(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113427
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】加熱調理用プレート
(51)【国際特許分類】
A47J 37/06 20060101AFI20240815BHJP
【FI】
A47J37/06 316
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018396
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】390028163
【氏名又は名称】山岡金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003465
【氏名又は名称】弁理士法人OHSHIMA&ASSOCIATES
(74)【代理人】
【識別番号】100106024
【弁理士】
【氏名又は名称】稗苗 秀三
(72)【発明者】
【氏名】山岡 秀文
(72)【発明者】
【氏名】岡市 智禄
【テーマコード(参考)】
4B040
【Fターム(参考)】
4B040AA01
4B040AC03
4B040AD04
4B040CA16
4B040EB01
4B040NA02
(57)【要約】
【課題】プレートの端部への熱伝導を阻害し、プレートの表面における加熱調理が行われる有効調理面の温度低下を防止すると共に、プレートの有効調理面外に熱が散逸して熱損失となることを抑制する
【解決手段】表面に食材を載置し、裏面から加熱して、加熱調理を行う加熱調理機器の加熱調理用プレート1において、プレート1の表面の中央部に加熱調理を行う有効調理面が設定され、プレート1の端部の裏面に、厚みを減じた断面矩形状の凹部20を設けて、有効調理面から端部への熱伝導を阻害し、熱損失を抑える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレートの表面に食材を載置し、プレートの裏面又は内部から加熱して、加熱調理を行う加熱調理機器の加熱調理用プレートにおいて、プレートの表面に設定された有効調理面の裏面外縁に、断面形状が矩形状に厚みを減じた凹部が設けられ、凹部により有効調理面外への熱伝導を阻害することを特徴とする加熱調理用プレート。
【請求項2】
有効調理面が、平板状、有孔平板状、もしくは平板に複数の窪みを形成された形状であることを特徴とする請求項1記載の加熱調理用プレート。
【請求項3】
プレートの外周の下端が、有効調理面の裏面と同じ高さ位置または裏面より低く位置していることを特徴とする請求項1または2記載の加熱調理用プレート。
【請求項4】
プレートの外周の上端が、加熱調理で発生した油脂等を堰き止めれるように、有効調理面よりも少しだけ高くされたことを特徴とする請求項1または2記載の加熱調理用プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食材を加熱調理する加熱調理機器に用いられる加熱調理用プレートに関する。
【背景技術】
【0002】
業務用ないし家庭用分野における加熱調理機器に用いられる加熱調理用プレートは、電気やガスもしくは木炭等のエネルギを熱源として加熱調理を行うための熱板であって、お好み焼き、ステーキ、焼肉、たこ焼き、ジンギスカン、焼菓子等の加熱調理に用いられる。プレートの材料として、鉄鋼や鋳鉄、ステンレス鋼、銅もしくはアルミニウム等の金属板や金網、陶板(セラミック板や結晶化ガラス板を含む)もしくは石板等の非金属板が用いられる。製法としては、鋳造、鍛造、機械加工等で要部が造られ、一部に溶接やネジを用いて組み立てられる。調理面の形状は、調理の方法や仕上がり形状に合わせて造られ、ステーキ、お好み焼きあるいはホットケーキ等は略平板、焼肉や海鮮焼きには有孔平板(いわゆるロストル)や金網もしくは数mm程度の凹凸を多数形成した形状、ジンギスカン等には兜型、たこ焼きや今川焼などの菓子には複数の窪みを伴う板状とされる。
【0003】
