(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113372
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】肥料組成物
(51)【国際特許分類】
C05G 1/00 20060101AFI20240815BHJP
A01G 7/06 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
C05G1/00 F
A01G7/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018305
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】591075467
【氏名又は名称】冨士色素株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】311007545
【氏名又は名称】GSアライアンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】森 良平
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA01
4H061BB21
4H061BB51
4H061BB60
4H061DD11
4H061EE70
4H061FF25
4H061GG18
4H061GG28
4H061GG41
4H061GG46
4H061HH07
4H061KK08
4H061KK09
4H061LL06
4H061LL25
(57)【要約】
【課題】栽培植物に取り込まれてその成長を促進し、かつ光照射によって当該栽培植物中から蛍光を発し得る肥料組成物を提供すること;並びに、そうした肥料組成物を用いて植物を効率的に栽培する方法を提供すること。
【解決手段】窒素含有酸化カーボン量子ドット100質量部、リン化合物0.1~1000質量部、及びカリウム塩0.1~100質量部を含有する肥料組成物;並びに、そうした肥料組成物を、植物及び/又は培地に供給する工程を備える、栽培方法。窒素含有酸化カーボン量子ドットは、含窒素官能基及びカルボニル基を有するグラフェン系量子ドットであることが好ましい。また、100質量部中の窒素原子量及び/又は酸素原子量が、0.1~60質量部であることが好ましい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素含有酸化カーボン量子ドット 100質量部、
リン化合物 0.1~1000質量部、及び
カリウム塩 0.1~100質量部
を含有する肥料組成物。
【請求項2】
前記窒素含有酸化カーボン量子ドットが、含窒素官能基及びカルボニル基を有するグラフェン系量子ドットである、請求項1記載の肥料組成物。
【請求項3】
前記窒素含有酸化カーボン量子ドット100質量部中に含まれる窒素原子の量が、0.1~60質量部である、請求項1又は2に記載の肥料組成物。
【請求項4】
前記窒素含有酸化カーボン量子ドット100質量部中に含まれる酸素原子の量が、0.1~60質量部である、請求項1又は2に記載の肥料組成物。
【請求項5】
前記リン化合物が、リン酸の誘導体である、請求項1又は2に記載の肥料組成物。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の肥料組成物を、0.001~90質量%の固形分濃度で含有する、水性肥料。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の肥料組成物を、植物及び/又は培地に供給する工程を備える、栽培方法。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の肥料組成物を、植物及び/又は培地に供給する工程、及び
前記植物に波長200~900nmの光を照射し、その際の該植物の発光状態に基づいて栽培環境を制御する工程
を備える、栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボン量子ドットを含有する肥料組成物、及びそうした肥料組成物を用いた栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、農業の効率化及び環境保全の観点から、カーボンナノチューブ(CNT)等のナノ炭素材料が注目を集めている。従来より、農作物を栽培・育成するために肥料が多用されて来たが、一般的な肥料は栽培対象の植物中に効率よく取り込まれるとは限らない。例えば汎用の天然肥料の多くは、微生物分解等を経た上でないと植物に吸収されない。硫安や硝安等の化学肥料は微生物分解を必要としないものの、水に溶解するとその浸透圧を大幅に高めるきらいがある。そのため、高濃度の液肥とすることができず、根や葉等に直接付与することも不可能である。土壌に付与した肥料の内、実際に植物中に取り込まれる量は、50%程度以下とも報告されている(例えば、非特許文献1)。結果として、植物に吸収されない肥料が利用されずに終わることとなる。
【0003】
