(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113414
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】診断装置、診断方法、および診断プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
G05B23/02 302Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018380
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】杉江 悠一
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA17
3C223BA01
3C223CC01
3C223EB01
3C223FF13
3C223FF35
3C223FF45
(57)【要約】
【課題】加熱システムの気密構造の状態を診断する。
【解決手段】蒸気経路内の蒸気の圧力を測定する圧力計21を含む計器2と、圧力計21の測定値が入力される演算装置31と、あらかじめ特定されている、減圧装置によって蒸気経路を大気圧から所定の基準圧力まで減圧するのに要する時間の基準値を記憶している記憶装置32と、を備え、演算装置31が、減圧装置によって蒸気経路を大気圧から目標圧力まで減圧するのに要する時間を、圧力計の測定値に基づいて計時する計時機能と、基準値、および、計時機能によって計時された時間、に基づいて加熱システムを診断する診断機能と、を実現可能である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱交換器および配管を有する蒸気経路と、前記蒸気経路を減圧する減圧装置と、前記蒸気経路に蒸気を供給する供給装置と、を備える加熱システムを診断する診断装置であって、
前記蒸気経路内の蒸気の圧力を測定する圧力計を含む計器と、
前記圧力計の測定値が入力される演算装置と、
あらかじめ特定されている、前記減圧装置によって前記蒸気経路を大気圧から所定の基準圧力まで減圧するのに要する時間の基準値を記憶している記憶装置と、を備え、
前記演算装置が、
前記減圧装置によって前記蒸気経路を大気圧から目標圧力まで減圧するのに要する時間を、前記圧力計の測定値に基づいて計時する計時機能と、
前記基準値、および、前記計時機能によって計時された時間、に基づいて前記加熱システムを診断する診断機能と、を実現可能である診断装置。
【請求項2】
前記記憶装置が、さらに、
前記減圧装置の設定圧力と吸引能力との相関関係、ならびに、
前記基準値、前記基準圧力、および前記相関関係、に基づいて特定される前記蒸気経路の容積、を記憶しており、
前記演算装置が、
前記蒸気経路の容積、前記相関関係、および前記目標圧力、に基づいて、前記基準値を補正する補正機能をさらに実現可能であるとともに、
前記診断機能において、前記補正機能によって補正された基準値、および、前記計時機能によって計時された時間、に基づいて前記加熱システムを診断する請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記減圧装置が、
前記蒸気経路を減圧するエジェクタと、
前記エジェクタに流体を圧送するポンプと、
前記ポンプの一次側に前記流体を供給するとともに、前記エジェクタの二次側に排出される前記流体を受容するタンクと、
前記タンクに前記流体を供給する供給源と、
を有するものである前記加熱システムを診断する請求項1または2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記計器が、前記ポンプの電流値および吐出圧力の少なくとも一つを測定するポンプ計器をさらに含み、
前記演算装置が、前記診断機能において、
前記基準値、および、前記計時機能によって計時された時間、に基づいて前記加熱システムを診断する一次診断と、
前記一次診断において前記加熱システムが正常であると診断できない場合に、前記ポンプ計器の測定値に基づいて、前記ポンプの異常の有無を診断するポンプ診断と、を実行する請求項3に記載の診断装置。
【請求項5】
前記計器が、前記タンクの液位を検出する液位センサをさらに含み、
前記演算装置が、前記診断機能において、
前記基準値、および、前記計時機能によって計時された時間、に基づいて前記加熱システムを診断する一次診断と、
前記一次診断において前記加熱システムが正常であると診断できない場合に、前記液位センサの検出値に基づいて、前記タンクにおける前記流体の供給の異常の有無を診断する供給診断と、を実行する請求項3に記載の診断装置。
【請求項6】
前記計器が、前記タンクにおける前記流体の温度を測定する温度計をさらに含み、
前記演算装置が、前記診断機能において、
