IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社 神崎高級工機製作所の特許一覧

<>
  • 特開-走行車用トランスミッション 図1
  • 特開-走行車用トランスミッション 図2
  • 特開-走行車用トランスミッション 図3
  • 特開-走行車用トランスミッション 図4
  • 特開-走行車用トランスミッション 図5
  • 特開-走行車用トランスミッション 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024011348
(43)【公開日】2024-01-25
(54)【発明の名称】走行車用トランスミッション
(51)【国際特許分類】
   F16H 3/093 20060101AFI20240118BHJP
   F16H 48/10 20120101ALI20240118BHJP
   B62D 11/12 20060101ALI20240118BHJP
【FI】
F16H3/093
F16H48/10
B62D11/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022113276
(22)【出願日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山岸 憲幸
【テーマコード(参考)】
3D052
3J027
3J528
【Fターム(参考)】
3D052AA18
3D052DD03
3D052EE01
3D052FF01
3D052GG03
3D052HH02
3D052JJ02
3D052JJ04
3D052JJ10
3D052JJ21
3D052JJ26
3J027FB09
3J027HA01
3J027HB01
3J027HB11
3J027HG03
3J027HH20
3J027HJ01
3J027HJ03
3J528EA27
3J528EB37
3J528EB53
3J528EB62
3J528EB74
3J528EB85
3J528FB06
3J528FC33
3J528FC42
3J528GA14
3J528HA13
(57)【要約】
【課題】無段変速装置を直進用と旋回用とで共用とすることでコストを抑制することができ、作動油を供給する各種装置の容量を低減することができ省エネルギー性に優れた走行車を提供する。
【解決手段】変速および旋回を行うための共通のHST11を備えた走行車のトランスミッション1において、旋回ギヤ機構18は、第2要素を正または逆方向に回転切替自在な第1多板クラッチ93と第2多板クラッチ96を有し、第1・第2多板クラッチ93・96は車両のステアリングハンドル170に対して、指示具が直進操作状態のときは両多板クラッチ93・96を非係合とし、操舵状態のときは操舵方向に応じて多板クラッチ93・96のいずれかを係合対象として択一選択し、操舵量が増えるにつれて多板クラッチ93・96の係合度を高めるように、連動連係させた。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速および旋回を行うための共通の無段変速装置を備え、
前記無段変速装置に対して並列接続される直進ギヤ機構と旋回ギヤ機構を設けると共に、
前記直進ギヤ機構からの出力を受ける第1要素と、前記旋回ギヤ機構からの出力を受ける第2要素と、前記第1要素の動力に前記第2要素の動力を合成して左右駆動輪に出力する第3要素とを含む遊星ギヤ機構を備えた走行車のトランスミッションにおいて、
前記旋回ギヤ機構は、前記第2要素を正または逆方向に回転切替自在な第1多板クラッチと第2多板クラッチを有し、
前記第1・第2多板クラッチは車両の操舵指示具に対して、該指示具が直進操作状態のときは両多板クラッチを非係合とし、操舵状態のときは操舵方向に応じて前記多板クラッチのいずれかを係合対象として択一選択し、操舵量が増えるにつれて当該多板クラッチの係合度を高めるように、連動連係させた
ことを特徴とする走行車用トランスミッション。
【請求項2】
前記第1・第2多板クラッチの動力伝達下手側には、両多板クラッチが非係合のときに前記第2要素を回転不能に固定するブレーキが備えられる
