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特開2024-11339匂い検知装置及び植物状態検知システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011339
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】匂い検知装置及び植物状態検知システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/12 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
G01N27/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113260
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100161425
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100211052
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 大輔
(72)【発明者】
【氏名】水谷 学世
【テーマコード(参考)】
2G046
【Fターム(参考)】
2G046AA18
2G046AA23
2G046BD01
2G046BD06
2G046FA09
2G046FB02
2G046FE02
2G046FE03
2G046FE10
2G046FE11
2G046FE12
2G046FE25
2G046FE39
2G046FE48
(57)【要約】
【課題】植物由来の匂い物質の検知精度を向上させる。
【解決手段】
一側面に係る匂い検知装置は、金属イオンと有機配位子とが結合されてなる金属有機構造体を含むフィルタと、フィルタを通過したサンプルガスに含まれる直鎖構造を有する植物由来の匂い物質を検知する匂いセンサと、を備える。フィルタは、サンプルガスに含まれる匂い物質を通過させ、匂い物質とは異なる揮発性化合物をサンプルガスから除去する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンと有機配位子とが結合されてなる金属有機構造体を含むフィルタと、
前記フィルタを通過したサンプルガスに含まれる直鎖構造を有する植物由来の匂い物質を検知する匂いセンサと、
を備え、
前記フィルタは、前記サンプルガスに含まれる前記匂い物質を通過させ、前記匂い物質とは異なる揮発性化合物を前記サンプルガスから除去する、匂い検知装置。
【請求項2】
前記金属有機構造体は、長方形又は円形の断面形状を有する細孔を有する多孔質体である、請求項1に記載の匂い検知装置。
【請求項3】
前記細孔は、2nm以上100nm以下の開口幅を有する、請求項2に記載の匂い検知装置。
【請求項4】
前記フィルタは、カルボキシル基を有する揮発性化合物を前記サンプルガスから除去する、請求項1に記載の匂い検知装置。
【請求項5】
前記フィルタは、ジャスモン酸類又はサリチル酸を前記サンプルガスから除去する、請求項4に記載の匂い検知装置。
【請求項6】
前記金属有機構造体は、ベンゼンジカルボン酸又はベンゼントリカルボン酸を前記有機配位子として含む、請求項4に記載の匂い検知装置。
【請求項7】
前記金属有機構造体は、銀イオン、銅イオン、鉄イオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、ニッケルイオン、クロムイオンの何れか1つを前記金属イオンとして含む、請求項6に記載の匂い検知装置。
【請求項8】
前記匂いセンサは、青葉アルコール、青葉アルデヒド及びエチレンのうち少なくとも1つを前記匂い物質として検出する、請求項1に記載の匂い検知装置。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載された匂い検知装置と、
前記匂い検知装置の前記匂いセンサによって検知された前記匂い物質に基づいて、植物の状態を示す情報を出力する植物状態検知装置と、
