(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011343
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】ショックアブソーバー用振動減衰器
(51)【国際特許分類】
F16F 9/36 20060101AFI20240118BHJP
【FI】
F16F9/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113266
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小菅 歩
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA50
3J069CC18
3J069CC19
(57)【要約】
【課題】多種多様な振動特性を設定することが容易なショックアブソーバー用振動減衰器を提供すること。
【解決手段】車両用ショックアブソーバーSABSのロッドガイドRGに固定されてピストンシリンダーPSを介してピストンロッドPRに伝達される振動を遮断するショックアブソーバー用振動減衰器100であって、ロッドガイドRGの座面RG1に載置されてピストンロッドPRを内挿する環状のロッド内挿部材110と、このロッド内挿部材110の上方に配置されてピストンロッドPRを内挿する環状の弾性部材120と、この弾性部材120の上方でロッドガイドRGに固定されてピストンロッドPRを内挿すると共に弾性部材120の弾性変形を抑制する環状の弾性変形抑制部材130とを備え、弾性部材120が、内方に向かって突出してピストンロッドPRと当接自在な弾性当接部123を有し、弾性部材120の内径が、ピストンロッドPRの直径より小径である。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のボディに接続するピストンロッドと該ピストンロッドを内挿するピストンシリンダーと該ピストンシリンダーに収容されて前記ピストンロッドを案内する環状のロッドガイドとを備えた車両用ショックアブソーバーのロッドガイドに固定されて前記ピストンシリンダーから前記ピストンロッドに伝達される振動を減衰するショックアブソーバー用振動減衰器であって、
前記ロッドガイドの座面に載置されて前記ピストンロッドを内挿する環状のロッド内挿部材と、
該ロッド内挿部材の上方に配置されて前記ピストンロッドを内挿する環状の弾性部材と、
該弾性部材の上方で前記ロッドガイドに固定されて前記ピストンロッドを内挿すると共に前記弾性部材の弾性変形を抑制する環状の弾性変形抑制部材とを備え、
前記弾性部材が、内方に向かって突出して前記ピストンロッドと当接自在な弾性当接部を有し、
前記弾性部材の内径が、前記ピストンロッドの直径より小径であることを特徴とするショックアブソーバー用振動減衰器。
【請求項2】
前記弾性変形抑制部材が、前記ピストンロッドと前記ピストンロッドの径方向で離間した状態で前記ピストンロッドを囲繞していることを特徴とする請求項1に記載のショックアブソーバー用振動減衰器。
【請求項3】
前記弾性変形抑制部材が、前記弾性部材の弾性当接部と対向すると共に前記弾性部材から遠ざかる方向に傾斜する傾斜面を有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のショックアブソーバー用振動減衰器。
【請求項4】
前記ロッド内挿部材が、前記弾性変形抑制部材を係止して装着する弾性変形抑制部材装着溝を有していることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のショックアブソーバー用振動減衰器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動減衰器に関するものであり、特に、車両用ショックアブソーバーのロッドガイドに装着される振動減衰器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の安定性や乗り心地に寄与する車両用ショックアブソーバーのロッドガイドに装着される振動減衰器として、ピストンロッドに摺接する環状の弾性ゴム部と、この弾性ゴム部が固着される環状のベース部とからなる摩擦部材が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2020/095806号(特に、
