(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113404
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法、及び制御プログラム
(51)【国際特許分類】
F15B 15/14 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
F15B15/14 335Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018360
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】393031586
【氏名又は名称】株式会社国際電気通信基礎技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 智之
(72)【発明者】
【氏名】仲田 佳弘
【テーマコード(参考)】
3H081
【Fターム(参考)】
3H081AA03
3H081CC25
3H081GG03
(57)【要約】
【課題】流体圧アクチュエータを精度よく制御する。
【解決手段】本開示に係る制御装置は、流体を収容する内部空間を構成する収容体
収容体の内部空間に接するように配置される可動部、封止材を備える流体圧アクチュエータに接続される。可動部は、変形要素を含む封止材を備える。封止材は、収容体の内壁と可動部との間の隙間を封止するように配置される。制御装置は、内部空間に収容された流体の圧力の値を取得し、摩擦モデルを使用して、内壁に対する封止材の接触面積の値及び取得された圧力の値から可動部に生じる摩擦力の推定値を算出し、算出された摩擦力の推定値を反映しながら流体圧アクチュエータの可動部の駆動力を制御するように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体を収容する内部空間を構成する収容体、前記収容体の前記内部空間に接するように配置される可動部、及び封止材を備える流体圧アクチュエータであって、前記封止材は、変形要素を含むように形成され、かつ前記内部空間を密封するために前記収容体の内壁と前記可動部との間の隙間を封止するように配置される、流体圧アクチュエータに接続される制御装置であって、
前記内部空間に収容された前記流体の圧力の値を取得するように構成される情報取得部と、
摩擦モデルを使用して、前記内壁に対する前記封止材の接触面積の値及び取得された前記圧力の値から前記可動部に生じる摩擦力の推定値を算出するように構成される摩擦推定部であって、前記摩擦モデルは、前記封止材の接触面積及び前記流体の圧力から前記摩擦力を推定するように構成される、摩擦推定部と、
算出された前記摩擦力の推定値を反映しながら前記流体圧アクチュエータの前記可動部の駆動力を制御するように構成される動作制御部と、
を備える、
制御装置。
【請求項2】
前記摩擦推定部において使用される前記摩擦モデルは、前記封止材及び前記収容体の接触の属性に応じて選択された摩擦モデルである、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記流体圧アクチュエータは、電磁力による駆動力を前記可動部に更に与えるように構成される補助駆動部を更に備える、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記摩擦力の推定値を反映することは、算出された前記推定値に応じて前記可動部に生じる前記摩擦力を補償することにより構成され、
前記可動部に生じる前記摩擦力を補償することは、前記補助駆動部から与えられる前記電磁力によって前記摩擦力を補償することにより構成される、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項5】
前記摩擦力の推定値を反映することは、算出された前記推定値に応じて前記可動部に生じる前記摩擦力を増幅することにより構成され、
前記摩擦力を増幅することは、前記可動部に生じる前記摩擦力と同じ方向に力を与えることにより構成され、
前記可動部に生じる前記摩擦力を増幅することは、前記補助駆動部から与えられる前記電磁力によって前記摩擦力を増幅することにより構成される、
請求項3に記載の制御装置。
【請求項6】
前記流体圧アクチュエータは、空電ハイブリッドアクチュエータである、
請求項3から5のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項7】
前記流体圧アクチュエータは、前記可動部を介して出力される力を測定する荷重センサを更に備え、
前記制御装置は、前記荷重センサにより得られる前記力の測定値から前記摩擦力の算出値を導出し、導出された前記摩擦力の算出値と前記摩擦モデルを使用して得られた前記摩擦力の推定値との間の乖離に応じて、前記流体圧アクチュエータに異常が生じたか否かを判定する異常判定部を更に備える、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項8】
前記摩擦推定部は、取得された前記圧力の値から前記封止材の接触面積の値を算出するように更に構成され、
前記摩擦力の推定値を算出することは、算出された前記接触面積の値及び取得された前記圧力の値から前記摩擦力の推定値を算出することにより構成される、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項9】
前記封止材は、ゴム、樹脂及びエラストマーの少なくともいずれかを用いて生成されていることで、前記変形要素を含むように形成されている、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項10】
流体を収容する内部空間を構成する収容体、前記収容体の前記内部空間に接するように配置される可動部、及び封止材を備える流体圧アクチュエータであって、前記封止材は、変形要素を含むように形成され、かつ前記内部空間を密封するために前記収容体の内壁と前記可動部との間の隙間を封止するように配置される、流体圧アクチュエータに接続されるコンピュータが、
前記内部空間に収容された前記流体の圧力の値を取得するステップと、
摩擦モデルを使用して、前記内壁に対する前記封止材の接触面積の値及び取得された前記圧力の値から前記可動部に生じる摩擦力の推定値を算出するステップであって、前記摩擦モデルは、前記封止材の接触面積及び前記流体の圧力から前記摩擦力を推定するように構成される、ステップと、
算出された前記摩擦力の推定値を反映しながら前記流体圧アクチュエータの前記可動部の駆動力を制御するステップと、
を実行する、
制御方法。
【請求項11】
前記流体圧アクチュエータの出力は、前記流体圧アクチュエータよりも大きな力を出力するように構成された他のアクチュエータの出力誤差の補償に使用される、
請求項10に記載の制御方法。
【請求項12】
流体を収容する内部空間を構成する収容体、前記収容体の前記内部空間に接するように配置される可動部、及び封止材を備える流体圧アクチュエータであって、前記封止材は、変形要素を含むように形成され、かつ前記内部空間を密封するために前記収容体の内壁と前記可動部との間の隙間を封止するように配置される、流体圧アクチュエータに接続されるコンピュータに、
前記内部空間に収容された前記流体の圧力の値を取得するステップと、
摩擦モデルを使用して、前記内壁に対する前記封止材の接触面積の値及び取得された前記圧力の値から前記可動部に生じる摩擦力の推定値を算出するステップであって、前記摩擦モデルは、前記封止材の接触面積及び前記流体の圧力から前記摩擦力を推定するように構成される、ステップと、
算出された前記摩擦力の推定値を反映しながら前記流体圧アクチュエータの前記可動部の駆動力を制御するステップと、
を実行させるための、
制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御装置、制御方法、及び制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
エアシリンダ等の流体圧アクチュエータは、アクチュエータのサイズに対して大きな力を取り出せることから、建設機械の駆動、工場のラインでの搬送等の場面で利用されている。流体圧アクチュエータは、収容体の内部空間に収容された流体の圧力によって可動部を駆動することで動作する。収容体は、例えば、シリンダチューブであり、可動部は、例えば、ピストンである。
【0003】
内部空間の流体が漏れてしまうと、可動部に作用する力が逃げてしまう。そのため、流体の漏れを抑制するように、収容体の内壁と可動部との間は封止される。封止を十分に行うため、可動部から収容体の内壁に対してある程度の与圧がかけられる。その結果、可動部の駆動に際して、摩擦が問題となる。摩擦の低減のため、例えば、摺動性の高い素材を封止に使用する、液体による潤滑を与える等の方策が採用されている。液体による潤滑では、可動部の摺動速度に応じて動摩擦力及び粘性が変化することが知られている(ストライベック曲線)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】C. Canudas de Wit, H. Olsson, K. Astrom, and P. Lischinsky, “A new model for control of systems with friction,” IEEE Trans. on Auto. Cont., vol. 40, no. 3, pp. 419-425, 1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記ストライベック曲線を用いることで、可動部の摺動速度に応じて、封止に生じる摩擦力及び粘性を推定することができる。しかしながら、本件発明者らは、従来の方法には、次のような問題点があることを見出した。すなわち、従来の方法では、流体圧アクチュエータの可動部に生じる摩擦力の推定に誤差が生じる可能性がある。これに起因して、流体圧アクチュエータを精度よく制御することができない可能性がある。
【0006】
本発明は、一側面では、このような点を考慮してなされたものであり、その目的は、流体圧アクチュエータを精度よく制御するための技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述した課題を解決するために、以下の構成を採用する。なお、以下の発明の構成は適宜組み合わせ可能である。
【0008】
本発明の一側面に係る制御装置は、流体圧アクチュエータに接続される。流体圧アクチュエータは、流体を収容する内部空間を構成する収容体、収容体の内部空間に接するように配置される可動部、及び封止材を備える。封止材は、変形要素を含むように形成され、かつ内部空間を密封するために収容体の内壁と可動部との間の隙間を封止するように配置される。制御装置は、情報取得部、摩擦推定部、及び動作制御部を備えるように構成される。情報取得部は、内部空間に収容された流体の圧力の値を取得するように構成される。摩擦推定部は、摩擦モデルを使用して、内壁に対する封止材の接触面積の値及び取得された圧力の値から可動部に生じる摩擦力の推定値を算出するように構成される。摩擦モデル