を備える、植物状態検知システム。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、匂い検知装置及び植物状態検知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ガスに含まれる物質を検知する技術が知られている。例えば、下記特許文献1には、検出対象ガスを捕集する捕集部と、捕集された検出対象ガスに含まれる被検出分子の分子構造の一部を置換して置換生成物を生成する置換器と、被検出分子又は置換生成物を捕捉する複数の検出セルを備える検出器と、被検出分子又は置換生成物が複数の検出セルの有機物プローブに捕捉されたときに生じる検出信号の信号パターンに基づいて被検出分子を識別する識別器と、を備える分子検出装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-156346号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、植物は、当該植物の状態に応じて種々の匂い物質を放出することが知られている。例えば、植物は、食害に対する防衛反応として緑の香り物質として知られる青葉アルコール(cis-3-ヘキセン-1-オール)や青葉アルデヒド(トランス-2-ヘキセナール)といった植物ホルモンを放出する。また、果実が成熟したときにはエチレンと呼ばれる植物ホルモンが放出される。これらの植物ホルモンを匂い物質として検知して分析すれば、植物の健康状態又は成育状態を検出することが可能となる。
【0005】
しかしながら、農場の空気には植物や農薬から発せられる種々の揮発性化合物が含まれる。農場で採取したサンプルガスに匂い物質以外の揮発性化合物が含まれていると、当該揮発性化合物によって匂い物質の検知が阻害され、匂い物質の検知精度が低下する恐れがある。
【0006】
そこで、本開示は、植物由来の匂い物質の検知精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一側面に係る匂い検知装置は、金属イオンと有機配位子とが結合されてなる金属有機構造体を含むフィルタと、フィルタを通過したサンプルガスに含まれる直鎖構造を有する植物由来の匂い物質を検知する匂いセンサと、を備える。フィルタは、サンプルガスに含まれる匂い物質を通過させ、匂い物質とは異なる揮発性化合物をサンプルガスから除去する。
【0008】
一側面に係る検知装置では、サンプルガスがフィルタを通過するときに植物由来の匂い物質がフィルタを通過し、匂い物質とは異なる揮発性化合物がサンプルガスから除去される。その結果、上記揮発性化合物が除去されたサンプルガスが匂いセンサに供給されるので、匂い物質の検知精度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、植物由来の匂い物質の検知精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る植物状態検知システムの機能的構成を示すブロック図である。
図2】一実施形態に係る匂い検知装置の構成例を示す図である。
図3】(a)は、青葉アルコールの分子構造を示す図である。(b)は、青葉アルデヒドの分子構造を示す図である。(c)は、エチレンの分子構造を示す図である。
図4】(a)は円形の断面形状を有する細孔を有する金属有機構造体を示す断面図であり、(b)は長方形の断面形状を有する細孔を有する金属有機構造体を示す断面図である。
図5】ジャスモン酸の分子構造を示す図である。
図6】サリチル酸の分子構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の概要]
最初に、本開示の実施形態の概要を説明する。
【0012】
(条項1) 本開示の一側面に係る匂い検知装置は、金属イオンと有機配位子とが結合されてなる金属有機構造体を含むフィルタと、フィルタを通過したサンプルガスに含まれる直鎖構造を有する植物由来の匂い物質を検知する匂いセンサ、を備える。フィルタは、サンプルガスに含まれる匂い物質を通過させ、匂い物質とは異なる揮発性化合物をサンプルガスから除去する。一側面に係る匂い検知装置では、フィルタによって匂い物質とは異なる揮発性化合物が除去されるので、当該揮発性化合物によって匂い物質の検知が阻害されることが防止される。したがって、匂いセンサによる匂い物質の検知精度を向上させることができる。