前記基準値、および、前記計時機能によって計時された時間、に基づいて前記加熱システムを診断する一次診断と、
前記一次診断において前記加熱システムが正常であると診断できない場合に、前記温度計の測定値に基づいて、前記タンクにおける前記流体の温度の異常の有無を診断する温度診断と、を実行する請求項3に記載の診断装置。
【請求項7】
熱交換器および配管を有する蒸気経路と、前記蒸気経路を減圧する減圧装置と、前記蒸気経路に蒸気を供給する供給装置と、を備える加熱システムを診断する診断方法であって、
前記蒸気経路内の圧力を測定する測定工程と、
前記減圧装置によって前記蒸気経路を大気圧から目標圧力まで減圧するのに要する時間を計時する計時工程と、
あらかじめ特定されている、前記減圧装置によって前記蒸気経路を大気圧から所定の基準圧力まで減圧するのに要する時間の基準値と、前記計時工程において計時された時間と、に基づいて前記加熱システムを診断する診断工程と、を含む診断方法。
【請求項8】
熱交換器および配管を有する蒸気経路と、前記蒸気経路を減圧する減圧装置と、前記蒸気経路に蒸気を供給する供給装置と、を備える加熱システムを診断する診断プログラムであって、
前記蒸気経路内の圧力を測定する圧力計の測定値を取得する取得機能と、
前記減圧装置によって前記蒸気経路を大気圧から目標圧力まで減圧するのに要する時間を、前記取得機能によって取得した測定値に基づいて計時する計時機能と、
あらかじめ特定されている、前記減圧装置によって前記蒸気経路を大気圧から所定の基準圧力まで減圧するのに要する時間の基準値と、前記計時機能によって計時された時間と、に基づいて前記加熱システムを診断する診断機能と、をコンピュータに実現させる診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧より低い圧力の蒸気を用いて対象物を加熱する加熱システムの診断に用いられる、診断装置、診断方法、および診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧より低い圧力の蒸気は、一般的に真空蒸気とも称され、100℃未満の温度を有する。対象物を100℃以下の範囲の任意の温度で安定的に加熱する目的で、真空蒸気を用いる加熱システムが種々の分野において利用されている(特許文献1~3)。かかる加熱システムは、概して、熱交換器および配管を有する蒸気経路と、蒸気経路を減圧する減圧装置と、蒸気経路に蒸気を供給する供給装置と、を備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-78832号公報
【特許文献2】特開2012-116547号公報
【特許文献3】特開2011-209429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
真空蒸気を用いる加熱システムでは、所望される温度に対応する負圧に減圧した蒸気経路に蒸気を供給することで所望される温度の蒸気が得られ、これを対象物の加熱に利用する。すなわち、温度を制御するためには系内を任意の負圧に制御することが必要であるため、蒸気経路等における気密構造が維持されることがシステムの性能の維持のために重要である。しかし従来、加熱システムにおける気密構造の状態の診断には、十分な手段が提供されていなかった。
【0005】
そこで、真空蒸気を用いる加熱システムの気密構造の状態を診断しうる診断装置、診断方法、および診断プログラムの実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る診断装置は、熱交換器および配管を有する蒸気経路と、前記蒸気経路を減圧する減圧装置と、前記蒸気経路に蒸気を供給する供給装置と、を備える加熱システムを診断する診断装置であって、前記蒸気経路内の蒸気の圧力を測定する圧力計を含む計器と、前記圧力計の測定値が入力される演算装置と、あらかじめ特定されている、前記減圧装置によって前記蒸気経路を大気圧から所定の基準圧力まで減圧するのに要する時間の基準値を記憶している記憶装置と、を備え、前記演算装置が、前記減圧装置によって前記蒸気経路を大気圧から目標圧力まで減圧するのに要する時間を、前記圧力計の測定値に基づいて計時する計時機能と、前記基準値、および、前記計時機能によって計時された時間、に基づいて前記加熱システムを診断する診断機能と、を実現可能であることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る診断方法は、熱交換器および配管を有する蒸気経路と、前記蒸気経路を減圧する減圧装置と、前記蒸気経路に蒸気を供給する供給装置と、を備える加熱システムを診断する診断方法であって、前記蒸気経路内の圧力を測定する測定工程と、前記減圧装置によって前記蒸気経路を大気圧から目標圧力まで減圧するのに要する時間を計時する計時工程と、あらかじめ特定されている、前記減圧装置によって前記蒸気経路を大気圧から所定の基準圧力まで減圧するのに要する時間の基準値と、前記計時工程において計時された時間と、に基づいて前記加熱システムを診断する診断工程と、を含むことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る診断プログラムは、熱交換器および配管を有する蒸気経路と、前記蒸気経路を減圧する減圧装置と、前記蒸気経路に蒸気を供給する供給装置と、を備える加熱システムを診断する診断プログラムであって、前記蒸気経路内の圧力を測定する圧力計の測定値を取得する取得機能と、前記減圧装置によって前記蒸気経路を大気圧から目標圧力まで減圧するのに要する時間を、前記取得機能によって取得した測定値に基づいて計時する計時機能と、あらかじめ特定されている、前記減圧装置によって前記蒸気経路を大気圧から所定の基準圧力まで減圧するのに要する時間の基準値と、前記計時機能によって計時された時間と、に基づいて前記加熱システムを診断する診断機能と、をコンピュータに実現させることを特徴とする。
【0009】
これらの構成によれば、加熱システムの気密構造の状態を診断できる。これによって、加熱システムの異常を早期に発見しやすい。
【0010】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0011】
本発明に係る診断装置は、一態様として、前記記憶装置が、さらに、前記減圧装置の設定圧力と吸引能力との相関関係、ならびに、前記基準値、前記基準圧力、および前記相関関係、に基づいて特定される前記蒸気経路の容積、を記憶しており、前記演算装置が、前記蒸気経路の容積、前記相関関係、および前記目標圧力、に基づいて、前記基準値を補正する補正機能をさらに実現可能であるとともに、前記診断機能において、前記補正機能によって補正された基準値、および、前記計時機能によって計時された時間、に基づいて前記加熱システムを診断することが好ましい。
【0012】
この構成によれば、基準値を特定した際の運転条件と、診断を行った際の運転条件と、を考慮した診断を行うことができる。そのため、一つの基準値に基づいて種々の運転条件下での診断を行うことができる。
【0013】
本発明に係る診断装置は、一態様として、前記減圧装置が、前記蒸気経路を減圧するエジェクタと、前記エジェクタに流体を圧送するポンプと、前記ポンプの一次側に前記流体を供給するとともに、前記エジェクタの二次側に排出される前記流体を受容するタンクと、前記タンクに前記流体を供給する供給源と、を有するものである前記加熱システムを診断することが好ましい。
【0014】
この構成によれば、真空蒸気を用いる加熱システムとして汎用される構成のシステムに、本発明を適用できる。
【0015】
本発明に係る診断装置は、一態様として、前記計器が、前記ポンプの電流値および吐出圧力の少なくとも一つを測定するポンプ計器をさらに含み、前記演算装置が、前記診断機能において、前記基準値、および、前記計時機能によって計時された時間、に基づいて前記加熱システムを診断する一次診断と、前記一次診断において前記加熱システムが正常であると診断できない場合に、前記ポンプ計器の測定値に基づいて、前記ポンプの異常の有無を診断するポンプ診断と、を実行することが好ましい。
【0016】
この構成によれば、加熱システムの不具合が疑われる場合に、その不具合の原因がポンプにあるのか否かを特定できる。
【0017】
本発明に係る診断装置は、一態様として、前記計器が、前記タンクの液位を検出する液位センサをさらに含み、前記演算装置が、前記診断機能において、前記基準値、および、前記計時機能によって計時された時間、に基づいて前記加熱システムを診断する一次診断と、前記一次診断において前記加熱システムが正常であると診断できない場合に、前記液位センサの検出値に基づいて、前記タンクにおける前記流体の供給の異常の有無を診断する供給診断と、を実行することが好ましい。
【0018】
この構成によれば、加熱システムの不具合が疑われる場合に、その不具合の原因がタンクに対する流体の供給にあるのか否かを特定できる。
【0019】
本発明に係る診断装置は、一態様として、前記計器が、前記タンクにおける前記流体の温度を測定する温度計をさらに含み、前記演算装置が、前記診断機能において、前記基準値、および、前記計時機能によって計時された時間、に基づいて前記加熱システムを診断する一次診断と、前記一次診断において前記加熱システムが正常であると診断できない場合に、前記温度計の測定値に基づいて、前記タンクにおける前記流体の温度の異常の有無を診断する温度診断と、を実行することが好ましい。
【0020】
この構成によれば、加熱システムの不具合が疑われる場合に、その不具合の原因がタンクにおける流体の温度にあるのか否かを特定できる。
