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特開2024-113416診断装置、診断方法、および診断プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113416
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】診断装置、診断方法、および診断プログラム
(51)【国際特許分類】
   G05B 23/02 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
G05B23/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018382
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000133733
【氏名又は名称】株式会社テイエルブイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】杉江 悠一
(72)【発明者】
【氏名】津田 憲一
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA17
3C223BA01
3C223CC01
3C223EB01
3C223FF06
3C223FF35
3C223GG01
3C223HH22
3C223HH24
(57)【要約】
【課題】加熱システムに通常設置されているか、または容易に設置できる計器を利用して消費熱量を特定する。
【解決手段】蒸気が流通し、当該蒸気と熱を利用する装置Cとの間で熱を交換する熱交換器と、一次側が蒸気源に流体連通し二次側が熱交換器に流体連通する制御弁130と、を備える加熱システムを診断する診断装置1であって、制御弁130に流入する蒸気の圧力を測定する第一圧力計2と、熱交換器に流入する蒸気の圧力を測定する第二圧力計3と、熱交換器に流入する蒸気の温度を測定する蒸気温度計4と、第一圧力計2、第二圧力計3、および蒸気温度計4の測定値、ならびに、制御弁130の開度、に基づいて、熱交換器における消費熱量を特定する演算装置61と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気が流通し、当該蒸気と熱を利用する装置との間で熱を交換する熱交換器と、
一次側が蒸気源に流体連通し二次側が前記熱交換器に流体連通する制御弁と、を備える加熱システムを診断する診断装置であって、
前記制御弁に流入する蒸気の圧力を測定する第一圧力計と、
前記熱交換器に流入する蒸気の圧力を測定する第二圧力計と、
前記熱交換器に流入する蒸気の温度を測定する蒸気温度計と、
前記第一圧力計、前記第二圧力計、および前記蒸気温度計の測定値、ならびに、前記制御弁の開度、に基づいて、前記熱交換器における消費熱量を特定する演算装置と、を備える診断装置。
【請求項2】
前記加熱システムが、前記熱交換器に流通する蒸気の温度を設定可能に構成されており、
前記演算装置が、前記加熱システムにおける蒸気の設定温度に基づいて前記装置における熱の利用を複数の段階に区分するとともに、区分ごとに前記消費熱量を特定する請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記装置内の温度を測定する工程温度計をさらに備え、
前記演算装置が、さらに、前記消費熱量、前記装置と前記熱交換器との間の伝熱面積、および、前記工程温度計の測定値、に基づいて、前記熱交換器による前記装置の加熱効率を特定する請求項1または2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記演算装置が、さらに、特定した前記加熱効率と、過去の加熱効率と、の比較に基づいて、前記加熱システムを診断する請求項3に記載の診断装置。
【請求項5】
蒸気が流通し、当該蒸気と熱を利用する装置との間で熱を交換する熱交換器と、
一次側が蒸気源に流体連通し二次側が前記熱交換器に流体連通する制御弁と、を備える加熱システムを診断する診断方法であって、
