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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113434
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】不燃繊維板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B27N 3/04 20060101AFI20240815BHJP
   E04C 2/26 20060101ALI20240815BHJP
   E04B 1/94 20060101ALI20240815BHJP
   D06M 11/68 20060101ALI20240815BHJP
   D06M 15/564 20060101ALI20240815BHJP
   D06M 11/83 20060101ALI20240815BHJP
   D04H 1/4209 20120101ALI20240815BHJP
   D04H 1/4218 20120101ALI20240815BHJP
   D04H 1/58 20120101ALI20240815BHJP
   D04H 1/425 20120101ALI20240815BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20240815BHJP
【FI】
B27N3/04 Z
E04C2/26 Z
E04B1/94 Q
E04B1/94 R
D06M11/68
D06M15/564
D06M11/83
D04H1/4209
D04H1/4218
D04H1/58
D04H1/425
D04H1/4382
B27N3/04 A
B27N3/04 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018403
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】390030340
【氏名又は名称】株式会社ノダ
(74)【代理人】
【識別番号】100085589
【弁理士】
【氏名又は名称】▲桑▼原 史生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雅則
(72)【発明者】
【氏名】吉山 恭平
【テーマコード(参考)】
2B260
2E001
2E162
4L031
4L033
4L047
【Fターム(参考)】
2B260AA02
2B260BA01
2B260BA13
2B260BA15
2B260BA18
2B260BA19
2B260BA30
2B260CB01
2B260CD02
2B260DA02
2B260DA03
2B260DA04
2B260DA05
2B260DB05
2B260DD02
2B260DD03
2B260EA05
2B260EB11
2B260EB12
2E001DE01
2E001GA12
2E001HA31
2E001HA32
2E001HA33
2E001HA34
2E001HB01
2E001HC11
2E001JD00
2E001JD02
2E162CA31
2E162CB08
2E162CC01
4L031AA02
4L031AA26
4L031AB01
4L031AB34
4L031BA04
4L031BA15
4L031BA18
4L031DA16
4L033AA02
4L033AA09
4L033AB01
4L033AC11
4L033CA50
4L047AA01
4L047AA05
4L047AA08
4L047AB02
4L047BA12
4L047BA13
4L047BA15
4L047CA07
4L047CB05
(57)【要約】
【課題】建築材料などに用いるに適した不燃性能を有すると共にMDFと同等以上の強度などの諸物性を有する不燃繊維板を提供する
