(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113383
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】電動ポンプ
(51)【国際特許分類】
F04D 29/58 20060101AFI20240815BHJP
F04D 29/62 20060101ALI20240815BHJP
F04D 29/08 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
F04D29/58 F
F04D29/62 A
F04D29/08 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018319
(22)【出願日】2023-02-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2021年度 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「グリーンイノベーション基金事業/次世代航空機の開発プロジェクト 水素航空機向けコア技術開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田口 秀之
(72)【発明者】
【氏名】櫁川 卓也
(72)【発明者】
【氏名】岡村 直行
(72)【発明者】
【氏名】西田 俊介
【テーマコード(参考)】
3H130
【Fターム(参考)】
3H130AA06
3H130AA23
3H130AB22
3H130AB42
3H130AC01
3H130BA01A
3H130BA01C
3H130BA33A
3H130BA33C
3H130BA34A
3H130CA21
3H130DA02Z
3H130DD01Z
3H130DG01X
3H130DJ06X
3H130EA04J
3H130ED02A
3H130ED02C
(57)【要約】
【課題】外部からの入熱によるキャビテーションの発生を抑制することができる電動ポンプ等の技術を提供すること。
【解決手段】本技術に係る電動ポンプは、羽根車部と、断熱部とを具備する。前記羽根車部は、流入した流体を加圧して流出させるための羽根車を有する。前記断熱部は、内部に前記羽根車部を収容可能な減圧空間を含む断熱容器を有し、前記羽根車部を断熱する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流入した流体を加圧して流出させるための羽根車を有する羽根車部と、
内部に前記羽根車部を収容可能な減圧空間を含む断熱容器を有し、前記羽根車部を断熱する断熱部と
を具備する電動ポンプ。
【請求項2】
請求項1に記載の電動ポンプであって、
前記断熱容器に設けられ、前記流体が流入する流入ポートをさらに具備し、
前記断熱部は、前記断熱容器において前記流入ポートに対応する位置に設けられた第1の断熱部材を有する
電動ポンプ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電動ポンプであって、
前記断熱容器に設けられ、前記流体が流出する流出ポートをさらに具備し、
前記断熱部は、前記断熱容器において前記流出ポートに対応する位置に設けられた第2の断熱部材を有する
電動ポンプ。
【請求項4】
請求項1に記載の電動ポンプであって、
前記羽根車部は、前記流体が流れる流路を含み、
前記羽根車は、軸流羽根車と、遠心羽根車とを有し、
前記流路は、前記軸流羽車が設けられる軸方向の流路と、前記遠心羽根車が設けられる径方向の流路と、前記軸方向の流路及び前記径方向の流路を繋ぐ湾曲流路とを含む
電動ポンプ。
【請求項5】
請求項1に記載の電動ポンプであって、
前記羽根車に連結された出力軸を駆動することにより前記羽根車を回転させるモータと、前記モータを気密に収容可能な収容空間を含む容器とを有するモータ部
をさらに具備する電動ポンプ。
【請求項6】
請求項5に記載の電動ポンプであって、
前記モータ部は、前記収容空間にパージガスを供給するためのパージガス供給ポートと、前記収容空間内の気体を排出するためのパージガス排出ポートとを有する
電動ポンプ。
【請求項7】
請求項6に記載の電動ポンプであって、
前記パージガスは、不活性ガスである
電動ポンプ。
【請求項8】
請求項5から9のうちいずれか1項に記載の電動ポンプであって、
前記モータ部は、前記モータの駆動を制御するコントローラをさらに有し、
前記収容空間は、前記コントローラを気密に収容可能である
電動ポンプ。
【請求項9】
請求項5に記載の電動ポンプであって、
前記出力軸を回転可能に封止する軸シールと、前記軸シールを介して前記羽根車部と隔離された空間を内部に含み、前記空間内に前記出力軸を気密に収容可能なケーシングとを有し、前記羽根車部及び前記モータ部の間に介在される軸シール部
をさらに具備する電動ポンプ。
【請求項10】
請求項9に記載の電動ポンプであって、
前記軸シール部は、前記空間にシールガスを供給するためのシールガス供給ポートと、前記空間内部の気体を排出するためのシールガス排出ポートとを有する
電動ポンプ。
【請求項11】
請求項10に記載の電動ポンプであって、
前記シールガスは、不活性ガスである
電動ポンプ。
【請求項12】
請求項9から11のうちいずれか1項に記載の電動ポンプであって、
前記モータ部の前記収容空間における気圧は、前記軸シール部における前記空間における気圧よりも高く保持される
電動ポンプ。
【請求項13】
請求項9から11のうちいずれか1項に記載の電動ポンプであって、
前記空間は、前記出力軸に沿う方向で分離された複数の空間を含む
電動ポンプ。
【請求項14】
請求項13に記載の電動ポンプであって、
前記複数の空間のうち、前記モータ部側の空間における気圧は、前記羽根車部側の空間の気圧よりも高く保持される
電動ポンプ。
【請求項15】
請求項9に記載の電動ポンプであって、
前記断熱容器は、前記減圧空間内に、前記羽根車部及び前記軸シール部を収容可能である
電動ポンプ。
【請求項16】
請求項5に記載の電動ポンプであって、
前記断熱容器は、断熱容器本体と、前記断熱容器本体に着脱可能なフランジ部とを有し、