【0013】
(条項2) 条項1に記載の匂い検知装置において、金属有機構造体は、長方形又は円形の断面形状を有する細孔を有する多孔質体であってもよい。長方形又は円形の断面形状を有する細孔を有する金属有機構造体を用いることにより、サンプルガスに含まれる匂い物質を選択的に通過させることができる。
【0014】
(条項3) 条項1又は2に記載の匂い検知装置において、細孔は、2nm以上100nm以下の開口幅を有していてもよい。細孔の開口径を2nm以上100nm以下にすることにより、サンプルガスに含まれる匂い物質を選択的に通過させることができる。
【0015】
(条項4) 条項1~3の何れか一項に記載の匂い検知装置において、フィルタは、カルボキシル基を有する揮発性化合物をサンプルガスから除去してもよい。カルボキシル基を有する揮発性化合物を除去することにより、当該揮発性化合物が匂い物質の検知に悪影響を与えることが抑制される。したがって、匂い物質の検知精度を向上させることができる。
【0016】
(条項5) 条項1~4の何れか一項に記載の匂い検知装置において、フィルタは、ジャスモン酸類又はサリチル酸をサンプルガスから除去してもよい。ジャスモン酸類又はサリチル酸は、植物の生理機能を調節する役割を担う植物ホルモンの一種であり、農場に多量に存在する。ジャスモン酸類又はサリチル酸がサンプルガスに多量に含まれていると、匂い物質の検知を阻害することがある。フィルタによってジャスモン酸類又はサリチル酸を除去することにより、匂い物質の検知精度を向上させることができる。
【0017】
(条項6) 条項1~5の何れか一項に記載の匂い検知装置において、金属有機構造体は、ベンゼンジカルボン酸又はベンゼントリカルボン酸を有機配位子として含んでいてもよい。有機配位子としてベンゼンジカルボン酸又はベンゼントリカルボン酸が含まれている場合には、揮発性化合物のカルボキシル基と有機配位子のカルボキシル基との間に化学的な結合が生じて二量体を形成する。この結合によって揮発性化合物のフィルタへの吸着が促進されるので、フィルタにおいて当該揮発性化合物を効果的に除去することができる。
【0018】
(条項7) 条項1~6の何れか一項に記載の匂い検知装置において、金属有機構造体は、銀イオン、銅イオン、鉄イオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、ニッケルイオン、クロムイオンの何れか1つを金属イオンとして含んでいてもよい。これらの金属イオンを含むことで、匂い物質を選択的に通過させる金属有機構造体を形成することできる。
【0019】
(条項8) 条項1~7の何れか一項に記載の匂い検知装置において、匂いセンサは、青葉アルコール、青葉アルデヒド及びエチレンのうち少なくとも1つを匂い物質として検出してもよい。青葉アルコール、青葉アルデヒド及びエチレンは、植物の健康状態又は成育状態に応じて放出される植物ホルモンである。したがって、これらの匂い物質を検知することにより、植物の健康状態又は成育状態に関する情報を取得することができる。
【0020】
(条項9) 本開示の一側面に係る植物状態検知システムは、条項1~8の何れか一項に記載された匂い検知装置と、前記匂い検知装置の前記匂いセンサによって検知された前記匂い物質に基づいて、植物の状態を示す情報を出力する植物状態検知装置と、を備える。上述したように、匂い検知装置では、フィルタによって匂い物質とは異なる揮発性化合物が除去されるので、高い精度で匂い物質を検知することができる。したがって、匂い物質の検知結果に基づいて、植物の状態を高い精度で検出することができる。
【0021】
[本開示の実施形態の例示]
以下、図面を参照しながら本開示の実施形態が詳細に説明される。図面の説明において同一要素には同一符号が付され、重複する説明は省略される。
【0022】
図1は、一実施形態に係る匂い検知装置を含む植物状態検知システムの機能的構成を示すブロック図である。図1に示す植物状態検知システム1は、植物由来の匂い物質を検知して植物の状態を検出する。植物の状態には、植物の健康状態又は成育状態が含まれる。植物状態検知システム1は、匂い検知装置10及び植物状態検知装置20を備えている。