は、封止材の接触面積及び流体の圧力から摩擦力を推定するように構成される。動作制御部は、算出された摩擦力の推定値を反映しながら流体圧アクチュエータの可動部の駆動力を制御するように構成される。
【0009】
本件発明者らは、変形要素を含むように形成される封止材について、収容体の内壁に対する封止材の接触面積及び流体の圧力に応じて、可動部に生じる摩擦力が変動し得ることを後述の実験例により見出した。この知見を活かして、当該構成では、摩擦モデルは、封止材の接触面積及び流体の圧力から摩擦力を推定するように構築される。制御装置は、当該摩擦モデルにより算出された摩擦力の推定値を反映しながら流体圧アクチュエータの可動部の駆動力を制御するように構成される。したがって、当該構成によれば、流体圧アクチュエータの精度のよい制御の遂行を期待することができる。
【0010】
上記一側面に係る制御装置において、前記摩擦推定部において使用される前記摩擦モデルは、前記封止材及び前記収容体の接触の属性に応じて選択された摩擦モデルであってよい。封止材を介して可動部に生じる摩擦力は、封止材及び収容体の接触の属性に応じて異なり得る。当該構成によれば、接触の属性に応じた摩擦モデルを使用することで、可動部に生じる摩擦力の推定精度の向上を期待することができる。その結果、流体圧アクチュエータの精度のよい制御の遂行を期待することができる。なお、接触の属性は、例えば、封止材の種類、収容体の種類、潤滑剤の有無、潤滑剤の種類、温度、可動部の速度等により規定されてよい。封止材及び収容体の種類は、例えば、形状、携帯、材料、材質等により規定されてよい。
【0011】
上記一側面に係る制御装置において、前記流体圧アクチュエータは、電磁力による駆動力を前記可動部に更に与えるように構成される補助駆動部を更に備えてもよい。流体の圧力に比べて電磁力は応答性が高い。そのため、流体による駆動と共に補助駆動部を使用することで、流体圧アクチュエータにおける駆動の応答性の向上を期待することができる。
【0012】
上記一側面に係る制御装置において、前記摩擦力の推定値を反映することは、算出された前記推定値に応じて前記可動部に生じる前記摩擦力を補償することにより構成されてよい。また、前記可動部に生じる前記摩擦力を補償することは、前記補助駆動部から与えられる前記電磁力によって前記摩擦力を補償することにより構成されてよい。当該構成によれば、摩擦力補償の応答性の向上を期待することができる。
【0013】
上記一側面に係る制御装置において、前記摩擦力の推定値を反映することは、算出された前記推定値に応じて前記可動部に生じる前記摩擦力を増幅することにより構成されてよい。前記可動部に生じる前記摩擦力を増幅することは、前記補助駆動部から与えられる前記電磁力によって前記摩擦力を増幅することにより構成されてよい。当該構成によれば、摩擦力増幅の応答性の向上を期待することができる。
【0014】
上記一側面に係る制御装置において、前記流体圧アクチュエータは、空電ハイブリッドアクチュエータであってよい。当該構成によれば、空電ハイブリッドアクチュエータを使用する場面において、当該空電ハイブリッドアクチュエータの精度のよい制御の遂行を期待することができる。
【0015】
上記一側面に係る制御装置において、前記流体圧アクチュエータは、前記可動部を介して出力される力を測定する荷重センサを更に備えてよい。前記制御装置は、前記荷重センサにより得られる前記力の測定値から前記摩擦力の算出値を導出し、導出された前記摩擦力の算出値と前記摩擦モデルを使用して得られた前記摩擦力の推定値との間の乖離に応じて、前記流体圧アクチュエータに異常が生じたか否かを判定する異常判定部を更に備えてよい。当該構成によれば、流体圧アクチュエータの動作不良を検出することができる。
【0016】
上記一側面に係る制御装置において、前記摩擦推定部は、取得された前記圧力の値から前記封止材の接触面積の値を算出するように更に構成されてよい。前記摩擦力の推定値を算出することは、算出された前記接触面積の値及び取得された前記圧力の値から前記摩擦力の推定値を算出することにより構成されてよい。
当該構成では、封止材は変形要素を含むため、流体の圧力に応じて封止材が変形することで、収容体の内壁に対する封止材の接触面積が変化する可能性がある。当該構成によれば、接触面積の変動を更に考慮することで、可動部に生じる摩擦力の推定精度の向上を期待することができる。その結果、流体圧アクチュエータの精度のよい制御の遂行を期待することができる。
【0017】
上記一側面に係る制御装置において、前記封止材は、ゴム、樹脂及びエラストマーの少なくともいずれかを用いて生成されていることで、前記変形要素を含むように形成されてよい。当該構成によれば、ゴム、樹脂及びエラストマーの少なくともいずれかを用いて封止材が生成されている場面において、流体圧アクチュエータの精度のよい制御の遂行を期待することができる。
【0018】
上記各形態に係る制御装置の別の態様として、本発明の一側面は、以上の各構成の全部又はその一部を実現する情報処理方法であってもよいし、プログラムであってもよいし、このようなプログラムを記憶した、コンピュータその他装置、機械等が読み取り可能な記憶媒体であってもよい。ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記憶媒体とは、プログラム等の情報を、電気的、磁気的、光学的、機械的、又は化学的作用によって蓄積する媒体である。
【0019】
例えば、本発明の一側面に係る制御方法は、流体圧アクチュエータに接続されるコンピュータが、前記内部空間に収容された前記流体の圧力の値を取得するステップと、摩擦モデルを使用して、前記内壁に対する前記封止材の接触面積の値及び取得された前記圧力の値から前記可動部に生じる摩擦力の推定値を算出するステップであって、前記摩擦モデルは、前記封止材の接触面積及び前記流体の圧力から前記摩擦力を推定するように構成される、ステップと、算出された前記摩擦力の推定値を反映しながら前記流体圧アクチュエータの前記可動部の駆動力を制御するステップと、を実行する、情報処理方法である。
【0020】
本発明の一側面に係る制御プログラムは、流体圧アクチュエータに接続されるコンピュータに、前記内部空間に収容された前記流体の圧力の値を取得するステップと、摩擦モデルを使用して、前記内壁に対する前記封止材の接触面積の値及び取得された前記圧力の値から前記可動部に生じる摩擦力の推定値を算出するステップであって、前記摩擦モデルは、前記封止材の接触面積及び前記流体の圧力から前記摩擦力を推定するように構成される、ステップと、算出された前記摩擦力の推定値を反映しながら前記流体圧アクチュエータの前記可動部の駆動力を制御するステップと、を実行させるためのプログラムである。
【0021】
なお、上記各側面において、流体圧アクチュエータの出力は任意に使用されてよい。流体圧アクチュエータの出力は、例えば、自身以外の機械的摩擦の補償又は増幅、自身と組み合わせて使用されるアクチュエータの摩擦の補償又は増幅等、他の機械的要素と共に使用されてよい。一例では、流体圧アクチュエータの出力は、他のアクチュエータの出力誤差の補償又は摩擦の増幅(摩擦の働く方向に力を加える)のために使用されてよい。出力誤差の要因は、例えば、摩擦、他のアクチュエータのモデル化誤差、応答の時間遅れ等であってよい。具体例として、流体圧アクチュエータの出力は、流体圧アクチュエータよりも大きな力を出力するように構成された他のアクチュエータの出力誤差の補償に使用されてよい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、流体圧アクチュエータを精度よく制御するための技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明が適用される場面の一例を模式的に示す。
【
図2A】
図2Aは、流体圧アクチュエータの一例を模式的に示す。
【
図2B】
図2Bは、流体圧アクチュエータの一例を模式的に示す。
【
図3】
図3は、実施の形態に係る流体圧アクチュエータの一例を模式的に示す。
【
図4A】
図4Aは、実施の形態に係る流体圧アクチュエータにおける封止材の接触状態の一例を説明するための図である。
【
図4B】
図4Bは、実施の形態に係る流体圧アクチュエータにおける封止材の接触状態の一例を説明するための図である。
【
図5A】
図5Aは、実施の形態に係る流体圧アクチュエータにおける封止材の変形の一例を模式的に示す。
【
図5B】
図5Bは、実施の形態に係る流体圧アクチュエータにおける封止材の変形の一例を模式的に示す。
【
図6A】
図6Aは、他の形態に係る封止材の変形の一例を模式的に示す。
【
図6B】
図6Bは、他の形態に係る封止材の変形の一例を模式的に示す。
【
図7】
図7は、実施の形態に係る制御装置のハードウェア構成の一例を模式的に示す。
【
図8】
図8は、実施の形態に係るアクチュエータシステムの一例を模式的に示す。
【
図9】
図9は、実施の形態に係る制御装置のソフトウェア構成の一例を模式的に示す。
【
図10】
図10は、実施の形態に係る制御装置の処理手順の一例を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、実施の形態に係る流体圧アクチュエータの物理モデルの一例を模式的に示す。
【
図12】
図12は、変形例に係る流体圧アクチュエータの使用形態の一例を模式的に示す。
【
図13A】
図13Aは、実施例及び比較例におけるアクチュエータの状態を模式的に示す。
【
図13B】
図13Bは、実施例及び比較例におけるアクチュエータの想定タスクを説明するための図である。
【
図14A】
図14Aは、実施例及び比較例におけるアクチュエータに外乱を加えている間において、力と相対位置との間の関係を測定した結果を示す。
【
図14B】
図14Bは、圧力の目標値が異なる複数の条件下で、正及び負の速度における力の平均値並びに全体的な力の平均値を計測した結果を示す。
【
図14C】
図14Cは、正及び負の速度それぞれでの力の平均値と全体平均値との間の誤差をプロットした結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一側面に係る実施の形態(以下、「本実施形態」とも表記する)を、図面に基づいて説明する。ただし、以下で説明する本実施形態は、あらゆる点において本発明の例示に過ぎない。本発明の範囲を逸脱することなく種々の改良及び変形を行うことができることは言うまでもない。つまり、本発明の実施にあたって、実施形態に応じた具体的構成が適宜採用されてもよい。なお、本実施形態において登場するデータを自然言語に
より説明しているが、より具体的には、コンピュータが認識可能な疑似言語、コマンド、パラメータ、マシン語等で指定される。