また、加熱調理用プレートは、それを用いる加熱調理機器の形状に合わせて、平面視で角型や丸形に成型され、大きさについても、家庭用の0.3m程度の小さなものから、業務用の長辺が3mを超すような大型の調理カウンターといったものまで存在する。
【0004】
更には、これらの加熱調理用プレートの多くは概略平板形状であり、立体形状であっても、実際に食材を載せて調理する部分以外は調理に伴う煮汁や油脂を分離する溝がプレートの外周に切られている程度であって、省エネルギを主目的とした形状の工夫がされることは少なかった。
【0005】
例えば特許文献1には、裏面に油汁の逆流(裏面への広がり)防護部を設けることが記載されている。第1の逆流防止部は断面ジグザグ状の凹凸であり、第2の逆流防止部は下方に凸状の突起である。油汁は、加熱調理用プレート調理面の開口から裏面に流れて広がることを想定しており、その流れの上流に第2の逆流防護部を、下流に第1の逆流防護部を設けている。第1の逆流防護壁は、断面三角波形状でプレートの厚みを減じる範囲内でのジグザグ状の凹凸であり、凹凸という限りは、凹部と凸部が複数連続することを意味している。また、第2の逆流防護壁は加熱調理用プレートの厚みを増加する方向の下方への凸形状である。
【0006】
また、特許文献2では、加熱調理用プレート中央部に、肉汁あるいは油の排出を良好にするための貫通孔を設け、当該貫通孔上に複数のリブを橋渡しのために設けている。プレートの貫通部周囲に肉汁の逆流を防止するための下方に凸のリブが形成されている。特許文献3には、熱補充部と称する断面ジグザグ状の凹凸が記載されている。凹凸は加熱調理用プレートの平均的厚みを中心として厚みを増減する三角波状である。
【0007】
特許文献4では、加熱部(ヒータ)をプレート中央部に集中配置し、その周囲を裏溝によって部分的に熱遮蔽を施して、裏溝の外側表面を保温部としている。従って、裏溝をプレートに形成する位置は、保温部として必然的に載置スペースを必要とされるので、端部から5~10cmとされる。
【0008】
特許文献5では、プレートの裏面に、ヒータの外縁に沿って断面形状が半円の溝を形成して、周囲への放熱を抑えて、調理面の昇温を速め、最高温度を上げる。
【0009】
特許文献6では、プレート外周部への熱損失低減を目的として、裏面の凹部が調理領域とフランジとの境界部に設けられる。さらに、凹部内に、ステンレス鋼などの低熱伝導部材が嵌め込まれる。低熱伝導部材は通常の断熱材ではなく、低熱伝導金属とされ、プレートの下面にはみ出させることで、プレートのみを持ち上げて机上に置く際の脚ないし鍋敷きとして兼用させている。ちなみに、静止空気とステンレス(SUS304)の熱伝導率は、それぞれ0.0242W/mKと16.0W/mKであり、低熱伝導部材(SUS304)の嵌着は熱伝導の抑制にはなり得ない。
【0010】
特許文献7では、グリル板(調理プレート)端部に温調凹部(肉厚を薄くした部分)を設け、端部の温度を上げて調理面を拡大することを目的としている。加熱部と温調凹部の端部は断面視で重なっている。
【0011】
特許文献8には、電熱板(調理プレート)の鋳造時または使用時の熱歪みの吸収のために、厚みtの薄肉部を設けることが記載されている。例示は、プレート表裏に厚みtを隔てて断面矩形の溝を設けるようになっている。ただし、薄肉部を形成するためには、表裏に複数の溝が必要で、歪みを吸収するためには、厚みtはプレートの厚み未満でないと意味をなさない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2021―083743号公報
【特許文献2】特開2011―218081号公報
【特許文献3】特開平10―179411号公報
【特許文献4】実公平8-35号公報
【特許文献5】特開平6―209864号公報
【特許文献6】特開平10-328036号公報
【特許文献7】特開2012-214号公報
【特許文献8】実開昭52-145543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明では、プレートの裏面端部に肉厚の減じた部分を設けることにより、プレートの端部への熱伝導を阻害し、プレートの表面における加熱調理が行われる有効調理面の温度低下を防止すると共に、プレートの有効調理面外に熱が散逸して熱損失となることを抑制することを課題としている。