【解決手段】10mm超の繊維長を有する木質繊維と10mm超の繊維長を有する無機繊維を混合して混合繊維を形成する第一工程と、第一工程で得た混合繊維に液体接着剤を付着させて液体接着剤付着混合繊維を形成する第二工程と、第二工程で得た液体接着剤付着混合繊維に粉体不燃剤と粉体接着剤を混合する第三工程と、第三工程で得た混合物中の木質繊維と無機繊維をいずれも10mm以下の繊維長に短繊維化する第四工程と、第四工程で得た混合物をマット状にして熱圧成形する第五工程と、を経て実行される不燃繊維板の製造方法である。第一工程で10mm以下の繊維長を有する無機繊維が用いられる場合は、第四工程において木質繊維のみが短繊維化される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
10mm以下の繊維長を有する木質繊維と、10mm以下の繊維長を有する無機繊維と、不燃剤とが、接着剤により結合されてなることを特徴とする不燃繊維板。
【請求項2】
表面に金属箔が設けられる、請求項1記載の不燃繊維板。
【請求項3】
10mm超の繊維長を有する木質繊維と10mm超の繊維長を有する無機繊維を混合して混合繊維を形成する第一工程と、第一工程で得た混合繊維に液体接着剤を付着させて液体接着剤付着混合繊維を形成する第二工程と、第二工程で得た液体接着剤付着混合繊維に粉体不燃剤と粉体接着剤を混合する第三工程と、第三工程で得た混合物中の木質繊維と無機繊維をいずれも10mm以下の繊維長に短繊維化する第四工程と、第四工程で得た混合物をマット状にして熱圧成形する第五工程と、を経て実行されることを特徴とする不燃繊維板の製造方法。
【請求項4】
10mm超の繊維長を有する木質繊維と10mm以下の繊維長を有する無機繊維を混合して混合繊維を形成する第一工程と、第一工程で得た混合繊維に液体接着剤を付着させて液体接着剤付着混合繊維を形成する第二工程と、第二工程で得た液体接着剤付着混合繊維に粉体不燃剤と粉体接着剤を混合する第三工程と、第三工程で得た混合物中の木質繊維を10mm以下の繊維長に短繊維化する第四工程と、第四工程で得た混合物をマット状にして熱圧成形する第五工程と、を経て実行されることを特徴とする不燃繊維板の製造方法。
【請求項5】
前記第五工程で製造された不燃繊維板の表面に金属箔を貼着する、請求項3または4記載の不燃繊維板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不燃繊維板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
MDFなどの木質繊維板は、強度、均質性、表面平滑性、加工性などに優れており、良質な木材が枯渇化している近年において、廃材や間伐材などの再利用資源から製造可能な木質繊維板は各種の建材や家具材などに幅広く用いられているが、不燃性能が劣る欠点があり、この欠点を補うために各種の提案がなされている。
【0003】
一例として、本出願人は、下記特許文献1において、無機繊維と、不燃化薬剤を付着させた有機繊維と、これらを結合する結合剤(接着剤)とを含む混合物を熱圧成形して不燃性能を有する建築用板(不燃板)とすることを提案した。ガラス繊維、ロックウールなどの無機繊維はそれ自体が不燃性能を有し、木質繊維などの有機繊維はそれ自体では不燃性能に劣るがこれに不燃化薬剤を含有させることにより繊維質(またはセルロース)の脱水が行われて炭化することにより燃えにくいものとなって不燃性能が向上するので、これらの混合物に接着剤を加えて熱圧成形した建築用板は、少なくとも表面層の不燃性能が確保され、防火性および耐火性を備えたものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-037505号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この技術は木質繊維板の不燃性能を向上させるものとして有用であるが、木質繊維と無機繊維を混合すると、これらの繊維同士が絡まって凝集塊(いわゆるダマ)となりやすい。凝集塊になってしまうと、その内部には接着剤が入り込まないので繊維同士が単に絡まり合うだけで結合されず、所望の不燃性能を発揮することができなくなる。