未利用の肥料は、単に無駄になるだけでなく、降雨等による流出や大気中への放出等によって環境汚染を引き起こす場合がある。他の農薬、例えば殺虫剤、除草剤、抗菌剤等も同様である。ここで、肥料等の農薬がナノサイズであれば、植物の細胞と細胞との間を通り抜け易くなり、微生物による分解を受けずとも植物中に吸収され易くなると考えられる。さらに、根からだけでなく葉からも植物体内に取り込むことが可能となる。このようにして肥料が拡散消失する前に植物中に取り込まれれば、養分の利用率が向上し、収穫量を増大させることができる。こうした考えから、最近は各種のナノ炭素材料、特にカーボン量子ドットを農業用に活用する検討がなされ始めている(例えば非特許文献1、2)。
【0004】
ここで、量子ドットとは量子化学・量子力学に従うナノスケールの材料で、一般に0.5~100nm程度の平均直径を有する微粒子である。独特の光学特性を有するため、蛍光材料として検討され、発光素子やディスプレイ、さらには電池材料等の用途に活用されている(特許文献1~5)。農業分野においても、赤外光や紫外光を光合成に適する可視光へと変換する素子として検討されており、最近では肥料として用いる研究事例も報告されている。カーボン量子ドットはまた、殺菌剤等の農薬や、亜鉛、銅、鉄等のミネラル成分、組み換え用遺伝子等のキャリアーとしても検討されている。さらにはその蛍光特性故、植物体中からの蛍光等の状態を都度観測し、それを基に適切な育成環境を整備する新規栽培方法に使用し得る、有力な候補材料とも考えられている(非特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】再公表WO2016/129441号公報
【特許文献2】特開2017-43539号公報
【特許文献3】特開2017-165633号公報
【特許文献4】特表2017-538041号公報
【特許文献5】特開2021-111574号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】L. Zhu, et al.,Plants,2022年,11,511
【非特許文献2】J. Peralta-Videa, et al.,Processes,2020年,8,445
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、こうしたナノ炭素材料の農業への応用は検討の初期段階にあり、報告事例を見ても、効果や再現性が十分に確認されているとは言い難いものがある。例えば非特許文献2には、カーボン量子ドットを肥料として収穫量が増大したとの研究事例と共に、全生体重量が減少した事例も記載されている。報告事例の多くは研究室内での短期間の検討に基づくものであり、どのような種類のナノ炭素材料が実際に肥料として有用かは、未だ模索中の段階にある。生体中に取り込まれたカーボン量子ドットの蛍光なども、菌類等の生物について顕微鏡下で観察された段階に止まり、栽培植物中での蛍光が目視で観察される事例までは、報告されていない様子である。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決すべく、栽培植物に取り込まれてその成長を促進し、かつ光照射によって当該栽培植物体中から蛍光を発し得る肥料組成物を提供することを目的とする。本発明はまた、そうした肥料組成物を栽培植物に供給してその成長を促進し、さらには蛍光状態に基づいて栽培環境を制御し、植物を効率的に栽培する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記のような課題を解決すべく鋭意検討した結果、ナノ炭素材料として窒素含有酸化カーボン量子ドットを用い、これを特定量のリン化合物及びカリウム塩と組み合わせることで、栽培植物の育成に有用な肥料組成物が得られることを見出した。本発明者らはまた、これら肥料組成物により栽培・育成された植物は、生体内にカーボン量子ドットを取り込み、その結果、光照射によって蛍光を発することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、以下の(1)~(8)を提供する。
(1)窒素含有酸化カーボン量子ドット 100質量部、
リン化合物 0.1~1000質量部、及び
カリウム塩 0.1~100質量部
を含有する肥料組成物。
(2)前記窒素含有酸化カーボン量子ドットが、含窒素官能基及びカルボニル基を有するグラフェン系量子ドットである、上記(1)の肥料組成物。
(3)前記窒素含有酸化カーボン量子ドット100質量部中に含まれる窒素原子の量が、0.1~60質量部である、上記(1)又は(2)の肥料組成物。
(4)前記窒素含有酸化カーボン量子ドット100質量部中に含まれる酸素原子の量が、0.1~60質量部である、上記(1)~(3)のいずれかの肥料組成物。
(5)前記リン化合物が、リン酸の誘導体である、上記(1)~(4)のいずれかの肥料組成物。
(6)上記(1)~(5)のいずれかの肥料組成物を、0.001~90質量%の固形分濃度で含有する、水性肥料。
(7)上記(1)~(5)のいずれかの肥料組成物を、植物及び/又は培地に供給する工程を備える、栽培方法。
(8)上記(1)~(5)のいずれかの肥料組成物を、植物及び/又は培地に供給する工程、及び
前記植物に波長200~900nmの光を照射し、その際の該植物の発光状態に基づいて栽培環境を制御する工程
