(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113394
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20240815BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20240815BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240815BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20240815BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/052
H01G11/62
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018340
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢野 裕太
【テーマコード(参考)】
5E078
5H029
【Fターム(参考)】
5E078AB06
5H029AJ13
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ02
5H029BJ14
5H029HJ02
5H029HJ05
5H029HJ10
(57)【要約】
【課題】フッ化物イオンの存在による不具合の発生を抑制できる蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】蓄電デバイス1は、フッ素を含有する塩6Sの電解質を含む電解液6を備え、電解液は、複数の炭素と複数の窒素からなる複素環を有し、複素環に含まれる複数の窒素がなす仮想球の仮想球直径Dhが、0.11~0.24nmの環状アミン化合物及び環状アミド化合物のいずれかからなり、フッ化物イオン(F
-)を捕捉可能な捕捉化合物6Cを1種以上含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素を含有する塩の電解質を含む電解液を備える蓄電デバイスであって、
前記電解液は、
複数の炭素と複数の窒素からなる複素環を有し、
前記複素環に含まれる前記複数の窒素がなす仮想球の仮想球直径が、0.11~0.24nmの環状アミン化合物及び環状アミド化合物のいずれかからなり、
フッ化物イオン(F-)を捕捉可能な
捕捉化合物を1種以上含む
蓄電デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の蓄電デバイスであって、
前記捕捉化合物の少なくとも1種は、
前記仮想球直径が、0.11~0.20nmである。
蓄電デバイス。
【請求項3】
請求項1に記載の蓄電デバイスであって、
前記捕捉化合物の少なくとも1種は、
前記仮想球直径が、0.18~0.24nmであり、
塩化物イオン(Cl-)をも捕捉可能である
蓄電デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の蓄電デバイスであって、
前記捕捉化合物の少なくとも1種は、
前記仮想球直径が、0.18~0.20nmである。
蓄電デバイス。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の蓄電デバイスであって、
前記捕捉化合物の1種は、
1,5,9トリアザシクロドデカン(1,5,9-triazacyclododecan)である
蓄電デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載の蓄電デバイスであって、
前記電解液は、
0.8~2.5mol/Lの範囲内の化合物濃度の前記1,5,9トリアザシクロドデカン(1,5,9-triazacyclododecan)を含む
蓄電デバイス。
【請求項7】
請求項2に記載の蓄電デバイスであって、
前記捕捉化合物の1種は、
2,2',2''-(1,4,7-トリアゾナン-1,4,7-トリイル)三酢酸(2,2',2''-(1,4,7-Triazonane-1,4,7-triyl)triacetic Acid)である
蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スルトン化合物Aとホウ素化合物Bとを含有する非水電解液を備えるリチウムイオン二次電池が開示されている。このリチウムイオン二次電池では、スルトン化合物Aの作用により、電池の保存時の抵抗上昇を抑制できる。その理由は明らかではないが、電池の保存時に、電極(負極または正極)の表面にスルトン化合物Aに由来する被膜が形成され、電池の保存時に形成される上記被膜の作用により、保存時の電極の劣化を防止して、抵抗の上昇が抑制されるためと考えられる。
【0003】
さらに、このリチウムイオン二次電池では、ホウ素化合物Bの作用により、電池の初期抵抗(即ち、保存前の抵抗)を低減できる。その理由は明らかではないが、ホウ素化合物Bが、スルトン化合物Aと比較して、還元反応性が高いことが関係していると考えられる。即ち、ホウ素化合物Bは、還元反応性が高いために、電池の保存前において、負極の表面にスルトン化合物Aよりも速やかに被膜を形成すると考えられる。電池の保存前に形成される上記被膜の作用により、電池の初期抵抗(保存前の抵抗)が低減されると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来、LiPF6などフッ素を含有する電解質を含む電解液では、電解液中に混入する微量の水分とLiPF6とが反応して、HF(フッ化水素)が発生することがある。このHFが電離することによって生じたフッ化物イオン(F-)の存在によって、正極板または負極板を構成する集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び、負極活物質の被膜の分解などの不具合が生じることがあった。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、フッ化物イオン(F-)の存在による不具合の発生を抑制できる蓄電デバイスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記課題を解決するための本発明の一態様は、フッ素を含有する塩の電解質を含む電解液を備える蓄電デバイスであって、前記電解液は、複数の炭素と複数の窒素からなる複素環を有し、前記複素環に含まれる前記複数の窒素がなす仮想球の仮想球直径が、0.11~0.24nm(=1.1~2.4Å)の環状アミン化合物及び環状アミド化合物のいずれかからなり、フッ化物イオン(F-)を捕捉可能な捕捉化合物を1種以上含む蓄電デバイスである。