【0014】
また、加熱調理用プレートに接する加熱調理機器の筐体等の過熱を抑止し、公的基準等で規制された上限温度への適合を容易にすると共に、耐熱性に劣る樹脂等の安価で成形性の良い材料の適用を可能にし、あるいは、昇温によって変色するSUS304などのステンレス鋼等の変色を抑えて見栄えを保ち、更には、煮汁や油脂がプレート端面から裏面に回って広がることをも部分的に阻害することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のプレートの表面に食材を載置し、プレートの裏面又は内部から加熱して加熱調理を行う加熱調理機器の加熱調理用プレートにおいて、プレートの表面に設定された有効調理面の裏面外縁に、断面形状が矩形状に厚みを減じた凹部が設けられ、凹部により熱容量を低減すると共に有効調理面外への熱伝導を阻害する。
【0016】
固体中における熱の拡散、すなわち熱伝導による伝熱量は、その通り道の断面積に比例し、長さに反比例する。プレートの有効調理面の裏面端部に断面形状が矩形の厚みを減じた凹部を設けることにより、その部分でプレート端部に向かう熱の通過断面積を減じたことになるので、プレートの中央部から端部に向かう熱伝導は阻害され、凹部より外側の端部に到達する熱量は比例的に減少する。
【0017】
また、プレートの端面から裏面に回った煮汁や油脂は、裏面の凹部を垂直に上り下りする必要が生じ、重力の効果あるいは距離の増加による効果が表面張力に勝って、煮汁や油脂の広がりが抑えられる。
【0018】
凹部におけるプレートの肉厚は、裏面から断面矩形状に厚みを減じられることにより、最も薄肉の部分が平面状となり、断面を他の形状とされた凹部よりも広くなり、熱の通り道として最も長い距離になるため、熱伝導の阻害効果が最大になる。ちなみに、断面半円形状に厚みを減じる場合には、最も薄肉となる部分は点状になる。凹部よりも内側である中央部では、熱伝導で散逸する熱量が減少するので、温度が上昇し、有効調理面としての熱的機能が高まる。
【0019】
加熱調理用プレートをその裏面から電気のシースヒーターやランプヒーターあるいはガス等の火炎で加熱すると、プレートには裏面が高く、表面に向けて温度が低下するプレート断面における温度分布が発生する。また、加熱は通常調理の行われるプレート中央部で面状になされるため、中央部が端部よりも高温となるプレート表面における温度分布が発生し、プレート中央部から端部に向けて熱は拡散(熱伝導)する。
【0020】
ただし、中央部から端部に向けての熱伝導は、上述の表裏の温度分布によって、温度差の大きくなる裏面からの伝導が表面からのものよりも大きくなり、厚みを減じることによる断面積縮小効果に基づく伝熱の阻害は、凹部の形成を裏面に行う方が表面に行うより効果が大きくなる。なお、プレート内部に電気の抵抗線ヒータを鋳込んだ場合やIH(インダクションヒーティング)加熱による場合には、内部発熱になるので、裏面加熱の場合よりも効果は劣るものの、依然として周囲への伝熱阻害効果は保たれる。
【0021】
そして、有効調理面が、平板状、有孔平板状、もしくは平板に複数の窪みを形成された形状である。プレートは、裏面端部の厚みを減じることによって、凹部よりも内側の表面に有効調理面が形成される。有効調理面の周囲は平面状に保たれるが、調理の種類によっては、有効調理面の形状に変形を加えられることがある。例えば、ステーキ、お好み焼き或いはホットケーキ等は基本の平板形状であるが、焼肉や海鮮焼きには長孔を開口した有孔平板(いわゆるロストル)や数mm程度の凹凸(リブ)を多数形成した形状もしくは金網、ジンギスカン等には兜型、たこ焼きや今川焼などの焼菓子には複数の窪みを伴うプレートが用いられる。有効調理面にこのような変形が加えられた場合でも、有効調理面の外縁の裏面に厚みを減じた部分を設けることにより、平板と同様の効果が発揮される。
【0022】
