(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113362
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】アメリカンドッグ用ミックス粉及びバッター生地
(51)【国際特許分類】
A21D 10/00 20060101AFI20240815BHJP
A23L 7/157 20160101ALI20240815BHJP
A21D 13/60 20170101ALI20240815BHJP
【FI】
A21D10/00
A23L7/157
A21D13/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018294
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000188227
【氏名又は名称】松谷化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】鳥山 健太郎
【テーマコード(参考)】
4B025
4B032
【Fターム(参考)】
4B025LB07
4B025LG04
4B025LG07
4B025LG18
4B025LG26
4B025LG27
4B025LG28
4B025LG29
4B025LG54
4B025LK07
4B025LP01
4B025LP10
4B025LP20
4B032DB25
4B032DG02
4B032DG07
4B032DK03
4B032DK12
4B032DK14
4B032DK15
4B032DK17
4B032DK18
4B032DK40
4B032DL01
4B032DP08
4B032DP47
4B032DP80
(57)【要約】
【課題】アメリカンドッグは、店頭のホットストッカーで陳列販売されることが多く、手軽に喫食できる商品形態として広く好まれる。しかし、ホットストッカーで長時間保存すると、衣生地が硬くなって噛み切りにくくなる。本発明の目的は、ホットストッカーで保存した後にも歯切れと口溶けのよいアメリカンドッグを製造するためのミックス粉、同バッター生地、及びそれらを用いたアメリカンドッグ、そのアメリカンドッグの製造方法、並びにアメリカンドッグの食感劣化抑制方法を提供することにある。
【解決手段】ミックス粉又はバッター生地中に、エンドウ豆酸化澱粉、難消化性デキストリン及び還元難消化性デキストリンのうちいずれか一以上を対紛0.6~23質量%で含ませること、より好ましくは、さらに、そのエンドウ豆酸化澱粉と、難消化性デキストリン及び還元難消化性デキストリンのうちいずれか一以上とを、5:(1~10)の質量部比とすることにより、上記課題は解決される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンドウ豆酸化澱粉、難消化性デキストリン及び還元難消化性デキストリンのうちいずれか一以上を対紛0.6~23質量%で含む、アメリカンドッグ用ミックス粉。
【請求項2】
エンドウ豆酸化澱粉と、難消化性デキストリン及び還元難消化性デキストリンのうちいずれか一以上を、5:(1~10)の質量部比で含む、請求項1記載のアメリカンドッグ用ミックス粉。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のアメリカンドッグ用ミックス粉100質量部と、液体原料50~100質量部とが混合されてなる、アメリカンドッグ用バッター生地。
【請求項4】
請求項3記載のアメリカンドッグ用バッター生地で被覆された具材が油ちょうされてなる、アメリカンドッグ。
【請求項5】
エンドウ豆酸化澱粉と、難消化性デキストリン及び還元難消化性デキストリンのうちいずれか一以上を5:(1~10)の質量部比とし、これを対紛0.6~23質量%となるように配合してバッター生地を調製する工程と、そのバッター生地で具材を被覆する工程と、その具材を油ちょうする工程とを含む、アメリカンドッグの製造方法。
【請求項6】
エンドウ豆酸化澱粉と、難消化性デキストリン及び還元難消化性デキストリンのうちいずれか一以上を、5:(1~10)の質量部比とし、これを対紛0.6~23質量%となるように配合してバッター生地を調製する工程と、そのバッター生地で具材を被覆する工程と、その具材を油ちょうする工程とを含む、アメリカンドッグの食感劣化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主にアメリカンドッグ用のミックス粉及びバッター生地に関する。
【背景技術】
【0002】