ことを特徴とする請求項1に記載の走行車用トランスミッション。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走行車用トランスミッションに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、圃場の穀稈を連続的に刈り取って脱穀するコンバインまたは耕耘トラクターなどのクローラ走行車は公知となっている。上記クローラ走行車用のトランスミッションにおいてはエンジンを駆動源として、左右走行クローラを同一方向に同一速度で駆動する走行用の油圧式無段変速装置と、左右走行クローラを互いに異なる速度ならびに逆方向に駆動可能な旋回用の油圧無段変速装置、ならびに遊星ギヤ機構を介して左右走行クローラに連動連係するとともに、ステアリングハンドルおよび変速レバー操作によって各々の変速装置を制御し、左右走行クローラの両方に駆動力を伝えながら前後進および旋回走行させる技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-277898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、無段変速装置を走行用と旋回用に個別に設けた場合には、コストが高くなる場合があった。また、各々の変速装置に作動油を供給するチャージポンプの容量、必要な作動油量、および作動油を冷却するクーラの容量も二台分必要となっており、それぞれの装置が大型化していた。また、各々の変速装置を駆動させるためのエンジン動力が必要であった。
【0005】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、無段変速装置を一つとすることでコストを抑制することができ、作動油を供給する各種装置の容量を低減することができ、省エネルギー性に優れたクローラ走行車用のトランスミッションを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0007】
すなわち、本願に開示するクローラ走行車用のトランスミッションは、変速および旋回を行うための共通の無段変速装置を備え、前記無段変速装置に対して並列接続される直進ギヤ機構と旋回ギヤ機構を設けると共に、前記直進ギヤ機構からの出力を受ける第1要素と、前記旋回ギヤ機構からの出力を受ける第2要素と、前記第1要素の動力に前記第2要素の動力を合成して左右駆動輪に出力する第3要素とを含む遊星ギヤ機構を備えた走行車のトランスミッションにおいて、前記旋回ギヤ機構は、前記第2要素を正または逆方向に回転切替自在な第1多板クラッチと第2多板クラッチを有し、前記第1・第2多板クラッチは車両の操舵指示具に対して、該指示具が直進操作状態のときは両多板クラッチを非係合とし、操舵状態のときは操舵方向に応じて前記多板クラッチのいずれかを係合対象として択一選択し、操舵量が増えるにつれて当該多板クラッチの係合度を高めるように、連動連係させたものである。
【0008】
本願に開示するクローラ走行車用のトランスミッションにおいて、前記第1・第2多板クラッチの動力伝達下手側には、両多板クラッチが非係合のときに前記第2要素を回転不能に固定するブレーキが備えられることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、無段変速装置を一つとすることでコストを抑制することができ、作動油を供給する各種装置の容量を低減することができ、さらにエンジン動力は唯一の無段変速装置を駆動するのに消費され省エネルギー性に優れた走行車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るクローラ走行車用のトランスミッションを示す動力伝達図。
図2】同じくトランスミッションを示す正面概略図。
図3】同じくトランスミッションの走行副変速ギヤ機構を示す側面断面図。
図4】同じくトランスミッションの旋回ギヤ機構を示す側面断面図。
図5】同じくトランスミッションの油圧回路図。