前記制御弁に流入する蒸気の圧力と、前記熱交換器に流入する蒸気の圧力と、前記熱交換器に流入する蒸気の温度と、前記制御弁の開度と、に基づいて、前記熱交換器における消費熱量を特定する診断方法。
【請求項6】
蒸気が流通し、当該蒸気と熱を利用する装置との間で熱を交換する熱交換器と、
一次側が蒸気源に流体連通し二次側が前記熱交換器に流体連通する制御弁と、を備える加熱システムを診断する診断プログラムであって、
前記制御弁に流入する蒸気の圧力と、前記熱交換器に流入する蒸気の圧力と、前記熱交換器に流入する蒸気の温度と、前記制御弁の開度と、に基づいて、前記熱交換器における消費熱量を特定する機能をコンピュータに実現させる診断プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気圧より低い圧力の蒸気を用いて対象物を加熱する加熱システムの診断に用いられる、診断装置、診断方法、および診断プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧より低い圧力の蒸気は、一般的に真空蒸気とも称され、100℃未満の温度を有する。対象物を100℃以下の範囲の任意の温度で安定的に加熱する目的で、真空蒸気を用いる加熱システムが種々の分野において利用されている(特許文献1~3)。かかる加熱システムは、概して、熱交換器および配管を有する蒸気経路と、蒸気経路を減圧する減圧装置と、蒸気経路に蒸気を供給する供給装置と、を備えるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-78832号公報
【特許文献2】特開2012-116547号公報
【特許文献3】特開2011-209429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
たとえば医薬、製薬、化学などの工業分野において加熱システムが使用される際に、法令や業界基準などの要請によって、その消費熱量や加熱効率などの特定が求められる場合がある。消費熱量の特定は、加熱システムに供給される蒸気の流量を特定できる場合は比較的容易であるが、蒸気の流量の特定が難しいか、またはその特定に高額の流量計を用いる必要がある場合(防爆仕様の流量計などが該当する。)があるため、消費熱量の特定が困難な場合が少なくなかった。
【0005】
そこで、加熱システムに通常設置されているか、または容易に設置できる計器を利用して消費熱量を特定しうる診断装置、診断方法、および診断プログラムの実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る診断装置は、蒸気が流通し、当該蒸気と熱を利用する装置との間で熱を交換する熱交換器と、一次側が蒸気源に流体連通し二次側が前記熱交換器に流体連通する制御弁と、を備える加熱システムを診断する診断装置であって、前記制御弁に流入する蒸気の圧力を測定する第一圧力計と、前記熱交換器に流入する蒸気の圧力を測定する第二圧力計と、前記熱交換器に流入する蒸気の温度を測定する蒸気温度計と、前記第一圧力計、前記第二圧力計、および前記蒸気温度計の測定値、ならびに、前記制御弁の開度、に基づいて、前記熱交換器における消費熱量を特定する演算装置と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る診断方法は、蒸気が流通し、当該蒸気と熱を利用する装置との間で熱を交換する熱交換器と、一次側が蒸気源に流体連通し二次側が前記熱交換器に流体連通する制御弁と、を備える加熱システムを診断する診断方法であって、前記制御弁に流入する蒸気の圧力と、前記熱交換器に流入する蒸気の圧力と、前記熱交換器に流入する蒸気の温度と、前記制御弁の開度と、に基づいて、前記熱交換器における消費熱量を特定することを特徴とする。
【0008】
本発明に係る診断プログラムは、蒸気が流通し、当該蒸気と熱を利用する装置との間で熱を交換する熱交換器と、一次側が蒸気源に流体連通し二次側が前記熱交換器に流体連通する制御弁と、を備える加熱システムを診断する診断プログラムであって、前記制御弁に流入する蒸気の圧力と、前記熱交換器に流入する蒸気の圧力と、前記熱交換器に流入する蒸気の温度と、前記制御弁の開度と、に基づいて、前記熱交換器における消費熱量を特定する機能をコンピュータに実現させることを特徴とする。