【0025】
§1 適用例
図1は、本発明を適用した場面の一例を模式的に示す。
図1に示されるとおり、本実施形態に係るアクチュエータシステムSは、制御装置1及び流体圧アクチュエータ2を備える。
【0026】
流体圧アクチュエータ2は、収容体、可動部、封止材及び主駆動部を備える。収容体は、流体を収容する内部空間を構成する。可動部は、収容体の内部空間に接するように配置される。これにより、可動部は、流体の圧力による駆動力を得るように構成される。一例では、可動部は、少なくとも部分的に収容体に収容されることで内部空間に接し、内部空間の流体の圧力に応じて移動するように構成されてよい。封止材は、変形要素を含むように形成される。また、封止材は、内部空間を密封するために収容体の内壁と可動部との間の隙間を封止するように配置される。主駆動部は、内部空間内の流体の圧力を制御して、当該流体の圧力による駆動力を可動部に与えるように構成される。流体圧アクチュエータ2の具体例は後述する。
【0027】
制御装置1は、流体圧アクチュエータ2の動作を制御するように構成された1台以上のコンピュータである。本実施形態では、制御装置1は、流体圧アクチュエータ2に接続される。制御装置1は、内部空間に収容された流体の圧力の値61を取得する。制御装置1は、摩擦モデル5を使用して、収容体の内壁に対する封止材の接触面積の値62及び取得された圧力の値61から可動部に生じる摩擦力の推定値65を算出する。摩擦モデル5は、封止材の接触面積及び流体の圧力から摩擦力を推定するように構成される。制御装置1は、算出された摩擦力の推定値65を反映しながら流体圧アクチュエータ2の可動部の駆動力を制御する。
【0028】
後述の実験例により、変形要素を含むように形成される封止材について、収容体の内壁に対する封止材の接触面積及び流体の圧力に応じて、可動部に生じる摩擦力が変動し得ることを見出した。この知見を活かして、本実施形態では、摩擦モデル5は、封止材の接触面積及び流体の圧力から摩擦力を推定するように構成される。制御装置1は、摩擦モデル5により算出される摩擦力の推定値65を反映しながら流体圧アクチュエータ2の動作を制御するように構成される。これにより、流体圧アクチュエータ2の精度のよい制御の遂行を期待することができる。
【0029】
[流体圧アクチュエータ]
なお、流体圧アクチュエータ2は、流体の圧力による駆動力を出力可能であれば、その種類は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。流体は、気体、液体又はこれらの混合であってもよい。以下、典型的な流体圧アクチュエータ2の2つの構成例を示す。ただし、流体圧アクチュエータ2の構成は、以下の例に限定されなくてよい。
【0030】
(A)第一の構成例
図2Aは、シリンダ型の流体圧アクチュエータ300A(流体圧シリンダ)の一例を模式的に示す。流体圧アクチュエータ300Aは、収容体31A及び可動部34Aを備える。収容体31Aは、シリンダチューブである。収容体31Aは、内部空間(321A、322A)を構成する。
【0031】
可動部34Aは、ピストン341A及びシャフト(ロッド)342Aにより構成される。ピストン341Aは、収容体31Aの内部に配置される。このピストン341Aにより
、収容体31Aの内部は、2つの内部空間(321A、322A)に区切られる。シャフト342Aは、軸を有する。シャフト342Aは、ピストン341Aから軸方向(
図2Aの左右方向)に延び、収容体31Aの外部に突き出るように構成される。
【0032】
シャフト342Aと反対側に位置する第1内部空間321Aは、収容体31Aに設けられた第1ポート311A(cap end port)を介して外部空間と接続している。同様に、シャフト342A側に位置する第2内部空間322Aは、収容体31Aに設けられた第2ポート312A(rod end port)を介して外部空間と接続している。
【0033】
この流体圧アクチュエータ300Aは、各ポート(311A、312A)を介して各内部空間(321A、322A)の流体の圧力を制御することで、可動部34Aにおいて軸方向の駆動力を出力可能に構成される。当該流体圧アクチュエータ300Aでは、ピストン341A及び収容体31Aの内壁33Aの間の隙間351A、並びにシャフト342A及び内壁33Aの間の隙間352Aの少なくともいずれかは、封止材により封止されてよい。
【0034】
隙間351Aを封止することで、2つの内部空間(321A、322A)の間における流体の移動を抑制することができる。隙間352Aを封止することで、第2内部空間322A及び外部空間の間における流体の移動を抑制することができる。各封止は、各内部空間(321A、322A)における流体の圧力を可動部34Aに適正に作用させる効果を有する。なお、シリンダ型を採用する場合に、収容体の内壁は、シリンダ端部におけるシャフトの出口の内壁(
図2Aの例では、隙間352Aの部分)を含んでよい。
【0035】
(B)第二の構成例
図2Bは、ロータリ型の流体圧アクチュエータ300B(流体圧ロータリアクチュエータ)の一例を模式的に示す。流体圧アクチュエータ300Bは、円筒状の収容体31B及び可動部34Bを備える。
【0036】
可動部34Bは、ベーンである。可動部34Bは、収容体31Bの中央に設けられた回転軸324Bを中心に回転可能に構成される。収容体31Bの内部には、仕切り323Bが設けられている。可動部34B及び仕切り323Bにより、収容体31Bの内部は、2つの内部空間(321B、322B)に区切られている。各内部空間(321B、322B)は、収容体31Bに設けられた各ポート(311B、312B)を介して外部空間と接続している。
【0037】
この流体圧アクチュエータ300Bは、各ポート(311B、312B)を介して各内部空間(321B、322B)の流体の圧力を制御することで、可動部34Bにおいて回転方向の駆動力を出力可能に構成される。当該流体圧アクチュエータ300Bでは、可動部34B及び収容体31Bの内壁33Bの間の隙間351Bが、封止材により封止されてよい。隙間351Bを封止することで、2つの内部空間(321B、322B)の間における流体の移動を抑制することができる。この封止は、各内部空間(321B、322B)における流体の圧力を可動部34Bに適正に作用させる効果を有する。
【0038】
なお、
図2Bの例では、仕切り323Bにより、可動部34Bの駆動範囲が制限される。しかしながら、ロータリ型の流体圧アクチュエータの構成は、このような例に限られなくてよい。他の一例では、流体圧アクチュエータは、参考文献1(「ベーンエアモータの設計と動作原理」、[online]、[令和5年1月16日検索]、インターネット<URL: https://www.atlascopco.com/ja-jp/itba/industry-solutions/airmotors/technicalguide/design-working-principle>)等に開示される構造により、駆動範囲に制限なく回転可
能に構成されてよい。
【0039】
以上、典型的な流体圧アクチュエータ2の2つの構成例を示した。いずれの構成でも、封止材が、内部空間を密封するために収容体の内壁と可動部との間の隙間を封止するように配置され得る。そのため、いずれの構成も同様に取り扱ってよい。以下では、説明の便宜のため、シリンダ型のアクチュエータを例に挙げて説明する。
【0040】
(反映)
摩擦力の推定値65を反映することは、算出された推定値65に応じて可動部に生じる摩擦力を補償すること及び増幅することのいずれかにより構成されてよい。摩擦力を補償することは、可動部に生じる摩擦力の少なくとも一部を打ち消すように力を与えることにより構成されてよい。摩擦力を増幅することは、可動部に生じる摩擦力と同じ方向に力を与えることにより構成されてよい。摩擦力の補償又は増幅は、例えば、人の筋肉、駆動装置の動作、ロボットの関節等の要素の最適な剛性及び粘性を表現するようにアクチュエータの出力をインピーダンス制御する等の場面で実行されてよい。摩擦力の増幅は、例えば、摩擦力を増幅し、出力軸の振動を抑制するように実行されてよい。アクチュエータの出力は人の筋肉と同等の剛性と粘性を示すようにインピーダンス制御される等の場面で実行されてよい。また、摩擦力の補償は、アクチュエータのピストン部だけでなく他の機械的摩擦を更に考慮して実行されてもよい。
【0041】
(補助駆動部)
流体圧アクチュエータ2は、流体の圧力の他に、追加の駆動源を備えてもよい。一例では、流体圧アクチュエータ2は、電磁力による駆動力を可動部に更に与えるように構成される補助駆動部を更に備えてよい。補助駆動部は、付加駆動部又は電磁アクチュエータと読み替えられてもよい。
【0042】
具体例として、流体圧アクチュエータ2は、空電ハイブリッドアクチュエータであってよい。空電ハイブリッドアクチュエータの一例として、参考文献2(Y. Nakata, T. Noda, J. Morimoto, and H. Ishiguro, “Development of a pneumatic-electromagnetic hybrid linear actuator with an integrated structure,” in IEEE/RSJ Int. Conf. on Int. Rob. & Sys., 2015, pp. 6238-6243.)等で提案されるアクチュエータが用いられてよい。この場合、流体は、気体(例えば、空気)である。
【0043】
流体の圧力と比べて、電磁力の応答性は高い。そのため、流体の圧力と共に補助駆動部を使用することで、流体圧アクチュエータ2における駆動の応答性の向上を期待することができる。
【0044】
一例では、流体圧アクチュエータ2が補助駆動部を備える場合に、摩擦力の推定値65を反映することは、算出された推定値65に応じて可動部に生じる摩擦力を補償することにより構成されてよい。可動部に生じる摩擦力を補償することは、補助駆動部から与えられる電磁力によって摩擦力を補償することにより構成されてよい。当該構成によれば、摩擦力補償の応答性の向上を期待することができる。
【0045】
他の一例では、流体圧アクチュエータ2が補助駆動部を備える場合に、摩擦力の推定値65を反映することは、算出された推定値65に応じて可動部に生じる摩擦力を増幅することにより構成されてよい。可動部に生じる摩擦力を増幅することは、補助駆動部から与えられる電磁力によって摩擦力を増幅することにより構成されてよい。当該構成によれば、摩擦力増幅の応答性の向上を期待することができる。
【0046】
ただし、流体圧アクチュエータ2の構成は、このような例に限定されなくてよい。他の一例では、流体圧アクチュエータ2は、補助駆動部を備えず、流体の圧力を制御するため
