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▶ 株式会社IHIエアロスペースの特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113420
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】超音波探傷装置と超音波探傷方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/07 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
G01N29/07
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018387
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】500302552
【氏名又は名称】株式会社IHIエアロスペース
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】水野 宏美
(72)【発明者】
【氏名】木村 憲志
(72)【発明者】
【氏名】今井 済
【テーマコード(参考)】
2G047
【Fターム(参考)】
2G047AA05
2G047BA03
2G047BB01
2G047BC02
2G047BC09
2G047GF06
2G047GG20
2G047GG30
2G047GG33
(57)【要約】
【課題】対象物の超音波探傷を反射法で行う場合に、超音波の送信方向において、超音波を反射する基準箇所(対象物の裏面)の近傍に欠陥が存在する場合でも、当該欠陥の有無を検査できるようにすることにある。
【解決手段】超音波探傷装置10は、超音波送受信装置2とデータ生成装置3を備える。超音波送受信装置2は、対象物1の表面1aを通して対象物1内へ超音波を送信し、対象物1内で反射して戻って来た超音波を受信する。データ生成装置3は、この受信結果に基づいて、表面1aと対象物の内側位置との間で複数回往復した超音波の受信時点を表わす検査データを生成し、検査データと基準データを出力する。基準データは、表面1aと対象物1における基準箇所1bとの間で複数回往復した超音波の受信時点を表わす。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面を通して対象物内へ超音波を送信し、対象物内で反射して戻って来た当該超音波を受信する超音波送受信装置と、
前記超音波送受信装置による前記超音波の受信結果に基づいて、前記表面と対象物の内側位置との間で複数回往復した超音波の受信時点を表わす検査データを生成し、当該検査データと基準データを出力するデータ生成装置と、を備え、
前記基準データは、前記表面と対象物における基準箇所との間で前記複数回往復した超音波の受信時点を表わす、超音波探傷装置。
【請求項2】
前記データ生成装置は、前記検査データと前記基準データを表示装置に出力して、前記検査データと前記基準データを前記表示装置に表示させる、請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
前記データ生成装置から出力された前記基準データと、前記検査データとに基づいて、対象物における欠陥の位置を求める演算部を備える、請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項4】
前記検査データは、前記表面と対象物の前記内側位置との間で前記複数回往復した超音波の波形を時間軸で表わした検査波形データであり、
前記基準データは、前記表面と前記基準箇所との間で前記複数回往復した超音波の波形を時間軸で表わした基準波形データである、請求項2又は3に記載の超音波探傷装置。
【請求項5】
欠陥波形データは、対象物において前記表面と前記内側位置との間で前記複数回往復した超音波の正の変位と負の変位のうち一方を、経過時間に対して表わし、
基準波形データは、対象物において前記表面と前記基準箇所との間で前記複数回往復した超音波の正の変位と負の変位のうち一方を、経過時間に対して表わす、請求項4に記載の超音波探傷装置。
【請求項6】
前記基準箇所は、対象物における、前記表面と反対側の面である、請求項2又は3に記載の超音波探傷装置。
【請求項7】
前記基準データを予め記憶している記憶部を備える、請求項2又は3に記載の超音波探傷装置。
【請求項8】
(A)対象物の表面を通して対象物内へ超音波を送信し、前記表面と対象物の内側位置との間で複数回往復した超音波を受信し、
(B)前記(A)における前記超音波の受信結果に基づいて、前記複数回往復した超音波の受信時点を表わす検査データを生成し、当該検査データと基準データを出力し、
前記基準データは、前記表面と対象物における基準箇所との間で複数回往復した超音波の受信時点を表わす、超音波探傷方法。