図4、
図5参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した摩擦部材は弾性ゴム部がベース部に固着されているのみであるため、摩擦部材による減衰性能は弾性ゴム部の物性調整および弾性ゴム部の形状変更によってしか調整できなかった。
そして、車両用ショックアブソーバーに求められる振動特性は近年ますます多種多様になっており、減衰性能の調整がしにくい上述した摩擦部材では多種多様な振動特性に対応できない虞がある。
【0005】
そこで、本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、多種多様な振動特性を設定することが容易なショックアブソーバー用振動減衰器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、車両のボディに接続するピストンロッドと該ピストンロッドを内挿するピストンシリンダーと該ピストンシリンダーに収容されて前記ピストンロッドを案内する環状のロッドガイドとを備えた車両用ショックアブソーバーのロッドガイドに固定されて前記ピストンシリンダーから前記ピストンロッドに伝達される振動を減衰するショックアブソーバー用振動減衰器であって、前記ロッドガイドの座面に載置されて前記ピストンロッドを内挿する環状のロッド内挿部材と、該ロッド内挿部材の上方に配置されて前記ピストンロッドを内挿する環状の弾性部材と、該弾性部材の上方で前記ロッドガイドに固定されて前記ピストンロッドを内挿すると共に前記弾性部材の弾性変形を抑制する環状の弾性変形抑制部材とを備え、前記弾性部材が、内方に向かって突出して前記ピストンロッドと当接自在な弾性当接部を有し、前記弾性部材の内径が、前記ピストンロッドの直径より小径であることにより、前述した課題を解決するものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載されたショックアブソーバー用振動減衰器の構成に加えて、前記弾性変形抑制部材が、前記ピストンロッドと前記ピストンロッドの径方向で離間した状態で前記ピストンロッドを囲繞していることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載されたショックアブソーバー用振動減衰器の構成に加えて、前記弾性変形抑制部材が、前記弾性部材の弾性当接部と対向すると共に前記弾性部材から遠ざかる方向に傾斜する傾斜面を有していることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、請求項1または請求項2に記載されたショックアブソーバー用振動減衰器の構成に加えて、前記ロッド内挿部材が、前記弾性変形抑制部材を装着する弾性変形抑制部材装着溝を有していることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明のショックアブソーバー用振動減衰器によれば、ロッドガイドの座面に載置されてピストンロッドを内挿する環状のロッド内挿部材と、このロッド内挿部材の上方に配置されてピストンロッドを内挿する環状の弾性部材と、この弾性部材の上方でロッドガイドに固定されてピストンロッドを内挿すると共に弾性部材の弾性変形を抑制する環状の弾性変形抑制部材とを備え、弾性部材が、内方に向かって突出して前記ピストンロッドと当接自在な弾性当接部を有し、弾性部材の内径が、ピストンロッドの直径より小径であることにより、ショックアブソーバー用振動減衰器にピストンロッドを挿入した際に弾性当接部が弾性変形してピストンロッドに当接するため、弾性部材の材質や形状に加えて弾性変形抑制部材の形状やロッド内挿部材と弾性変形抑制部材との離間距離、間隔などもショックアブソーバー用振動減衰器の減衰性能に影響を及ぼす設計パラメータとなり、多種多様な振動特性を容易に設定することができる。
【0011】
請求項2に係る発明のショックアブソーバー用振動減衰器によれば、請求項1に係る発明のショックアブソーバー用振動減衰器が奏する効果に加えて、弾性変形抑制部材が、ピストンロッドとこのピストンロッドの径方向で離間した状態でピストンロッドを囲繞していることにより、ピストンロッドがショックアブソーバー用振動減衰器に対して摺動した際にピストンロッドが弾性変形抑制部材と接触しないため、弾性変形抑制部材によるピストンロッドの損傷を防ぐことができる。
【0012】