【0023】
匂い検知装置10は、植物2から発せられる匂い物質を検知する。植物2は、植物工場、圃場又はビニールハウス等の農場で栽培される野菜、果樹又は花卉等の植物である。匂い検知装置10は、匂い物質を検知するために農場内に配置される。図1に示すように、匂い検知装置10は、匂いセンサ12、フィルタ14、吸引部16及び通信部18を含む。
【0024】
図2は、一実施形態に係る匂い検知装置10の構成例を示している。図2に示すように、匂いセンサ12及びフィルタ14は、容器30内に配置されている。容器30には、当該容器30の内部空間に連通する吸気管32及び排気管34が接続されている。排気管34には吸引部16が接続されている。吸引部16は、例えば真空ポンプである。吸引部16が作動して容器30の内部空間が減圧されると、吸気管32からサンプルガス50が容器30内に引き込まれる。サンプルガス50は、農場内の空気である。サンプルガス50には、匂い物質を含む種々の揮発性化合物が含まれる。
【0025】
匂いセンサ12は、サンプルガス50に含まれる匂い物質を検知する。具体的には、匂いセンサ12は、青葉アルコール、青葉アルデヒド及びエチレンのうち少なくとも1つの匂い物質を検知する。匂いセンサ12としては、半導体方式、電気化学式、水晶振動子式等のガスセンサが用いられる。例えば、匂いセンサ12は、ポリアニリン等の有機膜と酸化スズ(SnO)等の酸化物半導体とを含むVOCセンサである。なお、匂い物質の検知が可能であれば、匂いセンサ12は上述した方式とは異なる方式のセンサが用いられてもよい。また、二種以上の匂い物質を検知する場合には、匂い検知装置10は複数の匂いセンサ12を備えてもよい。
【0026】
匂いセンサ12で検知される匂い物質は、植物由来の揮発性化合物であり、青葉アルコール、青葉アルデヒド及びエチレンを含む。青葉アルコール及び青葉アルデヒドは、虫や動物による食害が発生したときに防衛反応として植物2から放出される植物ホルモンである。これらの植物ホルモンは、新鮮な青葉の香りの元となる緑の香り物質である。図3(a)は青葉アルコールの分子構造を示しており、図3(b)は青葉アルデヒドの分子構造を示している。青葉アルコール及び青葉アルデヒドは、直鎖構造を有する低分子化合物である。青葉アルコール及び青葉アルデヒドを検知することで食害の発生を検出することができる。
【0027】
エチレンは、果実等が成熟したときに放出される植物ホルモンである。図3(c)は、エチレンの分子構造を示している。青葉アルコール及び青葉アルデヒドと同様に、エチレンは、直鎖構造を有する低分子化合物である。エチレンを検知することで植物2の成育状態を検出することができる。なお、匂いセンサ12は、青葉アルコール、青葉アルデヒド、エチレン以外で植物2の状態を検出可能な匂い物質を検知してもよい。
【0028】
フィルタ14は、サンプルガス50の流れ方向において匂いセンサ12の上流側に配置されている。フィルタ14は、サンプルガス50に含まれる匂い物質を通過させ、匂い物質とは異なる揮発性化合物をサンプルガス50から除去する。フィルタ14は、金属イオンと有機配位子とが結合されてなる金属有機構造体14aを含む。金属有機構造体14aは、例えば不織布等の通気性を有する袋体に収容された状態で容器30の内壁に密着するように配置されている。
【0029】
金属有機構造体14aに使用される金属イオンとしては、銀イオン、銅イオン、鉄(II)イオン、鉄(III)イオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、ニッケルイオン、クロムイオンが例示される。特に、銅イオンは入手性がよく吸着特性に優れている。金属有機構造体14aに使用される有機配位子としては、ベンゼンジカルボン酸又はベンゼントリカルボン酸が例示される。ベンゼンジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸及びテレフタル酸が例示される。ベンゼントリカルボン酸としては、トリメシン酸が例示される。ベンゼンジカルボン酸及びベンゼントリカルボン酸は、カルボキシル基を有する有機配位子である。
【0030】