前記フランジ部は、前記流体が流入する流入ポートと、前記流体が流出する流入ポートとを支持可能であり、かつ、前記断熱容器の外部において前記モータ部を保持可能である
電動ポンプ。
【請求項17】
請求項1に記載の電動ポンプであって、
前記流体は、低温液化流体である
電動ポンプ。
【請求項18】
請求項17に記載の電動ポンプであって、
前記流体は、低温液体燃料である
電動ポンプ。
【請求項19】
軸流羽根車と、遠心羽根車とを有し、流入した流体を加圧して流出させるための羽根車と、前記軸流羽車が設けられる軸方向の流路と、前記遠心羽根車が設けられる径方向の流路と、前記軸方向の流路及び前記径方向の流路を繋ぐ湾曲流路とを含む、前記流体の流路とを有する羽根車部
を具備する電動ポンプ。
【請求項20】
流体を加圧して流出させるための羽根車に連結された出力軸を駆動することにより前記羽根車を回転させるモータと、前記モータを気密に収容可能な収容空間を含む容器と、前記収容空間にパージガスを供給するためのパージガス供給ポートと、前記収容空間内の気体を排出するためのパージガス排出ポートとを有するモータ部
を具備する電動ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、羽根車を含む電動ポンプ等の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、液体燃料をエンジンに供給する装置として、電動ポンプが広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の技術では、ロケットエンジン用の高速ポンプにおいて、軸流羽根車と、遠心羽根車とが一体的に回転するように構成された羽根車が用いられている。
【0004】
この技術では、羽根車が回転されると、タンクからの燃料が軸方向へ送り出され、この軸方向への燃料が、回転する軸流羽根車により昇圧されて遠心羽根車側に導かれる。遠心羽根車側に導かれた燃料は、回転する遠心羽根車によって径方向に加圧されて吐出され、エンジンへと供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電動ポンプにおいて、外部からの入熱によりキャビテーション(局所的な沸騰現象)が発生する場合がある。
【0007】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、外部からの入熱によるキャビテーションの発生を抑制することができる電動ポンプ等の技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本技術に係る電動ポンプは、羽根車部と、断熱部とを具備する。
前記羽根車部は、流入した流体を加圧して流出させるための羽根車を有する。
前記断熱部は、内部に前記羽根車部を収容可能な減圧空間を含む断熱容器を有し、前記羽根車部を断熱する。
【0009】
この電動ポンプでは、羽根車部が断熱容器内の減圧空間に収容されるので、羽根車部を外部から効果的に断熱することができ、これにより、羽根車部を流れる流体のキャビテーションを抑制することができる。
【0010】
上記電動ポンプは、前記断熱容器に設けられた、前記流体が流入する流入ポートをさらに具備していていもよく、この場合、前記断熱部は、前記断熱容器において前記流入ポートに対応する位置に設けられた第1の断熱部材を有していてもよい。
【0011】
これにより、断熱容器の熱が流入ポートを流れる流体へと伝達してしまうことを防止することができ、従って、さらに効果的に流体のキャビテーションを抑制することができる。
【0012】
上記電動ポンプは、前記断熱容器に設けられた、前記流体が流出する流出ポートをさらに具備していていもよく、この場合、前記断熱部は、前記断熱容器において前記流出ポートに対応する位置に設けられた第2の断熱部材を有していてもよい。
【0013】
これにより、断熱容器の熱が流出ポートを流れる流体へと伝達してしまうことを防止することができ、従って、さらに効果的に流体のキャビテーションを抑制することができる。
【0014】
上記電動ポンプにおいて、前記羽根車部は、前記流体が流れる流路を含んでいてもよく、前記羽根車は、軸流羽根車と、遠心羽根車とを有していてもよい。この場合、前記流路は、前記軸流羽車が設けられる軸方向の流路と、前記遠心羽根車が設けられる径方向の流路と、前記軸方向の流路及び前記径方向の流路を繋ぐ湾曲流路とを含んでいてもよい。
【0015】
このように、軸方向の流路及び径方向の流路の間に湾曲経路を介在させることで、軸方向の流路から径方向の流路へと流体を滑らかに導くことができる。
【0016】
上記電動ポンプは、前記羽根車に連結された出力軸を駆動することにより前記羽根車を回転させるモータと、前記モータを気密に収容可能な収容空間を含む容器とを有するモータ部をさらに具備していてもよい。
【0017】
このように、モータを収容空間内に気密に収容することで、羽根車側から漏れ出した流体がモータ部側に到達してしまうことを防止することができる。特に、流体が液体燃料等の可燃性の流体である場合、可燃性の流体がモータの熱や電気火花等により着火してしまい、火災が発生してしまうことを防止することができる。
【0018】
上記電動ポンプにおいて、前記モータ部は、前記収容空間にパージガスを供給するためのパージガス供給ポートと、前記収容空間内の気体を排出するためのパージガス排出ポートとを有していてもよい。
【0019】
この電動ポンプでは、仮に、羽根車部側から漏れ出した流体が、モータ部側に到達してしまったとしても、その流体は、パージガスと共に強制的に外部に排出される。従って、流体が可燃性の流体である場合に、可燃性の流体がモータの熱や電気火花等により着火してしまい、火災が発生してしまうことをさらに効果的に防止することができる。
【0020】
上記電動ポンプにおいて、前記パージガスは、不活性ガスであってもよい。
【0021】
これにより、流体が可燃性の流体である場合に、着火や火災の発生等をより効果的に防止することができる。
【0022】
上記電動ポンプにおいて、前記モータ部は、前記モータの駆動を制御するコントローラをさらに有していてもよく、この場合、前記収容空間は、前記コントローラを気密に収容可能であってもよい。
【0023】
