(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024113516
(43)【公開日】2024-08-22
(54)【発明の名称】排水管の逆流防止構造、および逆流防止方法
(51)【国際特許分類】
E03F 5/042 20060101AFI20240815BHJP
E03F 7/04 20060101ALI20240815BHJP
【FI】
E03F5/042
E03F7/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023018564
(22)【出願日】2023-02-09
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】高井 剛
(72)【発明者】
【氏名】古川 大志
(72)【発明者】
【氏名】弘本 真一
(72)【発明者】
【氏名】楠元 秀規
(57)【要約】
【課題】即時の逆流防止効果を有し、且つ排水管の逆流を確実に防止できる逆流防止構造等を提供する。
【解決手段】逆流防止構造1は、建物2側から外に延びる排水管10の逆流防止のために、排水管10に、人力で開閉するナイフゲートバルブ11と、機械的に開閉を行い、逆流時には閉状態であるチェック弁12とを設けたものである。洪水等の水害時には、排水管10での逆流時にチェック弁12が閉じている状態で、ナイフゲートバルブ11を人力により閉じる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物側から外に延びる排水管の逆流防止のために、前記排水管に、前記排水管内の水圧に応じて機械的に開閉を行い、逆流時には閉状態である第1のバルブを含む複数のバルブを直列に設けたことを特徴とする逆流防止構造。
【請求項2】
前記第1のバルブは、弁体の上部を、前記排水管の管路上部に鉛直面内で回転可能に取り付けたものであり、前記閉状態において、前記弁体が前記排水管の管路に当接することを特徴とする請求項1記載の逆流防止構造。
【請求項3】
前記複数のバルブは、前記第1のバルブと、人力で開閉する第2のバルブを含むことを特徴とする請求項1記載の逆流防止構造。
【請求項4】
前記第2のバルブは、ナイフゲートバルブであることを特徴とする請求項3記載の逆流防止構造。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載の逆流防止構造における逆流防止方法であって、
逆流時に前記第1のバルブが閉じている状態で、前記第2のバルブを人力により閉じることを特徴とする逆流防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水管の逆流を防止するための逆流防止構造等に関する。
【背景技術】
【0002】
洪水等の水害の恐れがある場所に設ける建物の浸水対策として、建物や敷地の外周部に止水板や止水壁等の止水設備を設ける場合がある。しかしながら、水害の発生時には、建物側から外に延びる下水や雨水などの排水管を水が逆流し、排水管からの吹き出しが建物側で生じる。
【0003】
このような吹き出しを防ぐため、排水管に逆流防止用の弁を設けることがある。この時、よく用いられるのが特許文献1に例示されるナイフゲートバルブであり、簡易な場合には、フラップ型のバルブが用いられることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ナイフゲートバルブには人力で開閉するものが多く、水害時にバルブを閉めるまで時間が掛かり、その間に吹き出しが生じることもある。特に、近年増加している内水氾濫は、短時間に大雨が降ることにより下水処理能力を超えるため生じるが、台風による洪水と違って予想しづらく、事前のバルブ閉めが難しい。ナイフゲートバルブの開閉を電動化し、水位計と組み合わせることで開閉の自動化を図ることも考えられるが、非常に高価になる。
【0006】
フラップ型のバルブは、排水管内の水圧に応じて機械的(自動的)に開閉を行うことができ、逆流時には閉状態となっているため即時の逆流防止効果を有するが、大きな水圧に耐えられない恐れがあり、逆流防止の確実性の面で若干劣る。また異物等により弁体が完全に閉まっていないという状態も起こり得、当該状態を発見することも難しい。
【0007】
本発明は上記の問題に鑑みてなされたものであり、即時の逆流防止効果を有し、且つ排水管の逆流を確実に防止できる逆流防止構造等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前述した課題を解決するための第1の発明は、建物側から外に延びる排水管の逆流防止のために、前記排水管に、前記排水管内の水圧に応じて機械的に開閉を行い、逆流時には閉状態である第1のバルブを含む複数のバルブを直列に設けたことを特徴とする逆流防止構造である。
【0009】
前記第1のバルブは、例えば、弁体の上部を、前記排水管の管路上部に鉛直面内で回転可能に取り付けたものであり、前記閉状態において、前記弁体が前記排水管の管路に当接する。
前記複数のバルブは、前記第1のバルブと、人力で開閉する第2のバルブを含むことが望ましい。
前記第2のバルブは、例えばナイフゲートバルブである。
【0010】