金属有機構造体14aは、金属イオンに有機配位子が配位結合することでナノサイズの開口が規則的に形成された結晶構造を有する。したがって、金属有機構造体14aは、多数の細孔14hを有する多孔質体である(図4(a),(b)参照)。金属有機構造体14aに形成された細孔14hは、円形又は直方形の断面形状を有する。なお、本明細書において円形には楕円形が含まれる。細孔14hは、多角形状の断面形状を有していてもよい。
【0031】
一実施形態では、金属有機構造体14aに形成された細孔14hは、2nm以上100nm以下の開口幅を有する。なお、細孔14hの開口幅とは、フィルタ14に形成された細孔14hの開口の幅を表している。例えば、細孔14hの開口が円形である場合には、その直径が細孔14hの開口幅として定義され、細孔14hの開口が直方形である場合には、直方形の開口に内接する円の直径が、細孔14hの開口幅として定義される。なお、金属有機構造体14aに形成された細孔14hは、長さ方向において略一定の開口幅を有する。また、金属有機構造体14aは、500m/g以上、5000m/gの比表面積を有し、0.1m/g以上、1.0m/gの細孔容積を有していてもよい。
【0032】
細孔14hの断面形状及び開口幅は、金属イオンと有機配位子との組み合わせにより決定される。例えば、ベンゼンジカルボン酸を有機配位子として使用した場合には、図4(a)に示すように、円形の断面形状を有する細孔14hを有する金属有機構造体14aが形成される。一方、有機配位子としてベンゼントリカルボン酸を使用した場合には、図4(b)に示すように、長方形の断面形状を有する細孔14hを有する金属有機構造体14aが形成される。
【0033】
フィルタ14は、上述した金属有機構造体14aの細孔14hによって直鎖構造を有する匂い物質を選択的に通過させつつ、匂い物質とは異なる揮発性化合物を除去する。フィルタ14によってサンプルガス50から除去される揮発性化合物としては、カルボキシル基(-COOH)を有する揮発性化合物が挙げられる。カルボキシル基を有する揮発性化合物としては、ジャスモン酸類又はサリチル酸が例示される。
【0034】
ジャスモン酸類は、ジャスモン酸及びジャスモン酸類似体を含む。ジャスモン酸類似体は、例えばジャスモン酸メチル、ジヒドロジャスモン酸メチル及びツベロン酸を含む。ジャスモン酸類は、植物界に広く存在する揮発性化合物であり、植物の生理機能を調節する役割を担う植物ホルモンの一種である。図5は、ジャスモン酸の分子構造を示している。図5に示すように、ジャスモン酸は、五員環を有し、且つ、官能基としてカルボキシル基を有する環状化合物である。ジャスモン酸は、検出対象の匂い物質よりも大きな分子量を有する複雑な分子構造を有する。
【0035】
サリチル酸は、植物の生理機能を担う植物ホルモンの一種である。図6は、サリチル酸の分子構造を示している。図6に示すように、サリチル酸は、カルボキシル基と水酸基を有し、検出対象の匂い物質よりも大きな分子量を有する複雑な分子構造を有する。
【0036】
上述したように、フィルタ14は、サンプルガス50に含まれる種々の揮発性化合物のうち、相対的に複雑な分子構造を有するジャスモン酸類及びサリチル酸を捕集する。特に、フィルタ14の金属有機構造体14aに有機配位子としてベンゼンジカルボン酸又はベンゼントリカルボン酸が含まれている場合には、ジャスモン酸類又はサリチル酸のカルボキシル基が金属有機構造体14aにイオン結合する。より具体的には、ジャスモン酸類又はサリチル酸のカルボキシル基と有機配位子のカルボキシル基との間に化学的な結合が生じて二量体が形成される。この結合によって、ジャスモン酸類及びサリチル酸のフィルタ14への吸着が促進される。
【0037】
一方、フィルタ14は、相対的に単純な分子構造を有する青葉アルコール、青葉アルデヒド及びエチレン等の匂い物質を通過させる。フィルタ14を通過したサンプルガス50は、匂いセンサ12に送られる。匂いセンサ12は、サンプルガス50に含まれる匂い物質を検知して、検知結果を示す波形データを出力する。
【0038】
通信部18は、例えば無線通信装置である。通信部18は、匂いセンサ12から出力された波形データを植物状態検知装置20に送信する。
【0039】