の主駆動部のみを備えるように構成されてよい。補助駆動部を備えるケース及び備えないケースのいずれでも、制御装置1は、流体の圧力により、摩擦力の補償及び増幅のいずれかを遂行するように構成されてよい。補助駆動部を備えるケース及び備えないケースのいずれでも、封止材に起因する摩擦力は、同じように生じ得る。そのため、いずれのケースも同様に取り扱ってよい。以下では、説明の便宜のため、補助駆動部を備える構成を例に挙げて説明する。
【0047】
(流体圧アクチュエータの構成例)
図3は、本実施形態に係る流体圧アクチュエータ2の一例を模式的に示す。
図3の一例では、流体圧アクチュエータ2は、収容体21、可動部24、封止材25、主駆動部26、補助駆動部27及び荷重センサ28を備える。
【0048】
図2Aの一例と同様に、収容体21は、シリンダチューブである。収容体21は、流体を収容する内部空間(221、222)を構成する。可動部24は、ピストン241及びシャフト242により構成される。ピストン241は、収容体21の内部に配置される。シャフト242は、ピストン241から軸方向の延び、収容体21の外部に突き出るように構成される。これにより、可動部24は、収容体21の内部空間(221、222)に接するように配置され、内部空間(221、222)の流体の圧力に応じて駆動力を得るように構成される。
【0049】
収容体21の内部は、ピストン241により2つの内部空間(221、222)に区切られている。シャフト242と反対側に位置する第1内部空間221は、収容体21に設けられた第1ポート211(cap end port)を介して外部空間と接続している。同様に、シャフト242側に位置する第2内部空間222は、収容体21に設けられた第2ポート212(rod end port)を介して外部空間と接続している。
【0050】
図3の例では、流体は、空気である。主駆動部26は、コンプレッサ261、レギュレータ262、及び圧力制御バルブ263により構成される。圧力制御バルブ263は、第1ポート211に接続されている。一方で、第2ポート212は、開放されており、自由に空気が出入り可能となっている。これらの構成により、
図3の例では、レギュレータ262を介してコンプレッサ261から与えられる空気の圧力が、圧力制御バルブ263により制御され、第1内部空間221に適用される。その結果、空気の圧力による駆動力が可動部24(ピストン241)に与えられる。なお、圧力制御バルブ263は、圧力センサ265を備えていることで、第1内部空間221に与える気体の圧力を測定可能に構成されている。圧力センサ265の種類は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0051】
本実施形態では、封止材25は、可動部24に取り付けられる。封止材25は、変形要素を含むように形成される。封止材25は、収容体21の内壁23及び可動部24の間の隙間を封止するように配置される。
図3の例では、主駆動部26は、第1内部空間221の空気の圧力を制御することで、可動部24を駆動するように構成されている。そのため、封止材25は、第1内部空間221を密封するために、収容体21の内壁23及び可動部24のピストン241の間の隙間を封止するように配置されている。
図3の例では、ピストン241の両側に封止材25が配置されている。この封止材25により、第1内部空間221における気体の圧力を可動部24(ピストン241)に適正に作用させることができる。
【0052】
また、
図3の例では、補助駆動部27は、コイル271、モータドライバ272、及び永久磁石273により構成される。コイル271は、シャフト242の軸方向に沿って、収容体21内に磁力を生じさせるように、収容体21の内壁23に沿って巻き付けられて
いる。モータドライバ272は、コイル271に流す電流を制御するための制御回路により構成される。永久磁石273は、コイル271から生じる磁力と作用するように、収容体21内においてシャフト242に取り付けられる。
【0053】
したがって、
図3の例では、補助駆動部27は、モータドライバ272によりコイル271に流れる電流を制御し、当該電流制御の結果に応じた電磁力による駆動力を、永久磁石273を介して可動部24(シャフト242)に与えるように構成されている。なお、モータドライバ272は、電流センサ275を備えることで、コイル271に流れる電流を測定可能に構成されている。電流センサ275の種類は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0054】
荷重センサ28は、可動部24を介して出力される力(F)を測定するように構成される。可動部24から出力される駆動力(F)を測定可能であれば、荷重センサ28の種類及び配置は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。荷重センサ28には、例えば、ロードセル等が用いられてよい。
図3の一例では、荷重センサ28は、シャフト242の先端に取り付けられている。
【0055】
なお、
図3の構成は一例であり、流体圧アクチュエータ2の構成は、
図3の例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜変更されてよい。他の一例では、主駆動部26は、第1ポート211ではなく、第2ポート212に接続されてよい。更に他の一例では、第1ポート211及び第2ポート212にそれぞれ、別々の流体の供給源が接続されてよい。また、他の一例では、封止材25は、シャフト242及び内壁23の間の隙間に配置されてもよい。
【0056】
また、流体の圧力による駆動力を可動部24に与えることが可能であれば、主駆動部26の構成は、
図3の例に限られなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。流体の圧力による駆動力と並列に、電磁力による駆動力を可動部24に与えることが可能であれば、補助駆動部27の構成は、
図3の例に限られなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。
【0057】
(封止材)
封止材25は、パッキン又は接触シールと読み替えられてよい。封止材25の種類及び材料は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。封止材25には、例えば、シールフィン、Oリング、ピストンシール専用パッキン等が用いられてよい。封止材25には、任意の材料が用いられてよい。封止材25は、可動部24及び収容体21の内壁23のいずれに取り付けられてよい。
【0058】
封止材25は、変形要素を含むように構成される。変形要素は、封止材25に使用される材料により構成されてもよいし、或いは板バネ等の機械構造により構成されてよい。一例では、封止材25は、ゴム、ウレタンゴム、PTFE(polytetrafluoroethylene)、
ニトリルゴム、フッ素ゴム、樹脂、布入りフェノール樹脂、ポリアミド樹脂及びエラストマー(例えば、シリコーン等)の少なくともいずれか少なくとも部分的に用いて生成されることで、変形要素を含むように形成されてよい。他の一例では、流体の圧力により変形し得る場合には、封止材25の少なくとも一部の材料には、金属材(例えば、ステンレス、ニッケル系合金、鉄等)が用いられてよい。この場合、封止材25は、メタルシールと称されてよい。
【0059】
流体圧アクチュエータ2を駆動している間、可動部24の移動に伴い、封止材25も移動する。可動部24(ピストン241)、収容体21の内壁23及び封止材25の少なくともいずれかには、シリコーングリス等の潤滑剤が塗布されていてもよい。これにより、
可動部24及び封止材25の移動を潤滑にしてもよい。
【0060】
(異常検知)
本実施形態では、制御装置1は、荷重センサ28により得られる力の測定値から摩擦力の算出値を導出してよい。摩擦モデル5を含む流体圧アクチュエータ2の物理モデルが適切であると想定する。この場合、流体圧アクチュエータ2に異常が生じていなければ、導出される摩擦力の算出値と摩擦モデル5を使用して得られた摩擦力の推定値65との間の乖離は小さい。一方で、流体圧アクチュエータ2に異常が生じると、物理モデルが実態に合わなくなるため、導出される摩擦力の算出値と推定値65との間の乖離が大きくなる。そこで、制御装置1は、導出される摩擦力の算出値と推定値65との間の乖離に応じて、流体圧アクチュエータ2に異常が生じたか否かを判定してよい。本実施形態によれば、流体圧アクチュエータ2の動作不良を検出することができる。
【0061】
[摩擦モデル]
摩擦モデル5は、収容体21の内壁23に対する封止材25の接触面積及び流体の圧力から可動部24に生じる摩擦力を推定するように構成される。当該推定の演算処理が可能であれば、摩擦モデル5の構成は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、摩擦モデル5は、関数式、ルール等で構成されてよい。
【0062】
本実施形態では、摩擦モデル5の一例として、封止材25の接触面積及び流体の圧力の項を追加するように、ストライベック曲線の関数式(非特許文献1)を修正することで導出される関数式を採用する。まず、ストライベック曲線の関数式は、以下の式1で与えられる。
【0063】
【数1】
・・・(式1)
f
k(v)は、可動部に生じる摩擦力を示す。F
Cはクーロン摩擦力を示し、F
Sは静止摩擦力
を示す。vは可動部の速度を示し、v
sは、ストライベック速度を示す。σ
2は、粘性摩擦係数を示す。sgnは、符号関数である(与えられた引数の符号に応じて、1、-1及び0の
いずれかを返す)。
【0064】
封止材25の接触面積s及び流体の圧力Pの影響を反映するように、式1の第1項及び第2項の各摩擦力(FC、FS)を修正することで、以下の式2を得ることができる。
【0065】
【数2】
・・・(式2)
μ
Cは、クーロン摩擦係数を示し、μ
Sは、静止摩擦係数を示す。F
0は、大気状態(P=0)における内壁23に対する可動部24の接触力を示す。一例では、接触面積sは、固定値であってよい。他の一例では、接触面積sは、圧力に応じて変動させてもよい(すなわち、接触面積sは、圧力の関数で与えられてよい)。
【0066】
本実施形態では、摩擦モデル5の一例として、上記式2で示される関数式fk(v,P)を採
用する。ただし、摩擦モデル5の構成は、このような例に限られなくてよい。式2の関数式に関して、実施の形態に応じて、項の省略、置換、変更及び追加がなされてよい。他の一例では、関数式は、機械学習により得られてよい。すなわち、摩擦モデル5は、訓練済みの機械学習モデルであってよい。機械学習モデルは、例えば、ニューラルネットワーク
、回帰モデル、決定木モデル、サポートベクタマシン等により構成されてよい。機械学習モデルの構造は、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。
【0067】
(接触面積)
