(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113423
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】ステータコア、ロータコアおよびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 1/18 20060101AFI20240815BHJP
H02K 1/28 20060101ALI20240815BHJP
H02K 15/02 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
H02K1/18 B
H02K1/28 A
H02K15/02 K
H02K15/02 F
H02K15/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018391
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100217076
【弁理士】
【氏名又は名称】宅間 邦俊
(74)【代理人】
【識別番号】100169018
【弁理士】
【氏名又は名称】網屋 美湖
(72)【発明者】
【氏名】岡▲崎▼ 翔太郎
【テーマコード(参考)】
5H601
5H615
【Fターム(参考)】
5H601AA08
5H601AA26
5H601BB20
5H601CC01
5H601CC15
5H601DD01
5H601DD11
5H601DD31
5H601DD47
5H601EE20
5H601EE35
5H601FF09
5H601GA02
5H601GB05
5H601GB12
5H601GB33
5H601GC03
5H601GC08
5H601GC12
5H601JJ04
5H601JJ05
5H601KK01
5H601KK08
5H601KK10
5H601KK13
5H601KK15
5H601KK30
5H615AA01
5H615BB01
5H615BB07
5H615BB14
5H615PP01
5H615PP02
5H615PP06
5H615SS03
5H615SS05
5H615SS19
5H615SS25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ロータコアへのシャフトの固定及びステータコアへのケースの固定の際の焼き嵌め又は圧入によって圧縮応力が電磁鋼板に負荷されても、鉄損が増加するのを抑制することができるステータコア、ロータコアおよびそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】ステータコア30は、外周径の異なる2種類の電磁鋼板31を用い、外周径の大きい第1の電磁鋼板31Aに歪取り焼鈍を施さない電磁鋼板を用い、外周径の小さい第2の電磁鋼板31Bに歪取り焼鈍を施した電磁鋼板を用いる。ロータコア20は、内周径の異なる2種類の電磁鋼板を用い、内周径の小さい第1の電磁鋼板21Aに歪取り焼鈍を施さない電磁鋼板を用い、内周径の大きい第2の電磁鋼板21Bに歪取り焼鈍を施した電磁鋼板を用いる。第1の電磁鋼板は、第2の電磁鋼板よりも、応力無負荷時の鉄損が大きく、且つ応力無負荷時の鉄損に対する圧縮応力負荷時の鉄損の増加割合は小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータが配置される貫通孔を有する円環状の電磁鋼板を、厚さ方向に複数枚積層してなるステータコアであって、
前記電磁鋼板は、外周径が異なる第1の電磁鋼板と第2の電磁鋼板とを含み、前記第1の電磁鋼板は、前記第2の電磁鋼板より外周径が大きく、
前記第1の電磁鋼板によって、前記ステータコアを収容するケースの内周面に前記ステータスコアが焼き嵌め又は圧入により固定されており、
前記第1の電磁鋼板は、磁束密度が0.2Tから1.4Tまでの範囲において、前記第2の電磁鋼板よりも、応力無負荷時の鉄損が大きく、且つ前記応力無負荷時の鉄損に対する圧縮応力負荷時の鉄損の増加割合は小さい鉄損特性を有する、ステータコア。
【請求項2】
中心にシャフトが挿入される貫通孔を有する円環状の電磁鋼板を、厚さ方向に複数枚積層してなるロータコアであって、