【0008】
この蓄電デバイスでは、電解液に上述の捕捉化合物を含むので、LiPF6などフッ素を含有する塩の電解質由来のフッ化物イオン(F-)を捕捉化合物に捕捉することができ、フッ化物イオンに存在による不具合の発生を抑制することができる。
【0009】
なお、蓄電デバイスとしては、リチウムイオン二次電池,ナトリウムイオン二次電池等の二次電池やリチウムイオンキャパシタなどのキャパシタが挙げられる。
また、電解液としては、有機溶媒に電解質塩を溶解させることによって得られる非水溶液系電解液を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート及びエチレンカーボネートなどの環状炭酸エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、及びエチルメチルカーボネートなどの鎖状カーボネート類が挙げられる。
【0010】
電解液をなす電解質には、フッ素を含有するリチウム塩,ナトリウム塩などフッ素を含有する塩を含む。フッ素を含有するリチウム塩としては、例えば、LiBF4、LiAsF6、LiPF6、LiCF3SO3、LiN(SO2CF3)2、LiN(SO2C2F5)2、LiN(SO2CF3)(SO2C4F9)等の電解質となるリチウム塩、NaPF6、Na+(CF3SO2)2N-(NaTFSI)などのナトリウム塩が挙げられる。フッ素を含む塩としては、上記の単独物又は2種以上の混合物等が採用されるが、これらに限定されない。フッ素を含む塩の電解質を含む電解液では、塩由来のフッ化物イオン(F-)が生じることがあり、フッ化物イオンは、蓄電デバイスの内部に存在する水分と反応することによって、フッ酸(HF)を生じさせるなど、フッ化物イオンを含む酸性物質を生じる。
【0011】
また、捕捉化合物は、フッ化物イオンの直径が0.119nm(=1.19Å)の大きさを有するフッ化物イオン(F-)を捕捉可能な環状アミン化合物又は環状アミド化合物である。具体的には、複数の炭素Cと複数の窒素Nからなる複素環を有する。加えて、複素環に含まれる複数の窒素がなす仮想球の仮想球直径Dhが、フッ化物イオン(F-)の直径DFと同程度乃至2倍以内の範囲、即ち、前述した仮想球直径Dhの範囲(直径DFの90%~200%)の大きさを有する。このような捕捉化合物(環状アミン化合物又は環状アミド化合物)では、複素環をなす複数の窒素の電位が正電位側に偏るため、負電位に帯電するフッ化物イオンが窒素側に吸引されて、複素環に捕捉されると解される。
【0012】
なお、複素環に含まれる複数の窒素がなす「仮想球」は、球面上に複素環に含まれる複数の窒素がそれぞれ接し、且つ内部に他の元素を含まない仮想球を想定した場合の当該仮想球をいう。また、「仮想球直径」は、当該仮想球の直径をいう。具体的には、インターネット上のサイトWebMO.net(https://www.webmo.net/)で提供されているソフトウェアのWebMoを起動し、仮想球直径を得たい捕捉化合物の分子構造を描画する。次に、描画した捕捉化合物の分子構造が最安定化構造(グローバルミニマム)になるように構造最適化計算(Geometry Optimization)を行い(具体的には「最適化」ボタンを押して(クリックして))、捕捉化合物の分子構造を構造最適化し、構造最適化後の捕捉化合物の分子の3D(三次元)構造を特定する。ついで、特定された構造に基づき、仮想球直径を得る。具体的には、得られた捕捉化合物の分子複素環に含まれる複数の窒素Nが2つである場合には、2つの窒素N同士の間隙であるN-N間隙距離を求め、2つの窒素間の間隙を直径とする球を想定し、これを仮想球とし、想定した球の直径を仮想球直径とする。また、捕捉化合物の分子複素環に含まれる複数の窒素Nが3つ以上である場合には、分子複素環に含まれる窒素Nがそれぞれ球面に外接する球を想定し、これを仮想球とし、想定した球の直径を仮想球直径とする。
【0013】
(2)上述の(1)に記載蓄電デバイスであって、前記捕捉化合物の少なくとも1種は、前記仮想球直径が、0.11~0.20nm(=1.1~2.0Å)である蓄電デバイスとすると良い。
【0014】
この蓄電デバイスでは、電解液に上述の仮想球直径Dhを有する捕捉化合物を含む。前述したようにフッ化物イオン(F-)の直径DFは0.119nm(=1.19Å)である。これに対し、このフッ化物イオン(F-)の直径DFと概ね同程度乃至やや大きい範囲、具体的には、直径の90%~170%の仮想球直径Dhを有する捕捉化合物を用いた蓄電デバイスでは、さらに、適切にフッ化物イオンを捕捉でき、LiPF6などフッ素を含有する電解質由来のフッ化物イオン(F-)を捕捉することができ、フッ化物イオンに存在による不具合をさらに抑制できる。
【0015】
(3)或いは(1)に記載の蓄電デバイスであって、前記捕捉化合物の少なくとも1種は、前記仮想球直径が、0.18~0.24nm(=1.8~2.4Å)であり、塩化物イオン(Cl-)をも捕捉可能である、塩化物イオン(Cl-)をも捕捉可能である蓄電デバイスとすると良い。
【0016】
電解液中にフッ化物イオン(F-)が含まれる場合のほか、これに加えて、塩化物イオン(Cl-)をも含まれる場合がある。正極活物質層や負極活物質層に用いられるバインダ(例えば、PVDF、CMCなど)や導電材などが不純物として塩化物イオン(Cl-)を含む場合があるからである。この場合には、塩化物イオンによって、HClなどの酸性物質が生じ、フッ化物イオン(F-)と同様、正極板または負極板を構成する集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び、負極活物質の被膜の分解などの不具合が生じることがあった。
【0017】
