(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113468
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】作業機械の再生制御装置
(51)【国際特許分類】
E02F 3/43 20060101AFI20240815BHJP
E02F 9/20 20060101ALI20240815BHJP
F15B 11/024 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
E02F3/43 C
E02F9/20 Q
F15B11/024 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018469
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(71)【出願人】
【識別番号】000246273
【氏名又は名称】コベルコ建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100214961
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 洋三
(72)【発明者】
【氏名】菅野 直紀
(72)【発明者】
【氏名】廣澤 允紀
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀典
【テーマコード(参考)】
2D003
3H089
【Fターム(参考)】
2D003AA01
2D003AB03
2D003AB05
2D003BA01
2D003BB02
2D003BB03
2D003BB07
2D003CA04
2D003DA02
2D003DA04
2D003DC02
2D003DC04
2D003FA02
3H089AA60
3H089BB01
3H089CC01
3H089DA03
3H089DA13
3H089DB47
3H089DB49
3H089GG02
3H089JJ02
(57)【要約】
【課題】アーム再生動作が行われる作業機械においてハンチングの発生を抑制するとともにエネルギー効率を改善する。
【解決手段】再生制御装置は、アームシリンダ(27)と、再生状態と再生解除状態とに切り換わることが可能な再生回路(70)と、再生回路(70)を再生状態から再生解除状態に移行させる場合において、バケット(24)に対象物を収容する特定作業を判定するための所定の判定条件が満たされないときには再生状態から再生解除状態への移行が第1の応答性で行われ、前記判定条件が満たされるときには再生状態から再生解除状態への移行が第1の応答性よりも高い第2の応答性で行われるように再生回路(70)を制御するコントローラ(90)と、を備える。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポンプから吐出される作動油の供給を受けて作動することによりアームを動かすアームシリンダと、
前記アームシリンダから排出される作動油である排出作動油をタンクに戻す作動油流路の開口を小さくすることで前記排出作動油の少なくとも一部が再生流路を通じて前記アームシリンダに再供給される再生状態と前記開口を前記再生状態に比べて大きくすることで前記再生状態を解除する再生解除状態とに切り換わることが可能な再生回路と、
前記再生回路を前記再生状態から前記再生解除状態に移行させる場合において、バケットに対象物を収容する特定作業を判定するための所定の判定条件が満たされないときには前記再生状態から前記再生解除状態への移行が第1の応答性で行われ、前記判定条件が満たされるときには前記再生状態から前記再生解除状態への移行が前記第1の応答性よりも高い第2の応答性で行われるように前記再生回路を制御するコントローラと、を備える作業機械の再生制御装置。
【請求項2】
アーム引き操作及びバケット掘削操作を受ける操作装置をさらに備え、
前記判定条件は、前記アーム引き操作の操作量が所定のアーム設定値以上になり、前記バケット掘削操作の操作量が所定のバケット設定値以上になることを含む、請求項1に記載の作業機械の再生制御装置。
【請求項3】
アーム引き操作及びバケット掘削操作を受ける操作装置をさらに備え、
前記判定条件は、前記アーム引き操作の操作量が所定のアーム設定値以上であることが維持される時間が所定の設定時間を経過する前に、前記バケット掘削操作の操作量が所定のバケット設定値以上になることを含む、請求項1に記載の作業機械の再生制御装置。
【請求項4】
前記コントローラは、前記判定条件が満たされる場合に、前記バケット掘削操作の操作量が小さいときに比べて前記バケット掘削操作の操作量が大きいときの方が前記第2の応答性が高くなるように前記第2の応答性を変化させる、請求項2または3に記載の作業機械の再生制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、油圧ショベルなどの作業機械の再生制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧ショベルなどの作業機械は、ブーム、アーム及びバケットを含む作業装置を備え、当該作業装置を用いて種々の作業を行う。オペレータは、種々の作業のそれぞれに必要な動作を作業装置が行うように操作レバーに対してレバー操作を与え、作業機械のコントローラは、レバー操作に基づいて作業装置の動作を制御する。例えば、特許文献1は、水平引き作業を簡単かつ確実に行える油圧ショベルの油圧制御装置を開示している。
【0003】
ところで、再生回路を備える作業機械では、アームシリンダの駆動についての再生動作であるアーム再生動作が行われることがある。アーム再生動作は、アームをアーム引き方向に動かすためにアームシリンダを伸張させるときに、アームシリンダのロッド側室から排出される作動油である排出作動油の少なくとも一部をタンクに戻さずに当該アームシリンダのへッド側室に再供給する動作である。このアーム再生動作は、アームのアーム引き動作を増速させることを可能にする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
作業機械のコントローラは、作業中に変動する油圧回路の状態(例えばポンプ圧)に応じて、アーム再生動作が行われる再生状態と、アーム再生動作が行われない再生解除状態と、を切り換える制御を行う。
【0006】
しかしながら、作業中にバケットを介してアームに作用する土の抵抗が変動すると、油圧回路の状態(例えばポンプ圧)も変動するので、この変動に伴って再生回路が再生状態と再生解除状態との間で短時間に頻繁に切り換わる不具合(いわゆるハンチング)が発生することがある。このような不具合の発生を抑制するためには、再生回路が再生状態から再生解除状態に移行するときの応答性を低くするような制御を行う必要があるが、再生回路の応答性を低くするとエネルギー効率が低下するという問題がある。
【0007】
本開示は、アーム再生動作が行われる作業機械においてハンチングの発生を抑制するとともにエネルギー効率を改善することができる作業機械の再生制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
提供される作業機械の再生制御装置は、ポンプから吐出される作動油の供給を受けて作動することによりアームを動かすアームシリンダと、前記アームシリンダから排出される作動油である排出作動油をタンクに戻す作動油流路の開口を小さくすることで前記排出作動油の少なくとも一部が再生流路を通じて前記アームシリンダに再供給される再生状態と前記開口を前記再生状態に比べて大きくすることで前記再生状態を解除する再生解除状態とに切り換わることが可能な再生回路と、前記再生回路を前記再生状態から前記再生解除状態に移行させる場合において、バケットに対象物を収容する特定作業を判定するための所定の判定条件が満たされないときには前記再生状態から前記再生解除状態への移行が第1の応答性で行われ、前記判定条件が満たされるときには前記再生状態から前記再生解除状態への移行が前記第1の応答性よりも高い第2の応答性で行われるように前記再生回路を制御するコントローラと、を備える。
【0009】
この再生制御装置では、前記判定条件が満たされるとき、すなわち、バケットに対象物を収容する特定作業(例えば掘削作業)が行われるときには、再生状態から再生解除状態への移行が第2の応答性で迅速に行われるので、エネルギー効率を改善することができ、しかも、この特定作業中には対象物から受ける比較的高い抵抗がバケットに対して作用し続けることが多いため、応答性が高く設定されていてもハンチングは生じにくい。一方、前記判定条件が満たされないときには、再生状態から再生解除状態への移行が第2の応答性よりも低い第1の応答性で行われるので、ハンチングの発生を抑制することができる。従って、この再生制御装置では、アーム再生動作が行われる作業機械においてハンチングの発生を抑制するとともにエネルギー効率を改善することができる。