本発明では、排水管内の水圧に応じて機械的に開閉を行うことができ、逆流時には閉状態となっている第1のバルブを含む複数のバルブを排水管に直列に設けることで、即時の逆流防止効果を有する第1のバルブについて、逆流防止の確実性を別のバルブで補い、排水管の逆流を確実に防止できる。例えば上記別のバルブを、閉じるまでに時間はかかるが人力で確実に閉じることのできる第2のバルブとすれば、初期の(水圧が低い時の)逆流を第1のバルブで一旦防ぎ、その間に第2のバルブを閉鎖して逆流に対する安全対策を施すことで、安価な構成で逆流を確実に防止することが可能になる。あるいは、上記別のバルブを第1のバルブとしても(すなわち、第1のバルブを複数直列に設けても)、冗長性の付加により逆流防止の確実性は向上する。
【0011】
第1のバルブは、例えば、弁体の上部を排水管の管路上部に鉛直面内で回転可能に取り付けたものとすることで、その自重により弁を閉じ、逆流時の水圧に対して閉状態を維持できる。また第2のバルブは、先端にエッジを有するナイフゲートの昇降操作により弁を閉じるナイフゲートバルブとすれば、そのエッジでゴミ等の異物も切断でき、確実に弁を閉じることができる。
【0012】
第2の発明は、第1の発明の逆流防止構造における逆流防止方法であって、逆流時に前記第1のバルブが閉じている状態で、前記第2のバルブを人力により閉じることを特徴とする逆流防止方法である。
第2の発明は、第1の発明の逆流防止構造における逆流防止方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、即時の逆流防止効果を有し、且つ排水管の逆流を確実に防止できる逆流防止構造等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図5】ナイフゲートバルブ11とチェック弁12の配置を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1(a)、(b)は、本発明の実施形態に係る逆流防止構造1を示す図である。逆流防止構造1は、洪水等の水害時に排水管10の逆流を防止するためのものであり、排水管10に、ナイフゲートバルブ11とチェック弁12とを直列に設けた構成を有する。
【0017】
排水管10は、下水や雨水などの排水用の配管であり、建物2側から外に延びるように地下に設けられる。排水管10の建物2側の部分には、トイレ5やシンク6、排水溝7など、建物2やその敷地内の各所へと分岐する分岐部101が設けられる。
【0018】
図1(a)の例では、建物2の敷地の外周部に止水壁3が設けられており、止水壁3の位置が止水ラインとなるが、
図1(b)に示すように建物2の外壁に沿って止水壁3が設けられる場合もある。ナイフゲートバルブ11とチェック弁12は、止水ラインの外側の流入経路から流入する水による排水管10の逆流を防止すべく配置される。例えば
図1(b)の例では、排水管10の排水溝7への分岐部101やチェック弁12を収容する後述のマンホール14が上記の流入経路となり、ナイフゲートバルブ11は、当該分岐部101やマンホール14よりも建物2側に設けられ、チェック弁12は、当該分岐部101よりも建物2側に位置するマンホール14内に設けられる。なお図中符号4は洪水時の水位であり、矢印aは排水管10での排水時の水の流れ方向(正の流れ方向)を示す。
【0019】
ナイフゲートバルブ11は、人力で開閉するバルブ(第2のバルブ)である。
図2に例示するように、ナイフゲートバルブ11は開口部を有する弁箱111を備え、ハンドル112の操作によりナイフゲート113を矢印Aに示すように昇降させ、弁箱111の開口部内にナイフゲート113を出し入れすることで弁の開閉を行う。ナイフゲート113の先端にはエッジが設けられているので、ゴミなどの異物が存在していても、エッジによりこれを切断して弁を閉じることができる。
【0020】
ただし、本実施形態のナイフゲートバルブ11は人力で開閉するものであるため、水害時にバルブを閉めるまで時間が掛かる。なお
図1(a)、(b)の符号13は、ハンドル112の操作のために人が入るマンホール等の作業空間であり、符号131は作業空間13の開閉に用いる蓋体である。
【0021】
チェック弁12は、排水管10内の水圧により機械的(自動的)に開閉し、逆流時には閉状態であるバルブ(第1のバルブ)である。
図3(a)に例示するように、チェック弁12はスイング式のものであり、弁体121の上部を、回転部122により鉛直面内で回転可能に排水管10の管路上部に取り付けた構成を有する。
【0022】
弁体121は、矢印aに示す排水時の水圧で
図3(b)に示すように上向きに回転し、これにより弁が開く。当該水圧の無くなった排水後、弁体121は自重により下向きに回転し、
図3(c)に示すように排水管10の管路に当接して弁が閉じる。矢印bに示す排水管10の逆流時には、逆流時の水圧により弁の閉じた状態が維持され、即時の逆流防止効果を有する。
【0023】
ただし、チェック弁12は、一般的に水圧への耐性が低く、大きな水圧に耐えられない恐れがある。また
図4に示すように、ゴミ等の異物102が詰まることで、弁体121が完全に閉まりきらないという状態も起こり得、当該状態を発見することも難しい。
【0024】
