処理を行う中和処理槽と、前記汚泥から前記磁性粒子を回収する回収手段と、回収された前記磁性粒子を前記磁性粒子添加手段に供給する供給手段と、を備えることを特徴とする濁水処理装置である。
【0013】
さらに、本発明は、セメント濁水を取り込んで貯留する濁水貯留ステップと、前記セメント濁水に無機凝集剤を添加する無機凝集剤添加ステップと、前記セメント濁水に磁性粒子を添加する磁性粒子添加ステップと、前記無機凝集剤と前記磁性粒子とにより、前記セメント濁水中の懸濁物質を凝集させる反応ステップと、高分子凝集剤を添加することにより、凝集させた前記懸濁物質をさらに凝集させて磁性フロックとする凝集ステップと、凝集させた前記磁性フロックを沈殿させて、上澄み水と前記磁性粒子を含む汚泥とを得る沈殿ステップと、前記上澄み水に中和剤を供給して中和処理を行う中和処理ステップと、前記汚泥から前記磁性粒子を回収する回収ステップと、回収された前記磁性粒子を前記磁性粒子添加ステップに供給する供給ステップと、を有することを特徴とする濁水処理方法である。
【0014】
本発明に係る濁水処理装置および濁水処理方法をトンネル工事などのセメントを使用する工事に適用する場合、濁水がセメント濁水であり、かつpHは9以上となる。この場合、前述のように濁水貯留槽でpHを測定したり、pH調整槽でpHを調整したり、また、セメント濁水であるか否かや、pHが9以上であるか否かなどを判断したりすることなく、磁性粒子を添加して濁水の処理を行う。濁水がセメント濁水であり、かつpHが9以上であるので、前述同様、磁性粒子の添加、回収、供給を行いつつ、無機凝集剤と高分子凝集剤とで磁性フロックを凝集・沈殿させて上澄み水を得ることができる。つまり、通常の凝集沈殿処理に加えて磁性粒子を添加することで、フロック形成前の濁水のpH調整を行うことなく、アルカリ性のまま凝集沈殿処理(磁性フロックの形成と沈殿)を行うことができる。そのため、本発明に係る濁水処理装置および濁水処理方法は、処理後の上澄み水に加える中和剤の使用量が、懸濁物質の多い濁水に中和剤を加える場合と比較して大幅に削減できるため、効率的かつコストを低減できる。さらに、本発明に係る濁水処理装置および濁水処理方法は、構成が簡易であるため、装置の製造コストを抑えることができる。
【0015】
本発明の濁水処理装置および濁水処理方法においては、前記磁性粒子の粒径が、106μm以下であることが好ましい。
このように、磁性粒子の粒径を106μm以下とすると、凝集させて磁性フロックを形成させる際に、攪拌の均一性と凝集効果を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、磁性粒子を用いる最適な処理方法(pH範囲)と、濁水がセメント混じりでアルカリ性の場合に中和剤使用量の抑制方法とを実現できる濁水処理装置および濁水処理方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本実施形態に係る濁水処理装置の構成を説明する概略構成図である。
図2】マグネットセパレーターの概略を説明する概略構成図である。
図3】本実施形態に係る濁水処理方法を説明するフローチャートである。
図4A】濁水のpHが凝集性能に及ぼす影響を調べた試験結果を示すグラフである。同図中、横軸はpH、縦軸は濁度[NTU]である。
図4B】濁水のpHが凝集性能に及ぼす影響を調べた試験結果を示すグラフである。同図中、横軸はpH、縦軸は濁度[NTU]である。
図5】試験2におけるサンプリング位置を説明する概要図である。
図6A】急速攪拌中の磁性粒子の存在量と粒径の関係を示すグラフである。同図中、横軸は粒径範囲、縦軸は磁性粒子存在量[wt%]である。
図6B】緩速攪拌中の磁性粒子の存在量と粒径の関係を示すグラフである。同図中、横軸は粒径範囲、縦軸は磁性粒子存在量[wt%]である。
図7】磁性粒子の粒径が処理水の濁度に及ぼす影響を示すグラフである。同図中、横軸は粒径範囲、縦軸は濁度[NTU]である。
図8】濁水および処理後の上澄み水について、pH8.6に達するまでに添加した5%希硫酸の添加量を示すグラフである。同図中、横軸は濁水のpH、縦軸は5%希硫酸添加量[mL/L]である。
図9】磁性粒子回収試験の方法を説明する説明図である。
図10】試験5における濁水A(現場発生原水)の凝集沈殿処理前の様子を示す写真(左図)、鉄粉を添加しないで凝集沈殿処理した場合の様子を示す写真(中央図)、および鉄粉を添加して凝集沈殿処理した様子を示す写真(右図)である。
図11】一般的な凝集沈殿装置の構成を説明する概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、適宜図面を参照して本発明に係る濁水処理装置および濁水処理方法の一実施形態について詳細に説明する。なお、各実施形態の説明において、同一の構成要素に関しては同一の名称、符号で表し、重複する説明は省略する場合がある。
【0019】
(濁水処理装置)
図1は、本実施形態に係る濁水処理装置1の構成を説明する概略構成図である。
図1に示すように、濁水処理装置1は、濁水貯留槽2と、pH調整槽3と、反応槽4と、凝集槽5と、沈殿槽6と、中和処理槽7と、回収手段8と、供給手段9と、を備えている。
この濁水処理装置1は、懸濁物質を含む濁水を処理して上澄み水を得、これを処理水として装置外に放流するものである。濁水としては、例えば、建築工事や土木工事などからの排水のほか、下水、雨水、河川水、湖水、海水などを対象とすることができるが、これらに限定されない。濁水は懸濁物質を含むものであればどのような由来のものも対象とすることができる。濁水のpHは、酸性(例、pH3.0未満)、弱酸性(例、pH3.0以上6.0未満)、中性(例、pH6.0以上8.0以下)、弱アルカリ性(例、pH8.0を超えて11.0以下)、アルカリ性(例、11.0を超えるもの)のいずれであってもよい。なお、本明細書では弱アルカリ性およびアルカリ性をまとめて単にアルカリ性ということがある。また、本実施形態では後述するように、濁水がセメント濁水であり、かつ、濁水貯留槽2で測定される濁水のpHが9以上であるか否かで、装置における処理内容が変わる。ここで、濁水がセメント濁水である場合は、pH9以上であることが多く、また、pH11以上であることも多い。