木質繊維と無機繊維を混合したときに凝集塊になりやすい理由は現時点では十分に解明されていないが、木質繊維は一般に10~15mmの比較的長い繊維であって且つ柔らかく不定形であるのに対し、無機繊維は一般に3~15mmの比較的短い繊維から比較的長い繊維を幅広く含むものであって、短いほど固く直線状であり、長いほど柔らかく不定形であり、これらの長さおよび性状の違いが影響しているものと推測された。本発明者らは、この推測および知見に基づいてさらに考察と実験を重ねた結果、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明が解決しようとする課題は、建築材料などに用いるに適した不燃性能を有し、且つ、MDFと同等以上の強度などの諸物性を有し、MDFの代替材料として好適に使用可能な不燃繊維板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するため、本願の請求項1に係る発明は、10mm以下の繊維長を有する木質繊維と、10mm以下の繊維長を有する無機繊維と、不燃剤とが、接着剤により結合されてなることを特徴とする不燃繊維板である。
【0008】
本願の請求項2に係る発明は、請求項1記載の不燃繊維板において、表面に金属箔が設けられることを特徴とする。
【0009】
本願の請求項3に係る発明は、10mm超の繊維長を有する木質繊維と10mm超の繊維長を有する無機繊維を混合して混合繊維を形成する第一工程と、第一工程で得た混合繊維に液体接着剤を付着させて液体接着剤付着混合繊維を形成する第二工程と、第二工程で得た液体接着剤付着混合繊維に粉体不燃剤と粉体接着剤を混合する第三工程と、第三工程で得た混合物中の木質繊維と無機繊維をいずれも10mm以下の繊維長に短繊維化する第四工程と、第四工程で得た混合物をマット状にして熱圧成形する第五工程と、を経て実行されることを特徴とする不燃繊維板の製造方法である。
【0010】
本願の請求項4に係る発明は、10mm超の繊維長を有する木質繊維と10mm以下の繊維長を有する無機繊維を混合して混合繊維を形成する第一工程と、第一工程で得た混合繊維に液体接着剤を付着させて液体接着剤付着混合繊維を形成する第二工程と、第二工程で得た液体接着剤付着混合繊維に粉体不燃剤と粉体接着剤を混合する第三工程と、第三工程で得た混合物中の木質繊維を10mm以下の繊維長に短繊維化する第四工程と、第四工程で得た混合物をマット状にして熱圧成形する第五工程と、を経て実行されることを特徴とする不燃繊維板の製造方法である。
【0011】
本願の請求項5に係る発明は、請求項3または4記載の不燃繊維板の製造方法において、第五工程で製造された不燃繊維板の表面に金属箔を貼着することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の不燃繊維板は、木質繊維と無機繊維がいずれも10mm以下の繊維長を有する短繊維であり、実質的にすべての短繊維同士が良好に絡み合った状態で接着剤を介して強固に結合されている。したがって、局所的な接着不良が生じず、MDFと同等またはそれ以上の諸物性を有する。また、短繊維である木質繊維および無機繊維に対して不燃剤が均一に付着し、不燃繊維板内で均一に分布しているので、良好な不燃性能が不燃繊維板の全体に亘って均一に発揮され、局所的に不燃性能が劣る部分が存在しない。
【0013】
本発明の不燃繊維板の製造方法によれば、木質繊維と無機繊維を結合するために用いる接着剤として、従来用いられている液体接着剤を第二工程で用いると共に、第三工程で粉体接着剤を用いている。粉体接着剤は、液体接着剤のように繊維の内部に浸み込むことがないので、接着剤の総使用量を減らすことができる。また、短繊維化された木質繊維および無機繊維と粉体不燃剤と粉体接着剤とが均一に混合された状態のマットが熱圧成形されるので、粉体接着剤は熱で溶解した後に固化して樹脂マトリクスを形成して粉体不燃剤を均一に分散配置させると共に、木質繊維と無機繊維を強固に結合させて諸物性および不燃性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明による不燃繊維板を模式的に示す斜視図である。
図2】木質繊維の状態を示す模式図である。
図3】無機繊維の状態を示す模式図である。
図4】不燃繊維板製造方法の第一工程および第二工程をブレンダー内で行う説明図である。
図5図4において形成される凝集塊を拡大して示す模式図である。