【請求項9】
(C)対象物の前記表面を通して対象物内へ超音波を送信し、前記表面と対象物の前記基準箇所との間で複数回往復した超音波を受信し、
(D)前記(C)における前記超音波の受信結果に基づいて、前記基準データを生成し、
(E)前記検査データと前記基準データを表示装置に表示し、又は、前記検査データと前記基準データに基づいて欠陥の位置を求める、請求項8に記載の超音波探傷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査対象としての対象物内に超音波を送信し、対象物内で反射して戻って来た超音波に基づいて対象物における欠陥の有無を検査する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
対象物内に超音波を送信し、対象物内を伝搬した超音波に基づいて対象物における欠陥の有無を検査することができる。このような検査の方法には透過法と反射法がある。
【0003】
透過法では、対象物における表面側と裏面側にそれぞれ超音波送信用のプローブと超音波受信用のプローブが取り付けられる。この状態で、送信用プローブにより超音波を対象物内に送信し、この超音波を受信用プローブにより受信する。対象物において送信用プローブと受信用プローブとの間に欠陥が存在しない場合には、送信用プローブからの超音波が受信用プローブに受信される。一方、対象物において送信用プローブと受信用プローブとの間に欠陥が存在する場合には、欠陥により超音波が遮られ、当該超音波の受信強度が低下し、又は当該欠陥のサイズが十分に大きい場合には、当該超音波は受信用プローブに受信されない。これに基づいて、対象物における欠陥の有無を検査できる。
【0004】
反射法では、対象物の表面側に超音波送受信プローブが取り付けられる。この状態で、送信用プローブにより、超音波を対象物内に送信し、対象物内で反射して戻って来た超音波を受信する。超音波の伝播経路に欠陥が存在しない場合には、送信された超音波は、例えば対象物の裏面で反射して戻って来る。したがって、超音波の送信から受信までの時間は、超音波の伝播経路に欠陥が存在しない場合には、例えば対象物の表面と裏面との間を超音波が往復する時間に一致し、超音波の伝播経路に欠陥が存在する場合には、より短い時間になる。これに基づいて、対象物における欠陥の有無を検査できる。
【0005】
反射法では、透過法と違って、対象物の表面側と裏面側にそれぞれ送信用のプローブと受信用のプローブを配置する必要がない。反射法による方法は例えば特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-104787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
反射法での超音波探傷を、次の場合でも行えるようにすることが望まれる。対象物において、超音波の送信方向において、超音波を反射する基準箇所(例えば対象物の裏面)の近傍に欠陥が存在する場合、この欠陥で反射した超音波は、基準箇所で反射した超音波と重なってしまい、両超音波を互いに区別できなくなる。そのため、基準箇所の近傍に存在する欠陥の有無を検査できない。
【0008】
そこで、本発明の目的は、超音波探傷を反射法で行う場合に、超音波の送信方向において、超音波を反射する基準箇所の近傍に欠陥が存在する場合でも、当該欠陥の有無を検査できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明による超音波探傷装置は、
対象物の表面を通して対象物内へ超音波を送信し、対象物内で反射して戻って来た当該超音波を受信する超音波送受信装置と、
前記超音波送受信装置による前記超音波の受信結果に基づいて、前記表面と対象物の内側位置との間で複数回往復した超音波の受信時点を表わす検査データを生成し、当該検査データと基準データを出力するデータ生成装置と、を備え、
前記基準データは、前記表面と対象物における基準箇所との間で前記複数回往復した超音波の受信時点を表わす。
【0010】
上述の目的を達成するため、本発明による超音波探傷方法では、
(A)対象物の表面を通して対象物内へ超音波を送信し、前記表面と対象物の内側位置との間で複数回往復した超音波を受信し、
(B)前記(A)における前記超音波の受信結果に基づいて、前記複数回往復した超音波の受信時点を表わす検査データを生成し、当該検査データと基準データを出力し、