を備える、栽培方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の肥料組成物は、栽培植物中に効率的に取り込まれてその成長を促すことができる。その結果、養分の利用率が向上して収穫量の増大に繋がり得るので、農業の効率化が可能となる。未利用肥料の流出・散逸による、周辺環境の汚染も低減することができる。また、栽培する植物体中に取り込まれた後、光照射によって蛍光を発し得るので、その発光状態から当該植物の状態を都度モニターし、それに応じて栽培環境を制御することにより、植物を効率的に栽培することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1、並びに比較例1及び2における栽培植物の成長状態を示す写真図である。
【
図2】実施例2及び比較例2において、栽培植物に紫外光を照射した際の蛍光の状態を示す写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の代表的な実施形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
≪肥料組成物≫
本実施形態は、窒素含有酸化カーボン量子ドット 100質量部、
リン化合物 0.1~1000質量部、及び
カリウム塩 0.1~100質量部
を含有する肥料組成物である。
【0015】
本実施形態の肥料組成物は、肥料の三要素とも呼ばれる窒素、リン、及びカリウムを全て含むため、栽培植物の育成に有用である。また、窒素分がカーボン量子ドット中の成分であるため、微生物による分解を受けなくてもナノオーダーのサイズを有する。それ故、植物の細胞間を容易に通り抜けて吸収され得る。さらに、硫安等のような塩ではないので、液体肥料の浸透圧を大幅に高めることがない。そのため、高濃度の肥料として栽培植物に付与することができ、また、根だけでなく葉から植物中に取り込ませることも可能である。しかもカーボン量子ドットとしての光学特性を示すため、植物体内に取り込まれた後にも、外部からの光照射に反応して蛍光を発する。この特性を利用して、蛍光の状態からその時々の栽培植物の状態を判定し、それに応じて栽培環境を整えることも可能である。このように、本実施形態の肥料組成物は、農業の効率化に大きく寄与し得る。以下、肥料組成物の主要成分について説明する。
【0016】
<窒素含有酸化カーボン量子ドット>
窒素含有酸化カーボン量子ドットとは、窒素原子及び酸素原子を含有するカーボン量子ドットである。一般に0.5~100nm程度の直径を有し、π結合に起因する発光特性を示す。窒素含有酸化カーボン量子ドットは、冨士色素株式会社やGSアライアンス株式会社等から市販されているが、カーボン量子ドットやグラファイト等の酸化及び窒素化によるトップダウン法、あるいは窒素化合物及び含酸素有機化合物等の低分子化合物から水熱反応等によって合成するボトムアップ法等の手法で、製造することもできる。
【0017】
〔カーボン量子ドット〕
ここでカーボン量子ドットについて説明すると、これはSP2結合の炭素を主体とする6角形格子構造を有する、ナノスケールの材料である。例として、(狭義の)グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー等が挙げられるが、これらに限定されない。尚、これらカーボン材料は、いずれもグラフェン構造を有するため、広義のグラフェンに包含される。以下では、特記しない限り、「グラフェン」をCNTやフラーレン等をも包含する広義の意味にて使用する。
【0018】
カーボン量子ドットは、シグマ-アルドリッチ社、冨士色素株式会社、GSアライアンス株式会社、フナコシ株式会社、キシダ化学株式会社等から市販もされている。また、化学気相成長法(CVD)、炭素ターゲットをレーザーアブレーション(laser ablation)して化学処理する方法、煤や炭素繊維、グラファイト酸化物等を化学処理する方法、さらには低分子化合物を用いた上記のようなボトムアップ法によって製造することも可能である。
【0019】
〔トップダウン法〕
窒素含有酸化カーボン量子ドットは、例えば上記のようなカーボン量子ドットを酸化及び窒素化する、トップダウン法によって製造することができる。出発原料として、より安価なグラファイトを用いることも可能である。例えば特許文献3に記載されているように、グラファイトを酸化してカルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、カルボニル基等の含酸素官能基を導入し、次いで層間剥離することにより、先ずは酸化グラフェンを調製することができる。酸化には、濃硝酸、塩素酸ナトリウム/発煙硝酸、過マンガン酸カリウム/濃硫酸、重クロム酸カリウム/濃硫酸、オゾン、過酸化水素等の酸化剤を用いればよい。尚、酸化カーボン量子ドットは、これらカルボキシ基等の含酸素官能基を有するカーボン量子ドットである。上記とは別に、特許文献4に記載されているように、炭素繊維等を電気化学的に酸化切断することによって、酸化グラフェンを製造することもできる。
【0020】