図6】同じブレンダー内で第三工程を行う説明図である。
図7】カッタ―ミル内で第四工程を行う説明図である。
図8】第四工程の実行状態ないし作用を模式的に示す拡大説明図である。
図9】第四工程を経て得られる不燃剤付着混合短繊維混合物をマット状にした繊維マットの断面図である。
図10図9の繊維マットを熱圧成形して得られる不燃繊維板(図1)の断面図である。
図11図9に示す繊維マットにおける木質繊維、無機繊維、粉体不燃剤、液体接着剤および粉体接着剤(固化前)の分布状態を模式的に示す拡大断面図である。
図12図10に示す不燃繊維板における木質繊維、無機繊維、粉体不燃剤、液体接着剤および粉体接着剤(固化後)の分布状態を模式的に示す拡大断面図である。
図13図1の不燃繊維板の表面に金属箔を積層貼着した積層板の斜視図である。
図14】第三工程を経て得られる不燃剤付着混合短繊維混合物を第四工程を行わずにそのままマット状にした繊維マット(比較例)の断面図である。
図15図14の繊維マットを熱圧成形して得られる不燃繊維板(比較例)の断面図(a)および押し潰された状態で残存する凝集塊を示す斜視図(b)である。
図16図14の繊維マット(比較例)における木質繊維、無機繊維、粉体不燃剤、液体接着剤および粉体接着剤の分布状態を模式的に示す拡大断面図である。
図17図15の繊維板(比較例)における木質繊維、無機繊維、粉体不燃剤、液体接着剤および粉体接着剤の分布状態を模式的に示す拡大断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の一実施形態による不燃繊維板について、以下添付図を参照して詳述する。この不燃繊維板10は、図1に示されるように、木質繊維11と、無機繊維12と、粉体不燃剤13とが、後述する接着剤により結合されて、略均一な分布状態となっている。
【0016】
木質繊維11は、MDFの製造に一般的に使用されている木質繊維、すなわち、松、杉、桧などの針葉樹またはラワン、カポール、栗、ポプラなどの広葉樹から得られるチップを常法に従って解繊したものであり、一般的には長さ10~15mmを有するものとして得られる。すなわち、図2に示されるように、チップから解繊して得られる木質繊維11は比較的長い(10~15mm)繊維であって且つ柔らかく不定形であるが、本発明では、後述するように短繊維化工程を経ることにより、製品として得られる木質繊維板10においては、長さ10mm以下の木質繊維11となっている。
【0017】
無機繊維12は、ガラス繊維、ロックウール、スラグ繊維、炭素繊維、窒化ホウ素繊維、シリカ繊維、シリカアルミナ繊維、シリカチタニア繊維、シリコンカーバイド繊維、アルミナ繊維、ジルコニア繊維、金属繊維などの中から任意に選択して使用することができる。図3に示されるように、本発明の実施例では3~6mmの比較的短く且つ固く直線状である無機繊維12が用いられる。
【0018】
粉体不燃剤13は、リン窒素系、ホウ酸系、ハロゲン系などからなる粒径5~100μm程度の粉状の固形不燃剤であり、不燃性能を向上させる効果を発揮する上では水不溶性・水溶性を問わずに使用することができるが、水溶性の不燃剤を用いると、板材が吸湿した際に増加した水分に不燃剤が溶解し、その後に板材が放湿した際に板材の表面に不燃剤が析出する「溶脱」といわれる現象が起こりやすくなるので、水不溶性のものを用いることが好ましい。
【0019】
次に、この不燃繊維板10の製造方法について説明する。まず、木質繊維11(図2)と無機繊維12(図3)を混合して混合繊維を得て(第一工程)、この混合繊維に液体接着剤14を噴霧して液体接着剤付着混合繊維15を得て(第二工程)、さらに、この液体接着剤付着混合繊維15に粉体不燃剤13と粉体接着剤16を混合する(第三工程)。液体接着剤14は、MDFの製造に常用されている、イソシアネート系、ユリア系、メラミンユリア系、メラミン系、フェノール系などの液状の接着剤であり、粉体接着剤16は、フェノール接着剤などの熱硬化性樹脂からなる粒径5~100μm程度の粉状の接着剤である。
【0020】