封止材25の接触面積の値62は、適宜得られてよい。例えば、接触面積の値62は、実測又は推定することで得られてよい。以下、シールフィンを封止材25に採用したケースを例に挙げて、封止材25の接触面積の値62を取得する方法の一例を説明する。ただし、封止材25の接触面積を取得する方法は、このような例に限定されなくてよい。封止材25の接触面積は、例えば、収容体21の内部空間22の形状、可動部24の形状、封止材25の形状・配置等に応じて適宜取得されてよい。
【0068】
図4A及び
図4Bは、シールフィンを採用したケースにおける封止材25の接触状態の一例を説明するための図である。
図4Aは、流体圧アクチュエータ2における、可動部24(ピストン241)を収容体21(シリンダチューブ)の内部空間に挿入する前の封止材25の状態を模式的に例示する。
図4Bは、可動部24(ピストン241)を収容体21の内部空間に挿入した後の封止材25の状態を模式的に例示する。
【0069】
図4A及び
図4Bにおいて、D
fは、封止材25(シールフィン)の外径を示し、dは、封止材25の内径を示す。D
cは、収容体21(シリンダチューブ)の内径を示す。封止材25が変形要素を含んでおり、かつD
fがD
cよりも大きいことで、封止材25は変形する。その結果、変形した封止材25において、内壁23との接触部(
図4BにおけるΔlの部分)が形成される。lは、変形前の封止材25の軸方向の長さを示し、θは、軸方向に対する封止材25の角度を示す。角度θは、可動部24の挿入の前後で変化しないと仮定する。この場合、
図4Bに示される接触部の軸方向の長さΔlは、以下の式3により算出される。その結果、封止材25の接触面積sは、以下の式4により算出することができる。
【0070】
【数3】
・・・(式3)
【数4】
・・・(式4)
【0071】
(接触面積の変動)
一例では、封止材25の接触面積の値62は、流体の圧力による影響を無視して、一定(すなわち、固定値)であってよい。ただし、接触面積の値62の取り扱いは、このような例に限定されなくてよい。封止材25は変形要素を含むため、流体の圧力に応じて、接触面積は変化する可能性がある。他の一例では、これに対応するため、封止材25の接触面積の値62は、流体の圧力の値に応じて取得されてよい。この場合、制御装置1は、取得された圧力の値61から封止材25の接触面積の値62を算出してよい。上記摩擦力の推定値65を算出することは、算出された接触面積の値62及び取得された圧力の値61から摩擦力の推定値を算出することにより構成されてよい。
【0072】
図5A及び
図5Bは、シールフィンを採用したケースにおける封止材25の変形の一例を模式的に示す。
図6A及び
図6Bは、Oリングを採用したケースにおける封止材25A
の変形の一例を模式的に示す。
図5A及び
図6Aは、流体の圧力が小さい場面を例示し、
図5B及び
図6Bは、流体の圧力が大きい場面を例示する。両ケース共に、内部空間の圧力が大きくなることで、封止材(25、25A)の接触面積も大きくなる。
【0073】
具体的に、
図5A及び
図5Bのケースでは、流体の圧力が大きくなることで、軸方向に対するシールフィンの角度が大きくなる。その結果、
図5Aにおける接触面積saよりも、
図5Bにおける接触面積sbの方が大きくなる。同様に、
図6A及び
図6Bのケースでは、圧力が大きくなることで、軸方向の長さが短くなるようにOリングが変形する。その結果、
図6Aにおける接触面積scよりも、
図6Bにおける接触面積sdの方が大きくなる。これらの変形を考慮した上で、封止材25の接触面積の値62は、流体の圧力に応じて得られてよい。
【0074】
封止材25の接触面積の値62を流体の圧力に応じて算出する方法は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。一例では、流体の圧力と接触面積との間の関係をモデル化することで、流体の圧力から接触面積を算出するための演算モデルが得られてよい。演算モデルは、例えば、関数式、ルール等で構成されてよい。制御装置1は、当該演算モデルを使用して、取得された圧力の値61から封止材25の接触面積の値62を算出してよい。この一例によれば、接触面積の変動を更に考慮することで、可動部24に生じる摩擦力の推定精度の向上を期待することができる。その結果、流体圧アクチュエータ2の精度のよい制御の遂行を期待することができる。
【0075】
(接触属性)
一例では、使用される摩擦モデル5(各パラメータの値)は、流体圧アクチュエータ2毎に得られてよい。具体例として、キャリブレーションの際に、流体の圧力が異なる複数の条件下で、可動部24の動作を計測することで、可動部24の動作に関するデータを得てよい。摩擦モデル5の各パラメータの値(本実施形態では、式2の各係数の値)は、得られたデータから導出されてよい。
【0076】
他の一例では、複数の摩擦モデルが、封止材25及び収容体21の接触の属性に応じて予め生成されてよい。摩擦力の推定値65の算出に使用される摩擦モデル5は、複数の摩擦モデルのうち、封止材25及び収容体21の接触の属性に応じて選択されたものであってよい。この一例によれば、キャリブレーションの手間を削減することができる。また、接触の属性に応じた摩擦モデルを使用することで、可動部24に生じる摩擦力の推定精度の向上を期待することができる。その結果、流体圧アクチュエータ2の精度のよい制御の遂行を期待することができる。なお、接触の属性は、例えば、封止材25の種類、収容体21の種類、潤滑剤の有無、潤滑剤の種類、温度、可動部24の速度等により規定されてよい。封止材25及び収容体21の種類は、例えば、形状、形態、材料、材質等により規定されてよい。
【0077】
接触の属性に応じた摩擦モデルのデータは、制御装置1内の記憶領域(例えば、RAM、内蔵の補助記憶装置、外部記憶装置等)及び他のコンピュータの記憶領域の少なくともいずれかに格納されていてよい。他のコンピュータは、例えば、NAS(Network Attached Storage)、外部サーバ等であってよい。他のコンピュータに保存される場合、制御装置1は、例えば、記憶媒体、ネットワーク等を介して、使用する摩擦モデル5を示すデータを他のコンピュータから取得してよい。
【0078】
§2 構成例
[ハードウェア構成]
(制御装置)
図7は、本実施形態に係る制御装置1のハードウェア構成の一例を模式的に示す。
図7
の一例では、本実施形態に係る制御装置1は、制御部11、記憶部12、外部インタフェース13、入力装置14、出力装置15、及びドライブ16が電気的に接続されたコンピュータである。
【0079】
制御部11は、ハードウェアプロセッサであるCPU(Central Processing Unit)、
RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を含み、プログラム及び各種データに基づいて情報処理を実行するように構成される。制御部11(CPU)は、プロセッサ・リソースの一例である。
【0080】
記憶部12は、例えば、ハードディスクドライブ、ソリッドステートドライブ等で構成される。記憶部12は、メモリ・リソースの一例である。本実施形態では、記憶部12は、制御プログラム81、摩擦モデルデータ125等の各種情報を記憶する。
【0081】
制御プログラム81は、流体圧アクチュエータ2の動作制御に関する情報処理(後述の
図10)を制御装置1に実行させるためのプログラムである。制御プログラム81は、当該情報処理の一連の命令を含む。摩擦モデルデータ125は、摩擦モデル5に関する情報(例えば、各パラメータの値等)を示すように構成される。
【0082】
外部インタフェース13は、外部装置と接続するためのインタフェースである。外部インタフェース13は、例えば、USB(Universal Serial Bus)ポート、専用ポート等であってよい。外部インタフェース13は、例えば、有線LAN(Local Area Network)モジュール、無線LANモジュール等の通信インタフェースを含んでよい。外部インタフェース13の種類及び数は、任意に選択されてよい。本実施形態では、制御装置1は、外部インタフェース13を介して、流体圧アクチュエータ2に接続されてよい。なお、接続形態は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。一例では、流体圧アクチュエータ2は、コントローラを備えてよく、制御装置1は、コントローラを介して流体圧アクチュエータ2に間接的に接続されてよい。他の一例では、制御装置1は、コントローラとして動作し、流体圧アクチュエータ2に直接的に接続されてもよい。
【0083】
入力装置14は、オペレータから情報の入力を受け付けるための装置である。入力装置14は、例えば、マウス、キーボード等であってよい。出力装置15は、オペレータに対して情報を出力するための装置である。出力装置15は、例えば、ディスプレイ、スピーカ等であってよい。オペレータは、入力装置14及び出力装置15を利用することで、制御装置1を操作することができる。入力装置14及び出力装置15は、例えば、タッチパネルディスプレイ等により一体的に構成されてもよい。
【0084】
ドライブ16は、記憶媒体91に記憶されたプログラム等の各種情報を読み込むための装置である。ドライブ16は、例えば、CDドライブ、DVDドライブ等であってよい。記憶媒体91は、コンピュータその他装置、機械等が、記憶されたプログラム等の各種情報を読み取り可能なように、当該プログラム等の情報を、電気的、磁気的、光学的、機械的又は化学的作用によって蓄積する媒体である。上記制御プログラム81及び摩擦モデルデータ125の少なくともいずれかは、記憶媒体91に記憶されていてよい。制御装置1は、制御プログラム81及び摩擦モデルデータ125の少なくともいずれかを記憶媒体91から取得してよい。なお、
図7では、記憶媒体91の一例として、CD、DVD等のディスク型の記憶媒体を例示している。しかしながら、記憶媒体91の種類は、ディスク型に限られなくてもよく、ディスク型以外であってもよい。ディスク型以外の記憶媒体として、例えば、フラッシュメモリ等の半導体メモリを挙げることができる。ドライブ16の種類は、記憶媒体91の種類に応じて任意に選択されてよい。
【0085】
なお、制御装置1の具体的なハードウェア構成に関して、実施形態に応じて、適宜、構
成要素の省略、置換及び追加が可能である。例えば、制御部11は、複数のハードウェアプロセッサを含んでもよい。ハードウェアプロセッサの種類は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。記憶部12は、制御部11に含まれるRAM及びROMにより構成されてもよい。外部インタフェース13、入力装置14、出力装置15及びドライブ16の少なくともいずれかは省略されてもよい。制御装置1は、複数台のコンピュータで構成されてもよい。この場合、各コンピュータのハードウェア構成は、一致していてもよいし、一致していなくてもよい。また、制御装置1は、提供されるサービス専用に設計された情報処理装置の他、汎用のPC(Personal Computer)、タブレッ