【0021】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施形態に係る診断装置の構成を示す図である。
【
図2】診断対象とする加熱システムの構成を示す図である。
【
図3】実施形態に係る診断方法の手順を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明に係る診断装置、診断方法、および診断プログラムの実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る診断装置1(
図1)を、加熱システム100(
図2)の診断に適用した例について説明する。
【0024】
〔加熱システムおよび診断装置の概要〕
本実施形態に係る加熱システム100は、ジャケット111(熱交換器の一例である。)を含む蒸気経路110と、蒸気経路110を減圧する減圧装置120と、蒸気経路110に蒸気を供給する蒸気制御弁130(供給装置の一例である。)と、を備える(
図2)。加熱システム100は、概して、反応槽Cに設けられたジャケット111に大気圧より低い圧力の蒸気(真空蒸気)を供給して、ジャケット111を流通する蒸気と反応槽Cとの熱交換により、反応槽Cを加熱するものである。
【0025】
本実施形態に係る診断装置1は、加熱システム100を診断する装置であり、計器群2(計器の一例である。)とコンピュータ3とを備える(
図1)。コンピュータ3は、ハードウェアとしては公知のコンピュータであってよく、演算装置31および記憶装置32を含む。コンピュータ3には、本実施形態に係る診断プログラムがインストールされている。なお、計器群2を構成する各機器とコンピュータ3との接続の態様は、それぞれ独立に、有線接続であってもよいし、無線接続であってもよい。
【0026】
なお、本実施形態では、コンピュータ3が加熱システム100の制御装置を兼ねている。したがって、加熱システム100の構成要素のうち電気的に制御されるものは、コンピュータ3と電気的に接続されている。ただし、これらの構成要素とコンピュータ3との接続の態様は、それぞれ独立に、有線接続であってもよいし、無線接続であってもよい。
【0027】
〔加熱システムの構成〕
以下では、加熱システム100の構成を説明する。なお、診断装置1の計器群2を構成する各計器類の配置および役割についても、加熱システム100の構成と関連づけて説明する。
【0028】
(蒸気経路)
蒸気経路110は、ジャケット111と、上流側配管112および下流側配管113(いずれも配管の一例である。)と、上流側配管112に設けられたドレンセパレータ114と、を有する。蒸気制御弁130から供給された蒸気は、上流側配管112、ジャケット111、下流側配管113の順に経由して、減圧装置120のエジェクタ121に至る経路を辿り、蒸気が有する熱がジャケット111において反応槽Cの加熱に消費される。
【0029】
また、上流側配管112の中途の位置に対して水を噴霧する噴霧装置Mが設けられており、水の噴霧によって上流側配管112を流通する蒸気がたとえば100℃未満に冷却される。この冷却によって凝縮した水であるドレンは、ドレンセパレータ114によって蒸気から分離され、逆止弁115を介して下流側配管113にバイパスされる。
【0030】
蒸気経路110の各構成要素としては、それぞれの構成要素として公知のものを使用できる。
【0031】
計器群2の構成機器のうち、蒸気経路110に設置されているものは、上流側配管112に設けられている第一圧力計21(圧力計の一例である。)、ならびに、下流側配管113に設けられている第二圧力計22および蒸気温度計23、である。
【0032】
第一圧力計21は、上流側配管112のうちドレンセパレータ114とジャケット111との間の領域に設けられている。したがって第一圧力計21は、噴霧装置Mによって冷却され、かつドレンセパレータ114によってドレンが除去された後の蒸気の圧力を測定する。また、第二圧力計22および蒸気温度計23は、下流側配管113のうちジャケット111の直後に設けられており、反応槽Cを加熱した直後の蒸気の圧力および温度を測定する。
【0033】
(減圧装置)
減圧装置120は、主として蒸気経路110を減圧するために設けられた装置群であり、エジェクタ121と、ポンプ122と、タンク123と、水制御弁124(供給源の一例である。)と、を有する。
【0034】
エジェクタ121は蒸気経路110を減圧する役割を直接に果たすものであり、一次側がポンプ122に、二次側がタンク123に、吸込口が下流側配管113に、それぞれ接続されている。ポンプ122から圧送された水(流体の一例である。)がエジェクタ121に流通すると吸込口が負圧になり、蒸気経路110内の気体が吸引されて蒸気経路110が減圧される。
【0035】
