(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113457
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】リアクトル
(51)【国際特許分類】
H01F 37/00 20060101AFI20240815BHJP
H01F 27/06 20060101ALI20240815BHJP
H01F 27/30 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
H01F37/00 T
H01F37/00 M
H01F37/00 J
H01F27/06
H01F37/00 S
H01F27/30 160
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018452
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(74)【代理人】
【識別番号】100112564
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 考一
(74)【代理人】
【識別番号】100163500
【弁理士】
【氏名又は名称】片桐 貞典
(74)【代理人】
【識別番号】230115598
【弁護士】
【氏名又は名称】木内 加奈子
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 将司
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 孝輔
【テーマコード(参考)】
5E043
5E059
【Fターム(参考)】
5E043FA02
5E059LL03
5E059LL14
(57)【要約】 (修正有)
【課題】リアクトルの振動を設置対象物に伝搬することを抑制できるリアクトルを提供する。
【解決手段】リアクトル10は、リアクトル10を設置対象物8に固定する固定具32と、筒形状であり、固定具32が挿入される金属部材31と、金属部材31と当接し、金属部材31の周囲に設けられる弾性部材4と、弾性部材4の周囲に設けられ、弾性部材4に当接し、弾性部材4と金属部材31を一体化する樹脂部5と、を備える。金属部材31は、弾性部材4よりも固定具32の方向及び設置対象物8の設置面81の方向に突出しており、弾性部材4及び樹脂部5は、固定具32及び設置対象物8の設置面81に当接していない。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リアクトルを設置対象物に固定する固定具と、
筒形状であり、前記固定具が挿入される金属部材と、
前記金属部材の外周面に設けられ、前記金属部材と当接する弾性部材と、
前記弾性部材の外周面に設けられ、前記弾性部材に当接する樹脂部と、
を備え、
前記金属部材は、前記弾性部材よりも前記固定具の方向及び前記設置対象物の設置面の方向に突出しており、
前記弾性部材及び前記樹脂部は、前記固定具及び前記設置面に当接していないこと、
を特徴とするリアクトル。
【請求項2】
前記弾性部材は、モールド成型により形成され、前記金属部材及び前記樹脂部を一体化していること、
を特徴とする請求項1に記載のリアクトル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リアクトルに関する。
【背景技術】
【0002】
OA機器、太陽光発電システム、自動車、無停電電源など様々な用途にリアクトルが用いられている。リアクトルは主としてコイル及びコアから成る。コイルは、通電により巻数に従って磁束を発生させ、コアは、コイルが発生させた磁束を通す磁路となる。リアクトルは、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品である。
【0003】
コイルは磁気吸引力による振動を起こし、コアは磁歪による振動を起こす。これにより、リアクトルは振動する。リアクトルは、ボルト等の固定具を介して設置対象物に固定される。そのため、リアクトルの振動が固定具を介して設置対象物に伝搬する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-079222号公報