トPC、携帯端末(スマートフォンを含む)、汎用のサーバ装置(仮想計算機、クラウド上計算機等を含んでよい)等であってもよい。
【0086】
(アクチュエータシステムS)
図8は、本実施形態に係るアクチュエータシステムSの構成の一例を模式的に示す。
図8の一例では、制御装置1は、外部インタフェース13を介して、多機能ボード131及びマイクロコントローラ132に接続される。多機能ボード131及びマイクロコントローラ132は、各構成要素との間のデータ通信(例えば、AD変換等)を実行するように構成される。
【0087】
本実施形態では、主駆動部26の圧力制御バルブ263は、多機能ボード131を介して制御装置1に接続される。流体圧アクチュエータ2の動作制御の際、制御装置1は、圧力の目標値を示す制御信号を圧力制御バルブ263に送信する。これにより、制御装置1は、第1内部空間221における流体の圧力を制御する。一方、圧力制御バルブ263は、圧力センサ265により得られる圧力の測定値を制御装置1に返信する。
【0088】
また、本実施形態では、補助駆動部27のモータドライバ272は、マイクロコントローラ132及び多機能ボード131を介して、制御装置1に接続される。流体圧アクチュエータ2の動作制御の際、制御装置1は、電流の目標値を示す制御信号(例えば、パルス幅変調信号)をモータドライバ272に送信する。これにより、制御装置1は、電磁力による駆動力を制御する。一方、モータドライバ272は、電流センサ275により得られる電流の測定値を制御装置1に返信する。
【0089】
また、本実施形態では、荷重センサ28は、増幅器281及び多機能ボード131を介して、制御装置1に接続される。流体圧アクチュエータ2の動作制御の際、制御装置1は、増幅器281及び多機能ボード131を介して、荷重センサ28により得られる駆動力(可動部24を介して出力される力)の測定値を取得することができる。
【0090】
その他、本実施形態では、位置センサ29が、多機能ボード131を介して、制御装置1に接続される。位置センサ29は、可動部24の位置を測定するように構成される。位置センサ29の種類は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、位置センサ29は、赤外線センサ等の光学センサにより構成されてよい。流体圧アクチュエータ2の動作制御の際、制御装置1は、位置センサ29により得られる可動部24の位置の測定値を取得することができる。
【0091】
[ソフトウェア構成]
図9は、本実施形態に係る制御装置1のソフトウェア構成の一例を模式的に示す。制御装置1の制御部11は、記憶部12に記憶された制御プログラム81をRAMに展開する。そして、制御部11は、RAMに展開された制御プログラム81に含まれる命令をCPUにより実行する。これにより、本実施形態に係る制御装置1は、情報取得部111、摩擦推定部112、動作制御部113及び異常判定部114をソフトウェアモジュールとして備えるコンピュータとして動作する。すなわち、本実施形態では、制御装置1の各ソフ
トウェアモジュールは、制御部11(CPU)により実現される。
【0092】
情報取得部111は、内部空間(本実施形態では、第1内部空間221)に収容された流体の圧力の値61を取得するように構成される。摩擦推定部112は、摩擦モデルデータ125を保持することで、摩擦モデル5を備えている。摩擦推定部112は、摩擦モデル5を使用して、内壁23に対する封止材25の接触面積の値62及び取得された圧力の値61から可動部24に生じる摩擦力の推定値65を算出するように構成される。動作制御部113は、算出された摩擦力の推定値65を反映しながら流体圧アクチュエータ2の可動部24の駆動力を制御するように構成される。異常判定部114は、荷重センサ28により得られる力の測定値から摩擦力の算出値を導出し、導出された摩擦力の算出値と摩擦モデル5を使用して得られた摩擦力の推定値65との間の乖離に応じて、流体圧アクチュエータ2に異常が生じたか否かを判定するように構成される。
【0093】
制御装置1の各ソフトウェアモジュールに関しては後述する動作例で詳細に説明する。なお、本実施形態では、制御装置1の各ソフトウェアモジュールがいずれも汎用のCPUによって実現される例について説明している。しかしながら、上記ソフトウェアモジュールの一部又は全部が、1又は複数の専用のプロセッサにより実現されてもよい。上記各モジュールは、ハードウェアモジュールとして実現されてもよい。また、制御装置1のソフトウェア構成に関して、実施形態に応じて、適宜、ソフトウェアモジュールの省略、置換及び追加が行われてもよい。
【0094】
§3 動作例
図10は、本実施形態に係る制御装置1の処理手順の一例を示すフローチャートである。以下で説明する制御装置1の処理手順は、制御方法(情報処理方法)の一例である。ただし、以下で説明する処理手順は、一例に過ぎず、各ステップは可能な限り変更されてよい。また、以下の処理手順について、実施の形態に応じて、適宜、ステップの省略、置換、及び追加が行われてよい。
【0095】
[ステップS101~ステップS103]
ステップS101では、制御部11は、情報取得部111として動作する。すなわち、制御部11は、流体の圧力の値61を取得する。
【0096】
本実施形態では、制御部11は、流体の圧力の値61として、圧力センサ265による圧力の測定値を取得してよい。ただし、圧力の値61を取得する方法は、このような例に限定されなくてよい。他の一例では、制御部11は、流体の圧力の値61として、圧力制御バルブ263に指示する圧力の目標値を取得してよい。更に他の一例では、制御部11は、圧力制御バルブ263に指示する圧力の目標値又は圧力センサ265による圧力の測定値から任意の方法で封止材25に作用する圧力の推定値を算出してよい。推定値を算出するための演算モデルは適宜与えられてよい。制御部11は、算出される圧力の推定値を流体の圧力の値61として取得してよい。なお、測定値を使用しない場合、圧力センサ265は、省略されてよい。
【0097】
ステップS102では、制御部11は、摩擦推定部112として動作する。すなわち、制御部11は、摩擦モデル5を使用して、内壁23に対する封止材25の接触面積の値62及び取得された圧力の値61から可動部24に生じる摩擦力の推定値65を算出する。
【0098】
一例では、使用される摩擦モデル5(摩擦モデルデータ125)は、キャリブレーションにより得られてよい。すなわち、摩擦モデル5の各パラメータの値は、キャリブレーション時に得られるデータから導出されてよい。他の一例では、使用される摩擦モデル5は、封止材25及び収容体21の接触の属性に応じて選択されたものであってよい。この場
合、制御部11は、制御装置1内の記憶領域に格納される複数の摩擦モデルから、流体圧アクチュエータ2における接触の属性に応じた摩擦モデルを選択してよい。或いは、制御部11は、例えば、記憶媒体、ネットワーク等を介して、接触の属性に応じた摩擦モデルを他のコンピュータから取得してよい。
【0099】
また、一例では、封止材25の接触面積の値62は、固定値であってよい。この場合、接触面積の値62は、摩擦モデル5に予め反映されていてよい。すなわち、接触面積の値62は、所与の値として、摩擦モデル5に代入済みであってよい。本実施形態では、式2の摩擦モデル5において、圧力P及び速度v以外のパラメータの値が予め与えられてよい。これに応じて、制御部11は、ステップS102の処理を実行する前の任意のタイミングにおいて、位置センサ29の測定結果から可動部24の速度vを取得してよい。制御部11は、得られた流体の圧力の値61及び速度vを式2に代入し、式2の演算処理を実行することで、摩擦力の推定値65を算出することができる。
【0100】
他の一例では、制御部11は、取得された圧力の値61から接触面積の値62を算出してよい。本実施形態では、制御部11は、算出された接触面積の値62、取得された圧力の値61及び速度vを式2に代入し、式2の演算処理を実行することで、摩擦力の推定値65を算出することができる。本実施形態では、いずれの例が採用されてもよいが、以下では、説明の簡略化のため、接触面積の値62は固定値であるものとして取り扱う。
【0101】
ステップS103では、制御部11は、動作制御部113として動作する。すなわち、制御部11は、算出された摩擦力の推定値65を反映しながら流体圧アクチュエータ2の可動部24の駆動力を制御する。摩擦力の推定値65を反映することは、算出された推定値65に応じて可動部に生じる摩擦力を補償すること及び増幅することのいずれかにより構成されてよい。本実施形態では、摩擦力を補償すること及び増幅することのいずれかは、補助駆動部27から与えられる電磁力により実施されてよい。
【0102】
(制御手順の一例)
図11は、摩擦力を補償する形態における流体圧アクチュエータ2の物理モデルの一例を模式的に示す。以下、補助駆動部27による電磁力により摩擦力を補償する場面における制御手順に一例を説明する。ただし、制御装置1による制御手順は、以下の例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。
【0103】
まず、制御部11は、流体圧アクチュエータ2の可動部24から出力する力(駆動力)の目標値を決定する。力の目標値は、動作の制御内容に応じて適宜決定されてよい。制御手法には、例えば、インピーダンス制御、コンプライアンス制御、位置制御、速度制御、モデル予測制御等の公知の手法が用いられてよい。
【0104】
続いて、制御部11は、力の目標値に応じて、圧力の目標値(P*)を決定する。制御部11は、決定された圧力の目標値(P*)に応じて、圧力制御バルブ263に制御信号を与える。これにより、制御部11は、圧力制御バルブ263の動作を制御する。また、制御部11は、圧力制御バルブ263の圧力センサ265から圧力の測定値(P)を取得する(ステップS101)。制御部11は、位置センサ29の測定結果から可動部24の速度vを取得する。なお、流体の圧力による駆動力(Fp)は、圧力の測定値(P)及び可動部24のピストン241の断面積(S)の積(Fp=P×S)により算出することができる。
【0105】
次に、制御部11は、取得された圧力の測定値及び速度vを式2の摩擦モデル5に入力して、摩擦力の推定値65(Fk)を算出する(ステップS102)。そして、制御部11は、算出された推定値65(Fk)の摩擦力を補償するように、電磁力による駆動力の
大きさ(Feの目標値)を決定する。電磁力により摩擦力を完全に打ち消す場合、制御部11は、「Fe=Fk」となるように駆動力の大きさを決定する。
【0106】
制御部11は、決定された駆動力の大きさに応じて、電流の目標値(I*)を決定する。制御部11は、決定された目標値(I*)に応じて、モータドライバ272に制御信号を与える。これにより、制御部11は、モータドライバ272の動作を制御する。圧力制御バルブ263及びモータドライバ272の動作制御が、ステップS103の一例である。フィードバックとして、制御部11は、モータドライバ272の電流センサ275から電流の測定値(I)を取得する。電磁力による駆動力(Fe)は、電流の測定値(I)から算出することができる。