上記のようにして得られた酸化グラフェンを、次に窒素化合物と反応させることにより、窒素含有酸化カーボン量子ドットを製造することができる。例えば特許文献3記載のように、窒素化合物を溶解させた水溶液に酸化グラファイトを分散させ、加圧下にて100~200℃程度の温度で処理すればよい。窒素化合物としては、尿素、アンモニア、チオ尿素、ヒドラジン、硝酸エステル、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、ヒドロキシルアミン、ピリジンN-オキシド、N-ヒドロキシルアルキレンイミン、アジ化ナトリウム、ナトリウムアミド、カルボン酸アジド;メチルアミン、エチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、tert-ブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン等のアルキルアミン、及びそれらのハロゲン酸塩;エチレンジアミン、プロパンジアミン等のジアミン類等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0021】
〔ボトムアップ法〕
窒素含有酸化カーボン量子ドットはまた、上記水熱合成のようなボトムアップ法によっても製造することができる。ボトムアップ法は、低分子化合物を原料として分子を組み上げていく製造方法であり、目的物を高収率で再現性よく簡便に合成できる利点がある。窒素含有酸化カーボン量子ドットの製造に用いる原料、手法、及び条件に特に制限はないが、例えば特許文献1及び2に記載されたような方法を用いることができる。これら特許文献には、含酸素有機化合物と窒素化合物とを、高温・高圧に加熱して反応させる製造方法が記載されている。
【0022】
(含酸素有機化合物)
原料とする含酸素有機化合物に特に制限はなく、酸素原子を有する有機物であれば、どのような化合物を使用することもできる。好ましくは、特許文献1及び2に記載されたような、種々の有機酸及び糖類が挙げられる。これら有機化合物は多くが生体にとって安全な物質であり、肥料組成物用成分の原材料として適切である。また、水熱合成によって窒素含有酸化カーボン量子ドットを効率よく生成することも可能である。複数種の含酸素有機化合物を、併用してもよい。
【0023】
有機酸の種類にも、特に制限はない。例として、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、ヒドロキシ酪酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、γ-ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、グリセリン酸、グルコン酸、グルクロン酸、及びシキミ酸等の脂肪族ヒドロキシカルボン酸;サリチル酸、クレオソート酸、バニリン酸、シリング酸、ピロカテク酸、レソルシル酸、プロトカテク酸、ゲンチジン酸、オルセリン酸、没食子酸、マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸、ケイヒ酸、メリロト酸、フロレト酸、クマル酸、ウンベル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、及びシナピン酸等の芳香族ヒドロキシカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、イタコン酸等の多価カルボン酸;さらにはアスコルビン酸等が挙げられるが、これらに限定されない。上記の内でも、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等のようなヒドロキシ多価カルボン酸からは、窒素含有酸化カーボン量子ドットを特に容易に製造することができる。
【0024】
糖類にも特に制限はなく、単糖類、例えばグリセルアルデヒド、エリトロース、トレオース、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、アロース、タロース、グロース、グルコース、アルトロース、マンノース、ガラクトース、及びイドース等のアルドース;ジヒドロキシアセトン、エリトルロース、キシルロース、リブロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、及びタガトース等のケトース;二糖類、例えばスクロース(ショ糖)、ラクツロース、ラクトース(乳糖)、マルトース(麦芽糖)、トレハロース、及びセロビオース等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
(窒素化合物)
窒素化合物の種類にも特に制限はなく、上記したトップダウン法の原料である尿素、アンモニア、硝酸ナトリウム等の窒素化合物を用いることができる。複数種の窒素化合物を併用してもよい。好ましくは、アミノ基を有する有機化合物を使用する。例えば有機アミン化合物やアミノ酸等を用いることにより、植物育成効果が大な、あるいは植物体中で強い蛍光を発揮し得る窒素含有酸化カーボン量子ドットを製造することができる。
【0026】
アミノ基を有する有機化合物の種類に、特に制限はない。例として、ヘキシルアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン等の脂肪族モノアミン;エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン;フェニレンジアミン等の芳香族アミン;さらにはアミノ基含有ポリエチレングリコール、アミノ基含有ポリプロピレングリコール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