以下、濁水処理装置1の各構成について説明する。
【0020】
濁水貯留槽2は、濁水を取り込んで貯留する。濁水貯留槽2は、濁水のpHを測定するpH測定器21を備えている。pH測定器21は、濁水のpHを連続的にまたは断続的に測定する。pH測定器21は、市販されているものを用いることができる。
pH調整槽3は、濁水貯留槽2の下流に設けられている。pH調整槽3では、濁水貯留槽2で測定された濁水のpHが6未満の場合に、濁水のpHを6以上9未満に調整する。また、pH調整槽3では、濁水貯留槽2で測定された濁水のpHが9以上であるがセメント濁水ではない場合に前記濁水のpHを6以上9未満に調整する。
反応槽4で添加する無機凝集剤の適用範囲はpH6~9であるので、pH調整槽3では、pH6未満の濁水のpHを無機凝集剤の適用範囲内に調整するものである。なお、濁水貯留槽2で測定された濁水のpHが6以上9未満にある場合およびpHが9以上かつ前記濁水がセメント濁水である場合は、pH調整槽3を経ずに、濁水貯留槽2から反応槽4に濁水を送液する。
【0021】
ここで、pHが6以上9未満の濁水(セメント濁水であるか否かは問わない)には、反応槽4において無機凝集剤を添加し、凝集槽5において高分子凝集剤を添加して、濁水中の懸濁物質を凝集させる。また、pHが9以上かつセメント濁水である場合には、反応槽4において無機凝集剤と磁性粒子とを添加し、凝集槽5において高分子凝集剤を添加して、濁水中の懸濁物質を凝集させる。本実施形態では、pHが9以上かつセメント濁水である場合に磁性粒子を使用するので、濁水のpHが9以上であっても、凝集前の濁水のpHを6以上9未満にする調整は不要である。
pH調整槽3は、濁水を取り込んで貯留し、pHを調整できるものであればどのようなものでもよく、形状や大きさ、材質に限定はない。pH調整槽3は、濁水のpHの調整を速やかに行わせるため、攪拌翼やバブリング攪拌などの攪拌手段(図示せず)を備えていてもよい。pH調整槽3は、濁水の性状(例えば、セメント濁水であるか否か、酸性、中性など)や、水量に応じて適宜のものを用いることができる。pH調整槽3で用いることのできるpH調整剤としては、例えば、酸性の濁水に対しては水酸化ナトリウム、アルカリ性の濁水に対しては希硫酸などを用いることができるが、これに限定されない。
【0022】
反応槽4は、濁水貯留槽2の下流(pH調整槽3の下流)に設けられている。反応槽4は、濁水に無機凝集剤を添加する無機凝集剤添加手段41を備えている。反応槽4は、濁水に磁性粒子を添加する磁性粒子添加手段42を備えている。反応槽4では、無機凝集剤と磁性粒子とにより、濁水中の懸濁物質を凝集させる(基礎フロックを形成させる)。反応槽4は、濁水中の懸濁物質の凝集を効率的に行わせるため、攪拌翼やバブリング攪拌などの攪拌手段(図示せず)を備えていてもよい。
無機凝集剤添加手段41および磁性粒子添加手段42は、市販の搬送ローダ装置、フィーダ装置、スクリューコンベア、粉粒体供給装置などを用いることができる。
無機凝集剤添加手段41は濁水の取り込みに際して適時稼働させればよい。
磁性粒子添加手段42には、濁水処理装置1の新規使用時、回収した磁性粒子の再利用時、または喪失した分量の磁性粒子を補充する補充時に磁性粒子が投与され、投与された磁性粒子を反応槽4内に添加する。
【0023】
無機凝集剤としては、例えば、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸アルミニウム、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、硫酸第一鉄、消石灰、低分子量のカチオン性高分子凝集剤などを用いることができる。無機凝集剤は前記したものに限定されず、任意の凝集剤を用いることができる。
磁性粒子は、濁水中に含まれている有機物の粒子や無機物の粒子などの懸濁物質よりも比重が大きいものを用いる。磁性粒子としては鉄粉を好適に用いることができるが、これに限定されない。
【0024】
磁性粒子は、粒径が106μm以下であることが好ましい。磁性粒子の粒径をこのようにすると、凝集槽5において濁水中に概ね均一に存在させることができ、濁水中の懸濁物質の凝集を効率よく好適に行わせることができる。磁性粒子の粒径は、例えば、所定の目開きを有するふるいを1つ以上用いてふるい分けを行うことで任意の大きさのものを得ることができる。磁性粒子の粒径は75μm以下であることがより好ましく、45μm以下であることがさらに好ましい。磁性粒子の粒径が小さくなればなるほど、濁水中に均一に存在させることができ、濁水中の懸濁物質の凝集効果をより向上させることができる。粒径が小さな磁性粒子を得る方法として、磁性粒子を水槽内に添加して攪拌直後に上澄み水を回収し、水中の磁性粒子を磁選機で回収することなどが挙げられる。磁性粒子の粒径は、例えば、JIS Z 8815-1994(ふるい分け試験方法通則)に準じて測定することができる。
【0025】
凝集槽5は、反応槽4の下流に設けられている。凝集槽5では、高分子凝集剤が添加されることにより懸濁物質をさらに凝集させて粗大な磁性フロックとする(磁性粒子を用いない処理の場合は通常の粗大なフロックとなる)。
磁性フロックとは、磁性粒子と無機凝集剤とにより濁水中の懸濁物質を凝集させたものが会合してより大きな集合体(凝集体)となったものをいう。
高分子凝集剤は、有機系凝集剤とも呼ばれている。高分子凝集剤としては、例えば、アニオン系凝集剤、カチオン系凝集剤、ノニオン系凝集剤などを用いることができる。アニオン系凝集剤やノニオン系凝集剤としては、例えば、ポリアクリルアミド系凝集剤、ポリアクリル酸ソーダなどを用いることができる。カチオン系凝集剤としては、例えば、ポリアクリル酸エステル系凝集剤、ポリメタクリル酸エステル系凝集剤などを用いることができる。高分子凝集剤としては前記したもの以外にも、例えば、ポリアミン系凝集剤、ジシアンジアミド系凝集剤なども用いることができる。有機系凝集剤は前記したものに限定されず、任意の凝集剤を用いることができる。