第一工程、第二工程および第三工程は各々独立した工程として順次に行っても良いが、同じブレンダー20内でこれらを順次に効率的に実行することができる。すなわち、図4に示すように、ブレンダー20の材料収容部21に木質繊維11と無機繊維12を投入し、回転する撹拌羽根部22によって撹拌しながら、液体接着剤注入ノズル23から液体接着剤14を噴霧することにより、第一工程および第二工程を実質的に同時に行い、次いで、図6に示すように、粉体投入口(図示せず)から粉体不燃剤13と粉体接着剤16を投入することにより、第三工程を行うことができる。
【0021】
第一工程および第二工程を実行することにより、木質繊維11および無機繊維12のいずれにも液体接着剤14が付着して液体接着剤付着混合繊維15を得ることができるが、従来技術について既述したように、また図4にも示したように、一部に凝集塊17が形成される。
【0022】
図5に拡大して示すように、第一工程で木質繊維11と無機繊維12とを混合する際に、これらの異種繊維同士が絡まり合って混合繊維を形成するだけでなく、一部において、比較的短繊維であって硬く針状である無機繊維13同士が絡み合い、その周りを、比較的長繊維であって柔らかく不定形である木質繊維12同士が絡み合った状態で包囲するようにして、凝集塊17が形成される。この凝集塊17に対して第二工程で液体接着剤14が噴霧されると、外周部で互いに絡み付いた状態になっている木質繊維12には液体接着剤14が付着するが、凝集塊17の内部まで液体接着剤14が入り込まないので、無機繊維13には液体接着剤14が付着せず、このままの状態で圧縮すると、無機繊維13は、凝集塊17の内部で互いに結合せずバラバラの状態となって閉じ込められ、無機繊維13を配合したことによる物性や不燃性能の向上効果が十分に発揮されなくなると共に、局所的な偏在が大きくなる。
【0023】
この問題を解決するため、第一ないし第三工程を経て得られた混合物中の凝集塊17を破砕すると共に、長繊維である木質繊維11を10mm以下の繊維長に短繊維化する第四工程を実行する。この第四工程は、たとえば、図7に示すように、カッタ―ミル30を用いて実行することができる。カッタ―ミル30は、外周部31に2~10mm程度の空隙部32が断続的に形成され、内部には高速回転する羽根部33が設けられている。このカッタ―ミル30の内部に、第一ないし第三工程を経て得られた混合物(凝集塊17を含む)を投入すると、回転羽根部33によって混合物の全体が撹拌されながら、凝集塊17が徐々に外周に向けて移動し、外周に到達したときに破砕されると共に、木質繊維11が短繊維化される。
【0024】
すなわち、図8に拡大して模式的に示されるように、凝集塊17がカッタ―ミル30の外周部31に到達すると、その一部が空隙部32に入り込んでその位置に止まり、この状態でさらに回転羽根部33によって押圧されることにより凝集塊17が破砕され、内部に閉じ込められていた無機繊維12が解放される。また、凝集塊17が破砕されることにより、凝集塊17の外周で絡み合っていた木質繊維11がバラバラになり、回転羽根部33の先端とカッタ―ミル30の内面34との間や空隙部32の縁との間で大きな圧力が作用して何度も擦り潰され、または引き千切られることにより、10mm以下の繊維長に短繊維化された後、空隙部32から外部に排出される。凝集塊17を形成していない木質繊維11(カッタ―ミル30内で無機繊維12と共に混合繊維15となっている木質繊維11)も同様にして10mm以下の繊維長に短繊維化された後、空隙部32から外部に排出される。このようにして10mm以下の繊維長に短繊維化された木質繊維11と、当初から10mm以下の繊維長である無機繊維12とが良好に絡み合い、且つ、凝集塊17の外周の木質繊維11に付着していた液体接着剤14(この時点では未硬化)が無機繊維12にも付着されることになるので、いずれも短繊維である木質繊維11と無機繊維12とが液体接着剤14によって適切に結合された混合繊維となり、さらに粉体不燃剤13と粉体接着剤16が良好に混合された混合物となる(図8下図)。
【0025】
なお、図8では凝集塊17に対する処理としてその作用を図示したが、凝集塊17になっていない液体接着剤付着混合繊維15(木質繊維11と無機繊維12が適切に絡み合った状態で液体接着剤14が付着されている混合繊維)についても、カッタ―ミル30によって上記と同様の処理を受けて、長さ10mm超の長繊維として用いられた木質繊維11が長さ10mm以下に短繊維化される。