【特許文献2】特許第6480256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、リアクトルの振動を抑制するため、固定具の周囲にゴムなどの弾性力の高い弾性部材を設けて、リアクトルの振動を抑制する手法がある。しかし、弾性部材が、設置対象物に直接当接している場合、リアクトルの振動は弾性部材を介して設置対象物に伝搬する。また、弾性部材がボルト等の固定具と当接している場合、固定具は設置対象物と当接しているので、弾性部材及び固定具を介してリアクトルの振動が設置対象物に伝搬する。
【0006】
さらに、弾性部材を例えば、固定具と設置対象物の間など固定具の締結方向に挟み込むように設ける場合、固定具を締結する際に弾性部材は押しつぶされる。そのため、弾性部材は圧縮し、振動吸収機能を失い、リアクトルの振動伝搬を抑制できない虞がある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、リアクトルの振動を設置対象物に伝搬することを抑制できるリアクトルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のリアクトルは、リアクトルを設置対象物に固定する固定具と、筒形状であり、前記固定具が挿入される金属部材と、前記金属部材の外周面に設けられ、前記金属部材と当接する弾性部材と、前記弾性部材の外周面に設けられ、前記弾性部材に当接する樹脂部と、を備え、前記金属部材は、前記弾性部材よりも前記固定具の方向及び前記設置対象物の設置面の方向に突出しており、前記弾性部材及び前記樹脂部は、前記固定具及び前記設置面に当接していないこと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、リアクトルの振動を設置対象物に伝搬することを抑制できるリアクトルを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】モールドコアの全体構成を示す斜視図である。
【
図4】モールドコアにコイルを装着した状態を示す斜視図である。
【
図5】モールドコアとコイルを二次モールド樹脂で一体に成型したリアクトルを示す斜視図である。
【
図6】比較例1の固定部の構成を示す断面模式図である。
【
図7】比較例2の固定部の構成を示す断面模式図である。
【
図8】実施例において、振動の測定箇所を示す模式図である。
【
図9】実施例及び比較例1、2の振動平均値を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(実施形態)
実施形態に係るリアクトルについて、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面においては、理解容易のため、寸法、位置関係、比率又は形状等を強調して示している場合や構成部材を省略している場合があり、本発明は、それら強調に限定されるものではない。
【0012】
リアクトル10(
図5参照)は、電気エネルギーを磁気エネルギーに変換して蓄積及び放出する電磁気部品であり、ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池車の駆動システム等をはじめ、OA機器、太陽光発電システム、無停電電源といった各種の分野で使用されている。リアクトル10は、ケースや筐体など設置対象物8の設置面81に固定される。
【0013】
本実施形態のリアクトル10は、モールドコア1を備える。
図1は、モールドコアの全体構成を示す斜視図である。モールドコア1は、
図1に示すように、コア2、固定部3、弾性部材4及び樹脂部5を有する。モールドコア1は、コア2及び弾性部材4を金型に収容し、樹脂部5を金型内に注入するモールド成型により作製される。即ち、モールドコア1は、樹脂部5によって、コア2及び弾性部材4が一体化されている。固定部3は、樹脂部5の一部であり、モールド成型によって樹脂部5が硬化することで形成される。なお、モールドコア1は、後述するコイル6を装着するため、2分割となっている。
【0014】