ポンプ122は、一次側がタンク123に、二次側がエジェクタ121に、それぞれ接続されており、エジェクタ121に水を圧送する役割を果たすものである。なお、ポンプ122の二次側は、エジェクタ121に至る経路の他に、ドレン弁Dに至る経路と、ストレーナSを経て噴霧装置Mに至る経路と、にも分岐している。なお、ポンプ122の運転および停止はコンピュータ3によって制御される。
【0036】
タンク123は、減圧装置120を循環する水を貯留するタンクである。すなわちタンク123は、ポンプ122の一次側に水を供給するとともに、エジェクタ121の二次側に排出される水を受容する。なお、タンク123の上限付近にオーバーフロー流路が設けられている。
【0037】
水制御弁124は、工場のユーティリティとして設けられている水源(不図示)から供給される水をタンク123に供給するものである。水制御弁124は、タンク123内の水位が所定の下限を下回ったときに開放されてタンク123に水を補給し、水位が所定の上限に至ったときに閉鎖されて水の供給を止める。なお、水制御弁124の開閉はコンピュータ3によって制御される。
【0038】
減圧装置120の各構成要素としては、それぞれの構成要素として公知のものを使用できる。
【0039】
計器群2の構成機器のうち、減圧装置120に設置されているものは、ポンプ122の電流値を測定する電流計24(ポンプ計器の一例である。)、ポンプ122の二次側に設けられた水圧計25(ポンプ計器の一例である。)、タンク123に設けられた上限側水位センサ26および下限側水位センサ27、ならびに、タンク123に設けられた水温計28、である。
【0040】
(蒸気制御弁)
蒸気制御弁130は、蒸気経路110に蒸気を供給するものであり、工場のユーティリティとして設けられている蒸気源(不図示)と上流側配管112との間に設けられている。蒸気制御弁130は開度を調節可能な制御弁であり、その開度の調節によって上流側配管112に供給される蒸気の流量(圧力)が調節される。なお、蒸気制御弁130の開度は、コンピュータ3によって、蒸気経路110を流通する蒸気の温度および圧力の少なくとも一方に基づいて制御される。
【0041】
計器群2の構成機器のうち、蒸気制御弁130に設置されているものは、蒸気制御弁130の一次側に設けられている第三圧力計29である。第三圧力計29は、蒸気源から蒸気制御弁130に流入する蒸気の圧力(蒸気制御弁130の一次側圧力)を測定する。
【0042】
〔加熱システムの使用方法および制御方法〕
次に、加熱システム100の使用方法および制御方法について説明する。なお、前述の通り本実施形態ではコンピュータ3が加熱システム100の制御装置を兼ねており、以下の説明のうち制御に関する動作はコンピュータ3の演算装置31が実現するものである。
【0043】
休止状態にある加熱システム100は、蒸気経路110が大気圧の空気で満たされている。加熱システム100を使用するときは、まず、減圧装置120を運転して蒸気経路110を減圧し、蒸気経路110内の空気を取り除く。具体的には、ポンプ122を駆動してエジェクタ121に負圧を生じさせて、蒸気経路110内の空気を吸引する。なお、ポンプ122を駆動することによって、噴霧装置Mから上流側配管112に対する水の噴霧が開始される。
【0044】
蒸気経路110内の圧力が所定の圧力以下に下がったら、蒸気制御弁130を開放して、蒸気経路110に蒸気を供給する。蒸気経路110内の圧力が所定の圧力以下に下がったことは、たとえば第一圧力計21の測定値が所定の圧力以下であることをもって検出する。なお、第一圧力計21に替えて第二圧力計22の測定値に基づいて、蒸気経路110内の圧力が所定の圧力以下に下がったことを検出してもよいが、以下では第一圧力計21の測定値を検出に用いる場合を例として説明する。また、以下では第一圧力計21の測定値を「蒸気圧力」と称する。
【0045】
所定の圧力は、反応槽Cを加熱する温度として所望される温度、すなわちジャケット111の設定温度に基づいて決定づけられる。より詳細には、ジャケット111の設定温度における水の飽和蒸気圧が、所定の圧力となる。
【0046】
その後は、蒸気圧力が所定の範囲に維持されるように、減圧装置120および蒸気制御弁130の動作が制御される。ここで、蒸気圧力が維持されるべき圧力の範囲は、たとえば、上記の所定の圧力を中心とする範囲として設定されうる。
【0047】
なお、加熱システム100の運転中に、減圧装置120を循環する水の量が増減しうる。水の量が減る要因としては噴霧装置Mおよびドレン弁Dからの流出が挙げられ、水の量が増える要因としては蒸気経路110において凝集したドレンの流入が挙げられるが、典型的には流出量の方が多く、減圧装置120を循環する水の量は減る傾向にある。水の減少は、下限側水位センサ27が設置されている水位(以下、「下限水位」と称する。)をタンク123の水位が下回ることによって検出され、このとき水制御弁124が開放されて水が供給される。その後、上限側水位センサ26が設置されている水位をタンク123の水位が上回ったときに、水制御弁124が閉鎖される。