植物状態検知装置20は、匂い検知装置10による匂い物質の検知結果に基づいて、植物2の状態を示す情報を出力する。植物状態検知装置20は、プロセッサ、記憶装置、入力装置、表示装置等を備えるコンピュータである。植物状態検知装置20は、据置型又は携帯型のパーソナルコンピュータ又はワークステーションであってもよいし、ノートパソコン、タブレット端末、スマートフォン、PDA等の携帯端末であってもよい。
【0040】
植物状態検知装置20は、検出部22、表示部24、記録部26及び通信部28を含む。通信部28は、例えば無線通信装置であり、匂い検知装置10から送信された波形データを受信する。
【0041】
検出部22は、匂いセンサ12から出力された波形データを解析して植物2の状態を推定する。例えば検出部22は、波形データの強度からサンプルガス50に含まれる匂い物質の濃度を取得し、当該濃度に基づいて植物2の状態を判定する。例えば、検出部22は、匂い物質の濃度と植物2の状態との関係を示すテーブルを参照して、植物2の状態を推定する。
【0042】
具体的には、検知対象の匂い物質が青葉アルコール又は青葉アルデヒドである場合には、検出部22は、匂いセンサ12の出力から植物2の健康状態を判定する。例えば、検出部22は、サンプルガス50中の青葉アルコール又は青葉アルデヒドの濃度が低い場合には食害が発生している可能性が低いと判定し、サンプルガス50中の青葉アルコール又は青葉アルデヒドの濃度が高い場合には食害が発生している可能性が高いと判定する。
【0043】
また、検知対象の匂い物質がエチレンである場合には、検出部22は、匂いセンサ12の出力から植物2の成育状態を判定する。例えば、検出部22は、サンプルガス50中のエチレンの濃度が低い場合には植物2の成熟度が低いと判定し、サンプルガス50中のエチレンの濃度が高い場合には植物2の成熟度が高いと判定する。
【0044】
表示部24は、検出部22によって検出された植物2の状態を示す情報を表示装置に表示する。例えば、表示部24は、植物2の健康状態又は成育状態を視覚的に認識できるように、植物2の状態を色分けして表示装置に表示してもよい。記録部26は、植物2の状態を示す情報を記憶装置に記録する。
【0045】
上述したように、匂い検知装置10によって匂い物質を検知する際には、まず吸引部16が作動され、容器30の内部空間が減圧される。これにより、サンプルガス50が吸気管32に引き込まれ、容器30内に配置されたフィルタ14を通過する。このとき、サンプルガス50に含まれるカルボキシル基を有する揮発性化合物がフィルタ14に捕捉される。一方、サンプルガス50に含まれる直鎖構造を有する匂い物質はフィルタ14の細孔14hを通過してサンプルガス50と共に匂いセンサ12に送られる。そして、サンプルガス50中の匂い物質が匂いセンサ12によって検知される。その後、サンプルガス50は、排気管34を通って匂い検知装置10の外部に放出される。匂いセンサ12によって検知された匂い物質に関する情報は、植物状態検知装置20に送信される。植物状態検知装置20は、匂い物質の検知結果を示す情報を解析して植物2の状態を示す情報を出力する。
【0046】
この匂い検知装置10では、匂い物質とは異なる揮発性化合物がフィルタ14によって除去される。したがって、揮発性化合物により匂い物質の検知が阻害されることが防止され、匂いセンサ12による匂い物質の検知精度を向上させることができる。その結果、植物2の状態を高い精度で検出することが可能となる。
【0047】
以上、種々の実施形態に係る匂い検知装置及び植物状態検知システムについて説明してきたが、上述した実施形態に限定されることなく発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形態様を構成可能である。すなわち、上述した実施形態は例示説明を目的とするものであり、発明の範囲を制限するものではないことに留意すべきである。上述した種々の実施形態は、矛盾のない範囲で組み合わせることが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1…植物状態検知システム、2…植物、10…匂い検知装置、12…匂いセンサ、14…フィルタ、50…サンプルガス。
図1
図2
図3
図4
図5
図6