プレートの外周の下端が、有効調理面の裏面と同じ高さ位置または裏面より低く位置している。すなわち、プレート全体の最外周の下端が有効調理面の下端と同位置又はより低く位置するように、外周の厚みを増加させる。厚みを増加させる手段としては、鋳造や鍛造による一体成型、機械加工による溝切り等によって実現することができる。
【0023】
本構成においては、プレートの外周の熱容量と表面積が増加するため、その部分の温度が低下する。同時に裏面での凹凸の増加によって、煮汁や油脂がプレートの裏面に回って広がることをより効果的に抑止することができる。また、仕様変更として本発明を実施する際には、厚みを減じる前と外周の形状を同じくできるため、従来のプレートとの互換性を保つことができる。
【0024】
プレートの外周の上端が、加熱調理で発生した油脂等を堰き止めれるように、有効調理面よりも少しだけ有効調理面よりも高くされる。プレートの端部が平坦であると、煮汁や油脂がプレート表面に広がって、一部が裏面に回ることがある。これを防止するためには、プレート端面の高さを高くすることが効果的である。一方で、端部の高さをむやみに高くすることはコストの上昇をもたらす。家庭用ホットプレート等の一部では、すき焼きのような簡易的な鍋料理もできるようにプレート端面をフランジと称して、その高さを50mm以上にもする鍋に近い例がある。しかし、加熱調理機器で汁物調理を扱わない場合、調理に伴う油脂や肉汁等を最小限堰き止める高さがあれば十分であり、プレート端部の高さは有効調理面の端部上端よりも少しだけ高く設定され、有効調理面の厚みの1.5倍以下の寸法分だけ有効調理面よりも高くされる。好ましくは、有効調理面の厚みの0.5倍から1.5倍程度高くなっていることが理想的である。この高さであれば、調理道具(箸、返し、テコ、ナイフ、フォーク、トング等)が当たることもなく、調理動作を妨げない。なお、この高さを超えて裏面に回る油脂等がある場合、上記のようにプレートの外周の下端を低くすることにより、裏面に広がることが阻止される。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、発明者が加熱調理用プレートの端面近傍に裏面から溝切り加工を行うと、表面の温度の高い部分(加熱調理面)が広がることに実験中に発見したことを発端として、その効果を発展させるべく開発してきた成果に基づくものである。断面矩形状となるようにプレートの厚みを減じることによる効果は、以下のとおりである。
1.プレート端部周囲に熱が逃げる(拡散・散逸)ことを抑止し、加える熱量を削減することによる省エネルギ効果
2.プレート端部からの熱損失や熱容量の減少に起因して、有効調理面の温度が上昇する調理機能の向上効果
3.プレート裏面の厚みを減じた部分が溝状である場合には、プレート端部の温度を下げ、プレートに接触する部材(多くは筐体)の過熱、温度規制への適合を容易にし、あるいは接触部材や二次接触部材を低耐熱性材料に転換し得る効果
4.プレート裏面の厚みを減じた部分が溝状である場合には、プレート端部の温度を下げ、当該プレート端部や接触部材に不注意で触れた時の火傷を低減する効果(安全性向上)
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1の実施形態の加熱調理用プレートを用いた加熱調理機器の概略構成図
【
図2】(a)プレートの正面図、(b)プレートの裏面図、(c)プレートの断面図
【
図3】第2の実施形態の端部を切り欠いたプレートの断面図
【
図4】第3の実施形態の表面に溝を形成したプレートの断面図
【
図5】第4の実施形態の断熱材を収容したプレートの断面図
【
図7】第6の実施形態の窪みを有するプレートの断面図
【
図8】第7の実施形態の焼き網としてのプレートの断面図
【
図9】第8の実施形態の堰止め部材が設けられたプレートの断面図
【
図10】第9の実施形態の段部が設けられたプレートの断面図
【
図11】第1の実施形態のプレートの非定常熱伝導シミュレーション結果を示す図
【
図12】凹部の大きさなどを変えたプレートの非定常熱伝導シミュレーション結果を示す図
【
図13】端部を切り欠いたプレートの非定常熱伝導シミュレーション結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0027】