前記基準データは、前記表面と対象物における基準箇所との間で複数回往復した超音波の受信時点を表わす。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、データ生成装置は、対象物の表面と内側位置との間で複数回往復した超音波の受信時点を表わす検査データと、対象物の表面と基準箇所との間で同じ複数回往復した超音波の受信時点を表わす基準データを出力する。これに関し、対象物における表面と内側位置の欠陥との間で往復する超音波の受信時点と、対象物における表面と基準箇所との間で往復する超音波の受信時点との差は、その往復回数が1回である場合と比べて複数回である場合の方が大きくなる。したがって、上述の内側位置が基準箇所の近傍の欠陥位置である場合でも、上述の検査データと基準データがそれぞれ表わす受信時点を互いに区別できるので、当該欠陥の存在を確認することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1A】本発明の実施形態による超音波探傷装置を示す。
図1B】本発明の実施形態による超音波探傷装置を示す別の図である。
図2】本発明の実施形態による超音波探傷方法を示すフローチャートである。
図3A】対象物の表面と基準箇所との間で往復する超音波の波形データを示す。
図3B】対象物の表面と内側位置の欠陥との間で往復する超音波の波形データを示す。
図4A図3Aの波形データから負の変位を抽出した抽出波形データを示す。
図4B図3Bの波形データから負の変位を抽出した抽出波形データを示す。
図5A】基準波形データと検査波形データの一例を示す。
図5B】基準波形データと検査波形データの別の例を示す。
図6図3Aにおける超音波の受信波形R1と、図3Bにおける超音波の受信波形D1を、同じ時間軸で表わしたグラフである。
図7】変更例による超音波探傷装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0014】
(超音波探傷装置)
図1は、本発明の実施形態による超音波探傷装置10を示す。この超音波探傷装置10は、反射法に基づいて対象物1内の欠陥の有無を検査するためのものである。超音波探傷装置10は、超音波送受信装置2、データ生成装置3、および表示装置4を備える。
【0015】
超音波送受信装置2は、超音波を発生させ、対象物1の表面1aを通して対象物1内へ当該超音波を送信する。また、超音波送受信装置2は、対象物1内で反射して戻って来た当該超音波を受信する。本実施形態では、超音波送受信装置2は、受信した当該超音波(以下で単に受信超音波ともいう)に応じた電気信号(例えば電圧信号)を生成し、当該電気信号をデータ生成装置3へ出力する。この電気信号は、正負の信号であってよい。すなわち、当該電気信号は、当該正負により受信超音波の変位の正負(向き)を表わし、当該信号の大きさにより受信超音波の変位の大きさを表わす。
【0016】
超音波送受信装置2は、同期部21、電圧印加部22、およびプローブ23を有する。
【0017】
同期部21は、電圧印加部22と後述の時間計測部31に同期信号を同時に出力する。電圧印加部22は、この同期信号に反応して、プローブ23を構成する振動子に一時的に電圧(例えばパルス電圧)を印加する。
【0018】
プローブ23は、対象物1の表面1a側に(例えば、表面1aに間接的に又は直接)取り付けられる。この状態で、プローブ23を構成する圧電素子としての振動子に、電圧印加部22から電圧(例えばパルス電圧)が一時的に印加されると、当該振動子は振動して超音波を発生させる。プローブ23は、当該超音波を、対象物1の表面1aを通して対象物1内に送信する。また、この超音波が対象物1内で反射して戻って来ると、プローブ23の振動子は、当該超音波により振動させられることで当該超音波に応じた上記電気信号を生成してデータ生成装置3に出力する。
【0019】
プローブ23は、一例では、超音波の送信と受信を兼用する1つの振動子を有するように構成されてよい。
【0020】
別の例では、プローブ23は、超音波の送信用と振動子と受信用の振動子とを有するように構成されてよい。この場合、送信用と振動子と受信用の振動子とは、互いに離間しているものであってもよいし、互いに結合されているものであってもよい。
【0021】
更に別の例では、プローブ23は、複数の振動子が配列されたフェーズドアレイプローブであってもよい。この場合、電圧印加部22は、複数の振動子にそれぞれのタイミングで電圧(パルス電圧)を印加してよい。これにより、プローブ23は、対象物1内において特定の方向(例えば表面1aに垂直な方向)へ伝播する超音波を発生させ、又は、対象物1内において特定の位置で集束する超音波を発生させる。前者の場合、プローブ23は、特定の方向において反射により後述のように往復する超音波を受信し、受信した当該超音波の波形を表わす電気信号を生成してデータ生成装置3へ出力する。後者の場合、データ生成装置3は、各振動子からの電気信号に基づいて、プローブ23と上記集束の位置との間で反射により往復する超音波の波形を表わす電気信号を生成してデータ生成装置3へ出力する。
【0022】