これに対し、この蓄電デバイスでは、電解液に上述の仮想球直径Dhの範囲を有し、塩化物イオン(Cl-)をも捕捉可能する捕捉化合物を含む。前述したようにフッ化物イオン(F-)の直径DFは0.119nm(=1.19Å)である。加えて、塩化物イオン(Cl-)の直径DCLは0.181nm(=1.81Å)である。
このため、仮想球直径Dhが上述の範囲である捕捉化合物では、この仮想球直径Dhは、フッ化物イオンの直径DFよりもやや大きい乃至2倍の範囲、即ち、フッ化物イオン(F-)の直径DFの150~200%となっている。加えて、捕捉化合物の仮想球直径Dhが、塩化物イオンの直径DCLと同程度乃至若干大きい範囲、即ち、100~130%の仮想球直径Dhを有している。このため、この捕捉化合物を用いた蓄電デバイスでは、フッ化物イオンを捕捉でき、フッ化物イオンの存在による不具合を抑制できるのみならず、塩化物イオンをも良好に捕捉することができ、塩化物イオンの存在による不具合を抑制できる。
【0018】
(4)更に、(3)に記載の蓄電デバイスであって、前記捕捉化合物の少なくとも1種は、前記仮想球直径が、0.18~0.20nm(=1.8~2.0Å)である蓄電デバイスとすると良い。
【0019】
この蓄電デバイスでは、電解液に上述の仮想球直径Dhの範囲を有する捕捉化合物を含む。この捕捉化合物は、フッ化物イオンを良好に捕捉できるのみならず、塩化物イオンをも、特に良好に捕捉することができる。
即ち、仮想球直径Dhが上述の範囲である捕捉化合物では、この仮想球直径Dhは、フッ化物イオンの直径DFよりもやや大きい範囲、即ち、フッ化物イオン(F-)の直径DFの150~170%となっている。加えて、捕捉化合物の仮想球直径Dhが、塩化物イオンの直径DCLと同程度乃至僅かに大きい範囲、即ち、100~110%の仮想球直径Dhを有している。このため、上述の捕捉化合物を用いた蓄電デバイスでは、更に適切にフッ化物イオンを捕捉でき、フッ化物イオンの存在による不具合を抑制できる。これのみならず、塩化物イオンをも特に良好に捕捉することができ、塩化物イオンの存在による不具合を抑制できる。
【0020】
(5)更に、(1)~(4)のいずれか1項に記載の蓄電デバイスであって、前記捕捉化合物の1種は、1,5,9トリアザシクロドデカン(1,5,9-triazacyclododecan)である蓄電デバイスとすると良い。
【0021】
この蓄電デバイスでは、電解液に含まれる捕捉化合物の1種が、仮想球直径が0.19nmである1,5,9トリアザシクロドデカンである。このため、この蓄電デバイスでは、上述の捕捉化合物によって、フッ化物イオンを良好に捕捉できるのみならず、塩化物イオンをも特に良好に捕捉することができる。フッ化物イオンの存在による不具合を抑制できるのみならず、塩化物イオンの存在による不具合をも特に良好に抑制できる。
【0022】
(6)更に、(5)に記載の蓄電デバイスであって、前記電解液は、0.8~2.5mol/Lの範囲内の化合物濃度の前記1,5,9トリアザシクロドデカン(1,5,9-triazacyclododecan)を含む蓄電デバイスとすると良い。
【0023】
この蓄電デバイスでは、電解液における、捕捉化合物である1,5,9トリアザシクロデカンの化合物濃度CNを前述の範囲としている。このため、この蓄電デバイスでは、上述の化合物濃度CNの捕捉化合物を含む電解液において、さらにフッ化物イオンを良好に捕捉できるのみならず、塩化物イオンをも特に良好に捕捉することができ、フッ化物イオン及び塩化物イオンの存在による不具合を抑制できる。
【0024】
(7)更に、(2)に記載の蓄電デバイスであって、前記捕捉化合物の1種は、2,2',2''-(1,4,7-トリアゾナン-1,4,7-トリイル)三酢酸(2,2',2''-(1,4,7-Triazonane-1,4,7-triyl)triacetic Acid)である蓄電デバイスとすると良い。
【0025】
この蓄電デバイスでは、電解液に含まれる捕捉化合物の1種が、仮想球直径が0.12nmである2,2',2''-(1,4,7-トリアゾナン-1,4,7-トリイル)三酢酸である。このため、この蓄電デバイスでは、上述の捕捉化合物によって、フッ化物イオンを特に良好に捕捉でき、フッ化物イオンに存在による不具合を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】実施形態に係る電池の部分破断斜視図である。
【
図2】実施形態に係り、電極体をなす正極板、負極及びセパレータの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態に係るリチウムイオン二次電池である電池1(蓄電デバイスの一例)、を、
図1及び
図2を参照しつつ説明する。この電池1は、角型で密閉型のリチウムイオン二次電池であり、ハイブリッドカーやプラグインハイブリッドカー、電気自動車等の車両や各種の機器に搭載される。
【0028】
本実施形態の電池1は、電池ケース2と、電池ケース2の内部に収容された電極体5と、電池ケース2に固設された正極端子3及び負極端子4と、これらと電池ケース2との間を絶縁する絶縁部材(図示しない)とから構成されている。このうち電池ケース2は、金属(本実施形態ではアルミニウム)からなり、直方体の箱状である。電極体5は、電池ケース2内で、図示しない袋状の絶縁フィルムに覆われている。また電池ケース2内には、電解液6が収容されており、その一部は電極体5内に含浸され、一部は電池ケース2の底部に溜まっている。
【0029】
電池ケース2内に収容された電極体5は、いわゆる扁平捲回型電極体であり、帯状の正極板Pと帯状の負極板5Nとを一対の帯状のセパレータ5Sを介して捲回し、
図1において紙面に直交する方向に押圧して扁平にしてなる。この電極体5は、横倒しの姿勢として、電池ケース2内に収容されている。
【0030】
電極体5のうち、帯状の正極板5Pは、アルミニウム箔からなる正極集電箔5PFと、正極集電箔5PFの両表面に積層された正極活物質層5PAとを備える(
図2参照)。正極活物質層5PAは、図示しない正極活物質粒子と導電粒子と結着剤とからなる。本実施形態では、正極活物質粒子として、リチウム遷移金属複合酸化物粒子、具体的には、例えば、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物粒子を用いている。導電粒子としては、例えば、アセチレンブラック(AB)を用いている。また、結着剤には、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いている。なお、帯状の正極板5Pのうち幅方向一方側(