第1の実施形態の加熱調理用プレートを用いた加熱調理機器を
図1に示す。この加熱調理機器は、ガスグリドルであり、平板状の加熱調理用プレート1が袋ナット製の脚2によって機器本体3に載置される。図中、4は脚ゴム、5はガス器具栓、6は異形ジョイントクリップ、7は底板、8はバーナ台、9はイグナイタ、10はダンパー、11はガス接続口、12はサーモスタット、13は熱反射板、14はガスバーナ、15はオイル缶、16は遮熱板、17はバーナ枠板である。
【0028】
プレート1は、
図2に示すように、平面視矩形状の平板とされ、プレート1の裏面の端部に、断面形状が矩形状に厚みを減じた凹部20が設けられ、凹部20に応じてプレート1の表面に有効調理面が設定される。凹部20により、有効調理面外の熱容量が低減されると共に有効調理面外への熱伝導が阻害される。有効調理面は、プレート1の表面でも高温になる領域であり、有効調理面に加熱調理される食材が載せられる。
【0029】
プレート1は、比較的厚みのあるものが用いられ、4mm程度から30mm程度の厚みがよく用いられる。材質としては、鉄鋼や鋳鉄(各種鉄合金を含む)、ステンレス鋼(SUS304、SUS430等)、銅(銅合金を含む)もしくはアルミニウム(アルミニウム合金を含む)等の金属板とされる。あるいは、金網、陶板(セラミック板や結晶化ガラス板を含む)もしくは石板等の非金属板が挙げられる。製法としては、鋳造、鍛造、機械加工等で造られ、一部に溶接やネジ等を用いて組み立てられる。用途は、お好み焼き、ステーキ、焼肉、たこ焼き、ジンギスカン、焼菓子等の加熱調理であって、有効調理面の形状は各々の調理の仕上がり形状に合わせて造られる。
【0030】
プレート1の裏面の端部近傍に、全周にわたって溝が形成され、この溝が厚みを減じた凹部20とされる。凹部20は、矩形状のプレート1の四辺に沿って連続的に平面視矩形状に設けられる。凹部20は断面矩形状に形成され、それぞれ平坦な内側壁20a、外側壁20bおよび上壁20cによって囲まれた空間である。機械加工により凹部20を形成する場合、金属板のプレート1の裏面に、エンドミルを用いて、プレート1の外周に沿って断面矩形状の溝を切っていく。溝の深さは、例えばプレート1の肉厚の1/2とされるが、これに限るものではなく、最低限プレート1の強度を確保できる深さであればよい。機械加工により形成する場合、安全面もしくは強度面において、平面視矩形状の溝の四隅に小さなアール(丸み)を持たすとよい。なお、鋳造でプレート1を造る場合、金型を用いて溝を形成する。この場合、凹部20は、抜き勾配を考慮した矩形に近い台形に形成される。なお、プレート1が円形の場合、凹部20はプレート1の外周に沿って円状の溝とされる。
【0031】
そして、プレート1の表面において凹部20よりも内側の領域である中央部に有効調理面が設定される。ここで、プレート1の四隅には脚2が設けられているので、凹部20の位置は、プレート1の外周から脚2の取付け寸法分だけ内側となる。ここでは、凹部20の内側壁20aの位置は外周から40mm以内とされる。したがって、有効調理面の外縁はプレート1の外周から40mm以内に位置する。
【0032】
このように、プレート1の裏面端部に凹部20を設けることにより、中央部から端部に向かう熱伝導を効果的に阻害し、凹部20より内側の有効調理面の温度を上昇させ、凹部20より外側の端部における温度を低下させることができ、有効調理面において高温で加熱調理できる。しかも、プレート1の端部には食材を載せないので、凹部20は可能な限りプレート1の外周近傍に設けられ、有効調理面を広く設定することができる。
【0033】
断面矩形状の凹部20におけるプレート1の肉厚は最も薄くなり、この薄肉の部分の外面は平面状となるので、断面を他の形状とされた溝よりも広くなり、熱の通り道として最も長い距離になる。そのため、熱伝導の阻害効果が最大になる。
【0034】
第2の実施形態の加熱調理用プレート1として、