データ生成装置3は、超音波送受信装置2による超音波の受信結果に基づいて、表面1aと対象物1の内側位置(欠陥D)との間で複数回往復した超音波の受信時点を表わす検査データを生成し、当該検査データと基準データを表示装置4に出力する。基準データは、表面1aと対象物1内の基準箇所1bとの間で複数回往復した超音波の受信時点を表わす。基準箇所1bは、本実施形態では、対象物1において表面1aの反対側に位置する裏面1bである。データ生成装置3は、基準データを予め記憶している記憶部33bを有していてよい。
【0023】
本実施形態では、データ生成装置3は、超音波送受信装置2からの上述の電気信号に基づいて、上述の検査データと基準データを生成する。
【0024】
検査データは、対象物1において表面1aと上述の同じ内側位置(欠陥D)との間で複数回往復した超音波の変位を経過時間に対して表わす検査波形データであってよい。また、この場合、基準データは、対象物1において表面1aと基準箇所1bとの間で複数回(検査データの場合と同じ回数)往復した超音波の変位を経過時間に対して表わす基準波形データであってよい。検査波形データと基準波形データにおける超音波の変位は、上述のように複数回往復してプローブ23に受信された超音波の変位である。
【0025】
検査波形データの上記経過時間と基準波形データの上記経過時間は、同じ基準時点からの経過時間であってよい。この基準時点は、検査波形データと基準波形データのいずれについても、当該波形データ取得するために同期部21が上述のように同期信号を出力した時点であってよい。この場合、基準時点は、後述の時間計測部31が経過時間の計測を開始する時点である。
【0026】
基準波形データは、対象物1において表面1aと基準箇所1bとの間で複数回往復した超音波の正の変位と負の変位のうち一方を、経過時間に対して表したデータであってよい。当該一方は、当該変位の絶対値の最大値が大きい方であってよい。同様に、検査波形データは、対象物1において表面1aと上記内側位置(欠陥D)との間で複数回往復した超音波の正の変位と負の変位のうち一方を、経過時間に対して表したデータであってよい。当該一方は、当該変位の絶対値の最大値が大きい方であってよい。この場合、基準波形データと検査波形データは、正の変位と負の変位のうち同じ一方を経過時間に対して表したものであってよい。
【0027】
データ生成装置3は、時間計測部31、波形生成部32、およびデータ生成部33を有する。
【0028】
時間計測部31は、同期部21から上述の同期信号が入力されることにより経過時間の計測を開始してよい。この場合、時間計測部31により計測される経過時間の起点(原点)は、電圧印加部22がプローブ23へ電圧(パルス電圧)を印加する時点である。時間計測部31は計測した経過時間を波形生成部32に出力する。
【0029】
波形生成部32は、時間計測部31から入力される経過時間と、プローブ23から入力される上述の電気信号とに基づいて、経過時間に対する受信超音波の変位を表わす波形データを生成する。この波形データは、所定の原点(例えば反射波の振動の中心)からの、受信超音波の正負の変位を経過時間に対して表したものである。
【0030】
波形生成部32は、フィルタを有していてよい。このフィルタは、プローブ23からの電気信号の各周波数成分のうち、所定範囲内の周波数の成分を選択的に通過させ、上記所定範囲外の周波数の成分を遮断してよい。この所定範囲は、プローブ23が発生させる超音波の周波数を含む。波形生成部32は、プローブ23からの電気信号のうち上記フィルタを通過した周波数成分の電気信号に基づいて上記波形データを生成してよい。
【0031】
波形生成部32は、更に増幅部を有していてもよい。この増幅部は、プローブ23からの上記電気信号を増幅し、増幅後の当該電気信号を上記フィルタへ出力する。
【0032】
データ生成部33は、抽出部33aと記憶部33bを有する。抽出部33aは、波形生成部32が生成した波形データにおいて、受信超音波の正の変位と負の変位のうち一方を抽出した抽出波形データを生成する。
【0033】
データ生成部33は、表面1aと基準箇所1bとの間を複数回往復した受信超音波の抽出波形データから、上述の基準波形データを生成する。このように生成された基準波形データは、対象物1において表面1aと基準箇所1bとの間で上記複数回往復した超音波の正の変位と負の変位のうち一方を、経過時間に対して表わす。また、データ生成部33は、このように生成して基準波形データを予め記憶部33bに記憶させてよい。
【0034】
また、データ生成部33は、表面1aと欠陥Dとの間を複数回往復した受信超音波の抽出波形データから、上述の検査波形データを生成する。このように生成された検査波形データは、対象物1において表面1aと同じ内側位置(例えば欠陥D)との間で上記複数回往復した超音波の正の変位と負の変位のうち一方を、経過時間に対して表わす。
【0035】
表示装置4は、データ生成装置3から検査データと基準データを受け、検査データと基準データとを互いに比較可能な形態で表示する。
【0036】
(超音波探傷方法)