コア2は、磁性体から成り、後述するコイル6が発生させた磁束が流れる磁路となる。コア2は、圧粉磁心、フェライト磁心、積層鋼板、又はメタルコンポジットコア等を用いることができる。メタルコンポジットコアとは、磁性粉末と樹脂とが混練され、樹脂が硬化されて成る磁性体である。
【0015】
コア2は、2つのU字型コア部材から成る。U字型コア部材は、コイル6が装着される直線状に延びる一対の脚部と、一対の脚部を繋ぐヨーク部とから成る。各U字型コア部材の互いの脚部の端面を接合することで、コア2は環状形状の閉磁路と成る。
【0016】
固定部3は、リアクトル10を設置対象物8に固定する。固定部3は、リアクトル10の四隅に設けられている。即ち、固定部3は、4つ設けられている。固定部3は、コア2のヨーク部の側面(コア2の脚部の並び方向と直交する側面)から延出している。
【0017】
図2は、固定部の拡大斜視図である。
図3は、固定部の断面模式図である。なお、
図3には、リアクトル10を設置対象物8に固定するための固定具32も図示してある。
図2及び
図3に示すように、固定部3は、金属部材31及び固定具32を有する。
【0018】
金属部材31は、例えば、金属製のカラー等であり、リアクトル10を設置対象物8に固定したときに、接合部分の強度を補強するための部材である。金属部材31は、筒形状であり、本実施形態では円筒形状である。金属部材31は、金属部材31の中心軸が設置対象物8の設置面81に直交するように配置される。金属部材31の内周に固定具32が挿入される。
【0019】
金属部材31は、固定具32と設置対象物8の間に設けられている。金属部材31の上面(固定具32の挿入方向の一方端面)は、固定具32と当接し、金属部材31の下面(固定具32の挿入方向の他方端面)は、設置対象物8の設置面81と当接している。
【0020】
固定具32は、リアクトル10を設置対象物8に固定する。固定具32を金属部材31に挿入し、締結することで、リアクトル10は設置対象物8に固定される。固定具32は、例えば、ボルトやネジなどである。
【0021】
弾性部材4は、リアクトル10の振動を設置対象物8に伝搬することを抑制するための部材である。弾性部材4は、ゴムや熱可塑性エラストマーなど弾性力の高いものを用いることができる。
【0022】
弾性部材4は、円筒形状である。弾性部材4は、金属部材31の外周面に設けられ、弾性部材4の内周面は、金属部材31の外周面に当接し、金属部材31を保持している。即ち、弾性部材4の内径は、金属部材31の外径と略同一の大きさである。もっとも、金属部材31を保持する前の状態では、金属部材31を弾性部材4の内部に挿入できるのであれば、弾性部材4の内径は、金属部材31の外径よりも若干小さくてもよい。
【0023】
固定具32の挿入方向における弾性部材4の長さは、金属部材31よりも短い。弾性部材4の上面(固定具32と対向する端面)は、金属部材31の上面よりも低い位置にあり、弾性部材4の下面(設置対象物8と対向する端面)は、金属部材31の下面よりも高い位置にある。換言すれば、金属部材31の上面及び下面は、弾性部材4の上面及び下面よりも突出している。つまり、弾性部材4は、リアクトル10が設置対象物8に固定された場合において、固定具32及び設置対象物8の設置面81には当接していない。なお、ここでいう上下方向は、設置対象物8の設置面81に直交する方向を指し、設置面81から離れる方向が上、設置面81に近づく方向が下である。
【0024】
樹脂部5は、コア2、金属部材31及び弾性部材4をモールド成型によって一体化する。このモールド成型によりモールドコア1が作製され、金属部材31及び弾性部材4は樹脂部5により固定され、固定部3が形成される。また、樹脂部5は、コア2の周囲を被覆し、コア2とコイル6の絶縁を図っている。
【0025】
固定部3を形成する樹脂部5は、弾性部材4の外周面に当接している。固定部3を形成する樹脂部5は、円筒形状であり、樹脂部5の内径は、弾性部材4の外径と略同一の大きさである。即ち、樹脂部5には弾性部材4の外周面に倣った貫通孔が空いている。樹脂部5は、金属部材31には当接していない。樹脂部5と金属部材31の間に弾性部材4が介在しており、弾性部材4の内周面が金属部材31と当接し、弾性部材4の外周面が樹脂部5と当接している。