高分子凝集剤の添加は、凝集槽5に備えられている高分子凝集剤添加手段51により行うことができる。高分子凝集剤添加手段51は、無機凝集剤添加手段41および磁性粒子添加手段42と同様に、市販の搬送ローダ装置、フィーダ装置、スクリューコンベア、粉粒体供給装置などを用いることができる。
【0026】
沈殿槽6は、凝集槽5の下流に設けられている。沈殿槽6では、凝集させた磁性フロックを沈殿させて、上澄み水と磁性粒子を含む汚泥(磁性粒子を用いない処理の場合は通常の汚泥である)とを得る。磁性フロックやフロックの沈殿は重力沈降で行うことができるが、迅速な処理を望む場合は、遠心分離などの他の方法で行うことができる。
沈殿槽6は、回収手段8を備えている。沈殿槽6は、沈殿した汚泥を回収手段8に送る。そして、回収手段8は、汚泥から磁性粒子を回収する。回収手段8は、例えば、汎用されている簡易なマグネットセパレーター81を使用することができる。ここで、図2は、マグネットセパレーター81の概略を説明する概略構成図である。図2に示すように、マグネットセパレーター81は、マグネットコア82と、マグネットコア82の外周を覆う外筒83と、外筒83に付着した磁性粒子から水分を搾り出すローラー84と、ローラー84によって水分が搾り出された磁性粒子を外筒83から剥がし取るスクレーパー85と、を備える。このような回収手段8であれば、汚泥から磁性粒子をほぼ全て回収することができる。
なお、マグネットコア82としては、例えば、2000~13000ガウス、好ましくは4000ガウス以上、より好ましくは10000ガウス以上の表面磁束密度を有する磁石を使用することができる。具体的には、マグネットコア82としてフェライト(等方、異方)磁石、ネオジム磁石、サマリウムコバルト磁石、アルニコ磁石などの永久磁石を使用することができる。
【0027】
なお、回収手段8から回収された汚泥は、コンポストや焼却、埋め立て処分される。一方、後述するように、濁水がセメント濁水でない場合やセメント濁水であるがpHが9以上でない場合であって、磁性粒子添加手段42、回収手段8および供給手段9を停止させた場合は、磁性粒子を用いておらず、そのため汚泥が磁性粒子を含んでいないので磁性粒子を回収する作業および再利用する作業を行う必要はない。従って、この場合は回収手段8を経ることなく、沈殿槽6で回収された汚泥をそのまま前記と同様の方法で処分できる。
【0028】
供給手段9は、回収手段8によって回収された磁性粒子を磁性粒子添加手段42に供給する。供給手段9は、例えば、ベルトコンベアやスクリューコンベアなどを用いることができるが、反応槽4の上に回収手段8(マグネットセパレーター81)を配置して、分離した磁性粒子を反応槽4に直接投入する方法がコンベアなどの輸送に比べて磁性粒子の損失が抑えられる。なお、回収手段8が前記した分離した磁性粒子を反応槽4に直接投入する方法を採用する場合、回収手段8は、供給手段9および磁性粒子添加手段42の役割を兼ねることになる。
【0029】
中和処理槽7は、沈殿槽6の下流に設けられている。中和処理槽7は、沈殿槽6で得られた上澄み水のpHが排出規制値を外れる場合に、上澄み水に中和剤を供給して中和処理を行う。中和処理槽7は、上澄み水のpHを測定するためのpH測定器71を備えている。pH測定器71は、上澄み水のpHを連続的にまたは断続的に測定する。pH測定器71は、前記したpH測定器21と同様、市販されているものを用いることができる。排出規制値としては、例えば、処理対象となる濁水および処理水に対して国や地方自治体などが定めた値や、自主的に設けた値などが挙げられる。
中和処理槽7で用いる中和剤としては、例えば、希硫酸や炭酸ガスなどを用いることができるが、これらに限定されない。中和剤は、上澄み水のpHを中和できるものであればよく、どのようなものも用いることができる。
【0030】
以上に説明した濁水貯留槽2、反応槽4、凝集槽5、沈殿槽6および中和処理槽7は、いずれも濁水や上澄み水を取り込んで貯留できるものであればどのようなものでもよく、形状や大きさ、材質に限定はない。これらの槽はいずれも、濁水や上澄み水の性状(例えば、セメント濁水であるか否か、酸性、中性、アルカリ性など)や、水量に応じて適宜のものを用いることができる。
【0031】
本実施形態では、このような構成の濁水処理装置1において、濁水貯留槽2に取り込む濁水がセメント濁水であり、かつ、濁水貯留槽2で測定される濁水のpHが9以上である場合(本実施形態の説明において、前者の場合ということがある)は、pH調整槽3を停止させて、磁性粒子添加手段42、回収手段8および供給手段9を稼働させるとともに、無機凝集剤添加手段41、反応槽4、凝集槽5、沈殿槽6および中和処理槽7を稼働させる。
【0032】
前者の場合、濁水処理装置1は、通常の凝集沈殿処理に加えて磁性粒子を添加・再利用することで、磁性フロックを形成させる。つまり、前者の場合、濁水処理装置1は、濁水の中和処理を行わずに、アルカリ性のまま凝集沈殿処理を行うことができる。そのため、濁水処理装置1は、処理後の上澄み水に加える中和剤の使用量が、濁水に中和剤を加える場合と比較して大幅に削減できるため、効率的かつコストを低減できる。また、濁水処理装置1は、濁水の中和処理を行わないので、その分、装置全体としての処理時間を短縮でき、コストを低減できる。
【0033】
一方、濁水処理装置1は、濁水貯留槽2で測定される濁水のpHが9以上でない場合および濁水貯留槽2に取り込む濁水がセメント濁水でない場合のうちの少なくとも一方である場合(本実施形態の説明において、後者の場合ということがある)は、磁性粒子添加手段42、回収手段8および供給手段9を停止させて、pH調整槽3、無機凝集剤添加手段41、反応槽4、凝集槽5、沈殿槽6および中和処理槽7を稼働させる。
【0034】