図2は、本発明の実施形態による超音波探傷方法を示すフローチャートである。本超音波探傷方法は、上述した超音波探傷装置10を用いて行われる。本超音波探傷方法では、超音波送受信装置2により、対象物1の表面1aを通して対象物1内へ超音波を送信し、表面1aと対象物1の同じ内側位置との間で複数回往復した超音波を受信する。また、データ生成装置3により、この受信結果に基づいて、上述の検査データを生成し、当該検査データと基準データを出力する。本実施形態による超音波探傷方法は、基準データ生成処理と検査データ生成処理を有する。なお、基準データと検査(欠陥)データは、時間軸上で分離していればよい(標準的な超音波探傷装置のアプリケーションで判別できる)ので、それぞれ別に波形処理しなくてもよい。また、基準データと検査データは、同時に表示出力されていなくてもよい。
【0037】
基準データ生成処理は、ステップS1~S4を有する。
【0038】
ステップS1では、欠陥の有無などを検査する対象としての対象物1の表面1a側に(例えば、表面1aに間接的に又は直接)プローブ23を取り付ける。この取付位置は、図1Bのように、プローブ23から送信された超音波が対象物1内の基準箇所1b(対象物1の裏面1b)で反射してプローブ23に戻って来る位置である。当該位置は予め分かっている位置であってよい。
【0039】
ステップS2では、超音波探傷装置10に指令信号が入力されることにより、同期部21は、同期信号を電圧印加部22と時間計測部31に同時に入力する。これにより、電圧印加部22は、パルス電圧をプローブ23に印加する。この指令信号は、人が適宜の操作部を操作することにより超音波探傷装置10に入力されてよい。
【0040】
その結果、プローブ23は、超音波を、対象物1の表面1aを通して対象物1内に送信し、表面1aにおけるプローブ23の取付位置と、基準箇所1bとの間で繰り返し往復する超音波を繰り返し受信し、当該受信の度に、プローブ23は受信超音波に応じた電気信号を波形生成部32に出力する。また、時間計測部31は、同期信号が入力されることで、経過時間の計測を開始し、計測した経過時間を波形生成部32に出力する。
【0041】
なお、ステップS2において、プローブ23が超音波を送信する方向(以下で単に送信方向ともいう)は、対象物1の表面1aに対して垂直な方向であってよいが、当該超音波が、表面1aにおけるプローブ23の取付位置と基準箇所1bとの間で繰り返し往復すれば、他の方向であってもよい。これは、後述のステップS12でも同様である。
【0042】
ステップS3では、波形生成部32は、プローブ23からの電気信号と、時間計測部31からの経過時間とに基づいて、受信超音波の波形データを生成する。図3Aは、ステップS3で波形生成部32が生成した波形データを概略的に示す模式図である。図3Aにおいて、R1~R4は、それぞれ、表面1aと基準箇所1bとの間を1回~4回往復した超音波の受信波形を示す。
【0043】
ステップS4では、データ生成部33は、ステップS3で生成された波形データに基づいて基準データを生成する。この基準データが上述の基準波形データである場合、当該基準波形データは、表面1aと基準箇所1bとの間を所定回数往復した受信超音波の波形(例えば4回往復した図3Aの波形R4又は後述の図4Aの波形Re4)を、上述の経過時間を示す時間軸で表したデータであってよい。
【0044】
ステップS4は、例えば、以下のように行われてよい。
【0045】
ステップS4において、最初に、抽出部33aは、ステップS3で生成された波形データにおける受信超音波の正の変位と負の変位のうち一方を抽出した抽出波形データを生成する。本実施形態では、この時、抽出部33aは、ステップS3で生成された波形データにおける受信超音波の正の変位と負の変位のうち、変位の絶対値(大きさ)の最大値(変位のピークの大きさ)が大きい方を抽出した抽出波形データを生成してよい。
【0046】
図3Aに示す波形データの例では、受信超音波の正の変位と負の変位のうち、負の変位の方がその絶対値の最大値が大きい。したがって、この場合、ステップS4において、抽出部33aは、図3Aの波形データから負の変位を抽出した抽出波形データを生成する。この抽出波形データは、例えば図4Aに示す抽出波形データとなる。図4Aにおいて、抽出波形データは、複数の波形部分Re1~Re4は、それぞれ、図3Aにおける受信波形R1~R4から負の変位を抽出したものであり、表面1aと基準箇所1bとの間を1回~4回往復した受信超音波の波形を表わす。抽出波形データの波形部分Re1~Re4は、それぞれ、当該負の変位の絶対値(大きさ)を経過時間に対して表している。