これにより、流体が可燃性の流体である場合に、可燃性の流体がコントローラの熱や電気火花等により着火してしまい、火災が発生してしまうことを防止することができる。
【0024】
上記電動ポンプは、軸シールと、ケーシングとを有する軸シール部をさらに具備していてもよい。前記軸シール部は、前記出力軸を回転可能に封止する。前記ケーシングは、前記軸シールを介して前記羽根車部と隔離された空間を内部に含み、前記空間内に前記出力軸を気密に収容可能とされる。
【0025】
この軸シール部により、羽根車部側から漏れ出した流体がモータ部側に到達してしまうことを効果的に防止することができる。
【0026】
上記電動ポンプにおいて、前記軸シール部は、前記空間にシールガスを供給するためのシールガス供給ポートと、前記空間内部の気体を排出するためのシールガス排出ポートとを有していてもよい。
【0027】
この電動ポンプでは、流体が軸シールを介して羽根車部側から漏れ出してしまったとしても、その流体は、シールガスと共に強制的に外部に排出される。従って、流体がモータ部側に到達してしまうことをさらに効果的に防止することができる。
【0028】
上記電動ポンプにおいて、前記シールガスは、不活性ガスであってもよい。
【0029】
これにより、流体が可燃性の流体である場合に、この可燃性の流体をシールガスと共に適切に外部に排出することができる。
【0030】
上記電動ポンプにおいて、前記モータ部の前記収容空間における気圧は、前記軸シール部における前記空間における気圧よりも高く保持されてもよい。
【0031】
これにより、流体がモータ部側に到達してしまうことをさらに効果的に防止することができる。
【0032】
上記電動ポンプにおいて、前記空間は、前記出力軸に沿う方向で分離された複数の空間を含んでいてもよい。
【0033】
これにより、流体がモータ部側に到達してしまうことをさらに効果的に防止することができる。
【0034】
上記電動ポンプにおいて、前記複数の空間のうち、前記モータ部側の空間における気圧は、前記羽根車部側の空間の気圧よりも高く保持されてもよい。
【0035】
これにより、流体がモータ部側に到達してしまうことをさらに効果的に防止することができる。
【0036】
上記電動ポンプにおいて、前記断熱容器は、前記減圧空間内に、前記羽根車部及び前記軸シール部を収容可能であってもよい。
【0037】
これにより、羽根車部及び軸シール部のうち、減圧空間内に羽根車部のみが減圧空間に収容される場合に比べて、より効果的にキャビテーションを抑制することができる。
【0038】
上記電動ポンプにおいて、前記断熱容器は、断熱容器本体と、前記断熱容器本体に着脱可能なフランジ部とを有していてもよく、この場合、前記フランジ部は、前記流体が流入する流入ポートと、前記流体が流出する流入ポートとを支持可能であり、かつ、前記断熱容器の外部において前記モータ部を保持可能であってもよい。
【0039】
これにより、電動ポンプのメンテナンスが容易となる。
【0040】
電動ポンプにおいて、前記流体は、低温液化流体であってもよく、この場合、流体は、低温液体燃料(可燃性流体)であってもよい。
【0041】
本技術の他の観点に係る電動ポンプは、羽根車部を具備する。
前記羽根車部は、羽根車と、流路とを有する。
前記羽根車は、軸流羽根車と、遠心羽根車とを有し、流入した流体を加圧して流出させる。
前記流路は、前記軸流羽車が設けられる軸方向の流路と、前記遠心羽根車が設けられる径方向の流路と、前記軸方向の流路及び前記径方向の流路を繋ぐ湾曲経路とを含む、前記流体の流路である。
【0042】
本技術のさらに別の観点に係る電動ポンプは、モータ部を具備する。
前記モータ部は、モータと、容器と、パージガス供給ポートと、パージガス排出ポートを有する。
前記モータは、流体を加圧して流出させるための羽根車に連結された出力軸を駆動することにより前記羽根車を回転させる。
前記容器は、前記モータを気密に収容可能な収容空間を含む。
前記パージガス供給ポートは、前記収容空間にパージガスを供給するためのポートである。
前記パージガス排出ポートは、前記収容空間内の気体を排出するためのポートである。
【発明の効果】
【0043】
以上のように、本技術によれば、外部からの入熱によるキャビテーションの発生を抑制することができる電動ポンプ等の技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】第1実施形態に係る電動ポンプを前方側から見た斜視図である。
【
図2】第1実施形態に係る電動ポンプの側面図である。
【
図3】第1実施形態に係る電動ポンプを後方側から見た断面斜視図であり
【
図4】第1実施形態に係る電動ポンプの側方断面図である。
【
図6】流路と、羽根車との関係を示す模式図である。
【
図7】第2実施形態に係る電動ポンプを示す斜視図である。
【
図8】第2実施形態に係る電動ポンプを示す斜視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本技術に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0046】
≪第1実施形態≫
図1は、本技術の第1実施形態に係る電動ポンプ100を前方側から見た斜視図である。
図2は、電動ポンプ100の側面図である。また、
図3は、電動ポンプ100を後方側から見た断面斜視図であり、
図4は、電動ポンプ100の側方断面図である。
【0047】
なお、
図1では、電動ポンプ100のモータ部30が省略して図示されており、
図2及び
図3では、モータ部30においてモータ31等を収容するパージボックス33等が省略して図示されている。
【0048】
本実施形態に係る電動ポンプ100は、例えば、航空機、自動車、鉄道車両、船舶などにおいて、(極)低温液体燃料(液化水素、液化天然ガス等)(流体の一例)をエンジンに供給するための電動ポンプ100として用いられる。
【0049】
なお、本実施形態の説明では、電動ポンプ100により駆動される流体が、(極)低温液体燃料である場合について説明するが、この流体は、必ずしも低温液体燃料でなくともよい。
【0050】