【0009】
これらの構成によれば、加熱システムに通常設置されているか、または容易に設置できる計器を利用して消費熱量を特定できる。
【0010】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0011】
本発明に係る診断装置は、一態様として、前記加熱システムが、前記熱交換器に流通する蒸気の温度を設定可能に構成されており、前記演算装置が、前記加熱システムにおける蒸気の設定温度に基づいて前記装置における熱の利用を複数の段階に区分するとともに、区分ごとに前記消費熱量を特定することが好ましい。
【0012】
この構成によれば、熱の利用の段階ごとに消費熱量を把握しやすい。
【0013】
本発明に係る診断装置は、一態様として、前記装置内の温度を測定する工程温度計をさらに備え、前記演算装置が、さらに、前記消費熱量、前記装置と前記熱交換器との間の伝熱面積、および、前記工程温度計の測定値、に基づいて、前記熱交換器による前記装置の加熱効率を特定することが好ましい。
【0014】
この構成によれば、加熱システムに通常設置されているか、または容易に設置できる計器を利用して加熱効率を特定できる。
【0015】
本発明に係る診断装置は、一態様として、前記演算装置が、さらに、特定した前記加熱効率と、過去の加熱効率と、の比較に基づいて、前記加熱システムを診断することが好ましい。
【0016】
この構成によれば、加熱システムの加熱効率が悪化傾向にある場合に、その傾向を早期に検知できる。
【0017】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る診断装置の構成を示す図である。
図2】診断対象とする加熱システムの構成を示す図である。
図3】実施形態に係る診断方法の手順を示すフロー図である。
図4】ジャケット流入温度の経時変化の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る診断装置、診断方法、および診断プログラムの実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る診断装置1(図1)を、加熱システム100(図2)の診断に適用した例について説明する。
【0020】
〔加熱システムおよび診断装置の概要〕
本実施形態に係る加熱システム100は、ジャケット111(熱交換器の一例である。)を含む蒸気経路110と、蒸気経路110を減圧する減圧装置120と、蒸気経路110に蒸気を供給する制御弁130と、を備える(図2)。加熱システム100は、概して、反応槽C(熱を利用する装置の一例である。)に設けられたジャケット111に大気圧より低い圧力の蒸気(真空蒸気)を供給して、ジャケット111を流通する蒸気と反応槽Cとの熱交換により、反応槽Cを加熱するものである。
【0021】
本実施形態に係る診断装置1は、加熱システム100を診断する装置であり、第一圧力計2と、第二圧力計3と、蒸気温度計4と、工程温度計5と、コンピュータ6と、を備える。コンピュータ6は、ハードウェアとしては公知のコンピュータであってよく、演算装置61および記憶装置62を含む。コンピュータ6には、本実施形態に係る診断プログラムがインストールされている。なお、第一圧力計2、第二圧力計3、蒸気温度計4、および工程温度計5(これらを総称して「計器群」という場合がある。)とコンピュータ6との接続の態様は、それぞれ独立に、有線接続であってもよいし、無線接続であってもよい。
【0022】
なお、本実施形態では、コンピュータ6が加熱システム100の制御装置を兼ねている。したがって、加熱システム100の構成要素のうち電気的に制御されるものは、コンピュータ6と電気的に接続されている。ただし、これらの構成要素とコンピュータ6との接続の態様は、それぞれ独立に、有線接続であってもよいし、無線接続であってもよい。
【0023】
〔加熱システムの構成〕
以下では、加熱システム100の構成を説明する。なお、診断装置1の計器群の配置および役割についても、加熱システム100の構成と関連づけて説明する。
【0024】
(蒸気経路)