ただし、ステップS4において、抽出部33aは、ステップS3で生成された波形データにおける受信超音波の正の変位と負の変位のうち、当該受信超音波の波数(変位のピーク数)が多い方を抽出した抽出波形データを生成してもよい。プローブ23の個体差によって、このように抽出する方が欠陥と基準をより判別しやすくなる場合があるからである。例えば、抽出部33aは、ステップS3で生成された波形データにおいて所定回数往復した受信超音波の波形(例えば図3AのR4)の正の変位と負の変位のうち、波数が多い方を抽出した抽出波形データを生成してもよい。図3Aの例において、所定回数往復した受信超音波の波形(例えば4回往復した波形R4)における絶対値の最大値は、正の変位よりも負の変位のほうが大きいが、当該波形(R4)の波数は、負の変位よりも正の変位の方が多い(図3では、負の変位では1山であり、正の変位では2山である)ので、正の変位の方から抽出波形データを生成してもよい。
【0047】
次に、データ生成部33は、抽出波形データのうち、対象物1の表面1aと基準箇所1bとの間を所定回数(すなわち2回以上の回数)、往復した受信超音波を表わす波形部分を、基準波形データとして記憶部33bに記憶してよい。この場合、抽出波形データが図4Aに示すものであり、所定回数が4回である場合には、基準データは、図4Aの波形部分Re4を経過時間に対して表わしたデータとなる。
【0048】
なお、代わりに、データ生成部33は、ステップS4で生成された抽出波形データの全体(例えば図4Aの抽出波形データの全体)を、基準波形データとして記憶部33bに記憶してもよい。また、ステップS4の処理は、上述のステップS2で入力された指令信号に含まれる基準データ生成指令に基づいて行われてよい。
【0049】
検査データ生成処理は、ステップS11~S14を有する。
【0050】
ステップS11では、ステップS1でのプローブ23の取付位置とは異なる位置でプローブ23を対象物1の表面1a側(例えば、表面1aに間接的に又は直接)に取り付ける。例えば、図1Aのようにプローブ23を表面1aに取り付ける。ステップS11でのプローブ23の取付位置は、対象物1内における欠陥の有無を検査するための位置である。
【0051】
ステップS12では、ステップS1の場合と同様に、超音波探傷装置10に指令信号が入力されることにより、同期部21は、同期信号を電圧印加部22と時間計測部31に同時に入力する。これにより、電圧印加部22は、パルス電圧をプローブ23に印加する。この指令信号は、人が適宜の操作部を操作することにより超音波探傷装置10に入力されてよい。
【0052】
その結果、ステップS2の場合と同様に、プローブ23は、超音波を、対象物1の表面1aを通して対象物1内に送信する。プローブ23は、表面1aにおける当該プローブ23の取付位置と、対象物1における同じ内側位置(例えば欠陥D)との間で繰り返し往復する超音波を繰り返し受信し、当該受信の度に、プローブ23は受信超音波に応じた電気信号を波形生成部32に出力する。また、時間計測部31は、同期信号が入力されることで、経過時間の計測を開始し、計測した経過時間を波形生成部32に出力する。
【0053】
なお、本実施形態では、ステップS12での送信方向(表面1aの向きに対する送信方向)は、ステップS2における送信方向と同じである。
【0054】
ステップS13では、波形生成部32は、プローブ23からの電気信号と、時間計測部31からの経過時間とに基づいて、受信超音波の波形データを生成する。図3Bは、ステップS13で波形生成部32が生成した波形データを概略的に示す模式図である。図3Bにおいて、D1~D4は、それぞれ、表面1aと同じ欠陥Dとの間を1回~4回往復した超音波の受信波形を示す。
【0055】
ステップS14では、データ生成部33は、ステップS13で生成された波形データに基づいて検査データを生成する。この検査データが上述の検査波形データである場合、当該検査波形データは、表面1aと上記内側位置との間を所定回数往復した受信超音波の波形(例えば4回往復した図3Bの波形D4又は後述の図4Bの波形De4)を、上述の経過時間を示す時間軸で表したデータであってよい。
【0056】
ステップS14は、例えば、以下のように行われてよい。
【0057】
ステップS14では、最初に、抽出部33aは、ステップS3で生成された波形データにおける受信超音波の正の変位と負の変位のうち一方を抽出した抽出波形データを生成する。本実施形態では、この時、抽出部33aは、上述のステップS4の場合と同様に、ステップS13で生成された波形データにおける受信超音波の正の変位と負の変位のうち、変位の絶対値の最大値が大きい方を抽出した抽出波形データを生成してよい。
【0058】
図3Bに示す波形データの例では、受信超音波の正の変位と負の変位のうち、負の変位の方がその絶対値の最大値が大きい。したがって、この場合、抽出部33aは、図3Bの波形データから負の変位を抽出した抽出波形データを生成する。この抽出波形データは、例えば図4Bに示す抽出波形データとなる。図4Bにおいて、抽出波形データは、複数の波形部分De1~De4は、それぞれ、図3Bにおける受信波形D1~D4から負の変位を抽出したものであり、表面1aと欠陥Dとの間を1回~4回往復した受信超音波の波形を表わす。抽出波形データの波形部分De1~De4は、それぞれ、当該負の変位の絶対値(大きさ)を経過時間に対して表している。
