(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113498
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】バラスト水貯蔵装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/20 20230101AFI20240815BHJP
B63B 13/00 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
C02F1/20 A
B63B13/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018526
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】504077308
【氏名又は名称】安斎 聡
(74)【代理人】
【識別番号】110002217
【氏名又は名称】弁理士法人矢野内外国特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安斎 聡
【テーマコード(参考)】
4D037
【Fターム(参考)】
4D037AA06
4D037AB11
4D037BA23
4D037BB01
4D037BB02
(57)【要約】
【課題】船舶から排出される排気から二酸化炭素や窒素などを微細気泡化して注入することで、バラスト貯蔵装置内の海水中の酸素を追い出し、生物多様性を乱す原因となる生物を殺処分して、バラスト水を安全に船外へ放出するバラスト貯蔵装置を提供する。
【解決手段】バラスト水貯蔵装置5は、送水路6と、貯留タンク8と、排水路9と、を有し、二酸化炭素分離回収装置10をさらに有し、二酸化炭素分離回収装置10によって回収される二酸化炭素を、貯留タンク8に導入するガス導入路23を設け、ガス導入路23には、二酸化炭素を、貯留タンク8内のバラスト水に注入する気泡排出口23aを設け、気泡排出口23aに、二酸化炭素をバラスト水内に微細気泡として排出する微細気泡発生媒体24を設け、微細気泡発生媒体24は、多孔質の素材である微細気泡発生媒体から、気体を排出することで、微細気泡を発生させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海水をくみ上げてバラスト水として貯蔵するバラスト水貯蔵装置であって、
海水取入口から海水をくみ上げる送水路と、
前記送水路から送水される海水をバラスト水として貯留する貯留タンクと、
前記貯留タンクからバラスト水を排出する排水路と、を有するバラスト水貯蔵装置であって、
船舶の排気ガスから、二酸化炭素もしくは窒素若しくはその両方を回収するガス回収装置をさらに有し、
前記ガス回収装置によって回収される二酸化炭素もしくは二酸化窒素若しくはその両方を、前記貯留タンクに導入するガス導入路を設け、
前記ガス導入路には、前記二酸化炭素もしくは窒素若しくはその両方を、貯留タンク内のバラスト水に注入する気泡排出口を設け、
前記気泡排出口に、前記二酸化炭素もしくは窒素若しくはその両方をバラスト水内に微細気泡として排出する微細気泡発生装置を設け、
前記微細気泡発生装置は、多孔質の素材であって気体を微細な孔から排出することで、微細気泡を発生させる、
バラスト水貯蔵装置。
【請求項2】
前記バラスト水貯蔵装置内に貯留されたバラスト水の溶存酸素濃度を測定する検出装置を備え、
検出された溶存酸素濃度が所定値以上の場合には、ガス導入路の弁を開けて二酸化炭素もしくは窒素若しくはその両方をバラスト水内に微細気泡として排出する、
請求項1に記載のバラスト水貯蔵装置。
【請求項3】
前記バラスト水貯蔵装置内に貯留されたバラスト水の酸化還元電位を測定する電位検出装置を備え、
検出された酸化還元電位が所定値よりも還元側である場合には、ガス導入路の弁を開けて二酸化炭素もしくは窒素若しくはその両方をバラスト水内に微細気泡として排出する、
請求項1に記載のバラスト水貯蔵装置。
【請求項4】
前記ガス導入路の中途部にオゾン発生装置を備える、