蒸気経路110は、ジャケット111と、上流側配管112および下流側配管113と、上流側配管112に設けられたドレンセパレータ114と、を有する。制御弁130から供給された蒸気は、上流側配管112、ジャケット111、下流側配管113の順に経由して、減圧装置120のエジェクタ121に至る経路を辿り、蒸気が有する熱がジャケット111において反応槽Cの加熱に消費される。
【0025】
また、上流側配管112の中途の位置に対して水を噴霧する噴霧装置Mが設けられており、水の噴霧によって上流側配管112を流通する蒸気がたとえば100℃未満に冷却される。この冷却によって凝縮した水であるドレンは、ドレンセパレータ114によって蒸気から分離され、逆止弁115を介して下流側配管113にバイパスされる。
【0026】
蒸気経路110の各構成要素としては、それぞれの構成要素として公知のものを使用できる。
【0027】
計器群のうち、第二圧力計3は、ジャケット111に流入する蒸気の圧力を測定する圧力計であり、上流側配管112のジャケット111の直前の部分に設けられている。また、蒸気温度計4は、ジャケット111に流入する蒸気の温度を測定する温度計であり、これも、上流側配管112のジャケット111の直前の部分に設けられている。第二圧力計3および蒸気温度計4が測定対象とする蒸気は、噴霧装置Mによって冷却され、かつドレンセパレータ114によってドレンが除去された後の蒸気である。また、工程温度計5は、反応槽Cの槽内の温度を測定する温度計であり、典型的には、反応槽Cにおいて反応に供される物質の温度を測定する。
【0028】
(減圧装置)
減圧装置120は、主として蒸気経路110を減圧するために設けられた装置群であり、エジェクタ121と、ポンプ122と、タンク123と、水制御弁124と、を有する。
【0029】
エジェクタ121は蒸気経路110を減圧する役割を直接に果たすものであり、一次側がポンプ122に、二次側がタンク123に、吸込口が下流側配管113に、それぞれ接続されている。ポンプ122から圧送された水がエジェクタ121に流通すると吸込口が負圧になり、蒸気経路110内の気体が吸引されて蒸気経路110が減圧される。
【0030】
ポンプ122は、一次側がタンク123に、二次側がエジェクタ121に、それぞれ接続されており、エジェクタ121に水を圧送する役割を果たすものである。なお、ポンプ122の二次側は、エジェクタ121に至る経路の他に、ドレン弁Dに至る経路と、ストレーナSを経て噴霧装置Mに至る経路と、にも分岐している。なお、ポンプ122の運転および停止はコンピュータ6によって制御される。
【0031】
タンク123は、減圧装置120を循環する水を貯留するタンクである。すなわちタンク123は、ポンプ122の一次側に水を供給するとともに、エジェクタ121の二次側に排出される水を受容する。なお、タンク123の上限付近にオーバーフロー流路が設けられている。
【0032】
水制御弁124は、工場のユーティリティとして設けられている水源から供給される水をタンク123に供給するものである。水制御弁124は、タンク123内の水位が所定の下限を下回ったときに開放されてタンク123に水を補給し、水位が所定の上限に至ったときに閉鎖されて水の供給を止める。なお、水制御弁124の開閉はコンピュータ6によって制御される。
【0033】
減圧装置120の各構成要素としては、それぞれの構成要素として公知のものを使用できる。
【0034】
減圧装置120の制御に関与する測定機器として、ポンプ122の電流値を測定する電流計71、ポンプ122の二次側に設けられた水圧計72、タンク123に設けられた上限側水位センサ73および下限側水位センサ74、ならびに、タンク123に設けられた水温計75、が設けられている。これらの測定機器も、コンピュータ6に接続されている。
【0035】
(制御弁)
制御弁130は、蒸気経路110に蒸気を供給するものであり、工場のユーティリティとして設けられている蒸気源(不図示)と上流側配管112との間に設けられている。すなわち制御弁130は、一次側が蒸気源に流体連通し、二次側が上流側配管112を介してジャケット111と流体連通するものである。制御弁130は開度を調節可能な制御弁であり、その開度の調節によって上流側配管112に供給される蒸気の流量(圧力)が調節される。なお、制御弁130の開度は、コンピュータ6によって、蒸気経路110を流通する蒸気の温度および圧力の少なくとも一方に基づいて制御される。