【0059】
ステップS14で生成された抽出波形データのうち、対象物1の表面1aと欠陥Dとの間を、上記所定回数、往復した受信超音波を表わす波形部分が検査波形データであってよい。この場合、抽出波形データが図4Bに示すものであり、所定回数が4回である場合には、検査データは、図4Bの波形部分De4を経過時間に対して表わしたデータとなる。なお、データ生成部33は、例えば、抽出波形データにおいて、一定の受信間隔になっている複数の波形を、上記所定回数往復した受信超音波として特定し、当該特定に基づいて抽出波形データから検査波形データを取り出す。
【0060】
代わりに、データ生成部33は、ステップS14で生成された抽出波形データの全体(例えば図4Bの抽出波形データの全体)が、検査波形データであってもよい。
【0061】
ステップS14を終えたら、ステップS21へ進む。この場合、超音波探傷装置10は、例えば、上述のステップS12で入力された指令信号に含まれる検査データ生成指令に基づいて、ステップS14からステップS21へ移行してよい。
【0062】
ステップS21では、データ生成装置3は、ステップS4で生成され記憶部33bに記憶された基準データと、ステップS14で生成された検査データとを、表示装置4に出力する。これにより、表示装置4は、基準データと検査データとを互いに比較可能な形態で表示する。
【0063】
基準データが、図4Aにおいて波形Reを時間軸で表わした基準波形データであり、検査データが、図4Bにおいて波形Deを時間軸で表わした検査波形データである場合には、表示装置4は、図5Aまたは図5Bのように基準波形データと検査波形データを表示してよい。言い換えると、表示装置4は、図5Aのように、基準波形データと検査波形データをそれぞれの時間軸で表わす形態で表示してもよいし、図5Bのように、基準データと検査データを共通の時間軸で表した形態で表示してもよい。
【0064】
人が、このように表示装置4に表示された基準データと検査データ(例えば図5Aまたは図5Bの検査波形データと基準波形データ)を見て、所定回数往復した受信超音波の受信時点の違い(例えば波形De4とRe4の受信時点の差)に基づいて、欠陥Dの存在を確認し基準箇所1bに対する欠陥Dの位置を求める。
【0065】
上述の検査データ生成処理は、繰り返されてもよい。この場合、新たに行う検査データ生成処理のステップS11では、プローブ23を、これまでのステップS1、S11におけるプローブ23の取り付け位置とは異なる位置で、対象物1の表面側1aにプローブ23を取り付けてよい。新たに検査データ生成処理を行った場合には、この検査データ生成処理により生成された検査データに基づいて上述のステップS21が上述のように行われてよい。
【0066】
(実施形態の効果)
本実施形態によると、データ生成装置3は、対象物1の表面1aと内側位置との間で複数回往復した超音波の受信時点を表わす検査データと、対象物1の表面1aと基準箇所1bとの間で複数回往復した超音波の受信時点を表わす基準データを出力する。これに関し、対象物1における表面1aと内側位置(欠陥D)との間で往復する超音波の受信時点と、対象物1における表面1aと基準箇所1bとの間で往復する超音波の受信時点との差は、その往復回数が1回である場合と比べて複数回である場合の方が大きくなる。したがって、上述の内側位置が超音波を反射する基準箇所1bの近傍の欠陥Dの位置である場合でも、上述の検査データと基準データから、両者の受信時点を互いに区別できるので、当該欠陥Dの存在を確認することが可能となる。
【0067】
図6は、図3Aにおける超音波の受信波形R1と、図3Bにおける超音波の受信波形D1を、同じ時間軸で表わしたグラフである。受信波形R1は、表面1aと基準箇所1bとの間で1回往復した超音波の変位を表わし、受信波形D1は、表面1aと欠陥Dとの間で1回往復した超音波の変位を表わす。図6のように、受信波形R1と受信波形D1とが互いに重なるため、受信波形D1を受信波形R1から区別できない。
【0068】
これに対し、本実施形態では、複数回往復した受信超音波の波形(例えば、図5A又は図5Bの波形De4と波形Re4)の変位をそれぞれ表わす検査波形データと基準波形データが生成される。したがって、両波形の受信時点の差は、受信波形R1と受信波形D1の受信時点の差よりも、往復回数倍(4倍)、大きくなる。したがって、検査波形データと基準波形データがそれぞれ表わす受信波形(例えば図5A又は図5Bの波形De4と波形Re4)を互いに区別できるので、欠陥Dの存在を確認でき、両波形の受信時点の差に基づいて、基準箇所1bに対する欠陥Dの位置(深さ)を求めることができる。
【0069】
また、検査波形データと基準波形データは、超音波の正の変位と負の変位のうち一方のみを、経過時間に対して表したデータであるので、受信超音波のシャープな波形を表わす。したがって、超音波を反射する基準箇所1bの近傍に欠陥Dが存在する場合でも、基準箇所1bからの超音波の波形と、欠陥Dからの超音波の波形とを、更に区別し易くなる。