すなわち、電動ポンプ100により駆動される流体は、(極)低温液化流体であり、かつ、可燃性の流体である方が、本技術の適用においては有利であるが、流体は、必ずしも低温液化流体である必要はなく、可燃性の流体である必要もない。また、本技術に係る電動ポンプ100は、燃料供給用途に限られず、各種の用途に用いることができる。
【0051】
図1~
図4を参照して、本技術に係る電動ポンプ100は、流入ポート1の流入口から流入した低温液体燃料を加圧して流出ポート2の流出口から流出させるための羽根車11を含む羽根車部10と、羽根車11を駆動させる駆動源としてのモータ31を含むモータ部30とを備えている。
【0052】
また、電動ポンプ100は、モータ31の出力軸31'を回転可能に封止することで、羽根車部10及びモータ部30を隔離するための軸シール部20と、外部から羽根車部10(及び軸シール部20)への入熱を防止するための断熱部40とを備えている。
【0053】
なお、本実施形態の説明において、羽根車部10側を前方側とし、モータ部30側を後方側として説明する。
【0054】
[断熱部40]
次に、断熱部40について詳細に説明する。ここでの説明では、まず、断熱部40が設けられる理由について説明する。
【0055】
ここで、比較例として、ロケットのエンジンに対して、(極)低温液体燃料(液化水素、液化天然ガス等)を供給する電動ポンプを想定する。この比較例に係る電動ポンプでは、大量の燃料がエンジンに供給されるため、周囲の大気や燃料配管からの入熱を原因とした低温液体燃料の温度上昇は僅かである。
【0056】
一方、本実施形態のように、例えば、航空機、自動車、鉄道車両、船舶等のエンジンに対して低温液体燃料を供給する形態の場合、航空機等の運転状況に合わせて低温液体燃料の流量を電動ポンプ100において大きく変化させる必要がある。この場合において、特に、少量の低温液体燃料をエンジンに供給する必要があるとき、電動ポンプ100の周囲の大気や燃料配管からの入熱の影響を受けて、低温液体燃料の温度が上昇し易くなる。
【0057】
このときの低温液体燃料の温度が飽和蒸気温度を超えてしまうと、低温液体燃料内において局所的な蒸発が起きて泡が発生する現象であるキャビテーションが生じてしまう。このキャビテーションが発生すると、電動ポンプ100において必要な量の低温液体燃料をエンジンに供給することが困難になってしまうといった問題がある。
【0058】
また、キャビテーションによって、低温液体燃料に接する各部品(羽根車11や流路部材等)に損傷が生じてしまう可能性があり、また、キャビテーションによる振動現象によってエンジン制御が困難になる可能性もある。
【0059】
そこで、本実施形態では、低温液体燃料が通過する部分である羽根車部10の周囲を覆うように断熱部40を設けることで、羽根車部10を外部から効果的に断熱し、キャビテーションの発生を抑制することとしている。
【0060】
以上が、断熱部40が設けられる理由である。以降において、断熱部40の構成を詳細に説明する。
【0061】
断熱部40は、内部に減圧空間R1(真空室)を有する断熱容器41(真空容器)を備えている。この断熱容器41の内部(減圧空間R1内)には、羽根車部10及び軸シール部20が配置される。断熱容器41は、円筒状の断熱容器本体41aと、断熱容器本体41aの前端側に固定される円盤型の第1のフランジ部41bと、断熱容器本体41aの後端側に固定される円盤型の第2のフランジ部41cとを有している。
【0062】
第1のフランジ部41bの中央には、第1のフランジ部41bを前後方向に連通するように、低温液体燃料の流入ポート1が設けられている。また、断熱容器本体41aの上部には、断熱容器本体41aを斜め上下方向に連通するように低温液体燃料の流出ポート2が設けられている。
【0063】
流入ポート1は、先端側に低温液体燃料の流入口を有する円筒状に構成されている。また、流出ポート2は、先端側に低温液体燃料の流出口を有する円筒状に構成されている。
【0064】
流入ポート1の流入口側は、低温液体燃料を貯留するタンクなどに連結され、流入ポート1において流入口とは反対側は、配管3を介して羽根車部10における低温液体燃料の流入側と連結される。また、流出ポート2の流出口側は、エンジンなどに連結され、流出ポート2において流出口とは反対側は、配管4を介して羽根車部10における低温液体燃料の流出側と連結される。
【0065】
断熱容器本体41aにおいて一方の側面側には、断熱容器41内部を真空引きするための真空引きポート51が水平に設けられている。断熱容器41の内部の減圧空間R1は、真空引きポート51を介して、真空引きされることで減圧状態(真空状態)とされる。
【0066】
ここで、上述のように、断熱容器41は、羽根車部10を外部から断熱し、羽根車部10で発生する低温液体燃料のキャビテーションを抑制するために設けられている。したがって、断熱容器41内部の減圧空間R1は、羽根車部10を外部から効果的に断熱することができる程度に、真空引きにより減圧される(例えば、10-5Pa以下)。
【0067】
また、断熱容器本体41aにおいて、真空引きポート51が設けられた側とは反対側の側面には、監視窓52が設けられている。この監視窓52は、ユーザが断熱容器41の内部の機器に異常(液体燃料漏れ等)がないかどうかを確認するために設けられている。
【0068】
また、断熱容器本体41aの前端側において第1のフランジ部41bに対応する位置には、電動ポンプ100を下方から支持するための第1の脚部53aが設けられている。また、断熱容器本体41aの後端側において第2のフランジ部41cに対応する位置には、電動ポンプ100を下方から支持するための第2の脚部53bが設けられている。
【0069】
また、本実施形態において、断熱部40は、断熱容器41の表面側において流入ポート1に対応する位置に設けられた第1の断熱部材42を備えている。また、断熱部40は、断熱容器41の表面側において、流出ポート2に対応する位置に設けられた第2の断熱部材43を備えている。
【0070】
第1の断熱部材42は、断熱容器41における第1のフランジ部41bの中央において、流入ポート1に対応する位置に取り付けられている。第1の断熱部材42は、薄板の円環状に構成されており、流入ポート1を連通させるための円形の開口をその中央に有している。
【0071】