【0036】
計器群のうち、第一圧力計2は、制御弁130に流入する蒸気の圧力を測定する圧力計であり、制御弁130の一次側に設けられている。
【0037】
〔加熱システムの使用方法および制御方法〕
次に、加熱システム100の使用方法および制御方法について説明する。なお、前述の通り本実施形態ではコンピュータ6が加熱システム100の制御装置を兼ねており、以下の説明のうち制御に関する動作はコンピュータ6の演算装置61が実現するものである。
【0038】
休止状態にある加熱システム100は、蒸気経路110が大気圧の空気で満たされている。加熱システム100を使用するときは、まず、減圧装置120を運転して蒸気経路110を減圧し、蒸気経路110内の空気を取り除く。具体的には、ポンプ122を駆動してエジェクタ121に負圧を生じさせて、蒸気経路110内の空気を吸引する。なお、ポンプ122を駆動することによって、噴霧装置Mから上流側配管112に対する水の噴霧が開始される。
【0039】
蒸気経路110内の圧力が所定の圧力以下に下がったら、制御弁130を開放して、蒸気経路110に蒸気を供給する。蒸気経路110内の圧力が所定の圧力以下に下がったことは、たとえば第二圧力計3の測定値が所定の圧力以下であることをもって検出する。なお、以下では第二圧力計3の測定値を検出に用いる場合を例として説明することとし、第二圧力計3の測定値を「蒸気圧力」と称する。
【0040】
所定の圧力は、反応槽Cを加熱する温度として所望される温度、すなわちジャケット111の設定温度に基づいて決定づけられる。より詳細には、ジャケット111の設定温度における水の飽和蒸気圧が、所定の圧力となる。
【0041】
その後は、蒸気圧力が所定の範囲に維持されるように、減圧装置120および制御弁130の動作が制御される。ここで、蒸気圧力が維持されるべき圧力の範囲は、たとえば、上記の所定の圧力を中心とするある程度の範囲として設定されうる。
【0042】
また、反応槽Cで実施される反応プロセス上の要求により、ジャケット111の設定温度が変更されうる。ジャケット111の設定温度が変更されると、蒸気圧力が維持されるべき範囲が変更されることになる。加熱システム100の制御としては、段階間に移行条件が設定され、移行条件が満たされたときに次の段階に進んで設定温度が変更され、変更後の設定温度に従って減圧装置120および制御弁130の動作が制御されて、蒸気圧力が制御される。反応プロセスが複数の段階に区分される場合、一般的に、その区分ごとにジャケット111の設定温度が変更される。反対に言えば、ジャケット111の設定温度の推移に基づいて、反応プロセスが複数の段階のうちのいずれの段階にあるのかを特定できる。
【0043】
なお、加熱システム100の運転中に、減圧装置120を循環する水の量が増減しうる。水の量が減る要因としては噴霧装置Mおよびドレン弁Dからの流出が挙げられ、水の量が増える要因としては蒸気経路110において凝集したドレンの流入が挙げられるが、典型的には流出量の方が多く、減圧装置120を循環する水の量は減る傾向にある。水の減少は、下限側水位センサ74が設置されている水位(以下、「下限水位」と称する。)をタンク123の水位が下回ることによって検出され、このとき水制御弁124が開放されて水が供給される。その後、上限側水位センサ73が設置されている水位をタンク123の水位が上回ったときに、水制御弁124が閉鎖される。
【0044】
〔診断装置の機能(加熱システムの診断方法)〕
続いて、診断装置1の機能について説明する。診断装置1の機能は、加熱システム100の診断方法の手順に対応するものであり、演算装置61による演算処理によって実現される(図3)。以下では、所定の反応プロセスに従って加熱システム100が制御されている場合を例として説明する。
【0045】
(1)工程特定機能
工程特定機能は、反応槽Cで実施される反応プロセス(装置における熱の利用の一例である。)を複数の段階に区分するとともに、進行中の段階がいずれの段階であるのかを特定する機能である(図3:S10)。工程特定機能では、ジャケット111の設定温度の推移に基づいて、反応プロセスを複数の段階に区分する。