【0070】
基準箇所1bが対象物1における表面1aと反対側の面である場合には、反対側の面1bの近傍に存在する欠陥Dを反射法で検出することが可能となる。
【0071】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の技術的思想の範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、本発明の実施形態による超音波探傷装置10と超音波探傷方法は、上述した複数の事項の全て有していなくてもよく、上述した複数の事項のうち一部のみを有していてもよい。
【0072】
また、以下の変更例1~4のいずれかを単独で採用してもよいし、変更例1~4の2つ以上を任意に組み合わせて採用してもよい。この場合、以下で述べない点は、上述と同じである。
【0073】
(変更例1)
検査データと基準データは、上述の検査波形データと基準波形データに限定されない。すなわち、本発明によると、検査データは、表面1aと対象物1の内側位置との間で複数回往復した超音波の受信時点を表わすデータであればよく、基準データは、表面1aと対象物1における基準箇所1bとの間で複数回往復した超音波の受信時点を表わすデータであればよい。
【0074】
(変更例2)
上述では、基準箇所は、対象物1の裏面1bであったが、これに限定されない。すなわち、本発明における基準箇所は、超音波を反射する他の箇所であってよい。この場合、基準箇所は、対象物1における既知の位置であってよい。
【0075】
(変更例3)
基準データ生成処理は、上述では検査データ生成処理よりも先に行われたが、検査データ生成処理よりも後に行われてもよい。この場合、データ生成装置3は、検査データ生成処理で生成した検査データを記憶部33bに記憶し、基準データ生成処理で基準データが生成された後、当該基準データと記憶部33b内の検査データを表示装置4に出力してよい。
【0076】
或いは、基準データ生成処理と検査データ生成処理は同時に行われてもよい。この場合、ステップS2~S4は、それぞれ、上述のステップS12~S14を兼ねてよい。例えば、ステップS2で対象物1内に送信される超音波は、ステップS12で対象物1内に送信される超音波を兼ねてよい。この場合、当該超音波は、その伝播先で一部が欠陥Dで反射して表面1aへ戻り表面1aと当該欠陥Dとの間で往復し、その伝播先で他の一部が基準箇所1bで反射して表面1aへ戻り表面1aと基準箇所1bとの間で往復する。
【0077】
ステップS4では、データ生成装置3は、上述のように波形データ(抽出波形データ)を生成し、次の処理(1)と(2)を行ってよい。
(1)表面1aと基準箇所1bとの間で往復する超音波の既知の受信間隔に基づいて、当該波形データから基準データ(基準波形データ)を生成する。
(2)当該波形データにおいて当該既知の受信間隔とは異なる一定の受信間隔となっている波形を、表面1aと同じ内側位置(欠陥D)との間で複数回往復した超音波であると特定する。また、当該特定の結果に基づいて、当該波形データから検査データ(検査波形データ)を生成する。
【0078】
その後、ステップS21において、データ生成装置3は、ステップS4で生成した基準データと検査データを表示装置4に出力する。
【0079】
(変更例4)
図7は、本変更例による超音波探傷装置10を示す。図7のように、超音波送受信装置2は、上述した構成に加えて、欠陥Dの位置を求める演算部5を備えていてもよい。この場合、データ生成装置3は、検査データと基準データを上述のように表示装置4に出力することに加えて、又はこの出力に代えて、当該検査データと基準データを演算部5に出力する。演算部5は、データ生成装置3から受けた検査データと基準データに基づいて、欠陥Dの位置を求める。
【0080】
検査データは、表面1aと対象物1の内側位置(欠陥D)との間で所定回数往復した超音波の受信時点を表わし、基準データは、表面1aと基準箇所1bとの間で同じ所定回数往復した超音波の受信時点を表わす。したがって、演算部5は、例えば、これらの受信時点の時間差と対象物1内における超音波の伝播速度とを乗算した値を、上記所定回数の2倍で割った値を、基準箇所1bに対する欠陥Dの位置として求める。演算部5は、求めた欠陥Dの位置を表示装置4に出力してよい。これにより、表示装置4は、当該欠陥Dの位置を表示する。
【符号の説明】
【0081】
1 対象物
1a 表面
1b 裏面(基準箇所)
2 超音波送受信装置
3 データ生成装置
4 表示装置
5 演算部
10 超音波探傷装置
21 同期部
22 電圧印加部
23 プローブ
31 時間計測部
32 波形生成部
33 データ生成部
33a 抽出部
33b 記憶部
D 欠陥

図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図6
図7