前記電磁鋼板は、内周径が異なる第1の電磁鋼板と第2の電磁鋼板とを含み、前記第1の電磁鋼板は、前記第2の電磁鋼板より内周径が小さく、
前記第1の電磁鋼板によって、前記シャフトに前記ロータコアが焼き嵌め又は圧入により固定されおり、
前記第1の電磁鋼板は、磁束密度が0.2Tから1.4Tまでの範囲において、前記第2の電磁鋼板よりも、応力無負荷時の鉄損が大きく、且つ前記応力無負荷時の鉄損に対する圧縮応力負荷時の鉄損の増加割合は小さい鉄損特性を有する、ロータコア。
【請求項3】
ロータが配置される貫通孔を有する円環状の電磁鋼板であって、前記電磁鋼板は外周径が異なる第1の電磁鋼板と第2の電磁鋼板とを含み、前記第1の電磁鋼板は前記第2の電磁鋼板より外周径が大きい電磁鋼板を、厚さ方向に複数枚積層してなるステータコアの製造方法であって、
打ち抜き加工の後に歪取り焼鈍を施さないことで前記第1の電磁鋼板を得る工程と、
打ち抜き加工の後に歪取り焼鈍を施すことで前記第2の電磁鋼板を得る工程と、
前記第1の電磁鋼板および前記第2の電磁鋼板を厚さ方向に複数枚積層して、ステータコアを得る工程と、
前記第1の電磁鋼板によって、ステータコアを収容するケースの内周面に、前記ステータコアを焼き嵌め又は圧入により固定する工程と
を含むステータコアの製造方法。
【請求項4】
シャフトが挿入される貫通孔を有する円環状の電磁鋼板であって、前記電磁鋼板は外周径が異なる第1の電磁鋼板と第2の電磁鋼板とを含み、前記第1の電磁鋼板は前記第2の電磁鋼板より内周径が小さい電磁鋼板を、厚さ方向に複数枚積層してなるロータコアの製造方法であって、
打ち抜き加工の後に歪取り焼鈍を施さないことで前記第1の電磁鋼板を得る工程と、
打ち抜き加工の後に歪取り焼鈍を施すことで前記第2の電磁鋼板を得る工程と、
前記第1の電磁鋼板および前記第2の電磁鋼板を厚さ方向に複数枚積層して、ロータコアを得る工程と、
前記第1の電磁鋼板によって、回転軸となるシャフトに前記ロータコアを焼き嵌め又は圧入により固定する工程と
を含むロータコアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ用のステータコア、ロータコアおよびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車業界では電動化が加速しており、HEV車やEV車に使用される駆動用モータの需要が高まっている。モータ分野では、従来から高効率化のため、各種損失の低減対策が行われており、特に電磁鋼板の積層体であるステータコアやロータコアから発生する鉄損の低減が重要である。
【0003】
電磁鋼板は、打抜き、積層体のかしめ及び溶接、モータケースの焼き嵌め、並びにシャフトの圧入等により導入される歪みによって鉄損が増大する。特に、ステータコアへのモータケースの焼き嵌めや、ロータコアへのシャフトの圧入によって、鉄損は顕著に増大する。さらに、近年ではモータの小型化により高回転化が進んでおり、それに伴い、ロータコアの強度向上が要求されている。
【0004】
電磁鋼板の低鉄損化および高強度化を図るための方法として、特開2004-270011号公報(特許文献1)には、同一の電磁鋼板からロータ材とステータ材を同時に採取して、ロータ材においては高磁束密度かつ高強度、ステータ材においては高磁束密度かつ低鉄損を達成するための電磁鋼板の製造方法が記載されている。
【0005】
また、特許第2004-260899号公報(特許文献2)には、コイルが巻回されるティースを備えたコアシートを複数枚、厚さ方向に積層したモータのステータ鉄心の製造方法において、通常の電磁鋼板から打抜いた後、歪取焼鈍を施したコアシート(A)と、接着コーティングが両面に施され、歪取り焼鈍を施さない電磁鋼板から打抜いたコアシート(B)とを1枚おきに積層した後に、加圧下で熱処理して相互に接着一体化することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004-270011号公報
【特許文献2】特許第2004-260899号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のモータの構造を、