図6】同じくステアリングハンドルの操舵量と多板クラッチの係合度合の関係を示すグラフ図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係るクローラ車に搭載される走行車用トランスミッションについて説明する。図1および図2に示すように、トランスミッション1は、エンジンからの動力を、直進用および旋回用で共通する油圧式無段変速装置(以下、HST)11を備える。本実施例では無段変速装置を油圧式としたが電気式、機械摩擦式など各種の無段変速装置を用いてもよい。
【0012】
図1および図2に示すように、トランスミッション1は、直進ギヤ機構17および旋回ギヤ機構18と、両機構17・18に動力供給する単一の油圧無段変速 装置(HST)11を備える。ミッションケース16内には、HST11の動力を伝達する直進ギヤ機構17と、HST11の動力を伝達する旋回ギヤ機構18と、直進ギヤ機構17からの動力と旋回ギヤ機構からの動力とを合成して左右の走行クローラ15L・15Rに動力を分配して出力する遊星ギヤ機構13L・13Rと、を収容する。
【0013】
遊星ギヤ機構13L・13Rは3つの動力伝達要素を有し、本実施例においては第1要素を後述するサンギヤ81、第2要素をインターナルギヤ82、第3要素をキャリア83・遊星ギヤ84としている。
【0014】
図1に示すように、HST11の変速ポンプ31および変速モータ32は、油圧無段変速装置を構成する部品である。駆動源であるエンジン10からの動力は変速ポンプ軸31aを有する変速ポンプ31に伝達される。変速ポンプ31および変速モータ軸32aを有する変速モータ32は、油圧接続された一対のポンプとモータであり、変速ポンプ31の斜板角変更により変速モータ32の出力制御を行うものである。図2に示すように、HST11はミッションケース16の、車両の左右方向一面に装着されている。
【0015】
図2および図3に示すように、トランスミッション1は、ミッションケース16内に格納される。直進ギヤ機構17は、HST11からの動力を受けて遊星ギヤ機構13L・13Rの第1要素であるサンギヤ81に出力する副変速装置51と、副変速装置51の直進用第2軸57に配置された駐車ブレーキ52と、を有する。
【0016】
副変速装置51は、変速モータ32の変速モータ軸32aに設けられた出力用ギヤ32bと噛合する入力用ギヤ53を備えた直進用第1軸54と、直進用第1軸54に設けられた変速用出力ギヤ機構55と選択的に噛合する変速用入力ギヤ機構56を備えた直進用第2軸57と、を備える。
【0017】
直進用第1軸54は、副変速出力軸であり、副変速装置51の変速用出力ギヤ機構55を備える。変速用出力ギヤ機構55は、径の異なる複数のギヤで構成される。当該変速用出力ギヤ機構55は、複数のギヤが、直進用第1軸54に固定されており、一つのギヤが直進用第1軸54に相対回転可能に嵌設されている。
【0018】
また、直進用第2軸57は、副変速入力軸であり、副変速装置51の変速用入力ギヤ機構56を備える。変速用入力ギヤ機構56は、径の異なる複数のギヤで構成される。当該変速用入力ギヤ機構56は、複数のギヤが、直進用第2軸57に相対回転可能に嵌設されており、一つのギヤが、直進用第1軸54に固定されている。
【0019】
また、変速用入力ギヤ機構56は、直進用第1軸54に固定された2枚のギヤと係合可能な第一クラッチ60Aを備えており、一つのギヤと選択的に係合することにより、直進用第1軸54からの回転動力を低速・中速に変速して直進用第2軸57へと伝達することが可能となっている。第一クラッチ60Aは、図示せぬ副変速レバーと連動しており、前記副変速レバーの操作により第一クラッチ60Aの切り替えが行われる。
【0020】
また、変速用入力ギヤ機構56は、直進用第1軸54に相対回転可能に嵌設された一つのギヤと係合可能な第二クラッチ60Bを備えており、該ギヤと選択的に係合することにより、直進用第1軸54からの回転動力を高速に変速して直進用第2軸57へと伝達することが可能となっている。第二クラッチ60Bも前記副変速レバーと連動しており、前記副変速レバーの、前記第一クラッチ60Aの切替方向とは異なる方向への操作により第二クラッチ60Bの切り替えが行われるように機械的に連動連係している。
【0021】
直進用第2軸57には、出力用の大径ギヤ61が相対回転不能に固定されている。大径ギヤ61はサンギヤ軸62の駆動ギヤ63に噛合する。
【0022】