【0107】
可動部24から出力される駆動力(F)は、各力の合計(F=Fp+Fe-Fk)である。なお、
図11では、mは、可動部24の質量を示す。zは、ラプラス変換の媒介変数を示し、1/zは、時間積分を表している。aは、可動部24の加速度を示し、xは、(位置センサ29により測定される)可動部24の位置を示す。電磁力による駆動力の方向が異なる点を除き、摩擦力を増幅するケースも、上記摩擦力を補償するケースと同様の手順で制御可能である。以上の一連の手順により、制御部11は、可動部24の駆動力を制御することができる。可動部24の駆動力を制御すると、制御部11は、次のステップS104に処理を進める。
【0108】
なお、
図11の物理モデルでは、圧力センサ265により得られる圧力の測定値(P)が、流体の圧力の値61として使用されている。しかしながら、上記のとおり、圧力の値61は、これに限られなくてよい。他の一例では、圧力の目標値(P*)が、流体の圧力の値61として摩擦モデル5に代入されてもよい。更に他の一例では、圧力の推定値が、任意の方法で算出されてよく、算出された圧力の推定値が、摩擦モデル5に代入されてもよい。
【0109】
[ステップS104~ステップS107]
図10に戻り、ステップS104~ステップS107では、制御部11は、異常判定部114として動作し、流体圧アクチュエータ2の動作検査に関する一連の処理を実行する。
【0110】
(ステップS104及びステップS105)
ステップS104では、制御部11は、荷重センサ28により得られる力の測定値から摩擦力の算出値を導出する。ステップS105では、制御部11は、導出された摩擦力の算出値と摩擦モデル5を使用して得られた摩擦力の推定値65との間の乖離に応じて、流体圧アクチュエータ2に異常が生じたか否かを判定する。
【0111】
上記
図11に示されるとおり、流体の圧力による駆動力(Fp)の推定値は、主駆動部26(流体圧のアクチュエータ)の物理モデルから算出可能である。また、電磁力による駆動力(Fe)の推定値は、補助駆動部27(電磁力アクチュエータ)の物理モデルから算出可能である。そこで、制御部11は、それぞれに与える目標値又は測定値から各駆動力(Fp、Fe)の推定値を算出してよい。そして、制御部11は、摩擦モデル5を使用せずに、荷重センサ28より得られる駆動力の測定値(FA)及び各駆動力(Fp、Fe)の推定値から摩擦力の算出値(Fz)を導出してよい。上記摩擦力を補償するケースでは、制御部11は、各駆動力(Fp、Fe)の推定値の合計から駆動力の測定値(FA)を引き算することで、摩擦力の算出値(Fz)を導出してよい(Fz=Fp+Fe-FA)。
【0112】
制御部11は、導出された摩擦力の算出値(Fz)及び摩擦力の推定値65(Fk)を
比較し、比較の結果に応じて2つの値の間に乖離が生じているか否か(すなわち、流体圧アクチュエータ2に異常が生じたか否か)を判定する。判定の方法は、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。一例では、乖離の指標は閾値で与えられてよい。この場合、制御部11は、導出された摩擦力の算出値(Fz)及び摩擦力の推定値65(Fk)の間の差分が閾値を超えていることに応じて、流体圧アクチュエータ2に異常が生じていると判定してよい。一方、制御部11は、摩擦力の算出値(Fz)及び推定値65(Fk)の間の差分が閾値未満であることに応じて、流体圧アクチュエータ2に異常が生じていないと判定してよい。摩擦力の算出値(Fz)及び推定値65(Fk)の間の差分が閾値と等しいことには、上記いずれの判定結果が割り当てられてよい(すなわち、差分が閾値と等しいことは、異常が生じていると判定されてもよいし、或いは異常が生じていないと判定されてもよい)。
【0113】
なお、制御部11は、摩擦モデル5により得られた摩擦力の推定値65(Fk)及び各駆動力(Fp、Fe)の推定値から流体圧アクチュエータ2の駆動力の推定値(FB)を算出することができる。上記
図11の例では、制御部11は、各駆動力(Fp、Fe)の推定値の合計から摩擦力の推定値65(Fk)を引き算することで、駆動力の推定値(FB)を算出することができる(FB=Fp+Fe-Fk)。演算に含まれる要素が同じであるため、この駆動力の推定値(FB)及び荷重センサ28により得られる力の測定値(FA)を比較することは、上記摩擦力の算出値(Fz)及び推定値65(Fk)を比較することと同じである。そのため、上記摩擦力の算出値(Fz)及び推定値65(Fk)を比較することは、当該駆動力の推定値(FB)及び測定値(FA)を比較することにより構成されてもよい。
【0114】
(ステップS106及びステップS107)
ステップS106では、制御部11は、ステップS105の判定結果に応じて、処理の分岐先を決定する。流体圧アクチュエータ2に異常が生じていると判定した場合、制御部11は、次のステップS107に処理を進める。一方、流体圧アクチュエータ2に異常が生じていないと判定した場合、制御部11は、ステップS107の処理を省略し、本動作例に係る処理手順を終了する。
【0115】
ステップS107では、制御部11は、流体圧アクチュエータ2において異常の発生を検出したことを知らせるためのアラートを出力する。典型的な一例では、制御部11は、出力装置15を介してアラートを出力してよい。アラートは、流体圧アクチュエータ2に異常が生じていること示す文章で構成されてよい。ただし、アラートの通知方法及び内容はそれぞれ、このような例に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜決定されてよい。アラートを通知すると、制御部11は、本動作例に係る処理手順を終了する。
【0116】
本動作例に係る処理手順を終了した後、制御部11は、任意のタイミングで、ステップS101から処理を再度実行してよい。一例では、オペレータによる入力装置14の操作に応じて、流体圧アクチュエータ2に対する動作開始の要求を受け取ってから動作終了の要求を受け取るまでの間、制御部11は、上記処理手順の情報処理を繰り返し実行してよい。これにより、制御部11は、流体圧アクチュエータ2の動作を継続的に制御してよい。
【0117】
[特徴]
以上のとおり、本実施形態では、ステップS102で使用される摩擦モデル5は、封止材25の接触面積及び流体の圧力から摩擦力を推定するように構成される。これに応じて、ステップS103では、制御部11は、摩擦モデル5により算出される摩擦力の推定値65を反映しながら流体圧アクチュエータ2の動作を制御する。その結果、流体圧アクチュエータ2の精度のよい制御の遂行を期待することができる。
【0118】
また、本実施形態では、ステップS104及びステップS105の処理により、流体圧アクチュエータ2の動作不良を検出することができる。
【0119】
§4 変形例
以上、本発明の実施の形態を詳細に説明してきたが、前述までの説明はあらゆる点において本発明の例示に過ぎない。上記実施形態において、種々の改良又は変更が適宜行われてよい。例えば、以下のような変更が可能である。なお、以下では、上記実施形態と同様の構成要素に関しては同様の符号を用い、上記実施形態と同様の点については、適宜説明を省略した。以下の変形例は適宜組み合わせ可能である。
【0120】
<4.1>
上記実施形態の処理手順(
図10)について、ステップの省略、置換、及び追加の少なくともいずれかが行われてよい。例えば、ステップS101~ステップS107の処理は、必ずしも一連で実行されなくてもよい。一例では、ステップS104~ステップS107の実行頻度は、ステップS101~ステップS103の実行頻度よりも少なくてよい。この場合、制御装置1は、ステップS101~ステップS103の処理を複数回実行した後に、ステップS104~ステップS107の処理を実行してよい。
【0121】
<4.2>
上記実施形態において、摩擦モデル5が得られた後、流体圧アクチュエータ2の構成から荷重センサ28は省略されてよい。また、上記実施形態において、異常検出に関する構成は省略されてよい。この場合、制御装置1のソフトウェア構成において、異常判定部114は省略されてよい。上記実施形態の処理手順において、ステップS104~ステップS107の処理は省略されてよい。
【0122】
<4.3>
上記実施形態に係る流体圧アクチュエータ2の構成において、補助駆動部27は省略されてよい。この場合、流体圧アクチュエータ2は、流体の圧力のみで可動部24を駆動するように構成されてよい。上記ステップS103において、摩擦力を補償すること及び増幅することのいずれかは、主駆動部26から与えられる流体の圧力により実施されてよい。なお、補助駆動部27を備える場合であっても、摩擦力を補償すること及び増幅することのいずれかは、主駆動部26から与えられる流体の圧力により実施されてよい。
【0123】
また、流体圧アクチュエータ2の出力の使用場面は、特に限定されなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。例えば、摩擦力の補償及び増幅の少なくとも一方は、流体圧アクチュエータ2以外の機械的摩擦の補償又は増幅、流体圧アクチュエータ2と組み合わせて使用されるアクチュエータの摩擦の補償又は増幅等の他の要素と組み合わせて実施されてよい。
【0124】
一例として、流体圧アクチュエータ2の出力は、流体圧アクチュエータ2よりも大きな力を出力する他のアクチュエータの出力誤差の補償又は摩擦の増幅のために使用されてよい。この場合、流体圧アクチュエータ2の制御を通じて、他のアクチュエータの大きな出力を精度よく制御することが可能となる。なお、他のアクチュエータの制御形式は、任意に選択されてよい。例えば、他のアクチュエータの出力は一定に制御されてよい。
【0125】
具体例として、2つの空気圧人工筋の出力を拮抗させることでインピーダンス制御される関節機構が与えられていると想定する。この場面において、流体圧アクチュエータ2の出力は、当該関節機構に対して使用されてよい。一例では、空気圧人工筋のヒステリシス、空気圧の時間遅れ等の要素で空気圧人工筋のみでは理想的なインピーダンス制御が実現
困難な場合に、空気圧人工筋の出力と理想的な出力との差異(すなわち、出力誤差)を流体圧アクチュエータ2の出力により補償してよい。
【0126】
図12は、当該変形例に係る流体圧アクチュエータ2の使用形態の一例を模式的に示す。
図12の例では、他のアクチュエータ70は、2つの空気圧人工筋(71、72)及び関節機構73を備えており、流体圧アクチュエータ2よりも大きな力を出力可能に構成されている。2つの空気圧人工筋(71、72)は、関節機構73に接続されている。2つの空気圧人工筋(71、72)の出力を拮抗させることで、関節機構73がインピーダンス制御される。また、