請求項3に係る発明のショックアブソーバー用振動減衰器によれば、請求項1または請求項2に係る発明のショックアブソーバー用振動減衰器が奏する効果に加えて、弾性変形抑制部材が、弾性部材の弾性当接部と対向すると共に弾性部材から遠ざかる方向に傾斜する傾斜面を有していることにより、傾斜面が弾性変形した状態でピストンロッドに当接している弾性部材と面接触した場合に、弾性変形抑制部材が弾性変形した状態でピストンロッドに当接している弾性部材と線接触する場合と比べて、弾性変形抑制部材から弾性部材に加わる応力が集中することなく分散低減されるため、弾性部材の摩耗損傷を抑制することができる。
【0013】
請求項4に係る発明のショックアブソーバー用振動減衰器によれば、請求項1または請求項2に係る発明のショックアブソーバー用振動減衰器が奏する効果に加えて、ロッド内挿部材が、弾性変形抑制部材を装着する弾性変形抑制部材装着溝を有していることにより、ロッド内挿部材と弾性変形抑制部材との厚み方向の離間距離が一定となるため、弾性部材の変形量が一定になり、ピストンロッドに対する減衰性能を一定に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施例であるショックアブソーバー用振動減衰器が組み込まれたショックアブソーバーの部分斜視断面図。
【
図7A】ピストンロッドが振動減衰器に挿入される前のショックアブソーバーの断面図。
【
図7B】ピストンロッドが振動減衰器に挿入されたショックアブソーバーの断面図。
【
図8A】本発明の第2実施例である振動減衰器の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、車両のボディに接続するピストンロッドとこのピストンロッドを内挿するピストンシリンダーとこのピストンシリンダーに収容されてピストンロッドを案内する環状のロッドガイドとを備えた車両用ショックアブソーバーのロッドガイドに固定されてピストンシリンダーからピストンロッドに伝達される振動を減衰するショックアブソーバー用振動減衰器であって、ロッドガイドの座面に載置されてピストンロッドを内挿する環状のロッド内挿部材と、このロッド内挿部材の上方に配置されてピストンロッドを内挿する環状の弾性部材と、この弾性部材の上方でロッドガイドに固定されてピストンロッドを内挿すると共に弾性部材の弾性変形を抑制する環状の弾性変形抑制部材とを備え、弾性部材が、内方に向かって突出してピストンロッドと当接自在な弾性当接部を有し、弾性部材の内径が、ピストンロッドの直径より小径であり、多種多様な振動特性を設定することが容易なものであれば、その具体的な実施態様は、如何なるものであっても構わない。
【0016】
例えば、本発明におけるショックアブソーバー用振動減衰器は、自動四輪車の車両用ショックアブソーバーに装着されるものであるが、自動四輪車は、ガソリン車やディーゼル車だけでなく、電気自動車等であってもよい。
また、本発明のショックアブソーバー用振動減衰器が設けられるのは、自動四輪車に限らず、自動二輪車であってもよい。
【0017】
例えば、本発明における弾性変形抑制部材のロッドガイドへの固定方法は、弾性変形抑制部材に締め代を設けて締まり嵌め状態でロッドガイドに圧入してロッドガイドに固定してもよいし、キー溝とキーとの係合構造にしたり、スナップフィットであったりしてもよい。
【0018】
例えば、本発明のロッド内挿部材は、ピストンロッドを内挿できれば、ポリアセタール樹脂等のいかなるもので作製されてもよい。
【0019】
例えば、本発明の弾性部材は、ピストンロッドと摺動自在に当接し、弾性変形自在であれば、アクリロニトリル・ブタジエンゴム等のいかなるもので作製されてもよい。
【0020】
例えば、本発明の弾性変形抑制部材の材質は、弾性部材よりも変形しにくければ、金属や樹脂等のいかなるもので作製されてもよい。
【実施例0021】
以下、
図1乃至
図7Bに基づいて、本発明の第1実施例であるショックアブソーバー用振動減衰器である振動減衰器100を説明する。
【0022】
<1.振動減衰器の設置環境>
まず、
図1および
図2Aに基づいて、振動減衰器100が搭載される環境について説明する。
図1は本発明の第1実施例であるショックアブソーバー用振動減衰器が組み込まれたショックアブソーバーSABSの部分斜視断面図であり、
図2Aは
図1の要部拡大断面図である。
【0023】
本実施例の振動減衰器100は、
図1に示すように、自動四輪車におけるサスペンションの不要な振動を吸収する車両用ショックアブソーバーSABSに搭載される。