【0026】
上記のようにして凝集塊17を破砕して木質繊維11を短繊維化し、いずれも短繊維である木質繊維11と無機繊維12が液体接着剤14によって適切に結合された混合繊維とする第四工程を行って不燃剤付着混合短繊維混合物を得た後、これをマット状にして常法により熱圧成形する第五工程を行うことにより、図1の不燃繊維板10が製造される。図9は、該不燃剤付着混合短繊維混合物をマット状にした繊維マット18の断面図であり、図10は、この繊維マット18を熱圧成形して得られる図1の不燃繊維板10の断面図である。これらの断面図に示されるように、繊維マット18およびこれを熱圧成形して得た不燃繊維板10のいずれにおいても、長さ10mm以下の繊維長を有する木質繊維11および無機繊維12と粉体不燃剤13とが略均一に分布している。
【0027】
なお、図9および図10では図示省略されているが、液体接着剤14は、既述した第三工程において、木質繊維11と無機繊維12からなる混合繊維に対して噴霧されることにより、木質繊維11にはその表面に付着されると共に一部が木質繊維11の内部に浸み込んだ状態となり、無機繊維12にはその表面に付着された状態となっている。この状態が図11に示されている。そして、この繊維マット18を熱圧すると、木質繊維11の表面に付着および内部に浸透した液体接着剤14、および、無機繊維12の表面に付着した液体接着剤14が固化して固化接着剤14’(太線で図示)となることによって、木質繊維11と無機繊維12が絡み合った状態で結合されると共に、粉体接着剤16は、熱で融解して木質繊維11と無機繊維12の間を埋めた状態になって固化して樹脂マトリクス19を形成するので、木質繊維11と無機繊維12とを強固に結合する作用を発揮する。この状態が図12に示されている。木質繊維11と無機繊維12の間に略均一に分布して存在する粉体不燃剤13は、樹脂マトリクス19内で安定した状態で保持され、不燃繊維板10の不燃性能を向上させる効果を均一に発揮することができる。
【0028】
これに対し、第一ないし第三工程を経て得た混合物内の凝集塊17を破砕すると共に木質繊維11を短繊維化する第四工程を行わずに、そのままの状態で繊維マット18’とした場合、既述したように、凝集塊17の内部の繊維(主に無機繊維12)には液体接着剤14が塗布されない状態のまま繊維マット18’が形成される(図14)ので、この繊維マット18’を熱圧成形して得られる繊維板10’においても凝集塊17が押し潰された状態で残ることになる(図15)。凝集塊17の内部の繊維(主に無機繊維12)には液体接着剤14が付着していないので不燃性能が低下し、また、凝集塊17が存在することにより粉体不燃剤13が均一に分布しないことになるので繊維板10’の不燃性能が不均一になる。
【0029】
凝集塊17が形成されることによって不燃性能が低下する理由は、次のように考えられる。すなわち、凝集塊17の内部では無機繊維12に液体接着剤14が塗布されていない状態で凝集しているにすぎないので、この状態で熱圧して得られる不燃繊維板の剥離強度が低下する。剥離強度が低下すると、不燃繊維板の燃焼収縮時に表面に割れが生じやすくなり、高温による木質繊維からの燃焼ガスの噴出を抑えることができず、不燃性能の一面である遮炎性が低下する。表1に示す試験結果からも明らかなように、剥離強度と不燃性能には相関関係があり、剥離強度が大きいほど不燃性能も大きくなる傾向があるので、凝集塊17の内部において液体接着剤14が塗布されない状態の無機繊維12が多く存在しているものをそのまま熱圧して製板すると、剥離強度が低下するだけでなく不燃性能も低下する。
【0030】