【0010】
前記再生制御装置は、アーム引き操作及びバケット掘削操作を受ける操作装置をさらに備え、前記判定条件は、前記アーム引き操作の操作量が所定のアーム設定値以上になり、前記バケット掘削操作の操作量が所定のバケット設定値以上になることを含むことが好ましい。この構成では、コントローラは、前記判定条件を用いて特定作業が行われているか否かを適切に判定することができる。
【0011】
前記再生制御装置は、アーム引き操作及びバケット掘削操作を受ける操作装置をさらに備え、前記判定条件は、前記アーム引き操作の操作量が所定のアーム設定値以上であることが維持される時間が所定の設定時間を経過する前に、前記バケット掘削操作の操作量が所定のバケット設定値以上になることを含むことがより好ましい。この構成では、コントローラは、時間の要素を含む前記判定条件を用いて特定作業が行われているか否かをより適切に判定することができる。
【0012】
前記コントローラは、前記判定条件が満たされる場合に、前記バケット掘削操作の操作量が小さいときに比べて前記バケット掘削操作の操作量が大きいときの方が前記第2の応答性が高くなるように前記第2の応答性を変化させることが好ましい。バケットに対象物を収容する特定作業において、オペレータはバケットをバケット掘削方向に積極的に動かすようなバケット掘削操作を行う傾向にあり、バケット掘削操作の操作量は特定作業が行われているか否かの判定の指標の一つになり得る。すなわち、前記バケット掘削操作の操作量が小さいときに比べて前記バケット掘削操作の操作量が大きいときの方が、特定作業が行われている可能性が高い。従って、この構成では、この可能性が低いときよりも可能性が高いときに、コントローラは、再生回路を再生状態から再生解除状態に高い応答性で切り換えることができる。また、バケット掘削操作の操作量に応じて前記応答性を調節することで、応答性の急激な変化による操作フィーリングの低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、アーム再生動作が行われる作業機械においてハンチングの発生を抑制するとともにエネルギー効率を改善することができる作業機械の再生制御装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本開示の実施形態に係る再生制御装置を備える作業機械である油圧ショベルを示す側面図である。
【
図2】前記油圧ショベルに搭載される油圧回路を示す図である。
【
図3】前記再生制御装置のコントローラの主な機能を示すブロック図である。
【
図4】掘削作業における作業装置の動作を説明する図である。
【
図5】水平引き作業における作業装置の動作を説明する図である。
【
図6】押し付け均し作業における作業装置の動作を説明する図である。
【
図7】掘削作業、水平引き作業及び押し付け均し作業のそれぞれについて、レバー操作量の経時変化の一例を示すグラフである。
【
図8】参考例に係る作業機械を用いた掘削作業におけるポンプ圧、再生解除フラグ、アーム引きメータアウト絞り開度、及びアーム引きメータアウト損失について説明するための図である。
【
図9】前記実施形態に係る作業機械を用いた掘削作業における再生解除応答特性、ポンプ圧、再生解除フラグ、アーム引きメータアウト絞り開度、及びアーム引きメータアウト損失について説明するための図である。
【
図10】前記コントローラが行う演算制御処理を示すフローチャートである。
【
図11】前記コントローラが行う演算制御処理の変形例を示すフローチャートである。
【
図12】前記変形例におけるバケット操作のレバー操作量と応答特性との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本開示の実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本実施形態に係る再生制御装置を備える作業機械である油圧ショベル100を示す。なお、本開示に係る再生制御装置は、ここに示される油圧ショベル100に限らず、機械本体と作業装置とを備えかつ油圧を主たる動力として作動する作業機械に広く適用され得るものである。
【0017】
油圧ショベル100は、地面G上を走行可能な下部走行体10と、下部走行体10に支持される上部旋回体12と、上部旋回体12に支持される作業装置14と、を備える。上部旋回体12は、旋回フレーム15を含み、旋回フレーム15は、縦軸Z回りに旋回可能となるように下部走行体10に支持される。上部旋回体12は、旋回フレーム15に支持される複数の要素をさらに含み、当該複数の要素は、運転室であるキャブ16と、エンジン等を収容するエンジンルーム18と、を含む。作業装置14は、ブーム20と、アーム22と、バケット24と、を含む。本実施形態では、上部旋回体12の向きを基準に前後方向Xが規定される。
【0018】
ブーム20は、上部旋回体12の前端部に水平軸を中心としてブーム上げ方向及びブーム下げ方向に回動可能に取り付けられる基端部と、その反対側の先端部と、を有する。ブーム上げ方向は、ブーム20の先端部が地面Gから遠ざかるようにブーム20が回動する方向であり、ブーム下げ方向は、ブーム上げ方向と逆の方向である。
【0019】
アーム22は、ブーム20の先端部に水平軸を中心としてアーム引き方向及びアーム押し方向に回動可能に取付けられる基端部と、その反対側の先端部と、を有する。アーム引き方向は、アーム22の先端部が後方に移動するようにアーム22がブーム20に近づく回動方向であり、アーム押し方向は、アーム引き方向と逆の回動方向である。
【0020】
バケット24は、アーム22の先端部に水平軸を中心としてバケット掘削方向及びバケット開放方向に回動可能に取付けられる基端部と、その反対側の先端部24Eと、を有する。バケット掘削方向は、バケット24の先端部24Eが上部旋回体12又はブーム20に近づくようにバケット24が回動する方向であり、バケット開放方向は、バケット掘削方向と逆の回動方向である。バケット24は、後述する押し付け均し作業において用いられる底面24Sを有する。
【0021】
油圧ショベル100は、作業装置14を油圧により動かすための複数の作業アクチュエータと、上部旋回体12を油圧により旋回させるための旋回モータ30と、をさらに備える。複数の作業アクチュエータは、ブーム20を動かすためのブームシリンダ26と、アーム22を動かすためのアームシリンダ27と、バケット24を動かすためのバケットシリンダ28と、を含む。これらのシリンダ26~28のそれぞれは、作動油の供給を受けることにより伸縮動作する油圧シリンダにより構成される。
【0022】
ブームシリンダ26は、当該ブームシリンダ26の伸縮に伴なってブーム20が起伏するように、つまりブーム上げ方向及びブーム下げ方向にそれぞれ回動するように、ブーム20と上部旋回体12とに連結される。アームシリンダ27は、当該アームシリンダ27の伸縮に伴なってアーム22がアーム引き方向及びアーム押し方向にそれぞれ回動するようにアーム22とブーム20とに連結される。バケットシリンダ28は、当該バケットシリンダ28の伸縮に伴ってバケット24がバケット掘削方向及びバケット開放方向にそれぞれ回動するようにアーム22とバケット24とに連結される。
【0023】
旋回モータ30は、出力軸を有する油圧モータにより構成され、当該出力軸が図略の減速機を介して上部旋回体12に連結されている。旋回モータ30は、作動油の供給を受けることによりその供給の方向に対応した方向に前記出力軸が回転するように動作し、これにより、上部旋回体12を左旋回方向及び右旋回方向に旋回させることが可能である。
【0024】
油圧ショベル100は、油圧回路を備える。当該油圧回路は、
図2に示すようにアーム22の回動を生じさせるための部分と、バケット24の回動を生じさせるための部分と、を含む。これらの部分は、アームシリンダ27と、バケットシリンダ28と、第1メインポンプ31と、第2メインポンプ32と、パイロットポンプ33と、操作装置と、アーム制御弁41と、バケット制御弁42と、再生切換弁72と、再生操作弁74(メータアウト絞り開度調節弁)と、を含む。前記操作装置は、アーム操作器34と、バケット操作器35と、を含む。アーム操作器34には、オペレータによるアーム引き操作及びアーム押し操作が与えられ、バケット操作器35には、オペレータによるバケット掘削操作及びバケット開放操作が与えられる。
【0025】
第1メインポンプ31、第2メインポンプ32及びパイロットポンプ33は、いずれも前記エンジンによって駆動され、これによりタンク内の油を吐出する。第1メインポンプ31は、アームシリンダ27に接続されてこれに供給されるべき作動油を吐出する油圧ポンプである。第2メインポンプ32は、バケットシリンダ28に接続されてこれに供給されるべき作動油を吐出する油圧ポンプである。パイロットポンプ33は、アーム制御弁41に供給されるべきパイロット圧、バケット制御弁42に供給されるべきパイロット圧、及び再生切換弁72に供給されるべきパイロット圧を生成するために、前記タンク内の作動油をパイロット油として吐出する油圧ポンプである。本実施形態に係る第1メインポンプ31及び第2メインポンプ32のそれぞれは、可変容量型油圧ポンプであるが、固定容量型油圧ポンプであってもよい。