請求項1~3の何れか一項に記載のバラスト水貯蔵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラスト水貯蔵装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、水道水や湖沼・河川、海水等の液体中において気泡のサイズ(直径)が常温常圧で100μm未満の微細気泡を使用する技術が注目されている。微細気泡は、表面積が非常に大きい特性及び自己加圧効果などの物理化学的な特性を有しており、その特性を生かして、排水浄化、洗浄、気体溶存、撹拌等に使用する技術が開発されている。
【0003】
前記特性を持った微細気泡の発生装置として、液体を流す通路と、通路へ気体を圧送するための圧縮装置と、圧縮装置により圧送された気体を微細気泡として通路内の液体へ放出する気泡発生媒体とを備える微細気泡発生装置が公知となっている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
一方、船舶の航行において船内に設けたバラストタンク(貯留タンク)に海水などを積んで重し代わりとして、船体を安定させることが公知となっている(例えば、特許文献2参照)。バラストタンクに積まれた海水(バラスト水)は、積み荷を積載していない出港時に、当該出発地の港においてくみ上げられ、目的地の港に到着後、バラスト水を排出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6815397号公報
【特許文献2】特許第5793713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バラスト水は、大型船ほど大量に必要で、例えば数十万トンクラスの貨物船の場合、空船時には約5万トンのバラスト水を積載する。このような大量のバラスト水を、積み込んだ港と異なる目的地の港で排出するため、バラスト水に含まれる水生生物が多国間を往来し、地球規模で生態系が破壊されるなどの問題が生じていた。特定の海域にしか存在しなかった水生生物が、目的地の港付近の海域で繁殖することで、伝染病の流行や、漁業・工業被害が発生するおそれがあった。
【0007】
これらの生態系の破壊は、バラスト水内に水生生物を生育させるための環境が整っていることに起因する。特にバラスト水内の酸素濃度が関係し、酸素濃度が低くなるとバラスト水内の水生生物が生存し難くなることが知られている。
【0008】
また、船舶の内燃機関から排出される排気には、多量の二酸化炭素や、二酸化窒素が含まれている。当該二酸化炭素や、二酸化窒素は温室効果ガスの一種であり、大気中に排出することにより、地球温暖化の一因となることが知られている。
【0009】
そこで、本発明はかかる課題に鑑み、船舶から排出される排気から二酸化炭素や窒素などの酸素ではないガス成分を微細気泡化して注入することで、バラスト貯蔵装置内の海水中の酸素を追い出し、生物多様性を乱す原因となる生物を殺処分して、バラスト水を安全に船外へ放出することが可能となるバラスト貯蔵装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0011】
即ち、本発明においては、海水をくみ上げてバラスト水として貯蔵するバラスト水貯蔵装置であって、
海水取入口から海水をくみ上げる送水路と、
前記送水路から送水される海水をバラスト水として貯留する貯留タンクと、
前記貯留タンクからバラスト水を排出する排水路と、を有するバラスト水貯蔵装置であって、
船舶の排気ガスから、二酸化炭素もしくは窒素若しくはその両方を回収するガス回収装置をさらに有し、
前記ガス回収装置によって回収される二酸化炭素もしくは窒素若しくはその両方を、前記貯留タンクに導入するガス導入路を設け、
前記ガス導入路には、前記二酸化炭素もしくは窒素若しくはその両方を、貯留タンク内のバラスト水に注入する気泡排出口を設け、
前記気泡排出口に、前記二酸化炭素もしくは窒素若しくはその両方をバラスト水内に微細気泡として排出する微細気泡発生装置を設け、
前記微細気泡発生装置は、多孔質の素材であって気体を微細な孔から気体を排出することで、微細気泡を発生させるものである。
【0012】
また、前記バラスト水貯蔵装置内に貯留されたバラスト水の溶存酸素濃度を測定する検出装置を備え、
検出された溶存酸素濃度が所定値以上の場合には、ガス導入路の弁を開けて二酸化炭素もしくは窒素若しくはその両方をバラスト水内に微細気泡として排出するものであってもよい。