つまり、濁水貯留槽2で測定される濁水のpHが6以上9未満の場合は、濁水のpHが無機凝集剤の適用範囲内であるのでそのまま反応槽4に送液し、フロックを形成させる。また、濁水貯留槽2で測定される濁水のpHが9以上でなく、さらに、6以上9未満でない場合(すなわち、pHが6未満の場合)、および、pHが9以上であるがセメント濁水ではない場合は、濁水のpHが無機凝集剤の適用範囲ではないので、一旦、前述したようにpH調整槽3に送液し、そこで濁水のpHを6以上9未満に調整した後、反応槽4に送液し、フロックを形成させる。従って、後者の場合、濁水処理装置1は、汚泥からの磁性粒子の回収と、回収した磁性粒子の濁水への添加を停止し、通常の凝集沈殿処理を行うことができる。また、後者の場合、磁性粒子添加手段42、回収手段8および供給手段9を停止させるので、そのランニングコストを低減できる。また、この場合、磁性粒子の回収と再利用を行わないので磁性粒子の喪失がなく、従来技術(例えば、特許文献4)のように、常時、磁性粒子添加手段42、回収手段8および供給手段9を稼働させる場合と比較して、磁性粒子を補充するコストと手間とを低減できる。
このように、本実施形態に係る濁水処理装置1は、濁水の種類やpHに変化が生じた場合でも運転の切り替えが簡単で、効率的な処理ができる。
【0035】
(濁水処理方法)
次に、図3を参照して、本実施形態に係る濁水処理方法について説明する。なお、以下の説明において、濁水処理装置1と同様の構成については同一の符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、本濁水処理方法においては、濁水処理装置1と同様の磁性粒子を用いることができる。
図3は、本実施形態に係る濁水処理方法を説明するフローチャートである。
図3に示すように、本濁水処理方法は、濁水貯留ステップS1と、判断ステップS2と、pH調整ステップS3と、無機凝集剤添加ステップS4と、磁性粒子添加ステップS5と、反応ステップS6と、凝集ステップS7と、沈殿ステップS8と、中和処理ステップS9と、回収ステップS10と、供給ステップS11と、を有している。
【0036】
濁水貯留ステップS1では、濁水を取り込んで貯留するとともに、pH測定器21により前記濁水のpHを測定する。このステップは、前記した濁水貯留槽2により実施することができる。
判断ステップS2では、濁水貯留槽2に取り込んだ濁水がセメント濁水であり、かつ、pHが9以上であるか否かを判断する。このステップは、一般的には濁水の発生源となる場所でセメントを含むモルタルやコンクリート打設が行われているか否かで判断する。その判断時に、微量のセメント分であれば濁水のpHは低い場合があるので、その場合は、セメント分を含んでいても、通常処理を行う(通常の凝集沈殿処理を行う)。
【0037】
判断ステップS2の一具体例を説明する。判断ステップS2では、まず、濁水のpHが9以上か否かを判断する(ステップS21)。濁水のpHが9以上である場合(ステップS21でYes)、次に、セメント濁水であるか否かを判断する(ステップS22)。濁水がセメント濁水である場合(ステップS22でYes)、反応ステップS6を行う。
また、ステップS21で濁水のpHが9以上でない場合(ステップS21でNo)、次に、濁水のpHが6以上9未満であるか否かを判断する(ステップS23)。濁水のpHが6以上9未満である場合(ステップS23でYes)、反応ステップS6を行う。
そして、ステップS23で濁水のpHが6以上9未満でない場合(すなわち、濁水のpHが6未満である場合)(ステップS23でNo)、および、濁水のpHが9以上であるがセメント濁水でない場合(ステップS21でYes、ステップS22でNo)、pH調整ステップS3を行う。
【0038】
pH調整ステップS3では、濁水のpHが6未満である場合、および、濁水のpHが9以上であるがセメント濁水でない場合に、濁水のpHを6以上9未満に調整する。このステップは、前記したpH調整槽3により実施することができる。
無機凝集剤添加ステップS4では、濁水に無機凝集剤を添加する。このステップは、前記した無機凝集剤添加手段41により実施することができる。
磁性粒子添加ステップS5では、濁水に磁性粒子を添加する。このステップは、前記した磁性粒子添加手段42により実施することができる。
反応ステップS6では、無機凝集剤と磁性粒子とにより、濁水中の懸濁物質を凝集させる(基礎フロックを形成させる)。このステップは、前記した反応槽4により実施することができる。
【0039】
凝集ステップS7では、高分子凝集剤を添加することにより、凝集させた前記懸濁物質をさらに凝集させて磁性フロックとする。このステップは、前記した凝集槽5により実施することができる。高分子凝集剤の添加は、高分子凝集剤添加ステップS71で行うことができる。このステップは、前記した高分子凝集剤添加手段51により行うことができる。
沈殿ステップS8では、凝集させた磁性フロックを沈殿させて、上澄み水と磁性粒子を含む汚泥とを得る。このステップは、前記した沈殿槽6により実施することができる。
中和処理ステップS9では、沈殿槽6で得られた上澄み水のpHが排出規制値を外れる場合に、上澄み水に中和剤を供給して中和処理を行う。上澄み水のpHの測定は、pH測定器71で行うことができる。このステップは、前記した中和処理槽7により実施することができる。
回収ステップS10では、汚泥から磁性粒子を回収する。このステップは、前記した回収手段8により実施することができる。
供給ステップS11では、回収された磁性粒子を磁性粒子添加ステップS5に供給する。このステップは、前記した供給手段9により実施することができる。
【0040】
本実施形態では、このような構成の濁水処理方法において、判断ステップS2で濁水がセメント濁水であり、かつ、pHが9以上であると判断した場合、つまり、ステップS21でYesおよびステップS22でYesである場合(本実施形態の説明において、前者の場合ということがある)は、pH調整ステップS3を行わずに、磁性粒子添加ステップS5、回収ステップS10および供給ステップS11を行うとともに、無機凝集剤添加ステップS4、反応ステップS6、凝集ステップS7、沈殿ステップS8および中和処理ステップS9を行う。