アメリカンドッグは、串に刺したソーセージ等の具材を、小麦粉及び膨張剤を主成分として含むバッター液で被覆し、油ちょうして得られる食品である。アメリカンドッグは手軽に喫食できる形態であるため、公園、球場、神社、遊園地、高速道路サービスエリア、スーパー、コンビニエンスストアなどでホットストッカー(ホットショーケース、保温庫などともいわれる)に陳列されて販売されることが多い。しかし、ホットストッカー内に長時間保存すると衣が硬くなって噛み切りにくい、いわゆる「ヒキの強い食感」となるため、これを改善するための様々な提案がされている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ホットショーケースに保存しても良好な食感が維持されたアメリカンドッグを提供しようと、ミックス粉にβ-アミラーゼを含有させる手段が開示され、特許文献2には、時間の経過に伴う品質の低下が少ないアメリカンドッグの衣を形成するために、ミックス粉の一部に強力小麦粉を利用する手段が開示されている。また、特許文献3には、電子レンジ調理後に保温器に保管しても衣のクリスピー感が変わらないアメリカンドッグを提供しようと、小麦蛋白質を湿ふ換算で5重量%以下含有するバッターが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-99210号公報
【特許文献2】特開2013-59270号公報
【特許文献3】特開平04-042815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ホットストッカーに長時間保存しても食感が硬くならない、すなわちヒキの少ない食感のアメリカンドッグを得ることにあり、そのようなアメリカンドッグの衣を得るためのバッター生地及びミックス粉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らが鋭意検討したところ、エンドウ豆澱粉を原料とする酸化澱粉、難消化性デキストリン及び還元難消化性デキストリンから選ばれるいずれか一以上を含むバッター生地が、ホットストッカーに長時間保存されるアメリカンドッグの衣に適することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、上記知見に基づいて完成されたものであり、以下〔1〕~〔6〕のミックス粉、バッター生地、それらを用いて得られるアメリカンドッグ、そのアメリカンドッグの製造方法、及びアメリカンドッグの食感劣化抑制方法から構成される。
[1]エンドウ豆酸化澱粉、難消化性デキストリン及び還元難消化性デキストリンのうちいずれか一以上を対紛0.6~23質量%で含む、アメリカンドッグ用ミックス粉。
[2]エンドウ豆酸化澱粉と、難消化性デキストリン及び還元難消化性デキストリンのうちいずれか一以上を、5:(1~10)の質量部比で含む、上記[1]のアメリカンドッグ用ミックス粉。
[3]上記[1]又は[2]のアメリカンドッグ用ミックス粉100質量部と、液体原料50~100質量部とが混合されてなる、アメリカンドッグ用バッター生地。
[4]上記[3]のアメリカンドッグ用バッター生地で被覆された具材が油ちょうされてなる、アメリカンドッグ。
[5]エンドウ豆酸化澱粉と、難消化性デキストリン及び還元難消化性デキストリンのうちいずれか一以上を5:(1~10)の質量部比とし、これを対紛0.6~23質量%となるように配合してバッター生地を調製する工程と、そのバッター生地で具材を被覆する工程と、その具材を油ちょうする工程とを含む、アメリカンドッグの製造方法。
[6]エンドウ豆酸化澱粉と、難消化性デキストリン及び還元難消化性デキストリンのうちいずれか一以上を、5:(1~10)の質量部比とし、これを対紛0.6~23質量%となるように配合してバッター生地を調製する工程と、そのバッター生地で具材を被覆する工程と、その具材を油ちょうする工程とを含む、アメリカンドッグの食感劣化抑制方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のミックス粉又はバッター生地を利用すれば、ホットストッカーに長時間保存しても食感の劣化が少ないアメリカンドッグを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明にいう「アメリカンドッグ」とは、固形状の具材をバッター生地で被覆し、油ちょう(揚げ焼き含む)してなる食品である。中心部の具材となりうるものとしては、例えば、ソーセージ、ウインナーなどの畜肉練り製品、魚肉ソーセージなどが主流であるが、かまぼこ、ちくわなどの魚肉練り製品、サツマイモ、ジャガイモ、バナナといった野菜・果物類、チーズ、ゆで卵、餅、練り餡などもバリエーションの例として挙げられる。これらの形態や大きさはとくに問わず、串に刺すか刺さないかも問わないが、製造のしやすさ、食べやすさ、保存のしやすさから、目安として長さおおよそ1~20cm、2~15cm又は3~10cm程度のものが好ましい。