【0026】
アームシリンダ27は、シリンダ本体27aと、ピストン27bと、シリンダロッド27cと、を含む。シリンダ本体27aはシリンダ室を囲む。ピストン27bはシリンダ室内に装填されて当該シリンダ室をヘッド側室27dとロッド側室27eとに区画する。シリンダロッド27cはピストン27bからロッド側室27eを貫通するように延びてシリンダ本体27aの外部に突出する。へッド側室27dに作動油が供給されることによりピストン27b及びシリンダロッド27cが前進してアームシリンダ27全体が伸長し、これによりアーム22をアーム引き方向に回動させる一方、ロッド側室27e内の作動油が排出される。逆に、ロッド側室27eに作動油が供給されることによりピストン27b及びシリンダロッド27cが後退してアームシリンダ27全体が収縮し、これによりアーム22をアーム押し方向に回動させる一方、へッド側室27d内の作動油が排出される。
【0027】
バケットシリンダ28は、シリンダ本体28aと、ピストン28bと、シリンダロッド28cと、を含む。シリンダ本体28aはシリンダ室を囲む。ピストン28bはシリンダ室内に装填されて当該シリンダ室をヘッド側室28dとロッド側室28eとに区画する。シリンダロッド28cはピストン28bからロッド側室28eを貫通するように延びてシリンダ本体28aの外部に突出する。へッド側室28dに作動油が供給されることによりピストン28b及びシリンダロッド28cが前進してバケットシリンダ28全体が伸長し、これによりバケット24をバケット掘削方向に回動させる一方、ロッド側室28e内の作動油が排出される。逆に、ロッド側室28eに作動油が供給されることによりピストン28b及びシリンダロッド28cが後退してバケットシリンダ28全体が収縮し、これによりバケット24をバケット開放方向に回動させる一方、へッド側室28d内の作動油が排出される。
【0028】
アーム制御弁41及びバケット制御弁42のそれぞれは油圧パイロット切換弁からなり、パイロットポンプ33からのパイロット圧の供給を受けることによりそのパイロット圧の大きさに応じたストロークで開弁方向に作動する。従って、アーム制御弁41は、パイロット圧に対応した流量でアームシリンダ27のヘッド側室28d及びロッド側室28eのいずれかに作動油が供給されることを許容する。バケット制御弁42はパイロット圧に対応した流量でバケットシリンダ28のへッド側室28d及びロッド側室28eのいずれかに作動油が供給されることを許容する。
【0029】
前記油圧回路は、第1メインポンプ31から吐出される作動油の流路として、センターバイパスライン51と、供給ライン52と、アーム引き戻りライン53と、アーム押し戻りライン54と、を含む。センターバイパスライン51は、第1メインポンプ31の吐出口からタンクに至るように配置され、当該センターバイパスライン51の途中にアーム制御弁41が配置される。供給ライン52は、第1メインポンプ31から吐出される作動油がアーム制御弁41に供給されることを許容するラインである。供給ライン52は、アーム制御弁41の上流側の位置でセンターバイパスライン51から分岐して当該アーム制御弁41の入口ポートに至る。
【0030】
アーム引き戻りライン53は、アーム22がアーム引き方向に回動しているときにアームシリンダ27から排出された排出作動油をタンクまで導くためのラインである。アーム押し戻りライン54は、アーム22がアーム押し方向に回動しているときにアームシリンダ27から排出された排出作動油をタンクまで導くためのラインである。
【0031】
アーム制御弁41は、3位置のパイロット切換弁であり、アーム引きパイロットポート41a及びアーム押しパイロットポート41bを有する。アーム制御弁41は、アーム引きパイロットポート41a及びアーム押しパイロットポート41bにそれぞれ供給されるパイロット圧、すなわちアーム引きパイロット圧及びアーム押しパイロット圧、がいずれも0または微小である場合は中立位置41Nに保たれ、第1メインポンプ31とアームシリンダ27との間を遮断してセンターバイパスライン51を開通することにより第1メインポンプ31からの作動油をそのままタンクに逃がす。
【0032】
アーム制御弁41は、アーム引きパイロットポート41aに一定以上のアーム引きパイロット圧が供給されると当該アーム引きパイロット圧の大きさに対応したストロークで中立位置41Nからアーム引き位置41Aにシフトし、このアーム引き位置41Aでは第1メインポンプ31からの作動油が前記ストロークに対応した流量でアームシリンダ27のへッド側室27dに供給されるのを許容するとともに当該アームシリンダ27のロッド側室27eから排出される排出作動油をアーム引き戻りライン53に導くための流路を形成する。具体的に、アーム制御弁41は、供給ライン52とへッド側室27dにつながるヘッド側室ライン55とを接続するとともにロッド側室27eにつながるロッド側室ライン56をアーム引き戻りライン53に接続する。これにより、アームシリンダ27を前記ストロークに対応する速度で伸長させてアーム22をアーム引き方向に回動させるとともに当該アームシリンダ27からの排出作動油をアーム引き戻りライン53に流す。
【0033】
逆に、アーム制御弁41は、アーム押しパイロットポート41bに一定以上のアーム押しパイロット圧が供給されると当該アーム押しパイロット圧の大きさに対応したストロークで中立位置41Nからアーム押し位置41Bにシフトし、このアーム押し位置41Bでは第1メインポンプ31からの作動油が前記ストロークに対応した流量でアームシリンダ27のロッド側室27eに供給されるのを許容するとともに当該アームシリンダ27のへッド側室27dから排出された排出作動油をアーム押し戻りライン54に導くための流路を形成する。具体的に、アーム制御弁41は、供給ライン52とロッド側室ライン56とを接続するとともにへッド側室ライン55をアーム押し戻りライン54に接続する。これにより、アームシリンダ27を前記ストロークに対応する速度でアーム押し方向に収縮させてアーム22をアーム押し方向に回動させるとともに当該アームシリンダ27からの排出作動油をアーム押し戻りライン54に流す。
【0034】
前記油圧回路は、第2メインポンプ32から吐出される作動油の流路として、センターバイパスライン61と、供給ライン62と、バケット戻りライン63と、を含む。センターバイパスライン61は、第2メインポンプ32の吐出口からタンクに至るように配置され、当該センターバイパスライン61の途中にバケット制御弁42が配置される。供給ライン62は、第2メインポンプ32から吐出される作動油がバケット制御弁42に供給されることを許容するラインである。供給ライン62は、バケット制御弁42の上流側の位置でセンターバイパスライン61から分岐して当該バケット制御弁42の入口ポートに至る。バケット戻りライン63は、バケットシリンダ28から排出された排出作動油をタンクまで導くためのラインである。
【0035】
バケット制御弁42は、3位置のパイロット切換弁であり、バケット掘削パイロットポート42a及びバケット開放パイロットポート42bを有する。バケット制御弁42は、バケット掘削パイロットポート42a及びバケット開放パイロットポート42bにそれぞれ供給されるパイロット圧、すなわちバケット掘削パイロット圧及びバケット開放パイロット圧、がいずれも0または微小である場合は中立位置42Nに保たれ、第2メインポンプ32とバケットシリンダ28との間を遮断してセンターバイパスライン61を開通することにより第2メインポンプ32からの作動油をそのままタンクに逃がす。
【0036】
バケット制御弁42は、バケット掘削パイロットポート42aに一定以上のバケット掘削パイロット圧が供給されると当該バケット掘削パイロット圧の大きさに対応したストロークで中立位置42Nからバケット掘削位置42Aにシフトし、このバケット掘削位置42Aでは第2メインポンプ32からの作動油が前記ストロークに対応した流量でバケットシリンダ28のへッド側室28dに供給されるのを許容するとともに当該バケットシリンダ28のロッド側室28eから排出される排出作動油を戻りライン63に導くための流路を形成する。具体的に、バケット制御弁42は、供給ライン62とへッド側室28dにつながるヘッド側室ライン65とを接続するとともにロッド側室28eにつながるロッド側室ライン66を戻りライン63に接続する。これにより、バケットシリンダ28を前記ストロークに対応する速度で伸長させてバケット24をバケット掘削方向に回動させるとともに当該バケットシリンダ28からの排出作動油を戻りライン63に流す。
【0037】