【0024】
車両用ショックアブソーバーSABSは、
図1および
図2Aに示すように、車両のボディ(不図示)に接続されるピストンロッドPRと、このピストンロッドを車両の路面側で内挿する路面側のピストンシリンダーPSと、このピストンシリンダーPSに収容されてピストンロッドPRを案内する環状のロッドガイドRGと、ピストンシリンダーPSとロッドガイドRGとの間に配置されてピストンシリンダーPS内のオイル等の流出を防ぐシール部材SIとを備えている。
【0025】
ここで、上述したピストンシリンダーPSは、
図1に示すように、ピストンロッドPRの出入りによるシリンダー内容積の変化に対応するために、2重シリンダーとなっている。
内側のシリンダーは、オイルOで満たされ、外側のシリンダーは、オイルOと低圧の不活性ガスとが封入されている。
そして、このピストンシリンダーPSは、下から上にはオイルOが流れにくくなっており、減衰力を発揮しにくいが、上から下にはオイルOが流れやすくなっており、減衰力を発揮しやすくなっている。
【0026】
また、ロッドガイドRGは、
図1および
図2Aに示すように、環状の振動減衰器100が嵌着されて固定される円柱状の凹部を有している。
【0027】
<2.振動減衰器100の構造>
次に、
図2A乃至
図6Bに基づいて、振動減衰器100の構造を詳しく説明する。
図2Bは
図2Aの要部拡大断面図であり、
図3Aは
図2Aに示す振動減衰器100の斜視図であり、
図3Bは
図3Aに示す振動減衰器100の斜視分解図であり、
図3Cは
図3AのIIIC-IIIC断面図であり、
図4Aは
図3Bに示すロッド内挿部材110の平面図であり、
図4Bは
図4AのIVB-IVB断面図であり、
図5Aは
図3Bに示す弾性部材120の平面図であり、
図5Bは
図5AのVB-VB断面図であり、
図6Aは
図3Bに示す弾性変形抑制部材130の平面図であり、
図6Bは
図6AのVIB-VIB断面図である。
なお、
図3Cにおいて、分かりやすさのために、弾性部材120および弾性変形抑制部材130にそれぞれ着色している。
【0028】
振動減衰器100は、ピストンシリンダーPSからピストンロッドPRに伝達される振動を減衰するものであり、
図3A等に示すように、環状のロッド内挿部材110と、環状の弾性部材120と、ピストンロッドPRを内挿する環状の弾性変形抑制部材130とを備えている。
そして、振動減衰器100の中心軸Aは、ロッド内挿部材110の中心軸、弾性部材120の中心軸および弾性変形抑制部材130の中心軸と一致する。
【0029】
<2.1.ロッド内挿部材>
ロッド内挿部材110は、例えば、ポリアセタール樹脂製であり、
図2Bに示すように、ロッドガイドRGの凹部の座面RG1に載置されてピストンロッドPRを摺動自在に内挿している。
このロッド内挿部材110は、
図2Aに示すように、外径φBo(
図4B参照)がロッドガイドRGの凹部直径φGよりも小さくなっており、内径φBi(
図4B参照)がピストンロッドPRの直径φPとほぼ等しくなっている。
【0030】
そして、ロッド内挿部材110は、
図4Aおよび
図4Bに示すように、平面視C字状のベース部111と、このベース部111から鉛直方向に突出する平面視で円弧状のリブ部112とから形成されている。
【0031】
リブ部112は、
図4A等に示すように、平面視において等間隔に3箇所離間して形成されており、全てのリブ部112の径方向の厚みや周方向長さは、等しくなっている。
そして、このリブ部112の外径は、
図4B等に示すように、ベース部111の外径(すなわち、ロッド内挿部材110の外径φBo)よりも小径となっている。
また、リブ部112の内周面は、
図4Bに示すようにベース部111の内周面と面一になっている。
【0032】
また、各リブ部112の外周面には、周方向に伸びて弾性変形抑制部材130と係合する弾性変形抑制部材装着溝112aが形成されている。
【0033】
<2.2.弾性部材>
弾性部材120は、ピストンロッドPRおよび弾性変形抑制部材130よりも軟らかい部材(例えばアクリロニトリル・ブタジエンゴム)で形成されており、
図3B等に示すように、ロッド内挿部材110のリブ部112を内挿した状態で、
図2Bに示すように、ピストンロッドPRを摺動自在に内挿している。
すなわち、弾性部材120は、
図3C等に示すように、ロッド内挿部材110の上方に配置されている。
【0034】
そして、この弾性部材120は、