ここで、製造した窒素含有酸化カーボン量子ドット中に万が一でも原材料が残存する可能性を考慮すると、窒素化合物としてアミノ酸を使用することが好ましい。アミノ酸であれば、たとえ未反応のまま生成物中に残存したとしても、栽培植物や周辺環境に害となるおそれは低い。アミノ酸の種類にも特に制限はなく、例えばグリシン、アラニン、バリン、フェニルアラニン、スレオニン、リシン、アスパラギン、アルギニン、トリプトファン、セリン、グルタミン酸、アスパラギン酸、オルニチン、チロキシン、システイン、シスチン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、チロシン、グルタミン、ヒスチジン、メチオニン、トレオニン等を使用することができる。
【0028】
(水熱反応)
上記のような含酸素有機化合物と窒素化合物とを反応させることによって、窒素含有酸化カーボン量子ドットを製造することができる。反応は常圧下で行うこともでき、また、その際の溶媒等に特に制限はないが、高温・高圧条件下にて水中で反応させる、すなわち水熱合成法によることが好ましい。水熱反応によれば、窒素含有酸化カーボン量子ドットを、より高収率で再現性よく簡便に合成することが可能となる。
【0029】
水熱反応の条件に特に制限はないが、例えばオートクレーブを使用し、100~500℃、中でも120~300℃、特に150~200℃程度の温度で、概ね200kPa~2MPa、特に500kPa~1MPa程度の圧力下、1分間~72時間、特に1~12時間程度反応させることが好ましい。特許文献1に記載されたように、酸触媒を添加してもよい。酸触媒の例としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸;p-トルエンスルホン酸を始めとするスルホン酸等の有機酸;カチオン性のイオン交換樹脂、イオン交換膜等の固体酸触媒が挙げられるが、これらに限定されない。ここで、固体酸触媒としては、例えば特許文献1で例示されたような市販品を用いることもできる。また、触媒としてリン酸を用い、後記するリン化合物の混合操作を省略することも可能である。
【0030】
〔窒素含有酸化カーボン量子ドットの形態〕
窒素含有酸化カーボン量子ドットは、上記したように窒素原子及び酸素原子を含有するカーボンナノ材料であればどのようなものであってもよく、その種類に特に制限はない。例えば、窒素原子と酸素原子とを含有する(狭義の)グラフェン、カーボンナノチューブ(CNT)、フラーレン、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー等であってもよい。窒素原子及び酸素原子の化学形態にも、特に制限はない。
【0031】
栽培植物の成長促進の観点からは、窒素含有酸化カーボン量子ドットが、含窒素官能基及びカルボニル基を有するグラフェン系量子ドットであることが好ましい。ここで、「グラフェン系」とは前述の広義のグラフェンを意味し、(狭義の)グラフェンの他にCNTやカーボンナノファイバー等をも包含する。また、「カルボニル基」も広義の意味であり、ケトンやアルデヒド中のカルボニル基だけでなく、カルボン酸やその塩等の誘導体中のカルボキシ基、エステル基、酸無水物基、アミド基等、C=O構造を有する官能基全てを包含する。窒素含有酸化カーボン量子ドットは、より好ましくは含窒素官能基及びカルボニル基を有する(狭義の)グラフェン及び/又はCNT、特に狭義のグラフェンである。
【0032】
(粒子径)
窒素含有酸化カーボン量子ドットの平均粒子径(直径)にも特に制限はなく、例えば一般的なカーボン量子ドットの平均的なサイズである、0.5~100nm程度とすることができる。尚、「直径」と表記したが、これは窒素含有酸化カーボン量子ドット粒子の中心からではなく端から端までの差し渡しを表すものである。すなわち、窒素含有酸化カーボン量子ドットは球体でなくてもよく、例えば円盤状や回転楕円体、さらには不規則な多角形等の形状であってもよい。栽培植物中に取り込まれ易い点からは、窒素含有酸化カーボン量子ドットの平均粒子径は1.0~50nm程度、中でも1.5~20nm程度、特に2.0~10nm程度であることが好ましい。
【0033】
(窒素・酸素の形態)
窒素含有酸化カーボン量子ドット中の窒素原子及び酸素原子の形態にも、特に制限はない。栽培植物の成長促進の観点からは、窒素原子及び酸素原子はそれぞれ、少なくとも一部が上記のように含窒素官能基及びカルボニル基として含まれていることが好ましい。含窒素官能基に特に制限はなく、例えばアミノ基、イミノ基、アミド基等であってもよく、また、グラフェン構造中に取り込まれていてもよい。カルボニル基も、上記のようにケトン基、アルデヒド基、カルボキシ基、エステル基、酸無水物基、アミド基等、どのような形態であってもよい。特に、アミノ基、イミノ基、カルボキシ基、及び/又はアミド基の形態であれば、窒素含有酸化カーボン量子ドットはさらに水への親和性に優れ、栽培植物にも吸収され易くなる利点がある。
【0034】
(窒素・酸素量)