図3に示すように、凹部20がプレート1の裏面の外周縁に設けられている。凹部20は、プレート1の裏面の外端から所定の幅で矩形状に切り欠いて形成される。この凹部20に脚(図示せず)が取り付けられ、プレート1が機器本体3から浮いた位置に支持される。そのため、機器本体3への熱伝導は大きく阻害される。また、凹部20は熱源の範囲とは重ならないので、プレート1の端部への熱損失はその分低減される。なお、他の構成は第1の実施形態のものと同じである。
【0035】
第3の実施形態の加熱調理用プレート1として、
図4に示すように、プレート1の表面の四辺に沿って凹部20よりも外側に位置するように流出防止溝21が形成される。なお、他の構成は第1の実施形態のものと同じである。この流出防止溝21は、加熱調理時に発生した煮汁や油脂がプレート1の外周に流れ出さないようにせき止める。流出防止溝21は断面矩形状とされ、流出防止溝21の内側壁21aと凹部20の外側壁20bとの間隔は有効調理面の肉厚程度とされる。流出防止溝21を設けることにより、一定の熱伝導の阻害効果が得られるが、表裏に2つの溝を設けることにより、熱の通り道がラビリンス状に屈曲かつ延伸されることになり、熱伝導の阻害効果が増強される。
【0036】
第4の実施形態の加熱調理用プレート1として、
図5に示すように、凹部20に断熱材22が収容される。なお、他の構成は第1の実施形態のものと同じである。加熱調理用プレート1では適用温度が高いので、断熱材22は無機系のものが適切であり、ロックウールやパーライト、断熱レンガ材料等を例示することができる。凹部20を形成する溝の表面から周囲への対流熱伝達による放熱が生じるが、断熱材22を設けることにより、放熱が抑制され、有効調理面の温度の低下を阻止でき、省エネルギ効果を最大限に発揮させることができる。
【0037】
第5の実施形態の加熱調理用プレート1として、
図6に示すように、プレート1が穴開きの平板、いわゆるロストルとされる。なお、他の構成は第1の実施形態のものと同じである。プレート1の有効調理面には、複数のスリット23が短辺と平行に形成され、煮汁や油脂の分離落下用の開口として利用される。同時に、裏面のヒータ等で加熱された熱風の通り道ともなり、ガス加熱の場合は排気通路の一部を兼ねる。食材に縞状の焼け目を着けることができる。
【0038】
第6の実施形態の加熱調理用プレート1として、
図7に示すように、プレート1はたこ焼き用のプレートとされ、有効調理面に複数の半球状の窪み24が設けられる。この窪み24を直径100mm程度の浅いものにすれば、今川焼用のプレートとなる。なお、他の構成は第1の実施形態のものと同じである。このようなプレート1においても、有効調理面より外側は平板状であるので、裏面に凹部20を設けることにより、プレート1の端部への熱伝導の阻害と有効調理面の温度上昇を実現できる。
【0039】
第7の実施形態の加熱調理用プレート1として、
図8に示すように、プレート1が焼き網とされる。なお、他の構成は第1の実施形態のものと同じである。プレート1は横方向の線材25と縦方向の線材25を組み合わせて形成される。プレート1の端部近傍に位置する横方向および縦方向の線材25を薄くして、断面積を減じることにより、凹部20が形成される。例えば、線材25を伸線して、線材25の断面積を小さくする。延ばした線材25の断面は通常は円形になるが、特殊な型を用いれば、下面を平面とする半円断面や矩形断面にすることができる。あるいは、伸線すべき位置をプレス成型すれば、線材25を金型に応じた断面形状にして、断面積を縮小することも可能である。網状のプレート1の端部に凹部20を設けることにより、プレート1の端部への熱伝導を阻害することができる。
【0040】
第8の実施形態の加熱調理用プレート1として、
図9に示すように、第2の実施形態のプレート1において、その外周面に加熱調理に伴う油脂や煮汁がプレート裏面に回ることを阻止するための堰止め部材26が設けられる。なお、他の構成は第1の実施形態のものと同じである。堰止め部材26は、テープ状の細い平板、例えば数mm厚の帯鋼をプレート1の外周面に溶接によって取り付けたものである。堰止め部材26の上端は有効調理面よりも高い位置とされ、下端は有効調理面の裏面と同じ高さ位置かそれよりも低い位置とされ、凹部20の上壁よりも低い位置とされる。堰止め部材26の上部では、油脂がプレート1の裏面に回ることを阻止するが、万が一油脂が堰止め部材26の上端を越えて伝わってきた場合、堰止め部材26の下部で油切りを行い、油脂を滴下させる。したがって、堰止め部材26の上端をむやみに高くする必要は無く、その高さは有効調理面の厚み程度もあれば十分である。