第1の断熱部材42は、断熱容器41の熱が流入ポート1へ伝達することを防止することが可能に構成されており、これにより、流入ポート1を流れる低温液体燃料の温度上昇を抑制することが可能とされている。結果として、キャビテーションが抑制される。
【0072】
第2の断熱部材43は、断熱容器41における断熱容器本体41aの上部において、流出ポート2に対応する位置に取り付けられている。断熱容器本体41aの上部には、断熱容器本体41aから斜め上方に突出するように、円筒状の突出部44が設けられており、第2の断熱部材43は、この突出部44の上側に固定されている。
【0073】
第2の断熱部材43は、第1の断熱部材42と同様に、薄板の円環状に構成されており、流出ポート2を連通させるための円形の開口をその中央に有している。
【0074】
第2の断熱部材43は、断熱容器41の熱が流出ポート2へ伝達することを防止することが可能に構成されており、これにより、流出ポート2を流れる低温液体燃料の温度上昇を抑制することが可能とされている。結果としてキャビテーションが抑制される。
【0075】
本実施形態に示す例では、断熱容器41内に羽根車部10及び軸シール部20が収容されているが、これらのうち羽根車部10のみが断熱容器41内に収容されていてもよい。なお、断熱容器41内に羽根車部10及び軸シール部20の両方が収容される場合、羽根車部10のみが断熱容器41内に収容される場合に比べて、低温液体燃料の温度上昇をより効果的に抑制することができ、キャビテーションをより効果的に抑制することができる。
【0076】
[羽根車部10]
図3及び
図4を参照して、羽根車部10は、モータ31の駆動により回転可能な羽根車11と、低温液体燃料が流れる流路F(
図6参照)を含む、羽根車ケーシング19と有している。羽根車部10は、羽根車11の回転により、流入ポート1から軸方向に流入する低温液体燃料を径方向に加圧し、流出ポート2を介して、必要な流量の低温液体燃料をエンジンへと供給することが可能に構成されている。
【0077】
図5は、羽根車11を斜め前方から見た斜視図である。
図5に示すように、本実施形態に係る羽根車11は、遠心羽根車12と、軸流羽根車15とを含む、これらの一体型の羽根車11とされている。
【0078】
遠心羽根車12は、その回転により、軸流方向に流入する低温液体燃料を径方向に加圧することが可能とされている。遠心羽根車12は、円盤状の基体13と、基体13の前方側に固定された複数の遠心羽根14とを含む。
【0079】
遠心羽根14は、複数の第1の遠心羽根14aと、第1の遠心羽根14aよりも短い、複数の第2の遠心羽根14bとを含む。第1の遠心羽根14a及び第2の遠心羽根14bは、周方向で交互に並べられるようにして配置される。
【0080】
遠心羽根車12よりも径方向の外周側の位置には、複数の静翼18が設けられている。静翼18は、例えば、羽根車ケーシング19の流路F側の内壁面に固定されている(つまり、静翼18は、羽根車11が回転しても静止している)。静翼18は、遠心羽根14が径方向に対して傾斜する方向とは逆方向に傾斜するように設けられている。
【0081】
軸流羽根車15は、低温液体燃料を軸流方向に加圧させて、遠心羽根車12側に導くことが可能とされている。軸流羽根車15は、遠心羽根車12の中央の位置から軸方向の前方側に伸びる軸部16と、この軸部16の先端側に固定された複数の軸流羽根17とを含む。各軸流羽根17は、軸部16に対して螺旋状の形状を有している。
【0082】
羽根車ケーシング19は、低温液体燃料の流路Fを含み、かつ、羽根車11をケーシングすることが可能とされている。
【0083】
図6は、流路Fと、羽根車11との関係を示す模式図な断面図である。
図6では、羽根車11の上側の半分に対応する部分が示されている。
【0084】
流路Fは、軸流羽根車15が配置される軸方向の流路F1と、遠心羽根車12が配置される径方向の流路F2と、軸方向の流路F1及び径方向の流路F2を繋ぐ、湾曲するように形成された湾曲流路F3とを含む。また、流路Fは、遠心羽根車12により径方向に加圧された低温液体燃料が集まる部屋型流路F4を含む(
図3及び
図4参照)。
【0085】
軸方向の流路F1は、前方側において流入ポート1の後端側と繋がっており、後方側において湾曲流路F3の前端側と繋がっている。また、軸方向の流路F1は、その径が、軸流羽根車15の外径よりも若干大きく構成されており、内部に軸流羽根車15を配置することが可能とされている。
【0086】
湾曲流路F3は、前方側において軸方向の流路F1の後端側と繋がっており、後端側において径方向の流路F2の内周側と繋がっている。
【0087】
径方向の流路F2は、径方向の内周側において、湾曲流路F3の後端側と繋がっており、径方向の外周側において、部屋型流路F4と繋がっている。
【0088】
部屋型流路F4は、軸方向の流路F1の外周側において、円環状に形成されており、部屋型流路F4の上部には、流出ポート2に繋がる円形の開口が設けられている。
【0089】
[軸シール部20]
図3及び
図4を参照して、軸シール部20は、羽根車部10及びモータ部30の間に介在される。軸シール部20は、モータ31の出力軸31'を回転可能に封止することで、羽根車部10及びモータ部30を隔離することが可能とされており、これにより、羽根車部10からモータ部30へ低温液体燃料が漏れてしまうことを防止することが可能とされている。
【0090】
軸シール部20は、羽根車部10側の第1の軸シール部21と、モータ部30側の第2の軸シール部25とを含む。
【0091】
第1の軸シール部21は、円筒状の第1のシールケーシング22と、第1のシールケーシング22の内周側において、軸方向(モータ31の出力軸31'に沿う方向)で所定の間隔で配置された軸受23及び軸シール24とを含む。軸シール24は、モータ31の出力軸31'を回転可能に封止することが可能に構成されている。
【0092】
第1のシールケーシング22の前端側は、羽根車ケーシング19の後端側に固定されており、第1のシールケーシング22の後端側は、第2の軸シール部25における第2のシールケーシング26の前端側に固定されている。
【0093】
第1のシールケーシング22の内部は、低温液体燃料で満たされている(なお、羽根車11を冷却するため、羽根車11において、遠心羽根車12よりも後方側の部分も低温液体燃料により覆われている)。