逆に、バケット制御弁42は、バケット開放パイロットポート42bに一定以上のバケット開放パイロット圧が供給されると当該バケット開放パイロット圧の大きさに対応したストロークで中立位置42Nからバケット開放位置42Bにシフトし、このバケット開放位置42Bでは第2メインポンプ32からの作動油が前記ストロークに対応した流量でバケットシリンダ28のロッド側室28eに供給されるのを許容するとともに当該バケットシリンダ28のへッド側室28dから排出された排出作動油を戻りライン63に導くための流路を形成する。具体的に、バケット制御弁42は、供給ライン62とロッド側室ライン66とを接続するとともにへッド側室ライン65を戻りライン63に接続する。これにより、バケットシリンダ28を前記ストロークに対応する速度でバケット開放方向に収縮させてバケット24をバケット開放方向に回動させるとともに当該バケットシリンダ28からの排出作動油を戻りライン63に流す。
【0038】
アーム操作器34は、アームレバー34aとアームパイロット弁34bとを含む。当該アーム操作器34は、アームレバー34aがオペレータにより操作されることが可能となるようにキャブ16内に設けられる。
【0039】
アームレバー34aは、アームシリンダ27を伸縮させてアーム22を回動させるためのアーム操作がオペレータにより与えられる部分である。アームレバー34aは、当該アームレバー34aの基端部を中心として回動可能となるようにアームパイロット弁34bに連結される。前記アーム操作は、アーム22をアーム引き方向に回動させるためにアームレバー34aを一方向に回動させるアーム引き操作、又はアーム22をアーム押し方向に回動させるためにアームレバー34aを前記一方向と反対の方向に回動させるアーム押し操作である。
【0040】
アームパイロット弁34bは、パイロットポンプ33とともにアーム指令部を構成する。当該アーム指令部は、アームレバー34aに与えられたアーム操作に対応した方向にアームシリンダ27を作動させる方向の開閉動作をアーム制御弁41に行わせる。具体的に、アームパイロット弁34bは、パイロットポンプ33に接続される入口ポートと、一対の出口ポートと、を有する。当該一対の出口ポートは、アーム引きパイロットライン36A及びアーム押しパイロットライン36Bをそれぞれ介してアーム制御弁41のアーム引きパイロットポート41a及びアーム押しパイロットポート41bにそれぞれ接続されている。アームパイロット弁34bは、アームレバー34aに前記アーム操作が実質上与えられず当該アームレバー34aが中立位置にあるとき、つまり当該アーム操作の大きさが実質上0である中立状態にあるときは、パイロットポンプ33とアーム引き及びアーム押しパイロットポート41a,41bとの間を遮断する閉弁状態を保つ。アームパイロット弁34bは、アームレバー34aが前記中立位置から回動操作されると、つまり当該アームレバー34aにアーム操作が与えられると、アーム引き及びアーム押しパイロットポート41a,41bのうち前記アーム操作の方向に対応するパイロットポートに対して当該アーム操作の大きさに対応した大きさをもつパイロット圧がパイロットポンプ33から供給されるのを許容するように、当該アーム操作に応じて開弁動作する。これにより、アーム制御弁41はアームレバー34aに与えられる前記アーム操作の方向に対応した方向に当該アーム操作の大きさに対応したストロークで開弁動作する。
【0041】
バケット操作器35は、バケットレバー35aとバケットパイロット弁35bとを含む。当該バケット操作器35は、バケットレバー35aがオペレータにより操作されることが可能となるようにキャブ16内に設けられる。
【0042】
バケットレバー35aは、バケットシリンダ28を伸縮させてバケット24を回動させるためのバケット操作がオペレータにより与えられる部分である。バケットレバー35aは、当該バケットレバー35aの基端部を中心として回動可能となるようにバケットパイロット弁35bに連結される。前記バケット操作は、バケット24をバケット掘削方向に回動させるためにバケットレバー35aを一方向に回動させるバケット掘削操作、又はバケット24をバケット開放方向に回動させるためにバケットレバー35aを前記一方向と反対の方向に回動させるバケット開放操作である。
【0043】
バケットパイロット弁35bは、パイロットポンプ33とともにバケット指令部を構成する。当該バケット指令部は、バケットレバー35aに与えられたバケット操作に対応した方向にバケットシリンダ28を作動させる方向の開閉動作をバケット制御弁42に行わせる。具体的に、バケットパイロット弁35bは、パイロットポンプ33に接続される入口ポートと、一対の出口ポートと、を有する。当該一対の出口ポートは、バケット掘削パイロットライン37A及びバケット開放パイロットライン37Bをそれぞれ介してバケット制御弁42のバケット掘削パイロットポート42a及びバケット開放パイロットポート42bにそれぞれ接続されている。バケットパイロット弁35bは、バケットレバー35aに前記バケット操作が実質上与えられず当該バケットレバー35aが中立位置にあるとき、つまり当該バケット操作の大きさが実質上0である中立状態にあるときは、パイロットポンプ33とバケット掘削及びバケット開放パイロットポート42a,42bとの間を遮断する閉弁状態を保つ。バケットパイロット弁35bは、バケットレバー35aが前記中立位置から回動操作されると、つまり当該バケットレバー35aにバケット操作が与えられると、バケット掘削及びバケット開放パイロットポート42a,42bのうち前記バケット操作の方向に対応するパイロットポートに対して当該バケット操作の大きさに対応した大きさをもつパイロット圧がパイロットポンプ33から供給されるのを許容するように、当該バケット操作に応じて開弁動作する。これにより、バケット制御弁42はバケットレバー35aに与えられる前記バケット操作の方向に対応した方向に当該バケット操作の大きさに対応したストロークで開弁動作する。
【0044】
前記油圧回路は、再生回路70をさらに含む。当該再生回路70は、アーム22をアーム引き方向に動かすようにアームシリンダ27が伸長しているときに当該アームシリンダ27のロッド側室27eから排出される排出作動油の一部がへッド側室27dに再供給されることを可能にし、これにより、当該アームシリンダ27の伸長動作の増速を可能にする。
【0045】
具体的に、再生回路70は、再生流路71と、再生切換弁72と、再生操作弁74と、を含む。
【0046】
再生流路71は、この実施形態では、アーム引き位置41Aにシフトされたときのアーム制御弁41によって形成される。具体的に、当該再生流路71は、アーム引き位置41Aにおける正規の戻り流路43とは別に、前記排出作動油の一部をアームシリンダ27のへッド側室27dにつながる前記へッド側室ライン55に導く流路である。前記正規の戻り流路43は、アーム引き動作においてアームシリンダ27のロッド側室27eからロッド側室ライン56を通じてアーム制御弁41に戻される排出作動油をアーム引き戻りライン53に導く流路である。
【0047】
再生切換弁72は、再生位置72Rと再生解除位置72Cとを有する切換弁であり、この実施形態では再生パイロットポート72aを有する2位置のパイロット切換弁により構成される。再生パイロットポート72aは、再生パイロットライン73を介してパイロットポンプ33に接続される。再生切換弁72は、再生パイロットポート72aに再生パイロット圧が供給されないときは再生解除位置72Cに保たれる。再生切換弁72は、再生パイロットポート72aに一定以上の再生パイロット圧が供給されると当該再生パイロット圧の大きさに対応したストロークで再生解除位置72Cから再生位置72Rに向かってシフトし、再生パイロットポート72aに所定値以上の再生パイロット圧が供給されると再生位置72Rに切り換わる。すなわち、再生切換弁72の開度は、再生パイロットポート72aに供給される再生パイロット圧の大きさに応じて連続的に又は段階的に調節される。
【0048】
なお、再生切換弁72は、再生パイロットポート72aに再生パイロット圧が供給されないときは再生位置72Rに保たれ、再生パイロットポート72aに一定以上の再生パイロット圧が供給されると当該再生パイロット圧の大きさに対応したストロークで再生位置72Rから再生解除位置72Cに向かってシフトし、再生パイロットポート72aに所定値以上の再生パイロット圧が供給されると再生解除位置72Cに切り換わるように構成されていてもよい。
【0049】
再生切換弁72は、再生位置72Rに切り換えられたときにはアーム引き戻りライン53の途中に絞りを与えて当該アーム引き戻りライン53を流れる排出作動油の流量すなわちアーム引き戻り流量を制限する。これにより、ロッド側室ライン56を通じてアーム制御弁41に流れ込む排出作動油の少なくとも一部が戻り流路43ではなく再生流路71に流れてアームシリンダ27のへッド側室27dに再供給される。つまり、再生切換弁72が再生位置72Rに切り換えられると、再生回路70は、再生状態、すなわち、アーム再生動作を行うことが可能な状態に切り換わる。