【0048】
〔診断装置の機能(加熱システムの診断方法)〕
続いて、診断装置1の機能について説明する。診断装置1の機能は、加熱システム100の診断方法の各工程に対応する。診断装置1による診断は、概して、加熱システム100が正常である限り減圧装置120による減圧に要する時間は概ね一定であるだろう、という推定に基づいて、試運転時に減圧に要した時間(基準値)に比べて日々の運用中に減圧に要した時間が長いときは、異常の発生を疑う、というものである。なお、以下の各機能に係る演算処理は、演算装置31によって実行される。
【0049】
(1)試運転
本実施形態に係る診断方法を実施する準備として、加熱システム100の試運転が行われる。試運転は、加熱システム100に不具合が存在しないことを十分に期待できるとき、すなわち加熱システム100の設置直後や定期整備直後などに、行われることが好ましい。
【0050】
試運転では、休止状態にある加熱システム100を起動して、減圧装置120によって蒸気経路110を大気圧から所定の基準圧力PSまで減圧するのに要する時間を特定する。このとき特定される時間を、加熱システム100を起動する際の減圧に要する時間の基準値TSとして取り扱う。このとき蒸気経路110内の圧力を測定する圧力計は、第一圧力計21および第二圧力計22のいずれとしてもよいが、以下では第一圧力計21を用いる場合を例として説明する。なお、測定は、時計やストップウォッチなどを用いて人為的に実施してもよいし、診断装置1の計時機能(後述する。)を用いて実施してもよい。
【0051】
加熱システム100の使用方法および制御方法の項で説明したのと同様に、基準圧力PSは、ジャケット111の設定温度における水の飽和蒸気圧として決定される。すなわち、試運転時のジャケット111の設定温度(以下、基準温度と称する。)を決定すれば、基準圧力PSが決定される。基準圧力PS(基準温度)は、加熱システム100の運転条件として想定される範囲の中央付近としたり、加熱システム100の運転条件として選択されることが比較的多いと想定される値としたりすることが好ましい。
【0052】
特定された基準値TSは、コンピュータ3の記憶装置32に記憶される。このとき、基準温度および基準圧力PSの値が、あわせて記憶装置32に記憶される。
【0053】
(2)計時機能(計時工程)
計時機能は、休止状態にある加熱システム100を起動して、減圧装置120によって蒸気経路110を大気圧から目標圧力Pまで減圧するのに要する時間(減圧時間T)を計時する機能である(
図3:S10)。目標圧力Pは、加熱システム100の使用条件によって決定づけられる圧力であり、具体的にはジャケット111の目標温度に基づいて決定づけられる。ジャケット111の目標温度が低いほど、当該目標温度における水の飽和蒸気圧が低くなり、目標圧力Pが低くなる関係にある。なお、ここでいう目標圧力P(目標温度)と、試運転における基準圧力P
S(基準温度)とは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0054】
この計時は、演算装置31によって実施される。具体的には、ポンプ122を起動させる電気信号を発信した時刻を始点とし、第一圧力計21の測定値が初めて目標圧力P以下となった時刻を終点として、始点から終点までの時間の長さを減圧時間Tとして特定する。なお、各事象が生じた時刻は演算装置31が内蔵する時計等によって特定される。
【0055】
(3)補正機能(補正工程)
補正機能は、試運転時の基準圧力PSと計時機能における目標圧力Pとの違いを考慮して、基準値TSを補正する機能である。
【0056】
補正機能に用いる関数として、減圧装置120の設定圧力と吸引能力との相関関係を表す式(1)が、記憶装置32に記憶されている。
【数1】
【0057】
式(1)において、xは減圧装置120の設定圧力(単位:kPa abs)であり、yは減圧装置120の吸引能力(単位:L/秒)であり、aおよびbは減圧装置120の性能および能力に基づいて決定づけられる定数である。
【0058】
式(1)と合わせて、試運転時の基準値TS(減圧に要した時間)および基準圧力PSを用いると、蒸気経路110の容積を求めることができる。すなわち、式(1)のxに試運転時の基準圧力PSを代入すると、試運転時の吸引能力(式(1)のy)が導かれる。この吸引能力に基準値TSを(単位:秒)を乗ずると、蒸気経路110の容積(単位:L)が得られる。
【0059】