【0094】
軸シール24の前方側には、出力軸31'の外周を囲むように予備空間R2が形成されている。この予備空間R2は、低温液体燃料で満たされた気密空間であり、軸受23を介して羽根車11側から漏れ出した低温液体燃料の受け皿として用いられる。
【0095】
予備空間R2には、液体燃料排出ポートが設けられており、この液体燃料排出ポートには、配管が接続されている。この配管は、第1のフランジ部41bから断熱容器41の外部に引き出されている。予備空間R2に対して羽根車11側からの低温液体燃料が漏れだしたとき、漏れ出した量に対応する低温液体燃料が液体燃料排出ポート及び配管を介して外部へ排出される。
【0096】
第2の軸シール部25は、円筒状の第2のシールケーシング26と、第2のシールケーシング26の内周側に固定された複数の軸シール27とを含む。
【0097】
第2のシールケーシング26の前端側は、第1のシールケーシング22の後端側に固定されており、第2のシールケーシング26の後端側は、断熱容器41における第2のフランジ部41cの内壁面に固定されている。
【0098】
第2の軸シール部25の内部において、前方側の領域には、モータ31の出力軸31'の外周を囲むように、第1のシールガス空間R3が設けられている。また、第2の軸シール部25の内部において、後方側の領域には、モータ31の出力軸31'の外周を囲むように、第2のシールガス空間R4が設けられている。
【0099】
第1のシールガス空間R3及び第2のシールガス空間R4は、内部に出力軸31'を気密に収容可能とされている。第1のシールガス空間R3及び第2のシールガス空間R4は、軸方向(モータ31の出力軸31'に沿う方向)において軸シール27を介して隔離されている。
【0100】
具体的には、第1のシールガス空間R3は、前方側において軸シール24を介して予備空間R2とは隔離されており、後方側において、軸シール27を介して第2のシールガス空間R4とは隔離されている(多少の気体漏れがある)。また、第2のシールガス空間R4は、前方側において軸シール27を介して第1のシールガス空間R3とは隔離されている(多少の気体漏れがある)。
【0101】
第1のシールガス空間R3には、シールガス供給ポート及びシールガス排出ポートが設けられており、同様に、第2のシールガス空間R4にもシールガス供給ポート及びシールガス排出ポートが設けられている(第1のシールガス空間R3のシールガス供給ポート及び第2のシールガス空間R4のシールガス供給ポートは共通であってもよい)。
【0102】
これらのシールガス供給ポート及びこれらのシールガス排出ポートには、それぞれ配管が接続されており、これらの配管は、第1のフランジ部41bから断熱容器41の外部に引き出されている。
【0103】
第1のシールガス空間R3には、配管及びシールガス供給ポートを介してシールガスが供給され、第1のシールガス空間R3内部の気体(シールガスと、予備空間R2側から漏れ出した微量の気化した低温液体燃料とが混合した気体)は、シールガス排出ポート及び配管を介して強制的に外部へと排出される。
【0104】
第2のシールガス空間R4には、配管及びシールガス供給ポートを介して、第1のシールガス空間R3よりも高い圧力のシールガスが供給され、第2のシールガス空間R4内部の気体は、シールガス排出ポート及び配管を介して強制的に外部へと排出される。第2のシールガス空間R4の圧力を第1のシールガス空間R3より高く維持することで、可燃性の低温液体燃料が第2のシールガス空間R4に到達することを防止することができる。
【0105】
シールガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガスなどの不活性ガスが用いられる。低温液体燃料が液化水素の場合、液化水素より沸点の高い窒素ガスをシールガスに用いると、窒素ガスが液化・凝縮して体積が急減してしまうため、シール効果を得ることができない。このため、典型的には、第1のシールガス空間R3では液化水素より沸点の低いヘリウムガスが使用される。一方、第2のシールガス空間R4においても、ヘリウムガスを用いることもできるが、希少ガスで高価なヘリウムガスの消費量を抑えるため、第2のシールガス空間R4では窒素ガスを用いることが好ましい。
【0106】
本実施形態では、第1のシールガス空間R3及び第2のシールガス空間R4による2つの空間が軸方向で分離して設けられており、この2つのシールガス空間に対してシールガス(不活性ガス)を供給して、シールガス空間内の気体を強制的に排出している。これにより、低温液体燃料がモータ部30側に到達してしまうことを防止することができる。
【0107】
なお、本実施形態では、シールガス空間の数が2つである場合について説明したが、シールガス空間の数は、1つであってもよいし、3以上であってもよい。なお、シールガス空間の数は多い方が、低温液体燃料がモータ部30側に到達してしまうことを防止する効果は大きくなるが、不必要に多くする必要もない。従って、典型的には、シールガス空間の数は、1~3程度である。
【0108】
[モータ部30]
図4を参照して、モータ部30は、羽根車11を回転させる駆動源としてのモータ31と、モータ31の駆動を制御するコントローラ32と、モータ31及びコントローラ32を気密に収容可能なパージガス空間R5(収容空間)を内部に含むパージボックス33(容器)とを有している。
【0109】
また、モータ部30は、パージガス空間R5にパージガスを供給するパージガス供給ポート34と、パージガス空間R5内の気体を排出するためのパージガス排出ポート35と、モータ31及びコントローラ32に電力を供給する電力供給端子36と、コントローラ32に制御信号を入力するための制御信号入力端子37とを有している。
【0110】
モータ31は、断熱容器41における第2のフランジ部41cの中央に設けられた開口に対して、その前端側が固定されている。モータ31は、出力軸31'が軸シール部20側に露出しているが、それ以外の部分は、軸シール部20側に露出しないように第2のフランジ部41cに固定されている。つまり、モータ31は、断熱容器41側と、モータ部30側とが隔離されるように、第2のフランジ部41cに固定されている。なお、第2のシールガス空間R4とパージガス空間R5はモータ内部の空間を通じて、連結した空間となっている。