図11~
図13を参照して説明する。従来のモータ101は、中心側から順にシャフト110、ロータコア120、ステータコア130、およびケース140を備える。シャフト110はベアリング111を介してケース140に回転可能に支持されている。ロータコア120とステータコア130は、それぞれ円環状の電磁鋼板121、131が複数枚積層されて構成されている。ロータコア120の電磁鋼板121には、複数の磁石挿入孔124が外周に沿って設けられ、各磁石挿入孔124には永久磁石125が挿入されている。ステータコア130の電磁鋼板131には複数のコイル挿入孔134が内周に沿って設けられ、各コイル挿入孔134にはコイル135が挿入されている。ロータコア120は、電磁鋼板121の積層方向において一対のエンドプレート112に挟持されているとともに、内周面にシャフト110が焼き嵌め又は圧入により固定されている。また、ケース140の内周面には、ステータコア130が焼き嵌め又は圧入により固定されている。
【0008】
特許文献1では、ロータ材とステータ材の成分および結晶粒径を調整することで、ロータ材に要求される高磁束密度かつ高強度、ステータ材に要求される高磁束密度かつ低鉄損といった特性を得ている。しかしながら、特許文献1では、各部材に歪取り焼鈍を行っているため、ロータ材の強度低下が懸念される。また、歪取り焼鈍を行うと、モータの組み立て時に電磁鋼板に負荷される圧縮応力、例えば、上述した従来のモータ101の構成で言えば、焼き嵌め又は圧入によってロータコア120にシャフト110を、ステータコア130にケース140を固定する際のこれら電磁鋼板121、131に負荷される圧縮応力によって、電磁鋼板121、131の鉄損が増加する割合が、歪取り焼鈍を行わない場合に比べて大きくなるということが懸念される。
【0009】
そこで本発明は、上記の問題点に鑑み、ロータコアへのシャフトの固定およびステータコアへのケースの固定の際の焼き嵌め又は圧入などによって圧縮応力が電磁鋼板に負荷されても、鉄損が増加するのを抑制することができるステータコア、ロータコアおよびそれらの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、ロータが配置される貫通孔を有する円環状の電磁鋼板を、厚さ方向に複数枚積層してなるステータコアであって、前記電磁鋼板は、外周径が異なる第1の電磁鋼板と第2の電磁鋼板とを含み、前記第1の電磁鋼板は、前記第2の電磁鋼板より外周径が大きく、前記第1の電磁鋼板によって、前記ステータコアを収容するケースの内周面に前記ステータスコアが焼き嵌め又は圧入により固定されており、前記第1の電磁鋼板は、磁束密度が0.2Tから1.4Tまでの範囲において、前記第2の電磁鋼板よりも、応力無負荷時の鉄損が大きく、且つ前記応力無負荷時の鉄損に対する圧縮応力負荷時の鉄損の増加割合は小さい鉄損特性を有する。
【0011】
本発明は、また別の態様として、中心にシャフトが挿入される貫通孔を有する円環状の電磁鋼板を、厚さ方向に複数枚積層してなるロータコアであって、前記電磁鋼板は、内周径が異なる第1の電磁鋼板と第2の電磁鋼板とを含み、前記第1の電磁鋼板は、前記第2の電磁鋼板より内周径が小さく、前記第1の電磁鋼板によって、前記シャフトに前記ロータコアが焼き嵌め又は圧入により固定されおり、前記第1の電磁鋼板は、磁束密度が0.2Tから1.4Tまでの範囲において、前記第2の電磁鋼板よりも、応力無負荷時の鉄損が大きく、且つ前記応力無負荷時の鉄損に対する圧縮応力負荷時の鉄損の増加割合は小さい鉄損特性を有する。
【0012】
本発明は、更に別の態様として、ロータが配置される貫通孔を有する円環状の電磁鋼板であって、前記電磁鋼板は外周径が異なる第1の電磁鋼板と第2の電磁鋼板とを含み、前記第1の電磁鋼板は前記第2の電磁鋼板より外周径が大きい電磁鋼板を、厚さ方向に複数枚積層してなるステータコアの製造方法であって、この方法は、打ち抜き加工の後に歪取り焼鈍を施さないことで前記第1の電磁鋼板を得る工程と、打ち抜き加工の後に歪取り焼鈍を施すことで前記第2の電磁鋼板を得る工程と、前記第1の電磁鋼板および前記第2の電磁鋼板を厚さ方向に複数枚積層して、ステータコアを得る工程と、前記第1の電磁鋼板によって、ステータコアを収容するケースの内周面に、前記ステータコアを焼き嵌め又は圧入により固定する工程とを含む。