以下、表1を参照して、試験例を挙げて本発明の実施例および比較例について説明する。この試験例では、MLH(南洋材雑木)のチップを解繊して得た木質繊維11(繊維長10~15mm)とガラス繊維12(繊維長3~6mm)を8:2の割合(重量比)で混合した混合繊維をブレンダー20の材料収容部21に投入し、撹拌羽根部22で撹拌しながら、液体接着剤注入ノズル23からイソシアネート系液体接着剤14を6wt%(混合繊維に対する重量比)で噴霧することにより、第一工程および第二工程を実質的に同時に行い(図4)、さらに、水不溶性リン窒素系粉体不燃剤13とフェノール系粉体接着剤16を、それぞれ7.5wt%および2.5wt%(いずれも混合繊維に対する重量比)で投入することにより、第三工程を行った(図6)後、得られた混合物内の凝集塊17を破砕すると共に木質繊維11を短繊維化する第四工程を行い(図7)、これをマット状にして、温度185℃、面圧46kg/cm、熱圧時間2分、解圧時間1分の熱圧条件で熱圧成形し、得られた繊維板の表面に厚さ0.1mmのアルミシート40を貼着したものを、実施例1~3とした(図13)。また、実施例1においてアルミシートの貼着を割愛したものを、実施例4とした。これら実施例1~4は、第一工程ないし第三工程を行うことにより得た混合物をカッタ―ミル30に投入して凝集塊17を破砕すると共に木質繊維11を短繊維化する第四工程を経ているので、木質繊維11が長さ3mm(実施例1,3,4)または6mm(実施例2)に短繊維化されている。
【0031】
これに対し、第一工程ないし第三工程を経て得た混合物を、第四工程を省略して、そのままマット状にして熱圧成形する第五工程を行って得たものを比較例1とした。比較例1は、凝集塊17を破砕すると共に木質繊維11を短繊維化する第四工程を行わずに製造されているので、木質繊維11は元の繊維長10~15mmが維持された長繊維である。また、比較例2,3は、実施例1~4と同様に凝集塊17を破砕すると共に木質繊維11を短繊維化する第四工程を行ったので木質繊維11が長さ3mmの短繊維とされているが、第三工程において粉体接着剤16を投入することを割愛し、接着剤としては第二工程で混合繊維に噴霧した液体接着剤14のみを用いた点で、実施例1~4とは相違している。液体接着剤14の使用量については、比較例2では、実施例1~4で用いた接着剤の総量(液体接着剤14と粉体接着剤16の合計重量)と同量とし、比較例3では、その1.5倍の液体接着剤14を用いた。
【0032】
上記のようにして得た実施例1~4および比較例1~3について、不燃性能および諸物性を測定・評価した。不燃性能については、ISO5660-1:2002準拠「コーンカロリーメータ試験」に基づいて総発熱量を測定すると共に、貫通孔や亀裂の有無を目視確認し、これらから不燃性能を評価した。諸物性については、剥離強度、曲げ強度および曲げヤング係数を測定し、測定数値に基づいて4段階で評価した。さらに、不燃性能および諸物性を総合的に評価した結果を表の最右欄に記載した。不燃性能および諸物性の評価に際しては、通常のMDFに比べて大幅な性能向上が確認されたものを◎、通常のMDFに比べて一定の性能向上が確認されたものを〇、通常のMDFに比べてわずかな性能向上に止まったものを△、通常のMDFと同程度の性能しか得られなかったものを×で評価した。
【0033】
【表1】
【0034】
表1に示す評価結果から明らかなように、実施例1~3はいずれも不燃性能が通常のMDF(総発熱量が50程度)に比べて大幅に向上され、不燃レベルに達しており、諸物性も概ね良好であって、MDFに代えて建材などに使用するに適した不燃繊維板であることが確認された。アルミシートを省略した実施例4は、実施例1~3より総発熱量が大きいものの、貫通孔や亀裂は存在しないので遮炎性が良好であることから、防火性能を有しており、諸物性も概ね良好であって、実用上十分にMDFの代替使用が可能な不燃繊維板であることが確認された。
【0035】
これに対し、第一ないし第三工程を経て得た混合物に対して、第四工程を行わずに、熱圧成形して得た比較例1は、木質繊維11と無機繊維12を混合したときにこれらの繊維同士が単に絡まり合っただけの状態(図5)として形成される凝集塊17が、第五工程の熱圧によって単に押し潰されただけで残っているので、凝集塊17の内部に閉じ込められた無機繊維12による不燃性能が発揮されず、通常のMDFと同程度の不燃性能にしか得られず、諸物性(特に剥離強度)も不十分であった。
【0036】