式(1)に表されるように、減圧装置120の吸引能力は設定圧力と正の相関にある。診断装置1による診断は、概して、計時機能によって計時された時間と基準値TSとの比較に基づくものであるが、たとえば目標圧力Pが基準圧力PSより低い場合(試運転時の基準温度より低い目標温度で加熱システム100を運転する場合)は、試運転時より低い吸引能力で減圧装置120を運転することになるので、たとえ加熱システム100に不具合がないとしても、計時機能によって計時された時間が基準値TSより大きい値になりうる。すなわち、計時機能によって計時された減圧時間Tと基準値TSとの単純な比較によっては、加熱システム100の診断が不十分になる場合がある。
【0060】
そこで、補正機能では、蒸気経路110の容積と、式(1)と、目標圧力Pと、に基づいて、基準値TSを補正する。具体的には、まず、式(1)のxに目標圧力Pを代入して、計時機能を実行したときの減圧装置120の吸引能力(式(1)のy)を求める。次に、求めた吸引能力で蒸気経路110の容積を除すれば、蒸気経路110を目標圧力Pまで減圧するために要する時間の理論値Tcが求められる。
【0061】
診断機能において、計時機能によって計時された時間と比較する対象として基準値TSに替えてこの理論値Tcを用いれば、基準圧力PSと目標圧力Pとの違いを考慮した診断結果を得ることができる。なお、この場合においても、蒸気経路110の容積を算出する際に基準値TSを用いているので、基準値TSが間接的に診断機能に用いられているといえる。また、算出される理論値Tcが基準値TSと同じ次元(時間)の値であり、基準値TSと同様に処理されることから、理論値Tcを、基準値TSを補正したものと捉えることができる。すなわち理論値Tcは、補正された基準値である。
【0062】
上記の通り、基準値T
Sの補正は、減圧装置120の設定圧力と吸引能力との相関関係、試運転の結果、および目標圧力Pの値、を用いて実施されるものである。すなわち、加熱システム100の使用条件が決まれば基準値T
Sを補正することができ、計時機能により特定された時間などの他の機能に依存する変数を要さない。そのため基準値T
Sの補正は、たとえば減圧時間の計時と並行して実現されうる(
図3:S20)。
【0063】
(4)診断機能(診断工程)
診断機能は、試運転時に特定されている基準値T
Sと、計時機能によって計時された時間と、に基づいて、加熱システム100を診断する機能である(
図3:S30)。加熱システム100の状態が試運転時と同様であれば、計時機能によって計時される減圧時間Tが基準値T
Sと概ね同じになることが期待される。一方、加熱システム100に不具合がある場合は、減圧時間Tが基準値T
Sより長くなりうる。かかる不具合としては、蒸気経路110の気密不備(漏洩が生じている。)や減圧装置120の能力低下などが想定され、いずれの不具合も減圧時間Tが長くなる方向に作用する。
【0064】
なお、前述の通り、試運転時の基準圧力PSと計時機能における目標圧力Pとの違いを考慮する必要がある場合は、基準値TSに替えて、補正機能により補正された基準値である理論値Tcを用いてもよい。以下では理論値Tcを用いる場合を例として説明する。
【0065】
診断機能の一次診断では、減圧時間Tが、理論値T
cに対して所定の許容率r(たとえば1.05以上1.10以下の値である。)を乗じた値を超えるときは、加熱システム100が異常であると診断し、具体的な異常箇所の特定に移る(
図3:S31)。一方、減圧時間Tが、理論値T
cに許容率rを乗じた値以下であれば、加熱システム100が正常であると診断する。
【0066】
一次診断において加熱システム100が正常であると診断できない場合(加熱システム100が異常であると判断する場合、または、エラー等によって正常であるとの診断結果を結論づけられない場合、をいう。)は、具体的な異常箇所を特定する段階に進む。第一に、ポンプ122の異常の有無を診断するポンプ診断を実施する(
図3:S32)。ポンプ診断では、診断の材料として、電流計24の測定値(電流値I
P)および水圧計25の測定値(水圧P
w)を用いる。具体的には、電流値I
Pが所定の範囲内(I
S1≦I
P≦I
S2)であり、かつ、水圧P
wが所定の閾値P
X以上であるときは、ポンプ122が正常であると診断して、タンクの診断に進む。
【0067】
一方、これらの条件の少なくとも一つが満たされない場合は、ポンプ122が異常であると診断する。電流値IPが所定の範囲の上限値IS2を超えていることは、ポンプ122の負荷が想定される水準を超えていることを意味し、たとえばポンプ122において羽根車とケーシングとの干渉や異物の噛み込みなどの異常が生じている可能性がある。電流値IPが所定の範囲の下限値IS1より小さいときは、ポンプ122において空転やエア噛みなどの異常が生じている可能性がある。また、水圧Pwが所定の閾値PX未満であることは、ポンプ122が吐出する水の量が想定される水準を下回っていることを意味し、たとえばポンプ122の羽根車の欠損などの異常の可能性がある。