【0013】
また、本発明においては、前記ガス導入路の中途部にオゾン発生装置を備えるものであってもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0015】
本発明においては、船舶から排出される排気から二酸化炭素や窒素などの酸素ではないガス成分を微細気泡化して注入することで、バラスト貯蔵装置内の海水中の酸素を追い出し、生物多様性を乱す原因となる生物を殺処分して、バラスト水を安全に船外へ放出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第一の実施形態に係るバラスト水貯蔵装置を有する船舶を示す概略図。
【
図2】第一の実施形態に係る貯留タンクおよび微細気泡発生媒体を示す側面図。
【
図3】第一の実施形態に係る二酸化炭素分離回収装置を示す側面図。
【
図4】第二の実施形態に係るバラスト水貯蔵装置を有する船舶を示す概略図。
【
図5】第二の実施形態に係る二酸化窒素分離回収装置を示す側面図。
【
図6】第三の実施形態に係るバラスト水貯蔵装置を有する船舶を示す概略図。
【
図7】第四の実施形態に係るバラスト水貯蔵装置を有する船舶を示す概略図。
【
図8】第五の実施形態に係る二酸化炭素分離回収装置および船首側の船底を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず、本発明の一実施形態にかかるバラスト水貯蔵装置5を備えた船舶1の全体構成について
図1を用いて説明する。
図1に示されるように、船舶1は、エンジン2と、海水をくみ上げてバラスト水として貯蔵するバラスト水貯蔵装置5とを備える。バラスト水貯蔵装置5は、船体3に積み荷を積載していないときに、バラスト水を貯蔵することで、船体3の重量を増加させて、船舶1の安全な航行を確保するために重要な設備である。バラスト水貯蔵装置5は、船舶1の総容積における貯蔵海水容積の割合が船舶1の航行の安全性に影響しないように制限された値になるように設定される。
【0018】
バラスト水貯蔵装置5は、海水取入口6と、海水取入口6から海水をくみ上げる送水路7と、送水路7から送水される海水をバラスト水として貯留する貯留タンク8と、貯留タンク8からバラスト水を排出する排水路9と、船舶1のエンジン2から排出される排気ガスから特定の気体を回収するガス分離回収装置と、を含む。本実施形態においては、ガス分離回収装置は、二酸化炭素を回収する二酸化炭素分離回収装置10として形成される。
【0019】
海水取入口6は、船舶1の船底1aに組み込み設置されていてもよいし、必要な時に端部が開口したパイプを海中に入れて構成してもよい。海水取入口6からは送水路7が延設される。海水取入口6の下流側には切換弁11が配設される。切換弁11は、貯留タンク8への海水(若しくは淡水でもよい)の流入の入切を選択するバルブである。切換弁11は、後述する制御装置30で開閉が制御できるように構成されているのが好ましい。他の弁についても同様である。
【0020】
切換弁11の下流にはポンプ12が配置される。すなわち、ポンプ12の入水口は切換弁11と連通されている。ポンプ12は一つで構成しているが、ポンプの個数はこれに限定されるものではなく、単位時間の処理量や不測の事態のための予備として複数個のポンプを並列若しくは直列に並べておいてもよい。ポンプ12も制御装置30で運転制御が可能なように構成されているのが好ましい。
【0021】
ポンプ12の出水口は送水路7の下流側を通してろ過装置16に連通される。ろ過装置16は、ろ過膜16mによって原水をろ過する。ろ過膜は1種類のろ過膜である必要はなく、複数のグレードのろ過膜を並列若しくは直列にして用いてもよい。ろ過膜16mのタイプは特に限定されず、スパイラル型、中空糸型、平膜型、管型等任意に用いることができる。また、ろ過装置16の前にはプレフィルタ15を配置してもよい。ろ過装置16と言った場合はこのプレフィルタ15も含むものとする。
【0022】
ろ過装置16の下流側には、貯留タンク8が配置されている。貯留タンク8は、ろ過装置によって大きなごみや生物を除去した海水が貯留されることとなる。一方貯留タンク8には、排水弁17が設けられた排水路9が連結されている。排水弁17は、排水路9への排水の流入の入切を選択するバルブである。排水弁17は、後述する制御装置30で開閉が制御できるように構成されているのが好ましい。他の弁についても同様である。