【0041】
前者の場合、本濁水処理方法は、通常の凝集沈殿処理に加えて磁性粒子を添加・再利用することで、磁性フロックを形成させる。つまり、前者の場合、本濁水処理方法は、濁水の中和処理を行わずに、アルカリ性のまま凝集沈殿処理を行うことができる。そのため、本濁水処理方法は、処理後の上澄み水に加える中和剤の使用量が、濁水に中和剤を加える場合と比較して大幅に削減できるため、効率的かつコストを低減できる。また、本濁水処理方法は、濁水の中和処理を行わないので、その分、処理全体としての処理時間を短縮でき、コストを低減できる。
【0042】
一方、判断ステップS2で濁水のpHが9以上でないと判断した場合および濁水がセメント濁水でないと判断した場合のうちの少なくとも一方である場合、つまり、ステップS21でNoおよびステップS22でNoのうちの少なくとも一方である場合(本実施形態の説明において、後者の場合ということがある)は、磁性粒子添加ステップS5、回収ステップS10および供給ステップS11を行わずに、pH調整ステップS3、無機凝集剤添加ステップS4、反応ステップS6、凝集ステップS7、沈殿ステップS8および中和処理ステップS9を行う。
【0043】
また、後者の場合、濁水のpHに応じてpH調整ステップS3を行う。つまり、濁水貯留ステップS1で測定される濁水のpHが6以上9未満である場合は、濁水のpHが無機凝集剤の適用範囲内であるのでそのまま反応ステップS6を行い、フロックを形成させる。また、濁水貯留ステップS1で測定される濁水のpHが9以上でなく、さらに、6以上9未満でない場合(すなわち、pHが6未満の場合)、および、濁水のpHが9以上であるがセメント濁水ではない場合は、濁水のpHが無機凝集剤の適用範囲内ではないので、一旦、前述したようにpH調整ステップS3を行い、濁水のpHを6以上9未満に調整した後、反応ステップS6を行ってフロックを形成させる。従って、後者の場合、本濁水処理方法は、汚泥からの磁性粒子の回収と、回収した磁性粒子の濁水への添加を停止し、通常の凝集沈殿処理を行うことができる。また、後者の場合、磁性粒子添加ステップS5、回収ステップS10および供給ステップS11を停止させるので、そのランニングコストを低減できる。また、この場合、磁性粒子の回収と再利用を行わないので磁性粒子の喪失がなく、従来技術(例えば、特許文献4)のように、常時、磁性粒子添加ステップS5、回収ステップS10および供給ステップS11を行う場合と比較して、磁性粒子を補充するコストと手間とを低減できる。
【0044】
また、以上に説明した本実施形態に係る濁水処理装置1および濁水処理方法は、土木工事、特にトンネル工事において有用である。土木工事、特にトンネル工事では、排出される濁水にはセメントが混入しており、濁度が小さく、アルカリ性が強い(pH11から12程度)。そのため、従来法では、当該濁水に対して大量の中和剤が必要になる。本実施形態では、磁性粒子を用いることにより、濁水のpHを調整しなくても迅速な磁性フロックの形成と沈殿とを行うことが可能となり、処理速度が向上する。また、それにより、従来よりも装置の省スペース化が可能となる。
【0045】
また、本実施形態に係る濁水処理装置1および濁水処理方法によれば、従来法よりもpH調整剤の添加量を低減できる。つまり、一般的な濁水処理装置・方法では、フロック形成のために無機凝集剤および高分子凝集剤を使用している。その際、特に無機凝集剤の適用範囲は中性域であるので、その範囲となるよう、凝集沈殿前に、希硫酸などのpH調整剤で濁水のpHを調整している。土粒子などの懸濁物質を多く含む濁水の中和には、懸濁物質のpH緩衝作用が働くため、多量のpH調整剤が必要になる。この点、本実施形態に係る濁水処理装置1および濁水処理方法では磁性粒子を添加するため、セメント濁水でもフロックの形成と沈殿が可能となる。従って、本実施形態に係る濁水処理装置1および濁水処理方法では、濁水がセメント濁水であり、かつ、濁水貯留槽2で測定される濁水のpHが9以上であっても、フロック形成前の濁水のpH調整を必要としない。本実施形態に係る濁水処理装置1および濁水処理方法では、フロック形成およびその沈殿によって得られた(すなわち、土粒子などの懸濁物質の少ない)上澄み水のみを排出規制値に合わせたpHに調整すればよく、pH調整剤の添加量およびコストを従来よりも大幅に減らすことができる。pH調整剤の添加量は、例えば、従来の1/6~1/3に減らすことができる。
【0046】
また、本実施形態に係る濁水処理装置1および濁水処理方法では、濁水がセメント濁水でない場合や濁水のpHが9未満の場合は磁性粒子を使用せず、濁水がセメント濁水であり、かつ、濁水貯留槽2で測定される濁水のpHが9以上の場合に磁性粒子を使用する。そして、本実施形態に係る濁水処理装置1および濁水処理方法では、濁水がセメント濁水であり、かつ、濁水貯留槽2で測定される濁水のpHが9以上の場合で磁性粒子が使用されたときに回収された汚泥に対して、磁性粒子と汚泥との分離のため、前記した回収手段8(回収ステップS10)を用いる。これにより、添加した磁性粒子を概ね全量回収することができ、再び凝集槽5(凝集ステップS7)に戻すことで繰り返し利用が可能となる。前記したように、濁水がセメント濁水でない場合や濁水のpHが9未満の場合は磁性粒子を使用せず、また、濁水がセメント濁水である場合や濁水貯留槽2で測定される濁水のpHが9以上の場合のみ磁性粒子を繰り返し利用するため、従来技術(例えば、特許文献4)よりも磁性粒子が喪失し難く、磁性粒子を補充するためのコストを低減できる。
【0047】
(変形例に係る濁水処理装置)
ここで、本実施形態に係る濁水処理装置1の一態様として、例えば、トンネル工事などのセメントを使用する工事に適用することが挙げられる。この場合、工事現場から生じる濁水はセメント濁水であり、かつpHは9以上となる。そのため、前述のように濁水貯留槽2でpHを測定したり、pH調整槽3でpHを調整したり、また、セメント濁水であるか否かや、pHが9以上であるか否かなどを判断したりすることなく、磁性粒子を添加して濁水の処理を行うことができる。つまり、この場合、本実施形態に係る濁水処理装置1において、濁水貯留槽2におけるpH測定ならびにpH調整槽3およびこれによるpH調整を省略してセメント濁水の処理を行うことができる。