【0046】
図4に示した例では、反応プロセスが五つの段階に区分され、各段階におけるジャケット111の設定温度に従って、ジャケット111に流入する蒸気の温度(蒸気温度計
4の測定値)が推移する。第一の段階は予熱段階であり、ジャケット111の設定温度がTに設定される。第二の段階は昇温段階であり、ジャケット111の設定温度がTに設定される。第三の段階は第一反応段階であり、ジャケット111の設定温度がTに設定される。第四の段階は第二反応段階であり、ジャケット111の設定温度がTに設定される。第五の段階は冷却段階であり、ジャケット111の設定温度がTに設定される。前述の通り、段階間に移行条件が設定され、移行条件が満たされたときに次の段階に進んで設定温度が変更される。移行条件の成否は、たとえば蒸気温度計4の測定値に基づいて判断される。
【0047】
この場合、工程特定機能において、設定温度がTである時間帯を、反応プロセスの第一の段階と特定する。同様に、設定温度がT~Tである各時間帯を、それぞれ第二の段階、第三の段階、第四の段階、第五の段階、と特定する。なお、以下に説明する各機能に係る演算処理は、工程特定機能によって区分された段階ごとに実行される。
【0048】
(2)流量特定機能
流量特定機能は、ジャケット111を流通する蒸気の流量を特定する機能である(図3:S20)。ジャケット111を流通する蒸気の流量mは、圧力条件によって使い分けられる式(1)または式(2)によって特定される。
【数1】
【0049】
は制御弁130に流入する蒸気の圧力(kPa abs単位)であり、第一圧力計2の測定値である。pはジャケット111に流入する蒸気の圧力(kPa abs単位)であり、第二圧力計3の測定値である。Fγは比熱比係数であり、xは差圧比係数である。Cvは、制御弁130のCv値であり、制御弁130の制御値として演算装置61に入力される(演算装置61から出力される)ものである。ρは、制御弁130に流入する蒸気の密度(kg/m単位)であり、たとえば蒸気源の設定温度に基づいて特定され、実質的に定数として取り扱うことができる。
【0050】
式(1)および式(2)のいずれが使用される条件であっても、第一圧力計2の測定値、第二圧力計3の測定値、および制御弁130の開度、に基づいて、ジャケット111を流通する蒸気の流量mを特定できる。特定された蒸気の流量mは、工程特定機能において特定された段階ごとに、記憶装置62に記憶される。
【0051】
(3)熱量特定機能
熱量特定機能は、ジャケット111における消費熱量Qを特定する機能である(図3:;S30)。消費熱量Qは、ジャケット111に流入する蒸気の固有熱量と、ジャケット111を流通した蒸気の積算流量と、の積として求めることができる。なお、固有熱量は、ジャケット111に流入する蒸気の圧力(第二圧力計3の測定値である。)および温度(蒸気温度計4の測定値である。)から特定され、積算流量は流量特定機能において特定された蒸気の流量mから特定される。特定された消費熱量Qは、工程特定機能において特定された段階ごとに、記憶装置62に記憶される。
【0052】
(4)加熱効率特定機能
加熱効率特定機能は、ジャケット111による反応槽Cの加熱効率U(一般的に「U値」と称される。)を特定する機能である。加熱効率Uは、以下の式(3)により特定される。
【数2】
【0053】
Sは、反応槽Cとジャケット111との間の伝熱面積(m単位)であり、反応槽Cおよびジャケット111の寸法および構造から特定される定数として記憶装置62にあらかじめ記憶されている。ΔTは、加熱効率Uを特定する対象とする期間の最初における反応槽Cの槽内の温度と、当該期間の最後における反応槽Cの槽内の温度と、の差である。特定された加熱効率Uは、工程特定機能において特定された段階ごとに、記憶装置62に記憶される。
【0054】
(5)比較診断機能