【0026】
樹脂部5の上面及び下面は、弾性部材4の上面及び下面とそれぞれ面一になっている。即ち、リアクトル10が設置対象物8に固定された場合において、樹脂部5の上面は、固定具32と当接しておらず、樹脂部5の下面は、設置対象物8の設置面81と当接していない。なお、ここでいう樹脂部5の上面及び下面は、固定部3を形成する部分における樹脂部5の上面及び下面である。換言すれば、コア2の周囲を被覆する樹脂部5の上面及び下面ではない。そのため、コア2のヨーク部や脚部の下面を被覆する樹脂部5が設置対象物8に当接していてもよい。
【0027】
樹脂部5は、樹脂から成る。樹脂部5の樹脂の種類としては、例えば、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ウレタン樹脂、BMC(Bulk Molding Compound)、PPS(Polyphenylene Sulfide)、PBT(Polybutylene Terephthalate)、又はこれらの複合を挙げることができる。また、樹脂部5の樹脂として、例えば、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂を用いてもよい。なお、樹脂に熱伝導性のフィラーを混ぜてもよい。
【0028】
図4は、モールドコアにコイルを装着した状態を示す斜視図である。
図5は、モールドコアとコイルを二次モールド樹脂で一体に成型したリアクトルを示す斜視図である。リアクトル10は、
図4及び5に示すように、コイル6及び二次モールド樹脂7を更に備える。コイル6は、エナメルなどで絶縁被覆した1本の導電性部材により構成される。コイル6は、巻き位置を巻軸方向にずらしながら導電性部材を筒状に巻回して成る。コイル6は、導電性部材の端部である引出線を有し、この引出線が外部機器と電気的に接続する。本実施形態では、コイル6は、2つ設けられている。各コイル6は、コア2の一対の脚部にそれぞれ装着されている。即ち、2つのコイル6は、巻軸方向が平行となるように隣接して配置されている。
【0029】
二次モールド樹脂7は、モールドコア1とコイル6を一体化する。二次モールド樹脂7は、モールドコア1及びコイル6の周囲を被覆する。二次モールド樹脂7は、固定部3の周辺は被覆していない。即ち、二次モールド樹脂7は、金属部材31、固定具32及び弾性部材4には当接していない。
【0030】
二次モールド樹脂7は、樹脂から成る。二次モールド樹脂7の樹脂としては、樹脂部5と同一の種類を用いることができる。二次モールド樹脂7は、樹脂部5と同一種類の樹脂を用いてもよいし、二次モールド樹脂7と樹脂部5で異なる種類の樹脂を用いてもよい。二次モールド樹脂7によってモールド成型し、モールドコア1とコイル6を一体化することでリアクトル10は作製される。
【0031】
(作用)
次に、リアクトル10の動作時の固定部3の周囲における振動の伝搬について説明する。リアクトル10の動作時、コア2やコイル6によってリアクトル10は振動する。この振動が設置対象物8に伝搬すると設置対象物8も振動し、騒音の原因になる。また、設置対象物8にはリアクトル10以外の電気機器も搭載されているので、他の電気機器に悪影響を与えかねない。
【0032】
本実施形態のリアクトル10は、金属部材31のみが固定具32及び設置対象物8の設置面81と当接し、弾性部材4及び樹脂部5は、固定具32及び設置対象物8の設置面81と当接していない。そして、リアクトル10は、弾性部材4のみが金属部材31に当接している。つまり、リアクトル10の振動は、弾性部材4を経由しなければ、金属部材31に伝搬しない。そして、弾性部材4は、弾性力のある部材なので、リアクトル10の振動は、弾性部材4によって吸収され、金属部材31と当接する固定具32及び設置対象物8の設置面81に伝わる振動が弱まる。
【0033】
一方、弾性部材4を用いずに樹脂部5と金属部材31を当接させてリアクトルを構成する場合(
図6参照)、樹脂部5から金属部材31にリアクトル10の振動が直接伝搬する。そのため、金属部材31が設置対象物8(設置面81)に当接する伝搬経路及び金属部材31から固定具32を介して設置対象物8に伝搬する経路によってリアクトル10の振動が伝搬する。そして、弾性部材4を構成していないので振動を吸収することなく、設置対象物8に振動がダイレクトに伝搬する。