【0023】
また、排水路9の中途部からは循環路18が分岐している。循環路18は、排水弁17が閉状態であって、循環ポンプ19が動作状態にある場合に、排水路9へ流れてきたバラスト水を、送水路7側へ循環させる経路である。
【0024】
一方船舶1のエンジン2からは排気ガスが排出されている。当該排気ガスを大気中に安全に排出するために、二酸化炭素や二酸化窒素を除去するガス分離回収装置が設けられている。
【0025】
ガス分離回収装置は、排気ガスに含まれる二酸化炭素および二酸化窒素を分離回収する装置であり、例えば、二酸化炭素や二酸化窒素を物理吸収液に溶解させて物理的に吸収する物理吸収装置や、二酸化炭素や二酸化窒素と吸収液の化学反応を利用して分離吸収するする化学吸収装置などによって構成される。このように吸収液に吸収された二酸化炭素や二酸化窒素は、温度を上昇させることにより二酸化炭素や窒素の気体のみを取り出すことが可能となる。
【0026】
本実施形態においては、
図1及び
図3に示すように、ガス分離回収装置は、二酸化炭素分離回収装置10として構成する。例えば、二酸化炭素分離回収装置10は、排気ガスを二酸化炭素分離吸収装置10の取入口10aから導入し、水溶液噴霧装置26によって所定濃度の水酸化ナトリウム水溶液を噴霧することによって、排気ガス中の二酸化炭素除去処理をすると共に、排気ガス中の二酸化炭素を吸収した混合液(炭酸ナトリウム溶液、炭酸水素ナトリウム溶液あるいはこれらの混合液)を後処理して、二酸化炭素を取り出す装置である。
【0027】
混合液に含まれる二酸化炭素は、底部10bに溜められると共に、二酸化炭素を除かれた排気ガスは、頂部10cより排出される。底部10bに溜められた液体分は、ポンプ21により脱二酸化炭素装置である脱二酸化炭素タンク22に送給される。脱二酸化炭素タンク22において、上部に設けられた第二水溶液噴射装置27から塩化水素を噴射して液体分中の二酸化炭素を取り出すと共に、下部に落下した液体分は、再び水溶液噴霧装置26で利用するようにしている。
【0028】
なお、脱二酸化炭素タンク22から回収された二酸化炭素中には、水分が幾分含まれている場合があるが、これについては、脱二酸化炭素タンク22の出口側にシリカゲル等を充填した充填層を配置して脱水することができる。
【0029】
脱二酸化炭素タンク22から回収された二酸化炭素は、ガス導入路23によって、貯留タンク8に導入される。ガス導入路23は、脱二酸化炭素タンク22において排出された二酸化炭素を貯留タンク8中の海水に送り排出する管である。ガス導入路23の気泡排出口23aには、微細気泡発生装置である微細気泡発生媒体24が設けられている。また、ガス導入路23には、ガス導入弁25が設けられている。
【0030】
微細気泡発生媒体24は、圧送される気体を細かな孔24Aを通して水中に放出することにより、微細気泡を発生させる装置である。微細気泡は、気泡のサイズ(直径)が常温常圧で100μm未満の泡であり、特に、数百nm~数μmの気泡である。微細気泡は、表面に負の電荷を有し、凝縮したイオンの殻を被った気泡である。負の電荷を有することで、微細気泡は常時ブラウン運動を行っており、この力が泡の浮力よりも大きいため、水上へ浮上せず、長時間水中に存在するという性質を有する。
【0031】
微細気泡発生媒体24は、
図1及び
図2に示すように、気泡排出口23aに連結して配置されている。微細気泡発生媒体24は、ポンプ12から圧送される水が流れる方向(
図2の黒塗り矢印方向)に対して平行となるように配置されている。なお、本実施形態においては、微細気泡発生媒体24は、ポンプ12から圧送される水が流れる方向に対して平行となるように配置されているが、これに限定するものではなく、微細気泡発生媒体24は、ポンプ12から圧送される水が流れる方向に対して下流側が下方へ傾くように配置されてもよい。微細気泡発生媒体24は、気泡排出口23aと連結される内部空間24aが設けられている。
【0032】
また、微細気泡発生媒体24は、炭素系の多孔質素材で構成されており、