窒素含有酸化カーボン量子ドット中の窒素原子量及び酸素原子量にも、特に制限はない。例えばメラミンの類似構造が形成されて、窒素含有酸化カーボン量子ドット100質量部中に含まれる窒素原子の量が60質量部を超えるようなものであってもよい。窒素原子量が大であれば、その分窒素肥料としての効果は大となり得る。
【0035】
カーボン量子ドットとしての特性、及び合成の容易さを考慮すると、窒素含有酸化カーボン量子ドット100質量部中に含まれる窒素原子の量は、0.1~60質量部、中でも0.5~40質量部、特に2~25質量部程度であることが好ましい。同様に、窒素含有酸化カーボン量子ドット100質量部中に含まれる酸素原子の量も、0.1~60質量部、中でも0.3~30質量部、特に0.5~15質量部程度であることが好ましい。尚、カーボン量子ドットの光学特性を発現させる観点からは、窒素原子と酸素原子の合計量は、窒素含有酸化カーボン量子ドット100質量部に対して1~60質量部程度、中でも2~40質量部程度、特に10~30質量部程度であることが好ましい。
【0036】
上記のような窒素原子量・酸素原子量は、窒素含有酸化カーボン量子ドット製造時の原料比率や反応条件を変化させることによって調整することができる。例えば特許文献1及び2等を参照し、含酸素有機化合物:窒素化合物の比率を10:1~1:10、より好ましくは5:1~1:5、特に3:1~1:3程度の範囲で変動させることにより、所望の窒素原子量及び酸素原子量を有する窒素含有酸化カーボン量子ドットを製造することが可能である。
【0037】
<リン化合物>
本実施形態の肥料組成物は、リン化合物を、窒素含有酸化カーボン量子ドット100質量部に対して0.1~1000質量部含有する。前述のようにリンは窒素及びカリウムと共に肥料の三要素とも呼ばれる重要な元素であり、リン化合物の含有によって植物育成効果を顕著に向上させることができる。
【0038】
リン化合物の形態に、特に制限はない。例としてリン酸、亜リン酸、次リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、トリメタリン酸、テトラメタリン酸、ピロ亜リン酸、ポリメタ亜リン酸、モノ過リン酸、及びジ過リン酸、並びにそれらの金属塩、アンモニウム塩、エステル、さらには窒素等との化合物が挙げられるが、これらに限定されない。複数種のリン化合物を使用してもよい。ここで、リン化合物がリン酸の誘導体であると、栽培植物の成長促進効果を特に高めることができる。特に、正リン酸及びその塩、並びにそれらの誘導体が好ましい。
【0039】
これらリン化合物はまた、その一部又は全部が窒素含有酸化カーボン量子ドット中の官能基と反応していてもよく、窒素含有酸化カーボン量子ドット中にドープ又は担持されていてもよい。リン化合物をドープすることにより、窒素含有酸化カーボン量子ドットの光学特性を変化させることも可能となる。例えば、通常は紫外光照射によって青色~青紫色の蛍光を発する窒素含有酸化カーボン量子ドットを、紫外光あるいはより長波長の光照射によって例えば赤色の蛍光を発する量子ドットとすることができる。
【0040】
肥料組成物におけるリン化合物の量は、好ましくは窒素含有酸化カーボン量子ドット100質量部に対して1~500質量部、より好ましくは10~200質量部、さらに好ましくは20~150質量部、特に好ましくは30~100質量部である。また、窒素含有酸化カーボン量子ドット中の炭素原子:リン原子のモル比が、例えば1:10~100:1、中でも1:2~50:1、さらには1:1~20:1、特に3:1~10:1であることが好ましい。
【0041】
<カリウム塩>
本実施形態の肥料組成物はさらに、カリウム塩を、窒素含有酸化カーボン量子ドット100質量部に対して0.1~100質量部含有する。カリウム塩もまた、植物育成効果を顕著に向上させ得る。
【0042】
カリウム塩の種類に特に制限はなく、種々の公知のものを使用することができる。例として塩化カリウム、硝酸カリウム、硫酸カリウム、硫酸水素カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カリウムナトリウム等の無機塩;酢酸カリウム、プロピオン酸カリウム、シュウ酸カリウム、酒石酸カリウム、ステアリン酸カリウムを始めとする長鎖カルボン酸カリウム、安息香酸カリウム、サリチル酸カリウム、スルホン酸カリウム等の有機塩等が挙げられるが、これらに限定されない。リン酸カリウムやリン酸水素カリウムとして、上記リン化合物との一体物の形で配合することもできる。また、窒素含有酸化カーボン量子ドット中のカルボキシ基やリン酸と、塩を形成していてもよい。併用する窒素含有酸化カーボン量子ドットやリン化合物の種類にもよるが、肥料組成物のpHを6~7前後に調整する観点からは、炭酸カリウムやカルボン酸カリウム等の弱酸塩が好ましい。
【0043】
肥料組成物におけるカリウム塩の量は、好ましくは窒素含有酸化カーボン量子ドット100質量部に対して1~80質量部、より好ましくは2~50質量部、特に好ましくは5~30質量部である。また、窒素含有酸化カーボン量子ドット中の炭素原子:カリウム原子のモル比が、例えば1:1~100:1、中でも10:1~50:1、特に20:1~30:1であることが好ましい。
【0044】
<肥料組成物の調製>