【0034】
また、弾性部材4が金属部材31の外周面ではなく、金属部材31の上面及び下面に設けられているリアクトルの場合(
図7参照)、樹脂部5からの振動が金属部材31及び固定具32を介して設置対象物8に伝搬される。そのため、金属部材31から弾性部材4を介して設置対象物8に伝搬する経路、また、金属部材31から弾性部材4及び固定具32を介して設置対象物8に伝搬する経路が存在する。
【0035】
ここで、弾性部材4は金属部材31の上面と固定具32の下面の間、金属部材31の下面と設置対象物8の設置面81の間に挟まれているので、固定具32によってリアクトル10を設置対象物8に固定する際に、押しつぶされる。そのため、弾性部材4の弾性力が低くなり、振動を吸収する機能が弱まる。そのため、弾性部材4を介する経路においても、振動は吸収され難く、リアクトル10の振動が設置対象物8に伝搬されてしまう。一方、本実施形態の弾性部材4は、金属部材31の外周面に設けられており、かつ、固定具32を締結しても押しつぶされることはないので、リアクトル10の振動を吸収することができる。
【0036】
(効果)
リアクトル10を設置対象物8に固定する固定具32と、筒形状であり、固定具32が挿入される金属部材31と、金属部材31と当接し、金属部材31の外周面に設けられる弾性部材4と、弾性部材4の外周面に設けられ、弾性部材4に当接し、弾性部材4と金属部材31を一体化する樹脂部5と、を備える。金属部材31は、弾性部材4よりも固定具32の方向及び設置対象物8の設置面81の方向に突出している。弾性部材4及び樹脂部5は、固定具32及び設置対象物8の設置面81に当接していない。
【0037】
これにより、固定部3を介するリアクトル10から設置対象物8への振動伝搬経路は、弾性部材4を経由することになる。そのため、リアクトル10の振動は弾性部材4によって吸収され、リアクトル10の振動が設置対象物8に伝搬することを抑制することができる。
【0038】
(実施例)
実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例1、2のリアクトルを作製した。
【0039】
実施例のリアクトルは、コアは、2つのU字型コアを接合することで環状コアとした。コア2として圧粉磁心を用いた。弾性部材4としては、エラストマーを用いた。まず、樹脂部5によってコア2をモールド成型した。モールド成型により作製されたモールドコア1は、貫通孔のみを有する固定部3(樹脂部5)が形成されている。このモールドコア1には、設置対象物8となるアルミプレートにリアクトルを固定する固定部3が4つ設けられている(
図8参照)。また、金属部材31の外周面に別体の弾性部材4を当接させた組立品を4つ作製した。その後、組立品を固定部3の貫通孔に圧入によって挿入し、組立品を固定部3の貫通孔に固定した。
【0040】
実施例における弾性部材4及び樹脂部5のボルト(固定具32)の挿入方向の長さは、金属部材31の長さよりも短い。つまり、固定具32でリアクトル10を設置対象物8に固定した際に、弾性部材4及び樹脂部5は、固定具32及び設置面81(後述するアルミプレート)に当接しておらず、金属部材31のみが当接している(
図3参照)。
【0041】
最後に、モールドコア1にコイル6を組み付け、モールドコア1とコイル6を一体化するために二次モールド樹脂7でモールド成型した。このようにして、実施例のリアクトル10は作製された。
【0042】
比較例1及び比較例2のリアクトルは、固定部の構成が実施例と異なる。即ち、比較例1及び比較例2のリアクトルは、固定部の構成が異なるのみで、その他の構成部材、作製工程、作製条件は実施例と同一である。
図6は、比較例1の固定部の構成を示す断面模式図である。比較例1の固定部は、
図6に示すように、弾性部材が設けられておらず、金属部材31の外周面に樹脂部5が当接している。なお、樹脂部5は、固定具32及び設置対象物8には当接していない。
【0043】