図2に示すように、直径数μm~数十μmの細かな孔24Aを多数有している。また、微細気泡発生媒体24は導電体であり、微細気泡発生媒体24から発生する気泡は負の電荷が帯電される。言い換えれば、導電体である微細気泡発生媒体24を通過する際に微細気泡に自由電子が付加されることにより、負の電荷が帯電するものである。この負の電荷により、気泡同士が互いに反発し、合体して大きな気泡になることを防ぐことができる。
【0033】
炭素系の多孔質素材とは、炭素のみ若しくは炭素及びセラミックを含む複合素材であり、無機質の素材である。また、炭素系の多孔質素材の表面には、厚さ数nmの膜が形成されている。前記膜はケイ素を含む無機質の膜で形成されている。炭素系の多孔質素材は、耐酸化性を有しており、錆が発生せず長期間水中に配置した場合であっても参加による劣化が発生しない。また、表面がケイ素を含む無機質の膜で形成されており、フジツボ等の水生生物が付着しにくい性質も有する。
【0034】
ガス導入路23から内部空間24aへ送られた二酸化炭素は、微細気泡発生媒体24に設けられた直径数μm~数十μmの細かな孔24Aを通って、微細気泡発生媒体24の表面へ移動する。微細気泡発生媒体24の表面に移動した二酸化炭素は微細気泡となり、ポンプ12から圧送される水の力によって水中へ放出される。
【0035】
制御装置30は、切換弁11、ポンプ12、排水弁17、と電気的に連結されている。なお、それぞれの連結線は省略した。そしてこれらの構成要素は、制御装置30からの指示信号によってバルブの開閉、微細気泡の発生と停止、送水圧力の高低と停止といった動作を制御される。
【0036】
次に、本発明のバラスト水貯蔵装置5の運転方法について説明する。本発明のバラスト水貯蔵装置5を動作させる際は、切換弁11を開けて、ポンプ12を稼動させる。ポンプ12が稼動を開始すると、海水取入口6から海水が汲み上げられ、ポンプ12を介して送水路7を流れる。送水路7の中途部に設けたろ過装置16で大きなごみや生物等は濾し取られる。生物やごみ等が除去された原水はバラスト水として貯留タンク8に貯留される。
【0037】
制御装置30には検出装置31が接続されている。検出装置31は、貯留タンク8内に貯蔵されたバラスト水の溶存酸素濃度を検出する。検出装置31によって検出された溶存酸素濃度は、リアルタイムで制御装置30に入力される。制御装置30において、溶存酸素濃度が所定濃度以上であると判断した場合には、ガス導入路23に設けられたガス導入弁25を開状態にして、二酸化炭素を微細気泡発生媒体24側へ送る。
【0038】
また制御装置30において、溶存酸素濃度が所定濃度以上であると判断した場合には、排水路9の排水弁17を閉状態として、循環ポンプ19を動作状態にする。これにより、排水路9へ流れてきたバラスト水を、送水路7側へ循環させてバラスト水の液流を発生させる。
【0039】
二酸化炭素は、微細気泡発生媒体24の内部空間24aへ送られ、微細気泡発生媒体24に設けられた直径数μm~数十μmの細かな孔24Aを通って、微細気泡発生媒体24の表面へ移動する。微細気泡発生媒体24の表面に移動した二酸化炭素は微細気泡となり、循環ポンプ19から圧送される海水の力によって水中へ放出される。
【0040】
海水に放出された二酸化炭素によって酸素は追い出されて、溶存酸素濃度が下がる。これにより好気性生物が生育しにくい環境が生成されて、海水内の微生物が死滅する。
制御装置30は、溶存酸素濃度が所定の値以下になった場合には、二酸化炭素が十分な量でバラスト水内に微細気泡として存在すると判断して、ガス導入路23側のガス導入弁25を閉状態とする。
【0041】
また、検出装置31は、貯留タンク8内に貯蔵されたバラスト水の酸化還元電位を検出する装置であってもよい。検出装置31によって検出された酸化還元電位は、リアルタイムで制御装置30に入力される。制御装置30において、酸化還元電位が所定の電位よりも還元側であると判断した場合には、ガス導入路23に設けられたガス導入弁25を開状態にして、二酸化炭素を微細気泡発生媒体24側へ送る。
【0042】
また制御装置30において、酸化還元電位が所定の電位よりも還元側であると判断した場合には、排水路9の排水弁17を閉状態として、循環ポンプ19を動作状態にする。これにより、排水路9へ流れてきたバラスト水を、送水路7側へ循環させてバラスト水の液流を発生させる。