左右の遊星ギヤ機構13L・13Rは、サンギヤ軸62に形成するサンギヤ81と、出力軸19L・19Rに遊転軸支させるインターナルギヤ82と、出力軸19L・19Rに固定させるキャリア83と、サンギヤ81とインターナルギヤ82に噛合させる三つの遊星ギヤ84を備えるとともに、サンギヤ軸62の両端部を、キャリア83を介して出力軸19L・19Rに回転自在に軸支させる。また、ピニオン軸85は、キャリア83に一端側を圧入固定させる。そしてピニオン軸85には、遊星ギヤ84を遊転軸支させる。
【0023】
直進用第1軸54からの直進用回転動力は、サンギヤ軸62から左右の遊星ギヤ機構13L・13Rのサンギヤ81に伝達される。後述するインターナルギヤ82を回転不能に拘束したときサンギヤ81の回転は、遊星ギヤ84を介してキャリア83から左右走行クローラ15L・15Rに伝達される。オペレータが図外の主変速レバーによってHST11の出力回転の方向と速度を変更操作することにより左右走行クローラ15L・15Rが直進(前進または後進)方向に無段変速駆動される。
【0024】
一方、図1および図4に示すように、旋回ギヤ機構18は、旋回用第1軸92を備える。旋回用第1軸92は、HST11の変速モータ32の出力用ギヤ32bに対し入力用ギヤ53を介して噛合する旋回用入力ギヤ91を備える。
【0025】
旋回用第1軸92には、第1多板クラッチ93のクラッチハウジング94cが固定されている。また、旋回用第1軸92には、第1多板クラッチ93のクラッチハウジング94cに対して係脱自在な出力ギヤ101が遊嵌支持されている。
【0026】
第1多板クラッチ93は、正転回動する旋回用第1軸92からギヤ101への動力伝達の入切および変速を行う湿式多板クラッチである。第1多板クラッチ93は、旋回用第1軸92に連動して回動する複数の軸側クラッチ板とギヤ側クラッチ板とを重合して備え、油圧ピストン94bの進退により両クラッチ板を、離間状態から密着させて軸94からギヤ101への動力を伝達可能とする。
【0027】
一方、旋回用第1軸92と平行に設けた旋回用第2軸95には第2多板クラッチ96のクラッチハウジング97cが固定され、両軸92・95は、各々のハウジングの外周に形成したギヤ94a・97aを介して連動連結させている。また、旋回用第2軸95には、第2多板クラッチ96のクラッチハウジング97cに対して係脱自在な出力ギヤ102が遊嵌支持されている。
【0028】
第2多板クラッチ96は、逆転回動する旋回用第2軸95の回動からギヤ102への動力伝達の入切および変速を行う湿式多板クラッチである。第2多板クラッチ96は、旋回用第2軸95に連動して回動する複数の軸側クラッチ板とギヤ側クラッチ板とを重合して備え、油圧ピストン97bの進退により両クラッチ板を離間状態から密着させて軸95からギヤ102への動力を伝達可能とする。
【0029】
前記ギヤ94aとギヤ97aとは同一歯数、また、前記出力ギヤ101と出力ギヤ102とは同一歯数とし、前記出力ギヤ101・102の両方に対して共通する旋回出力ギヤ104を噛み合わせている。これにより旋回出力ギヤ104は、減速比が同一で、かつ、第1多板クラッチ93を係合した際の回転方向を正としたとき、第2多板クラッチ96を係合したときの回転方向が逆になるように構成されている。第1多板クラッチ93と第2多板クラッチ96のどちらを係合するかは、切替オペレータが図5のステアリングハンドル170を操作したときの操舵方向に基づいて決定される。この詳細な機構は後述する。
【0030】
旋回出力ギヤ104を固定した旋回用第3軸103には、トルク感応型の旋回防止ブレーキ105が設けられている。このブレーキ105は、特開2001-225761号公報に記載されているものと同一の機構と機能を有し、その内部には図示しない主たる部品であるカム機構、付勢バネおよび第3軸103に対するブレーキ板が備えられており、旋回出力ギヤ104および旋回用第3軸103のトルクがゼロ、もしくは、付勢バネの付勢力相当値以下のトルクであるときには、付勢バネがブレーキ板を制動して出力ギヤ106を回転不能に固定する。付勢バネの付勢力相当以上のトルクが旋回出力ギヤ104に作用したときには、カム機構によってブレーキ板の制動が解かれ出力ギヤ106からそのトルクが出力され、旋回用第4軸110に設けられた入力ギヤ111に伝達される。