【0048】
この場合における本実施形態に係る濁水処理装置1の構成としては、具体的には、濁水貯留槽2と、反応槽4と、凝集槽5と、沈殿槽6と、中和処理槽7と、回収手段8と、供給手段9と、を備えることが挙げられる。
これらのうち、反応槽4、凝集槽5、沈殿槽6、回収手段8および供給手段9は、前記した態様と同様である。また、反応槽4が無機凝集剤添加手段41および磁性粒子添加手段42を備える点も同様であり、無機凝集剤と磁性粒子とにより、セメント濁水中の懸濁物質を凝集させる点も同様である。
【0049】
なお、濁水貯留槽2では、前述したように、pHを測定しない。また、本態様においては、pH調整槽3は省略されている。また、本態様においては、セメント濁水のpHが9以上であるので、処理後の上澄み水のpHは排出規制値を外れる。そのため、本態様では、中和処理槽7において上澄み水に中和剤を供給して中和処理を行う。
本態様においても、前述した態様と同様に磁性粒子を用いてセメント濁水の処理を行う。従って、本態様においても同様に、磁性粒子を用いる最適な処理方法(pH範囲)と、濁水がセメント混じりでアルカリ性の場合に中和剤使用量の抑制方法とを実現できる。
【0050】
(変形例に係る濁水処理方法)
前記同様、本実施形態に係る濁水処理方法の一態様として、例えば、トンネル工事などのセメントを使用する工事に適用することが挙げられる。この場合、工事現場から生じる濁水はセメント濁水であり、かつpHは9以上となる。そのため、前述のように濁水貯留ステップS1でpHを測定したり、pH調整ステップS3でpHを調整したり、また、セメント濁水であるか否かや、pHが9以上であるか否かなどを判断したり(判断ステップS2)することなく、磁性粒子を添加して濁水の処理を行うことができる。つまり、この場合、本実施形態に係る濁水処理方法において、濁水貯留ステップS1におけるpH測定ならびにpH調整ステップS3およびこれによるpH調整を省略してセメント濁水の処理を行うことができる。
【0051】
この場合における本実施形態に係る濁水処理方法の構成としては、具体的には、濁水貯留ステップS1と、無機凝集剤添加ステップS4と、磁性粒子添加ステップS5と、反応ステップS6と、凝集ステップS7と、沈殿ステップS8と、中和処理ステップS9と、回収ステップS10と、供給ステップS11と、を有することが挙げられる。
これらのうち、無機凝集剤添加ステップS4、磁性粒子添加ステップS5、反応ステップS6、凝集ステップS7、沈殿ステップS8、回収ステップS10および供給ステップS11は、前記した態様と同様である。
【0052】
なお、濁水貯留ステップS1では、前述したように、pHを測定しない。また、本態様においては、判断ステップS2およびpH調整ステップS3は省略されている。また、本態様においては、セメント濁水のpHが9以上であるので、処理後の上澄み水のpHは排出規制値を外れる。そのため、本態様では、中和処理ステップS9において上澄み水に中和剤を供給して中和処理を行う。
本態様においても、前述した態様と同様に磁性粒子を用いてセメント濁水の処理を行う。従って、本態様においても同様に、磁性粒子を用いる最適な処理方法(pH範囲)と、濁水がセメント混じりでアルカリ性の場合に中和剤使用量の抑制方法とを実現できる。
【実施例0053】
次に、本発明に関する実施例について説明する。
(試験1)濁水のpHが凝集性能に及ぼす影響
フロックの沈降を促進させるための材料として磁性粒子を添加する場合、凝集沈殿の効果は濁水のpHに依存する。凝集沈殿に最適な濁水のpHを明らかにすることを目的としてジャーテストを実施した。試験には、トンネル掘削現場より排出されたpH12、濁度1900NTU(Nephelometric Turbidity Unit;比濁法濁度単位)の濁水(セメント濁水)を使用した。
【0054】
今回の検討では、上記の濁水500mLを分取し、5%希硫酸溶液を用いてpH7~12の範囲で調整した。pHを調整した濁水に無機凝集剤(70mg/L)を添加した後、ジャーテスタ(図示せず)で60秒間攪拌した。攪拌停止後、沈降を促進させる材料として磁性粒子を7.5g/Lおよび高分子凝集剤(0.5mg/L)を添加し、250rpmで30秒間の急速攪拌、150rpmで60秒間の緩速攪拌を行い、攪拌を停止した。攪拌停止から30秒後の上澄み溶液を採取し、濁度を測定した。濁度は、アズワン社製TBD700を用いて、波長860nmの吸光度を測定した。無機凝集剤は、ポリ塩化アルミニウム(PAC)(協和総業社製-液体)を使用した。高分子凝集剤は、タイポリマーTA-360(アニオン系)(大明科学工業社製-粉体)を使用した。磁性粒子は、エコメル53NJ(神戸製鋼所社製)を使用した。比較として、従来方法である磁性粒子未添加の試験も併せて実施した。試験結果を図4Aに示す。なお、図4Aは、濁水のpHが凝集性能に及ぼす影響を調べた試験結果を示すグラフである。図4Aは、磁性粒子、無機凝集剤および高分子凝集剤を添加した場合と従来方法の場合の結果を示している。
【0055】
従来方法である磁性粒子未添加(無機凝集剤、高分子凝集剤のみ添加)の場合、図4Aにおいて「×」でプロットしたように、pH7で濁度が18NTUであり、pHが上昇するに伴い濁度も高くなった。
一方、磁性粒子(ふるい分けにより粒径を45μm以下に調整)を添加した場合、図4Aにおいて「◆」でプロットしたように、pH9以上で濁度が12NTUとなり、磁性粒子未添加の場合と比較して濁度が低くなった。
【0056】
なお、上記と同様の操作で、磁性粒子のみを用いた(無機凝集剤および高分子凝集剤を用いない)場合における、濁水のpHが凝集性能に及ぼす影響を調べた。図4Bは、濁水のpHが凝集性能に及ぼす影響を調べた試験結果を示すグラフである。