【0043】
二酸化炭素は、微細気泡発生媒体24の内部空間24aへ送られ、微細気泡発生媒体24に設けられた直径数μm~数十μmの細かな孔24Aを通って、微細気泡発生媒体24の表面へ移動する。微細気泡発生媒体24の表面に移動した二酸化炭素は微細気泡となり、循環ポンプ19から圧送される海水の力によって水中へ放出される。
【0044】
二酸化炭素を放出することで、バラスト水の酸性度が向上する。所定の電位よりも酸性側であると判断した場合には、二酸化炭素が十分な量でバラスト水内に微細気泡として存在すると判断して、ガス導入路23側のガス導入弁25を閉状態とする。
【0045】
検出装置31の種類は記載の構成に限定されず、例えば、溶存酸素濃度を検出する装置と酸化還元電位を検出する装置を併用する構成としてもよい。
【0046】
船舶1が、目的地に寄港した場合には、排水弁17を開状態として、溶存酸素が二酸化炭素によって置き換えられたバラスト水を海洋中に排出する。海洋中に放出されたバラスト水には、微生物等が生存しておらず、当該放出された海洋中の生態系を破壊する可能性がなくなる。また、温室効果ガスとなる、二酸化炭素を海洋中に放出できるので、環境負荷の低減を達成することができる。
【0047】
[第二実施形態]
また、別の実施形態として、ガス分離回収装置を、二酸化窒素分離回収装置40として構成することもできる。例えば、
図4および
図5に示すように、二酸化窒素分離回収装置40は、排気ガスを粒径が0.5μm以下のミストの中に通して、亜硫酸ナトリウムを含有させたミスト中の亜硫酸イオンと、二酸化窒素ガス分子とを反応させる。亜硫酸イオンと、二酸化窒素ガス分子とが反応した結果、亜硫酸イオンが硫酸イオンに酸化され、二酸化窒素ガス分子が窒素ガス分子として生成される。
【0048】
ミストに含まれる窒素ガス分子は、底部40bに溜められると共に、二酸化窒素を除かれた排気ガスは、頂部40cより排出される。底部40bに溜められた液体分は、ポンプ21により脱窒素装置である脱窒素タンク42に送給されて、ここで液体分中の窒素を分留すると共に、残りの液体分を次工程で再利用するようにしている。なお、脱窒素タンク42から回収された窒素中には、水分が幾分含まれている場合があるが、これについては、脱窒素タンク42の出口側にシリカゲル等を充填した充填層を配置して脱水することができる。
【0049】
図5に示すように、脱窒素タンク42から回収された窒素ガスは、ガス導入路23によって、貯留タンク8に導入される。ガス導入路23は、脱窒素タンク42において排出された窒素を貯留タンク中の海水に送り排出する管である。ガス導入路23の気泡排出口23aには、微細気泡発生装置である微細気泡発生媒体24が設けられている。
【0050】
微細気泡発生媒体24は、
図2及び
図4に示すように、気泡排出口23aに連結して配置されている。微細気泡発生媒体24は、ポンプ12から圧送される水が流れる方向(
図2の黒塗り矢印方向)に対して平行となるように配置されている。なお、本実施形態においては、微細気泡発生媒体24は、ポンプ12から圧送される水が流れる方向に対して平行となるように配置されているが、これに限定するものではなく、微細気泡発生媒体24は、ポンプ12から圧送される水が流れる方向に対して下流側が下方へ傾くように配置されてもよい。微細気泡発生媒体24は、気泡排出口23aと連結される内部空間24aが設けられている。
【0051】
ガス導入路から内部空間24aへ送られた窒素は、微細気泡発生媒体24に設けられた直径数μm~数十μmの細かな孔24Aを通って、微細気泡発生媒体24の表面へ移動する。微細気泡発生媒体24の表面に移動した窒素は微細気泡となり、ポンプ12から圧送される水の力によって水中へ放出される。
【0052】
制御装置30は、切換弁11、ポンプ12、排水弁17、と電気的に連結されている。なお、それぞれの連結線は省略した。そしてこれらの構成要素は、制御装置30からの指示信号によってバルブの開閉、微細気泡の発生と停止、送水圧力の高低と停止といった動作を制御される。
【0053】
次に、本発明のバラスト水貯蔵装置5の運転方法について説明する。本発明のバラスト水貯蔵装置5を動作させる際は、切換弁11を開けて、ポンプ12を稼動させる。ポンプ12が稼動を開始すると、海水取入口6から海水が汲み上げられ、ポンプ12を介して送水路7を流れる。送水路7の中途部に設けたろ過装置16で大きなごみや生物等は濾し取られる。生物やごみ等が除去された原水はバラスト水として貯留タンク8に貯留される。