図2において上方)の端部は、正極集電箔5PF上に正極活物質層5PAが存在しておらず、正極集電箔5PFが露出した正極集電部5PCとなっている。
【0031】
一方、帯状の負極板5Nは、銅箔からなる負極集電箔5NFと、負極集電箔5NFの両表面に積層された負極活物質層5NAとを備える(
図2参照)。負極活物質層5NAは、図示しない負極活物質粒と結着剤とからなる。本実施形態では、負極活物質粒子として黒鉛粒子を用いている。なお、帯状の負極板5Nのうち幅方向他方側(
図2において下方)の端部は、負極集電箔5NF上に負極活物質層5NAが存在しておらず、負極集電箔5NFが露出した負極集電部5NCとなっている。
【0032】
正極端子3は、アルミニウム板からなり、細長形状をなしている。正極端子3の一方端部をなす内部接続部3Iは、電極体5を構成する正極板5Pの正極集電部5PCに接続されている。一方、正極端子3の他方端部は、電池ケース2外に引き出されて正極外部端子部3Gをなしている。
【0033】
また、負極端子4は、銅板からなり、細長形状をなしている。負極端子4の一方端部をなす内部接続部4Iは、電極体5を構成する負極板5Nの負極集電部5NCに接続されている。一方、負極端子4の他方端部は、電池ケース2外に引き出されて負極外部端子部4Gをなしている。
【0034】
電解液6は、有機溶媒6Aとフッ素を含有するリチウム塩6Sとを有する非水電解液である。本実施形態では、有機溶媒6Aとして、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートとを、重量比3:3:4で混合した有機溶媒を用いている。また、フッ素を含有するリチウム塩6Sとして、LiPF6を用いている。電解液6におけるLiPF6の濃度は1.16mol/Lである。
【0035】
ところで、従来、LiPF6などのフッ素を含有するリチウム塩を含む電解液では、電解液中に含まれる微量の水分とLiPF6等とが反応して、HF(フッ化水素)が発生することがあった。すると、発生したHFが電離することによって生じたフッ化物イオン(F-)の作用によって、正極板または負極板を構成する集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び、負極活物質の被膜の分解が生じることがあった。
【0036】
これに対し、本実施形態では、前述の電解液6に、さらにフッ化物イオン(F-)を捕捉可能な捕捉化合物6Cを添加している。具体的には、複数の炭素と複数の窒素からなる複素環を有し、複素環に含まれる複数の窒素がなす仮想球の仮想球直径Dhが、0.11~0.24nm(=1.1~2.4Å)の環状アミン化合物又は環状アミド化合物からなり、フッ化物イオン(F-)を捕捉可能な捕捉化合物6Cを、電解液6に添加している。このように、捕捉化合物6Cを添加した電解液6を電池1に用いると、電解液6中に生じたフッ化物イオン(F-)を捕捉化合物6Cで捕捉して、電解液6中のフッ化物イオン(F-)の濃度を低減することができる。これにより、フッ化物イオン(F-)が存在することによる、集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び負極活物質の被膜の分解などの、不具合を抑制することができる。なお、フッ化物イオン(F-)は、捕捉化合物6Cのうち複素環部分に含まれる複数の窒素に配位結合して捕捉される。
【0037】
更に具体的には、本実施形態では、捕捉化合物6Cとして、下記する化学式1で表される環状アミン化合物(以下「環状アミン1」と呼ぶ。)、具体的には、1,5,9トリアザシクロドデカン(1,5,9-triazacyclododecan,CAS:294-80-4)を2.0mol/L(=2.0M)の化合物濃度CNとなるように電解液6に添加している。この環状アミン1の仮想球直径Dhは、0.19nmである。なお、フッ化物イオン(F-)の直径(イオン径)DFは0.119nmである。従って、この環状アミン1の仮想球直径Dh(=0.19nm)は、フッ化物イオンの直径DF(=0.119nm)よりもやや大きく、複素環に含まれる複数の窒素がなす仮想球内にフッ化物イオンを良好に捕捉できると考えられる。
【0038】
【0039】
ところで、従来、電解液中に塩化物イオン(Cl-)が含まれる場合もあった。正極板5Pの正極活物質層5PAや負極板5Nの負極活物質層5NAに用いるバインダ(例えば,PVDF,CMCなど)に不純物として塩化物イオン(Cl-)が含まれている場合があるからである。この場合にも、フッ化物イオン(F-)が存在する場合と同様、塩化物イオン(Cl-)の作用によって、正極板または負極板を構成する集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び、負極活物質の被膜の分解が生じることがあった。
【0040】
これに対し、本実施形態では、前述の電解液6に添加した捕捉化合物6C(環状アミン1)は、フッ化物イオン(F-)のみならず塩化物イオン(Cl-)をも捕捉可能である。具体的には、複数の炭素と複数の窒素からなる複素環を有し、複素環に含まれる複数の窒素がなす仮想球の仮想球直径Dhが、0.18~0.24nm(=1.8~2.4Å)の環状アミン化合物又は環状アミド化合物からなり、フッ化物イオン(F-)及び塩化物イオン(Cl-)を捕捉可能な捕捉化合物6Cを、電解液6に添加している。このように、電池1に捕捉化合物6Cを添加した電解液6を用いると、電解液6中に生じた塩化化物イオン(Cl-)をも捕捉化合物6Cで捕捉して、電解液6中の塩化化物イオン(Cl-)の濃度を低減することができる。これにより、フッ化物イオン(F-)或いは塩化物イオン(Cl-)が存在することによる、集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び負極活物質の被膜の分解などの、不具合を抑制することができる。なお、塩化化物イオン(Cl-)も、捕捉化合物6Cのうち複素環部分に含まれる複数の窒素に配位結合して捕捉される。