図4Bは、磁性粒子のみを添加した場合と、磁性粒子、無機凝集剤および高分子凝集剤を添加した場合とを比較した結果を示している。なお、図4Bにおける後者の場合の試験結果(図4Bにおいて「◆」でプロットした試験結果)は、図4Aにおいて「◆」でプロットした試験結果と同じものである。
図4Bにおいて「●」でプロットしたように、磁性粒子のみでも濁水のpHが高くなるにつれ、濁度が低くなることが確認された。つまり、凝集剤を用いなくても磁性粒子のみでフロックを形成し得ることが確認された。
【0057】
(試験2)磁性粒子の粒径が混合効率に及ぼす影響
凝集沈殿過程において粒状の磁性粒子を混合した場合、比重の大きい磁性粒子は懸濁物質や薬剤(凝集剤)と十分に混ざり合わず、攪拌容器下部に滞留する可能性が懸念される。磁性粒子と濁水を十分に攪拌することができる磁性粒子の粒径範囲を調査するため、粒径の異なる磁性粒子を使用したジャーテストを実施した。
はじめに、ふるいを用いて磁性粒子を106μm超(ケース1)、106μm以下75μm超(ケース2)、75μm以下45μm超(ケース3)、45μm以下(ケース4)の4つの粒径区分に分級し、試験1と同様のジャーテストを実施した。試験2では、急速攪拌および緩速攪拌中に、図5に示す2か所のサンプリング位置、すなわち、攪拌容器上部および攪拌容器中部からそれぞれサンプリングを実施した。なお、図5は、試験2におけるサンプリング位置を説明する概要図である。
【0058】
そして、サンプリングした試料中の磁性粒子を、マグネットバー94(図9参照)を用いて回収・計量することにより、磁性粒子が濁水中に均一に攪拌されているか否かを確認した。図6Aおよび図6Bに試験結果を示す。なお、図6Aは、急速攪拌中の磁性粒子の存在量と粒径の関係を示すグラフである。図6Bは、緩速攪拌中の磁性粒子の存在量と粒径の関係を示すグラフである。
図6Aおよび図6Bにおいては、攪拌容器の上部および中部でサンプリングした磁性粒子の存在量が少ないほど、磁性粒子が攪拌容器下部に滞留していることを示している。なお、試験2においては、1Lの濁水に対して磁性粒子を7.5g添加しているので(7.5g/L)、「磁性体粒子存在量[wt%]=磁性体量[g]/濁水量[g]×100」で算出される磁性体粒子存在量は0.75wt%が最大値となる(図6Aおよび図6Bの破線参照)。
【0059】
特に、粒径106μm超の磁性粒子(ケース1)は、図6Aおよび図6Bに示すように、急速攪拌および緩速攪拌ともに殆どが下部に滞留した。
また、粒径106μm以下75μm超の磁性粒子(ケース2)は、図6Aに示すように、急速攪拌では約半量が濁水内で混合されているものの、図6Bに示すように、緩速攪拌になると、添加した磁性粒子を100%とした場合の約85%が沈殿した(すなわち、0.75wt%のうちの約85%が沈殿した)。
粒径75μm以下45μm超の磁性粒子(ケース3)は、図6Aに示すように、急速攪拌では添加した磁性粒子を100%とした場合の約90%が濁水内で攪拌されており、また、図6Bに示すように、緩速攪拌では添加した磁性粒子を100%とした場合の約70%が濁水内で攪拌されていた(すなわち、0.75wt%のうちの約70%が濁水内で攪拌されていた)。
粒径45μm以下の磁性粒子(ケース4)は、図6Aおよび図6Bに示すように、概ねすべてが均一に攪拌されていた。
【0060】
ここで、図7は、磁性粒子の粒径が処理水の濁度に及ぼす影響を示すグラフである。図7に示すように、粒径106μm超(ケース1)以外の条件(すなわち、ケース2~4)では処理水の濁度が10NTU以下となった。このことから、磁性粒子から粒径106μm超の粗粒分を取り除くことで、凝集効果が向上し得ることが示された。攪拌の均一性と処理水の濁度の2つの観点からみて、磁性粒子の粒径を106μm以下に調整すると好ましいことが示された。
【0061】
(試験3)pH調整剤の添加量
磁性粒子を用いることで、セメント濁水などのアルカリ性の濁水を凝集沈殿処理することが可能になる。このため、濁水の中和処理は不要となり、処理後の上澄み水を必要に応じて排出規制値に合わせてpH調整し、放流するだけでよくなる。
濁水をpH調整する場合には、土粒子などの懸濁物質のpH緩衝作用が働き、中和に多量のpH調整剤を要する。一方、処理後の上澄み水には懸濁物質が殆ど含まれていないため、濁水の中和と比較して、使用するpH調整剤が少なくなると考えられる。
そこで、試験1と同様のジャーテストの前後で濁水および処理後の上澄み水のpH調整を実施し、pH調整剤(5%希硫酸)の添加量を比較した。
【0062】
濁水または処理後の上澄み水1Lが、pH8.6に達するまでに添加した5%希硫酸の添加量を測定した。その結果を図8に示す。なお、図8は、濁水および処理後の上澄み水について、pH8.6に達するまでに添加した5%希硫酸の添加量を示すグラフである。
図8に示すように、処理後の上澄み水のpH調整を行った場合、濁水のpH調整と比較して希硫酸の添加量が大幅に減少した。上澄み水のpH調整剤の添加量は、濁水のpHが9の場合は約1/6となり、濁水のpHが12の場合は約1/3となった。
【0063】
(試験4)磁性粒子回収量の確認
凝集沈殿した懸濁物質から磁性粒子が磁石によって回収可能であることを確認するため、ジャーテスト試験後にマグネットバーを用いた磁性粒子回収試験を実施した。図9は、磁性粒子回収試験の方法を説明する説明図である。
図9(a)に示すように、ジャーテスト試験後に静置し、上澄み水91(処理水)と、凝集沈殿した、磁性粒子を含む懸濁物質92と、を分離させた。次いで、図9(b)に示すように、上澄み水91を廃棄し、凝集沈殿した懸濁物質の沈殿スラリー93に、マグネットセパレーターに使用されているものと同様の磁石(永久磁石)を使用したマグネットバー94を入れ、磁石に付着したもの(磁着物96)を回収した。なお、図9(b)に示すように、マグネットバー94は、磁石の周囲を覆うカバー95を有している。マグネットバー94は、カバー95から磁石を引き抜くことで磁性粒子に対する磁力の影響をなくすことができる。そのため、カバー95を介して磁力により引きつけられていた磁性粒子を含む磁着物96を脱離させ、回収することができる。
【0064】