【0041】
第9の実施形態の加熱調理用プレート1として、
図10に示すように、プレート1の端部を有効調理面よりも高くした段部27が設けられる。なお、他の構成は第1の実施形態のものと同じである。段部27は、有効調理面の外縁からプレート1の外周面にかけて形成され、段部27の高さは有効調理面の厚さ以下とされ、段部27の内側壁27aは凹部20の内側壁20aよりも中央部寄りとなる。有効調理面の外縁が段部27の内側壁27aの位置となる。そして、凹部20を形成する溝の深さが大きくされ、凹部20におけるプレート1の肉厚は大きくならない。
【0042】
このような段部27を設けることにより、油脂がプレート1の裏面に回り込むことを抑制することができる。また、プレート1の端部の肉厚増加に伴って熱容量も増加するため、その部分の温度上昇も抑えられる。
【0043】
加熱調理用プレート1の裏面端部近傍の厚みを減じた時のプレート断面の温度変化を、数値計算を用いて確認した。計算は、非定常二次元熱伝導方程式(1)を、陰解法差分化式(2)によって解いた。
【数1】
【数2】
【0044】
境界条件は、以下の表に例を挙げる。なお、記号は、伝熱分野の一般的な標記によるが、概略以下のとおりである。
記号:T;(絶対)温度、x、y;水平方向と垂直(厚み)方向の座標、t;時間、α;熱拡散率、Qv;熱発生率、λ;熱伝導率、ρ;密度、c;比熱、h;熱伝達係数、qw;外部加熱量
添字:i、j;x及びy方向の位置番号、k;時間番号、f;境膜(温度境界層)、w;壁面
【表1】
【0045】
計算は二次元で行ったため、算出された温度分布は幅200mm、奥行き無限大(実質的には幅の3~5倍程度以上)のプレート1の中央断面のものに相当する。計算は、幅、厚み各1mm毎(1mmメッシュ)、時間は5秒刻みで行った。加熱は、プレート1の中央部裏面の100mm幅の範囲を、6mm厚鉄板には9.375kW/m2、12mm厚鉄板には18.75kw/m2の熱量で行う計算とした。プレート1から周囲環境への熱伝達係数は、裏面非加熱部を0W/m2(断熱)とした以外は、20W/m2とした。裏面非加熱部は加熱部周辺にあるため、その部分の加熱調理機器内部の温度が上昇して、熱損失は無いかむしろ受熱方向であると考えたからである。計算の収束は、断面各位置の今回と前回の計算温度差が、全ての格子点で0.000001℃未満になった時とした。
【0046】
図11に列挙した5つの表は、上から加熱後60秒(1分)後、120秒後(2分)後、180秒後(3分)後、300秒(5分)後、及び600秒(10分)後のプレート1の中央断面の非定常温度分布計算結果を示している。計算は幅200mm、厚み6mmの軟鋼板の物性値を用いて行った。各セル内の数値はプレート1の表面からの深さjmm及び左端からの距離immにおける位置の摂氏温度であるが、厚みを減じた部分(凹部20)に対応する左端から10mmで、幅30mm、深さ4mmの部分は空白としている。厚みを減じた計算は左半面にのみ行い、右半面には行っていない。従って、厚みを減じた効果は、左右対称となる位置のセルの数値を比較することで明らかになる。なお、表内の1、2列目の数値は表面からの深さjmmを、1、2行目の数値は左端からの距離immを表している。従って、表の3列目、3行目からの各セルがその部分の温度である。ちなみに、jが0mm、すなわち深さ0mmの位置の値はプレート1の表面温度に相当し、iが0mmの位置の値は左端の表面温度を示している。同様にjが6mmの位置は裏面の表面温度、iが200mmの位置は右端の表面温度を表している。プレート1の端部近傍の左右対称となる位置の温度を比較すると、厚みを減じた部分の中央寄りで対称位置より温度が高く、左端寄りで対称位置より低くなっていることが分かる。
【0047】