【0031】
旋回用第4軸110には、中間出力ギヤ112が固定されている。中間出力ギヤ112は、旋回用第5軸114に固定されたギヤ115と噛合する。
【0032】
旋回用第5軸114には、左右の遊星ギヤ機構13L・13Rの第2要素であるインターナルギヤ82へ動力を伝達するための第5軸側出力ギヤ118、119が設けられている。第5軸側出力ギヤ118は、中間ギヤ120を介して左側のインターナルギヤ82の外側ギヤ82bと噛合する。また、第5軸側出力ギヤ119は右側のインターナルギヤ82の外側ギヤ82bと直接噛合する。
【0033】
直進時のHST11の回転動力は、左右のインターナルギヤ82・82を回転させることなく、かつ、旋回防止ブレーキ105によって回転不能に固定するため、全動力をロス無く遊星ギヤ機構13L・13Rを通して直進駆動に使用できる。
旋回時に第1多板クラッチ93または第2多板クラッチ96が係合して旋回防止ブレーキ105による拘束を解かれた旋回用第4軸110が回転するときは、直進時のHST11の回転動力は左右のインターナルギヤ82・82を、同一回転速度ではあるが、回転方向については互いに対して反対となるように駆動する。
【0034】
次に、油圧系統について図1および図5を用いて説明する。
図1および図5に示すように、HST11は、それぞれアキシャルピストン型の変速ポンプ31とモータとを閉回路142で接続して成り、本実施形態においては、ポンプ側斜板31bが可動斜板であり、モータ側斜板が固定斜板である。
【0035】
図5に示すように、HST11は、ポンプ軸31aによって駆動される補助ポンプ141と、補助ポンプ141から圧油供給を受ける閉回路142と、閉回路142への供給油圧を設定するリリーフ弁143と、一端部が閉回路142に流体接続され、かつ、分岐点144において第1および第2分岐ライン145a、145bに分岐されたチャージライン145と、閉回路142からの圧油流入を許容し、かつ、逆向きの流れを防止するように第1および第2分岐ライン145a、145bにそれぞれ介挿されたチェック弁146とを有している。
【0036】
また、図5に示すように、第1及び第2分岐ライン145a、145bのそれぞれにチェック弁146に並列状態で設けられた高圧リリーフ弁147を有している。高圧リリーフ弁147は、閉回路142を構成する一方の作動油ラインの異常高圧時に当該一方の作動油ラインの圧油を、閉回路142を構成する他方の作動油ラインに接続された分岐ライン145bおよびチェック弁146を介して他方の作動油ラインへリリーフさせる。
【0037】
また、第1及び第2分岐ライン145a、145bの一方には、当該一方の分岐ラインに介挿される前記チェック弁146をバイパスさせるバイパスライン150と、バイパスライン150に介挿された絞り150aとが設けられている。
【0038】
バイパスライン150および絞り150aは、HST作動効率の悪化を可能な範囲で防止しつつ、HST中立幅を確保する為に備えられるものであり、好ましくは、後進時高圧側の作動油ラインに流体接続された分岐ライン145bに備えられる。
【0039】
また、図5に示すように、HST11は、補助ポンプ141から圧油供給を受けて作動可能な電気制御式の油圧サーボ機構160を有している。図5に示すように、油圧サーボ機構160は、往復動可能に構成されたサーボピストン161と、サーボピストン161をポンプ側斜板31bに連結させる連結ピン162とを有している。
連結ピン162は、サーボピストン161の移動に応じてポンプ側斜板31bが傾転するように、サーボピストン161およびポンプ側斜板31bを連結している。
【0040】
油圧サーボ機構160は、さらに、サーボピストン161の各油室にそれぞれ流体接続された給排ライン163と、ドレンライン164との接続状態を切り替える切替弁165および電磁弁166とを備えている。
【0041】
前述した第1・第2多板クラッチ93・96は、非係合状態から完全係合状態に至るまでクラッチ板の密着力を、図5に示す人為操作可能な操舵指示具であるステアリングハンドル170の操舵状態に応じて無段階に変化させることができるように構成されている。