【0111】
コントローラ32は、モータ31よりも後方側の位置において、支持台38上に固定されている。パージボックス33は、円筒状のパージボックス本体33aと、パージボックス本体33aの後端側に固定される円盤状の第3のフランジ部33bとを有する。また、パージボックス本体33aの後端側において第3のフランジ部33bに対応する位置には、電動ポンプ100を下方から支持するための第3の脚部53cが設けられている。
【0112】
パージガス供給ポート34及びパージガス排出ポート35は、第3のフランジ部33bを前後方向に連通するように第3のフランジ部33bに設けられている。
【0113】
パージガス空間R5には、パージガス供給ポート34を介してパージガスが供給され、パージガス空間R5内部の気体(パージガスと、第2のシールガス空間R4側から漏れ出した微量のシールガスとが混合した気体)は、パージガス排出ポート35を介して強制的に外部へと排出される。
【0114】
パージガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガスなどの不活性ガスが用いられる。パージガスは、シールガスと同じ気体が用いられてもよいし、シールガスと異なる気体が用いられてもよい。
【0115】
ここで、パージガス空間R5内部の気圧は、シールガス空間R3、R4内部の気圧よりも高くなるようにその気圧が制御される。これにより、シールガス空間R3、R4内部の気体がパージガス空間R5内部に漏れ出してしまうことを適切に防止することができる。
【0116】
電力供給端子36及び制御信号入力端子37は、第3のフランジ部33bを前後方向に連通するように設けられている。電力供給端子36は、電力供給用の配線を介してコントローラ32と接続されている。また、制御信号入力端子37は、信号伝達用の配線39を介してコントローラ32と接続されている。モータ31及びコントローラ32は電力供給用の配線を介して接続されている。
【0117】
本実施形態では、パージガス空間R5内にモータ31及びコントローラ32を気密に収容し、かつ、パージガス空間R5に対してパージガス(不活性ガス)を供給して、パージガス空間R5内の気体を強制的に排出している。これにより、仮に、極微量の低温液体燃料がモータ部30側に到達してしまったとしてもこの低温液体燃料は強制的に外部に排出されることになる。従って、モータ31及びコントローラ32の熱や電気火花によって、低温液体燃料が着火して火災が発生してしまうことを防止することができる。
【0118】
[各種ポート]
ここで、断熱容器41における第1のフランジ部41bには、第1のフランジ部41bを前後方向に連通するように各種のポート5が設けられており、断熱容器41の内部において、この各種のポート5には、各種の接続部6(配線部、配管部等)が接続されている。
【0119】
このポート5は、例えば、予備空間R2内部の低温液体燃料を外部へ排出するためのポート(予備空間R2に設けられた液体燃料排出ポートに配管を介して接続される)、外部から第1のシールガス空間R3及び第2のシールガス空間R4へとシールガスを供給するためのポート(シールガス空間に設けられたシールガス供給ポートに配管を介して接続される)、第1のシールガス空間R3及び第2のシールガス空間R4内の気体を外部へ排出するためのポート(シールガス空間に設けられたシールガス排出ポートに配管を介して接続される)等である。
【0120】
また、ポートは、流路Fを流れる低温液体燃料の圧力(静圧及び動圧)、温度、流量等を検出するセンサに配線を介して接続された計装ポート、断熱容器41内部の気圧を測定するセンサに対して配線を介して接続された計装ポート等である。
【0121】
<作用等>
以上説明したように、本実施形態に係る電動ポンプ100では、断熱容器41における減圧空間R1内に羽根車部10が配置されているので、低温液体燃料が通過する部分である羽根車部10を外部から効果的に断熱することができ、キャビテーションの発生を抑制することができる。
【0122】
また、本実施形態では、断熱容器41において流入ポート1に対応する位置に第1の断熱部材42が設けられており、断熱容器41において流出ポート2に対応する位置に第2の断熱部材43が設けられている。従って、断熱容器41の温度が、流入ポート1及び流出ポート2を介して低温液体燃料へ伝達してしまうことを防止することができ、結果として、キャビテーションが抑制される。
【0123】
また、本実施形態では、断熱容器41内には、羽根車部10だけでなく、軸シール部20も収容されている。これにより、羽根車部10のみが断熱容器41内に収容される場合に比べて、低温液体燃料の温度上昇をより効果的に抑制することができ、キャビテーションをより効果的に抑制することができる。
【0124】
また、本実施形態では、軸方向の流路及び径方向の流路の間に湾曲経路が介在されているので、軸方向の流路から径方向の流路へと流体を滑らかに導くことができる。
【0125】
また、本実施形態では、パージガス空間R5内にモータ31及びコントローラ32が気密に収容され、かつ、パージガス空間R5に対してパージガス(不活性ガス)が供給されて、パージガス空間R5内の気体が強制的に排出される。
【0126】
これにより、仮に、極微量の低温液体燃料がモータ部30側に到達してしまったとしてもこの低温液体燃料を強制的に外部に排出することができる。従って、モータ31及びコントローラ32の熱や電気火花によって、低温液体燃料が着火して火災が発生してしまうことを防止することができる。
【0127】
また、本実施形態では、羽根車部10及びモータ部30の間に軸シール部20が介在されており、この軸シール部20は、内部にシールガス空間(第1のシールガス空間R3及び第2のシールガス空間R4)を有している。そして、本実施形態では、シールガス空間に対してシールガス(不活性ガス)が供給されて、シールガス空間内の気体が強制的に排出される。これにより、低温液体燃料がモータ部30側に到達してしまうことを適切に防止することができる。
【0128】
また、本実施形態では、パージガス空間R5における気圧は、シールガス空間における気圧よりも高く保持される。これにより、低温液体燃料がモータ部30側に到達してしまうことをさらに効果的に防止することができる。