【0013】
本発明は、更なる別の態様として、シャフトが挿入される貫通孔を有する円環状の電磁鋼板であって、前記電磁鋼板は外周径が異なる第1の電磁鋼板と第2の電磁鋼板とを含み、前記第1の電磁鋼板は前記第2の電磁鋼板より内周径が小さい電磁鋼板を、厚さ方向に複数枚積層してなるロータコアの製造方法であって、この方法は、打ち抜き加工の後に歪取り焼鈍を施さないことで前記第1の電磁鋼板を得る工程と、打ち抜き加工の後に歪取り焼鈍を施すことで前記第2の電磁鋼板を得る工程と、前記第1の電磁鋼板および前記第2の電磁鋼板を厚さ方向に複数枚積層して、ロータコアを得る工程と、前記第1の電磁鋼板によって、回転軸となるシャフトに前記ロータコアを焼き嵌め又は圧入により固定する工程とを含む。
【発明の効果】
【0014】
このように本発明によれば、ステータコアにおいては、外周径が異なる第1の電磁鋼板と第2の電磁鋼板を用い、圧縮応力負荷を受ける外周径が大きい第1の電磁鋼板に、歪取り焼鈍を施さない電磁鋼板を用い、外周径が小さい第2の電磁鋼板に、歪取り焼鈍を施した電磁鋼板を用いることで、第1の電磁鋼板は、磁束密度が0.2Tから1.4Tまでの範囲において、第2の電磁鋼板よりも、応力無負荷時の鉄損が大きく、且つ応力無負荷時の鉄損に対する圧縮応力負荷時の鉄損の増加割合は小さい鉄損特性を有することから、鉄損が増加するのを抑制することができる。
【0015】
また、本発明によれば、ロータコアにおいては、内周径が異なる第1の電磁鋼板と第2の電磁鋼板を用い、圧縮応力負荷を受ける内周径が小さい第1の電磁鋼板に、歪取り焼鈍を施さない電磁鋼板を用い、内周径の大きい第2の電磁鋼板に、歪取り焼鈍を施した電磁鋼板を用いることで、第1の電磁鋼板は、磁束密度が0.2Tから1.4Tまでの範囲において、第2の電磁鋼板よりも、応力無負荷時の鉄損が大きく、且つ応力無負荷時の鉄損に対する圧縮応力負荷時の鉄損の増加割合は小さい鉄損特性を有することから、鉄損が増加するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るステータコア及びロータコアを備えるモータの一実施の形態を模式的に示す一部断面斜視図である。
【
図3】
図2に示すモータのA-A線に沿った平面断面図である。
【
図4】
図2に示すモータのB-B線に沿った平面断面図である。
【
図5】従来の電磁鋼板の積層体の端部の一例を模式的に示す断面図である。
【
図6】本発明における電磁鋼板の積層体の端部を模式的に示す断面図である。
【
図7】L方向試料の鉄損測定結果であって、応力無負荷下の電磁鋼板の鉄損に対する圧縮応力負荷下の電磁鋼板の鉄損の割合を示すグラフである。
【
図8】C方向試料の鉄損測定結果であって、応力無負荷下の電磁鋼板の鉄損に対する圧縮応力負荷下の電磁鋼板の鉄損の割合を示すグラフである。
【
図9】L方向試料の鉄損測定結果であって、応力無負荷下の電磁鋼板の鉄損を示すグラフである。
【
図10】C方向試料の鉄損測定結果であって、応力無負荷下の電磁鋼板の鉄損を示すグラフである。
【
図11】従来のモータの構造の一例を模式的に示す一部断面斜視図である。
【
図13】
図10に示す従来のモータのA-A線に沿った平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明に係るステータコア及びロータコアを備えるモータの一実施の形態について説明する。なお、図面は、理解のし易さを優先にして描かれており、縮尺通りに描かれたものではない。
【0018】
図1~
図4に示すように、モータ1は、概ね円筒形状を有し、中心側から順にシャフト10、ロータコア20、ステータコア30、およびケース40を備える。ロータコア20は、中心にシャフト10が配置される貫通孔を有する円環状をなし、この貫通孔にシャフト10が焼き嵌め又は圧入により固定されている。ステータコア30は、ロータコア20が配置される貫通孔を有する円環状をなし、この貫通孔にロータコア20がギャップを介して配置されている。ケース40は、ロータコア20およびステータコア30を収容するとともに、ベアリング11を介して回転軸となるシャフト10を回転可能に支持している。ステータコア30はケース40の内周面に焼き嵌め又は圧入により固定されている。