回収直後の磁着物96(回収物)は水分を多く含んでいる。そのため、図9(c)に示すように、空容器97に回収物を入れ、真空乾燥を行った。その後、図9(d)に示すように、回収物の重量を測定した。その試験結果を表1に示す。なお、磁性粒子回収率および懸濁物質の巻き込み率は、以下の方法で算出した。
磁性粒子回収率[%]=(真空乾燥後の磁着物重量[g]/添加した磁性粒子重量[g])×100
懸濁物質の巻き込み率[%]={(真空乾燥後の磁着物重量[g]-添加した磁性粒子重量[g])/添加した磁性粒子重量[g]}×100
【0065】
【表1】
【0066】
磁性粒子回収率は概ね106%であった。この結果から、濁水中の懸濁物を約6%巻き込んだ状態ではあるものの、添加した磁性粒子は概ね100%回収されており、濁水側に残存しないことが示された。
砒素汚染泥水に磁性体(鉄粉)を添加して浄化処理を行った既往の検討において、泥水に添加した鉄粉を約200回繰り返し利用した際にも、概ね全量の鉄粉が回収されており、処理泥水側に流出しないことが確認されている(参考文献:高畑陽他:泥水式シールドから発生した砒素汚染泥水の鉄粉を用いる浄化技術の検討-小型磁選機と鉄粉再生技術を導入した実規模試験-,地盤工学ジャーナル,Vol.15,No.3,pp.479-486,2020.)。
【0067】
(試験5)セメント濁水とそうでない濁水との比較試験
セメント濁水とそうでない濁水(セメント未添加の濁水)とについて凝集沈殿試験を行い、その結果を比較した。
<試験方法>
1.表2および表3に示す濁水A、B、C100mLをそれぞれ各ビーカーに分取した。
2.各ビーカーに無機凝集剤(PAC)75mg/Lを添加し、30秒間攪拌した。
3.表2および表3に示す条件により、各ビーカーに鉄粉(磁性粒子)10g/Lを添加して、または鉄粉を添加しないで攪拌した後、高分子凝集剤1mg/Lを添加し、30秒間攪拌した。
4.1分間静置後、上澄みの濁度を測定した。
なお、濁度は、アズワン社製TBD700を用いて、波長860nmの吸光度を測定した。無機凝集剤は、ポリ塩化アルミニウム(PAC)(協和総業社製-液体)を使用した。高分子凝集剤は、タイポリマーTA-360(アニオン系)(大明科学工業社製-粉体)を使用した。磁性粒子は、エコメル53NJ(神戸製鋼所社製)を使用した。
【0068】
その結果を表2および表3ならびに図10に示す。なお、図10は、試験5における濁水A(現場発生原水)の凝集沈殿処理前の様子を示す写真(左図)、鉄粉を添加しないで凝集沈殿処理した場合の様子を示す写真(中央図)、および鉄粉を添加して凝集沈殿処理した様子を示す写真(右図)である。
表2および表3において、現場発生原水は、トンネル掘削(NATM工法)現場から採取したものである。現場発生原水には、セメントが混入している。模擬濁水は水道水に掘削ズリを10g/L(乾燥重量)混和して調製したものである。模擬濁水にセメントは添加されていない。模擬濁水には、表3に示すように、サンプルの条件により、現場発生原水と同程度のpHとするため2g/Lでセメントを添加した(表3の濁水B、C)。表2中の「-」は、現場発生原水には、もともとセメントが添加されているために、セメント未添加のデータがないことを示している。
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
表2の濁水B、Cから、濁水がセメントを含んでいない場合、鉄粉の有無による濁度の違いはほとんどなかった。
これに対し、表3の濁水A、B、Cから、セメントが含まれている濁水に対して鉄粉を添加すると濁度がより低くなることがわかった。このことから、セメントが含まれている濁水の方が、鉄粉を添加する効果がより得られることがわかった。また、このようにすると、より高度な浄化処理が可能であることがわかった。これは、図10からも明らかである。
【0072】
つまり、図10の左図に示すように、濁水A(現場発生原水)の凝集沈殿処理前は、全体的にひどく濁っていた。
これに対し、図10の中央図に示すように、凝集沈殿処理後の濁水(鉄粉無)は、かなり浄化され、上澄み水はかなりクリアになったが、目視で上澄みに微細な粒子が確認できた。
また、図10の右図に示すように、凝集沈殿処理後の濁水(鉄粉有)は、鉄粉が添加されていることにより、さらに浄化され、上澄み水はさらにクリアになった。凝集沈殿処理後の濁水(鉄粉有)は、上澄みにほぼ粒子は残っていなかった。
図10の右図に示す結果から、セメントが含まれている濁水に対して鉄粉を添加すると、上澄み水には懸濁物質がほとんど含まれない状態とできることから、土粒子などの懸濁物質のpH緩衝作用の働きがかなり弱くなり、pH調整剤の添加量を低減できる(図8参照)。
また、以上に説明したように、本発明によれば、磁性粒子を用いる最適な処理方法(pH範囲)と、濁水がセメント混じりでアルカリ性の場合に中和剤使用量の抑制方法とを実現できることが確認された。
【0073】
以上、本発明の実施形態および実施例について説明したが、本発明は、前述の実施形態および実施例に限られず、前記の各構成要素については本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能である。
【符号の説明】
【0074】
1 濁水処理装置
2 濁水貯留槽
21 pH測定器
3 pH調整槽
4 反応槽
41 無機凝集剤添加手段
42 磁性粒子添加手段
5 凝集槽
51 高分子凝集剤添加手段
6 沈殿槽
7 中和処理槽
71 pH測定器
8 回収手段
81 マグネットセパレーター
82 マグネットコア
83 外筒
84 ローラー
85 スクレーパー
9 供給手段
S1 濁水貯留ステップ
S2 判断ステップ
S3 pH調整ステップ
S4 無機凝集剤添加ステップ
S5 磁性粒子添加ステップ
S6 反応ステップ
S7 凝集ステップ
S71 高分子凝集剤添加ステップ
S8 沈殿ステップ
S9 中和処理ステップ
S10 回収ステップ
S11 供給ステップ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11