図7は、比較例2の固定部の構成を示す断面模式図である。比較例2の固定部は、金属部材31の外周面ではなく、金属部材31の上面及び下面に弾性部材4が設けられている。即ち、リアクトルがボルトで固定された際に、弾性部材4は、
図7に示すように、固定具32と金属部材31の間、金属部材31と設置対象物8の設置面81の間に設けられている。つまり、比較例2の弾性部材4は、金属部材31以外に固定具32及び設置面81に当接している。
【0044】
以上のように作製された実施例及び比較例1、2のリアクトルを設置対象物8となるアルミプレートに固定具32を用いて固定した。固定具32としてはボルトを用いた。実施例及び比較例1、2のリアクトルは、締結トルク3.4(N・m)で締結し、アルミプレートに固定された。そして、アルミプレートに固定された各リアクトルの振動を測定した。
【0045】
振動の測定は、コイルに通電しリアクトルを作動させたときの
図8の点線の丸に示す4つ設けられた各固定部の振動を測定し、4カ所の振動の平均値を算出した。各固定部の底面とアルミプレート上面の間には、高低差を埋めるためのボスが配置されており、ボスの側面の振動を測定した。具体的には、測定箇所となるボスの側面に加速度検出器(小野測器製)を取付け、その信号をFFTアナライザ(DSシリーズ、小野測器製)で測定した。実施例及び比較例1、2における測定箇所、測定条件は同一である。
【0046】
測定結果を表1及び
図9に示す。なお、表1及び
図9では、弾性部材を用いていない比較例1の振動平均値を基準、即ち、比較例1の振動平均値を1とした場合における振動の増減率を示している。
【表1】
【0047】
表1及び
図9に示すように、実施例は、弾性部材を用いていない比較例1と比べて、振動平均値が7割以上低減し、振動の伝搬が大きく抑制されていることが確認された。一方、比較例2を見ると、振動平均値は、比較例1の倍以上となっており、実施例の7倍以上の値になっている。これは、弾性部材をボルトと金属部材、金属部材と設置対象物で挟み込んだ結果、リアクトルをアルミプレートに固定するためにボルトに締結した際に、弾性部材が押しつぶされ、金属部材と設置対象物に密着した状態で硬くなるため、振動を吸収する機能を発揮できず、寧ろ、振動の伝搬性が上がってしまうことに起因するものと推察する。
【0048】
以上のことから、金属部材31のみが固定具32と設置面81に当接する構成にした実施例は、リアクトルの振動伝搬を大幅に抑制できることが確認された。
【0049】
(変形例1)
上記実施形態では、弾性部材4と樹脂部5に上面及び下面は面一で、固定具32の挿入方向の長さは同一であったが、これに限定されない。
図10は、変形例1にかかる固定部の断面模式図である。
図10に示すように、弾性部材4の上面及び下面を樹脂部5の上面及び下面よりも突出させてもよい。また、
図10では、弾性部材4の上面及び下面ともに、樹脂部5の上面及び下面よりも突出させているが、一方のみを突出させ、他方は面一にしてもよい。
【0050】
なお、弾性部材4を樹脂部5より突出させた場合においても、弾性部材4の上面及び下面は、金属部材31の上面及び下面よりも突出していない。つまり、弾性部材4の突出は、リアクトル10を設置対象物8に固定した場合に、弾性部材4の上面が固定具32に当接せず、弾性部材4の下面は、設置対象物8の設置面81と当接しない程度である。
【0051】
(変形例2)
上記変形例1では、弾性部材4の上面及び下面が樹脂部5の上面及び下面よりも突出していたが、逆でもよい。
図11は、変形例2にかかる固定部の断面模式図である。
図11に示すように、樹脂部5の上面及び下面を弾性部材4の上面及び下面よりも突出させてもよい。また、
図11では、樹脂部5の上面及び下面ともに、弾性部材4の上面及び下面よりも突出させているが、一方のみを突出させ、他方は面一にしてもよい。
【0052】
(変形例3)
また、
図11に示すように、変形例2の樹脂部5の上面は、固定具32の下面(固定具32と金属部材31が当接する端面)の位置よりも低い位置に設けられているが、これに限定されない。
図12は、変形例3にかかる固定部の断面模式図である。
図12に示すように、樹脂部5の上面は、固定具32の下面よりも高い位置に設けられていてもよい。この場合、樹脂部5と固定具32の間には隙間を設ける。即ち、樹脂部5と固定具32は当接していない。