【0054】
制御装置30には検出装置31が接続されている。検出装置31は、貯留タンク8内に貯蔵されたバラスト水の溶存酸素濃度を検出する。検出装置31によって検出された溶存酸素濃度は、リアルタイムで制御装置30に入力される。制御装置30において、溶存酸素濃度が所定濃度以上であると判断した場合には、ガス導入路23に設けられたガス導入弁25を開状態にして、窒素を微細気泡発生媒体24側へ送る。
窒素は、微細気泡発生媒体24の内部空間24aへ送られ、微細気泡発生媒体24に設けられた直径数μm~数十μmの細かな孔24Aを通って、微細気泡発生媒体24の表面へ移動する。微細気泡発生媒体24の表面に移動した窒素は微細気泡となり、ポンプ12から圧送される海水の力によって水中へ放出される。
【0055】
海水に放出された窒素によって酸素は追い出されて、溶存酸素濃度が下がる。これにより好気性生物が生育しにくい環境が生成されて、海水内の微生物が死滅する。
制御装置30は、溶存酸素濃度が所定の値以下になった場合には、窒素が十分な量でバラスト水内に微細気泡として存在すると判断して、ガス導入路23側のガス導入弁25を閉状態とする。
【0056】
船舶1が、目的地に寄港した場合には、排水弁17を開状態として、溶存酸素が窒素によって置き換えられたバラスト水を海洋中に排出する。海洋中に放出されたバラスト水には、微生物等が生存しておらず、当該放出された海洋中の生態系を破壊する可能性がなくなる。また、温室効果ガスとなる、二酸化窒素を窒素に変化させて海洋中に放出できるので、環境負荷の低減を達成することができる。
【0057】
[第三実施形態]
また、ガス分離回収装置を、二酸化炭素分離回収装置10および二酸化窒素分離回収装置40として構成してもよい。この場合、
図6に示すように、二酸化窒素分離回収装置40の下流側に二酸化炭素分離回収装置10を配置する。二酸化炭素分離回収装置10および二酸化窒素分離回収装置40の構成は前記実施形態に記載の装置と同様の構成であるので説明を省略する。
【0058】
次に、本発明のバラスト水貯蔵装置5の運転方法について説明する。本発明のバラスト水貯蔵装置5を動作させる際は、切換弁11を開けて、ポンプ12を稼動させる。ポンプ12が稼動を開始すると、海水取入口6から海水が汲み上げられ、ポンプ12を介して送水路7を流れる。送水路7の中途部に設けたろ過装置16で大きなごみや生物等は濾し取られる。生物やごみ等が除去された原水はバラスト水として貯留タンク8に貯留される。
【0059】
制御装置30には検出装置31が接続されている。検出装置31は、貯留タンク8内に貯蔵されたバラスト水の溶存酸素濃度を検出する。検出装置31によって検出された溶存酸素濃度は、リアルタイムで制御装置30に入力される。制御装置30において、溶存酸素濃度が所定濃度以上であると判断した場合には、ガス導入路23に設けられたガス導入弁25を開状態にして、窒素及び二酸化炭素を気泡排出口23a側へ送る。
【0060】
気泡排出口23aに送られた窒素及び二酸化炭素は、微細気泡発生媒体24の内部空間24aへ送られ、微細気泡発生媒体24に設けられた直径数μm~数十μmの細かな孔24Aを通って、微細気泡発生媒体24の表面へ移動する。微細気泡発生媒体24の表面に移動した二酸化炭素は微細気泡となり、ポンプ12から圧送される海水の力によって水中へ放出される。
【0061】
気泡排出口23aに送られた窒素及び二酸化炭素は、気泡発生媒体の内部空間24aへ送られ、微細気泡発生媒体24に設けられた直径数μm~数十μmの細かな孔24Aを通って、微細気泡発生媒体24の表面へ移動する。微細気泡発生媒体24の表面に移動した窒素は微細気泡となり、ポンプ12から圧送される海水の力によって水中へ放出される。
【0062】
海水に放出された窒素及び二酸化炭素によって酸素は追い出されて、溶存酸素濃度が下がる。これにより好気性生物が生育しにくい環境が生成されて、海水内の微生物が死滅する。
制御装置30は、溶存酸素濃度が所定の値以下になった場合には、二酸化炭素および窒素が十分な量微差気泡としてバラスト水内に存在すると判断して、ガス導入路側の弁を閉状態とする。