【0019】
ロータコア20は、電磁鋼板21が厚さ方向に複数枚積層して構成されており、これら電磁鋼板21の積層体は積層方向の両側から一対のエンドプレート112によって挟持されている。本実施の形態では、電磁鋼板21は、内周径が異なる第1の電磁鋼板21Aと第2の電磁鋼板21Bとを含み、第1の電磁鋼板21Aは、第2の電磁鋼板21Bより内周径が小さい。なお、外周径は第1の電磁鋼板21Aと第2の電磁鋼板21Bとで同じである。第1の電磁鋼板21A及び第2の電磁鋼板21Bには、その外周縁において略V字状に位置する一対の磁石挿入孔24が外周に沿って複数設けられている。それぞれの磁石挿入孔24には、永久磁石25が挿入されている。
【0020】
ロータコア20の第1の電磁鋼板21Aと第2の電磁鋼板21Bとでは鉄損特性が異なり、具体的には、第1の電磁鋼板21Aは、磁束密度が0.2Tから1.4Tまでの範囲において、第2の電磁鋼板21Bよりも、応力無負荷時の鉄損が大きく、且つ応力無負荷時の鉄損に対する圧縮応力負荷時の鉄損の増加割合は小さいという鉄損特性を有する。このような異なる鉄損特性は、例えば、第2の電磁鋼板21Bを作製する際に行った歪取り焼鈍を、第1の電磁鋼板21Aを作製する際には行わないことで得ることができる。
【0021】
ロータコア20を構成する電磁鋼板21のうち、内周径の小さい第1の電磁鋼板21Aによってシャフト10が固定される。よって、焼き嵌め又は圧入によって圧縮応力が負荷される第1の電磁鋼板21Aに、歪取り焼鈍無しの電磁鋼板を用いることで、歪取り焼鈍有りの電磁鋼板よりも圧縮応力による鉄損増加の割合が小さいことから、鉄損増加を抑制することができる。他方、圧縮応力の影響が小さい内周径の大きい第2の電磁鋼板21Bに、歪取り焼鈍有りの電磁鋼板を用いることで、歪取り焼鈍無しの電磁鋼板よりも応力無負荷時の鉄損が小さいことから、鉄損を低減することができる。よって、ロータコア20において、鉄損が低減し、モータ効率の向上を図ることができる。
【0022】
ステータコア30は、電磁鋼板31が厚さ方向に複数枚積層して構成されているが、本実施の形態では、電磁鋼板31は、外周径が異なる第1の電磁鋼板31Aと第2の電磁鋼板31Bとを含み、第1の電磁鋼板31Aは、第2の電磁鋼板21Bより外周径が大きい。なお、内周径は第1の電磁鋼板31Aと第2の電磁鋼板31Bとで同じである。第1の電磁鋼板31A及び第2の電磁鋼板31Bには、その内周縁においてコイル挿入孔34が内周に沿って複数設けられている。各コイル挿入孔34は内周面に開口しており、コイル挿入孔34間はティース36と呼ばれ、ティース36にはコイル挿入孔34を通してコイル35が巻装されている。
【0023】
ステータコア30の第1の電磁鋼板31Aと第2の電磁鋼板31Bとでは鉄損特性が異なり、具体的には、第1の電磁鋼板31Aは、磁束密度が0.2Tから1.4Tまでの範囲において、第2の電磁鋼板31Bよりも、応力無負荷時の鉄損が大きく、且つ応力無負荷時の鉄損に対する圧縮応力負荷時の鉄損の増加割合は小さいという鉄損特性を有する。このような異なる鉄損特性は、上述したように、例えば、第2の電磁鋼板31Bを作製する際に行った歪取り焼鈍を、第1の電磁鋼板31Aを作製する際には行わないことで得ることができる。
【0024】
ステータコア30を構成する電磁鋼板31のうち、外周径の大きい第1の電磁鋼板31Aによってケース40が固定される。よって、焼き嵌め又は圧入によって圧縮応力が負荷される第1の電磁鋼板31Aに、歪取り焼鈍無しの電磁鋼板を用いることで、歪取り焼鈍有りの電磁鋼板よりも圧縮応力による鉄損増加の割合が小さいことから、鉄損増加を抑制することができる。他方、圧縮応力の影響が小さい外周径の小さい第2の電磁鋼板31Bに、歪取り焼鈍有りの電磁鋼板を用いることで、歪取り焼鈍無しの電磁鋼板よりも応力無負荷時の鉄損が小さいことから、鉄損を低減することができる。よって、ステータコア30において、鉄損が低減し、モータ効率の向上を図ることができる。
【0025】