図12の例では、流体圧アクチュエータ2の各端部は回転子を介して固定されている。流体圧アクチュエータ2の先端(シャフト242の先端)は関節機構73に駆動力を伝達可能に接続されている。一方、流体圧アクチュエータ2の後端は移動しない(回転子による回転は可能)ように任意に固定されている。これにより、流体圧アクチュエータ2は、当該流体圧アクチュエータ2の力を関節機構73に出力可能に構成されている。この使用場面では、関節機構73の角度によりモーメント荷重が変化する。これに応じて、関節機構73に生じる摩擦の大きさが変動する。そこで、流体圧アクチュエータ2の出力は、関節機構73(他のアクチュエータ70)に生じる摩擦を補償するために使用されてよい。このとおり、空気圧人工筋(71、72)の出力と理想的な出力との差異を流体圧アクチュエータ2の出力により補償することで、他のアクチュエータ70を精度よく駆動することができる。
【0127】
なお、本変形例において、他のアクチュエータ70の摩擦に起因する出力誤差の補償だけでなく、他のアクチュエータ70のモデル化誤差、制御遅れ等の他の要因によって生じる制御の出力誤差を補償してよい。大きな出力が可能である他のアクチュエータ70の出力誤差を流体圧アクチュエータ2により補償する場合に、他のアクチュエータ70の出力誤差と流体圧アクチュエータ2の出力誤差とが打ち消しあうようにそれぞれを制御することで、補助駆動部27の補償する最大出力を小さくすることができる。打ち消しあうとは、互いの出力誤差が最大になるタイミングをずらすことである。これにより、ギア及び減速比を用いないダイレクトドライブのリニアモータを補助駆動部27に用いることができるため、補正の精度及び応答性の向上が期待できる。その結果、アクチュエータのバックドライバビリティを向上させることができる。よって、アシスト機器として用いた時に安全に駆動できるようになる。
【0128】
また、一定の出力を出し続ける場合、他のアクチュエータ70及び流体圧アクチュエータ2は圧力制御バルブ263の弁を閉じることでエネルギーをロスせず圧力を保つことができる。そのため、アクチュエータ70及び流体圧アクチュエータ2を合わせた出力に比べて小さな出力で制御される補助駆動部27で消費されるエネルギーを低減し、発熱を抑えることができる。
【0129】
更に、他のアクチュエータ70、流体圧アクチュエータ2及び補助駆動部27のアクチュエータの可動部(永久磁石273)の質量を低減することができる。例えば、補助駆動部27の永久磁石273として使用する磁石の数を減らすことができる。そのため、出力側から外乱が発生した際における、可動部の質量の加速度に起因する出力の変動誤差を低減することができる。加えて、アクチュエータの駆動する可動部の質量を低減することで、アーム先端を俊敏にすばやく動かすことができる。
【0130】
<4.4>
上記
図12の変形例の場面等、流体圧アクチュエータ2の出力(例えば、モーメント荷重等)が変化することで、封止材25の摩擦も変化する可能性がある。そこで、上記実施形態において、摩擦モデル5は、流体圧アクチュエータ2の出力に応じて生成されてもよい。これにより、流体圧アクチュエータ2の更に精度のよい制御の遂行を期待することが
できる。
【0131】
<4.5>
上記実施形態において、摩擦モデル5により推定される摩擦力は、封止材25により可動部24に生じる静止摩擦力、動摩擦力及び粘性摩擦により構成されている。ただし、推定する対象の摩擦力は、これに限られなくてよく、実施の形態に応じて適宜選択されてよい。一例では、摩擦モデル5により推定される摩擦力は、封止材25により可動部24に生じる静止摩擦力及び動摩擦力により構成されてよい。他の一例では、摩擦モデル5により推定される摩擦力は、収容体21に収容される流体による抵抗力等の他の要素の抵抗力を更に含んでもよい。そのため、摩擦力は、抵抗力と同義に取り扱われてよい(摩擦力を抵抗力とも称してよい)。
【0132】
§5 実験例
上記実施形態の有効性を検証するため、以下の実験を行った。ただし、本発明は、以下の実験例に限定されるものではない。
【0133】
まず、流体圧アクチュエータとして、
図3と同様の構成を有する空電ハイブリッドアクチュエータ(リニアアクチュエータ)を作製した。続いて、
図8と同様の構成を有するアクチュエータシステムを作製した。制御装置には汎用のPCを使用した。位置センサには、光学センサ(AEDR-8400, Broadcom Inc.)を使用した。荷重センサには、ロードセル(LCM201-100N, Omega Engineering Inc.)を使用した。圧力センサを内蔵する圧力制御バ
ルブには、VP5010SBJ111H00(Norgren Inc.)を使用した。マイクロコントローラには、LPC1769(NXP semiconductors N.V.)を使用した。モータドライバの電流センサには、ACS714(Allegro MicroSystems, LLC)を使用した。
【0134】
図13Aは、実施例及び比較例におけるアクチュエータの状態を模式的に示す。
図13Bは、実施例及び比較例におけるアクチュエータのタスクを説明するための図である。
図13Aに示されるとおり、作製した空電ハイブリッドアクチュエータのシャフトに直列にロードアクチュエータを接続した。ロードアクチュエータは、市販のリニアアクチュエータ(BAST42M, THK Co., Ltd.)にブラシレスモータ及びボールねじを組み合わせることで作製した。
図13Bに示される外乱をロードアクチュエータにより与えている間、空電ハイブリッドアクチュエータの駆動力を一定に保つことを実施例及び比較例のタスクとして採用した。
【0135】
摩擦モデルには、上記式2の関数式を採用した。封止材の接触面積は、一定とした。封止材には、シールフィンを使用した。
図4A及び
図4Bに示される算出方法を採用して、シールフィンの接触面積を導出した。シールフィンの外径D
fは、16.3mmであった。シールフィンの内径dは、15.4mmであった。シールフィンの軸方向の長さlは、1.80mmであった。接触部におけるシールフィンの軸方向の長さΔlは、0.407mmであった。その結果、導出されたシールフィンの接触面積sの値は、20.6mm
2であった。式2のパラメータの値を得るため、圧力の目標値が異なる複数の条件下で、
図13Bに示される外乱をロードアクチュエータにより与えている間、空気圧の目標値を一定にし、電磁力を発生させずに、空電ハイブリッドアクチュエータを駆動し、各種データを計測した。
【0136】
図14Aは、圧力の目標値を0MPaGに設定して、空電ハイブリッドアクチュエータに外乱を加えている間において、力と相対位置との間の関係を測定した結果を示す。外乱を与える前の可動部の位置を0として相対位置を定義した。
図14Bは、圧力の目標値が異なる複数の条件下で、正及び負の速度における力の平均値並びに全体的な力の平均値(全体平均値)を計測した結果を示す。
図14Cは、正及び負の速度それぞれでの力の平均
値と全体平均値との間の誤差をプロットした結果を示す。得られた計測データから式2の各パラメータを同定した。その結果、クーロン摩擦係数μ
Cは、0.127であった。静
止摩擦係数μ
Sは、0.182であった。待機状態における可動部の接触力F
0は、20
.5Nであった。ストライベック速度v
sは、0.00132m/sであった。粘性摩擦係数σ
2は、0.00Ns/mであった。
【0137】
次に、空電ハイブリッドアクチュエータの駆動力制御に関して、以下の3つの条件(比較例、第1実施例、第2実施例)を設定した。
【0138】
(1)比較例
比較例では、ベースとなる駆動力を空気圧で発生させた。圧力制御バルブに一定の電圧を入力することで、駆動力を一定に維持した。
【0139】
(2)第1実施例
第1実施例では、ベースとなる駆動力を空気圧で発生させた。摩擦モデルにより算出される推定値の摩擦力を空気圧で補償するため、可動部の速度及び空気圧から圧力制御バルブへの入力電圧を変化させるようにコントローラを設計した。これにより、第1実施例では、摩擦モデルにより算出される推定値の摩擦力を空気圧により補償した。ただし、摩擦モデルに入力する圧力の値には圧力の目標値を採用し、内部空間の圧力は、各試行で一定と仮定した。
【0140】
(3)第2実施例
第2実施例では、ベースとなる駆動力を空気圧で発生させた。摩擦モデルにより算出される推定値の摩擦力を電磁力で補償するため、可動部の速度及び空気圧からモータドライバへの入力電圧を変化させるようにコントローラを設計した。これにより、第2実施例では、摩擦モデルにより算出される推定値の摩擦力を電磁力により補償した。第1実施例と同様に、摩擦モデルに入力する圧力の値には圧力の目標値を採用し、内部空間の圧力は、各試行で一定と仮定した。
【0141】
そして、上記比較例及び各実施例の各条件に対して、駆動力の目標値を0N、20N、40N及び60Nに設定し、ロードアクチュエータの位置及び速度を制御した。これにより、上記パラメータの同定で用いたものと同じ外乱(
図13B)を空電ハイブリッドアクチュエータに与えた。外乱を与えている間、ロードセル(荷重センサ)により、空電ハイブリッドアクチュエータの駆動力(出力)を測定した。なお、第1実施例では、0Nの条件は省略した。
【0142】
図15Aは、比較例における空電ハイブリッドアクチュエータの制御結果を示す。
図15Bは、第1実施例における空電ハイブリッドアクチュエータの制御結果を示す。
図15Cは、第2実施例における空電ハイブリッドアクチュエータの制御結果を示す。
図15Aに示されるとおり、比較例では、0N、20N、40N及び60Nの各条件下で、駆動力の目標値と測定値との間に誤差が生じた。一方で、第1実施例では、誤差を低減できたものの、空気圧の応答性の悪さから、出力される駆動力は不安定であった。これに対して、第2実施例では、電磁力の応答性の良さから、概ね誤差なく、出力される駆動力を一定に保つことができた。
【0143】
これらの結果から、変形要素を含む封止材について、封止材の接触面積及び流体の圧力を考慮することで、可動部に生じる摩擦力を精度よく推定可能であることが分かった。その結果、推定された摩擦力を動作制御に反映することで、流体圧アクチュエータの精度のよい制御の遂行を期待可能であることが分かった。また、摩擦力を反映する動作を電磁力による駆動力で実現することで、応答性及び精度のよく流体圧アクチュエータを制御可能
であることが分かった。
【符号の説明】
【0144】
1…制御装置、
11…制御部、12…記憶部、
13…外部インタフェース、14…入力装置、
15…出力装置、16…ドライブ、
81…制御プログラム、91…記憶媒体、
111…情報取得部、112…摩擦推定部、
113…動作制御部、114…以上判定部、
125…摩擦モデルデータ、
2…流体圧アクチュエータ、
21…収容体、22…内部空間、
23…内壁、24…可動部、25…封止材、
26…主駆動部、27…補助駆動部、
5…摩擦モデル、
61…(圧力の)値、62…(接触面積の)値、
65…推定値