具体的には、ステアリングハンドル170の直進/右切り/左切りの操作力を第1多板クラッチ93および第2多板クラッチ96の操作部に伝える機械的なリンク機構を設け、或いは、後述するようにステアリングハンドル170の操舵量をポテンショメータ等で電気信号に変換し、その信号値に応じた油圧力に変換することによりクラッチ板の密着力を変更操作するようにしてもよい。なお、操向部材であるステアリングハンドル170の構造については種々の構成を取り得る。
【0042】
本実施形態において制御装置171は、ステアリングハンドル170への人為操作に応じた操舵方向と旋回半径が得られるように、第1多板クラッチ93または第2多板クラッチ96への給油圧力を各別に調整してクラッチ板の密着力の制御を行うように構成される。
【0043】
補助ポンプ141から圧油供給を受ける作動油供給ラインにはさらに分岐点173a・173bが設けられており、分岐点173a・173bから分岐するクラッチ作動油ライン174a・174bが第1多板クラッチ93および第2多板クラッチ96の操作部(給油ポート)に接続される。このラインの途中には、作動油供給ラインからの圧油の流入および停止を切換える圧力比例弁175a・175bが設けられている。
【0044】
例えばステアリングハンドル170を右に切ることによって第1多板クラッチ93を係合させる場合には、クラッチ作動油ライン174a内にある圧力比例弁175aが通電されて開状態となり、第1多板クラッチ93へ作動油が供給される。また、ステアリングハンドル170を左に切ることによって、第2多板クラッチ96を作動させる場合には、クラッチ作動油ライン174b内にある圧力比例弁175bが通電されて開状態となり、第2多板クラッチ96へ作動油が供給される。
【0045】
リリーフ弁143の排油ラインには潤滑油圧設定リリーフ弁151を介在させ、該リリーフ弁151の一次側の分岐点173cより潤滑油ライン174cを設けて末端を多板クラッチ93・96および旋回防止ブレーキ105の各潤滑油導入ポートに並列接続する。多板クラッチ93・96および旋回防止ブレーキ105には図示しないが通例の如くクラッチ板およびブレーキ板などの被潤滑部位に対する潤滑油供給構造を有する。図4における符号100は油路ブロックを示し旋回用第1軸92と旋回用第2軸95の軸端突出部92a・95aに被嵌される。各軸端突出部92a・95aにはクラッチ作動油導入ポートおよび潤滑油導入ポートが開口され油路ブロック100を介してクラッチ作動油ライン174a・174bおよび潤滑油ライン174cに接続される。
【0046】
図6に示すように、ステアリングハンドル170が直進状態に操作されたときは、制御装置171は圧力比例弁175aおよび圧力比例弁175bを閉状態として多板クラッチ93・96への給油は停止すると共に、多板クラッチ93・96のピストン室内の作動油はタンクにドレンされる。このため旋回出力ギヤ104は回転せず、前述の旋回防止ブレーキ105の作用により出力ギヤ106は固定される。一方、ステアリングハンドル170を右または左に切ると、その操舵量に応じて制御装置171は圧力比例弁175a(または175b)への給電量を二次関数的に増加させ、第1多板クラッチ93(第2多板クラッチ96)の油圧ピストンに対する係合油圧が増加し旋回出力ギヤ104の回転が増加する。なお、ステアリングハンドル170が遊びの範囲内で操作されるときは旋回出力ギヤ104の回転トルクは旋回防止ブレーキ105の設定付勢相当値を上回らないので旋回出力ギヤ104の固定状態は維持される。なお、係合油圧の立ち上げは走行路面の硬軟状況に応じて緩急をつけるよう人為的に調整制御されるものであってもよい。
【0047】
次に、トランスミッション1の動力伝達について図1を用いて説明する。
トランスミッション1は、HST11から出力される動力を直進用および旋回用の回転動力として受け入れる。HST11の変速モータ軸32aから出力される回転動力は、出力用ギヤ32bと噛合する入力用ギヤ53へ伝達され、直進用第1軸54へ伝達される。直進用第1軸54から出力される直進用回転動力は、副変速装置51を介して、変速されて直進用第2軸57へ伝達される。副変速装置51は、変速用出力ギヤ機構55と変速用入力ギヤ機構56のギヤ径の比をクラッチ60の選択操作により、回転を変速させるものである。