また、本実施の形態では、ロータコア20およびステータコア30において、内周径または外周径が異なる2種類の電磁鋼板を用いることによって、電磁鋼板間の短絡により生じる鉄損(すなわち、渦電流損)が低減し、モータ効率の向上を図ることができる。外周径が同一の電磁鋼板で構成されたステータコアは、
図5に示すように、電磁鋼板131を打ち抜くと、端面にバリ139が生じる。このバリ139は、積層した際に電磁鋼板131間の短絡が生じる可能性がある。また、鋼板間短絡により生じる渦電流損(図中の矢印)は、板厚の2乗に比例する。よって、外周径が同一の電磁鋼板131を積層し、鋼板間短絡が生じたとき、最悪の場合、積層した全ての電磁鋼板131で渦電流損が生じてしまう。なお、ロータコアの場合、内周径が同一の電磁鋼板を積層する場合、同じ問題が起こり得る。
【0026】
一方、
図6に示すように、外周径が異なる2種類の電磁鋼板31A、31Bを積層する本実施の形態のステータコア30の場合では、鋼板間短絡が生じた場合であっても、電磁鋼板31A、31Bにバリ39A、39Bが生じていても、外周径の大小に起因して電磁鋼板31A、31B間に空気層が存在するため、鋼板間短絡の伝搬を抑制できる。よって、鋼板間短絡による生じる渦電流損(図中の矢印)を低減することができる。なお、ロータコアの場合、内周径の大小に起因して電磁鋼板間に空気層が存在するため、同様に鋼板間短絡による生じる渦電流損を低減することができる。
【0027】
次に、本発明に係るステータコア、ロータコアの各製造方法を含むモータの製造方法の一実施の形態について説明する。なお、モータの各構成は既に詳しく説明していることから、ここでは構成の詳しい説明は省略する。
【0028】
本実施の形態のモータの製造方法は、ステータコア30を形成する工程と、コイル35をステータコア30に巻装する工程と、コイルが巻装されたステータコア30をケース40内に固定する工程と、ロータコア20を形成する工程と、永久磁石25をロータコア20に挿入する工程と、ロータコア20にシャフト10を固定する工程と、ロータコア20をステータコア30内に挿入する工程と、ベアリング11を介してシャフト10をケース40に固定する工程とを含む。
【0029】
ステータコア30は、ロータ20が配置される貫通孔を有する円環状の電磁鋼板31を、厚さ方向に複数枚積層して構成されるものであり、この電磁鋼板31は、外周径が異なる第1の電磁鋼板31Aと第2の電磁鋼板31Bとを含み、第1の電磁鋼板31Aは、第2の電磁鋼板31Bより外周径が大きい。ステータコア30を形成する工程は、電磁鋼板の板材から打ち抜き加工の後に歪取り焼鈍を施さないことで第1の電磁鋼板31Aを得る工程と、電磁鋼板の板材から打ち抜き加工の後に歪取り焼鈍を施すことで第2の電磁鋼板31Bを得る工程と、第1の電磁鋼板31Aおよび第2の電磁鋼板31Bを厚さ方向に複数枚積層する工程とを更に含む。その際、第1の電磁鋼板31Aと第2の電磁鋼板31Bは交互に積層させることが好ましい。
【0030】
コイル35をステータコア30に巻装する工程は、ステータコア30の電磁鋼板31のコイル挿入孔34間のティース36にコイル35を巻き付けることによって行う。
【0031】
ステータコア30をケース40内に固定する工程は、ステータコア30の外周径の大きい第1の電磁鋼板31Aを焼き嵌め又は圧入によって、ケース40の内面に固定することによって行う。
【0032】
ロータコア20は、シャフト10が挿入される貫通孔を有する円環状の電磁鋼板21を、厚さ方向に複数枚積層して構成されるものであり、この電磁鋼板21は、内周径が異なる第1の電磁鋼板21Aと第2の電磁鋼板21Bとを含み、第1の電磁鋼板21Aは、第2の電磁鋼板21Bより内周径が小さい。ロータコア20を形成する工程は、電磁鋼板の板材から打ち抜き加工の後に歪取り焼鈍を施さないことで第1の電磁鋼板21Aを得る工程と、電磁鋼板の板材から打ち抜き加工の後に歪取り焼鈍を施すことで第2の電磁鋼板21Bを得る工程と、第1の電磁鋼板21Aおよび第2の電磁鋼板21Bを厚さ方向に複数枚積層する工程とを更に含む。その際、第1の電磁鋼板21Aと第2の電磁鋼板21Bは交互に積層させることが好ましい。
【0033】
永久磁石25をロータコア20に挿入する工程は、ロータコア20の電磁鋼板21の磁石挿入孔24に、永久磁石25を挿入することによって行う。