また、接着剤として液体接着剤14のみを用いた比較例2,3も、通常のMDFと同程度の不燃性にしか得られず、諸物性(特に剥離強度)も不十分であった。液体接着剤14の使用量を増大した比較例3は、比較例2に比べると若干諸物性が向上したが、不燃性能は大きく低下した。この理由について、図16および図17を参照して以下に説明する。図16は本発明のマットにおける各材の分散状態を示す図11と対比し、図17は本発明の熱圧成形後の不燃繊維板における各材の分布状態を示す図12と対比して参照すべきものである。
【0037】
既述したように、本発明では、第二工程で混合繊維に液体接着剤14を付着させると共に、得られた液体接着剤付着混合繊維15に第三工程で(粉体不燃剤13と)粉体接着剤16を付着させることとしており、液体接着剤14と粉体接着剤16を併用している。これにより、図11および図12を参照して説明したように、短繊維化された木質繊維11と無機繊維12が液体接着剤14を介して結合されると共に、粉体接着剤16が熱で融解した後に固化して得られる樹脂マトリクス19内に粉体不燃剤12が閉じ込められた状態で均一に分布されるので、不燃性能を大きく向上させる効果が得られる。また、樹脂マトリクス19によって木質繊維11と無機繊維12とをより強固に結合させるので、不燃繊維板10全体の諸物性、特に剥離強度を増大させることができる。
【0038】
これに対し、図16では、図11と同様に液体接着剤14が木質繊維11の表面に付着および一部が内部に浸み込んでおり、無機繊維12の表面にも付着しているが、粉体接着剤16が存在しない。したがって、このマットを熱圧成形して得た図17においては、粉体不燃剤16の融解後に固化して形成される樹脂マトリクス19が存在しない。この状態では、粉体不燃剤12は、木質繊維11および/または無機繊維12と接触する箇所のみで液体接着剤16によって固着されるにすぎず、樹脂マトリクス19内に安定した状態で保持されることがなく、木質繊維11と無機繊維12の結合力も弱い。このため、不燃性能が十分に発揮されず、剥離強度などの諸物性も劣ることになる。
【0039】
なお、本発明による不燃繊維板10においては、いずれも10mm以下の繊維長を有する木質繊維11および無機繊維12と、粉体不燃剤13とが均一に混合された状態で液体接着剤14および粉体接着剤16によって結合されているが、木質繊維11は、上記第一工程においては10~15mm程度の柔らかく不定形な長繊維として用いられたものが第四工程で短繊維化され、10mm以下の短繊維として不燃繊維板10に分布する。無機繊維12は、比較的柔らかく不定形な長繊維(繊維長10mm超)の状態で用いた場合は、木質繊維11と同様に第四工程で破砕されて短繊維化され、木質繊維と同程度の繊維長を有する短繊維として不燃繊維板10に分布するが、当初から比較的硬く直線状の短繊維(繊維長10mm以下)の状態で用いた場合(表1の実施例1~4)は、第四工程を経てもそれ以上短繊維化されることはなく、そのままの長さで第五工程でマット化・熱圧成形される。いずれの場合も、無機繊維12は、熱圧成形後に得られる不燃繊維板10においては、木質繊維11と同程度の繊維長を有する状態で混合されるので、短繊維同士が良好に絡み合った状態で液体接着剤14および粉体接着剤16によって結合され、剥離強度が増大し、したがって不燃性能を大幅に向上させる効果を発揮する。
【0040】
以上に本発明について試験例を挙げて詳述したが、本発明は特許請求の範囲の記載によって定められる発明の範囲内において多種多様に変形ないし変更して実施可能である。
【符号の説明】
【0041】
10 不燃繊維板
11 木質繊維
12 無機繊維
13 粉体不燃剤
14 液体接着剤
15 液体接着剤付着混合繊維
16 粉体接着剤
17 凝集塊
18 繊維マット
19 樹脂マトリクス
20 ブレンダー
21 材料収容部
22 撹拌羽根部
23 接着剤注入ノズル
30 カッタ―ミル
31 外周部
32 空隙部
33 回転羽根部
34 カッターミル内面
40 アルミシート(金属箔)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図9
図10
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図12
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図17