【0048】
直進用第2軸57から出力される直進用回転動力は、大径ギヤ61と噛合する入力ギヤ63へ伝達され、サンギヤ軸62へ伝達される。サンギヤ軸62から出力される直進用回転動力は、左右に分配されて一対の遊星ギヤ機構13L・13Rに同一回転速度且つ同一回転方向で伝達される。
【0049】
一方、HST11の変速モータ軸32aから出力される回転動力は、旋回ギヤ機構18へ伝達される。出力用ギヤ32b、入力用ギヤ53および旋回用入力ギヤ91は直列に噛合されており、出力用ギヤ32bの回転が旋回用入力ギヤ91に伝達される。
【0050】
旋回用第1軸92に出力された回転動力は、正転方向の回転として伝達される。旋回用第1軸92の回転動力は、ギヤ94aおよびギヤ97aを介して、旋回第2軸に逆転方向の回転動力として伝達される。
【0051】
車両を右回りに旋回したい場合、第1多板クラッチ93が接続される。第1多板クラッチ93を接続することにより、旋回用第1軸92の正転方向の回転動力が、ギヤ101および旋回出力ギヤ104を介して旋回用第3軸103へ出力される。この際、ステアリングハンドル170の操舵量が増えるにつれて第1多板クラッチ93の係合力(クラッチ板の密着力)を、非係合状態から完全係合状態に至るまで無段階に調整することにより、旋回用第3軸103に掛かる回転トルクを無段階に変動させることができる。
【0052】
また、車両を左回りに旋回したい場合、第2多板クラッチ96が接続される。第2多板クラッチ96を接続することにより、旋回用第2軸95の逆転方向の回転動力が、ギヤ102および旋回出力ギヤ104を介して旋回用第3軸103へ出力される。この際、ステアリングハンドル170の操舵量が増えるにつれて第2多板クラッチ96の係合力(クラッチ板の密着力)を、非係合状態から完全係合状態に至るまで無段階に調整することにより、旋回用第3軸103に掛かる回転トルクを無段階に変動させることができる。
【0053】
なお、多板クラッチ93・96のクラッチ板には常時、潤滑油を導入しているので、クラッチ板の密着力を変更している間の摩擦による発熱はクラッチ板周辺を流動する潤滑油に吸収され冷却されるため、焼き付きが抑制されている。
【0054】
ここで、旋回用第3軸103に掛かるトルクが、旋回防止ブレーキ105の前記付勢力相当値に満たないときは出力ギヤ106が回転不能に固定される。付勢力相当値を越えるときは旋回用第3軸103のトルクが出力ギヤ106に伝達される。
【0055】
出力ギヤ106で発生する動力は入力ギヤ111を介して旋回用第4軸110へ伝達される。
旋回用第4軸110から出力される旋回用回転動力は、左右に分配される。左側の旋回用回転動力は、第5軸側出力ギヤ118、中間ギヤ120、およびリングギヤ82の外側ギヤ82bに伝達される。一方、右側の旋回用回転動力は、第5軸側出力ギヤ119、右側の遊星ギヤ機構13L・13Rのインターナルギヤ82の外側ギヤ82bに直接伝達される。
したがって、HST11の変速モータ軸32aの動力が旋回ギヤ機構18を経由して出力されるとき、一対の遊星ギヤ機構13L・13Rの各々のインターナルギヤ82・82を、同一回転速度ではあるが、回転方向については互いに対して反対とされた状態で駆動する。
【0056】
これにより、直進(前進、後進)時においては、HST11の斜板角変更と副変速装置51で選択した速度段によって設定された出力が、遊星ギヤ機構13L・13Rのサンギヤ軸62を駆動した後、各々の遊星ギヤ84・84を経由してキャリア83・83に伝達される。このとき、旋回ギヤ機構18の出力はゼロなので、旋回防止ブレーキ105が作動して両インターナルギヤ82・82を回転不能に固定する。これにより、固定されたインターナルギヤ82・82に噛み合う遊星ギヤ84・84のそれぞれが自転しながら公転する際には互いに回転数差は生じないため同一回転速度且つ同一回転方向で回転するキャリア83・83がそれぞれ走行クローラ15L・15Rを駆動して車両は直進する。
【0057】