【0053】
(変形例4)
上記実施形態では、樹脂部5でコア2、金属部材31及び弾性部材4をモールド成型してモールドコア1を作製して、固定部3を形成させた。そして、モールドコア1にコイル6を装着し、更に二次モールド樹脂7でモールドコア1とコイル6を一体化した。即ち、2回のモールド成型を行った。しかし、これに限らず、コア2、金属部材31、弾性部材4及びコイル6を樹脂部5又は二次モールド樹脂7で1回だけモールド成型し、リアクトル10を構成する各部材を一体化したうえで、固定部3を形成させてもよい。
【0054】
(変形例5)
上記実施形態及び変形例4では、コア2やコイル3とともに金属部材31及び弾性部材4をモールド成型することで、金属部材31、弾性部材4及び樹脂部5を一体化させ固定部3を形成させていたが、これに限定されない。例えば、まず、金属部材31と弾性部材4をモールド成型や接着剤等で一体化させた組立品を作製する。また、コア2やコイル3をモールド成型し、当該組立品を挿入できる貫通孔を有する樹脂部5を形成させたモールド成型品を作製する。その後、金属部材31及び弾性部材4を一体化した組立品をモールド成型品の固定部3(樹脂部5)の貫通孔に圧入または接着剤等で固定することで、固定部3を形成させてもよい。
【0055】
また、コア2やコイル3をモールド成型し、予め樹脂部5に固定部3を形成する貫通孔を作製しておき、樹脂部5の貫通孔の中に金属部材31を配置したうえ、モールド成型によって弾性部材4を形成させ、固定部3を形成させてもよい。この場合、弾性部材4によって金属部材31及び樹脂部5が一体化される。即ち、金属部材31と弾性部材4の間、弾性部材4と樹脂部5の間は、接着剤等の他の部材が介在することなく、金属部材31、弾性部材4及び樹脂部5が一体になっている。弾性部材4をモールド成型によって形成させる場合、弾性部材4を構成する樹脂としてはエラストマーが好ましい。本形態の場合、金属部材31や弾性部材4を接着剤等で一体化させる場合に比べてリアクトル10の生産性が向上する。また、弾性部材4を樹脂部5の貫通孔に圧入する場合に比べて、弾性部材4が押しつぶされることもないので、振動の伝搬抑制がより効果的となる。
【0056】
(他の実施形態)
本明細書においては、本発明に係る実施形態を説明したが、この実施形態は例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図していない。上記のような実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことができる。実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0057】
上記実施形態では、コア2を樹脂部5でモールド成型する際に、固定部3を形成させたが、これに限定されない。例えば、コイル6を樹脂部5によってモールド成型し、固定部3が形成されたモールドコイルを作製してもよい。モールドコイルに形成された固定部3は、貫通孔を有し、その後、金属部材31の外周面に別体の弾性部材4を当接させた組立品を圧入又は接着剤等で固定部3の貫通孔に固定してもよいし、モールドコイルの作製時に金属部材31及び弾性部材4を樹脂部5で一体化してもよい。
【0058】
また、上記実施形態では、樹脂部5によって固定部3を形成したが、これに限定されず、二次モールド樹脂7によって固定部3を形成させてもよい。即ち、コア2をモールド成型する際に、固定部3を形成させず、モールドコア1とコイル6を一体化する二次モールド樹脂7によって固定部3を形成させてもよい。二次モールド樹脂7によって固定部3を形成させる場合、貫通孔のみを形成させ、その後、金属部材31の外周面に別体の弾性部材4を当接させた組立品を圧入又は接着剤等で固定部3の貫通孔に固定してもよいし、二次モールド時に金属部材31及び弾性部材4を二次モールド樹脂7で一体化してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1 モールドコア
2 コア
3 固定部
31 金属部材
32 固定具
4 弾性部材
5 樹脂部
6 コイル
7 二次モールド樹脂
8 設置対象物
81 設置面
10 リアクトル