【0034】
ロータコア20にシャフト10を固定する工程は、ロータコア20の内周径の小さい第1の電磁鋼板31Aに、焼き嵌め又は圧入によって、シャフト10を固定することによって行う。なお、永久磁石25をロータコア20に挿入する工程は、ロータコア20にシャフト10を固定する工程の後に行ってもよい。
【0035】
ロータコア20をステータコア30内に挿入する工程と、上記のようにシャフト10及び永久磁石25を備えたロータコア20を、ステータコア30内に挿入することによって行う。ロータコア20とステータコア30とはギャップを介して配置される。なお、永久磁石25は、ロータコア20をステータコア30内に挿入してから、ロータコア20磁石挿入孔24に挿入してもよい。
【0036】
ベアリング11を介してシャフト10をケース40に固定する工程は、ロータコア20をステータコア30内に挿入する工程の際に、先にベアリング11をシャフト10に固定させておき、ベアリング11を備えたロータコア20をステータコア30内に挿入した後、ベアリング11をケース40に固定させることによって行う。シャフト10は、ベアリング11を介してケース40に回転可能に支持される。このような工程によりモータ1が組み立てられる。
【実施例0037】
歪取り焼鈍の有無による鉄損の変化を調べるために、短冊状の電磁鋼板試料を用いて鉄損測定実験を行った。電磁鋼板の板材から長さ180mm×幅30mmのサイズの短冊状試料を切り出し、不活性雰囲気にて750℃、2時間の歪取り焼鈍を行うことで得た試料を焼鈍有り試料とした。また、歪取り焼鈍を施さなかった点を除き、同様にして得た試料を、焼鈍無し試料とした。なお、いずれの試料も、板材の圧延方向が試料の長手方向となるように切り出した試料(L方向試料)と、板材の圧延方向に対して垂直方向が試料の長手方向となる切り出した試料(C方向試料)との2種類の試料を作製した。
【0038】
そして、焼鈍有り及び焼鈍無しのL方向試料及びC方向試料の合計4種類の試料について、応力負荷型単板磁気試験装置を用いて鉄損(W/kg)を測定した。なお、この試験装置は、試料の長手方向の両端を固定して、両端を引っ張る又は両端から圧縮するという負荷をかけることができる。また、試料の圧縮負荷時に試料が座屈するのを防ぐために、試料の長さ方向に対して垂直に荷重をかけることもできる。試験条件としては、応力無負荷下、並びに20MPa、30MPa、50MPaの圧縮応力負荷下の4種類の負荷条件下で、磁束密度0.2~1.4T、周波数50Hzで測定を行った。その結果を
図7~
図10に示す。
【0039】
図7はL方向試料、
図8はC方向試料における、応力無負荷下の電磁鋼板の鉄損の測定結果に対する圧縮応力負荷下の電磁鋼板の鉄損の測定結果の割合(圧縮応力負荷下の電磁鋼板の鉄損/応力無負荷下の電磁鋼板の鉄損)を示す。L方向試料についての結果である
図7に示すように、焼鈍無しの電磁鋼板は、焼鈍有りの電磁鋼板よりも、圧縮応力負荷下における鉄損の増加割合が小さいことがわかった。この傾向は、
図8に示すように、C方向試料でも同様であった。
【0040】
図9はL方向試料、
図10はC方向試料における、応力無負荷下の電磁鋼板の鉄損の測定結果を示す。L方向試料についての結果である
図9に示すように、焼鈍有りの電磁鋼板は、焼鈍無しの電磁鋼板よりも、応力無負荷下における鉄損は小さいことがわかった。この傾向は、
図10に示すように、C方向試料でも同様であった。
【0041】
また、周波数を500Hz、1000Hzに変えた点を除き、上記と同様の試験条件で電磁鋼板の鉄損を測定した。その結果、これらの試験条件でも、
図7から
図10に示す結果と同様に、焼鈍無しの電磁鋼板は、焼鈍有りの電磁鋼板よりも、圧縮応力負荷下における鉄損の増加割合が小さく、また、焼鈍有りの電磁鋼板は、焼鈍無しの電磁鋼板よりも、応力無負荷下における鉄損は小さかった。
【0042】
これにより、ロータコアでもステータコアでも、負荷される圧縮応力の影響が大きい箇所に焼鈍無しの電磁鋼板を使用し、負荷される圧縮応力の影響が小さい箇所に焼鈍有りの電磁鋼板を使用することで、焼鈍有りおよび焼鈍無しの2種類の電磁鋼板の特性を生かして鉄損の増加を抑制することができることがわかる。