また、ステアリングハンドル170によって直進状態から旋回操作がなされたときは、HST11の変速モータ軸32aから旋回ギヤ機構18を経て出力される回転動力は、ステアリングハンドル170の操舵量に応じた回転数に調整された後に各々のインターナルギヤ82・82を同一回転速度で、かつ、異なる回転方向で駆動する。
【0058】
これにより、キャリア83の回転方向に対してインターナルギヤ82が同方向に回転している一方の遊星ギヤ機構13L(13R)においては、該キャリア83の回転数が増速合成される。他方の遊星ギヤ機構13R(13L)においては、キャリア83の回転方向に対してインターナルギヤ82は逆方向に回転しているので該キャリア83の回転数が減速合成される。これにより左右走行クローラ15L・15Rは差動し車両の進行方向を変えることができる。
【0059】
ステアリングハンドル170の操舵量が増えるにしたがって多板クラッチ93(96)の係合力が高められ左右のキャリア83・83の速度差が大きくなり車両の旋回半径は小さくなる。ステアリングハンドル170を更に切り続けると、減速合成する側の遊星ギヤ機構13R(13L)ではキャリア83の回転は停止状態となって増速合成する側の遊星ギヤ機構13L(13R)だけの駆動となり車両は、回転不能になっている走行クローラ15Rを中心にブレーキターンする。ステアリングハンドル170をさらに切ったとき多板クラッチ93(96)は完全係合し、減速合成する側の遊星ギヤ機構13R(13L)においてキャリアは逆方向へ回転するようになって、増速合成する側の遊星ギヤ機構13L(13R)との協働で車両はスピンターンする。
【0060】
以上のように本発明に係るクローラ走行車用のトランスミッション1は、
変速および旋回を行うための共通のHST11を備え、HST11に対して並列接続される直進ギヤ機構と旋回ギヤ機構を設けると共に、直進ギヤ機構17からの出力を受ける第1要素であるサンギヤ81と、旋回ギヤ機構18からの出力を受ける第2要素であるインターナルギヤ82と、第1要素の動力に第2要素の動力を合成して左右駆動輪に出力する第3要素であるキャリア83・遊星ギヤ84とを含む遊星ギヤ機構13L・13Rを備えた走行車のトランスミッションにおいて、旋回ギヤ機構18は、前記第2要素を正または逆方向に回転切替自在な第1多板クラッチ93と第2多板クラッチ96を有し、第1・第2多板クラッチ93・96は車両の操舵指示具であるステアリングハンドル170に対して、該指示具が直進操作状態のときは両多板クラッチ93・96を非係合とし、操舵状態のときは操舵方向に応じて前記多板クラッチ93・96のいずれかを係合対象として択一選択し、操舵量が増えるにつれて当該多板クラッチ93・96の係合度を高めるように、連動連係させたものである。
このように構成することにより、走行系の動力伝達機構および旋回系の動力伝達機構を駆動するHST11を一つとすることができ、コストを抑制することができる。したがって、作動油を供給する各種装置の容量を低減することができ、さらにエンジン動力は唯一のHST11を駆動するのに消費され省エネルギー性に優れたクローラ走行車を提供することができる。
【0061】
また、前記第1・第2多板クラッチ93・96の動力伝達下手側には、両多板クラッチ93・96が非係合のときに前記第2要素であるインターナルギヤ82を回転不能に固定する旋回防止ブレーキ105が備えられる。
このように構成することにより、直進するときは旋回ギヤ機構の出力を確実に停止させて、直進ギヤ機構17の動力のみが遊星ギヤ機構13L・13Rに伝達され効率よく駆動輪を直進駆動することができ、旋回するときは旋回ギヤ機構18の動力を効率よく遊星ギヤ機構13L・13Rで合成させることができ操舵指示したとおりの旋回半径で駆動輪を旋回駆動することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 トランスミッション
11 HST
13L・13R 遊星ギヤ機構
16 ミッションケース
17 直進ギヤ機構
18 旋回ギヤ機構
31 変速ポンプ
32 変速モータ
82 インターナルギヤ
92 旋回用第1軸
95 旋回用第2軸
103 旋回用第3軸
105 旋回防止ブレーキ
110 旋回用第4軸
114 旋回用第5軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6