【0041】
本実施形態では、前述のように捕捉化合物6Cとして、環状アミン1、即ち、1,5,9トリアザシクロドデカン(1,5,9-triazacyclododecan)を2.0mol/L(=2.0M)の化合物濃度CNとなるように電解液6に添加している(後述する実施例4に相当)。この捕捉化合物6Cの仮想球直径Dhは、0.19nmである。これに対し、塩化物イオン(Cl-)の直径(イオン径)DCLは0.181nmである。従って、この捕捉化合物6Cの仮想球直径Dh(=0.19nm)は、塩化物イオンの直径DCL(=0.181nm)とほぼ同じであるので、複素環に含まれる複数の窒素がなす仮想球内に塩化物イオンを特に良好に捕捉できると考えられる。
【0042】
このように、電池1に捕捉化合物6Cを添加した電解液6を用いると、電解液6中にHFの電離によって生じたフッ化物イオン(F-)を、捕捉化合物6Cによって捕捉して、電解液6中のフッ化物イオン(F-)の濃度を低減することができる。これにより、フッ化物イオン(F-)が存在することによる、集電箔の腐食、正極活物質の分解、及び負極活物質の被膜の分解などの不具合を抑制することができる。
【0043】
なお、本実施形態では、電解液6に添加する捕捉化合物6Cとして、環状アミン1、即ち、1,5,9トリアザシクロドデカンを用いたが、他の環状アミン化合物或いは環状アミド化合物をも用いることができる。そこで、いくつかの環状アミン化合物或いは環状アミド化合物を用いて、検証用の電池を作製して実験を行い、フッ化物イオン(F-)及び塩化物イオン(Cl-)の捕捉能について評価した。
【0044】
検証用の電池の作成は以下のようにした。先ず、57mm×45mmの矩形状アルミニウム箔の一方面上に、一辺に沿って10mm×45mmの露出部を残して47mm×45mmの正極活物質層を設けた正極板を形成する。そして、正極板の露出部からは正極リード板を延出させておく。また、59mm×47mmの矩形状銅箔の一方面上に、一辺に沿って10mm×47mmの露出部を残して49mm×47mmの負極活物質層を設けた負極板を形成する。そして、負極板の露出部からも負極リード板を延出させておく。その後、負極板に多孔質ポリプロピレン製で一辺が開口した矩形袋状のセパレータを被せ、セパレータを介して正極活物質層の全体が負極活物質層に対向すると共に、正極リード板と負極リード板が互いに逆側に延出するように、正極板と負極板を重ね、ラミネートフィルムからなる外装体内に収容し、注液用開口部を残して外装体の周縁部をヒートシールする。電解液を外装体内に注液した後に、外装体の注液用開口部を熱融着して封止し検証用の電池を作成した。なお、注液した電解液には、実施形態の電解液6と同様、エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとジメチルカーボネートとを、重量比3:3:4で混合した有機溶媒に、濃度1.16mol/LのLiPF6を含んでいる。このほか、電解液には、後述する環状アミン化合物或いは環状アミド化合物が所定の化合物濃度CNになる分だけ添加されている。
【0045】
上述の検証用電池に対して、3.0Vから4.3Vまで1Cのレートでの定電流充電と、4.3Vから3.0Vまで0.5Cの定電流放電とを5サイクル行い、その後、検証用電池を解体し、電解液中のフッ化物イオン(F-)及び塩化物イオン(Cl-)の濃度をイオンクロマトグラフィ分析により測定した。
【0046】
<実施例1>
実施例1の検証用電池では、電解液に添加する捕捉化合物6Cとして、下記の化学式2で表される環状アミン化合物(以下「環状アミン2」と呼ぶ。)、具体的には、テトラエチル1,4,8,11-テトラアザシクロテトラデカン-1,4,8,11-テトラアセテート(tetraethyl1,4,8,11-tetraazacyclotetradecne-1,4,8,11-tetraacetate,CAS:126320-57-8)を用いている。なお、本実施例1における電解液中の環状アミン2の化合物濃度CNは1.0mol/Lである。
【0047】
【0048】
<実施例2>
実施例2の検証用電池では、電解液に添加する捕捉化合物6Cとして、実施形態と同じ前述の化学式1で表される環状アミン1、具体的には、1,5,9トリアザシクロドデカン(1,5,9-triazacyclododecan)を用いている。なお、本実施例2における電解液中の環状アミン1の化合物濃度CNも1.0mol/Lである。
【0049】
<実施例3-5>
実施例3-5の検証用電池では、電解液に添加する捕捉化合物6Cとして、上述の実施例2と同じ環状アミン1、即ち、1,5,9トリアザシクロドデカン(1,5,9-triazacyclododecan)を用いている。但し、本実施例3-5における電解液中の環状アミン1の化合物濃度CNは、本実施例3では0.1mol/L、本実施例4では2.0mol/L、本実施例5では5.0mol/Lとした。なお、前述した実施形態の電池1の電解液6は、実施例4の検証用電池の電解液に対応する。
【0050】
<実施例6>
実施例6の検証用電池では、電解液に添加する捕捉化合物6Cとして、下記の化学式3で表される環状アミン化合物(以下「環状アミン3」と呼ぶ。)、具体的には、2,2',2''-(1,4,7-トリアゾナン-1,4,7-トリイル)三酢酸(2,2',2''-(1,4,7-Triazonane-1,4,7-triyl)triacetic Acid,CAS : 56491-86-2)を用いている。なお、本実施例6における電解液中の環状アミン3の化合物濃度CNは1.0mol/Lである。
【0051】
【0052】
<比較例1>
また、比較例1の検証用電池では、電解液に化合物を添加しなかった。
【0053】
<比較例2>
比較例2の検証用電池では、電解液に添加する化合物として、下記の化学式4で表される鎖状アミン化合物(以下「鎖状アミン1」と呼ぶ。)、具体的には、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミン(N,N,N',N'-Tetramethylethylenediamine,CAS:110-18-9)を用いている。なお、本比較例2における電解液中の鎖状アミン1の化合物濃度CNも1.0mol/Lである。