【0050】
一方、再生切換弁72は、再生解除位置72Cに切り換えられたときにはアーム引き戻りライン53を全開にしてアーム引き戻り流量の制限を解除する。これにより、アーム引き戻りライン53における圧力がへッド側室ライン55における圧力よりも十分低くなり、排出作動油の略全量が再生流路71ではなく戻り流路43に流れる。つまり、再生切換弁72が再生解除位置72Cに切り換えられると、再生回路70は、再生解除状態(再生カット状態)、すなわち、アーム再生動作が行われない状態に切り換わる。
【0051】
再生操作弁74は、再生パイロットライン73の途中に設けられている。再生操作弁74は、当該再生パイロットライン73を通じて再生切換弁72の再生パイロットポート72aに供給される再生パイロット圧の大きさを、後述するコントローラ90から入力される再生指令信号に応じて調節するように動作する。再生操作弁74は、ソレノイド74aを有する電磁式比例弁(電磁式減圧弁)により構成される。再生操作弁74は、ソレノイド74aに再生指令信号が入力されないときは閉弁してパイロットポンプ33から再生切換弁72の再生パイロットポート72aへの再生パイロット圧の供給を遮断する。一方、再生操作弁74は、ソレノイド74aに再生指令信号が入力されると、その再生指令信号に応じた開度で開弁してパイロットポンプ33から再生切換弁72の再生パイロットポート72aに供給される再生パイロット圧の大きさを調節する。
【0052】
本実施形態に係る油圧ショベルは、
図2及び
図3に示される複数のセンサ及びコントローラ90をさらに備える。コントローラ90は、
図2に示される油圧回路に接続されて前記アーム再生動作の制御を行う。前記複数のセンサは、コントローラ90による制御を可能にするために必要な情報を取得して当該コントローラ90に与えるものである。前記複数のセンサは、ポンプ圧センサ81と、アーム引きパイロット圧センサ82と、バケット掘削パイロット圧センサ83と、バケット開放パイロット圧センサ84と、を含む。
【0053】
ポンプ圧センサ81は、第1メインポンプ31から吐出される作動油の圧力であるポンプ圧を検出する。具体的に、ポンプ圧センサ81は、第1メインポンプ31の吐出口につながるポンプラインに接続される。当該ポンプ圧センサ81は、圧力センサにより構成され、前記ポンプ圧を電気信号すなわちポンプ圧検出信号に変換してコントローラ90に入力する。
【0054】
アーム引きパイロット圧センサ82は、アーム操作器34に与えられるアーム引き操作を検出するアーム引き操作検出器である。具体的に、当該アーム引きパイロット圧センサ82は、アーム引きパイロットライン36Aに接続され、当該アーム引きパイロットライン36Aを通じてアーム操作器34からアーム制御弁41のアーム引きパイロットポート41aに供給されるアーム引きパイロット圧を検出する。当該アーム引きパイロット圧センサ82は、圧力センサにより構成され、アーム引きパイロット圧を電気信号すなわちアーム引きパイロット圧検出信号に変換してコントローラ90に入力する。
【0055】
バケット掘削パイロット圧センサ83は、バケット操作器35に与えられるバケット掘削操作を検出するバケット掘削操作検出器である。具体的に、当該バケット掘削パイロット圧センサ83は、バケット掘削パイロットライン37Aに接続され、当該バケット掘削パイロットライン37Aを通じてバケット操作器35からバケット制御弁42のバケット掘削パイロットポート42aに供給されるバケット掘削パイロット圧を検出する。当該バケット掘削パイロット圧センサ83は、圧力センサにより構成され、バケット掘削パイロット圧を電気信号すなわちバケット掘削パイロット圧検出信号に変換してコントローラ90に入力する。
【0056】
バケット開放パイロット圧センサ84は、バケット操作器35に与えられるバケット開放操作を検出するバケット開放操作検出器である。具体的に、当該バケット開放パイロット圧センサ84は、バケット開放パイロットライン37Bに接続され、当該バケット開放パイロットライン37Bを通じてバケット操作器35からバケット制御弁42のバケット開放パイロットポート42bに供給されるバケット開放パイロット圧を検出する。当該バケット開放パイロット圧センサ84は、圧力センサにより構成され、バケット開放パイロット圧を電気信号すなわちバケット開放パイロット圧検出信号に変換してコントローラ90に入力する。
【0057】
コントローラ90は、CPU、MPUなどの演算処理装置と、メモリと、を含むコンピュータを備える。コントローラ90は、再生状態と再生解除状態の切り換えを含むアーム再生動作の制御を行うための機能として、
図3に示すようなモード設定部91と、応答特性設定部92と、再生制御指令部93と、を含む。
【0058】
モード設定部91は、アーム再生動作の制御モードを切り換える。制御モードは、アーム再生動作を行うことを許容する再生モードと、アーム再生動作を行うことを許容しない再生解除モードと、を含む。モード設定部91は、所定のフラグON条件を満たした場合に再生解除フラグ(再生カットフラグ)を「OFF」から「ON」に切り換える。再生解除フラグが「ON」であるときには前記制御モードは再生解除モードである。モード設定部91は、所定のフラグOFF条件を満たした場合に再生解除フラグを「ON」から「OFF」に切り換える。再生解除フラグが「OFF」であるときには前記制御モードは再生モードである。
【0059】
前記フラグON条件は、ポンプ圧が所定の設定圧(P_cut1)を超えることであってもよい。すなわち、モード設定部91は、ポンプ圧センサ81からコントローラ90に入力されるポンプ圧検出信号に基づいてポンプ圧が所定の設定圧(P_cut1)を超えたか否かを判定し、ポンプ圧が設定圧(P_cut1)を超えた場合に、再生解除フラグを「OFF」から「ON」に切り換えてもよい。
【0060】
前記フラグOFF条件は、例えば、ポンプ圧が所定の設定圧(P_cut2)以下になることであってもよい。設定圧(P_cut2)は、設定圧(P_cut1)と同じ値であってもよく、設定圧(P_cut1)より小さい値であってもよい。また、前記フラグOFF条件は、例えば、再生解除フラグが「OFF」から「ON」に切り換わった時点からの経過時間が所定のフラグOFF設定時間以上になることであってもよい。また、前記フラグOFF条件は、例えば、アーム引き操作の操作量が所定のフラグOFF設定値未満になることであってもよい。
【0061】
応答特性設定部92は、アーム引きパイロット圧センサ82、バケット掘削パイロット圧センサ83、及びバケット開放パイロット圧センサ84からコントローラ90に入力されるアーム引きパイロット圧検出信号、バケット掘削パイロット圧検出信号、及びバケット開放パイロット圧検出信号に基づいて、再生回路70が再生状態から再生解除状態へ移行するときの応答特性(過渡特性)を設定する。
【0062】
具体的には、応答特性設定部92は、掘削作業(特定作業の一例)を判定するための所定の判定条件が満たされないときには前記応答特性を所定の第1の応答性に設定し、前記判定条件が満たされるときには前記応答特性を所定の第2の応答性に設定する。第2の応答性は第1の応答性よりも高く設定されている。掘削作業は、バケットに地盤の土砂を収容するための作業である。第1の応答性は、掘削作業以外の作業、具体的には例えば押し付け均し作業、が行われるときにハンチングの発生を抑制することができるように予め設定されている。第2の応答性は、掘削作業が行われるときにエネルギー効率を改善することができるように予め設定されている。
【0063】
前記判定条件は、アーム操作器34に与えられるアーム引き操作の操作量が所定のアーム設定値以上になり、バケット操作器35に与えられるバケット掘削操作の操作量が所定のバケット設定値以上になることを含むものであってもよい(第1判定条件)。また、前記判定条件は、アーム引き操作の操作量が所定のアーム設定値以上であることが維持される時間が所定の設定時間を経過する前に、バケット掘削操作の操作量が所定のバケット設定値以上になることを含むものであってもよい(第2判定条件)。
【0064】
再生制御指令部93は、再生操作弁74の動作を制御するために再生操作弁74に指令(再生指令信号)を与えることにより、再生操作弁74の二次圧、すなわち、再生パイロットライン73を通じて再生切換弁72の再生パイロットポート72aに供給される再生パイロット圧の大きさを調節する。
【0065】
モード設定部91が前記制御モードを再生モードに設定している場合、すなわち、再生解除フラグが「OFF」である場合、再生制御指令部93は、再生切換弁72を再生位置72Rに切り換えるための再生パイロット圧が再生操作弁74から再生切換弁72の再生パイロットポート72aに供給されるような再生指令信号を、再生操作弁74のソレノイド74aに入力する。これにより、再生切換弁72が再生位置72Rに切り換わり、再生回路70が再生状態に切り換わる。
【0066】