【0010】
本発明に用いる「エンドウ豆酸化澱粉」とは、エンドウ豆を原料とする澱粉に酸化剤である次亜塩素酸ナトリウムを反応させたものであり、澱粉の水酸基の一部がカルボキシル基(カルボニル基)に酸化されるとともに、澱粉の一部が切断されて低分子化したものである。本発明に用いるエンドウ豆酸化澱粉における酸化の程度に制限はないが、無水15%濃度の水懸濁液を90℃達温後50℃に冷却した時のBM型粘度計における粘度が50~1,000mPa・sのものが好ましく、100~600mPa・sのものがより好ましく、150~300mPa・sのものが最も好ましい。
【0011】
本発明において、このエンドウ豆酸化澱粉を、後述する難消化性デキストリン及び還元難消化性デキストリンとは併用せず単独有効成分として使用する場合、対紛3~15%、好ましくは対紛5~15%、より好ましくは5~10%として使用すればよい。一方、難消化性デキストリン又は還元難消化性デキストリンのいずれか一以上と併用する場合は、対紛0.5~15%、好ましくは対紛1~15%、より好ましくは対紛3~10%で使用すればよい。エンドウ豆酸化澱粉を用いると、ホットストッカーによる保存後にも良好な歯切れ感を保つことができるだけでなく、弾力感も維持することができる。
なお、本発明における「対紛%」とは、ミックス粉の原材料として使用する粉類、例えば、小麦粉、米粉、砂糖、糖類、デキストリン、難消化性デキストリン、還元難消化性デキストリン、食塩、粉末調味料、膨張剤、ガム類、コーンフラワー、パン粉、澱粉といった粉体原材料の総量に占める割合(質量%)である。
【0012】
本発明に用いる「難消化性デキストリン」は、澱粉を塩酸等の無機酸又はシュウ酸等の有機酸の存在下で120~200℃に加熱して得られる乾式澱粉分解物を、アミラーゼでさらに加水分解し、必要に応じて分画、脱色、脱塩などをして得られるものである。平均分子量は500から3000程度、好ましくは1400~2500であって、グルコース残基がα-1,4、α-1,6、β-1,2、β-1,3、β-1,6グルコシド結合しており、還元末端の一部はレボグルコサン(1,6-アンヒドログルコース)となった、分岐構造の発達したデキストリンである。難消化性デキストリンの市販品としては、「ファイバーソル2」(松谷化学工業株式会社製)などがある。
【0013】
本発明に用いる「還元難消化性デキストリン」は、難消化性デキストリンの水素化物であって、金属触媒の存在及び加圧条件の下、難消化性デキストリンに水素ガスを接触させて接触還元したものであって、例えば、ラネーニッケル等の存在下、80~120kg/cm2、120~140℃の条件で水素ガスを接触させて接触還元して得ることができる。還元難消化性デキストリンの市販品としては、ファイバーソル2H(以上、松谷化学工業株式会社製)がある。
【0014】
上述の難消化性デキストリン及び還元難消化性デキストリンは、いずれもアメリカンドッグ用のミックス粉又はバッター生地の原材料の一部として用いると、ホットストッカー保存後のアメリカンドッグ生地のヒキを防止して口溶け感を向上させるが、難消化性デキストリンより還元難消化性デキストリンのほうがその効果に優れる。
【0015】
本発明において、難消化性デキストリン及び/又は還元難消化性デキストリンは、エンドウ豆酸化澱粉と併用せず単独有効成分として用いる場合、対紛1~10%、好ましくは対紛2~8%、より好ましくは2~4%で使用するのがよい。一方、エンドウ豆酸化澱粉と併用する場合は、対紛0.1~8%、好ましくは対紛0.2~6%、より好ましくは2~4%で用いるとよい。難消化性デキストリン及び/又は還元難消化性デキストリンを用いると、ホットストッカーで保存した後にも良好な口溶け感が持続し、ヒキ感の少ないアメリカンドッグを提供することができる。
【0016】
本発明において、エンドウ豆酸化澱粉と、難消化性デキストリン及び/又は還元難消化性デキストリンとを併用する場合、その質量部比は、エンドウ豆酸化澱粉5質量部に対し、難消化性デキストリン及び/又は還元難消化性デキストリン1~10質量部であることが好ましく、2~10質量部又は2~4質量部であることがより好ましい。また、エンドウ豆酸化澱粉に、難消化性デキストリン及び/又は還元難消化性デキストリンを併用する場合、同質量部比をもって、対紛0.6~23%で用いるのが好ましく、対紛0.7~14%で用いることがより好ましい。
【0017】