【0054】
【0055】
<比較例3>
比較例3の検証用電池では、電解液に添加する化合物として、下記の化学式5で表される環状アミン化合物(以下「環状アミン4」と呼ぶ。)、具体的には、4,7,13,16,21,24-ヘキサオクサ-1,10-ジアゾビシクロ[8,8,8]ヘキサコサン(4,7,13,16,21,24-hexaoxa-1,10-diazobicyclo[8,8,8]hexacosane,CAS:23978-09-8)を用いている。なお、本比較例3における電解液中の環状アミン4の化合物濃度CNも1.0mol/Lである。
【0056】
【0057】
【0058】
これら実施例1~6,比較例1~3の検証用電池の電解液に添加した化合物及び化合物濃度CNと、各電解液におけるフッ化物イオン濃度CF及び塩化物イオン濃度CCL、及び、これに基づく、フッ化物イオン捕捉能の評価結果及び塩化物イオン捕捉能の評価結果との関係を、上掲の表1を参照して説明する。
【0059】
先ず、比較例1について検討する。電解液に化合物を添加しなかった比較例1の検証用電池では、電解液におけるフッ化物イオン濃度CFが0.42mas%であり、塩化物イオン濃度CCLが0.53mas%であった。これらの値は、各例の良否を判定する基準となる。
【0060】
なお、表1における、フッ化物イオン捕捉能の評価結果(表1では「Fイオン捕捉評価」と記載)では、フッ化物イオン濃度CFが0.40以上の場合は捕捉能無し又は低い(×印)、0.31~0.39の場合は捕捉能有り(△印)、0.22~0.30の場合は捕捉能良好(○印)、0.21以下の場合は捕捉能特に良好(◎印)と判定した。また、塩化物イオン捕捉能の評価結果(表1では「Clイオン捕捉評価」と記載)においては、塩化物イオン濃度CCLが0.50以上の場合は捕捉能無し又は低い(×印)、0.39~0.49の場合は捕捉能有り(△印)、0.28~0.38の場合は捕捉能良好(○印)、0.27以下の場合は捕捉能特に良好(◎印)と判定した。
【0061】
次いで比較例2について検討する。比較例2では、フッ化物イオン濃度CF及び塩化物イオン濃度CCLが、基準となる比較例1の値とほぼ同じであった。このため、Fイオン捕捉評価及びClイオン捕捉評価のいずれも×印となっている。比較例2では、電解液に添加する化合物として、アミン化合物ではあるが、複数の炭素と複数の窒素からなる複素環を有さない鎖状アミン1(化学式4参照)を用いている。比較例2の結果から、この鎖状アミン1では、電解液中でフッ化物イオン及び塩化物イオンを捕捉できなかったことが判る。
【0062】
比較例3でも、電解液中のフッ化物イオン濃度CF及び塩化物イオン濃度CCLが、基準となる比較例1の値とほぼ同じであった。このため、Fイオン捕捉評価及びClイオン捕捉評価のいずれにも×印となっている。比較例3では、添加する化合物として、複数の炭素と複数の窒素からなる複素環を有するが、仮想球直径Dhが比較的大きな0.28nmである環状アミン4(化学式5参照)を用いている。比較例3の結果から、この環状アミン4では、電解液中でフッ化物イオン及び塩化物イオンを適切に捕捉できなかったことが判る。環状アミン4(化学式5参照)の仮想球直径Dh(0.28nm)が、フッ化物イオンの直径DF(0.119nm)及び塩化物イオンの直径DCL(0.181nm)に比して大き過ぎた(Dh=DF+0.161nm、Dh=DCL+0.099nm)ため、と考えられる。
【0063】
これらに対し、実施例1では、フッ化物イオン濃度CF及び塩化物イオン濃度CCLが、基準となる比較例1の値に比して有意に低下している。このため、Fイオン捕捉評価及びClイオン捕捉評価のいずれ△印となっている。実施例1では、添加する化合物として、複数の炭素と複数の窒素からなる複素環を有するが、仮想球直径Dhが0.21nmの環状アミン2(化学式2参照)を用いている。環状アミン2の仮想球直径Dh(0.21nm)が、フッ化物イオンの直径DF(0.119nm)及び塩化物イオンの直径DCL(0.181nm)に比して、やや大きい程度(Dh=DF+0.091nm、Dh=DCL+0.029nm)の大きさであり、環状アミン2の複素環に含まれて仮想球をなす4つの窒素によって、フッ化物イオン及び塩化物イオンを捕捉できたと考えられる。
【0064】
また実施例2では、フッ化物イオン濃度CF及び塩化物イオン濃度CCLが、基準となる比較例1の値に比して有意に低下している。特に塩化物イオン濃度は大きく低下している。このため、Fイオン捕捉評価は○印となり、Clイオン捕捉評価は◎印となっている。実施例1では、添加する捕捉化合物として、複数の炭素と複数の窒素からなる複素環を有し、しかも、仮想球直径Dhが0.19nmの環状アミン1(化学式1参照)を用いている。環状アミン1の仮想球直径Dh(0.19nm)が、フッ化物イオンの直径DF(0.119nm)に比してやや大きい程度(Dh=DF+0.071nm)の大きさであり、かつ、塩化物イオンの直径DCL(0.181nm)に比してほぼ同程度(Dh=DCL+0.009nm)であるため、環状アミン1の複素環に含まれて仮想球をなす3つの窒素によって、フッ化物イオンが捕捉されたほか、塩化物イオンが特に良好に捕捉されたと考えられる。
【0065】
次いで実施例3-5について検討する。実施例3-5は、実施例2と同じ環状アミン1(化学式1参照)を用いているが、電解液における化合物濃度CNを異ならせてある。具体的には、実施例2では環状アミン1の化合物濃度CNを1.0mol/Lとしたのに対し、実施例3では、実施例2に比して1/10である0.1mol/Lの低濃度とした。また、実施例4では、実施例2に比して2倍である2.0mol/Lの高濃度とした。さらに実施例5では、実施例2に比して5倍である5.0mol/Lの高濃度とした。
【0066】
先ず実施例3について検討すると、環状アミン1の化合物濃度CNが低濃度の実施例3であっても、電解液中のフッ化物イオン濃度CF及び塩化物イオン濃度CCLが、基準となる比較例1の値に比して有意に低下している。このため、化合物濃度CNが低濃度であるのに、Fイオン捕捉評価及びClイオン捕捉評価のいずれにおいても△印となっている。これから、環状アミン1は、低濃度でもフッ化物イオン及び塩化物イオンを捕捉できる捕捉化合物6Cとして機能していることが判る。