前記モード設定部91により設定される前記制御モードが再生モードから再生解除モードに切り換わった場合、すなわち、再生解除フラグが「OFF」から「ON」に切り換わった場合、再生制御指令部93は、応答特性設定部92が設定した応答特性(第1の応答性又は第2の応答性)で再生回路70が再生状態から再生解除状態に移行するような再生指令信号を、再生操作弁74のソレノイド74aに入力する。これにより、再生操作弁74の2次圧が前記応答特性に対応する速度で変化するので、再生切換弁72の開度は、前記応答特性に対応する速度で再生位置72Rにおける開度から再生解除位置72Cにおける開度まで変化する。再生切換弁72が再生解除位置72Cに切り換わると、再生回路70が再生解除状態に切り換わる。
【0067】
再生制御指令部93は、再生操作弁74のソレノイド74aに入力する指令値の時間当たりの変化量を変えることで応答特性を変えることができる。具体的には、応答特性設定部92が応答特性を第1の応答性に設定した場合、再生制御指令部93は、再生操作弁74のソレノイド74aに入力される指令値の時間当たりの変化量が第1の所定値になるような再生指令信号を再生操作弁74のソレノイド74aに入力する。これにより、第1の応答性で再生回路70が再生状態から再生解除状態に移行する。応答特性設定部92が応答特性を第2の応答性に設定した場合、再生制御指令部93は、再生操作弁74のソレノイド74aに入力される指令値の時間当たりの変化量が第2の所定値になるような再生指令信号を再生操作弁74のソレノイド74aに入力する。これにより、第2の応答性で再生回路70が再生状態から再生解除状態に移行する。第2の所定値(指令値の時間当たりの変化量)は、第1の所定値(指令値の時間当たりの変化量)よりも大きな値である。
【0068】
アーム22のアーム引き動作を含む作業としては、掘削作業、水平引き作業、押し付け均し作業などの種々の作業を例示することができる。
図4は、掘削作業における作業装置14の動作を説明する図であり、
図5は、水平引き作業における作業装置14の動作を説明する図であり、
図6は、押し付け均し作業における作業装置14の動作を説明する図である。
図7は、掘削作業、水平引き作業、及び押し付け均し作業のそれぞれについて、オペレータが操作装置に与える操作量(レバー操作量)の経時変化の一例を示すグラフである。
図7において、アーム引き操作の操作量は実線で示され、バケット操作(バケット掘削操作又はバケット開放操作)の操作量は破線で示されている。
【0069】
図4に示すように、掘削作業は、地盤の土砂(対象物の一例)をバケット24に収容する作業である。
図7の上図(a)に示すように、掘削作業では、オペレータは、バケット24を土に貫入しやすくするためにアーム引き操作の開始とほぼ同時に、バケット掘削操作を行う。また、掘削作業では、オペレータは、バケット24の土への貫入深さを調整するためにブーム上げ操作を、アーム引き操作及びバケット掘削操作とともに行う。
図7の上図(a)に示すように、オペレータは、通常、アーム引き操作を開始した初期段階(掘削操作の初期段階)にはバケット掘削操作の操作量を比較的大きくする。
【0070】
図5に示すように、水平引き作業は、バケット24の先端部24Eが地面に沿ってほぼ水平に後方に向かって移動するようにアーム引き動作とブーム上げ動作を同時に行わせる作業である。
図7の中央図(b)に示すように、オペレータは、通常、アーム引き操作を開始した初期段階(水平引き作業の初期段階)にはバケット掘削操作の操作量をあまり大きくしない。
【0071】
図6に示すように、押し付け均し作業は、地面に対してバケット24の底面24S(
図1参照)がほぼ水平になる状態でバケット24の底面24Sが地面に沿って後方に向かって移動するようにアーム引き動作とブーム上げ動作を同時に行わせる作業である。この押し付け均し作業では、その作業中にバケット24の底面24Sが地面に対してほぼ水平な状態を維持するために、オペレータは、アーム引き操作とバケット開放操作を同時に行う。
【0072】
図8は、参考例に係る作業機械を用いた掘削作業におけるポンプ圧、再生解除フラグ、アーム引きメータアウト絞り開度、及びアーム引きメータアウト損失について説明するための図である。
【0073】
この参考例に係る掘削作業では、オペレータは、アーム引き操作を行うことでバケット24を地盤の土中に貫入させる。バケット24が土中に貫入すると、土の抵抗によりポンプ31に比較的高い圧力が発生する。コントローラは、ポンプ圧が設定圧(P_cut1)を超えた場合、再生解除フラグを「OFF」から「ON」に切り換える制御を行う。再生解除フラグが「ON」に切り換わると、コントローラは、再生回路を再生状態から再生解除状態に切り換えるために、アームシリンダから排出される作動油である排出作動油をタンクに戻す作動油流路の開口(メータアウト絞り開度)を大きくするための再生指令信号を図略の電磁弁に与える。これにより、メータアウト絞り開度は、Amo1からAmo2まで大きくなる。
【0074】
参考例に係る掘削作業では、メータアウト絞り開度がAmo1からAmo2に増加するときの応答特性(過渡特性)は、第1の応答性に設定されており、この第1の応答性は、
図8における下から2つ目のグラフにおいて矢印で示された部分の直線の傾きに相当する。すなわち、第1の応答性は、再生回路が再生状態から再生解除状態に移行するときの過渡的な段階におけるメータアウト絞り開度の変化の特性である。
【0075】
掘削作業の開始後の初期段階では、
図8における下から2つ目のグラフに示されているように、アームシリンダから排出される作動油である排出作動油をタンクに戻す作動油流路の開口の大きさ(メータアウト絞り開度)は開度Amo2には達していないため、
図8における最下のグラフに示されているように、作動油流路の開口において圧力損失(アーム引きメータアウト損失)が発生する。この圧力損失は、作動油流路の開口(メータアウト絞り開度)が開度Amo2に近づくと低下する。
【0076】
仮に、水平引き作業及び押し付け均し作業において応答特性が第1の応答性よりも大幅に小さく設定されると、再生回路が再生状態と再生解除状態との間で短時間に頻繁に切り換わるハンチングが生じるおそれがある。このため、参考例の作業機械では、ハンチングを抑制することが優先され、応答特性は、メータアウト絞り開度の変化速度が小さい第1の応答性に設定されている。このように再生回路を再生状態から再生解除状態に移行させるときの応答特性が第1の応答性に設定されている場合には、掘削作業の開始後の初期段階において、メータアウト絞り開度が比較的長い時間をかけて開度Amo2まで変化するため、この過渡的な段階においてメータアウト絞り開度が小さい状態が長く続き、その結果、前記アーム引きメータアウト損失が大きくなる。
【0077】
図9は、本実施形態に係る再生制御装置を備える油圧ショベル100を用いた掘削作業における再生解除応答特性、ポンプ圧、再生解除フラグ、アーム引きメータアウト絞り開度、及びアーム引きメータアウト損失について説明するための図である。
図9において、再生解除応答特性は、再生状態から再生解除状態へ移行するときの応答特性であり、アーム引きメータアウト絞り開度は、アームシリンダ27から排出される作動油である排出作動油をタンクに戻す作動油流路の開口の大きさであり、アーム引きメータアウト損失は、前記作動油流路の開口において生じる圧力損失である。本実施形態では、アーム引きメータアウト絞り開度(前記作動油流路の開口の大きさ)は、再生切換弁72の開度である。
【0078】
本実施形態では、コントローラ90は、再生回路70を再生状態から再生解除状態に移行させる場合において、掘削作業を判定するための所定の判定条件(前記第1判定条件又は前記第2判定条件)が満たされないときには再生状態から前記再生解除状態への移行が第1の応答性で行われ、前記判定条件が満たされるときには再生状態から再生解除状態への移行が第1の応答性よりも高い第2の応答性で行われるように再生回路70を制御する。第2の応答性は、第1の応答性よりも高い。第2の応答性は、
図9における下から2つ目のグラフにおいて矢印で示された部分の直線の傾きに相当する。
【0079】
本実施形態では、コントローラ90は、アーム引き動作を含む種々の作業のうちで掘削作業が行われる場合には、メータアウト絞り開度がAmo1からAmo2に増加するときの応答特性(過渡特性)を
図9に示す第2の応答性に設定し、アーム引き動作を含む種々の作業のうちで掘削作業以外の作業が行われる場合には、前記応答特性を
図8に示す第1の応答性に設定する。本実施形態では、掘削作業以外の作業は、水平引き作業及び押し付け均し作業の少なくとも一方である。
【0080】
本実施形態では、
図7における上図(a)及び