図12には、プレート1の厚みを減じるにあたって、その大きさや全体の厚み、断熱の追加、あるいは材質(SUS304相当の物性値を使用)を変えた300秒後の計算結果を対比して示す。厚みを減じた部分(凹部20)の左端は、プレート1の左端から10mmである。12-1は、材質が軟鋼で厚みが6mm、溝の幅は20mm、深さは4mm、12-2は、材質が軟鋼で厚みが6mm、溝の幅は30mm、深さは3mm、12-3は、材質が軟鋼で厚みが6mm、溝の幅は30mm、深さは4mm、12-4は、材質が軟鋼で厚みが12mm、溝の幅は30mm、深さは8mm、12-5は、材質が軟鋼で厚みが6mm、溝に断熱材を充填しており、溝の幅は30mm、深さは4mm、12-6は、材質がステンレス鋼(SUS304)で厚みが6mm、溝の幅は30mm、深さは4mmである。いずれにおいても、厚みを減じた部分の中央寄りで対称位置より温度が高く、左端寄りで対称位置より低くなっていることが分かる。これにより、発明の効果で列挙した4つの効果の実現できていることが確認できる。
【0048】
図13には、
図3に示すようなプレート1の端部の裏面厚みを減じた(切り欠いた)時の300秒後の計算結果を示す。13-1は、材質が軟鋼で、溝の幅は20mm、深さは6mm、13-2は、13-1と同条件で、溝の幅のみを30mmに代えたもの、13-3は、13―2と同条件で、溝に断熱を施したもの、13-4は、13―2と同条件で材質のみをステンレス鋼(SUS304)に代えたものである。端部の切り欠きの大きさ、断熱、もしくは材質変更のいずれにおいても、厚みを減じた部分の上や中央寄りの位置で対称となる位置より温度が高くなっていることが分かる。この場合には、発明の効果で列挙した効果のうち、調理機能の向上効果が実現されていることが分かる。さらに、切り欠いて厚みを減じた部分には、通常ボルト等で脚2を設けて、高さの回復を行うため、プレート1の端部より脚2を通じて周囲に熱が逃げる(拡散・散逸)ことを抑止できるために、加える熱量を削減することによる省エネルギ効果、およびプレート1の端部に厚みを減じた部分を設け、脚2を用いることで、接触する部材(多くは筐体)の温度規制への適合を容易にし、あるいは接触部材や二次接触部材を低耐熱性材料に転換し得る効果も期待できる。
【0049】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で上記実施形態に多くの修正および変更を加え得ることは勿論である。加熱調理用プレート1のうち、ロストルやジンギスカン鍋では、表面に煮汁や油脂を分離、貯留する溝が設けられることが多い。その溝を裏面の凹部20に対応する表面部分の外側(端部側)又は内側(中央部側)に設けることができる。特に、外側に設けた場合、裏面の凹部20の伝熱阻害効果によって表面の溝における煮汁や油脂の蒸発が抑えられる。逆に内側に設けると、蒸発が促進される。いずれが適当かは調理目的や清掃の手間によって決めれば良い。
【0050】
プレート1の端部に凹部20用の溝をつけるには、鋳造によることが簡便・安価である。特に、調理面に長穴を多数設けるいわゆるロストルや、たこ焼き用のプレート1もしくはジンギスカン鍋のようなプレート1の調理面に開口や凹凸のあるものは、それらも併せて鋳造にて成型することが合理的である。鋳造法としては、一般的な砂型鋳造(普通鋳造)はもちろん、より精密な造形に用いられるロストワックス鋳造や、アルミ等の低融点金属に用いられるダイキャスト鋳造を用いることも可能である。
【0051】
有効調理面が平板状であるプレート1の凹部20の形成は、エンドミルによる機械加工が適当である。同時に、表に顕れる部分にも機械加工を施すと高級感のある仕上げとすることができる。
【0052】
プレート1は全体として比較的肉厚(4mm以上)に成形されるので、鍛造で製造する場合には熱間鍛造が適当である。成形後に適当に熱処理したプレート1は、調理における加熱時に、熱変形(反りやねじれ)が少なくなる特長がある。
【符号の説明】
【0053】
1 プレート
2 脚
3 機器本体
20 凹部
21 流出防止溝
22 断熱材
23 スリット
24 窪み
25 線材
26 堰止め部材
27 段部