図5Aに示すように、円環状のベース部121と、このベース部121から外方(すなわち、中心軸Aから遠ざかる方向)に向かって突出する外側突出部122と、ベース部121から内方(すなわち、中心軸Aに近づく方向)に向かって突出する弾性当接部123とから形成されている。
【0035】
外側突出部122は、
図5A等に示すように、平面視において等間隔に3箇所離間して形成されており、全ての外側突出部122の径方向の厚みや周方向長さは、等しくなっている。
【0036】
弾性当接部123は、
図5A等に示すように、平面視において等間隔に3箇所離散して形成されており、全ての弾性当接部123の径方向の厚みや周方向長さは、等しくなっている。
ロッド内挿部材110を弾性部材120に内挿した状態において、
図3B等に示すように、隣接する弾性当接部123の間にロッド内挿部材110のリブ部112が位置する。
【0037】
また、この弾性当接部123は、
図3Cや
図5B等に示すように、ベース部121の上面121aと面一な上面123aと、この上面123aから中心軸Aに向かって下り傾斜となる上部傾斜面123bと、ベース部121の下面121bと面一な下面123cと、この下面123cから中心軸Aに向かって上り傾斜となる下部傾斜面123dとを有している。
そして、上部傾斜面123bの先端は、下部傾斜面123dの先端と一致している。
したがって、弾性当接部123は、
図5Bに示すように断面視で先端が中心軸Aに向かって突出している。
さらに、上部傾斜面123bの先端(下部傾斜面123dの先端)は、
図5Bに示すように弾性部材120の厚み方向中心軸Lよりも上方に配置されている。
【0038】
また、弾性部材120の内径φEiは、ピストンロッドPRの直径φPおよびロッド内挿部材110の内径φBiよりも小径になっている。
したがって、弾性当接部123は、
図2Bに示すように、振動減衰器100にピストンロッドPRを挿入した状態で、弾性変形して上向きに反った状態で下部傾斜面123dにおいてピストンロッドPRと当接している。
すなわち、弾性当接部123は、ピストンロッドPRに対して当接自在となっている。
【0039】
<2.3.弾性変形抑制部材>
弾性変形抑制部材130は、例えば金属製であり、
図3B等に示すように弾性部材120を組み付けたロッド内挿部材110のリブ部112を内挿した状態で、
図2Bに示すようにピストンロッドPRを内挿している。
すなわち、弾性変形抑制部材130は、
図3C等に示すように、弾性部材120の上方に配置されている。
【0040】
また、弾性変形抑制部材130の外径φRoは、ロッドガイドRGの凹部直径φGよりもやや大きくなっている。
したがって、弾性変形抑制部材130は、締め代を有しており、締まり嵌め状態でロッドガイドRGに圧入してロッドガイドRGに固定されている。
【0041】
そして、この弾性変形抑制部材130は、
図6Aおよび
図6Bに示すように、円環状のベース部131と、このベース部131から内方(すなわち、中心軸Aに近づく方向)に向かって突出してロッド内挿部材110の弾性変形抑制部材装着溝112aと係合自在な係合爪部132と、ベース部131から内方に向かって突出して弾性部材120の弾性変形を抑制する変形抑制部133とから形成されている。
【0042】
係合爪部132は、
図6A等に示すように、平面視において等間隔に3箇所離間して形成されており、全ての係合爪部132の径方向の厚みや周方向長さは、等しくなっている。
そして、係合爪部132がロッド内挿部材110の弾性変形抑制部材装着溝112aと係合して弾性変形抑制部材130がロッド内挿部材110に装着されることで、弾性変形抑制部材130は、ロッド内挿部材110から上下方向に離間距離Hだけ離れた位置でロッド内挿部材110と一体になる。
なお、この離間距離Hは、
図3Cに示すように、弾性部材120の厚みTよりも大きくなっている。
【0043】
変形抑制部133は、
図6A等に示すように、平面視において等間隔に3箇所離間して形成されており、全ての変形抑制部133の径方向の厚みや周方向長さは、等しくなっている。
また、この変形抑制部133は、
図6Aに示すように、係合爪部132よりも内方に突出している。
そして、弾性変形抑制部材130の内径φRi(
図6A参照)は、ピストンロッドPRの直径φP、ロッド内挿部材110の内径φBi、弾性部材120の内径φEiよりも大きくなっている。
したがって、弾性変形抑制部材130は、