上記のような窒素含有酸化カーボン量子ドット、リン化合物、及びカリウム塩をそれぞれ規定量にて混合することにより、本実施形態の肥料組成物を調製することができる。混合方法に特に制限はなく、例えば各成分をドライブレンドしてもよく、水中に分散又は溶解させた上で混合してもよい。特に、水熱合成法の場合は窒素含有酸化カーボン量子ドットが水性分散液の形で得られるので、これにリン化合物やカリウム塩又はその水溶液を混合すればよい。上記したように、水熱合成時の触媒としてリン酸を使用することにより、肥料組成物中にリン化合物を導入することもできる。カリウム塩についても同様に、水熱合成の段階から配合しておくことが可能である。尚、カリウム塩もリン化合物と同様、窒素含有酸化カーボン量子ドット中にドープ又は担持されてもよい。
【0045】
本発明は特定の理論により限定されるものではないが、本実施形態が効果を奏する理由として、窒素、リン、カリウムといった肥料の三要素がバランスよく含有されていることと共に、窒素分が窒素含有酸化カーボン量子ドットというナノサイズのカーボン材料中に含まれていることが考えられる。ナノサイズであるために植物の細胞間を通り抜けて取り込まれ易く、また、硫安等のように浸透圧を大幅に高めることもないので、根からの吸収も容易となる。しかも溶液というより分散液の形態であるため、培地に付した肥料が降雨等で流出する無駄も抑制し得る。特に、リン化合物やカリウム塩が窒素含有酸化カーボン量子ドット中にドープ又は担持されている場合、これら成分も窒素分と共に植物中に取り込まれ易くなり得る。栽培植物の根だけでなく、葉から吸収させることも可能である。そのため、肥料の散逸による無駄や環境汚染を低減することもできる。
【0046】
<他成分>
本実施形態の肥料組成物にはまた、上記した成分の他に、汎用の天然肥料や化学肥料、例えば硫安(硫酸アンモニウム)、硝安(硝酸アンモニウム)、リン酸アンモニウム、過リン酸石灰、熔性リン肥;カルシウム、マグネシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛、ニッケル、ホウ素等のミネラル分;除草剤、殺虫剤、殺菌剤、抗菌剤、殺鼠剤、pH調整剤等の肥料以外の農薬;さらには組み換え用遺伝子等を追加成分として含有させることもできる。これら追加成分は、窒素含有酸化カーボン量子ドット中に担持されていてもよい。
【0047】
本実施形態の肥料組成物は、水やグリセリン等に分散・溶解させた液状物であってもよい。特に、溶媒として水を主体とする、水性肥料であることが好ましい。本発明はまた、上記の肥料組成物を0.001~90質量%の固形分濃度で含有する、水性肥料を包含する。水性肥料中の固形分濃度は、好ましくは0.01~50質量%、特に好ましくは0.1~30質量%である。前述のように、本実施形態の肥料組成物は植物中に葉を介して吸収させることもできるが、その場合、固形分濃度は0.01~20質量%、特に0.1~10質量%と、幾分低めにすることが好ましい。
【0048】
≪栽培方法≫
上記実施形態の肥料組成物を使用すれば、前述のように農業の効率化や環境汚染の低減に繋げることができる。本発明はまた、上記の肥料組成物を植物及び/又は培地に供給する工程を備える、栽培方法を包含する。上記実施形態の肥料組成物は、固体状・粉体状の肥料として土壌等の培地に供給してもよく、また、水性肥料として培地や水耕栽培用の養水、さらには植物体に直接供給することもできる。例えば栽培植物の葉周辺に水性肥料を付与し、肥料中の養分の殆どを植物体内に吸収させることも可能である。
【0049】
上記実施形態の肥料組成物は、前述のように栽培植物に吸収され易いので、主成分の一つである窒素含有酸化カーボン量子ドットが植物体内に容易に取り込まれる。そのため、上記実施形態を用いて栽培された植物は、外部から光が照射されると、量子ドットに起因する蛍光を発し得る。例えば、紫外光が照射されて、青色~青紫色の蛍光が発せられる場合がある。そのため、栽培した植物体に特定波長の光を照射し、その際の発光状態から肥料の取り込まれ具合を評価することも可能である。
【0050】
ここで、量子ドットが反応する照射光の波長、及び発せられる蛍光の波長は、窒素含有酸化カーボン量子ドットの種類と、それを取り込んだ植物の状況に依存する。例えばリン化合物を多量にドープした窒素含有酸化カーボン量子ドットは、紫外光又はより長波長の光照射により、赤色の蛍光を発する場合がある。また、栽培植物が栄養不良や温度・湿度条件の変調等によってストレスを受けると、植物体内で過酸化水素や一酸化窒素等が発生し、これらが窒素含有酸化カーボン量子ドットに結合して蛍光が弱まる、あるいは蛍光の波長が変化する場合がある(非特許文献1)。この現象を、収穫量の増大、農業の効率化に活用することもできる。例えば、蛍光の状態から栽培植物の状態を都度モニターし、それに応じて栽培環境を制御することにより、栽培植物を効率的に育成することも可能となる。
【0051】
本発明はまた、上記の肥料組成物を、植物及び/又は培地に供給する工程、及び当該植物に波長200~900nm、特に250~500nmの光を照射し、その際の該植物の発光状態に基づいて栽培環境を制御する工程を備える、栽培方法も包含する。ここで、照射する光の波長は、成分とする窒素含有酸化カーボン量子ドットの種類に応じて選定すればよい。例えば、リン化合物等が殆どドープされていない窒素含有酸化カーボン量子ドットは、多くの場合紫外光に反応して蛍光を発するので、波長が280~460nm、特に320~400nm程度の光を照射すればよい。一例として、365nm前後の波長の光を発する、汎用の市販紫外線ランプを使用することができる。また、リンが多量、例えば0.1~30.0質量%程度ドープされた窒素含有酸化カーボン量子ドットの場合は、例えば波長が320~480nm、特に340~440nm程度の光を照射すればよい。