本発明のバッター生地は、本発明のミックス粉に、おもに水、牛乳、油脂などの使用時に液状である原料を配合して調製されたものである。当該液体原料は、水、牛乳、油脂のほか、卵液、果汁、野菜汁、シロップなども使用することができる。本発明の組成物と当該液体との混合比はとくに問わないが、少なくとも中身の具材に付着しやすい粘度に調整することが好ましく、例えば、本発明のミックス粉100質量部に対し、液体50~100質量部、より好ましくは60~80質量部の割合で用いるのがよい。
【0018】
本発明のアメリカンドッグは、先述の具材を上述のバッター生地に浸漬等してバッター生地厚が2~6mm程度となるように具材表面全体を覆い、140~200℃程度に加熱された油に浸漬して数分間油ちょうすることによって、得られる。このアメリカンドッグは、ホットストッカー(例えば50~90℃)で長時間(例えば、30分から数時間)保存した後にも硬くならず、歯切れ及び口どけのよい食感を保持することができる。また、このアメリカンドッグは、油ちょう後に冷蔵又は冷凍で保存し、電子レンジ等による再加熱や後にも硬くならず、歯切れ及び口どけのよい食感を保持することができる。
【0019】
以下に本発明の実施形態を記載するが、これら実施例に限定されるものではない。
【実施例0020】
[各種澱粉等の効果の検討]
各種澱粉等を対紛5%で用いたバッター生地を調製し(表1)、表2の手順でアメリカンドッグを作製した。このアメリカンドックについて、表3の評価方法に従って試食評価を行った。評価結果を下の表4に示す。
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
加工澱粉のうちエンドウ豆酸化澱粉をアメリカンドッグのバッター生地に用いると、フライ直後だけでなくホットストッカー保存後も歯切れと口溶けが良好であった。また、難消化性デキストリン又は還元難消化性デキストリンをアメリカンドッグのバッター生地に用いたときにも、フライ直後だけでなくホットストッカー保存後も歯切れと口溶けは良好であったが、やや油っぽさがあった。
【0026】
[エンドウ豆酸化澱粉の添加量の検討]
エンドウ豆酸化澱粉を用いたときに、ホットストッカー保存後の歯切れと口溶けがもっとも良好であったため、その適切な配合量を検討することとした(表5)。アメリカンドッグの作製及び評価は、それぞれ上の表2及び3に従って行った。結果は表6に示す。
【0027】
【0028】
【0029】
エンドウ豆酸化澱粉を粉体原料中3~15質量部(対紛3~15%)で用いると、フライ直後だけでなくホットストッカー保存後にも歯切れ・口溶けは良好であった。また、粉体原料中5~15質量部(対紛5~15%)で用いると、口溶けはさらに良好となった。ただし、粉体原料中15質量部(対紛15%)で用いると、できあがりのアメリカンドッグはやや油っぽくなった。
【0030】
[組合せの検討]
先の試験の結果、難消化性デキストリン又は還元難消化性デキストリンを用いたときにも歯切れ・口溶けは良好であったため、エンドウ豆酸化澱粉にこれらを組合わせたときの効果について検討することとし(表7)、上の表2のアメリカンドッグの作製手順及び表3の評価方法に従い、作製したアメリカンドックの評価を行った。結果は表8に示す。
【0031】
【0032】
【0033】
エンドウ豆酸化澱粉(対粉5%)に対し、還元難消化性デキストリンを対粉1~10%で組み合わせて使用すると歯切れが向上し、対粉2~10%で組み合わせると口溶けが向上した。ただし、還元難消化性デキストリンを対粉10%で組み合わせると、できあがりのアメリカンドックは油っぽくなり(試験No.22)、対粉6~8%で組み合わせたときにもやや油っぽくなる傾向が見られた(試験No.20,21)。一方、難消化性デキストリンについては、エンドウ豆酸化澱粉(対粉5%)に対し、対粉2~4%で組み合わせると歯切れは還元難消化性デキストリンを組合わせたときと同様に向上したが、口溶けは、還元難消化性デキストリンを組合わせたときよりやや劣っていた。
【0034】
[ミックス粉の添加量の検討]
エンドウ豆酸化澱粉:還元難消化性デキストリン=100:40(質量部)の比で組み合わせたミックス粉を各量でバッター生地に配合したときの効果を検討した(表9)。アメリカンドッグの作製及び評価は、それぞれ上の表2及び3に従って行った。結果は表10に示す。
【0035】
【0036】
【0037】
エンドウ豆酸化澱粉:還元難消化性デキストリン=100:40(質量部)の比で組み合わせたミックス粉を対粉0.7%(エンドウ豆酸化澱粉が対紛0.5%+還元難消化性デキストリンが対紛0.2%)で使用すると、エンドウ豆酸化澱粉を対紛5%で使用したときと同等の効果が得られた(試験No.26)。また、同ミックス粉を対紛1.4%~21%(エンドウ豆澱粉が1~15%+還元難消化性デキストリン0.4~6%)の範囲で使用すると、さらに歯切れが向上したが、対粉21%以上で使用したときには、できあがりのアメリカンドックは油っぽくなっていた(試験No.31)。