比較診断機能は、加熱効率特定機能によって特定された加熱効率Uを、反応プロセスにおける同一の段階について過去に特定された加熱効率Uと比較して、加熱システム100を診断する機能である(図4:S50)。すなわち比較診断機能は、同一の反応プロセスに対して加熱効率Uの特定が複数回行われることを前提とする。以下では、比較対象とする過去の加熱効率Uが、加熱効率特定機能による加熱効率の特定を前回実施したときに特定された値である場合を例として説明する。
【0055】
加熱システム100に不具合がなく、または不具合が無視できる程度であり、加熱システム100の状態が加熱効率Uを特定したときと実質的に同一であるとみなせる場合は、新たに特定された加熱効率Uは、前回特定された加熱効率Uと概ね同じ値になるはずである。一方、配管の劣化による空気の漏れ込みやポンプの能力の低下などに起因して加熱システム100の真空度が低下しうる不具合が発生しているときは、新たに特定された加熱効率Uは、前回特定された加熱効率Uより低い値になる。
【0056】
そこで比較診断機能では、まず、新たに特定された加熱効率Uと前回特定された加熱効率Uとの差ΔU(ΔU=U-U)を算出し、これを所定の閾値Uと比較する。加熱システム100の状態が悪化傾向にある場合は、加熱効率Uが低下傾向を示すため、ΔUは負の値となる。これを検知すべく、所定の閾値Uとして負の値が設定され、ΔUが所定の閾値Uより小さい場合(ΔUの絶対値が所定の閾値Uの絶対値より大きい場合)は、加熱システム100の状態が悪化傾向にあると判断する。さらに、複数回の加熱効率Uの特定において、ΔUが所定の閾値より小さい現象が所定の回数n以上連続して発生した場合は、加熱システム100の性能の低下が深刻であるとして警告を発する。なお、警告を発する方法としては、音や光などで作業員の五感に訴える方法や、コンピュータ6の表示装置上に警告メッセージを表示させる方法など、公知の方法を利用できる。
【0057】
なお、比較診断機能において、加熱効率特定機能によって特定された加熱効率Uを過去に特定された加熱効率と比較する方法は、前回特定された加熱効率Uを比較対象とする上記の例に限定されない。たとえば、直近の複数回の加熱効率の移動平均に基づいて加熱効率の変化傾向を特定し、加熱効率が低下傾向にある場合に警告を発する等してもよい。
【0058】
〔その他の実施形態〕
最後に、本発明に係る診断装置、診断方法、および診断プログラムのその他の実施形態について説明する。なお、以下のそれぞれの実施形態で開示される構成は、矛盾が生じない限り、他の実施形態で開示される構成と組み合わせて適用することも可能である。
【0059】
上記の実施形態では、診断装置1(演算装置61)が工程特定機能、流量特定機能、熱量特定機能、加熱効率特定機能、および比較診断機能を実現可能である構成を例として説明した。しかし本発明において実現可能な機能は、第一圧力計、第二圧力計、および蒸気温度計の測定値、ならびに、制御弁の開度、に基づいて、熱交換器における消費熱量を特定することができる限りにおいて、適宜加除されうる。また、機能の加除に伴って、第一圧力計、第二圧力計、および蒸気温度計以外の計器も適宜加除されうる。
【0060】
上記の実施形態では、エジェクタ121、ポンプ122、タンク123、および水制御弁124を有する減圧装置120を備える加熱システム100を診断対象とする構成を例として説明した。しかし、本発明に係る診断装置が診断対象とする加熱システムの構成は、熱交換器と制御弁とを備える限りにおいて、上記の例に限定されない。
【0061】
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は、真空蒸気を用いる加熱システムの診断に利用できる。
【符号の説明】
【0063】
1 :診断装置
2 :第一圧力計
3 :第二圧力計
4 :蒸気温度計
5 :工程温度計
6 :コンピュータ
61 :演算装置
62 :記憶装置
71 :電流計
72 :水圧計
73 :上限側水位センサ
74 :下限側水位センサ
75 :水温計
100 :加熱システム
110 :蒸気経路
111 :ジャケット
112 :上流側配管
113 :下流側配管
114 :ドレンセパレータ
115 :逆止弁
120 :減圧装置
121 :エジェクタ
122 :ポンプ
123 :タンク
124 :水制御弁
130 :制御弁
C :反応槽
D :ドレン弁
M :噴霧装置
S :ストレーナ
図1
図2
図3
図4