【0067】
一方、環状アミン1の化合物濃度CNを実施例2の2倍とした実施例4では、フッ化物イオン濃度CF及び塩化物イオン濃度CCLが、実施例2に比しても良好となっている。このため、Fイオン捕捉評価が○印となったほか、Clイオン捕捉評価では◎印となっている。
【0068】
さらに、環状アミン1の化合物濃度CNが、実施例2の5倍で、実施例4の2.5倍である実施例5では、フッ化物イオン濃度CF及び塩化物イオン濃度CCLが、実施例2,4に比しても良好となっている。このため、Fイオン捕捉評価が○印となったほか、Clイオン捕捉評価では◎印となっている。但し、実施例4と実施例5を比較すると、実施例5では、化合物濃度CNを実施例4の2.5倍にまで高めたのに対して、実施例4に比して実施例5のフッ化物イオン濃度CF及び塩化物イオン濃度CCLの低下の程度が小さい。このことから、電解液中の環状アミン1の化合物濃度CNをこれ以上高くしても、フッ化物イオン濃度CF及び塩化物イオン濃度CCLの低下には、余り寄与しないと推測される。
【0069】
従って、環状アミン1の化合物濃度CN(使用量)とフッ化物イオン濃度CF及び塩化物イオン濃度CCLの引き下げの効果を衡量すると、概ね、実施例2,4で用いた程度の化合物濃度CN、即ち、0.8~2.5mol/Lの範囲内の化合物濃度CNとするのが良いと考えられる。
【0070】
次いで、実施例6について検討する。実施例6では、フッ化物イオン濃度CFが、基準となる比較例1の値に比して大きく低下している。一方、塩化物イオン濃度CCLは、基準となる比較例1の値と同程度である。このため、Fイオン捕捉評価は◎印となったが、Clイオン捕捉評価は×印となっている。この実施例6では、添加する捕捉化合物6Cとして、複数の炭素と複数の窒素からなる複素環を有し、しかも、仮想球直径Dhが0.12nmの環状アミン3(化学式3参照)を用いている。この環状アミン3の仮想球直径Dh(0.12nm)が、フッ化物イオンの直径DF(0.119nm)とほぼ同程度(Dh=DF+0.001nm)の大きさであるため、環状アミン3の複素環に含まれて仮想球をなす3つの窒素によって、フッ化物イオンが特に良好に捕捉されたと考えられる。一方、塩化物イオンの直径DCL(0.181nm)に比して小さすぎる(Dh=DCL-0.061nm)ため、環状アミン3の複素環に含まれて仮想球をなす3つの窒素では、塩化物イオンを適切に捕捉できなかったと考えられる。即ち、この環状アミン3は、電解液中のフッ化物イオン及び塩化物イオンのうち、フッ化物イオンのみを選択的に捕捉できることが判る。
【0071】
これら比較例1-3及び実施例1-6の結果から、捕捉化合物6Cの仮想球直径Dhと、電解液中のフッ化物イオン濃度CFの低減(フッ化物イオンの捕捉)との関係を考察する。すると、例えば実施例1~6の環状アミン1~3(化学式1~3参照)など、仮想球直径Dhが0.11~0.24nm(=1.1~2.4Å,フッ化物イオンの直径DFの90%~200%)の環状アミン化合物を捕捉化合物6Cとして用いた電解液6を有する電池1では、この環状アミン化合物の複素環に含まれて仮想球をなす複数の窒素によって、電解液6中のフッ化物イオン(F-)を捕捉できる。かくして、フッ化物イオンに存在による不具合の発生を抑制することができる。
【0072】
さらには、例えば実施例2~6の環状アミン1,3(化学式1,3参照)など、仮想球直径Dhが0.11~0.20nm(=1.1~2.0Å,フッ化物イオンの直径DFの90%~170%)の環状アミン化合物を捕捉化合物6Cとして用いた電池1では、より適切に電解液6中のフッ化物イオン(F-)を捕捉できる。これにより、フッ化物イオンに存在による不具合の発生をさらに抑制することができる。
【0073】
加えて、捕捉化合物の仮想球直径Dhと、電解液中の塩化物イオン濃度CCLの低減(塩化物イオンの捕捉)との関係をも併せて考察する。すると、仮想球直径Dhが0.18~0.24nm(=1.8~2.4Å,フッ化物イオンの直径DFの150%~200%で、塩化物イオンの直径DCLの100%~130%)の環状アミン化合物を捕捉化合物6Cとして用いた電池1では、電解液6中のフッ化物イオン(F-)に加え、塩化物イオン(Cl-)をも捕捉できる。かくして、フッ化物イオンの存在による不具合を抑制できるのみならず、塩化物イオンの存在による不具合を抑制できる、と推測される。
【0074】
さらに、仮想球直径Dhが0.18~0.20nm(=1.8~2.0Å,フッ化物イオンの直径DFの150%~170%で、塩化物イオンの直径DCLの100%~110%)の環状アミン化合物を捕捉化合物6Cとして用いた電池1では、電解液6中のフッ化物イオン(F-)を捕捉できる。これに加え、塩化物イオン(Cl-)をも良好に捕捉できる。かくして、フッ化物イオンの存在による不具合を抑制できるのみならず、塩化物イオンの存在による不具合をも良好に抑制できる、と推測される。
【0075】
さらに、実施例2~5の環状アミン1(化学式1参照)、即ち、1,5,9トリアザシクロドデカン(1,5,9-triazacyclododecan)を捕捉化合物6Cとして用いた電池1では、電解液6中のフッ化物イオン(F-)のみならず、塩化物イオン(Cl-)をも特に良好に捕捉できる。かくして、フッ化物イオンの存在による不具合を抑制できるのみならず、塩化物イオンの存在による不具合をも良好に抑制できる、と推測される。
【0076】
なお、この環状アミン1を捕捉化合物6Cとして用いる場合、前述したように、環状アミン1の化合物濃度CN(使用量)とフッ化物イオン濃度CF及び塩化物イオン濃度CCLの引き下げの効果を衡量し、電解液6における環状アミン1の化合物濃度CNは、実施例2,4の場合を含む、0.8~2.5mol/Lの範囲内の化合物濃度CNとすると良い。
【0077】
或いは、実施例6の環状アミン3(化学式3参照)、即ち、2,2',2''-(1,4,7-トリアゾナン-1,4,7-トリイル)三酢酸(2,2',2''-(1,4,7-Triazonane-1,4,7-triyl)triacetic Acid)を捕捉化合物6Cとして用いた電池1では、電解液6中のフッ化物イオン(F-)を特に良好に捕捉できる。かくして、フッ化物イオンの存在による不具合を良好に抑制できる、と推測される。
【0078】