そこで本実施形態では、チェック弁12とは別のバルブとして、前記のナイフゲートバルブ11を設けることで、初期の(水圧が低い時の)逆流をチェック弁12で一旦防ぎ、その間にナイフゲートバルブ11を閉鎖して逆流に対する安全対策を施す。係る逆流防止方法により、安価な構成で逆流を確実に防止することが可能になる。
【0025】
なお、
図1(a)、(b)の符号14は、チェック弁12のメンテナンス等のために人が入るマンホールである。マンホール14には蓋141を設けるが、
図1(a)のようにマンホール14が止水ラインの内側に位置する場合は、逆流時の吹き出しを防止するためこの蓋141を水密蓋とすることが望ましい。
図1(b)のようにマンホール14が止水ラインの外側に位置する場合は、通常蓋で構わない。
【0026】
以上説明したように、本実施形態では、排水管10内の水圧に応じて機械的に開閉を行うことができ、逆流時には閉状態となっているチェック弁12と、人力で開閉を行うナイフゲートバルブ11とを排水管10に直列に設けることで、即時の逆流防止効果を有するチェック弁12について、逆流防止の確実性をナイフゲートバルブ11で補い、排水管10の逆流を、安価な構成で確実に防止できる。
【0027】
前記のチェック弁12は、弁体121の上部を排水管10の管路上部に鉛直面内で回転可能に取り付けたものであり、その自重により弁を閉じ、逆流時の水圧に対して閉状態を維持できる。またナイフゲートバルブ11は、先端にエッジを有するナイフゲート113の昇降操作により弁を閉じるものであり、そのエッジでゴミ等の異物も切断でき、確実に弁を閉じることができる。
【0028】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限定されない。例えば
図1(a)では、排水管10の排水時の水の流れ方向(矢印a参照)に沿って、ナイフゲートバルブ11とチェック弁12をこの順に配置しているが、ナイフゲートバルブ11とチェック弁12の配置順は逆でもよい。
【0029】
またナイフゲートバルブ11とチェック弁12の設置箇所も、前記したように、止水ラインの外側の流入経路から流入する水による排水管10の逆流を防止できれば特に限定されない。ただし、建物2の管理者や使用者がバルブの開閉、メンテナンス等を行う運用上、これらのバルブは建物2の敷地内に設けることが現実的である。
【0030】
またナイフゲートバルブ11あるいはチェック弁12の一方を、排水管10の複数の分岐部101のそれぞれに配置することも可能である。
図5(a)は、各分岐部101にチェック弁12を設けた例である。
【0031】
また
図5(b)に示すように、排水管10に複数(図の例では2つ)のチェック弁12を直列に設けても良く、この場合は、冗長性の付加により逆流防止の確実性が向上する。ナイフゲートバルブ11をさらに追加するなどして、3つ以上のバルブを排水管10に直列に設けることも可能である。
【0032】
また前記の実施形態では、人力で開閉するバルブとしてナイフゲートバルブ11を用いたが、その代わりに
図6(a)に例示するバタフライ弁11aを用いることも可能である。バタフライ弁11aは、弁箱111の開口部に回転可能なディスク114を設けたものである。
図6(a)はディスク114により弁を閉じた状態、
図6(b)は弁を開いた状態であり、ハンドル112の操作によりディスク114を回転軸115を中心として矢印Bに示すように回転させることで、
図6(a)に示す閉状態と
図6(b)に示す開状態とを切り替えることができる。その他、人力で開閉するバルブとしては、既知のボールバルブやグローブバルブ等も用いることも可能である。
【0033】
さらに、排水管10内の水圧に応じて機械的に開閉するバルブとしては、前記したスイング式のチェック弁12の代わりに
図7(a)に例示するフラップ弁12aを用いることも可能である。フラップ弁12aはチェック弁12と同様の弁体121と回転部122を有し、チェック弁12と同様に弁の開閉を行うことができる。
【0034】
また
図8(a)に例示するウェハ式のチェック弁12bを用いることも可能である。このチェック弁12bは、一対の弁体123の隣り合う端部を、排水管10の管路内の回転軸124に回転可能に取り付けた構成を有する。
【0035】
弁体123は、矢印aに示す排水時の水圧で
図8(b)に示すように下流側に回転し、これにより弁が開く。当該水圧の無くなった排水後、弁体123はバネ125の復元力により逆側に回転し、
図8(c)に示すように排水管10の管路に当接して弁が閉じられる。矢印bに示す排水管10の逆流時には、逆流時の水圧により弁の閉じた状態が維持され、即時の逆流防止効果を有する。
【0036】
その他、排水管10内の水圧に応じて機械的に開閉するバルブとしては、特許第7068500号等に記載された既知のリフト式のチェック弁や、特開2022-46870号公報等に記載された既知のディスク式のチェック弁を用いることも可能である。
【0037】
以上、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0038】
1:逆流防止構造
2:建物
10:排水管
11:ナイフゲートバルブ
11a:バタフライ弁
12、12b:チェック弁
12a:フラップ弁