【0129】
また、本実施形態では、シールガス空間は、軸方向において、軸シールを介して複数の空間に分離されている。これにより、シールガス空間が1つの場合に比べて、低温液体燃料がモータ部30側に到達してしまうこと防止する効果がさらに大きくなる。
【0130】
また、本実施形態では、複数のシールガス空間のうち、モータ部30側の第2のシールガス空間R4における気圧は、羽根車部10側の第1のシールガス空間R3の気圧よりも高く保持される。これにより、低温液体燃料がモータ部30側に到達してしまうことをさらに効果的に防止することができる。
【0131】
≪第2実施形態≫
次に、本技術に係る第2実施形態について説明する。第2実施形態の説明では、第1実施形態と同様の機能及び構成を有する各部については、同一符号を付し、説明を省略又は簡略化する。また、第2実施形態の説明では、第1実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0132】
図7は、第2実施形態に係る電動ポンプ200を示す斜視図である。また、
図8は、第2実施形態に係る電動ポンプ200を示す斜視断面図である。
【0133】
図7及び
図8に示すように、第2実施形態に係る電動ポンプ200は、モータ31の軸方向が上下方向に設定されており(第1実施形態では、軸方向は水平方向)、上方から、モータ部30、軸シール部20、羽根車部10の順番で、これらの各部が配置されている。
【0134】
電動ポンプ100は、断熱部60を備えている。断熱部60は、羽根車部10及び軸シール部20を内部に収容可能な減圧空間R1を有する断熱容器61と、流入ポート1に対応する位置に設けられた第1の断熱部材62と、流出ポート2に対応する位置に設けられた第2の断熱部材63とを含む。
【0135】
断熱容器61は、有底の円筒状に形成された断熱容器本体61aと、断熱容器本体61aの上端側に設けられたトップフランジ61bとを有する。断熱容器本体61aの測面には、監視窓52が設けられており、断熱容器本体61aの下側には、電動ポンプ100を下方から支持する複数の脚部71が設けられている。
【0136】
トップフランジ61bは、断熱容器本体61aに対して(比較的に容易に)着脱可能に構成されている。トップフランジ61bの上側には、モータ部30の下端側が固定されており、トップフランジ61bの下側には、軸シール部20の上端側が固定されている。
【0137】
トップフランジ61bには、トップフランジ61bを上下方向に連通するように、真空引きポート51が設けられている。また、トップフランジ61bには、トップフランジ61bを上下方向に連通するように、低温液体燃料の流入ポート1が設けられており、また、トップフランジ61bを上下方向に連通するように、低温液体燃料の流出ポート2が設けられている。
【0138】
流入ポート1は、配管7を介して羽根車部10における低温液体燃料の流入側に接続されており、流出ポート2は、配管8を介して羽根車部10における低温液体燃料の流出側に接続されている。流入ポート1に繋がる配管7及び流出ポート2に繋がる配管8には、それぞれ、低温液体燃料の圧力(静圧及び動圧)、温度、流量等を検出する各種のセンサ9が設けられている。
【0139】
トップフランジ61bの上部において、流入ポート1に対応する位置には、流入ポート1の周囲を囲むように、軸方向(上下方向)に長い円筒状の第1の断熱部材62が設けられている。また、トップフランジ61bの上部において、流出ポート2に対応する位置には、流出ポート2の周囲を囲むように、軸方向(上下方向)に長い円筒状の第2の断熱部材63が設けられている。断熱部材62、63は、真空断熱部を有する二重円筒の金属配管であってもよい。
【0140】
また、トップフランジ61bには、トップフランジ61bを上下方向に連通するように各種のポート5が設けられている。この各種のポート5については、上述の第1実施形態と同様である。
【0141】
ここで、第2実施形態に係るトップフランジ61bは、位置関係で言えば第1の実施形態の第2のフランジ部41cに対応している。上述の第1実施形態では、流入ポート1が第1のフランジ部41bに設けられていたが、第2実施形態では、流入ポート1はトップフランジ61bに設けられている(つまり、第1実施形態での第2のフランジ部41c側)。
【0142】
また、第1実施形態では、流出ポート2が断熱容器本体41aに設けられていたが、第2実施形態では、流出ポート2はトップフランジ61bに設けられている。また、第1実施形態では、真空引きポート51が断熱容器本体41aに設けられていたが、第2実施形態では、真空引きポート51はトップフランジ61bに設けられている。また、第1実施形態では、各種のポート5が第1のフランジ部41bに設けられていたが、第2実施形態では、各種のポートは5トップフランジ61bに設けられている(つまり、第1実施形態での第2のフランジ部41c側)。
【0143】
ここで、第2実施形態に係る電動ポンプ200は、例えば、研究開発段階における試作用の電動ポンプとして用いられる。研究開発段階においては、断熱容器61の内部において、電動ポンプ本体(羽根車部10、軸シール部20)や、制御計測機器(センサ9等)の不具合が頻繁に発生する可能性がある。
【0144】
そこで、第2実施形態では、モータ部30、軸シール部20(及び羽根車部10)が固定されているトップフランジ61bに対して、流入ポート1、流出ポート2、真空引きポート51及び各種のポート5を配置して、各部分を1つの箇所に集めるような配置とすることとしている。これにより、ユーザは、必要に応じてトップフランジ61bを取り外すことで、断熱容器61内部の全ての機器の点検及び修理作業が可能となる。
【0145】
10…羽根車部
11…羽根車
12…遠心羽根車
15…軸流羽根車
20…軸シール部
30…モータ部
31…モータ
31'…出力軸
33…パージボックス
40、60…断熱部
41、61…断熱容器
100、200…電動ポンプ
R1…減圧空間
R2…予備空間
R3…第1のシールガス空間
R4…第2のシールガス空間
R5…パージガス空間
F1…軸方向の流路
F2…径方向の流路
F3…湾曲流路