図2A等に示すように、ピストンロッドPRと径方向で離間した状態でピストンロッドPRを囲繞している。
【0044】
さらに、変形抑制部133は、
図6B等に示すように、ベース部131の下面131aから中心軸Aに向かって上り傾斜となる傾斜面133aを有している。
すなわち、この傾斜面133aは、弾性部材120の弾性当接部123と対向すると共に弾性部材120から遠ざかる方向に傾斜している。
【0045】
<3.ピストンロッドの動きに対する弾性部材の変形>
次に、
図2B、
図7A、
図7Bに基づき、ピストンロッドPRの動きに対する弾性部材120の変形について説明する。
図7AはピストンロッドPRが振動減衰器100に挿入される前のショックアブソーバーSABSの断面図であり、
図7BはピストンロッドPRが振動減衰器100に挿入されたショックアブソーバーSABSの断面図である。
【0046】
<3.1.ピストンロッド挿入時>
本発明の振動減衰器100が組み込まれる車両用ショックアブソーバーSABSを組み立てる場合、車両用ショックアブソーバーの構造上、
図7Aに示すように、ピストンロッドPRを下方から(すなわち、振動減衰器100のロッド内挿部材110側から)ロッドガイドRGに挿入する。
そして、
図7Bに示すように、振動減衰器100にピストンロッドPRが挿入されると、ピストンロッドPRは、ロッド内挿部材110に対しては摺動自在となっているため、ピストンロッドPRはロッド内挿部材110に滑らかに内挿される。
【0047】
次に、弾性部材120の内径φEiがピストンロッドPRの直径φPよりも小さいことに加え、ピストンロッドPRが弾性部材120に対しては摺動自在であること、上部傾斜面123bの先端(下部傾斜面123dの先端)が弾性部材120の厚み方向中心軸Lよりも上方に配置されていることから、ピストンロッドPRが弾性部材120に内挿されると、
図7Bに示すように、弾性当接部123が、弾性変形してピストンロッドPRの挿入方向(すなわち、上向き)に反り上がる。
したがって、弾性当接部123には、復元力Fが発生し、この弾性当接部123による復元力Fが、ピストンロッドPRに作用する。
【0048】
そして、弾性部材120の弾性当接部123の上方に弾性変形抑制部材130の変形抑制部133が位置していることから、ピストンロッドPRの弾性部材120への内挿によって弾性部材120の弾性当接部123が反り上がった際に、
図2Bに示すように、弾性部材120の弾性当接部123が弾性変形抑制部材130の変形抑制部133と当接することで、弾性部材120の弾性当接部123の変形が弾性変形抑制部材130の変形抑制部133によって抑制される。
【0049】
したがって、本実施例の振動減衰器100では、弾性部材120の材質や形状に加えて、ロッド内挿部材110と弾性変形抑制部材130との間の離間距離Hや弾性変形抑制部材130の変形抑制部133の形状を変更することで、弾性部材120の弾性当接部123の変形量が調整可能となっている。
すなわち、本実施例の振動減衰器100では、弾性部材120の材質や形状に加えて、ロッド内挿部材110と弾性変形抑制部材130との間の離間距離Hや弾性変形抑制部材130の変形抑制部133の形状なども振動減衰器100の減衰性能に影響を及ぼす設計パラメータとなっているため、多種多様な振動特性を設定することが容易となる。 また、本実施例の振動減衰器100では、弾性部材120の弾性当接部123の変形抑制により、弾性部材120の剛性(変形のしにくさ)が高まるため、振動減衰器100の振動減衰性能を向上させることが可能になっている。
したがって、本実施例の振動減衰器100は、従来の振動減衰器では対応が難しかった、良路走行時(低振幅高周波領域)における減衰力や電気自動車のようなエンジン振動のない自動車における微弱な振動に対する減衰力についても容易に向上させることができる。
【0050】
<3.2.ピストンロッド摺動時>
このようにして組み立てられた車両用ショックアブソーバーSABSが車両に組み込まれると、
図2Aおよび
図2Bに示すように、弾性部材120の弾性当接部123は弾性変形して反り上がった状態で弾性変形抑制部材130の変形抑制部133と当接すると共に路面の振動等によって上下動するピストンロッドPRと当接する。
なお、上述のように、ピストンロッドPRは弾性部材120に対しても摺動自在であるため、ピストンロッドPRが車両の走行時に路面の振動等によって上下動したとしても、弾性部材120の弾性当接部123の反り上がった状態は変わらない。