【0063】
船舶1が、目的地に寄港した場合には、排水弁17を開状態として、溶存酸素が窒素及び二酸化炭素によって置き換えられたバラスト水を海洋中に排出する。
【0064】
[第四実施形態]
また、排気ガスに含まれる二酸化炭素の他に、オゾン発生装置51によって発生するオゾンをバラスト水中に放出する構成としてもよい。
ガス導入路23の中途部にオゾン発生装置51が設けられている。オゾン発生装置51は、紫外線を照射するライトによって構成されており、大気中の酸素から、オゾンを発生させる。オゾン発生装置によって発生したオゾンはガス導入路23の中途部から導入され、二酸化炭素と共に、バラスト水に導入される。
オゾンの消毒・浄水作用により、バラスト水貯蔵装置5内の水が浄化され、雑菌等が死滅する。
【0065】
以上のように、バラスト水貯蔵装置5は、海水をくみ上げてバラスト水として貯蔵するバラスト水貯蔵装置5であって、海水取入口から海水をくみ上げる送水路7と、送水路7から送水される海水をバラスト水として貯留する貯留タンク8と、貯留タンク8からバラスト水を排出する排水路9と、を有し、船舶1の排気ガスから、二酸化炭素を回収する二酸化炭素分離回収装置10をさらに有し、二酸化炭素分離回収装置10によって回収される二酸化炭素を、貯留タンク8に導入するガス導入路23を設け、ガス導入路23には、二酸化炭素を、貯留タンク8内のバラスト水に注入する気泡排出口23aを設け、気泡排出口23aに、二酸化炭素をバラスト水内に微細気泡として排出する微細気泡発生媒体24を設け、微細気泡発生媒体24は、多孔質の素材である微細気泡発生媒体から、気体を排出することで、微細気泡を発生させるものである。
このように構成することにより、バラスト水に放出された二酸化炭素によって酸素は追い出されて、バラスト水内の溶存酸素濃度が下がる。これによりバラスト水内において好気性生物が生育しにくい環境が生成されて、バラスト水内の微生物が死滅する。
生物多様性を乱す原因となるバラスト水内の微生物が存在しなくなることにより、バラスト水を安全に船外へ放出することが可能となる。
【0066】
また、バラスト水貯蔵装置5内に貯留されたバラスト水の溶存酸素濃度を測定する検出装置31を備え、検出された溶存酸素濃度が所定値以上の場合には、ガス導入路23のガス導入弁25を開けて二酸化炭素をバラスト水内に微細気泡として排出するものである。
このように構成することにより、溶存酸素濃度量を調節することができるので、バラスト水内の微生物の生育環境をコントロールすることが可能となり、バラスト水を安全に船外へ放出することが可能となる。
【0067】
また、ガス導入路23の中途部にオゾン発生装置51を備えるものである。
このように構成することにより、オゾンの消毒・浄水作用により、バラスト水貯蔵装置5内のバラスト水が浄化され、雑菌等が死滅する。
【0068】
[第五実施形態]
また、
図8に示すように、二酸化炭素分離回収装置10から排出される余剰炭酸ガスは船舶1の船首1b側の船底1aに対して微細気泡として噴射することもできる。船舶の船底1aの下方であって、船首1b側と対向する場所に微細気泡発生媒体63を設けている。ガス導入路23の中途部から分岐した余剰ガス通路61の排出口には、微細気泡発生装置である微細気泡発生媒体63が連結されている。また、余剰ガス通路61には、開閉弁62が設けられている。余剰炭酸ガスが発生した場合には、開閉弁62を開けて、余剰ガス通路61側へ炭酸ガスを導入して、微細気泡発生媒体63から微細気泡として船首1b側の船底へ供給する。
【0069】
このように構成することにより、余剰炭酸ガスをブルーカーボンとして海洋投棄することができるだけでなく、船舶の走行抵抗を下げ燃費の改善をすることが可能となる。また、貝類などの付着も防止することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 船舶
2 エンジン
3 船体
5 バラスト水貯蔵装置
6 海水取入口
7 送水路
8 貯留タンク
9 排水路
10 二酸化炭素分離回収装置
11 切換弁
12 ポンプ
23 ガス導入路
24 微細気泡発生媒体
25 ガス導入弁
30 制御装置
31 検出装置
40 二酸化窒素分離回収装置
51 オゾン発生装置