図8における最上の図に示すように、オペレータは、作業装置14に掘削作業を行わせるために、アーム引き操作を行うことでバケット24を地盤の土中に貫入させる。上述したように、掘削作業では、オペレータは、バケット24を土に貫入しやすくするためにアーム引き操作の開始とほぼ同時に、バケット掘削操作を同時に行う。バケット24が土中に貫入すると、土の抵抗によりポンプ31に比較的高い圧力が発生する。コントローラ90のモード設定部91は、ポンプ圧が設定圧(P_cut1)を超えた場合、再生解除フラグを「OFF」から「ON」に切り換える制御を行う。
【0081】
再生解除フラグが「OFF」から「ON」に切り換わると、コントローラ90の再生制御指令部93は、再生回路70を再生状態から再生解除状態に切り換えるために、アームシリンダ27から排出される作動油である排出作動油をタンクに戻す作動油流路の開口、すなわち、再生切換弁72の開度(メータアウト絞り開度)を大きくするための再生指令信号(指令電流)を、再生操作弁74に与える。この場合において、アーム引き操作が開始されてからアーム引き操作の操作量が前記アーム設定値以上であることが維持される時間が所定の設定時間t1(
図7参照)を経過する前に、バケット掘削操作の操作量が所定のバケット設定値(Pi_bk_dig1)以上になると、コントローラ90は、前記応答特性を第1の応答性から第2の応答性に切り換える。この再生指令信号は、再生切換弁72の開度(メータアウト絞り開度)がAmo1からAmo2まで第2の応答性で特定される変化速度で大きくなるような指令電流である。これにより、再生切換弁72の開度(メータアウト絞り開度)は、Amo1からAmo2まで第2の応答性で大きくなる。
【0082】
上記のように、本実施形態では、掘削作業が行われるときに、
図9における上から2つ目のグラフに示すように応答特性が第1の応答性から第2の応答性に切り換えられるので、応答特性が第1の応答性に維持される場合に比べて、掘削作業の開始後の初期段階においてメータアウト絞り開度が小さい状態が続く時間を短縮することができる(
図9における下から2つ目のグラフを参照)。その結果、
図9における最下のグラフに示すように、前記アーム引きメータアウト損失が大きくなることを抑制でき、掘削作業における省エネ性を向上させることができる。
【0083】
一方、コントローラ90は、アーム引き動作を含む種々の作業のうちで掘削作業以外の作業(水平引き作業又は押し付け均し作業)が行われる場合には、前記応答特性を第2の応答性に切り換えずに第1の応答性に維持する。
【0084】
図5及び
図7における中央の図(b)に示すように、水平引き作業では、アーム引き操作を開始したタイミングでのバケット掘削操作の操作量はあまり大きくなく、バケット設定値(Pi_bk_dig1)より小さい。また、
図6及び
図7における最下の図(c)に示すように、押し付け均し作業では、バケット24の底面24Sが地面に対してほぼ水平な状態を維持するために、アーム引き操作とバケット開放操作が同時に行われる。従って、コントローラ90は、上記の第1判定条件又は第2判定条件に基づいて、掘削作業ではなく、水平引き作業又は押し付け均し作業が行われていることを判定できる。
【0085】
水平引き作業では、アーム22がアーム引き動作を行うときに、アーム引き動作の方向とは反対方向にアーム22に対して土の抵抗力が作用するが、この抵抗力は比較的小さい。また、アーム22の自重がアーム引き動作の方向に沿う方向に作用するため、アームシリンダ27においてヘッド側室27dの圧力よりもロッド側室27eの圧力の方が高くなり、ポンプ圧は設定圧(P_cut1)以下となる。この圧力関係においてはアーム再生動作を行うことが可能であり、アーム再生動作によってアーム引き動作を増速させることが可能である。従って、水平引き作業において、コントローラ90は、ポンプ圧が設定圧(P_cut1)以下である場合、再生解除フラグを「OFF」に維持する制御を行い、これにより、アーム再生動作が行われる。
【0086】
この水平引き作業において、例えばバケット24が地面にある石や岩などの障害物に引っかかった場合、アーム22に作用する抵抗力が一時的に増加して、ポンプ圧が設定圧(P_cut1)を超える場合がある。この場合、コントローラ90は、再生解除フラグを「OFF」から「ON」に切り換える制御を行い、再生回路を再生状態から再生解除状態に切り換えるための再生指令信号(指令電流)を再生操作弁74に与える。これにより、メータアウト絞り開度は、Amo1からAmo2に向かって次第に大きくなる。
【0087】
仮に、水平引き作業においても応答特性が応答性の高い第2の応答性に設定されている場合、メータアウト絞り開度がAmo1からAmo2に迅速に大きくなってアームシリンダ27に再供給される作動油の流量が急激に小さくなるので、アーム引き動作の速度が急激に低下する。この場合、ブーム上げ動作とアーム引き動作の速度のバランスが崩れ、バケット24の先端部24Eが地面から上に離れるので、バケット24を水平に後方に向かって移動させることができない。
【0088】
そこで、本実施形態では、水平引き作業が行われる場合には、応答特性が第2の応答性に切り換えられずに第1の応答性に維持される。すなわち、水平引き作業が行われる場合には、掘削作業が行われる場合に比べて、再生回路70が再生状態から再生解除状態に移行するときの応答性が低くなるように再生回路70が制御される。これにより、水平引き作業中にアーム22に作用する抵抗力が一時的に増加した場合であっても、アーム引き動作の速度が急激に低下することを抑制することができ、ブーム上げ動作とアーム引き動作の速度のバランスが崩れにくくなる。これにより、水平引き作業の作業効率の低下を抑制できる。
【0089】
なお、水平引き作業では、作業中にバケット24の内部に土が次第に溜まるため、これを掻きだすためにオペレータは、水平引き作業の後半の段階で
図7における中央部(b)に示すようにバケット掘削操作の操作量を大きくする場合がある。この場合、バケット掘削操作の操作量がバケット設定値(Pi_bk_dig1)よりも大きくなることがあるが、これは、水平引き作業の後半の段階で生じることが多い。従って、前記判定条件として第2判定条件が用いられる場合には、水平引き作業の後半の段階、すなわち、アーム引き操作が開始されてからアーム引き操作の操作量が前記アーム設定値以上であることが維持される時間が所定の設定時間t1を経過した後の段階、でバケット掘削操作の操作量が大きくなったとしても、コントローラ90は、前記応答特性を第2の応答性に切り換えずに第1の応答性に維持することができる。
【0090】
押し付け均し作業では、上述したように、バケット24の底面24Sが地面に対してほぼ水平な状態を維持するために、アーム引き操作とバケット開放操作が同時に行われるので、コントローラ90は、上記の第1判定条件又は第2判定条件に基づいて、前記応答特性を第2の応答性に切り換えずに第1の応答性に維持する制御を行う。
【0091】
押し付け均し作業では、バケット24の底面24Sを地面に押し付ける力(押し付け力)が変化する場合がある。アーム22がアーム引き動作を行うときにアーム引き動作の方向とは反対方向にアーム22に対して作用する地面の抵抗力は、押し付け力に変化に応じて変化する。押し付け力が小さい場合には、アーム22に作用する抵抗力も小さいため、ポンプ圧は設定圧(P_cut1)以下となる。押し付け均し作業において、コントローラ90は、ポンプ圧が設定圧(P_cut1)以下である場合、再生解除フラグを「OFF」に維持する制御を行い、これにより、アーム再生動作が行われる。一方、押し付け均し作業において、押し付け力が増加し、アーム22に作用する抵抗力が大きくなり、ポンプ圧が設定圧(P_cut1)を超える場合もある。この場合、コントローラ90は、再生解除フラグを「OFF」から「ON」に切り換える制御を行い、再生回路を再生状態から再生解除状態に切り換えるための再生指令信号(指令電流)を再生操作弁74に与える。これにより、メータアウト絞り開度は、Amo1からAmo2に向かって次第に大きくなる。
【0092】
仮に、押し付け均し作業においても応答特性が応答性の高い第2の応答性に設定されている場合、メータアウト絞り開度がAmo1からAmo2に迅速に大きくなってアームシリンダ27に再供給される作動油の流量が急激に小さくなるので、アーム引き動作の速度が急激に低下する。この場合、ブーム上げ動作とアーム引き動作の速度のバランスが崩れ、バケット24の底面24Sが地面から上に迅速に離れる。バケット24の底面24Sが地面から離れると、アーム22に作用する抵抗力が小さくなり、ポンプ圧が設定圧(P_cut1)以下になる。この場合、コントローラ90は、再生解除フラグを「ON」から「OFF」に切り換える制御を行い、再生回路を再生解除状態から再生状態に切り換えるための再生指令信号(指令電流)を再生操作弁74に与える。従って、押し付け均し作業においても応答特性が応答性の高い第2の応答性に設定されている場合、再生回路70が再生状態と再生解除状態との間で短時間に頻繁に切り換わり、バケット24の底面24Sが地面に押し付けられることと地面から離れることを繰り返す状態であるハンチングが生じることがある。
【0093】