すなわち、ピストンロッドPRがロッドガイドRGに対して上下方向に往復動する際には、必ず弾性部材120の弾性当接部123が上向きに反った状態でピストンロッドPRに押圧しつつ当接する。
また、ピストンロッドPRの移動量によっては、
図2Bに示すように、弾性変形抑制部材130の変形抑制部133の傾斜面133aが、ピストンロッドPRに弾性変形した状態で当接している弾性部材120の弾性当接部123の上面123aと面接触する。
【0051】
<4.効果>
以上説明した本実施例のショックアブソーバー用振動減衰器である振動減衰器100によれば、弾性変形抑制部材130が、ピストンロッドPRとピストンロッドPRの径方向で離間した状態でピストンロッドPRを囲繞していることにより、ピストンロッドPRが振動減衰器100に対して摺動した際にピストンロッドPRが弾性変形抑制部材130と接触しないため、弾性変形抑制部材130によるピストンロッドPRの損傷を防ぐことができる。
【0052】
さらに、弾性変形抑制部材130が、弾性部材120の弾性当接部123と対向すると共に弾性部材120から遠ざかる方向に傾斜する傾斜面133aを有していることにより、傾斜面133aが弾性変形した状態でピストンロッドPRに当接している弾性部材120と面接触した場合に、弾性変形抑制部材130が弾性変形した状態でピストンロッドPRに当接している弾性部材120と線接触する場合に比べて、弾性変形抑制部材130から弾性部材120に加わる応力が集中することなく分散低減されるため、弾性部材120の摩耗損傷を抑制することができる。
【0053】
また、ロッド内挿部材110が、弾性変形抑制部材130を装着する弾性変形抑制部材装着溝112aを有していることにより、ロッド内挿部材110と弾性変形抑制部材130との厚み方向の離間距離Hが一定となるため、弾性部材120の変形量が一定になり、ピストンロッドPRに対する振動減衰器100の減衰性能を一定に保つことができる。
【0054】
さらに、ロッド内挿部材110のリブ部112が、ピストンロッドPRと摺動自在に当接していることにより、振動減衰器100とピストンロッドPRとが面接触となるため、振動減衰器100に加わるラジアル荷重が分散されて応力の集中を緩和させることができる。
また、弾性部材220の外径φEoはロッド内挿部材210の周壁部212の内径とほぼ等しくなっており、弾性部材220の内径φEiはピストンロッドPRの直径φPおよびロッド内挿部材210の内径φBiよりも小径になっている。
したがって、弾性部材220は、振動減衰器200にピストンロッドPRを挿入した状態で、第1実施例と同様に、弾性変形して上向きに反った状態で下部傾斜面222cにおいてピストンロッドPRと当接している。
例えば、第1実施例において、ロッド内挿部材110のリブ部112、弾性部材120の弾性当接部123、弾性変形抑制部材130の係合爪部132はそれぞれの部材に3箇所形成されていたが、各部の個数は全て同数であれば、これに限定されるものではない。
さらに、第1実施例において、弾性部材120の外側突出部122は3箇所形成されていたが、弾性部材120の外側突出部122の個数はこれに限定されるものではない。
そして、第1実施例において、弾性変形抑制部材130の変形抑制部133は3箇所形成されていたが、弾性変形抑制部材130の変形抑制部133の個数はこれに限定されるものではない。
例えば、第2実施例において、ロッド内挿部材210のリブ部213と弾性変形抑制部材230の係合爪部232はそれぞれの部材に3箇所形成されていたが、各部の個数は全て同数であれば、これに限定されるものではない。
さらに、第2実施例において、弾性変形抑制部材230の変形抑制部233は3箇所形成されていたが、弾性変形抑制部材230の変形抑制部233の個数はこれに限定されるものではない。
例えば、上述した実施例において、弾性部材120、220の上部傾斜面123b、222bの先端(下部傾斜面123d、222cの先端)は弾性部材120、220の厚み方向中心軸Lよりも上方に配置されていたが、上部傾斜面の先端(下部傾斜面の先端)は弾性部材の厚み方向中心軸上に配置されていてもよいし、弾性部材の厚み方向中心軸よりも下方に配置されていてもよい。
例えば、上述した実施例において、弾性変形抑制部材130、230の傾斜面133a、231aは傾斜面であったが、弾性変形抑制部材の傾斜面の形状はこれに限定されるものではなく、断面視において円弧状であってもよい。