【0068】
ポンプ診断においてポンプ122が正常であると診断した場合は、タンクの診断を行う。タンクの診断は、タンクにおける水の供給の異常の有無を診断する供給診断(
図3:S33)と、タンクにおける水の温度の異常の有無を診断する温度診断(
図3:S34)と、を含む。
【0069】
供給診断では、診断の材料として、下限側水位センサ27の検出値を用いる。具体的には、タンク123の水位が、下限側水位センサ27が設置されている水位(下限水位)を下回っている状態が、所定の時間を超えて継続する場合は、タンク123への水の供給に異常があると診断する。加熱システム100の正常な動作では、タンク123の水位が下限水位を下回ると水制御弁124が開放されて水が供給されるため、タンク123の水位が上昇して下限水位を超える。しかし、たとえば水制御弁124が故障して閉鎖されたままであると、水の供給が行われないため、タンク123の水位が下限水位を下回る状態が解消しない。以上の考え方により、下限側水位センサ27の検出値に基づいて水の供給の異常の有無を診断できるのである。
【0070】
供給診断において水の供給が正常であると診断した場合は、温度診断を行う。温度診断では、診断の材料として、水温計28の検出値を用いる。具体的には、水温計28の検出値(水温Tw)が所定の閾値Txより低い場合は水の温度が正常だと判断し、水温Twが所定の閾値Tx以上である場合は水の温度に異常があると診断する。
【0071】
エジェクタ121の吸引能力は、一次側から二次側に流通される水の温度と、吸込口から吸い込まれる蒸気の温度と、の温度差に依存し、少なくとも水の温度が蒸気の温度以下である必要がある。ここで蒸気の温度はジャケット111の目標温度に依存し、同一の運転条件下では一定であるので、エジェクタ121の吸引能力は水の温度に依存するといえる。したがって、水の温度が想定される水準より高い場合、減圧装置120の吸引能力が想定より低くなることになる。水の温度に異常があると診断する閾値は、たとえばジャケット111の目標温度であり、好ましくは当該目標温度から所定の温度差(たとえば20~30℃程度の値である。)を差し引いた値である。
【0072】
以上のポンプ診断、供給診断、および温度診断の全てにおいて正常だと診断された場合は、蒸気経路110に異常があると判断する。これらの三つの診断においていずれも正常だと診断される場合は、減圧装置120が正常である可能性が高く、試運転に比べて減圧に要した時間が長いことについて蒸気経路110の側に原因があると考えられるためである。ここでいう蒸気経路110の異常とは、蒸気経路110の気密に不備があることを意味し、その具体的な態様としては、パッキンの劣化、フランジ締結の緩み、配管の破損、などが想定される。
【0073】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る診断装置、診断方法、および診断プログラムのその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0074】
上記の実施形態では、診断装置1(演算装置31)が計時機能、補正機能、および診断機能を実現可能である構成を例として説明した。しかし本発明において、補正機能の実現可否は任意である。また、計時機能および診断機能について、上記の態様に限定されない。すなわち、計時機能および診断機能を実現する範囲で上記の実施形態および
図3に示した判断手順の各工程が任意に加除されうる。
【0075】
上記の実施形態では、エジェクタ121、ポンプ122、タンク123、および水制御弁124を有する減圧装置120を備える加熱システム100を診断対象とする構成を例として説明した。しかし、本発明に係る診断装置が診断対象とする加熱システムにおける減圧装置について、蒸気経路を減圧する方式は限定されない。
【0076】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、真空蒸気を用いる加熱システムの診断に利用できる。
【符号の説明】
【0078】
1 :診断装置
2 :計器群
21 :第一圧力計
22 :第二圧力計
23 :蒸気温度計
24 :電流計
25 :水圧計
26 :上限側水位センサ
27 :下限側水位センサ
28 :水温計
29 :第三圧力計
3 :コンピュータ
31 :演算装置
32 :記憶装置
100 :加熱システム
110 :蒸気経路
111 :ジャケット
112 :上流側配管
113 :下流側配管
114 :ドレンセパレータ
115 :逆止弁
120 :減圧装置
121 :エジェクタ
122 :ポンプ
123 :タンク
124 :水制御弁
130 :蒸気制御弁
C :反応槽
D :ドレン弁
M :噴霧装置
S :ストレーナ