以上では、捕捉化合物6Cとして用い得る環状アミン化合物(環状アミン1-3、化学式1-3参照)を例示した。しかし、他の環状アミン化合物或いは環状アミド化合物をも、電解液6に添加する捕捉化合物6Cとして用い得る。
【0079】
例えば、捕捉化合物6Cとして、下記の化学式6で表される環状アミン化合物(以下「環状アミン5」と呼ぶ。)、具体的には、置換基Rが水素である場合の、1,4-ジ-アミノ-シクロヘキサン(1,4-di-amino-cyclohexane)を用い得る。なお、この環状アミン5の仮想球直径Dhは0.12nmである。このため、前述の、環状アミン3(化学式3参照)と同様、仮想球直径Dh(0.12nm)が、フッ化物イオンの直径DF(0.119nm)とほぼ同程度(Dh=DF+0.001nm)の大きさであるため、環状アミン5の複素環に含まれて仮想球をなす2つの窒素によって、フッ化物イオンを特に良好に捕捉できる。但し、塩化物イオンの直径DCL(0.181nm)に比して小さすぎるため、塩化物イオンは捕捉できない。即ち、環状アミン5も、電解液中のフッ化物イオン及び塩化物イオンのうち、フッ化物イオンのみを選択的に捕捉できる。
なお、下記する化学式6において、Rは、水素のほか、アルキル基、アミノ基、アミド基、カルボニル基等の任意の置換基を示す(後述する化学式7-10においても同様。)。
【0080】
【0081】
加えて、捕捉化合物6Cとして、上記の化学式6の環状アミン5に近似した化学式を有する、下記の化学式7で表される環状アミド化合物(以下「環状アミド1」と呼ぶ。)、具体的には、置換基Rが水素であるの場合の、シクロヘキサン-1,4-ジ-アミド(Cyclohexane-1,4-diamide)をも用い得る。なお、この環状アミド1の仮想球直径Dhは0.115nmである。なお、前述の環状アミン5に比して、環状アミド1の仮想球直径Dhが若干小さいのは、複素環にオキソ基が付加されているため、複素環の柔軟性が低下したためと推測される。この環状アミド1も、環状アミン3,5と同様、仮想球直径Dh(0.115nm)が、フッ化物イオンの直径DFとほぼ同程度の大きさであるため、環状アミド1の複素環に含まれて仮想球をなす2つの窒素によって、フッ化物イオンを特に良好に捕捉できる。但し、仮想球直径Dhが、塩化物イオンの直径DCLに比して小さすぎるため、塩化物イオンは捕捉できない。即ち、環状アミド1も、電解液中のフッ化物イオン及び塩化物イオンのうち、フッ化物イオンのみを選択的に捕捉できる。
【0082】
【0083】
また、捕捉化合物6Cとして、下記の化学式8で表される環状アミン化合物(以下「環状アミン6」と呼ぶ。)、具体的には、置換基Rが水素である場合の、1,3.6-トリ-アミノ-シクロヘプタン(1,3.6-tri-amino-cyloheptane)をも用い得る。なお、この環状アミン6の仮想球直径Dhは0.15nmである。このため、前述の、環状アミン3,6(化学式3,6参照)に近似して、仮想球直径Dh(0.15m)が、フッ化物イオンの直径DF(0.119nm)よりやや大きい程度(Dh=DF+0.031nm)の大きさであるため、環状アミン6の複素環に含まれて仮想球をなす3つの窒素によって、フッ化物イオンを特に良好に捕捉できる。但し、塩化物イオンの直径DCLに比して小さすぎるため、塩化物イオンは捕捉できない。即ち、環状アミン6も、電解液中のフッ化物イオン及び塩化物イオンのうち、フッ化物イオンのみを選択的に捕捉できる。
【0084】
【0085】
加えて、捕捉化合物6Cとして、上記の化学式8の環状アミン6に近似した化学式を有する、下記の化学式9で表される環状アミド化合物(以下「環状アミド2」と呼ぶ。)、具体的には、置換基Rが水素である場合の、シクロヘプタン-1,3,6-トリ-アミド(Cyloheptane-1,3.6-tri-amide)をも用い得る。なお、この環状アミド2の仮想球直径Dhは0.145nmである。なお、前述の環状アミン6に比して、環状アミド2の仮想球直径Dhが若干小さいのも、複素環にオキソ基が付加されているため、複素環の柔軟性が低下したためと推測される。この環状アミド2も、環状アミン3,5に近似して、仮想球直径Dh(0.145nm)が、フッ化物イオンの直径DFよりやや大きい程度の大きさであるため、環状アミド2の複素環に含まれて仮想球をなす3つの窒素によって、フッ化物イオンを特に良好に捕捉できる。但し、塩化物イオンの直径DCLに比して小さすぎるため、塩化物イオンは捕捉できない。即ち、環状アミド1も、電解液中のフッ化物イオン及び塩化物イオンのうち、フッ化物イオンのみを選択的に捕捉できる。
【0086】
【0087】
また、捕捉化合物6Cとして、下記の化学式10で表される環状アミン化合物(以下「環状アミン7」と呼ぶ。)、具体的には、置換基Rが水素である場合の、1,3,5,7-テトラ-アミノ-シクロオクタン(1,3,5,7-tera-amino-cylooctane)をも用い得る。なお、この環状アミン7の仮想球直径Dhは0.19nmである。このため、前述の、環状アミン1(化学式1参照)と同様、仮想球直径Dh(0.19m)が、フッ化物イオンの直径DF(0.119nm)よりやや大きい程度(Dh=DF+0.071nm)の大きさであるため、環状アミン7の複素環に含まれて仮想球をなす4つの窒素によって、フッ化物イオンが捕捉できるほか、塩化物イオンも特に良好に捕捉できる。
【0088】
【0089】
以上において、本発明を実施形態及び実施例1~6等に即して説明したが、本発明は実施形態等に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることは言うまでもない。
例えば、実施形態及び実施例1~6では、1種類の捕捉化合物6Cを電解液6に添加した。しかし、複数種類の捕捉化合物を添加しても良い。具体的には例えば、フッ化物イオン捕捉能が良好な環状アミン3(化学式3参照)と、塩化物イオン捕捉能が良好な環状アミン1(化学式1参照)とを、併せて電解液に添加することもできる。この場合には、フッ化物イオン捕捉能も塩化物イオン捕捉能も良好となり、特に好ましい。
【符号の説明】
【0090】
1 電池(蓄電デバイス)
5 電極体
5P 正極板
5N 負極板
5S セパレータ
6 電解液
6A 有機溶媒
6S リチウム塩(塩)
6C 捕捉化合物