【0052】
上記実施形態の肥料組成物を用いて植物を栽培する際には、窒素含有酸化カーボン量子ドット中に組み換え用の遺伝子等を担持させて植物体中に運び込むことも可能である。このように本発明の肥料組成物及び栽培方法によれば、肥料中の養分利用率の向上や蛍光に基づく栽培環境の調整、さらには栽培植物の改変等を通じて農作物の収穫量を増大させ、農業の効率化を図ると共に、未利用肥料の流出・散逸による環境汚染を抑制することができる。
【実施例0053】
以下、本発明を、実施例に基づきより具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本明細書に開示され、また添付の請求の範囲に記載された、本発明の概念及び範囲の理解を、より容易なものとする上で、特定の態様及び実施形態の例示の目的のためにのみ記載するのであって、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
[実施例1]
窒素含有酸化カーボン量子ドットとしてGSアライアンス株式会社製のGS QD Graphene-F in Water(リン酸触媒の水熱合成による窒素含有酸化グラフェン、C:N:P2O5質量比≒46:14:40、C:N:Pモル比≒72:18:10、固形分約20%の水性分散液)を用い、肥料組成物を調製した。1.00gのGS QD Graphene-F in Waterを水で希釈して100mlとし、ここにK2CO3を12mg添加し、溶解させた後、十分に撹拌して水性肥料とした(窒素含有酸化カーボン量子ドット中の炭素原子:リン原子:カリウム原子のモル比≒100:14:4)。
【0055】
得られた水性肥料に紙を浸し、この紙をシャーレの上に配置した。その上に水菜を播種して室温で放置し、48時間後に観察及び写真撮影を行った。撮影結果を、
図1に示す。水菜は順調に発芽し、成長していたことが分かる。
【0056】
[比較例1]
水性肥料の代わりに水道水を使用し、実施例1と同じ操作を行った。播種から48時間後に観察したところ、水菜は辛うじて発芽はしていたものの、殆ど成長していなかった(
図1)。
【0057】
[比較例2]
水性肥料として市販の窒素、リン、カリウム含有肥料(紀陽除虫菊株式会社製の家庭園芸用複合肥料)を用い、これを500分の1に希釈して、実施例1と同様の操作を行った。播種から48時間後に観察したところ、水菜が順調に発芽し、成長していた(
図1)。
【0058】
尚、実施例1、並びに比較例1及び2は、同一環境下で同時に実施し、写真撮影を行った(
図1)。
図1より、本発明に従う肥料組成物によって栽培植物の成長が促進されること、及びその効果は市販の汎用化学肥料以上であることが明らかとなった。
【0059】
[実施例2]
窒素含有酸化カーボン量子ドットとしてGSアライアンス株式会社製のGS QD Graphene in Water(リン酸触媒の水熱合成による窒素含有酸化グラフェン、C:N:P2O5質量比≒43:16:41、C:N:Pモル比≒68:21:11、固形分約20%の水性分散液)を用い、実施例1と同様にして水性肥料(肥料組成物)を調製した(窒素含有酸化カーボン量子ドット中の炭素原子:リン原子:カリウム原子のモル比≒100:16:4)。
【0060】
(栽培試験)
得られた水性肥料を用い、実施例1と同様の操作を行ったところ、水菜の順調な発芽及び成長が観察された。
【0061】
(蛍光試験)
播種から48時間後の上記水菜を1本採取して紙の上に置き、上方から紫外光ランプにて波長365nmの光を照射した。照射時の水菜試料を撮影した結果を、
図2(右側)に示す。この図から明らかなように、本発明に従う肥料組成物を用いて栽培された水菜は、紫外光に反応して蛍光を発生した。尚、発せられた蛍光は青色光であった。
【0062】
図2には、実施例2で得られた水菜試料と共に、比較例2で得られた水菜試料(左側)の蛍光試験結果も示す。尚、これら実施例及び比較例は、上記の実施例1と同様、同一条件下で同時に実施されたものである。並べて配置され、同一の条件で紫外線が照射された比較例2の試料(左側)が蛍光を発していないことから、実施例2における蛍光は、水菜中に取り込まれた窒素含有酸化カーボン量子ドット由来のものであることが示される。
【0063】
今回の上記実験結果より、本発明に従う肥料組成物によって、栽培植物の成長を十分に促進し得ることが示された。また、栽培植物中に窒素含有酸化カーボン量子ドットを取り込ませることができ、かつ量子ドットに由来する蛍光を目視で観察し得ることが明らかとなった。すなわち、量子ドットを用いて栽培した植物体の蛍光の状態から、肥料が取り込まれた程度や栽培植物の置かれた状況を評価し、それに応じてその時々の栽培条件を調整するという効率的な栽培方法が、実現可能なものであることが示された。栽培植物の成長が促進されて収穫量が増大し、かつ流出肥料等による環境汚染も低減し得ることと併せ、本発明の効果は顕著である。