そこで、本実施形態では、押し付け均し作業が行われる場合には、応答特性が第2の応答性に切り換えられずに第1の応答性に維持される。すなわち、押し付け均し作業が行われる場合には、掘削作業が行われる場合に比べて、再生回路70が再生状態から再生解除状態に移行するときの応答性が低くなるように再生回路70が制御される。これにより、押し付け均し作業中に前記押し付け力が変化した場合であっても、アーム引き動作の速度が急激に低下することを抑制することができ、ブーム上げ動作とアーム引き動作の速度のバランスが崩れにくくなる。これにより、ハンチングが生じることを抑制でき、押し付け均し作業の作業効率の低下を抑制できる。
【0094】
図10は、コントローラ90が行う演算制御処理を示すフローチャートである。
図10の演算処理は、コントローラ90が応答特性を設定する流れを示している。
【0095】
コントローラ90の応答特性設定部92は、アーム引き操作の操作量がアーム設定値以上であるか否かを判定する(ステップS11)。アーム引き操作の操作量がアーム設定値未満である場合(ステップS11においてNO)、コントローラ90の応答特性設定部92は、応答特性を第1の応答性に設定する(ステップS16)。
【0096】
コントローラ90は、アーム引き操作の操作量がアーム設定値以上になった時点からの経過時間の計測を開始する(ステップS12)。
【0097】
コントローラ90の応答特性設定部92は、バケット掘削操作の操作量がバケット設定値以上であるか否かを判定する(ステップS13)。バケット掘削操作の操作量がバケット設定値未満である場合(ステップS13においてNO)、コントローラ90の応答特性設定部92は、応答特性を第1の応答性に設定する(ステップS16)。
【0098】
一方、バケット掘削操作の操作量がバケット設定値以上である場合(ステップS13においてYES)、コントローラ90の応答特性設定部92は、前記経過時間が所定の設定時間未満であるか否かを判定する(ステップS14)。前記経過時間が前記設定時間以上である場合(ステップS14においてNO)、コントローラ90の応答特性設定部92は、応答特性を第1の応答性に設定する(ステップS16)。一方、前記経過時間が前記設定時間未満である場合(ステップS14においてYES)、コントローラ90の応答特性設定部92は、応答特性を第2の応答性に設定する(ステップS15)。
【0099】
図11は、コントローラ90が行う演算制御処理の変形例を示すフローチャートである。
図11の演算処理は、コントローラ90が応答特性を設定する流れを示している。
【0100】
図11に示す変形例に係る演算処理におけるステップS11-S14,S16の処理は、
図10に示す演算処理におけるステップS11-S14,S16の処理と同様であるので、これらの説明を省略する。
【0101】
図11に示す変形例では、前記経過時間が前記設定時間未満である場合(ステップS14においてYES)、コントローラ90の応答特性設定部92は、その時点におけるバケット掘削操作の操作量に応じて第2の応答性を変える(ステップS17)。具体的には、ステップS13において、バケット掘削操作の操作量がバケット設定値(Pi_bk1)以上であると判定され、かつ、ステップS14において、前記経過時間が前記設定時間未満であると判定された場合には、
図12に示すように、コントローラ90の応答特性設定部92は、バケット掘削操作の操作量が小さいときに比べてバケット掘削操作の操作量が大きいときの方が第2の応答性が高くなるように第2の応答性を変化させる。
【0102】
バケット24に土砂(対象物の一例)を収容する掘削作業(特定作業の一例)において、オペレータはバケット24をバケット掘削方向に積極的に動かすようなバケット掘削操作を行う傾向にあり、バケット掘削操作の操作量は掘削作業が行われているか否かの判定の指標の一つになり得る。すなわち、バケット掘削操作の操作量が小さいときに比べてバケット掘削操作の操作量が大きいときの方が、掘削作業が行われている可能性が高い。従って、この変形例では、この可能性が低いときよりも可能性が高いときに、コントローラ90の応答特性設定部92は、再生回路70を再生状態から再生解除状態に高い応答性で切り換えることができる。また、バケット掘削操作の操作量に応じて前記応答性を調節することで、応答性の急激な変化による操作フィーリングの低下を抑制することができる。
【0103】
以上説明したように本実施形態に係る再生制御装置では、バケット24に土砂を収容する掘削作業のように作業中のポンプ圧が比較的高い状態が維持される特定作業が行われる場合、すなわち、前記判定条件が満たされる場合、コントローラ90は、再生状態から再生解除状態への移行が第1の応答性よりも高い第2の応答性で迅速に行われるように再生回路を制御する。これにより、アームシリンダ27から排出される排出作動油をタンクに戻す作動油流路の開口を小さい状態から大きな状態へ迅速に切り換えることができ、特定作業の開始後の初期段階、すなわち、再生状態から再生解除状態への移行が行われる過渡的な段階において、前記作動油流路の開口が小さい状態が長く続くことを抑制できる。その結果、前記過渡的な段階において前記作動油流路における圧力損失が大きくなることを抑制できる。一方、水平引き作業、押し付け均し作業などのような特定作業以外の作業が行われる場合、すなわち、前記判定条件が満たされない場合、コントローラ90は、再生状態から再生解除状態への移行が第2の応答性よりも低い第1の応答性で行われるように再生回路を制御する。水平引き作業、押し付け均し作業などのような特定作業以外の作業においても、アーム22に対して対象物から作用する力が変動することがあり、この力の変動は、ポンプ圧の変動などのように油圧回路の状態の変動の原因となり得る。このような油圧回路の状態の変動に起因して、再生回路70が再生状態と再生解除状態との間で短時間に頻繁に切り換わることがある。この場合において、仮に、再生状態から再生解除状態への移行が高い応答性で行われると、アーム引き動作の速度の変動幅も大きくなりやすい。このことは、作業効率の低下の原因となる。従って、本実施形態に係る再生制御装置では、特定作業以外の作業が行われる場合には、再生状態から再生解除状態への移行が第2の応答性よりも低い第1の応答性で行われるように再生回路70を制御することで、アーム22に対して対象物から作用する力が変動した場合であってもアーム引き動作の速度の変動幅が大きくなることを抑制することができる。これにより、特定作業以外の作業が行われる場合における作業効率の低下を抑制できる。以上のことから、この再生制御装置では、アーム再生動作が行われる油圧ショベル100において作業効率の低下を抑制すること及びエネルギー効率を改善することができる。
【0104】
[変形例]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は前記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例を含む。
【0105】
(A)操作装置について
本開示に係るアーム操作器34及びバケット操作器35は、アームパイロット弁34b及びバケットパイロット弁35bを含むものにそれぞれ限定されない。アーム操作器及びバケット操作器の少なくとも一方は、オペレータにより与えられた操作に対応した電気信号を生成してコントローラ90に入力する電気レバー装置と、コントローラ90に含まれ、前記電気レバー装置から入力される前記電気信号に基づいてパイロット圧がアーム制御弁又はバケット制御弁のパイロットポートに与えられるようにパイロットライン中の電磁操作弁に指令信号を入力するパイロット圧指令部と、を含むものでもよい。
【0106】
(B)再生回路について
本開示に係る再生回路は、
図2に示されるような前記再生流路71を含む前記アーム制御弁41と戻り流量を制限する前記再生切換弁72との組み合わせを含む回路に限定されない。当該再生回路は、アーム制御弁とは独立した単一の再生切換弁、具体的には、アームシリンダから排出される排出作動油を当該アームシリンダに再供給するための再生流路を形成する再生位置と当該排出作動油をそのままタンクに逃がす再生解除位置とに切換可能な切換弁、を含むものであってもよい。
【0107】
(C)特定作業について
前記実施形態では特定作業が、地盤の土砂を掘削する掘削作業であるが、本開示に係る特定作業は、掘削作業に限られず、バケットに対象物を収容する他の作業であってもよい。具体的には、バケットに収容する対象物は、例えば砕石、廃棄物などのように土砂以外のものであってもよい。
【符号の説明】
【0108】
22 :アーム
24 :バケット
27 :アームシリンダ
30 :旋回モータ
34 :アーム操作器
35 :バケット操作器
70 :再生回路
72 :再生切換弁
74 :再生操作弁
81 :ポンプ圧センサ
82 :アーム引きパイロット圧センサ
83 :バケット掘削パイロット圧センサ
84 :バケット開放パイロット圧センサ
90 :コントローラ
100 :油圧ショベル
t1 :設定時間